特許第6525076号(P6525076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6525076
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】ダイナモメータシステムの制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20190527BHJP
【FI】
   G01M17/007 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-22771(P2018-22771)
(22)【出願日】2018年2月13日
【審査請求日】2018年12月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】秋山 岳夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 智明
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−020006(JP,A)
【文献】 特開平04−190132(JP,A)
【文献】 特開2014−081822(JP,A)
【文献】 特開2009−074834(JP,A)
【文献】 特開2010−197129(JP,A)
【文献】 特開平04−285838(JP,A)
【文献】 前田 肇,線形システム(普及版),株式会社朝倉書店,2012年 6月25日,第57〜60頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の第1車輪及び第2車輪がそれぞれ載置され、各々の回転に従動する第1従動部材及び第2車従動部材と、前記第1及び第2従動部材にそれぞれ連結された第1ダイナモメータ及び第2ダイナモメータと、前記第1及び第2ダイナモメータのそれぞれの速度を検出する第1速度センサ及び第2速度センサと、を備えるダイナモメータシステムの制御装置であって、
前記車両の発生駆動力を推定する駆動力推定部と、
前記推定された発生駆動力を用いて、前記第1ダイナモメータへの第1トルク指令信号及び前記第2ダイナモメータへの第2トルク指令信号を生成するトルク指令信号生成部と、
前記第1速度センサによって検出される第1速度と前記第2速度センサによって検出される第2速度との速度差が無くなるように前記第1トルク指令信号に対する第1トルク補正信号及び前記第2トルク指令信号に対する第2トルク補正信号を生成する同期補正信号生成部と、
前記第1トルク補正信号を用いて前記第1トルク指令信号を補正する第1トルク指令補正部と、
前記第2トルク補正信号を用いて前記第2トルク指令信号を補正する第2トルク指令補正部と、を備え、
前記同期補正信号生成部は、所定の制御ゲインによって定義される伝達関数へ前記速度差を入力することによって前記第1トルク補正信号及び前記第2トルク補正信号を生成し、
前記制御ゲインは、前記発生駆動力から前記速度差までの伝達関数の分母多項式の極が全て負の実数になるように定められることを特徴とするダイナモメータシステムの制御装置。
【請求項2】
前記同期補正信号生成部における前記速度差から前記第1トルク補正信号及び前記第2トルク補正信号までの伝達関数Gd(s)は、第1同期制御ゲインKp及び第2同期制御ゲインTiを用いて下記式(1)によって与えられ、
前記第1同期制御ゲインKp及び前記第2同期制御ゲインTiは、前記発生駆動力から前記速度差までの伝達関数の分母多項式の極が全て負の実数になるように定められることを特徴とする請求項1に記載のダイナモメータシステムの制御装置。
【数1】
【請求項3】
前記第1同期制御ゲインKp及び前記第2同期制御ゲインTiは、前記第1従動部材及び前記第1ダイナモメータを合わせた慣性Mfと、前記第2従動部材及び前記第2ダイナモメータを合わせた慣性Mrと、任意の制御応答周波数ωcと、を用いて下記式(2−1)及び(2−2)によって与えられることを特徴とする請求項2に記載のダイナモメータシステムの制御装置。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナモメータシステムの制御装置に関する。より詳しくは、車両の前輪と後輪がそれぞれ別々に載置される前輪ローラと後輪ローラとを備えたシャシダイナモメータシステムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
耐久試験、排気浄化性能評価試験、及び燃費計測試験等の車両試験では、シャシダイナモメータシステムが用いられる。シャシダイナモメータシステムは、試験対象となる車両の車輪が載置されるローラとこのローラに連結されたダイナモメータとを備え、ローラ上で走行する車両に対してころがり抵抗や慣性抵抗等の実走行時に発生する走行抵抗をダイナモメータ及びローラを用いて与えることにより、実走行条件に近い条件を再現する。
【0003】
このようなシャシダイナモメータシステムには、主として四輪車両の前後の車輪に動力を伝達する所謂四輪駆動車両に用いられることを想定して、車両の前輪が載置される前輪ローラと後輪が載置される後輪ローラとをそれぞれ別々のダイナモメータで駆動するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
実際の路面上を四輪車両が非スリップ状態で走行している場合、前輪と後輪の速度は等しい。しかしながら上述のような四輪駆動車両用のシャシダイナモメータシステムでは、前輪ローラと後輪ローラとを機械的に連結せずに独立して駆動していることから、前輪ローラの速度と後輪ローラの速度とで差が生じる場合がある。このため、四輪駆動車両用のシャシダイナモメータシステムでは、前輪ローラと後輪ローラとを等速にするような同期制御が行われる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2の四輪駆動車両用のシャシダイナモメータシステムでは、前後輪ローラの速度差とその極性に応じて各ローラに連結された前後輪ダイナモメータのインバータに供給する電流指令信号を補正することによって前後輪ローラを等速にする同期制御が行われる。また特許文献2には、この同期制御性能を高めるため、同期制御における同期制御ゲインを、速度差の標準偏差の大きさによって調整する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−285903号公報
【特許文献2】特開2010−71771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4は、特許文献2に提案されている方法によって同期制御を行った場合における前輪速度及び後輪速度(上段)、並びにこれら前後輪の速度差(下段)の変化を示す図である。より具体的には図4の例では、前輪のみ駆動力を発生する車両を用い、後輪側のダイナモメータは特許文献2の方法によって前輪側のダイナモメータと同速度で回転するように同期制御を行った場合を示す。
【0008】
特許文献2に提案されている同期制御方法は、シャシダイナモメータシステムの固定慣性モーメントを考慮したものになっていない。このため、図4に示すように制御応答が振動的になる場合がある。制御応答によって前輪速度と後輪速度にある程度の差が生じることは許容される。しかしながら、通常想定される路面上を走行する車両では前後輪の速度差に振動が生じることは無いため、ローラ上の車両に対して実路では生じ得ない振動を与えかねない。
【0009】
本発明は、2つの車輪の速度差に振動的な挙動を与えずに各車輪を等速にできるシャシダイナモメータシステムの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)ダイナモメータシステム(例えば、後述のダイナモメータシステムS)は、車両(例えば、後述の車両V)の第1車輪(例えば、後述の前輪Wf)及び第2車輪(例えば、後述の後輪Wr)がそれぞれ載置され、各々の回転に従動する第1従動部材(例えば、後述の前輪ローラ1f)及び第2車従動部材(例えば、後述の後輪ローラ1r)と、前記第1及び第2従動部材にそれぞれ連結された第1ダイナモメータ(例えば、後述の前輪ダイナモメータ2f)及び第2ダイナモメータ(例えば、後述の後輪ダイナモメータ2r)と、前記第1及び第2ダイナモメータのそれぞれの速度を検出する第1速度センサ(例えば、後述の前輪速度センサ3f)及び第2速度センサ(例えば、後述の後輪速度センサ3r)と、を備える。ダイナモメータシステムの制御装置(例えば、後述の制御装置6)は、前記車両の発生駆動力を推定する駆動力推定部(例えば、後述の駆動力オブザーバ61)と、前記推定された発生駆動力(Fv)を用いて、前記第1ダイナモメータへの第1トルク指令信号(Ff_bs)及び前記第2ダイナモメータへの第2トルク指令信号(Fr_bs)を生成するトルク指令信号生成部(例えば、後述の電気慣性制御部62)と、前記第1速度センサによって検出される第1速度(vf)と前記第2速度センサによって検出される第2速度(vr)との速度差(vf−vr)が無くなるように前記第1トルク指令信号に対する第1トルク補正信号(−Fd)及び前記第2トルク指令信号に対する第2トルク補正信号(Fd)を生成する同期補正信号生成部(例えば、後述の同期制御部63)と、前記第1トルク補正信号を用いて前記第1トルク指令信号を補正する第1トルク指令補正部(例えば、後述の前輪トルク指令信号生成部64f)と、前記第2トルク補正信号を用いて前記第2トルク指令信号を補正する第2トルク指令補正部(例えば、後述の後輪トルク指令信号生成部64r)と、を備え、前記同期補正信号生成部は、前記発生駆動力から前記速度差までの伝達関数の分母多項式の極が全て負の実数になるように定められることを特徴とする。
【0011】
(2)この場合、前記同期補正信号生成部における前記速度差から前記第1トルク補正信号及び前記第2トルク補正信号までの伝達関数Gd(s)は、第1同期制御ゲインKp及び第2同期制御ゲインTiを用いて下記式(1)によって与えられ、前記第1同期制御ゲインKp及び前記第2同期制御ゲインTiは、前記発生駆動力から前記速度差までの伝達関数の分母多項式の極が全て負の実数になるように定められることが好ましい。
【数1】
【0012】
(3)この場合、前記第1同期制御ゲインKp及び前記第2同期制御ゲインTiは、前記第1従動部材及び前記第1ダイナモメータを合わせた慣性Mfと、前記第2従動部材及び前記第2ダイナモメータを合わせた慣性Mrと、任意の制御応答周波数ωcと、を用いて下記式(2−1)及び(2−2)によって与えられることが好ましい。
【数2】
【発明の効果】
【0013】
(1)駆動力推定部は、車両の発生駆動力を推定し、トルク指令信号生成部は、推定された発生駆動力を用いて第1及び第2ダイナモメータへの第1及び第2トルク指令信号を生成する。また同期補正信号生成部は、第1速度と第2速度との速度差が無くなるように第1及び第2トルク補正信号を生成し、第1及び第2トルク指令補正部は、これら第1及び第2トルク補正信号を用いて第1及び第2トルク指令信号を補正する。これにより本発明の制御装置によれば、車両の発生駆動力に応じた適切な負荷を第1及び第2従動部材に載置された車両に与えつつ、これら車両の第1車輪と第2車輪を等速に同期することができる。また本発明の制御装置によれば、同期補正信号生成部は、発生駆動力から速度差までの伝達関数の分母多項式の極が全て負の実数になるように、すなわち全ての極が非振動的になるように設定される。本発明の制御装置では、このように設定された同期補正信号生成部を用いて第1及び第2トルク補正信号を生成することにより、第1及び第2従動部材に載置された車両で発生する発生駆動力に対する制御応答として、第1速度と第2速度の速度差に振動的な挙動が生じるのを防ぐことができる。
【0014】
(2)本発明の制御装置では、2つの同期制御ゲインKp,Tiを用いた上記式(1)によって規定される伝達関数Gd(s)に、速度差を入力することによって第1トルク補正信号及び第2トルク補正信号を生成するとともに、これら2つの同期制御ゲインKp,Tiは発生駆動力から速度差までの伝達関数の分母多項式の極が全て負の実数になるように設定する。これにより、車両から第1及び第2従動部材に入力される発生駆動力に対し、第1速度と第2速度の速度差に振動的な挙動が生じるのを防止しながら、速度差を速やかに無くすことができる。
【0015】
(3)本発明の制御装置では、2つの同期制御ゲインKp,Tiを、予め測定できる慣性Mf,Mrと、任意に設定できる制御応答周波数ωcとを用いて上記式(2−1)及び(2−2)によって設定する。これら式(2−1)及び(2−2)は、上述の分母多項式の極の全てを負の実数とする解の1つとなっている。したがって本発明の制御装置によれば、速度差に振動的な挙動が生じるのを防止しながら、任意に設定できる制御応答周波数ωcに応じた応答速度で第1速度と第2速度との速度差を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るダイナモメータシステム及びその制御装置の構成を示す図である。
図2】上記実施形態に係る制御装置の構成を示す図である。
図3】本実施形態に係る制御装置を用いて同期制御を行った場合における前輪速度及び後輪速度(上段)、並びにこれらの速度差(下段)の変化を示す図である。
図4】従来の制御装置を用いて同期制御を行った場合における前輪速度及び後輪速度(上段)、並びにこれらの速度差(下段)の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るシャシダイナモメータシステムS及びその制御装置5の構成を示す図である。シャシダイナモメータシステムSの試験対象車両Vは、その動力を前輪Wf及び後輪Wrへ分離して伝達する四輪駆動(4WD)車両であるが、本発明はこれに限らない。試験対象車両Vは、前輪駆動(FWD)車両や後輪駆動(RWD)車両としてもよい。
【0018】
シャシダイナモメータシステムSは、車両Vの前輪Wf及び後輪Wrがそれぞれ載置され、各々の回転に従って回転する前輪ローラ1f及び後輪ローラ1rと、これらローラ1f,1rにそれぞれ同軸で連結された前輪ダイナモメータ2f及び後輪ダイナモメータ2rと、ダイナモメータ2f,2rの回転速度をそれぞれ検出する前輪速度センサ3f及び後輪速度センサ3rと、ダイナモメータ2f,2rのトルクをそれぞれ検出する前輪トルクセンサ4f及び後輪トルクセンサ4rと、ダイナモメータ2f,2rのそれぞれに電力を供給する前輪インバータ5f及び後輪インバータ5rと、速度センサ3f,3r及びトルクセンサ4f,4rの出力等を用いることによってダイナモメータ2f,2rで発生させるトルクに対する指令に相当する前輪及び後輪トルク指令信号を生成し、インバータ5f,5rへ入力する制御装置6と、を備える。
【0019】
図2は、制御装置6の構成を示す図である。制御装置6は、駆動力オブザーバ61と、電気慣性制御部62と、同期制御部63と、前輪トルク指令信号生成部64fと、後輪トルク指令信号生成部64rと、を備える。
【0020】
駆動力オブザーバ61は、前輪及び後輪速度センサによって検出される前輪速度vf[m/s]及び後輪速度vr[m/s]と、前輪及び後輪トルクセンサによって検出される前輪ダイナモメータトルク及び後輪ダイナモメータトルクと、を用いることによって、車両から前輪ローラ及び後輪ローラに伝達する駆動力に相当する車両の発生駆動力Fv[N]を推定する。より具体的には、駆動力オブザーバ61は、例えば、車輪が載置されるローラと、このローラと軸を介して連結されるダイナモメータとによって構成される機械系のモデルを用いることによって、車両の前輪から前輪ローラに伝達する前輪駆動力Fvfと車両の後輪から後輪ローラに伝達する後輪駆動力Fvrとを推定し、これら前輪駆動力Fvfと後輪駆動力Fvrとを合算することによって発生駆動力Fvを推定する。
【0021】
電気慣性制御部62は、駆動力オブザーバ61によって推定された車両の発生駆動力Fvを用いて前輪及び後輪ローラを介して車両に与える電気慣性抵抗Fin[N]を算出し、この電気慣性抵抗を用いて前輪ダイナモメータへの前輪トルク指令信号Ff[N]に対する基本値に相当する前輪基本トルク指令信号Ff_bs[N]及び後輪ダイナモメータへの後輪トルク指令信号Fr[N]に対する基本値に相当する後輪基本トルク指令信号Fr_bs[N]を生成する。より具体的には、電気慣性制御部62は、発生駆動力Fvと、この発生駆動力Fvに、前輪ダイナモメータの慣性[kg]及び前輪ローラの慣性[kg]を合わせた前側機械慣性Mf[kg]及び後輪ダイナモメータの慣性[kg]及び後輪ローラの慣性[kg]を合わせた後側機械慣性Mr[kg]の和と車両慣性Mv[kg]との比を乗算したものとの差を電気慣性抵抗Finとする。すなわち、Fin=(1−(Mf+Mr)/Mv)×Fv、とする。また電気慣性制御部62は、この電気慣性抵抗Finを2で割ることによって前輪及び後輪基本トルク指令信号Ff_bs,Fr_bsを生成する。ここで、車両慣性Mv、前側機械慣性Mf、及び後側機械慣性Mrの具体的な値は、それぞれ予め試験を行うことによって特定された値が用いられる。
【0022】
同期制御部63は、前輪速度vf及び後輪速度vrを用いることによって、これらの速度差(vf−vr)を無くすような前輪及び後輪基本トルク指令信号Ff_bs,Fr_bsに対する補正信号に相当する同期制御トルク指令信号Fd[N]を生成する。
【0023】
より具体的には、同期制御部63は、所定の速度差指令dvから速度差(vf−vr)を減算することによって偏差入力evを算出する。ここで、速度差指令dvとは、前輪速度vfと後輪速度vrの速度差(Vf−Vr)に対する指令値に相当する。以下では、この速度差を0にする制御を行うため、速度差指令dvの値は0とする場合について説明するが、本発明はこれに限らない。例えばクラッチの試験や、ディファレンシャルギアの試験等を行う場合には、前輪速度と後輪速度(又は左輪速度と右輪速度)に意図的に速度差を設ける場合がある。そこでこのように意図的に速度差を設ける場合には、この速度差指令dvの値を0以外の値に設定する。
【0024】
同期制御部63は、偏差入力evを、所定の第1同期制御ゲインKp及び第2同期制御ゲインTiを用いて下記式(3)によって定義される伝達関数Gd(s)に入力することによって得られる出力を同期制御トルク指令信号Fdとする。
【数3】
【0025】
ここで、第1及び第2同期制御ゲインKp,Tiは、発生駆動力Fvから速度差(vf−vr)までの伝達関数の分母多項式の極が全て負の実数になるように定められる。より具体的には、これら第1及び第2同期制御ゲインKp,Tiの値は、任意の制御応答周波数ωc[rad]、前側機械慣性Mf、及び後側機械慣性Mrを用いて下記式(4−1)及び(4−2)によって算出される値が用いられる。後に検証するように、下記式(4−1)及び(4−2)に従って設定される第1及び第2同期制御ゲインKp,Tiは、上記分母多項式の極を全て負の実数にする解の1つとなっている。ここで制御応答周波数ωcは、作業者によって任意の正の実数値に設定される。
【数4】
【0026】
前輪指令補正部64fは、同期制御トルク指令信号Fdを用いて前輪基本トルク指令信号Ff_bsを補正し、前輪トルク指令信号Ffを生成する。より具体的には、前輪指令補正部64fは、前輪基本トルク指令信号Ff_bsから同期制御トルク指令信号Fdを減算したものを前輪トルク指令信号Ffとする。
【0027】
後輪指令補正部64rは、同期制御トルク指令信号Fdを用いて後輪基本トルク指令信号Fr_bsを補正し、後輪トルク指令信号Frを生成する。より具体的には、後輪指令補正部64rは、後輪基本トルク指令信号Fr_bsに同期制御トルク指令信号Fdを加算したものを後輪トルク指令信号Frとする。
【0028】
次に、以上のように構成されたシャシダイナモメータシステムS及びその制御装置6によれば、上記式(4−1)及び(4−2)に従って設定される第1及び第2同期制御ゲインKp,Tiは、上記分母多項式の極を全て負の実数にする解の1つになっていることについて検証する。
【0029】
始めに、発生駆動力Fvの前後分配比をkとすると(すなわち、前輪:後輪=k:1−k)、前側機械慣性Mfを有する前側システムの運動方程式及び後側機械慣性Mrを有する前側システムの運動方程式は、それぞれ、下記式(5−1)及び(5−2)によって表される。
【数5】
【0030】
また、制御装置6において、前輪トルク指令信号Ff及び後輪トルク指令信号Frは、電気慣性制御部62に正の実数である所定の時定数Tfで特徴付けられる1次遅れが存在すると仮定すると、それぞれ下記式(6−1)及び(6−2)によって表される。
【数6】
【0031】
また速度差指令dvの値を0とすると、同期制御トルク指令信号Fdは、下記式(7)によって表される。
【数7】
【0032】
これら5つの式を用いると、発生駆動力Fvに対する速度差(vf−vr)の伝達関数((vf−vr)/Fv)の分母多項式D(s)に対する下記式(8)が得られる。
【数8】
【0033】
分母多項式(8)の右辺において、Tfは正の実数であるので、“Tf・s+1”の項は、負の実数の極を与えるため、非振動的である。また第1及び第2同期制御ゲインKp.Tiを上記式(4−1)及び(4−2)に従って設定すると、分母多項式(8)の右辺において、“Tf・s+1”以外の項は、(s/ωc+1)となる。したがって、上記制御装置6において、第1及び第2同期制御ゲインKp,Tiを例えば上記式(4−1)及び(4−2)に従って設定することにより、発生駆動力Fvから速度差(vf−vr)までの伝達関数における分母多項式(8)の極は全て負の実数になるように定められることが検証された。
【0034】
本実施形態に係る制御装置6によれば、以下の効果を奏する。
【0035】
(1)駆動力オブザーバ61は、車両の発生駆動力Fvを推定し、電気慣性制御部62は、発生駆動力Fvを用いて前輪及び後輪基本トルク指令信号Ff_bs,Fr_bsを生成する。また同期制御部63は、速度差(vf−vr)が無くなるように同期制御トルク指令信号Fdを生成し、前輪及び後輪トルク指令信号生成部64f、64rは、同期制御トルク指令信号Fdを用いて前輪及び後輪基本トルク指令信号Ff_bs,Fr_bsを補正し、前輪及び後輪トルク指令信号Ff,Frを生成する。これにより制御装置6及びシャシダイナモメータシステムSによれば、車両の発生駆動力Fvに応じた適切な負荷を前輪及び後輪ローラ1f、1rに載置された車両Vに与えつつ、これら車両Vの前輪Wfと後輪Wrを等速に同期することができる。
【0036】
図3は、本実施形態の制御装置6によって同期制御を行った場合における前輪速度及び後輪速度(上段)、並びに速度差(下段)の変化を示す図である。上述の図4と同様、図3の例では、前輪のみ駆動力を発生する車両を用い、後輪ダイナモメータは制御装置6によって前輪ダイナモメータと同速度で回転するように同期制御を行った場合を示す。
【0037】
同期制御部63は、発生駆動力Fvから速度差(vf−vr)までの伝達関数の分母多項式(8)の極が全て負の実数になるように、すなわち全ての極が非振動的になるように設定される。本実施形態の制御装置6では、このように設定された同期制御部63を用いて前輪及び後輪トルク指令信号Ff,Frを生成し、これらを前輪及び後輪ダイナモメータ2f,2rのインバータ5f,5rへ入力する。これにより、図3図4とを比較して明らかな通り、車両の前輪で発生する発生駆動力に対する制御応答として、前輪速度と後輪速度の速度差に振動的な挙動が生じるのを防ぐことができる。
【0038】
(2)本実施形態の制御装置6では、2つの同期制御ゲインKp,Tiを用いた上記式(3)によって規定される伝達関数Gd(s)に、速度差を入力することによって同期制御トルク指令信号Fdを生成するとともに、これら2つの同期制御ゲインKp,Tiは発生駆動力から速度差までの伝達関数の分母多項式(8)の極が全て負の実数になるように設定する。これにより、車両Vから前輪及び後輪ローラ1f,1rに入力される発生駆動力Fvに対し、速度差(vf−vr)に振動的な挙動が生じるのを防止しながら、速度差(vf−vr)を速やかに無くすことができる。
【0039】
(3)本実施形態の制御装置6では、2つの同期制御ゲインKp,Tiを、予め測定できる前側機械慣性Mf及び後側機械慣性Mrと、任意に設定できる制御応答周波数ωcとを用いて上記式(4−1)及び(4−2)によって設定する。上述のように、これら式(4−1)及び(4−2)は、上述の分母多項式(8)の極の全てを負の実数とする解の1つとなっている。したがって本実施形態の制御装置6によれば、速度差に振動的な挙動が生じるのを防止しながら、任意に設定できる制御応答周波数ωcに応じた応答速度で速度差を無くすことができる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0041】
例えば上記実施形態のシャシダイナモメータシステムでは、第1車輪を前輪Wfとし、第2車輪を後輪Wrとすることにより、これら前輪Wf及び後輪Wrの速度差に振動的な挙動が生じないようにしたが、本発明はこれに限らない。例えば第1車輪を車両の左輪とし、第2車輪を車両の右輪とすることにより、これら左輪及び右輪の速度差に振動的な挙動が生じないようにすることもできる。
【0042】
また上記実施形態のシャシダイナモメータシステムでは、前輪Wf及び後輪Wrがそれぞれ載置され、各々の回転に従動する第1従動部材及び第2従動部材として前輪ローラ及び後輪ローラを用いた場合について説明したが、本発明はこれに限らない。これら第1及び第2従動部材としては、例えば、前輪Wf及び後輪Wrの回転に従って回転する前輪フラットベルト及び後輪フラットベルトを用いてもよい。
【符号の説明】
【0043】
S…シャシダイナモメータシステム
V…車両
Wf…前輪(第1車輪)
Wr…後輪(第2車輪)
1f…前輪ローラ(第1従動部材)
1r…後輪ローラ(第2従動部材)
2f…前輪ダイナモメータ(第1ダイナモメータ)
2r…後輪ダイナモメータ(第2ダイナモメータ)
3f…前輪速度センサ(第1速度センサ)
3r…後輪速度センサ(第2速度センサ)
6…制御装置
61…駆動力オブザーバ(駆動力推定部)
62…電気慣性制御部(トルク指令信号生成部)
63…同期制御部(同期補正信号生成部)
64f…前輪トルク指令信号生成部(第1トルク指令補正部)
64r…後輪トルク指令信号生成部(第2トルク指令補正部)
【要約】
【課題】目的は、前後輪の速度差に振動的な挙動を与えずに前後輪を等速にできるシャシダイナモメータシステムの制御装置を提供すること。
【解決手段】ダイナモメータシステムの制御装置6は、車両の発生駆動力Fvを推定する駆動力オブザーバ61と、駆動力Fvを用いて、前輪基本トルク指令信号Ff_bs及び後輪基本トルク指令信号Fr_bsを生成する電気慣性制御部62と、速度差(vf−vr)が無くなるように基本トルク指令信号Ff_bs及び基本トルク指令信号Fr_bsに対する同期制御トルク指令信号Fdを生成する同期制御部63と、同期制御トルク指令信号Fdを用いて基本トルク指令信号Ff_bs及び基本トルク指令信号Fr_bsを補正するトルク指令信号生成部64f,64rと、を備える。同期制御部63は、駆動力Fvから速度差(vf−vr)までの伝達関数の分母多項式の極が全て負の実数になるように定められる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4