(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブーム先端部のシーブとフックとの間のワイヤロープの巻掛本数が多い場合、ブームを所定長以上に伸長させると、シーブを境としてフック側に下向きに作用するフックの吊り下げ力(フックの重量/ワイヤロープの巻掛本数)よりウインチ側に下向きに作用するワイヤロープの自重による力の方が大きくなることがある。この状態ではウインチを巻下げ方向に回転させてもフックが下降せず、逆にフックがブームの先端部に当接するまで上昇してしまう。そうすると、ウインチドラムに巻回されたワイヤロープが緩む。そのままウインチの駆動を継続すると乱巻が生じる。
【0006】
そこで、作業員はフックの吊り下げ力がワイヤロープの自重による力よりも大きい状態を維持できるブーム長さの範囲内でブームの伸縮を行う必要がある。しかし、経験の浅い作業員にとって前記条件を満たすブームの最大長さは分かり難いという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、ブームの過伸長によりフックが下降不可能となることを防止できるブーム長さ制限装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のブーム長さ制限装置は、伸縮式のブームと、該ブームからワイヤロープにより吊り下げられたフックとを備えるクレーンに設けられるブーム長さ制限装置であって、前記ブームの長さを検出する長さ検出器と、前記ブームを伸縮するアクチュエータの駆動を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記フックの重量と前記ワイヤロープの巻掛本数と前記ワイヤロープの単位長さ当りの重量とから、前記フックを最巻上げした状態における前記フックの吊り下げ力と、前記ワイヤロープの自重による力とが釣り合う前記ブームの最大長さを求め、前記長さ検出器の検出値が前記最大長さを超えないように、前記アクチュエータの駆動を停止することを特徴とする。
第2発明のブーム長さ制限装置は、第1発明において、前記ブームの起伏角度を検出する角度検出器を備え、前記制御装置は、前記角度検出器の検出値が角度閾値を越える場合に、前記長さ検出器の検出値が前記最大長さを超えないように、前記アクチュエータの駆動を停止することを特徴とする。
第3発明のブーム長さ制限装置は、第2発明において、前記制御装置は、前記フックの重量と前記ワイヤロープの巻掛本数と前記ワイヤロープの単位長さ当りの重量とから、前記ブームの全伸長さにおいて前記フックの吊り下げ力と前記ワイヤロープの自重による力とが釣り合う前記ブームの最大起伏角度を求め、前記最大起伏角度を前記角度閾値に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、ブーム長さが制限されるので、ブームの過伸長によりフックが下降不可能となることを防止できる。
第2発明によれば、ブームの起伏角度が小さい場合にはブーム長さが制限されないので、吊り荷を広範囲で移動させることができる。
第3発明によれば、角度閾値に最大起伏角度が設定されているので、ブーム長さを適切な範囲で制限できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係るブーム長さ制限装置1は、伸縮式のブームを有するあらゆるクレーンに設けられる。例えば、ラフテレンクレーンや、オルテレンクレーン、トラッククレーンなどの移動式クレーンのほか、固定式クレーンにも設けられる。以下では移動式クレーンを例に説明する。
【0012】
(移動式クレーンCR)
まず、移動式クレーンCRの基本的構造を
図4に基づき説明する。
図4中符号11は走行車体である。走行車体11には走行のための原動機や車輪のほか、クレーン作業中の安定を確保するアウトリガが設けられている。走行車体11の上面には旋回台12が搭載されており、旋回モータにより水平面内で360°旋回できるようになっている。
【0013】
旋回台12にはブーム13が起伏自在に取り付けられている。ブーム13の基端部はピンで旋回台12に枢支され、ブーム13と旋回台12との間には起伏シリンダが取り付けられている。この起伏シリンダを伸長させるとブーム13が起仰し、起伏シリンダを収縮させるとブーム13が倒伏する。ブーム13はテレスコピック状に構成された伸縮式のブームであり、伸縮シリンダにより伸縮する。
【0014】
旋回台12にはワイヤロープ14が巻回されたウインチ15が搭載されている。ウインチ15から巻き出されたワイヤロープ14は、ブーム13に沿ってブーム13の基端部から先端部まで導かれている。ブーム13の先端部には先端シーブ16およびブーム先端シーブブロック17が設けられている。フック18にはフックシーブブロック19が設けられている。ブーム13の先端部に導かれたワイヤロープ14は先端シーブ16を経由した後、ブーム先端シーブブロック17とフックシーブブロック19とに巻き掛けられている。フック18はワイヤロープ14によりブーム13の先端部から吊り下げられている。
【0015】
ウインチ15はホイストモータの駆動により正逆回転する。ウインチ15にワイヤロープ14を巻き取り、繰り出しすることでフック18の巻上げ巻下げができる。旋回台12の旋回、ブーム13の起伏、伸縮、フック18の巻上げ巻下げを組合せることにより、立体空間内での荷揚げと荷降ろしが可能となっている。
【0016】
図5に示すように、ブーム先端シーブブロック17およびフックシーブブロック19はそれぞれ複数のシーブで構成されている。ワイヤロープ14はこれらのシーブの間に掛け回されている。
図5に示す例ではワイヤロープ14が6本掛けであるが、ワイヤロープ14を掛け替えることにより巻掛本数を変更できる。
【0017】
ワイヤロープ14には先端シーブ16を境としてフック18側にフック18の吊り下げ力F
aが下向きに作用し、ウインチ15側にワイヤロープ14の自重による力F
bが下向きに作用する。フック18の吊り下げ力F
aはフック18を巻下げる方向の力として働き、ワイヤロープ14の自重による力F
bはフック18を巻上げる方向の力として働く。以下、フック18の吊り下げ力F
aを「巻下げ方向力F
a」と称し、ワイヤロープ14の自重による力F
bを「巻上げ方向力F
b」と称する。
【0018】
フック18に吊り荷が掛けられておらず、フック18がブーム13の先端部近傍まで巻上げられている場合(フック18を最巻上げした場合)、巻下げ方向力F
aは下記数1で表される。ここで、Wはフック18の重量、Nはワイヤロープ14の巻掛本数、gは重力加速度を意味する。
【数1】
【0019】
一方、巻上げ方向力F
bは下記数2で表される。ここで、ρはワイヤロープ14の単位長さ当りの重量、Lはウインチ15から先端シーブ16までのワイヤロープ14の長さ、θはブーム13の起伏角度を意味する。
【数2】
【0020】
通常は、数3に示すように、巻下げ方向力F
aが巻上げ方向力F
bよりも大きい状態を維持しつつクレーン作業が行われる。巻下げ方向力F
aが巻上げ方向力F
bよりも小さくなってしまうと、ウインチ15を巻下げ方向に回転させてもフック18が下降せず、逆にフック18がブーム13の先端部に当接するまで上昇してしまうからである。すなわち、フック18が下降不可能になる。
【数3】
【0021】
数3から分かるように、起伏角度θが大きい状態でブーム13の背面側に位置するワイヤロープ14の長さLが長くなると、巻上げ方向力F
bが巻下げ方向力F
aよりも大きくなってしまう。ここで、ワイヤロープ14の長さLはブーム13の長さ(以下、「ブーム長さ」と称する。)に依存する。そこで、本実施形態のブーム長さ制限装置1は、数3に示す条件を満たすようにブーム長さを制限する。
【0022】
(ブーム長さ制限装置1)
つぎに、ブーム長さ制限装置1の構成を説明する。
図1に示すように、ブーム長さ制限装置1は、長さ検出器21と、角度検出器22と、入力装置30と、制御装置40とを備えている。
【0023】
長さ検出器21はブーム長さを検出する検出器である。長さ検出器21の構成は特に限定されないが、例えばブーム13の先端部にコードの端部が固定されたコードリールの回転角度をポテンショメータで読み取る構成が挙げられる。
【0024】
角度検出器22はブーム13の起伏角度を検出する検出器である。角度検出器22の構成は特に限定されないが、ポテンショメータに振り子を取り付けた振子式の角度測定器が挙げられる。
【0025】
入力装置30は制御装置40に各種の情報を入力するための装置であり、各種のスイッチ等で構成される。入力装置30は例えば移動式クレーンCRの運転室に設けられる。
【0026】
制御装置40はブーム13を伸縮するアクチュエータの駆動を制御する装置である。ブーム13には油圧シリンダである伸縮シリンダ51が内蔵されている。また、移動式クレーンCRには伸縮シリンダ51に作動油を供給する油圧回路50が搭載されている。油圧回路50は油圧ポンプ52のほか、伸縮シリンダ51に供給される作動油の流量および方向を制御する電磁制御弁53を備えている。制御装置40は電磁制御弁53のスプール位置を切り換えることで、伸縮シリンダ51の伸長、収縮、停止を制御する。
【0027】
なお、ブーム13の姿勢を制御する制御装置は別途設けられている。この制御装置は運転室に設けられたレバーやペダル等の操作装置の操作に従って電磁制御弁53のスプール位置を切り換え、伸縮シリンダ51の伸長、収縮、停止を制御する。
【0028】
制御装置40は、最大値演算部41と、最大値記憶部42と、ブーム長さ制限部43とを備えている。制御装置40はCPUやメモリなどで構成されたコンピュータである。メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することにより、最大値演算部41、最大値記憶部42およびブーム長さ制限部43が実現される。なお、移動式クレーンCRには一般に過負荷防止装置が搭載されている。制御装置40を過負荷防止装置の一機能として実装してもよい。
【0029】
最大値演算部41は前記数3に示す条件を満たすブーム13の最大長さL
maxを求める機能を有する。最大値演算部41には入力装置30からフック18の重量Wと、ワイヤロープ14の巻掛本数Nと、ワイヤロープ14の単位長さ当りの重量ρとが入力される。これらの入力はフック18やワイヤロープ14を交換した時やワイヤロープ14を掛け替えた時に行われる。
【0030】
最大値演算部41は、フックの重量Wと、ワイヤロープの巻掛本数Nと、ワイヤロープの単位長さ当りの重量ρとから、フック18を最巻上げした状態における巻下げ方向力F
a(フック18の吊り下げ力)と、巻上げ方向力F
b(ワイヤロープ14の自重による力)とが釣り合うブーム長さLを求め、そのブーム長さLを最大長さL
maxとする。
【0031】
具体的には下記数4より最大長さL
maxを求める。ここで、ブーム13の起伏角度θは90°(sinθ=1)としている。ブーム長さLを一定とした場合、ブーム13の起伏角度θが90°に近づくほど(ブーム13が起仰するほど)巻上げ方向力F
bは大きくなる。起伏角度θを90°とすることで、一番悪い条件におけるブーム13の最大長さL
maxを求めている。
【数4】
【0032】
ところで、ブーム長さと、ウインチ15から先端シーブ16までのワイヤロープ14の長さとはほぼ一致する。そのため、ブーム長さとワイヤロープ14の長さとを同一として考えてもよい。しかし、ブーム長さとワイヤロープ14の長さとの不一致を考慮する場合には、数4の右辺にオフセット値を加算するなどして、ワイヤロープ14の長さからブーム長さに変換してもよい。
【0033】
例えば、フック18の重量Wが290kgであり、ワイヤロープ14の単位長さ当りの重量ρが1.8kgである場合、6本掛けにするとブーム13の最大長さL
maxは26.8mとなる。また、同条件において8本掛けにするとブーム13の最大長さL
maxは20.1mとなる。
【0034】
最大値演算部41は、上記のように求めた最大長さL
maxを最大値記憶部42に記憶する。
【0035】
最大値演算部41は前記数3に示す条件を満たすブーム13の最大起伏角度θ
maxを求める機能も有する。最大値演算部41は、フックの重量Wと、ワイヤロープの巻掛本数Nと、ワイヤロープの単位長さ当りの重量ρとから、ブーム13を全伸させたときのブーム長さL
e(以下、「全伸長さL
e」と称する。)において巻下げ方向力F
a(フック18の吊り下げ力)と巻上げ方向力F
b(ワイヤロープ14の自重による力)とが釣り合うブーム13の起伏角度θを求め、その起伏角度θを最大起伏角度θ
maxとする。
【0036】
具体的には下記数5より最大起伏角度θ
maxを求める。ブーム13の起伏角度θが最大起伏角度θ
maxよりも小さい場合には、ブーム13を全伸させたとしても、巻下げ方向力F
aが巻上げ方向力F
bよりも大きい状態を維持できる。そのため、最大起伏角度θ
maxはブーム長さを制限する必要があるか否かを判断するための閾値として用いることができる。
【数5】
【0037】
最大値演算部41は、上記のように求めた最大起伏角度θ
maxを角度閾値θ
tとして最大値記憶部42に記憶する。すなわち、最大起伏角度θ
maxを角度閾値θ
tに設定する。
【0038】
ブーム長さ制限部43は巻下げ方向力F
aが巻上げ方向力F
bよりも大きい状態を維持するように、ブーム長さを制限する機能を有する。ブーム長さ制限部43には、長さ検出器21および角度検出器22の検出値L
d、θ
dが入力されている。
【0039】
ブーム長さ制限部43は、まず、角度検出器22の検出値θ
dと角度閾値θ
tとを比較する。検出値θ
dが角度閾値θ
tを越える場合には、長さ検出器21の検出値L
dと最大長さL
maxとを比較する。そして、検出値L
dが最大長さL
maxを越える場合には、伸縮シリンダ51の伸長を停止する。
【0040】
つぎに、ブーム長さ制限装置1の処理を説明する。
(最大値演算処理)
まず、
図2に基づき最大値演算処理を説明する。
最大値演算処理はフック18やワイヤロープ14を交換した時やワイヤロープ14を掛け替えた時に行われる。
【0041】
まず、最大値演算部41は入力装置30によるフック18の重量Wと、ワイヤロープ14の巻掛本数Nと、ワイヤロープ14の単位長さ当りの重量ρの入力を受け付ける(ステップS11)。
【0042】
つぎに、最大値演算部41は、入力されたフック18の重量Wと、ワイヤロープ14の巻掛本数Nと、ワイヤロープ14の単位長さ当りの重量ρとを数4に代入し、ブーム13の最大長さL
maxを求める(ステップS12)。そして、求めた最大長さL
maxを最大値記憶部42に記憶する。
【0043】
つぎに、最大値演算部41は、入力されたフック18の重量Wと、ワイヤロープ14の巻掛本数Nと、ワイヤロープ14の単位長さ当りの重量ρとを数5に代入し、ブーム13の最大起伏角度θ
maxを求める(ステップS13)。そして、求めた最大起伏角度θ
maxを角度閾値θ
tとして最大値記憶部42に記憶する。
【0044】
(ブーム長さ制限処理)
つぎに、
図3に基づきブーム長さ制限処理を説明する。
ブーム長さ制限処理はクレーン作業時に常時繰り返し実行される。
【0045】
まず、ブーム長さ制限部43は長さ検出器21および角度検出器22からそれぞれの検出値L
d、θ
dを取得する(ステップS21)。長さ検出器21の検出値L
dは現在のブーム長さであり、角度検出器22の検出値θ
dはブーム13の現在の起伏角度である。
【0046】
つぎに、ブーム長さ制限部43は角度検出器22の検出値θ
dと最大値記憶部42に記憶された角度閾値θ
tとを比較する(ステップS22)。検出値θ
dが角度閾値θ
tより小さい場合は、再びステップS21に戻る。
【0047】
検出値θ
dが角度閾値θ
t以上の場合は、長さ検出器21の検出値L
dと最大値記憶部42に記憶された最大長さL
maxとを比較する(ステップS23)。検出値L
dが最大長さL
maxより小さい場合は、再びステップS21に戻る。
【0048】
検出値L
dが最大長さL
max以上の場合はブーム13が過伸長である。すなわち、巻上げ方向力F
bが巻下げ方向力F
a以上となっている。この場合、ブーム長さ制限部43は伸縮シリンダ51の伸長を停止し、ブーム13の伸長を停止する(ステップS24)。
【0049】
なお、検出値L
dが最大長さL
max以上となる前にブーム13の伸長を停止することが好ましい。そのためには、長さ検出器21の検出値L
dが最大長さL
maxにある程度近づいたタイミングでブーム13の伸長を停止すればよい。
【0050】
以上のように処理することで、角度検出器22の検出値θ
dが角度閾値θ
tを越える場合に、長さ検出器21の検出値L
dがブーム13の最大長さL
maxを超えないように、伸縮シリンダ51の駆動を停止できる。
【0051】
巻下げ方向力F
aが巻上げ方向力F
bよりも大きい状態を維持するようにブーム長さが制限されるので、ブーム13の過伸長によりフック18が下降不可能となることを防止できる。しかも、ブームの起伏角度が(角度閾値θ
tより)小さい場合には、ブーム長さが制限されないので、吊り荷を広範囲で移動させることができる。さらに、角度閾値θ
tに最大起伏角度θ
maxが設定されているので、ブーム長さを適切な範囲で制限できる。
【0052】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、角度閾値θ
tを最大起伏角度θ
maxに設定したが、これに代えて任意の値に設定してもよい。また、角度検出器22の検出値θ
dが角度閾値θ
tを越える場合に限らず、あらゆる起伏角度において、長さ検出器21の検出値L
dがブーム13の最大長さL
maxを超えないように、伸縮シリンダ51の駆動を停止するよう構成してもよい。