特許第6525278号(P6525278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6525278
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】放熱構造及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20190527BHJP
   H05K 5/02 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   H05K7/20 B
   H05K7/20 F
   H05K5/02 T
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-220336(P2016-220336)
(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公開番号】特開2018-78231(P2018-78231A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2018年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 章裕
【審査官】 酒井 恭信
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−065868(JP,A)
【文献】 実開平02−146930(JP,U)
【文献】 実開平02−004287(JP,U)
【文献】 特開平10−246819(JP,A)
【文献】 特開2001−024367(JP,A)
【文献】 米国特許第05931000(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
H05K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の筐体と、
前記筐体の内部に挿入される、前記筐体の中心軸に垂直な平面における外形が円形の内部ユニットと、
内側が前記内部ユニットの外側の曲率半径と同じ曲率半径を有し前記内部ユニットの外周面と接触する円弧状の第1の熱伝導部材と、
内側が前記第1の熱伝導部材の外側の曲率半径と同じ曲率半径を有し前記第1の熱伝導部材の外周面に接触する円弧状の第2の熱伝導部材とを備え、
前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材との組を複数有し、
前記中心軸に垂直な平面において、前記第1の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、かつ、前記第2の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは前記所定距離だけ離れており、
前記内部ユニットの曲率中心は、前記第1の熱伝導部材の内側の曲率中心、及び前記第2の熱伝導部材の外側の曲率中心と一致し、
前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材とが円周軌道に沿って相対的に変位可能に構成され
前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材とが円周軌道に沿って相対的に変位することで、前記第2の熱伝導部材の外側の少なくとも一部が前記筐体の内面に接触させられ、前記内部ユニットが前記筐体の内部に保持される電子装置。
【請求項2】
前記第2の熱伝導部材と前記筐体の内面との間に、柔軟性を有する第3の熱伝導部材を更に有し、前記第2の熱伝導部材の外側の少なくとも一部は前記第3の熱伝導部材を介して前記筐体の内面に接触させられる請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記第1の熱伝導部材及び前記第2の熱伝導部材の少なくとも一方が金属材料から成り、前記第3の熱伝導部材が熱伝導性を有するゴム部材から成る請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材とが円周軌道に沿って相対的に変位することで、前記内部ユニットの中心から見た前記第1の熱伝導部材の厚みと前記第2の熱伝導部材の厚みとの和が変化する請求項1から3何れか1項に記載の電子装置。
【請求項5】
前記内部ユニットは、前記内部ユニットの中心から見た前記第1の熱伝導部材の厚みと前記第2の熱伝導部材の厚みとの和が前記筐体の内面と前記内部ユニットの外周との間の距離よりも小さくされた状態で前記筐体の内部に挿入され、前記内部ユニットが前記筐体に挿入された後、前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材とが円周軌道に沿って相対的に変位され、前記第2の熱伝導部材の外側の少なくとも一部が前記筐体の内面に接触させられる請求項4に記載の電子装置。
【請求項6】
前記第2の熱伝導部材が、前記第1の熱伝導部材に対して円周軌道に沿って変位可能に構成される請求項1から5何れか1項に記載の電子装置。
【請求項7】
前記筐体の前記中心軸に沿った方向の両端に、前記第1の熱伝導部材を固定する固定部材を更に有する請求項6に記載の電子装置。
【請求項8】
前記中心軸に沿った方向に延び、傾斜面が形成された突起部を有するシャフトを更に有し、
前記第2の熱伝導部材は前記突起部の傾斜面に対応した切り欠きを有し、
前記シャフトは前記中心軸に沿った方向に前記固定部材に対して変位可能に構成されており、前記突起部が傾斜面に沿って前記第2の熱伝導部材の前記切り欠きを押すことで、前記第2の熱伝導部材が、前記シャフトの変位量に応じた量だけ前記円周軌道に沿って回転させられる請求項7に記載の電子装置。
【請求項9】
前記固定部材は、前記第1の熱伝導部材の外周に沿って形成されたスリットを有し、
前記第2の熱伝導部材は、前記スリットに挿入される突起を有する請求項7又は8に記載の電子装置。
【請求項10】
内側が、円筒状の筐体の内部に挿入される、前記筐体の中心軸に垂直な平面における外形が円形の内部ユニットの外周の曲率半径と同じ曲率半径を有し前記内部ユニットの外周面と接触する円弧状の第1の熱伝導部材と、
内側が前記第1の熱伝導部材の外側の曲率半径と同じ曲率半径を有し前記第1の熱伝導部材の外周面と接触する円弧状の第2の熱伝導部材とを備え、
前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材との組を複数有し、
前記中心軸に垂直な平面において、前記第1の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、かつ、前記第2の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは前記所定距離だけ離れており、
前記第1の熱伝導部材の内側の曲率中心、及び前記第2の熱伝導部材の外側の曲率中心は、前記内部ユニットの曲率中心と一致し、
前記第1の熱伝導部材及び前記第2の熱伝導部材は、円周軌道に沿って相対的に変位可能に構成され、
前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材とが円周軌道に沿って相対的に変位することで、前記第2の熱伝導部材の外側の少なくとも一部が前記筐体の内面に接触させられ、前記内部ユニットを前記筐体の内部に保持する放熱構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱構造及び電子装置に関し、更に詳しくは、円筒状の筐体の内部に挿入される内部ユニットから発せられた熱を放熱する放熱構造、及びそのような放熱構造を含む電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
筐体の内部に発熱体である内部ユニットが収容される電子装置においては、内部ユニットから発せられる熱の放熱が重要である。例えば特許文献1及び2は、円筒状の筐体とその内部に挿入される内部ユニットとを有する電子装置における放熱構造を開示する。これら文献に記載の電子装置は、内部ユニットの外周にばね部材(弾性変形部材)を有する。ばね部材は、弾性変形させられた状態で円筒状の筐体の内部に挿入される。ばね部材は、円筒状の筐体の内部に接触し、内部ユニットから発せられた熱は、ばね部材を通じて円筒状の筐体に伝達される。このようにすることで、内部ユニットから発せされた熱の放熱が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−246819号公報
【特許文献2】特開2001−24367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2では、内部ユニットから発せられた熱は、ばね部材を通じて筐体に放熱される。しかしながら、特許文献1及び2に記載の電子装置では、内部ユニットと筐体との間には隙間が多く存在する。通常、空気は熱伝導率がばね部材に用いられる金属に比べ非常に低く、内部ユニットと筐体との間の隙間では、熱伝導はほとんど行われない。近年、熱源となる電子部品の高密度実装化が急速に進んできており、高密度化に伴い装置内部の発熱量も増加している。特許文献1及び2に記載の放熱構造では、ばね部材の熱伝導でのみ内部ユニットの熱を筐体へ伝えているため、熱伝導性は高くなく、装置に必要な冷却能力を得ることが困難になりつつある。
【0005】
また、特許文献1に記載の放熱構造では、内部ユニットを筐体内に挿入実装する際に、ばね部材を弾性変形させてばねを圧縮した状態とする必要があるため、ばね部材と筐体との間の摩擦力が大きい。特許文献1に記載の放熱構造では、内部ユニットを筐体内に挿入するときに大きな挿入力が必要であり、装置の製造現場では挿入のための専用設備が必要であり、また、必要な工数が増加する。特許文献2に記載された放熱構造では、弧状板部を筐体の内面に弾性的に接触させているため、特許文献1に記載の放熱構造に比べて、摩擦力を低減できる。しかしながら、特許文献1に記載の放熱構造おいても、ばね部材(弧状板部)を弾性変形させた状態で挿入するための専用設備が必要であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑み、内部ユニットの筐体内への挿入を容易にしつつ、内部ユニットと筐体の間の熱伝導性を向上できる放熱構造及び電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、円筒状の筐体と、前記筐体の内部に挿入される、前記筐体の中心軸に垂直な平面における外形が円形の内部ユニットと、内側が前記内部ユニットの外側の曲率半径と同じ曲率半径を有し前記内部ユニットの外周面と接触する円弧状の第1の熱伝導部材と、内側が前記第1の熱伝導部材の外側の曲率と同じ曲率半径を有し前記第1の熱伝導部材の外周面に接触する円弧状の第2の熱伝導部材とを備え、前記中心軸に垂直な平面において、前記第1の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、かつ、前記第2の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材とが円周軌道に沿って相対的に変位可能に構成される電子装置を提供する。
【0008】
本発明は、また、内側が、円筒状の筐体の内部に挿入される、前記筐体の中心軸に垂直な平面における外形が円形の内部ユニットの外周の曲率半径と同じ曲率半径を有し前記内部ユニットの外周面と接触する円弧状の第1の熱伝導部材と、内側が前記第1の熱伝導部材の外側の曲率と同じ曲率半径を有し前記第1の熱伝導部材の外周面と接触する円弧状の第2の熱伝導部材とを備え、前記中心軸に垂直な平面において、前記第1の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、かつ、前記第2の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、
前記第1の熱伝導部材及び前記第2の熱伝導部材は、円周軌道に沿って相対的に変位可能に構成される放熱構造を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子装置及び放熱構造は、内部ユニットの筐体内への挿入を容易にしつつ、内部ユニットと筐体の間の熱伝導性を向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る放熱構造を有する電子装置を示す分解斜視図。
図2】内部ユニットを含む挿入体と筐体とを示す斜視図。
図3】電子装置の長軸方向の中央付近の断面の一部を示す断面図。
図4】電子装置に用いられるリングを示す斜視図。
図5】電子装置に用いられるシャフトを示す斜視図。
図6】電子装置に用いられる第2の熱伝導部材を示す斜視図。
図7A】電子装置の中心軸に沿った方向の中央付近における中心軸に垂直な方向の断面を示す断面図。
図7B】筐体に挿入された内部ユニットを示す側面図。
図8】は、図7Aの一部を拡大して示す断面図。
図9A】電子装置の中心軸に沿った方向の中央付近における中心軸に垂直な方向の断面を示す断面図。
図9B】筐体に挿入された内部ユニットを示す側面図。
図10図8Aの一部を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る放熱構造を有する電子装置を示す分解斜視図である。電子装置100は、筐体101と、筐体101の内部に挿入(収容)される内部ユニット102とを有する。電子装置100は、更に、第1の熱伝導部材103、第2の熱伝導部材104、第3の熱伝導部材105、リング106、及びシャフト107を有する。
【0012】
筐体101は、円筒状の筐体である。筐体101の円筒の内部に挿入される内部ユニット102は、発熱体を有している。内部ユニット102は、例えば発熱する電子回路を含む回路ユニットとして構成されている。内部ユニット102の、円筒状の筐体101の中心軸に垂直な平面における外形は円形である。内部ユニット102は、例えば円柱状に形成される。内部ユニット102の円筒状の筐体101の中心軸に垂直な平面における直径は、筐体101の内径よりも小さい。
【0013】
内部ユニット102には、断面形状が円弧状の第1の熱伝導部材(ブロック)103及び第2の熱伝導部材104が積み重ねられる。円筒状の筐体101の中心軸に垂直な平面において、円弧状の第1の熱伝導部材103の内側の曲率半径は、内部ユニット102の外側の曲率半径と等しい。第1の熱伝導部材103は、その内側において内部ユニット102の外周面と接触する。円弧状の第2の熱伝導部材104の内側の曲率半径は、第1の熱伝導部材103の外側の曲率と等しい。第2の熱伝導部材104は、内側において、第1の熱伝導部材103の外周面に接触する。第1の熱伝導部材103及び第2の熱伝導部材104は、放熱構造を構成する。
【0014】
ここで、「内側」とは内部ユニット102に熱伝導部材が重ねられた場合に、内部ユニット102が存在する側を指す。また、「外側」とは、内部ユニット102に熱伝導部材が重ねられた場合に、内部ユニット102が存在する側の反対側を指す。
【0015】
第3の熱伝導部材105は、第2の熱伝導部材104に重ねられる。第3の熱伝導部材105は、第2の熱伝導部材104と筐体101の内面との接触性を向上させるために設けられている。第2の熱伝導部材104を筐体101の内面に良好に接触させることができる場合、第3の熱伝導部材105は省略してもよい。
【0016】
第1の熱伝導部材103、第2の熱伝導部材104、及び第3の熱伝導部材105は、それぞれ筐体101(または内部ユニット102)の長軸方向に沿って延びている。第1の熱伝導部材103、第2の熱伝導部材104、及び第3の熱伝導部材105の、内部ユニット102の長軸方向における全長は、例えば内部ユニット102の長軸方向の全長と等しい。図1の例では、第1の熱伝導部材103及び第2の熱伝導部材104は、紙面の上下方向に2分割されており、上下方向の両側から内部ユニット102を挟み込んでいる。
【0017】
第1の熱伝導部材103及び第2の熱伝導部材104は、例えば熱伝導率が高い金属材料から成る。第1の熱伝導部材103及び第2の熱伝導部材104は、例えばアルミニウム又はアルミニウムを含む合金から成る。第3の熱伝導部材105は、柔軟性を有する材料から成る。第3の熱伝導部材105は、例えば熱伝導性を有するゴム部材から成る。第3の熱伝導部材105は、例えば熱伝導性シリコンゴムなどの柔軟性と熱伝導性とを有する素材から成る放熱シートとして構成される。
【0018】
シャフト107は、2分割された上下の第1の熱伝導部材103及び第2の熱伝導部材104の間に配置される。図1では、2つのシャフト107が、内部ユニット102を挟んで互いに対向する位置に配置されている。第1の熱伝導部材103、第2の熱伝導部材104、及びシャフト107は、長軸方向の両端において、リング(固定部材)106に挟み込まれて固定される。第1の熱伝導部材103は、ねじ108を用いてリング106に固定される。第2の熱伝導部材104は、ねじ110を用いてリング106に固定される。シャフト107は、ねじ109を用いてリング106に固定される。リング106は、例えばステンレスなどの剛性の高い素材から成る。
【0019】
内部ユニット102に第1の熱伝導部材103、第2の熱伝導部材104、及び第3の熱伝導部材105を重ね、それらとシャフト107とをリング106を用いて長軸方向の両端から挟み込むことで、挿入体111が構成される。図2は、挿入体111の筐体101への挿入を示す。筐体101の円筒の内部には、上記のように組み立てられた内部ユニット102を含む挿入体111が挿入される。
【0020】
図3は、電子装置100の長軸方向の中央付近の断面を示す。なお、図3においては、簡略化のため、第3の熱伝導部材105及びシャフト107などの図示を省略している。筐体101の中心軸に垂直な平面において、内部ユニット102の外周面の半径をrとする。第1の熱伝導部材103において、内側の曲率半径は半径rに等しい。第1の熱伝導部材103の外側の曲率半径は、半径rよりも大きい半径Mであるとする。
【0021】
第2の熱伝導部材104において、内側の曲率半径は半径Mに等しい。また、第2の熱伝導部材104の外側の曲率半径は、半径Mよりも大きい半径Rであるとする。
【0022】
本実施形態に係る電子装置100では、筐体101の中心軸に垂直な平面において、第1の熱伝導部材103の内側と外側とで、曲率中心の位置が異なる。別の言い方をすれば、第1の熱伝導部材103の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れている。また、第2の熱伝導部材104も、外側と内側とで曲率中心の位置が異なる。図3においては、第1の熱伝導部材103の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは距離Lだけ離れている。また、第2の熱伝導部材104の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは距離Lだけ離れている。
【0023】
第1の熱伝導部材103は、内側の曲率中心の位置が内部ユニット102の中心と一致するように、内部ユニット102に重ねられる。その場合、第1の熱伝導部材103の外側の曲率中心の位置は、内部ユニット102の中心から所定距離Lだけずれる。第2の熱伝導部材104の内側の曲率半径は、第1の熱伝導部材103の外側の曲率半径と等しい。このため、第2の熱伝導部材104を第1の熱伝導部材103に重ねると、第2の熱伝導部材104の内側の曲率中心の位置は、内部ユニット102の中心から所定距離Lだけずれることになる。
【0024】
第2の熱伝導部材104の外側の曲率半径Rは、筐体101の内面の半径よりも小さい。例えば、第2の熱伝導部材104の外側の曲率半径Rは、シート状の第3の熱伝導部材105の厚みの分だけ、筐体101の内面の半径よりも小さい。その場合、第2の熱伝導部材104の外側の曲率中心が筐体101及び内部ユニット102の中心と重なるように第2の熱伝導部材104を配置すると、筐体101の内面と内部ユニット102の外周面との間の距離と、第1の熱伝導部材103、第2の熱伝導部材104、及び第3の熱伝導部材105の厚みの合計とが等しくなる。
【0025】
本実施形態では、電子装置100は、第1の熱伝導部材103と第2の熱伝導部材104とが、円周軌道に沿って相対的に変位可能に構成される。特に、本実施形態では、第1の熱伝導部材103はリング106(図1を参照)を用いて固定されており、第2の熱伝導部材104が、第1の熱伝導部材103に対して、その外周に沿って変位可能に構成される。
【0026】
第2の熱伝導部材104を第1の熱伝導部材103に対して回転変位させると、第2の熱伝導部材104の外周面上の各点は、第1の熱伝導部材103の外側の曲率中心の位置を中心に、回転させられる。例えば、第2の熱伝導部材104の外周面上の点aは図3に示される軌道Oaに沿って回転され、点bは軌道Obに沿って回転され、点cは軌道Ocに沿って回転される。
【0027】
例えば、第2の熱伝導部材104を図3の紙面向かって左側に回転変位させると、第2の熱伝導部材104の外周面上の点a、b、及びcと内部ユニット102の中心との間の距離が長くなる。反対に、第2の熱伝導部材104を紙面向かって右側に回転変位させると、外周面上の点a、b、及びcと、内部ユニット102の中心との間の距離が短くなる。このように、第2の熱伝導部材104を内部ユニット102の中心に対して偏心した第1の熱伝導部材103の外側の円周軌道に沿って移動させることで、第2の熱伝導部材104の外周面を筐体101の内面に近づけ、或いは内面から遠ざけることができる。
【0028】
本実施形態では、第1の熱伝導部材103と第2の熱伝導部材104とが円周軌道に沿って相対的に変位することで、内部ユニット102の中心から見た第1の熱伝導部材103の厚みと第2の熱伝導部材104の厚みとの和が変化する。内部ユニット102は、筐体101の中心軸から見た第1の熱伝導部材103の厚みと第2の熱伝導部材104の厚みとの和が、筐体101の内面と内部ユニット102の外周との間の距離よりも小さくされた状態で、筐体101の内部に挿入される。内部ユニット102が筐体101に挿入された後、第2の熱伝導部材104が第1の熱伝導部材103に対して円周軌道に沿って相対的に変位され、第2の熱伝導部材104の外側の少なくとも一部が、第3の熱伝導部材105を介して筐体101の内面に接触させられる。このようにすることで、挿入の容易さと、内部ユニット102の放熱性とが両立可能である。
【0029】
図4は、リング106を示す。リング106は、円周に沿って形成された長穴106aと、はめ込み穴106bとを有する。長穴(スリット)106aには、第2の熱伝導部材104に形成されたピンが挿入される。第2の熱伝導部材104は、長穴106aに第2の熱伝導部材104に形成されたピンが挿入された状態で、リング106に挟み込まれる。長穴106aは、第1の熱伝導部材103の外側の曲率中心と同じ中心を持つ円の軌道に沿って形成されている。第2の熱伝導部材104に形成されたピンは長穴106aに沿って移動可能である。別の言い方をすれば、長穴106aは、第2の熱伝導部材104が第1の熱伝導部材103の外周に沿って移動可能になるように第2の熱伝導部材104を拘束する。
【0030】
はめ込み穴106bは、シャフト107がはめ込まれる穴である。はめ込み穴106bのサイズは、シャフト107の外形に比べて若干大きい。シャフト107は、はめ込み穴106bにはめ込まれた状態でリング106に挟まれて固定される。シャフト107は、リング106の片側でねじ109(図1を参照)に連結される。シャフト107の内部ユニット102の長軸方向の位置は、ねじ109の締め付け量に応じて変化させられる。
【0031】
図5は、シャフト107を示す。また、図6は、第2の熱伝導部材104を示す。シャフト107は、傾斜面が形成された突起部107aを有する。第2の熱伝導部材104は、リング106の長穴106a(図4を参照)に挿入されるピン(突起)104aを有する。また、第2の熱伝導部材104は、シャフト107の突起部107aにかみ合うように、突起部107aの傾斜に対応した切り欠き104bを有する。本実施形態では、シャフト107の突起部107aが傾斜面に沿って第2の熱伝導部材104の切り欠き104bを押すことで、第2の熱伝導部材104が円周軌道に沿って回転させられる。シャフト107の長軸方向の位置はねじ109の締め付け応じて変化し、第2の熱伝導部材104の回転量はねじ109の締め付け量に応じて変化する。
【0032】
図7Aは、内部ユニット102の挿入時の電子装置100の中心軸に沿った方向の中央付近における中心軸に垂直な方向の断面を示す。図7Bは、筐体101に挿入された内部ユニット102を側面から見たものを示す。この状態では、図7Bに示されるように、シャフト107の位置は、その突起部の傾斜が第2の熱伝導部材104の切り欠きの傾斜と一致する位置に調整されている。この状態は、図7Aに示される断面において、第2の熱伝導部材104が紙面向かって最も右側に回転された状態である。
【0033】
図8は、図7Aにおける破線で囲んだ部分を拡大して示したものである。上記状態は、内部ユニット102の中心から見た第1の熱伝導部材103の厚みと第2の熱伝導部材104の厚みとの和が最も小さくなる状態である。この状態では、図8に示されるように、第2の熱伝導部材104上に重ねられる第3の熱伝導部材105と筐体101の内面との間には隙間GAPが生じる。第3の熱伝導部材105と筐体101の内面との間に隙間が生じる状態で内部ユニット102の挿入を行うことで、内部ユニット102を容易に筐体101の円筒に挿入することができる。
【0034】
図9Aは、内部ユニット102の挿入後の電子装置100の中心軸に沿った方向の中央付近における中心軸に垂直な方向の断面を示す。図9Bは、筐体101に挿入された内部ユニット102を側面から見たものを示す。内部ユニット102の挿入後、ねじ109の締め付けが調整され、図9Bに示されるように、シャフト107の位置が、紙面向かって左側に移動される。シャフト107が左側に移動すると、シャフト107の突起部の傾斜が、第2の熱伝導部材104の切り欠きの傾斜を押す。第2の熱伝導部材104は、ピン104a(図6を参照)がリング106の長穴106a(図5を参照)によってガイドされつつ、図9Aに示される断面において、紙面向かって左側に回転させられる。
【0035】
図10は、図9Aにおける破線で囲んだ部分を拡大して示したものである。第2の熱伝導部材104が紙面向かって左側に回転することで、内部ユニット102の中心から見た第1の熱伝導部材103の厚みと第2の熱伝導部材104の厚みとの和は、図7Aの場合よりも大きくなる。シャフト107は、第2の熱伝導部材104が第3の熱伝導部材105を介して筐体101の内面に突き当たるまで、図9Bにおいて紙面左側に移動させられる。ねじ109を用いてシャフト107の位置を調整することで、第2の熱伝導部材104上に重ねられる第3の熱伝導部材105と筐体101の内面とを密着させることができる。
【0036】
第2の熱伝導部材104は、挿入体111(図2を参照)が筐体101へ挿入され、第3の熱伝導部材105が筐体101の内面に密着するように円周軌道に沿って移動させられた後、ねじ110(図1を参照)を用いてリング106に固定される。内部ユニット102の挿入後、第3の熱伝導部材105と筐体101の内面とを密着させることで、内部ユニット102の熱を筐体101に効率的に伝導させることが可能であり、放熱性能を向上させることができる。
【0037】
本実施形態では、電子装置100は、筐体101の内面と内部ユニット102の外周との間に、第1の熱伝導部材103と第2の熱伝導部材104とを有する。第1の熱伝導部材103の外側と内側とでは曲率中心の位置がずれており、第2の熱伝導部材104の外側と内側とでは曲率中心の位置がずれている。第1の熱伝導部材103の内側の曲率半径は、内部ユニット102の外周面の曲率半径と等しい。本実施形態では、内側の曲率半径が第1の熱伝導部材103の外側の曲率半径と等しい第2の熱伝導部材104を第1の熱伝導部材103に重ね、第2の熱伝導部材104を円周軌道に沿って移動させる。このようにすることで、第2の熱伝導部材104の外周面と筐体101の内面との距離を変更することができる。
【0038】
本実施形態では、第2の熱伝導部材104と筐体101の内面との距離が変更可能に構成されているため、内部ユニット102を筐体101に挿入する際には、第2の熱伝導部材104と筐体101の内面との間の距離を長くした状態で、内部ユニット102の挿入を実施できる。そのような状態で内部ユニット102の挿入を行うことで、挿入時の摩擦を低減することができる。内部ユニット102の挿入後は、第2の熱伝導部材104と筐体101の内面との距離を短くすることで、第2の熱伝導部材104の外周面を第3の熱伝導部材105を介して筐体101の内面に接触させることができる。熱伝導部材を隙間なく筐体101の内面に接触させることで、熱伝導性を向上することができる。
【0039】
ここで、特許文献1及び特許文献2では、金属ばねが用いられた構造が採用されており、そのような構造を適用した場合は、内部ユニットと円筒筐体との間に隙間が多く存在し、熱の伝導が阻害される。本実施形態では、内部ユニット102の挿入後、第2の熱伝導部材104を筐体101の内面に近づけて隙間を減らすことができ、内部ユニット102から筐体101への熱伝導性能を高めることが可能である。熱伝導性能を高め、装置の放熱性能を上げることで、電子部品の高密度実装に起因する発熱量の増加に対しても十分な冷却性能を確保することができるようになり、装置に実装する電子部品の高集積化を実現することもできる。
【0040】
また、特許文献1及び特許文献2に記載された構造では、筐体へ内部ユニットを挿入する際に、大きな挿入力が必要であり、或いは専用設備が必要であった。本実施形態では、第2の熱伝導部材104を筐体101の内面に対して内側に納めた状態で内部ユニット102の挿入ができるため、大きな挿入力を必要としない。本実施形態では、内部ユニット102を筐体101へ挿入する際に高い挿入力を加える必要がなくなり、生産現場の専用設備や製造工数を減らすことができるため、装置製造における生産性を向上することができる。
【0041】
なお、上記実施形態では、電子装置100が、円周方向に2分割された2つの第1の熱伝導部材103及び第2の熱伝導部材104を有する例について説明したが、これには限定されない。電子装置100は、円周方向に分割された3以上の複数の第1の熱伝導部材103及び第2の熱伝導部材104を有していてもよい。例えば、電子装置100は、円周方向に4分割された4つの第1の熱伝導部材103及び第2の熱伝導部材104を有していてもよい。
【0042】
上記実施形態では、シート状の第3の熱伝導部材105を用いる例について説明したが、これには限定されない。例えば、放熱性グリスなどの高粘性の潤滑材が、第3の熱伝導部材105として用いられてもよい。第1の熱伝導部材103と第2の熱伝導部材104との間の接触性を向上させるために、第2の熱伝導部材104の内周に放熱シート配置され、或いはグリスなどが塗布されていてもよい。第1の熱伝導部材103、第2の熱伝導部材104、及びシャフト107の少なくとも1つには、硬質クロムメッキなどの接触面の摩耗性向上のための表面処理が行われていてもよい。
【0043】
上記実施形態では、円筒状の筐体に挿入される円柱状の内部ユニットを有する電子装置に放熱構造を適用する例を説明したが、本発明の放熱構造が適用可能なものはそのような電子装置には限定されない。例えば、内部ユニットの部分を流体の整流器やファンなどに置き換え、配管パイプの内部に追加で取り付けられる整流器ユニットやファンユニットに上記放熱構造を適用することとしてもよい。
【0044】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に対して変更や修正を加えたものも、本発明に含まれる。
【0045】
例えば、上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0046】
[付記1]
円筒状の筐体と、
前記筐体の内部に挿入される、前記筐体の中心軸に垂直な平面における外形が円形の内部ユニットと、
内側が前記内部ユニットの外側の曲率半径と同じ曲率半径を有し前記内部ユニットの外周面と接触する円弧状の第1の熱伝導部材と、
内側が前記第1の熱伝導部材の外側の曲率と同じ曲率半径を有し前記第1の熱伝導部材の外周面に接触する円弧状の第2の熱伝導部材とを備え、
前記中心軸に垂直な平面において、前記第1の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、かつ、前記第2の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、
前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材とが円周軌道に沿って相対的に変位可能に構成される電子装置。
【0047】
[付記2]
前記第2の熱伝導部材と前記筐体の内面との間に、柔軟性を有する第3の熱伝導部材を更に有する付記1に記載の電子装置。
【0048】
[付記3]
前記第1の熱伝導部材及び前記第2の熱伝導部材の少なくとも一方が金属材料から成り、前記第3の熱伝導部材が熱伝導性を有するゴム部材から成る付記2に記載の電子装置。
【0049】
[付記4]
前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材とが円周軌道に沿って相対的に変位することで、前記中心軸から見た前記第1の熱伝導部材の厚みと前記第2の熱伝導部材の厚みとの和が変化する付記1から3何れか1つに記載の電子装置。
【0050】
[付記5]
前記内部ユニットは、前記中心軸から見た前記第1の熱伝導部材の厚みと前記第2の熱伝導部材の厚みとの和が前記筐体の内面と前記内部ユニットの外周との間の距離よりも小さくされた状態で前記筐体の内部に挿入され、前記内部ユニットが前記筐体に挿入された後、前記第1の熱伝導部材と前記第2の熱伝導部材とが円周軌道に沿って相対的に変位され、前記第2の熱伝導部材の外側の少なくとも一部が前記筐体の内面に接触させられる付記4に記載の電子装置。
【0051】
[付記6]
前記第2の熱伝導部材が、前記第1の熱伝導部材に対して円周軌道に沿って変位可能に構成される付記1から5何れか1つに記載の電子装置。
【0052】
[付記7]
前記筐体の前記中心軸に沿った方向の両端に、前記第1の熱伝導部材及び第2の熱伝導部材を固定する固定部材を更に有する付記1から6何れか1つに記載の電子装置。
【0053】
[付記8]
前記中心軸に沿った方向に延び、傾斜面が形成された突起部を有するシャフトを更に有し、
前記第2の熱伝導部材は前記突起部の傾斜面に対応した切り欠きを有し、
前記シャフトは前記中心軸に沿った方向に前記固定部材に対して変位可能に構成されており、前記突起部が傾斜面に沿って前記第2の熱伝導部材の前記切り欠き部を押すことで、前記第2の熱伝導部材が、前記シャフトの変位量に応じた量だけ前記円周軌道に沿って回転させられる付記7に記載の電子装置。
【0054】
[付記9]
前記固定部材は、前記第1の熱伝導部材の外周に沿って形成されたスリットを有し、
前記第2の熱伝導部材は、前記スリットに挿入される突起を有する付記7又は8に記載の電子装置。
【0055】
[付記10]
円周方向に分割された複数の前記第1の熱伝導部材及び第2の熱伝導部材を有する付記1から9何れか1つに記載の電子装置。
【0056】
[付記11]
内側が、円筒状の筐体の内部に挿入される、前記筐体の中心軸に垂直な平面における外形が円形の内部ユニットの外周の曲率半径と同じ曲率半径を有し前記内部ユニットの外周面と接触する円弧状の第1の熱伝導部材と、
内側が前記第1の熱伝導部材の外側の曲率と同じ曲率半径を有し前記第1の熱伝導部材の外周面と接触する円弧状の第2の熱伝導部材とを備え、
前記中心軸に垂直な平面において、前記第1の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、かつ、前記第2の熱伝導部材の内側の曲率中心と外側の曲率中心とは所定距離だけ離れており、
前記第1の熱伝導部材及び前記第2の熱伝導部材は、円周軌道に沿って相対的に変位可能に構成される放熱構造。
【符号の説明】
【0057】
100:電子装置
101:筐体
102:内部ユニット
103:第1の熱伝導部材
104:第2の熱伝導部材
105:第3の熱伝導部材
106:リング
106a:長穴
106b:はめ込み穴
107:シャフト
107a:突起部
108〜110:ねじ
111:挿入体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10