特許第6524819号(P6524819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6524819-弁開閉時期制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6524819
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20190527BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-130150(P2015-130150)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-14942(P2017-14942A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐司
(72)【発明者】
【氏名】朝日 丈雄
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−132415(JP,A)
【文献】 特開2012−132404(JP,A)
【文献】 特開2010−203234(JP,A)
【文献】 特開2014−206047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸と同期回転しつつ回転軸芯の周りで回転する駆動側回転体と、
前記回転軸芯の周りに前記内燃機関のカム軸と一体に回転し、前記駆動側回転体の内部において前記駆動側回転体と相対回転可能な従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体とにより形成される流体圧室と、
前記流体圧室内に配置され、前記流体圧室を流体の流入又は排出を許容する遅角室及び進角室に仕切り、前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相を流体の流入により前記遅角室内の容積が増大する遅角方向と流体の流入により前記進角室内の容積が増大する進角方向との間で選択的に移動させる仕切部と、を備え、
前記駆動側回転体が、前記クランク軸からの駆動力が駆動ベルトを介して入力されるプーリを備えたアルミニウム製のハウジング、及び、当該ハウジングのうち前記回転軸芯に沿った少なくとも一方の面に取り付けられたプレートを備え、
前記ハウジングと前記プレートとの間に、流体の流出が可能な隙間を設けてあり、
前記プーリがアルマイト処理されており、
前記ハウジングの当接面又は前記プレートの当接面のうち少なくとも何れか一方が所定の面粗度を有するアルマイト処理面であり、前記ハウジングの当接面及び前記プレートの当接面どうしが直に当接している弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記仕切部が前記従動側回転体に設けられ、前記ハウジングが前記仕切部と摺接する摺接領域を内周面に備えた円筒状壁部を有すると共に、
前記プーリと前記円筒状壁部との間に、前記回転軸芯の方向に貫通し、前記回転軸芯に対する周方向に延出した溝部が形成され、
前記溝部と前記摺接領域とが前記回転軸芯の径方向に沿って重なり領域を持つように構成してある請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記溝部における前記回転軸芯の径方向に沿った幅を、前記ハウジングの当接面における前記径方向に沿った幅以上に形成してある請求項に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火時期を調節する弁開閉時期制御装置に関するものであって、特に、クランク軸からの駆動力を受けるプーリを有する駆動側回転体がアルミニウム材料で構成されたものに関する。
【背景技術】
【0002】
このように、弁開閉時期制御装置の駆動側回転体をアルミニウム材料で構成したものとして例えば特許文献1がある。ここでは、アルミニウム材料を金型から押し出し、形状を整える1次加工を施したのち、外周面及び内周面全体にアルマイト処理を施して各表面の高硬度化を図っている。当該公知文献によれば、アルミ形金属材料を用いることで装置の軽量化が可能となる。また、駆動側回転体を押出し成形によって製造するため、駆動側回転体の内部から、その外方に形成されたプーリに対する作動油の滲出が防止され、ゴム製のベルトの劣化が防止できる(〔0017〕〔0193〕段落参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−203234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、アルマイト処理によって駆動側回転体の表面硬度は上昇するものの、例えばプーリ歯部の面粗度が悪化する。プーリ歯部の耐摩耗性を向上させるためにアルマイト処理の膜厚を増やそうとすると、面粗度はさらに悪化することとなる。その結果、プーリに巻き回されたベルトが損傷し易くなり、ベルトの寿命が短くなる。
【0005】
また、プーリは、駆動側回転体の本体から径外方向に向けて全周に突出形成されている。このため、ベルトの張力によって生じるプーリの変形が駆動側回転体の本体に伝達され、本体が変形することがある。本体の内周面には、進角室と遅角室とを形成するために従動側回転体に設けられたベーンが摺動する。よって、本体の変形によってベーンの当接性が悪化し、進角室と遅角室とが連通して、弁開閉時期の制御が正確に行えないこととなる。
【0006】
さらに、プーリと一体形成された本体と、フロントプレート及びリアプレートとがボルトを用いて締結されるが、両プレートと本体との当接面にボルトの締結力が作用し、本体が変形する場合がある。その結果、プーリが変形して歯部精度が悪化し、駆動ベルトの寿命がさらに短くなったり、駆動ベルトのノイズが発生する原因にもなる。
【0007】
上記実情に鑑み、このような弁開閉時期制御装置としては、アルミニウム材料を用いながら位相制御の精度がよくベルト寿命の長い装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、
内燃機関のクランク軸と同期回転しつつ回転軸芯の周りで回転する駆動側回転体と、
前記回転軸芯の周りに前記内燃機関のカム軸と一体に回転し、前記駆動側回転体の内部において前記駆動側回転体と相対回転可能な従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体とにより形成される流体圧室と、
前記流体圧室内に配置され、前記流体圧室を流体の流入又は排出を許容する遅角室及び進角室に仕切り、前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相を流体の流入により前記遅角室内の容積が増大する遅角方向と流体の流入により前記進角室内の容積が増大する進角方向との間で選択的に移動させる仕切部と、
前記遅角室への流体の供給及び前記進角室からの流体の排出、又は前記遅角室からの流体の排出及び前記進角室への流体の供給を制御する位相制御部と、を備え、
前記駆動側回転体が、前記クランク軸からの駆動力が駆動ベルトを介して入力されるプーリを備えたアルミニウム製のハウジングと、当該ハウジングのうち前記回転軸芯に沿った少なくとも一方の面に取り付けられたプレートとを備え、
前記ハウジングと前記プレートとの間に、流体の流出が可能な隙間を設けた点にある。
【0009】
駆動側回転体のプーリ及びハウジングをアルミニウム材料で形成する場合、素材そのものが比較的軟らかいため、駆動ベルトとの摩擦によってプーリに摩耗が生じ易い。
【0010】
そこで、本構成では、アルミニウム製のハウジングとプレートとの間に、内部の流体が外部に流出できるような隙間を設けてある。これにより、駆動側回転体の回転に伴って当該隙間から流体が流出し、この流体が遠心力によって外方に流動する。流体は、ハウジングの外側にあるプーリ及び当該プーリに巻き回された駆動ベルトに達し、プーリと駆動ベルトの当接部を潤滑する。本構成であれば、プーリ及び駆動ベルトの損耗を低減し、信頼性の高い弁開閉時期制御装置を得ることができる。
【0011】
本発明に係る弁開閉時期制御装置にあっては、前記プーリをアルマイト処理しておくと好都合である。
【0012】
本構成の如く、プーリをアルマイト処理することで、プーリの表面強度を高めることができる。ただし、アルマイト処理は、プーリの表面強度を高める一方、アルマイト層の成長に伴ってプーリの表面形状が粗くなり、プーリに巻き掛けられる駆動ベルトに対する攻撃性を高めてしまう。しかしながら、前記隙間から供給する流体によって駆動ベルトとプーリとの摩耗が軽減されるため、弁開閉時期制御装置の信頼性が損なわれることはない。
【0013】
本発明に係る弁開閉時期制御装置にあっては、前記ハウジング又は前記プレートの当接面のうち少なくとも何れか一方を所定の面粗度を有するアルマイト処理面とし、前記ハウジング及び前記プレートの当接面どうしが直に当接するように構成することができる。
【0014】
本発明の弁開閉時期制御装置では、ハウジングとプレートとの当接部に設けた隙間から流体を流出させる。そのため本構成では、ハウジング又はプレートの少なくとも何れか一方をアルミニウム材料で形成し、互いの当接面のうち少なくとも何れか一方をアルマイト処理面とする。つまり、アルマイト処理を施すことで当接面の面粗度を増大させ、ハウジング及びプレートどうしを直に当接させることで前記隙間を形成する。しかも、アルマイト処理した当接面の強度が高まるため、駆動側回転体の変形が防止され、信頼性の高い弁開閉時期制御装置を得ることができる。
【0015】
このようにハウジング及びプレートにアルマイト処理を施すことで、流体の流出が可能な駆動側回転体を効率的に形成することができる。特に、ハウジングの当接面をアルマイト処理する場合には、プーリと当該当接面とを同時にアルマイト処理することができ、隙間の作製効率を一層向上させることができる。また、ハウジングとプレートとを直に当接させるから、これらの間にシール部材などを設ける必要がなく、駆動側回転体の構成が簡略化される。
【0016】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記仕切部が前記従動側回転体に設けられ、前記ハウジングが前記仕切部と摺接する摺接領域を内周面に備えた円筒状壁部を有すると共に、前記プーリと前記円筒状壁部との間に、前記回転軸芯の方向に貫通し、前記回転軸芯に対する周方向に延出した溝部が形成され、前記溝部と前記摺接領域とが前記回転軸芯の径方向に沿って重なり領域を持つように構成することができる。
【0017】
アルミニウム製のハウジングは鋼製のものに比べて軟らかく、クランクシャフトからの駆動力が駆動ベルトを介してプーリに入力される際に幾らか変形を生じる場合がある。その結果、例えば、ハウジングの円筒状壁部に歪みが生じ、当該円筒状壁部の内周面に摺接すべき仕切部と内周面との間に隙間が生じる。進角室と遅角室との間では流体の漏洩が生じ、弁開閉時期制御装置の位相制御が不正確なものとなる。
【0018】
そこで、本構成の如く、プーリと円筒状壁部との間に溝部を設け、仕切部及びハウジングの摺接領域と溝部とが径方向で重なる領域を持つように構成することで、プーリが変形した場合でも、当該変形がハウジングの円筒状壁部に伝わるのを防止することができる。その結果、正確な位相制御を行える弁開閉時期制御装置を得ることができる。
【0019】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記溝部における前記回転軸芯の径方向に沿った幅を、前記ハウジングの当接面における前記径方向に沿った幅以上に形成することができる。
【0020】
本構成のハウジングは、例えばアルミニウム材料の押出成形で作製される。よって、溝部の幅を本構成の程度とすることで、プーリの位置を円筒状壁部の外面から外方に位置させてプーリを所定の外径に形成し、かつ、アルミニウム材料の押し出し量を溝部の分だけ削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態の弁開閉時期制御装置の側断面図である。
図2】本実施形態の弁開閉時期制御装置の平断面図である。
図3】本実施形態の駆動側回転体の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔全体構成〕
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成を図1乃至図3に示す。図1は本装置の側断面図であり、図2は平断面図であり、図3は駆動側回転体の分解斜視図である。
【0023】
弁開閉時期制御装置は、主に、内燃機関のクランク軸Zと同期回転しつつ回転軸芯Xの周りで回転する駆動側回転体A(アウタロータ)と、駆動側回転体Aの内部にあって回転軸芯Xの周りに内燃機関のカム軸Cと一体に回転する従動側回転体B(インナロータ)と、駆動側回転体A及び従動側回転体Bの相対回転位相を調節する位相制御部とで構成される。
【0024】
駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの間には流体圧室Rが形成される。外側の駆動側回転体Aから内方に突出した第1凸部1が内側の従動側回転体Bの外周面B1に当接し、従動側回転体Bの外周面B1から突出した第2凸部2が駆動側回転体Aの内周面W1に当接する。これら第1凸部1及び第2凸部2は、流体圧室Rの仕切部として機能し、流体圧室Rを進角室R1と遅角室R2とに仕切る。
【0025】
進角油路3から進角室R1に作動流体を供給し、遅角室R2から遅角油路4を介して作動流体を排出することで、従動側回転体Bが図2において時計方向に相対回転する。この結果、内燃機関の弁開閉タイミングが早くなる。例えば、内燃機関の回転数を高めるときなどにこのような進角動作を行う。一方、遅角室R2に作動流体を供給し、進角室R1から作動流体を排出することで、従動側回転体Bは図2において反時計方向に相対回転する。この結果、内燃機関の弁開閉タイミングが遅くなる。これは例えば、内燃機関の回転数を下げるときに行い、アイドル回転による運転は最遅角位相で行われる。
【0026】
〔ハウジング〕
本実施形態では、駆動側回転体AのハウジングHをアルミニウム材料で構成する。駆動側回転体Aは、主に、三つの部材で構成してある。外周部分にプーリPを一体形成したハウジングHと、このハウジングHを両面から挟むフロントプレートFPと、リアプレートRPである。これらは、複数本の締結ボルト5を用いて一体に組み付けられる。ハウジングHは、図3に示す如く、締結方向の断面形状がほぼ同じであり、例えば、アルミニウム材料の押出成形によって製造される。尚、この他の構成として、フロントプレートFP或いはリアプレートRPをハウジングHと一体成形することも可能である。その場合には、ダイキャスト工法等によって製造するとよい。
【0027】
特に、ハウジングHは、外周側に形成されたプーリPと、その内周側にあって、従動側回転体Bを収容する円筒状壁部Wとを有する。円筒状壁部Wは、従動側回転体Bに形成された第2凸部2が摺接する内周面W1を有する。また、円筒状壁部Wは、従動側回転体Bの外周面B1に摺接する第1凸部1を複数有する。
【0028】
図2に示す如く、円筒状壁部Wの外周側には、大部分が円筒状壁部Wから離間した状態にプーリPが一体形成してある。円筒状壁部WとプーリPとは、周方向に沿って分散配置した4カ所の第1凸部1と同位置に設けた接続部6で接続されている。
【0029】
このように、円筒状壁部WとプーリPとを組み合わせて一体形成する場合、両者を個別に構成して接続する場合に比べて、両者の調芯作業の手間が不要となる。また、両者を一体化する締結ボルト5が不要になるうえ、締結作業そのものも不要となり、重量軽減やコストダウンの効果が得られる。
【0030】
〔ボルト締結〕
図2及び図3に示す如く、締結ボルト5を挿通するようハウジングHに形成されたボルト孔7は、第1凸部1の中央位置に設けてある。こうすることで、フロントプレートFPやリアプレートRPとハウジングHとの当接面積を広く確保し、締結ボルト5の締結力に際してハウジングHに局部的な荷重が作用しない様にしてある。これにより、フロントプレートFPやリアプレートRP、ハウジングHが変形し難くなり、流体圧室Rの内部に保持されている作動流体が例えばフロントプレートFPとハウジングHとの間から外部に不必要に漏れ出るのを防止することができる。
【0031】
尚、フロントプレートFP及びリアプレートRPもアルミニウム材料で構成することができる。そのような構成であれば、駆動側回転体Aをより軽量化することができる。尚、特に、リアプレートRPをアルミニウム材料で構成する場合、締結ボルト5が係合する雌ネジ部8をやや長くし、締結力に対して雌ネジ部8が損傷するのを防止するとよい。
【0032】
また、雌ネジ部8の位置は、図2に示すように、径方向に沿って第1凸部1と接続部6との中間位置である。より詳細には、やや第1凸部1の側に寄った位置である。この位置であれば、従動側回転体Bの第2凸部2が最進角位相及び最遅角位相に達して第1凸部1に当接する場合に、第1凸部1の曲り変形を防止することができる。因みに、図2の例においては、図中左上の第2凸部2のみが第1凸部1に当接するように構成してある。
【0033】
〔アルマイト処理〕
駆動側回転体AのプーリP及びハウジングHを比較的軟らかい材料であるアルミニウム材料で形成する場合、プーリPは駆動ベルトVとの摩擦によって摩耗が生じ易い。よって、駆動側回転体Aに対しては、表面の硬度を高めるべく陽極酸化処理、所謂アルマイト処理を施す。特には、プーリPの歯部と円筒状壁部Wの側面とが対象である。
【0034】
ただし、アルマイト処理を施すと、処理部表面の面粗度が悪化する。そのため、駆動ベルトVに対する摩擦係数が増大するなど攻撃性が高まり、逆に駆動ベルトVの寿命低下を招くおそれがある。
【0035】
〔隙間〕
そこで、本実施形態では、図2及び図3に示す如く、ハウジングHとフロントプレートFP及びリアプレートRPとの間から、駆動ベルトVに対して潤滑用の作動流体を供給するようにしている。
【0036】
具体的には、ハウジングHとフロントプレートFP及びリアプレートRPとの間に作動流体としてのオイルの流出が可能な隙間Gを設けておく。この隙間Gは、例えば、上記アルマイト処理により、ハウジングHの表面であって、フロントプレートFP或いはリアプレートRPに当接する当接面W2の面粗度を高めることによって形成する。
【0037】
ハウジングHの当接面W2と、フロントプレートFPの当接面FP1或いはリアプレートRPの当接面RP1とは、互いに直に当接させる。
【0038】
これにより、駆動側回転体Aの回転に伴って当該隙間から適量のオイルが流出し、遠心力によって外方に流動する。流動したオイルは、ハウジングHの外側にあるプーリPと当該プーリPに巻き回された駆動ベルトVとに達し、駆動ベルトVを潤滑する。当然ながら、駆動ベルトVはオイル潤滑に適した材質のものを使用する。
【0039】
また、当接面W2をアルマイト処理することで、当接面W2の表面硬度が増す。よって、フロントプレートFP及びリアプレートRPとの締結時に、締結ボルト5の締結力が過大であっても円筒状壁部Wが変形するのを防止することができる。
【0040】
さらに、本構成であれば、円筒状壁部WとフロントプレートFP或いはリアプレートRPとの間に特段のシール材を設ける必要がなく、駆動側回転体Aの構成が簡略化される。
【0041】
このように、本構成の駆動側回転体Aであれば、駆動側回転体Aの構造を簡略化しながら、プーリP及び駆動ベルトVの損耗を低減し、信頼性の高い弁開閉時期制御装置を得ることができる。
【0042】
尚、隙間Gを形成するために、フロントプレートFP或いはリアプレートRPをアルミニウム材料で形成し、フロントプレートFPの当接面FP1、或いは、リアプレートRPの当接面RP1をアルマイト処理することで、これら当接面の面粗度を高めてもよい。
【0043】
〔溝部〕
本実施形態の駆動側回転体Aでは、プーリPと円筒状壁部Wとの間に、回転軸芯Xの方向に貫通し、回転軸芯Xに対する周方向に延出する溝部9を形成してある。図2に示す例では、円筒状壁部WとプーリPとを接続する接続部6ではない領域の全てに亘って溝部9が形成されている。
【0044】
周方向における溝部9の端部は、第1凸部1の側面よりも第1凸部1の中央側に達している。つまり、溝部9によって挟まれた領域である夫々の接続部6の周方向に沿った長さが、夫々の接続部6に対応する第1凸部1の周方向に沿った長さよりも短く構成されている。これは、従動側回転体Bの第2凸部2が円筒状壁部Wの内周面W1に摺接する領域に対して、溝部9の領域を広く確保することで、駆動ベルトVによって仮にプーリPが変形した場合でも、当該変形が円筒状壁部Wに伝わる位置を第2凸部2の摺接領域から離間させるためである。
【0045】
尚、溝部9の周方向長さは、第2凸部2の摺接領域の周方向長さよりも必ずしも長くする必要はない。溝部9と摺接領域とが回転軸芯Xの径方向に沿って重なる領域が僅かでも形成されれば、プーリPの変形が円筒状壁部Wに伝わるのを防止する効果が得られる。
【0046】
また、このような溝部9を形成することで、内燃機関の運転に際して駆動側回転体Aが昇温した場合でも、当該熱がプーリPに伝わり難くなる。よって、駆動ベルトVの熱劣化を防止することができる。そもそも、溝部9を設けることで、アルミニウム材料の使用量が減り、駆動側回転体Aの軽量化も実現できる。
【0047】
一方、径方向に沿った溝部9の幅9aについては種々のサイズに構成可能である。基本的には、溝部9を設け、円筒状壁部WとプーリPとを径方向に離間させることで、プーリPの変形は円筒状壁部Wに伝わり難くなる。ただし、溝部9の幅9aを、ハウジングHの当接面W2の幅W3以上に形成すると好都合である。
【0048】
本構成のハウジングHは、アルミニウム材料の押出成形で作製される。よって、溝部9の幅9aを当接面W2の幅W3以上とすることで、プーリPの位置を円筒状壁部Wの外面から径外方に位置させてプーリPを所定の外径に形成し、かつ、アルミニウム材料の押し出し量を溝部9の分だけ削減することができる。このとき、溝部9の幅9aが極端に狭いと、押出成形型を作製する際に溝部9に該当する部位が細くなり過ぎ、型成形が困難となるうえ、型寿命が低下する。しかし、溝部9の幅9aを当接面W2の幅W3以上に構成することで、押出成形型の各部の寸法が妥当なものとなり、作製が容易で耐久性ある押出成形型を得ることができる。溝部9の幅9aが適切であれば、アルミニウム材料の押出成形時の押出抵抗が低下し、製造効率が向上する。
【0049】
さらに、溝部9の幅9aを当接面W2の幅W3以上とすることで、例えば、フロントプレートFPを円筒状壁部Wにボルト締結する際に、円筒状壁部Wに加わる締結力が接続部6を超えてプーリPに伝わるのを防止することができる。よって、プーリPの形状が真円に保持され、回転ブレが生じず、駆動ベルトVが損傷するのを防止することができる。
【0050】
〔別実施形態〕
ハウジングHに限らず、フロントプレートFP及びリアプレートRPもアルミニウム材料で構成することができる。
【0051】
本構成であれば、駆動側回転体Aの重量が大幅に軽減される。ただし、リアプレートRPのうち締結ボルト5を固定する雌ネジ部8は、十分な締め付けトルクに耐え得るよう締結ボルト5の長手方向に沿って必要な長さに構成しておく。
【0052】
円筒状壁部WとフロントプレートFP或いはリアプレートRPとの間に設ける隙間として、円筒状壁部WやフロントプレートFP、或いは、リアプレートRPに対して径方向に延出する凹部を構成してもよい。当該凹部は例えば切削加工や型成形あるいは打刻によって形成する。これらの加工によるものであれば、オイルの流出位置や流出量を任意に設定することができ、より正確な潤滑作用を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、各種の弁開閉時期制御装置であって、作動流体の供給・排出によって位相制御を行うものに広く利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 第1凸部(仕切部)
2 第2凸部(仕切部)
9 溝部
A 駆動側回転体
B 従動側回転体
C カム軸
FP フロントプレート
FP1 フロントプレートの当接面
RP リアプレート
RP1 リアプレートの当接面
H ハウジング
P プーリ
R 流体圧室
R1 進角室
R2 遅角室
V 駆動ベルト
W 円筒状壁部
W1 内周面
W2 ハウジングの当接面
X 回転軸芯
Z クランク軸
図1
図2
図3