特許第6524728号(P6524728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6524728
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】エンジンの吸気ポート構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/42 20060101AFI20190527BHJP
   F02B 23/08 20060101ALI20190527BHJP
   F02M 26/19 20160101ALI20190527BHJP
   F02M 26/20 20160101ALI20190527BHJP
   F02B 31/06 20060101ALI20190527BHJP
   F02B 31/08 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   F02F1/42 F
   F02F1/42 K
   F02F1/42 E
   F02B23/08 S
   F02B23/08 Z
   F02M26/19 331
   F02M26/20
   F02B31/06 524D
   F02B31/08 524E
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-51614(P2015-51614)
(22)【出願日】2015年3月16日
(65)【公開番号】特開2016-169716(P2016-169716A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】森岡 遼
(72)【発明者】
【氏名】吉川 智
(72)【発明者】
【氏名】干場 義幸
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−057830(JP,A)
【文献】 特開平06−081719(JP,A)
【文献】 特開平06−117250(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0281015(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/42
F02B 31/00
F02B 31/06
F02B 31/08
F02B 31/02
F02B 23/08
F01L 3/22
F02M 26/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室の吸気側に接続され吸気を燃焼室内に導入する複数の吸気ポートと、エンジンの燃焼室の排気側に接続される排気ポートと、前記吸気ポート及び前記排気ポートの前記燃焼室に臨む領域に設けられる環状のシートリングと、前記シートリングに接離する吸気バルブ及び排気バルブと、前記吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射弁を備え、
少なくとも一つの前記吸気ポートは、前記シートリングの軸心方向に沿う平面視において、前記シートリングの内面の上流側に連続する前記吸気ポートの内面により形成される流路の断面積が、前記シートリングの内面により形成される流路の断面積よりも小さく設定された上流部縮小吸気ポートとなっており、
前記上流部縮小吸気ポートは、前記燃焼室を構成するシリンダボアの内周壁の吸気側中心と排気側中心とを結ぶ吸排気中心線から遠い側の内壁が、前記燃焼室に近づくにつれて徐々に前記吸排気中心線から遠ざかる方向へ傾斜しており、
前記吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射弁を備え、
前記ポート噴射弁による燃料噴射は、前記上流部縮小吸気ポート以外の前記吸気ポートに対して行うエンジンの吸気ポート構造。
【請求項2】
前記ポート噴射弁による燃料噴射の範囲は、前記シートリングの内面によって形成された吸気弁孔の流路のうち、シリンダボアの軸心寄りの範囲に限定されている
請求項に記載のエンジンの吸気ポート構造。
【請求項3】
エンジンの燃焼室の吸気側に接続され吸気を燃焼室内に導入する複数の吸気ポートと、エンジンの燃焼室の排気側に接続される排気ポートと、前記吸気ポート及び前記排気ポートの前記燃焼室に臨む領域に設けられる環状のシートリングと、前記シートリングに接離する吸気バルブ及び排気バルブと、前記吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射弁を備え、
少なくとも一つの前記吸気ポートは、前記シートリングの軸心方向に沿う平面視において、前記シートリングの内面の上流側に連続する前記吸気ポートの内面により形成される流路の断面積が、前記シートリングの内面により形成される流路の断面積よりも小さく設定された上流部縮小吸気ポートとなっており、
前記上流部縮小吸気ポートは、前記燃焼室を構成するシリンダボアの内周壁の吸気側中心と排気側中心とを結ぶ吸排気中心線から遠い側の内壁が、前記燃焼室に近づくにつれて徐々に前記吸排気中心線から遠ざかる方向へ傾斜しており、
前記上流部縮小吸気ポートにおける前記シートリングの内面の上流側に連続する前記吸気ポートの内面は、前記シートリングの軸心方向に沿う平面視において、前記吸気バルブの中心と前記シートリングの内面の中心とを結ぶ偏心方向線に沿ってシリンダボアの軸心から遠い後端側に前記シートリングの内面と面一な内面一致部を備え、他のいずれかの部分に前記シートリングの内面よりも内側に突出する張り出し部を備え、前記張り出し部のある箇所の流路の断面積を前記シートリングの流路の断面積よりも小さくしたエンジンの吸気ポート構造。
【請求項4】
前記上流部縮小吸気ポートにおける前記シートリングの内面の上流側に連続する前記吸気ポートの内面は、前記偏心方向線に沿ってシリンダボアの軸心に近い前端側と前記偏心方向線に沿ってシリンダボアの軸心から遠い後端側とを結ぶ前後方向への最大径が、それに直交する幅方向への最大径よりも大きく設定される
請求項に記載のエンジンの吸気ポート構造。
【請求項5】
前記上流部縮小吸気ポートに開口する導入口から、その吸気ポート内を流れる燃料を含む吸気よりも燃料濃度が薄い又は酸素濃度が薄い低濃度燃焼成分ガスを導入する低濃度燃焼成分ガス導入装置を備え、
前記導入口は、前記上流部縮小吸気ポートの前記吸排気中心線から遠い側の内壁に開口している
請求項1から4の何れか1項に記載のエンジンの吸気ポート構造。
【請求項6】
前記低濃度燃焼成分ガス導入装置は、燃焼室から排出される排気ガスの一部を低濃度燃焼成分ガスとして前記導入口から前記吸気ポート内に還流させる排気環流装置、又は、前記吸気ポートに設けられるスロットルバルブの直下流の空気を低濃度燃焼成分ガスとして前記導入口から前記吸気ポート内に導入させる空気導入装置、あるいは、その排気環流装置と空気導入装置を併用する
請求項に記載のエンジンの吸気ポート構造。
【請求項7】
前記上流部縮小吸気ポートにおける前記吸気バルブの中心は、前記シートリングの内面の中心よりも前記排気ポート側へ偏心し、且つ、前記吸排気中心線に平行な吸排気平行線を挟んでシリンダボアの軸心の反対側に偏心して、前記シートリングのスロート部が、前記吸気バルブの中心と前記シートリングの内面の中心とを結ぶ偏心方向線に沿って前記吸気バルブの中心の偏心側が他よりも相対的に深く形成されている
請求項1から6の何れか1項に記載のエンジンの吸気ポート構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃焼室内のスワール流を強化させるエンジンの吸気ポート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されるエンジンには、排気の一部を吸気通路に還流させることで、燃焼温度を低下させて、エンジンからの窒素酸化物の排出を抑制する排気還流装置が広く採用されている。また、排気環流装置により吸気通路に還流された排気(以下、還流ガスと称する。)を用いて、エンジンのノッキングを低減させる技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、還流ガスの吸気通路への排出口を燃焼室の近傍に設置して、還流ガスが燃焼室の内周壁を沿うように排出口の向きを設定している。これにより、還流ガスは、燃焼室の内周壁に沿うスワール流に乗って旋回し、燃焼室内には、その内周壁に沿って活性ガスからなる環状の還流ガス層が形成される。点火装置は、シリンダヘッド中央部にあるので、燃焼室の中央での良好な点火性能を確保しつつ、内周壁付近でのエンドガスの自着火を抑制してノッキングを低減するとしている。
【0004】
また、特許文献2では、バルブの動作を、複数の吸気バルブ及び排気バルブの全てを開閉する通常開閉モードと、複数の吸気バルブ及び排気バルブのうち一部を開閉して、燃焼室内で吸気にスワール流を発生させる部分開閉モードとに切り換え可能としている。排気還流装置は、燃焼室の内周壁に沿うスワール流の旋回方向に沿うように、吸気通路への排出口の向きが設定され、バルブの部分開閉モードが選択された際に、燃焼室内に還流ガスを多く含む吸気のスワール流を発生させて、燃焼室内の内周壁に沿う部分に環状の還流ガス層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−131961号公報
【特許文献2】特開2013−87628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、スワール流によって、燃焼室内の内周壁に沿う部分に環状の還流ガス層を形成することは、ノッキングの低減に有効である。また、スワール流の強化は、燃焼室内における燃焼速度の向上にも有効である。
【0007】
しかし、吸気ポートから燃焼室への吸気の流入方向は、燃焼室の筒軸を挟んで吸気側と排気側とを結ぶ方向に平行な方向を基本とする。この流入方向は、通常、エンジンのシリンダの平面視において、クランクシャフトの軸心方向に直交する方向でもある。このため、燃焼室内に生じさせるべきスワール流の方向、すなわち、燃焼室の内周壁に沿う円弧方向と、燃焼室への吸気の流入方向とは、互いに異なる方向となっている。スワール流を強化するためには、このスワール流の円弧方向と吸気の流入方向とが、互いに近いことが望ましい。
【0008】
ここで、スワール流を強化するために、吸気通路内に種々の弁装置やノズルを追加する手法を採用することも可能である。しかし、このような装置を追加することは、エンジンの構造の複雑化やコストの増大につながるので限界がある。
【0009】
そこで、この発明の課題は、エンジンの構造を複雑にすることなく、燃焼室内のスワール流を強化することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、エンジンの燃焼室の吸気側に接続され吸気を燃焼室内に導入する複数の吸気ポートと、エンジンの燃焼室の排気側に接続される排気ポートと、前記吸気ポート及び前記排気ポートの前記燃焼室に臨む領域に設けられる環状のシートリングと、前記シートリングに接離する吸気バルブ及び排気バルブと、前記吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射弁を備え、少なくとも一つの前記吸気ポートは、前記シートリングの軸心方向に沿う平面視において、前記シートリングの内面の上流側に連続する前記吸気ポートの内面により形成される流路の断面積が、前記シートリングの内面により形成される流路の断面積よりも小さく設定された上流部縮小吸気ポートとなっており、前記上流部縮小吸気ポートは、前記燃焼室を構成するシリンダボアの内周壁の吸気側中心と排気側中心とを結ぶ吸排気中心線から遠い側の内壁が、前記燃焼室に近づくにつれて徐々に前記吸排気中心線から遠ざかる方向へ傾斜しているエンジンの吸気ポート構造を採用した。
【0011】
この構成において、前記吸気ポート内に燃料を噴射するポート噴射弁を備え、前記ポート噴射弁による燃料噴射は、前記上流部縮小吸気ポート以外の前記吸気ポートに対して行う構成を採用することができる。
【0012】
ここで、前記ポート噴射弁による燃料噴射の範囲は、前記シートリングの内面によって形成された吸気弁孔の流路のうち、シリンダボアの軸心寄りの範囲に限定されている構成を採用することができる。
【0013】
これらの各構成において、前記上流部縮小吸気ポートに開口する導入口から、その吸気ポート内を流れる燃料を含む吸気よりも燃料濃度が薄い又は酸素濃度が薄い低濃度燃焼成分ガスを導入する低濃度燃焼成分ガス導入装置を備え、前記導入口は、前記上流部縮小吸気ポートの前記吸排気中心線から遠い側の内壁に開口している構成を採用することができる。
【0014】
このとき、前記低濃度燃焼成分ガス導入装置は、燃焼室から排出される排気ガスの一部を低濃度燃焼成分ガスとして前記導入口から前記吸気ポート内に還流させる排気環流装置、又は、前記吸気ポートに設けられるスロットルバルブの直下流の空気を低濃度燃焼成分ガスとして前記導入口から前記吸気ポート内に導入させる空気導入装置を採用することができる。
【0015】
あるいは、前記低濃度燃焼成分ガス導入装置は、燃焼室から排出される排気ガスの一部低濃度燃焼成分ガスとして前記導入口から前記吸気ポート内に還流させる排気環流装置と、空気を低濃度燃焼成分ガスとして前記導入口から前記吸気ポート内に導入させる空気導入装置とを併用する構成を採用することができる。
【0016】
これらの各構成において、前記上流部縮小吸気ポートにおける前記吸気バルブの中心は、前記シートリングの内面の中心よりも前記排気ポート側へ偏心し、且つ、前記吸排気中心線に平行な吸排気平行線を挟んでシリンダボアの軸心の反対側に偏心して、前記シートリングのスロート部が、前記吸気バルブの中心と前記シートリングの内面の中心とを結ぶ偏心方向線に沿って前記吸気バルブの中心の偏心側が他よりも相対的に深く形成されている
構成を採用することができる。
【0017】
また、これらの各構成において、前記上流部縮小吸気ポートにおける前記シートリングの内面の上流側に連続する前記吸気ポートの内面は、前記シートリングの軸心方向に沿う平面視において、前記偏心方向線に沿ってシリンダボアの軸心から遠い後端側に前記シートリングの内面と面一な内面一致部を備え、他のいずれかの部分に前記シートリングの内面よりも内側に突出する張り出し部を備え、前記張り出し部のある箇所の流路の断面積を前記シートリングの流路の断面積よりも小さくした構成を採用することができる。
【0018】
さらに、前記上流部縮小吸気ポートにおける前記シートリングの内面の上流側に連続する前記吸気ポートの内面は、前記偏心方向線に沿ってシリンダボアの軸心に近い前端側と前記偏心方向線に沿ってシリンダボアの軸心から遠い後端側とを結ぶ前後方向への最大径が、それに直交する幅方向への最大径よりも大きく設定される構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、少なくとも一つの吸気ポートを、シートリングの軸心方向に沿う平面視において、シートリングの内面の上流側に連続する吸気ポートの内面により形成される流路の断面積が、シートリングの内面により形成される流路の断面積よりも小さく設定された上流部縮小吸気ポートとし、その上流部縮小吸気ポートは、燃焼室を構成するシリンダボアの内周壁の吸気側中心と排気側中心とを結ぶ吸排気中心線から遠い側の内壁が、燃焼室に近づくにつれて徐々に吸排気中心線から遠ざかる方向へ傾斜しているエンジンの吸気ポート構造を採用した。この構成により、上流部縮小吸気ポートにおいて燃焼室に導入される吸気のスワール方向への流れを促進することができる。したがって、エンジンの構造を複雑にすることなく、燃焼室内のスワール流を強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の一実施形態を示し、燃焼室及び吸気ポートの要部拡大平面図である。
図2】(a)(b)は同実施形態の変形例を示し、燃焼室及び吸気ポートの要部平面図である。
図3】同実施形態を示す吸気ポートの要部拡大図である。
図4】(a)(b)は吸気ポートの加工方法を示す説明図である。
図5】他の実施形態を示す吸気ポートの要部拡大図である。
図6】さらに他の実施形態を示す吸気ポートの要部拡大図である。
図7】(a)(b)は、さらに他の実施形態を示す吸気ポートの要部拡大図である。
図8】(a)は低濃度燃焼成分ガス導入装置として排気環流装置を備えたエンジンの内部を模式的に示す縦断面図、(b)は吸気ポートの正面断面図である。
図9】低濃度燃焼成分ガス導入装置として空気導入装置を備えたエンジンを模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。エンジンの燃焼室3の配置と吸気ポート5の形状を図1に示す。また、その変形例を図2(a)及び図2(b)に示す。また、シリンダ1の全体と吸気ポート5の詳細を図8に示す。
【0022】
これらの図面では、この発明に直接関係する部材、手段を中心に示し、他の部材等については図示省略している。また、図面では、一つのシリンダ1のみを示しているが、エンジンは単気筒であってもよいし、複数のシリンダを備えた多気筒であってもよい。
【0023】
この実施形態のエンジンは自動車用の4サイクルガソリンエンジンである。エンジンのシリンダ1内にはピストン2が収容されている。シリンダボアの内周壁3a、及び、ピストン2の上面等により燃焼室3が形成されている。各シリンダの燃焼室3内に吸気を送り込む吸気ポート5、燃焼室3から引き出された排気ポート7、燃焼室3内へ燃料を噴射するポート噴射弁9等を備えている。また、燃焼室3の頂部には点火装置を備えている。
【0024】
この実施形態のエンジンは4バルブ形式のエンジンであり、燃焼室3の吸気側に接続される二つの吸気ポート5と、燃焼室3の排気側に接続される二つの排気ポート7とを備える。図2に示すように、吸気ポート5は、燃焼室3の手前で2つの通路に分岐している。また、図示していないが、排気ポート7も、燃焼室3の手前で2つの通路に分岐している。
【0025】
ただし、この発明において、吸気ポート5、排気ポート7の数は仕様に応じて自由に設定できる。吸気ポート5の数は、少なくとも二つ備えていれば、それ以上であってもよい。また、排気ポート7の数は、例えば、一つであっても、二つであっても、あるいは、それ以上であってもよい。
【0026】
各吸気ポート5の燃焼室3への開口部である吸気弁孔5aは、吸気バルブ6によって開閉される。また、各排気ポート7の燃焼室3への開口部である排気弁孔7aは、排気バルブ8によって開閉される。このとき、吸気バルブ6及び排気バルブ8は、それぞれ吸気ポート5、排気ポート7の燃焼室3に臨む領域に設けられる環状のシートリング20に接離する。
【0027】
これらの吸気バルブ6及び排気バルブ8は、シリンダヘッド4側に設けたカムシャフトの回転によって、所定のタイミングで吸気弁孔5a、排気弁孔7aを開閉する。吸気バルブ6及び排気バルブ8の軸部は、吸気ポート5、排気ポート7の内面に開口する軸挿通部から、シリンダヘッド4内のカムシャフト側へ引き出されている。吸気ポート5の軸挿通部5bは、図8(b)に示すように、吸気ポート5における吸気弁孔5aの上流側に位置する屈曲部5c、又は、その屈曲部5cのすぐ上流側に開口している。
【0028】
二つの吸気ポートのうち、図1の上側に示す一方側の吸気ポート5は、燃焼室3を構成するシリンダボアの内周壁3aの吸気側中心Dと排気側中心Cとを結ぶ吸排気中心線Aから遠い側の内壁5dが、燃焼室3に近づくにつれて徐々に吸排気中央心線Aから遠ざかる方向へ傾斜している。その傾斜角度は、吸排気中心線Aに対して角度αとなっている。
【0029】
ただし、この実施形態では、図1の下側に示す他方側の吸気ポート5は、燃焼室3を構成するシリンダボアの内周壁3aの吸気側中心Dと排気側中心Cとを結ぶ吸排気中心線Aから遠い側の内壁5eが、その吸排気中心線Aと平行となっている。
【0030】
各吸気ポート5において、シートリング20は、図3に示すように、吸気バルブ6が当接するように奥部側から燃焼室側に向かって拡がるバルブ当接部21と、そのバルブ当接部21よりも奥部側に設けられ、奥部側からバルブ当接部21側に向かって拡がるスロート部22とを備える。
【0031】
図1の上側に示す一方側の吸気ポート5は、図3に示すように、シートリング20の内面の上流側に連続する吸気ポート5の内面(以下、シートリング上流部30と称する。)が、燃焼室3側からの下面視、すなわち、燃焼室3側からのシートリング20の軸心方向、すなわち、流路の内面24の中心線p2方向に沿う平面視において、偏心方向線F1に沿って後端側に、シートリング20の内面と面一な内面一致部32を備える。この実施形態では、図中の後端部31dが内面一致部32に相当する。
【0032】
また、シートリング上流部30のうち他の部分、すなわち、前記平面視において、偏心方向線F1に沿って前端側と、その前端側と後端側とを結ぶ両側の側方部に、シートリング20の内面よりも内側に突出する張り出し部31を備える。この実施形態では、図3の前端部31cと側方部31a、31bが、張り出し部31に相当する。そして、シートリング上流部30の断面形状は、前端部31cと後端部31dとの間を結ぶ前後方向への最大径が、それに直交する幅方向への最大径よりも大きく設定された、いわゆるオーバル形状となっている。
【0033】
この張り出し部31によって、シートリング上流部30の流路の断面積は、シートリング20の流路の断面積よりも小さくなり、上流部縮小吸気ポートを構成する。これにより、吸気の燃焼室3内への流速をさらに高め、速やかに吸気を燃焼室3方向へ誘導することができる。
【0034】
なお、図1の下側に示す他方側の吸気ポート5は、このような上流部縮小吸気ポートではなく、通常の吸気ポート5となっている。すなわち、シートリング上流部30の流路の断面積は、シートリング20の流路の断面積と同じであり、その断面形状も同一に設定されている。
【0035】
ここで、上流部縮小吸気ポートにおいて、シートリング上流部30のうち、シリンダボアの軸心xから遠い後端部31dには張り出し部31を設けていない。張り出し部31は、その後端部31dを除く箇所に設けられる。これにより、燃焼室3の内周壁3aに近い側での吸気の流量を確保しつつ、他の部分、すなわち、張り出し部31を設けた側において流路を狭くして吸気の流速を高めることができ、後端部31dでの流量確保と、それ以外の側での流速向上を可能としている。
【0036】
ここで、シートリング上流部30、すなわち、シートリング20の内面の上流側に連続する吸気ポート5の内面とは、鋳物等の金属で構成される吸気ポート5の内面のうち、シートリング20の直上に位置する部分を意味する。また、張り出し部31とは、吸気ポート5内の流路の断面積を縮小するために設けられるものである。
このため、吸気バルブ6の軸部を支持する軸挿通部5bは、吸気ポート5の内面に突出する部分を有していても、それは張り出し部31に該当しない。シートリング上流部30は、軸挿通部5bよりも燃焼室3側にあり、シートリング20の直上部分である。また、屈曲部5cの内面が、前記平面視において、シートリング20の内面から内側に見えていても、その屈曲部5cの内面は流路の断面積を縮小するためのものではないので、張り出し部31には該当しない。シートリング上流部30は、吸気ポート5の流路の断面積が、燃焼室3に向かって徐々に拡がる部分でもある。
【0037】
なお、張り出し部31の位置や形状の異なる変形例としては、例えば、前記平面視において、後端部31dと前端部31c側に内面一致部32を備え、両側の側方部31a、31bに張り出し部31を備えた構成も採用できる。また、両方の側方部31a、31bのうち、いずれか一方の側方部にのみ張り出し部31を設け、他方の側方部は内面一致部32としてもよい。
【0038】
いずれの場合も、シートリング上流部30に張り出し部31を設ける場合、シートリング上流部30の断面形状は、吸気バルブ6の中心線p2とシートリング20の流路の中心線p1との偏心方向への内径、すなわち、前端側と後端側とを結ぶ前後方向への最大径が、両側の側方部間を結ぶ幅方向の最大径に対して大きく設定された形状であることが望ましい。
【0039】
なお、図1の下側に示す他方側の吸気ポート5は、このような上流部縮小吸気ポートではなく、通常の吸気ポート5となっているが、これを上流部縮小吸気ポートとしてもよい。このとき、シリンダボアの内周壁3aへ向かう吸気の流速をできるだけ高めないよう、前記平面視において、前端部31cに内面一致部32を備えることが望ましい。例えば、前端部31cに内面一致部32を備え、後端部31dと両側の側方部31a、31bに張り出し部31を備えた構成とすることができる。
【0040】
上流部縮小吸気ポートである一方側の吸気ポート5において、図1及び図3に示すように、その吸気ポート5における各吸気バルブ6の中心o2(中心線p2)は、シートリング20の流路の内面24の中心o1(中心線p1)よりも排気ポート7側へ偏心している。且つ、その吸気ポート5における各吸気バルブ6の中心o2(中心線p2)は、シートリング20の流路の内面の中心o1(中心線p1)を通り燃焼室3を構成するシリンダボアの内周壁3aの吸気側中心Dと排気側中心Cとを結ぶ吸排気中心線Aに平行な吸排気平行線E1を挟んで、シリンダボアの軸心xの反対側に偏心している。
【0041】
なお、他方側の吸気ポート5は、各吸気バルブ6の中心o2は、それぞれ、シートリング20の流路の内面の中心o1に一致し、各吸気バルブ6の中心o2は吸排気平行線E2上に位置する。
【0042】
ここで、前述の吸排気中心線Aとは、燃焼室3の平面視において、シリンダボアの内周壁3aの吸気側中心Dと排気側中心Cとを結ぶ線である。ここで、吸気側中心Dとは、二つの吸気弁孔5aにおける流路の内面24の中心o1間の中点、排気側中心Cとは二つの排気弁孔7aにおける流路の内面の中心間の中点である。すなわち、吸排気中心線Aは、燃焼室3を構成するシリンダボアの軸心xを挟んで吸気側と排気側とを結ぶ方向であり、平面視において、エンジンのクランクシャフトの軸心方向に直交する方向でもある。
【0043】
このような中心同士における距離w(図1参照)の偏心により、一方側の吸気ポート5において、シートリング20のスロート部22が、吸気バルブ6の中心o2と、シートリング20の流路の内面の中心o1とを結ぶ偏心方向線F1に沿って、シリンダボアの軸心xに近い前端側、すなわち、吸気バルブ6の中心o2が偏心する側(偏心側)が、他よりも相対的に深く形成された偏心吸気ポートを構成している。
【0044】
吸気ポート5内に設けられたポート噴射弁9による燃料噴射は、図1に示すように、他方側の吸気ポート5に対してのみ行うようになっている。上流部縮小吸気ポートである一方側の吸気ポート5に対しては、燃料噴射は行われないように設定されている。
【0045】
また、さらに必要がある場合には、その他方側の吸気ポート5へのポート噴射弁9による燃料噴射の範囲を、シートリング20の内面24によって形成された吸気弁孔5aの流路のうち、シリンダボアの軸心x寄りの範囲に限定してもよい。このとき、図1では、燃料の噴射中心線G2がシートリング20の内面24の中心o1を指向しているが、これを中心o1よりも、シリンダボアの軸心x側を指向するものとなる。
【0046】
このような構成を採用することにより、燃料をシリンダボアの軸心x付近に集中させることができ、燃焼室3の内周壁3aに沿うノック起点と呼ばれる部分(図1に符号Zで示す部分)には、できるだけ燃料を供給しないようにできる。これにより、よりノッキングの低減効果を高めることができる。
【0047】
図2(a)及び図2(b)に、この実施形態の変形例を示す。以下、図1との差異点を中心に説明する。
【0048】
図2(a)の変形例において、2つの吸気ポート5のうち、一方側の上流部縮小吸気ポートには、低濃度燃焼成分ガス導入装置40の導入口43が開口している。この導入口43の向きは、導入される低濃度燃焼成分ガスが、吸気ポート5内を流れる燃料を含む吸気の流れに沿って燃焼室3側へ円滑に導かれるように、燃焼室3側へ向いて開口するように配置されている。
【0049】
この実施形態では、低濃度燃焼成分ガス導入装置40は、燃焼室3から排気ポート7を通じて排出される排気ガスの一部である還流ガスを、低濃度燃焼成分ガスとして吸気ポート5に開口する導入口43から吸気ポート5内に還流させる排気環流装置40Aとしている。
【0050】
排気環流装置40Aは、図8(a)に示すように、排気ポート7又はそれに続く排気通路と、吸気ポート5又はそれに続く吸気通路とを結ぶ排気還流通路41Aを通じて、還流ガスを吸気ポート5へ還流している。排気還流通路41Aの末端の導入路42Aが、吸気ポート5の流れ方向に沿って配置され、さらにその導入路42Aの末端に吸気ポート5内の空間に開口する導入口43Aが設けられている。排気還流通路41Aの途中に設けられた排気還流バルブ44が、還流ガスの導入量を調整している。
【0051】
また、この低濃度燃焼成分ガス導入装置40は、図9に示すように、吸気ポートに設けられるスロットルバルブ45の直下流の空気(新気)を低濃度燃焼成分ガスとして、燃焼室3へ通じる吸気ポート5に開口する導入口43Bから吸気ポート5内に導入させる空気導入装置40Bとしてもよい。空気導入装置40Bは、図9に示すように、外気に通じる吸気ポートである空気導入通路41Bを通じて空気を、燃焼室3へ通じる吸気ポート5へ導入している。空気導入通路41Bの末端の導入路42Bが、吸気ポート5の流れ方向に沿って配置され、さらにその導入路42Bの末端に吸気ポート5内の空間に開口する導入口43Bが設けられている。空気導入通路41Bの上流端に設けられたスロットルバルブ45が、空気の導入量を調整している。
【0052】
低濃度燃焼成分ガス導入装置40としては、この排気環流装置40Aと空気導入装置40Bのいずれか一方を採用してもよいし、両者を併用してもよい。
【0053】
低濃度燃焼成分ガス導入装置40を備えない図1等の態様の場合は、この図8及び図9に示す低濃度燃焼成分ガス導入装置40は省略してもよい。これは後述の各態様においても同様である。
【0054】
図2(a)の例においては、吸気ポート5内に設けられたポート噴射弁9による燃料噴射は、上流部縮小吸気ポートである一方側の吸気ポート5と、通常の吸気ポートである他方側の吸気ポート5の両方に対して行っている。ただし、内周壁3aに沿うスワール流に含まれる燃料をさらに少なくしたい場合には、一方側の吸気ポート5に対しては、燃料噴射は行われないように設定してもよい。
【0055】
また、さらに必要がある場合には、前述の例と同様、各吸気ポート5におけるポート噴射弁9による燃料噴射の範囲を、シートリング20の内面24によって形成された吸気弁孔5aの流路のうち、シリンダボアの軸心x寄りの範囲に限定してもよい。
【0056】
図2(b)の変形例は、二つの吸気ポート5のうち、図中の上側に示す一方側の吸気ポート5は、燃焼室3を構成するシリンダボアの内周壁3aの吸気側中心Dと排気側中心Cとを結ぶ吸排気中心線Aから遠い側の内壁5dを、燃焼室3に近づくにつれて徐々に吸排気中心線Aから遠ざかる方向へ傾斜させている。また、図中の下側に示す他方側の吸気ポート5は、燃焼室3を構成するシリンダボアの内周壁3aの吸気側中心Dと排気側中心Cとを結ぶ吸排気中心線Aから遠い側の内壁5eは、吸排気中心線Aに対して、一方側の内壁5dと同方向に傾斜した態様としている。ここでは、両者の内壁5d、5eを互いに平行としている。
【0057】
図2(b)の変形例における燃料噴射の形態としては、前述の図2(a)の変形例と同様とし得る。
【0058】
図2(a)(b)の各変形例において、低濃度燃焼成分ガス導入装置40の導入口43の位置は、一方側の吸気ポート5の内壁のうち、吸排気中心線Aから遠い側の内壁5dとなっている。この実施形態では、特に、導入口43の位置は、吸排気平行線E1を挟んで、シリンダボアの軸心xがある側の反対側に開口している。このため、燃焼室3の内周壁3aに近いノック起点Z付近に、還流ガスや空気等の低濃度燃焼成分ガスが速やかに供給されるようになり、ノッキングの抑制にさらに効果的である。
【0059】
シートリング20におけるスロート部22の加工は、つぎのようにして行う。加工前のシートリング20は、吸気ポート5の燃焼室3へ臨む部分に予め圧入されて、その吸気ポート5に固定されているものとする。
【0060】
図4(a)に示すように、スロートカッタAを吸気バルブ6の中心線p2に一致する軸心に沿って吸気ポート5内へ所定量進入させる。スロートカッタAを中心線p2周りに回転させることにより、シートリング20の内面の削り加工を行う。スロート部22は、仕様によっては、シートリング20の内面から吸気ポート5の内面に亘って連続的に加工される場合もある。スロートカッタAの加工により、シートリング20の内面、又は、シートリング20の内面と吸気ポート5の内面に、円錐面又は球面等からなるスロート部22を形成する。
【0061】
バルブ当接部21の加工は、つぎのようにして行う。スロートカッタAを取り外した後、図4(b)に示すように、シートカッタBを吸気バルブ6の中心線p2に一致する軸心に沿ってシートリング20内へ所定量進入させる。シートカッタBを中心線p2周りに回転させることにより、シートリング20の内面の削り加工を行う。シートカッタBの加工により、シートリング20の内面に、円錐面又は球面等からなるバルブ当接部21を形成する。
【0062】
なお、スロート部22がバルブ当接部21よりも先に加工される場合もあるし、バルブ当接部21がスロート部22よりも先に加工される場合もある。
【0063】
また、シートリング上流部30を含む吸気ポート5は、鋳造によりシリンダヘッド4とともに製作される。シートリング上流部30の断面形状は、張り出し部31と内面一致部32とが介在することにより真円ではないので、鋳造時の鋳物の型をこのような形状とするか、あるいは、鋳造後の部材を三次元マシニングセンタ等で切削加工する。
【0064】
スロートカッタAでの加工の際は、シートリング20の削り加工と同時に、シートリング上流部30を削り加工して、相互に滑らかな面で接続することが望ましい。シートリング上流部30とシートリング20の内面とが滑らかに接続されている場合は、スロートカッタAでの加工をシートリング20のみとしてもよい。
【0065】
図3に、偏心吸気ポート且つ上流部縮小吸気ポートである吸気ポート5、及び、その吸気ポート5に配置されるシートリング20の詳細を示す。
【0066】
図3に示す符号r1は、シートリング20の流路の半径を示す。符号o1は、シートリング中心(シートリング20の流路の内面24の中心)を示す。また、図中の符号r2は、バルブ当接部21の最外径部の半径を示す。符号o2は、バルブ中心(吸気バルブ6の軸部の中心)を示す。符号t0は、シートリング20の外面23から、スロート部22及びバルブ当接部21を除く部分の流路の内面24に至る、シートリング20の半径方向への肉厚である。この実施形態では、肉厚t0は、全周に亘って一定である。
【0067】
このように、シートリング20が、吸気バルブ6が当接するバルブ当接部21と、そのバルブ当接部21よりも奥部側にスロート部22とを備えた吸気ポート構造において、吸気バルブ6の中心線p1を、シートリング20の流路の中心線p2に対して、偏心方向線F1に沿って前端側に偏心して配置したので、スロート部22は、偏心方向線F1に沿って排気側へ、すなわち、偏心方向線F1に沿ってシリンダボアの軸心xに近い前端側の方が、偏心方向線F1に沿ってシリンダボアの軸心xから遠い後端側を含む他の部位よりも、奥部側へ深く形成することができる。
【0068】
図3において、符号L21aは、前端側におけるバルブ当接部21の深さ(母線方向の長さ。以下同じ。)である。符号L21bは、後端側におけるバルブ当接部21の深さである。バルブ当接部21の深さは、吸気バルブ6との接触圧を全周に亘って均一とするため、この実施形態のように、L21a=L21bの関係となっていることが望ましい。
【0069】
また、符号L22aは、前端側におけるスロート部22の深さ(母線方向の長さ。以下同じ。)である。符号L22bは、後端側におけるスロート部22の深さである。スロート部22の深さは、L22a>L22bの関係となっていることが望ましい。
【0070】
スロート部22をこのような形状としたことにより、偏心方向線F1に沿って前端側において、吸気をスムーズに燃焼室3の内周壁3aに沿うスワール流の方向へ誘導することで耐ノッキング性能を高め、また、偏心方向線F1に沿って後端側において、吸気ポート5の内面からの吸気の剥離を抑制することで、タンブル比を向上させることができる。
【0071】
また、吸気バルブ6の中心線p2を、シートリング20の流路の中心線p1に対して、偏心方向線F1に沿って前端側に偏心して配置したので、スロート部22とバルブ当接部21を加工するスロートカッタA、シートカッタBを、吸気バルブ6の中心線p2と同軸に配置した状態で施工でき、その作業を容易で高精度なものとできる。
【0072】
他の実施形態を図5に示す。この実施形態は、前述の実施形態と同様、一方側の吸気ポート5は上流部縮小吸気ポートであり、且つ、偏心吸気ポートである。
【0073】
一方側の吸気ポート5におけるシートリング上流部30の構成は、前述の実施形態と基本的に同様であり、燃焼室3側からのシートリング20の軸心方向に沿う平面視において、偏心方向線F1に沿って後端側に、シートリング20の内面と面一な内面一致部32を備える。この実施形態では、図5の後端部31dが内面一致部32に相当する。
【0074】
また、シートリング上流部30のうち他の部分、すなわち、前記平面視において、偏心方向線F1に沿って前端側と、その前端側と後端側とを結ぶ両側の側方部31a、31bに、シートリング20の内面よりも内側に突出する張り出し部31を備える。この実施形態では、図5の前端部31cと側方部31a、31bが、張り出し部31に相当する。シートリング上流部30全体の断面形状は、前端側と後端側とを結ぶ前後方向への最大径が、それに直交する幅方向への最大径よりも大きく設定された、いわゆるオーバル形状となっている点も同様である。
【0075】
側方部31a、31bは、後端部31dと前端部31cとを結ぶ直線状の内面であるがこの側方部31a、31bを緩やかな円弧状としてもよい。
【0076】
図5に示すように、シートリング20の外面23、及び、流路の内面24は平面視円形である。図5に示す符号r1は、流路の半径を示す。符号r2は、外面23の半径を示す。ここで、シートリング20の外面23の中心線p2に対して、流路の内面24の中心線p1は、偏心方向線F1に沿って後端側へ偏心して配置されている。
【0077】
吸気バルブ6の中心線は、シートリング20の外面23の中心線p2に一致している。このため、吸気バルブ6の中心線p2は、シートリング20の流路の内面24の中心線p1に対して、偏心方向線F1に沿って前端側、すなわち、排気側へ偏心して配置されていることになる。以下、吸気バルブ6の中心線を、シートリング20の外面23の中心線p2と同様に、符号p2で表す。
【0078】
ここで、図5中の符号o1は、シートリング20の流路の内面24の中心を示す。また、図中の符号o2は、シートリング20の外面23の中心(吸気バルブ6の軸部の中心と一致)を示す。符号t1は、前端側において、シートリング20の外面23から、スロート部22及びバルブ当接部21を除く部分の流路の内面24に至る、シートリング20の半径方向への最大厚部分の肉厚である。符号t2は、後端側において、シートリング20の外面23から、スロート部22及びバルブ当接部21を除く部分の流路の内面24に至る、シートリング20の半径方向への最大厚部分の肉厚である。この肉厚は、t1>t2の関係になっている。
【0079】
このように、シートリング20が、吸気バルブ6が当接するバルブ当接部21と、そのバルブ当接部21よりも奥部側にスロート部22とを備えた吸気ポート構造において、シートリング20の平面視円形の外面23の中心線p2、すなわち、吸気バルブ6の中心線p2を、同じく平面視円形の流路の内面24の中心線p1に対して、シリンダボアの軸心xに近い前端側へ偏心して配置したので、スロート部22は、偏心方向線F1に沿って遠い後端側よりも前端側の方が、より奥部側へ深く形成することができる。
【0080】
図5において、符号L21aは、前端側におけるバルブ当接部21の深さ(母線方向の長さ。以下同じ。)である。符号L21bは、後端側におけるバルブ当接部21の深さである。バルブ当接部21の深さは、吸気バルブ6との接触圧を全周に亘って均一とするため、この実施形態のように、L21a=L21bの関係となっていることが望ましい。
【0081】
また、符号L22aは、前端側におけるスロート部22の深さ(母線方向の長さ。以下同じ。)である。符号L22bは、後端側におけるスロート部22の深さである。スロート部22の深さは、L22a>L22bの関係となっていることが望ましい。
【0082】
さらに他の実施形態を図6に示す。この実施形態においても、前述の実施形態と同様、一方側の吸気ポート5は上流部縮小吸気ポートであり、且つ、偏心吸気ポートである。
【0083】
一方側の吸気ポート5におけるシートリング20の構成は、前述の各実施形態と同様であり、スロート部22を、偏心方向線F1に沿って遠い後端側よりも前端側の方が、より奥部側へ深く形成している。吸気バルブの中心o2が、シートリング20の内面の中心o1よりも排気ポート側へ偏心し、且つ、シートリング20の内面の中心o1を通りシリンダボアの内周壁の吸気側中心Dと排気側中心Cとを結ぶ吸排気中心線Aに平行な吸排気平行線E1を挟んでシリンダボアの軸心x側に偏心することにより、このような形態となっている。
【0084】
また、シートリング上流部30のうち、偏心方向線F1に沿って後端部31dに内面一致部32を、前端部31cと側方部31a、31bに張り出し部31を備える点も、前述の例と同様である。また、後端部31dと前端部31cのそれぞれに、シートリング20の軸心回りの円弧状部を備える点も同様である。側方部31a、31bは、後端部31dと前端部31cとを結ぶ直線状の内面である点も同様である。
【0085】
この例では、後端部31dの円弧状部の半径rdを、前端部31cの円弧状部の半径rcよりも大きく設定している。このように、後端部31d側の半径を相対的に大きくすることが後端側での流量確保に効果的であり、また、前端部31c側の半径を相対的に小さくすることが前端側での流速確保に効果的である。
【0086】
このように、前端部31cに張り出し部31を備える場合において、側方部31a、31bの張り出し部31におけるシートリング20の内面からの内側への最大突出長さa、bは、前端部31cの張り出し部31におけるシートリング20の内面からの内側への最大突出長さcよりも大きく設定することが望ましい。流速向上のための流路断面積の縮小量は、前端部31cよりも側方部31a、31bで大きく確保することが可能である。この効果は、前述の各実施形態でも同様である。
【0087】
さらに他の実施形態を、図7(a)に示す。図7(a)において、シートリング20の構成は、前述の各実施形態と同様、スロート部22を、偏心方向線F1に沿って遠い後端側よりも前端側の方が、より奥部側へ深く形成している。
【0088】
この態様では、前記平面視において、後端部31d側に内面一致部32を備える。また、前端部31cと両側の側方部31a、31bに張り出し部31を備える。ただし、側方部31a、31bの張り出し部31は直線状のものではなく、シートリング20の内面24の中心o1よりも前端寄りの部分にのみ、前端部31cの円弧状の張り出し部31に連続する同じく円弧状の張り出し部31を設けている。側方部31a、31bの円弧状の張り出し部31と、前端部31cの円弧状の張り出し部31とは、同心で同一の半径rcからなる連続する円としているが、これらを互いに半径の異なる円弧としてもよい。また、張り出し部31の半径rcを、後端部31d側の円弧状の内面の半径rdよりも小さくして、張り出し部31の面積を増大させてもよい。
【0089】
さらに他の実施形態を、図7(b)に示す。この態様では、内面一致部32は、後端部31dと前端部31cに設けられる。張り出し部31は、両側の側方部31a、31bに設けられる。この実施形態も、シートリング上流部30の断面形状は、前端側と後端側とを結ぶ前後方向への最大径が、それに直交する幅方向への最大径よりも大きく設定された、いわゆるオーバル形状である。
【0090】
これらの実施形態では、自動車用の4サイクルガソリンエンジンを例に、この発明の構成を説明したが、2サイクルガソリンエンジンやディーゼルエンジン、その他各種用途、各種使用のエンジンにおいても、この発明を適用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 シリンダ
2 ピストン
3 燃焼室
4 シリンダヘッド
5 吸気ポート
6 吸気バルブ
7 排気ポート
8 排気バルブ
9 ポート噴射弁
20 シートリング
21 バルブ当接部
22 スロート部
23 外面
24 内面
30 シートリング上流部
31 張り出し部
32 内面一致部
40 低濃度燃焼成分ガス導入装置
43 導入口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9