【実施例】
【0023】
図1に示すように、基材1としての真鍮板(60×100mm)上に、SB−Niめっき層2、B−Niめっき層3及びD−Niめっき層4(これらをまとめて「Niめっき皮膜」という。)この順に電解めっきにより形成した後、D−Niめっき層4の上にCrめっき層5を電解めっきにより形成して、比較例1,2及び実施例1〜3の各サンプルを作製した。詳細は次のとおりである。
【0024】
1.Niめっき皮膜の形成
SB−Niめっき層、B−Niめっき層及びD−Niめっき層の形成はそれぞれ、次の表1及び表2に示すめっき浴の組成(水溶液)及びめっき条件で行い、めっき条件のうちのめっき浴の攪拌方法を、次の表2に示すように異ならせたものを比較例1,2及び実施例1〜3とした。なお、各めっき層用のめっき浴の組成は、同表に示すのものに限定されず、各めっき層の形成に適したものであれば何でもよい。各めっき層のめっき条件も、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
表2における「エアー攪拌」はエアーの吹き込みによる攪拌である。また、「振動羽根攪拌」は、
図2に示す、日本テクノ株式会社の試験機(商品名:卓上型超振動α−1型振動試験機)を使用して実施した。同試験機は、シャフト11に上下複数段に取り付けられた羽根12が、内寸200×300×290mmの処理槽13に配置され、該シャフト11を加振機14より振動周波数0〜40Hzで振動させ、該シャフト11と共に振動する羽根12により処理槽内のめっき浴15を攪拌(振動羽根攪拌)して3次元の乱流を生じさせることができるものである。その振動周波数が高いほど、攪拌強度は高い。
【0028】
・比較例1は、D−Niめっきを、エアー攪拌しながら実施した。
・比較例2は、D−Niめっきを、その開始から終了まで振動周波数を一律40Hzで、振動羽根攪拌しながら実施した。
・実施例1は、D−Niめっきを、その開始から終了まで振動周波数を0Hzから40Hzへと0.2〜0.4Hz/秒のペースで連続的に変更して(攪拌強度を連続的に変更)、振動羽根攪拌しながら実施した。
・実施例2は、D−Niめっきを、その開始から1分間は振動周波数を20Hzで、その後終了までは40Hzに切り替えて(攪拌強度を段階的に変更)、振動羽根攪拌しながら実施した。
・実施例3は、B−Niめっきを、その開始から2.5分間はエアー攪拌で、その後終了までは振動周波数40Hzの振動羽根攪拌に切り替えて(攪拌強度を段階的に変更)、攪拌しながら実施した。
【0029】
2.Crめっき層の形成とクロメート処理
比較例1,2及び実施例1〜3ともに共通のCrめっき層を形成し、それをクロメート処理した。Crめっきの形成は、耐塩害ダーク3価Crのめっき浴としてマクダーミット社の商品名:トワイライトの水溶液を使用し、めっき条件として浴温度50℃、電流密度10A/dm
2、無攪拌、めっき層厚さ0.3μmで、電解めっきすることにより実施した。クロメート処理は、酸性電解クロメート(クロム酸30g/L)により実施した。
【0030】
3.Niめっき皮膜の電位の測定
作製した比較例1,2及び実施例1〜3の各サンプルについて、Niめっき皮膜の電位をD−Niめっき層上面からめっき深さ方向に測定した。この測定結果を、逆深さ方向すなわちめっき形成順に、以下説明する。
【0031】
比較例1のNiめっき皮膜の電位は、
図3(a)に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に51mV低下する界面電圧変化域があり、B−Niめっき層内でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層との界面に28mV上昇する界面電圧変化域があり、D−Niめっき層内でほぼ一定となってから、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に若干上昇する界面電圧変化域があった。
【0032】
比較例2のNiめっき皮膜の電位は、
図4(a)に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に59mV低下する界面電圧変化域があり、B−Niめっき層内でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層との界面に55mV上昇する界面電圧変化域があり、D−Niめっき層内でほぼ一定となってから、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に若干上昇する界面電圧変化域があった。
【0033】
実施例1のNiめっき皮膜の電位は、
図5(a)に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に96mV低下する
界面電圧変化域があり、B−Niめっき層でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層との界面からD−Niめっき層内にかけてスロープ状に連続して54mV上昇する界面電圧変化域及び層内電圧変化域があり(界面電圧変化域と層内電圧変化域との境界は判然としないが、層内電圧変化域での変化率は1.4〜2.6mV/0.1μmの範囲で変動し、平均変化率は1.9mV/0.1μmほどであると推定される。)、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に若干上昇する界面電圧変化域があった。よって、D−Niめっき層の最も高い層内の電位(Crめっき層との界面電圧変化域を除く)と、B−Niめっき層の最も低い層内の電位(界面電圧変化域を除く)との電位差は、44mVであった。層内電圧変化域は、D−Niめっき層の形成途中で、振動羽根攪拌の振動周波数を連続的に変更して、攪拌強度を変更したことにより生じたものと考えられる。
【0034】
実施例2のNiめっき皮膜の電位は、
図6に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に67mV低下する
界面電圧変化域があり、B−Niめっき層でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層の界面に29mV上昇する界面電圧変化域があり、さらにD−Niめっき層内に29mV上昇する層内電圧変化域があり(変化率は8〜12mV/0.1μmの範囲で変動し、平均変化率は10mV/0.1μmほどである。)、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に僅かに上昇する界面電圧変化域があった。よって、D−Niめっき層の最も高い層内の電位(Crめっき層との界面電圧変化域を除く)と、B−Niめっき層の最も低い層内の電位(界面電圧変化域を除く)との電位差は、58mVであった。層内電圧変化域は、D−Niめっき層の形成途中で、振動羽根攪拌の振動周波数を段階的に変更して、攪拌強度を変更したことにより生じたものと考えられる。
【0035】
実施例3のNiめっき皮膜の電位は、
図7に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に51mV低下する界面電圧変化域があり、B−Niめっき層内でほぼ一定となってから、6mV上昇する層内電圧変化域があり(平均変化率は1.4mV/0.1μmである。)、再びB−Niめっき層内でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層との界面に41mV上昇する界面電圧変化域があり、D−Niめっき層内でほぼ一定となってから、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に若干上昇する界面電圧変化域があった。よって、D−Niめっき層の最も高い層内の電位(界面電圧変化域を除く)と、B−Niめっき層の最も低い層内の電位(界面電圧変化域を除く)との電位差は、47mVであった。層内電圧変化域は、B−Niめっき層の形成途中で、振動羽根攪拌の振動周波数を段階的に変更して、攪拌強度を変更したことにより生じたものと考えられる。
【0036】
4.腐食試験
作製した実施例
1〜3及び比較例
1,2の各サンプルについて、JIS H 8502のコロードコート試験を、温度:38℃、湿度:90%、試験時間:16時間×4サイクルの試験条件で行った。
【0037】
コロードコート試験終了後、試料を取り出し、水で洗浄し乾燥させてから、サンプル表面の光学顕微鏡写真(500倍)と、腐食箇所の断面の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)を撮影するとともに、表面の腐食状態をJIS Z 2371のレイティングナンバ法に照らし合わせて、レイティングナンバを決定した。
【0038】
比較例1は、
図3(b)に示す光学顕微鏡写真のとおり、表面にピンホールが観察され、
図3(c)の走査型電子顕微鏡写真のとおり、D−Niめっき層の腐食が進行していた。レイティングナンバは8であった。
【0039】
比較例2は、
図4(b)に示す光学顕微鏡写真のとおり、表面のピンホールが目立たず、
図4(c)の走査型電子顕微鏡写真のとおり、B−Niめっき層の腐食が進行していた一方、D−Niめっき層の腐食はそのめっき厚さ方向の全体にわたって小さかった。レイティングナンバは9であった。
【0040】
実施例1は、
図5(b)に示す光学顕微鏡写真のとおり、表面のピンホールが目立たず、
図5(c)の走査型電子顕微鏡写真のとおり、B−Niめっき層の腐食が進行していた一方、D−Niめっき層の腐食はそのめっき厚さ方向の深部から浅部に向かうほど小さかった。レイティングナンバは9であった。
【0041】
実施例2は、実施例
1とほぼ同様の結果であり、表面のピンホールが目立たず、B−Niめっき層の腐食が進行していた一方、D−Niめっき層の腐食はそのめっき厚さ方向の深部から浅部に向かうほど小さかった。レイティングナンバは9であった。
【0042】
実施例3は、レイティングナンバが8であったが、比較例1よりも実施例3の方が腐食面積が小さかった。
【0043】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。