特許第6525316号(P6525316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6525316
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】床材
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/16 20060101AFI20190527BHJP
   B32B 27/22 20060101ALI20190527BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20190527BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20190527BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20190527BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   E04F15/16 A
   B32B27/22
   C08L101/00
   C08K5/12
   C08K5/11
   C08K5/101
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-149509(P2015-149509)
(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2017-31567(P2017-31567A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2017年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222495
【氏名又は名称】東リ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐一
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−010426(JP,A)
【文献】 特開平06−299025(JP,A)
【文献】 特開平03−231846(JP,A)
【文献】 特開平07−304919(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/075712(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0281987(US,A1)
【文献】 米国特許第05627231(US,A)
【文献】 特開平07−310291(JP,A)
【文献】 特開2002−020164(JP,A)
【文献】 特表平08−503493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/16
B32B 27/30
C08L 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床材本体と、前記床材本体の上に設けられた表層とを有し、
前記表層は、熱可塑性樹脂および前記熱可塑性樹脂100質量部に対して20〜50質量部の可塑剤を含み、
前記熱可塑性樹脂が塩化ビニル樹脂であり、前記可塑剤は、安息香酸エステル系可塑剤を25〜40質量%、フタル酸エステル系可塑剤を50〜75質量%、アジピン酸ジオクチルを10〜25質量%含む、床材。
【請求項2】
前記表層の上に、表面保護層をさらに有する、請求項1記載の床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の床材が広く用いられている。床材は、足裏や靴裏によって踏みつけられるため、傷付き易く且つ汚れ易い。このため、床材の特性として、耐傷付き性および防汚性が求められる。また、床材には、これらの特性が求められるのみならず、施工性などの観点から柔軟性も求められる。そこで、足裏や靴裏と接する床材の表側の層として、合成樹脂層に防汚性などの特性が付与されたものなどが提案されている。なお、耐傷付き性は、床材の表面に擦り傷などが生じ難い性質を、防汚性は、汚れ難い性質または汚れを簡単に除去できる性質を、それぞれ意味する。
【0003】
特許文献1には、無機質および/または有機質繊維シートを内蔵する合成樹脂層上に、着色合成樹脂粒を含む化粧層を有し、該化粧層上に透明または半透明の耐汚染性合成樹脂層を有し、該耐汚染性合成樹脂層の表面から前記化粧層に達する凹凸を有してなることを特徴とする耐汚染性に優れた防滑性床材が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、可塑剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物において、該可塑剤の50〜100重量%が耐汚染性可塑剤としてのテキサノールイソブチレートおよび/または安息香酸エステル系可塑剤であることを特徴とする防汚能を有する樹脂組成物が開示されており、かかる樹脂組成物を床材の表面層に使用し得る旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−310291号公報
【特許文献2】特開平7−304919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2においては、多量の可塑剤を使用した場合に可塑剤が染み出す、所謂、ブリードすることがある。ブリードが発生すると、床材に汚れが付着し易くなり、床材の防汚性が悪化するなどの問題が生じ得る。また、このブリードを抑制するために、可塑剤を少量にすると、床材の柔軟性が損なわれ、施工性が低下することがある。
【0007】
本発明の課題は、施工性および防汚性に優れる床材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
床材本体と、前記床材本体の上に設けられた表層とを有し、
前記表層は、熱可塑性樹脂および前記熱可塑性樹脂100質量部に対して20〜50質量部の可塑剤を含み、
前記可塑剤は、安息香酸エステル系可塑剤を10〜80質量%含む、床材、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、施工性および防汚性に優れる床材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る床材の構造の一態様を示す概略断面図である。
図2】柔軟性の試験方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記の課題について検討したところ、表層中の可塑剤の総量を少量にし、可塑剤中に安息香酸エステル系可塑剤を所望の割合で含有させることにより、施工性に問題のない柔軟性を維持しつつもブリードを抑制することができ、防汚性にも優れることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づき、鋭意研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の床材は、床材本体と、床材本体の上に設けられた表層とを有する。
【0013】
床材本体は、本分野において公知のものを使用することができる。床材本体として、例えば、基材層、樹脂層、形状安定化層、化粧層などの層を任意に組み合わせた構造のものが挙げられる。また、床材は、表層の上に表面保護層をさらに有するものであってもよい。言うまでもないが、本発明は、これらの構造に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様をとり得るものであり、例えば、前記以外の層をさらに有するものであってもよい。
【0014】
図1を参照して、本発明に係る床材の一態様を説明する。床材1は、床材本体2と、床材本体2の上に設けられた表層3と、表層3の上に設けられた表面保護層4とを有する。床材本体2は、基材層21と、基材層21の上に設けられた下側樹脂層22と、下側樹脂層22の上に設けられた形状安定化層23と、形状安定化層23の上に設けられた上側樹脂層25と、上側樹脂層25の上に設けられた化粧層24とを有する。
また、床材本体2は、上側樹脂層25および下側樹脂層22の何れか一方を有さない構成でもよく、基材層21を有さない構成でもよい。特に、床材本体2は、上側樹脂層25を有さない構成が好適に用いられる。これによって、形状安定化層23を床材1の全厚の略中間の位置させることができ、床材1の反りを防止することができる。
【0015】
本明細書において、上とは、床材が床面に敷設される際に床面から遠い側を指し、表側ともいう。また、下とは、床材が床面に敷設される際に床面に近い側を指し、裏側ともいう。
【0016】
以下、各要素について説明する。
【0017】
本明細書における成分の含有量は、同成分を2種以上使用する場合にあっては、その合計量を指す。
【0018】
床材本体2は、床材の強度および重量を構成する主たる部分である。
【0019】
床材本体2は、合成樹脂成分を含有する樹脂層を含むことが好ましいが、樹脂層に代えて合成樹脂以外を用いた他の層を含むものであってもよい。また、床材本体2は、基材層21、形状安定化層23、化粧層24などの層を任意に含む。なお、樹脂層は、一の層でもよいし、図1に示す上側樹脂層25及び下側樹脂層22などのように複数層でもよい。
【0020】
樹脂層の合成樹脂成分としては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、エステル樹脂、各種エラストマー、ゴムなどが挙げられ、加工性や柔軟性、コストの観点などから塩化ビニル樹脂が好ましい。合成樹脂成分は、単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0021】
塩化ビニル樹脂としては、ペースト塩化ビニル系樹脂、サスペンション塩化ビニル系樹脂などが用いられる。
【0022】
ペースト塩化ビニル系樹脂は、例えば、乳化重合法で得られるペースト状の塩化ビニル系樹脂であり、可塑剤により、適宜粘度を調整できる。ペースト塩化ビニル系樹脂は、多数の微粒子集合体からなる粒子径が0.1〜10μm(好ましくは1〜3μm)の微細粉末であり、好ましくは、前記微細粉末の表面に界面活性剤がコーティングされている。ペースト塩化ビニル系樹脂の平均重合度は1000〜2000程度が好ましい。
【0023】
サスペンション塩化ビニル系樹脂は、例えば、懸濁重合法で得られる塩化ビニル系樹脂である。サスペンション塩化ビニル系樹脂は、粒子径が好ましくは20μm〜100μmの微細粉末である。サスペンション塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、700〜1500程度が好ましく、700〜1100程度がより好ましく、700〜1000程度がさらに好ましい。ただし、前記粒子径は、体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D50)である。
【0024】
前記各塩化ビニル系樹脂は、K値60〜95程度のものが好ましく、K値65〜80程度のものがより好ましい。
【0025】
前記発泡樹脂層の発泡倍率は特に限定されないが、好ましくは1.05倍〜10倍であり、より好ましくは1.1倍〜4倍である。
【0026】
樹脂層中の合成樹脂成分の含有量は、特に限定されるものではないが、5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましく、15〜35質量%がさらに好ましい。
【0027】
樹脂層は、任意に添加剤を含むことができ、添加剤としては、充填剤、可塑剤、難燃材、安定剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤などが挙げられる。
【0028】
本明細書において、粘度は、リオン株式会社製の粘度計(商品名「ビスコテスタ」)を用いて測定できる。
【0029】
樹脂層は、非発泡でもよいし、発泡されていてもよい。樹脂層が発泡されている場合、良好なクッション性を床材に付与する観点から、発泡倍率は1.05倍以上が好ましく、1.1倍以上がより好ましく、柔らかくなりすぎるのを防止する観点から10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。即ち、樹脂層の発泡倍率は、1.05〜10倍が好ましく、1.1倍〜5倍がより好ましい。
【0030】
樹脂層が図1に示す上側樹脂層25及び下側樹脂層22などのように複数ある場合において、樹脂層の物性(材質、発泡の有無、厚さなど)は、それぞれ同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0031】
基材層21は、床材1の最も下側に位置する層であって、敷設時の床材を床面に接着させる接着剤(以下、床面接着剤という)との接着強度を高め、床材1の反りなどを抑制することを目的とした層である。従って、床材1を敷設した際には、主として基材層21の下面が床面に接することになる。ただし、基材層21の下面にバッキング層などの他の層を積層することもでき、そのような層構成の床材1の最下面は、基材層21で構成されない。基材層21は、必要に応じて設けられる。
【0032】
基材層21としては、特に限定されないが、例えば、不織布、織布、紙、フェルトなどの従来公知のシート材を用いることができる。不織布や織布を構成する繊維の材質は、特に限定されず、例えば、ポリエステル、ポリオレフィンなどの合成樹脂繊維;ガラス、カーボンなどの無機繊維;天然繊維などが挙げられる。
【0033】
基材層21が設けられていることにより、床材1の敷設時に、床材1を床面接着剤が基材層21に十分に含浸し、アンカー効果によって床材1が床面に強固に固定される。また、基材層21を最も下側に配置することにより、基材層21の繊維の少なくとも一部が床材1の最下面から露出するようになるので、前記床面接着剤が繊維に絡み、床材1が床面により強固に固定される。
【0034】
前記織布は、特に限定されないが、寸法安定性などの各種物性の観点から、寒冷紗が好ましく、さらに、ポリエステル繊維の平織り織布がより好ましい。前記寒冷紗は、ポリエステル繊維などの繊維からなる織布である。織布は繊維を織り込んで布状にしているので、不織布より縦横方向に伸びにくく、床材1の伸びを効果的に抑制できる。それ故、基材層21が織布で構成されていることにより、全体の剛性を上げることなく、反りの小さい床材1を得ることができる。
【0035】
前記不織布としては、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布などが挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を併用できる。中でも、薄くて強いことから、スパンボンド不織布が好ましく、さらに、ポリプロピレンスパンボンド不織布がより好ましい。
【0036】
不織布や織布を構成する繊維の材質は、特に限定されるものではないが、合成樹脂繊維、無機繊維、天然繊維などが挙げられる。合成樹脂繊維としては、ポリエステル、ポリオレフィンなどが挙げられ、無機繊維としては、ガラス、カーボンなどが挙げられる。
【0037】
不織布の目付けは、特に限定されるものではないが、20〜50g/mが好ましい。
【0038】
基材層21の厚みは、特に限定されるものではないが、0.1〜0.5mmが好ましく、0.2〜0.4mmがより好ましい。
【0039】
基材層21の厚み及び目付量は、床材1の反りを十分に抑制する観点から、ある程度大きいことが好ましく、一方、基材層21に下側樹脂層22の樹脂材料を十分に含浸させる観点から大きすぎないことが好ましい。
【0040】
形状安定化層23は、経時的な収縮や膨張による、床材の寸法変化を抑制するための層である。形状安定化層23は、床材1の全体の厚みの略中央の位置に設けることが好ましい。この位置に形状安定化層23を設けることにより、床材の寸法安定性を高め、床材の端部の反りを防止できる。たとえば、形状安定化層23は、図1に示すように樹脂層間に設けられていてもよいし、樹脂層より表側に設けられていてもよい。
【0041】
形状安定化層23としては、不織布または織布などが挙げられる。
【0042】
不織布や織布を構成する繊維の材質は、特に限定されるものではないが、合成樹脂繊維、無機繊維、天然繊維などが挙げられる。合成樹脂繊維としては、ポリエステル、ポリオレフィンなどが挙げられ、無機繊維としては、ガラス、カーボンなどが挙げられ、天然繊維としては、パルプなどが挙げられる。寸法安定性の観点から、ガラス繊維が好適に用いられ、たとえば、ガラス繊維不織布、所謂、ガラスマット、または、ガラス繊維織布、所謂、ガラスクロスが好ましい。
繊維の材質は、単独で使用してもよいし、ガラス繊維とパルプとを混合させるなど2種以上を使用してもよい。
【0043】
不織布や織布の目付けは、特に限定されるものではないが、床材の寸法安定性をよくする観点から、10g/m以上が好ましく、20g/m以上がより好ましく、適度の柔軟性や加工性を担保する観点から、100g/m以下が好ましく、50g/m以下がより好ましい。即ち、不織布や織布の目付けは、10〜100g/mが好ましく、20〜50g/mがより好ましい。
【0044】
形状安定化層23の厚みは、特に限定されるものではないが、床材の寸法安定性をよくする観点から、0.1mm以上が好ましく、0.15mm以上がより好ましく、0.2mm以上がさらに好ましく、適度の柔軟性や加工性を担保する観点から、0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.35mm以下がさらに好ましい。即ち、形状安定化層23の厚みは、0.1〜0.5mmが好ましく、0.15〜0.4mmがより好ましく、0.20〜0.35mmがさらに好ましい。
【0045】
化粧層24は、床材に意匠性を付与するための層である。化粧層24は、床材本体2の表側に設けられることが好ましい。
【0046】
化粧層24としては、意匠性を付与するものであれば特に限定されるものではないが、例えば熱可塑性樹脂などにより形成され、表面にデザイン印刷が転写されているものや、着色されているものが好ましい。熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、エステル樹脂、各種エラストマー、ゴムなどが挙げられ、表層3との密着性の観点から塩化ビニル樹脂が好ましい。
【0047】
化粧層24の厚みは、特に限定されるものではないが、0.01〜1mmが好ましく、0.01〜0.8mmがより好ましい。
【0048】
表層3は、床材に耐久性、耐磨耗性、耐傷付き性などを付与する層である。また、表層3の上にさらに表面保護層4が設けられる場合にあっては、表層3は、表面保護層4が摩耗した場合における床材本体2の摩耗防止や、表面保護層4を剥がれ難くするためのものである。
【0049】
本発明において、表層3は、熱可塑性樹脂および可塑剤を含む。
【0050】
熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、エステル樹脂、各種エラストマー、ゴムなどが挙げられ、柔軟性や加工性、耐久性、コストの観点などから塩化ビニル樹脂が好ましい。塩化ビニル樹脂は、ペースト塩化ビニル系樹脂、サスペンション塩化ビニル系樹脂などが用いられる。熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0051】
表層3中の熱可塑性樹脂の含有量は、特に限定されるものではないが、45〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましく、65〜75質量%がさらに好ましい。
【0052】
熱可塑性樹脂100質量部に対する可塑剤の含有量は、柔軟性の観点から、20質量部以上であり、25質量部以上が好ましく、28質量部以上がより好ましく、また、ブリードを抑制する観点から、50質量部以下であり、40質量部以下が好ましく、35質量部以下がより好ましい。すなわち、熱可塑性樹脂100質量部に対する可塑剤の含有量は、20〜50質量部であり、25〜40質量部が好ましく、28〜35質量部がより好ましい。
【0053】
可塑剤としては、少なくとも安息香酸エステル系可塑剤を含む。
【0054】
安息香酸エステル系可塑剤としては、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、プロピレングリコールジベンゾエートなどが挙げられる。安息香酸エステル系可塑剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。たとえば、可塑化効率、加工性、コストなどの観点から、安息香酸エステル系可塑剤として、ジエチレングリコールジベンゾエート、およびジプロピレングリコールジベンゾエートを混合したものが用いられる。
【0055】
可塑剤中の安息香酸エステル系可塑剤の含有量は、ブリードを抑制する観点から、10質量%以上であり、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、また、柔軟性の観点から、80質量%以下であり、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。すなわち、可塑剤中の安息香酸エステル系可塑剤の含有量は、10〜80質量%であり、25〜50質量%が好ましく、30〜40質量%がより好ましい。
【0056】
安息香酸エステル系以外の可塑剤としては、フタル酸エステル系可塑剤が好ましい。フタル酸エステル系可塑剤としては、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、などが挙げられ、柔軟性付与や、可塑化効率、コストなどの観点から、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)が好ましい。
【0057】
安息香酸エステル系以外の可塑剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0058】
可塑剤中のフタル酸エステル系可塑剤の含有量は、柔軟性の観点から、10質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、また、ブリードを抑制する観点から、85質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。すなわち、可塑剤中のフタル酸エステル系可塑剤の含有量は、10〜85質量%が好ましく、25〜75質量%がより好ましく、50〜70質量%がさらに好ましい。
【0059】
その他、安息香酸エステル系以外の可塑剤としては、リン酸エステル系、塩素化パラフィン、トリメリット酸エステル、アジピン酸ジオクチル(DOA)などが挙げられる。このうち、低温下での柔軟性に優れる観点から、可塑剤は、さらにアジピン酸ジオクチル(DOA)を0.1〜80質量%含むものが好ましく、5〜30質量%含むものがより好ましく、10〜25質量%含むものがさらに好ましい。
【0060】
表層3は、任意に添加剤を含むことができ、添加剤としては、重合開始剤、防滑剤、充填剤、難燃材、安定剤、酸化防止剤、着色剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0061】
表層3は、透明でもよいし、不透明でもよいが、床材本体2の意匠を視認できる程度に透明であることが好ましいので、炭酸カルシウムなどの充填材を含まない、または実質的に含まない構成であることが好ましい。
【0062】
表層3の厚みは、特に限定されるものではないが、0.1〜1mmが好ましく、0.1〜0.7mmがより好ましく、0.2〜0.5mmがさらに好ましい。
【0063】
表面保護層4は、床材の最も表側に位置する層であって、床材を保護する層である。
【0064】
表面保護層4は、硬化性モノマーおよび硬化性オリゴマーの少なくともいずれか一方が重合した硬化性樹脂を含む。
【0065】
硬化性樹脂としては、例えば、熱により硬化する樹脂、電離放射線により硬化する樹脂、非電離放射線により硬化する樹脂などが挙げられ、加工性の良さおよび表層3に熱損傷を与え難いなどの観点から、電離放射線硬化性樹脂が好ましく、汎用的であることから、紫外線硬化性樹脂がより好ましい。
【0066】
熱により硬化する樹脂の硬化性モノマーまたは硬化性オリゴマーとしては、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレンなどのモノマーまたはオリゴマーが挙げられる。
【0067】
電離放射線により硬化する樹脂の硬化性モノマーまたは硬化性オリゴマーとしては、紫外線または電子線で硬化する硬化性モノマーまたは硬化性オリゴマーが挙げられる。以下、電離放射線により硬化する硬化性モノマーまたは硬化性オリゴマーを、電離放射線硬化性モノマーまたは電離放射線硬化性オリゴマーともいう。
【0068】
電離放射線硬化性モノマーまたは電離放射線硬化性オリゴマーとしては、分子中に(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリロイルオキシ基等の重合性不飽和結合基またはエポキシ基等を有するモノマーまたはオリゴマーが挙げられる。
【0069】
電離放射線硬化性モノマーの具体例としては、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、分子中に2個以上のチオール基を有するポリオール化合物などが挙げられ、分子中に(メタ)アクリレート基を有するモノマーが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0070】
電離放射線硬化性オリゴマーの具体例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のアクリレート、不飽和ポリエステル、エポキシなどが挙げられ、分子中に(メタ)アクリレート基を有するオリゴマーが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0071】
硬化性樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0072】
電離放射線硬化性モノマーまたは電離放射線硬化性オリゴマーには、通常、光重合開始剤が添加される。光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントン、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、N,N,N’,N’−テトラメチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、その他のチオキサント系化合物などが挙げられる。
【0073】
表面保護層4は、任意に添加剤を含むことができ、添加剤としては、溶剤、レベリング剤、微粒子、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、酸化防止剤、チクソトロピー化剤、硬化性樹脂を含む組成物などが挙げられる。
【0074】
溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、グリコール類、セロソルブ類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類などが挙げられる。溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0075】
硬化性樹脂を含む組成物としては、紫外線硬化性の樹脂組成物が挙げられ、市販品としては、例えば、オーレックス(中国塗料(株)製)、アデカオプトマー(旭電化工業(株)製)、コーエイハード(広栄化学工業(株)製)、セイカビーム(大日精化工業(株)製)、EBECRYL(ダイセル・サイテック(株)製)、ユニディック(DIC(株)製)、サンラッド(三洋化成工業(株)製)などが挙げられる。
【0076】
表面保護層4は、透明でもよいし、不透明でもよいが、床材本体2の意匠を視認できる程度に透明であることが好ましい。
【0077】
表面保護層4の厚みは、特に限定されるものではないが、5〜70μmが好ましく、10〜150μmがより好ましく、15〜40μmがさらに好ましい。
【0078】
本態様の床材は、表面保護層4をさらに有することで、防汚性に優れたものとなる。
【0079】
また、表面保護層4が設けられる場合においては、表層3に使用される安息香酸エステル系以外の可塑剤として、表面保護層4の硬化性モノマーまたは硬化性オリゴマーと重合する、重合性モノマーまたは重合性オリゴマーを使用してもよい。
【0080】
重合性モノマーとしては、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルとしては、トリメチロールプロパン(トリ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、トリメチロールプロパン(トリ)アクリレートが好ましい。
【0081】
重合性オリゴマーとしては、オリゴエステルアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリウレタンアクリレートなどが挙げられる。
【0082】
表面保護層4が設けられる場合、表層3から可塑剤がブリードすると、可塑剤が表面保護層4を通過して、表面保護層4の表面に染み出してくることがある。その染み出した可塑剤によって、汚れが付着し易くなり、床材の防汚性が悪化することとなる。本態様の表層3によれば、ブリード抑制効果を有するので、表面保護層4の表面から可塑剤が染み出すことを抑制し、長期間にわたって防汚性が維持することができる。
【0083】
また、表層3のブリード抑制効果によって、表層3と表面保護層4との密着性が向上する。これによって、本態様の床材が下地面に施工された後に、たとえ歩行量が多くても、長期間にわたり、表層3と表面保護層4との間で層間剥離を起こすことのない床材が得られる。
【0084】
さらに、表層3が柔軟性を有するので、床材のしなりや不陸に、表層3と表面保護層4との密着性を維持した状態で追随することができ、表層3と表面保護層4との間で層間剥離が生じ難く、床材全体としての必要な柔軟性も維持することができる。
【0085】
本態様の表層3は、可塑剤の総量を少なくし、さらに熱可塑性樹脂に対して溶解性の高い安息香酸エステル系可塑剤を所望の割合で含有させることにより、施工性に問題のない柔軟性を維持しつつも表層3からの可塑剤のブリードを抑制することができる。
【0086】
本態様の床材1は、例えば、次のように製造することができる。言うまでもないが、他の製造方法で製造することもできる。
【0087】
床材1の製造方法は、形状安定化層23となる樹脂付きガラスシートを準備する工程、前記樹脂付きガラスシートの上面に上側樹脂層25を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に下側樹脂層22を積層し、加熱加圧して上側樹脂層25、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層22を一体化する工程、を有し、必要に応じて、他の工程を有していてもよい。
【0088】
上側樹脂層25、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層22の積層及び一体化は、同時に行ってもよく、順次行ってもよい。前記積層及び一体化は、例えば、下記(1)乃至(3)のような手順が挙げられる。
(1)上側樹脂層25、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層22の積層を含む積層体を、加熱加圧して一体化する。
(2)上側樹脂層25及び樹脂付きガラスシートの積層を含む第1積層体を加熱加圧して一体化し、さらに、その第1積層体と下側樹脂層22の積層を含む第2積層体を加熱加圧して一体化する。
(3)下側樹脂層22及び樹脂付きガラスシートの積層を含む第1積層体を加熱加圧して一体化し、さらに、その第1積層体と上側樹脂層25の積層を含む第2積層体を加熱加圧して一体化する。
【0089】
上側樹脂層25、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層22以外に、基材層21、化粧層24、表層3、表面保護層4などが積層されるが、これらの層の積層は、前記(1)乃至(3)のような上側樹脂層25、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層22の積層及び一体化を行う際に同時に行ってもよく、又は、前記(1)乃至(3)のような上側樹脂層、樹脂付きガラスシート及び下側樹脂層の積層及び一体化を行う前に、若しくは、その後に適宜行ってもよい。
【0090】
例えば、形状安定化層23となる樹脂付きガラスシートの上面に、上側樹脂層25を積層し且つ前記樹脂付きガラスシートの下面に、下側樹脂層22を積層し、さらに、上側樹脂層25の上面に化粧層24及び表層3を積層し且つ下側樹脂層22の下面に基材層21を積層しつつ一対のロール間に通して加熱加圧することにより、基材層21〜表層3までの各層を一体化することができる。さらに、表層3の上面に、ロールコーターなどを用いて、表面保護層4の形成材料である電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーを塗工する。電離放射線照射装置を用いて、塗工された電離放射線硬化性モノマー又はオリゴマーに電離放射線を当てることにより、最上面に表面保護層4が形成された床材1が得られる。
【0091】
これら各工程を1つの製造ラインで一連に行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を、1つのラインで行い、且つ残る工程を他の1つ又は2つ以上のラインで行ってもよい。また、前記各工程の全てを一の実施者が行ってもよいし、或いは、前記各工程から選ばれる1つ又は2つ以上の工程を一の実施者が行い、且つ残る工程を他の実施者が行ってもよい。
【0092】
以上のようにして、本態様の床材を得ることができる。
【0093】
床材の全体の厚みは、特に限定されるものではないが、0.2〜5mmが好ましく、1〜2.5mmがより好ましい。
【0094】
本態様の床材によれば、柔軟性を維持しつつも、可塑剤のブリードが抑制されるため、施工性および防汚性に優れるものである。
【実施例】
【0095】
実施例1〜6、比較例1〜3
[床材(表層)の作製]
床材(表層)について、以下の手順で作製した。
表1に記載の配合に従い、液状分が樹脂に十分染み込むまで材料を混合し、さらに、180℃に設定された2本の熱ロール間に材料を落とし、20分間混合した。次に、混合された材料を、180℃に設定された2本のロールを用いて0.5mm厚のシート状になるようにニップし、長さ20cm、幅5cmにカットして、各実施例、比較例の床材の表層材を得た。尚、表1に記載の配合の数値は、質量比を表す。但し、実施例1〜3、5、6は参考例である。
【0096】
<柔軟性>
各実施例、比較例の床材を、図2の上図に示すようにブロックA、B上に配置した。この状態から図2の下図に示すようにブロックBを取り除き、取り除いてから30秒後の垂下量を5℃雰囲気下で測定し、以下の基準で柔軟性を評価した。結果を表1に示す。
◎ 25mm以上
○ 15mm以上25mm未満
△ 10mm以上15mm未満
× 10mm未満
【0097】
<耐ブリード性>
各実施例、比較例の床材を、ギアオーブンに入れて設定温度200℃で3分加熱し、加熱前後での重量減少率を確認し、以下の基準で耐ブリード性を評価した。結果を表1に示す。尚、重量減少率は、「算出式:100×加熱後の床材の重量/加熱前の床材の重量」で計算した結果を表す。
◎ 0.4%未満
○ 0.4%以上0.6%未満
△ 0.6%以上0.8%未満
× 0.8%以上
【0098】
【表1】
【0099】
各実施例、比較例における各原料の詳細は次の通りである。なお、表1に記載の量は商品の量ではなく、各成分の量(有効成分の量)である。
【0100】
塩化ビニル樹脂「ZEST 800Y(新第一塩ビ社製)」
安定剤「NPS309(アデカ社製)」
抗菌剤「KM10D(シナネン社製)」
エポキシ大豆油「T4000(三和化成社製)」
DOA「ジェイプラス社製」
DOP「ジェイプラス社製」
安息香酸エステル系可塑剤「ベルシフレックス320(ベルシコール社製)」
【0101】
比較例1と各実施例とを比較すると、可塑剤中の安息香酸エステル系可塑剤が10質量%以上である各実施例の床材は、耐ブリード性が良いことがわかる。
【0102】
比較例2、3と各実施例とを比較すると、可塑剤中の安息香酸エステル系可塑剤が80質量%以下である各実施例の床材は、柔軟性が良いことがわかる。
【0103】
実施例中、実施例2〜4が柔軟性と耐ブリード性とのバランスが良好であり、特にDOAを適量含む実施例4が最も良好であった。
【0104】
本発明は、上記の実施態様および実施例によりなんら限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の実施態様を取り得る。
【符号の説明】
【0105】
1 床材
2 床材本体
21 基材層
22 下側樹脂層
23 形状安定化層
24 化粧層
25 上側樹脂層
3 表層
4 表面保護層
図1
図2