(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に電子写真プロセスでは、電子写真感光体に対して、少なくともクリーニング、帯電、露光、現像及び転写の各プロセスが実行される。各プロセスでは、感光体ドラム表面に残存するトナーを除去清掃するクリーニングブレードや、感光体に一様な帯電を付与する導電性ロールや、トナー像を転写する転写ベルト等が用いられている。そして、クリーニングブレードは、塑性変形や耐摩耗性の観点から、主に熱硬化性ポリウレタン樹脂により製造される。
【0003】
しかしながら、例えば、ポリウレタン樹脂からなるクリーニングブレードを用いた場合、ブレード部材と感光体ドラムとの摩擦係数が大きくなり、ブレードのめくれや異音が発生したり、感光体ドラムの駆動トルクを大きくしなければならない場合があった。また、クリーニングブレードの先端が感光体ドラム等に巻き込まれ、引き延ばされて切断され、クリーニングブレードの先端が摩耗破損する場合もあった。
【0004】
このような問題を解決するため、従来からポリウレタン製ブレードの当接部を高硬度、且つ低摩擦にする試みが行われてきた。例えば、ポリウレタン製ブレードにイソシアネート化合物を含浸させ、ポリウレタン樹脂とイソシアネート化合物とを反応させることにより、ポリウレタン樹脂ブレードの表面及び表面近傍のみを高硬度化させ、且つ表面の低摩擦化を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、ブレード表面を高硬度化すると、カケが発生しやすくなるという問題がある。また、ブレード表面を低摩擦化すると、フィルミング(トナーが感光体ドラムに付着する現象)の発生を抑制することができるが、今度はトナーがすり抜けやすくなり、クリーニング不良が発生するという問題がある。
【0006】
他方、ポリウレタン樹脂ブレードの表面のダイナミック硬度や摩擦係数等を規定したクリーニングブレードが提案されている(例えば、特許文献2〜5参照)。しかしながら、ブレード表面のダイナミック硬度や摩擦係数等を規定しても、必ずしも満足できるブレードを実現できておらず、長期の使用によるカケの発生やフィルミングの発生は十分抑制できていない。
【0007】
また、一般的なプリンタ等に組み込まれるクリーニングブレードと、プロセスカートリッジに組み込まれるクリーニングブレードとは、要求されるスペックが異なるので、幅広い基材を選択できることが必要であり、その中で、耐摩耗性、耐カケ性、感光体の膜減り低減、耐フィルミング性を有することが要求される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の画像形成装置のクリーニングブレードについて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1に示すように、クリーニングブレード1は、ブレード本体(これ自体をクリーニングブレードともいう)10と支持部材20とを備えており、ブレード本体10と支持部材20とは図示されない接着剤を介して接合されている。ブレード本体10は、ゴム基材の成形体である弾性体11で構成される。弾性体11は、その表層部に表面処理層12が形成されている。表面処理層12は、弾性体11の表層部に表面処理液を含浸させ硬化することにより形成したものである。表面処理層12は、弾性体11のクリーニング対象と当接する部分に少なくとも形成すればよいが、本実施形態では、弾性体11の表面全体の表層部に表面処理層12を形成してある。
【0017】
このような表面処理層12の弾性率(ここでは体積弾性率をいう。以下同様。)は60MPa以下、好ましくは、4MPa以上60MPa以下である。表面処理層12の弾性率が60MPaより大きくすると、弾性体11の変形に対して表面処理層12が追従できなくなり、表面処理層12のカケが生じてしまう。また、4MPaより小さいと、表面処理層を設けた効果が顕著ではない。
【0018】
また、弾性体11の弾性率は3MPa以上35MPa以下である。弾性体11の弾性率を3MPa未満とすると、被接触体、即ち、本実施形態では感光体ドラムのトルクが上昇してしまい、フィルミングの抑制効果が低下してしまう。一方、弾性体11の弾性率を35MPaより大きくすると、感光体ドラムとクリーニングブレードとの十分な密着性が得られなくなる。
【0019】
また、表面処理層12の弾性率と弾性体11の弾性率との差は、1MPa以上25MPa以下である。表面処理層12の弾性率と弾性体11の弾性率との差を1MPaより小さくすると、フィルミングの抑制効果が十分得られなくなり、25MPaより大きくなると耐カケ性が低下するからである。
【0020】
このように、表面処理層12の弾性率が60MPa以下、好ましくは、4MPa以上60MPa以下であり、弾性体11の弾性率が3MPa以上35MPa以下であり、表面処理層12の弾性率と弾性体11の弾性率との差が1MPa以上25MPa以下であり、且つ下記式で表される指標Mが1以上であることにより、詳細は後述するが、耐カケ性に優れ、フィルミングの抑制及びクリーニング性の向上を同時に達成できるクリーニングブレード1となる。
【0021】
指標Mは下記式で表される。
指標M=弾性体の23℃での破断伸び(%)×1Hzでのtanδピーク温度(℃)×(−1)/表面処理液の含浸深さ(μm)
【0022】
ここで、弾性体の23℃での破断伸び(%)は、JIS K6251(2010年)に準じて23℃にて測定されたものである。
【0023】
弾性体の23℃での破断伸び(%)は、耐カケ性に大きな影響を与えると同時に、表面処理液の含浸深さにも大きな影響を与え、耐カケ性と密接な関係を示す。
【0024】
23℃での破断伸び(%)は、250%以上450%以下、好ましくは、300%以上450%以下が好ましい。
【0025】
また、1Hzでのtanδのピーク温度(℃)は、セイコーインスツル社製熱分析装置EXSTAR6000DMS粘弾性スペクトロメータで1Hzにて測定した。
【0026】
tanδの温度依存曲線は、ガラス−ゴム転移挙動を表し、耐カケ性に大きな影響を与える。tanδは、0℃より低いのが好ましい。
【0027】
表面処理液の含浸深さは、表面処理液が弾性体のどこまで含浸したかを示す指標であり、ある意味では表面処理層とも一致するが、どこまでを表面処理層とするかは定義によって異なる。
【0028】
本件では、含浸深さは以下の通りに定義する。
表面処理液の含浸深さは、島津製作所社製ダイナミック超微小硬度計(DUH−201)を用いて、JIS Z2255、ISO14577に準じて以下の方法で測定した。まず、ゴム弾性体の断面を切り出し、断面の弾性体表面から弾性体内部に向けての弾性率変化を測定し、次いで表面処理したゴム弾性体の断面を切り出し、断面の処理表面から弾性体内部に向けての弾性率変化を測定し、弾性体表面からの距離10μmの弾性率と処理表面から10μmの弾性率の変化量を100%とした場合の変化量が0%となる距離を計測し、表層からその距離までを含浸深さ(μm)とした。
含浸深さは、10〜600μm、好ましくは、10〜300μmとするのが好ましい。
【0029】
そして、本発明では、指標Mが1以上1100以下、好ましくは、1以上250以下とするのが好ましい。指標Mは上述した通りであり、弾性体11の耐カケ性に影響を与える破断伸びとtanδを考慮し、これらが大きい基材が好ましいが、このような基材は表面処理液が含浸しやすいので、表面処理層12の含浸深さを適宜調整し、耐カケ性が良好なものにする必要があり、指標Mの好ましい範囲はこのような点を考慮して決定されたものである。
【0030】
したがって、表面処理層12の弾性率、弾性体11の弾性率及びこれらの弾性率の差、指標Mを、所定の範囲とすることで、耐カケ性に優れ、フィルミングの抑制及びクリーニング性の向上の両立を確実に実現することができる。
【0031】
このような極めて薄い厚さの表面処理層12は、弾性体11との親和性が高い表面処理液を用いることにより、弾性体11の表層部に形成することができる。このような表面処理液を用いると、表面処理液は弾性体11に含浸され易く、弾性体11の表面に余剰量の表面処理液が残留しなくなり、従来のような余剰量のイソシアネート化合物を除去する除去工程が不要となる。
【0032】
表面処理層12を形成するために用いられる表面処理液は、イソシアネート化合物と有機溶剤とを含有する。表面処理液に含有されるイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)及び3,3′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイルジイソシアナート(TODI)等のイソシアネート化合物、及びこれらの多量体及び変性体等を挙げることができる。
【0033】
このような表面処理液として、イソシアネート化合物とポリオールと有機溶剤との混合溶液、又はイソシアネート化合物とポリオールとを反応させることにより得られるイソシアネート基を末端に有するイソシアネート基含有化合物、即ち、イソシアネート基含有プレポリマーと有機溶剤との混合溶液を用いることが好ましい。これらの表面処理液中でも、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤との混合溶液、又は2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを反応させることにより得られるイソシアネート基含有プレポリマーと有機溶剤との混合溶液がより好ましい。ここで、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤との混合溶液を用いた場合、表面処理液を含浸させ硬化させる工程で、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとが反応してイソシアネート基を末端に有するイソシアネート基含有プレポリマーが形成され、これが硬化すると共に弾性体11と反応することになる。
【0034】
このように、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとが反応してイソシアネート基含有プレポリマーとなる又はイソシアネート基含有プレポリマーを含有する表面処理液を用いることにより、形成した表面処理層12は、薄くても高硬度で低摩擦となり、耐カケ性、フィルミングの抑制性及びクリーニング性に優れたものとなる。なお、表面処理液は、弾性体11への濡れ性、浸漬程度や表面処理液の有効期間を考慮して適宜選定される。
【0035】
2官能イソシアネート化合物としては、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H−MDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、カルボジイミド変性MDI、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、3,3′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイルジイソシアナート(TODI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、リジンジイソシアネートメチルエステル(LDI)、ジメチルジイソシアネート及びこれらの多量体および変性体等が挙げられる。2官能イソシアネート化合物の中でも、分子量が200以上300以下のものを用いることが好ましい。上記の中では、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、3,3′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイルジイソシアナート(TODI)が挙げられる。特に弾性体11としてポリウレタンを用いた場合、2官能イソシアネート化合物とポリウレタンとの親和性が高く、表面処理層12と弾性体11との結合による一体化をより高めることができる。
【0036】
3官能ポリオールとしては、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン(TME)、トリメチロールプロパン(TMP)、1,2,6−ヘキサントリオール等の3官能脂肪族ポリオール、3官能脂肪族ポリオールにエチレンオキシド、ブチレンオキシド等を付加したポリエーテルトリオール、3官能脂肪族ポリオールにラクトン等を付加したポリエステルトリオール等が挙げられる。3官能ポリオールの中でも、分子量が150以下のものを用いることが好ましい。上記の中では、トリメチロールプロパン(TMP)が挙げられる。分子量が150以下の3官能ポリオールを用いることにより、イソシアネートとの反応が速く、高硬度の表面処理層を得ることができる。また、表面処理液に3官能ポリオールを含有することにより、3官能の水酸基がイソシアネート基と反応し、3次元構造を持つ高架橋密度の表面処理層12を得ることができる。
【0037】
有機溶剤は、イソシアネート化合物やポリオールを溶解するものであれば特に限定されないが、イソシアネート化合物と反応し得る活性水素を持たないものが好適に用いられる。例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン等が挙げられる。有機溶剤は、低沸点である程、溶解性が高く、含浸後の乾燥を速くすることができ、均一に処理することができる。なお、これらの有機溶剤は、弾性体11の膨潤程度により適宜選択され、好ましくはメチルエチルケトン(MEK)、アセトン、酢酸エチルが用いられる。
【0038】
また、弾性体11は活性水素を有するマトリックスからなる。ここで、活性水素を有するマトリックスとしては、ポリウレタン、エピクロルヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)、スチレンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等をゴム基材としたマトリックスを挙げることができる。これらの中でも、イソシアネート化合物との反応のしやすさに鑑みるとポリウレタンが好ましい。
【0039】
ポリウレタンからなるゴム基材としては、脂肪族ポリエーテル、ポリエステル及びポリカーボネートから選択される少なくとも一種を主体とするものを挙げることができる。具体的には、これら脂肪族ポリエーテル、ポリエステル及びポリカーボネートから選択される少なくとも一種を含むポリオールを主体とし、これをウレタン結合により結合したものを挙げることができ、好適には、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン等を挙げることができる。また、ウレタン結合の代わりにポリアミド結合あるいはエステル結合等により結合して弾性体としたものも用いることができる。さらに、ポリエーテルアミドやポリエーテルエステルなどの熱可塑性エラストマーを用いることもできる。また、ゴム基材として活性水素を有するものと併せて、又はその代わりに、充填剤、可塑剤として活性水素を有するものを用いてもよい。
【0040】
このような弾性体11の表層部に表面処理液を含浸させ硬化することにより、弾性体11の表層部に表面処理層12が形成される。ここで、弾性体11の表層部に表面処理液を含浸させ硬化する方法は特に限定されない。例えば、弾性体11を表面処理液に浸漬し、次いで加熱する方法、又は表面処理液をスプレー塗布等により弾性体11表面に塗布して含浸させ、次いで加熱する方法が挙げられる。また、加熱する方法は限定されず、例えば加熱処理、強制乾燥及び自然乾燥等が挙げられる。
【0041】
具体的に、表面処理液として、イソシアネート化合物とポリオールと有機溶剤との混合溶液を用いる場合、表面処理層12の形成は、弾性体11の表層部への表面処理液の含浸中に、イソシアネート化合物とポリオールが反応してプレポリマー化すると共に硬化し、且つイソシアネート基が弾性体11と反応することで進行する。
【0042】
また、表面処理液として、プレポリマーを用いる場合、まず表面処理液中のイソシアネート化合物とポリオールとを所定の要件で予め反応させて、表面処理液をイソシアネート基を末端に有するプレポリマーとする。表面処理層12の形成は、弾性体11の表層部に表面処理液を含浸し、その後硬化すると共にイソシアネート基が弾性体11と反応することで進行する。このようなイソシアネート化合物とポリオールとのプレポリマー化は、表面処理液を弾性体11の表層部に含浸させる間に起こってもよく、どの程度の反応を行わせるかは、反応温度、反応時間、放置環境を調節することによって制御することができる。好ましくは、表面処理液の温度5℃〜35℃、湿度20%〜70%下で行われる。なお、表面処理液には、必要に応じて架橋剤、触媒、硬化剤等が添加される。
【0043】
弾性体11の表面処理層12の形成部位は、少なくとも被接触体と当接する部位を含めばよい。例えば、弾性体11の先端部のみに形成してもよいし、弾性体全体に形成してもよい。また、弾性体11に支持部材20を接着してクリーニングブレードとした状態で、先端部のみ、又は弾性体全体の表層部に形成してもよい。また、弾性体11をブレード形状に切断する前のゴム成形体の一面、両面又は全面に表面処理層12を形成した後、切断するようにしてもよい。
【0044】
本発明によれば、表面処理層12の弾性率、弾性体11の弾性率及びこれらの弾性率の差を所定の範囲とすることで、耐カケ性に優れ、フィルミングの抑制及びクリーニング性の向上を同時に達成することができるクリーニングブレードを実現することができる。さらに、表面処理層の厚さを規定することにより、耐カケ性に優れると共にフィルミングの抑制及びクリーニング性の向上の両立を確実に実現することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明を限定するものではない。
まず、表面処理層の弾性率、弾性体(以下、ゴム弾性体という)の弾性率又はこれらの弾性率の差が異なるクリーニングブレードを以下の手順で作製し、実施例1〜8及び比較例1〜3とした。
【0046】
(実施例1)
(ゴム弾性体の作製)
ポリオールとしてエステル系ポリオール(分子量2000)100質量部と、イソシアネート化合物として4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)53質量部とを115℃×20分間反応させた後、架橋剤として1,4−ブタンジオール10.4質量部およびトリメチロールプロパン3.4質量部を混合し、140℃に保った金型で40分間加熱硬化させた。遠心成形後、幅15.0mm、厚さ2.0mm、長さ350mmに切断加工しゴム弾性体とした。得られたゴム弾性体は、弾性率が13.5MPaであった。
【0047】
(表面処理液の調製)
MDI(日本ポリウレタン工業(株)製、分子量250.25)7.7質量部、TMP(日本ポリウレタン工業(株)製、分子量134.17)2.3質量部、MEK90質量部の濃度10%の表面処理液を調製した。
【0048】
(ゴム弾性体の表面処理)
表面処理液を23℃に保ったまま、ゴム弾性体を表面処理液に10秒間浸漬後、50℃で保持されたオーブンで1時間加熱した。その後、表面処理されたゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。これにより、弾性率17.3MPaで含浸深さ200μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が3.8MPaのクリーニングブレードを得た。
【0049】
表面処理層及びゴム弾性体の弾性率は、ISO14577に準じた押し込み弾性率とする。押し込み弾性率は、島津製作所社製ダイナミック超微小硬度計(DUH−201)を用いて、負荷−除荷試験により保持時間5s、最大試験荷重0.50N、負荷速度0.15N/sの条件下で押し込み深さを3μm〜10μmとして測定した。測定サンプルは、同じ条件で作製したシートより切り出したサンプルを用い、表面処理層の押し込み弾性率の測定には、表面処理層を形成したゴム弾性体のシートの中央部から、40mm×12mmの寸法で切り出し、スライドガラス上に鏡面(遠心成形の際の型面とは反対側)を上にして両面テープで固定し、23℃設定の恒温槽中で30〜40分間放置したものを用いた。測定は、測定サンプルの長手方向の中央部で、長辺である稜線から30μm離れた位置で、稜線に平行に長手方向に30μm間隔で20点測定し、平均値を測定値とした。なお、ゴム弾性体の押し込み弾性率の測定には、表面処理層を形成する前のゴム弾性体のシートから切り出した測定サンプルを用いた。
【0050】
表面処理液の含浸深さは、島津製作所社製ダイナミック超微小硬度計(DUH−201)を用いて、JIS Z2255、ISO14577に準じて以下の方法で測定した。まず、ゴム弾性体の断面を切り出し、断面の弾性体表面から弾性体内部に向けての弾性率変化を測定し、次いで表面処理したゴム弾性体の断面を切り出し、断面の処理表面から弾性体内部に向けての弾性率変化を測定し、弾性体表面からの距離10μmの弾性率と処理表面から10μmの弾性率の変化量を100%とした場合の変化量が0%となる距離を計測し、表層からその距離までを含浸深さ(μm)とした。
【0051】
(実施例2)
MDI43質量部、1,4−BD8.9質量部、TMP1.6質量部とした以外は実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。得られたゴム弾性体は、弾性率が14.3MPaであった。そして、実施例1と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、弾性率16.6MPaで厚さ300μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が2.3MPaのクリーニングブレードを得た。
【0052】
(実施例3)
MDI49質量部、1,4−BD8.7質量部、TMP3.7質量部とした以外は実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。得られたゴム弾性体は、弾性率が12.1MPaであった。そして、実施例1と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、弾性率14.0MPaで厚さ450μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が1.9MPaのクリーニングブレードを得た。
【0053】
(実施例4)
MDI37質量部、1,4−BD7.1質量部、TMP1.3質量部とした以外は実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。得られたゴム弾性体は、弾性率が10.6MPaであった。そして、実施例1と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、弾性率12.5MPaで厚さ600μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が1.9MPaのクリーニングブレードを得た。
【0054】
(実施例5)
カプロラクトン系ポリオール(分子量2000)100質量部、MDI46質量部、1,4−BD7.8質量部、TMP3.4質量部とした以外は実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。得られたゴム弾性体は、弾性率が10.4MPaであった。そして、実施例1と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、弾性率11.4MPaで厚さ200μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が1.0MPaのクリーニングブレードを得た。
【0055】
(実施例6)
MDI60質量部、1,4-BD11.6質量部、TMP2.9質量部とした以外は、実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。得られたゴム弾性体は、弾性率が32.1MPaであった。そして、MDI12.0質量部、TMP0.6質量部、1,3−プロパンジオール(デュポン(株)製、分子量76.09)2.4質量部、MEK85.0質量部の濃度15.0%の表面処理液を用いた以外は実施例1と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、弾性率42.8MPaで厚さ50μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が10.7MPaのクリーニングブレードを得た。
【0056】
(実施例7)
実施例6と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、表面処理を2回実施した以外は実施例6と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、弾性率56.8MPaで厚さ50μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が24.7MPaのクリーニングブレードを得た。
【0057】
(実施例8)
MDI43質量部、1,4−BD5.2質量部、TMP5.2質量部とした以外は、実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。得られたゴム弾性体は、弾性率が4.8MPaであった。そして、MDI16.0質量部、TMP0.6質量部、1,3−プロパンジオール(デュポン(株)製、分子量76.09)3.4質量部、MEK80.0質量部の濃度20.0%の表面処理液を用いた以外は実施例1と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、弾性率23.1MPaで厚さ600μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が18.3MPaのクリーニングブレードを得た。
【0058】
(比較例1)
実施例4と同様の手順でゴム弾性体を得た。また、表面処理は施さずにクリーニングブレードを得た。
【0059】
(比較例2)
MDI51質量部、1,4−BD6.7質量部、TMP4.7質量部とした以外は、実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、実施例1と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、弾性率13.7MPaで厚さ450μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が1.9MPaのクリーニングブレードを得た。
【0060】
(比較例3)
実施例6と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、表面処理を3回実施した以外は実施例6と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、弾性率62.0MPaで厚さ50μmの表面処理層を有し、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が29.9MPaのクリーニングブレードを得た。
【0061】
(試験例1)
<表面処理層及びゴム弾性体の弾性率、並びにこれらの弾性率の差の評価>
実施例1〜8及び比較例1〜3のクリーニングブレードを用いて、耐カケ性、フィルミング抑制性及びクリーニング性の評価を行った。なお、これらの評価は、A3サイズ カラーMFP 55枚/分 機を用いて行った。
【0062】
耐カケ性の評価は、カートリッジにブレードを組み込み10万枚印刷した後、カケや摩耗がなかった場合を○、カケや摩耗が少しだけ観察された場合を△、カケや摩耗があった場合を×とした。
【0063】
フィルミング抑制性の評価は、カートリッジにブレードを組み込み10万枚印刷した後、トナーの固着がなかった場合を○、トナーの固着が少しだけ観察された場合を△、トナーの固着があった場合を×とした。
【0064】
クリーニング性の評価は、カートリッジにブレードを組み込み10万枚印刷した後、トナーのすり抜けがなかった場合を○、トナーのすり抜けが少し観察された場合を△、トナーのすり抜けがあった場合を×とした。結果を表1に示す。
【0065】
表1に示すように、実施例1〜8と比較例1〜3とを比べると、表面処理層の弾性率が60MPa以下(規定値)であり、ゴム弾性体の弾性率が3MPaより大きく35MPa以下であり、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が1MPa以上25MPa以下である実施例1〜8のクリーニングブレードは、耐カケ性、フィルミング抑制性及びクリーニング性の評価がいずれも○となった。一方、表面処理を施さなかった比較例1は、耐カケ性が△となり、フィルミング抑制性の評価が×となった。また、指標Mが1より小さい比較例2は、耐カケ性が×となった。さらに、表面処理層の弾性率が60MPaよりも大きく、表面処理層の弾性率とゴム弾性体の弾性率との差が21MPaより大きい比較例3は、耐カケ性の評価が×であり、クリーニング性の評価が×となった。これにより、表面処理層の弾性率、ゴム弾性体の弾性率及びこれらの弾性率の差を所定の範囲とすることで(実施例1〜8)、耐カケ性に優れ、フィルミング抑制性及びクリーニング性の向上を同時に達成できることがわかった。
【0066】
【表1】