【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0036】
以下の実施例においては、親水性物質として、糖アルコールも用いたが、便宜上、すべて「糖」と総称する。
また、以下において、液中の糖の溶解濃度は、フィルター濾過後、フェノール−硫酸法により定量した。
【0037】
[参考例1]
スクロース、α−マルトース、α−ラクトースの100mg/mL水溶液をそれぞれ調製し、これを凍結乾燥させた後、P
2O
5共存下の真空ラジケータ内で3日間絶乾することにより、それぞれ糖のアモルファス粉末を調製した。
得られた糖のアモルファス粉末をメタノール(25℃)に添加、撹拌し、得られた液中での糖濃度の経時変化を調べ、結果を
図1に示した。
図1より、糖のアモルファス粉末は、以下に示すそれぞれの結晶状態におけるメタノール(25℃)に対する溶解度よりも高濃度に溶解し、過溶解状態をある程度維持することが確認された。
スクロース結晶のメタノール溶解度:1.6mg/mL
α−マルトース結晶のメタノール溶解度:2.0mg/mL
α−ラクトース結晶のメタノール溶解度:1.5μg/mL
【0038】
[実施例1〜5、比較例1]
以下に示す親水性物質の100mg/mLの水溶液を調製し、これを凍結乾燥させた後、P
2O
5共存下の真空デシケータ内で3日間絶乾することにより各々アモルファス粉末を得た。
実施例1:α−マルトース
実施例2:スクロース
実施例3:マルチトール
実施例4:トレハロース
実施例5:α−ラクトース
【0039】
一方、シンナムアルデヒドをメタノール(25℃)に溶解させたシンナムアルデヒド溶液を調製し、ここへ、上記の糖のアモルファス粉末をシンナムアルデヒドの10倍量添加して十分に撹拌し、シンナムアルデヒド濃度10mg/mL、糖濃度100mg/mLの混合液を得た。
この混合液をそれぞれ真空乾燥(室温,1時間)することで、固体分散体試料を得た(実施例1〜5)。
【0040】
比較のため、シンナムアルデヒドを界面活性剤(Tween20)共存下でO/Wエマルション化し、これを凍結乾燥した試料も調製した(比較例1)。
【0041】
実施例1〜5及び比較例1で得られた試料を減圧下(25℃,100Pa以下)で0〜7日間保存し、この間、適当な時間間隔で試料を取り出し、メタノール中に分散、溶解させてメタノール中のシンナムアルデヒド濃度をUV−vis分光光度計(285nm)により測定し、この測定値から、各試料中のシンナムアルデヒドの保持率を算出した。
この結果を
図2に示す。
【0042】
図2に示されるように、実施例1〜5の固体分散体試料では、香気成分であるシンナムアルデヒドの経時による保持率の低下を抑制することができ、特に、α−マルトース、スクロースを用いた場合は、界面活性剤によりO/Wエマルション化して凍結乾燥した比較例1の試料より高い保持率を示した。
この結果から、本発明によれば、香気成分であるシンナムアルデヒドを固体分散体とすることができると共に、香気成分の徐放性を有する機能性材料を提供することができることが分かる。
【0043】
[実施例6〜8、比較例2,3]
以下の実施例においては、難水溶性物質として次のものを用いた。
【0044】
[難水溶性物質]
ニフェジピン(狭心症治療薬):水(25℃)に対する飽和溶解度8μg/mL
グリクラジド(糖尿病治療薬):水(25℃)に対する飽和溶解度6μg/mL
インドメタシン(抗炎症剤):水(25℃)に対する飽和溶解度40μg/mL
レスベラロトール(抗酸化剤):水(25℃)に対する飽和溶解度19μg/mL
【0045】
<試料の調製>
以下に示す親水性物質の100mg/mLの水溶液を調製し、これを凍結乾燥させた後、P
2O
5共存下の真空デシケータ内で3日間絶乾することにより各々アモルファス粉末を得た。
実施例6:α−マルトース
実施例7:マルチトール
実施例8:トレハロース
【0046】
一方、ニフェジピンをメタノール(25℃)に溶解させたニフェジピン溶液を調製し、ここへ、上記の糖のアモルファス粉末をニフェジピンの4倍量添加して十分に撹拌し、ニフェジピン濃度25mg/mL、糖濃度100mg/mLの混合液を得た。
この混合液を真空乾燥(室温,1時間)することで、固体分散体試料を得た(実施例6〜8)。
【0047】
比較のため、ニフェジピンを両親媒性高分子(ポリビニルピロリドン:PVP)共存下でO/Wエマルション化し、これを凍結乾燥した試料も調製した(比較例2)。
また、ニフェジピン単体(ニフェジピン結晶)を真空乾燥したものを比較例3の試料とした。
【0048】
<熱分析>
実施例6〜8で得られた試料約3mgをアルミニウムパンに密閉し、示差走査熱量計(TA instruments Q20)を用いて−20〜200℃の温度範囲を昇温速度10℃/minで走査して熱分析を行ったところ、いずれの固体分散体試料においても、結晶の融解に伴う吸熱ピークは検出されなかった。
また、固体分散体試料のガラス転移温度は、いずれも糖単体のガラス転移温度の値よりやや低下しているものの、ガラス転移に伴う比熱変化は明確に認められた。
これらのことから、調製した固体分散体ではニフェジピン、糖とも非晶質状態にあることが分かった。
【0049】
<溶解実験>
実施例6〜8及び比較例2,3で得られた試料を37℃のイオン交換水に添加し、スターラーで十分撹拌しながら、適当な時間間隔でサンプルを採取した。採取したサンプルをフィルター濾過後、UV−vis分光光度計により、溶出したニフェジピンによる吸光度変化を測定し、この測定値から、ニフェジピンの溶解濃度の経時変化を求めた。
結果を
図3に示す。
図3より明らかなように、ニフェジピンは、いずれの糖を用いた場合も、数分〜数時間、飽和溶解度の5〜8倍の溶解濃度を示した。
【0050】
なお、ニフェジピンの代りに、グリクラジド、インドメタシン、レスベラロトールをそれぞれ用いて実施例6〜8と同様に固体分散体試料を調製し、同様に熱分析を行ったところ、同様の結果が得られた。
また、これらの試料について、同様に溶解実験を行ったところ、レスベラロトールについては固体分散化による溶解濃度の上昇は認められなかったものの、インドメタシンについては、ニフェジピンと同様の溶解濃度の上昇が認められた。また、グリクラジドでは、10分程度、飽和溶解度の3倍の溶解濃度を示した。
【0051】
[実施例9〜12、比較例4,5]
実施例1と同様にして、α−マルトースのアモルファス粉末を得た。
【0052】
一方、以下に示す香気成分である難水溶性物質をメタノール(25℃)に溶解させた溶液を調製し、ここへ、上記のα−マルトースのアモルファス粉末を難水溶性物質の10倍量添加して十分に撹拌し、難水溶性物質濃度10mg/mL、α−マルトース濃度100mg/mLの混合液を得た。
この混合液をそれぞれ真空乾燥(室温,1時間)することで、固体分散体試料を得た(実施例9〜12)。
【0053】
<難水溶性物質>
実施例9:ラズベリーケトン
実施例10:バニリン酸メチルエステル
実施例11:オイゲノール
実施例12:アニソール
【0054】
比較のため、オイゲノール(比較例4)、アニソール(比較例5)を、それぞれ界面活性剤(Tween20)共存下でO/Wエマルション化し、これを凍結乾燥した試料も調製した。なお、室温で固体であるラズベリーケトンとバニリン酸メチルエステルは、O/Wエマルションを経由した凍結乾燥粉末を作成することは不可能であった。
【0055】
実施例9〜12及び比較例4、5で得られた試料を、メタノール中に分散、溶解させてメタノール中の難水溶性物質濃度をUV−vis分光光度計(285nm)により測定し、この測定値から、凍結乾燥後の各固体分散体試料中の難水溶性物質の保持率を算出した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示したように、実施例9〜12の固体分散体試料では、難水溶性物質の凍結乾燥後の保持率が高く、オイゲノールおよびアニソールについては、界面活性剤によりO/Wエマルション化して凍結乾燥した比較例4、5の試料より高い保持率を示した。
この結果から、本発明によれば、香気成分である複数の難水溶性物質を固体分散体とすることができると共に、乾燥時の散逸を防ぎ、香気成分の保持率の高い粉末化香料を提供できることが分かった。
【0058】
[実施例13、比較例6,7]
トレハロースの100mg/mLの水溶液を調製し、これを凍結乾燥させた後、P
2O
5共存下の真空デシケータ内で3日間絶乾することにより、トレハロースのアモルファス粉末を得た。
【0059】
一方、クルクミノイドの1種であるクルクミン(和光特級クルクミン、和光純薬工業社製)をメタノール(25℃)に溶解させた溶液を調製し、ここへ、上記のトレハロースのアモルファス粉末をクルクミノイドの100倍量添加して十分に撹拌し、クルクミノイド濃度0.9mg/mL、トレハロース濃度90mg/mLの混合液を得た。
この混合液を真空乾燥(室温,1時間)することで、クルクミノイド含有量が1重量%である固体分散体試料を得た(実施例13)。
【0060】
比較のため、市販の食品用界面活性剤を含有するクルクミン水分散液(横浜油脂工業社製「クルクミン水分散液20%」、クルクミノイド含有量:20重量%)(比較例6)と、クルクミン原体(COACH INDUSTREIS社製「クルクミン95%」、クルクミノイド含有量:95重量%)(比較例7)を用いた。
【0061】
実施例13、比較例6、7の試料を、脱塩水に対し、クルクミノイドとして0.001重量%となるようにそれぞれ計量して添加し、総量を40gとした。これを、遮光下、5分間マグネチックスターラーで撹拌した後、100meshのステンレスフィルターで濾過し、水への溶解性を以下の基準で評価した。
○:フィルター上に溶け残りなし
×:フィルター上に溶け残りあり
【0062】
次に、実施例13と比較例6における上記濾過後の液をマグネチックスターラーで撹拌しながら、中鎖脂肪酸トリグリセリド(日清オイリオ社製「スコレー64G」、以下「MCT」)を40g添加し、遮光下で15分間マグネチックスターラーで撹拌後、遮光下で15分間静置した。静置後、分離した上層(MCT相)と下層(水相)を、それぞれ分取し、紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV−1800)を用い、波長350〜780nmでの吸収スペクトルを、それぞれの溶媒(MCT、または脱塩水)をブランクとして測定した。各相のスペクトルのピーク波長における吸光度から、以下の式を用い、MCT相へのクルクミノイドの分配率を求めた。
分配率(%)={MCT相のピーク波長における吸光度÷(水相のピーク波長における吸光度+MCT相のピーク波長における吸光度)}×100
【0063】
溶解性およびMCT相への分配率の評価結果を、表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示したように、実施例13の固体分散体試料は、市販の界面活性剤を含有する水分散液と同等の水への溶解性を示しており、また、試料中の難水溶性物質は、疎水性溶媒との接触により、疎水性溶媒にほぼ完全に分配することがわかった。
この結果から、本発明によれば、一旦難水溶性物質を水に容易に溶解させた後、その水溶液を目的とする疎水性溶媒と接触、混合することで、界面活性剤などに阻害されることなく、難水溶性物質を効率よく、疎水性溶媒に選択的に分配することができることが分かった。
このことは、難水溶性物質を用いる上で、機能性成分としては体内へ吸収の面で、食品用、香粧品用、嗜好品用油溶性成分としては、添加時の分散、溶解性、並びに、添加後の対象物の疎水性領域に対する着色・酸化防止等の機能の発揮といったハンドリング性の面で、界面活性剤や両親媒性高分子を用いた公知の技術より、より効率的であることを示している。