(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0016】
積層セラミックコンデンサの全体構成
まず、本発明に係る積層セラミック電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体4と、第1端子電極6と第2端子電極8とを有する。コンデンサ素体4は、内側誘電体層10と、内部電極層12とを有し、内側誘電体層10の間に、内部電極層12が交互に積層してある。内側誘電体層10と、内部電極層12とが交互に積層される部分が内装領域13である。
【0018】
コンデンサ素体4は、その積層方向Z(Z軸)の両端面に、外装領域11を有する。外装領域11は、内装領域13を構成する内側誘電体層10よりも厚い誘電体層を複数積層して形成してある。
【0019】
交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4のY軸方向第1端部の外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある引出部12Aを有する。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4のY軸方向第2端部の外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある引出部12Bを有する。
【0020】
内装領域13は、容量領域14と引出領域15A,15Bとを有する。容量領域14は、積層方向に沿って内部電極層12が内側誘電体層10を挟んで積層する領域である。引出領域15Aは、外部電極6に接続する内部電極層12の引出部12Aの間に位置する領域である。引出領域15Bは、外部電極8に接続する内部電極層12の引出部12Bの間に位置する領域である。
【0021】
図2に示すように、コンデンサ素体4のX軸方向の両端部には、側面保護領域16が形成してある。側面保護領域16は、内側誘電体層10および/または外装領域11の誘電体層を構成する誘電体材質と同じ、または異なる誘電体材質で構成してある。また、引出領域15Aおよび15Bは、内側誘電体層10を構成する誘電体材質と同じ、または異なる誘電体材質で構成してある。
【0022】
内側誘電体層10および外装領域11を構成する誘電体層の材質は、同じでも異なっていても良く、特に限定されず、たとえばABO3 などのペロブスカイト構造の誘電体材料で構成される。ABO3 において、Aは、たとえばCa、Ba、Srなどの少なくとも一種、Bは、Ti,Zrなどの少なくとも一種である。A/Bのモル比は、特に限定されず、0.980〜1.020である。
【0023】
内部電極層12の材質は、特に限定されないが、たとえばNi、Cu、Ag、Pd、Alなどの金属、またはそれらの合金を用いることができる。
【0024】
端子電極6および8の材質も特に限定されないが、通常、Ni,Pd,Ag,Au,Cu,Pt,Rh,Ru,Ir等の少なくとも1種、またはそれらの合金を用いることができる。通常は、Cu,Cu合金、NiまたはNi合金等や、Ag,Ag−Pd合金、In−Ga合金等が使用される。
【0025】
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、通常、縦寸法L0(
図1参照)は、0.2〜5.7mmであるが、本実施形態では、好ましくは0.3〜3.2mm、さらに好ましくは0.38〜2.1mm、特に好ましくは0.38〜1.60mmである。
【0026】
なお、
図1では、積層セラミックコンデンサ2の縦寸法L0を、コンデンサ素体4のY軸方向長さとして描いてあるが、端子電極6および8を含めた積層セラミックコンデンサ2のY軸方向長さと略同一である。図面では、図示の容易化のために、端子電極6および8の厚みを、実際よりも厚めに描いてあるが、実際には、それぞれ10〜50μm程度であり、縦寸法L0に比較してきわめて薄い。また、図面において、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直であり、Z軸が、内側誘電体層10および内部電極層12の積層方向に一致し、Y軸が、引出領域15Aおよび15B(引出部12Aおよび12B)が形成される方向に一致する。
【0027】
図2に示すように、積層セラミックコンデンサ2の高さ寸法H0は、内側誘電体層10および内部電極層12の積層数などにより変化するが、一般的には、0.2〜3.2mmであるが、本実施形態では、好ましくは0.2〜1.6mmである。なお、積層セラミックコンデンサ2の高さ寸法H0は、
図2では、コンデンサ素体4のZ軸方向の厚みとして描いてあるが、
図1に示す端子電極6および8の厚みが十分に薄いため、これらを含んだ厚みと略同一である。
【0028】
積層セラミックコンデンサ2の幅寸法W0は、一般的には、0.2〜5.0mmであるが、本実施形態では、0.59mm以下、好ましくは0.10〜0.59mm、さらに好ましくは0.15〜0.59mm、特に好ましくは0.185〜0.47mmである。誘電体層の厚みが0.4μm以下の場合には、幅寸法W0が大きくなりすぎると、製造後のコンデンサ素体にクラックが生じやすくなる。その原因としては、次のことが考えられる。
【0029】
誘電体層の厚みが小さくなると、容量形成部である内装領域13において、内部電極層の密度が相対的に大きくなり、焼成時に側面保護領域16や外装領域11を構成するセラミック層との間に作用する応力が大きくなることなどが考えられる。特に、誘電体層の厚みが0.4μm以下であり、幅寸法W0が0.80mm以上になると容量形成部である内装領域13における内部電極の密度が大きく、さらにセラミックコンデンサ内に占める面積(体積)も大きいため、応力の影響が大きくクラックが生じやすい。
【0030】
各内側誘電体層10の厚みtd(
図2参照)は、数μm〜数十μmのものが一般的であるが、本実施形態では、0.4μm以下、好ましくは0.4〜0.1μm、さらに好ましくは0.4〜0.3μmである。内部電極層12の厚みte(
図2参照)は、内側誘電体層10の厚みと同程度であることが好ましいが、さらに好ましくはte/tdが1.25未満となるように決定され、特に好ましくは、te/tdが0.95〜1.05となるように決定される。このように構成することで、クラック抑制効果が向上する。
【0031】
また、本実施形態では、
図2に示す各側面保護領域16のX軸方向の幅Wgapは、セラミック素体4の幅方向(X軸方向)に沿って、セラミック素体4の外面(X軸方向の端面)から内部電極層12の端部までの隙間寸法に一致する。この幅Wgapは、0.010〜0.025mm、好ましくは0.015〜0.025mmである。この幅Wgapが小さすぎるとクラックが発生しやすくなり、この幅Wgapが大きすぎると、静電容量の低下が大きくなる傾向にある。
【0032】
この幅Wgapは、コンデンサ2の幅寸法W0との関係で決定され、本実施形態では、それらの比率Wgap/W0は、0.025以上であり、この比率が小さすぎると、クラックが発生しやすくなる傾向にある。なお、コンデンサ素体4のX軸方向の両側に形成される各側面保護領域16のX軸方向の幅Wgapのそれぞれは、上記の条件を満足することを条件に、相互に同じでも異なっていても良い。
【0033】
また、外装領域11の厚みt0(
図1参照)は、特に限定されないが、好ましくは、15〜200μm、さらに好ましくは15〜80μmの範囲である。このような厚みt0に設定することで、クラックを抑制しつつ、内部電極層12や内側誘電体層10の保護を図り、しかもサイズの小型化に寄与する。コンデンサ素体4のZ軸方向の両側に形成される外装領域11の厚みt0のそれぞれは、上記の条件を満足することを条件に、相互に同じでも異なっていても良い。
【0034】
特に、本実施形態では、内側誘電体層10を構成する第1誘電体粒子の平均粒径をDiとし、外装領域11に位置する第2誘電体粒子の平均粒径をDgとした場合に、好ましくはDg/Di≧1、さらに好ましくはDg/Di≧1.05、特に好ましくはDg/Di≧1.15の関係にある。このように構成することで、誘電体層が薄層化しても、静電容量がさらに向上する。一般的には、誘電体層が薄くなるにつれて、比誘電率が低下することが報告されている。しかしながら、本発明者等は、特定領域の誘電体粒子の粒径をコントロールすることで、誘電体層を薄くしても比誘電率の低下を抑制することができることを見出した。
【0035】
また本実施形態では、内側誘電体層10を構成する第1誘電体粒子の平均粒径をDiとし、引出領域15Aおよび15Bを構成する第3誘電体粒子の平均粒径をDhとした場合に、好ましくはDh/Di≧1、さらに好ましくはDh/Di≧1.1、特に好ましくはDh/Di≧1.2の関係にある。このように構成することで、誘電体層が薄層化しても、静電容量がさらに向上する。一般的には、誘電体層が薄くなるにつれて、比誘電率が低下することが報告されている。しかしながら、本発明者等は、特定領域の誘電体粒子の粒径をコントロールすることで、誘電体層を薄くしても比誘電率の低下を抑制することができることを見出した。
【0036】
誘電体層を薄くしても比誘電率の低下を抑制することができる理由としては、たとえば次のように考えられる。
【0037】
すなわち、外装領域11または引出領域15Aおよび15Bを構成する誘電体粒子の平均粒径を、容量領域14における誘電体粒子の平均粒径よりも大きくすることで、容量領域14の誘電体に圧縮応力を与えることになると考えられる。そのために、比誘電率が向上するのではないかと考えられる。積層セラミックコンデンサ2の容量領域14の誘電体は多結晶体であるため、圧縮方向は限定されないが、特に外装領域11または引出領域15Aおよび15Bの誘電体の結晶粒径を大きくすることが、比誘電率の向上に寄与すると考えられる。
【0038】
特に、誘電体層10の厚みが0.5μm以下で特に効果があることが確認された。0.5μmより厚い誘電体層を有する場合においては、積層セラミックコンデンサの容量領域の誘電体に圧縮応力を与えなくても(粒子比率を制御しなくても)比誘電率は高いが、0.5μm以下の誘電体層においては、比誘電率の低下を抑制して、逆に比誘電率を向上させることができる。
【0039】
このような観点からは、引出領域15Aおよび15Bと同様な誘電体粒子で構成されることが可能な側面保護領域16における誘電体粒子に関しても、同様なことが言える。すなわち、内側誘電体層10を構成する第1誘電体粒子の平均粒径をDiとし、側面保護領域16を構成する第4誘電体粒子の平均粒径をDh’とした場合に、好ましくはDh’/Di≧1、さらに好ましくはDh’/Di≧1.1、特に好ましくはDh’/Di≧1.2の関係にある。
【0040】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本発明の一実施形態としての積層セラミックコンデンサ2の製造方法について説明する。
【0041】
まず、焼成後に
図1に示す内側誘電体層10を構成することになる内側グリーンシート10aおよび外装領域11の外側誘電体層を構成することとなる外側グリーンシート11aを製造するために、内側グリーンシート用ペーストおよび外側グリーンシート用ペーストを準備する。
【0042】
内側グリーンシート用ペーストおよび外側グリーンシート用ペーストは、通常、セラミック粉末と有機ビヒクルとを混練して得られた有機溶剤系ペースト、または水系ペーストで構成される。
【0043】
セラミック粉末の原料としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。セラミック粉体の原料は、本実施形態では、平均粒子径が0.45μm以下、好ましくは0.1〜0.3μm程度の粉体として用いられる。なお、内側グリーンシートをきわめて薄いものとするためには、グリーンシート厚みよりも細かい粉体を使用することが望ましい。
【0044】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。
【0045】
また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、ターピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0046】
グリーンシート用ペースト中には、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されていてもよい。
【0047】
可塑剤としては、フタル酸ジオクチルやフタル酸ベンジルブチルなどのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。
【0048】
次いで、
図1に示す内部電極層12を形成するための内部電極パターン層用ペーストを準備する。内部電極パターン層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。なお、内部電極パターン層用ペーストには、必要に応じて、共材としてセラミック粉末が含まれていても良い。共材は、焼成過程において導電性粉末の焼結を抑制する作用を奏する。
【0049】
上記にて調製した内側グリーンシート用ペーストおよび内部電極パターン層用ペーストを使用して、
図3に示すように、焼成後に内側誘電体層10となる内側グリーンシート10aと、焼成後に内部電極層12となる内部電極パターン層12aと、を交互に積層し、焼成後に内装領域13となる内部積層体13aを製造する。そして、内部積層体13aを製造した後に、または、その前に、外側グリーンシート用ペーストを使用して、焼成後に外装領域11の外側誘電体層となる外側グリーンシート11aを形成する。
【0050】
具体的には、まず、ドクターブレード法などにより、支持体としてのキャリアシート(たとえばPETフィルム)上に、内側グリーンシート10aを形成する。内側グリーンシート10aは、キャリアシート上に形成された後に乾燥される。
【0051】
次いで、上記にて形成した内側グリーンシート10aの表面に、内部電極パターン層用ペーストを用いて、内部電極パターン層12aを形成し、内部電極パターン層12aを有する内側グリーンシート10aを得る。そして、得られた内部電極パターン層12aを有する内側グリーンシート10aを交互に積層し、内部積層体13aを得る。なお、内部電極パターン層12aの形成方法としては、特に限定されないが、印刷法、転写法などが例示される。なお、接着層を介して内部電極パターン層12aを有する内側グリーンシート10aを積層してもよい。
【0052】
外側グリーンシート11aは、内側グリーンシート10aと同様に、支持体としてのキャリアシート上に形成される。外側グリーンシート11aは、キャリアシート上に形成された後に乾燥される。なお、外側グリーンシート11aの厚みは、内側グリーンシート10aよりも十分に厚い。
【0053】
図4に示すように、内側グリーンシート10aの表面には、内部電極パターン層12aが形成され、それらの相互間には、内部電極パターン層12aの長手方向Yに沿う隙間30と、内部電極パターン層12aの短手方向Xに沿う隙間32とが形成され、これらは、平面から見て格子状のパターンとなる。これらの格子状のパターンの隙間30および32には、
図3に示す段差吸収層20を形成しても良い。なお、
図3では、隙間32のみが図示してある。
【0054】
これらの隙間30および32に段差吸収層20を形成することで、グリーンシート10aの表面で内部電極パターン層12aによる段差がなくなり、最終的に得られるコンデンサ素体4の変形防止にも寄与する。段差吸収層20は、たとえば内部電極パターン層12aと同様にして、印刷法などで形成される。段差吸収層20は、グリーンシート10aと同様なセラミック粉末と有機ビヒクルとを含むが、グリーンシート11aと異なり、印刷により形成されるために、印刷しやすいように調整してある。印刷法としては、スクリーン印刷、グラビア印刷などが例示され、特に限定されないが、好ましくはスクリーン印刷である。
【0055】
段差吸収層20を形成するための印刷ペーストにおける有機結合材成分(高分子樹脂+可塑剤)と、各種添加物は、グリーンシート用スラリーに用いられるものと同様なものが用いられる。ただし、これらは、必ずしも、グリーンシート用スラリーに用いられるものと全く同じものである必要はなく、異なっていても良い。段差吸収層20の厚みは、特に限定されないが、内部電極パターン層12aの厚みに対して、好ましくは50〜100%の厚みである。
【0056】
なお、外側グリーンシート11aに内部積層体13aを積層するかわりに、外側グリーンシート11aに直接内側グリーンシート10aと内部電極パターン層12aとを交互に所定数積層してもよい。また、複数枚の内側グリーンシート10aと複数枚の内部電極パターン層12aとを交互に積層した積層体ユニットを予め作製しておき、それらを外側グリーンシート11aに所定数積層してもよい。
【0057】
図5Aおよび
図5Bに示すように、得られたグリーン積層体4aは、たとえば切断線Cに沿って所定の寸法に切断され、グリーンチップとする。グリーンチップは、固化乾燥により可塑剤が除去され固化される。固化乾燥後のグリーンチップは、メディアおよび研磨液とともに、バレル容器内に投入され、水平遠心バレル機などにより、バレル研磨される。バレル研磨後のグリーンチップは、水で洗浄され、乾燥される。乾燥後のグリーンチップに対して、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を行うことにより、
図1に示すコンデンサ素体4が得られる。なお、
図5Aおよび
図5Bは、あくまで概略断面図であり、積層数や寸法関係などは、実際のものとは異なる。
【0058】
このようにして得られた焼結体(素子本体4)には、バレル研磨等にて端面研磨を施し、端子電極用ペーストを焼きつけて端子電極6,8が形成される。そして、必要に応じ、端子電極6,8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、端子電極用ペーストは、上記した内部電極パターン層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0059】
このようにして製造された積層セラミックコンデンサ2は、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0060】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ2によれば、誘電体層10の厚みは0.4μm以下であり、幅寸法W0は0.59mm以下であり、隙間寸法Wgapは0.010〜0.025mmであり、隙間寸法と幅寸法との比率Wgap/W0寸法は0.025以上である。このため、誘電体層の厚みを薄くした場合においても、クラック発生を抑制することができ、しかも静電容量の低下が少ない。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0062】
たとえば、上述した通常の製造方法では、
図1および
図2に示す内側誘電体層10、外装領域11、引出領域15Aおよび15Bを構成する各誘電体粒子を形成するための原料として誘電体ペーストに含まれる誘電体粒子の粒径が略同一である。そのため、結果として得られる
図1および
図2に示す積層セラミックコンデンサ2において、内部電極層12で挟まれている誘電体層10の厚みを0.4μm以下に薄くすると、内部電極層12で挟まれている誘電体層10の誘電体粒子の方が、内部電極層で挟まれていない領域11、15Aおよび15Bの誘電体粒子に比較して平均粒径が大きくなる。その原因としては、内部電極層12で挟まれている誘電体層10の誘電体粒子の方が粒成長が進みやすいからと考えられる。
【0063】
すなわち、上述した実施形態では、誘電体層10を構成する第1誘電体粒子の平均粒径をDiとし、外装領域11に位置する第2誘電体粒子の平均粒径をDgとした場合に、Dg/Di<1となる。また、上述した実施形態では、引出領域15Aおよび15Bを構成する第3誘電体粒子の平均粒径をDhとした場合には、Dh/Di<1である。さらに、側面保護領域16を構成する第4誘電体粒子の平均粒径をDh’とした場合には、Dh’/Di<1である。
【0064】
そこで、本発明の他の実施形態に係る製造方法では、
図1および
図2に示す内側誘電体層10を構成するための誘電体ペースト原料としての誘電体粒子の平均粒径を、外装領域11および/または引出領域15A,15Bを構成する各誘電体粒子を形成するための誘電体ペースト原料に含まれる誘電体粒子の平均粒径に比較して大きくする。あるいは、逆に、内側誘電体層10を構成するための誘電体ペースト原料としての誘電体粒子の平均粒径に比較して、外装領域11および/または引出領域15A,15Bを構成する各誘電体粒子を形成するための誘電体ペースト原料に含まれる誘電体粒子の平均粒径を小さくする。
【0065】
その結果として、焼成後のコンデンサ素体4において、Dg/Di≧1、またはDh/Di≧1、またはDh’/Di≧1の関係、またはそれらの全ての関係を満足させることができる。その理由としては、次のように考えることができる。誘電体ペースト原料の誘電体粒子は粒径が小さいほど、熱に対して活性になるので、焼成時に、粒成長が起こり易くなる。したがって、容量部である内側誘電体層10を構成するための誘電体粒子の平均粒径より、外装領域11および/または引出領域15A,15Bを構成する誘電体粒子の平均粒径を小さくすることによって、容量部である内側誘電体層10を構成するための誘電体粒子より、外装領域11および/または引出領域15A,15Bを構成する誘電体粒子の方が粒成長し易くなります。すると、結果的に、外装領域11および/または引出領域15A,15Bの誘電体粒子の方をより大きくすることができる。
【0066】
このような関係にある時に、内側誘電体層10が薄層化しても、静電容量がさらに向上する。一般的には、誘電体層10が薄くなるにつれて、比誘電率が低下することが報告されている。しかしながら、本発明者等は、特定領域の誘電体粒子の粒径をコントロールすることで、誘電体層10を薄くしても比誘電率の低下を抑制することができることを見出した。
【0067】
さらに、本発明では、誘電体ペースト原料の誘電体粒子の平均粒子径を変えること以外の方法で、焼成後のコンデンサ素体4において、上述した関係を満足させても良い。たとえば内側誘電体層10を構成するための誘電体ペースト原料としての誘電体粒子の組成に比較して、外装領域11および/または引出領域15A,15Bを構成する各誘電体粒子を形成するための誘電体ペースト原料に含まれる誘電体粒子の組成を異ならせても良い。たとえば外装領域11および/または引出領域15A,15Bを構成する各誘電体粒子を形成するための誘電体ペースト原料に含まれる誘電体粒子の組成を、より粒成長しやすい組成にしてもよい。
【0068】
あるいは、外装領域11に、端子電極6,8には接続されないダミー電極を外側誘電体グリーンシートの間に介在させることなどでも、焼成後の誘電体粒子の粒径を制御することは可能である。
【0069】
なお、本発明の積層セラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサに限らず、その他の積層型セラミック電子部品に適用することが可能である。その他の積層型セラミック電子部品としては、誘電体層が内部電極を介して積層される全ての電子部品であり、たとえばバンドパスフィルタ、インダクタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタなどが例示される。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0071】
実施例1
まず、主原料の原料紛体として平均粒子径が100nmの{(Ba1−x−y Cax Sry )O}u (Ti1−z Zrz )v O3 粉末(x=0.05、y=0、Z=0.05、u/v=1.004)を準備し、次にMgCO3 、MnCO3 、Y2 O3 、SiO2 を副成分として準備した。なお、副成分はあらかじめ予備解砕を行い、チタン酸バリウム原料の粒子径よりも小さい40nm程度に加工した。
【0072】
次に上記で準備した各原料粉末を主原料100モルに対して、MgCO3 粉末を0.5モル、MnCO3 粉末を0.3モル、Y2 O3 粉末を0.2モルおよびSiO2 粉末を2モル秤量した。これら各粉末をボールミルで20時間湿式混合、乾燥して、容量部の誘電体原料を得た。このとき添加したBaCO3 、MnCO3 は、焼成後にはそれぞれBaO、MnOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0073】
次いで、得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、容量領域14の誘電体層用ペーストを得た。
【0074】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0075】
さらに、外装領域11の誘電体原料として、平均粒子径が、容量領域14の誘電体粒子と同じ100nmの主原料粉末を準備した。内装領域13の誘電体原料と同様の手法で、副成分と湿式混合とペースト化を行い、外装領域の誘電体用ペーストを得た。
【0076】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。このとき、グリーンシートの厚みは、表1に記載の焼成後の誘電体層の厚みtdが得られるように調整を行った。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した。所定パターンの電極層の厚みは、表1に記載の焼成後の内部電極層の厚みteが得られるように調整を行った。
【0077】
さらに電極が印刷されていない部分の段差を埋めるために、容量領域14の誘電体用ペーストと同じものを使用してパターン印刷を行うことで、段差吸収層20を形成し、内部電極パターン層12aと段差吸収層20とを有するグリーンシート10aを作製した。
【0078】
次いで、外装領域11を形成するための誘電体ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。外装領域11を形成するためのグリーンシートの厚みは10μmとした。このとき、100nmの誘電体原料を使用したグリーンシートを用い、外装領域11を形成するためのグリーンシートを形成した。
【0079】
内部電極層を有する内装領域13のためのグリーンシートと、外装領域11のためのグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0080】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にておこなって、積層セラミック焼成体を得た。
【0081】
脱バインダ処理条件は、昇温速度25℃/時間、保持温度:235℃、保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0082】
焼成条件は、昇温速度600〜1000℃/時間、保持温度1100〜1150℃とし、保持時間を1時間とした。降温速度は200℃/時間とした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN2 +H2 混合ガスとし、酸素分圧が10
−12MPaとなるようにした。
【0083】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度1050℃、保持時間:3時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN2 ガス(酸素分圧:10
−7MPa)とした。
【0084】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを使用した。
【0085】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をバレル研磨した後、外部電極としてCuペーストを塗布し、還元雰囲気にて焼き付け処理を行い、表1に示す試料番号1〜25の積層セラミックコンデンサ試料(以下、単に「コンデンサ試料」と表記する場合がある)を得た。
【0086】
得られたコンデンサ試料の縦寸法L0、幅寸法W0および幅Wgapは、表1に示すように、試料毎に変化させた。
【0087】
得られたコンデンサ試料について静電容量とクラック発生率を下記に示す方法で確認した。
【0088】
(静電容量)
静電容量は、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃においてデジタルLCRメーターにて、周波数1.0kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定した。ただし、表1に示す静電容量の数値は、ある特定のL0寸法、W0寸法のコンデンサ素体に対して、Wgapが0.020であるときの静電容量を1としたときの静電容量比を表している。たとえば、試料番号3〜7の静電容量は、試料番号5の静電容量を基準とした比である。静電容量は0.90以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0089】
(クラック発生率)
クラック発生率の測定方法は、作製した試料(n=1000)の外観を顕微鏡などを用いて目視で観察し、クラックが検出された割合である。クラック発生率が、0〜1.0までが良好であり、0〜0.1が特に良好である。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例2
表2に示すように、焼成後の誘電体層10の厚みtdおよび焼成後の内部電極層12の厚みteを0.3μmとした以外は、実施例1と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料を作製し、それらの静電容量とクラック発生率を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
評価1
表1および表2に示す結果から、誘電体層の厚みtdは0.4μm以下であり、幅寸法W0は0.59mm以下であり、隙間寸法Wgapは0.010〜0.025mmであり、比率(Wgap/W0寸法)は0.025以上で、クラック発生率が少なく、静電容量の低下が少ない積層セラミックコンデンサが得られることが確認できた。
【0094】
実施例3
表3に示すように、焼成後の内部電極層12の厚みteを変化させた以外は、実施例1と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料を作製し、それらの静電容量とクラック発生率を測定した。結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
評価2
表3に示す結果から、te/tdが1.25未満、特に好ましくは、te/tdが0.95〜1.05となる場合に、クラック発生率が少なく、静電容量の低下が少ない積層セラミックコンデンサが得られることが確認できた。
【0097】
実施例4
表4に示すように、容量領域14の誘電体粒子の平均粒径Diに比較して、外装領域11の誘電体粒子の平均粒径D
gを変化させた以外は、実施例1の試料16と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料(試料番号16a〜16b)を作製し、それらの静電容量とクラック発生率を測定した。結果を表4に示す。Dg/Diが1以上の関係を得るために、外装領域11を形成するための誘電体ペーストに含まれる原料の誘電体粒子の平均粒径を60nmとした。
【0098】
実施例5
表5に示すように、容量領域14の誘電体粒子の平均粒径Diに比較して、引出領域15A,15Bの誘電体粒子の平均粒径Dhを変化させた以外は、実施例1の試料16と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料(試料番号16c〜16d)を作製し、それらの静電容量とクラック発生率を測定した。結果を表
5に示す。Dh/Diが1以上の関係を得るために、引出領域12Aおよび12Bと側面保護領域16を形成するための段差吸収用誘電体ペーストに含まれる原料の誘電体粒子の平均粒径を60nmとした。
【0099】
なお、焼成後の誘電体粒子の平均粒径は下記に示す方法で確認した。
【0100】
(誘電体の平均粒子径)
コンデンサ試料を、積層方向が上側になるように垂直に立て、直径25mm、縦20mmのテフロン(登録商標)製の容器を用いて試料の周辺を硬化樹脂で埋めた。ついでサンドペーパーと微細加工研磨機を使用して試料の長手方向の断面が出るように研磨を行った後、表面のダメージを取り除くために、アルゴンイオンを使用したミリングを行った。
【0101】
加工を行った試料を電子顕微鏡を2万倍にして容量領域14、外装領域11、引出領域15A,15Bの誘電体粒子の観察を行い、画像処理ソフトを使用して500個の粒子の断面面積から円相当径の算出を行った。
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
評価3
表4に示す結果から、好ましくはDg/Di≧1、さらに好ましくはDg/Di≧1.05、特に好ましくはDg/Di≧1.15の関係にある時に、誘電体層が薄層化しても、静電容量がさらに向上し、しかもクラック発生率が低いことが確認できた。
【0105】
また、表5に示す結果から、Dh/Di≧1、さらに好ましくはDh/Di≧1.1、特に好ましくはDh/Di≧1.2の関係にある時に、誘電体層が薄層化しても、静電容量がさらに向上し、しかもクラック発生率が低いことが確認できた。
【0106】
なお、実施例5では、段差吸収用誘電体ペーストに含まれる原料の誘電体粒子の平均粒径を60nmとしたため、
図2に示す側面保護領域16に含まれる焼成後の誘電体粒子の平均粒径Dh’と、容量領域14における誘電体粒子の平均粒径Diよりも大きくなり、Dh’/Diは、Dh/Diと略同一となることが確認されている。