(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
グロープラグは、圧縮着火方式によるディーゼルエンジン等の内燃機関の補助熱源として用いられる。グロープラグは、通常、先端部が閉じて基端部が開いた有底筒状のチューブと、この内部に前記チューブの軸線方向に沿って配置され、通電により発熱する発熱コイルとを有する。発熱コイルの先端部はチューブの先端部に電気的に接続され、発熱コイルの基端部は、チューブの基端側に延びる中軸部材に接続されている。この中軸部材を介して通電されることにより発熱コイルが発熱する。チューブの内部はマグネシア粉末等の絶縁粉末で満たされ、発熱コイルで発生した熱が絶縁粉末を介してチューブに熱移動する。
【0003】
ところで、チューブ内に充填されている絶縁粉末に関して、例えば、グロープラグを製造する際の作業性に関する問題及びグロープラグの性能や寿命に関する問題等を解決することを目的として、様々な研究が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、シースヒータ用マグネシアにおける作業性やシースヒータの寿命にも密接に関係する特性として重視されている粉末の流動性、充填性等における問題点が提示されている(特許文献1の1頁右欄7行目〜2頁右上欄9行目)。この問題点を解決するための手段として、タップ密度、フロータイム、及び600℃での絶縁抵抗が特定の範囲にあるマグネシア粉末が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲(1))。また、このようなマグネシア粉末の製造方法として、「高純度マグネシア焼結紛体を500〜149μmの粗粒と149μ未満の細粒に分級し、且つその平均径の比(粗粒径/細粒径)が3以上となるように分級し、所望の割合で混合することからなる高密度電気絶縁材料の製造方法」(特許文献1の特許請求の範囲(2))が開示されている。
【0005】
特許文献2には、高温下での絶縁・耐電圧特性に関する問題点、及びシーズヒータを製造する際の発塵及び作業性に関する問題点が開示されている(特許文献2の1頁左欄下から2行目〜2頁左欄1行目)。前記問題点を解決するための手段として、「・・前記充填材料の粒子径44μ以下の微粒子を0.1〜4重量%の範囲内に調整し、且つ前記充填材料の粒子径37〜351μの粒度分布における粒子径295〜351μの粗粒部の粒子に対し機械的に球形加工を施して、粒子径295μ以下の中微粒部と混合することによって、タップ密度が2.34〜2.42(g/cc)、且つ流動度が190〜220(sec/100g)の物理的特性を有するように調製したことを特徴とする高温用シーズヒータの電気絶縁充填材料」(特許文献2の特許請求の範囲1)が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ディーゼルエンジン等の始動性を向上させるために、急速に昇温させることのできるグロープラグが要請されている。ディーゼルエンジン等の始動性は、グロープラグを短時間でより高い温度に昇温させることができるほど向上する。チューブの表面温度を従来よりも高い温度、例えば1000℃以上の温度に短時間で昇温させるためには、例えば発熱コイルの抵抗値を低く設定することにより発熱コイルに従来よりも大電流を流して発熱量を増大させることが考えられる。しかしながら、発熱コイルの発熱量を増大させると、発熱コイルが断線する等して耐久性が低下するおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の発明者らは、チューブ内における発熱コイルの周囲に充填されている絶縁粉末の熱移動性を向上させることにより、発熱コイルの発熱量を増大させることなく従来よりも高い温度まで急速昇温させることができると考えた。
【0009】
従来のグロープラグでは、例えば、電圧を印加してから数秒後にチューブの表面温度が1000℃になるように急速昇温させる場合、発熱コイル周辺の内部温度はチューブの表面温度よりも約150℃高い温度になっていた。発熱コイル周辺の内部温度がチューブの表面温度よりも高いのは、発熱コイルからチューブに熱移動するまでの間に熱損失があるからである。したがって、発熱コイルからチューブに熱移動するまでの間の熱損失を低減することができれば、発熱コイルの抵抗値を低く設定することにより発熱コイルに従来よりも大電流を流さなくても、チューブの表面温度をより高い温度まで急速昇温させることができると考えられる。すなわち、発熱コイルとチューブとの間に充填されている絶縁粉末の熱移動性を向上させることができれば、発熱コイルに従来よりも大電流を流さなくても、チューブの表面温度をより高い温度まで急速昇温させることができると考えられる。
【0010】
したがって、本発明は、絶縁粉末の熱移動性を向上させることにより、発熱コイルに大電流を流すことなく、チューブの表面温度をより高い温度まで急速昇温させることのできるグロープラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段は、
[1] 先端部が閉塞した筒状のチューブと、
前記チューブ内に配設されると共に、先端が前記チューブの先端に電気的に接続された発熱コイルと、
前記チューブ内における前記発熱コイルの周囲に充填された絶縁粉末と
を有するヒータを備えたグロープラグであって、
前記絶縁粉末の最大粒径は、34〜59μmであることを特徴とするグロープラグである。
【0012】
前記[1]の好ましい態様は、次の通りである。
[2] 前記絶縁粉末は、粒径が34〜59μmである粒子を4〜10体積%含有することを特徴とするグロープラグである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るグロープラグは、チューブ内における発熱コイルの周囲に充填された絶縁粉末の最大粒径が34〜59μmであるので、絶縁粉末の熱移動性を向上させることができる。したがって、この発明によると、発熱コイルに大電流を流すことなく、チューブの表面温度をより高い温度まで急速昇温させることのできるグロープラグを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係るグロープラグの一実施例であるグロープラグを
図1に示す。
図1はこの発明に係るグロープラグの一実施例であるグロープラグの一部断面全体説明図である。なお、
図1では紙面下方すなわち後述するヒータが配置されている側を軸線Oの先端方向、紙面上方を軸線Oの後端方向として説明する。
【0016】
このグロープラグ10は、
図1に示されるように、中軸部材200と、主体金具500と、通電によって発熱するヒータ800とを備える。これらの部材は、グロープラグ10の軸線Oに沿って組み付けられている。
【0017】
主体金具500は、炭素鋼等により形成され、略円筒形状を有する。主体金具500は、軸線O方向に延びる軸孔510を有する。主体金具500は、軸孔510の先端側の端部において、ヒータ800を保持する。主体金具500は、軸孔510の後端側の端部において、絶縁部材410とO−リング460とを介して、中軸部材200を保持する。絶縁部材410は、絶縁部材410の後端に接するリング300が中軸部材200に加締められることで、軸線O方向の位置が固定される。主体金具500の後端側が絶縁部材410によって絶縁される。主体金具500は中軸部材200の一部を内包し、軸孔510と中軸部材200との間には、両者を電気的に絶縁する空隙が形成されている。主体金具500は、工具係合部520と、雄ネジ部540とを備える。工具係合部520は、主体金具500の外周面に形成され、トルクレンチ等の工具が係合される。雄ネジ部540は、工具係合部520より先端側の主体金具500の外周面に形成され、グロープラグ10をディーゼルエンジン等の内燃機関のエンジンヘッドに取り付ける際に、エンジンヘッドの取付け孔に螺合される。
【0018】
中軸部材200は、導電材料で形成され、円柱形状を有する。中軸部材200は、主体金具500に挿入された状態で軸線Oに沿って配置される。中軸部材200は、先端側に設けられた中軸部材先端部210と、後端側に設けられた接続部290とを備える。中軸部材先端部210は、ヒータ800の内部に配置されている。接続部290は、主体金具500から突出して、その外周面には雄ネジが形成されている。接続部290には、係合部材100が嵌合されている。係合部材100には、バッテリ等の電源から電力の供給されるコネクタ付きケーブルが接続される。
【0019】
図2は、
図1に示すグロープラグにおけるヒータを拡大して示した要部一部断面説明図である。ヒータ800は、チューブ810と、発熱コイル820と、制御コイル830と、絶縁粉末840とを備える。
【0020】
チューブ810は、軸線O方向に延び、先端が閉塞した有底筒状を有する。チューブ810は、Niを主成分とするNi合金により形成される。Ni合金としては、例えば、Ni-Cr-Fe合金等を挙げることができる。Ni-Cr-Fe合金としては、例えば、インコネル601(登録商標)、アロイ602CA(登録商標)等を挙げることができる。チューブ810は、発熱コイル820と、制御コイル830と、絶縁粉末840とを内包する。チューブ810は、チューブ先端部811とチューブ後端部819とを備える。チューブ先端部811は、チューブ810の先端側において、外側に向けて丸く形成された端部である。チューブ後端部819は、チューブ810の後端側において開口した端部である。チューブ810の内部には中軸部材200がその後端側がチューブ後端部819から突出した状態で配置されている。チューブ810は、パッキン600と絶縁粉末840とによって、中軸部材200から電気的に絶縁される。パッキン600は、中軸部材200とチューブ810との間に挟まれた絶縁部材である。チューブ810は、主体金具500と電気的に接続されている。
【0021】
発熱コイル820は、導電性を有する。発熱コイル820を形成する合金としては、例えば、Fe、Cr等の元素を主成分とする合金が挙げられる。このような合金として、例えば、カンタル(登録商標)及びパイロマックス(登録商標)等のFe−Cr−Al合金等が挙げられる。発熱コイル820は、通電によって発熱する。発熱コイル820は、導線がらせん状に巻回された形状を有し、その中心軸線が軸線Oに重なるようにチューブ810内に配設される。発熱コイル820は、先端側の端部である発熱コイル先端部821と、後端側の端部である発熱コイル後端部829とを備える。発熱コイル先端部821は、チューブ810の先端に溶接されることによってチューブ810と電気的に接続される。
【0022】
制御コイル830は、発熱コイル820を形成する合金よりも電気比抵抗の温度係数が大きい金属により形成され、導電性を有する。制御コイル830を形成する金属としては、Ni、Co、及びFe等の元素を主成分とする金属が挙げられる。このような金属として、例えば、純Ni、Co−Ni合金、Co−Fe合金等が挙げられる。制御コイル830は、発熱コイル820に供給される電力を制御する。制御コイル830は、チューブ810内に軸線O方向に沿って配設される。制御コイル830は、先端側の端部である制御コイル先端部831と、後端側の端部である制御コイル後端部839とを備える。制御コイル先端部831は、発熱コイル820の発熱コイル後端部829に溶接されることによって、発熱コイル820と電気的に接続される。制御コイル後端部839は、中軸部材200の中軸部材先端部210に接合されることによって中軸部材200と電気的に接続される。
【0023】
次に、本発明の特徴部分である絶縁粉末840について説明する。チューブ810の内部全体には、電気絶縁性を有する粉末が充填されており、チューブ810の内周面と、発熱コイル820、制御コイル830、及び中軸部材200それぞれの外周面とが電気的に絶縁されている。この発明の絶縁粉末840は、電気絶縁性を有する粉末であり、その最大粒径は、34〜59μmである。最大粒径が34〜59μmの範囲にある絶縁粉末840は、チューブ810内における発熱コイル820の周囲に少なくとも充填され、チューブ810内における発熱コイル820及び制御コイル830の両方の周囲に充填されていてもよく、チューブ810の内部全体に充填されていてもよい。また、発熱コイル820の周囲のみに最大粒径が34〜59μmの範囲にある絶縁粉末840が充填され、制御コイル830及び中軸部材200の周囲には最大粒径が34μm未満又は59μmより大きい電気絶縁性を有する粉末が充填されていてもよい。このグロープラグ10は、最大粒径が34〜59μmの範囲にある絶縁粉末840が少なくとも発熱コイル820の周囲に配置されているので、発熱コイル820からチューブ810へ熱移動する際の熱損失を低減することができる。すなわち、絶縁粉末840の熱移動性を向上させることができる。したがって、発熱コイル820に大電流を流すことなく、チューブ810の表面温度をより高い温度まで急速昇温させることができる。発熱コイル820で発生した熱は、絶縁粉末840を介してチューブ810へ熱移動する。したがって、少なくとも発熱コイル820の周囲にある絶縁粉末840の最大粒径が前記範囲内にあればよい。発熱コイル820の周囲にある絶縁粉末840の最大粒径が34μm未満又は59μmを超えると、前記熱損失を低減することができない。
【0024】
絶縁粉末840の最大粒径を特定の範囲内にすることにより、発熱コイル820からチューブ810へ熱移動する際の熱損失を低減することができるのは、以下の理由によると考えられる。絶縁粉末840の最大粒径が59μmを超えている場合には、らせん状に巻回された発熱コイル820の導線と導線との間に絶縁粉末840を十分に充填することができず、粒子と粒子との間又は粒子と導線との間に断熱層が形成されてしまい、発熱コイル820からチューブ810へ至るまでの熱損失が大きくなる、すなわち絶縁粉末840の熱移動性が低下すると考えられる。また、絶縁粉末840の最大粒径が34μm未満であり、絶縁粉末840が小さい粒子のみで形成されている場合には、単位体積当たりに含まれる粒子の数が多くなり、粒子から粒子へと熱伝達するときに通る断熱層の数が増大してしまい、熱移動性が低下してしまうと考えられる。
【0025】
一方、本発明によると、絶縁粉末840の粒子が大き過ぎず、また、小さい粒子だけでなくある程度の大きさの粒子を含むことから、らせん状に巻回された導線と導線との間に絶縁粉末840が十分に充填され、また、粒子から粒子へと熱伝達するときに通る断熱層の数が多くなり過ぎずに、ある程度抑えることができると考えられる。その結果、発熱コイル820からチューブ810へ熱移動する際の熱損失を低減することができる。したがって、最大粒径が特定の範囲にある絶縁粉末840が少なくともチューブ810内における発熱コイル820の周囲に充填されているグロープラグ10は、発熱コイル820に大電流を流すことなく、チューブ810の表面温度をより高い温度まで急速昇温させることができる。
【0026】
前記絶縁粉末840は、最大粒径が34〜59μmの範囲にあり、かつ、粒径が34〜59μmの範囲にある粒子を4〜10体積%含有するのが好ましい。前記絶縁粉末840は、前記特定の粒径を有する粒子を特定の割合で含有することにより、発熱コイル820で発生した熱がチューブ810へ移動する際の熱損失をより一層低減することができる。したがって、前記特定の粒径を有する粒子を特定の割合で含有する絶縁粉末840が少なくともチューブ810内における発熱コイル820の周囲に充填されているグロープラグ10は、発熱コイル820に大電流を流すことなく、チューブ810の表面温度をより一層高い温度まで急速昇温させることができる。
【0027】
絶縁粉末840の最大粒径及び粒径が34〜59μmの範囲にある粒子の割合は、レーザ回折式粒度分布測定装置(HORIBA LA−750)を用いて、以下のように測定することができる。
【0028】
まず、グロープラグ10から絶縁粉末840を取り出し、分析用試料を準備する。具体的には、まず、発熱コイル後端部829と制御コイル先端部831との接合部付近における発熱コイル820が配置されている側において、ヒータ800を軸線Oに直交する面で切断する。切断された先端側のヒータ800の内部にある発熱コイル820を引き抜いた後、ヒータ800に衝撃を加え、チューブ810内に充填されている絶縁粉末840を取り出す。取り出した絶縁粉末840は凝集し、塊状になっているので、すり鉢ですって粒子をバラバラにする。なお、絶縁粉末840は堅いので、手ですり鉢を用いて絶縁粉末840をすっても粒子は粉砕されず、測定結果に影響を与えないことが確認されている。次いで、すり鉢ですった後の絶縁粉末840を拡大鏡で観察しながら不純物を取り除く。このようにして、絶縁粉末840の試料を、1回の測定につき0.35g以上準備する。
【0029】
次いで、準備した絶縁粉末840の試料を、例えばスパチュラ2〜4杯分を溶媒(例えば、ヘキサメタりん酸ナトリウム0.2質量%溶液150cc)に溶かし、撹拌装置で分散させる。試料の分散方法としては、例えば、外部ホモジナイザーで3分撹拌した後に、レーザ回折式粒度分布測定装置に内蔵されている超音波プローブで2分撹拌する方法を挙げることができる。溶媒に分散させた試料を、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、試料の最大粒径及び34〜59μmの範囲にある粒子の割合を求める。試料の粒度分布の測定は3回行い、得られた測定値の平均値を求める値とする。
【0030】
前記絶縁粉末840は、電気絶縁性を有し、かつ、高温下で熱伝導性を有する材料により形成される。このような材料として、例えば、マグネシア(MgO)、アルミナ(Al
2O
3)等の酸化物を挙げることができる。絶縁粉末840は、これらの酸化物のうちの少なくとも一種を含有するのが好ましく、これらの酸化物のうち所望の熱伝導率を維持することができる点でMgOを含有するのがより好ましい。絶縁粉末840は、MgOを絶縁粉末840全質量に対して85質量%以上100質量%以下含有するのが好ましく、99質量%以上100質量%未満含有するのがより好ましく、残部として前記酸化物又は他の物質が含有されてもよい。他の物質としては、CaO、ZrO
2、及びSiO
2等を挙げることができる。
【0031】
前記絶縁粉末840に含有される成分及びその含有率は、次のようにして求めることができる。まず、絶縁粉末840を粉末X線回折法等によって定性分析を行うことにより、絶縁粉末840に含有される成分を把握する。次いで、ICP発光分光法により、絶縁粉末840に含有される元素を定量分析する。絶縁粉末840に含まれる成分が、定性分析により酸化物であることが分かっている場合には、定量分析によって得られた元素の含有率を酸化物換算して、酸化物の含有率として求めることができる。なお、定性分析により絶縁粉末840の主成分がMgOであることが分かっている場合には、MgO以外の成分についてICP発光分光法により分析を行い、MgOの含有率はその残分として求めることができる。
【0032】
前記絶縁粉末840は、含有される粒子が一次粒子として存在する場合、及び/又は二次粒子として存在する場合がある。絶縁粉末840は、一次粒子及び二次粒子のいずれの形態で存在してもよいが、一次粒子で存在するのが好ましい。絶縁粉末840に含まれる粒子が二次粒子として存在する場合、二次粒子中に多数の空隙が存在するので、この空隙が断熱層となって絶縁粉末840の熱移動性が低下するおそれがある。MgOは、通常、二次粒子を形成せず一次粒子として存在する。したがって、この点においても絶縁粉末840がMgO粉末であるのが好ましい。
【0033】
グロープラグ10は、例えば、次のようにして製造される。
【0034】
まず、所定の組成を有する抵抗発熱線をコイル状に加工し、発熱コイル820及び制御コイル830をそれぞれ製造する。次いで、発熱コイル820と制御コイル830との端部同士をアーク溶接等により接合し、コイル部材とする。次いで、コイル部材のうち制御コイル830側を中軸部材200の先端部に接合する。
【0035】
一方、所定の組成を有する金属鋼管をチューブ810の最終寸法よりも大径に形成し、かつ、その先端部を他の部分よりも減径させて、先窄まり状のチューブ前駆体を製造する。
【0036】
チューブ前駆体の内部に中軸部材200と一体となったコイル部材を挿入し、チューブ前駆体の先窄まり状の先端開口部に発熱コイル820の先端部を配置する。アーク溶接等によってチューブ前駆体の先端開口部と発熱コイル820の先端部分とを溶融し、チューブ前駆体の先端部分を閉塞し、内部にコイル部材が収容されたヒータ前駆体を形成する。
【0037】
次いで、ヒータ前駆体のチューブ810内に電気絶縁性を有する粉末を充填する。次いで、チューブ810の後端開口部にパッキン600を挿入して、チューブ810を封止する。次いで、チューブ810にスウェージング加工を施し、所定の外径を有するヒータ800を形成する。なお、チューブ810内に充填された電気絶縁性を有する粉末は、スウェージング加工を経ることによりその粒度が変化する。したがって、スウェージング加工を施す際のチューブ810の外径の減少率等を考慮して、ヒータ800を完成した後の、チューブ810内における発熱コイル820の周囲に配置される電気絶縁性を有する粉末の最大粒径が34〜59μmの範囲になるように、所定の粒度分布を有する電気絶縁性を有する粉末をチューブ810に充填する。
【0038】
このように形成したヒータ800を、主体金具500の軸孔510に圧入固定すると共に、主体金具500の後端部分において、O−リング460及び絶縁部材410を嵌め込み、リング300で中軸部材200を加締める。このようにして、グロープラグ10を形成する。
【0039】
本発明に係るグロープラグは、圧縮着火方式によるディーゼルエンジン等の内燃機関の補助熱源として用いられる。グロープラグは、内燃機関の燃焼室を区画形成するヘッドに設けられたネジ穴に雄ネジ部540が螺合されて、所定の位置に固定される。このグロープラグは、発熱コイルに大電流を流すことなく、グロープラグの表面温度をより高い温度まで急速昇温させることができるから、特に、始動性の向上が要求される内燃機関に好適に使用される。
【0040】
本発明に係るグロープラグは、前述した実施形態に限定されることはなく、本発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0041】
例えば、チューブ810の形状は、筒状である限り特に限定されず、軸線Oに直交する方向の断面が、円形状、楕円形状、多角形状等であってもよい。
【0042】
また、上述した実施形態のグロープラグ10においては、発熱コイル820の過昇温を防止するために、発熱コイル820と中軸部材200との間に制御コイル830が介在されているが、発熱コイルと中軸部材とが直接に接合され、制御コイルが省略されていてもよい。
【実施例】
【0043】
<グロープラグの製造及び分析>
図1に示すグロープラグ10と同様の構造を有するグロープラグを前述したようにして製造し、サンプル1〜18とした。すべてのサンプルについて、絶縁粉末840としてMgO粉末を用いた。各サンプルのチューブ810内に充填されている絶縁粉末840の粒度は、チューブ810内に充填する絶縁粉末840の粒度分布を調整すること、及び、グロープラグ10の製造工程において、チューブ810にスウェージング加工を施す際にチューブ810の外径の減少率を調整すること等によって、変更した。
【0044】
各サンプルのチューブ810内に充填されている絶縁粉末840について、レーザ回折式粒度分布測定装置(HORIBA LA−750)を用いて、「最大粒径」及び「粒径が34〜59μmの範囲にある粒子の割合」を、前述したように求めた。なお、絶縁粉末840の試料を分析する際に試料を分散させる溶媒としては、ヘキサメタりん酸ナトリウム0.2質量%溶液150ccを用いた。試料の分散は、外部ホモジナイザーで3分撹拌した後に、レーザ回折式粒度分布測定装置に内蔵されている超音波プローブで2分撹拌することによって行った。試料の粒度分布の測定は3回行い、得られた測定値の平均値を求める値とした。結果を表1に示す。
【0045】
絶縁粉末840に含まれる成分及びその含有率を粉末X線回折法及びICP発光分光法により、前述したように測定した。いずれのサンプルも主成分として、MgOを99.4質量%含有し、CaO、ZrO
2、SiO
2を合計で0.6質量%含有していた。また、絶縁粉末840を走査型電子顕微鏡で観察したところ(1000倍)、一次粒子として存在していることが観察された。
【0046】
絶縁粉末840の熱移動性の評価は、電圧を印加してから2秒後におけるヒータ800の内部温度とヒータ800の表面温度との差によって行った。
ヒータ800の内部温度は、グロープラグ10を製造する際に、らせん状に巻回されている発熱コイル820の中心軸線上であって、ヒータ800の先端から軸線O方向後端側に2.0mmの位置に熱電対を配置し、これによって測定した。
ヒータ800の表面温度は、単色放射温度計を用い、測定時の放射率ε=1.0、測定スポット径2mmにて、ヒータ800の先端から軸線O方向後端側に2.0mmの位置を測定位置として測定した。
いずれのサンプルについても、電圧を印加してから2秒後にヒータ800の表面温度が1000℃になるように電圧を印加した。電圧を印加してから2秒の時点でのヒータ800の内部温度とヒータ800の表面温度とを測定し、得られた値の差を求め、これを「内外温度差」として表1に示した。表1では、「内外温度差」の値によって以下の記号で示した。
A:内外温度差が110℃未満
B:内外温度差が110℃以上130℃未満
C:内外温度差が130℃以上
【0047】
絶縁粉末840の熱移動性の評価は、以下の基準にしたがって行った。評価結果を表1に示す。「内外温度差」が小さいほど発熱コイル820からチューブ810へ熱移動する際の熱損失が小さいことを示し、絶縁粉末840の熱移動性が高いことを示す。
○:内外温度差が110℃未満
△:内外温度差が110℃以上130℃未満
×:内外温度差が130℃以上
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、絶縁粉末840の最大粒径が34〜59μmの範囲内にあるサンプル番号5〜16のグロープラグは、内外温度差が130℃未満であり、絶縁粉末の熱移動性が良好であった。一方、絶縁粉末840の最大粒径が34μmより小さいか、或いは59μmより大きいサンプル番号17、18、1〜4のグロープラグは、内外温度差が130℃以上であり、絶縁粉末840の最大粒径が34〜59μmの範囲内にあるサンプルに比べて絶縁粉末の熱移動性が劣っていた。これらの結果から、絶縁粉末840の最大粒径が34〜59μmの範囲内にあると、絶縁粉末840の熱移動性が良好になることから、発熱コイル820に大電流を流すことなく、チューブ810の表面温度をより高い温度まで急速昇温させることができることが分かる。
【0050】
また、絶縁粉末840の最大粒径が34〜59μmの範囲内にあるサンプル番号5〜16のグロープラグのうち、粒径が34〜59μmの範囲にある粒子の割合が4〜10体積%であるサンプル番号6、8、10、13、15のグロープラグは、内外温度差が110℃未満であり、粒径が34〜59μmの範囲にある粒子の割合が4体積%未満又は10体積%より大きいサンプル番号5、7、9、11、12、14、16のグロープラグに比べて、絶縁粉末の熱移動性がより一層良好であった。これらの結果から、絶縁粉末840の最大粒径が34〜59μmの範囲内にあり、かつ、粒径が34〜59μmの範囲にある粒子の割合が4〜10体積%であると、絶縁粉末の熱移動性がより一層良好になることから、発熱コイル820に大電流を流すことなく、チューブ810の表面温度をより一層高い温度まで急速昇温させることができることが分かる。