特許第6524939号(P6524939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6524939
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】ニッケルめっき皮膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/10 20060101AFI20190527BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   C25D21/10 301
   C25D5/14
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-35234(P2016-35234)
(22)【出願日】2016年2月26日
(65)【公開番号】特開2017-150047(P2017-150047A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】森本 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 順治
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−232529(JP,A)
【文献】 特開2015−221944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00− 7/12
C25D 13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のニッケルめっき層を含むニッケルめっき皮膜の製造方法において、前記ニッケルめっき層の電解めっきの途中でめっき浴の攪拌強度を変更することにより、形成される前記ニッケルめっき層の電位をめっき深さ方向に変化させることを特徴とするニッケルめっき皮膜の製造方法。
【請求項2】
光沢ニッケルめっき層とそれに接するマイクロポーラス構造をもつ腐食分散ニッケルめっき層とを含むニッケルめっき膜の製造方法において、前記腐食分散ニッケルめっき層の電解めっきの途中でめっき浴の攪拌強度を変更することにより、形成される腐食分散ニッケルめっき層の電位をめっき深さ方向に変化させることを特徴とするニッケルめっき皮膜の製造方法。
【請求項3】
光沢ニッケルめっき層とそれに接するマイクロポーラス構造をもつ腐食分散ニッケルめっき層とを含むニッケルめっき膜の製造方法において、前記光沢ニッケルめっき層の電解めっきの途中でめっき浴の攪拌強度を変更することにより、形成される光沢ニッケルめっき層の電位をめっき深さ方向に変化させることを特徴とするニッケルめっき皮膜の製造方法。
【請求項4】
前記攪拌強度の変更は、前記めっき深さ方向の深部側よりも浅部側で攪拌強度を強くする変更である請求項1〜3のいずれか一項に記載のニッケルめっき皮膜の製造方法。
【請求項5】
光沢ニッケルめっき層とそれに接するマイクロポーラス構造をもつ腐食分散ニッケルめっき層とを含むニッケルめっき膜において、前記腐食分散ニッケルめっき層と光沢ニッケルめっき層との界面における界面電圧変化域以外に、腐食分散ニッケルめっき層の層内における電位がめっき深さ方向に平均変化率1mV/0.1μm以上で変化する層内電圧変化域があることを特徴とするニッケルめっき皮膜。
【請求項6】
光沢ニッケルめっき層とそれに接するマイクロポーラス構造をもつ腐食分散ニッケルめっき層とを含むニッケルめっき膜において、前記腐食分散ニッケルめっき層と光沢ニッケルめっき層との界面における界面電圧変化域以外に、光沢ニッケルめっき層の層内における電位がめっき深さ方向に平均変化率1mV/0.1μm以上で変化する層内電圧変化域があることを特徴とするニッケルめっき皮膜。
【請求項7】
前記層内電圧変化域での電位の変化は、前記めっき深さ方向の深部側よりも浅部側で電位が上昇する変化である請求項5又は6記載のニッケルめっき皮膜。
【請求項8】
前記腐食分散ニッケルめっき層のめっき厚さは1〜4μmである請求項5記載のニッケルめっき皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル(Ni)めっき皮膜及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車外装部品のNiめっき膜には、白銀色の意匠性と各種腐食環境に対する高い耐食性が求められている。しかしながら、自動車外装部品に融雪剤等が付着し、氷点下の外気と暖房の効いた車庫を往き来するような冷熱サイクルのある環境下では、Niめっき皮膜に溶解腐食による外観不具合が発生している。
【0003】
従来、上記のようなNi溶解腐食に対しては、めっき液の薬液配合を調整し、Niめっき皮膜の電位を向上させることで対応していた。さらに耐食性を確保するために、特許文献1で開示されているように、光沢Niめっきの上にマイクロポーラス構造をもつ腐食分散Niめっきを設け、その上にクロムめっきを形成していた。
【0004】
また、耐食性に影響があると考えられるNiめっき層間の電位差を制御するために、めっき浴を振動、攪拌させる技術が、特許文献2,3で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−74170号公報
【特許文献2】特開2005−272858号公報
【特許文献3】特開2004−225129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記技術のほかにめっき皮膜の電位を制御する方法を提供し、従来よりも簡便に、多様なNiめっき皮膜の電位差パターンを付けることができるようにし、高耐食性のNiめっき皮膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、Niめっき層を形成する際に、めっき浴の攪拌強度を変更することによって、めっき層内の電位を変化させて耐食性を向上させることができる製造方法を見出し、鋭意検討の結果、本発明に到った。攪拌強度の変更により、Niめっき皮膜に取り込まれる炭素、硫黄等の不純物の量が制御でき、不純物の含有量によりNiめっき皮膜の電位を制御できると考えられる。この攪拌強度の変更は、従来の薬液配合の調整による方法と比べて、より簡便に、多様なNiめっき皮膜の電位差パターンを付けることができ、高耐食性のNiめっき皮膜を製造することができる。
【0008】
1.Niめっき皮膜の製造方法
(1)少なくとも1層のNiめっき層を含むNiめっき皮膜の製造方法において、前記Niめっき層の電解めっきの途中でめっき浴の攪拌強度を変更することにより、形成される前記Niめっき層の電位をめっき深さ方向に変化させることを特徴とする。「前記Niめっき層の電解めっきの途中」は、一つ(または個々)の層での途中を意味し、層と層との間でのめっき切替時を意味しない。
【0009】
(2)光沢ニッケルめっき層(B−Niめっき層)とそれに接するマイクロポーラス構造をもつ腐食分散ニッケルめっき層(D−Niめっき層)とを含むNiめっき膜の製造方法において、前記D−Niめっき層の電解めっきの途中でめっき浴の攪拌強度を変更することにより、形成されるD−Niめっき層の電位をめっき深さ方向に変化させることを特徴とする。
【0010】
(3)B−Niめっき層とそれに接するD−Niめっき層とを含むNiめっき膜の製造方法において、前記B−Niめっき層の電解めっきの途中でめっき浴の攪拌強度を変更することにより、形成されるB−Niめっき層の電位をめっき深さ方向に変化させることを特徴とする。
【0011】
これら(1)〜(3)において、前記攪拌強度の変更は、前記めっき深さ方向の深部側よりも浅部側で攪拌強度を強くする変更であることが好ましい。めっき深さ方向の深部側よりも浅部側で電位が上昇し、腐食の進行が深部に移行して浅部での腐食が抑制されるため、表面に腐食が現れにくくなるからである。
【0012】
2.Niめっき皮膜
(1)B−Niめっき層とそれに接するD−Niめっき層とを含むNiめっき膜において、前記D−Niめっき層とB−Niめっき層との界面における界面電圧変化域以外に、D−Niめっき層の層内における電位がめっき深さ方向に平均変化率1mV/0.1μm以上(好ましくは1.5mV/0.1μm以上)(上限については高い分には問題ない)で変化する層内電圧変化域があることを特徴とする。
【0013】
(2)B−Niめっき層とそれに接するD−Niめっき層とを含むNiめっき膜において、前記D−Niめっき層とB−Niめっき層との界面における界面電圧変化域以外に、B−Niめっき層の層内における電位がめっき深さ方向に平均変化率1mV/0.1μm以上(上限については高い分には問題ない)で変化する層内電圧変化域があることを特徴とする。
【0014】
これら(1)、(2)において、前記層内電圧変化域での電位の変化は、前記めっき深さ方向の深部側よりも浅部側で電位が上昇する変化であることが好ましい。この電位の上昇により、腐食の進行が深部に移行して浅部での腐食が抑制されるため、表面に腐食が現れにくくなるからである。
【0015】
前記D−Niめっき層のめっき厚さは1〜4μmであることが好ましい。層内電圧変化域を確保するためである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来よりも簡便に、多様なNiめっき皮膜の電位差パターンを付けることができ、高耐食性のNiめっき皮膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例のサンプルの断面図である。
図2】実施例の振動羽根攪拌を伴うめっきに用いた試験機の概略図である。
図3】比較例1における(a)はNiめっき皮膜電位のグラフ、(b)はサンプル表面の光学顕微鏡写真、(c)は腐食箇所の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】比較例2における(a)はNiめっき皮膜電位のグラフ、(b)はサンプル表面の光学顕微鏡写真、(c)は腐食箇所の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例1における(a)はNiめっき皮膜電位のグラフ、(b)はサンプル表面の光学顕微鏡写真、(c)は腐食箇所の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
図6】実施例2におけるNiめっき皮膜電位のグラフである。
図7】実施例3におけるNiめっき皮膜電位のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1]攪拌強度の変更
攪拌強度の変更方法は、特に限定されず、振動羽根による攪拌の場合は振動羽根の振動周波数を変更する方法、回転羽根による攪拌の場合は回転羽根の回転数を変更する方法、エアーの吹き込みによる攪拌の場合はエアーの吹き込み速度や吹き込み量を変更する方法等を例示できる。
【0019】
[2]Niめっき
Niめっき膜の層構成は、特に限定されず、1層でも複数層でもよい。複数層の場合、B−Niめっき層の上にD−Niめっき層が接する構成が耐食性の点で好ましく、SB−Niめっき層の上にB−Niめっき層が接しそのB−Niめっき層の上にD−Niめっき層が接する構成が耐食性の点でより好ましい。
【0020】
[3]Niめっき膜の上の
Niめっき膜の上の膜は、特に限定されず、形成してもしなくてもよい。形成する場合、クロム(Cr)めっき層が強度、耐食性及び外観上好ましい。
【0021】
[4]Niめっき膜の下の基材
Niめっき膜を形成する基材は、特に限定されず、樹脂、金属等よりなるあらゆる基材を用いることができる。樹脂等の非導電体には電解めっきに必要な導電層が形成される。
【0022】
[5]Niめっき皮膜の用途
自動車外装部品(ラジエータグリル、フェンダ、ガーニッシュ、ホイールキャップ、バックパネル、エアスポイラー、エンブレム等)、電気製品(携帯電話、スマートホン、携帯情報端末、ゲーム機等)用筐体部品等のめっき膜を例示できる。特に風雨にさらされる自動車外装部品は、高い耐食性能が求められるため、本発明を適用したときの有効性が高い。
【実施例】
【0023】
図1に示すように、基材1としての真鍮板(60×100mm)上に、SB−Niめっき層2、B−Niめっき層3及びD−Niめっき層4(これらをまとめて「Niめっき皮膜」という。)この順に電解めっきにより形成した後、D−Niめっき層4の上にCrめっき層5を電解めっきにより形成して、比較例1,2及び実施例1〜3の各サンプルを作製した。詳細は次のとおりである。
【0024】
1.Niめっき皮膜の形成
SB−Niめっき層、B−Niめっき層及びD−Niめっき層の形成はそれぞれ、次の表1及び表2に示すめっき浴の組成(水溶液)及びめっき条件で行い、めっき条件のうちのめっき浴の攪拌方法を、次の表2に示すように異ならせたものを比較例1,2及び実施例1〜3とした。なお、各めっき層用のめっき浴の組成は、同表に示すのものに限定されず、各めっき層の形成に適したものであれば何でもよい。各めっき層のめっき条件も、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
表2における「エアー攪拌」はエアーの吹き込みによる攪拌である。また、「振動羽根攪拌」は、図2に示す、日本テクノ株式会社の試験機(商品名:卓上型超振動α−1型振動試験機)を使用して実施した。同試験機は、シャフト11に上下複数段に取り付けられた羽根12が、内寸200×300×290mmの処理槽13に配置され、該シャフト11を加振機14より振動周波数0〜40Hzで振動させ、該シャフト11と共に振動する羽根12により処理槽内のめっき浴15を攪拌(振動羽根攪拌)して3次元の乱流を生じさせることができるものである。その振動周波数が高いほど、攪拌強度は高い。
【0028】
・比較例1は、D−Niめっきを、エアー攪拌しながら実施した。
・比較例2は、D−Niめっきを、その開始から終了まで振動周波数を一律40Hzで、振動羽根攪拌しながら実施した。
・実施例1は、D−Niめっきを、その開始から終了まで振動周波数を0Hzから40Hzへと0.2〜0.4Hz/秒のペースで連続的に変更して(攪拌強度を連続的に変更)、振動羽根攪拌しながら実施した。
・実施例2は、D−Niめっきを、その開始から1分間は振動周波数を20Hzで、その後終了までは40Hzに切り替えて(攪拌強度を段階的に変更)、振動羽根攪拌しながら実施した。
・実施例3は、B−Niめっきを、その開始から2.5分間はエアー攪拌で、その後終了までは振動周波数40Hzの振動羽根攪拌に切り替えて(攪拌強度を段階的に変更)、攪拌しながら実施した。
【0029】
2.Crめっき層の形成とクロメート処理
比較例1,2及び実施例1〜3ともに共通のCrめっき層を形成し、それをクロメート処理した。Crめっきの形成は、耐塩害ダーク3価Crのめっき浴としてマクダーミット社の商品名:トワイライトの水溶液を使用し、めっき条件として浴温度50℃、電流密度10A/dm、無攪拌、めっき層厚さ0.3μmで、電解めっきすることにより実施した。クロメート処理は、酸性電解クロメート(クロム酸30g/L)により実施した。
【0030】
3.Niめっき皮膜の電位の測定
作製した比較例1,2及び実施例1〜3の各サンプルについて、Niめっき皮膜の電位をD−Niめっき層上面からめっき深さ方向に測定した。この測定結果を、逆深さ方向すなわちめっき形成順に、以下説明する。
【0031】
比較例1のNiめっき皮膜の電位は、図3(a)に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に51mV低下する界面電圧変化域があり、B−Niめっき層内でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層との界面に28mV上昇する界面電圧変化域があり、D−Niめっき層内でほぼ一定となってから、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に若干上昇する界面電圧変化域があった。
【0032】
比較例2のNiめっき皮膜の電位は、図4(a)に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に59mV低下する界面電圧変化域があり、B−Niめっき層内でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層との界面に55mV上昇する界面電圧変化域があり、D−Niめっき層内でほぼ一定となってから、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に若干上昇する界面電圧変化域があった。
【0033】
実施例1のNiめっき皮膜の電位は、図5(a)に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に96mV低下する界面電圧変化域があり、B−Niめっき層でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層との界面からD−Niめっき層内にかけてスロープ状に連続して54mV上昇する界面電圧変化域及び層内電圧変化域があり(界面電圧変化域と層内電圧変化域との境界は判然としないが、層内電圧変化域での変化率は1.4〜2.6mV/0.1μmの範囲で変動し、平均変化率は1.9mV/0.1μmほどであると推定される。)、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に若干上昇する界面電圧変化域があった。よって、D−Niめっき層の最も高い層内の電位(Crめっき層との界面電圧変化域を除く)と、B−Niめっき層の最も低い層内の電位(界面電圧変化域を除く)との電位差は、44mVであった。層内電圧変化域は、D−Niめっき層の形成途中で、振動羽根攪拌の振動周波数を連続的に変更して、攪拌強度を変更したことにより生じたものと考えられる。
【0034】
実施例2のNiめっき皮膜の電位は、図6に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に67mV低下する界面電圧変化域があり、B−Niめっき層でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層の界面に29mV上昇する界面電圧変化域があり、さらにD−Niめっき層内に29mV上昇する層内電圧変化域があり(変化率は8〜12mV/0.1μmの範囲で変動し、平均変化率は10mV/0.1μmほどである。)、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に僅かに上昇する界面電圧変化域があった。よって、D−Niめっき層の最も高い層内の電位(Crめっき層との界面電圧変化域を除く)と、B−Niめっき層の最も低い層内の電位(界面電圧変化域を除く)との電位差は、58mVであった。層内電圧変化域は、D−Niめっき層の形成途中で、振動羽根攪拌の振動周波数を段階的に変更して、攪拌強度を変更したことにより生じたものと考えられる。
【0035】
実施例3のNiめっき皮膜の電位は、図7に示すとおり、SB−Niめっき層とB−Niめっき層との界面に51mV低下する界面電圧変化域があり、B−Niめっき層内でほぼ一定となってから、6mV上昇する層内電圧変化域があり(平均変化率は1.4mV/0.1μmである。)、再びB−Niめっき層内でほぼ一定となってから、B−Niめっき層とD−Niめっき層との界面に41mV上昇する界面電圧変化域があり、D−Niめっき層内でほぼ一定となってから、D−Niめっき層の上面(D−Niめっき層とCrめっき層との界面)に若干上昇する界面電圧変化域があった。よって、D−Niめっき層の最も高い層内の電位(界面電圧変化域を除く)と、B−Niめっき層の最も低い層内の電位(界面電圧変化域を除く)との電位差は、47mVであった。層内電圧変化域は、B−Niめっき層の形成途中で、振動羽根攪拌の振動周波数を段階的に変更して、攪拌強度を変更したことにより生じたものと考えられる。
【0036】
4.腐食試験
作製した実施例1〜3及び比較例1,2の各サンプルについて、JIS H 8502のコロードコート試験を、温度:38℃、湿度:90%、試験時間:16時間×4サイクルの試験条件で行った。
【0037】
コロードコート試験終了後、試料を取り出し、水で洗浄し乾燥させてから、サンプル表面の光学顕微鏡写真(500倍)と、腐食箇所の断面の走査型電子顕微鏡写真(10000倍)を撮影するとともに、表面の腐食状態をJIS Z 2371のレイティングナンバ法に照らし合わせて、レイティングナンバを決定した。
【0038】
比較例1は、図3(b)に示す光学顕微鏡写真のとおり、表面にピンホールが観察され、図3(c)の走査型電子顕微鏡写真のとおり、D−Niめっき層の腐食が進行していた。レイティングナンバは8であった。
【0039】
比較例2は、図4(b)に示す光学顕微鏡写真のとおり、表面のピンホールが目立たず、図4(c)の走査型電子顕微鏡写真のとおり、B−Niめっき層の腐食が進行していた一方、D−Niめっき層の腐食はそのめっき厚さ方向の全体にわたって小さかった。レイティングナンバは9であった。
【0040】
実施例1は、図5(b)に示す光学顕微鏡写真のとおり、表面のピンホールが目立たず、図5(c)の走査型電子顕微鏡写真のとおり、B−Niめっき層の腐食が進行していた一方、D−Niめっき層の腐食はそのめっき厚さ方向の深部から浅部に向かうほど小さかった。レイティングナンバは9であった。
【0041】
実施例2は、実施例とほぼ同様の結果であり、表面のピンホールが目立たず、B−Niめっき層の腐食が進行していた一方、D−Niめっき層の腐食はそのめっき厚さ方向の深部から浅部に向かうほど小さかった。レイティングナンバは9であった。
【0042】
実施例3は、レイティングナンバが8であったが、比較例1よりも実施例3の方が腐食面積が小さかった。
【0043】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 基材
2 SB−Niめっき層
3 B−Niめっき層
4 D−Niめっき層
5 Crめっき層
11 シャフト
12 羽根
13 処理槽
14 加振機
15 めっき浴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7