(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記の熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)
熱可塑性樹脂(A):下記式(1)で示される構成単位(I)および下記式(2)で示される構成単位(II)から選ばれる少なくとも1種と、下記式(3)で示される構成単位(III)とを含み、かつ、構成単位(I)と構成単位(II)と構成単位(III)の合計に対する構成単位(III)の割合が1〜99モル%である熱可塑性樹脂。
熱可塑性樹脂(B):下記式(4)で示される構成単位(IV)と構成単位(III)を含み、構成単位(III)と構成単位(IV)の合計に対する構成単位(IV)の割合が1〜99モル%である熱可塑性樹脂(B
0)において、構成単位(III)中の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる熱可塑性樹脂。
を含み、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の割合が質量比で1:99〜99:1であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【化1】
(式中、R1及びR2は水素原子、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1から12のアルキル基、またはアリール基を表し、Xは酸素原子または窒素原子を示す。Xが酸素原子の場合、R3は存在しない。Xが窒素原子の場合、R3はアリール基またはシクロヘキシル基を表す。構成単位(I)が複数存在する場合、複数存在するR1、R2、R3はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい)
【化2】
(式中、R4は水素原子または炭素数1から18の炭化水素基を表す。構成単位(II)が複数存在する場合、複数存在するR4は同一であってもよく、異なっていてもよい)
【化3】
(式中、R5は水素原子又はメチル基を表し、R6は炭素数1〜4の炭化水素置換基を有することのあるフェニル基を表す。構成単位(III)が複数存在する場合、複数存在するR5、R6はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい)
【化4】
(式中、R7は水素原子またはメチル基を表し、R8は炭素数1〜18の炭化水素基を表す。構成単位(IV)が複数存在する場合、複数存在するR7、R8はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい)
構成単位(I)が無水マレイン酸、無水マレイン酸フェニルマレイミド置換体または無水マレイン酸シクロヘキシルマレイミド置換体に由来する構成単位である請求項1または2記載の熱可塑性透明樹脂組成物。
熱可塑性樹脂(A)中の、構成単位(I)と構成単位(II)と構成単位(III)の合計に対する構成単位(I)の割合が5〜30モル%である請求項1〜4に記載の熱可塑性透明樹脂組成物。
熱可塑性樹脂(A)中の、構成単位(I)と構成単位(II)と構成単位(III)の合計に対する構成単位(II)の割合が5〜30モル%である請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性透明樹脂組成物。
熱可塑性樹脂(A)がさらにメタクリル酸メチルに由来する構成単位を含み、熱可塑性樹脂(A)中の、構成単位(I)と構成単位(II)と構成単位(III)とメタクリル酸メチルに由来する構成単位の合計に対する、メタクリル酸メチルに由来する構成単位の割合が30モル%以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性透明樹脂組成物。
JIS K7121に記載されているガラス転移温度の測定において、その中間点ガラス転移温度が120℃以上140℃以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性透明樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、下記の熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)
熱可塑性樹脂(A):前記式(1)で示されるN−置換環状マレイミドまたは環状酸無水物に由来する構成単位(I)、および前記式(2)で示されるα−アルキルアクリル酸モノマー由来の構成単位(II)から選ばれる少なくとも1種と、前記式(3)で示される芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(III)とを含み、かつ、構成単位(I)と構成単位(II)と構成単位(III)の合計に対する構成単位(III)の割合が1〜99モル%である熱可塑性樹脂。
熱可塑性樹脂(B):前記式(4)で示される(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位(IV)と、前記式(3)で示される芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(III)を含み、構成単位(III)と構成単位(IV)の合計に対する構成単位(IV)の割合が1〜99モル%である熱可塑性樹脂(B
0)において、構成単位(III)中の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる熱可塑性樹脂。
を含み、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の割合が質量比で1:99〜99:1であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物である。
【0021】
前記式(1)で示されるN−置換環状マレイミドまたは環状酸無水物に由来する構成単位(I)において、R1、R2は、水素原子、直鎖状もしくは分岐状の炭素数1から12のアルキル基またはアリール基を表す。また、式中、Xは酸素原子または窒素原子を示す。Xが酸素原子の場合、R3は存在しない。Xが窒素原子の場合、R3はアリール基もしくはシクロヘキシル基を表す。
これらのうち、構成単位(I)は好ましくはR1、R2がそれぞれ水素原子、メチル基又はフェニル基のいずれかであり、かつ、Xが酸素原子である構成単位、もしくは、R1、R2がそれぞれ水素原子、メチル基又はフェニル基のいずれかであり、かつ、Xが窒素原子であり、R3がアリール基もしくはシクロヘキシル基である構成単位である。より好ましくはR1、R2がそれぞれ水素原子またはメチル基であり、かつ、Xが酸素原子である構成単位である。更に好ましくはR1、R2が水素原子の構成単位であり、かつ、Xが酸素原子である構成単位である。
前記式(1)で示されるN−置換環状マレイミドまたは環状酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、シトラコン酸無水物、ジメチルマレイン酸無水物、フェニルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物、およびこれらのフェニルマレイミド置換体、シクロヘキシルマレイミド置換体などが挙げられる。これらの単量体のうち、入手が容易であることから、無水マレイン酸、無水マレイン酸フェニルマレイミド置換体、無水マレイン酸シクロヘキシルマレイミド置換体が好ましく、製造が容易なことから、無水マレイン酸が最も好ましい。
【0022】
前記式(2)で表されるα−アルキルアクリル酸のモノマー由来の構成単位(II)において、R4がメチル基、エチル基、ブチル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基およびイソボルニル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記α−アルキルアクリル酸のモノマーとしては具体的に、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、α−ブチルアクリル酸、α−ラウリルアクリル酸、α−ステアリルアクリル酸、α−シクロヘキシルアクリル酸、α−イソボルニルアクリル酸などを挙げることができる。
これらのうち、好ましくはR4がメチル基であるメタクリル酸、エチル基であるα−エチルアクリル酸であり、最も好ましくはメタクリル酸である。
【0023】
前記式(3)で表される芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(III)において、R5は水素原子又はメチル基であり、R6はフェニル基又は炭素数1〜4の炭化水素置換基を有するフェニル基である。好ましくはR5が水素原子またはメチル基、R6がフェニル基の構成単位である。前記芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、α―メチルスチレン、o―メチルスチレン及びp―メチルスチレンが挙げられる。構成単位(III)はより好ましくは、R5が水素原子、R6がフェニル基である、スチレン由来の構成単位である。
【0024】
熱可塑性樹脂(A)は、前記式(1)で示されるN−置換環状マレイミドまたは環状酸無水物に由来する構成単位(I)、および前記式(2)で示されるα−アルキルアクリル酸モノマー由来の構成単位(II)から選ばれる少なくとも1種を含み、かつ、前記式(3)で示される芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(III)を含む。また、熱可塑性樹脂(A)は、前記構成単位(I)、(II)、(III)以外の構成単位を1種あるいは2種以上を含んでも良い。構成単位(I)、(II)、(III)以外の構成単位として具体的にはメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニルなどに由来する構成単位が挙げられる。これらのうち、好ましくは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニルに由来する構成単位であり、さらに好ましくはメタクリル酸メチルに由来する構成単位である。構成単位(I)、(II)、(III)および、前記構成単位(I)、(II)、(III)以外の構成単位の合計に対する、前記構成単位(I)、(II)、(III)以外の構成単位の割合は、40モル%以下であることが好ましい。
【0025】
前記式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位(IV)について、R7は水素原子またはメチル基であり、R8は炭素数1〜18の炭化水素基である。前記炭素数1〜18の炭化水素基は具体的には、メチル基、エチル基、ブチル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、イソボルニル基などのアルキル基類、ベンジル基、フェニル基などのアリール基類を挙げることができる。
これらのうち、好ましくはR7がメチル基、R8がメチル基及び/又はフェニル基のメタクリル酸エステルモノマー由来の構成単位であり、更に好ましくはR7がメチル基、R8がメチル基である、メタクリル酸メチル由来の構成単位である。
【0026】
熱可塑性樹脂(B)は、前記式(4)で示される(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来の構成単位(IV)と、前記式(3)で示される芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(III)とを含む熱可塑性樹脂であって、構成単位(III)と構成単位(IV)の合計に対する構成単位(IV)の割合が1〜99モル%である熱可塑性樹脂(B
0)において、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(III)中の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる熱可塑性樹脂である。すなわち、熱可塑性樹脂(B
0)は、熱可塑性樹脂(B)の芳香族二重結合を水素化する前の熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂(B
0)の全構成単位中に、構成単位(III)と構成単位(IV)の合計が占める割合は80モル%以上であることが好ましい。
【0027】
熱可塑性樹脂(B)は、後述する方法により、熱可塑性樹脂(B
0)の芳香族ビニルモノマー由来の構成単位(III)中の全芳香族二重結合の70%以上を水素化することにより得られる。熱可塑性樹脂(B)は、構成単位(III)におけるR6(炭素数1〜4の炭化水素置換基を有することのあるフェニル基)のフェニル基の芳香族2重結合の一部が水添された構成単位を含んでよく、R6がフェニル基である構成単位(すなわちフェニル基の芳香族二重結合が水素化していない構成単位)を含んでもよい。R6のフェニル基の芳香族2重結合の一部が水添された構成単位としては、具体的には、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、α―メチルシクロヘキサン、α―メチルシクロヘキセン、α―メチルシクロヘキサジエン、o―メチルシクロヘキサン、o―メチルシクロヘキセン、o―メチルシクロヘキサジエン、p―メチルシクロヘキサン、p―メチルシクロヘキセン、p―メチルシクロヘキサジエンに由来する構成単位が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種の構成単位を含んでもよい。中でも、シクロヘキサンおよびα―メチルシクロヘキサンから選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含むことが好ましい。
【0028】
本発明の熱可塑性透明樹脂組成物に用いられる熱可塑性樹脂(A)は、前記N−置換環状マレイミドまたは環状酸無水物、および前記α−アルキルアクリル酸モノマーから選ばれる少なくとも1種と、前記芳香族ビニルモノマーとを含むモノマー成分を重合することにより製造することができる。また、熱可塑性樹脂(B
0)は、前記(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、前記芳香族ビニルモノマーとを含むモノマー成分を重合することにより製造することができる。
【0029】
上記モノマー成分の重合には、公知の方法を用いることができる。例えば、塊状重合法、溶液重合法などにより製造することができる。
塊状重合法は、上記モノマー成分、重合開始剤を含むモノマー組成物を完全混合槽に連続的に供給し、100〜180℃で連続重合する方法などにより行われる。上記モノマー組成物は、必要に応じて連鎖移動剤を含んでもよい。
【0030】
重合開始剤は特に限定されないが、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、過酸化ベンゾイル、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−アミルパーオキシノルマルオクトエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
連鎖移動剤は必要に応じて使用し、例えば、α−メチルスチレンダイマーが挙げられる。
【0032】
溶液重合法に用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチル、イソ酪酸メチルなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、メタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒などを挙げることができる。
【0033】
本発明の熱可塑性透明樹脂組成物に用いられる熱可塑性樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと芳香族ビニルモノマーを重合して熱可塑性樹脂(B
0)を得た後に、該熱可塑性樹脂(B
0)における芳香族ビニルモノマー由来の構成単位中の芳香族二重結合の70%以上を水素化して得られる。
上記水素化反応に用いられる溶媒は、前記の重合溶媒と同じであっても異なっていてもよい。例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチル、イソ酪酸メチルなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、メタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒などを挙げることができる。
【0034】
水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、水素圧力3〜30MPa、反応温度60〜250℃でバッチ式あるいは連続流通式で行うことができる。温度を60℃以上とすることにより反応時間がかかり過ぎることがなく、また250℃以下とすることにより分子鎖の切断やエステル部位の水素化を起こすことが少ない。
【0035】
水素化反応に用いられる触媒としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウムなどの金属又はそれら金属の酸化物あるいは塩あるいは錯体化合物を、カーボン、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、珪藻土などの多孔性担体に担持した固体触媒などが挙げられる。
【0036】
熱可塑性樹脂(B)は、前記熱可塑性樹脂(B
0)に含まれる芳香族ビニルモノマー由来の構成単位中の芳香族性二重結合の70%以上を水素化して得られるものである。即ち、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位中に残存する芳香族性二重結合の割合は30%以下である。30%を超える範囲であると熱可塑性樹脂(B)の透明性が低下し、その結果、熱可塑性透明樹脂組成物の透明性が低下する場合がある。上記芳香族ビニルモノマー由来の構成単位中に残存する芳香族二重結合の割合は、好ましくは10%未満の範囲であり、より好ましくは5%未満の範囲であり、特に好ましくは2%未満の範囲である。
【0037】
熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量は、特に制限はないが、強度及び成型性の観点から、40,000〜500,000であることが好ましく、50,000〜300,000であることがより好ましい。
また、熱可塑性樹脂(B)の重量平均分子量は、特に制限はないが、同じく強度及び成型性の観点から、40,000〜500,000であることが好ましく、50,000〜300,000であることがより好ましい。
上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0038】
熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度は、特に制限はないが、相溶性及び成型性の観点から、120℃〜140℃であることが好ましく、120℃〜135℃であることがより好ましい。熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度が上記範囲にあることで、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との相溶性が高くなり、これらをブレンドして得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性が特に良好になる。
上記ガラス転移温度は、JIS K7121に記載されている測定方法に従い、従来の示差熱分析装置を用いて測定される中間点ガラス転移温度である。
【0039】
本発明の熱可塑性透明樹脂組成物の透明性の観点から、熱可塑性樹脂(A)中の、構成単位(I)と構成単位(II)と構成単位(III)の合計に対する構成単位(I)の割合は、1〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは5〜30モル%であり、さらに好ましくは5〜20モル%である。熱可塑性樹脂(A)中の、構成単位(I)と構成単位(II)と構成単位(III)の合計に対する構成単位(II)の割合は、1〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜30モル%であり、さらに好ましくは5〜30モル%であり5〜20モル%であることが最も好ましい。
【0040】
また、熱可塑性樹脂(A)中の、構成単位(I)と構成単位(II)と構成単位(III)の合計に対する構成単位(III)の割合は、1〜99モル%であるが、本発明の熱可塑性樹脂組成物の透明性と屈折率制御範囲の観点から、40〜99モル%であることが好ましく、さらには60〜99モル%であることが好ましい。
【0041】
また、同様に透明性の観点から、熱可塑性樹脂(B)の芳香族二重結合を水素化する前の熱可塑性樹脂(B
0)中の構成単位(III)と構成単位(IV)の合計に対する構成単位(IV)の割合が25〜99モル%であることが好ましく、45〜99モル%であることがより好ましく、45〜90モル%であることがさらに好ましく、55〜80モル%であることが特に好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の組み合わせが上記範囲であると、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との相溶性が高く、これらをブレンドして得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性が特に良好となる。
【0043】
本発明の熱可塑性透明樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とをブレンドしてなる。熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とをブレンドする方法は、当該技術分野で公知の方法で溶融混合して製造することができ、例えば、単軸押出機、2軸押出機、混練機などを用いることができる。
【0044】
本発明の熱可塑性透明樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の割合は、熱可塑性樹脂(A)/熱可塑性樹脂(B)の質量比が1/99〜99/1の範囲であればよいが、5/95〜95/5の範囲であることがより好ましく、10/90〜90/10の範囲であることが更に好ましい。
【0045】
熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)をブレンドしてなる、本発明の熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度は、120℃〜140℃であることが好ましく、120℃〜135℃であることがより好ましい。熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度が上記範囲にあることで、耐熱性と成形加工温度とのバランスが優れ、各種光学部品等に使用されうる良好な熱可塑性透明樹脂組成物が得られる。
【0046】
本発明の熱可塑性透明樹脂組成物は、透明性を損なわない範囲で他の樹脂を含んでもよい。他の樹脂としては例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカーボネート、シクロオレフィン(コ)ポリマー、各種エラストマーなどを挙げることができる。
【0047】
本発明の熱可塑性透明樹脂組成物には、各種添加剤を混合して使用することができる。添加剤としては、例えば、抗酸化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗着色剤、抗帯電剤、離型剤、滑剤、染料、顔料などを挙げることができる。混合の方法は特に限定されず、全量コンパウンドする方法、マスターバッチをドライブレンドする方法、全量ドライブレンドする方法などを用いることができる。 上記の中でも、加工性を改良させる離形剤または滑剤、耐侯性を向上させる紫外線吸収剤または光安定剤を添加することが好ましい。
【0048】
本発明の熱可塑性透明樹脂組成物は、可視光領域の光線を良好に透過するため、外観は透明である。本発明の熱可塑性透明樹脂組成物を3.2mm厚の成形品にしてヘイズを測定した場合、用途にもよるが、そのヘイズは、好ましくは5%以下である。光学材料として使用される場合には更に高度な透明性が要求される場合があり、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0049】
本発明の熱可塑性透明樹脂組成物は、加熱溶融して所望の形状にすることができる。成形加工は、公知の射出成形法や押出成形法によって行うことができる。また、成形加工を行った後に切削によって所望の形状の成形体を作製することもできる。成形体の具体的な用途としては、該熱可塑性透明樹脂組成物からなる押出成形熱可塑性樹脂シート、該熱可塑性透明樹脂組成物からなる層を有する共押出成形多層熱可塑性樹脂シート、該熱可塑性樹脂シートからなる基板、及び該基板の片面又は両面に形成された少なくとも1種類のレンズからなるレンズユニット、ディスプレイ前面パネル、各種導光板、各種導光体、プラスチックレンズ、光ファイバー、光学フィルター、プリズム、透明性基板材料、透明性保護材料、光記録媒体基板、各種光学部品などが挙げられる。また、これらの各種成形体は、必要に応じて、表面硬度を向上させるためのハードコート、防汚性や汚染除去性を向上させるための防汚コート、透過光強度を向上させるための反射防止膜など、任意の物性を向上させるための二次加工を施すことができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
実施例および比較例で得られた熱可塑性透明樹脂組成物の評価は以下のように行った。
【0051】
<ヘイズ測定>
日精樹脂工業(株)製 NP7−1F射出成型機によって作製した直径50mm、3.2mm厚の円盤状試料を試験片とし、日本電色工業(株)製 COH−400を用いて測定した。なお、ここではヘイズが5%以下の試料を合格とする。白濁が著しく、ヘイズが十分に大きいものは表において「白濁」と表記した。
【0052】
<共重合体中の構成単位のモル比>
日本電子(株)製 JNM−AL400を用いて、
1H―NMR及び
13C−NMR(400MHz:溶媒はCDCl
3)の測定値から計算した。
【0053】
<共重合体の水素化率>
水素化反応前後のUVスペクトル測定における260nmの吸収の減少率により求めた。各種共重合体をテトラヒドロフランに任意の割合で溶解させ、水素化反応前の樹脂の濃度C1における吸光度A1、水素化反応後の樹脂の濃度C2における吸光度A2から、以下の式より算出した。
水素化率=100×[1−(A2×C1)/(A1×C2)]
【0054】
<ガラス転移温度>
示差走査熱量測定装置SEIKO−DSC6200を用いた。窒素30ml/min.流通下、10℃/min.で30℃から200℃まで昇温し、次に50℃/min.で200℃から30℃まで降温し、再度10℃/min.で30℃から200℃まで昇温した。2回目の昇温における中間点ガラス転移温度(Tmg)をガラス転移温度として用いた。
【0055】
<屈折率測定>
まず、ヘイズ測定において作製した円盤状試料を、リファインテック(株)製 REFINE SAW,Loで、縦40mm、横8mm、厚さ3.2mmに切断した。その試料の屈折率を、(株)アタゴ製 多波長アッベ屈折計DR−M2で測定した。測定温度は20℃、測定波長は589nmであり、中間液にはモノブロモナフタレンを使用した。
【0056】
合成例1〔メタクリル酸メチル−スチレン−ビニルシクロヘキサン共重合体(熱可塑性樹脂B1)の製造〕
モノマー成分として、精製したメタクリル酸メチル(三菱ガス化学社製)60.000モル%と、精製したスチレン(和光純薬工業社製)39.998モル%、重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス575)0.002モル%からなるモノマー組成物を、ヘリカルリボン翼付き10L完全混合槽に1kg/hで連続的に供給し、平均滞留時間2.5時間、重合温度150℃で連続重合を行った。重合槽の液面が一定となるよう底部から連続的に抜き出し、脱溶剤装置に導入してペレット状のメタクリル酸メチル−スチレン共重合体を得た。得られた共重合体のメタクリル酸メチル由来の構成単位の割合は57モル%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)は147,000であった。この共重合体をイソ酪酸メチル(関東化学社製)に溶解し、10質量%イソ酪酸メチル溶液を調製した。1000mLオートクレーブ装置に、この共重合体の10質量%イソ酪酸メチル溶液を500質量部、水素化触媒として10質量%Pd/C(NEケムキャット社製)を1質量部仕込み、水素圧9MPa、200℃で15時間保持して、共重合体のスチレン部位の芳香族二重結合を水素化した。スチレン部位の水素化反応率は99%であった。フィルターにより水素化触媒を除去し、脱溶剤装置に導入してペレット状のメタクリル酸メチル−スチレン−ビニルシクロヘキサン共重合体(熱可塑性樹脂B1)を得た。熱可塑性樹脂B1において、メタクリル酸メチル由来の構成単位の割合は57モル%であった。
【0057】
合成例2〔メタクリル酸メチル−スチレン−ビニルシクロヘキサン共重合体(熱可塑性樹脂B2)の製造〕
モノマー成分として、精製したメタクリル酸メチル75.000モル%と精製したスチレン24.998モル%を用いたこと以外は、合成例1と同じ条件で連続重合を行い、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体を得た。この共重合体のメタクリル酸メチル由来の構成単位の割合は73モル%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)は124,000であった。合成例1と同条件で、得られた共重合体のスチレン部位の芳香族二重結合を水素化した。スチレン部位の水素化反応率は99%であった。また、得られたメタクリル酸メチル−スチレン−ビニルシクロヘキサン共重合体(熱可塑性樹脂B2)において、メタクリル酸メチル由来の構成単位の割合は73モル%であった。
【0058】
合成例3〔メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(熱可塑性樹脂C1)の製造〕
モノマー成分として、精製したメタクリル酸メチル(三菱ガス化学社製)60.000モル%と、精製したスチレン(和光純薬工業社製)39.998モル%、重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス575)0.002モル%からなるモノマー組成物を、ヘリカルリボン翼付き10L完全混合槽に1kg/hで連続的に供給し、平均滞留時間2.5時間、重合温度150℃で連続重合を行った。重合槽の液面が一定となるよう底部から連続的に抜き出し、脱溶剤装置に導入してペレット状のメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(熱可塑性樹脂C1)を得た。熱可塑性樹脂C1中のメタクリル酸メチル由来の構成単位の割合は57モル%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)は147,000であった。
【0059】
合成例4〔メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(熱可塑性樹脂C2)の製造〕
モノマー成分として、精製したメタクリル酸メチル20.000モル%と、精製したスチレン79.998モル%、重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.002モル%からなるモノマー組成物を、ヘリカルリボン翼付き10L完全混合槽に1kg/hで連続的に供給し、平均滞留時間2.5時間、重合温度150℃で連続重合を行った。重合槽の液面が一定となるよう底部から連続的に抜き出し、脱溶剤装置に導入してペレット状のメタクリル酸メチル−スチレン共重合体(熱可塑性樹脂C2)を得た。熱可塑性樹脂C2中のメタクリル酸メチル由来の構成単位の割合は20モル%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)は225,000であった。
【0060】
合成例5〔メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(熱可塑性樹脂C3)の製造〕
モノマー成分として、精製したメタクリル酸メチル30.000モル%と、精製したスチレン69.998モル%を用いたこと以外は合成例4と同じ条件で連続重合を行い、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(熱可塑性樹脂C3)を得た。熱可塑性樹脂C3中のメタクリル酸メチル由来の構成単位の割合は29モル%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)は171,000であった。
【0061】
合成例6〔メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(熱可塑性樹脂C4)の製造〕
モノマー成分として、精製したメタクリル酸メチル50.000モル%と、精製したスチレン49.998モル%を用いたこと以外は合成例4と同じ条件で連続重合を行い、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(熱可塑性樹脂C4)を得た。熱可塑性樹脂C4中のメタクリル酸メチル由来の構成単位の割合は48モル%であった。また、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)は148,000であった。
【0062】
合成例1〜6で得られた熱可塑性樹脂の一覧を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1−1〜1−3
軸径25mmの同方向2軸押出し機に、熱可塑性樹脂A1として表2の物性を有するトーヨースチロールT080(東洋スチレン(株)製)と、熱可塑性樹脂B1を10:90、50:50、90:10の3種類の質量比でドライブレンドした熱可塑性樹脂組成物を導入し、シリンダ温度250℃、吐出速度5kg/hの条件で混練しながら押出した。得られた樹脂組成物を射出成形し、作製した試料の物性を測定した。結果を表3に示す。
【0065】
実施例2〜8
熱可塑性樹脂A2として、表2の物性を有するリューレックスA−14(DIC(株)製)、熱可塑性樹脂A3として、表2の物性を有するダイラークD−232(ノバ・ケミカル・ジャパン(株)製)、熱可塑性樹脂A4として、表2の物性を有するXiran、SZ15170(Polyscope社製)、熱可塑性樹脂A5として、表2の物性を有するレジスファイR−100(電気化学工業(株)製)を用い、表3及び表4に記載の質量比でドライブレンドし、実施例1−1〜1−3と同様の条件で混練および成形を行い、作製した試料の物性を測定した。結果を表3及び表4に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
比較例1−1〜1−3
熱可塑性樹脂C2と熱可塑性樹脂B1を、10:90、50:50、90:10の質量比でドライブレンドした熱可塑性樹脂組成物を用い、実施例1−1〜1−3と同様の条件で混練しながら押出した。得られた樹脂組成物を射出成形して、作製した試料の物性を測定した。結果を表5に示す。
【0070】
比較例2〜6
熱可塑性樹脂C2、C3、C4と熱可塑性樹脂B1、B2を、表5および表6に記載の質量比でドライブレンドした熱可塑性樹脂組成物を用い、実施例1−1〜1−3と同様の条件で混練しながら押出した。得られた樹脂組成物を射出成形して、作製した試料の物性を測定した。結果を表5および表6に示す。
【0071】
比較例7−1〜7−3
熱可塑性樹脂C5として、ポリメタクリル酸メチルであるアクリペットVH5(三菱レイヨン(株)製、重量平均分子量67,000)と熱可塑性樹脂B1を、10:90、50:50、90:10の質量比でドライブレンドした熱可塑性樹脂組成物を用い、実施例1−1〜1−3と同じ条件で混練しながら押出した。得られた樹脂組成物を射出成形して、作製した試料の物性を測定した。結果を表6に示す。
【0072】
比較例8−1〜8−3
熱可塑性樹脂C6として、シクロオレフィンポリマーであるZEONEX 330R(日本ゼオン(株)製)と熱可塑性樹脂B1を、10:90、50:50、90:10の質量比でドライブレンドした熱可塑性樹脂組成物を用い、実施例1−1〜1−3と同じ条件で混練しながら押出した。得られた樹脂組成物を射出成形して、作製した試料の物性を測定した。結果を表6に示す。
【0073】
比較例9−1〜9−3
熱可塑性樹脂C7として、シクロオレフィンポリマーであるZEONEX 480R(日本ゼオン(株)製)と熱可塑性樹脂B1を、10:90、50:50、90:10の質量比でドライブレンドした熱可塑性樹脂組成物を用い、実施例1−1〜1−3と同じ条件で混練しながら押出した。得られた樹脂組成物を射出成形して、作製した試料の物性を測定した。結果を表6に示す。
【0074】
比較例10−1〜10−3
熱可塑性樹脂C8として、シクロオレフィンコポリマーであるTOPAS 5013L−10(ポリプラスチックス(株)製)と熱可塑性樹脂B1を、10:90、50:50、90:10の質量比でドライブレンドした熱可塑性樹脂組成物を用い、実施例1−1〜1−3と同じ条件で混練しながら押出した。得られた樹脂組成物を射出成形して、作製した試料の物性を測定した。結果を表6に示す。
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
表3に示すように、実施例1〜8の熱可塑性透明樹脂組成物は、特定の熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とをブレンドすることにより、高い耐熱性と透明性を兼ね備えた材料を得ることができる。これに対し、熱可塑性樹脂(A)以外の樹脂と熱可塑性樹脂(B)とをブレンドした比較例1〜6の熱可塑性樹脂組成物は、実施例1〜8の樹脂組成物よりもガラス転移温度が低く、耐熱性が不十分である。また、比較例7〜10の熱可塑性樹脂組成物は、いずれも透明性に劣る。