(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のバッファーは、グアニジン塩酸塩及び界面活性剤を含有しており、グアニジン塩酸塩の濃度が1mol/L以上、最大溶解度以下であり、界面活性剤の濃度が1〜10容量%である、請求項1又は2に記載の短鎖核酸の回収方法。
前記アルコールがイソプロパノール又はエタノールであり、前記工程(b)における前記工程(a)により回収された液性成分と第2のバッファーとの混合物のアルコール濃度が10〜60容量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の短鎖核酸の回収方法。
前記アルコールがイソプロパノールであり、前記工程(b)における前記工程(a)により回収された液性成分と第2のバッファーとの混合物のイソプロパノール濃度が10〜40容量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の短鎖核酸の回収方法。
前記第1の核酸吸着体又は前記第2の核酸吸着体が、珪酸含有物質、ゼオライト、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、カオリン、磁性粒子、セラミックス、及びポリスチレンからなる群より選択される1種以上である、
請求項1〜8のいずれか一項に記載の短鎖核酸の回収方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<短鎖核酸の回収方法>
本発明の一実施形態に係る短鎖核酸の回収方法(以下、「本実施形態に係る核酸回収方法」ということがある。)は、核酸吸着体に核酸を吸着させることによって核酸を回収する原理に基づいて全血試料から1000塩基長以下である短鎖核酸を回収する方法であり、短鎖核酸の核酸吸着体への吸着性が、アルコール濃度に強い影響を受けることを利用している。短鎖核酸の核酸吸着体への吸着性は、低アルコール濃度又はアルコール非存在の環境下では非常に弱く(低く)、高アルコール濃度環境下では強い(高い)。長鎖核酸の核酸吸着体への吸着性もアルコール濃度の影響を受けるが、低鎖核酸よりもその影響は小さく、特にゲノムDNAのように非常に長い核酸の場合には、アルコール非存在の環境下でも核酸の大部分が核酸吸着体に吸着する。そこで、本実施形態に係る核酸回収方法では、まず、全血試料から、低アルコール濃度又はアルコール非存在の環境下において核酸吸着体に吸着する核酸を除去した後、残りの核酸を高アルコール濃度環境下で核酸吸着体に吸着させて回収する。
【0014】
具体的には、本実施形態に係る核酸回収方法は、以下の工程(a)〜(c)を有することを特徴とする。下記工程(a)における全血試料と第1のバッファーとの混合物は、アルコールを含有しない、又はアルコール濃度が5容量%以下であり、下記工程(b)における前記工程(a)により回収された液性成分と第2のバッファーとの混合物のアルコール濃度が10容量%以上である。
本実施形態に係る核酸回収方法は、
(1)全血試料と第1のバッファーとの混合物を第1の核酸吸着体に接触させることにより、前記全血試料由来の核酸を前記第1の核酸吸着体に吸着させた後、前記第1の核酸吸着体を分離除去し、液性成分を回収する工程(a)と、
(2)前記工程(a)により回収された液性成分と第2のバッファーとの混合物を第2の核酸吸着体に接触させることにより、前記全血試料由来の1000塩基長以下である短鎖核酸を前記第2の核酸吸着体に吸着させた後、前記第2の核酸吸着体を液性成分から分離回収する工程(b)と、
(3)前記工程(b)において回収された前記第2の核酸吸着体から核酸を溶出して回収する工程(c)と、を有する。
【0015】
工程(a)においては、全血試料と第1のバッファーとの混合物のアルコール濃度は5容量%以下(0容量%を含む。)と低いため、第1の核酸吸着体には、短鎖核酸はほとんど吸着せず、ゲノムDNA等の長鎖核酸が優先的に吸着する。このため、核酸を吸着させた第1の核酸吸着体を分離除去することにより、全血試料由来の核酸から長鎖核酸が優先的に除去される結果、残った液性成分において相対的に短鎖核酸の存在比が高くなっている。
次いで、工程(b)において、この回収された液性成分に第2のバッファーを混合することによりアルコール濃度を10容量%以上に調製した状態で第2の核酸吸着体と接触させることにより、当該液性成分中の短鎖核酸を第2の核酸吸着体に吸着させることができる。
その後、工程(c)として、工程(b)において回収した第2の核酸吸着体から核酸を溶出することにより、全血試料由来の短鎖核酸を含む核酸を回収することができる。
【0016】
同一の環境下における核酸吸着体への吸着性に関し、長鎖核酸の吸着性が短鎖核酸の吸着性よりも高い。このため、全血試料に直接アルコールを含有するバッファーを混合し、アルコール存在下で核酸吸着体に吸着させた場合には、長鎖核酸が優先的に吸着し、短鎖核酸はほとんど吸着しないため、当該核酸吸着体から回収された核酸中には、短鎖核酸はほとんど含まれない。これに対して、本実施形態に係る核酸回収方法では、まず、全血試料由来の核酸のうちの長鎖核酸を、短鎖核酸の吸着性が弱い環境下で核酸吸着体に吸着させることによって除去した後、当該核酸吸着体に吸着しなかった残りの核酸を、短鎖核酸も吸着可能な環境下で新たな核酸吸着体に吸着させて回収する。全血試料由来の核酸から長鎖核酸の大部分を除去した後、短鎖核酸を核酸吸着体に吸着させることにより、短鎖核酸を効率よく回収することができる。
本実施形態では、2つの核酸吸着体を用いる例を示すが、1つの核酸吸着体で、長鎖核酸を回収後、核酸吸着体に吸着した長鎖核酸を溶出して核酸吸着体を洗浄し、その後に短鎖核酸を吸着、回収する工程としても良い。
【0017】
本実施形態において用いられる第1のバッファーは、カオトロピック剤及び界面活性剤からなる群より選択される1種以上を含有する。含有されるカオトロピック剤は、1種類のみであってもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。同様に、含有される界面活性剤は、1種類のみであってもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。第1のバッファーとしては、1種又は2種以上のカオトロピック剤と、1種又は2種以上の界面活性剤と、を含有するバッファーが好ましい。
【0018】
当該カオトロピック剤としては、グアニジン塩酸塩(GHCl)、グアニジンチオシアネート(GTC)、グアニジンイソチオシアネート(GITC)等のグアニジン塩、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム等が挙げられる。第1のバッファーが含有するカオトロピック剤としては、グアニジン塩が好ましく、グアニジン塩酸塩がより好ましい。
【0019】
当該界面活性剤としては、生体試料から核酸を抽出する際に当該技術分野で一般的に使用されている界面活性剤から適宜選択して用いることができる。第1のバッファーが含有する界面活性剤としては、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)等のイオン性界面活性剤であってもよいが、非イオン性界面活性剤が好ましく、Triton(登録商標)X(Polyoxyethylene(10)Octylphenyl Ether)、Tween(登録商標)20(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monolaurate)、Tween(登録商標)40(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monopalmitate)、Tween(登録商標)60(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monostearate)、Tween(登録商標)80(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate)、Nonidet(登録商標)P−40(Polyoxyethylene(9)OctylphenylEther)、Brij(登録商標)35(Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether)、Brij(登録商標)58(Polyoxyethylene(20)Cethyl Ether)、ジギトニン、又はサポニン等がより好ましく、Triton X、Tween 20、又はNonidet P−40がさらに好ましい。
【0020】
第1のバッファーがカオトロピック剤を含有する場合、カオトロピック剤の濃度は、全血試料中の細胞から核酸を抽出するために充分な濃度であればよく、用いるカオトロピック剤の種類や、カオトロピック剤と界面活性剤との併用の有無等を考慮して適宜調節することができる。例えば、第1のバッファーのカオトロピック剤の濃度は、1mol/L以上、最大溶解度以下とすることが好ましく、2mol/L以上、最大溶解度以下とすることがより好ましい。
【0021】
第1のバッファーが界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の濃度は、全血試料中の細胞から核酸を抽出するために充分な濃度であればよく、用いる界面活性剤の種類や、界面活性剤とカオトロピック剤との併用の有無等を考慮して適宜調節することができる。例えば、第1のバッファーの界面活性剤の濃度は、1〜10容量%とすることが好ましく、2〜5容量%とすることがより好ましい。
【0022】
第1のバッファーはアルコールを含有していないバッファーが好ましいが、アルコールを含有していてもよい。第1のバッファーがアルコールを含有する場合、第1のバッファーのアルコール濃度、及び、第1のバッファーと全血試料との混合比は、全血試料と第1のバッファーとの混合物のアルコール濃度が5容量%以下となるように適宜調節される。全血試料と第1のバッファーとの混合物のアルコール濃度を5容量%以下に調整することにより、分離除去された第1の核酸吸着体に吸着した500塩基長以下である短鎖核酸の量を検出限界値未満とすることができる。
【0023】
第1のバッファーが含有するアルコールは、1種類のみであってもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。当該アルコールとしては、分枝鎖状又は直鎖状の炭素原子数1〜5のアルカノール類を用いることが好ましく、イソプロパノール又はイソプロパノールとエタノールの混合溶媒がより好ましく、イソプロパノールがさらに好ましい。
【0024】
本実施形態において用いられる第2のバッファーは、カオトロピック剤及び界面活性剤からなる群より選択される1種以上を含有する。含有されるカオトロピック剤は、1種類のみであってもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。同様に、含有される界面活性剤は、1種類のみであってもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。第2のバッファーとしては、1種又は2種以上のカオトロピック剤と、1種又は2種以上の界面活性剤とを含有するバッファーが好ましい。
【0025】
第2のバッファーが含有してもよいカオトロピック剤としては、第1のバッファーが含有してもよい化合物と同様の化合物が挙げられる。第2のバッファーが含有するカオトロピック剤としては、グアニジン塩が好ましく、少量でも強いカオトロピック効果を発揮するグアニジンチオシアネート又はグアニジンイソチオシアネートがより好ましい。
【0026】
第2のバッファーが含有してもよい界面活性剤としては、第1のバッファーが含有してもよい化合物と同様の化合物が挙げられる。第2のバッファーが含有する界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましく、Triton(登録商標)X(Polyoxyethylene(10)Octylphenyl Ether)、Tween(登録商標)20(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monolaurate)、Tween(登録商標)40(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monopalmitate)、Tween(登録商標)60(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monostearate)、Tween(登録商標)80(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate)、Nonidet(登録商標)P−40(Polyoxyethylene(9)Octylphenyl Ether)、Brij(登録商標)35(Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether)、Brij(登録商標)58(Polyoxyethylene(20)Cethyl Ether)、ジギトニン、又はサポニン等がより好ましく、Triton X、Tween 20、又はNonidet P−40がさらに好ましい。
【0027】
第2のバッファーがカオトロピック剤を含有する場合、カオトロピック剤の濃度は、第1のバッファーによって細胞から抽出された核酸が抽出された状態を維持するために充分な濃度であればよく、用いるカオトロピック剤の種類や、カオトロピック剤と界面活性剤との併用の有無等を考慮して適宜調節することができる。例えば、第2のバッファーのカオトロピック剤の濃度は、0.5mol/L以上、最大溶解度以下とすることが好ましく、1mol/L以上、最大溶解度以下とすることがより好ましく、2mol/L以上、最大溶解度以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
第2のバッファーが界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の濃度は、第1のバッファーによって細胞から抽出された核酸が抽出された状態を維持するために充分な濃度であればよく、用いる界面活性剤の種類や、界面活性剤とカオトロピック剤との併用の有無等を考慮して適宜調節することができる。例えば、第2のバッファーの界面活性剤の濃度は、3〜15容量%とすることが好ましく、7〜11容量%とすることがより好ましい。
【0029】
第2のバッファーはアルコールを含有している。第2のバッファーが含有するアルコールは、1種類のみであってもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。当該アルコールとしては、生体試料から核酸を抽出/精製する際に当該技術分野で一般的に使用されている分枝鎖状又は直鎖状の炭素原子数1〜5のアルカノール類を用いることが好ましい。当該アルカノール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール又はペンタノールが挙げられる。第2のバッファーが含有するアルコールとしては、核酸沈殿効果がイソプロパノールと同等であるアルコールが好ましく、エタノール、イソプロパノール、又はこれらの混合溶媒がより好ましく、イソプロパノール又はイソプロパノールとエタノールの混合溶媒がさらに好ましく、イソプロパノールがよりさらに好ましい。
【0030】
第2のバッファーのアルコール濃度、及び工程(a)により回収された液性成分と第2のバッファーとの混合比は、当該液性成分と第2のバッファーとの混合物のアルコール濃度が10容量%以上となるように適宜調節される。第2のバッファーが含有するアルコールがイソプロパノールの場合、第2のバッファーのイソプロパノール濃度及び前記液性成分と第2のバッファーとの混合比は、前記液性成分と第2のバッファーとの混合物のイソプロパノール濃度が10〜40容量%となるように調節されることが好ましい。第2のバッファーが含有するアルコールがエタノールの場合、第2のバッファーのエタノール濃度及び前記液性成分と第2のバッファーとの混合比は、前記液性成分と第2のバッファーとの混合物のエタノール濃度が30〜60容量%となるように調節されることが好ましい。
【0031】
本実施形態において用いられる第2のバッファーは、さらに、陽イオン塩を含有することも好ましい。当該陽イオン塩としては、1価の陽イオン塩であってもよく、2価の陽イオン塩であってもよい。陽イオン塩を構成する陽イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオンが挙げられ、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、又はカルシウムイオンが好ましい。陰イオン塩を構成する陰イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、又は
ヨウ化物イオンが好ましく、塩化物イオン又は臭化物イオンがより好ましく、塩化物イオンがさらに好ましい。
【0032】
第2のバッファーが陽イオン塩を含有する場合、第2のバッファーの陽イオン塩濃度は、生体試料からアルコール沈殿法により核酸を抽出/精製可能な濃度であればよく、用いられる陽イオン塩の種類を考慮して適宜決定される。本実施形態において用いられる第2のバッファーとしては、回収された短鎖核酸をPCR等の一般的に用いられる分析に供することを考慮し、10〜200mmol/Lが好ましい。
【0033】
前記第1のバッファーは、水又はバッファーに、カオトロピック塩及び界面活性剤のうちの少なくとも1種と、必要に応じてアルコールやその他の成分とを溶解させることにより調製される。前記第2のバッファーは、水又はバッファーに、カオトロピック塩及び界面活性剤のうちの少なくとも1種とアルコールと、必要に応じて陽イオン塩やその他の成分とを溶解させることにより調製される。第1のバッファー及び第2のバッファーを調製するための溶媒がバッファーの場合、当該バッファーのpHは、抽出する目的の核酸の種類(DNAかRNAか)や、回収された核酸が供される分析方法等を考慮して適宜決定される。本実施形態においては、前記第1のバッファー及び第2のバッファーが、pH5〜9であることが好ましく、pH6.5〜8.5であることが好ましい。抽出する目的の核酸がDNAの場合には、特に、pH7.0〜8.5であることが好ましい。第1のバッファー及び第2のバッファーを調製するための溶媒とするバッファーは、核酸の抽出や精製、分析の際に当該技術分野で一般的に使用されているバッファーから適宜選択して用いることができる。当該バッファーとしては、具体的には、Tris(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)−HClバッファー、リン酸バッファー等が挙げられる。第1のバッファー及び第2のバッファーを調製するための溶媒とする水としては、脱イオン水又は超純水が好ましい。
【0034】
なお、前記第1のバッファー及び第2のバッファーには、本実施形態の効果を阻害しない限りにおいて、カオトロピック剤、界面活性剤、アルコール、陽イオン塩以外のその他の物質を含有していてもよい。
【0035】
本実施形態において用いられる第1の核酸吸着体及び第2の核酸吸着体としては、核酸が吸着可能な固体であれば特に限定されない。当該核酸吸着体の素材としては、シリカ、磁性シリカ、ガラス、二酸化珪素等の珪酸含有物質、ゼオライト、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、カオリン、磁性粒子、セラミックス、及びポリスチレンからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、珪酸含有物質がより好ましい。中でも、シリカ膜、シリカゲル、シリカ又はガラスを表面に有する磁性粒子、又はこれらを組み合わせた材料を用いることがさらに好ましい。なお、第1の核酸吸着体及び第2の核酸吸着体は、同種の材料を用いることができる。
【0036】
第1の核酸吸着体及び第2の核酸吸着体の形状は特に限定されるものではなく、粒子状であってもよく、膜状であってもよく、容器等の内壁表面に固着している形状であってもよい。
【0037】
以下、工程ごとに説明する。
まず、工程(a)として、全血試料と第1のバッファーとの混合物を第1の核酸吸着体に接触させる。全血試料と第1のバッファーとの混合物中では、第1のバッファー由来のカオトロピック剤又は界面活性剤により、当該全血試料中の細胞から核酸が抽出される。
この混合物を第1の核酸吸着体に接触させることにより、抽出された核酸を当該核酸吸着体に吸着させる。例えば、第1の核酸吸着体が粒状の場合には、全血試料と第1のバッファーとの混合物に当該核酸吸着体を添加することにより、当該混合物を当該核酸吸着体に接触させることができる。また、第1の核酸吸着体が容器等の内壁表面に固着している場合、当該容器内において全血試料と第1のバッファーとを混合する、又は全血試料と第1のバッファーとの混合物を当該容器内に入れることにより、当該混合物を当該核酸吸着体に接触させることができる。
【0038】
全血試料由来の核酸を第1の核酸吸着体に吸着させた後、第1の核酸吸着体を分離除去し、液性成分を回収する。第1の核酸吸着体の分離除去及び液性成分の回収は、汎用されている固液分離操作により行うことができる。例えば、第1の核酸吸着体が粒子状の場合、第1の核酸吸着体を含む溶液(全血試料と第1のバッファーと第1の核酸吸着体との混合物)を遠心分離処理することにより当該核酸吸着体を沈殿させた後、上清を回収することにより、液性成分のみを回収することができる。また、第1の核酸吸着体を含む溶液を、核酸吸着体が透過できないほど孔径の大きさが小さい多孔質膜又は濾紙を通過させることにより、多孔質膜又は濾紙を通過した液性成分のみを回収することもできる。その他、第1の核酸吸着体が磁性粒子である場合には、磁石を利用して液性成分のみを回収することができる。第1の核酸吸着体がシリカ膜等の膜状の場合には、全血試料と第1のバッファーとの混合物をシリカ膜に透過させることにより、当該混合物を当該核酸吸着体に接触させて液性成分のみを回収することができる。当該混合物をシリカ膜に通過させる際には、遠心分離処理を行ったり、真空を適用したり、又は圧力をかけることにより、当該シリカ膜から液体を除去してもよい。
【0039】
全血試料と第1のバッファーとの混合と同時に第1の核酸吸着体を全血試料と混合してもよく、全血試料と第1のバッファーとの混合物をある程度の時間インキュベートし、全血試料中の細胞からの核酸抽出を充分に行った後の混合物に第1の核酸吸着体を接触させてもよい。また、全血試料と第1のバッファーとの混合物に第1の核酸吸着体を接触させて直ちに液性成分を回収してもよく、全血試料と第1のバッファーとの混合物と第1核酸吸着体を接触させた状態で、ある程度の時間インキュベートした後に、第1の核酸吸着体を分離除去してもよい。
【0040】
工程(a)において、使用する第1の核酸吸着体の量、全血試料と第1のバッファーとの混合物に第1の核酸吸着体を接触させた時点から当該核酸吸着体を分離除去するまでの時間の条件は、全血試料由来のゲノムDNAのほぼ全量が第1の核酸吸着体に吸着され、工程(b)において第2の核酸吸着体に吸着した数万塩基長以上である核酸が検出限界値未満となるように調整することが好ましい。また、全血試料由来の5000塩基長以上である核酸のほぼ全量が第1の核酸吸着体に吸着され、工程(b)において第2の核酸吸着体に吸着した5000塩基長以上である核酸が検出限界値未満となるように調整することがより好ましい。工程(a)において長鎖核酸を充分に第1の核酸吸着体に吸着させて除去することにより、目的の短鎖核酸を選択的に回収することができる。
【0041】
第1のバッファーは、タンパク質分解酵素を含有していてもよい。タンパク質分解酵素により、全血試料中の細胞からの核酸の抽出をより効率よく行うことができる。当該タンパク質分解酵素としては、リゾチーム、プロテイナーゼ、プロテイナーゼK、セルラーゼ等が挙げられる。第1のバッファーがタンパク質分解酵素を含有している場合には、全血試料と第1のバッファーとの混合物を、含有するタンパク質分解酵素が酵素活性を発揮してもよい温度域、好ましくは当該タンパク質分解酵素の酵素活性の至適温度付近において、5分間〜2時間程度インキュベーションすることにより、酵素反応を行うことが好ましい。
当該酵素反応は、全血試料と第1のバッファーとの混合物に第1の核酸吸着体を接触させる前に行ってもよく、接触させた後、第1の核酸吸着体を分離除去する前に行ってもよい。また、当該酵素反応のためのインキュベーションは、抽出された核酸を第1の核酸吸着体に吸着させるためのインキュベーションと兼ねていてもよい。
【0042】
次いで、工程(b)として、工程(a)により回収された液性成分と第2のバッファーとの混合物を第2の核酸吸着体に接触させることにより、前記全血試料由来の1000塩基長以下である短鎖核酸を前記第2の核酸吸着体に吸着させた後、前記第2の核酸吸着体を液性成分から分離回収する。工程(a)により回収された液性成分と第2のバッファーとの混合物を第2の核酸吸着体に接触させる方法や、当該液性成分中の核酸を第2の核酸吸着体に吸着させる方法は、工程(a)における全血試料と第1のバッファーとの混合物を第1の核酸吸着体に接触させる方法や、全血試料由来の核酸を第1の核酸吸着体に吸着させる方法と同様にして行うことができる。また、第2の核酸吸着体の分離回収方法は、第1の核酸吸着体の分離除去と同様にして行うことができる。
【0043】
第1のバッファーにタンパク質分解酵素が含まれていなかった場合には、第2の核酸吸着体を分離回収する前に、タンパク質分解酵素反応を行うことも好ましい。使用するタンパク質分解酵素としては、第1のバッファーに含有させてもよい材料と同様の材料が挙げられる。例えば、第2のバッファーにタンパク質分解酵素を含有させ、工程(a)により回収された液性成分と第2のバッファーとの混合物を、含有するタンパク質分解酵素が酵素活性を発揮することができる温度域、好ましくは当該タンパク質分解酵素の酵素活性の至適温度付近において、5分間〜2時間程度インキュベーションすることにより、酵素反応を行うことが好ましい。
【0044】
工程(b)においてタンパク質分解酵素反応を行う場合には、第2の核酸吸着体と接触させる前にタンパク質分解酵素反応を行うことも好ましい。具体的には、工程(b)を、下記工程(b’)及び(b”)に変更する。工程(b”)において、酵素反応後の液性成分と第2のバッファーとの混合物のアルコール濃度は10容量%以上である。
(1)前記工程(a)により回収された液性成分にタンパク質分解酵素を添加し、酵素反応を行う工程(b’)と、
(2)前記工程(b’)の後、前記液性成分と第2のバッファーとの混合物を第2の核酸吸着体に接触させることにより、前記全血試料由来の1000塩基長以下である短鎖核酸を前記第2の核酸吸着体に吸着させた後、前記第2の核酸吸着体を分離回収する工程(b”)。
【0045】
工程(b’)においては、タンパク質分解酵素と共に、カオトロピック剤又は界面活性剤を新たに添加してもよい。当該カオトロピック剤及び界面活性剤としては、第2のバッファーに含有してもよい材料として挙げられた材料と同種の材料を用いることができる。工程(b’)におけるタンパク質分解酵素反応の反応溶液がカオトロピック剤を含有している場合、当該反応溶液のカオトロピック剤の濃度は、0.5〜2.5mol/Lが好ましい。工程(b’)におけるタンパク質分解酵素反応の反応溶液が界面活性剤を含有している場合、当該反応溶液の界面活性剤の濃度は、3〜15容量%が好ましく、7〜11容量%がより好ましい。
【0046】
工程(b’)においては、タンパク質分解酵素と共に、陽イオン塩を新たに添加してもよい。当該陽イオン塩としては、第2のバッファーに含有してもよい材料として挙げられた材料と同種の材料を用いることができる。工程(b’)におけるタンパク質分解酵素反応の反応溶液が陽イオン塩を含有している場合、当該反応溶液の陽イオン塩の濃度は、10〜200mmol/Lが好ましい。
【0047】
その後、工程(c)として、工程(b)において回収された前記第2の核酸吸着体から核酸を溶出して回収する。第2の核酸吸着体からの核酸の溶出及び回収は、シリカ等に吸着させた核酸を溶出する際に一般的に行われている方法で行うことができる。例えば、溶出用溶液としては水を用いることができる。具体的には、第2の核酸吸着体に水を接触させることにより、当該第2の核酸吸着体に吸着していた核酸を溶出することができる。
【0048】
工程(b)において回収された前記第2の核酸吸着体は、工程(c)の前に、適当な溶液により洗浄してもよい。洗浄用溶液としては、核酸吸着体から核酸が脱離するおそれがなく、かつ新たな塩等の持ち込みもないことから、70〜95容量%のアルコール水溶液が好ましく、70〜95容量%のエタノール水溶液がより好ましい。
【0049】
本実施形態に係る核酸回収方法に供される全血試料は、血球細胞と血漿成分を含む試料であればよい。本実施形態に係る核酸回収方法に供される全血試料としては、ヒトやマウス等の動物から採取された全血をそのまま試料として用いることが好ましいが、全血に、血球成分の少なくとも一部と血漿成分を残すことができる処理を行った試料を、全血試料として工程(a)に供してもよい。当該処理としては、特定の大きさの血球細胞成分のみを除去又は回収するサイズ分離や、特定の表面抗原を提示している血球成分のみを除去又は回収する特異的吸着分離を行うフィルトレーション処理等が挙げられる。
【0050】
本実施形態に係る核酸回収方法において回収される核酸は、DNAであってもよく、RNAであってもよい。また、当該核酸は、一本鎖核酸であってもよく、二本鎖核酸であってもよく、線状核酸であってもよく、プラスミド等の環状核酸であってもよい。また、当該核酸は、後成的(エピジェネティック)に修飾された核酸であってもよい。さらに、全血試料に含有されている核酸であればよく、採血された生物種の細胞の細胞核由来の核酸であってもよく、ミトコンドリア由来の核酸であってもよく、混入していた微生物由来の核酸であってもよく、人工的な又は合成の核酸であってもよい。人工的な又は合成の核酸としては、コスミド、ベクター、cDNA、及びこれらの断片等が挙げられる。
【0051】
本実施形態に係る核酸回収方法は、1000塩基長以下である短鎖核酸を効率よく回収できる。
本実施形態に係る核酸回収方法は、回収する目的の核酸が、800塩基長以下である短鎖核酸であることが好ましく、500塩基長以下である短鎖核酸であることがより好ましく、又は200塩基長
以下であることがさらに好ましい。本実施形態に係る核酸回収方法は、全血中の循環DNAや、非コーディングRNA、miRNA、短鎖の合成核酸等を濃縮・精製するために適している。
【0052】
本実施形態に係る核酸回収方法は、特に、全血中の循環DNAを精製するために適している。従来法においては、末梢血中を自由に循環する腫瘍由来の核酸は、血清又は血漿から精製・回収されていたが、本実施形態に係る核酸回収方法では、核酸吸着体に吸着させる核酸の選択性を利用して、自由に循環する腫瘍由来の核酸を、全血試料から直接精製することができる。また、本実施形態に係る核酸回収方法は、各工程の操作が比較的簡便であるため、自動化への展開も可能である。さらに、本実施形態に係る核酸回収方法により回収された循環DNAは、ゲノムDNA等の長鎖核酸が除去されて精製されているため、様々な分析法に好適に供することができる。すなわち、本実施形態に係る核酸回収方法は、様々な分析法を組み合わせることによって臨床研究・診断分野へ展開可能な方法である。
【0053】
本実施形態に係る核酸回収方法によって得られた短鎖核酸は、いずれの核酸解析に供されてもよいが、特に遺伝子多型や遺伝子変異の解析(遺伝子検査等)に供されることが好ましく、SNP(一塩基多型)や一遺伝子変異の解析に供されることがより好ましい。特に、癌細胞由来の循環DNAを回収する目的の短鎖核酸とした場合には、回収された循環DNAは、癌腫の予後の診断のため、癌腫に侵された人の経過をモニタリングするため、又は悪性腫瘍に対する抗癌治療の効果を観察するため等の様々な目的のための核酸解析に供される。
【0054】
遺伝子解析をはじめとする核酸解析は、一般的に、解析対象の核酸を分析し、分析の結果として得られた情報を解析する。核酸分析は、主に、核酸の塩基配列をシークエンサー等で直接読む方法、特定の塩基配列からなる領域と特異的にハイブリダイズするプライマーを起点としたポリメラーゼ反応を利用する方法、又は特定の塩基配列からなる領域と特異的にハイブリダイズするプローブを用いる方法により行われる。本実施形態に係る核酸回収方法によって得られた短鎖核酸は、通常は多種多様な遺伝子の核酸又はその断片を含むため、解析対象遺伝子は、プライマーとプローブの少なくとも一方を用いる方法によって分析することが好ましい。少なくともプライマーを用いる方法としては、例えば、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法、リアルタイムPCR法、TaqMan(登録商標)−PCR法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、SMAP(SMart Amplification Process)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、RCA(rolling circle amplification)法、及びこれらの改変方法等が挙げられる。また、プローブを用いる方法としては、例えば、Invader(登録商標)法、DNAマイクロアレイ等が挙げられる。これらの方法は、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本実施形態に係る核酸回収方法では、微量の短鎖核酸しか得られない場合がある。このため、本実施形態に係る核酸回収方法により回収された短鎖核酸を解析する方法としては、(1)プローブを用いた核酸増幅反応を利用した分析方法や、(2)第一段階としてPCR等により核酸を増幅させ、第二段階として、第一段階で得られた増幅産物に対して核酸分析を行う方法が好ましい。上記(1)としては、例えば、特定の遺伝子型に特異的なプライマーを用いて伸長反応を行うアレル特異的伸長法、TaqMan−PCR法等が挙げられる。上記(2)としては、例えば、インベーダープラス法、PCR−RFLP(制限酵素断片長多型)法、PCR−SSCP(1本鎖高次構造多型)法等が挙げられる。中でも、解析対象の短鎖核酸の量が非常に微量の場合であっても、高感度かつ高精度に核酸解析を行うことが可能であるため、本実施形態に係る核酸回収方法によって得られた短鎖核酸を、まずPCRによって増幅させた後、得られた増幅産物に対してインベーダー法を行うインベーダープラス法が好ましい。また、PCRなどの核酸増幅工程を必要としない核酸分析法を利用することも可能である。
【0056】
以下に、インベーダープラス法により、特定の遺伝子(解析対象遺伝子)を検出し解析する方法の例を示すが、本実施形態に係る核酸回収方法により回収された短鎖核酸の核酸解析方法は、これに限定されるものではない。
【0057】
まず、本実施形態に係る核酸回収方法により回収された短鎖核酸溶液(工程(c)において、第2の核酸吸着体から核酸を溶出させた溶出液)に、インベーダープラス反応液であるインベーダープラスバッファーと、解析対象遺伝子を検出するためのオリゴミックスと、エンザイムミックスとを混合した後に、変性処理(95℃、2分間加熱)することによりDNAの二重螺旋を一本鎖に融解させる。なお、オリゴミックスは、PCR用プライマー、DNAプローブ、インベイディングオリゴ、FRETカセットから成る。
次に、PCRを行うことにより、解析対象遺伝子に相当する部分の核酸の増幅反応を行った後、ポリメラーゼの失活処理を行い、PCRを停止させる。
最後にインベーダー(登録商標)法を実施し、解析対象遺伝子に対応する核酸配列を有する領域に特異的にハイブリダイズしたDNAプローブを分解させる。次いで、当該分解反応により生成されたDNAの加熱プローブの5’−オリゴヌクレオチドが蛍光色素を持つFRETカセットと結合する。さらに当該FRETカセットが分解されて蛍光色素が当該FRETカセットから遊離して蛍光を発光するようになる。この蛍光を測定することにより、解析対象遺伝子を間接的に検出し測定できる。すなわち、蛍光シグナル強度が対応する解析対象遺伝子の検出量を示す。
【0058】
インベーダー(登録商標)法により解離された蛍光色素の蛍光シグナル強度(例えば、蛍光色素がFAMの場合には、FAMの蛍光シグナル強度(励起波長:485nm、発光波長:535nm)は、蛍光測定装置で測定する。当該蛍光測定装置としては、例えば、ロシュ・アプライド・サイエンス社製の蛍光測定装置LightCycler480等が挙げられる。
【0059】
<短鎖核酸回収用キット>
本発明の第二実施形態に係る核酸回収方法は、使用する試薬等をキット化することにより、より簡便に行うことができる。本実施形態に係る核酸回収方法を実施するためのキットとしては、前記第1のバッファーと、前記第2のバッファーと、前記第1の核酸吸着体及び前記第2の核酸吸着体として用いられる核酸吸着体と、を含有することが好ましい。前記第1のバッファーは、混合物のアルコール濃度が5容量%以下となるように全血試料と混合されるバッファーである。前記第2のバッファーは、前記第1のバッファーと前記全血試料との混合物に核酸吸着体を接触させた後に当該核酸吸着体を分離除去した液性成分に、混合物のアルコール濃度が10容量%以上となるように混合されるバッファーである。その他、当該キットは、必要に応じて第1のバッファー等に添加するためのタンパク質分解酵素、核酸を吸着させた第2の核酸吸着体を洗浄するための洗浄用溶液、核酸を吸着させた第2の核酸吸着体から核酸を溶出するための溶出液等を含有していてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0061】
[参考例1]
200bp、500bp、1000bpのdsDNAフラグメントスタンダードサンプル(Gensura Laboratories社製)、及びヒトゲノムDNA(GEN Script社製)について、バッファー1(グアニジン塩酸塩 3mol/L、Triton X 10容量%)又はバッファー2(グアニジンチオシアネート 1.2mol/L、Tween20 10容量%、イソプロパノール 40容量%、MgCl
2 100mmol/L)に溶解させた状態におけるシリカメンブレンフィルター(核酸吸着体に相当)への吸着性を調べた。なお、バッファー1は、本発明の第一実施形態に係る核酸回収方法において用いられる第1のバッファーに相当し、バッファー2は、本実施形態に係る核酸回収方法において用いられる第2のバッファーに相当する。
具体的には、1000ngのDNAを前記バッファー1又はバッファー2に溶解させたDNA溶液をシリカメンブレンフィルターに通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターにDNAを吸着させた。次いで、当該シリカメンブレンフィルターに精製水を通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターからDNAを溶出させた。
【0062】
得られた溶出液中のDNA濃度を、PicoGreen試薬(Invitrogen社)により測定し、溶出液中の総DNA量(DNA回収量)を算出した。当該溶出液中の総DNA量は、シリカメンブレンフィルターへの吸着量に相当する。算出された溶出液中の総DNA量と、シリカメンブレンフィルターに通過させたDNA溶液の総DNA量(1000ng)から、シリカメンブレンフィルターを用いたDNA回収率(%)を算出した(算出式:[溶出液中の総DNA量(ng)]/[1000(ng)]×100)。求めた回収率を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、イソプロピルアルコール濃度が40容量%のバッファー2に溶解させたDNAの場合には、DNAの長さにかかわらず、DNA回収率は80%以上と非常に高かった。一方で、アルコールを含有していないバッファー1に溶解させたDNAの場合のDNA回収率は、ゲノムDNAでは80%以上と高かったが、1000bpのdsDNA(二本鎖DNA)では30%程度しかなく、500bp及び200bpのdsDNAでは10%未満と非常に低く、1000bp以下の短鎖核酸はほとんどシリカメンブレンフィルターに吸着しないことがわかった。これらの結果から、核酸吸着体に核酸を吸着させる際に、アルコール非存在下では、1000bp以下の短鎖核酸はほとんど吸着せず、血球細胞由来のゲノムDNA等の長鎖核酸が優先的に吸着することがわかった。また、これらの結果から、イソプロパノール濃度が40容量%の環境下では、1000bp以下、特に800bp以下という短鎖核酸も核酸吸着体に強く吸着し回収できることがわかった。これらの結果から、全血試料由来の核酸を、まずアルコール非存在下で核酸吸着体に吸着させて除去することにより、1000bp以下の短鎖核酸を液性成分に残しつつ、長鎖核酸を選択的に除去できること、次いで、核酸吸着体を除去した残りの液性成分に、新たに核酸吸着体を高濃度のアルコール存在下で接触させて核酸を吸着させることにより、循環DNAを含む1000bp以下の短鎖核酸、特に800bp以下の短鎖核酸を回収できることが示唆された。
本発明の実施形態での各バッファーのpHは7.5〜8.0の間であった。
【0065】
[参考例2]
市販のヒト血漿及びヒト血清(いずれも、Lonza社製)に対して、タンパク質分解酵素による酵素処理を行った後に、短鎖核酸を回収した。タンパク質分解酵素としてプロテイナーゼK(Merck社製)を用いた。
具体的には、まず、5mLのヒト血漿又はヒト血清に、500μLのプロテイナーゼK及び5mLのバッファー3(グアニジンチオシアネート 2.0 mol/L、Tween20 15容量%)を添加して混合し、酵素反応溶液を調製した。得られた酵素反応溶液を、52℃、30分間インキュベートすることにより、酵素反応を行い、その後、70℃、10分間加熱することによりプロテイナーゼKを失活させた。
次いで、失活処理後の反応溶液に、10mLのバッファー4(グアニジンチオシアネート 1.5mol/L、Tween20 10容量%、イソプロパノール 40容量%、MgCl
2 100mmol/L)を添加して混合した。なお、バッファー4は、本発明の第一実施形態に係る核酸回収方法において用いられる第2のバッファーに相当し、得られた混合物のアルコール濃度はおよそ20容量%であった。当該混合物をシリカメンブレンフィルターに通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターにDNAを吸着させた。次いで、当該シリカメンブレンフィルターに70質量%のエタノール水溶液を透過させて洗浄した後、精製水を通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターからDNAを溶出させた。
得られた溶出液中のDNA量(回収されたDNA量)を参考例1と同様にして求め、ヒト血漿又はヒト血清1mL当たりのDNA回収量(サンプル1mL当たりのDNA回収量(ng/サンプル1mL))を算出した。また、回収されたDNAの純度を調べるために、溶出液の280nmの吸光度(A280)に対する260nmの吸光度(A260)の割合([A260]/[A280])を求めた。
【0066】
対照として、市販の核酸精製キットQIAamp Circulating Nucleic Acid Kit(キアゲン社製)を用いて、当該キットに添付の取扱説明書に従い、バッファー3及び4を用いた方法(以下、「工程(b’)+(b”)変法」と示す)と等量のヒト血漿又はヒト血清から核酸を精製した。回収されたDNA溶液中のDNA量(回収されたDNA量)、ヒト血漿又はヒト血清1mL当たりのDNA回収量(ng/サンプル1mL)、及び純度([A260]/[A280])を、工程(b’)+(b”)変法で回収した溶出液と同様にして求めた。
【0067】
各測定は3回の独立した試行を行い、平均と標準偏差を求めた。結果を表2に示す。この結果、ヒト血漿から核酸を回収した場合には、工程(b’)+(b”)変法と市販の核酸精製キットを用いた方法では、DNAの回収量と、回収されたDNAの純度はいずれも同程度であった。また、ヒト血清から核酸を回収した場合には、工程(b’)+(b”)変法では、市販の核酸精製キットを用いた方法と同程度に高純度のDNAを、市販の核酸精製キットを用いた方法よりも多量に回収できた。
【0068】
【表2】
【0069】
[参考例3]
ヒト全血中の核酸を、本発明の第一実施形態に係る核酸回収方法において用いられる第1のバッファーとシリカメンブレンフィルター(核酸吸着体)を用いて回収した。当該第1のバッファーとして、参考例1で用いたバッファー1を用いた。
具体的には、100μLのヒト全血を500μLのバッファー1と混合した混合物を、シリカメンブレンフィルターに通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターにヒト全血由来の核酸を吸着させた。次いで、当該シリカメンブレンフィルターに70(質量/容量)%のエタノール水溶液を透過させて洗浄した後、精製水を通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターから核酸を溶出させた。
得られた溶出液中に含まれるDNAの鎖長を、アガロース電気泳動により確認した。電気泳動の結果を
図1に示す。
図1中、左レーン(M)は、1kbp LadderDNAマーカーの泳動の結果であり、右レーン(S)が溶出液の泳動の結果である。
図1に示すように、溶出液には、鎖長の長いDNAしか含まれていないこと、特に1kbpマーカーよりも小さいバンドは全く確認されなかった。これらの結果から、本実施形態に係る核酸回収方法において用いられる第1のバッファーと全血試料とを混合した混合物から核酸吸着体により核酸を吸着させた場合には、長鎖核酸が選択的に吸着され、短鎖核酸は吸着されないことが示された。すなわち、本実施形態に係る核酸回収方法の工程(a)において、循環DNAを含む短鎖核酸を意図に反して回収してしまう恐れがないことが示された。
【0070】
[参考例4]
200bp、500bp、1000bpのDNAが核酸吸着体に吸着する強さにおけるアルコール濃度の影響を調べた。dsDNAとしては、参考例1で使用した200bp、500bp、1000bpのdsDNAフラグメントスタンダードサンプルを用いた。また、DNAを溶解させるバッファーとして、アルコール非含有のバッファー4−1(グアニジン塩酸塩 3mol/L、Triton X 10容量%)、5容量%アルコール含有のバッファー4−2(グアニジン塩酸塩 3mol/L、Triton X 10容量%、イソプロパノール 5容量%)、及び10容量%アルコール含有のバッファー4−2(グアニジン塩酸塩 3mol/L、Triton X 10容量%、イソプロパノール 10容量%)を用いた。
【0071】
具体的には、1000ngのDNAを前記バッファー4−1、4−2、又は4−3に溶解させたDNA溶液をシリカメンブレンフィルターに通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターにDNAを吸着させた。次いで、当該シリカメンブレンフィルターに精製水を通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターからDNAを溶出させた。
【0072】
得られた溶出液中の総DNA量(回収されたDNA量)及びDNA回収率(%)を参考例1と同様にして求めた。結果を表3に示す。この結果、イソプロパノール濃度が5容量%であるバッファー4−2を用いた場合には、イソプロパノール濃度が0容量%であるバッファー4−1を用いた場合と同様に、200bp及び500bpのDNAはほとんど回収できなかった。これに対して、イソプロパノール濃度が10容量%であるバッファー4−3を用いた場合には、200bpのDNA回収率が20%以上、500bpのDNA回収率が50%以上と飛躍的に高くなっていた。これらの結果から、本発明の第一実施形態に係る核酸回収方法において、第1のバッファーがアルコールを含有する場合には、第1のバッファーと全血試料との混合物のアルコール濃度が5容量%以下となるように調整することにより、短鎖核酸の損失を抑制できることが示唆された。
【0073】
【表3】
【0074】
[実施例1]
ヒト全血試料から、本発明の第一実施形態に係る核酸回収方法により、短鎖核酸を回収した。また、核酸を回収したヒト全血試料と等量の同提供者由来のヒト全血から調製されたヒト血清試料から、本実施形態に係る核酸回収方法のうちの工程(b)及び(c)により、短鎖核酸を回収した。
【0075】
ヒト全血試料からの核酸回収は、具体的には、1mLのヒト全血試料と5mLの参考例1で用いたバッファー1とを混合し、調製された混合物を、シリカメンブレンフィルターに通過させた。当該シリカメンブレンフィルターを透過した溶液(液性成分)5mLに、600μLのプロテイナーゼKと6mLの参考例2で用いたバッファー3とを添加して混合し、酵素反応溶液を調製した。得られた酵素反応溶液を、52℃、30分間インキュベートすることにより、酵素反応を行い、その後、70℃、10分間加熱することによりプロテイナーゼKを失活させた。
次いで、失活処理後の反応溶液に、12mLの参考例2で用いたバッファー4を添加して混合した。得られた混合物のアルコール濃度はおよそ20容量%であった。当該混合物をシリカメンブレンフィルターに通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターにDNAを吸着させた。次いで、当該シリカメンブレンフィルターに70(質量/容量)%のエタノール水溶液を透過させて洗浄した後、精製水を通過させることにより、当該シリカメンブレンフィルターからDNAを溶出させた。
【0076】
ヒト血清試料からの核酸回収は、具体的には、1mLのヒト全血試料から調製されたヒト血清試料(500μL)に、50μLのプロテイナーゼKと500μLの参考例2で用いたバッファー3を添加して混合し、酵素反応溶液を調製した。ヒト全血試料からの核酸回収と同様にして、得られた酵素反応溶液を酵素反応した後、失活処理した反応溶液にバッファー4を添加した混合物をシリカメンブレンフィルターに通過させ、当該シリカメンブレンフィルターに吸着した核酸を溶出させた。
【0077】
参考例2と同様にして、得られた溶出液中のDNA量(回収されたDNA量)及び純度([A260]/[A280])を求めた。結果を表4に示す。表4に示すように、ヒト全血試料から回収されたDNA回収量は、ヒト血清試料から回収された量とほぼ同程度であった。このことから、本実施形態に係る核酸回収方法により、全血試料から、血球細胞由来のゲノムDNA等の長鎖核酸を選択的に除去し、目的とする循環DNAを含む短鎖核酸を選択的に回収できることが示唆された。
【0078】
【表4】
【0079】
参考例3と同様にして、上記本実施形態に係る核酸回収方法によりヒト全血試料から得られたDNAの鎖長を、アクリルアミドゲル電気泳動により確認した。電気泳動の結果を
図2に示す。
図2中、左レーン(M)は、100bp LadderDNAマーカーの泳動の結果であり、右レーン(S)が溶出液の泳動の結果である。
図2に示すように、溶出液には、鎖長の短い断片化されたDNAしか含まれていないこと、特に1000bpマーカーよりも大きいバンドは全く確認されなかった。また、バンドがスメアになっていることから、断片化されている様子が確認できた。
これらのことから本実施形態に係る核酸回収方法により、全血試料から、血球細胞由来のゲノムDNA等の長鎖核酸を選択的に除去し、目的とする循環DNAを含む短鎖核酸を選択的に回収できることが示唆された。
[実施例2]
ヒト全血試料から、本発明の第一実施形態に係る核酸回収方法のうちの工程(b)及び(c)により、短鎖核酸を回収した。すなわち、実施例2においては、本実施形態に係る核酸回収方法のうちの工程(b)及び(c)のみにより、短鎖核酸を回収し、工程(a)を行わなかった。
【0080】
ヒト全血試料からの核酸回収は、具体的には、500μLのヒト全血試料(実施例1と同じ試料)に、50μLのプロテイナーゼKと500μLの参考例2で用いたバッファー3を添加して混合し、酵素反応溶液を調製した。ヒト全血試料からの核酸回収と同様にして、得られた酵素反応溶液を酵素反応した後、失活処理した反応溶液にバッファー4を添加した混合物をシリカメンブレンフィルターに通過させ、当該シリカメンブレンフィルターに吸着した核酸を溶出させた。
【0081】
参考例2と同様にして、得られた溶出液中のDNA量(回収されたDNA量)及び純度([A260]/[A280])を求めた。結果を表5に示す。表5に示すように、ヒト全血試料から回収されたDNA回収量は、実施例1のヒト血清試料から回収されたDNA量(表4)に比べ顕著に多い量であることが分かった。
【0082】
【表5】
【0083】
参考例3と同様にして、ヒト全血試料から得られたDNAの鎖長を、アガロースゲル電気泳動により確認した。電気泳動の結果を
図3に示す。
図3中、左レーン(M)は、1kbp LadderDNAマーカーの泳動の結果であり、右レーン(S)が溶出液の泳動の結果である。
図3に示すように、溶出液には、鎖長の長いDNAしか含まれていないこと、特に1kbpマーカーよりも小さいバンドは全く確認されなかった。
これらの結果から、本実施形態に係る核酸回収方法において、(工程(a)を行わずに、)工程(b)及び(c)により、短鎖核酸を回収した場合には、長鎖核酸が優先的に吸着され、短鎖核酸は吸着されないことが明らかとなった。
すなわち、本実施形態に係る核酸回収方法の工程(a)において、血球細胞由来のゲノムDNA等の長鎖核酸を予め除去する処理の重要性が示唆された。
[実施例3]
ヒト全血試料から、本発明の第一実施形態に係る核酸回収方法により、短鎖核酸を回収した。
【0084】
ヒト全血試料からの核酸回収は、具体的には、参考例2で用いたバッファー3、4においてイソプロパノールの替わりにエタノールを混合させたバッファー5、6を用いて実施例1と同様の手順にてDNAを溶出させた。
【0085】
参考例2と同様にして、得られた溶出液中のDNA量(回収されたDNA量)及び純度([A260]/[A280])を求めた。結果を表6に示す。表6に示すように、ヒト全血試料から回収されたDNA回収量は、イソプロパノールを用いた実施例1の結果(表4)と比較して、僅かながら少なかった。
このことから、本実施形態に係る核酸回収方法において、イソプロパノールの代用としてエタノールを用いた場合でも全血試料から、血球細胞由来のゲノムDNA等の長鎖核酸を選択的に除去し、目的とする循環DNAを含む短鎖核酸を選択的に回収できることが明らかとなった。ただし、本実施形態に係る核酸回収方法においては、イソプロパノールを用いた場合がエタノールを用いた場合よりも好ましいことが明らかとなった。
【0086】
【表6】
[実施例4]
ヒト全血試料から、本発明の第一実施形態に係る核酸回収方法において、酵素処理(プロテアーゼ処理)を行わずに、短鎖核酸を回収した。
【0087】
ヒト全血試料からの核酸回収は、具体的には、プロテアーゼ処理を行わないことを除いては、参考例1で用いたバッファー1、2を用いて実施例1と同様の手順にてDNAを溶出させた。
【0088】
参考例2と同様にして、得られた溶出液中のDNA量(回収されたDNA量)及び純度([A260]/[A280])を求めた。結果を表7に示す。表7に示すように、ヒト全血試料から回収されたDNA回収量は、実施例1の結果(表4)と比較して、僅かながら少なかった。
このことから、本実施形態に係る核酸回収方法において、プロテアーゼ処理のない場合でも全血試料から、血球細胞由来のゲノムDNA等の長鎖核酸を選択的に除去し、目的とする循環DNAを含む短鎖核酸を選択的に回収できることが示唆された。
【0089】
【表7】