(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負圧発生部は、前記穿刺部材の内腔に摺動可能に挿入され前記穿刺部材の基端側へ摺動することによって前記穿刺部材の先端開口部を介して前記空間部に吸引圧を作用させる弁体を有する、請求項2に記載の医療器具。
前記筒状部材は、当該筒状部材が前記穿刺部位から抜け出るのを防止する係止力を前記生体管腔の管壁に作用させる抜け防止部を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療器具。
前記筒状部材は、当該筒状部材の延在方向の異なる位置にそれぞれ配置され、前記生体管腔の管壁の内面および前記生体管腔の管壁の外面に対してそれぞれ係止される複数の前記抜け防止部を有する、請求項5に記載の医療器具。
前記穿刺部材の内腔において前記筒状部材が収容された位置よりも基端側に収容され、径方向外方へ拡張変形および収縮変形可能に構成されるとともに前記筒状部材と連結可能に構成された連結用筒状部材をさらに有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の医療器具。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1は、実施形態に係る医療器具を示す概観斜視図、
図2は、
図1に示す2A−2A線に沿う医療器具の断面図、
図3は、医療器具に備えられるリンパ管側筒状部材および静脈側筒状部材を示す斜視図、
図4は、医療器具を使用した手技の各手順を示す図、
図5は、手技において患部を切開する際の手順を模式的に示す図、
図6〜
図10は、医療器具を使用した手技例を説明するための図である。
【0012】
本実施形態に係る医療器具10は、リンパ浮腫に罹患した患者のリンパ管Lと静脈Pとを接合(バイパス)することにより、リンパ浮腫の治療および症状の緩和を図ることを可能にするリンパ浮腫治療用の医療器具として構成されている(
図10(A)、(B)を参照)。
【0013】
図1および
図2に示すように、医療器具10は、概説すると、生体管腔の管壁に対して穿刺可能な針先107を備える穿刺部材100と、リンパ管Lと静脈Pを接合するための接合用の部材として用いられるリンパ管側筒状部材(筒状部材に相当する)130および静脈側筒状部材(連結用筒状部材に相当する)140と、穿刺部材100内に収容した各筒状部材130、140の移動を操作するための押し子150と、を有している。
【0014】
後述するように、医療器具10を使用した手技においては、穿刺部材100および押し子150を操作することにより、リンパ管Lにリンパ管側筒状部材130を固定した状態で留置する(
図8(A)を参照)。そして、静脈Pに静脈側筒状部材140を固定する処置を行った後、各筒状部材130、140同士を連結させることにより、リンパ管Lと静脈Pとを接合する(
図10(B)を参照)。リンパ管Lと静脈Pを接合することにより、リンパ管Lから静脈Pに向かうリンパの流れを誘起することが可能になる。その結果、リンパ浮腫の治療および症状の緩和を図ることができる。なお、明細書の説明においては、接合対象となるリンパ管Lおよび静脈Pを総称して生体管腔と称する。
【0015】
まず、医療器具10の各部の構成について詳述する。
【0016】
医療器具10の説明においては、穿刺部材100の針先107が形成された側(
図2の下側)を先端側とし、穿刺部材100の針先107が形成された側と反対側(
図2の上側)を基端側とし、穿刺部材100の延在方向(
図2の上下方向)を軸方向とする。各図に付されたX軸は、医療器具10の幅方向を示し、Y軸は医療器具10の軸方向を示す。また、Z軸は、X軸とY軸がなす平面に対して直交する方向を示す。
【0017】
図1および
図2に示すように、穿刺部材100は、当該穿刺部材100の軸方向に延在する内腔101と、内腔101の先端側に連なる先端開口部103と、内腔101の基端側に連なる基端開口部105とが形成された中空状の部材により構成している。また、穿刺部材100の最先端に位置する先端開口部103の開口端は、生体管腔の管壁に穿刺可能な針先107を構成している。
【0018】
穿刺部材100の針先107は、先端側からの正面視において、円形に形成している。このため、針先107をリンパ管Lに穿刺して形成される穿刺部位(穿孔)tは、正面視において円形に形成される。また、穿刺部位tに対して固定されるリンパ管側筒状部材130は、穿刺部位t内に挿入することが可能となるように、軸直交断面の形状が円形をなす略円筒状の外形形状に形成している(
図3(A)、(B)を参照)。なお、針先107の断面形状、鋭さ(穿刺性)、および外径等は、リンパ管側筒状部材130を固定することが可能な穿刺部tを形成し得る限りにおいて特に限定されることはない。
【0019】
穿刺部材100は、例えば、生体適合性を備える公知の樹脂材料や金属材料により構成することができる。また、穿刺部材100は、針先107の穿刺性がある程度確保されるように、所定の硬度を有するように構成されていることが好ましい。穿刺部材100の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体,テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体,テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体,PVDF(ポリビニリデンフルオライド,ポリクロロトリフルオロエチレン,クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体や紫外線硬化樹脂等の樹脂材料、SUS、NiTi、CoCrなどの金属材料、ガラス、セラミックスなどを使用することができる。なお、穿刺部材100を樹脂材料により構成する場合、穿刺部材100の内部を外部から視認可能となるようにして手技の効率性を向上させるために、穿刺部材100を透明または半透明に形成することが好ましい。
【0020】
図2に示すように、医療器具10を使用する際には、穿刺部材100の内腔101に、先端側から順に、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140を配置する。また、穿刺部材100の内腔101には、押し子150と、後述する負圧発生部180とを挿通させる。穿刺部材100の外周には、当該穿刺部材100を覆わせるように所定の外筒170を配置する。
【0021】
押し子150は、棒状の本体部151と、本体部151の先端に配置され、各筒状部材130、140を先端側へ移動させる押圧力を付与する押し込み部153と、を備えている。医療器具10を使用する使用者(術者等)は、本体部151を手指等により把持して押し子150を前進移動させることにより、各筒状部材130、140を穿刺部材100の先端側へ前進移動させて、内腔101から各筒状部材130、140を押し出す操作(排出する操作)を行うことができる。
【0022】
図2に示すように、リンパ管側筒状部材130は、リンパ管Lに固定される前は、穿刺部材100の内腔101に収縮した状態で収容される。同様に、静脈側筒状部材140は、静脈Lに固定される前は、穿刺部材100の内腔101に収縮した状態で収容される。
【0023】
図3(A)、(B)には、収縮した状態および拡張した状態のリンパ管側筒状部材130が示される。
【0024】
リンパ管側筒状部材130は、内腔131と、内腔131を囲む側壁138と、内腔131の先端側に連なる先端開口部133と、内腔131の基端側に連なる基端開口部135と、側壁138を切り開いて形成した一対の分離端139a、139bと、を備える中空状の部材により構成している。
【0025】
リンパ管側筒状部材130は、穿刺部材100の内腔101内に収容される際、内腔101に押し込まれると、分離端139a、139bを互いに重ねるように変形し、全体の形状を収縮(縮径)させる。また、リンパ管側筒状部材130は、穿刺部材100の内腔101から放出される際、穿刺部材100の内面による拘束が解かれることで、分離端139a、139b同士を互いに離反移動させるように変形し、全体の形状を拡張(拡径)させる。
【0026】
上記のように、リンパ管側筒状部材130の側壁138を切り開いて分離端139a、139bを形成しているため、穿刺部材100の内腔101へ挿入する際、および穿刺部材100の内腔101から放出させる際に、リンパ管側筒状部材130を円滑に拡張変形および収縮変形させることが可能になる。
【0027】
図3(C)、
図3(D)には、収縮した状態および拡張した状態の静脈側筒状部材140が示される。
【0028】
静脈側筒状部材140は、内腔141と、内腔141を囲む側壁148と、内腔141の先端側に連なる先端開口部143と、内腔141の基端側に連なる基端開口部145と、側壁148を切り開いて形成した一対の分離端149a、149bと、を備える中空状の部材により構成している。
【0029】
静脈側筒状部材140は、リンパ管側筒状部材130と同様に、穿刺部材100の内腔101に収容される際、分離端149a、149bを互いに重ねるように変形し、全体の形状を収縮させる。また、穿刺部材100の内腔101から放出される際、穿刺部材100の内面による拘束が解かれることで、分離端149a、149b同士を互いに離反移動させるように変形し、全体の形状を拡張させる。このため、穿刺部材100の内腔101へ挿入する際、および穿刺部材100の内腔101から放出する際に、静脈側筒状部材140を円滑に拡張変形および収縮変形させることが可能になっている。
【0030】
図10(A)に示すように、リンパ管側筒状部材130は、リンパ管Lに留置される際、リンパ管Lに形成した穿刺部位tに挿入される。リンパ管側筒状部材130は、穿刺部位tに挿入された状態で拡張変形力を作用させることにより、穿刺部位tの内面に密着して固定される。一方、静脈側筒状部材140は、静脈Pの管腔P11に挿入される。静脈側筒状部材140は、静脈Pの管腔P11に挿入された状態で拡張変形力を作用させることにより、静脈Pの内面に密着して固定される。
【0031】
図10(B)に示すように、リンパ管Lと静脈Pとを接合する際には、リンパ管Lに形成した穿刺部tから露出されるリンパ管側筒状部材130の基端部を、静脈Pの管腔P11内に挿入した静脈側筒状部材140の内腔141内に挿入する。この作業により、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140が機械的に連結される。リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140とを連結させる簡単な作業により、リンパ管Lと静脈Pを接合させることができる。
【0032】
図3(D)に示す拡張変形後における静脈側筒状部材140の内腔の径(内径)d2は、
図3(B)に示す拡張変形後におけるリンパ管側筒状部材130の外径d1よりも大きくなるように形成されていることが好ましい。
【0033】
静脈側筒状部材140の内径d2とリンパ管側筒状部材130の外径d1とが上記のような寸法関係で形成されていると、リンパ管側筒状部材130を静脈側筒状部材140の内腔141に挿入してリンパ管Lと静脈Pを接合する際に、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140との間で静脈Pの管壁P12が挟み込まれるのを防止することができる(
図10(B)を参照)。これにより、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140を円滑に連結させることが可能になる。ただし、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140の連結力は、リンパ管側筒状部材130の外面と静脈側筒状部材140の内面との間で作用する摩擦力により基本的に左右されるため、リンパ管側筒状部材130の外径d1を静脈側筒状部材140の内径d2よりも極端に小さくすることは好ましくない。上記のような点を考慮して、拡張変形後におけるリンパ管側筒状部材130の外径d1は、例えば、0.2〜1.5mm、さらに好ましくは0.3〜0.7mmに形成することができ、拡張変形後における静脈側筒状部材140の内径d2は、例えば、0.2〜1.5mm、さらに好ましくは0.3〜0.7mmに形成することができる。
【0034】
なお、リンパ管側筒状部材130は側壁138の一部が切り開かれているため、穿刺部材100の内腔101に収容された状態やリンパ管Lに固定されていない状態では、拡張変形した際の軸直交断面の形状が真円にならないことがある。同様に、静脈側筒状部材140は側壁148の一部が切り開かれているため、穿刺部材100の内腔101に収容された状態や静脈Pに固定されていない状態では、拡張変形した際の軸直交断面の形状が真円にならないことがある。このような場合は、リンパ管側筒状部材130において最も径方向外方へ広がった部分の側壁138の外寸(側壁138の外表面間の距離)を外径d1と規定し、静脈側筒状部材140において最も径方向外方へ広がった部分の側壁138の内寸(側壁148の内表面間の距離)を内径d2と規定することができる。
【0035】
リンパ管側筒状部材130のその他の各部の寸法(長さ寸法、収縮状態の内径、外径等)、静脈側筒状部材140のその他の各部の寸法(長さ寸法、収縮状態の内径、外径等)、および変形前後における各筒状部材130、140の外形形状等は、生体管腔に対して固定が可能である限りにおいて特に制限はない。
【0036】
図3(A)、
図3(B)に示すように、リンパ管側筒状部材130には、リンパ管Lに形成した穿刺部位tからの抜けを防止する抜け防止部137を設けている。
【0037】
抜け防止部137は、側壁138から径方向外方へ突出した形状を有する凸部により構成している。
図10(A)に示すように、抜け防止部137は、リンパ管Lに形成した穿刺部位t内にリンパ管側筒状部材130を挿入した状態において、リンパ管Lの管壁L12の内面L12b側に配置される。
【0038】
抜け防止部137は、リンパ管側筒状部材130に対して穿刺部位tから抜け出る方向の力(図中の上向きの力)が不用意に作用するような場合に、当該抜け防止133の上面をリンパ管Lの管壁L12の内面L12bに当接させる。抜け防止部137は、この当接により、管壁L12に対してリンパ管側筒状部材130が抜け出るのを防止する係止力を作用させる。このように、リンパ管側筒状部材130に抜け防止部137を設けることにより、リンパ管Lに対してリンパ管側筒状部材130が固定された状態をより安定的に維持することが可能になる。
【0039】
なお、リンパ管側筒状部材130が拡張した際にリンパ管Lに作用させる拡張力は、例えば、リンパ管Lに対して密着して固定される状態を維持しつつ、リンパ管Lを損傷させることのない程度の大きさに設定することができる。同様に、静脈側筒状部材140が拡張した際に静脈Pに作用させる拡張力は、例えば、静脈Pに対して密着して固定される状態を維持しつつ、静脈Pを損傷させることのない程度の大きさに設定することができる。
【0040】
本実施形態においては、抜け防止部137は、リンパ管側筒状部材130の一部に径方向外方へ突出した形状を付加することにより、リンパ管側筒状部材130に一体的に形成しているが、例えば、抜け防止部137は、後述する改変例等において説明するように、リンパ管側筒状部材130とは別部材で、かつ、異なる材料で構成することも可能である。ただし、本実施形態のように、リンパ管側筒状部材130に形状を付加して抜け防止部137を備えさせる場合、抜け防止部137の製造が容易なものとなるうえに、リンパ管側筒状部材130の構造が複雑になるのを抑えることができるため、製造工程の簡易化や製造コストの削減を図ることが可能になる。
【0041】
抜け防止部137は、例えば、
図3(B)や
図10(A)に示すように、上面側が下面側に向けてテーパー状に傾斜し、下面側が上面側に向けてテーパー状に傾斜する略三角形の断面形状を有するように形成することが可能である。このような断面形状で抜け防止部137を形成しているため、リンパ管側筒状部材130を穿刺部材100の内腔101内で移動させる際に、穿刺部材100の内面との間で作用する摺動抵抗を低減することができ、リンパ管側筒状部材130の移動を円滑に行うことが可能になる。なお、抜け防止部137の断面形状は図示した形状に限定されることはなく、適宜変更することが可能である。また、リンパ管側筒状部材130が拡張変形した際における径方向外方への突出長さ(突出した部分の寸法)や、リンパ管側筒状部材130において設けられる位置等も特に限定されることはなく、適宜変更することが可能である。
【0042】
前述したように、リンパ管側筒状部材130は、拡張変形した際に穿刺部位tに対して拡張変形力(押圧力)を作用させることにより、穿刺部位tに固定される。このような拡張力を利用した固定を行うことが可能となるように、リンパ管側筒状部材130には、例えば、穿刺部材100からの放出に伴って自己拡張する自己拡張性を備えさせることができる。
【0043】
リンパ管側筒状部材130に自己拡張性を備えさせる方法としては、例えば、リンパ管側筒状部材130の一部または全体を、自己拡張性を備える材料によって構成する方法を採用することができる。本実施形態においては、リンパ管側筒状部材130を、自己拡張性を備える材料で構成することにより、リンパ管側筒状部材130に固定機能を付加している。
【0044】
自己拡張性を備える材料としては、例えば、形状記憶ポリマー、形状記憶合金、超弾性合金などを使用することが可能である。形状記憶ポリマーとしては、例えば、アクリル系樹脂、トランスイソプレンポリマー、ポリノルボルネン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリウレタンを使用することが可能である。形状記憶合金や超弾性合金としては、例えば、チタン系(Ti−Ni、Ti−Pd、Ti−Nb−Sn等)や、銅系の合金、ステンレス鋼(SUS304)、βチタン鋼、Co−Cr合金、ニッケルチタン合金等のバネ性を有する合金等を使用することが可能である。
【0045】
なお、リンパ管側筒状部材130は、穿刺部材100の内腔101内に収容することができ、かつ、内腔101からの放出に伴う拡張変形により穿刺部位tに対して固定することが可能であれば、全体が拡張変形および収縮変形可能に構成されている必要はなく、例えば、一部のみが拡張変形および収縮変形するように構成されていてもよい。
【0046】
静脈側筒状部材140は、静脈Pに対する固定を行うための固定機能を備えるように、例えば、リンパ管側筒状部材130と同様に自己拡張性を備える材料で構成することが可能である。自己拡張性を備える材料としては、例えば、リンパ管側筒状部材130の構成材料として例示したものと同様のものを用いることが可能である。また、リンパ管側筒状部材130と同様に、穿刺部材100の内腔101内に収容することができ、かつ、内腔101からの放出に伴う拡張変形により静脈Pに対して固定することが可能であれば、全体が拡張変形および収縮変形可能に構成されている必要はなく、例えば、一部のみが拡張変形および収縮変形するように構成されていてもよい。
【0047】
リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140には、例えば、両部材を連結する際に、連結位置を規定するための構造を設けることが可能である。一例として、リンパ管側筒状部材130の外面に凹凸状の嵌合部を設けて、この嵌合部に嵌合自在な凹凸状の嵌合部を静脈側筒状部材140の内面に設けて、筒状部材130に静脈側筒状部材140を挿入することにより、互いの嵌合部を介して連結位置が定められるような構造を採用することが可能である。また、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140に互いに磁力を作用させる磁石などを設けて、連結位置が規定されるような構造を採用してもよい。嵌合部や磁石などを設けることにより、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140との間の固定力(連結力)を向上させることも可能になる。また、接続後に容易に脱離しないように、摩擦力を上げるような表面処理が施されていてもよい。例えば、リンパ管側筒状部材130の外面に基端側から先端側に斜めに高くなっているような反し構造と静脈側筒状部材140の内面に反しに引っ掛かり得る凹構造の組み合わせや、ウレタンコートなどによる滑り止めのためのコーティングが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0048】
また、リンパ管側筒状部材130には、例えば、リンパ管Lに形成した穿刺部位tに挿入された状態において、リンパ管側筒状部材130の側壁138と穿刺部位tとの間からリンパが流出するのを防止するシール部を設けることも可能である。シール部は、例えば、リンパ等の体液と接触して膨潤する生体適合性を備えるゲル等をリンパ管側筒状部材130の側壁138に固着させることで構成することができる。
【0049】
各筒状部材130、140は、生体管腔(リンパ管L、静脈P)に留置された状態で、その内表面や外表面に血液やリンパ液が触れるため、各種のコーティング等を施すことが好ましい。
【0050】
例えば、各筒状部材130、140を構成する材料中に抗血栓性物質を配合したり、各筒状部材130、140に抗血栓性物質をコーティングしたりすることが可能である。特に、静脈側筒状部材140は、静脈P中の血液と接触する可能性が高いため、血栓等が付着するのを防止するために、外表面に抗血栓性を付加することが好ましい。
【0051】
上記の抗血栓性材料としては、ヘパリン、ヘパリン様物質、PMEA(ポリ(2 メトキシエチルアクリレート))、PEG(ポリエチレングリコール)、ベタイン系双性イオンポリマーなどを使用することが可能である。
【0052】
リンパ浮腫の治療に各筒状部材130、140を使用し、リンパ管Lと静脈Pとを接合すると、リンパ管Lと静脈Pとの間の圧力差により、リンパ液が静脈P側に流入する。リンパ液はタンパク質濃度が非常に高いため、各筒状部材130、140の内表面に大量に吸着すると、各筒状部材130、140に目詰まりが生じる可能性がある。このため、各筒状部材130、140の内表面には、タンパク質等の付着を防止するコーティング等が施された付着防止表面を形成することが好ましい。
【0053】
付着防止表面は、例えば、親水性コーティング、フッ素系コーティング、シリコン系コーティング、微細凹凸構造を有する表面、および上記コーティングと凹凸構造を組み合わせた表面、シリコンオイルやフッ素系オイルなどの血液と混じり合わない安定な液相を保持する表面などを各筒状部材130、140の任意の箇所に形成することで構成できる。
【0054】
図2に示すように、医療器具10に備えられる外筒170は、穿刺部材100の先端側の一部が収容される内腔171と、内腔171の先端側に連なる先端開口部173と、内腔171の基端側に連なる基端開口部175と、を有する中空状の部材により構成している。
【0055】
負圧発生部180は、穿刺部材100の内腔101に挿入される棒状の本体部181と、本体部181の先端に設けられた弁体(プランジャ)183と、穿刺部材100の内壁との間の気密性を確保するためのシール部材183aと、当該負圧発生部180を操作する際に使用者が手指等を掛けるための指掛け部185aと、押し子150の本体部151が挿通される挿通孔181aと、押し子150の本体部151が導出される基端開口部185と、を有している。負圧発生部180の弁体183は、穿刺部材100の内腔101に摺動可能に挿入している。
【0056】
図6(A)に示すように、負圧発生部180を使用する際は、外筒170により穿刺部材100の外周面を覆った状態とし、さらに、外筒170の先端開口部173をリンパ管Lの管壁L12の外面L12aに接するように配置して先端開口部173を閉じることにより、穿刺部材100の周囲に気密な空間部gを区画する。
【0057】
外筒170により空間部gを区画した状態で、
図6(B)に示すように負圧発生部180の弁体183を穿刺部材100の基端側へ摺動させると、穿刺部材100の先端開口部103を介して空間部gに吸引圧が作用し、空間部g内に負圧(陰圧)が発生する。これにより、リンパ管Lの管壁L12が持ち上げられて、管壁L12が穿刺部材100の針先107へ近付くように変位する。管壁L12が変位すると、管壁L12において穿刺部材100の針先107が刺入される刺入目標位置bと、管壁L12の底面L12cとの間の距離が広げられた状態になる。この状態で穿刺部材100をリンパ管Lに穿刺することにより、針先107が管壁L12の底面L12cに到達するのを好適に防止することができる。
【0058】
また、吸引圧の作用により刺入目標位置bを捕捉した状態で穿刺部材100の針先107を刺入させることができるため、刺入目標位置bに向けて針先107を容易に誘導させることができ、針先107が刺入目標位置bから位置ずれして穿刺されるのを防止することが可能になる。さらに、管壁L12の膨出部(持ち上げられた部分)L13の周囲を外筒170により覆って保護した状態で穿刺を行うため、穿刺に伴い形成される穿刺部位tを穿刺直後に外筒170で保護することが可能になる。これにより、穿刺部位tを清潔な状態に保つことができ、かつ、手技時の周囲環境の影響により穿刺部位tやその周辺部位に損傷等が生じるのを防止することが可能になる。
【0059】
なお、
図6(B)に示すように、空間部gに負圧を発生させる際に弁体183の先端側に配置される押し子150の押し込み部153には、弁体183の摺動に伴う吸引作用が阻害されることのないように、軸方向に貫通する通孔153aを形成している。
【0060】
負圧発生部180は、穿刺部材100の内面との間、および、挿通孔181aに挿通された押し子150との間の気密性を維持しつつ、穿刺部材100の内腔101を摺動することがとなるように、弾性変形可能な樹脂材料により構成することが好ましい。樹脂材料としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、スチレンエチレンブチレンスチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、塩素化ブチルゴム、シリコーンゴムなどを使用することが可能である。
【0061】
図2に示すように、医療器具10は、使用に際して、リンパ管側筒状部材130、静脈側筒状部材140、穿刺部材100、押し子150、外筒170、負圧発生部180を一体的に組み付けた状態で準備することができる。
【0062】
穿刺部材100は、リンパ管側筒状部材130および静脈側筒状部材140を収容した状態で外筒170の内腔171に挿入される。外筒170は、穿刺部材100に対して相対的にスライド移動可能に組み付けられる。また、押し子150は、負圧発生部180の挿通孔181aに挿入される。押し子150は、負圧発生部180に対して相対的にスライド移動可能に組み付けられる。
【0063】
図2に示すように医療器具10を組み付けた状態で、穿刺部材100の基端部は、外筒170の基端開口部175から所定の長さだけ露出するように配置することができる。このように配置することにより、穿刺部材100を移動させる際に、穿刺部材100の基端部を手指等で把持して操作することが可能になる。
【0064】
負圧発生部180の本体部181の基端部は、穿刺部材100の基端開口部105から所定の長さだけ露出するように配置することができ、押し子150の本体部151の基端部は、負圧発生部180の基端開口部185から所定の長さだけ露出するように配置することができる。このように配置することにより、負圧発生部180を移動させる際に本体部181の基端部を手指等で把持して操作することができ、また押し子150を移動させる際に本体部151の基端部を手指等で把持して操作することが可能になる。
【0065】
図2に示すように、穿刺部材100には、当該穿刺部材100の針先107をリンパ管Lの管壁L12に刺入する際に針先107の刺入量(刺入深さ)を規定するストッパー108を設けている。ストッパー108は、穿刺部材100の基端部近傍の外周部分に取り付けたリング状の部材により構成している。
【0066】
図7(B)に示すように、穿刺部材100の針先107をリンパ管Lの管壁L12に刺入する際、穿刺部材100が外筒170に対して所定の距離だけ先端側へ向けて前進移動すると、ストッパー108が外筒170の基端壁175aに当接する。ストッパー108が外筒170の基端壁175aに当接した以降は、穿刺部材100の前進移動が制限されるため、リンパ管L内への穿刺部材100の針先107の進入も制限される。このように、ストッパー108を設けることにより、管壁L12の底面L12cに針先107が到達するのを好適に防止することが可能になるため、より一層安全な手技を実現することが可能になる。
【0067】
次に、本実施形態に係る医療器具10の使用例を説明する。
【0068】
ここでは、リンパ管Lの管壁L12に対して静脈Pの開口端P31を接合する側端吻合術に医療器具10を使用した例を説明する。
【0069】
図4を参照して、リンパ浮腫の治療方法は、概説すると、接合対象となるリンパ管を特定する工程S11(特定工程)と、皮膚を切開してリンパ管および静脈を露出させる工程S12(露出工程)と、リンパ管を拡張させる工程S13(拡張工程)と、リンパ管にリンパ管側筒状部材を固定する工程S14(第1固定工程)と、静脈に静脈側筒状部材を固定する工程S15(第2固定工程)と、リンパ管側筒状部材と静脈側筒状部材とを連結して、リンパ管と静脈を接合する工程S16(接合工程)と、を有している。以下、各工程について説明する。
【0071】
特定工程(S11)では、接合対象となるリンパ管Lを特定する。特定方法としては、例えば、ICG(Indocyanine green)蛍光リンパ管造影法を用いることができる。
図5(A)には、ICG蛍光リンパ管造影法によりリンパ管Lを可視化した状態を模式的に示している。
【0072】
ICG蛍光リンパ管造影法では、ICG造影剤を患部となる下肢や上肢に数カ所注射し、公知の赤外線カメラを用いることによりリンパ管内の流れを可視化する。そして、ICG造影剤の流れが滞るリンパ管Lのうち、任意のリンパ管Lを接合対象に特定する。例えば、下肢のリンパ浮腫を治療する場合は、足背、足首、下腿、膝上、膝下等に存在するリンパ管を接合対象として選択することができ、上肢のリンパ浮腫を治療する場合は、手首周囲、前腕、肘周囲等に存在するリンパ管を接合対象として選択することができる。また、リンパ管としては、例えば、皮膚Sの直下に存在する浅層リンパ管を選択することができる。
【0074】
露出工程(S12)では、
図5(B)に示すように、接合対象として特定したリンパ管Lを覆う皮膚Sを切開して切開部dを形成し、リンパ管Lを露出させる。切開は、メス等の公知の処置具を使用して行うことが可能である。
【0076】
拡張工程(S13)では、
図5(C)に示すように、リンパの流れの上流側の部分Laをクランプしつつ、リンパ管Lを刺激してリンパ管Lを拡張させる。拡張工程(S13)を行うことにより、例えば、外径0.45mmのリンパ管Lの外径を0.70mm程度まで拡張させることが可能になる。また、リンパ管Lを拡張させることにより、以降の各工程においてリンパ管Lの取り扱いが容易になるため、手技の容易化および迅速化を図ることが可能になる。
【0077】
拡張工程(S13)では、例えば、リンパの流れの上流側の部分Laからリンパの流れの下流側の部分Lbに亘って所定の補助具220を往復移動させるようにして、リンパ管Lの表面をマッサージする。なお、リンパ管Lをクランプするための補助具210およびリンパ管Lをマッサージするための補助具220としては、例えば、マイクロサージャリー等で使用される小型の鉗子等を使用することが可能である。
【0078】
次に、第1固定工程(S14)を行う。
【0079】
第1固定工程(S14)は、医療器具10を使用して実施することができる。
【0080】
第1固定工程(S14)を開始するにあたり、医療器具10は、
図2に示すように、リンパ管側筒状部材130、静脈側筒状部材140、穿刺部材100、押し子150、外筒170、および負圧発生部180のそれぞれを一体的に組み付けた状態で準備する。
【0081】
次に、
図6(A)に示すように、リンパ管Lの管壁L12の外面L12aに外筒170の先端部を接した状態とし、外筒170により空間gを形成する。
【0082】
次に、
図6(B)に示すように、医療器具10の負圧発生部180を基端側へ引き上げるように移動させて、空間g内に負圧を発生させる。この操作により、リンパ管Lの管壁L12の一部を持ち上げて、リンパ管Lの管壁L12に膨出部L13を形成する。
【0083】
次に、
図7(A)に示すように、穿刺部材100を先端側へ移動させて、リンパ管Lの膨出部L13に対して針先107を穿刺する。針先107を管壁L12に対して貫通させることにより、管壁L12に穿刺部位(穿孔)tを形成させる。
【0084】
次に、
図7(B)に示すように、押し子150を先端側へ移動させることにより、静脈側筒状部材140を先端側へ押し込み、さらに、静脈側筒状部材140の先端側に位置するリンパ管側筒状部材130を先端側へ押し込む。この操作により、リンパ管側筒状部材130を穿刺部位tの内側まで移動させる。また、この際、リンパ管側筒状部材130の抜け防止部137を、リンパ管Lの管壁L12の内面L12bよりもリンパ管Lの内側に配置させる。
【0085】
次に、
図8(A)に示すように、穿刺部材100を基端側へ移動させつつ、押し子150を先端側へ移動させることにより、穿刺部材100の先端開口部103からリンパ管側筒状部材130を放出させる。
【0086】
図8(B)に示すように、リンパ管側筒状部材130は、穿刺部材100の先端開口部103からの放出に伴って径方向外方へ拡張変形し、穿刺部位tの内面に対して側壁138を押し当てる。リンパ管側筒状部材130は、拡張変形力を穿刺部位tに対して継続的に作用させることにより、リンパ管Lに対して固定された状態を維持する。
【0087】
リンパ管側筒状部材130をリンパ管Lに固定する作業を終えた後、穿刺部材100を基端側へ移動させて、リンパ管Lから退避させる。この際、
図8(B)に示すように、外筒170により区画された空間部gとリンパ管Lの管腔L11とが、リンパ管側筒状部材130を介して連通されるため、空間部g内の圧力とリンパ管Lの管腔L11内の圧力との差により、リンパ管Lの管腔L11から空間部g内へのリンパの流れ込みが誘起される。これにより、リンパ管L内の滞ったリンパの流れを促進させることが可能になる。
【0088】
なお、空間部g内へリンパを流入させると、空間部gからリンパを除去する作業を行う必要が生じるため、手技の工程数が増加する。このような工程数の増加を抑えるために、例えば、空間部gを大気開放させるためのリーク弁を外筒170に設けることが可能である。リーク弁を設けることにより、空間部gと管腔L11とを連通させる前に、空間部g内の圧力を大気圧に戻す操作を行うことが可能になるため、上述した空間部gへのリンパの流れ込みが生じるのを防止することが可能になる。
【0089】
リンパ管Lに形成された膨出部L13は、外筒170が区画する空間部gが大気開放されるのに伴って消失する。
【0090】
図9(A)に示すように、リンパ管Lにリンパ管側筒状部材130を固定する第1固定工程(S14)を終えた後、医療器具10全体をリンパ管Lから退避させる。
【0091】
第1固定工程(S14)が終了した後、リンパ管側筒状部材130は、先端部がリンパ管Lの管腔L11内に挿入された状態で、かつ、基端部がリンパ管Lの管腔L11から露出された状態で、リンパ管Lに留置される。
【0092】
次に、第2固定工程(S15)を行う。
【0093】
第2固定工程(S15)は、医療器具10を使用して実施することができる。
【0094】
まず、
図9(B)に示すように、穿刺部材100の先端部を接合対象となる静脈Pの管腔P11に挿入する。この際、例えば、静脈側筒状部材140の基端開口部145が静脈Pの開口端P31付近に配置されるように、静脈側筒状部材140の位置を調整する。
【0095】
接合対象となる静脈Pは、接合対象となるリンパ管L近傍に存在するものを適宜選択することができる。また、静脈Pにおいてリンパ管Lとの繋ぎ目となる開口端P31は、静脈側筒状部材140を管腔P11内へ挿入するのに先立って、静脈Pを切断することによって予め形成しておくことができる。
【0096】
次に、
図9(B)に示すように、穿刺部材100を基端側へ移動させつつ、押し子150を先端側へ移動させることにより、穿刺部材100の先端開口部103を介して、静脈側筒状部材140を静脈Pの管腔P1内へ放出させる。
【0097】
図10(A)に示すように、静脈側筒状部材140は、穿刺部材100の内腔101からの放出に伴って径方向外方へ拡張変形し、静脈Pの内面に対して側壁148を押し当てる。静脈側筒状部材140は、拡張変形力を静脈Pの内面に対して継続的に作用させることにより、静脈Pに対して固定された状態を維持する。
【0098】
本実施形態においては、手技を開始するに際して、穿刺部材100の内腔101にリンパ管側筒状部材130を収容し、さらにリンパ管側筒状部材130が収容された位置よりも基端側に静脈側筒状部材140を収容した状態で医療器具10を準備している(
図2を参照)。このため、リンパ管側筒状部材130をリンパ管Lに固定する第1工程(S14)を終えた後、引き続き医療器具10を使用して、静脈側筒状部材140を静脈Pに固定する第2工程(S15)を実施することができる。
【0099】
静脈Pに静脈側筒状部材140を固定する第2固定工程(S15)を終えた後、接合工程(S16)を実施する。
【0100】
図10(B)に示すように、接合工程(S16)では、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140とを連結する。
【0101】
連結作業は、例えば、静脈Pにおいて静脈側筒状部材140が配置された開口端P31側をリンパ管Lに固定したリンパ管側筒状部材130に近付けて行う。この際、リンパ管Lの管壁L12から露出したリンパ管側筒状部材130の基端部を静脈側筒状部材140の内腔141に挿入する。この作業により、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140とが機械的に連結され、リンパ管Lと静脈Pが接合される。
【0102】
リンパ管Lと静脈Pを接合する作業は、例えば、マイクロサージャリー等で使用される小型の鉗子等を使用してリンパ管Lの位置を固定しつつ、小型の鉗子等を使用して把持した静脈Pをリンパ管Lに接近させて行われる。
【0103】
リンパ管Lと静脈Pが接合されると、リンパ管Lの管腔L11、リンパ管側筒状部材130の内腔131、静脈側筒状部材140の内腔141、および静脈Pの管腔P11により、リンパ管Lから静脈Pへ至るリンパの流路が形成される。
【0104】
一般的に、リンパ浮腫に罹患した患者のリンパ管L内の圧力(リンパ圧)は、リンパの流れが滞っているため、静脈P内の圧力(静脈圧)よりも高くなっている。このため、リンパ管Lと静脈Pとを接合すると、リンパ管L側から静脈P側へ向かうリンパの流れが比較的容易に誘起される。その結果、リンパ浮腫の原因となるリンパの滞留が解消され、患部におけるむくみ等の症状が緩和する。
【0105】
また、本実施形態において説明した側端吻合術を施術すると、リンパ管Lの上流La側から静脈Pへ向かうリンパの流れと、リンパ管Lの下流Lb側から静脈Pへ向かうリンパの流れが形成されるため、リンパ浮腫の原因となるリンパの滞留を効率良く解消することが可能になる。
【0106】
リンパ浮腫に罹患している場合、リンパ管L内に存在する弁の機能が衰えているため、リンパ管L内においてリンパの逆流が常態的に発生している。したがって、側端吻合術を施術した後には、リンパ管Lの上流La側からの流れと、リンパ管Lの下流Lb側からの流れが容易に誘起される。また、側端吻合術の施術前後において、リンパ管Lの下流La側からの流れが保存されることになるため、施術後にリンパの流れが急に変更されることがなく、リンパ管Lに過度な負担が掛かるのを好適に防止することが可能になる。
【0107】
なお、特定のリンパ管Lと特定の静脈Pとを接合した後、引き続き他のリンパ管Lを他の静脈Pと接合する処置を実施し、リンパ管Lと静脈Pとが接合された部位を一人の患者の複数の箇所に形成することも可能である。
【0108】
以上説明した本実施形態に係るリンパ浮腫の治療方法は、筒状部材を介してリンパ管と静脈を接合(バイパス)する工程を含む。
【0109】
また、当該リンパ浮腫の治療方法は、リンパ管の管壁に固定した筒状部材と静脈の開口端に固定した筒状部材を介して、リンパ管の管壁と静脈の開口端を接合する側端接合工程(側端吻合工程)を含む。
【0110】
また、当該リンパ浮腫の治療方法は、リンパ管の管壁を穿刺して穿刺部位を形成する工程と、穿刺部位に拡張変形可能なリンパ管側筒状部材を挿入して固定する工程と、静脈の開口端に拡張変形可能な静脈側筒状部材を挿入して固定する工程と、リンパ管側筒状部材と静脈側筒状部材とを連結することにより、リンパ管と静脈を接合する工程と、をさらに含む。
【0111】
また、当該リンパ浮腫の治療方法は、リンパ管の管壁に穿刺部位を形成する際に、リンパ管の管壁の一部に穿刺部材の針先側に変位した膨出部を形成し、膨出部に対して穿刺部材の針先を刺入する工程をさらに含む。
【0112】
また、当該リンパ浮腫の治療方法は、筒状部材を介してリンパ管と静脈を接合する工程の前に、接合対象となるリンパ管を特定する工程と、皮膚を切開してリンパ管および静脈を露出させる工程と、リンパ管を拡張させる工程と、をさらに含む。
【0113】
以上のように本実施形態に係る医療器具10は、内腔101および内腔101の先端側に連なる先端開口部103が形成され、リンパ管Lの管壁L12を穿刺して穿刺部位tを形成する針先107を先端に備える穿刺部材100と、穿刺部材100の内腔101に収容され、径方向外方へ拡張変形および収縮変形可能に構成されたリンパ管側筒状部材130と、穿刺部材100の内腔101に移動可能に挿入され、穿刺部材100に対する相対的な移動に伴ってリンパ管側筒状部材130を穿刺部材100の先端開口部103から放出させる押し子150と、を有している。そして、リンパ管側筒状部材130は、穿刺部材100の内腔101に収縮した状態で収容されており、穿刺部材100の先端開口部103からの放出に伴って拡張変形することにより穿刺部位tに対して固定される。
【0114】
上記のように構成した医療器具10によれば、穿刺部材100の針先107をリンパ管Lに穿刺して形成した穿刺部位tにリンパ管側筒状部材130を固定し、当該リンパ管側筒状部材130を介してリンパ管Lと静脈Pを接合することによって、リンパ管Lから静脈Pへ向かうリンパ(リンパ液)の流れを形成することが可能になる。リンパ管Lと静脈Pを接合するための部材として、拡張変形および収縮変形可能なリンパ管側筒状部材130を使用するため、比較的細径なリンパ管Lに形成した穿刺部位tへの留置を円滑に行うことができる。また、従来の静脈−リンパ管吻合術のように切開等の処置を施して微小な窓部をリンパ管Lに形成する必要がないため、手技を迅速かつ容易に行うことができ、手技時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0115】
また、医療器具10が、穿刺部材100の外周面を覆うように配置され針先107をリンパ管Lの管壁L12に穿刺する際に穿刺部材100およびリンパ管Lの管壁L12との間に空間部gを区画する外筒170と、空間部gに負圧を発生させることにより、穿刺部材100の針先107側へリンパ管Lの管壁L12を変位させる負圧発生部180と、を有するように構成されているため、穿刺部材100の針先107をリンパ管Lの管壁L12に穿刺する際、管壁L12を穿刺部材100の針先107へ近付くように変位させることができる。これにより、針先107が管壁L12の底面L12cに到達するのを好適に防止することが可能になるため、より一層安全な手技を実現することが可能になる。
【0116】
また、負圧発生部180が、穿刺部材100の内腔101に摺動可能に挿入され穿刺部材100の基端側へ摺動することによって穿刺部材100の先端開口部103を介して空間部gに吸引圧を作用させる弁体183を有するため、手元の操作で弁体183を摺動させる簡単な作業で空間部gに負圧を発生させることができる。
【0117】
また、リンパ管側筒状部材130が、穿刺部位gから当該リンパ管側筒状部材130が抜け出るのを防止する係止力をリンパ管Lの管壁L12に作用させる抜け防止部137を有するため、リンパ管Lに対してリンパ管側筒状部材130が固定された状態をより一層安定的に維持することが可能になる。
【0118】
また、医療器具10が、穿刺部材100の内腔101においてリンパ管側筒状部材130が収容された位置よりも基端側に収容され径方向外方へ拡張変形および収縮変形可能に構成されるとともにリンパ管側筒状部材130と連結可能に構成された静脈側筒状部材140を有するため、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140を介して、リンパLと静脈Pとの接合を迅速かつ容易に行うことが可能になる。さらに、リンパ管側筒状部材130をリンパ管Lに固定する処置を終えた後、引き続き医療器具10を使用して、静脈側筒状部材140を静脈Pに固定する処置を実施することが可能になるため、二つの筒状部材130、140を使用した手技をより一層迅速に行うことができる。
【0119】
また、拡張変形後における静脈側筒状部材140の内腔141の径(内径)d2が、拡張変形後におけるリンパ管側筒状部材130の外径d1よりも大きくなるように形成されているため、リンパ管側筒状部材130を静脈側筒状部材140の内腔141に挿入してリンパ管Lと静脈Pを接合する際に、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140との間で静脈Pの管壁P12が挟み込まれるのを防止することができる。これにより、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140を円滑に連結させることが可能になる。
【0120】
<変形例>
次に、
図11〜
図13を参照して、筒状部材(リンパ管側筒状部材および静脈側筒状部材)を使用した手技の変形例を説明する。なお、各変形例の説明において特に説明のない処置手順や医療器具10の構成等については、前述した実施形態と同様のものとすることができ、その説明は省略する。また、変形例ごとの説明においても、同様の手順や同様の構成等については、その説明を適宜省略する。
【0121】
<変形例1>
図11には、リンパ管側筒状部材330と静脈側筒状部材340を使用して、リンパ管Lの開口端L31と静脈Pの管壁P12とを接合する端側吻合術を示している。
【0122】
前述した側端吻合術においては、リンパ管Lの管壁L12に形成した穿刺部位tに固定したリンパ管側筒状部材130と、静脈Pの開口端P31付近に固定した静脈側筒状部材140とを連結することにより、リンパ管Lの管壁L12と静脈Pの開口端P31とを接合した。一方、本変形例に係る端側吻合術は、
図11(A)、(B)に示すように、リンパ管Lの開口端L31付近に固定したリンパ管側筒状部材330と、静脈Pの管壁P12に形成した穿刺部位tに固定した静脈側筒状部材340とを連結することにより、リンパ管Lの開口端L31と静脈Pの管壁P12とを接合する。
【0123】
本変形例に係る端側吻合術は、医療器具10を使用して行うことが可能である。具体的には、次のような手順で手技を行う。
【0124】
まず、穿刺部材100を使用して静脈Pの管壁P12に穿刺部位tを形成し、穿刺部位tに静脈側筒状部材340を固定する。この工程は、前述した実施形態の第1固定工程(S14)と同様の手順で行うことができる。
【0125】
次に、穿刺部材100を使用してリンパ管Lの開口端L31付近にリンパ管側筒状部材330を固定する。この工程は、前述した実施形態の第2固定工程(S15)と同様の手順で行うことができる。
【0126】
次に、静脈側筒状部材340において静脈Pの管壁P12から露出した部分を、リンパ管側筒状部材330の内腔へ挿入する。この作業により、リンパ管側筒状部材330と静脈側筒状部材340とを機械的に連結し、リンパ管Lと静脈Pを接合する。この工程は、前述した実施形態の接合工程(S16)と同様の手順で行うことができる。
【0127】
本変形例に係る端側吻合術を施術することにより、側端吻合術を施術する場合と同様に、リンパ管L側から静脈P側へ向かうリンパの流れを形成することが可能になるため、リンパ浮腫の原因となるリンパの滞留を解消することができる。
【0128】
なお、端側吻合術に使用するリンパ管側筒状部材330としては、例えば、前述した実施形態において説明した静脈側筒状部材140と同様の構成のものを使用することができる。一方、静脈側筒状部材340としては、例えば、前述した実施形態において説明したリンパ管側筒状部材130と同様の構成のもの(抜け防止部347が設けられたもの)を使用することができる。また、穿刺部材100を使用する場合、静脈Pに静脈側筒状部材340を固定した後、リンパ管Lにリンパ管側筒状部材330を固定するため、穿刺部材100の内腔101の先端側に静脈側筒状部材340を収容し、静脈側筒状部材340の基端側にリンパ管側筒状部材330を収容することが好ましい。
【0129】
<変形例2>
図12には、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材340を使用して、リンパ管Lの管壁L12と静脈Pの管壁P12を接合する側側吻合術を示している。
【0130】
本変形例に係る側側吻合術は、
図12(A)、(B)に示すように、リンパ管Lの管壁L12に形成した穿刺部位tに固定したリンパ管側筒状部材130と、静脈Pの管壁P12に形成した穿刺部位tに固定した静脈側筒状部材340とを連結することにより、リンパ管Lの管壁L12と静脈Pの管壁P12とを接合する。
【0131】
本変形例に係る側側吻合術は、医療器具10を使用して行うことが可能である。具体的には、次のような手順で手技を行う。
【0132】
まず、穿刺部材100を使用してリンパ管Lの管壁L12に穿刺部位tを形成し、穿刺部位tにリンパ管側筒状部材130を固定する。
【0133】
次に、穿刺部材100を使用して静脈Pの管壁P12に穿刺部位tを形成し、穿刺部位tに静脈側筒状部材340を固定する。
【0134】
次に、リンパ管側筒状部材130においてリンパ管Lの管壁L12から露出した部分を、静脈側筒状部材340の内腔へ挿入する。この作業により、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材340とを機械的に連結し、リンパ管Lと静脈Pを接合する。この際、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材340との連結位置は、リンパ管Lおよび静脈Pの外部に配置される。
【0135】
本変形例に係る側側吻合術を施術することにより、側端吻合術を施術する場合と同様に、リンパ管L側から静脈P側へ向かうリンパの流れを形成することが可能になるため、リンパ浮腫の原因となるリンパの滞留を解消することができる。また、リンパ管Lの上流La側から静脈Pへ向かうリンパの流れと、リンパ管Lの下流Lb側から静脈Pへ向かうリンパの流れが形成されるため、リンパの滞留を効率良く解消することが可能になる。
【0136】
なお、本変形例に係る側側吻合術においては、静脈Pに静脈側筒状部材340を固定した後に、リンパ管Lにリンパ管側筒状部材130を固定するように処置の順番を変更することも可能である。また、穿刺部材100の内腔101に配置されるリンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材340の位置関係は、固定を行う順番に応じて適宜変更することが可能である。
【0137】
<変形例3>
図13には、リンパ管側筒状部材330と静脈側筒状部材340を使用して、リンパ管Lの開口端L31と静脈Pの開口端P31を接合する端端吻合術を示している。
【0138】
本変形例に係る端端吻合術においては、
図13(A)、(B)に示すように、リンパ管Lの開口端L31付近に固定したリンパ管側筒状部材330と、静脈Pの開口端P31付近に固定した静脈側筒状部材140とを連結することにより、リンパ管Lの開口端L31と静脈Pの開口端P31とを接合する。
【0139】
本変形例に係る端端吻合術は、医療器具10を使用して行うことが可能である。具体的には、次のような手順で手技を行う。
【0140】
まず、穿刺部材100を使用してリンパ管Lの開口端L31にリンパ管側筒状部材330を挿入して固定する。
【0141】
次に、穿刺部材100を使用して静脈Pの開口端P31に静脈側筒状部材140を挿入して固定する。
【0142】
次に、リンパ管側筒状部材330においてリンパ管Lの開口端L31から露出した部分を、静脈側筒状部材140の内腔へ挿入する。この作業により、リンパ管側筒状部材330と静脈側筒状部材140とを機械的に連結し、リンパ管Lと静脈Pを接合する。
【0143】
本変形例に係る端端吻合術を施術することにより、側端吻合術を施術する場合と同様に、リンパ管L側から静脈P側へ向かうリンパの流れを形成することが可能になるため、リンパ浮腫の原因となるリンパの滞留を解消することができる。また、リンパ管Lおよび静脈Pのいずれにも穿刺部位tを形成することなくリンパ管Lと静脈Pを接合するため、より一層低侵襲な手技を実現することが可能になる。
【0144】
なお、本変形例に係る端端吻合術においては、静脈Pに静脈側筒状部材140を固定した後に、リンパ管Lにリンパ管側筒状部材330を固定するように処置の順番を変更することが可能である。また、穿刺部材100の内腔101に配置されるリンパ管側筒状部材330と静脈側筒状部材140の位置関係は、固定を行う順番に応じて適宜変更することが可能である。また、本変形例に係る端端吻合術のように、生体管腔の端部のみに筒状部材を設置する手技に医療器具10を使用する場合、穿刺部材100を使用した穿刺作業を行う必要がないため、穿刺部103や負圧発生部180の設置を省略することも可能である。この場合、押し子150と筒状部材を収納する内腔101とを有するように医療器具が構成されていれば筒状部材の留置が可能であり、必要に応じて医療器具の構造を適宜改変することができる。
【0145】
以上説明したように、変形例1に係るリンパ浮腫の治療方法は、リンパ管の開口端に固定した筒状部材と静脈の管壁に固定した筒状部材とを介して、リンパ管の開口端と静脈の管壁とを接合する端側接合工程(端側吻合工程)を含む。
【0146】
また、変形例2に係るリンパ浮腫の治療方法は、リンパ管の管壁に固定した筒状部材と静脈の管壁に固定した筒状部材とを介して、リンパ管の管壁と静脈の管壁とを接合する側側接合工程(側側吻合工程)を含む。
【0147】
また、変形例3に係るリンパ浮腫の治療方法は、リンパ管の開口端に固定した筒状部材と静脈の開口端に固定した筒状部材とを介して、リンパ管の開口端と静脈の開口端とを接合する端端接合工程(端端吻合工程)を含む。
【0148】
なお、側端吻合術、端側吻合術、側側吻合術、および端端吻合術を施術する際に、生体管腔の管壁に対して穿刺を行う工程に引き続いて筒状部材を固定する工程を行う場合以外は、医療器具10の使用を控えることも可能である。一例として、筒状部材を生体管腔の開口端に固定する工程は、医療器具10を使用せずに、公知の鉗子等を使用して行うことが可能である。
【0149】
また、側端吻合術、端側吻合術、側側吻合術、および端端吻合術を施術する際に、穿刺部材100の内腔101に2つの筒状部材130、140を予め収納した状態で準備し、生体管腔の管壁に対して穿刺を行う工程に引き続いて各筒状部材130、140を順次固定する手順を説明したが、例えば、各筒状部材130、140を1本ずつ別の医療具(例えば、穿刺部材100以外の筒状の医療具)に収納し、別の医療具を使用して各筒状部材130、140の固定を行うことも可能である。その一例として、前述したリンパ管Lの側面に静脈Pの開口端P31を接続する側端吻合を行う場合、
図2に示すように1つの穿刺部材100にリンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140を同時に収納した状態で手技を進行させたが、穿刺部材100に収納されたリンパ管側筒状部材130と、穿刺部材100とは異なる別の医療具に収納された静脈側筒状部材140を用いて、各筒状部材130、140を留置(固定)するにようにしてもよい。その際、リンパ管側筒状部材130と静脈側筒状部材140を留置する順番は適宜変更出来る。
【0150】
また、複数の筒状部材を使用した手技を行う場合、
図12に示す側側吻合術では各筒状部材の連結位置が生体管腔(リンパ管Lおよび静脈P)の外部に配置されることになるため、筒状部材の留置性を考慮すると、
図11に示す端側吻合術や
図13に示す端端吻合術に適用することが好ましい。さらに、筒状部材を
図13に示す端端吻合術に適用した場合よりも、
図11に示す端側吻合術や前述した側端吻合術(
図10を参照)に筒状部材を適用した場合の方が筒状部材を簡単に留置することが可能であるため、端側吻合術や端側吻合術に適用することがより好ましい。
【0151】
<改変例>
次に、筒状部材の改変例を説明する。各改変例の説明において特に説明のない処置手順や医療器具10の構成等については、前述した実施形態と同様のものとすることができ、その説明は省略する。また、改変例ごとの説明においても、同様の手順や同様の構成等については、その説明を適宜省略する。
【0152】
以下に説明する改変例1〜6に係るリンパ管側筒状部材130aは、前述したリンパ管側筒状部材130と、リンパ管Lの管壁L12からの抜けを防止する抜け防止部の構成が相違している。また、各改変例の説明においては、リンパ管側筒状部材130aを使用した手技例として、側端吻合術を施術した例を説明する。以下、各改変について詳述する。
【0153】
<改変例1>
図14(A)、(B)には、改変例1に係るリンパ管側筒状部材130aと、当該リンパ管側筒状部材130aをリンパ管Lに固定する前後の様子を示している。
【0154】
本改変例に係るリンパ管側筒状部材130aが備える抜け防止部417は、穿刺部材100の先端開口部103からの突出に伴い突出方向と交差する方向(リンパ管側筒状部材130aの径方向外方)へ拡張変形可能に構成している。
【0155】
図14(A)に示すように、抜け防止部417は、穿刺部材100の内腔101に収容された状態においては、穿刺部材100の内面によって押え込まれて、収縮した状態となる。
【0156】
図14(B)に示すように、抜け防止部417は、穿刺部材100の先端開口部103から突出すると、突出方向と交差する方向に拡張変形する。拡張変形した抜け防止部417は、リンパ管Lの管壁L12の内面L12bに対して係止力を作用させる。これにより、リンパ管Lに対してリンパ管側筒状部材130aを固定した状態を安定的に維持することが可能になる。
【0157】
抜け防止部417は、例えば、穿刺部材100の先端開口部103からの突出に伴って拡張変形する弾性部材により構成することが可能である。弾性部材としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレンエチレンブチレンスチレンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの混合物等により構成されたものを使用することができる。
【0158】
なお、抜け防止部417は、リンパ管側筒状部材130aの外周面全体に亘って配置されたリング形状に形成しているが、このような形状に限定されることはない。例えば、リンパ管側筒状部材130aの外面の周方向に間隔を空けて間欠的に配置することも可能である。また、断面形状もリンパ管Lからの抜けを防止する機能が損なわれない限りにおいて適宜変更することができ、図示する形状に限定されることはない。
【0159】
本改変例に係る抜け防止部417は、穿刺部材100の先端開口部103から突出した際に拡張変形するように構成されているため、穿刺部材100の内腔101に収容した状態においてはコンパクトに収容することができ、リンパ管L内に配置した状態においては抜けを防止するのに十分な係止力をリンパ管Lに対して作用させることができる。したがって、本改変例に係るリンパ管側筒状部材130aは、穿刺部材100の内腔101への収容性およびリンパ管Lに対する抜け防止機能がより一層向上されたものとなる。
【0160】
<改変例2>
図15(A)には、改変例2に係るリンパ管側筒状部材130aと、当該リンパ管側筒状部材130aをリンパ管Lに固定した際の様子を示している。
【0161】
本改変例に係るリンパ管側筒状部材130aは、当該リンパ管側筒状部材130aの延在方向(図中の上下方向)の異なる位置にそれぞれ配置された第1の抜け防止部427aと第2の抜け防止部427bとを有している。また、各抜け防止部427a、427bは、前述した改変例1に係る抜け防止部417と同様に、穿刺部材100の先端開口部103からの突出に伴い突出方向と交差する方向へ拡張変形可能に構成している。
【0162】
第1の抜け防止部427aは、第2の抜け防止部427bよりもリンパ管側筒状部材130aの先端側(リンパ管Lの挿入方向の先端側)に配置している。各抜け防止部427a、427bは、前述した改変例1に係る抜け防止部417と同様に、例えば、拡張変形可能な弾性部材により構成することが可能である。
【0163】
各抜け防止部427a、427bは、穿刺部材100の内腔101に収容された状態においては、穿刺部材100の内面によって押え込まれて、収縮した状態となる。
【0164】
図15(A)に示すように、各抜け防止部427a、427bは、穿刺部材100の先端開口部103から突出すると、突出方向と交差する方向に拡張変形する。拡張変形した第1の抜け防止部427aは、リンパ管Lの管壁L12の内面L12bに対して抜けを防止するための係止力を作用させる。一方、拡張変形した第2の抜け防止部427bは、リンパ管Lの管壁L12の外面L12aに対して抜けを防止するための係止力を作用させる。リンパ管Lの管壁L12を外面L12a側および内面L12b側から挟み込むように各抜け防止部427a、427bが配置されるため、リンパ管Lに対してリンパ管側筒状部材Lが固定された状態をより一層安定的に維持することが可能になる。
【0165】
なお、第1の抜け防止部427aと第2の抜け防止部427bとの間の距離は、リンパ管Lの管壁L12の厚みに対応することが可能な範囲で適宜設定することが可能である。
【0166】
<改変例3>
図15(B)には、改変例3に係るリンパ管側筒状部材130aと、当該リンパ管側筒状部材130aをリンパ管Lに固定した際の様子を示している。
【0167】
本改変例に係るリンパ管側筒状部材130aには、リンパ管Lの内面L12bに向けて先細る断面形状(返し形状)に構成された抜け防止部437が備えられている。抜け防止部437は、リンパ管Lの管壁L12の内面L12bに対して先端を喰い込ませるようにして抜けを防止するための係止力を作用させる。このため、リンパ管Lの管壁L12の内面L12bに対する引っ掛かりを強めることができ、リンパ管Lからのリンパ管側筒状部材130aの抜けをより一層好適に防止することが可能になる。
【0168】
本改変例に示すように、抜け防止部437の断面形状は、リンパ管Lに作用させる係止力や、リンパ管L内への挿入性等を考慮して適宜変更することが可能である。
【0169】
なお、抜け防止部437は、前述した改変例1に係る抜け防止部417と同様に、穿刺部材100の先端開口部103からの突出に伴い突出方向と交差する方向へ拡張変形可能に構成している。
【0170】
<改変例4>
図16(A)、(B)には、改変例4に係るリンパ管側筒状部材130aと、当該リンパ管側筒状部材130aをリンパ管Lに固定する前後の様子を示している。
【0171】
本改変例に係るリンパ管側筒状部材130aが備える抜け防止部447は、穿刺部材100の先端開口部103からの突出に伴い突出方向と交差する方向へ拡張変形する羽状(帯状)の部材により構成している。
【0172】
抜け防止部447は、例えば、超弾性合金などで構成された薄板状の部材により構成することが可能である。超弾性合金としては、例えば、前述した実施形態においてリンパ管側筒状部材130に用いることが可能な材料して説明したものを使用することが可能である。
【0173】
図16(A)に示すように、抜け防止部447は、穿刺部材100の内腔101に収容された状態においては、穿刺部材100の内面によって押え込まれて、折り畳まれた状態となる。
【0174】
図16(B)に示すように、抜け防止部447は、穿刺部材100の先端開口部103から突出すると、突出方向と交差する方向に展開して拡張変形する。拡張変形した抜け防止部417は、リンパ管Lの管壁L12の内面L12bに対して抜けを防止するための係止力を作用させる。
【0175】
本改変例に係る抜け防止部447は、羽状の部材により構成しているため、折り畳んだ状態とすることにより、穿刺部材100の内腔101内にコンパクトに収容することができる。また、拡張変形した際には、径方向外方に伸長するように展開するため、リンパ管Lの管壁L12の内面L12bとの当接量を増加させることができる。したがって、本改変例に係るリンパ管側筒状部材130aは、穿刺部材100の内腔101への収容性およびリンパ管Lに対する抜け防止機能がより一層向上されたものとなる。
【0176】
<改変例5>
図17(A)、(B)には、改変例5に係るリンパ管側筒状部材130aと、当該リンパ管側筒状部材130aをリンパ管Lに固定する前後の様子を示している。
【0177】
本改変例に係るリンパ管側筒状部材130aが備える抜け防止部457は、穿刺部材100の先端開口部103からの突出に伴い突出方向と交差する方向へ膨潤する膨潤部材により構成している。
【0178】
抜け防止部457を構成する膨潤部材は、例えば、リンパ等の体液と接触することにより膨潤するゲルや、体温、pHなどの外部刺激に応答して膨潤するゲルにより構成することが可能である。ゲルとしては、例えば、吸水性ポリマーや高吸収性樹脂などにより構成されたもの、体温やpHとの反応により膨潤するPNIPAMなどを使用することができる。
【0179】
図17(A)に示すように、抜け防止部457は、穿刺部材100の内腔101に収容された状態、つまりリンパ等の体液と接触する前の状態においては、収縮した状態を維持する。
【0180】
図17(B)に示すように、抜け防止部457は、穿刺部材100の先端開口部103から突出してリンパ等の体液と接触すると、突出方向と交差する方向に膨潤する。膨潤した抜け防止部457は、リンパ管Lの管壁L12の内面L12bに対して抜けを防止するための係止力を作用させる。これにより、リンパ管Lに対してリンパ管側筒状部材130aを固定した状態を安定的に維持することが可能になる。
【0181】
本改変例に係る抜け防止部457は、リンパ等の体液と接触して膨潤する膨潤部材により構成している。このため、抜け防止部457は、リンパ管側筒状部材130aがリンパ管Lから抜け出る方向の力が作用するような際に、リンパ管Lの管壁L12に付与される押圧力を弱める緩衝材としての機能も持つ。したがって、リンパ管側筒状部材130aをリンパ管Lに固定している間に、リンパ管Lに掛かる負担を低減することが可能になる。
【0182】
なお、抜け防止部457は、例えば、膨潤部材以外の部材を使用してリンパ管側筒状部材130aとは独立して拡張変形し得るように構成することが可能である。例えば、形状記憶合金や形状記憶ポリマーなどにより構成した部材で抜け防止部457を構成することができる。
【0183】
<改変例6>
図18(A)、(B)には、改変例6に係るリンパ管側筒状部材130aと、当該リンパ管側筒状部材130aをリンパ管Lに固定する前後の様子を示している。
【0184】
本改変例に係るリンパ管側筒状部材130aが備える抜け防止部467は、穿刺部材100の先端開口部103からの突出に伴い突出方向と交差する方向へ拡張変形可能に構成している。また、抜け防止部467の外表面には、リンパ管Lの管壁L12に対する係止力を高めるための凹凸状の溝部468を設けている。
【0185】
抜け防止部467は、例えば、弾性材料等により構成することが可能である。溝部468は、例えば、一般的な雌ネジや雄ネジ等に形成される螺旋状のネジ溝により構成することができる。
【0186】
抜け防止部467は、穿刺部材100の内腔101に収容された状態においては、穿刺部材100の内面によって押え込まれて、収縮した状態となる。
【0187】
図18(A)に示すように、リンパ管側筒状部材130aをリンパ管Lに固定する際は、抜け防止部467を穿刺部材100の先端開口部103から露出させた状態で、穿刺部材100を回転させる操作を行う。抜け防止部467は、先端開口部103からの突出に伴って拡張変形しつつ、外表面に形成された溝部468をリンパ管Lの管壁L12の内面L12bに喰い込ませる。その結果、リンパ管Lの管壁L12の内面L12bに対する抜け防止部467の係止力が高まるため、リンパ管Lに対してリンパ管側筒状部材130aが固定された状態をより一層安定的に維持することが可能になる。
【0188】
図18(B)に示すように、リンパ管側筒状部材130aをリンパ管Lに固定した後、穿刺部材100はリンパ管Lから適宜退避させる。
【0189】
なお、穿刺部材100は、抜け防止部467を回転させる操作によりリンパ管Lの管壁L12の内面L12bに対して溝部468を効率良く喰い込ませることが可能となるように、例えば、軸直交断面の形状を楕円形状等の非真円形状に形成することが好ましい。同様に、リンパ管側筒状部材130aの軸直交断面の形状も楕円形状等の非真円形状に形成することが好ましい。
【0190】
以上の各改変例の説明においては、リンパ管側筒状部材130aを使用して側端吻合術を施術した例を説明した。ただし、各改変例に係るリンパ管側筒状部材130aは、側側吻合術および端側吻合術において使用することも可能である。また、各改変例において説明した抜け防止部は、例えば、側側吻合術や端側吻合術の施術において使用される静脈側筒状部材に設けることも可能である。また、各改変例において説明した抜け防止部のそれぞれを任意に組み合わせたものを、リンパ管側筒状部材や静脈側筒状部材に備えさせることも可能である。
【0191】
<他の実施形態>
次に、他の実施形態に係る筒状部材を説明する。本実施形態の説明において特に説明のない処置手順や医療器具10の構成等については、前述した第1実施形態および各改変例と同様のものとすることができ、その説明は省略する。
【0192】
図19(A)、(B)には、本実施形態に係る筒状部材530と、当該筒状部材530を使用して側端吻合術を施術した際の様子を示している。
【0193】
本実施形態に係る筒状部材530は、当該一つの筒状部材530により、リンパ管Lと静脈Pを接合し得るように構成されている。
【0194】
筒状部材530は、内腔531と、内腔531の先端側に連なる先端開口部533と、内腔531の基端側に連なる基端開口部535と、先端部に形成された抜け防止部537と、を有している。
【0195】
筒状部材530の構成材料等に関する基本的な構造は、前述した第1実施形態に係るリンパ管側筒状部材130と同様である。ただし、連結対象となる静脈側筒状部材を用いることなくリンパ管Lと静脈Pを接合し得るように、筒状部材530は、その軸方向の長さLmがリンパ管側筒状部材130よりも長く形成されている。
【0196】
図19(A)に示すように、筒状部材530は、穿刺部材100の内腔101に収容さされると、径方向内方に収縮する。筒状部材530は、穿刺部材100の先端開口部103から放出されると拡張変形する。
【0197】
図19(B)に示すように、筒状部材530は、穿刺部材100の針先107に形成した穿刺部位tに挿入された状態で、穿刺部位tの内面に側壁538を当接させた状態で固定される。リンパ管Lと静脈Pを接合する際、筒状部材530は先端部がリンパ管Lに固定された状態で、基端部が静脈Pの開口端P31内に挿入される。リンパ管Lと静脈Pは、筒状部材530を介して相互に接合される。
【0198】
なお、筒状部材530の基端部は、外径が基端側に向けて縮径するテーパー形状に形成している。筒状部材530の基端部をテーパー形状に形成することにより、静脈Pの開口端P31内へ筒状部材530の基端部を容易に挿入することが可能になっている。
【0199】
本実施形態において説明したように、一つの筒状部材530を使用して側端吻合術を施術する場合においても、リンパ管L側から静脈P側へ向かうリンパの流れを形成することが可能になるため、リンパ浮腫の原因となるリンパの滞留を解消することができる。また、医療器具10を使用して側端吻合術を施術するため、切開等の処置を施して微小な窓部をリンパ管Lに形成する必要がないため、手技を迅速かつ容易に行うことができる。さらに、複数の筒状部材を使用してリンパ管Lと静脈Pを接合する手技に比べて、筒状部材を生体管腔に固定する工程数を減らすことができるため、手技に要する時間をより一層短縮させることが可能になる。
【0200】
本実施形態の説明においては、一つの筒状部材530を使用して側端吻合術を施術した例を説明した。ただし、本実実施形態に係る筒状部材530は、前述した側側吻合術、端側吻合術、端端吻合術において使用することも可能である。また、前述した各改変例において説明した抜け防止部を、本実施形態に係る筒状部材530に備えさせることも可能である。なお、一つの筒状部材530を使用して施術する場合、留置性の観点から、端側吻合術または側端吻合術に適用することが好ましい。
【0201】
以上、複数の実施形態および複数の改変例を通じて本発明に係る医療器具およびリンパ浮腫の治療方法を説明したが、本発明は各実施形態および各変形例において説明した構成や処置手順のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0202】
例えば、摺動に伴い吸引圧を作用させる弁体により負圧発生部を構成した例を説明したが、負圧発生部は、外筒により区画される空間部に負圧を発生させることが可能であれば、その構成は特に限定されない。例えば、外筒に外筒内外の連通状態を切り替え可能な弁体を付加し、この弁体に対して気密に連結可能に構成された吸引手段を負圧発生部として使用することも可能である。吸引手段としては、例えば、公知のシリンジポンプや真空ポンプ、真空採血管のように陰圧管を接続する機構を使用することが可能である。
【0203】
また、本発明に係る医療器具は、接合対象となる生体管腔の管壁を穿刺して穿刺部位を形成することができ、かつ、この穿刺部位へ拡張変形および収縮変形可能な筒状部材を配置して、当該筒状部材を使用した生体管腔同士の接合を行い得るように構成されている限りにおいて、各部の構成は適宜変更することができ、また付加的な部材の追加や省略も適宜に行うことが可能である。