特許第6524947号(P6524947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6524947
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】乗物用ウエザストリップ
(51)【国際特許分類】
   B60J 10/86 20160101AFI20190527BHJP
【FI】
   B60J10/86
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-65452(P2016-65452)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-177921(P2017-177921A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】沖田 智昭
(72)【発明者】
【氏名】中野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 史康
【審査官】 小河 了一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−031027(JP,A)
【文献】 実開昭60−124755(JP,U)
【文献】 米国特許第05489104(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 10/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の開口部又はそれを開閉する蓋体のいずれか一方に取り付けられ、蓋体開け時の自然状態から蓋体閉め時に相手当接部に当接して圧潰状態となる中空シール部を有するウエザストリップにおいて、
中空シール部に、動的粘弾性測定(引張りモード、100Hz)による損失正接(tanδ)が0.3以上、かつ、伸びが250%以上の物性を有する高分子材料よりなる別体の中空チューブが挿入されていて、
高分子材料は、ブチルゴム、イソブチレン系熱可塑性エラストマー又はポリ塩化ビニルであることを特徴とする乗物用ウエザストリップ。
【請求項2】
乗物の開口部又はそれを開閉する蓋体のいずれか一方に取り付けられ、蓋体開け時の自然状態から蓋体閉め時に相手当接部に当接して圧潰状態となる中空シール部を有するウエザストリップにおいて、
中空シール部に、動的粘弾性測定(引張りモード、100Hz)による損失正接(tanδ)が0.3以上、かつ、伸びが250%以上の物性を有する高分子材料よりなる別体の中空チューブが挿入されていて、
中空チューブの外面に、中空シール部の内部で中空チューブの位置を安定させるためのリブが突設されていることを特徴とする乗物用ウエザストリップ。
【請求項3】
中空チューブの外面に、中空シール部の内部で中空チューブの位置を安定させるためのリブが突設されている請求項記載の乗物用ウエザストリップ。
【請求項4】
中空チューブは、ウエザストリップの全長にわたって中空シール部に挿入されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の乗物用ウエザストリップ。
【請求項5】
中空チューブは、少なくとも自然状態の中空シール部の内面に対して圧潰方向に隙間が生じる偏平管形状をなし、中空内の流体が加圧されたときに偏平管形状から膨らむものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の乗物用ウエザストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物の開囲部又はそれを開閉する蓋体のいずれか一方に取り付けられるウエザストリップに関し、詳しくは、蓋体開け時の自然状態から蓋体閉め時に相手当接部に当接して圧潰状態となる中空シール部を有するウエザストリップに係るものである。
【背景技術】
【0002】
この種のウエザストリップの一例である自動車用ドアウエザストリップは、ドアの周縁部に取り付けられるトリム部と、ドア開け時の自然状態からドア閉め時にボディに当接して圧潰状態となる中空シール部とを備えており(特許文献1)、両部は例えばスポンジゴムで形成されている。
【0003】
ドアウエザストリップには、ドア閉め時に荷重(ドア閉め力)が低く閉まりやすいドア閉まり性と、ドア閉め後の自動車走行時にドアとボディとの間をシールし続けて水や塵埃の侵入を防ぐシール性と、車外の音がドアとボディとの間から車内に漏れ入るのを遮る遮音性とが要求される。しかし、これらの性能を高いレベルで両立させることは難しい。
【0004】
ドア閉まり性を重視して、荷重を低くするために中空シール部の剛性を低くすると、自動車走行時(特に高速走行時)に車外気流による負圧でドアが車外方向へ微動した際に、中空シール部の当接力が弱くなり、シール性及び遮音性が低下する。また、中空シール部の剛性を低くするためには、肉厚を薄くしたりスポンジゴムの発泡率を高くしたりするので、遮音性も低下する。
【0005】
一方、シール性と遮音性を重視して、中空シール部の剛性を高くすると、荷重が高くなりドア閉まり性が低下する。
【0006】
ドア閉まり性を低下させないで、遮音性を高める策として、特許文献2には、シールラバー(ウエザウェザストリップ)の中空部にシールラバーとは異なる固有振動数を有する流体封入チューブを配置することが開示されている。その実施形態として、シールラバーはゴム又は発泡ゴム製にし、チューブはシールラバーと同材質にし、封入する流体には気体(空気)、液体(水)、半流動体(ゲル)を使用することが記載されている。しかし、チューブに具体的にどのような組成の材料を使用するのが適当であるかまでは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−175729号公報
【特許文献2】特開2003−341372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、乗物用ウエザストリップのドア閉まり性を低下させないで、遮音性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、乗物の開口部又はそれを開閉する蓋体のいずれか一方に取り付けられ、蓋体開け時の自然状態から蓋体閉め時に相手当接部に当接して圧潰状態となる中空シール部を有する乗物用ウエザストリップにおいて、中空シール部に、動的粘弾性測定(引張りモード、100Hz)による損失正接(tanδ)が0.3以上、かつ、伸びが250%以上の物性を有する高分子材料よりなる別体の中空チューブが挿入されていて、次の(1)、(2)又はその両方であることを特徴とする。
(1)高分子材料は、ブチルゴム、イソブチレン系熱可塑性エラストマー(TPE)又はポリ塩化ビニルであること。
(2)中空チューブの外面に、中空シール部の内部で中空チューブの位置を安定させるためのリブが突設されていること。
【0010】
[作用]
この高分子材料よりなる別体の中空チューブは、制振性が高く、乗物外の音によって生じる開口部と蓋体とウエザストリップの微振動を吸収して熱に変換する作用が高いため、乗物外の音が車内に漏れ入るのをよく遮ることができる。これにより、中空シール部の肉厚を厚くしたりスポンジゴムの発泡率を低くしたりして遮音性を高める必要がなくなるので、ドア閉まり性を低下させない。
【0011】
この高分子材料として、ブチルゴム、イソブチレン系熱可塑性エラストマー(TPE)又はポリ塩化ビニル、繰り返し摩耗性に優れる点でも好適である。
【0012】
リブにより、中空シール部の内部で中空チューブの位置が安定するので、中空チューブをシール性と遮音性の点で最適の位置に保持することができる。
【0013】
中空チューブは、ウエザストリップの全長にわたって中空シール部に挿入されていることが好ましい。
【0014】
中空チューブは、少なくとも自然状態の中空シール部の内面に対して圧潰方向に隙間が生じる偏平管形状をなし、中空内の流体が加圧されたときに偏平管形状から膨らむものであることが好ましい。
偏平管形状は、蓋体閉め時に圧潰状態となった中空シール部の内面に対しても圧潰方向に隙間が生じるものである態様と、蓋体閉め時に圧潰状態となった中空シール部の内面に対しては圧潰方向に隙間が生じずに当接する態様とがある。前者の態様によれば、蓋体閉め時の荷重を全く増加させず、ドア閉まり性を全く低下させない。後者の態様でも、中空チューブは中空なので蓋体閉め時の終期に容易に撓むことができ、蓋体閉め時の荷重をさほど増加させず、ドア閉まり性をさほど低下させない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乗物用ウエザストリップのドア閉まり性を低下させないで、遮音性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1のドアウエザストリップを示し、(a)はドア閉め前の図3のa−a断面図、(b)はドア閉め時の中空チューブを膨らませる直前の図3のb−b断面図、(c)はドア閉め後に中空チューブを膨らませた状態の断面図である。
図2】同ドアウエザストリップを説明する斜視図である。
図3】同ドアウエザストリップが適用された自動車斜視図である。
図4】実施例2のドアウエザストリップを示し、(a)はドア閉め前の図3のa−a断面図、(b)はドア閉め時の図3のb−b断面図、(c)はドア閉め後に中空チューブを膨らませた状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.乗物、開口部及び蓋体
乗物としては、特に限定されないが、自動車等の自由走行車両、鉄道車両等の軌道走行車両、船舶、航空機等を例示できる。
開口部と蓋体の組み合わせとしては、ドア開口部とドア、ボンネット開口部とボンネットフード、トランク開口部とトランクリッド、サンルーフ開口部とサンルーフ等を例示できる。
【0018】
2.ウエザストリップ
ウエザストリップの中空シール部の材質は、特に限定されないが、エチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム(EPDM)、オレフィン系熱可塑性エラストマー等の発泡体(スポンジ)を好例として例示できる。
【0019】
3.中空チューブ
中空チューブの偏平管形状としては、特に限定されないが、偏平楕円管、偏平長円管等を例示できる。
中空チューブは、偏平管形状から膨らませるために、流体非透過性が好ましい。そのために、高分子材料は、ソリッド材料又は無孔スキン層を有するスポンジ材料が好ましい。
中空チューブは、10kPa以下の圧力増加で膨らむものが好ましい。
中空チューブの肉厚は、1mm以下が好ましく、0.5mm以下がさらに好ましい。
中空チューブの内径/外径を、長さ方向で変化させてもよい。
【0020】
4.流体
流体としては、特に限定されないが、空気、窒素ガス等の気体や、水、オイル、アルコール類等の液体や、ゲル等を例示できる。
【実施例1】
【0021】
図1図3に示す実施例1のドアウエザストリップ及びさらに加圧装置を含むウエザストリップ装置について説明する。ドアウエザストリップ1は、自動車ボディ20のドア開口部21を開閉する蓋体であるドア25に取り付けられるものである。
【0022】
ドアウエザストリップ1は、ドア25に係止されるトリム部2と、ドア開け時の自然状態からドア閉め時に相手当接部であるドア開口部21の凸縁22に当接して圧潰状態となる中空シール部3と、自動車ボディ20のルーフドリップ23に当接するシールリップ4とを備え、これらは例えばEPDMスポンジゴムで一体に押出成形されてなる。
【0023】
中空シール部3には、その全長にわたって中空チューブ7が挿入されている。中空チューブ7は、動的粘弾性測定(引張りモード、100Hz)による損失正接(tanδ)が0.3以上、かつ、伸びが250%以上の物性を有する高分子材料よりなり、中空シール部3とは別体のものである。表1に、同高分子材料として択一的に使用された4種類の材料を示す。
【0024】
【表1】
【0025】
中空チューブ7は、少なくとも自然状態の中空シール部3の内面に対して(本実施例ではさらにドア閉め時に圧潰状態となった中空シール3部の内面に対しても)圧潰方向に隙間が生じる偏平管形状(図示例は偏平楕円管)をなし、中空内の流体が加圧されたときに偏平管形状から円形管形状に近付くように膨らむものである。流体は例えば空気である。
【0026】
加圧装置10は、ドア閉め後に、中空チューブ7を、その中空内の流体を加圧して偏平管形状から膨らませ、圧潰状態の中空シール部3の内面に押し当てるものである。
【0027】
加圧装置10は、中空チューブ7に取り付けられた、中空内に通じる圧入口部材11と、中空チューブ7の内部に流体を圧入する圧縮装置15と、圧縮装置15と圧入口部材11とを接続する接続管18とから構成されている。
【0028】
圧入口部材11は、ループ状とされる中空チューブ7の両端に差し込まれる差込管部12と、その中央部から通じて放射状に延びる接続管部13とが、樹脂により一体形成されてなる。同樹脂としては、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアセタール、ポリ塩化ビニル等を例示できる。
【0029】
ドアウエザストリップ1及び中空チューブ7は、ドア25の周縁部を一周するように曲げられ、中空チューブ7の両端部は圧入口部材11で接続され、ドアウエザストリップ1の両端部は中空チューブ7の両端部及び圧入口部材11の差込管部12を埋めるように型成形部6で接続され、もってループ状とされている。中空チューブ7の中空は、無端ループ状に閉じられ、圧入口部材11のみで外部と通じうる。
【0030】
圧縮装置15は、ドア開口部21のドアヒンジ(図示略)付近に取り付けられており、ドア閉め時にドア25に押圧されるピストン部16と、常に流体を貯溜していて、ピストン部16で押圧された流体を送り出すキャビティ17とを含み構成されている。流体は例えば空気である。
【0031】
加圧装置10は、流体を圧縮装置15から送り出し、接続管18を経て、圧入口部材11から中空チューブ7の内部に圧入する。但し、流体が中空チューブ7の内部に圧入されるのは、ドア閉め時の瞬間ではなく、ドア閉め後に若干のタイムラグがあってからである。このため、図1(b)の状態がドア閉め時の瞬間に生じる。
【0032】
以上のように構成された本実施例によれば、次の作用効果が得られる。
図1の(a)から(b)の変化で示されるように、中空シール部3は、ドア開け時の張り出した自然状態からドア閉め時に凸縁22に当接して圧潰状態となる。上記の理由により、ドア閉め時の瞬間には流体が中空チューブ7の内部に圧入されないので、偏平管形状の中空チューブ7は、中空シール3部の内面に対して圧潰方向に隙間を生じさせる。このため、中空チューブ7が、ドア閉め時の荷重を増加させてドア閉まり性を低下させることはない。
そして、中空シール部3の剛性を適度に低くして荷重を低くすれば、中空チューブ7に影響されずに、ドア閉まり性を向上させることができる。さらなるドアウエザストリップの軽量化への傾向を進ませることも可能となる。
【0033】
なお、中空チューブ7の偏平管形状が、図1(b)のドア閉め時に圧潰状態となった中空シール部3の内面に対して圧潰方向に隙間が生じずに当接するものであってもよい。その場合でも、中空チューブ7は中空なのでドア閉め時に容易に撓むことができ、ドア閉め時の荷重をさほど増加させない。
【0034】
次に、図1の(b)から(c)の変化で示されるように、ドア閉め後に若干のタイムラグがあって、加圧装置10により流体が中空チューブ7の内部に圧入されると、中空チューブ7は偏平管形状から円管形状に近付くように膨らみ、圧潰状態の中空シール部3の内面に押し当たる。このため、中空シール部7が凸縁22へ押されてシール性及び遮音性が向上し、特に高速走行時におけるシール性及び遮音性が向上する。
【0035】
また、前記高分子材料より中空チューブ7は、制振性が高く、車外の音によって生じるドア開口部21とドア25とドアウエザストリップ1の微振動を吸収して熱に変換する作用が高いため、乗物外の音が車内に漏れ入るのを遮ることができる。これにより、中空シール部3の肉厚を厚くしたりスポンジゴムの発泡率を低くしたりして遮音性を高める必要がなくなるので、ドア閉まり性を低下させない。
【0036】
特に、中空チューブ7はドアウエザストリップ1の全長にわたって中空シール部3に挿入されているので、シール性及び遮音性の向上効果が高い。また、ドア25とドア開口部21との間隙は全周にわたって完全に均一ではないが、膨らむ中空チューブ7にはその間隙の差を埋める性質があるため、均一なシール性が得られる。
【0037】
次に、中空チューブ7の内部に圧入された流体は、ドア25が開くと、圧力開放により中空チューブ7から流出して圧縮装置15のキャビティ17に戻るようになっている。よって、その後のドア閉め時には、再び前記の作用効果が得られる。
【実施例2】
【0038】
図4に示す実施例2は、中空チューブ7の外面に、中空シール部3の内部で中空チューブ7の位置を安定させるためのリブ8が突設されている点においてのみ実施例1と相違し、その他は実施例1と共通である。リブ8は、偏平管形状の両側から突出したヒレ状であり、中空シール部3の内面の対抗した二箇所に接近又は接触する。
【0039】
この実施例2によっても、実施例1と同様の作用効果が得られ、さらにリブ8により、中空シール部3の内部で中空チューブ7の位置が安定するので、中空チューブ7をシール性と遮音性の点で最適の位置に保持することができる。
【0040】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ドアウエザストリップ
2 トリム部
3 中空シール部
4 シールリップ
6 型成形部
7 中空チューブ
8 リブ
10 加圧装置
11 圧入口部材
12 差込管部
13 接続管部
15 圧縮装置
16 ピストン部
17 キャビティ
18 接続管
20 自動車ボディ
21 ドア開口部
22 凸縁
23 ルーフドリップ
25 ドア
図1
図2
図3
図4