(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記伸縮機構が、前記走行体から下方に向かってに延在する支持部材と、前記走行体から下方に向かってに延在して前記支持部材と前記レール長手方向に並べて配置されるバネ部材とを備えていて、
前記押圧部が、前記レール長手方向を直角に横断する横行方向を軸方向とするピンにより、前記支持部材の下端と前記バネ部材の下端とにそれぞれ軸支される請求項1または2に記載のブレーキ装置。
前記押圧部が、前記支持部材の下端と前記バネ部材の下端とに支持される保持具と、この保持具に保持され前記横行方向を回転軸方向とするローラとを備える請求項3に記載のブレーキ装置。
前記ブレーキ装置と前記走行体との間に高さ調整機構を配置して、この高さ調整機構により前記ブレーキ装置の上下方向における設置位置を調整して、前記待機位置に配置される前記ブレーキシューの下面と前記レールの上面との高さの差を調整する請求項6に記載のブレーキ装置の調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のブレーキ装置およびブレーキ装置の調整方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。尚、図中では走行体の走行方向(レール長手方向)を矢印y、この走行方向yを直角に横断する横行方向を矢印x、上下方向を矢印zで示している。
【0021】
図1および
図2に例示するように本発明のブレーキ装置1は、例えば岸壁クレーンや列車等のレール2の上を走行する走行体3の下面に固定される伸縮機構4と、この伸縮機構4の下端からレール2に向かって突設される押圧部5と、この押圧部5とレール2との間に配置されるブレーキシュー6と、このブレーキシュー6を上げ下げする昇降機構7とを備えている。
【0022】
伸縮機構4は、この実施形態では走行体3から下方に延設される支持部材8と、この支持部材8から走行方向yに沿って間隔を開けて配置され走行体3から下方に延設されるバネ部材9とを備えている。支持部材8はその延設方向が上下方向zと平行となる状態に配置されている。バネ部材9はその延設方向が上下方向zと平行となる状態から走行方向yに沿って傾斜した状態で配置されている。バネ部材9は上端が支持部材8に接近する方向に傾斜している。つまり支持部材8の上端とバネ部材9の上端との走行方向yにおける間隔が、支持部材8の下端とバネ部材9の下端との走行方向yにおける間の間隔よりも接近
する状態にバネ部材9は傾斜している。
【0023】
バネ部材9は複数枚重ねあわせた皿バネで構成されていて、その軸方向に伸縮可能である。バネ部材9の構成はこれに限らず、コイルバネや油圧シリンダや油圧シリンダとコイルバネを組み合わせた機構などその軸方向に伸縮する構成を有していればよい。
【0024】
押圧部5は、この実施形態では支持部材8の下端とバネ部材9の下端とに支持される保持具10と、保持具10に設置されるローラ11とを備えている。保持具10は略直方体形状であり、走行方向yの両端部が横行方向xを軸方向とするピン12、13により支持部材8の下端とバネ部材9の下端とにそれぞれ連結されている。ローラ11は、横行方向xを軸方向とする回転軸14により保持具10に支持されていて、この回転軸14を中心に回転可能な状態に構成されている。なお
図1および
図2では説明のためローラ11の一部を破線で示している。
【0025】
ブレーキシュー6は、押圧部5とレール2との間に配置されていて、昇降機構7により走行体3の側から懸吊されている。
図3に例示するようにブレーキシュー6は、上面に凹型に形成される窪み部15と、窪み部15の走行方向yの両側にそれぞれ形成される第一水平部16とを有している。窪み部15の走行方向yにおける中心部分であって最も低くなる底面には第二水平部17が形成されている。
【0026】
二つの第一水平部16と第二水平部17とは、互いに平行となる水平平面で形成されている。第一水平部16と第二水平部17とは、ブレーキシュー6の下面に平行である。二つの第一水平部16は、第二水平部17よりも上方であり、互いに同じ高さに位置している。第一水平部16と第二水平部17との間は、平面状の傾斜面15aで連結されている。
【0027】
ブレーキ装置1が設置される走行体3が例えば岸壁クレーンで構成される場合は、このブレーキシュー6の走行方向yの長さは例えば300〜1000mm程度とすることができる。またブレーキシュー6の横行方向xの長さはレール2の幅よりも長くまたは同程度とすることができ、具体的には150〜350mm程度とすることができる。
【0028】
図1に例示するように昇降機構7は、押圧部5の横行方向xの両側となる位置にそれぞれ配置されている。
図4に例示するように昇降機構7は、ブレーキシュー6の横行方向xに対向する側面に一端を連結される紐状物18と、走行体3に設置されてこの紐状物18を巻き上げたり巻き下げたりする巻上部19と、紐状物18を両側から挟み込んで案内する案内部20とを有している。
【0029】
紐状物18は例えばチェーンで構成されている。紐状物18はチェーンに限らず、例えばワイヤやロープなど、ブレーキシュー6を懸吊できる強度を有するとともに巻上部19により巻き上げられる構成であればよい。
図1に例示する実施形態では紐状物18の一端は、横行方向xに延在する延長部材18aを介して間接的にブレーキシュー6に連結されている。ブレーキシュー6に連結される紐状物18の一端は、直接的にブレーキシュー6の側面に連結されてもよい。
【0030】
巻上部19は、駆動モータに連結されるドラムで構成することができる。駆動モータの動力によりドラムを回転させることで、チェーンを巻き取ったり繰り出したりすることができる。
【0031】
案内部20は、一対のガイドシーブで構成することができる。ガイドシーブは、横行方向xを軸方向とするピンと、このピンにより回転可能な状態で支持されるシーブで構成さ
れている。案内部20は、走行体3の側に固定されていて、ブレーキシュー6よりも上方となる位置に配置されている。一対のガイドシーブは走行方向yの両側から紐状物18を挟み込み、この紐状物18を案内する構成を有している。案内部20はこの構成に限らず、紐状物18を走行方向yにおいて所定の位置に拘束するとともに、所定の方向に案内する構成を有していればよく、例えば上下方向zに伸びる貫通孔を形成されていてこの貫通孔に紐状物18を貫通させる筒状体などで構成してもよい。
【0032】
昇降機構7は、ブレーキシュー6の上面と接触して、ブレーキシュー6の姿勢を維持する当接部材21を有している。当接部材21は、ブレーキシュー6の走行方向yの両側となるそれぞれの第一水平部16と接触する位置に配置されていて、互いに同じ高さとなる下面を有している。紐状物18により上方に引き上げられたブレーキシュー6は、それぞれの第一水平部16が当接部材21の下面と面接触するので、ブレーキシュー6の姿勢が水平状態となる。
【0033】
ブレーキシュー6の走行方向yの両外側にはそれぞれストッパ22が配置されている。このストッパ22は走行体3の側に固定されていて、走行方向yにおいてブレーキシュー6を予め定められた範囲内に拘束する構成を備えている。
【0034】
次にブレーキ装置1の動作について説明する。岸壁クレーン等の走行体3がレール2に沿って走行する際には、ブレーキ装置1を待機状態とする。
図2に例示するようにブレーキ装置1の待機時には、ブレーキシュー6の第二水平部17が押圧部5を構成するローラ11に接触する待機位置に配置されている。ブレーキシュー6は昇降機構7により懸吊され、ブレーキシュー6の下面がレール2の上面と接触しない待機位置に保持された状態となる。
【0035】
このとき伸縮機構4は自然長であることが望ましい。即ちバネ部材9が自然長であり、弾性エネルギを蓄積していない状態とすることが望ましい。この場合ブレーキシュー6とローラ11とは接触しているが、この二つの部材の間に上下方向zの応力がほとんど発生しない状態となる。伸縮機構4および押圧部5に不要な応力が発生しないので、疲労等による劣化を抑制するには有利である。またメンテナンスのためにブレーキ装置1を分解する際に、収縮していたバネ部材9が急に伸びてブレーキシュー6を下方に押し出したりすることがないので、メンテナンス作業時の安全性を向上するには有利である。
【0036】
岸壁クレーン等の走行体3が所定の位置への移動を完了して荷役作業等を行なう際には、ブレーキ装置1を作動状態とする。
図5に例示するようにブレーキ装置1の作動時には、昇降機構7による懸吊を解除することによりブレーキシュー6を下方に落下させる。具体的には巻上部19により紐状物18を繰り出す。昇降機構7の作動により、ブレーキシュー6の下面とレール2の上面とが接触する作動位置にブレーキシュー6が移動する。このとき紐状物18が十分に弛むまで巻上部19から繰り出すことが望ましい。なお
図5〜
図8では説明のため伸縮機構4および押圧部5と、昇降機構7とを同一の図面中に示している。
【0037】
伸縮機構4が待機時に自然長であった場合は、ブレーキシュー6を落下させてレール2の上に載置させても押圧部5の位置は変化しない。そのため押圧部5のローラ11とブレーキシュー6の第二水平部17との間にはブレーキシュー6の落下した距離と同じ長さの隙間が生じる。
【0038】
このときブレーキシュー6の上面と押圧部5を構成するローラ11の周面は未接触の状態であり、伸縮機構4を圧縮する力は生じないので、ブレーキシュー6にも上下方向zの
応力等は発生しない。即ち、ブレーキシュー6に垂直荷重F
nは生じていないので、
図9に例示するようにブレーキ装置1のブレーキ力はゼロとなる。
【0039】
ブレーキ装置1の作動時であって、岸壁クレーン等の走行体3が風や振動等によって所定の位置から移動してしまう逸走が発生した場合、
図6に例示するようにレール2に載置されているブレーキシュー6はその場にとどまり、走行体3の側に固定されている押圧部5が走行方向yに移動する。
【0040】
走行体3が逸走する際に紐状物18に張力が発生してブレーキシュー6が走行方向yに移動することを防止するために、巻上部19から紐状物18を予め長めに繰り出して弛ませておくか、または走行体3の移動に応じて巻上部19から紐状物18を適宜繰り出す構成にする。例えば巻上部19を構成するドラムをほとんど抵抗なく回転できるフリー状態として、紐状物18に発生する張力に応じて紐状物18が自動的に繰り出される構成にしてもよい。
【0041】
走行体3の逸走時には、走行体3の移動にともない走行方向yに移動したローラ11が、窪み部15の傾斜面15aに接触する。その後、ローラ11は回転しながら窪み部15に沿って上方に移動していく。つまりローラ11は走行体3の移動距離に応じて走行方向yに移動するとともに、窪み部15の上面に沿って上方に押し上げられていく。
【0042】
このとき伸縮機構4はローラ11が押し上げられる高さに応じて収縮していく。支持部材8は長さが変化しない柱状物など構成されていて、バネ部材9は軸方向に伸縮可能に構成されている。そのため押圧部5の保持具10は支持部材8の下端に連結されているピン12を中心に傾動する。この保持具10の傾動によりローラ11は上下方向zに移動する。皿バネ等で構成されるバネ部材9は、ローラ11が押し上げられる高さに応じて収縮していく。
【0043】
バネ部材9の復元力に応じてローラ11がブレーキシュー6を下方に押すので、ローラ11とブレーキシュー6とレール2とに発生する垂直荷重F
nが増加していく。この垂直荷重F
nの増加にともないローラ11の周面とブレーキシュー6の上面との間に発生する摩擦力と、ブレーキシュー6の下面とレール2の上面との間に発生する摩擦力とが増加していく。
【0044】
ブレーキシュー6に生じる垂直荷重F
nの増加にともないブレーキシュー6の下面とレール2の上面との間に発生する摩擦力が増加するので、ブレーキシュー6はレール2に対する相対位置を維持し易くなる。即ち、押圧部5により走行方向yの力に押されてもブレーキシュー6はレール2の上を移動せずにその場に留まろうとする。
【0045】
このブレーキシュー6に対して走行体3の側に設置される押圧部5は走行方向yに移動しようとするので、押圧部5が窪み部15の傾斜面15aを上方に移動する際にローラ11の周面と窪み部15との間に発生する摩擦力がブレーキ力として走行体3に働く。
【0046】
このとき、ローラ11の周面とブレーキシュー6との間の摩擦係数μ
Aが、ブレーキシュー6とレール2との間の摩擦係数μ
Bよりも小さくなるようにそれぞれの部材は設計されている。押圧部5がローラ15を備える構成とすることで、押圧部5とブレーキシュー6との間の摩擦係数μ
Aを摩擦係数μ
Bよりも容易に小さくすることができる。
【0047】
ローラ11、ブレーキシュー6およびレール2には、上下方向zに同じ大きさの垂直荷重F
nが発生する。そのため走行体3の逸走に対してブレーキ装置1が発生させるブレーキ力の大きさは、ローラ11の周面とブレーキシュー6との間の摩擦力の大きさに依存し
、この摩擦力はブレーキシュー6等に発生する上下方向zの垂直荷重F
nと摩擦係数μ
Aの積で表される。
【0048】
図9に例示されるように、押圧部5が窪み部15の傾斜面15aと接触している場合は走行体3の逸走距離に応じてブレーキ力が増加していく。走行体3の逸走する力がこのブレーキ力を上回る場合は、ローラ11はさらに窪み部15の傾斜面15aを上方に移動していき、
図7に例示するようにやがて第一水平部16に到達する。ローラ11が第一水平部16に到達すると、伸縮機構4のバネ部材9をさらに収縮させることがなくなるのでブレーキシュー6に発生する上下方向zの垂直荷重F
nは一定となる。ブレーキ装置1のブレーキ力は、この一定の値となる垂直荷重F
nと摩擦係数μ
Aの積算により求められるので、
図9に例示するようにこのブレーキ力は一定の値F
Aとなる。
【0049】
図8に例示するようにこのブレーキ力F
Aよりも走行体3の逸走する力の方が大きい場合は、走行体3の逸走が止まらずブレーキシュー6がストッパ22に接触する。ストッパ22に接触したブレーキシュー6は、ストッパ22により走行方向yに押されて、ストッパ22と接触した状態を維持したまま走行体3とともに走行方向yに移動する。
【0050】
このとき昇降機構7は、ブレーキシュー6が押圧部5に対して走行方向yに相対的に移動してストッパ22に接触することを阻害しない構成としている。昇降機構7は、ブレーキ装置1の作動時にブレーキシュー6がストッパ22に接触する位置まで移動できる程度の長さの紐状物18を巻上部19から繰り出すことができる。また昇降機構7は、ブレーキシュー6を待機位置に移動させたときに、ブレーキシュー6の下面がレール2に接触しない程度の高さまで紐状物18を巻上部19により巻上げることができる。
【0051】
昇降機構7の構成はこの構成に限らず、ブレーキシュー6を待機位置と作動位置との間で移動させ、走行体3の逸走時にはブレーキシュー6をストッパ22に接触する位置まで移動させることができる構成を備えていればよい。昇降機構7は、例えば上下方向zに伸縮する油圧シリンダ等のシリンダ機構と、このシリンダ機構の下端に設置されていて走行方向yに沿って傾動可能に構成されるスイングアームとで構成することができる。このときブレーキシュー6はこのスイングアームの下端に設置される。
【0052】
ブレーキシュー6とストッパ22とが接触すると、ブレーキシュー6は走行体3の逸走方向に走行体3とともに一体的に移動する状態となる。即ち見かけ上ブレーキシュー6は走行体3の側に固定された状態となる。そのため
図9に例示するようにブレーキシュー6がストッパ22に接触している場合にブレーキ装置1のブレーキ力は、ブレーキシュー6の下面とレール2の上面の間の摩擦係数μ
Bと上下方向zの垂直荷重F
nとの積算により求められるので、ブレーキ力は一定値のF
Bとなる。
【0053】
ブレーキ装置1のブレーキ力は、ローラ11の周面とブレーキシュー6の上面との間の摩擦係数μ
Aまたはブレーキシュー6の下面とレール2の上面との間の摩擦係数μ
Bと、ブレーキシュー6等に生じる垂直荷重F
nとの積算で求めることができる。つまりこのブレーキ装置1のブレーキ力は、走行体3の重量を利用して垂直荷重F
nを容易に増加させることができるので、ブレーキ力を著しく増大させることができる。
【0054】
ブレーキシュー6の上面に第一水平部16および第二水平部17を設ける構成により、垂直荷重F
nの上限値を予め定めるとともに容易に調整することができる。
図4に例示するように上下方向zにおける伸縮機構4のストローク量の最大値は、第一水平部16と第二水平部17との高さの差h1から、待機位置にあるブレーキシュー6の下面とレール2の上面との高さの差h2、即ちブレーキ装置1の作動時におけるブレーキシュー6の落下距離を引いた長さh1−h2となる。本明細書においてストローク量とは、上下方向zに
おける伸縮機構4の伸縮長さを表す。
【0055】
例えば第一水平部16と第二水平部17との高さの差h1を16mmとして、ブレーキシュー6の下面とレール2の上面との高さの差h2を10mmとすると、伸縮機構4の上下方向zにおけるストローク量の最大値は6mmとなる。つまりブレーキシュー6に第一水平部16と第二水平部17とを設けるとともに、押圧部5のローラ11と第二水平部17とが接触する位置をブレーキシュー6の待機位置とすることにより、伸縮機構4のストローク量の最大値を一義的に決定することができる。
【0056】
これにより窪み部15の傾斜面15aの角度などに関わらずブレーキ装置1のブレーキ力を決定することができる。つまりブレーキシュー6の窪み部15を加工する際に、走行方向yにおける第一水平部16や第二水平部17の長さにばらつきが生じたり、第一水平部16から第二水平部17に至る傾斜面15aの角度にばらつきが生じたり、この傾斜面15aが曲面で構成されたとしても、第一水平部16と第二水平部17との高さの差h1を精度よく設定すればブレーキ装置1のブレーキ力を所定の大きさにすることができる。ブレーキシュー6の品質管理を精度よく行うには有利である。
【0057】
またブレーキシュー6の下面とレール2の上面との高さの差h2は、昇降機構7により調整することができる。昇降機構7の紐状物18の繰り出し長さを長くするとともに、当接部材21の位置を低くすれば、高さの差h2を小さくすることができる。つまり当接部材21の設置位置と紐状物18の長さにより、ブレーキシュー6の待機位置を調整することができる。
【0058】
これにともない押圧部5のローラ11を、待機位置にあるブレーキシュー6の第二水平部17に接触する位置まで低くする。具体的には走行体3と伸縮機構4の間にスペーサ等の高さ調整機構を配置して、伸縮機構4の設置位置を低くする。
【0059】
高さ調整機構は、ブレーキ装置1と走行体2との間に設置してもよい。つまり高さ調整機構により伸縮機構4および昇降機構7の設置位置が同時に調整できる状態としてもよい。この構成によればブレーキ装置1の全体を上下方向zに移動させることができるので、前述のように昇降機構7によるブレーキシュー6の高さの調整と伸縮機構4の高さの調整とを個別に行う必要がなくなる。ブレーキ装置1のブレーキ力をさらに簡単に調整することができる。
【0060】
高さの差h2が小さくなるので、伸縮機構4のストローク量の最大値h1−h2が大きくなり、ブレーキ装置1のブレーキ力が増大する。他方で当接部材21の位置を高くして高さの差h2が大きくなるように調整すれば、ブレーキ装置1のブレーキ力が減少する。
【0061】
またブレーキシュー6の第一水平部16と第二水平部17との高さの差h1を調整することでも、ブレーキ装置1のブレーキ力を調整することができる。ブレーキ装置1のブレーキ力を調整し易くなるので、ブレーキ装置1の品質管理が行ない易くなる。
【0062】
ブレーキシュー6の交換や高さ調整機構による調整により、ブレーキ装置1が走行体3に設置された後であっても、ブレーキ装置1のブレーキ力を調整することができる。ブレーキ装置1の品質管理を行なうには有利である。
【0063】
伸縮機構4をその長さが固定された支柱部材8と伸縮可能なバネ部材9で構成することにより、伸縮機構4に発生する垂直荷重F
nの一部が支柱部材8により支持される。バネ部材9に発生する応力を抑制することができるので、バネ部材9の大型化を抑制するとともに、故障や損傷等の発生を抑制するには有利である。
【0064】
またバネ部材9を上下方向zに平行な状態から走行方向yに傾けた状態で配置する構成により、バネ部材9のストローク量を大きく確保することができる。ブレーキ装置1のブレーキ力を走行体3の逸走時に滑らかに上昇させ易くなるので、衝撃によりブレーキ装置1が故障する不具合を回避するには有利である。
【0065】
ブレーキシュー6に第一水平部16を設ける構成により、ローラ11が第一水平部16に乗り上げた状態であれば、振動等によりローラ11が走行方向yに往復動したとしても、ブレーキ装置1のブレーキ力を一定に維持することができる。ブレーキ装置1が安定したブレーキ力を得るには有利である。
【0066】
ストッパ22を設置する構成により、走行体3の逸走する力がブレーキ力F
Aを上回り走行体3の逸走を停止できない場合に、ローラ11がブレーキシュー6の上面を移動してその端部を超えてしまいブレーキ力が失われることを回避できる。
【0067】
ブレーキシュー6がストッパ22に当接して走行体3とともに移動する際には、押圧部5とブレーキシュー6の間に生じるブレーキ力F
Aよりも大きいブレーキ力F
Bが得られる。そのためストッパ22を設置する場合は、このブレーキ力F
Bの大きさに応じてブレーキ装置1を構成する部材の強度等を適切な範囲内で決定することができるので、これらの部材がオーバースペックになることを回避できる。
【0068】
ここでローラ11とブレーキシュー6との間で生じるブレーキ力F
Aとブレーキシュー6とレール2との間で生じるブレーキ力F
Bの最大値は、垂直荷重Fnの値が同一となるので、それぞれの摩擦係数μ
Aおよびμ
Bの値に依存する。
【0069】
ストッパ22は本発明の必須要件ではない。例えば逸走時に必要とされるブレーキ力の最大値がそれほど大きくないなどの場合は、ブレーキ装置1にストッパ22を設置しない構成にすることができる。
【0070】
ブレーキ装置1の作動時であっても走行体3が逸走しない場合は、ブレーキシュー6等に垂直荷重F
nが生じない。即ち伸縮機構4、押圧部5およびブレーキシュー6には走行体3が逸走したときのみ応力が発生するので、これらの部材の劣化を抑制するには有利となる。ブレーキ装置1を構成する他の部材も同様に、走行体3の逸走時にのみ応力が発生するのでこれらの部材の劣化を抑制するには有利となる。
【0071】
ブレーキ装置1を復旧する際には、走行体3を逸走方向とは逆方向に走行させることにより、ローラ11を窪み部15の第二水平部17の上方に向かって移動させる。これにともない伸縮機構4が伸長してブレーキシュー6の上下方向zに発生していた垂直荷重F
nが開放されてブレーキが解除される。
【0072】
その後、昇降機構7の巻上部19により紐状物18を巻上げると、ブレーキシュー6が待機位置に向かって上昇するとともに走行方向yに移動する。紐状物18は案内部20により案内されるので、ブレーキシュー6がブレーキ装置1のいずれの方向にあったとしても、ブレーキシュー6を待機位置に移動させることができる。つまり案内部20を設置することにより、押圧部5のローラ11とブレーキシュー6の第二水平部17とが接触する待機位置にブレーキシュー6を移動させ易くなる。
【0073】
ブレーキシュー6の上面の第一水平部16が、当接部材21の下面と接触した時点で巻上部19による紐状物18の巻上げを停止する。当接部材21の下面に接触した状態のブレーキシュー6は水平な状態に姿勢が制御されるので、ブレーキシュー6の下面がレール
2の上面と平行な状態となる。待機状態のブレーキシュー6が傾いてレール2と接触する事故を回避するには有利である。
【0074】
ブレーキシュー6が待機位置に移動した時点で、ブレーキ装置1の復旧作業を完了する。ブレーキ装置1の復旧作業が完了した後は、走行体3は任意の方向に走行することができる。
【0075】
このブレーキ装置1を復旧する際に走行体3の逸走の有無やその方向を検知するために、押圧部5に対するブレーキシュー6の位置を検出する位置センサを設置する構成にすることもできる。この位置センサは例えば走行体3の下面または押圧部5に設置され対向面となるレール2に沿って複数のレーザ光を照射して距離を測定するレーザスキャナ等で構成することができる。このレーザスキャナで得られる複数の距離の値からレール2上でブレーキシュー6が載置されている位置を特定することができる。これによりブレーキを解除する際に走行体3走行させることが必要か否か、必要な場合には走行体3を走行させる方向を知ることができるので、スムーズにブレーキを解除する作業を行うことができる。
【0076】
伸縮機構4の構成は前述の実施形態に限定されない。押圧部5を上下方向に移動させることができ、かつ垂直荷重F
nを支持できる構成であればよい。また押圧部5の構成は前述の実施形態に限定されない。ブレーキ装置1の作動時にブレーキシュー6の窪み部15に当接して第一水平部16まで移動できる構成であればよい。さらに昇降機構7は前述の実施形態に限定されない。ブレーキシュー6を待機位置と作動位置とに移動させることができる構成であればよい。
【0077】
図10および
図11に例示するように伸縮機構4のバネ部材9を上下方向zに平行な状態に配置する構成にしてもよい。支持部材8とバネ部材9とは上下方向zに平行となる状態にそれぞれ配置されている。
【0078】
また押圧部5が、伸縮機構4の下方に固定される傾動板23と、この傾動板23の下面から下方に向かって突設される接触板24とを備える構成にすることができる。この接触板24は、下端を曲面に加工される板状部材で構成されている。この接触板24とブレーキシュー6の上面との間の摩擦係数μ
Aが、ブレーキシュー6の下面とレール2の上面との間の摩擦係数μ
Bよりも小さくなるように、接触板24の下端部およびブレーキシュー6の上下面は加工されている。
【0079】
例えば接触板24の下端部やブレーキシュー6の上面にフッ素樹脂やナイロン樹脂を配置して摩擦係数μ
Aを低減させる構成にすることができる。またブレーキ装置1を作動させた際に、接触板24の下端部からブレーキシュー6の上面に向けて潤滑油等を供給する構成にすることもできる。ブレーキシュー6の下面の表面を粗くする加工を行うことで、レール2の上面との間の摩擦係数μ
Bを増加させる構成にすることもできる。
【0080】
昇降機構7の巻上部19は、一端を起伏可能な状態で走行体3に設置されていて、他端に紐状体18を連結されたアーム部材で構成されている。このアーム部材の他端を上方に向けて起立させるとブレーキシュー6は上方に引き上げられ、下方に向けて倒伏させるとブレーキシュー6は下方に降ろされる。
【0081】
ブレーキ装置1と走行体3との間に高さ調整機構25を配置してもよい。この高さ調整機構25は、上下方向zに移動する構成を備えていて、上下方向zにおけるブレーキ装置1の設置位置を調整することができる。つまり伸縮機構4および昇降機構7の位置を上下方向zに移動させることができる。
【0082】
高さ調整機構25は、上下方向zにおいて固定された長さを有するスペーサで構成してもよい。走行体3にブレーキ装置1を設置する際に、このスペーサの上下方向zの長さを調整することによりブレーキ装置1のブレーキ力を調整することができる。
【0083】
このスペーサは、例えば上下方向に積層される複数の板状物で構成してもよい。この構成によれば、走行体3にブレーキ装置1を設置した後であっても、この板状物の枚数を増減させることでブレーキ装置1のブレーキ力を調整することができる。
図10および
図11には、高さ調整機構25が複数の板状のスペーサで構成される状態を示している。
【0084】
ブレーキシュー6は、第一水平部16の上面であってブレーキシュー6の走行方向yの両端部に突設されるストッパ22を備えている。このストッパ22は走行方向yと直交する壁状部材で構成されている。また
図2に例示されている実施形態と比べて、窪み部15の傾斜面15aの傾きを大きくして、走行方向yにおける第一水平部16の長さを長く形成している。
【0085】
ブレーキ装置1の作動時に走行体3が逸走すると、接触板24はブレーキシュー6の上面の窪み部15に沿って上昇しながら水平方向に移動し、第一水平部16まで移動した後に、ストッパ22に接触する。
図10では説明のためストッパ22に接触した状態の接触板24を破線で示している。接触板24がストッパ22に接触した後であって、走行体3がさらに同一方向に逸走する場合は、ブレーキシュー6は接触板24に押されて走行体3と一体で移動する。
【0086】
ブレーキシュー6の側にストッパ22を設置する構成により、ブレーキ装置1の構成をシンプルにすることができ、部品点数を削減するには有利となる。また窪み部15の傾斜面15aの傾きを大きくすることにより、走行体3が逸走した際にこの逸走距離に対して接触板24が上昇する割合が高くなるので、ブレーキ力を速やかに増加させて走行体3の逸走を止めるには有利となる。
【0087】
ストッパ22を設置されるブレーキシュー6は、
図2に例示する実施形態においても採用することができる。この場合は、走行体3の側に設置されているストッパ22は不要となる。またストッパ22は、
図10に例示するようにブレーキシュー6の第一水平部16に対して垂直となる状態で設置されているが、本発明はこの構成に限定されない。ストッパ22は、押圧部5(ローラ11または接触板24)の水平方向の移動を阻止できる構成を有していればよい。例えばストッパ22を窪み部15の傾斜面15aよりも急な傾きを有する状態でブレーキシュー6の上面に設置し、ストッパ22の上にローラ11等が乗り上げられない構成にすることもできる。
【0088】
図12に例示するように窪み部15の傾斜面15aを曲面で構成することもできる。この構成によれば
図13に例示するように走行体3に作用するブレーキ力を緩やかに増加させることができる。即ちブレーキ力が急激に増大して、走行体3に急ブレーキによる衝撃が発生することを抑制できる。そのため例えば走行体3がある程度の距離を逸走することを許容でき、ブレーキ作動時に走行体3に衝撃が生じることが望ましくない場合には有利である。
【0089】
図12に例示するように窪み部15の最も低くなる最下点である第二水平部17は、走行方向yにおけるブレーキシュー6の中心からずれた位置にすることもできる。この構成によれば、走行体3の逸走方向によりブレーキ力の増加の仕方が異なるブレーキ装置1を提供することができる。
【0090】
窪み部15を曲面など複雑な形状に形成する場合であっても、第一水平部16と第二水
平部17の高さの差h1を精度よく決定することができるので、ブレーキ装置1のブレーキ力の最大値を一義的に決定することができる。ブレーキ装置1の製造時にそれぞれのブレーキ装置1のブレーキ力の最大値がばらつくことを抑制するには有利である。
【0091】
ストッパ22はブレーキシュー6から上方に向かって突設される構成に限らない。ブレーキシュー6に突設され接触板24と当接可能な当接面を有していればよい。例えば
図14に例示するように、ブレーキシュー6の横行方向xの両側にそれぞれストッパ22を突設し、接触板24の横行方向xの両側から下方に向かって延設されこのストッパ22に当接可能な当接部材24aを接触板24に設置する構成にすることもできる。
【0092】
この構成によれば接触板24が水平方向に移動してブレーキシュー6の端部近傍に達したとき、当接部材24aがストッパ22に当接するので、接触板24がブレーキシュー6の端部を超えてブレーキ装置1のブレーキ力が失われてしまう事態を回避できる。またブレーキシュー6の横行方向xの両側に配置される当接部材24aは、ブレーキ装置1の作動時にレール2の上に載置されるブレーキシュー6が横行方向xに移動することを防止し、レール2の上の適切な位置にブレーキシュー6を拘束することができるので、安定したブレーキ力を得るには有利である。
【0093】
押圧部5が
図2等に例示するようにローラ11等で構成される場合は、ローラ11の保持具10にその横行方向xの両側から下方に向かって延設される当接部材24aを設置する構成にすることもできる。またストッパ22はブレーキシュー6の側に設置される構成に限らず、
図2等に例示されるように走行体3の側からレール2に向かって突設される一対のストッパ22等で構成することもできる。
【0094】
図15に例示するように、ブレーキシュー6がレール2の横行方向xに移動することを防止するガイド部26を設置する構成にすることもできる。このガイド部26は、保持具10の横行方向xの両側に配置され下方に向かってに延在する一対の支柱27と、この支柱27の下端にそれぞれ設置され走行方向yに平行となるブレーキシュー6の両側面に対向配置されるガイド板28とを備えている。このガイド板28はブレーキシュー6との間に隙間を開けた状態で配置されている。即ちブレーキシュー6は一対のガイド板28の間に配置される状態となる。ガイド部26を構成する支柱27は、その上端を走行体3に固定される構成にすることもできる。
【0095】
ブレーキシュー6とガイド板28とが常時接触することにより互いが摩耗することを抑制するために、横行方向xにおけるこの一対のガイド板28の間の距離は、横行方向xにおけるブレーキシュー6の長さよりも若干長く設定することが望ましい。
【0096】
このガイド部26の設置により、ブレーキ装置1の作動時にレール2の上に載置されたブレーキシュー6が横行方向xに移動することを防止し、レール2の上の適切な位置にブレーキシュー6を拘束することにより安定したブレーキ力を得ることができる。
【0097】
例えばブレーキ装置1を岸壁クレーンに設置する場合は、岸壁クレーンが横行方向xに振動して、これにより押圧部5が横行方向xに移動することがある。このとき押圧部5に押されてブレーキシュー6が横行方向xに移動して元の位置に戻らない可能性がある。ブレーキシュー6が押圧部5により横行方向xに押されてレール2から落下したり、レール2に対する横行方向xの位置がずれてレール2との接触面積が著しく減少する場合には、適切なブレーキ力が得られなくなる。
【0098】
振動等により走行体3が横行方向xに移動してしまうような場合に、ガイド板28がレール2に接触して破損することを防止するために、ガイド板28はその下端部がレール2
の上面よりも高い位置となる状態で支柱27に設置されることが望ましい。
【0099】
図15に例示する実施形態では、伸縮機構4が二つのバネ部材9で構成され、支柱部材8を備えていない。伸縮機構4は押圧部5を上下方向に移動させる構成を有するとともに、伸縮機構4の上下方向zに発生する垂直荷重F
nを支持できる構成であればよい。そのため例えば伸縮機構4を一つのバネ部材9で構成してもよい。
【0100】
ガイド部26の構成は上記に限定されず、ブレーキ装置1の作動時にレール2の上に載置されるブレーキシュー6が横行方向xに移動することを抑制する構成であればよい。例えば
図16に例示するように、ローラ11をツバ付きのローラ11で構成し、このツバ29をガイド部26として利用することもできる。
【0101】
このツバ29は、ローラ11の周面から外周方向に突設する環状の部材で形成され、ローラ11の横行方向xの両端に配置されている。この一対のツバ29の間の距離は、ブレーキシュー6の横行方向xの長さよりも長く形成されている。ブレーキシュー6は、この一対のツバ29の間に配置され、横行方向xの移動を拘束される。