(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記計測記憶手段で計測、記憶されている前記計測データに基づいて、前記サンプリング期間の条件を所定期間満した時点でサンプル取得可能信号を出力するサンプル取得監視手段を備える、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電池容量推定システム。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池やシール型鉛蓄電池などの蓄電池・二次電池は、使用年数の経過に伴ってその容量が低下し、満充電しても初期の容量まで回復されない。また、蓄電池の容量の低下の度合いは、充放電の深度や回数、保存電圧や周囲温度などを含む、使用条件や使用環境などによって影響される。そして、実際の運用においては、現時点での蓄電池容量がどのくらいであるかを知り、さらには、寿命に至るまでの期間・残寿命を予測して、蓄電池交換などの計画を策定する必要がある。
【0003】
一方、現時点での蓄電池容量を正確に知るには、蓄電池の運用、使用を中断して蓄電池を工場などに運んで検査したり、使用を中断してその場で放電試験を行ったりする必要がある。しかしながら、蓄電池を放電終止電圧(放電を終了させるべき電圧)まで放電させるには、長時間を要し、その間、蓄電池の使用が不可能となる。つまり、UPS(Uninterruptible Power Supply)などのバックアップ電源として使用されている蓄電池の場合、放電試験を行っている間は、バックアップ電源としての機能が失われてしまう。
【0004】
このため、蓄電池を放電終止電圧まで放電させることなく、短時間放電するだけで、蓄電池容量を推定することが可能な劣化判定試験が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、この劣化判定試験では、蓄電池(単電池)を複数直列に接続した組電池の場合、組電池全体を短時間放電させて組電池の端子電圧を測定する。そして、測定電圧の変化から組電池全体の容量を推定し、組電池全体の劣化状態を判定するものである。
【0005】
さらに、充放電電流の積算値と充電状態(SOC、残容量)の変化とに基づいて、電池の容量を検出する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。この方法は、第1の検出タイミングと第2の検出タイミングとの間における充放電電流の積算値(δAh)を演算し、第1の検出タイミングにおける電池の第1の開放電圧(OCV1)と、第2の検出タイミングにおける電池の第2の開放電圧(OCV2)を検出する。続いて、第1の開放電圧(OCV1)から電池の第1の残容量(SOC1)を判定するとともに、第2の開放電圧(OCV2)から電池の第2の残容量(SOC2)を判定する。そして、第1の残容量(SOC1)と第2の残容量(SOC2)の差から残容量の変化率(δS)を演算し、積算値(δAh)と残容量の変化率(δS)とから次式で電池の満充電容量(Ahf)を演算するものである。
Ahf=δAh/δS×100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の劣化判定試験では、短時間であっても試験のための放電を要するため、放電によって電池の容量が低下するおそれがあるとともに、適正な電池運用が妨げられるおそれがある。また、予定された試験以外の放電、例えば、実際の停電に伴うバックアップ放電においては容量が推定されないため、非効率的である。
【0008】
また、特許文献2の容量検出方法では、適正・正確に容量を検出することができない。すなわち、開放電圧(OCV)と充電状態(SOC)と関係特性は、充電状態か放電状態かによって異なり、しかも、充放電開始前(第1の検出タイミング)の関係特性は、それ以前の期間において充電されたか放電されたかなどによって異なる。しかしながら、特許文献2の容量検出方法では、このようなことが考慮されず、一義的な関係特性のみによって充電状態(SOC)を判定しているため、適正・正確に容量を検出することができない。
【0009】
そこでこの発明は、容量推定のための充放電を要せず、しかも、電池の容量を適正に推定することが可能な電池容量推定システム、電池容量推定方法および電池容量推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、電池の満充電時の容量を推定する電池容量推定システムであって、充電
後、放電後および所定期間充放電が行われない待機後における、前記電池の開放電圧と残容量との関係を示す残容量データを記憶する特性記憶手段と、前記電池の運用中における開放電圧および充放電電流を計測し、時系列に計測データとして記憶する計測記憶手段と、所定の充放電が行われたサンプリング期間を前記計測データから抽出するサンプル抽出手段と、前記サンプル抽出手段で抽出したサンプリング期間よりも前の所定期間において、充電が行われた場合には、前記特性記憶手段から前記充電後における残容量データを取得し、放電が行われた場合には、前記特性記憶手段から前記放電後における残容量データを取得し、充放電が行われない待機であった場合には、前記特性記憶手段から前記待機後における残容量データを取得し、該残容量データと前記計測記憶手段に記憶された前記サンプリング期間における充放電開始前の開放電圧とに基づいて、充放電開始前の残容量を開始前残容量として取得するとともに、前記サンプリング期間において充電が行われたか放電が行われたかに基づいて、前記特性記憶手段から該当する残容量データを取得し、該残容量データと前記計測記憶手段に記憶された前記サンプリング期間における充放電終了後の開放電圧とに基づいて、充放電終了後の残容量を終了後残容量として取得する残容量取得手段と、前記計測記憶手段に記憶された充放電電流に基づいて前記サンプリング期間における充放電電流の積算値を演算し、前記開始前残容量と前記終了後残容量との差である残容量変化量と、前記積算値とに基づいて前記電池の満充電時の容量を演算する容量演算手段と、を備え
、前記サンプリング期間よりも前の所定期間は、該期間内に充電されたか放電されたかによって残容量が影響される期間に設定されている、ことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、電池を運用、使用して充電や放電を行っている状態において、計測記憶手段によって電池の開放電圧(電圧値)および充放電電流(電流値)が時系列に計測データとして記憶される。そして、サンプル抽出手段によって計測データから、所定の充放電が行われたサンプリング期間が抽出され、残容量取得手段によって充放電の開始前残容量と終了後残容量とが取得される。この際、サンプリング期間よりも前の所定期間における充放電状況(充電されたか放電されたか
あるいは待機であったか)に該当する残容量データに基づいて開始前残容量が取得され、サンプリング期間における充放電状況に該当する残容量データに基づいて終了後残容量が取得される。次に、容量演算手段によって、サンプリング期間における充放電電流の積算値と残容量変化量とに基づいて、電池の満充電時の容量が演算される。
【0013】
請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載の電池容量推定システムにおいて、前記特性記憶手段は、温度と関連付けて前記残容量データを記憶し、前記計測記憶手段は、前記電池の周囲温度を計測、記憶し、前記残容量取得手段は、前記計測記憶手段に記憶された前記サンプリング期間における周囲温度に該当する残容量データを前記特性記憶手段から取得する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項
3に記載の発明は、請求項
1または2に記載の電池容量推定システムにおいて、前記特性記憶手段は、前記電池の満充電時の容量と関連付けて前記残容量データを記憶し、前記残容量取得手段は、先に前記容量演算手段で演算された容量または外部から入力された容量に該当する残容量データを前記特性記憶手段から取得する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項
4に記載の発明は、請求項
1から3に記載の電池容量推定システムにおいて、前記積算値と前記残容量変化量を含む精度パラメータに基づいて、前記容量演算手段で演算された容量の精度を推測する精度推測手段を備える、ことを特徴とする。
【0016】
請求項
5に記載の発明は、請求項
1から4に記載の電池容量推定システムにおいて、前記計測記憶手段で計測、記憶されている前記計測データに基づいて、前記サンプリング期間の条件を所定期間満した時点でサンプル取得可能信号を出力するサンプル取得監視手段を備える、ことを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、電池の満充電時の容量を推定する電池容量推定方法であって、充電後、放電後および所定期間充放電が行われない待機後における、前記電池の開放電圧と残容量との関係を示す残容量データを記憶する特性記憶工程と、前記電池の運用中における開放電圧および充放電電流を計測し、時系列に計測データとして記憶する計測記憶工程と、所定の充放電が行われたサンプリング期間を前記計測データから抽出するサンプル抽出工程と、前記サンプル抽出工程で抽出したサンプリング期間よりも前の所定期間において、充電が行われた場合には、前記特性記憶手段から前記充電後における残容量データを取得し、放電が行われた場合には、前記特性記憶手段から前記放電後における残容量データを取得し、充放電が行われない待機であった場合には、前記特性記憶手段から前記待機後における残容量データを取得し、該残容量データと前記計測記憶工程で記憶された前記サンプリング期間における充放電開始前の開放電圧とに基づいて、充放電開始前の残容量を開始前残容量として取得するとともに、前記サンプリング期間において充電が行われたか放電が行われたかに基づいて、前記特性記憶工程で記憶した残容量データの中から該当する残容量データを取得し、該残容量データと前記計測記憶工程で記憶された前記サンプリング期間における充放電終了後の開放電圧とに基づいて、充放電終了後の残容量を終了後残容量として取得する残容量取得工程と、前記計測記憶工程で記憶された充放電電流に基づいて前記サンプリング期間における充放電電流の積算値を演算し、前記開始前残容量と前記終了後残容量との差である残容量変化量と、前記積算値とに基づいて前記電池の満充電時の容量を演算する容量演算工程と、を備え
、前記サンプリング期間よりも前の所定期間は、該期間内に充電されたか放電されたかによって残容量が影響される期間に設定されている、ことを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、電池の満充電時の容量を推定する電池容量推定プログラムであって、コンピュータを、充電後、放電後および所定期間充放電が行われない待機後における、前記電池の開放電圧と残容量との関係を示す残容量データを記憶する特性記憶手段と、前記電池の運用中における開放電圧および充放電電流を時系列に計測データとして記憶する計測記憶手段と、所定の充放電が行われたサンプリング期間を前記計測データから抽出するサンプル抽出手段と、前記サンプル抽出手段で抽出したサンプリング期間よりも前の所定期間において、充電が行われた場合には、前記特性記憶手段から前記充電後における残容量データを取得し、放電が行われた場合には、前記特性記憶手段から前記放電後における残容量データを取得し、充放電が行われない待機であった場合には、前記特性記憶手段から前記待機後における残容量データを取得し、該残容量データと前記計測記憶手段に記憶された前記サンプリング期間における充放電開始前の開放電圧とに基づいて、充放電開始前の残容量を開始前残容量として取得するとともに、前記サンプリング期間において充電が行われたか放電が行われたかに基づいて、前記特性記憶手段から該当する残容量データを取得し、該残容量データと前記計測記憶手段に記憶された前記サンプリング期間における充放電終了後の開放電圧とに基づいて、充放電終了後の残容量を終了後残容量として取得する残容量取得手段と、前記計測記憶手段に記憶された充放電電流に基づいて前記サンプリング期間における充放電電流の積算値を演算し、前記開始前残容量と前記終了後残容量との差である残容量変化量と、前記積算値とに基づいて前記電池の満充電時の容量を演算する容量演算手段、として機能させ
、前記サンプリング期間よりも前の所定期間は、該期間内に充電されたか放電されたかによって残容量が影響される期間に設定されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1、請求項
6および請求項7に記載の発明によれば、電池を運用、使用して得られた計測データ中のサンプリング期間に基づいて、電池の満充電時の容量を演算、推定するため、容量推定のために別途充放電を行う必要がない。つまり、通常の電池運用を継続しているだけで、電池の容量を推定でき、電池の運用、使用に影響を与えない。
【0020】
しかも、充電後および放電後における残容量データを記憶し、サンプリング期間よりも前の所定期間における充放電状況や、サンプリング期間における充放電状況に従って残容量データを使い分ける。このため、充電されたか放電されたかによる適正な残容量データに基づいて、適正な開始前残容量と終了後残容量とを取得して、電池の容量を適正・正確に推定することが可能となる。
【0021】
また、サンプリング期間よりも前の所定期間が待機(充電も放電も行われない状態)であった場合には、待機後における残容量データに基づいて開始前残容量を取得するため、待機の場合でも電池の容量を適正・正確に推定することが可能となる。
【0022】
請求項
2に記載の発明によれば、サンプリング期間における周囲温度に該当する温度の残容量データに基づいて、開始前残容量と終了後残容量とを取得するため、電池の容量をより適正・正確に推定することが可能となる。
【0023】
請求項
3に記載の発明によれば、先に演算された容量や外部入力された容量に該当する容量の残容量データに基づいて、開始前残容量と終了後残容量とを取得するため、電池の容量をより適正・正確に推定することが可能となる。
【0024】
請求項
4に記載の発明によれば、例えば、積算値や残容量変化量が大きい場合には、演算された容量の精度が高いと推測される。このため、推定された容量の信頼性、利便性を高めることが可能となる。例えば、精度が高いと推測された場合には、推定された容量を電池取替や保守の要否判定などに利用することが可能となる。
【0025】
請求項
5に記載の発明によれば、サンプリング期間の条件を所定期間満した時点でサンプル取得可能信号が出力されるため、確実・的確にサンプリング期間を取得して確実に容量推定を行うことが可能となる。例えば、通常であれば充電を終了する場合であっても、サンプル取得可能信号が出力された際には充電を継続することで、確実にサンプリング期間を取得することができ、その結果、確実に容量推定を行うことが可能となる。このようにして、電池の運用を継続しながら、確実に容量推定も継続することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0028】
図1は、この発明の実施の形態に係る電池容量推定システム1を示す概略構成ブロック図、
図2は、電池容量推定システム1を含む電池101の運用系統を示す図であり、この電池容量推定システム1は、電池(蓄電池・二次電池)101の満充電時の容量を推定するシステムである。ここで、この実施の形態では、電池101がリチウムイオン二次電池で構成され、計測および容量推定の対象は、単位電池であるセル、セルを複数接続したモジュール、あるいはモジュールを複数接続した組電池など、いずれの形態であってもよい。
【0029】
また、電池101は、
図2に示すように、制御装置を備えた充電器102を介して、商用電源103および電気自動車104に接続されサイクル運用される。すなわち、所定時(例えば、夜間)に商用電源103からの電力が充電器102を介して供給されて、電池101が充電され、所定時(例えば、昼間)に電池101が放電して、その電力が充電器102を介して電気自動車104に供給される。さらに、所定時(例えば、夜間)に商用電源103からの電力が充電器102を介して電気自動車104に供給される。また、この実施の形態では、電池101を最適運用して劣化、容量低下を防止するために、SOC(残容量、充電状態)を所定範囲内(例えば、30〜60%)で運用することを通常制御とする。
【0030】
電池容量推定システム1は、
図1に示すように、主として、特性データベース(特性記憶手段)2と、計測記憶装置(計測記憶手段)3と、容量推定部4と、取得監視部(サンプル取得監視手段)5と、メモリ6と、を備えている。
【0031】
特性データベース2は、電池101のOCV(開放電圧)とSOCとの関係を示す残容量データを記憶するデータベースである。すなわち、
図3に示すように、充電後、放電後および、所定期間充電も放電も行われない期間の後である待機後おける、各OCV値に対応するSOC値を示す特性カーブ(残容量データ)C1〜C3を記憶する。ここで、C1は充電後の特性カーブ、C2は放電後の特性カーブ、C3は待機後の特性カーブを示し、待機後の特性カーブC3は、充電後の特性カーブC1と放電後の特性カーブC2との中間的な値となっている。
【0032】
さらに、電池101の温度(あるいは周囲温度)と電池101の満充電時の容量に関連付けて、特性カーブC1〜C3が記憶されている。すなわち、所定の温度ごと(例えば、0℃以上10℃未満、10℃以上20℃未満、20℃以上30℃未満)の特性カーブC1〜C3や、所定の容量ごと(例えば、初期容量の50%未満、初期容量の50%以上80%未満、初期容量の80%以上)の特性カーブC1〜C3が記憶されている。さらに、所定の温度および容量における特性カーブC1〜C3が記憶されている。例えば、温度が10℃以上20℃未満で容量が50%以上80%未満における特性カーブC1〜C3が記憶されている。
【0033】
計測記憶装置3は、電池101の運用中における電圧(開放電圧)、充放電電流および周囲温度を常時リアルタイムに計測し、時系列に計測データとして記憶する装置である。すなわち、
図1に示すように、計測器31とデータロガー32とを備え、計測器31によって電池101の電圧値(OCV値)や周囲温度値、充放電時の電流値を計測し、その計測結果を時系列・経時的に計測データとしてデータロガー32に記憶する。ここで、電池101の周囲温度には、電池101の周囲環境の温度や電池101自体の温度、あるいは電池101が設置されている地域の温度も含まれる。つまり、電池101の温度とほぼ同温とみなせる温度を意味し、計測器31は、直接温度を計測するのに代えて、気象情報システムから温度を受信、取得することで計測するようにしてもよい。
【0034】
容量推定部4は、電池101の満充電時の容量を推定演算するタスク・プログラムであり、CPU(中央処理装置)に内蔵され、抽出部(サンプル抽出手段)41と、残容量取得部(残容量取得手段)42と、容量演算部(容量演算手段)43と、精度推測部(精度推測手段)44と、を備えている。ここで、充電および放電のどちらによっても、同様にして容量を推定演算することができるが、以下には、主として放電の場合について説明する。また、電池101の初期の満充電時の容量(初期容量)を100Ah程度とする。
【0035】
抽出部41は、所定の充放電が行われたサンプリング期間を、データロガー32に記憶された計測データから抽出するものである。ここで、所定の充放電とは、容量の推定を適正に行える大きさ(Ah)の充放電を意味する。すなわち、
図4(a)に示すように、所定値以上の放電電流で所定時間以上の放電が行われた放電期間T1を、計測データから抽出する。さらに、
図4(b)に示すように、その放電期間T1の前後において所定期間T2、T3放電も充電も行われない期間を、サンプリング期間TSとして計測データから抽出する。
【0036】
具体的には、
図5に示すように、まず、放電電流が1A以上で継続する放電区間があるか否かを計測データから判断し(ステップS1)、ある場合には、計測データから放電区間を切り出し、放電開始時刻Psと放電終了時刻Peとを定める(ステップS2)。この際、1分以内の中断は継続とみなす。次に、この放電区間において、放電電流が10A以上で10分以上継続しているか否かを判断する(ステップS3)。この際、1分以内の中断は継続とみなす。
【0037】
続いて、継続する場合に、この放電区間(T1)の放電開始時刻Psよりも前に1時間(T2)以上充電も放電も行われていないか否か(充放電電流が0.5A未満か)を判断する(ステップS4)。その結果、充放電が停止している場合には、放電終了時刻Peの後に1時間(T3)以上充電も放電も行われていないか否か(充放電電流が0.5A未満か)を判断する(ステップS5)。そして、このような条件を満たす期間をサンプリング期間TSとして抽出する(ステップS6)。
【0038】
このように、この実施の形態では、サンプリング期間TSは、放電前の安定期間T2と放電期間T1と放電後の安定期間T3とを含む。このように安定期間T2、T3を含むのは、電池101が安定した状態で適正な開放電圧、残容量を取得して、適正な容量推定を行うためであり、適正な開放電圧、残容量が得られるように安定期間T2、T3が設定されている。また、サンプリング期間TSにおける充放電の大きさ(Ah)に応じて、安定期間T2、T3の長さを変更してもよい。
【0039】
残容量取得部42は、抽出部41で抽出したサンプリング期間TSにおける、充放電開始前の残容量である放電前SOC(開始前残容量)と、充放電終了後の残容量である放電後SOC(終了後残容量)とを取得するものである。まず、サンプリング期間TSよりも前の所定期間T4において、充電が行われたか、放電が行われたか、充放電が行われない待機かに基づいて、特性データベース2から該当する特性カーブC1〜C3を取得する。つまり、充電が行われた場合には充電後の特性カーブC1、放電が行われた場合には放電後の特性カーブC2、待機の場合には待機後の特性カーブC3を取得する。
【0040】
ここで、所定期間T4は、所定期間T4以上前であれば、充電や放電による残容量(放電前SOC)への影響が低いと考えられる期間に設定されている。つまり、所定期間T4内に充電または放電が行われた場合には、充電されたか放電されたかによって放電前SOC(特性カーブ)が影響され、所定期間T4よりも前に充電または放電が行われた場合には、充電されたか放電されたかによって放電前SOCが影響されない(低い)ように、所定期間T4が設定されている。また、サンプリング期間TSよりも先に行われた充放電の大きさ(Ah)に応じて、所定期間T4の長さを変更してもよい。
【0041】
また、特性カーブC1〜C3を取得する際に、データロガー32に記憶されたサンプリング期間TS(放電区間T1)における周囲温度に該当する特性カーブC1〜C3を、特性データベース2から取得する。例えば、サンプリング期間TSの周囲温度が25℃の場合、20℃以上30℃未満の特性カーブC1〜C3を取得する。さらに、先に推定演算された容量が後述するメモリ6に記憶されている場合や、外部から容量が入力された場合には、この容量に該当する特性カーブC1〜C3を特性データベース2から取得する。例えば、先に推定演算された容量が75%の場合、初期容量の50%以上80%未満の特性カーブC1〜C3を取得する。周囲温度と容量の組み合わせの場合も、同様に該当する特性カーブC1〜C3を取得する。
【0042】
次に、取得した特性カーブC1〜C3と、データロガー32に記憶されたサンプリング期間TSにおける充放電開始前の開放電圧とに基づいて、放電前SOCを取得する。すなわち、放電開始前のOCVに対応するSOCを特性カーブC1〜C3から取得する。具体的には、放電開始時刻Psの1分前の開放電圧を放電前電圧としてデータロガー32から取得し(ステップS7)、特性カーブC1〜C3(OCV−SOC特性データ)に基づいてこの放電前電圧に対応するSOCを放電前SOCとして取得する(ステップS8)。
【0043】
同様にして放電後SOCを取得する。すなわち、サンプリング期間TSにおいて充電が行われたか放電が行われたかに基づいて、特性データベース2から該当する特性カーブC1〜C3を取得する。ここでは、放電後の特性カーブC2を取得する。この際、放電前SOCの場合と同様に、データロガー32に記憶されたサンプリング期間TSにおける周囲温度に該当する特性カーブC1〜C3や、先に推定演算された容量などに該当する特性カーブC1〜C3を特性データベース2から取得する。
【0044】
次に、取得した特性カーブC1〜C3と、データロガー32に記憶されたサンプリング期間TSにおける充放電終了後の開放電圧とに基づいて、放電後SOCを取得する。すなわち、放電終了後のOCVに対応するSOCを特性カーブC1〜C3から取得する。具体的には、放電終了時刻Peの1時間後の開放電圧を放電後電圧としてデータロガー32から取得し(ステップS9)、特性カーブC1〜C3(OCV−SOC特性データ)に基づいてこの放電後電圧に対応するSOCを放電後SOCとして取得する(ステップS10)。
【0045】
容量演算部43は、サンプリング期間TSにおける充放電電流の積算値と、開始前残容量と終了後残容量との差である残容量変化量とに基づいて、電池101の満充電時の容量を演算するものである。すなわち、まず、放電前SOCから放電後SOCを差し引いて残容量変化量を算出し(ステップS11)、データロガー32に記憶された各時の放電電流値Iに基づいて、サンプリング期間TS(放電区間T1)における放電電流値を時間的に積算して放電電流積算値TIを演算する(ステップS12)。次に、残容量変化量(%)と放電電流積算値(Ah)に基づいて、次式に従って電池の満充電時の容量(Ah)を演算する(ステップS13)。
容量=放電電流積算値/残容量変化量×100
【0046】
精度推測部44は、上記の積算値と残容量変化量を含む精度パラメータに基づいて、容量演算部43で演算された容量の精度を推測するものである。すなわち、放電電流積算値や残容量変化量が大きい場合には、誤差が軽減されて容量演算部43で演算された容量の精度が高くなる。このため、放電電流積算値や残容量変化量の大きさに従って、推定容量(推定値)の精度が高いか、低いか、あるいは%表示で推測する(ステップS14)。ここで、温度によって推定容量の精度が影響する場合には、サンプリング期間TSにおける周囲温度も精度パラメータに含めて精度を推測する。例えば、20℃における精度が高い場合、周囲温度と20℃との温度差に従って精度が高いか、低いかなどを推測する。
【0047】
そして、このようにして演算した電池101の満充電時の容量や精度を、サンプリング期間TS(放電区間T1)の日時などとともにメモリ6に記憶する(ステップS15)。
【0048】
取得監視部5は、計測記憶装置3で計測、記憶されている計測データに基づいて、サンプリング期間TSの条件を所定期間満した時点でサンプル取得可能信号を出力するタスク・プログラムであり、CPU(中央処理装置)に内蔵されている。すなわち、計測データを常時監視し、あと少しでサンプリング期間TSに達すると予測される時点でサンプル取得可能信号を出力する。
【0049】
例えば、放電電流が10A以上で10分以上継続して所定量の放電が行われ、その後、30分間充電も放電も行われていない時点(あと30分でサンプリング期間TSに達する時点)でサンプル取得可能信号を出力する。あるいは、充電を行っている場合に、あと数分の充電継続で所定量の充電が行われてサンプリング期間TSを満たす可能性がある場合には、充電状態(SOC)が60%を超えて通常制御から外れる場合でも、サンプル取得可能信号を出力する。ここで、この実施の形態では、電池101の充放電を制御する充電器102にサンプル取得可能信号を出力する。
【0050】
次に、このような構成の電池容量推定システム1の作用および、電池容量推定システム1による電池容量推定方法について説明する。
【0051】
まず、特性データベース2に特性カーブC1〜C3を記憶し(特性記憶工程)、電池101を運用、使用して充電や放電を行っている状態において、計測記憶装置3で電池101の開放電圧(電圧値)および充放電電流(電流値)を計測し、時系列に計測データとして記憶する(計測記憶工程)。そして、所定の推定タイミングで(例えば、定期的に、任意に、あるいは、取得監視部5でサンプル取得可能信号を出力する度に)容量推定部4を起動し、抽出部41によって計測データから、所定の充放電が行われたサンプリング期間TSを抽出する(サンプル抽出工程)。
【0052】
次に、残容量取得部42によって充放電の開始前残容量と終了後残容量とを取得する(残容量取得工程)。この際、サンプリング期間TSよりも前の所定期間T4における充放電状況(充電されたか放電されたか、あるいは待機か)、サンプリング期間TSの周囲温度、容量に該当する特性カーブC1〜C3に基づいて開始前残容量を取得し、サンプリング期間TSにおける充放電状況(充電されたか放電されたか)、周囲温度、容量に該当する特性カーブC1〜C3に基づいて終了後残容量を取得する。
【0053】
続いて、容量演算部43によって、サンプリング期間TSにおける充放電電流の積算値と残容量変化量とに基づいて、電池101の満充電時の容量を演算する(容量演算工程)。さらに、精度推測部44によって演算された容量の精度を推測する(精度推測工程)。
【0054】
一方、取得監視部5によって計測データを常時監視し、サンプリング期間TSの条件を所定期間満した場合に、その時点でサンプル取得可能信号を充電器102に出力するものである。
【0055】
以上のように、この電池容量推定システム1によれば、電池101を運用、使用して得られた計測データ中のサンプリング期間TSに基づいて、電池101の満充電時の容量を演算、推定するため、容量推定のために別途充放電を行う必要がない。つまり、通常の電池運用を継続しているだけで、電池101の容量を推定でき、電池101の運用、使用に影響を与えない。
【0056】
しかも、充電後、放電後および待機後における特性カーブC1〜C3を記憶し、サンプリング期間TSよりも前の所定期間T4における充放電状況(充電されたか放電されたか、あるいは待機か)や、サンプリング期間TSにおける充放電状況(充電されたか放電されたか)に従って特性カーブC1〜C3を使い分ける。このため、充電されたか放電されたか待機かによる適正な特性カーブC1〜C3に基づいて、適正な開始前残容量と終了後残容量とを取得して、電池101の容量を適正・正確に推定することが可能となる。
【0057】
また、サンプリング期間TSにおける周囲温度に該当する温度の特性カーブC1〜C3に基づいて、開始前残容量と終了後残容量とを取得するため、電池101の容量をより適正・正確に推定することが可能となる。さらに、先に演算された容量や外部入力された容量に該当する容量の特性カーブC1〜C3に基づいて、開始前残容量と終了後残容量とを取得するため、電池101の容量をより適正・正確に推定することが可能となる。すなわち、OCVとSOCとの関係は、温度や電池容量によって変化するが、温度や電池容量に応じた特性カーブC1〜C3を使用することで、電池101の容量を適正・正確に推定することが可能となる。
【0058】
また、充放電電流の積算値や残容量変化量、サンプリング期間TSにおける周囲温度などに基づいて、演算された容量の精度が推測されるため、推定された容量の信頼性、利便性を高めることが可能となる。例えば、精度が高いと推測された場合には、推定された容量を電池取替や保守の要否判定などに利用することが可能となる。また、精度が低いと推測された場合には、次に容量推定部4を起動すべきタイミング・頻度の判断などに利用することが可能となる。
【0059】
一方、サンプリング期間TSの条件を所定期間満した時点で、サンプル取得可能信号が充電器102に出力されるため、確実・的確にサンプリング期間TSを取得して確実に容量推定を行うことが可能となる。例えば、通常であれば充電を終了する場合であっても、サンプル取得可能信号が出力された際には充電を継続することで、確実にサンプリング期間TSを取得することができ、その結果、確実に容量推定を行うことが可能となる。このようにして、電池101の運用を継続しながら、確実に容量推定も継続することが可能となる。
【0060】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、サンプリング期間TSに安定期間T2、T3を含めているが、充放電の大きさや要求精度などに応じて安定期間T2、T3を含めなくてもよく、また、安定期間T2、T3を上記以外の時間に設定してもよい。また、推定する容量としてAhを演算しているが、初期容量に対する%を演算してもよい。さらに、容量推定に使用しないデータをデータロガー32から削除したり、容量推定後にデータをデータロガー32から削除したりしてもよい。また、電池101がリチウムイオン二次電池の場合について説明したが、シール型鉛蓄電池などその他の電池にも適用できることは、勿論である。
【0061】
ところで、電池容量推定システム1に代えて、次のような電池容量推定プログラムを汎用のコンピュータにインストールすることで、電池101の満充電時の容量を推定するようにしてもよい。すなわち、コンピュータを、
充電後、放電後および待機後における、電池101の開放電圧と残容量との関係を示す残容量データ(特性カーブC1〜C3)を記憶する特性記憶手段(特性データベース2)と、
電池101の運用中における開放電圧および充放電電流を時系列に計測データとして記憶する計測記憶手段(データロガー32)と、
所定の充放電が行われたサンプリング期間TSを計測データから抽出するサンプル抽出手段(抽出部41)と、
サンプル抽出手段で抽出したサンプリング期間TSよりも前の所定期間T4において、充電が行われたか放電が行われたか待機かに基づいて、特性記憶手段から該当する残容量データを取得し、該残容量データと計測記憶手段に記憶されたサンプリング期間TSにおける充放電開始前の開放電圧とに基づいて、充放電開始前の残容量を開始前残容量として取得するとともに、サンプリング期間TSにおいて充電が行われたか放電が行われたかに基づいて、特性記憶手段から該当する残容量データを取得し、該残容量データと計測記憶手段に記憶されたサンプリング期間TSにおける充放電終了後の開放電圧とに基づいて、充放電終了後の残容量を終了後残容量として取得する残容量取得手段(残容量取得部42)と、
計測記憶手段に記憶された充放電電流に基づいてサンプリング期間TSにおける充放電電流の積算値を演算し、開始前残容量と終了後残容量との差である残容量変化量と、積算値とに基づいて電池101の満充電時の容量を演算する容量演算手段(容量演算部43)と、
積算値と残容量変化量を含む精度パラメータに基づいて、容量演算手段で演算された容量の精度を推測する精度推測手段(精度推測部44)、
として機能させるための電池容量推定プログラム。