(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、筒内噴射弁は燃焼室内に燃料を直接噴射するため、噴射のタイミングによっては、筒内噴射弁に供給される燃料の圧力(燃圧)を比較的高くする必要がある。このため、吸気路噴射弁と筒内噴射弁とを備えるエンジンは、吸気路噴射弁に供給する燃料の圧力(燃圧)よりも高い圧力で燃料を供給可能な高圧供給ポンプを備え、この高圧供給ポンプを介して所定の圧力で筒内噴射弁に燃料が供給されるようになっている。また、近年は、高圧供給ポンプが、複数段で出力を変更可能に構成されて、筒内噴射弁に異なる圧力で燃料を供給できるようになっているものもある。
【0006】
しかしながら、筒内噴射弁の燃圧を高めると、筒内噴射弁から少量の燃料を噴射しようとした場合に、噴射量を高精度に制御することが難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、内燃機関の運転状態に拘わらず、筒内噴射弁から噴射する燃料量を、少量であっても高精度に制御することができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、内燃機関の吸気通路に燃料を噴射する吸気路噴射弁と、前記内燃機関の燃焼室に燃料を直接噴射する筒内噴射弁と、前記吸気路噴射弁の燃圧よりも高い所定燃圧となるように前記筒内噴射弁に燃料を供給可能な高圧供給ポンプと、前記内燃機関の運転状態に応じて前記吸気路噴射弁及び前記筒内噴射弁からの燃料噴射を制御し、噴射形態を変更する燃料噴射制御手段と、前記噴射形態に応じて前記高圧供給ポンプの作動状態を制御して前記筒内噴射弁の燃圧を複数段階で調整する燃圧調整手段と、を備え、前記燃圧調整手段は、前記噴射形態の変更に応じて前記筒内噴射弁の燃圧の段階を高める場合、前記燃料噴射制御手段により
前記筒内噴射弁の燃圧が高まるように前記噴射形態が変更されると、前記筒内噴射弁の燃圧が変更後の前記噴射形態に応じた燃圧よりも低い燃圧となる前記高圧供給ポンプの作動状態を維持した後に、前記筒内噴射弁の燃圧の段階を高めることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置にある。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様の内燃機関の燃料噴射制御装置であって
、前記燃圧調整手段は、前記噴射形態が変更されると、前記筒内噴射弁の燃圧が最低段階の燃圧となる前記高圧供給ポンプの作動状態を維持した後に、前記筒内噴射弁の燃圧の段階を高めることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置にある。
【0010】
本発明の第
3の態様は、第
1又は2の態様の内燃機関の燃料噴射制御装置であって、前記燃圧調整手段は、前記噴射形態が変更されると、前記内燃機関の運転状態が定常状態となるまで前記高圧供給ポンプの作動状態を維持した後に、前記筒内噴射弁の燃圧の段階を高めることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置にある。
【0011】
本発明の第
4の態様は、第
1から3の何れか一つの態様の内燃機関の燃料噴射制御装置であって、前記燃料噴射制御手段は、前記内燃機関の運転状態が当該内燃機関の回転数と負荷とで規定される第1の運転領域にある場合には前記吸気路噴射弁のみから燃料を噴射させ、前記内燃機関の運転状態が前記第1の運転領域を越えた第2の運転領域にある場合には前記吸気路噴射弁及び前記筒内噴射弁のそれぞれから燃料を噴射させ、前記燃圧調整手段は、前記運転状態が前記第1の運転領域から前記第2の運転領域に移行し前記燃料噴射制御手段により前記噴射形態が変更され、その後に、前記高圧供給ポンプの作動状態を変更して前記筒内噴射弁の燃圧の段階を高めることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置にある。
【0012】
本発明の第
5の態様は、第
4の態様の内燃機関の燃料噴射制御装置であって、前記燃料噴射制御手段は、前記内燃機関の運転状態が前記第2の運転領域に移行した際に、排気行程で前記吸気路噴射弁から燃料を噴射させると共に、吸気行程及び圧縮行程のうちの少なくとも何れか一方で、前記排気行程での前記吸気路噴射弁からの燃料噴射を補う量の燃料を前記筒内噴射弁から追加噴射させることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置にある。
【発明の効果】
【0015】
かかる本発明では、高圧供給ポンプの作動状態を所定期間維持することで、噴射形態に拘わらず、筒内噴射弁からの燃料噴射量を高精度に制御することができる。例えば、筒内噴射弁から比較的少量の燃料を噴射させる場合であっても、燃料噴射量を高精度に制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
まずは本発明の一実施形態に係るエンジン10の全体構成について説明する。
図1は、本発明に係るエンジンの概略構成を示す図である。
【0019】
図1に示すエンジン10は、吸気管噴射型(Multi Point Injection)の多気筒エンジン、例えば、直列4気筒の4ストロークエンジンであり、エンジン本体11には、4つの気筒12が並設されている。各気筒(燃焼室)12には、図示は省略するが、それぞれ点火プラグが配されると共に、吸気ポート及び排気ポートが設けられている。そしてエンジン本体11は、吸気ポートに接続される吸気マニホールド13と、排気ポートに接続される排気マニホールド14とを備えている。
【0020】
またエンジン本体11には、エンジン10の吸気通路内、例えば、吸気ポート付近に燃料を噴射する吸気路噴射弁15と、エンジン10の各気筒(燃焼室)に燃料を直接噴射する筒内噴射弁16とが設けられている。
【0021】
吸気路噴射弁15は、低圧デリバリーパイプ17を介して低圧供給ポンプ18に接続されている。低圧供給ポンプ18は、例えば、燃料タンク19内に配置されている。燃料タンク19内の燃料は、この低圧供給ポンプ18によって低圧デリバリーパイプ17に供給され、この低圧デリバリーパイプ17を介して吸気路噴射弁15に供給される。
【0022】
筒内噴射弁16は、高圧デリバリーパイプ20を介して高圧供給ポンプ21に接続されている。高圧供給ポンプ21は、低圧デリバリーパイプ17を介して低圧供給ポンプ18に接続されている。すなわち燃料タンク19から引き出された低圧デリバリーパイプ17は二股に分岐されており、その一方が吸気路噴射弁15に接続され、他方が高圧供給ポンプ21に接続されている。燃料タンク19内の燃料は、上述のように低圧供給ポンプ18によって低圧デリバリーパイプ17を介して吸気路噴射弁15に供給されると同時に、高圧供給ポンプ21にも供給される。
【0023】
高圧供給ポンプ21は、低圧デリバリーパイプ17を介して供給された燃料をさらに高圧で高圧デリバリーパイプ20に供給可能に構成されている。すなわち高圧供給ポンプ21は、吸気路噴射弁15に供給される燃料の圧力(吸気路噴射弁15の燃圧)よりも高い燃圧で筒内噴射弁16に燃料を供給可能に構成されている。また高圧供給ポンプ21は、筒内噴射弁16の燃圧を複数段階で調整可能に構成されている。詳しくは後述するが、本実施形態では、高圧供給ポンプ21は、エンジン10の運転状態に応じて、筒内噴射弁16の燃圧を、第1の燃圧(例えば、10MPa程度)と、第1の燃圧よりも高い第2の燃圧(例えば、20MPa程度)との2段階で調整可能に構成されている。
【0024】
なお低圧供給ポンプ18及び高圧供給ポンプ21は、既存のものを採用すればよく、その構成は特に限定されるものではない。
【0025】
吸気マニホールド13に接続された吸気管(吸気通路)22には、スロットルバルブ23が設けられており、併せてスロットルバルブ23の弁開度を検出するスロットルポジションセンサ(TPS)24が設けられている。さらに、スロットルバルブ23の上流には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ25が設けられている。また排気マニホールド14に接続された排気管(排気通路)26には、排気浄化用触媒である三元触媒27が介装されている。三元触媒27の出口側には、触媒通過後の排ガスのO
2濃度を検出するO
2センサ28が設けられており、三元触媒27の入口側には、触媒通過前の排ガスの空燃比(排気空燃比)を検出するリニア空燃比センサ(LAFS)29が設けられている。
【0026】
またエンジン10は、電子制御ユニット(ECU)40を備えており、ECU40には、入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶を行う記憶装置、中央処理装置及びタイマやカウンタ類が備えられている。そして、このECU40が、各種センサ類からの情報に基づいて、エンジン10の総合的な制御を行っている。ECU40には、例えば、上述したスロットルポジションセンサ(TPS)24、エアフローセンサ25、O
2センサ28やLAFS29の他、クランク角センサ等の各種センサ類が接続されており、これらセンサ類からの検出情報に基づいて、各種制御を実行する。
【0027】
本発明に係る内燃期間の燃料噴射制御装置は、このようなECU40によって構成され、以下に説明するように、エンジン10の運転状態に応じて吸気路噴射弁15及び筒内噴射弁16から噴射される燃料量を適宜制御する。
【0028】
ECU40は、内燃機関の燃料噴射制御装置としての燃料制御部50を備え、燃料制御部50は、運転状態検出手段51と、燃料噴射制御手段52と、燃圧調整手段53と、を備えている。
【0029】
運転状態検出手段51は、上述した各種センサ類からの情報、例えば、エンジン10の負荷、回転数(回転速度)の変化等に基づいてエンジン10の運転状態を検出する。例えば、本実施形態では、運転状態検出手段51は、所定の運転領域マップ等を参照し(
図2参照)、エンジン10の運転状態が何れの運転領域にあるかを判定すると共に、エンジン10の運転状態が定常状態であるか、或いは、車両加速時等の過渡状態であるかを判定する。
【0030】
運転領域マップは、例えば、
図2に示すように、エンジン10の回転数と負荷とに基づいて予め設定されている。この例では、エンジン10の運転状態として、低回転低負荷側の運転領域である第1の運転領域D1と、第1の運転領域D1よりも高回転高負荷側の運転領域である第2の運転領域D2とが設定されている。
【0031】
燃料噴射制御手段52は、エンジン10の運転状態に応じて、つまり運転状態検出手段51の検出結果に応じて燃料噴射モード(噴射形態)を選択し、吸気路噴射弁15及び筒内噴射弁16から噴射する燃料量を適宜制御する。例えば、本実施形態では、エンジン10の運転状態が定常状態である場合、燃料噴射制御手段52は、エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1であれば、吸気路噴射弁15のみから燃料を噴射させるモード(以下、「MPI噴射モード」という)を選択実行する。またエンジン10の運転状態が第2の運転領域D2であれば、所定の噴射量比率で吸気路噴射弁15及び筒内噴射弁16から燃料を噴射させるモード(以下、「MPI+DI噴射モード」という)を選択実行する。
【0032】
また「MPI+DI噴射モード」では、吸気路噴射弁15と筒内噴射弁16との噴射量比率は予め設定されており、本実施形態では、原則として、吸気路噴射弁15と筒内噴射弁16との噴射量比率が一定値となるように設定されている。エンジン10の運転状態が定常状態であれば、1燃焼サイクル中に必要な燃料量(必要燃料量)の変動は少ないため、吸気路噴射弁15の噴射量と筒内噴射弁16の噴射量とは予め設定された上記比率となる。
【0033】
一方で、エンジン10の運転状態が過渡状態である場合には、エンジン10の運転状態の変化に伴って必要燃料量が適宜変化(増加)する。例えば、
図2中に矢印で示すように、エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1から第2の運転領域D2に移行した場合、必要燃料量が適宜変化(増加)する。このため、燃料噴射制御手段52は、このエンジン10の運転状態の変化に伴い、燃料噴射モードを「MPI噴射モード」から「MPI+DI噴射モード」に切り替えると共に、筒内噴射弁16から所定のタイミングで追加噴射させ、筒内噴射弁16から噴射する燃料量を適宜調整している。なおこの場合、吸気路噴射弁15の噴射量と筒内噴射弁16の噴射量とは上記比率から若干ずれることもある。
【0034】
また「MPI+DI噴射モード」における吸気路噴射弁15及び筒内噴射弁16からの燃料噴射のタイミングは、複数の噴射パターンが設定されており、燃料噴射制御手段52が、エンジン10の運転状態に応じて適宜選択する。ここで、吸気路噴射弁15及び筒内噴射弁16からの燃料噴射パターンの一例について
図3及び
図4を参照して説明する。
【0035】
図3に示す例では、吸気路噴射弁15の燃料噴射のタイミング(開弁時期)は、排気行程に設定されている。また筒内噴射弁16からの燃料噴射のタイミングは、エンジン10の運転状態が定常状態であれば、
図3(a)に示すように吸気行程に設定されている。また、エンジン10の運転状態が定常状態の際は噴射形態が固定される。これに対し、エンジン10の運転状態が過渡状態である場合、例えば、エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1から第2の運転領域D2に移行した場合には、筒内噴射弁16からの燃料噴射のタイミングは、
図3(b)に示すように、吸気行程及び圧縮行程前期に設定されている。すなわち圧縮行程前期において、筒内噴射弁16からの追加噴射を実行する。なお追加噴射は、必ずしも圧縮行程で行わなくてもよく、吸気行程で行うようにしてもよい。
【0036】
さらに燃料噴射制御手段52は、吸気路噴射弁15及び筒内噴射弁16の開弁期間(パルス幅)を各行程前の吸入空気量等の所定条件に基づいて演算する。本実施形態に係るエンジン10は4気筒の4ストロークエンジンであるため、各気筒でのクランク角の位相差180度が燃焼サイクルの各行程(排気行程、吸気行程、圧縮行程及び膨張行程)の周期に合致する。このため、各行程における燃料噴射量は、各行程直前の吸入空気量に基づいて演算している。なお本実施形態では、吸入空気量をエアフローセンサ25によって検出しているが、例えば、吸気圧や吸気温等に基づいて演算により求めることもできる。
【0037】
本実施形態では、例えば、膨張行程後(排気行程直前)のタイミングT1における吸入空気量A1に基づいて、吸気路噴射弁15から噴射すべき燃料量Q1と筒内噴射弁16から噴射すべき燃料量Q2とを演算する。具体的には、
図3及び
図4に示すように、まずタイミングT1における吸入空気量A1から必要燃料量Qa1を演算する。なお必要燃料量とは、1燃焼サイクルで必要な燃料量(吸気路噴射弁15の噴射量と筒内噴射弁16の噴射量との合計)である。
【0038】
この必要燃料量Qa1と、上述した吸気路噴射弁15と筒内噴射弁16との噴射量比率とに基づいて吸気路噴射弁15から噴射すべき燃料量Q1及び筒内噴射弁16から噴射すべき燃料量Q2を演算する。具体的には、吸気路噴射弁15と筒内噴射弁16との噴射量比率がA:Bである場合、吸気路噴射弁15から噴射する燃料量Q1は必要燃料量Qa1×A/(A+B)で求められ、筒内噴射弁16から噴射すべき燃料量Q2は必要燃料量Qa1×B/(A+B)で求められる。そして燃料噴射制御手段52は、排気行程において、この燃料量Q1となるように所定の開弁期間で吸気路噴射弁15を開弁させる。またエンジン10の運転状態が定常状態であれば、吸気行程において、この燃料量Q2となるように所定の開弁期間で筒内噴射弁16を開弁させる(
図3(a)参照)。
【0039】
エンジン10の運転状態が過渡状態である場合、例えば、エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1から第2の運転領域D2に移行した際には、排気行程後(吸気行程直前)のタイミングT2における吸入空気量A2に基づいて必要燃料量Qa2を演算する。この必要燃料量Qa2から排気行程における吸気路噴射弁15から噴射した燃料量Q1を減算することで、吸気行程において筒内噴射弁16から噴射する燃料量Q2′として求める(
図4参照)。そして燃料噴射制御手段52は、吸気行程において、この燃料量Q2′となるように所定の開弁期間で筒内噴射弁16を開弁させる(
図3(b)参照)。これにより、タイミングT1−T2間におけるエンジン10の運転状態の変化に伴う必要燃料量の増加分を補正している。
【0040】
エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1から第2の運転領域D2に移行した際には、さらに吸気行程後(圧縮行程直前)のタイミングT3における吸入空気量A3に基づいて必要燃料量Qa3を演算し、この必要燃料量Qa3から、排気行程で噴射した燃料量Q1及び吸気行程で噴射した燃料量Q2′を減算することで、圧縮行程前期で追加噴射する燃料量Q3を求める。つまり追加燃料量Q3とは、タイミングT2−T3間におけるエンジン10の運転状態の変化に伴う必要燃料量の増加分である。
【0041】
そして燃料噴射制御手段52は、圧縮行程前期において、この追加燃料量Q3が噴射されるように所定の開弁期間で筒内噴射弁16を開弁させる(
図3(b)参照)。つまり吸気行程における必要燃料量の増加分を、圧縮行程前期で筒内噴射弁16から噴射させることで補っている。これにより、1燃焼サイクルでの一連の燃料噴射が終了する。
【0042】
ところで、吸気路噴射弁15及び筒内噴射弁16の開弁期間(パルス幅)は、上述の演算により求められた燃料量と共に、吸気路噴射弁15及び筒内噴射弁16に供給される燃料の圧力(燃圧)に基づいて演算される。吸気路噴射弁15には、低圧供給ポンプ18によって略一定の圧力で燃料が供給されるため、燃料量が一定であれば吸気路噴射弁15の開弁期間も一定となる。
【0043】
これに対し、筒内噴射弁16には、高圧供給ポンプ21によって吸気路噴射弁15の燃圧よりも高いエンジン10の運転状態に応じた所定圧力で燃料が供給される。本実施形態では、第1の燃圧又は第2の燃圧となるように筒内噴射弁16に燃料が供給される。このため筒内噴射弁16の開弁期間は、噴射する燃料量が一定であっても燃圧の変化に応じて適宜変化する。そして、このような筒内噴射弁16の燃圧は、燃圧調整手段53によって適宜調整される。
【0044】
燃圧調整手段53は、エンジン10の運転状態に応じて、つまり運転状態検出手段51の検出結果に基づいて高圧供給ポンプ21の作動状態を制御して、筒内噴射弁16の燃圧を調整する。具体的には、燃圧調整手段53は、まずエンジン10の運転状態が第1の運転領域D1である場合、つまり「MPI噴射モード」が選択されている場合には、筒内噴射弁16の燃圧が第1の燃圧となるように高圧供給ポンプ21の作動状態を制御する。またエンジン10の運転状態が第2の運転領域D2である場合、つまり「MPI+DI噴射モード」が選択されている場合には、筒内噴射弁16の燃圧が第2の燃圧となるように高圧供給ポンプ21の作動状態を制御する。
【0045】
なお第1の燃圧は、本実施形態では、吸気路噴射弁15の燃圧よりも高く設定されている。ただし第1の燃圧は、筒内噴射弁16から燃焼室内に燃料を直接噴射可能な燃圧であれば、特に限定されず、例えば、吸気路噴射弁15の燃圧と同等の燃圧とすることもできる。
【0046】
さらに燃圧調整手段53は、エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1から第2の運転領域D2に移行した際には、噴射モード(噴射形態)に応じて高圧供給ポンプ21の作動状態を変更する前に、高圧供給ポンプ21の作動状態を筒内噴射弁16からの燃料噴射量が安定するように調整する。例えば、本実施形態では、燃圧調整手段53は、筒内噴射弁16からの燃料噴射量が安定するように、高圧供給ポンプ21の作動状態を所定期間維持する。具体的には、エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1から第2の運転領域D2に移行すると、燃料噴射制御手段52が燃料噴射モードを「MPI噴射モード」から「MPI+DI噴射モード」に切り替えるが、この段階では、燃圧調整手段53は高圧供給ポンプ21の作動状態を維持し、筒内噴射弁16の燃圧を第1の燃圧に保持する。その後、エンジン10の運転状態が第2の運転領域D2である状態が所定期間以上継続し噴射形態が固定されると、燃圧調整手段53が高圧供給ポンプ21の作動状態を変更し、筒内噴射弁16の燃圧を第2の燃圧とする。
【0047】
このように筒内噴射弁16の燃圧を制御することで、エンジン10の運転状態に拘わらず、筒内噴射弁16から噴射する燃料量を高精度に制御することができる。
【0048】
一般的に、燃料噴射弁は開弁時間(パルス幅)を所定時間以上とすることで噴射精度(リニアリティ)が安定する。このリニアリティが安定する領域で燃料噴射弁の開弁時間を制御することで、高精度に燃料噴射量を制御することができる。この所定時間は、燃圧が高いほど長くなる傾向にある。例えば、
図5に示すように、燃料噴射弁の燃圧がP1である場合には、開弁時間がTa以上の領域(図中太線で示す)でリニアリティが安定する。これに対し、燃料噴射弁の燃圧がP2(>P1)である場合には、単位時間当たりの噴射量は、燃圧P1である場合よりも増加するが、リニアリティが安定するのは開弁時間がTb(>Ta)以上の領域となる。さらに、燃料噴射弁の燃圧がP3(>P2)である場合には、単位時間当たりの噴射量は燃圧P2である場合よりも増加するが、リニアリティが安定するのは、開弁時間がTc(>Tb)以上の領域となる。
【0049】
このことから分かるように、筒内噴射弁16の燃圧を高くするほど、短時間で多くの燃料を噴射することができる。したがって、エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1から第2の運転領域D2に移行する際、移行と同時に筒内噴射弁16の燃圧を高くすれば、必要燃料量の増加に対応して筒内噴射弁16からの燃料噴射量を増加させ易くなる。一方で、エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1から第2の運転領域D2に移行した際に、移行と同時に筒内噴射弁16の燃圧を高くすると、微少な燃料噴射量を高精度に制御することができない虞がある。例えば、上述した筒内噴射弁16から追加噴射は、燃料噴射量が比較的少ないため、燃料噴射量を高精度に制御できない虞がある。
【0050】
しかしながら、エンジン10の運転状態が第1の運転領域D1から第2の運転領域D2に移行した際に、例えば、高圧供給ポンプ21の作動状態を所定期間維持し、筒内噴射弁16の燃圧を比較的低く保持することで開弁期間が通常よりも長くなるため、リニアリティが安定する領域で筒内噴射弁16の開弁期間(パルス幅)を制御することができるようになる。したがって、筒内噴射弁16から比較的少量の燃料を噴射する場合でも燃料噴射量を高精度に制御することができる。
【0051】
なお、高圧供給ポンプの作動状態を維持する上記所定期間は、必要に応じて適宜決定されればよいが、エンジン10の運転状態が定常状態となるまでの期間、すなわち筒内噴射弁16からの追加噴射が実行されている期間よりも長いことが好ましい。これにより、筒内噴射弁16の燃料噴射量をより確実に高精度に制御することができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0053】
例えば、上述の実施形態では、高圧供給ポンプが第1の燃圧と第2の燃圧との2段階で調整可能に構成された例を説明したが、高圧供給ポンプは3段階以上で燃圧を調整可能に構成されていてもよい。この場合も、エンジンの運転状態が第1の運転領域から第2の運転領域に移行した際に、高圧供給ポンプの作動状態を所定期間維持することで、上述のように筒内噴射弁の燃料噴射量を高精度に制御することができる。
【0054】
また高圧供給ポンプは3段階以上で燃圧を調整可能に構成されている場合には、エンジンの運転状態が第1の運転領域から第2の運転領域に移行した際、燃圧調整手段によって複数段階の燃圧から選択される筒内噴射弁からの燃料噴射量が安定する燃圧となるように高圧供給ポンプの作動状態を調整することが好ましい。さらには、筒内噴射弁の燃圧が最低段階の燃圧となるように高圧供給ポンプの作動状態を所定期間維持させることが好ましい。これにより、開弁期間をより長くすることができ、上述のように筒内噴射弁の燃料噴射量を高精度に制御することができる。
【0055】
また上述の実施形態では、圧縮行程前期に筒内噴射弁から追加噴射を実行するようにしたが、追加噴射のタイミングは、圧縮行程前期に限定されるものではない。例えば、吸気行程で追加噴射を実行するようにしてもよい。
【0056】
また上述の実施形態では、4気筒のエンジンを例示して本発明を説明したが、本発明の燃料噴射制御装置は、例えば、3気筒や6気筒のエンジンにも採用することができるものである。気筒数に応じて燃料噴射量の演算のタイミングを適宜設定する必要があるが、何れの気筒数とした場合でも、上述のようにエンジンの運転状態に拘わらず燃料噴射量を高精度に制御するがことができる。