(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内リンクと外リンクとがピンによって交互に繋がって構成されたチェーンと、前記チェーンが巻き付けられているスプロケットとの噛み合い状態を、前記スプロケットの側面方向から撮影する2台のカメラであって、互いに異なる位置に設けられる第1カメラおよび第2カメラと、
前記第1カメラおよび前記第2カメラのそれぞれの撮影画像を画像解析することで、前記スプロケットでの基準点の座標である基準点座標と、前記ピンの中心点の座標であるピン中心点座標とを算出する画像解析部と、
前記画像解析部によって算出された前記基準点座標および前記ピン中心点座標から、前記基準点に対する前記ピンの中心点のピン変位量を算出し、算出した前記ピン変位量に基づいて前記チェーンの伸びを検出する処理部と、
を備え、
前記第1カメラおよび前記第2カメラのそれぞれは、異なる位置を撮影する
チェーン伸び検出装置。
内リンクと外リンクとがピンによって交互に繋がって構成されたチェーンと、前記チェーンが巻き付けられているスプロケットとの噛み合い状態を、前記スプロケットの側面方向から、前記スプロケットおよび前記スプロケットに巻き付いている前記チェーンの全体が画角内に入るように撮影する第3カメラと、
前記第3カメラによって撮影された撮影画像を画像解析することで、前記スプロケットの中心点の座標であるスプロケット中心点座標と、前記ピンの中心点の座標であるピン中心点座標とを算出する画像解析部と、
前記画像解析部によって算出された前記スプロケット中心点座標および前記ピン中心点座標から、前記スプロケットの中心点と前記ピンの中心点との間の距離を、各ピンについて算出し、各ピンについて算出した前記距離に基づいて前記チェーンの伸びを検出する処理部と、
を備えたチェーン伸び検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明によるチェーン伸び検出装置および乗客コンベアを、好適な実施の形態にしたがって図面を用いて説明する。なお、図面の説明においては、同一部分または相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
実施の形態1.
はじめに、本実施の形態1におけるチェーン伸び検出装置20の詳細を説明する前段階として、チェーン伸び検出装置20の適用対象の一例である乗客コンベア1について、
図1〜
図3を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態1におけるチェーン伸び検出装置20の適用対象の一例である乗客コンベア1の側面図である。
図2は、
図1のチェーン伝動装置4の側面図である。
図3は、
図2のチェーン9を上からみたときの状態を示す平面図である。
【0016】
トラス2は、上下階の建築梁間に架設されている。トラス2の上階側端部には、機械室3が設けられている。機械室3では、乗客コンベア1を保守する保守員によって行われる作業として、例えば、後述するチェーン9の伸びが許容範囲を超えた場合にチェーン9の交換作業が行われる。
【0017】
機械室3内には、モータを有する駆動装置(図示せず)およびチェーン伝動装置4が設けられている。駆動装置は、踏段5および手摺6を走行させるための駆動力を、チェーン伝動装置4を介して発生させる。
【0018】
図2において、駆動スプロケット7は、駆動装置のモータの回転軸に連結されている。従動スプロケット8は、駆動させる機器に連結されている。チェーン9は、チェーン伸び検出装置20の測定対象であり、内リンクと外リンクとが交互に繋がって構成されたローラチェーンとなっている。
【0019】
駆動スプロケット7および従動スプロケット8には、チェーン9が巻き付けられている。駆動スプロケット7は、チェーン9を介して従動スプロケット8に駆動装置からの駆動力を伝達する。換言すると、駆動スプロケット7が回転すると、チェーン9は、駆動スプロケット7の回転に応じた速度で移動する。
【0020】
また、駆動スプロケット7と従動スプロケット8との軸間距離と、駆動スプロケット7および従動スプロケット8の各スプロケットの歯数に依存して、チェーン9の巻き付き角aが決まる。巻き付き角aは、チェーン9が従動スプロケット8に巻き付き始める位置から巻き付き終わる位置までの角度範囲を示す。
【0021】
図3において、チェーン9の外リンクは、互いに対向する一対の外リンクプレート10と、一対の外リンクプレート10をそれぞれ互いに連結する一対のピン12を有する。一対のピン12は、外リンクの長手方向へ互いに離して配置されている。
【0022】
チェーン9の内リンクは、互いに対向する一対の内リンクプレート11と、一対の内リンクプレート11間に固定された一対の筒状のブッシュ13と、一対の内リンクプレート11間で一対のブッシュ13にそれぞれ回転自在に嵌められた係合部材としての一対の筒状のローラ14とを有する。一対のブッシュ13は、内リンクの長手方向へ互いに離して配置されている。一対のローラ14は、一対のブッシュ13の位置に合わせて内リンクの長手方向へ互いに離して配置されている。
【0023】
互いに隣り合う内リンクと外リンクとは、一対の内リンクプレート11のそれぞれの長手方向端部を一対の外リンクプレート10間に挿入した状態で、内リンクのブッシュ13内を貫通するピン12により繋がっている。チェーン9では内リンクと外リンクとが交互に繋がることにより、ピン12、ブッシュ13およびローラ14が組み合わさった係合体が、一定のピッチで配置されている。
【0024】
なお、外リンクにおいて、一対の外リンクプレート10間に位置する一対のローラ14の軸間ピッチをローラピッチbと呼ぶ。また、内リンクにおいて、一対の内リンクプレート11間に位置する一対のローラ14の軸間ピッチをローラピッチcと呼ぶ。
【0025】
次に、チェーン9の伸びに関する考察について説明する。チェーン9の伸びは、弾性伸び、塑性伸びおよび摩耗伸びの3つの伸びに大別される。また、チェーン9の伸びの種類の割合については、3つの伸びのうち、摩耗伸びが最も多くの割合を占める。この摩耗伸びは、ピン12とブッシュ13との接触面が摩耗することでピン12とブッシュ13との隙間が拡大することに起因して発生することが知られている。
【0026】
したがって、チェーン9が伸びている場合、摩耗伸びに起因していると考えられるので、ピン12およびブッシュ13のそれぞれの摩耗によって、ローラピッチbは変化しないものの、ローラピッチcが広がることとなる。また、伸びているチェーン9を駆動スプロケット7および従動スプロケット8に巻き付けた際、各スプロケットにおいて、ピッチ円上の歯面にチェーン9のローラ14が当接することが通念である。
【0027】
続いて、チェーン9の伸びに関するさらなる考察について、
図4〜
図8を参照しながら説明する。
図4は、
図1のチェーン伝動装置4に関する実験系を示す構成図である。
図5は、
図4の実験用カメラ15によって撮影された画像の概略図である。
図6は、
図4の実験系におけるピン中心点位置を示す概略図である。
図7は、
図4の実験系によって得られた、ピン中心点位置に対する鉛直方向変位量の変化を示すグラフである。
図8は、
図4の実験系によって得られた、ピン中心点位置に対する水平方向変位量の変化を示すグラフである。
【0028】
図4の実験系において、駆動スプロケット7として、20枚の歯が円周方向に沿って単列に設けられているスプロケットが用いられ、従動スプロケット8として、単列に70枚の歯が円周方向に沿って設けられているスプロケットが用いられている。駆動スプロケット7および従動スプロケット8において、各スプロケット軸の軸間距離を800mmに設定し、各スプロケット軸が水平になるようにしている。
【0029】
また、実験によって、チェーン9の伸びの発生の有無によるピン12の位置変化を確認するために、伸びていないチェーン9と、伸びているチェーン9を用意する。なお、必要に応じて、伸びていないチェーン9をチェーン9Aと表記し、伸びているチェーン9をチェーン9Bと表記する。
【0030】
チェーン9Aにおいて、ローラピッチbおよびローラピッチcがそれぞれ25.4mmになるように調整している。一方、チェーン9Bにおいて、ローラピッチbが27.43mmとなり、ローラピッチcが25.4mmとなるように調整している。このように、チェーン9Aおよびチェーン9Bのそれぞれについて、ローラピッチbおよびローラピッチcを調整しているので、チェーン9Bの全長は、チェーン9Aの全長よりも4%伸びている。
【0031】
実験用カメラ15は、巻き付き角aの範囲に位置するチェーン9の側面を、巻き付き角aの範囲を移動しながら撮影可能なように設置されている。
【0032】
実験では、駆動スプロケット7および従動スプロケット8にチェーン9Aを巻き付け、駆動スプロケット7を回転させる。また、駆動スプロケット7の回転に伴い、巻き付き角aの範囲で移動するチェーン9Aの撮影対象のピン12が撮影される。撮影対象のピン12は、巻き付き角aの範囲を移動する間、逐次撮影されることとなる。また、チェーン9Bについても同様の実験が行われる。
【0033】
図5には、実験用カメラ15によって、巻き付き角aの範囲のある位置に撮影対象のピン12が存在するときに側面方向から撮影されたチェーン9の画像の一例が示されている。実験において、チェーン9Aでは、一対の外リンクプレート10をそれぞれ互いに連結する一対のピン12のいずれかを撮影対象のピン12としている。一方、チェーン9Bでは、一対の外リンクプレート10をそれぞれ互いに連結する一対のピン12の両方を撮影対象のピン12としている。画像上の撮影対象のピン12の中心点Pcは、画像解析によって算出される。なお、必要に応じて、
図5に示すように、撮影対象のピン12のうちのチェーン進行方向側のピン12の中心点PcをPcaと表記し、他方のピン12の中心点PcをPcbと表記する。
【0034】
従動スプロケット8の回転に伴い移動する撮影対象のピン12の中心点Pcの位置であるピン中心位置は、
図6に示す角度座標系によって定義される。すなわち、
図4の実験系を側面から見たとき、従動スプロケット8の円周方向に沿って移動する中心点Pcの位置を、角度で示していることとなる。
【0035】
チェーン9Aのピン12の中心点Pcと、チェーン9Bのピン12の中心点Pcaおよび中心点Pcbとについて、
図7に示すように、各中心点の鉛直方向変位量は、ピン中心点位置に従って変化する。
図7から分かるように、伸びていないチェーン9のピン中心点Pcに対して、伸びているチェーン9のピン中心点Pcaおよびピン中心点Pcbが従動スプロケット8の回転に伴い移動している。
【0036】
チェーン9Aのピン12の中心点Pcと、チェーン9Bのピン12の中心点Pcaおよび中心点Pcbとについて、
図8に示すように、各中心点の水平方向変位量も、ピン中心点位置に従って変化する。
図8から分かるように、鉛直方向と同様に水平方向についても、伸びていないチェーン9のピン中心点Pcに対して、伸びているチェーン9のピン中心点Pcaおよびピン中心点Pcbが従動スプロケット8の回転に伴い移動している。
【0037】
以上の実験から、伸びているチェーン9のローラ14およびピン12は、巻き付き始めてから巻き付き終わるまで従動スプロケット8の歯内を移動していることをはじめて確認することができた。すなわち、伸びているチェーン9を従動スプロケット8に巻き付けた際において、チェーン9のローラ14は、ピッチ円上の歯面に当接することが通念であったのに対して、従動スプロケット8の歯内を移動しているという知見が実験によりはじめて確認された。
【0038】
したがって、巻き付き角aの範囲内で2箇所のピン変位量を検出し、カメラ位置とピン変位量とから幾何学的にチェーンの伸び状態を知ることができる。
【0039】
次に、本実施の形態1におけるチェーン伸び検出装置20について、
図9および
図10を参照しながら説明する。
図9は、本発明の実施の形態1におけるチェーン伸び検出装置20を示す構成図である。
図10は、
図9の第1カメラ21aおよび第2カメラ21bを設置した後のチェーン伝動装置4を示す構成図である。
【0040】
図9において、チェーン伸び検出装置20は、第1カメラ21a、第2カメラ21b、画像解析部22、処理部23および筐体24を備える。
【0041】
第1カメラ21aおよび第2カメラ21bは、チェーン伝動装置4の側面方向から、従動スプロケット8の歯とチェーン9との噛み合い状態を撮影する。また、
図10に示すように、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bは、チェーン9の巻き付き角の範囲内で、互いに異なる位置に設置される。さらに、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bは、チェーン9の1組の内外リンク両端のピン12が撮影可能な位置に設置される。
【0042】
画像解析部22は、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bのそれぞれが撮影した映像を画像解析する。処理部23は、画像解析部22による画像解析の結果を処理することで、ピン中心点の鉛直方向変位量および水平方向変位量を算出する。筐体24は、画像解析部22および処理部23を収納する。なお、画像解析部22および処理部23は、例えば、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPUと、システムLSI等の処理回路とによって実現される。
【0043】
図10に示すように、従動スプロケット8には、円形状の基準板25が取り付けられている。また、基準板25には、従動スプロケット8の歯数と同じ数の基準線26が周方向に沿って設けられている。
【0044】
基準線26は、従動スプロケット8の歯底中央から従動スプロケット8の中心軸を結んだ線上に位置し、基準線26のそれぞれを識別可能なように、番号がマーキングされている。
【0045】
図11は、
図9の第1カメラ21aおよび第2カメラ21bのそれぞれによって撮影された画像の概略図である。
【0046】
画像解析部22は、
図11に示す撮影画像から、画像解析によって、従動スプロケット8に取り付けた基準板25の基準線26端部の点を基準点Prとして、基準点Prの点座標である基準点座標を算出する。
【0047】
続いて、画像解析部22は、1つの基準点Prが画角内に存在する特定の位置の映像を切り出し、基準点Prが存在する基準線26に対応する歯底に位置するピン12の中心点Pcの座標であるピン中心点座標を算出する。
【0048】
このように、画像解析部22は、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bのそれぞれの撮影画像を画像解析することで、それぞれの撮影画像について、従動スプロケット8での基準点の座標である基準点座標と、ピン12の中心点の座標であるピン中心点座標とを算出する。
【0049】
処理部23は、画像解析部22によって算出された基準点座標の水平方向成分と、画像解析部22によって算出されたピン中心点座標の水平方向成分との差を、水平方向変位量Xとして算出する。同様に、処理部23は、画像解析部22によって算出された基準点座標の鉛直方向成分と、画像解析部22によって算出されたピン中心点座標の鉛直方向成分との差を、鉛直方向変位量Yとして算出する。
【0050】
このように、処理部23は、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bのそれぞれの撮影画像について、画像解析部22によって算出された基準点座標およびピン中心点座標から、基準点Prに対するピン12の中心点Pcの変位量として、水平方向変位量Xおよび鉛直方向変位量Yを算出する。なお、基準点Prに対するピン12の中心点Pcの変位量をピン変位量と呼ぶ。
【0051】
処理部23は、第1カメラ21aの撮影画像から算出されたピン変位量と、第2カメラ21bの撮影画像から算出されたピン変位量とを比較する。処理部23は、比較結果に基づいてチェーン9の伸びが許容範囲を超えているか否かを判定する。なお、処理部23が、ピン変位量のうちの、鉛直方向変位量Yで比較するか、水平方向変位量Xで比較するかは任意とする。
【0052】
図12は、本発明の実施の形態1において、チェーン9が伸びていないときに、第1カメラ21aの撮影画像から算出されたピン変位量と、第2カメラ21bの撮影画像から算出されたピン変位量とを示すグラフである。
図12において、横軸は、複数の基準線26のそれぞれに対応する基準点Prを示し、縦軸は、基準点Prに対応するピン変位量を、ピン中心点と基準点の差として示している。
【0053】
図12から分かるように、チェーン9が伸びていないとき、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bの間で、ピン変位量に差がない。
【0054】
図13は、本発明の実施の形態1において、チェーン9が伸びているときに、第1カメラ21aの撮影画像から算出されたピン変位量と、第2カメラ21bの撮影画像から算出されたピン変位量とを示すグラフである。
図13において、横軸は、複数の基準線26のそれぞれに対応する基準点Prを示し、縦軸は、基準点Prに対応するピン変位量を、ピン中心点と基準点の差として示している。
【0055】
図13から分かるように、チェーン9が伸びているとき、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bの間で、ピン変位量に差がある。チェーンが伸びていると、ピン12が従動スプロケット8の歯内を従動スプロケット8の回転に伴い移動するので、このようにピン変位量に差が生じる。
【0056】
そこで、処理部23は、第1カメラ21aの撮影画像から算出されるピン変位量と、第2カメラ21bの撮影画像から算出されるピン変位量との差であるピン変位量差が、設定閾値を超えた場合に、チェーン9の伸びが許容範囲を超えていると判定する。
【0057】
ここで、ピン変位量差は、チェーン9の伸び量に応じて変化する。したがって、チェーン9を交換する必要となる伸び量に対応するピン変位量差が設定閾値となるように、あらかじめ設定しておけばよい。また、チェーン9の伸び量に応じてピン変位量差がどのように変化するかは実験によりあらかじめ確認すればよい。
【0058】
次に、本実施の形態1におけるチェーン伸び検出装置20の一連の動作について、
図14のフローチャートを参照しながら説明する。
図14は、本発明の実施の形態1におけるチェーン伸び検出装置20の一連の動作を示すフローチャートである。このフローチャートでは、ステップS101からS103までの測定診断ステップと、ステップS104およびS105の判別診断ステップとに大別される。
【0059】
まず、
図14のフローチャートが実行される前段階として、基準線26が設けられた基準板25が従動スプロケット8に取り付けられた後、
図10に示すように、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bが設置される。続いて、チェーン伝動装置4の低速運転が開始されることで、駆動スプロケット7および従動スプロケット8が回転する。
【0060】
ステップS101において、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bは、チェーン伝動装置4の低速運転を開始した時点からチェーン9が一周する映像を撮影する。
【0061】
ステップS101の処理後、ステップS102において、画像解析部22は、ステップS101で第1カメラ21aによって撮影された画像から、基準線26に存在する基準点Prごとに、基準点座標とピン12の中心点座標とを算出する。同様に、画像解析部22は、ステップS101で第2カメラ21bによって撮影された画像から、基準線26に存在する基準点Prごとに、基準点座標とピン12の中心点座標とを算出する。
【0062】
ステップS102の処理後、ステップS103において、処理部23は、ステップS102での画像解析部22の算出結果から、基準点Prごとに、ピン変位量を算出する。また、基準線26には各々識別可能な番号がマーキングされているので、処理部23は、基準線26に存在する基準点Prにも同様に各々識別可能な番号を付与し、基準点Prの番号と、その番号の基準点Prに対応するピン変位量とを関連付ける。このように、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bのそれぞれについて、基準点Prの番号と、その番号の基準点Prに対応するピン変位量とが関連付けられることとなる。
【0063】
ステップS103の処理後、ステップS104において、処理部23は、第1カメラ21aの撮影画像によって算出されたピン変位量と、第2カメラ21bの撮影画像によって算出されたピン変位量とを、基準点Prの番号ごとに比較する。
【0064】
ステップS104において、処理部23は、基準点Prの番号ごとに比較した結果、ピン変位量差が設定閾値を超えている基準点Prの番号が存在する場合、ステップS105へと進む。
【0065】
ステップS105において、処理部23は、チェーン9の伸びが許容範囲を超えていると判断し、作業員に対して異常を報知する。この場合、作業員は、異常の報知によって、チェーン9の伸びが許容範囲を超えていると確認することができる。したがって、作業員は、チェーン伝動装置4から伸びているチェーン9をはずし、伸びていないチェーン9と交換する。
【0066】
一方、ステップS104において、ピン変位量差が設定閾値を超えている基準点Prの番号が存在しない場合、処理を終了する。この場合、チェーン9の伸びが許容範囲内であるので、チェーン9の交換が行われない。
【0067】
なお、本実施の形態1では、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bは、チェーン9と、チェーン9が巻き付けられている従動スプロケット8との噛み合い状態を撮影するように設置する場合を例示した。しかしながら、これに限定されず、第1カメラ21aおよび第2カメラ21bは、チェーン9と、チェーン9が巻き付けられている駆動スプロケット7との噛み合い状態を撮影するように設置するようにしてもよい。
【0068】
以上、本実施の形態1によれば、内リンクと外リンクとがピンによって交互に繋がって構成されたチェーンと、チェーンが巻き付けられているスプロケットとの噛み合い状態を、スプロケットの側面方向から撮影する2台のカメラであって、互いに異なる位置に設けられる第1カメラおよび第2カメラと、第1カメラおよび第2カメラのそれぞれの撮影画像を画像解析することで、スプロケットでの基準点の座標である基準点座標と、ピンの中心点の座標であるピン中心点座標とを算出する画像解析部と、画像解析部によって算出された基準点座標およびピン中心点座標から、基準点に対するピンの中心点のピン変位量を算出し、算出したピン変位量に基づいてチェーンの伸びを検出する処理部を備えた構成を有する。
【0069】
また、第1カメラの撮影画像から算出されるピン変位量と、第2カメラの撮影画像から算出されるピン変位量との差であるピン変位量差が、設定閾値を超えた場合に、チェーンの伸びが許容範囲を超えていると判定する構成を有する。
【0070】
これにより、チェーン伝動装置のチェーンを1周駆動することでチェーンの伸びが許容範囲を超えているか否かを、チェーン全リンクの伸び測定をスケールで行うことなく判別することができ、その結果、チェーンの伸び検査の作業時間の短縮を実現することができる。
【0071】
また、チェーン伝動装置の初期情報が必要なく、チェーン張力により姿勢が安定保持されたチェーンとスプロケットとの噛み合い状態を撮影し、その映像を画像解析することでチェーンの伸び検査を簡単に行うことができる。
【0072】
以上のように、カメラでの画像の取得からチェーンの伸びが許容範囲を超えているか否かの判別まで、人が介在することがないので、作業時間の短縮が実現できる。また、安定した姿勢保持状態である、チェーンとスプロケットとの噛み合い状態での画像を用いてチェーンの伸び検査を行うので、チェーンの伸び検査の再現性および精度を確保することができる。
【0073】
なお、ピン変位量差は、チェーン9の伸び量に応じて変化するので、基準点Prの番号ごとに算出されるピン変位量差から、チェーン9の伸び量を測定するように構成してもよい。この場合、処理部23は、第1カメラ21aの撮影画像から算出されるピン変位量と、第2カメラ21bの撮影画像から算出されるピン変位量との差であるピン変位量差から、チェーン9の伸び量を算出する。
【0074】
このように構成することで、保守員は、処理部23によって算出されたチェーン9の伸び量から、チェーン9の交換の要否および交換適正時期を予測することができる。
【0075】
また、基準点Prの番号ごとにピン変位量差が算出されるので、ピン変位量差が設定閾値を超える基準点Prの番号を特定し、特定した基準点Prの番号から、チェーン9が局所的に伸びているか、均一に伸びているかを判別するように構成してもよい。この場合、処理部23は、第1カメラ21aの撮影画像から算出されるピン変位量と、第2カメラ21bの撮影画像から算出されるピン変位量との差であるピン変位量差から、チェーン9が局所的に伸びているか均一に伸びているかを判別する。
【0076】
このように構成することで、保守員は、チェーン9が局所的に伸びているか均一に伸びているかを判別することができ、チェーン9を部分的に交換するか、全てを交換するかを判別することができる。
【0077】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、2箇所に設置した第1カメラ21aおよび第2カメラ21bの2台のカメラによって撮影されたそれぞれの映像から算出されるピン変位量差に基づいてチェーン9の伸びを検出するチェーン伸び検出装置20について説明した。これに対して、本発明の実施の形態2では、1箇所に設置した第3カメラ21cを用いてチェーン9の伸びを検出するチェーン伸び検出装置20について説明する。なお、本実施の形態2では、先の実施の形態1と同様の点の説明を省略し、先の実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
【0078】
図15は、本発明の実施の形態2におけるチェーン伸び検出装置20を示す構成図である。
図15において、チェーン伸び検出装置20は、第3カメラ21c、画像解析部22、処理部23および筐体24を備える。
【0079】
第3カメラ21cは、チェーン伝動装置4の側面方向から、従動スプロケット8および従動スプロケット8に巻き付いているチェーン9の全体を撮影する。すなわち、第3カメラ21cは、従動スプロケット8の中心軸の延長線上で、従動スプロケット8および従動スプロケット8に巻き付いているチェーン9の全体が画角内に入るように設置される。
【0080】
画像解析部22は、第3カメラ21cが撮影した映像を画像解析することで、チェーン9の各ピンの中心点Pcの位置と、従動スプロケット8の中心軸上の点である中心点Pc’の位置とを特定する。処理部23は、画像解析部22による画像解析の結果を処理することで、各ピン12の中心点Pcと、従動スプロケット8の中心点Pc’との間の距離dを算出する。筐体24は、画像解析部22および処理部23を収納する。
【0081】
図16は、
図15の第3カメラ21cによって撮影された画像の概略図である。本実施の形態2では、画像解析部22は、
図16に示すような映像を画像解析することで、チェーン9の各ピン12の中心点Pcと、従動スプロケット8の中心点Pc’との間の距離dを算出する。
【0082】
また、先の実施の形態1で説明したとおり、伸びているチェーン9が従動スプロケット8に巻き付く場合、ピン12が従動スプロケット8の回転に伴い移動する。そこで、処理部23は、各ピン12について算出された各距離dの変化に応じてチェーン9の伸びを検出する。具体的には、処理部23は、各ピン12について算出された各距離dのうちの少なくとも1つが設定閾値を超えた場合に、チェーン9の伸びが許容範囲を超えていると判定する。
【0083】
ここで、距離dは、チェーン9の伸び量に応じて変化する。したがって、チェーン9を交換する必要となる伸び量に対応する距離dが設定閾値となるように、あらかじめ設定しておけばよい。また、チェーン9の伸び量に応じて距離dがどのように変化するかは実験によりあらかじめ確認すればよい。
【0084】
次に、本実施の形態2におけるチェーン伸び検出装置20の一例の動作について、
図17のフローチャートを参照しながら説明する。
図17は、本発明の実施の形態2におけるチェーン伸び検出装置20の一連の動作を示すフローチャートである。このフローチャートでは、ステップS201からS203までの測定診断ステップと、ステップS204およびS205の判別診断ステップとに大別される。
【0085】
まず、
図17のフローチャートが実行される前段階として、第3カメラ21cが設置される。続いて、チェーン伝動装置4の低速運転が開始されることで、駆動スプロケット7および従動スプロケット8が回転する。
【0086】
ステップS201において、第3カメラ21cは、チェーン伝動装置4の低速運転を開始した時点からチェーン9が一周する映像を撮影する。
【0087】
ステップS201の処理後、ステップS202において、画像解析部22は、ステップS201で第3カメラ21cによって撮影された画像から、各ピン12の中心点Pcの鉛直方向座標および水平方向座標を、ピン中心点座標として算出し、従動スプロケット8の中心点Pc’の鉛直方向座標および水平方向座標を、スプロケット中心点座標として算出する。
【0088】
ステップS202の処理後、ステップS203において、処理部23は、ピン12の中心点Pcと、従動スプロケット8の中心点Pc’との間の距離dを、各ピン12について算出する。また、処理部23は、各ピン12に各々識別可能な番号を付与し、ピン12の番号と、その番号のピン12に対応する距離dとを関連付ける。
【0089】
ステップS203の処理後、ステップS204において、処理部23は、算出した距離dと、設定閾値とを、ピン12の番号ごとに比較する。
【0090】
ステップS204において、処理部23は、ピン12の番号ごとに比較した結果、距離dが設定閾値を超えているピン12が存在する場合、ステップS205へと進む。
【0091】
ステップS205において、処理部23は、チェーン9の伸びが許容範囲を超えていると判断し、作業員に対して異常を報知する。この場合、作業員は、異常の報知によって、チェーン9の伸びが許容範囲を超えていると確認することができる。したがって、作業員は、チェーン伝動装置4から伸びているチェーン9をはずし、伸びていないチェーン9と交換する。
【0092】
一方、ステップS204において、処理部23は、距離dが設定閾値を超えていない場合、処理を終了する。この場合、チェーン9の伸びが許容範囲内であるので、チェーン9の交換が行われない。
【0093】
なお、本実施の形態2では、第3カメラ21cは、チェーン9と、チェーン9が巻き付けられている従動スプロケット8との噛み合い状態を撮影するように設置する場合を例示した。しかしながら、これに限定されず、第3カメラ21cは、チェーン9と、チェーン9が巻き付けられている駆動スプロケット7との噛み合い状態を撮影するように設置するようにしてもよい。
【0094】
以上、本実施の形態2によれば、スプロケットの側面方向から、スプロケットおよびスプロケットに巻き付いているチェーンの全体が画角内に入るように撮影する第3カメラと、第3カメラによって撮影された撮影画像を画像解析することで、スプロケットの中心点の座標であるスプロケット中心点座標と、ピンの中心点の座標であるピン中心点座標とを算出する画像解析部と、画像解析部によって算出されたスプロケット中心点座標およびピン中心点座標から、スプロケットの中心点と、ピンの中心点との間の距離を、各ピンについて算出し、各ピンについて算出した距離に基づいてチェーンの伸びを検出する処理部と、を備えた構成を有する。
【0095】
また、処理部は、各ピンについて算出した距離が、設定閾値を超えた場合に、チェーンの伸びが許容範囲を超えていると判定する構成を有する。これにより、カメラ1台を用いるだけで、先の実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0096】
なお、距離dは、チェーン9の伸び量に応じて変化するので、算出される距離dから、チェーン9の伸び量を測定するように構成してもよい。この場合、処理部23は、距離dから、チェーンの伸び量を算出する。このように構成することで、カメラ1台を用いるだけで、保守員は、処理部23によって算出されたチェーン9の伸び量から、チェーン9の交換の要否および交換適正時期を予測することができる。
【0097】
また、ピン12の番号ごとに距離dが算出されるので、距離dが設定閾値を超えるピン12の番号を特定し、特定したピン12の番号から、チェーン9が局所的に伸びているか、均一に伸びているかを判別するように構成してもよい。この場合、処理部23は、距離dから、チェーン9が局所的に伸びているか均一に伸びているかを判別する。このように構成することで、カメラ1台を用いるだけで、保守員は、チェーン9が局所的に伸びているか均一に伸びているかを判別することができ、チェーン9を部分的に交換するか、全てを交換するかを判別することができる。