(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記動吸振器用慣性体は、前記第一回転体および前記第二回転体に対して周方向に複数配設された前記第二弾性部材に、周方向に重なる位置に配設される請求項1に記載の動吸振器付ダンパ装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
本発明の動吸振器付ダンパ装置の第1の実施形態について
図1〜
図6を参照して説明する。
図1は、本実施形態の動吸振器付ダンパ装置をトルクコンバータに実施した場合の概略構成を示す断面図である。
【0012】
このトルクコンバータ10は、フロントハブ2と、フロントカバー3と、ブロック部材4と、ポンプインペラ5と、タービンライナ6と、動吸振器付ダンパ装置7と、ロックアップクラッチ8と、油圧室9と、タービンハブ61と、ワンウェイクラッチ12と、ステータ13とを含んで構成されている。
【0013】
フロントハブ2は、トルクコンバータ10のハウジング20の一部を構成する回転部材であり、エンジン(駆動源)側(
図1の左側)回転軸付近に配されている。フロントハブ2の外周部分には、フロントカバー3が装着され、フロントカバー3が、例えば、溶接部2aにおいて溶接されている。フロントハブ2は、外周部の内側(油圧室9側)の面から軸方向に延在した円筒部2bを有する。円筒部2bは、ロックアップクラッチ8の後述するピストン8aの軸方向の相対移動をガイドする。フロントハブ2は、径方向移動不能にスペーサ2cを支持するとともに、スペーサ2cの軸方向のエンジン側(
図1の左側)の面と接する。
【0014】
フロントカバー3は、トルクコンバータ10のハウジング20の一部となる環状でカップ状の回転部材である。フロントカバー3は、内周端部においてフロントハブ2に装着されている。フロントカバー3は、内側(油圧室9側)の面において、ロックアップクラッチ8を構成する円筒部材8cが、例えば、溶接等により取り付けられている。フロントカバー3は、内側(油圧室9側)の面のうち、円筒部材8cよりも径方向内側においてクラッチ制御室9aの壁面となる。フロントカバー3は、エンジン側の外側の面には、ブロック部材4が取り付けられている。フロントカバー3の変速機側(
図1の右側)の端部には、ポンプインペラ5が、例えば、溶接部3aによって溶接されている。
【0015】
ブロック部材4は、油圧室9の外周側であって、フロントカバー3の外側に同一の円周上に等間隔で配置される(
図1参照)。ブロック部材4は、溶接によりフロントカバー3に接合されている。ブロック部材4には、ボルト孔4aが形成され、エンジン(図示せず)の駆動トルクを伝達する部材(例えば、ドライブプレート、フライホイール等)がボルト締結される。
【0016】
ポンプインペラ5は、ハウジング20を構成しており、フロントカバー3と連結されて一体化されている。ポンプインペラ5は、多数のブレード5aが植設されたアウタシェル5bを有し、ブレード5aの内縁側に取り付けられたインナコア5cを有する。
【0017】
タービンライナ6は、ポンプインペラ5と対向させて配設され、タービンハブ61を介して図示しない変速機の入力軸(変速機入力軸)に連結されている(
図1参照)。タービンライナ6は、ポンプインペラ5と同様に、多数のブレード6aを植設したアウタシェル6bを有し、ブレード6aの内縁側に取り付けられたインナコア6cを有する。タービンライナ6のアウタシェル6bは、内周方向に屈曲延長され、動吸振器付ダンパ装置7の後述する第二回転体72と共に、リベット62によりタービンハブ61に連結されている。タービンハブ61は、その内周に設けられたスプライン61aで、変速機入力軸の外周スプライン(図略)に相対回転不能に連結される。
【0018】
動吸振器付ダンパ装置7は、夫々円盤状の第一回転体71、第二回転体72、動吸振器用慣性体73、第一弾性部材としての第一コイルバネ74、および第二弾性部材としての第二コイルバネ75を含んで構成されている。動吸振器付ダンパ装置7は、入力側の第一回転体71と出力側の第二回転体72との間に生じるトルク変動を吸収するものである。
【0019】
また、
図2に示すように、動吸振器付ダンパ装置をバネと慣性体とで簡略化して示すブロック図では、第一回転体71と第二回転体72との間が、第一コイルバネ74で連結されている。第一回転体71と第二回転体72との間には、動吸振器用慣性体73が設けられ、動吸振器用慣性体73は第二回転体72との間において第二コイルバネ75で連結されている。このブロック図において、第一回転体71と第二回転体72との相対変位θxは、現在の位置からさらに互いに接近する距離が該当する。また、第二コイルバネ75が動力伝達可能となる相対変位θxの所定量θaは、第一回転体71と動吸振器用慣性体73とが、現在の位置から相対移動して、動吸振器用慣性体73と第一回転体71とが接触するまでの距離が該当する。
また、
図3は、第一回転体71と第二回転体72との間の相対変位θxが所定量θaを超えた位置から、第二コイルバネ75による動力伝達が開始されることを示している。
【0020】
ロックアップクラッチ8は、
図1に示すように、ポンプインペラ5とタービンライナ6により構成されるトーラス部と軸方向に並べてフロントカバー3内に配置されている。ロックアップクラッチ8は、動吸振器付ダンパ装置7を介してフロントカバー3を変速機入力軸に対して係脱させる。
【0021】
ロックアップクラッチ8は、入力側の円筒部材8cと、出力側の内側円筒部材8dと、ピストン8aと、ピストン8aにより係脱操作される入力軸側クラッチ板8eおよび出力軸側クラッチ板8fとを含んで構成されている。円筒部材8cは、内側円筒部材8dよりも径方向外側に配されている。円筒部材8cは、内周面にてピストン8aの軸方向のスライドをガイドする。円筒部材8cには、軸方向の変速機側(
図1の右側)の部分にスプライン溝が形成されている。円筒部材8cには、スプライン溝により入力軸側クラッチ板8eおよびサポートプレート8gが軸線方向に移動可能にかつ相対回転不能に係合する。
入力軸側クラッチ板8eと出力軸側クラッチ板8fとは、サポートプレート8gとピストン8aとの間で交互に配されている。
【0022】
内側円筒部材8dは、円筒部材8cよりも径方向内側に配されている。内側円筒部材8dは、外周面に外スプラインが形成されている。内側円筒部材8dは、外スプラインにより出力軸側クラッチ板8fが相対回転不能かつ軸方向移動可能に係合している。内側円筒部材8dは、軸方向の変速機側(
図1の右側)の端部から径方向内側に突出したフランジ部8hを有し、フランジ部8hは、第一回転体71にかしめ固定されている。内側円筒部材8dは、ロックアップクラッチ8が接合された場合に、エンジン側からの駆動トルクが伝達されるものである。第一回転体71は、エンジン側からの駆動トルクが伝達される内側円筒部材8dと一体に回転する。
【0023】
ピストン8aは、入力軸側クラッチ板8e、出力軸側クラッチ板8fをサポートプレート8gに向けて押し付ける環状の部材である。ピストン8aは、円筒部材8cとフロントハブ2の円筒部2bとの間の空間で、軸方向にスライド可能に配されている。ピストン8aは、環状の内周面にシールリング81を嵌めるための溝部8iを有し、環状の外周面にシールリング82を嵌めるための溝部8jを有している。
【0024】
油圧室9は、オイルが充填される部屋であり、クラッチ制御室9a、コンバータ室9b及びロックアップ室9cを有している。
クラッチ制御室9aは、フロントカバー3とポンプインペラ5とにより囲われるロックアップ室9c内に独立して設けられる。クラッチ制御室9aは、円筒部材8c、ピストン8a、フロントハブ2、およびフロントカバー3によって、囲まれた空間にオイルが充填された部屋である。クラッチ制御室9aは、フロントハブ2に形成された油路を通じてオイルが供給される。クラッチ制御室9aの圧力が、ロックアップ室9cよりも高くなると、ピストン8aを軸方向の変速機側(
図1の右側)に移動させ、クラッチ制御室9aの圧力が、ロックアップ室9cよりも低くなると、ピストン8aを軸方向のエンジン側(
図1の左側)に移動させる。また、コンバータ室9bは、アウタシェル5bとアウタシェル6bとに囲まれた領域に相当する。
ステータ13は、ポンプインペラ5とタービンライナ6との間に介在され、ワンウェイクラッチ12に支持されている。
【0025】
次に、動吸振器付ダンパ装置7についてさらに詳述する。なお、
図6〜
図8は、動吸振器付ダンパ装置7を変速機側(
図1の右側)から見た一部に断面を含む正面図を示している。
第一回転体71は、
図1および
図6に示すように、円盤状の第二回転体72を挟んで両側に配された一対の環状の部材であり、対となった環状の第一回転体71は、複数のリベット71cによって連結されている。複数のリベット71cは、第二回転体72の外周縁部に所定範囲で小径となるように設けられたガイド縁72fにより、第二回転体72と接触しないようになっている。対となった第一回転体71は、これらのリベット71cによる連結によって一体に回転する。エンジン側の第一回転体71は、径方向内側に突出したフランジ部71dを有し、フランジ部71dは、後述するロックアップクラッチ8の内側円筒部材8dにかしめ固定されている。内側円筒部材8dは、ロックアップクラッチ8が接合されたときに、エンジン側からの駆動トルクを第一回転体71に伝達する入力軸に相当する。第一回転体71は、内側円筒部材8dとともに一体に回転する。また、第一回転体71のフランジ部71dの内周面は、軸受として作用するタービンハブ61の外周面に摺動自在に支承されている。
【0026】
第一回転体71の内周側には、四十五度の間隔で周方向に沿って第一コイルバネ74を保持する複数(本実施形態では八つ)の第一収容窓71aが設けられている。各第一収容窓71aは、第一コイルバネ74を保持する空間の周方向の両端部間の長さが、第一コイルバネ74を自然長或いは縮んだ状態で保持する所定の第一長さL1で形成されている。また、第一収容窓71aは、周方向にある両端部において、第一コイルバネ74と接離可能である。また、第一回転体71は、第一収容窓71aの外周側に、九十度の間隔で周方向に沿って第二コイルバネ75を収容する複数(本実施形態では四つ)の第二収容窓71bが設けられている。各第二収容窓71bは、第二コイルバネ75を収容する空間の周方向の両端部間の長さが、第二コイルバネ75を自然長或いは縮んだ状態で保持する所定の第二長さL2より長い所定の第三長さL3で形成されている。第二コイルバネ75の作用については、動吸振器用慣性体73との関係で後述する。
【0027】
第二回転体72は、外周部と同軸の円形状の取付穴72cが中心部に設けられた一枚の円盤状に形成されている。第二回転体72の外周縁部には、前述のようにガイド縁72f設けられている。第二回転体72は、取付穴72cのある内周縁部において複数のリベット穴72dが設けられている。第二回転体72は、タービンハブ61、およびタービンライナ6のアウタシェル6bの間に配されている。第二回転体72は、リベット62によってアウタシェル6bと共に、変速機入力軸にスプライン係合するタービンハブ61にかしめ固定されている。これにより、第二回転体72は、タービンハブ61、およびタービンライナ6のアウタシェル6bとともに一体回転する。また、前述のように、第一回転体71のフランジ部71dの内周面は、軸受として作用するタービンハブ61の外周面に摺動自在に支承されている。そのため、タービンハブ61に固定された第二回転体72は、第一回転体71に対して同軸で、相対回転する。
【0028】
第二回転体72の内周側には、第一収容窓71aに対して回転方向において同じ位相で、周方向に沿って第一コイルバネ74を保持する八つの第三収容窓72aが設けられている。この場合の回転方向において同じ位相とは、第一収容窓71aと第三収容窓72aとが、径方向においても、回転方向においても互いに重なる位置にあることを示している。各第三収容窓72aは、第一コイルバネ74を保持する空間の周方向の両端部間の長さが、第一コイルバネ74を自然長或いは縮んだ状態で保持する所定の第一長さL1で形成されている。第三収容窓72aは、周方向にある端面において、第一コイルバネ74と接離可能である。第一回転体71の第一収容窓71aと第二回転体72の第三収容窓72aとの回転方向の位相を合わせ、第一コイルバネ74を配置した場合、第一コイルバネ74によって、第一回転体71と第二回転体72との間で相対変位が生じない方向に付勢される。第一回転体71と第二回転体72との間で相対変位を生じさせた場合には、第一回転体71の第一収容窓71aの周方向の一端部と、第二回転体72の第三収容窓72aの周方向の一端部側とは反対側の他端部とに、第一コイルバネ74の端部が当接する状態となる。
【0029】
また、第二回転体72において、第三収容窓72aの外周側には、九十度の間隔で周方向に沿って設けられ第二コイルバネ75を収容する複数(本実施形態では四つ)の第四収容窓72bが設けられている。第四収容窓72bは、第二コイルバネ75を収容する空間の周方向の両端部間の長さが、第二コイルバネ75の自然長或いは縮んだ状態で保持できる所定の第二長さL2で形成されている。
【0030】
動吸振器用慣性体73は、円盤状の第二回転体72および一対の第一回転体71を挟んで側面両外側に配された一対の環状の部材であり、対となった動吸振器用慣性体73は、複数のリベット73bによって連結されている。第一回転体71および第二回転体72にはリベット73bが貫通し、円周方向に延在する長穴71e,72eが夫々設けられている。動吸振器用慣性体73は、第一回転体71および第二回転体72に設けられた周方向の長穴71e,72eをガイドとして第一回転体71および第二回転体72に対して同軸に設けられ、かつ相対回転可能になっている。
【0031】
動吸振器用慣性体73には、第二収容窓71bおよび第四収容窓72bに対して回転方向において同じ位相で複数(本実施形態では四つ)の第二弾性部材収容窓73aが設けられている。この場合の回転方向において同じ位相とは、第二弾性部材収容窓73aが、第二収容窓71bおよび第四収容窓72bに対して、径方向においても、回転方向においても互いに重なる位置にあることを示している。第二弾性部材収容窓73aの周方向の両端部間の長さは、第二回転体72の第四収容窓72bの周方向の両端部間の所定の第二長さL2(第二コイルバネ75を自然長或いは縮んだ状態で保持できる長さ)と同じである。そのため、第二回転体72と動吸振器用慣性体73との間には、第二コイルバネ75によって相対変位を抑制する制振力が働き、動吸振器用慣性体73は、第二回転体72に振動が生じた場合に、動吸振器として作用する。第一回転体71の第二収容窓71bの周方向の両端部間の長さは、動吸振器用慣性体73の第二弾性部材収容窓73aの周方向の両端部間の所定の長さL2よりも長い所定の長さL3で設けられている。そのため、この状態では、第二コイルバネ75の端部は、第一回転体71に接触しない。第二コイルバネ75を介した力の伝達は、第一回転体71と動吸振器用慣性体73との間には生じていない。
【0032】
しかし、第一回転体71と第二回転体72との間の相対回転が所定量θaを超えると、第二コイルバネ75は、第一回転体71の第二収容窓71bの周方向の一端部と第二回転体72の第四収容窓72bの周方向の他端部との間に挟持されることとなる。これにより、第二コイルバネ75は、第一回転体71と第二回転体72とを連結する。そのため、第一回転体71と第二回転体72との間で動力伝達が可能となる。
【0033】
次に、動吸振器付ダンパ装置の作動について、
図4〜
図6に基づいて、以下に説明する。
本実施形態の作動において、第一回転体71を基準とし、第一回転体71に対して第二回転体72と動吸振器用慣性体73とが、相対変位を生ずる場合について説明する。
【0034】
図4に示すように、第一回転体71、第二回転体72および動吸振器用慣性体73において、第一コイルバネ74を収容する第一収容窓71aと第三収容窓72aとが、コイルバネの力が釣り合う中立位置PLで重なっている。また、第二コイルバネ75を収容する第二収容窓71bと、第四収容窓72bと、第二弾性部材収容窓73aとが、中立位置PLで重なっている状態を示している。所定量θaは、第一回転体71の第二収容窓71bと動吸振器用慣性体73の第二弾性部材収容窓73aとの対応する端部同士の角度が該当する。
【0035】
図4の場合は、第一回転体71と第二回転体72との間に相対変位はなく、第二回転体72と動吸振器用慣性体73との間にも相対変位は生じていない。第一コイルバネ74および第二コイルバネ75は、自然長で、或いは少し圧縮された状態で、各窓孔等の周方向の両端部に当接した状態である。
【0036】
次に、
図5は、第二回転体72が時計回りに回転し、基準となる第一回転体71に対して相対変位θx1が生じた状態を示している。動吸振器用慣性体73は、第二回転体72に対して振動し、第二回転体自体が大きく振動するのを抑制する。
図5において、第一回転体71と第二回転体72との相対変位θx1は、第一収容窓71aの周方向の一端部と、第三収容窓72aの周方向の一端部とのずれ量としても現れている。第一回転体71と第二回転体72との相対変位θx1は、第二収容窓71bと第四収容窓72bとにおいては、開口部における周方向の中心位置同士のずれ量として現れる。
図5における最下部の第二収容窓71bにおいて、二点鎖線で示す第二弾性部材収容窓73aの位置は、動吸振器用慣性体73の第二回転体72に対する振動によって、第二回転体72が回転した時計回り方向とは逆方向に動吸振器用慣性体73が回転したことを示している。第二回転体72自体に生じる振動は、動吸振器用慣性体73の第二回転体72に対する振動によって抑制される。
【0037】
次に、
図6は、第二回転体72が時計回りにさらに回転し、基準となる第一回転体71に対して所定量θaを超える相対変位θx2が生じた状態を示している。
図6の最下部の第二収容窓71bにおいて、第一回転体71の第二収容窓71bの周方向の時計回り方向の端部と二点鎖線で示す動吸振器用慣性体73の第二弾性部材収容窓73aの周方向の時計回り方向の端部とが重なっている。第二コイルバネ75は、第一回転体71の第二収容窓71bの時計回り方向の端部(一端部)71bfと、第二回転体の第四収容窓72bの反時計回り方向の端部(他端部)72brとの間に挟持されている。そのため、第一コイルバネ74に加えて、第二コイルバネ75は、第一回転体71と第二回転体72との間の動力伝達が可能となっていることを示している。
【0038】
上記の記載で明らかなように、第一実施形態に係る動吸振器付ダンパ装置7は、エンジン側から駆動トルクが入力されるロックアップクラッチ8の内側円筒部材8dと一体回転するように設けられた第一回転体71と、第一回転体71に同軸かつ相対回転可能に配設され、かつ駆動トルクに基づく駆動力を出力するタービンハブ61と一体回転するように設けられた第二回転体72と、第一回転体71および第二回転体72に同軸かつ相対回転可能に設けられて、第一回転体71および第二回転体72の何れかの振動を抑制する動吸振器を構成する動吸振器用慣性体73と、第一回転体71と第二回転体72との間に設けられ、第一回転体71と第二回転体72とを動力伝達可能に連結する第一コイルバネ74と、第一回転体71と第二回転体72との間に設けられるとともに、第一回転体71および第二回転体72のいずれか一方と動吸振器用慣性体73との間に設けられる第二コイルバネ75と、を備え、第二コイルバネ75は、第一回転体71の第二回転体72に対する変位である相対変位θxが所定量θaより小さい場合には、第一回転体71と第二回転体72とを連結せず、かつ、第一回転体71および第二回転体72のいずれか一方と動吸振器用慣性体73とを連結して動吸振器を構成し、相対変位θxが所定量θaより大きい場合には、第一回転体71と第二回転体72とを動力伝達可能に連結する。
【0039】
これによると、第二コイルバネ75は、第一回転体71の第二回転体72に対する相対変位θxが所定量θaより小さい場合には、第一回転体71および第二回転体72のいずれか一方と動吸振器用慣性体73との間を連結して動吸振器用慣性体73を動吸振器として作用させる。この場合の第二コイルバネ75は、第一回転体71と第二回転体72との間を連結しないので、第一回転体71から第二回転体72への動力伝達を行なわない。第二コイルバネ75は、第一回転体71の第二回転体72に対する相対変位θxが所定量θaより大きい場合には、第一回転体71と第二回転体72とを連結して動力伝達を可能とする。
このように、第二コイルバネ75は、動吸振器としての機能と、動力伝達する機能との二つの機能を有する。そのため、これら二つの機能を両立させたまま部品点数を削減してダンパ装置としてのコンパクト化を図ることができる。
【0040】
また、動吸振器付ダンパ装置7において、動吸振器用慣性体73は、第一回転体71および第二回転体72に対して周方向に複数配設された第二コイルバネ75と周方向に重なる位置に配設される。
これによると、第一回転体71または第二回転体72の振動に対する動吸振器用慣性体73の制振力を効率よく第二コイルバネ75によって伝達することができる。動吸振器用慣性体73と第二コイルバネ75とは、第一回転体71または第二回転体72に対して周方向に重なるので、動吸振器として極めてコンパクトに製作することができる。
【0041】
また、動吸振器付ダンパ装置7において、第二コイルバネ75は、第一コイルバネ74の外周側に配設される。
これによると、第一回転体71および第二回転体72に対してモーメントの腕が長い外周側に第二コイルバネ75を配設することで、第一回転体71または第二回転体72共振を相殺する大きな制振力を動吸振器用慣性体73に効率よく生じさせることができる。
【0042】
また、エンジン側から駆動トルクが入力されるロックアップクラッチ8の内側円筒部材8d(入力軸)と一体回転するように設けられた第一回転体71と、第一回転体71に同軸かつ相対回転可能に配設され、かつ駆動トルクに基づく駆動力を出力するタービンハブ61(出力軸)と一体回転するように設けられた第二回転体72と、第一回転体71および第二回転体72に同軸かつ相対回転可能に設けられて、第一回転体71および第二回転体72の何れかの振動を抑制する動吸振器を構成する動吸振器用慣性体73と、第一回転体71と第二回転体72との間に設けられ、第一回転体71と第二回転体72とを動力伝達可能に連結する第一コイルバネ74と、第一回転体71と第二回転体72との間に設けられるとともに、第一回転体71および第二回転体72のいずれか一方と動吸振器用慣性体73との間に設けられる第二コイルバネ75と、を備え、第一回転体71は、所定間隔で周方向に沿って複数設けられ、かつ第一コイルバネ74を保持する空間の周方向の両端部間の長さが、第一コイルバネ74を自然長或いは縮んだ状態で保持する所定の第一長さL1で設けられた第一収容窓71aと、所定間隔で周方向に沿って複数設けられ第二コイルバネ75を収容する第二収容窓71bと、を有し、第二回転体72は、第一収容窓71aに対して回転方向において同じ位相で、所定の第一長さL1で設けられた複数の第三収容窓72aと、第二収容窓71bに対して回転方向において同じ位相で設けられ第二コイルバネ75を収容する複数の第四収容窓72bと、を有し、動吸振器用慣性体73は、第二収容窓71bおよび第四収容窓72bに対して回転方向において同じ位相で複数設けられ、かつ第二コイルバネ75を保持する空間の周方向の両端部間の長さが第二コイルバネ75を自然長或いは縮んだ状態で保持する所定の第二長さL2で設けられた第二弾性部材収容窓73aを有し、第一回転体71の第二収容窓71bおよび第二回転体72の第四収容窓72bのいずれか一方の第二コイルバネ75を保持する空間の周方向の両端部間の長さは、第二弾性部材収容窓73aの所定の第二長さL2と同じ長さで設けられ、第一回転体71の第二収容窓71bおよび第二回転体72の第四収容窓72bのいずれか他方の第二コイルバネ75を保持する空間の周方向の両端部間の長さは、第二弾性部材収容窓73aの所定の第二長さL2より長く設けられている。
【0043】
これによると、第二コイルバネ75は、第二弾性部材収容窓73aの周方向の両端部のうちの一端部と、第一回転体71の第二収容窓71bおよび第二回転体72の第四収容窓72bのいずれか他方の周方向の両端部のうちの一端部とが、第一回転体71と第二回転体72との相対回転によって重なる位置まで変位した場合には、第一回転体71と第二回転体72とを動力伝達可能に連結する。
【0044】
また、第二コイルバネ75は、第二弾性部材収容窓73aの周方向の一端部と、第一回転体71の第二収容窓71bおよび第二回転体72の第四収容窓72bのいずれか他方の周方向の一端部とが、前記相対回転によって重なる位置まで変位しない場合には、第一回転体71と第二回転体72とを連結しない。そして、第二コイルバネ75は、第一回転体71および第二回転体72のいずれか一方と動吸振器用慣性体73とを連結しているので、動吸振器を構成することとなる。
【0045】
なお、第一実施形態において、動吸振器付ダンパ装置は、動吸振器用慣性体73を出力側である第二回転体72に第二コイルバネ75で連結したが、これに限定されず、例えば、動吸振器用慣性体73を入力側である第一回転体71に第二コイルバネ75で連結してもよい。
また、駆動源としてエンジンを使用するものとしたが、これに限定されず、例えば、電動モータを駆動源とするものでもよい。
【0046】
<第二実施形態>
本発明の動吸振器付ダンパ装置の第二実施形態について
図7〜
図10を参照して説明する。
第二実施形態におけるトルクコンバータ100は、使用される動吸振器付ダンパ装置90の構成が第一実施形態のトルクコンバータ10と相違する。その他の構成は第一実施形態のトルクコンバータ10と同様なので、同じ符号を付与して説明を省略する。
【0047】
また、第二実施形態の動吸振器付ダンパ装置90は、動吸振器用慣性体93と第二コイルバネ95とは、第一回転体91および第二回転体92に対して内周側に設けられ、外周側に第一コイルバネ94が設けられている点について、主に第一実施形態と相違する。以下、相違点について説明する。
【0048】
第一回転体71の外周側には、
図8に示すように、九十度の間隔で周方向に沿ってかつ周方向に所定の第一長さL1で設けられ第一コイルバネ94を自然長或いは縮んだ状態で保持する複数(本実施形態では四つ)の第一収容窓91aが設けられている。第一収容窓91aは、周方向の両側にある端面において、第一コイルバネ94と接離可能である。また、第一収容窓91aの内周側には、四十五度の間隔で周方向に沿って設けられ第二コイルバネ75を収容する複数(本実施形態では八つ)の第二収容窓91bが設けられている。第二収容窓91bの周方向の端面間の長さは、第二コイルバネ95の自然長の長さより長い所定の第三長さL3で形成されている。
【0049】
第二回転体92は、外周部と同軸の円形状の取付穴92cが中心部に設けられた一枚の円盤状に形成されている。第二回転体92の外周縁部には、第一回転体91同士を接合するリベット91cが接触しないようにするため、ガイド縁92f設けられている。第二回転体92は、取付穴92cのある内周縁部において複数のリベット穴92dが設けられている。
【0050】
第二回転体92の外周側には、第一回転体91の第一収容窓91aに対して回転方向において同じ位相で、第三収容窓92aが設けられている。第三収容窓92aは、周方向の端面の間の長さが所定の第一長さL1で設けられ第一コイルバネ94を自然長或いは縮んだ状態で保持する。第三収容窓92aは、周方向にある端面において、第一コイルバネ94と接離可能である。第一回転体91の第一収容窓91aと第二回転体92の第三収容窓92aとの回転方向の位相を合わせ、第一コイルバネ94を配置した場合、第一コイルバネ94によって、第一回転体91と第二回転体92との間で相対変位が生じない方向に付勢される。
【0051】
また、第二回転体92において、第三収容窓92aの内周側には、四十五度の間隔で周方向に沿って設けられ第二コイルバネ95を収容する複数(本実施形態では八つ)の第四収容窓92bが設けられている。第四収容窓92bの周方向の端面の間の長さは、第二コイルバネ95の自然長或いは縮んだ状態で保持できる所定の第二長さL2に形成されている。第一回転体91の第二収容窓91bの所定の第三長さL3は、第二回転体92の第四収容窓92bの所定の第二長さL2よりも長く設定されている。
【0052】
動吸振器用慣性体93は、円盤状の第二回転体92および一対の第一回転体91を挟んで内側両側面に配された一対の環状の部材であり、対となった動吸振器用慣性体93は、複数のリベット93bによって連結されている。第一回転体91および第二回転体92にはリベット93bが貫通し、円周方向に延在する長穴91e,92eが夫々設けられている。動吸振器用慣性体93は、第一回転体91および第二回転体92に設けられた周方向の長穴91e,92eをガイドとして第一回転体91および第二回転体92に対して同軸かつ相対回転可能になっている。
【0053】
動吸振器用慣性体93には、第二収容窓91bおよび第四収容窓92bに対して回転方向において同じ位相で、周方向に所定の第二長さL2で設けられ、第二コイルバネ95を自然長或いは縮んだ状態で保持する複数(本実施形態では八つ)の第二弾性部材収容窓93aが設けられている。第二弾性部材収容窓93aの周方向の端面の間の長さは、第二回転体92の第四収容窓92bの周方向の端面の間の長さと同じ所定の第二長さL2である。そのため、第二回転体92と動吸振器用慣性体93との間には、第二コイルバネ95によって相対変位を抑制する制振力が働き、動吸振器用慣性体93は、第二回転体92に振動が生じた場合に、動吸振器として作用する。第一回転体91の第二収容窓91bの周方向の端部間の所定の第三長さL3は、動吸振器用慣性体93の第二弾性部材収容窓93aの周方向の端部間の所定の第二長さL2よりも長い長さで設けられている。そのため、この
図10に示す状態では、第二コイルバネ95を介した力の伝達は、第一回転体91と動吸振器用慣性体93との間には生じていない。その他の構成は第一実施形態の動吸振器付ダンパ装置7と同様である。
【0054】
次に、第二実施形態の動吸振器付ダンパ装置90の作動について、
図8〜
図10に基づいて、以下に説明する。
図8の場合は、第一回転体91と第二回転体92との間に相対変位はなく、第二回転体92と動吸振器用慣性体93との間にも相対変位は生じていない。第一コイルバネ94および第二コイルバネ95は、自然長で、或いは少し圧縮された状態で、各窓孔等の周方向の両端部に当接した状態である。
【0055】
次に、
図9は、第二回転体92が時計回りに回転し、基準となる第一回転体91に対して相対変位θx1が生じた状態を示している。動吸振器用慣性体93は、第二回転体92に対して振動し、第二回転体92自体が大きく振動するのを抑制する。
図9において、第一回転体91と第二回転体92との相対変位θx1は、第一収容窓91aの周方向の一端部と、第三収容窓92aの周方向の一端部とのずれ量として現れている。また、第二収容窓91bと第四収容窓92bとにおいては、開口部における周方向の中心位置同士のずれ量として現れる。
図9における最下部の第二収容窓91bにおいて、二点鎖線で示す第二弾性部材収容窓93aの位置は、動吸振器用慣性体73の第二回転体72に対する振動によって、第二回転体92の回転した時計回り方向に、第二回転体92の回転よりも小さく動吸振器用慣性体93が回転したことを示している。第二回転体92自体に生じる振動は、動吸振器用慣性体93の第二回転体92に対する振動によって抑制される。
【0056】
次に、
図10は、第二回転体92が時計回りにさらに回転し、基準となる第一回転体91に対して所定量θaを超える相対変位θx2が生じた状態を示している。
図10の最下部の第二収容窓91bにおいて、第一回転体91の第二収容窓91bの周方向の時計回り方向の端部91bfと二点鎖線で示す動吸振器用慣性体93の第二弾性部材収容窓93aの周方向の時計回り方向の端部とが重なっている。第二コイルバネ95は、第一回転体91の第二収容窓91bの時計回り方向の端部(一端部)91bfと、第二回転体92の第四収容窓92bの反時計回り方向の端部(他端部)92brとの間に挟持されている。そのため、第一コイルバネ94に加えて第二コイルバネ95は、第一回転体91と第二回転体92との間の動力伝達が可能となっていることを示している。その他の作動は、第一実施形態と同様なので説明を省略する。
【0057】
第二実施形態の動吸振器付ダンパ装置90において、第二弾性部材としての第二コイルバネ95は、第一コイルバネ94の内周側に配設されている。
これによると、動吸振器用慣性体93が付加される第二コイルバネ95を、内周側に設定することができるので、ダンパ装置全体をコンパクトに設計することができる。
【0058】
なお、上記実施形態の動吸振器付ダンパ装置7において、動吸振器機能と、駆動トルク伝達機能とを生じる弾性部材を第二コイルバネ75の一種類としたが、これに限定されず、例えば、
図11に示す動吸振器を示すブロック図のように、第一動吸振器用慣性体173、第二動吸振器用慣性体176を夫々連結する第二弾性部材175、および第三弾性部材177としてもよい。
【0059】
この場合、
図12に示すように、第一回転体171と第二回転体172の相対変位が、0〜θ1間においては、第一弾性部材174のみが第一回転体171と第二回転体172との間の動力伝達をし、第二回転体172に対して、第一動吸振器用慣性体173および第二動吸振器用慣性体176は、動吸振器として作用する。
【0060】
第一回転体171と第二回転体172の相対変位が、θ1〜θ2間においては、
図11に示すように、第一回転体171と第二動吸振器用慣性体176とが接触する。そのため、
図12に示すように、第一弾性部材174および第三弾性部材177が、第一回転体171と第二回転体172との間の動力伝達をする。第二回転体172に対して、第一動吸振器用慣性体173は、動吸振器として作用する。
【0061】
第一回転体171と第二回転体172の相対変位が、θ2以上となった場合においては、
図11に示すように、第一回転体171に対して第二動吸振器用慣性体176および第一動吸振器用慣性体173が接触する。そのため、
図12に示すように、第一弾性部材174、第二弾性部材175および第三弾性部材177が、第一回転体171と第二回転体172との間の動力伝達をする。
また、上記実施形態において、動吸振器付ダンパ装置を、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータにおいて、ロックアップクラッチとトルクコンバータとの間に実施するものとしたが、これに限定されず、例えば、エンジン側からの駆動トルクの伝達を断切するクラッチと自動変速機との間に設けられるものでもよい。
また、第一弾性部材および第二弾性部材は、第一コイルバネ74および第二コイルバネ75としたが、これに限定されず、例えば、ゴム製の弾性部材でもよい。
【0062】
斯様に、上記した実施の形態で述べた具体的構成は、本発明の一例を示したものにすぎず、本発明はそのような具体的構成に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の態様を採り得るものである。