【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、アルマイト処理によって駆動側回転体の表面硬度は上昇するものの、例えばプーリ歯部の面粗度が悪化する。プーリ歯部の耐摩耗性を向上させるためにアルマイト処理の膜厚を増やそうとすると、面粗度はさらに悪化することとなる。その結果、プーリに巻き回されたベルトが損傷し易くなり、ベルトの寿命が短くなる。
【0005】
また、プーリは、駆動側回転体の本体から径外方向に向けて全周に突出形成されている。このため、ベルトの張力によって生じるプーリの変形が駆動側回転体の本体に伝達され、本体が変形することがある。本体の内周面には、進角室と遅角室とを形成するために従動側回転体に設けられたベーンが摺動する。よって、本体の変形によってベーンの当接性が悪化し、進角室と遅角室とが連通して、弁開閉時期の制御が正確に行えないこととなる。
【0006】
さらに、プーリと一体形成された本体と、フロントプレート及びリアプレートとがボルトを用いて締結されるが、両プレートと本体との当接面にボルトの締結力が作用し、本体が変形する場合がある。その結果、プーリが変形して歯部精度が悪化し、駆動ベルトの寿命がさらに短くなったり、駆動ベルトのノイズが発生する原因にもなる。
【0007】
上記実情に鑑み、このような弁開閉時期制御装置としては、アルミニウム材料を用いながら位相制御の精度がよくベルト寿命の長い装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、
内燃機関のクランク軸と同期回転しつつ回転軸芯の周りで回転する駆動側回転体と、
前記回転軸芯の周りに前記内燃機関のカム軸と一体に回転し、前記駆動側回転体の内部において前記駆動側回転体と相対回転可能な従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体とにより形成される流体圧室と、
前記流体圧室内に配置され、前記流体圧室を流体の流入又は排出を許容する遅角室及び進角室に仕切り、前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相を流体の流入により前記遅角室内の容積が増大する遅角方向と流体の流入により前記進角室内の容積が増大する進角方向との間で選択的に移動させる仕切部と、
前記遅角室への流体の供給及び前記進角室からの流体の排出、又は前記遅角室からの流体の排出及び前記進角室への流体の供給を制御する位相制御部と、を備え、
前記駆動側回転体が、前記クランク軸からの駆動力が駆動ベルトを介して入力されるプーリを備えたアルミニウム製のハウジングと、当該ハウジングのうち前記回転軸芯に沿った少なくとも一方の面に取り付けられたプレートとを備え、
前記ハウジングと前記プレートとの間に、流体の流出が可能な隙間を設けた点にある。
【0009】
駆動側回転体のプーリ及びハウジングをアルミニウム材料で形成する場合、素材そのものが比較的軟らかいため、駆動ベルトとの摩擦によってプーリに摩耗が生じ易い。
【0010】
そこで、本構成では、アルミニウム製のハウジングとプレートとの間に、内部の流体が外部に流出できるような隙間を設けてある。これにより、駆動側回転体の回転に伴って当該隙間から流体が流出し、この流体が遠心力によって外方に流動する。流体は、ハウジングの外側にあるプーリ及び当該プーリに巻き回された駆動ベルトに達し、プーリと駆動ベルトの当接部を潤滑する。本構成であれば、プーリ及び駆動ベルトの損耗を低減し、信頼性の高い弁開閉時期制御装置を得ることができる。
【0011】
本発明に係る弁開閉時期制御装置にあっては、前記プーリをアルマイト処理しておくと好都合である。
【0012】
本構成の如く、プーリをアルマイト処理することで、プーリの表面強度を高めることができる。ただし、アルマイト処理は、プーリの表面強度を高める一方、アルマイト層の成長に伴ってプーリの表面形状が粗くなり、プーリに巻き掛けられる駆動ベルトに対する攻撃性を高めてしまう。しかしながら、前記隙間から供給する流体によって駆動ベルトとプーリとの摩耗が軽減されるため、弁開閉時期制御装置の信頼性が損なわれることはない。
【0013】
本発明に係る弁開閉時期制御装置にあっては、前記ハウジング又は前記プレートの当接面のうち少なくとも何れか一方を所定の面粗度を有するアルマイト処理面とし、前記ハウジング及び前記プレートの当接面どうしが直に当接するように構成することができる。
【0014】
本発明の弁開閉時期制御装置では、ハウジングとプレートとの当接部に設けた隙間から流体を流出させる。そのため本構成では、ハウジング又はプレートの少なくとも何れか一方をアルミニウム材料で形成し、互いの当接面のうち少なくとも何れか一方をアルマイト処理面とする。つまり、アルマイト処理を施すことで当接面の面粗度を増大させ、ハウジング及びプレートどうしを直に当接させることで前記隙間を形成する。しかも、アルマイト処理した当接面の強度が高まるため、駆動側回転体の変形が防止され、信頼性の高い弁開閉時期制御装置を得ることができる。
【0015】
このようにハウジング及びプレートにアルマイト処理を施すことで、流体の流出が可能な駆動側回転体を効率的に形成することができる。特に、ハウジングの当接面をアルマイト処理する場合には、プーリと当該当接面とを同時にアルマイト処理することができ、隙間の作製効率を一層向上させることができる。また、ハウジングとプレートとを直に当接させるから、これらの間にシール部材などを設ける必要がなく、駆動側回転体の構成が簡略化される。
【0016】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記仕切部が前記従動側回転体に設けられ、前記ハウジングが前記仕切部と摺接する摺接領域を内周面に備えた円筒状壁部を有すると共に、前記プーリと前記円筒状壁部との間に、前記回転軸芯の方向に貫通し、前記回転軸芯に対する周方向に延出した溝部が形成され、前記溝部と前記摺接領域とが前記回転軸芯の径方向に沿って重なり領域を持つように構成することができる。
【0017】
アルミニウム製のハウジングは鋼製のものに比べて軟らかく、クランクシャフトからの駆動力が駆動ベルトを介してプーリに入力される際に幾らか変形を生じる場合がある。その結果、例えば、ハウジングの円筒状壁部に歪みが生じ、当該円筒状壁部の内周面に摺接すべき仕切部と内周面との間に隙間が生じる。進角室と遅角室との間では流体の漏洩が生じ、弁開閉時期制御装置の位相制御が不正確なものとなる。
【0018】
そこで、本構成の如く、プーリと円筒状壁部との間に溝部を設け、仕切部及びハウジングの摺接領域と溝部とが径方向で重なる領域を持つように構成することで、プーリが変形した場合でも、当該変形がハウジングの円筒状壁部に伝わるのを防止することができる。その結果、正確な位相制御を行える弁開閉時期制御装置を得ることができる。
【0019】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記溝部における前記回転軸芯の径方向に沿った幅を、前記ハウジングの当接面における前記径方向に沿った幅以上に形成することができる。
【0020】
本構成のハウジングは、例えばアルミニウム材料の押出成形で作製される。よって、溝部の幅を本構成の程度とすることで、プーリの位置を円筒状壁部の外面から外方に位置させてプーリを所定の外径に形成し、かつ、アルミニウム材料の押し出し量を溝部の分だけ削減することができる。