特許第6524837号(P6524837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6524837
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】楽器
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20190527BHJP
   G10H 3/18 20060101ALI20190527BHJP
   G10H 3/14 20060101ALI20190527BHJP
   G10H 1/12 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   G10H1/00 C
   G10H3/18 C
   G10H3/14 A
   G10H1/12
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-149698(P2015-149698)
(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2017-32652(P2017-32652A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100168756
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 元彦
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 善政
【審査官】 千本 潤介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−140350(JP,A)
【文献】 特開2005−024997(JP,A)
【文献】 特開平04−343394(JP,A)
【文献】 特開平06−214563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏操作されて振動する振動源と、
前記振動源の振動を検出して振動波形を表す振動波形信号を出力する検出手段と、
前記振動波形信号と、アコースティック楽器の振動体に所定の基準信号を入力したときの応答信号とを畳み込むことにより楽音を表す原信号を生成する原信号生成手段と、
複数のスピーカと、
前記複数のスピーカに対応してそれぞれ設けられ、前記原信号を処理して、前記各スピーカの配置位置に応じた楽音信号をそれぞれ生成する複数の楽音信号処理手段と、を有し、
前記アコースティック楽器の振動体の各固有振動数及び各振動形態に基づいて、前記複数の楽音信号処理手段の周波数特性がそれぞれ設定されている、楽器。
【請求項2】
請求項1に記載の楽器において、
前記応答信号は、前記アコースティック楽器の振動体の第1の部位に前記所定の基準信号を入力したときの前記振動体の第2の部位の振動波形を表す信号である、楽器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の楽器において、
前記楽音信号処理手段は、前記アコースティック楽器の振動体の各固有振動数に対応して設けられた、複数のバンドパスフィルタ及び複数の位相シフト回路を備え、
前記複数の位相シフト回路の位相特性が前記楽器の各振動形態に基づいて設定されている、楽器。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか1つに記載の楽器において、
予め設定された供給先情報に基づいて、前記複数の楽音信号処理手段のうちのいずれか1つ又は複数の楽音信号処理手段に前記原信号が供給される、楽器。
【請求項5】
請求項1乃至3のうちのいずれか1つに記載の楽器において、
前記楽音信号処理手段は、前記原信号を前記楽音信号として出力するバイパス手段をさらに含む、楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦や膜等のような振動体の振動を検出して、電気信号に変換して出力する楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献に記載されているように、打鍵により弦を振動させ、その振動を、圧電素子等を用いたピックアップで電気信号に変換し、その電気信号でスピーカ等の発音器を鳴動させる電気ピアノが知られている。例えば、下記非特許文献1には、アコースティックピアノと同様の鍵盤装置及び複数の弦を備えた電気ピアノが記載されている。この鍵盤装置は複数の鍵と、前記複数の鍵にそれぞれ連動する複数のハンマーとを備える。各弦は、それらが対応するハンマーによって打たれて振動する。また、この電気ピアノは、前記弦の振動を検出するピックアップ装置、及び前記検出された振動を増幅するとともに音響信号に変換して放音するサウンドシステム(増幅回路、スピーカなど)を備える。また、特許文献1に記載されているように、打鍵により音又等の振動体を振動させ、その振動を、電磁コイル等を用いたピックアップで電気信号に変換する電気ピアノが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平01−16149号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ヤマハ株式会社、「CP−80取り扱い説明書」、2003年9月
【発明の概要】
【0005】
上記のように、従来の電気ピアノは、アコースティックピアノとは異なり、弦の振動に共鳴する響板を備えておらず、前記弦の振動をそのまま電気的に増幅してスピーカで音響信号に変換する。弦の振動に共鳴した響板の複雑な振動から発せられる音の響き方と、弦の振動をそのまま増幅した信号に基づいてスピーカから発せられる音の響き方とは異なる。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、豊かな音の響きが得られる楽器を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、演奏操作されて振動する振動源(ST,BA)と、前記振動源の振動を検出して振動波形を表す振動波形信号を出力する検出手段(VD)と、前記振動波形信号と、アコースティック楽器の振動体に所定の基準信号を入力したときの応答信号とを畳み込むことにより楽音を表す原信号を生成する原信号生成手段(12a)と、複数のスピーカ(SP)と、前記複数のスピーカに対応してそれぞれ設けられ、前記原信号を処理して、前記各スピーカの配置位置に応じた楽音信号をそれぞれ生成する複数の楽音信号処理手段(16)と、を有し、前記アコースティック楽器の振動体の各固有振動数及び各振動形態に基づいて、前記複数の楽音信号処理手段の周波数特性がそれぞれ設定されている、楽器(GP,UP,DS)としたことにある。なお、上記の周波数特性とは、振幅に関する特性及び位相に関する特性を含む。また、上記のスピーカには、板状部材又は膜状部材と、前記板状部材又は膜状部材を振動させるアクチュエータから構成された発音装置が含まれるものとする。
【0008】
この場合、前記応答信号は、前記アコースティック楽器の振動体の第1の部位に前記所定の基準信号を入力したときの前記振動体の第2の部位の振動波形を表す信号であるとよい。
【0009】
この場合、前記楽音信号処理手段は、前記アコースティック楽器の振動体の各固有振動数に対応して設けられた、複数のバンドパスフィルタ(BPx,m)及び複数の位相シフト回路(PSx,m)を備え、前記複数の位相シフト回路の位相特性が前記楽器の各振動形態に基づいて設定されているとよい。
【0010】
また、この場合、予め設定された供給先情報に基づいて、前記複数の楽音信号処理手段のうちのいずれか1つ又は複数の楽音信号処理手段に前記原信号が供給されるとよい。
【0011】
また、この場合、前記楽音信号処理手段は、前記原信号を前記楽音信号として出力するバイパス手段をさらに含むとよい。
【0012】
上記のように構成した楽器においては、振動源の振動波形を表す振動波形信号と、アコースティック楽器の振動体の所定の部分に基準信号を入力したときの応答信号とを畳み込むことにより、原信号が生成される。そして、この原信号は複数の楽音信号処理手段によって処理されて、複数のスピーカに供給される。これらの複数の楽音信号をそれぞれ生成する複数の楽音信号処理手段の周波数特性は、楽器の振動体の各固有振動数及び各振動形態(振動モード)に基づいて設定されている。したがって、この楽器によれば、アコースティック楽器の楽音と同様に豊かに響く楽音を発音できる。また、この楽器の演奏の聴取者はアコースティック楽器の演奏を聴いたときのような臨場感が得られる。そして、その臨場感が良好に得られる聴取範囲(リスニングエリア)を、従来よりも拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る電気ピアノの斜視図である。
図2図1の電気ピアノの平面図である。
図3図1の電気ピアノの側面図である。
図4図1の電気ピアノの楽音信号生成部のブロック図である。
図5図4の楽音信号処理装置のブロック図である。
図6A】第1実施形態の楽音信号処理回路のパラメータを表すテーブルの前半部を示す図である。
図6B】第1実施形態の楽音信号処理回路のパラメータを表すテーブルの後半部を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る電気ピアノの正面図である。
図8図7の電気ピアノの側面図である。
図9】第2実施形態の楽音信号処理回路のパラメータを表すテーブルである。
図10】本発明の第3実施形態に係る電気ドラムセットの正面図である。
図11】スネアドラムを模擬した電子パッドの斜視図である。
図12A図11の電子パッドを分解して斜め上方から見た分解斜視図である。
図12B図11の電子パッドを分解して斜め下方から見た分解斜視図である。
図13】シンバルを模擬した電子パッドの斜視図である。
図14図13の電子パッドを分解して斜め上方から見た分解斜視図である。
図15図10の電気ドラムセットの楽音信号処理装置のブロック図である。
図16】第3実施形態の楽音信号処理回路であって、図11の電子パッド用の楽音信号処理回路のパラメータを表すテーブルである。
図17】第3実施形態の楽音信号処理回路であって、図13の電子パッド用の楽音信号処理回路のパラメータを表すテーブルである。
図18】本発明の変形例に係る分配回路の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る電気ピアノGPについて説明する。電気ピアノGPの筐体の形状は、図1乃至図3に示すように、アコースティックグランドピアノの筐体の形状と同様である。すなわち、電気ピアノGPの筐体は、アコースティックグランドピアノと同様の、側板SB、屋根LD、支持脚LGなどから構成されている。また、この電気ピアノGPは、アコースティックグランドピアノと同様の鍵盤装置KY及びペダル装置PDを備えている。鍵盤装置KYは、複数の鍵及び前記複数の鍵にそれぞれ対応した複数のハンマーを有する。また、この電気ピアノGPは、前記複数のハンマーにそれぞれ対応していて、各ハンマーによって打たれてそれぞれ振動する振動源である複数の弦STを備えている。また、この電気ピアノGPは、各弦STの振動をそれぞれ検出して、前記振動波形を表す振動波形信号をそれぞれ出力する複数の振動センサVDを備えている。本実施形態においては、非特許文献1に記載の電気ピアノと同様のセンサを振動センサVDとして採用している。つまり、弦の上下方向の振動を検出可能なセンサを振動センサVDとして採用している。さらに、この電気ピアノGPは、サウンドシステムSS及び楽音信号生成装置SGを備えている。なお、図2においては、屋根LD、弦ST及び振動センサVDを省略している。また、図3においては、屋根LDを省略している。
【0015】
サウンドシステムSSは、後述する楽音信号生成装置SGから供給されたデジタル楽音信号をアナログ楽音信号にそれぞれ変換する変換回路DAx=1〜DAx=16、前記アナログ楽音信号を増幅する増幅回路AMx=1〜AMx=16、前記増幅されたアナログ楽音信号を音響信号に変換して放音する複数のスピーカSPx=1〜スピーカSPx=16を備える。側板SBには、スピーカSPx=1〜スピーカSPx=8のバッフル板BUが組み付けられている。バッフル板BUは、水平面に平行な板状部材である。このバッフル板BUに形成された複数の貫通孔にスピーカSPx=1〜スピーカSPx=8が嵌め込まれて、固定されている。スピーカSPx=1〜スピーカSPx=8の正面が上方(屋根LD)へ向けられている。スピーカSPx=1,SPx=3,SPx=4,SPx=2が、バッフル板BUの前端部にて左から右へ(鍵盤装置KYの鍵の低音側から高音側へ)、この順に並べられている。また、スピーカSPx=5,SPx=6が、バッフル板BUの前後方向中央部にて左から右へ、この順に並べられている。また、スピーカSPx=7,SPx=8が、バッフル板BUの後端部にて左から右へこの順に並べられている。また、側板SBには、スピーカSPx=9〜スピーカSPx=16のバッフル板BLが組み付けられている。バッフル板BLも、水平面に平行な板状部材である。バッフル板BLは、バッフル板BUの下方に配置されている。バッフル板BLの形成された複数の貫通孔にスピーカSPx=9〜スピーカSPx=16が嵌め込まれて、固定されている。スピーカSPx=9〜スピーカSPx=16は、スピーカSPx=1〜スピーカSPx=8にそれぞれ対応している。スピーカSPx=9〜スピーカSPx=16は、それらが対応するスピーカSPx=1〜スピーカSPx=8の下方にそれぞれ配置されている。スピーカSPx=9〜スピーカSPx=16の正面が下方(電気ピアノGPの設置面)へ向けられている。
【0016】
バッフル板BUの上面には、アコースティックグランドピアノと同様の、各弦STに対応した一対のピッチピンPP及びチューニングピンTPが取り付けられている。各弦STの一端はピッチピンPPに支持され、各弦STの他端はチューニングピンTPに支持されている。つまり、各弦STは、ピッチピンPPとチューニングピンTPとの間に張られて、それらの音高が所定の音高(「A0」〜「C8」)にそれぞれ設定される。また、バッフル板BUの上面に各振動センサVD(例えば、圧電センサ)が取り付けられている。各振動センサVDは、アコースティックグランドピアノの各駒の位置に相当する位置に配置されている。
【0017】
楽音信号生成装置SGは、図4に示すように、設定操作子11、コンピュータ部12、表示器13、記憶装置14、外部インターフェース回路15、楽音信号処理装置16を備え、これらがバスBSを介して接続されている。また、各振動センサVDも、バスBSに接続されている。
【0018】
設定操作子11は、オン・オフ操作に対応したスイッチ(例えば数値を入力するためのテンキー)、回転操作に対応したボリューム又はロータリーエンコーダ、スライド操作に対応したボリューム又はリニアエンコーダ、マウス、タッチパネルなどからなる。設定操作子11は、例えば、音量を変更する際に用いられる。設定操作子11を操作すると、その操作内容を表す操作情報が、バスBSを介して、後述するコンピュータ部12に供給される。
【0019】
コンピュータ部12は、バスBSにそれぞれ接続されたCPU12a、ROM12b及びRAM12cからなる。CPU12aは、例えば、各振動センサVDから出力された振動波形信号を取得し、前記振動波形信号に基づいて、楽音を表すデジタル楽音信号(原信号)を生成して楽音信号処理装置16に供給する。具体的には、CPU12aは、アコースティックグランドピアノの所定の駒(例えば、「A4」の駒)に基準信号(インパルス)を入力したときの響板の所定の部分(例えば中央部分)の振動を表す応答信号(インパルス応答)と、各振動センサVDから取得した振動波形信号とを畳み込み演算する。例えば、前記インパルス応答に応じて各係数が予め決定されているFIRフィルタに、前記振動波形信号を入力することにより、前記畳み込み演算が実行される。そして、その演算結果の振幅を音量の設定値に応じて増減させて、前記デジタル楽音信号として楽音信号処理装置16に供給する。前記応答信号を表すデジタルデータは、予め測定されて、後述のROM12b内に記憶されている。なお、本実施形態においては、振動センサVDは弦の上下方向の振動を検出可能に構成されているので、前記応答信号を記録する際、アコースティックグランドピアノの駒の高さ方向にインパルスを印加している。例えば、インパルスハンマで駒の上面を打撃する。
【0020】
ROM12bには、CPU12aの動作を規定するプログラムに加えて、初期設定パラメータ、表示器13に表示される画像を表わす表示データを生成するための図形データ及び文字データなどの各種データが記憶されている。例えば、上記の応答信号を表すデジタルデータがROM12bに記憶されている。RAM12cには、各種プログラムの実行時に必要なデータが一時的に記憶される。
【0021】
表示器13は、液晶ディスプレイ(LCD)によって構成される。表示器13には、表示すべき内容を表わす表示データがコンピュータ部12から供給される。表示器13は、コンピュータ部12から供給された表示データに基づいて画像を表示する。例えば、現在の音量値が表示される。
【0022】
記憶装置14は、HDD、FDD、CD、DVDなどの大容量の不揮発性記録媒体と、各記録媒体に対応するドライブユニットから構成されている。外部インターフェース回路15は、電気ピアノGPを他の電子音楽装置、パーソナルコンピュータなどの外部機器に接続可能とする接続端子を備えている。電子ピアノGPは、外部インターフェース回路15を介して、LAN(Local Area Network)、インターネットなどの通信ネットワークにも接続可能である。
【0023】
楽音信号処理装置16は、分配回路DVと、楽音信号処理回路DGx=1〜楽音信号処理回路DGx=16を備える。分配回路DVは、CPU12aから供給されたデジタル楽音信号(原信号)を、後述する楽音信号処理回路DGx=1〜DGx=16のうちの所定の回路へ供給する。分配回路DVは、各デジタル楽音信号をいずれの楽音信号処理回路DGへ供給するかを表す供給先情報を記憶している。分配回路DVは、前記供給先情報に従って、デジタル楽音信号を、所定の楽音信号処理回路DGへ供給する。例えば、CPU12aから、低音域の弦ST(例えば、「B3」以下)に対応したデジタル楽音信号が供給された場合、分配回路DVは、その楽音信号を楽音信号処理回路DGx=1,DGx=3,DGx=5,DGx=7及び楽音信号処理回路DGx=9,DGx=11,DGx=13,DGx=15に供給する。また、高音域の弦ST(例えば、「C4」以上)に対応したデジタル楽音信号が供給された場合、分配回路DVは、その楽音信号を楽音信号処理回路DGx=2,DGx=4,DGx=6,DGx=8及び楽音信号処理回路DGx=10,DGx=12,DGx=14,DGx=16に供給する。
【0024】
楽音信号処理回路DGx=1,2,・・・,16は、スピーカSPx=1,2,・・・,16に対応している。すなわち、楽音信号処理回路DGx=1〜楽音信号処理回路DGx=16は、スピーカSPx=1〜スピーカSPx=16を駆動するための信号(サウンドシステムSSの変換回路DAに供給されるデジタル楽音信号)をそれぞれ生成する。各楽音信号処理回路DGは、バンドパスフィルタBPx,m=1〜バンドパスフィルタBPx,m=12、位相シフト回路PSx,m=1〜位相シフト回路PSx,m=12、バッファBFx,m=1〜バッファBFx,m=12、バッファBFR及びサミング回路SUMを備える。
【0025】
バンドパスフィルタBPx,mは、アコースティックグランドピアノの響板の各振動モードm=1,2,・・・,12に対応している。一般に、アコースティックグランドピアノの響板は、複数の振動モードを有することが知られている(フレッチャー,N.H、ロッシング,T.D著、岸憲史、久保田秀美、吉川茂 訳、「楽器の物理学」、丸善出版株式会社、2002年10月、p.380−p.381)。アコースティックグランドピアノの響板の各振動モードの特性(各固有周波数及び各振動形態)は、例えば、アコースティックグランドピアノの響板を加振器によって振動させ、各振動周波数において、前記響板の各部(バッフル板BUにおいてスピーカSPx=1〜SPx=8が配置される位置に相当する部分)の振幅及び位相を測定することにより取得できる。なお、振動形態とは、振動の節及び腹の位置、振幅、位相などを意味する。また、アコースティックグランドピアノの響板の各部の振幅特性及び位相特性を、数値解析(例えば、有限要素解析)により決定してもよい。本実施形態においては、振動モードの数を「12」としているが、模擬しようとするアコースティックグランドピアノの特性に応じて振動モードの数を変更してもよい。
【0026】
各バンドパスフィルタBPx,mは分配回路DVから供給されたデジタル楽音信号を構成する周波数成分のうち、特定の周波数帯域に含まれる周波数成分のみを通過させる。本実施形態においては、アコースティックグランドピアノの響板の各振動モードにおける各部分の振動を集中定数系とみなしている。例えば、響板の2つの部分がそれぞれ振動する振動モードにおいて、響板の振動が、ばね及びダンパーを介して支持された2つの質点の振動と同等であるとみなしている。各バンドパスフィルタBPx,mの伝達関数の次数は「2」である。各バンドパスフィルタBPx,mの通過帯域の中心周波数は、アコースティックグランドピアノの響板の各固有周波数(各振動モードmの周波数)に一致している。また、バンドパスフィルタBPx,mの振幅特性(ゲイン、尖鋭度など)は、アコースティックグランドピアノの響板の部分であって、スピーカSPが配置される位置に相当する部分の振幅特性に準じ、且つ楽音信号処理回路DGにおけるバンドパスフィルタBPx,m=1〜バンドパスフィルタBPx,m=12の振幅特性を重ね合わせた結果が、可聴帯域において略フラット(例えば、最大値と最小値の差が1dB以内)になるように設定されている。
【0027】
位相シフト回路PSx.mは、アコースティックグランドピアノの響板の部分であって、スピーカSPが配置される位置に相当する部分の位相特性に応じて、バンドパスフィルタBPx,mの出力の位相を変更する。本実施形態においては、各楽音信号処理回路DGの構成を簡単にするため、アコースティックグランドピアノの響板の各部の位相特性を簡略化している。すなわち、各楽音信号処理回路DGは、アコースティックグランドピアノの響板の各部の各固有周波数における位相を「0°」及び「180°(又は−180°)」のうちの近い方に設定し、その他の周波数帯域の位相を「0°」に設定する。上記のように簡略化した位相の情報が、テーブルTGPとしてROM12bに記憶されている(図6A及び図6B参照)。つまり、テーブルTGPは、測定又は計算により取得したアコースティックグランドピアノの響板の特性に基づいて予め設定されて、ROM12bに記憶されている。なお、テーブルTGPは、位相のみならず振幅に関する情報も含む。テーブルTGPは、2チャンネルモード及び4チャンネルモードのいずれの動作モードにおいても共通に用いられる。テーブルTGPにおいて、「P」は、位相が「0°」であることを表し、「N」は位相が「180°(又は−180°)」であることを表す。また、「0」は、振幅が「0」であることを表す。上記のように、スピーカSPx=9〜スピーカSPx=16は、スピーカSPx=1〜スピーカSPx=8の下方にそれぞれ配置され、スピーカSPx=9〜SPx=16の向きとスピーカSPx=1〜SPx=8の向きが反対である。したがって、テーブルTGPにおいて、スピーカSPx=1〜スピーカSPx=8の位相に関する設定と、スピーカSPx=9〜スピーカSPx=16の位相に関する設定とが逆になっている。
【0028】
位相シフト回路PSx,mは、テーブルTGPのうち、「x」及び「m」の値によって特定される欄を参照する。前記参照した欄の値が「P」又は「0」である場合、位相シフト回路PSx,mは、バンドパスフィルタBPx,mの出力信号をそのまま出力する。一方、前記参照した欄の値が「N」である場合、位相シフト回路PSx,mは、バンドパスフィルタBPx,mの出力信号の振幅の符号(プラス又はマイナス)を反転させて出力する。
【0029】
バッファBFx,mは、位相シフト回路PSx,mに接続されている。バッファBFx,mは、テーブルTGPのうち、「x」及び「m」の値によって特定される欄を参照する。テーブルTGPを参照する。前記参照した欄の値が「P」又は「N」である場合、バッファBFx,mは、位相シフト回路PSx,mの出力信号をそのまま出力する。一方、前記参照した欄の値が「0」である場合、バッファBFx,mは、位相シフト回路PSx,mの出力信号の振幅を「0」に設定する。
【0030】
バッファBFRは、分配回路DVに接続されている。バッファBFRは、分配回路DVから供給された楽音信号をそのまま出力する。つまり、バッファBFRは、バイパス回路を構成している。
【0031】
サミング回路SUMは、バッファBFx,m=1〜バッファBFx,m=12の出力信号、及びバッファBFRの出力信号を加算して、変換回路DAに供給する。
【0032】
上記のように構成した電気ピアノGPにおいては、アコースティックグランドピアノの響板の所定の部分に基準信号を入力したときの応答信号を記憶している。そして、弦の振動波形信号と応答信号とを畳み込むことにより、デジタル楽音信号(原信号)を生成している。また、スピーカSPx=1〜SPx=16をバッフル板BU及びバッフル板BLに並べて固定することにより、アコースティックグランドピアノの響板を模擬している。そして、測定又は計算(シミュレーション)により取得したアコースティックグランドピアノの響板の特性(振動モード)に基づいて、スピーカSPx=1〜SPx=16の位相を決定した。したがって、電気ピアノGPによれば、アコースティックグランドピアノと同様に豊かに響く楽音を発音できる。また、電気ピアノGPの演奏の聴取者はアコースティックグランドピアノの演奏を聴いたときのような臨場感が得られ、その臨場感が良好に得られる聴取範囲(リスニングエリア)を、従来の電気ピアノよりも拡大することができる。
【0033】
(第2実施形態)
つぎに、本発明の第2実施形態に係る電気ピアノUPについて説明する。電気ピアノUPの筐体の形状は、図7及び図8に示すように、アコースティックアップライトピアノの筐体の形状と同様である。電気ピアノUPは、天板TB、底板BB、右板SB及び左板SB、前板FB及び後板RBを有する。また、電気ピアノUPの筐体には、アコースティックアップライトピアノと同様の鍵盤装置KY、ペダル装置PDが組み付けられている。また、サウンドシステムSS、及び楽音信号生成装置SGが組み付けられている。また、この電気ピアノUPは、第1実施形態の電気ピアノGPと同様に、複数の弦ST、複数の振動センサVD、サウンドシステムSS及び楽音信号生成装置SGを備えている。
【0034】
サウンドシステムSSは、変換回路DAx=1〜DAx=10、前記アナログ楽音信号を増幅する増幅回路AMx=1〜AMx=10、前記増幅されたアナログ楽音信号を音響信号に変換して放音する複数のスピーカSPx=1〜スピーカSPx=10を備える。前板FBに形成された複数の貫通孔にスピーカSPx=1〜スピーカSPx=6が嵌め込まれて、固定されている。スピーカSPx=1〜スピーカSPx=6の正面が前方(演奏者側)へ向けられている。スピーカSPx=1,SPx=3,SPx=5は、前板FBの左端部に固定されている。スピーカSPx=1は、鍵盤装置KYよりも下方に位置している。スピーカSPx=3は、鍵盤装置KYよりも上方に位置している。スピーカSPx=5はスピーカSPx=1よりも下方且つ右方に位置している。また、スピーカSPx=2,SPx=4,SPx=6は、前板FBの右端部に固定されている。スピーカSPx=2は、鍵盤装置KYよりも下方に位置している。スピーカSPx=4は、鍵盤装置KYよりも上方に位置している。スピーカSPx=6はスピーカSPx=2よりも下方且つ左方に位置している。また、天板TBに形成された貫通孔にスピーカSPx=7及びスピーカSPx=8が嵌め込まれて、固定されている。スピーカSPx=7及びスピーカSPx=8の正面が上方へ向けられている。スピーカSPx=7は、天板TBの左端部に固定されている。スピーカSPx=8は、天板TBの右端部に固定されている。また、後板RBに形成された貫通孔にスピーカSPx=9及びスピーカSPx=10が嵌め込まれて、固定されている。スピーカSPx=9及びスピーカSPx=10の正面が後方へ向けられている。スピーカSPx=9は、後板RBの左端部に固定されている。スピーカSPx=10は、後板RBの右端部に固定されている。スピーカSPx=9及びスピーカSPx=10は、スピーカSPx=3及びスピーカSPx=4の後方に位置している。
【0035】
楽音信号生成装置SGの構成は、第1実施形態と同様である。ただし、本実施形態においては、スピーカの数が10個なので、楽音信号処理装置PPは、楽音信号処理回路DGx=1〜楽音信号処理回路DGx=10を備える。分配回路DVは、CPU12aから供給されたデジタル楽音信号(原信号)を、楽音信号処理回路DGx=1〜楽音信号処理回路DGx=10のうちの所定の回路へ供給する。例えば、CPU12aから、低音域の弦ST(例えば、「B3」以下)に対応したデジタル楽音信号が供給された場合、分配回路DVは、その楽音信号を楽音信号処理回路DGx=1,DGx=3,DGx=5,DGx=7,DGx=9に供給する。また、高音域の弦ST(例えば、「C4」以上)に対応したデジタル楽音信号が供給された場合、分配回路DVは、その楽音信号を楽音信号処理回路DGx=2,DGx=4,DGx=6,DGx=8,DGx=10に供給する。
【0036】
バンドパスフィルタBPx,mは、アコースティックアップライトピアノの響板の各振動モードm=1,2,・・・,12に対応している。なお、一般に、アコースティックアップライトピアノの響板は、複数の振動モードを有することが知られている。アコースティックアップライトピアノの響板の各振動モードの特性は、第1実施形態と同様に、測定又は計算により取得できる。本実施形態においては、振動モードの数を「12」としているが、模擬しようとするアコースティックアップライトピアノの特性に応じて振動モードの数を変更してもよい。また、本実施形態においては、テーブルTGPに代えて、図9に示すテーブルTUPが用いられる。テーブルTUPは、テーブルTGPと同様に設定される。つまり、前記取得したアコースティックアップライトピアノの特性に基づいて予め設定される。テーブルTUPは、ROM12bに記憶されている。
【0037】
上記のように構成した電子ピアノUPによっても、第1実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、電子ピアノUPによれば、アコースティックアップライトピアノと同様に豊かに響く楽音を発音できる。また、電子ピアノUPの演奏の聴取者はアコースティックアップライトピアノの演奏を聴いたときのような臨場感が得られ、その臨場感が良好に得られる聴取範囲(リスニングエリア)を、従来の電気ピアノよりも拡大することができる。
【0038】
(第3実施形態)
つぎに、本発明の第3実施形態に係る電気ドラムセットDSについて説明する。電気ドラムセットDSは、図10に示すように、電子パッドDPi=1,DPi=2,・・・,DPi=8及び楽音信号生成装置SGを有している。各電子パッドDPi=1,2,・・・,8は、アコースティックドラムセットを構成する各アコースティックドラム(スネアドラム、キックドラム、タム、ハイハット、シンバルなど、)を模擬した装置である。
【0039】
各電子パッドDPi=1,2,・・・,8の構成は同様である。電子パッドDPは、打奏装置BAとサウンドシステムSSを備える。打奏装置BAは、ドラムスティック、ブラシなどで打撃される打面部と、前記打面部の振動の態様(振動波形)を検出して、前記検出した振動の態様を表す打撃信号を出力する振動センサVDを有する。サウンドシステムSSの構成は、第1実施形態及び第2実施形態のサウンドシステムSSと同様である。
【0040】
例えば、図11並びに図12A及び図12Bに示すように、スネアドラム型の電子パッドDPi=1の打奏装置BAの打面部は、スネアドラムの膜面を模擬している。この打面部の裏面の中央部に振動センサVDが組み付けられている。この振動センサVDは、例えば、円板状に形成されている。また、電子パッドDPi=1のサウンドシステムSSは、略円筒状の胴部BD、及び円板状のバッフル板BU,BLを備える。バッフル板BUに形成された貫通孔に、スピーカSPx=1〜スピーカSPx=4が嵌め込まれて、固定されている。スピーカSPx=1〜スピーカSPx=4は、バッフル板BUの周方向に沿って等間隔に並べられている。また、バッフル板BLに形成された貫通孔に、スピーカSPx=5〜スピーカSPx=8が嵌め込まれて、固定されている。スピーカSPx=5〜スピーカSPx=9は、バッフル板BLの周方向に沿って等間隔に並べられている。バッフル板BUは、胴部BDの上端部(一方の開口部)に取り付けられている。また、バッフル板BLは、胴部BDの下端部(他方の開口部)に取り付けられている。スピーカSPx=1〜スピーカSPx=4は上方へ向けられていて、スピーカSPx=5〜スピーカSPx=8は下方へ向けられている。スピーカSPx=5〜スピーカSPx=8は、スピーカSPx=1〜スピーカSPx=4の下方にそれぞれ位置している。変換回路DAx=1〜変換回路DAx=8及び増幅回路AMx=1〜増幅回路AMx=8は胴部BDの内周面に設けられた支持部材によって支持されている。そして、打奏装置BAは、バッフル板BUに重ねられるようにして、胴部BDに取り付けられている。
【0041】
また、例えば、図13及び図14に示すように、シンバル型の電子パッドDPi=2の打奏装置BAの打面部は、シンバルのベル部、ボウ部、カップ部などを模擬している。この打面部の裏面に振動センサVDが組み付けられている。この振動センサVDは、例えば、円弧状に形成されている。電子パッドDPi=2のサウンドシステムSSは、深皿状のケースCA及び円板状のバッフル板BUを備える。バッフル板BUに形成された貫通孔に、スピーカSPx=1〜スピーカSPx=8が嵌め込まれて、固定されている。スピーカSPx=1〜スピーカSPx=8は、バッフル板BUの周方向に沿って等間隔に並べられている。バッフル板BUは、ケースCAの上端部(開口部)に取り付けられている。スピーカSPx=1〜スピーカSPx=8は上方へ向けられている。変換回路DAx=1〜変換回路DAx=8、及び増幅回路AMx=1〜増幅回路AMx=8はケースCA内に設けられた支持部材によって支持されている。打奏装置BAは、バッフル板BUに重ねられるようにして、ケースCAに取り付けられている。
【0042】
楽音信号生成装置SGの構成は、第1実施形態及び第2実施形態とほぼ同様である。本実施形態においては、楽音信号生成装置SGは、図15に示すように、電子パッドDPごとに、楽音信号処理装置16を備える。以下、電子パッドDP用の楽音信号処理装置16を楽音信号処理装置16(i)と標記する。CPU12aは、電子パッドDPの振動センサVDから出力された振動波形信号を取得し、前記振動波形信号に基づいて、楽音を表すデジタル楽音信号(原信号)を生成して楽音信号処理装置16(i)に供給する。具体的には、CPU12aは、電子パッドPDが模擬しようとするアコースティックドラムの打面の所定の位置(例えば中央)に基準信号(インパルス)を入力したときの前記打面の所定の部分(例えば前記打面の中央部と周縁部との中間に位置する部分)の振動を表す応答信号(インパルス応答)と、前記振動センサVDから取得した振動波形信号とを畳み込み演算する。すなわち、スネアドラムやバスドラムにおいては、膜と胴を振動体と捉え、膜を振動源として捉える。その振動体の所定の位置(例えば膜の中央)に基準信号を入力したときの前記打面の所定の部分(例えば前記打面の中央部と周縁部との中間に位置する部分)の振動を表す応答信号(インパルス応答)を記憶している。また、シンバルにおいては、シンバル自体が振動体であり振動源と捉える。そして、その振動体の所定の位置(例えばシンバルの中央部と周縁部との中間に位置する部分)に基準信号を入力したときの前記打面の所定の部分(例えば入力があった前記所定の位置から周方向に異なるシンバルの中央部と周縁部との中間に位置する部分)の振動を表す応答信号(インパルス応答)を記憶している。そして、その演算結果の振幅を音量の設定値に応じて増減させて、前記デジタル楽音信号として楽音信号処理装置16(i)に供給する。
【0043】
楽音信号処理装置16(i)の分配回路DVは、CPU12aから供給されたデジタル楽音信号を、楽音信号処理回路DGx=1,2,・・・へ供給する。すなわち、本実施形態では、楽音信号処理装置16(i)の全ての楽音信号処理回路DGx=1,2,・・・に同一のデジタル楽音信号が供給される。
【0044】
楽音信号処理装置16(i)の楽音信号処理回路DGx=1,2,・・・の構成は、第1実施形態及び第2実施形態と同様である。ただし、楽音信号処理装置16(i)においては、テーブルTGP及びテーブルTUPに代えて、図16及び図17に示すようなテーブルTDPi=1,2,・・・が用いられる。一般に、アコースティックドラムの打面部は、複数の振動モードを有することが知られている。テーブルTDPは、電子パッドDPが模擬しようとするアコースティックドラムの打面部の振動モードの特性に基づいて予め設定されてROM12bに記憶されている。
【0045】
上記のように構成した電気ドラムセットDSによっても、第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、電気ドラムセットDSによれば、アコースティックドラムセットと同様に豊かに響く楽音を発音できる。また、電気ドラムセットDSの演奏の聴取者はアコースティックドラムセットの演奏を聴いたときのような臨場感が得られ、その臨場感が良好に得られる聴取範囲(リスニングエリア)を、従来の電気ドラムセットよりも拡大することができる。
【0046】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0047】
例えば、電気ピアノGP、電気ピアノUP及び電気ドラムセットDSは、特許第5573263号に記載されている電気楽器と同様に、振動波形信号から振動センサVDの電気的特性に起因する信号成分を除去可能に構成されているとよい。
【0048】
また、上記実施形態においては、アコースティック楽器において、発音時に振動する部分(ピアノであれば、弦、フレーム、響板、側板等。打楽器であれば、膜と胴等。)を振動体とし、アコースティック楽器の振動体の所定の部分(1箇所)に基準信号を入力した際における、前記振動体の所定の部分(1箇所)の振動を応答信号として記憶している。具体的には、電気ピアノの実施形態であれば、響板(駒)に入力した際における響板の所定位置の振動を応答信号として記憶する。また、打楽器であれば、膜に対する演奏時の打撃点(ほぼ中央)に入力した際における膜の周辺部(例えば、電気ドラムのスピーカの配置に対応した位置)における振動を応答信号として記憶する。そして、電気楽器が備える複数の振動センサVDからそれぞれ出力された振動波形信号と前記応答信号とを畳み込んでいる。しかし、前記振動体の複数の箇所の振動を応答信号として記憶しておいてもよい。例えば、アコースティックグランドピアノの響板の各部分であって、電気ピアノGPにおける響板の各振動センサVDが配置される部分に相当する各部分に対し順に基準信号を入力する。そして、基準信号を入力するごとに、アコースティックグランドピアノの響板の各部分であって、電気ピアノGPにおける各スピーカSPx=1,2,・・・,16が配置される部分に相当する各部分の振動を応答信号として記憶する。すなわち、この場合、各振動センサVDに関して、16個の応答信号(スピーカSPx=1,2・・,16にそれぞれ対応する応答信号)を記憶しておく。そして、CPU12aは、1つの振動センサVDから出力された振動波形信号と、前記振動センサVDに対応する16個の応答信号とをそれぞれ畳み込む。これにより、各弦STに対し、16個の楽音信号(原信号)が生成される。弦STに対して生成された楽音信号であって、スピーカSPに対応する楽音信号を「楽音信号MST,x」と記載する。分配回路DVは、図18に示すように、楽音信号MST,xのうち、「x」の値が共通する楽音信号MST,xを重畳加算して、楽音信号処理回路DGに供給する。これによれば、アコースティック楽器の音色をより忠実に模擬できる。
【0049】
また、上記実施形態は、本発明を電気ピアノ及び電気ドラムセットに適用した例であるが、他の電気楽器にも適用可能である。例えば、本発明は、電気ギター、電気バイオリンなどにも適用することができる。
【0050】
また、上記実施形態においては、位相シフト回路PSx,mは、テーブルTGP(TUP、TDP)に従って、バンドパスフィルタBPx,mの出力信号の振幅の符号を反転するか否かを決定する。しかし、これに代えて、位相シフト量をテーブルTGP(TUP、TDP)として記憶しておき、位相シフト回路PSx,mは、前記位相シフト量に従って、バンドパスフィルタBPx,mの出力信号の位相を変更してもよい。
【0051】
また、本発明における検出手段として、振動を直接検出する振動センサを採用した例を記載したが、これに限られない。上記第1実施形態及び第2実施形態における振動センサVDは、ピッチピンPP及びチューニングピンTPの長手方向に平行な方向(第1の軸方向)の振動のみを検出可能である。しかし、弦STの長手方向(第2の軸方向)、及び第1の軸方向と第2の軸方向とに垂直な第3の軸方向の振動をも検出可能な振動センサVDを採用してもよい。第1の軸方向に加え、第2の軸方向及び第3の軸方向のいずれか一方の軸方向の振動を検出可能なセンサを採用してもよい。この場合、CPU12aは、3つ(又は2つ)の軸方向の振動波形を重畳加算して、分配回路DVに供給すればよい。また、各軸方向のインパルス応答を測定(又は計算)しておき、CPU12aは、各軸方向の振動波形信号と前記各軸方向のインパルス応答とを畳み込むことにより、3つのデジタル楽音波形信号を生成し、それらを重畳加算して、分配回路DVに供給してもよい。
【0052】
また、振動を検出するセンサとして、圧電センサを例に挙げたが、検出形態はこれに限らず、例えば、フォトリフレクタでドラムの膜面の振動を光学的に検出するものでもよいし、振動が検出できるものであれば、形態は限定されるものではない。また、例えば、各電気楽器のスピーカSPの数、向き、位置等の配置の形態は上記実施形態に限られず、スピーカの配置等に応じた楽音信号を得るようにすればよい。ただし、各電気楽器は、少なくとも4個のスピーカを備えることが望ましい。
【符号の説明】
【0053】
11・・・設定操作子、12・・・コンピュータ部、13・・・表示器、14・・・記憶装置、15・・・外部インターフェース回路、16・・・楽音信号処理装置、AM・・・増幅回路、BA・・・打奏装置、BFR・・・バッファ、BFx,m・・・バッファ、BPx,m・・・バンドパスフィルタ、DA・・・変換回路、DG・・・楽音信号処理回路、DP・・・電子パッド、DS・・・電気ドラムセット、DV・・・分配回路、GP・・・電気ピアノ、m・・・振動モード、PD・・・ペダル装置、PSx,m・・・位相シフト回路、SG・・・楽音信号生成装置、SP・・・スピーカ、SS・・・サウンドシステム、SUM・・・サミング回路、TDP,TGP,TUP・・・テーブル、UP・・・電気ピアノ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18