(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記封止剤は、前記露出部において前記導体の外周を被覆する領域と連続して、前記被覆部の前記露出部に隣接する端部において、前記絶縁被覆の外周を被覆していることを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線。
前記露出部における単位長さあたりの前記導電性材料の密度が、前記被覆部の前記遠隔域における単位長さあたりの前記導電性材料の密度の1.01倍以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
前記露出部における単位長さあたりの前記導電性材料の密度が、前記被覆部の前記遠隔域における単位長さあたりの前記導電性材料の密度の1.5倍以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
前記絶縁電線は、前記露出部を、前記絶縁電線の長手軸方向の中途部に有し、単位長さあたりの前記導電性材料の密度が、前記露出部において、前記露出部の両側に位置する前記被覆部のうち、少なくとも、前記露出部の両側に隣接した領域を除く遠隔域よりも高くなっていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように絶縁電線に止水処理を行うに際し、導体を構成する素線の間に十分に封止剤を浸透させる必要がある。そのためには、封止剤として、低粘度のものを用いる必要があり、使用可能な封止剤の種類が限定されてしまう。
【0006】
また、素線間への封止剤の浸透には、場所ごと、個体ごとのばらつきが生じやすく、止水性能の信頼性が低くなってしまう。特許文献1においては、芯線間の小さい隙間にも止水材を確実に浸透させることを目的として、被覆電線の一部を加圧室に収容し、加圧室内に送り込んだ気体を被覆電線の絶縁被覆内を通して加圧室外に排出しながら、ホットメルト材よりなる止水材を芯線の間に強制的に浸透させている。このような特殊性の高い方法を用いる場合には、素線間に封止剤を確実に浸透させられるとしても、止水処理の工程が煩雑化してしまう。
【0007】
さらに、低粘度の封止剤を用いる場合には、封止剤を、流出や垂下を避けて導体の外周に留まらせることが難しい。よって、止水部において、導体の外周に絶縁体の層を設けたい場合には、上記の収縮チューブのように、別部材としての保護材を設けることが必要となる。すると、止水部の構成や止水処理の工程が煩雑化する。
【0008】
本発明の課題は、簡素な構成および工程で製造できる止水部を有する絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明にかかる第一の絶縁電線は、導電性材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線において、前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を長手軸方向に沿って隣接して有し、単位長さあたりの前記導電性材料の密度が、前記露出部において、前記被覆部のうち、少なくとも、前記露出部に隣接した領域を除く遠隔域よりも高くなっており、前記露出部における前記素線の間の空間に、絶縁性材料よりなる封止剤が充填されている、というものである。
【0010】
ここで、前記露出部において、前記封止剤は、前記素線の間の空間と連続して、前記導体の外周を被覆しているとよい。この場合に、前記封止剤は、前記露出部において前記導体の外周を被覆する領域と連続して、前記被覆部の前記露出部に隣接する端部において、前記絶縁被覆の外周を被覆しているとよい。
【0011】
また、前記露出部における単位長さあたりの前記導電性材料の密度が、前記被覆部の前記遠隔域における単位長さあたりの前記導電性材料の密度の1.01倍以上であるとよい。前記露出部における単位長さあたりの前記導電性材料の密度が、前記被覆部の前記遠隔域における単位長さあたりの前記導電性材料の密度の1.5倍以下であるとよい。前記素線の撚りピッチが、前記露出部において、前記被覆部の前記遠隔域よりも小さいとよい。
【0012】
前記絶縁電線は、前記露出部を、前記絶縁電線の長手軸方向の中途部に有し、単位長さあたりの前記導電性材料の密度が、前記露出部において、前記露出部の両側に位置する前記被覆部のうち、少なくとも、前記露出部の両側に隣接した領域を除く遠隔域よりも高くなっているとよい。
【0013】
本発明にかかる第二の絶縁電線は、導電性材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線において、前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を長手軸方向に沿って隣接して有し、前記露出部において、前記素線の間の空間に、絶縁性材料よりなる封止剤が充填されているとともに、前記封止剤が、前記素線の間の空間と連続して、前記導体の外周を被覆している、というものである。
【0014】
ここで、前記封止剤は、前記露出部において前記導体の外周を被覆する領域と連続して、前記被覆部の前記露出部に隣接する端部において、前記絶縁被覆の外周を被覆しているとよい。
【0015】
上記第一および第二の絶縁電線において、前記封止剤は、硬化性樹脂組成物よりなるとよい。
【発明の効果】
【0016】
上記発明にかかる第一の絶縁電線においては、露出部における単位長さあたりの導電性材料の密度が、隣接する被覆部の遠隔域よりも高くなっている。そのため、露出部において、素線間に大きな空隙を設け、その状態で素線間に封止剤を充填したものとすることができる。その結果、封止剤の浸透のために特別な操作を行わなくても、露出部の素線の間の空間に封止剤が高い均一性をもって浸透されやすく、素線間において、高い止水性能を有する止水部を備えた絶縁電線とすることができる。このように、簡素な製造工程で、簡素な構成を有する止水部を、絶縁電線に形成することができる。特に、粘度が比較的高い封止剤を用いた場合でも、封止剤を素線間の空間に浸透させやすいため、導体の外周にも絶縁材料を設けたい場合に、封止剤の粘度を利用して、導体の外周に封止剤を留まらせやすく、収縮チューブ等、別部材としての絶縁材料を配置する必要がなくなる。
【0017】
ここで、露出部において、封止剤が、素線の間の空間と連続して、導体の外周を被覆している場合には、導体の外周に配置された封止剤が、止水部を物理的に保護する保護部材の役割を果たしうる。
【0018】
この場合に、封止剤が、露出部において導体の外周を被覆する領域と連続して、被覆部の露出部に隣接する端部において、絶縁被覆の外周を被覆している構成によれば、封止剤によって、被覆部の絶縁被覆と導体の間の止水も行うことができる。
【0019】
また、露出部における単位長さあたりの導電性材料の密度が、被覆部の遠隔域における単位長さあたりの導電性材料の密度の1.01倍以上である場合には、素線の間の空間を十分に広くした状態で封止剤が素線間の空間に充填されることになるので、封止剤が特に素線の間に浸透しやすく、高い止水性能を有する絶縁電線を得やすい。
【0020】
露出部における単位長さあたりの導電性材料の密度が、被覆部の遠隔域における単位長さあたりの導電性材料の密度の1.5倍以下である場合には、露出部における単位長さあたりの導電性材料の密度を過度に高めることなく、止水性能を向上させることができる。
【0021】
素線の撚りピッチが、露出部において、被覆部の遠隔域よりも小さい場合には、止水作業の途中において、露出部の素線の間の空間に充填された封止剤が、素線の間の空間に保持されやすく、得られる絶縁電線において、高い止水性能が達成されやすい。
【0022】
絶縁電線が、露出部を、絶縁電線の長手軸方向の中途部に有し、単位長さあたりの導電性材料の密度が、露出部において、露出部の両側に位置する被覆部のうち、少なくとも、露出部の両側に隣接した領域を除く遠隔域よりも高くなっている場合には、露出部が絶縁電線の端部に設けられる場合よりも、露出部における単位長さあたりの導電性材料の密度を高めやすく、封止剤の均一な充填によって高い止水性能を有する絶縁電線が得られやすい。
【0023】
上記発明にかかる第二の絶縁電線においては、露出部において、素線の間の空間と、導体の外周に、共通の封止剤が連続して配置されている。このように、素線の間の止水と、導体の外周の被覆とを、同じ封止剤によって行うことで、簡素な製造工程で、簡素な構成を有する止水部を、絶縁電線に形成することができる。
【0024】
ここで、封止剤が、露出部において導体の外周を被覆する領域と連続して、被覆部の露出部に隣接する端部において、絶縁被覆の外周を被覆している場合には、封止剤によって、被覆部の絶縁被覆と導体の間の止水も行うことができる。
【0025】
上記第一および第二の絶縁電線において、封止剤が、硬化性樹脂組成物よりなる場合には、封止剤を、未硬化の状態で、露出部の素線間の領域、さらには導体の外周部や隣接する被覆部の絶縁被覆の外周部に配置し、その状態で硬化させることで、それらの領域において、高い止水性能および保護性能を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて本発明の実施形態にかかる絶縁電線について、詳細に説明する。
【0028】
[第一の実施形態にかかる絶縁電線]
図1〜3に、本発明の第一の実施形態にかかる絶縁電線1、および絶縁電線1を構成する導体2の概略を示す。
【0029】
(絶縁電線の概略)
絶縁電線1は、導電性材料よりなる素線2aが複数撚り合わせられた導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆3と、を有している。そして、絶縁電線1の長手軸方向の中途部に、止水部4が形成されている。
【0030】
導体2を構成する素線2aは、いかなる導電性材料よりなってもよいが、絶縁電線の導体の材料としては、銅を用いることが一般的である。銅以外にも、アルミニウム、マグネシウム、鉄などの金属材料を用いることもできる。これらの金属材料は、合金であってもよい。合金とするための他の金属材料としては、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン、これらの組み合わせなどが挙げられる。全ての素線2aが同じ金属材料よりなっても、複数の金属材料よりなる素線2aが混合されてもよい。
【0031】
導体2における素線2aの撚り合わせ構造は、特に指定されないが、止水部4を形成する際に、露出部10において素線2aの間隔を広げやすい等の観点からは、単純な撚り合わせ構造を有していることが好ましい。例えば、複数の素線2aを撚り合わせてなる撚線を複数集合させて、さらに撚り合わせる親子撚構造よりも、全ての素線2aを一括して撚り合わせた構造とする方が良い。また、導体2全体や各素線2aの径も特に指定されるものではないが、導体2全体および各素線2aの径が小さい場合ほど、止水部4において、素線2aの間の微細な隙間に封止剤を充填して止水の信頼性を高めることの効果および意義が大きくなるので、おおむね、導体断面積を8mm
2以下、素線径を0.45mm以下とするとよい。
【0032】
絶縁被覆3を構成する材料も、絶縁性の高分子材料であれば、特に指定されるものではなく、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、オレフィン系樹脂等を挙げることができる。また、高分子材料に加えて、適宜フィラーや添加剤を含有してもよい。さらに、高分子材料は架橋されていてもよい。
【0033】
止水部4には、絶縁被覆3が導体2の外周から除去された露出部10が含まれている。そして、露出部10において、導体2を構成する素線2aの間の空間に、封止剤5が充填されている。
【0034】
封止剤5は、露出部10の素線2aの間の空間と連続して、露出部10の導体2の外周も被覆していることが好ましい。さらに、封止剤5は、それら露出部10の素線2aの間の空間および外周部と連続して、露出部10の両側に隣接する被覆部20の端部の外周、つまり絶縁被覆3が導体2の外周を被覆したままの状態にある領域の端部の絶縁被覆3の外周にも配置されていることが好ましい。この場合には、封止剤5は、露出部10の一方側に位置する被覆部20の端部から他方側に位置する被覆部20の端部までにわたる領域の外周、好ましくは全周を連続して被覆するとともに、それら外周部と連続して、露出部10の素線2aの間の領域に充填された状態にある。
【0035】
封止剤5を構成する材料は、水等の流体を容易に透過させず、止水性を発揮することのできる絶縁性材料であれば、特に限定されないが、絶縁性樹脂組成物、特に、流動性の高い状態で素線2aの間の空間に均一に充填しやすい等の理由で、熱可塑性樹脂組成物、または硬化性樹脂組成物よりなることが好ましい。それらの樹脂組成物を流動性の高い状態で素線2aの間や露出部10と被覆部20の端部の外周(外周域)に配置した後、流動性の低い状態とすることで、止水性能の高い止水部4を安定して形成することができる。中でも、硬化性樹脂を用いることが好ましい。硬化性樹脂としては、熱硬化性、光硬化性、湿気硬化性、二液反応硬化性等の硬化性をいずれか1つまたは複数有するものであるとよい。
【0036】
封止剤5を構成する具体的な樹脂種は、特に限定されるものではない。シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等を例示することができる。これらの樹脂材料には、適宜、封止剤としての樹脂材料の特性を損なわない限りにおいて、各種添加剤を添加してもよい。また、構成の簡素性の観点からは、封止剤5を1種のみ用いることが好ましいが、必要に応じて、2種以上を混合または積層等して用いてもよい。
【0037】
封止剤5としては、充填時の状態において、4000mPa・s以上、さらには5000mPa・s以上、10,000mPa・s以上の粘度を有する樹脂組成物を用いることが好ましい。素線2aの間の領域や外周域、特に外周域に、封止剤5を配置した際に、流出や垂下等を起こさずに、それらの領域に均一性の高い状態で保持されやすいからである。一方、封止剤5の充填時の粘度は、200,000mPa・s以下に抑えられていることが好ましい。粘度が高すぎると、素線2aの間の領域に十分に浸透させることが難しくなるからである。
【0038】
上記のように、封止剤5が露出部10の素線2aの間の空間に充填されることで、素線2aの間の領域が止水され、素線2aの間の領域に、水等の流体が外部から進入するのが防止される。加えて、封止剤5は、露出部10の導体2の外周部を被覆することで、露出部10を物理的に保護する役割を果たす。さらに、露出部10に隣接する被覆部20の端部の外周も一体に被覆することで、絶縁被覆3と導体2の間の止水、つまり絶縁被覆3と導体2の間の空間に水等の流体が外部から進入するのを防止する役割も果たす。
【0039】
図4に示すように、従来一般の絶縁電線91の止水部94においては、止水部94の物理的な保護と、絶縁被覆93と導体92の間の止水を目的として、封止剤95を充填した部位の外周に、収縮チューブ等、別部材としての保護材99を設けていた。しかし、上記のように、共通の封止剤5を、素線2aの間の領域に加えて、外周域にも配置することで、素線間の止水材としての役割と、保護材としての役割を兼ねさせることができるので、封止剤5の外周にさらに別部材としての保護材を設ける必要がなくなる。これにより、止水部4の構成および製造工程を簡素なものとすること、保護材の設置に要するコストを削減することができる。また、保護材による絶縁電線1の大径化、さらには絶縁電線1を含むワイヤーハーネス全体の大径化を回避することができる。ただし、本実施形態において、封止剤5の外周にさらに別部材としての保護材を設けることを妨げるものではない。そのような場合をはじめ、封止剤5を、外周域には配置せず、素線2aの間の空間にのみ配置するものとしてもよい。
【0040】
なお、本実施形態においては、需要の大きさや、素線2aの間隔の広げやすさ等の観点から、止水部4を、絶縁電線1の長手軸方向中途部に設けているが、同様の止水部4を、絶縁電線1の長軸方向端部に設けてもよい。その場合、絶縁電線1の端部は、端子金具等、別の部材を接続した状態にあっても、何も接続していない状態にあってもよい。また、封止剤5に被覆された止水部4の中に、導体2および絶縁被覆3に加えて、接続部材等、別の部材を含んでもよい。別の部材を含む場合の例として、複数の絶縁電線1を接合したスプライス部に止水部4を設ける形態を挙げることができる。
【0041】
(止水部における導体の状態)
本実施形態にかかる絶縁電線1を構成する導体2においては、導電性材料の単位長さあたり(絶縁電線1の長手軸方向における単位長さあたり)の導電性材料の密度が、均一になっておらず、不均一な分布を有している。なお、絶縁電線1の長手軸方向全域にわたって、各素線2aは連続した略均一な径の線材として設けられており、本明細書において、導電性材料の単位長さあたりの密度が領域間で異なる状態とは、素線2aの径や本数は一定であるが、撚り合わせの状態等、素線2aの集合状態が変化している状態を指す。
【0042】
具体的には、導体2における単位長さあたりの導電性材料の密度が、露出部10において、被覆部20よりも高くなっている。ただし、被覆部20において、露出部10にすぐ隣接する部位においては、部分的に、露出部10よりも単位長さあたりの導電性材料の密度が低くなっている領域(隣接域21)が存在する可能性がある。本実施形態における導体2においては、被覆部20全体のうち、そのような隣接域21を除いた遠隔域22との比較において、露出部10における単位長さあたりの導電性材料の密度が規定されている。つまり、単位長さあたりの導電性材料の密度が、露出部10において、被覆部20の遠隔域22よりも高くなっている。遠隔域22においては、単位長さあたりの導電性材料の密度をはじめとする導体2の状態は、止水部4を設けないままの絶縁電線1における状態と実質的に等しい。
【0043】
なお、隣接域21において、単位長さあたりの導電性材料の密度が低くなりうる理由としては、露出部10への導電性材料の充当、露出部10と被覆部20の間の連続性確保のための導体2の変形等を挙げることができる。おおむね、露出部10の端部から、露出部10と同じ長さあるいはそれ以上の長さの領域を避けるように、遠隔域22を設定すれば、十分に隣接部21を避けることができる。ただし、単位長さあたりの導電性材料の密度が局所的に低くなった隣接域21は必ず存在するものではなく、単位長さあたりの導電性材料の密度が止水部4を設けないままの状態から変化していない部位が、露出部10に直接隣接していてもよい。つまり、単位長さあたりの導電性材料の密度が、露出部10において、被覆部20のうち、少なくとも、露出部10から十分に離れた遠隔域22よりも、高くなっていればよい。
【0044】
図1に、上記のような導電性材料の密度の分布を含む導体2の状態を模式的に示す。
図1においては、導体2が占める領域の内部に斜線を付しているが、その斜線の密度が高いほど、素線2aの撚りピッチが小さい、つまり素線2aの間隔が狭いことを示している。また、導体2として示している領域の幅(上下の寸法)が広いほど、導体2の径が大きく広がっていることを示している。ただし、それら図示したパラメータは、素線2aの撚りピッチおよび導体径に比例するものではなく、領域ごとの相対的な大小関係を模式的に示すものである。また、図示したパラメータは、各領域の間で不連続になっているが、実際の絶縁電線1においては、導体2の状態が領域間で連続的に変化している。
【0045】
図1,3に示すように、露出部10においては、被覆部20の遠隔域22よりも、導体2の径が大きく広がっており、導体2を構成する素線2aが、撓んだ状態で封止剤5によって相互に固定されている。素線2aの撓みにより、露出部10においては、遠隔域22よりも、単位長さあたりの導電性材料の密度が高くなっている。つまり、単位長さあたりに含まれる導電性材料の質量が大きくなっている。
【0046】
露出部10においては、導電性材料の単位長さあたりの密度が被覆部20の遠隔域22よりも高くなっていることで、導体2の径が広がった状態において、素線2aの間隔を広く取り、素線2aの間に大きな空間を確保することができる。その結果、素線2aの間の空間に封止剤5を浸透させやすくなり、露出部10の各部に、封止剤5を、ムラなく高い均一性をもって充填しやすくなる。すると、露出部10の素線2aの間の領域において、信頼性の高い止水を達成することができる。そのような止水性能向上の効果を十分に得る観点から、露出部10における単位長さあたりの導電性材料の密度は、遠隔域22における単位長さあたりの導電性材料の密度を基準として、1.01倍以上(101%以上)、さらには1.2倍以上(120%以上)であることが好ましい。
【0047】
一方、露出部10における単位長さあたりの導電性材料の密度を過度に高めると、露出部10や被覆部20において導体2に負荷が生じる可能性があり、また、素線2aの間隔が広がりすぎて封止剤5を素線2aの間の空間に留めることが難しくなる。よって、露出部10における単位長さあたりの導電性材料の密度は、遠隔域22における単位長さあたりの導電性材料の密度を基準として、1.5倍以下(150%以下)であることが好ましい。
【0048】
さらに、露出部10における素線2aの撚りピッチが、被覆部20の遠隔域22における撚りピッチよりも小さいことが好ましい。露出部10において、素線2aの撚りピッチが小さくなり、素線2aの間隔が狭くなっていることも、止水性能の向上に効果を有するからである。つまり、封止剤5が流動性の高い状態のまま素線2aの間の空間に充填された、止水部4の形成途中の状態において、素線2aの間隔を狭めておくことで、封止剤5を、垂下したり流出したりすることなく、素線2aの間の空間に均一に留まらせやすい。その状態から、硬化性樹脂の硬化等によって封止剤5の流動性を下げると、露出部10において、高い止水性能が得られる。
【0049】
(止水部の形成方法)
本絶縁電線1における止水部4を形成するためには、まず、絶縁電線1の中途部に、絶縁被覆3が除去され、導体2が露出された露出部10を形成する。ここで、露出部10においては、単位長さあたりの導電性材料の密度を、被覆部20の遠隔域22よりも高くし、素線2aの間隔を遠隔域22よりも広げておく。このように、単位長さあたりの導電性材料の密度を導体2の部位ごとに異ならせるには、導電性材料の密度が全長さ領域にわたって均一な一般の絶縁電線に対して、加工を施せばよい。例えば、露出部10となる部位の絶縁被覆3を除去したうえで、被覆部20となる部位から素線2aを引き出すようにして、露出部10となる部位の素線2aを撓ませながら、素線相互の間隔を広げるように、導体2に力を加えればよい。あるいは、単位長さあたりの導電性材料の密度を導体2の部位ごとに異ならせる別の方法として、素線2aを撚り合わせて導体2を製造する段階で、撚り合わせ方を調整する等の方法により、単位長さあたりの導電性材料の密度に分布を有する導体2を製造することもできる。
【0050】
このようにして、被覆部20に隣接させて、単位長さあたりの導電性材料の密度が高くなった露出部10を形成したうえで、そのような露出部10において、素線2aの間の空間に、封止剤5を充填する。封止剤5は、流動性のある状態で、素線2aの間の空間に浸透させることが好ましい。封止剤5の充填操作は、滴下、塗布、注入等、封止剤5の粘度等の特性に応じた任意の方法で、素線2aの間の空間に、流動性のある状態の樹脂組成物を導入することによって行えばよい。
【0051】
この際、封止剤5を素線2aの間の空間に充填するとともに、露出部10の導体2の外周にも、封止剤5を配置することが好ましい。そのためには、例えば、露出部10に導入する封止剤5の量を、素線2aの間の空間を埋めても余剰が生じる量に設定しておくとともに、封止剤5の導入を、露出部10の周方向における複数の方向から行うようにすればよい。この際、封止剤5を、露出部10の外周に加えて、さらに被覆部20の端部の絶縁被覆3の外周部にも配置するとよい。なお、封止剤5を露出部10の外周に配置した後、封止剤5の流動性が下がりきる前に、露出部10の両側の被覆部20に配置された絶縁被覆3を、露出部10に向かって移動させれば、封止剤5を簡便に被覆部20の端部の絶縁被覆3の外周に配置することができる。
【0052】
本実施形態にかかる絶縁電線1においては、露出部10において、単位長さあたりの導電性材料の密度が高くなっていることにより、素線2aの間隔が広がっている。この素線2aの間隔が広がった部位に、封止剤5を導入しているので、素線2aの間の空間に、封止剤5が浸透しやすくなっている。そのため、封止剤5を、露出部10の各部において、高い均一性をもって、ムラなく浸透させやすい。その結果、封止剤5の硬化等を経て、優れた止水性能を有する信頼性の高い止水部4を形成することができる。さらに、特許文献1に記載されている加圧室の利用のような特別な方法を用いなくても、簡便に、均一性の高い封止剤5の浸透を達成することができる。
【0053】
また、上記のように、封止剤5が、充填時の状態で、4000mPa・s以上のような高い粘度を有しており、封止剤5の流動性が低い場合でも、素線2aの間隔が広がっていることで、素線2aの間の空間に、封止剤5を高い均一性をもって浸透させることができる。粘度の高い封止剤5を使用することができれば、使用可能な封止剤5の種類の幅が広がる。また、素線2aの間の空間だけでなく、露出部10の導体2の外周や被覆部20の端部の外周にも封止剤5を配置する場合に、封止剤5が、流出、垂下等を起こすことなく導体2の外周部に留まりやすい。よって、それらの外周部にも、高い均一性をもって封止剤5を配置しやすい。
【0054】
[第二の実施形態にかかる絶縁電線]
次に、本発明の第二の実施形態にかかる絶縁電線について、説明する。ここでは、上記第一の実施形態にかかる絶縁電線1と共通する構成については説明を省略し、異なる点を中心に説明を行う。
【0055】
第二の実施形態にかかる絶縁電線1’(不図示)は、導電性材料よりなる素線2aが複数撚り合わせられた導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆3と、を有している。そして、絶縁電線1の長手軸方向の中途部に、止水部4が形成されている。止水部4には、絶縁被覆3が導体2の外周から除去された露出部10が含まれている。そして、露出部10において、導体2を構成する素線2aの間の空間に、封止剤5が充填されている。
【0056】
封止剤5は、露出部10の素線2aの間の空間と連続して、露出部10の導体2の外周も被覆している。好ましくは、封止剤5は露出部10の全周を被覆しているとよい。
【0057】
さらに、封止剤5は、それら露出部10の素線2aの間の空間および外周部と連続して、露出部10の両側に隣接する被覆部20の端部の外周、つまり絶縁被覆3が導体2の外周を被覆したままの状態にある領域の端部の絶縁被覆3の外周にも配置されていることが好ましい。この場合には、封止剤5は、露出部10の一方側に位置する被覆部20の端部から他方側に位置する被覆部20の端部までにわたる領域の外周、好ましくは全周を連続して被覆するとともに、それら外周部と連続して、露出部10の素線2aの間の領域に充填された状態にある。
【0058】
第二の実施形態にかかる絶縁電線1’においては、上記のように、露出部10の素線2aの間の空間に加え、露出部10の外周、好ましくはさらに被覆部20の露出部10に隣接する部位の外周に、共通の封止剤5が配置されている。しかし、第一の実施形態にかかる絶縁電線1と異なり、必ずしも露出部10と被覆部20との間で、単位長さあたりの導電性材料の密度に差を有さなくてもよい。
【0059】
本実施形態にかかる絶縁電線1’においては、露出部10において、導体2を構成する素線2aの間に封止剤5が充填されていることにより、素線2aの間において、止水が達成される。さらに、露出部10の外周、好ましくはさらに露出部10に隣接する被覆部20の端部の外周が、封止剤5によって被覆されていることにより、収縮チューブ等、別部材としての保護材を設けなくても、止水部4の外周を物理的に保護できるとともに、導体2と絶縁被覆3の間の止水を達成することができる。これにより、絶縁電線1’において、封止部4を簡素な形態で構成することができるとともに、保護材による絶縁電線1の大径化、さらには絶縁電線1を含むワイヤーハーネス全体の大径化を回避することができる。また、そのような止水部4を有する絶縁電線1を、別部材としての保護材の配置を伴わない簡素な工程で製造することができる。
【0060】
露出部10および被覆部20の端部の外周に、封止剤5を、流出、垂下等を避けて配置する観点から、封止剤5としては、粘度の高いものを用いることが好ましい。例えば、充填時の状態において、4000mPa・s以上、さらには5000mPa・s以上、10,000mPa・s以上の粘度を有する樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0061】
粘度の高い封止剤5は、露出部10において、素線2aの間の空間に充填するのが難しい場合もあるが、例えば、露出部10において、素線2aの間隔を広げておくことで、封止剤5を素線2aの間に浸透させやすくなる。あるいは、引用文献1に記載される方法のように、圧力差や気体の流れを利用して封止剤を浸透させてもよい。なお、封止剤5の粘度が高すぎると、上記のような方法を使ったとしても、素線2aの間の領域に十分に浸透させのが難しくなるので、封止剤5の充填時の粘度は、200,000mPa・s以下であることが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下に本発明の実施例を示す。ここでは、絶縁電線における止水部の形態と、止水性能の関係について、検証した。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0063】
(試験方法)
(1)試料の作製
導体断面積0.5mm
2(素線径0.18mm、素線数20)の銅撚線導体の外周に、ポリ塩化ビニルよりなる厚さ0.35mmの絶縁被覆を形成した絶縁電線の中途部に、長さ8mmの露出部を形成した。そして、露出部に対して、止水処理を施し、止水部を形成した。
【0064】
ここでは、単位長さあたりの導電性材料の密度が異なる3種の露出部として、露出部A〜Cを有する電線試料をそれぞれ準備した。単位長さあたりの導電性材料の密度(露出部相対密度)は、被覆部の遠隔域における密度を100として、露出部Aにおいて、130(平均値)、露出部Bにおいて、101であった。ここで、露出部相対密度の計測は、露出部A,Bと被覆部から、それぞれ同じ長さに切り出した導体の質量を実測し、それらの比を算出することで行った。露出部Cについては、単に絶縁電線の絶縁被覆を除去しただけであり、露出部相対密度が100であった。
【0065】
また、封止剤として、以下の2種類を準備した。
・高粘度封止剤:湿気硬化性シリコーン系樹脂、粘度5000mPa・s(@23℃)、信越化学工業社製「KE−4895」
・低粘度封止剤:湿気硬化性アクリル系樹脂、粘度2mPa・s(@23℃)、スリーボンド社製「7781」
【0066】
各試料における止水部の構成は以下のとおりである。
・試料1:露出部Aを有する電線試料について、高粘度封止剤を用いて止水を行った。露出部および露出部に隣接する被覆部の端部の外周(外周域)にも、封止剤の層が形成された。
・試料2:露出部Aを有する電線試料について、低粘度封止剤を用いて止水を行った。外周域には封止剤の層が形成されなかった。
・試料3:試料2の止水部の外周に、さらに接着層付き収縮チューブを配置した。
・試料4:露出部Bを有する電線試料について、低粘度封止剤を用いて止水を行った。外周域には封止剤の層が形成されなかった。
・試料5:露出部Cを有する電線試料について、低粘度封止剤を用いて止水を行った。外周域には封止剤の層が形成されなかった。
【0067】
(2)止水性能の評価
各試料の止水部について、リーク試験により、素線間、また導体と絶縁被覆の間の止水性能を評価した。具体的には、各絶縁電線の止水部を水中に浸漬し、絶縁電線の一端から、150Paまたは200kPaで空気圧を印加した。そして、止水部、および空気圧を印加していない方の絶縁電線の端部を目視にて観察した。
【0068】
150kPaおよび200kPaの空気圧印加によって、止水部の素線間の部位、つまり止水部の中途部と、空気圧を印加していない方の絶縁電線の端部のいずれの部位からも、気泡が発生するのが確認されなかった場合には、素線間の止水性能が特に高い「◎」と評価した。150kPaの空気圧印加によって、それらいずれの部位からも気泡が発生するのが確認されなかった場合には、素線間の止水性能が高い「○」と評価した。150kPaの空気圧印加であっても、いずれか少なくとも一方の部位から気泡が発生するのが確認された場合には、素線間の止水性能が不十分である「×」と評価した。
【0069】
一方、150kPaおよび200kPaの空気圧印加によって、導体と絶縁被覆の間の部位、つまり止水部の端部から気泡が発生するのが確認されなかった場合には、導体−絶縁被覆間の止水性能が特に高い「◎」と評価した。150kPaの空気圧印加によって、そのような部位から気泡が発生するのが確認されなかった場合には、導体−絶縁被覆間の止水性能が高い「○」と評価した。150kPaの空気圧印加であっても、そのような部位から気泡が発生するのが確認された場合には、導体−絶縁被覆間の止水性能が不十分である「×」と評価した。
【0070】
(結果)
表1に、止水性能の試験結果を、止水部の構成の概要とともに示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示されるように、試料1〜4においては、少なくとも素線間において、高い止水性能が達成されている。これは、露出部における単位長さあたりの導電性材料の密度(露出部相対密度)が、被覆部の遠隔域よりも高くなった状態に対して、止水部を形成していることにより、露出部において、素線の間隔が広げられており、素線の間の空間に封止剤を十分に浸透させられていることの結果であると解釈される。中でも露出部相対密度が高い試料1〜3においては、素線間において、特に高い止水性能が達成されている。
【0073】
また、外周域にも封止剤の層が形成された試料1においては、素線間のみならず、導体−絶縁被覆間でも、高い止水性能が達成されている。封止剤が高い粘度を有する場合に、外周域に封止剤の層が形成されやすい。これは、封止剤が高粘度であることで、硬化前の状態において、露出部の導体の外周および両側の被覆部の絶縁被覆の外周の領域に安定に留まるためであると解釈される。これに対し、低粘度封止剤を使用している試料2,4においては、外周域における硬化前の封止剤の保持が十分に行えないために、素線間では十分な止水性能を確保できるにもかかわらず、導体−絶縁被覆間では十分な止水性能が得られていない。ただし、試料3のように収縮チューブを補助的に用いることで、導体−絶縁被覆間で十分な止水性能を確保することができる。
【0074】
試料5においては、素線間、導体−絶縁被覆間のいずれにおいても、十分な止水性能が得られていない。これは、素線の間隔を広げておらず、素線の間の空間に封止剤を均一性高く浸透させられていないことと、低粘度の封止剤を用いており、外周域にも、封止剤を安定に配置できていないことの結果であると解釈される。
【0075】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。