特許第6525346号(P6525346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6525346
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】スクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6883 20180101AFI20190527BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   C12Q1/6883 ZZNA
   G01N33/53 M
   G01N33/53 D
【請求項の数】11
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2017-92171(P2017-92171)
(22)【出願日】2017年5月8日
(62)【分割の表示】特願2014-531049(P2014-531049)の分割
【原出願日】2012年9月21日
(65)【公開番号】特開2017-158575(P2017-158575A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2017年6月6日
(31)【優先権主張番号】2011903906
(32)【優先日】2011年9月22日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】514072632
【氏名又は名称】メドベッド サイエンス プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ、クエンティン フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス、エンジェル フランシスコ
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 Neuropsychopharmacology,2005年,vol.30, no.5,pp.974-983
【文献】 "Developmental deregulation and tumorigenesis inhibition in 14-3-3 zeta knockout mouse",2011年 8月,UT GSBS Dissertations and Theses,paper 175(pp.i-XViii, 1-111)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
G01N 33/00−33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
統合失調症の1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態の発症又は発症に対する素因について哺乳動物をスクリーニングする方法であって、前記哺乳動物に由来する血液またはその画分の試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定し、対照レベルに対して14−3−3ζタンパク質の機能レベルにおける低下を相関させることを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法。
【請求項2】
統合失調症の1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態の発症を診断された哺乳動物における前記状態の進行をモニタリングする方法であって、前記哺乳動物に由来する血液またはその画分の試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定し、その哺乳動物について以前に得られたレベルに対して14−3−3ζの機能レベルにおける変化を相関させることを含み、14−3−3ζタンパク質のレベルがその哺乳動物について以前に得られたレベルに比べて等しい、又は低ければ予後が不良であることが示され、14−3−3ζタンパク質のレベルがその哺乳動物について以前に得られたレベルに比べて高ければ予後の改善が示される、上記方法。
【請求項3】
前記状態が、統合失調症、統合失調型人格障害、精神病、双極性障害、躁うつ病、情動障害、統合失調症様障害、統合失調感情障害、精神病性うつ病、自閉症、薬物誘発性精神病、せん妄、アルコール離脱症状群、又は認知症誘発性精神病である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
試験の対象である哺乳動物が、1つ又は複数の陽性症状若しくは陰性症状又は思考障害を表す、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
14−3−ζタンパク質の前記機能レベルが14−3−3ζタンパク質の機能性のレベルである、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
14−3−3ζタンパク質の前記機能レベルが、14−3−3ζタンパク質の絶対レベルである、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
14−3−3ζタンパク質の機能レベルが、
(i)14−3−3ζタンパク質翻訳生成物のレベルについてのスクリーニング、
(ii)14−3−3ζタンパク質RNAのレベルについてのスクリーニング、
(iii)14−3−3ζタンパク質遺伝子に関連するクロマチンタンパク質の変化についてのスクリーニング、
(iv)14−3−3ζタンパク質DNAのメチル化の変化についてのスクリーニング、並びに
(v)14−3−3ζタンパク質及びDISC1が複合体を形成する能力における変化についてのスクリーニング
から選択される方法によって決定される、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記RNAがmRNAである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記メチル化の変化が過剰メチル化である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記14−3−3ζタンパク質/DISC1複合体が、14−3−3ζタンパク質と75kDaDISC1イソ型との間の複合体である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経精神学的障害の発症又は発症に対する素因について哺乳動物をスクリーニングする方法を提供する。より詳しくは、本発明は、14−3−3ζタンパク質の機能レベルにおける低下についてのスクリーニングによって、統合失調症の発症又は発症に対する素因について哺乳動物をスクリーニングする方法を提供する。関連の一態様において、本発明は、14−3−3ζタンパク質の機能レベルの変化についてのスクリーニングによって、統合失調症など、神経精神病学的障害と診断された患者をモニタリングする手段も提供する。これは、例えば、予防的処置若しくは治療的処置のレジメンの有効性を評価し、又は患者に起こり得る生理学的若しくは代謝的変化の影響を別の方法でモニタリングする状況において有用であり得る。本発明の方法は、とりわけ、統合失調症の1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態など神経精神学的状態の発症に感受性である哺乳動物を同定する手段を提供し、それにより状態の発症を最小にし、又は防止しようとする予防的介入若しくは初期治療的介入の実施を可能にすることを含む、広範囲の応用において有用である。本発明はまた、別の方法では陽性症状及び陰性症状の評価のみに基づく診断を確認する手段も提供する。
【0002】
関連の一態様において、本発明は、とりわけ、神経精神学的状態を処置する上で用いるための薬剤をスクリーニングし、又は評価するのに有用である動物モデルも提供する。
【背景技術】
【0003】
本明細書において本発明者が参照した出版物の書誌の詳細を、本明細書の終わりにアルファベット順にまとめる。
【0004】
本明細書におけるあらゆる先行技術に対する言及は、先行技術がオーストラリアにおける共通の一般知識の一部を形成することを認め、又はあらゆる形で示唆するものではなく、認め、又は示唆するものと理解してはならない。
【0005】
統合失調症は、人間に知られている中で最も能力を奪い、且つ感情面を荒廃させる疾患の一つである。残念なことに、統合失調症は非常に長い期間誤解されていたため、比較的殆ど注目を集めておらず、統合失調症の患者は不当に汚名を着せられてきた。統合失調症は、実際、かなり一般的な障害である。統合失調症は男女等しく罹患し、世界中の人口の約1%が悩まされている。さらなる2〜3%は、より軽症型の疾患である統合失調型人格障害を有する。統合失調症は、その有病率及び重症度ゆえ、病気を診断するためのより良い診断基準を開発しようと広範囲に研究されている。
【0006】
統合失調症は、一群の特有且つ予測可能な症状によって特徴付けられる。この疾患に最も一般的に付随する症状は陽性症状と呼ばれ、全体的に異常な行動の存在を示す。陽性症状には、思考障害(ついていくのが困難であり、理論的なつながりなくある話題から別の話題に飛躍する発話)、妄想(迫害、罪悪感、誇大妄想、又は外部の制御下にあるという誤った信念)、及び幻覚(視覚又は聴覚)が含まれる。思考障害は、明瞭且つ論理的に思考する能力の減退である。しばしば、思考障害は統合失調症患者が会話に参加することが不可能になる、切断された、意味の無い言語によって顕在化し、患者が患者の家族、友人、及び社会から阻害される一因となる。妄想は、統合失調症を有する個体間では一般的である。罹患している者は、自分に対して共謀されていると信じることがある(「偏執性妄想」と呼ばれる)。「伝播」は、この病気を有する個体が、他者が自分の考えを聞くことができると信じる一タイプの妄想を記載するものである。幻覚は聞かれ、見られ、又は感じられさえ得る。幻覚は、罹患している者だけに聞こえる声の形態をとるのが最も頻繁である。このような声は、患者の行為を述べ、患者に危険を警告し、又は何をするべきかを患者に告げることもある。時々、個体は、会話を続けるいくつかの声を聞くことがある。上記の「陽性症状」及び「思考障害」ほど明らかではないが、同程度に重症であるのは、正常な行動の非存在を表す欠損又は陰性症状である。これらには、感情鈍麻又は感情鈍化(即ち、感情表現の欠如)、無感動、引きこもり、及び病識の欠如が含まれる。
【0007】
統合失調症の発症は、通常、思春期又は成人早期の間に起こるが、高齢者で発病することが知られている。発症は急速で、急性症状は数週間にわたって発病することもあり、又は緩徐で、数か月若しくは数年にわたって発病することもある。統合失調症は誰でも人生のあらゆる時点で罹患し得るが、遺伝的にこの疾患に対する素因のある者に幾分より多くあることであり、最初の精神病のエピソードは思春期後期又は成人早期に一般的に生じる。二人とも疾患を有していない両親の子孫が統合失調症を発病する確率は1パーセントである。片親が疾患を有する子孫が統合失調症を発病する確率は、およそ13パーセントである。疾患を有する両親の子孫が統合失調症を発病する確率は、およそ35パーセントである。これは遺伝的なリンクが存在することを示している。
【0008】
統合失調症患者の4分の3は、この疾患を16歳から25歳の間に発病する。30歳をすぎると発症は珍しく、40歳をすぎると発症は稀である。16歳〜25歳の群では、統合失調症は、女性より男性が罹患する。25歳〜30歳の群では、発生率は男性より女性のほうが高い。
【0009】
一般に、あらゆる病気の研究には、優れた診断基準が存在することが必要とされる。実際、診断は最終的に原因に、即ち、病気が遺伝的欠陥に起因するのか否か、ウイルス感染又は細菌感染に起因するのか否か、毒素又はストレスに起因するのか否かに基づかなければならない。残念なことに、ほとんどの精神病の原因は知られておらず、したがってこれらの障害は、4つの主な知的能力のどれに罹患しているかにしたがって依然としてグループ分けされている:
(i)思考及び認知の障害、
(ii)気分の障害、
(iii)社会的行動の障害、及び
(iv)学習、記憶、及び知能の障害。
【0010】
したがって、これらの状態の生物学的原因は殆ど知られていないので、これらの疾患が誘発され、進行するメカニズムを解明する必要性は常に存在する。
【0011】
14−3−3タンパク質は、発生を通して、及び成人組織において大量に発現される、高度に保存されている調節分子のファミリーを構成する。これらのタンパク質は、7つの異なるイソ型(β、ζ、ε、γ、η、τ、σ)を含み、細胞周期の調節、増殖、遊走、分化、及びアポトーシスを制御するための、多数の機能的に多様なシグナル伝達分子に結合する(Berg et al. Nat Rev Neurosci 2003; 4(9):752-762; Fu et al. Annu Rev Pharmacol Toxicol 2000; 40:617-647; Toyo-oka et al. Nat Genet 2003 Jul; 34(3): 274-285; Aitken A., Semin Cancer Biol 2006; 16(3):162-172; Rosner et al. Amino Acids 2006; 30(1):105-109)。
【0012】
現在まで、14−3−3タンパク質ファミリーの分子の統合失調症における役割は、あるとすれば、依然として捕らえどころがない。いくつかの研究は、現在のところ結論に達していないが、統合失調症などの神経精神学的状態を発病する素因に関連する一塩基多型を同定することに集中している。14−3−3タンパク質イソ型のレベルの変化を調査することを目的とした研究は、これらの分子が変異しているか否かに関係なく、η及びθイソ型のレベルの変化に注目する傾向があったが、現在まで、神経精神学的状態の発症の信頼できるマーカーであるといういかなる確証的な結果も存在していない。14−3−3タンパク質のβ及びζなどの他のイソ型に関して、Wongら(2005年)は、統合失調症及び双極性障害における発現レベルの変化を見出さなかった。Middletonら(2005年)は、さらに進んで、これら特定のイソ型は、統合失調症を発病する遺伝的リスクに直接関係する可能性はなく、どのマーカーも統合失調症との強力な関連を提供しないと記載した。
【0013】
それにもかかわらず、これらの知見に反して、本発明を導いた研究では、14−3−3ζタンパク質の機能レベルにおける低下は、統合失調症の1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態などの、神経精神学的障害の発症又は発症に対する素因に関連することが決定されている。さらにまた、14−3−3ζタンパク質/DISC1複合体形成のレベルにおける低下は同様に診断となることも決定されている。これらの知見は、現在、神経精神学的障害の発症、又は発生に対する素因を確認するために、個体を日常的に、且つ正確にスクリーニングするための方法のデザインを促すものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、状況が別段の要求をしなければ、「含む(comprise)」という言葉、及び「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」などの変形は、記載する完全体若しくはステップ、又は完全体若しくはステップの群を含むことを含意するが、あらゆる他の完全体若しくはステップ、又は完全体若しくはステップの群を除外するものではないことが理解されよう。
【0015】
本明細書で用いられる「に由来する」の語は、特定の完全体又は完全体の群が、特定する種から生じるが、必ずしも特定する源から直接得られるわけではないことを指摘すると理解されたい。さらに、本明細書で用いられる、単数形の「一つの(a)」、「及び」、及び「その(the)」は、状況が明らかに別の方法で指示しなければ、複数の指示対象を含む。
【0016】
別段の規定がなければ、本明細書で用いられる技術用語及び科学用語は全て、本発明が属する技術分野の通常の一技術者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0017】
当業者であれば、本明細書に記載する本発明は、特に記載したもの以外の変形及び修飾が加えられることを認識されよう。本明細書に記載する本発明にはこのような変形及び修飾が全て含まれることを理解されたい。本発明には、本明細書において個々に、又は集合的に、言及され、又は指摘される、このようなステップ、特徴、組成物、及び化合物も全て含まれ、並びに前記ステップ又は特徴のあらゆる2つ以上のありとあらゆる組合せが含まれる。
【0018】
本明細書は、本明細書の参考文献の後に示したPatentIn Version 3.5プログラムを用いて準備したヌクレオチド配列情報を含んでいる。各ヌクレオチド配列は、数字表示<210>の後に配列識別名をつけたもの(例えば、<210>1、<210>2など)による配列一覧表において識別される。各ヌクレオチド配列に対する、長さ、配列のタイプ(DNA、RNAなど)、及び起源となる生物体は、それぞれ<211>、<212>、及び<213>という数字表示フィールドにおいて提供される情報によって識別される。本明細書において言及するヌクレオチド配列は、「配列番号」の識別名と、それに続く配列識別名(例えば、配列番号1、配列番号2など)によって識別される。本明細書において言及する配列識別名は、配列一覧表における数字表示フィールド<400>において提供される情報に相関し、その後に配列識別名(例えば、<400>1、<400>2など)が続く。即ち、本明細書において詳述する配列番号1は、配列一覧表において<400>1と識別する配列に相関する。
【0019】
本発明の一態様は、神経精神病学的状態の発症又は発症に対する素因について哺乳動物をスクリーニングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を対象とする。
【0020】
別の一態様において、神経精神病学的状態の発症又は発症に対する素因についてヒトをスクリーニングする方法であって、前記ヒトに由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を提供する。
【0021】
したがって、さらに別の一態様において、統合失調症に特徴的な1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態の発症又は発症に対する素因についてヒトをスクリーニングする方法であって、前記ヒトに由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を提供する。
【0022】
なお別の一態様において、統合失調症の発症又は発症に対する素因についてヒトをスクリーニングする方法であって、前記ヒトに由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記統合失調症の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を提供する。
【0023】
本発明は、したがって、陽性症状若しくは陰性症状又は思考障害の1つ又は複数を表すヒトにおける神経精神学的状態の発症を診断する方法であって、前記ヒトからの生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症が示される、上記方法を提供する。
【0024】
なおさらなる別の一態様において、本発明は、神経精神学的状態の発症又は発症に対する素因について哺乳動物をスクリーニングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを決定することを含み、発現レベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を対象とする。
【0025】
さらなる一態様において、本発明は、神経精神学的状態の発症又は発症に対する素因について哺乳動物をスクリーニングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質/DISC1複合体形成のレベルを決定することを含み、複合体形成のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を対象とする。
【0026】
本発明のなお別のさらなる一態様は、神経精神病学的状態の発症を診断された哺乳動物における前記状態の進行をモニタリングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、14−3−3ζタンパク質のレベルがその哺乳動物について以前に得られたレベルに比べて等しい、又は低ければ予後が不良であることが示され、14−3−3ζタンパク質のレベルがその哺乳動物について以前に得られたレベルに比べて高ければ、予後の改善が示される、上記方法を対象とする。
【0027】
本発明のなお別の一態様は、神経精神学的状態の発症に対する素因があると決定された患者をモニタリングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、14−3−3ζタンパク質のレベルがその哺乳動物について以前に得られたレベルに比べて等しい、又は低ければ、予後の改善が示される、上記方法を対象とする。
【0028】
本発明の別の一態様は、14−3−3ζタンパク質をコードする遺伝子が検出されている、14−3−3ζ機能的タンパク質が欠損している非ヒト哺乳動物を対象とする。
【0029】
本発明のなお別の一態様は、14−3−3ζタンパク質機能性、若しくは14−3−3ζ/DISC1複合体形成を模倣し、又は別の方法で統合失調症表現型の症状を改善する薬剤についてスクリーニングする方法であって、14−3−3ζノックアウト非ヒト動物に推定上の変調薬を投与し、改変された表現型についてスクリーニングすることを含む、上記方法を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】14−3−3ζ欠損マウスは、認知及び行動の異常な形質を示すことを示す図である。(a)オープンフィールド試験において、14−3−3ζ062−/−マウス(白バー;n=11)は、14−3−3ζ062+/+同腹仔(黒バー;n=11)よりも5〜30週齢の探索行動が大きい。(b)高架式十字迷路におけるオープンアームにおいて、14−3−3ζ062−/−マウス(白バー;n=12)は、14−3−3ζ062+/+マウス(黒バー;n=12)よりも多くの時間を費やした。(c)交差迷路回避タスク試験(cross maze escape task test)において、14−3−3ζ062−/−マウス(白丸;n=12)は、14−3−3ζ062+/+マウス(黒丸;n=12)よりも、空間学習(1日目〜6日目)及び記憶(M1及びM2)の両方に対して能力が低かった。(d)14−3−3ζ062+/+マウス(黒丸;n=11)に比べて、14−3−3ζ062−/−マウス(白丸;n=11)は、70dBベースラインを上回る2dB、4dB、8dB、及び16dBのプレパルス(PP)及び100m秒の刺激間インターバルでPPIが低減した。全てのPP強度からのデータの平均(Avg)も示す。オスマウス及びメスマウスからのデータは全てのグラフにおいてプールされたものである。エラーバーは平均値±SEMを表す。,p<0.05;**,p<0.01;***,p<0.001。
図2】14−3−3ζはアンモン角の錐体細胞及び歯状回の顆粒ニューロンにおいて発現されることを示す図である。(a)(i)海馬の異なる領域を示す、14.5dpcマウス胎仔脳を通った冠状切片の略図。V.脳室;IZ.中間帯;VZ、脳室帯。(ii)P0マウスの海馬を通った冠状切片の略図。海馬原基からのニューロンは、脳室の神経上皮(淡青色)及び海馬采に隣接する神経上皮(暗青色)から始まる。アンモン角及びアンモン角の層(so、多形細胞層;sp、錐体細胞層;sl、透明層;sr、放線状層)を構成するアンモン角の錐体ニューロンを含む3つの亜領域(CA1〜3)を、歯状回(DG)における顆粒ニューロンの位置決めに関して図示する。(b)(i〜ii)14−3−3ζの免疫反応性を、14.5dpc発生中の海馬の中間帯において検出した。(iii〜iv)P0では、14−3−3ζ陽性ニューロンは錐体細胞層に位置する。(v)高倍率の錐体神経(アステリスク)は、14−3−3ζは点状の細胞質内局在を有することを示す。(c)P0、P7、及び成体14−3−3ζ062+/−海馬における14−3−3ζの内在性の発現を示すX−gal染色。錐体神経及び顆粒ニューロンにおいて、高レベルの14−3−3ζ−lacZ発現が明らかである。(d)海馬ニューロンの培養物。(i)EB1での14−3−3ζ染色(赤色)。(ii)MAP2陽性(緑色)海馬ニューロン。(iii)14−3−3ζ及びMAP2を重層すると、MAP2陽性神経突起における共発現が強調される(矢印)。(e)14−3−3ζタンパク質(27kDa)は、WTマウスのアンモン角及び歯状回において発現される。成体WTマウス及び14−3−3ζ062-/−マウスからの可溶化物のウエスタンブロットを免疫ブロットし、14−3−3ζに対する抗体でプローブした(EBI)。抗−(β−アクチン(42kDa)抗体をローディング対照として用いた。スケールバー=100μm(bi〜iv;c;di〜iii)、25μm(bv)。
図3】14−3−3ζ欠損マウスは海馬の積層の欠陥を示すことを示す図である。(a)Nissl染色により、14.5dpcから出生後56日目(P56)までのWT及び14−3−3ζ062−/−マウスの海馬の発生が示される。海馬細胞は14−3−3ζ062−/−マウスの錐体細胞層(sp)中に分散している(iv、vi、viii)。矢じりは放線状層(sr)における海馬の錐体ニューロンの二重層を強調するものである。アステリスクは、多形細胞層(so)において異所性に位置付けられた錐体細胞を強調するものである。矢印は、歯状回において緩く配列された顆粒ニューロンを示す。(b)14−3−3ζ062バックグラウンドに導入されたThy1−YFP導入遺伝子の発現は、14−3−3ζ062−/−マウスにおける海馬の錐体ニューロンの重度の組織崩壊を明らかにした。青色、DAPI;緑色、Thy1発現。(c)示した遺伝子型のP0(i〜iv)及びP56(v〜vi)マウスから得られた海馬の冠状切断。より深い錐体細胞層には、WTの海馬においてNeuN−陽性錐体細胞が住み着いており(iii、黄色矢じり)、CA1からCA3までの均一な成熟帯(mature zone)を形成する。14−3−3ζ062−/−の海馬において、成熟帯は、CA3における錐体細胞層のより深い帯(黄色矢じり)及び表面帯(白色矢じり)の両方において異所性に位置付けられたいくつかのNeuN−陽性成熟錐体細胞ではそれほど均一ではなかった。P56の14−3−3ζ062−/−マウスにおいて、NeuNに対する免疫染色は、二重のCA3亜領域における錐体細胞を強調し、異所性の細胞が成熟を実現したことを示した(vi)。スケールバー:100um。
図4】BrdU−パルス−チェイス分析が14−3−3ζ欠損マウスにおけるニューロンの遊走の欠陥を示すことを示す図である。14.5dpc:P7(i〜v)及び16.5dpc:P7(vi〜x)のBrdU−パルス−チェイス分析は、BrdU−陽性細胞(黒色)は、WT海馬のCA3亜領域において錐体細胞層(sp)内に位置することを実証する(ii及びvii)。(v)グラフは、14.5dpc:P7の異所性の海馬ニューロンのパーセント値をまとめたものである。14−3−3ζ062−/−マウスのBrdU標識した細胞を異所性に位置付けた。ニューロンは、多形細胞層(so)において行き詰まり、又は錐体細胞層を超え、透明層(sl)中に遊走した(iv及びixにおける矢じり)。(x)グラフは、16.5dpc:P7の異所性の海馬ニューロンのパーセント値をまとめたものである。スケールバー:100μm
図5】14−3−3ζ欠損マウスにおける異常な苔状線維経路を示す図である。14−3−3ζ062+/+マウス(i、iii、v、及びvii)及び14−3−3ζ062−/−(ii、iv、vi、及びviii)マウスにおける、錐体下(IPMF、黄色矢じり)及び錐体上(suprapyramidal)(SPMF、白色矢じり)の苔状線維の軌道のカルビンジン免疫染色。WT対照同様、14−3−3ζ062−/−欠損神経突起は、歯状回(DG)から逸れて進んだ後、最初にSPMF及びIPMF分枝に分岐する。しかし、14−3−3ζ062−/−マウスのIPMF分枝は、錐体細胞の細胞体の間を常軌を逸して進んだ(sp、白色矢印)。さらに、14−3−3ζ062−/−マウスの散在性のSPMF分枝は、CA3における二重の錐体細胞層に侵入した。スケールバー=100μm。
図6a】異所性のCA3錐体細胞と経路を間違えた苔状線維との間の機能的なシナプスの連結を示す図である。(i−iv)シナプトフィジン(Syp)に対する抗体で染色したP56の14−3−3ζ062+/+マウスからの海馬切片は、IPMF(白色矢じり)及びSPMF(黄色矢じり)の両方における免疫反応性を示した。Syp染色は、多形細胞層(so)及び透明層(sl)の両方に局在し、CA3の錐体細胞体を取り囲む。(v〜viii)14−3−3ζ062−/−マウスからの海馬切片のSyp染色により、CA3(アステリスク、v、vii)の錐体細胞層内を異常に進む苔状線維は、機能的なシナプスを形成することが明らかである。(ix〜xii)異所性の成熟CA3錐体細胞(NeuNによって染色、アステリスクで示す)は、経路を間違えた苔状線維からのシナプスタンパク質(Syp、緑色)と連絡する。スケールバー=100μm。
図6b】異所性のCA3錐体細胞と経路を間違えた苔状線維との間の機能的なシナプスの連結を示す図である。ゴルジ染色により、WT又は14−3−3ζ062−/−成体マウス(P35)の錐体細胞樹状突起の分枝が明らかである。経路を間違えた苔状線維のシナプスボタン(MFB、斜め線)との接点を示す、1セットの棘の多い突出物が、WTのニューロンにおけるCA3錐体細胞の尖端近位の樹状突起上に位置する。2セットの棘の多い突出物が、14−3−3ζ062−/−マウスにおける尖端の樹状突起上に、一つは近位の尖端の樹状突起に、他方は遠位の樹状突起の分枝に位置する()。
図6c】異所性のCA3錐体細胞と経路を間違えた苔状線維との間の機能的なシナプスの連結を示す図である。略図は、WTの海馬と比べた14−3−3ζ062−/−マウスにおける異所性のCA3錐体細胞に連絡する、経路を間違えた苔状線維の軌道及び苔状線維ボタンの異所性のシナプス点を示す。
図7】14−3−3ζはDISC1と相互作用してニューロンの発生を制御することを示す図である。(a〜b)P7マウスの脳からの等量の可溶化物を、抗−DISC1抗体又は抗14−3−3抗体で免疫沈降し、DISC1で(a)、又は14−3−3ζを認識するようにEB1精製した抗血清で(b)免疫ブロットした。同時免疫沈降に用いた5%全細胞可溶化物(インプット)からのDISC1イソ型及び14−3−3ζの相対的な発現レベルをまた、直接免疫ブロットによって決定した。矢印は、DISC1の主な100kDa及び75kDaのバンド(a)、並びに14−3−3ζを表す27kDaのバンド(b)を示す。アステリスクは、免疫沈降からのバックグラウンドのIgGバンドを表す。(c)ニューロンの遊走及び軸索の成長における14−3−3ζの役割の略図。(i)14−3−3ζはCDK5がリン酸化されたNdel1に結合してLIS1との相互作用を促進し、それによりニューロンの遊走を促進する。(ii)14−3−3ζは、LIS1/Ndel1/DISC1複合体中にも存在して、軸索成長の動態を制御する。
図8】14−3−3ζ遺伝子の遺伝子トラップ変異を示す図である。(a)マウス系統14−3−3ζGt(OST062)Lex、及び(b)マウス系統14−3−3ζGt(OST390)Lexに対する挿入点を示す図。遺伝子トラップベクターは、選択可能なマーカー遺伝子(0ガラクトシダーゼ/ネオマイシンリン酸転移酵素融合遺伝子に対するBGEO)に融合しているスプライスアクセプター配列(SA)を含んでおり、この遺伝子はそれにより内因性14−3−3ζプロモーターの下で発現される。14−3−3ζの上流のエクソン中に組み入れられると、BGEOは、mRNA転写を妨害する融合転写物を生成する。ベクターは、スプライスドナー(SD)シグナルの上流のブルトンチロシンキナーゼ遺伝子(BTK)の最初のエクソンが続くPGKプロモーターも含む。BTKは、下流の融合転写物の翻訳を防ぐために、全ての読み枠における終結コドンを含んでいる。ジーントラップベクターは、2つの末端反復配列(LTR)間にレトロウイルス型において示す。両方の図の上で、矢印は遺伝子型解析に用いるプライマーを表示する。赤色の四角は非コードの非翻訳配列を示し、緑色の四角はコード配列を示す。
図9a】ウエスタンブロット分析は、14−3−3ζの発現が変異マウスの組織の全てにおいて低下することを実証することを示す図である。組織を、オス、メス両方の14−3−3ζ062−/−マウス及び年齢をマッチさせた14−3−3ζ062+/+マウスから収集した。試料を全て、材料と方法に記載する通り、プロテアーゼインヒビターを含むNP40可溶化バッファー中でホモジナイズした。タンパク質濃度を、Pierce BCA Protein Assay kitを用いて決定し、1レーンあたりタンパク質10μgをローディングした。ブロットをEB−1抗体でプローブして14−3−3ζを検出し、抗β−アクチン(1:5000)をローディング対照として用いた。結合した抗体をHRP−コンジュゲートした二次抗体(1:20000、Pierce−Thermo Scientific)で検出した。免疫反応性タンパク質をECLによって可視化した。EB1抗体は、14−3−3ζ以外に14−3−3イソ型も検出し得ることに留意されたい。
図9b】ウエスタンブロット分析は、14−3−3ζの発現が変異マウスの組織の全てにおいて低下することを実証することを示す図である。組織を、オス、メス両方の14−3−3ζ390−/−及び年齢をマッチさせた14−3−3ζ390+/+マウスから収集した。試料を全て、材料と方法に記載する通り、プロテアーゼインヒビターを含むNP40可溶化バッファー中でホモジナイズした。タンパク質濃度を、Pierce BCA Protein Assay kitを用いて決定し、1レーンあたりタンパク質10μgをローディングした。ブロットをEB−1抗体でプローブして14−3−3ζを検出し、抗β−アクチン(1:5000)をローディング対照として用いた。結合した抗体をHRP−コンジュゲートした二次抗体(1:20000、Pierce−Thermo Scientific)で検出した。免疫反応性タンパク質をECLによって可視化した。EB1抗体は、14−3−3ζ以外に14−3−3イソ型も検出し得ることに留意されたい。
図10】14−3−3イソ型のmRNAレベルは、14−3−3ζ欠損マウスの脳において依然として一定であることを示す図である。14−3−3のイソ型全ての転写レベルは、14−3−3ζ062−/−マウスからの脳組織における14−3−3ζイソ型の欠失に反応して不変であった。RNAを14−3−3ζ062−/−マウス3匹及び年齢をマッチさせた14−3−3ζ062+/+対照3匹の脳全体から単離した。相補的なDNA(cDNA)を、Quantitect kit(Qiagen)を用いて、RNA1μgから産生した。Sybr Green(Qiagen)を用いたリアルタイムPCR及びRotor Gene機器(Corbett)を用いて、mRNAのレベルを試料中のGAPDHに比べて、14−3−3の全てのイソ型に対して決定した。プライマーの詳細については、表1を参照されたい。
図11】14−3−3ζ欠損マウスは、学習及び記憶において認知機能障害を示すことを示す図である。交差迷路回避タスク試験における空間学習(1日目〜6日目)及び記憶の両方に対して、14−3−3ζ062−/−マウス(白丸;n=12)は14−3−3ζ062+/+マウス(黒四角;n=12)よりも能力が低い。14−3−3ζ062−/−マウスは、訓練期間を通して、及び記憶試験段階の間(M1及びM2)、回避用プラットフォームに到達するのにより長い時間がかかる。オスマウス及びメスマウスからのデータはプールされたものである。エラーバーは平均値±SEMを表す。、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001。
図12】14−3−3ζ欠損マウスは驚愕反射の低下を示すことを示す図である。14−3−3ζ062−/−マウス(白バー;n=13)の驚愕の振幅は、115dBのパルス単独のブロック4つにわたって、14−3−3ζ062+/+マウス(黒バー;n=14)よりも低かった。全てのブロックからの驚愕の平均(Avg)も示す。**、<0.05。
図13】14−3−3ζの発現は海馬ニューロンにおいて維持されることを示す図である。P0及びP7の14−3−3ζ062+/−海馬及び小脳における14−3−3ζの内因性の発現を示すX−gal染色。海馬における14−3−3ζ−lacZの高レベルの発現は、アンモン角の錐体ニューロン及び成熟歯状ニューロンの両方において明らかであるが、生後の脳室では明らかではない。スケールバー=25μm。
図14】14−3−3ζ欠損マウスにおける海馬の積層の欠陥を示す図である。ニッスル染色により、14.5dpcから出生(P0)までの、WT(i、iii、v)及び14−3−3ζ062−/−(ii、iv、vi)マウスの海馬の発生を示す。海馬の細胞は、14−3−3ζ062−/−マウスの錐体細胞層(sp)中に分散されていた。矢じりは、放線状層(sr)における海馬の錐体ニューロンの二重層を強調する。アステリスクは、多形細胞層(so)において異所性に位置付けられた錐体細胞を強調する。スケールバー=25μm。
図15】成体まで生存した14−3−3ζ欠損マウスにおいて誤って位置付けられたニューロンを示す図である。海馬の原基(a〜f)及び成熟した海馬(g〜h)におけるアポトーシス細胞。断片化した、アポトーシス細胞の核において増大がないことで(aii及びbiiにおける緑色のTUNEL陽性細胞において示す通り)14−3−3ζ−/−海馬が検出された。スケールバー=100μm。
図16】14−3−3ζはグルタミン酸作動性経路を制御して感覚運動のゲーティングを媒介することを示す図である。14−3−3ζ062+/+マウス(灰色バー;n=11;オス5匹及びメス6匹)に比べて、14−3−3ζ062−/−マウス(灰色斜線バー;n=11;オス5匹及びメス6匹)は70dBベースライン及び100m秒の刺激のインターバルにわたって前パルス(PP)16dBでPPIが低減した。14−3−3ζ062+/+マウスにおいて、MK801(MK)及びアポモルヒネ(APO)の両方ともPPI欠陥を誘発する。これとは対照的に、14−3−3ζ062−/−マウスにおいて、APOだけがさらなるPPI欠陥を誘発する。
図17】14−3−3ζはドパミン作動性経路を制御して歩行活動を媒介することを示す図である。オープンフィールド試験において、D−アンフェタミンで処置した場合、14−3−3ζ062−/−マウス(白バー;n=11;オス6匹及びメス5匹)は、14−3−3ζ062+/+同腹仔よりも30週齢の探索行動が大きかった。Sal、食塩水。オスマウス及びメスマウスからのデータを、全てのグラフにおいてプールする。エラーバーは平均値±SEMを表す。、p<0.05。
図18】14−3−3ζ欠損マウスの棘密度が低下していることを示す図である。(A)14−3−3ζ062+/+マウス(n+4、各動物から計数した樹状突起20個)に比べて、14−3−3ζ062−/−マウス(n=3、各動物から計数した樹状突起20個)において、歯状回(DG)の顆粒状ニューロンにおいて樹状突起棘が低下する。(B)14−3−3ζ062−/−マウス(n=3、各動物から計数した樹状突起20個)では14−3−3ζ062+/+マウス(n+4、各動物から計数した樹状突起20個)に比べて、アンモン角(CA)の錐体ニューロンにおける樹状突起棘も減少する。左パネルは、14−3−3ζ062−/−及び14−3−3ζ062+/+のDG樹状突起又はCA樹状突起における棘の代表的な画像を示す。右パネルは、関係のあるp値での定量を示す。棘の数の採点法は全ての動物に対して完全にブラインドであったことに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、一部には、例えば、14−3−3ζタンパク質の絶対レベル又は14−3−3ζタンパク質/DISC1複合体形成のレベルの状況において、14−3−3ζタンパク質の機能レベルにおける低下は、統合失調症又は関連の状態などの神経精神学的状態の発症又は発症に対する素因を示すという確定に基づくものである。この知見は、したがって、神経精神学的状態に対する感受性を評価し、又は神経精神学的状態の発症を診断するのに、単純であるが非常に有用な試験の開発を促進するものである。また、既知の若しくは新しい治療的若しくは予防的処置のレジメンの開発又は試験、或いはこの点に関して有用であり得る変調薬を求めるスクリーニングの状況などにおいて、14−3−3ζタンパク質を発現しない遺伝子を変調した動物の産生、及びこれらを使用するための方法も促進するものである。
【0032】
したがって、本発明の一態様は、神経精神病学的状態の発症又は発症に対する素因について哺乳動物をスクリーニングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を対象とする。
【0033】
本発明をいかなる1つの理論又は作用様式に限定するものではないが、14−3−3タンパク質は、複数の細胞タンパク質と相互作用し、機能を変調し、そうする上で多くのシグナル伝達経路を調節する、二量体のホスホセリン結合性タンパク質の保存されているファミリーである(Tzivion and Avruch 2002, J. Biol. Chem. 277:3061-64; Fu et al. 2000, Ann. Rev. Pharma. Tox. 40:617-47)。14−3−3タンパク質は30kDaの単量体単位2個から構成されており、その各々が両親媒性の溝を通ってホスホセリンモチーフに結合することができる。14−3−3の二量体はN末端のαヘリックスによって形成され、単量体の1つのヘリックス1が、別のヘリックス3及び4と相互作用する。機能的に、14−3−3タンパク質は、細胞タンパク質活性を調節する上で複数の役割を遂行し、重要なことに、14−3−3のこれらの機能はその二量体構造に依存する(Xing et al. 2000, supra; Yaffe 2002, FEBS Letts. 513:53-57)。14−3−3タンパク質は、7つのホスホセリン結合タンパク質の高度に保存されているファミリーである。7つのイソ型とは、β、ε、γ、η、σ、τ、及びζ型である(NCBI参照配列番号NM_003406.3;配列番号1)。
【0034】
「14−3−3ζタンパク質」に対する言及は、機能的なアレルバリアント又は多型バリアントを含めた14−3−3ζタンパク質の全ての型に対する言及を含むものと理解されたい。「バリアント」に対する言及は、機能的変異体に拡張されると理解されたい。「ホモログ」に対する言及は、ヒト以外の種からの14−3−3タンパク質に対する言及と理解されたい。「機能的な」14−3−3タンパク質に対する言及は、DISC1複合体形成を経験することができ、それによってDISC1が調節するネットワークによって進行中のシグナル伝達を促進することができる分子に対する言及と理解されたい。「14−3−3ζタンパク質」はまた、本明細書において「14−3−3ζ」と交換可能に言及されることを理解されたい。両方の語とも、同じ分子に対する言及と理解されたい。一実施形態において、前記14−3−3ζタンパク質はヒト14−3−3ζである。
【0035】
この実施形態にしたがって、神経精神学的状態の発症又は発症に対する素因についてヒトをスクリーニングする方法であって、前記ヒトに由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を提供する。
【0036】
「神経精神学的状態」に対する言及は、神経精神学的に基づく認知、情動、及び行動の障害(disturbance)によって特徴付けられる状態に対する言及と理解されたい。このような状態の例には、とりわけ、統合失調の1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態、統合失調症、統合失調型人格障害、精神病、双極性障害、躁うつ病、情動障害、又は統合失調症様障害、統合失調感情障害、精神病性うつ病、自閉症、薬物誘発性精神病、せん妄、アルコール離脱症状群、又は認知症誘発性精神病(dementia induced psychosis)が含まれる。
【0037】
一実施形態において、前記神経精神学的状態は、統合失調症の1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態である。
【0038】
したがって、この実施形態にしたがって、統合失調症に特徴的な1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態の発症又は発症に対する素因についてヒトをスクリーニングする方法であって、前記ヒトに由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を提供する。
【0039】
「統合失調症に特徴的な症状」に対する言及は、統合失調症に罹患している個体において起こり得る任意の1つ又は複数の症状に対する言及と理解されたい。これらの症状は、疾患の経過にわたって明らかであり得、又はこれらはほんの一過性に、若しくは周期的に明らかであり得る。例えば、統合失調症に付随する幻覚は、通常、周期的なエピソードにおいて起こり、特徴的な引きこもりは進行中の兆候を表し得る。対象の症状は、統合失調症に罹患している個体全てが必ずしも表し得ないことも理解されたい。例えば、ある個体は幻聴だけを患っていることがあり、他の個体は幻覚のみを患っていることがある。しかし、本発明の目的では、どれほど多くの、又は少ない統合失調症患者が実際に所与の症状を表すかに関係なく、あらゆるこのような症状がこの定義によって包含される。本発明を任意の1つの理論又は作用様式に限定するものではないが、この疾患に最も一般的に付随する症状は陽性症状(はなはだしく異常な行動の存在を意味する)、思考障害、及び陰性症状と呼ばれる。思考障害及び陽性症状には、ついていくのが困難であり、又は理論的なつながりなくある話題から別の話題に飛躍する発話、妄想(迫害、罪悪感、誇大妄想、又は外部の制御下にあるという誤った信念)、及び幻覚(視覚又は聴覚)が含まれる。思考障害は、明瞭且つ論理的に思考する能力の減退である。しばしば、思考障害は統合失調症患者が会話に参加することができなくなる、切断された、意味の無い言語によって顕在化し、家族、友人、及び社会から阻害される一因となる。妄想は、統合失調症を有する個体の間では一般的である。罹患している者は、自分に対して共謀されていると信じることがある(「偏執性妄想」と呼ばれる)。「伝播」は、この病気を有する個体が、他者が自分の考えを聞くことができると信じる一タイプの妄想を記載するものである。幻覚は聞かれ、見られ、又は感じられさえ得る。幻覚は、罹患している者だけに聞こえる声の形態をとるのが最も頻繁である。このような声は、患者の行為を述べ、危険を警告し、又は何をするべきかを患者に告げることがある。時々、個体は、会話を続けるいくつかの声を聞くことがある。「陽性症状」ほど明らかではないが、同程度に重症であるのは、正常な行動の非存在を表す欠損又は陰性症状である。これらには、感情鈍麻又は感情鈍化(即ち、感情表現の欠如)、無感動、引きこもり、及び病識の欠如が含まれる。陽性症状及び陰性症状の両方とも、「統合失調症に特徴的な症状」の定義内にあてはまることを理解されたい。
【0040】
統合失調症患者がどの症状を表すかに関して、患者間に著しい変動があり得るという事実に加えて、1つ又は複数のこれらの症状によってやはり特徴付けられる他の神経精神学的状態が存在することも理解されたい。幻覚は、例えば、双極性障害、精神病性うつ病、せん妄、及び認知症誘発性精神病などを有する患者においても一般的に観察される。したがって、統合失調症に特徴的な1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態に対する言及は、1つ又は複数のこれらの症状の存在によって特徴付けられるあらゆる神経精神学的状態に対する言及と理解されたい。一実施形態において、前記状態は統合失調症である。
【0041】
この実施形態にしたがって、統合失調症の発症又は発症に対する素因についてヒトをスクリーニングする方法であって、前記ヒトに由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記統合失調症の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を提供する。
【0042】
本明細書で用いられる「哺乳動物」の語には、ヒト、霊長動物、家畜動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、豚、ロバ)、実験動物(例えば、マウス、ラット、モルモット)、コンパニオン動物(例えば、イヌ、ネコ)、及び捕獲された野生動物(例えば、カンガルー、シカ、キツネ)が含まれる。哺乳動物がヒト、又は実験動物であるのが好ましい。哺乳動物がヒトであるのがさらにより好ましい。
【0043】
正常範囲より低いレベルの14−3−3ζタンパク質レベルを表す個体は、対象の状態の発症に対する素因に対立するものとして、対象の状態の発症を経験していると一般にみなされ、この場合上記した1つ又は複数の陽性症状又は陰性症状の発症の証拠がやはり存在する。統合失調症などの神経精神学的状態を診断する限界の1つは、状態の早期段階において、観察される症状が非特異的であり、神経精神学的ではない原因にしばしば起因し得ることであることが理解されよう。このため、統合失調症などの状態を有することに付随する徴候により、医療従事者又は患者の家族が、この点に関して絶対的な確信のないままにこのような診断を認めることによる不本意がもたらされ得る場合は特に、診断が極めて困難になる。正しくない診断がなされた場合、実際有効ではなく、又は有害でさえあり得る治療的処置のレジメンがデザインされ得るため、その結果は深刻であり得る。したがって、本発明の方法は、手堅い診断を提供するために、神経精神学的状態に特徴的な症状の発症の観察が、今や生化学的な読取りと一緒に評価することができることから、現在、これらのタイプの状況における確証的診断を得る手段を提供する。
【0044】
本発明は、したがって、陽性症状若しくは陰性症状又は思考障害の1つ又は複数を表すヒトにおける神経精神学的状態の発症を診断する方法であって、前記ヒトからの生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症を示す、上記方法を提供する。
【0045】
一実施形態において、前記状態は、統合失調症の1つ又は複数の症状によって特徴付けられる状態である。
【0046】
別の一実施形態において、前記状態は統合失調症である。
【0047】
上記に詳述した通り、本発明は、患者が、神経精神学的状態を発病する素因があるか否かを決定する手段も提供する。この状況において、個体は、神経精神学的状態のいかなる症状もまだ表していないのが典型的である。しかし、例えば家族歴など、数々の要因の任意の1つにより、個体がそのような状態を発症する素因があるか否かを決定するのが望ましいことがある。これは、ライフスタイルの変化を起こすのを可能にし、又は予防薬の処置レジメンを実施するのを可能にし得る貴重な情報を提供することができる。この点における「素因」に対する言及は、したがって、正常の個体に対するこのような状態の発症に対する傾向又は感受性の増大に対する言及と理解されたい。これは、個体が状態を必ず発病することを意味するものではなく、例えば、個体が状態の発症に対する誘発にさらされていないが、単に状態の発症が誘発され得る状況下にある場合、状態に対する素因のあるヒトはそうではないヒトよりも発病の可能性が高いことを意味する。このような状態の発症に対する「素因がない」個体に対する言及には、反対の意味があることを理解されたい。「素因」に対する言及はまた、一般集団に比べて、神経精神学的状態を発病するリスクの増大を表す個体を記載するものとされる。
【0048】
本発明は、14−3−3ζタンパク質の機能レベルの低下は、神経精神学的状態の発症又は発症に対する素因が示されるという確定に基づくものである。「機能レベル」に対する言及は、14−3−3ζタンパク質の、絶対レベル自体よりむしろ生物学的に有効なレベルに対する言及と理解されたい。即ち、14−3−3ζタンパク質が、本明細書以降に記載する生物学的経路を達成する能力は関連する問題であり、これは、14−3−3ζタンパク質の絶対レベルの他に測定可能な因子によって影響を及ぼされる。
【0049】
本発明をいかなる1つの理論又は作用様式に制限するものではないが、14−3−3ζはリン酸化されたNdel1に結合し、Ndel1のリン酸化を維持し、それによってNdel1のLIS1、及び核の運動を調節する細胞質のダイニン重鎖に対する結合を促進する。しかし、14−3−3ζタンパク質は三部構成のDISC1/Ndel1/LIS1複合体と相互作用して、キネシン運動の結合及びNdel1/LIS1の成長する軸索への再配置を促進することも現在決定されている。なおさらに、これは、イソ型特異的に優先的に起こり、14−3−3ζ/DISC1複合体形成及びシグナル伝達は、DISC1の100kDaイソ型よりもむしろ75kDaイソ型の状況において優先的に起こる。これらの知見は、Ndel1が実際にDISC1の100kDaイソ型と相互作用することを実証した以前の知見と対照的である。
【0050】
DISC1タンパク質は、ヒトにおいてDISC1遺伝子によってコードされる(Millar et al. 2000, Hum. Mol. Genet. 9(9): 1415-23)。DISC1は、多彩な相互作用パートナーと協調して、細胞の増殖、分化、遊走、ニューロンの軸索及び樹状突起の伸長、ミトコンドリアの輸送、分裂、及び/又は融合、並びに細胞対細胞の接着の調節に関与することが示されている。DISC1遺伝子は染色体lq42.1に位置し、DISC2のオープンリーディングフレームと重複する。複数のDISC1イソ型が、TSNAX−DISC1導入遺伝子スプライスバリアントを含めた、RNAレベルで、及びタンパク質レベルで同定されている(Nakata et al. (2009). Proc Natl Acad Sci U S A. 106(37):15873-8)。単離されたRNAアイソマーのうち、4つ、すなわち、長型(Long form)(L)、長いバリアントイソ型(Long variant isoform)(Lv)、小型イソ型(Small isoform)(S)、及び特別に小型のイソ型(Especially small isoform)(Es)が翻訳されていることが確認されている。ヒトDISC1は、2つの主要なスプライスバリアントである1型及びLvイソ型として転写されている。L及びLv転写物は、エクソン11内の、それぞれ遠位及び近位のスプライス部位を利用する。異なるイソ型をコードする、代替の転写性のスプライスバリアントが特徴付けられている。DISC1ホモログが、通常のチンパンジー、アカゲザル、ハツカネズミ、ドブネズミ(brown rat)、ゼブラフィッシュ、フグ、ウシ、及びイヌにおいて同定されている(Taylor et al. (2003) Genomics 81(1):67-77)。
【0051】
この遺伝子によってコードされるタンパク質は、C末端ドメインに富むコイルドコイルモチーフ、及びN末端球状ドメインを含むことが予想される(Taylor et al. 2003 supra)。N末端は、2つの推定上の核移行シグナル、及び意義不明なセリン−フェニルアラニン−リッチモチーフを含んでいる。C末端はコイルドコイル形成の可能性のある複数の領域及びタンパク質−タンパク質相互作用を媒介し得る2つのロイシンジッパーを含んでいる。DISC1タンパク質には知られている酵素活性がなく、むしろ時間及び空間上これらの機能的状態及び生物学的活性を変調するような相互作用によって、複数のタンパク質に対して作用を発揮する(Bradshaw and Porteous (2010-12-31). “DISC1-binding proteins in neural development, signaling and schizophrenia.”. Neuropharmacology)。
【0052】
「DISC1」に対する言及は、「14−3−3ζタンパク質」に関連して提供されるものに対応する意味を有すると理解されたい。
【0053】
それでも、何らかの方法で本発明を限定するものではないが、14−3−3ζタンパク質の機能レベルにおける低下は、統合失調症マウスモデルの状況において、統合失調症に特徴的な行動及び認知の欠陥を誘発した。これらの欠損は、歩行機能における増大、新奇な物体を認識することができないこと、開放環境に対する不安の低下、学習又は記憶に対する能力の極度の低下、及び感覚運動ゲーティングの異常として注目された。海馬内のニューロンの解剖学的障害(disturbance)も同定され、異常なニューロンの遊走に起因すると仮定されている。特異的な軸索ナビゲーションの欠陥、及び海馬の苔状線維のシナプス連結の異常も同定され、これは統合失調症がシナプスの障害であることと一致する。より具体的には、14−3−3ζの機能性が有害に衝撃を受けた場合は、海馬の層状の組織化が破壊された。この欠陥は、主に、脳室下帯からの海馬ニューロンの、錐体細胞層における通常の休憩所への異常な遊走から生じる。14−3−3ζ/DISC1軸は、したがって、統合失調症の病態生理学における中心的な生物学的経路であり、観察される解剖学的欠陥は、統合失調症に付随する認知欠損は神経発生上の欠損及びシナプスの障害(disturbance)の両方から生じるという事実と一致する。
【0054】
14−3−3ζタンパク質機能性の「生物学的に有効なレベル」を評価する点で、これは14−3−3ζタンパク質の絶対レベルに関してだけではなく、14−3−3ζタンパク質/DISC1複合体形成のレベルでも評価することができることを理解されたい、というのは、必要な神経学的発生を支持するのは、実際にこれら複合体の形成だからである。14−3−3ζタンパク質の絶対レベルにおける欠陥はこの複合体形成に対して衝撃を与えるが、14−3−3ζタンパク質分子又はDISC1分子のいずれかにおける他の構造的又は機能的な欠陥に対しても衝撃を与える、というのは、これら欠陥により効果的な複合体の形成が起こることができなくなるからである。複合体の形成がなければ、この複合体によって誘発される下流のシグナル伝達のイベントは起こることができない。したがって、それゆえ14−3−3ζタンパク質発現における欠陥、及び14−3−3ζタンパク質レベルに対して必ずしも衝撃を与え得ないが、それでも14−3−3ζがDISC1との機能的複合体を形成する能力に有害に衝撃を与える他のタイプの欠陥の両方についてスクリーニングすることができる。例えば、
(i)14−3−3ζタンパク質翻訳生成物レベルにおける低下、
(ii)14−3−3ζタンパク質翻訳生成物(例えば、主にRNA又はmRNA)レベルにおける低下、
(iii)14−3−3遺伝子が関連するクロマチンタンパク質の変化、例えば、9位若しくは27位のアミノ酸のリシン上のヒストンH3のメチル化の存在(抑圧的修飾)、又は発現を下方制御するように作用するDNA自体の変化、例えば、DNAのメチル化の変化、
(iv)14−3−3ζタンパク質及びDISC1が複合体を形成する能力における低下
についてスクリーニングすることができる。
【0055】
この実施形態によると、本発明は、神経精神学的状態の発症又は発症に対する素因について哺乳動物をスクリーニングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを決定することを含み、発現のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を対象とする。
【0056】
14−3−3ζタンパク質遺伝子の「発現」に対する言及は、この特定の14−3−3タンパク質のイソ型をコードする転写生成物(例えば、mRNA)、又は翻訳タンパク質(即ち、タンパク質)自体のいずれかのレベルの評価に対する言及であることを理解されたい。
【0057】
別の一実施形態において、前記発現のレベルはmRNAの発現である。
【0058】
さらに別の一実施形態において、前記発現のレベルはタンパク質の発現である。
【0059】
なお別の一実施形態において、前記発現のレベルは、ゲノムDNAの変化、例えば、DNAメチル化の変化、特に過剰メチル化についてのスクリーニングによって評価される。
【0060】
なおさらに別の一実施形態において、前記発現のレベルは、前記遺伝子が付随するクロマチンタンパク質の変化についてのスクリーニングによって評価される。
【0061】
さらなる一実施形態において、本発明は、神経精神学的状態の発症又は発症に対する素因について哺乳動物をスクリーニングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質/DISC1複合体形成のレベルを決定することを含み、複合体形成のレベルが対照レベルに比べて低ければ、前記状態の発症又は発症に対する素因が示される、上記方法を対象とする。
【0062】
一実施形態において、前記複合体は、14−3−3ζタンパク質と75kDaDISC1イソ型との間の複合体である。
【0063】
当業者であれば、「14−3−3ζタンパク質/DISC1複合体」に対する言及は、14−3−3ζタンパク質及びDISC1の両方を含む複合体に対する言及であるが、必ずしもこれら2つの分子だけではないことを理解されたい。即ち、複合体は、Ndel1及びLIS1などの他の分子を含むことができる。14−3−3ζタンパク質は必ずしも、DISC1と直接、又はDISC1に対して独占的に相互作用をしなくてもよいことも理解されたい。即ち、14−3−3ζタンパク質はNdel1及び/又はLIS1とも相互作用することができる。
【0064】
本発明の方法は、生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質発現のレベルを、このマーカーの対照レベルに比べて分析することに基づくものである。「対照レベル」は、対象の神経精神学的状態に罹患していない個体から採取した対応する試料中の14−3−3ζタンパク質発現のレベルである「正常レベル」であってもよく、又は問題の患者から早期の時点に収集した試料のいずれかであってもよい。後者の場合は、本発明の方法を、例えば、治療的処置又は予防的処置のレジメンの有効性を評価するために、ある期間にわたって患者をモニタリングするのに用いる場合に該当する。これは以下に、より詳しく論じる。対象の14−3−3ζタンパク質は、量的又は質的いずれかの読みによって評価又はモニタリングすることができることも理解されたい。
【0065】
正常レベルは、分析する試料に対応する生物学的試料であるが、状態を発病しておらず、状態を発病する素因がない個体から単離された生物学的試料を用いて決定することができる。しかし、健常個体から得られた個々の、又は集合的な結果を反映する標準の結果に比べて試験結果を分析するのが最も便利である可能性があることが理解されよう。後者の分析形態は、対象の試験試料である、単一の生物学的試料の収集及び分析を必要とするキットのデザインが可能になることから、実際に好ましい分析方法である。正常レベルを提供する標準の結果は、当業者であればよく知っているあらゆる適切な手段によって算出することができる。例えば、正常組織の集団を、14−3−3ζのレベルに関して評価し、それによって、それに対して未来の試験試料を全て分析する標準の値又は値の範囲を提供することができる。正常レベルは、特定のコホートの対象から決定することができ、そのコホートに由来する試験試料に関して用いるように決定することができることも理解されたい。したがって、年齢、性別、民族、又は健康状態などの特徴に関して異なるコホートに対応する数々の標準の値又は範囲を決定することができる。前記「正常レベル」は、個々のレベルであっても、又はある範囲のレベルであってもよい。
【0066】
好ましい方法は、対象の状態の発症又は発症に対する素因を診断するために、14−3−3ζタンパク質レベルにおける低下を検出することであるが、14−3−3ζタンパク質レベルにおける上昇の検出も、ある種の状況下では望ましいことがある。例えば、患者の予防的処置又は治療的処置の経過の間など、精神病の急性エピソードの発病又は発症に関して、疾患状態における変化又は予後の意味に対して個体のモニタリングを求めてもよい。或いは、例えば、統合失調症の症状を表している患者、又はこのような状態を発病する遺伝的素因若しくは環境的素因をモニタリングしてもよい。本発明のこの態様にしたがって、14−3−3ζ機能的タンパク質のレベルを、上記した通り、1つ又は複数の以前に得られた結果に対して評価する可能性があることを理解されたい。
【0067】
本発明の方法は、したがって、1回限りの試験として、このような状態を発病するリスクがあると考えられる個体の継続的なモニタリングとして、又はこのような状態の発症若しくは進行を阻害し若しくは別の方法で遅くすることを目的とする治療的処置若しくは予防的処置のレジメンの有効性のモニタリングとして有用である。したがって、本発明の方法は、正常レベルに対する(上記に規定した通り)、又は前記個体から決定した1つ若しくは複数の早期のレベルに対する、個体における14−3−3ζタンパク質レベルの上昇若しくは低下に対するモニタリングに拡張すると理解されたい。
【0068】
したがって、本発明の別の一態様は、神経精神病学的状態の発症を診断された哺乳動物における前記状態の進行をモニタリングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、前記14−3−3ζタンパク質のレベルがその哺乳動物について以前に得られたレベルに比べて等しい、又は低ければ予後が不良であることが示され、14−3−3ζタンパク質のレベルがその哺乳動物について以前に得られたレベルに比べて高ければ、予後の改善が示される、上記方法を対象とする。
【0069】
本発明のなお別の一態様は、神経精神学的状態の発症に対する素因があると決定された患者をモニタリングする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料中の14−3−3ζタンパク質の機能レベルを決定することを含み、14−3−3ζタンパク質のレベルがその哺乳動物について以前に得られたレベルに比べて等しい、又は低ければ、予後の改善が示される、上記方法を対象とする。
【0070】
一実施形態において、前記状態は、統合失調症の1つ又は複数の症状によって特徴付けられる。
【0071】
別の一実施形態において、前記状態は統合失調症である。
【0072】
なお別の一実施形態において、前記哺乳動物はヒトである。
【0073】
別の一実施形態において、前記発現のレベルはmRNAの発現である。
【0074】
さらに別の一実施形態において、前記発現のレベルはタンパク質の発現である。
【0075】
なお別の一実施形態において、前記発現のレベルは、DNAメチル化の変化、特に過剰メチル化などのゲノムDNAの変化のスクリーニングによって評価される。
【0076】
さらになお別の一実施形態において、前記発現のレベルは、前記遺伝子が付随するクロマチンタンパク質の変化についてのスクリーニングによって評価される。
【0077】
なおさらに別の一実施形態において、前記機能レベルは、14−3−3ζタンパク質/DISC1複合体形成の、より詳しくは14−3−3ζ/75kDaDISC1イソ型複合体形成のレベルである。
【0078】
何らかの方法で本発明を限定するものではないが、14−3−3ζタンパク質発現が脳の外で検出可能であることから、本発明の方法はとりわけ有用である。以前に同定された統合失調症のマーカーは、脳においてのみ発現される遺伝子の転写生成物中に存在する変異の形態をとっていた。試験のために、特にルーチンの試験のために、脳組織を収集される予想は患者にとって不快であり、且つ高度に侵襲性の性質のため、感染症などの重大な合併症の発病に対して潜在的に無防備であるので、診断の観点からこの方法は望ましくない。しかし、本発見により、脳脊髄液、末梢血、並びに歯髄、毛嚢、及び嗅窩などの組織からの成体由来神経幹細胞を含めた他の生物学的供給源の使用が可能になった。この試験の開発により、現在では、統合失調症に対する個体の、著しく単純な、ルーチンの試験が可能になっている。
【0079】
「生物学的試料」に対する言及は、したがって、それだけには限定されないが、細胞材料、組織生検の検体、又は体液(例えば、脳脊髄液若しくは血液)など、動物に由来する生物学的材料のあらゆる試料に対する言及と理解されたい。本発明の方法にしたがって試験する生物学的試料は、直接試験することができ、又は試験前にいくつかの形態の処置を必要とし得る。例えば、生検試料は、試験前に均質化を必要とすることがあり、又はインサイチューの試験用に切片化を必要とすることがある。さらに、生物学的試料が液体の形態ではない範囲まで(このような形態が試験を必要とする場合)、試料を動員するために、バッファーなどの試薬の添加を必要とすることがある。前記生物学的試料が、末梢血リンパ球又は成体由来神経幹細胞の試料であるのが好ましい。
【0080】
標的分子が生物学的試料中に存在する程度まで、生物学的試料を直接試験することができ、又はそうでなければ生物学的試料中に存在する核酸材料若しくはタンパク質の全部若しくはいくらかを試験前に単離することができる。さらに別の一例において、試料を、分析前に、部分的に精製してもよく、又は別の方法で濃縮してもよい。mRNAが分析の対象である場合は、例えば、生物学的試料が非常に多様な細胞集団を含む程度まで、特定の対象の亜集団(例えば、CNS細胞)を選び出すのが望ましいことがある。生ウイルスの不活化又はゲル上を流すなど、標的の核酸又はタンパク質の分子を試験前に前処理することは本発明の範囲内である。生物学的試料を新たに収集してもよく、又は試験前に貯蔵してあってもよく(凍結などによって)、又は試験前に別の方法で処理してもよい(培養を行うなどによって)ことも理解されたい。
【0081】
どのタイプの試料が本明細書に開示する方法にしたがって試験するのに最も適するかの選択は、状況の性質に依存する。
【0082】
上記に詳述した通り、「発現」に対する言及は、核酸分子の転写及び/又は翻訳に対する言及と理解されたい。「RNA」に対する言及は、一次RNA又はmRNAなどのあらゆる形態のRNAに対する言及を包含すると理解されたい。何らかの方法で本発明を限定するものではないが、RNA合成の増大又は低減をもたらす遺伝子転写の変調は、これらRNA転写物(例えば、mRNA)のタンパク質生成物への翻訳にも関連する。したがって、本発明はまた、細胞又は細胞集団の発癌状態の指標として、14−3−3ζタンパク質生成物のレベル又はパターンの変調についてのスクリーニングを目的とする検出法に拡張される。一方法は、mRNA転写物及び/又は対応するタンパク質生成物に対してスクリーニングすることであるが、本発明はこの点に制限されず、例えば、一次RNA転写物など、あらゆる他の形態の発現生成物についてのスクリーニングに拡張されることを理解されたい。
【0083】
14−3−3ζタンパク質発現の下方制御についてのスクリーニング関して、当業者には、DNAレベルで検出可能である変化は、遺伝子発現活性の変化を示し、したがって、発現生成物レベルの変化であることもよく知られている。このような変化には、それだけには限定されないが、DNAメチル化の変化が含まれる。したがって、本明細書における「発現のレベルのスクリーニング」、及びこれらの「発現のレベル」の対照の「発現のレベル」に対する比較に対する言及は、遺伝子/DNAのメチル化パターンなど、転写に関連するDNA因子の評価に対する言及と理解されたい。
【0084】
当業者であれば、クロマチンの構造における変化は遺伝子発現における変化を示すことも知っている。遺伝子発現のサイレンシングはクロマチンタンパク質の修飾にしばしば関連し、ヒストンH3の9位及び27位いずれか又は両方のリシンのメチル化はかなり研究されている例であるが、活動性のクロマチンはヒストンH3の9位のリシンのアセチル化によって特徴付けられる。このように、遺伝子配列の、抑圧的又は活動性の修飾を保有するクロマチンとの関連を、遺伝子の発現レベルの評価を行うのに用いることができる。
【0085】
「核酸分子」に対する言及は、デオキシリボ核酸分子及びリボ核酸分子の両方、並びにこれらのフラグメントに対する言及と理解されたい。本発明は、したがって、生物学的試料中のmRNAレベルについての直接的なスクリーニング、又は対象のmRNA集団から逆転写された相補的なcDNAについてのスクリーニングの両方に拡張する。DNA又はRNAのいずれかについてのスクリーニングを目的とする方法をデザインするのは、十分当業者の技術の範囲内にある。上記に詳述した通り、本発明の方法は、対象のmRNA又はゲノムDNAそれ自体から翻訳されたタンパク質生成物についてのスクリーニングにも拡張する。
【0086】
一実施形態において、14−3−3ζタンパク質発現のレベルは、mRNA又はタンパク質生成物を参照することによって測定される。
【0087】
別の一実施形態において、前記遺伝子発現は、ゲノムDNAのメチル化を分析することによって評価される。別の一実施形態において、発現は、DNAの、ヒストンH3の9位又は27位のリシンのメチル化など、抑圧的な修飾を保有するクロマチンタンパク質との関連によって評価される。
【0088】
「タンパク質」の語は、ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質(タンパク質フラグメントを含む)を包含すると理解されたい。タンパク質は、グリコシル化でも、若しくは非グリコシル化でもよく、且つ/又はタンパク質に融合し、連結し、結合し、若しくは別の方法で会合しているある範囲の他の分子(例えば、アミノ酸、脂質、炭水化物、又は他のペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質)を含むことができる。本明細書における「タンパク質」に対する言及は、ある配列のアミノ酸、及び他の分子(例えば、アミノ酸、脂質、炭水化物、又は他のペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質)と会合しているタンパク質を含んでいるタンパク質を含む。
【0089】
「フラグメント」に対する言及は、対象の核酸分子又はタンパク質の部分に対する言及と理解されたい。本質的に不安定な分子が存在し、高レベルの酵素を発現する試料中でスクリーニングされ得るため、「フラグメント」は、変調されたRNAレベルについてのスクリーニングに関して特に関係がある。この場合、対象のRNAは、分解され、又は別の方法で断片化されている可能性がある。したがって、対象のRNA分子のフラグメントを実際に検出してもよく、このフラグメントは、適切に特異的なプローブの使用によって同定される。
【0090】
生物学的試料中で14−3−3ζタンパク質を評価する手段は、あらゆる適切な方法によって実現することができ、これは当業者であればよく知っている。この目的で、均質な細胞集団又は組織切片のいずれかを試験する程度まで、例えば、対象の1つ又は複数のマーカーの発現のレベルの非存在又は下方制御を検出するための、インサイチューハイブリダイゼーション、マイクロアッセイによる発現プロファイルの評価、イムノアッセイなど(本明細書以降により詳しく記載する)、広範囲の技術を利用することができることが理解される。しかし、不均質な細胞集団、又は不均質な細胞の集団が見出される体液(例えば、血液試料)をスクリーニングする程度まで、特定の細胞亜集団による14−3−3ζタンパク質の発現レベルにおける非存在又は低下は、試料中にやはり存在する細胞の他の亜集団による14−3−3ζタンパク質の固有の発現により、検出がより困難であり得る。即ち、細胞の亜群の発現レベルにおける低下は、検出できないことがある。この状況において、14−3−3ζタンパク質の発現レベルにおける低下を検出するより好適なメカニズムは、後成的な変化の検出など、間接的な手段によるものである。
【0091】
上記に詳述した通り、発生の間、遺伝子発現は、遺伝子配列におけるいかなる改変もなく様々な細胞系列における発現に対して遺伝子の利用能を改変するプロセスによって調節され、これらの状態は細胞分裂によって遺伝により受け継がれ得、即ち、後成的遺伝と呼ばれるプロセスである。後成的遺伝は、DNAメチル化(シトシンが修飾されて5−メチルシトシン、即ち5meCがもたらされる)の組合せによって、及びDNAをパッケージングするヒストン染色体タンパク質の修飾によって決定される。このように、CpG部位でのDNAのメチル化、及びヒストンH3の9位のリシン上の脱アセチル化などの修飾、及び9位又は27位のリシン上のメチル化は不活性なクロマチンに関連し、DNAメチル化、ヒストンH3の9位のリシンのアセチル化を欠く逆の状態はオープンのクロマチン及び活動性の遺伝子発現に関連する。
【0092】
様々な方法が、大過剰の正常なDNAの存在下でも、特定の遺伝子の異常にメチル化したDNAを検出するのに利用できる(Clark 2007)。このように、免疫組織化学による以外は、タンパク質レベル又はRNAレベルでは検出するのが困難であり得る遺伝子の発現の喪失は、遺伝子のプロモーターの過剰にメチル化したDNAの存在によって検出できることが多い。後成的な改変及びクロマチンの変化は、修飾されたヒストンの特定の遺伝子との改変された関連においても明らかであり(Esteller, 2007)、例えば、抑圧された遺伝子は、9位のリシン上で脱アセチル化され、メチル化されたヒストンH3と関連して見出されることが多い。改変されたヒストンを目的とする抗体を用いることで、特定のクロマチン状態に関連するDNAの単離、及び癌の診断における潜在的な使用が可能になる。
【0093】
遺伝子発現レベルの変化を検出する他の方法には、それだけには限定されないが、以下が含まれる:
(i)in vivoの検出
14−3−3ζタンパク質の改変された発現を明らかにすることが可能なイメージングプローブ、又は試薬の投与後に、分子イメージングを用いることができる。分子イメージング(Moore et al., BBA, 1402:239-249, 1988; Weissleder et al., Nature Medicine 6:351-355, 2000)は、エックス線、コンピュータ断層撮影法(CT)、MRI、ポジトロン放出断層撮影(PET)、又は内視鏡などの「古典的な」診断用イメージング技術を用いて現在可視化されているマクロフィーチャー(macro−feature)と相関する、分子発現のin vivoのイメージングである。
(ii)RNAスクリーニング
蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)による細胞中の、又は定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRTPCR)、若しくは競合的RT−PCR生成物のフローサイトメトリー定量などの技術による細胞からの抽出物中の、RNA発現の下方制御の検出(Wedemeyer et al., Clinical Chemistry 48:9 1398-1405, 2002)。
(iii)アレイ技術などによるRNAの発現プロファイルの評価(Alon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA: 96, 6745-6750, June 1999)。
【0094】
「マイクロアレイ」は、各々が、固体支持体の表面上に形成された、規定された面積を有する、好ましくは別々の領域の、直線状又は多次元のアレイである。マイクロアレイ上の別々の領域の密度は、単一の固相支持体の表面上で検出される標的のポリヌクレオチドの合計数によって決定される。本明細書で用いられるDNAマイクロアレイは、標的のポリヌクレオチドを増幅し、又はクローニングするのに用いられる、チップ又は他の表面上に配置される数多くのオリゴヌクレオチドプローブである。アレイにおけるプローブの各特定の群の位置は分かっているので、標的のポリヌクレオチドの同一性は、マイクロアレイにおける特定の位置に対する結合性に基づいて決定することができる。
【0095】
DNAマイクロアレイ技術における最近の発展により、単一の固相支持体上で複数の標的の核酸分子の大規模のアッセイを行うのが可能になっている。米国特許第5,837,832号(Cheeら)及び関連の特許出願は、試料中の特定の核酸配列をハイブリダイズし、且つ検出するための数多くのオリゴヌクレオチドプローブの固定化を記載している。対象の組織から単離した対象の標的のポリヌクレオチドは、DNAチップ、及び標的のポリヌクレオチドの優先度及び個々のプローブの位置でのハイブリダイゼーションの程度に基づいて検出された特定の配列にハイブリダイズする。アレイの重要な使用法の一つは、差動的な遺伝子発現の分析におけるものであり、しばしば対象の組織及び対照の組織である、異なる細胞又は組織における遺伝子発現のプロファイルを比較し、それぞれの組織間の遺伝子発現におけるあらゆる違いを同定する。このような情報は、特定の組織型において発現される遺伝子のタイプの同定、及び発現のプロファイルに基づく状態の診断に有用である。
【0096】
アレイは、ポリヌクレオチドマイクロアレイエレメントを行い、次いでこれらを表面と安定に関連させるなど、あらゆる便利な方法にしたがって生成することができる。或いは、オリゴヌクレオチドを、当技術分野において知られている通り、表面上で合成してもよい。多数の異なるアレイの配置及びアレイを製造するための方法が当業者には知られており、WO95/25116及びWO95/35505(フォトリソグラフィー技術)、米国特許第5,445,934号(フォトリソグラフィーによるインサイチュー合成)、米国特許第5,384,261号(機械的に指示された流路によるインサイチュー合成)、及び米国特許第5,700,637号(スポッティング、印刷、又はカップリングによる合成)に開示されており、これらの開示はその全文が参照によって本明細書に組み入れられる。DNAをビーズにカップリングするための別の一方法は、DNAの末端に付着している特異的なリガンドを用いて、ビーズに付着しているリガンド結合分子に連結させる。可能なリガンド−結合性パートナー対には、ビオチン−アビジン/ストレプトアビジン対、又は様々な抗体/抗原対、例えば、ジゴキシゲニン−抗ジゴキシゲニン抗体が含まれる(Smith et al., Science 258:1122-1126 (1992))。支持体に対するDNAの共有結合性の化学的付着は、DNA上の5’−ホスフェートを、コーティングした微粒子に対して、ホスホアミデート(phosphoamidate)結合によって連結する標準のカップリング剤を用いて達成することができる。オリゴヌクレオチドを固体状態の基体に固定化するための方法は十分に確立されている。Pease et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91(11):5022-5026 (1994)を参照されたい。オリゴヌクレオチドを固体状態の基体に付着させる好ましい方法は、Guo et al., Nucleic Acids Res. 22:5456-5465 (1994)によって記載されている。固定化は、インサイチューDNA合成によって(Maskos and Southern, Nuc. Acids Res. 20:1679-84, 1992)、又はロボットのアレイ技術と組み合わせた、化学合成したオリゴヌクレオチドの共有結合性の付着によって(Guo et al., supra)のいずれかで達成することができる。
【0097】
バイオチップアレイによって代表される固相技術の他に、遺伝子発現を、液相アレイを用いて定量化することもできる。このようなシステムの一つに、キネティックポリメラーゼ連鎖反応(PCR)がある。キネティックPCRにより、特定の核酸配列を同時に増幅及び定量するのが可能になっている。特異性は、標的部位を挟む一本鎖核酸配列に対して優先的に接着するようにデザインされた合成のオリゴヌクレオチドプライマーに由来する。このオリゴヌクレオチドプライマーの対は、標的配列の各鎖上に、特異的な、非共有結合性に結合する複合体を形成する。これらの複合体は、二本鎖DNAのin vitroの転写を、反対の配向性で促進する。反応混合物の温度を循環させることで、プライマーの結合、転写、及び核酸の個々の鎖への再融解の連続的なサイクルが作り出される。その結果、標的のdsDNA生成物が指数関数的に増加する。この生成物を、インターカレーション色素、又は配列特異的なプローブいずれかの使用によって、リアルタイムで定量することができる。dsDNAに優先的に結合し、蛍光シグナルの同時の増大をもたらす、インターカレーション色素の一例はSYBR(r)グリーン1である。TaqMan法で用いられるものなどの配列特異的なプローブは、オリゴヌクレオチドの反対の末端に対して共有結合性に結合する蛍光色素及び消光性の分子からなる。プローブは、2つのプライマー間の標的のDNA配列に選択的に結合するようにデザインされている。PCR反応の間にDNA鎖が合成される場合、蛍光色素は、ポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性によってプローブから切断され、シグナルの脱消光をもたらす。プローブシグナル伝達法は、インターカレーション色素法よりも特異的であり得るが、いずれの場合も、シグナル強度は、生成されるdsDNA生成物と比例する。各タイプの定量方法をマルチウエルの液相アレイにおいて用いることができ、各ウエルは、対象の核酸配列に特異的なプライマー及び/又はプローブを表す。組織又は細胞系のメッセンジャーRNA調製品と一緒に用いる場合、多数のプローブ/プライマー反応により、複数の対象の遺伝子生成物の発現を同時に定量することができる。Germer et al., Genome Res. 10:258-266 (2000); Heid et al., Genome Res. 6:986-994 (1996)を参照されたい。
【0098】
(iv)免疫アッセイなどによる、細胞抽出物中の改変された14−3−3ζタンパク質レベルの測定
生物学的試料中のタンパク質の腫瘍マーカー発現生成物に対する試験を、当業者にはよく知られている数々の適切な方法の任意の1つによって行うことができる。適切な方法の例には、それだけには限定されないが、組織切片、生検検体、又は体液試料の抗体スクリーニングが含まれる。抗体ベースの診断方法が用いられる程度まで、タンパク質の存在を、ウエスタンブロット、ELISA、又はフローサイトメトリー法によるなど、数々の方法において決定することができる。これらには、勿論、非競合型の、及び伝統的な競合結合アッセイにおける、一部位(single−site)及び二部位(two−site)の両方、又は「サンドイッチ」アッセイが含まれる。これらのアッセイにはまた、標識された抗体を標的に対して直接結合することも含まれる。
【0099】
サンドイッチアッセイは有用な、且つ一般的に用いられるアッセイである。サンドイッチアッセイ法には数々の変形が存在し、全てが本発明によって包含されるものとされる。簡潔に述べると、典型的なフォワードアッセイにおいて、非標識の抗体を固体の基体上に固定化し、試験する試料を、結合している分子と接触させる。適切な期間のインキュベーションの後、抗体−抗原複合体を形成させるのに十分な期間、抗原に特異的な第2抗体を、検出可能なシグナルを生成することができるレポーター分子で標識し、次いで、添加し、抗体−抗原標識した抗体の別の複合体を形成させるのに十分な時間インキュベートする。非反応のあらゆる材料を洗い流し、レポーター分子によって生成されたシグナルを観察することによって、抗原の存在を決定する。結果は、可視のシグナルを単に観察することにより、定性的であってよく、又は対照の試料と比較することによって定量的であってよい。フォワードアッセイに対する変形には同時アッセイが含まれ、同時アッセイでは試料及び標識した抗体の両方が、結合した抗体に同時に添加される。これらの技術は、容易に明らかである通りあらゆる小さな変形も含め、当業者にはよく知られている。
【0100】
典型的なフォワードサンドイッチアッセイにおいて、マーカー又はその抗原部分に対する特異性を有する第1抗体は、固体表面に、共有結合性に、又は受動的に、いずれかで結合している。固体の表面はガラス又はポリマーであるのが典型的であり、最も一般的に用いられるポリマーはセルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、又はポリプロピレンである。固体支持体は、チューブ、ビーズ、マイクロプレートのディスク、又はイムノアッセイを行うのに適するあらゆる他の表面の形態であってよい。結合プロセスは当技術分野においてよく知られており、一般的に、架橋、共有結合、又は物理的吸着からなり、試験試料の調製において、ポリマー−抗体複合体を洗浄する。試験する試料のアリコートを、次いで、固相の複合体に加え、十分な時間(例えば、2〜40分)、及び適切な条件下(例えば、25℃)、インキュベートして、抗体中に存在するあらゆるサブユニットを結合させる。インキュベーション時間の後、抗体サブユニットの固相を洗浄し、乾燥させ、抗原の部分に特異的な第2抗体とインキュベートする。第2抗体を、抗原に対する第2抗体の結合を示すのに用いられるレポーター分子に連結させる。
【0101】
代替の一方法は、生物学的試料中の標的分子を固定化し、次いで、固定化した標的を、レポーター分子で標識してあっても、又はしてなくてもよい、特異的な抗体に暴露することを含む。標的の量及びレポーター分子のシグナルの強度に応じて、結合している標的は、抗体で直接標識することによって検出可能であり得る。或いは、第1抗体に特異的である標識した第2抗体を、標的−第1抗体の複合体に暴露して、標的−第1抗体−第2抗体の三次複合体を形成させる。この複合体を、レポーター分子によって放出されるシグナルによって検出する。
【0102】
本明細書で用いられる「レポーター分子」は、その化学的性質により、抗原結合した抗体の検出を可能にする、分析的に同定可能なシグナルを提供する分子を意味する。検出は、定性的でも、又は定量的でもよい。このタイプのアッセイにおいて最も一般的に用いられるレポーター分子は、酵素、フルオロフォア、又は放射性核種含有分子(即ち、放射性同位元素)のいずれか、及び化学発光分子である。
【0103】
エンザイムイムノアッセイの場合、酵素が、一般的にグルタルアルデヒド又は過ヨウ素酸塩によって、第2抗体にコンジュゲートしている。しかし、容易に理解される通り、当業者であれば容易に入手できる、広範囲の様々なコンジュゲーション技術が存在する。一般的に用いられる酵素には、数ある中で、西洋ワサビのペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、及びアルカリホスファターゼが含まれる。特異的な酵素と一緒に用いられる基質は、一般的に、対応する酵素による加水分解時の、検出可能な色の変化の、生成に選択される。適切な酵素の例には、アルカリホスファターゼ及びペルオキシダーゼが含まれる。上記で注目した色素生産性の基質よりもむしろ、蛍光生成物を産生する蛍光発生的な基質を使用することも可能である。いずれの場合でも、酵素標識した抗体を、第1抗体のハプテン複合体に加え、結合させ、次いで過剰の試薬を洗い流す。次いで、好適な基質を含んでいる溶液を、抗体−抗原−抗体の複合体に加える。基質は、第2抗体に連結している酵素と反応し、定性的な可視シグナルをもたらし、このシグナルを、通常は分光光度計でさらに定量して、試料中に存在していた抗原の量を示す値を得る。「レポーター分子」はまた、例えば、ラテックスビーズ上の赤血球など、細胞の凝集又は凝集の阻害の使用に拡張する。
【0104】
或いは、フルオレセイン及びローダミンなどの蛍光化合物を、その結合能力を改変せずに、抗体に化学的にカップリングしてもよい。特定の波長の光線で照射することにより活性化すると、蛍光色素で標識した抗体は光エネルギーを吸着し、分子において状態を興奮性に誘発し、その後光学顕微鏡で肉眼的に検出できる特徴的な色彩の光線を放射する。EIAにおけるのと同様、蛍光標識した抗体を第1抗体−ハプテン複合体に結合させる。非結合の試薬を洗い流し、次いで残りの三次複合体を好適な波長の光線に暴露した後、蛍光が観察されれば対象のハプテンの存在を示す。免疫蛍光法及びEIA法は両方とも、当技術分野において極めて十分に確立されており、本発明の方法に特に好ましい。しかし、放射性同位元素、化学発光分子、又は生物発光分子などの他のレポーター分子も使用することができる。
【0105】
(v)上記のポイント(iv)において詳述したものに加えて、あらゆる適切な機能試験、酵素試験、又は免疫学的試験に基づいた改変されたタンパク質発現の決定。
(vi)14−3−3ζタンパク質/DISC1複合体の形成に対してスクリーニングする程度まで、1つ又は他の分子を固体支持体上に固定化し、次いで固定化した標的を生物学的試料に暴露し、複合体形成についてスクリーニングすることを含めた、様々な方法を用いることができる。このようなスクリーニング技術は、概ね、上記したものである。同時免疫沈降法も利用することができ、便利である。或いは、バイオコア(biocore)タンパク質相互作用システムを用いることができる。
【0106】
上記に詳述した通り、当業者であれば、Nedl1及びLIS1も機能的な複合体の形成に関与することから、複合体形成を検出するためのアッセイのデザインには、DISC1及び14−3−3ζタンパク質以外の分子を含めることを必要とし得ることが理解されよう。このようなアッセイのデザインは、当業者の技術の範囲内に十分ある。
【0107】
このようなタイプのスクリーニング方法の状況において、これらの利点は、14−3−3ζタンパク質分子又はDISC1分子のいずれか、又は両方中に存在し得る欠陥の性質を必ずしも知る必要がないことであることが理解されよう。むしろ、複合体形成又は同時免疫沈降の発生又は非発生について単にスクリーニングすることから、欠陥の同一性は無関係になる。
【0108】
本発明の関連の一態様は、14−3−3ζタンパク質の遺伝子発現がノックアウトされている非ヒトの哺乳動物を提供する。このような動物の開発は、統合失調症の表現型など、神経精神学的障害の発症及び進行を変調し得る、治療上及び/又は予防上有効なタンパク質又は非タンパク質分子についてのスクリーニング及び分析を促進する。この開発は、現在では、とりわけ、統合失調症の発症に関連する14−3−3ζタンパク質の機能的役割を研究し、予防的処置及び/又は治療的処置のレジメンを合理的にデザインするための極めて価値のある手段を提供するものである。
【0109】
したがって、本発明の別の一態様は、14−3−3ζタンパク質をコードする遺伝子が欠失している、機能的14−3−3ζタンパク質の欠損した非ヒト哺乳動物を対象とする。
【0110】
「表現型」の語は、生物体の遺伝子型の、生物体が存在する環境との相互作用によって決定される、動物の、機能上及び構造上の特徴、又はあらゆる特定の特徴若しくは特徴のセットの全体性に対する言及と理解されたい。本発明の状況において、対象の表現型は、統合失調症の発症、統合失調症の発症に対する素因、又は統合失調症に付随する1つ若しくは複数の症状の発症/発症に対する素因である。この表現型を、本明細書において「統合失調症の表現型」と呼ぶ。
【0111】
前記非ヒト哺乳動物がマウスであるのが好ましい。
【0112】
本発明は、上記した14−3−3ζノックアウトを含む細胞及び細胞系も提供することを理解されたい。これらの細胞/細胞系は、あらゆる適切な供給源に由来することができ、又はあらゆる適切な手段によって産生することができる。
【0113】
本発明の、哺乳動物(本明細書において「14−3−3ζノックアウト」と呼ぶ)の開発は、現在では、それだけには限定されないが、14−3−3ζタンパク質機能性若しくは14−3−3ζ/DISC1複合体形成を模倣し、又は別の方法でこれら哺乳動物の統合失調症表現型の症状を改善する薬剤を同定するためのスクリーニング方法を含めた広範囲の高度に有用な適用を促進する。
【0114】
したがって、本発明のなお別の一態様は、14−3−3ζノックアウト非ヒト動物に推定上の変調薬を投与し、改変された表現型に対してスクリーニングすることを含む、14−3−3ζタンパク質機能性、若しくは14−3−3ζ/DIAC1複合体形成を模倣し、又は別の方法で統合失調症表現型の症状を改善する薬剤についてのスクリーニング方法を対象とする。
【0115】
「薬剤」に対する言及は、融合タンパク質、又は、例えば、以下の天然生成物のスクリーニングを含み、本発明の目的を達成する、天然の、組換えの、又は合成の供給源に由来する、あらゆるタンパク質の分子、又は非タンパク質の分子に対する言及と理解されたい。前記薬剤の合成の供給源には、例えば、化学合成された分子が含まれる。他の例において、ファージディスプレイライブラリーを、ペプチドに対してスクリーニングすることができ、化学ライブラリーを、既存の小分子に対してスクリーニングすることができる。
【0116】
一例として、ランダムコンビナトリアルのペプチドライブラリー又は非ペプチドライブラリーなどの多様性ライブラリーをスクリーニングすることができる。化学合成されたライブラリー、組換えライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリー)、及びin vitroの翻訳ベースのライブラリーなど、多くの公的に入手できる、又は市販されているライブリーを用いることができる。
【0117】
化学合成されたライブラリーの例は、Fodor et al. PNAS USA 91:11422-26 (1991); Houghten et al. Nature 354:84-88 (1991); Lam et al. Nature 354:82-84 (1991); Medynski, Bio/Technology 12:709-710 (1994); Gallop et al. J. Medicinal Chemistry 37(9):1233-1251 (1994); Ohlmeyer et al. PNAS USA 91:9022-9026 (1993); Erb et al. PNAS USA 91:11422-26 (1994); Houghten et al. Biotechniques 13(3):412-421 (1992); Jayawickreme et al. PNAS USA 91:1614-1618 (1994); Salmon et al. PNAS USA 90:11708-11712 (1993);国際特許公開第WO 93/20242号;及び Brenner and Lerner, PNAS USA 89:5381-3 (1992)に記載されている。
【0118】
ファージディスプレイライブラリーの例は、Scott and Smith, Science 249:386-390 (1990); Devlin et al. Science 249:404-406 (1990); Christian et al. J. Mol. Biol. 227:711-718 (1992); Lenstra, J. Immun. Methods 152:149-157 (1992); Kay et al. Gene 128:59-65 (1993)、及び国際特許公開第WO 94/18318号によって記載されている。
【0119】
in vitroの翻訳ベースのライブラリーには、それだけには限定されないが、Mattheakis et al. PNAS USA 91:9022-9026 (1994)に記載されているものが含まれる。
【0120】
何らかの方法で本発明を限定するものではないが、試験化合物は巨大分子、例えば、ポリペプチド、多糖、及び核酸を含めた生物重合体であってよい。潜在的な治療薬として有用な化合物は、当業者にはよく知られている方法によって産生することができ、例えば、化学的分子又は生物学的分子(例えば、単一の若しくは複合体の有機分子、金属含有化合物、炭水化物、ペプチド、タンパク質、ペプチドミメティクス、糖タンパク質、リポタンパク質、核酸、抗体など)を含めた複数の化合物を生成するためのよく知られている方法は当技術分野においてよく知られており、例えば、Huse, U.S. Patent No. 5,264,563; Francis et al., Curr. Opin. Chem. Biol., 2:422-428 (1998); Tietze et al., Curr. Biol., 2:363-381 (1998); Sofia, Molecule. Divers., 3:75-94 (1998); Eichler et al., Med. Res. Rev. 15:481-496 (1995)などにおいて記載されている。多数の天然化合物及び合成化合物を含むライブラリーも、市販の供給源から得ることができる。分子のコンビナトリアルライブラリーは、よく知られているコンビナトリアル化学方法を用いて調製することができる(Gordon et al., J. Med. Chem. 37:1233-1251 (1994); Gordon et al., J. Med. Chem. 37:1385-1401 (1994); Gordon et al., Acc. Chem. Res. 29:144-154 (1996); Wilson and Czarnik, eds., Combinatorial Chemistry: Synthesis and Application, John Wiley & Sons, New York (1997))。
【0121】
「改変された発現表現型」の検出に対する言及は、14−3−3ζ機能の変調に関連するあらゆる形態の変化の検出と理解されたい。これらは、例えば、細胞内変化として、細胞外で観察される変化として(例えば、下流生成物のレベル若しくは活性における変化の検出)、又は非ヒト哺乳動物対象の表現型/状態における変化として検出可能であり得る。例えば、本発明の14−3−3ζノックアウトマウスに対して薬剤を投与した後、
(i)歩行機能試験、
(ii)物体認識試験、
(iii)高架式交差バー(elevated cross bar)試験、
(iv)回避水迷路試験、又は
(v)PPI試験
などの、例1において記載する行動アッセイの1つ又は複数を行うことができる。
【0122】
行動レベルで観察される表現型の変化を確証し、又は別の方法でさらに検討するのに、より詳しい分子試験を行うことが求められる場合、細胞レベル又は分子レベルで行われるより詳しい分析を可能にするために、細胞又は組織を対象のノックアウト動物から収集することができる。或いは、これらの動物から産生された細胞系を試験してもよい。
【0123】
本発明のこれらの態様は、14−3−3ζ機能の障害を表す個体の統合失調症の表現型を変調する新規な薬剤に対してスクリーニングする手段を提供するだけでなく、この群の患者の状況における既存の処置レジメンの利点/副作用を評価する手段も提供するものであることを理解されたい。
【0124】
本発明を、以下の非限定的な実施例を参照することによってさらに記述する。
【実施例】
【0125】
(例1)
材料と方法
マウス
Geoレポーター遺伝子を含む遺伝子トラップ構築物を保有する14−3−3ζGt(OST062)Lex及び14−3−3ζGt(OST390)Lex変異マウスは、それぞれLexicon Genetics ES細胞系OST062及びOST390に由来するものであった。14−3−3ζGt(OST062)Lexマウスにおける遺伝子トラップベクターを14−3−3ζの第1のイントロンに挿入し、14−3−3ζGt(OST390)Lexマウスにおける遺伝子トラップベクターを14−3−3ζES細胞系の第2のイントロンに挿入し、増幅し、SV129の胚盤胞に注入した。得られた生殖系列伝達性のオスを、SV129のバックグラウンドにおいて維持するか、又はC57/B16及びBA1、BCバックグラウンドに6世代にわたって戻し交配した。全組織試料からのqRT−PCR及びウエスタンブロットを用いて、これらのマウス系統における遺伝子の完全なKOを確認した。14−3−3C遺伝子型を、補足の表1において詳述したプライマーを用いて、ゲノムテイルのDNAのPCR増幅によって決定した。WTアレルは288bp(14−3−3ζGt(OST062)Lex)又は445bp(14−3−3ζGt(OST390)Lex)のバンドを増幅し、アレルを捕捉した変異遺伝子は165bp(14−3−3ζGt(OST062)Lex)又は203bp(14−3−3ζGt(OST390)Lex)のバンドを増幅した。マウスを、WT同腹仔と表現型が識別不能であるヘテロ接合性の交配対として維持した。動物実験は、医学及び獣医学研究所(Institute of Medical and Veterinary Sciences)及びアデレード大学の動物倫理委員会(Animal Ethics Committee)のガイドラインにしたがって行った。
【0126】
行動アッセイ
全ての手順を、午前8時から午後12時までの間、通常の光線条件下で行った。行動性の表現型付け(phenotyping)を、以前に記載されている通りに行った(Coyle et al. Behav Brain Res 2009, 197(1): 210-218; Summers et al. Pediatr Res 2006; 59(1): 66-71; van den Buuse et al. Int J Neuropsychopharmacol 2009; 12(10):1383-1393)。1コホートのマウスを、5週齢、10週齢、20週齢、及び40週齢の時間点でオープンフィールド試験に用いた。1コホートのマウスを、12週齢で空間作業記憶に用い、次いで高架式十字迷路及び物体認識タスクに用いた。別の1コホートのマウスを、12週齢でPPIに用いた。
【0127】
歩行運動機能試験
マウスの探査活動及び不安レベルを、床を15の正方形(9cm×10cm)に分割したボックス(50cm×27cm)から作成したオープンフィールドにおいて測定した。各マウスを、右上の角に面する同じ位置のボックスに導入した。マウスの行動を3分間観察し、歩行運動活動を、横断した線の尺度として(即ち、マウスが4本の足全てを1つの四角形から別の四角形に動かしたとき)スコア付けした。マウスが両方の前足を床から離した場合は、後ろ足立ちの数をスコア付けした。セッションの合間に尿及び糞便を除去し、ボックスを80%エタノールで徹底的に清浄にしてあらゆる残存する匂いを除去した。
【0128】
物体認識試験
物体認識タスクは、マウスが生まれつき新奇なものに親しみを持つことを利用するものであり、以前に見た(馴染みのある)物体を認識するマウスは、新奇な物体を探索するのにより時間を費やす(Dere et al. Neurosci Biobehav Rev 2006; 30(8):1206-1224; Sik et al. Behav Brain Res 2003; 147(1-2):49-54)。簡潔に述べると、装置は、敷き藁を満たしたプラスチック製のアリーナ(長さ:50cm、幅:35cm、深さ:20cm)からなる。異なる2セットの物体:黄色の蓋をしたプラスチック製ジャー(高さ、6cm;ベース直径、4.3cm)及び赤色プラスチック製の球体(長さ:8cm、幅:4cm)を用いた。マウスは、配置されたアリーナ内の位置に関係なく、これらの物体の両方を提示すると等しい時間を費やした(データは示さず)。空間学習及び記憶に対して試験した、12週齢の同じコホートのマウスを、物体認識記憶に対して評価した。各マウスに、試験用のボックスを探索するのに5分与え、マウスを試験アリーナに慣らすためのいかなる物体も存在しなかった。マウスは、2つの試験からなる試験セッションを経験した。各試験の持続時間は3分であった。第1の試験の間(サンプル段階)、ボックスは同じ物体2つを含み(a、サンプル)、これら物体はボックスの北西(左)及び北東(右)の角に(壁から5cm離して)置かれた。マウスは常に、装置中に南の壁に面して配置した。第1の探索期間後、マウスを、ホームケージ中に戻した。15分の記憶保持インターバル後、マウスを第2の試験に装置中に配置した(選択段階)が、今度は馴染みのあるもの(a、サンプル)及び新奇な物体(b)と一緒に配置した。物体は、セッションの間にアルコールで徹底的に清浄にして、あらゆる残存する匂いを除去した。試験1及び試験2の間に各物体を探索するのに費やした時間を記録した。探索は、物体に鼻で触れること又は物体から2cm以内にいることのいずれかと定義した。物体認識タスクにおける基本的な尺度は、試験1及び試験2の間に物体を探索するのに費やした時間であった。試験の間にいくつかの変数を測定した:e1(a+a)及びe2(a+b)はそれぞれ、試験1及び試験2の間に両方の物体を探索する合計時間の尺度である。h1は、試験1から試験2までの探索時間の合計における差によって測定した慣れの指標である(e1−e2)。d1(b−a)及びd2(d1/d2)は、新奇な物体と馴染みのある物体との間を識別する指標の尺度とみなした。このように、d2は、探索行動に対してd1を補正する識別の相対的尺度である(e2)。識別の指標がゼロを超えると、動物が馴染みのある物体よりも新奇な物体を探索することを示す。動物がいずれの物体も好まなければ、指標はゼロに近くなる。サンプル段階又は選択段階における試験の間に探索時間の合計が7秒未満であるマウスは、探索時間の測定値がこの閾値未満では信頼できないことが見出されたため、分析から除外した(van den Buuse et al. supra; de Bruin et al. Pharmacol Biochem Behav 2006; 85(1):253-260)。
【0129】
高架式交差バー試験
オープン且つ高架の領域をマウスが生まれつき嫌悪することに基づく、マウスの不安行動を、先に記載した通り、高架式十字迷路を用いて評価した(Komada et al. J Vis Exp 2008; (22); Walf et al. Nat Protoc 2007; 2(2):322-328)。簡潔に述べると、十字架の形状の装置を黒色プレキシガラスから作成し、装置は中央で相互に垂直に交差する2本のオープンアーム(25cm×5cm)及び2本のクローズドアーム(25cm×5cm×16cm)からなっていた。アームの中央には中央プラットフォーム(5cm×5cm)が存在した。交差迷路は地面から1mの高さであった。個々のマウスを、実験者に対して反対側のオープンアームに面した装置の中央に導入し、5分間ビデオ撮影によって観察した。オープンアーム及びクローズドアームに侵入した数、及び両タイプのアームを探索した時間をスコア付けした。頭を漬けた数、立ち上がりの数、及び伸展姿勢をとった数などの自然に似せた行動をとったマウスを測定した。各試験後、全アーム及び中央エリアをアルコールで徹底的に清浄にして、あらゆる残存する匂いを除去した。
【0130】
回避水迷路試験
空間学習及び記憶を、先に記載した通り、交差迷路回避タスクを用いて評価した(Coyle et al. 2009, supra)。交差迷路は、透明プラスチック(長さ、72cm;アーム寸法、長さ26cm×幅20cm)でできており、23Cに維持した水の円形プール(直径1m)中に配置した。粉ミルクを水に混ぜて、迷路の遠位の北アーム中に配置した、水浸した(水面下0.5cm)回避用プラットフォームを隠した。プールを、黒色のプラスチック製の壁(高さ、90cm)によって囲んだ。一定の空間手がかりを迷路の各アームに、並びに訓練及び試験手順の間南端に常に立っていた実験者のそばに並べた。12週齢のマウスを、回避用プラットフォームのないプール中に配置し、60秒間泳がせることによって、個々に迷路環境に慣らした。学習試験を、6日の訓練期間にわたって行い、その期間、マウスは、回避用プラットフォームを含まない他の3本の(東、南、西)アームから、浸漬された回避用プラットフォームの位置を学習することを求められた。各マウスに1日6回試験を行い(2ブロック3回の試験を30分の休憩によって分割した)、試験では3本のアームの各々を、無作為化したパターンにおける出発点として選択した(1日2回)。各試験に対して、マウスを、壁に面するアームの遠位端に配置し、60秒間回避用プラットフォームに到達させ、マウスはプラットフォームに10秒間とどまった。所与の時間に回避用プラットフォーム上に上らなかったマウスを、プラットフォームに10秒間配置した。次いで、マウスをケージ中に10秒間配置し、引き続き試験を続行した。マウスを、学習段階の間同じ位置に配置された回避用プラットフォームの位置の長期間の記憶保持に対して評価した。学習の最終日の14日後(M1)及び28日後(M2)、記憶を試験し、学習期間に関して記載した通り単一日6回の試験からなっていた。マウスの回避潜伏期(即ち、プラットフォームまで泳ぐのにかかった時間(秒))、正しい試験の数(即ち、マウスが第1のアームの侵入でプラットフォームを見つけた場合)、及び不正確な侵入/再侵入の数(即ち、マウスが、回避用プラットフォームを含まないアーム中に入った回数)に対して、各試験に対する各マウスのデータを記録した。
【0131】
PPI試験
驚愕、驚愕慣れ、及び驚愕のPPIを、以前に記載されている通りに(van den Buuse et al. 2009 supra)、8単位の自動化システム(SR−LAB、San Diego Instruments、米国)を用いて評価した。簡潔に述べると、マウスを、いずれかの側面上が塞がれており、音響刺激がボックスの天井にあるスピーカーを通して70dBのバックグラウンドノイズを超えて送達される、透明なプレキシガラス製の円柱に配置した。各試験セッションは104回の試験からなり、試験間のインターバルの平均は25秒の間であった。最初と最後の8回の試験は、単一の40m秒115dBパルス単独の驚愕刺激からなっていた。中間の88回の試験は、115dBパルス単独の刺激の疑似ランダム送達16回、その間刺激が送達されなかった試験8回、及びプレパルス試験64回からなっていた。115dBパルス単独の試験合計32回は、4ブロック8回として表現し、驚愕慣れを決定するのに用いた。プレパルス試験は、30m秒又は100m秒の刺激間間隙(ISI)が先行する115dBパルス単一からなり、70dBのベースラインを上回る2dB、4dB、8dB、又は16dB非驚愕性の刺激20m秒であった。プラットフォームの真下に付着させた圧電型加速度計ユニットによって、全身驚愕反応を定量値に変換した。プレパルス阻害パーセント値(%PPI)を、パルス単独の驚愕反応−プレパルス+パルスの驚愕反応/パルス単独の驚愕反応×100として算出した。
【0132】
統計学的分析
統計学的計算は全て平均値±SEMとして表し、SAS Version9.2(SAS Institute Inc.、Cary、NC、米国)を用いて行った。オープンフィールドデータに対して、線形混合効果モデル(linear mixed effects model)を用いて、横断した線の数をWT及び変異群にわたって経時的に比較した。無作為マウス効果(random mouse effect)が、同じマウスからの繰返し観察における依存を説明するために、モデルに含まれた。高架式交差バーからのデータを、WTと変異体との間で、独立したサンプルのt検定を用いて比較した。水交差迷路試験に対して、コックス比例ハザードモデルを用いて、回避の潜伏期を2つの処置群間で経時的に比較した。同じマウスに対して反復測定したことから、ロバスト分散(Robust variance)の推定を、結果における依存に対して調節するためのモデルにおいて用いた。モデル群において(WT又はKO)、時間(1日目から6日目)及び群と時間との間の相互作用を予測変数として入力した。回避潜伏期は、マウスが未だに出口を見つけない場合は30秒で右側打切りとみなした。本発明者らの試験において、回避潜伏期間を30秒で打ち切った動物があまりにも多く存在したため、結果は正常に分布しているとして扱うことができなかった。したがって、線形混合効果モデルを用いるのは実現可能ではなかった。不正確な侵入を、WTと変異群との間で、及び経時的に、負の二項回帰モデルを用いて比較した。モデル群において(WT又はKO)、時間(1日目から6日目)及び群と時間との間の相互作用を予測変数として入力した。同じマウスに対する反復測定による結果における依存を説明するのに、一般化した推定式を用いた。PPI試験からのデータを、反復測定の2元配置の分散分析(ANOVA)を用いて比較した(Systat、version 9.0、SPSSソフトウエア;SPSS Inc.、米国)。この分析では、群間の因子は遺伝子型であり、群内では、反復測定因子はプレパルス強度及び驚愕阻止であった。全ての試験において、ap値<0.05を統計学的に有意とみなした。
【0133】
免疫組織化学
切片を、PBST(0.1M PBS、0.3% Triton X−100、1%BSA)中10%非免疫ウマ血清中、室温(RT)で1時間ブロックし、引き続き一次抗体とRTで一夜インキュベートした。一次抗体及び希釈:14−3−3ζに対するウサギポリクローナル(1:200)(Guthridge et al. Blood 2004; 103(3):820-827)、0−チューブリンに対するウサギポリクローナル(1:250、Sigma)、カルビンジン−D28Kに対するウサギポリクローナル(1:1000、Chemicon)、NeuNに対するマウスモノクローナル(1:500、Chemicon)、シナプトフィジンに対するウサギポリクローナル(1:100、Cell Signaling)。翌日、切片を、二次抗体とRTで1時間インキュベートした。0.1M PBSで3回洗浄後、切片を、DAPI含有Prolong(登録商標)Goldアンチフェード試薬(Molecular Probes)中、搭載した。
【0134】
BrdUパルスチェイス分析及びTUNEL標識化
14.5dpc又は16.5dpcの妊娠マウスに、100μg/g体重のBrdUを注射し、仔マウスを生後7日に安楽死させた。これらの時間点に生まれた増殖性の海馬ニューロンの最終目的地が、凍結脳切片上BrdU免疫組織化学によって明らかにされた。組織を、37℃で20分間、2M HClで変性させ、0.1Mホウ酸バッファー(pH8.5)中で10分間中和し、PBST中10%ウマ血清でブロックし、4℃で一夜、ラットモノクローナル抗BrdU(1:250;Abcam)及びマウスモノクローナル抗NeuN(1:500;Chemicon)抗体でプローブした。細胞のアポトーシスを、製造元の指示にしたがってIn Situ Cell Death Detection Kit(TMR Red;Roche Applied Science)を用い、その後DAPI(Molecular Probes)で対比染色するTUNELアッセイによって決定した。
【0135】
免疫沈降
タンパク質抽出物全てを、150mM NaCl、10mM Tris−HCl(pH7.4)、10%グリセロール、1% Nonidet P−40、並びにプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害物質(1mlあたりアプロチニン10mg、1mlあたりロイペプチン10mg、2mMフェニルメチルスルホニルフルオリド、及び2mMバナジン酸ナトリウム)からなるNP40可溶化バッファー中で溶解することによって調製した。試料を4Cで60分間可溶化し、次いで10000gで15分間遠心分離した。上清を、マウスIgとカップリングさせたセファロースビーズで、4Cで30分間予め清澄にした(precleared)。予め清澄にした可溶化液を、プロテインA−セファロース(Amersham Biosciences)に吸収させた抗DISC1抗体(C−term)(Invitrogen)又は抗14−3−3抗体(3F7 Abcam)のいずれか2ug/mlと4Cで2時間インキュベートした。セファロースビーズを可溶化バッファーで3回洗浄した後、SDS−PAGEサンプルバッファー中で5分間煮沸した。免疫沈降したタンパク質及び可溶化物をSDS−PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜に電気泳動で移動させ、イムノブロットによって分析した。
【0136】
イムノブロット
膜を、1:1000の抗14−3−3ζEB1 pAb(Guthridge et al. 2004 supra)、又は1ug/mlの抗DISC1(C−term)(Invitrogen)のいずれかでプローブした。脳組織からの14−3−3ζを分析するために、(β−アクチン(1:5000、Millipore)に対するウサギポリクローナルをローディング対照として用いた。結合した抗体を、HRPコンジュゲートした二次抗体(1:20000、Pierce−Thermo Scientific)で検出した。免疫反応性タンパク質を、ECL(Luminescent Image Analyzer LAS−4000、富士フィルム、日本)によって可視化した。画像を、Multi Gauge Ver3.0(富士フィルム、日本)で分析した。
【0137】
神経細胞培養物
P7海馬ニューロン−グリア同時培養物を、記載されている通りに(Kaech et al. Nat Protoc 2006, 1(5):2406-2415)調製した。硝酸処理したカバーガラス(直径13mm)を、37℃で一夜、ホウ酸バッファー中100μg/mlポリ−L−リシン/PLL(Sigma)でコーティングし、次いで滅菌水で3×1時間洗浄した。歯状回及びCAの試料を細切し、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中で解離し、ニューロンを培養皿(4PLLコーティングしたカバーガラス付き)1枚あたり1×10細胞の密度で塗抹した。神経突起の成長アッセイに対して、培養物を、in vitroで7日間及び14日間インキュベートした。細胞を、4%PFA中、1時間固定し、PBST(0.1M PBS、0.1%Triton X−100、1%BSA)中10%非免疫ウマ血清中、室温(RT)で1時間プレインキュベートし、マウスモノクローナルMAP2(1:200、Millipore)及び14−3−3ζ(1:1000)に対する一次抗体と4℃で一夜インキュベートした。カバーガラスを、次いで、対応する二次抗体とRTで1時間インキュベートした。カバーガラスに、抗フェード(anti−fade)DAPI(Molecular Probes)を搭載した。
【0138】
結果
14−3−3ζ変異マウスは行動及び認知の欠陥を示した
14−3−3タンパク質は、発生中の、及び成体の脳において大量に発現される(Berg et al. Nat Rev Neurosci 2003; 4(9):752-762; Baxter et al. Neuroscience 2002; 109(1):5-14)。神経発生及び生成される脳機能における14−3−3ζの役割を確認するために、2つのノックアウトマウス系統を、イントロン1又は2の内部にレトロウイルスの遺伝子トラップ挿入を含んでいる胚性幹細胞クローンから産生し、それぞれ14−3−3及び14−3−3ζGt(OST390)Lexと呼んだ(図8;Lexicon Genetics)。ヘテロ接合性の異種交配からの胎仔及び成体の脳組織に対する、定量的RT−PCR及びウエスタンブロットにより、遺伝子トラップベクターは遺伝子の転写を破壊し、ヌルアレルを作り出したことが確認された(図9)。これらの変異系を14−3−3ζ062+/−及び14−3−3ζ390+/−と呼ぶ。他の14−3−3イソ型の欠失と異なり(Su et al. Proc Natl Acad Sci USA 2011; 108(4):1555-1560)、発現分析により、変異マウスにおいて、14−3−3Cの除去は他の14−3−3ファミリーメンバーの発現の増大によって補償されないことがさらに決定された(図10)。両系統からの14−3−3ζヘテロ接合性マウスの異種交配により、予想されたメンデル比のホモ接合性の変異が生じ(WT23%、Het56%、Mut21%;n=494、p<0.001)、遺伝子の除去は胎仔に致死的ではないことを指摘していた。変異胎仔及び新生仔マウスは同腹仔と形態学的に識別不能であったため、変異胎仔及び新生仔マウスを最初に調査することで、発生が正常に進行したことが示唆された。しかし、P14までに両系統からの変異マウスは成長の遅滞を示し、P21までにおよそ20%の変異マウスが死亡した(WT29%、Het54%、Mut17%;n=1619)。残りの変異マウスはWT同腹仔よりも小型だったが、平均余命はほぼ同じであった(P100;WT24.55±1.7g、Mut19.73g±2.5g)。変異マウスは外見上正常且つ健康であり、嗅覚試験、視覚試験、及びワイヤハング試験において差がなかった。
【0139】
14−3−3ζの、神経精神学的障害及び脳機能との関連を決定的に分析するために、変異マウス及び対照マウスに対する一連の行動試験を完了した。14−3−3ζ062−/−マウスのオープンフィールド環境に対する反応を、最初に評価した。変異体は、試験期間にわたって移動した距離に有意な増大を示し、これは試験年齢全てにわたって維持され(5週、10週、20週、及び30週)、変異マウスは機能亢進性であることが指摘された(図1A)。この効果は、オスメス両方に対して同様であり、性的偏りはなかった(p>0.05)。
【0140】
マウスは生まれつき馴染みのある物体よりもむしろ新奇な物体を探索するのを好むことを利用して、認識記憶を試験した。中葉における鼻周囲皮質が正しく機能することが、このタスクに不可欠である(Dere et al. 2006 supra; Sik et al. 2003 supra; Forwood et al. Hippocampus 2005; 15(3):347-355; Winters et al. J Neurosci 2005; 25(17):4243-4251)。サンプル段階において、マウスは、同じ物体を各々探索するのに等しい時間を費やす(14−3−3ζ062+/+、50.82±1.2%;14−3−3ζ062−/−、49.18±1.2%)。馴染みのある物体及び新しい物体を提示すると、14−3−3ζ062−1−マウスは、試験期間にわたって、対照に比べて新奇な物体の認識の有意な減退を表した。馴染みのある物体と新奇な物体との間の好みの欠如と一致して、14−3−3ζ062−/−マウスでは識別指標(新奇な物体を探索する時間−馴染みのある物体を探索する時間/新奇な物体を探索する時間+馴染みのある物体を探索する時間)が低下し、新たな情報を記憶保持することができないことが指摘された(14−3−3ζ062+/+、0.1667±0.086秒;14−3−3ζ062−/−、−0.0569±0.047秒;p<0.05)。繰り返すが、試験の各段階に性差は存在しなかった(p>0.5)。とりわけ、14−3−3ζ062−/−変異体も、物体認識試験における機能亢進を実証し、試験の両段階における探索時間は長かった(サンプル段階、14−3−3ζ062+/+、27.33±2.7秒;14−3−3ζ062−/−、38.62±4.1秒;p<0.05:試験段階、14−3−3ζ062+/+、24.58±3.1秒;14−3−3ζ062−/−、50.77±4.7秒;p<0.0001)。
【0141】
高架式十字迷路は、齧歯動物の不安行動を試験するのに広く用いられている(Komada et al. 2008 supra; Walf et al. 2007 supra; Lister RG, Psychopharmacology (Berl) 1987; 92(2):180-185)。14−3−3ζ062−/−マウスをこのような試験に配置すると、野生型の対照に比べて活動性の増大も実証した。14−3−3ζ062−/−マウスは、5分の試験期間の間に交差アーム間を25.23±1.76回移行し、14−3−3ζ062+/+マウスは12.29±1.21回移行した(p<0.0001)。さらに、14−3−3ζ062−/−マウスは、14−3−3ζ062+/+マウス(31.4±6.0秒、p<0.0001)に比べて、有意に多くの時間をオープンアームに費やし(図1B:114.8±11.5秒)、より頻繁にその中に入り(14−3−3ζ062+/+、4.6±0,6;14−3−3ζ062−/−、15.5±1.7、p<0.0001)、より頭部を浸漬し(14−3−3ζ062+/+19.6±1.5;14−3−3ζ062−/−、33.4±2.4p=0.0041)、14−3−3ζ062−/−マウスは不安のレベルが低いことが示唆された。
【0142】
空間作業の記憶依存性学習を、交差迷路回避タスクを用いて試験した(Summers et al. 2006 supra)。海馬と前頭前野との間の好適なシグナル伝達は、このタスクの獲得に必須である。マウスを6日かけて、浸漬した回避用プラットフォームを含む交差迷路の正しいアームを同定するように訓練した。交差迷路の各アームを、実験を通して、新奇な視覚手がかりによって表示した。何匹かの14−3−3ζ062−/−マウスは正しいアームを同定するように学習したが、獲得期間の経過にわたってプラットフォームに到達する潜伏期の延長を示し(図11;χ(5)=29.8808;p<0.0001)、アーム選択の正確さは有意に低下した(図1C:IRR=0.52;p<0.0001)。正しい交差アームを記憶するマウスの能力を、次いで、獲得後14日又は28日間休ませることによって試験し、その後回避用プラットフォーム水迷路において再試験を行った(それぞれM1及びM2)。学習段階と比較して、14−3−3ζ062+/+マウスは回避潜伏期における変化を示さず(HR=1.18,p=0.383)、14−3−3ζ062−/−は回避潜伏期の有意な増大を実証した(HR=2.98、p<0.0001)。海馬依存性の記憶における機能不全と一致して、変異マウスはアーム選択の正確さにも有意な低下があった(図1C:IRR=0.231;p<0.0001)。認知欠陥は全て性別と無関係であった。
【0143】
感覚運動ゲーティングにおける欠陥は、統合失調症及び関連障害など、神経精神学的障害の中間表現型(endophenotype)である。海馬及び脳の他の領域における好適なシグナル伝達は、このフィルタリングのメカニズムにとって不可欠である。14−3−3ζ変異マウスに感覚運動ゲーティングの異常があるか否かを決定するために、聴覚驚愕反射のプレパルス阻害(PPI)を評価した。14−3−3062−/−マウスは、14−3−3ζ062+/+マウスに比べて、PPI(図1D:遺伝子型の主な効果F(1,20)=5.89、p=0.025)、及び驚愕(図12:F(1,20)=5.87、p=0.023)が有意に低いことが見出された。プレパルス強度の増大性のレベルにより、WT及び変異マウスにおけるPPIに同様の増大がもたらされた(図1D)。全体的に、驚愕の増幅は変異マウスにおいて低下したが、驚愕の慣れは正常であった(図12)。
【0144】
14−3−3ζは積層を制御するために海馬ニューロンにおいて発現される
認知及び行動の欠損が海馬の神経発生的欠陥から生じるか否かを決定するために、14−3−3ζの神経発生における役割を分析した。海馬ニューロンは、脳室帯(NEv)に沿った神経上皮に由来し、海馬采(NEf)に隣接する神経上皮の制限された領域に由来する(Nakahira et al. J Comp Neurol 2005; 483(3):329-340)(図2A)。14.5dpcでは、中間体内の遊走性の海馬ニューロンにおいて14−3−3ζの免疫染色が検出されたが、これらの神経上皮前駆体においては検出されなかった(図2Bi)。P0までに、14−3−3ζ免疫染色が、固有海馬/アンモン角(CA)の錐体細胞にも検出された(図2Biii)。14−3−3ζマウス系統の遺伝子トラップベクター内のBeta−geoトランスジーンを利用して、ヘテロ接合性マウスにおけるβ−ガラクトシダーゼ染色での14−3−3ζの内因性の発現をモニタリングした。免疫染色と一致して、遊走性のCAニューロンにおける転写レベルでの14−3−3ζの発現が同定された。さらに、CAニューロン内及びDGニューロン内の発現を、後期成体期中に検出した(図2C)。しかし、意外なことに、14−3−3ζは、初期出生後段階の後では、小脳などの脳の他の領域において検出不可能であった(図13)。CAニューロン内及びDGニューロン内の発現は、顕微解剖した成体海馬から抽出したタンパク質のウエスタンブロットによって確認した(図2D)。これにより、14−3−3ζ062−/−マウスのこれらの脳領域からタンパク質が完全に除去されたことも確認された。最後に、in vitro10日後(DIV)、海馬のMAP2陽性ニューロン培養物により、細胞体及び軸索/樹状突起内に、14−3−3ζに対する点状の免疫細胞染色(immunocytostaining)も示された(図2E)。
【0145】
14−3−3ζは海馬ニューロンにおいて発現されるので、本発明者らは次に、CA及びDGのニューロンが、成体及び胎仔の変異体において正しく位置付けられるかどうかを決定するためにCA及びDGニューロンを調べるか否かを試験した。14−3−3ζ062−/−マウスのニッスル染色により、海馬の成熟前の最初に注目すべき発生の欠陥が明らかにされた(P0で5/5、P7で4/4、P28で2/2、及びP56で2/2;図3A及び図14)。具体的には、錐体ニューロンを、錐体細胞層の通常の休憩所の他に、放線状層及び多形細胞層に異所性に位置付けた。CA3亜領域内で、錐体ニューロンは単一の細胞層の代わりに、二層の層に分かれた。歯状回顆粒ニューロンも、14−3−3ζ062+/+同腹仔に比べて、14−3−3ζ062−/−マウスにおいて散在性に充填されていた。ニッスル染色に一致して、thy1−YFPマウスにおける海馬の組織化の分析は、層状の組織化の損傷も明らかにするものであった(図3B)。
【0146】
次いで、異所的に位置付けられた錐体細胞が成熟ニューロンに発生するか否かに対して検討した。14−3−3ζ062−/−の海馬全てにおいて(仔マウス4/4)、異所性の細胞は、ニューロンマーカーであるNeuNに対して陽性であった(図3C)。ニューロンは、自身を分子層深く位置付けるよりむしろ、CA3の表面層においても成熟した。まとめると、このデータより、海馬に誤って位置付けられた細胞は機能的な錐体ニューロン及び顆粒状ニューロンを形成することが推測される。さらに、胎仔からの海馬をTUNEL染色すると、出生後初期及び成体のマウスは、遺伝子型間に明らかな違いを示さず(図15)、14−3−3ζがなくてもニューロンの生存性に影響を及ぼさないことが示唆された。
【0147】
14−3−3ζ欠損マウスは海馬ニューロンの遊走の欠陥を示す
14.5dpcの中間体内での14−3−3ζの発現、及びP0の表面層における成熟ニューロンの存在により、異常な層状構造が誤った遊走に起因し得る可能性が生じた。海馬ニューロンの遊走を可視化するために、14.5dpc及び16.5dpcに、ヘテロ接合型の14−3−3ζ062の交配からの妊娠中の母マウス中にBrdUを注射することによって、BrdUバースデーティング(birthdating)を完了した。14−3−3ζ062+/+及び14−3−3ζ062−/−の仔マウスをP7に回収し、BrdU保持細胞を冠状切片において同定した。切片をDAPIで対比染色して海馬の別々の層を同定した。BrdU保持細胞を、各遺伝子型のマウス5匹を用いて10μm切片から計数し、各層における相対パーセント値を定量した。両方の注射時間点は、14.5dpc又は16.5dpcに脳室帯で生まれたほぼ全てのニューロンが、対照マウスにおけるCAの錐体細胞層に遊走することが示されている(図4)。驚くべきことに、しかし、顕著なパーセント値のBrdU保持細胞が、14−3−3ζ062−/−マウスにおける錐体細胞層の外側で同定された。ニューロンが、その出生地から遊走することができず、又は自身の正しい層内で停止することができないと、したがって、14−3−3ζ062−/−の海馬において複製された錐体細胞層が生じる。
【0148】
14−3−3ζ欠損マウスの錐体細胞における機能的に破壊された苔状線維回路及び異常なシナプス末端
CA3錐体ニューロンとDG顆粒細胞との間の連絡は、正確な軸索の進路決定及びシナプスの標的化によって実現される。誤って整列された錐体ニューロンが海馬の回路に影響を及ぼしたか否かの問題を、P0、P7、及びP56の海馬において抗カルビンジンで免疫組織化学染色を行うことによって評価した。対照のマウスにおいて、苔状線維は顆粒細胞の細胞体から出芽し、CA3錐体細胞層をまたがる、錐体下苔状線維(infrapyramidal mossy fibre)(IPMF)路及び錐体上苔状線維(suprapyramidal mossy fibre)(SPMF)路に二分岐した(図5)。14−3−3ζ062−/−マウスにおいて、IPMF路はCA3錐体ニューロンの尖端の表面に沿って進んだが、SPMF路はCA3ニューロンの中で誤った経路で送られた。
【0149】
DG顆粒細胞が、そのCA標的細胞上にシナプス形成したか否かを決定するために、抗シナプトフィジンを用いて、対照動物におけるCA3亜領域のIPMF及びSPMF両方の前シナプスを同定した。14−3−3ζ062−/−マウスにおいて、誤った経路で送られた軸索も、錐体細胞層内で異常なシナプスを形成した(図6)。ゴルジ染色によってシナプスボタンを可視化すると、CA3におけるシナプス形成に注目すべき差がさらに明らかになった。対照動物において、尖端の樹状突起の近位領域上の大型の棘状の突出物に、口径の細かな樹状の分枝が続いた。14−3−3ζ062−/−マウスにおける錐体ニューロンにおいて、樹状ツリーは、同様の数の分枝点を有するように見えたが、調べたマウス全ての近位及び遠位両方の尖端の樹状突起上に、間違った経路の苔状線維路からの棘の多い突出物を有していた。
【0150】
ニューロンの遊走と軸索の経路探索とを協調させるために14−3−3ζが用いる分子経路を同定するために、P7マウスからの全脳抽出物に対して同時免疫沈降実験を行った。14−3−3ζはDISC1のC末端に対して産生された抗体で同時免疫沈降され得ることが見出された。逆の場合も同様であり、DISC1は、14−3−3ζを認識する抗体で同時免疫沈降され得ることも見出された(図7)。驚くべきことに、データは、14−3−3ζは、DISC1の、100kDaの全長タンパク質よりもむしろ75kDa型と特異的に相互作用することを指摘しており、DISC1は、イソ型に特異的に、神経発生において機能することが指摘される。
【0151】
(例2)
集まりつつある臨床上及び実験上の証拠は、統合失調症及び関連の障害はドパミン作動性及びグルタミン酸作動性の神経伝達物質経路における相互接続の欠陥に起因することを示唆するものである。海馬の錐体ニューロンはグルタミン酸作動性及びドパミン作動性の系を統合するので、海馬は、このモデルにおける主要な構造として位置付けられている。神経伝達物質の経路が、14−3−3ζ−/−マウスにおける統合失調症様の行動の欠陥の根拠となるか否かを決定するために、各経路に特異的に拮抗する向精神病薬が誘発する行動試験を試みた(図16)。NMDA受容体アンタゴニストであるMK801は、野生型対照におけるPPIを攪乱するが、14−3−3ζ−/−マウスにおけるPPIは攪乱しないことが見出された。これとは対照的に、ドパミン放出薬であるアポモルヒネは、14−3−3ζ−/−マウス及び野生型対照の両方におけるPPIに対して同様の効果があった。これは、14−3−3ζ−/−マウスのベースラインPPIの欠陥は、グルタミン酸作動性経路における欠損に起因することを指摘している。ドパミン作動性過剰仮説(hyperdopaminergic hypothesis)を、別のドパミン放出薬であるアンフェタミンを用いて、歩行運動機能試験においてやはり調査した。増強効果が、野生型対照に比べて14−3−3ζ−/−マウスにおいて生じる(即ち、機能亢進になる早々の低減及び長距離移動における増大)ことが見出され、14−3−3ζ−/−マウスのベースラインの機能亢進はドパミン作動性経路における欠損に起因することが指摘された(図17)。このように、14−3−3ζ−/−マウスは、ドパミン作動性及びグルタミン酸作動性の神経伝達経路における欠陥を有する。これらの薬物が統合失調症患者において同様の効果を誘発できることを考慮すると、これらの知見は、統合失調症及び関連の障害に対するモデルとして、14−3−3ζ−/−マウスに対する確固とした支持を提供する。
【0152】
(例3)
樹状の分枝の低下及び棘の多いシナプスは、統合失調症及び関連の障害の解剖学的特徴である。ゴルジ透浸、錐体ニューロンのin vitroの培養、及び微粒子銃の標識など、相補的な技術を用いて、海馬の顆粒ニューロン及び錐体ニューロンにおける樹状突起棘数及び棘のサイズの分析が行われている(図18)。統合失調症及び関連の障害に対する頑強なモデルとして14−3−3ζ−/−マウスを強力に支持するように、海馬における棘の著しい低下が見出された。
【0153】
当業者であれば、本明細書に記載する本発明は、詳しく記載したもの以外の変形及び修飾を受けやすいことを理解されよう。本発明には、このような変形及び改変を全て含まれることを理解されたい。本発明にはまた、本明細書において個々に、又は集合的に、言及され、又は指摘されるステップ、特徴、組成物、及び化合物も全て含まれ、並びに、前記ステップ又は特徴のあらゆる2つ以上のありとあらゆる組合せが含まれる。
【表1】
【0154】
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図1
図2
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]