【実施例】
【0072】
1.材料及び方法
1.1.プラスミド
本発明に記載のコンストラクトの親プラスミドは、HIV−1構成要素、PGKプロモーター、eGFP cDNA、及びwPRE用のpRRL.SIN及びpCCL.SINレンチウイルストランスファーベクタープラスミド(非特許文献3)、SV40後期ポリアデニル化シグナル用のpCIプラスミド(プロメガ社)であり、GAPDHプロモーターの遺伝子合成(ライフテクノロジーズ社)は、(非特許文献30)に記載のプライマー配列間のカリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)のhuman genome
build hg19に基づいた。全てのプラスミドの配列を付録に示す。プラスミドpCMV−dR8.74及びpMDG2はスイス連邦工科大学ローザンヌ校のDidier Tronoによって作製及び配布された。
【0073】
1.2.レンチウイルスベクターの作製
T175フラスコ中の10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補った20mlダルベッコ変法イーグル培地(完全DMEM)に1.2×10
7HEK2
93T(293T)細胞をトランスフェクションの前日に播種して、>90%のコンフルエンスに到達させた。各フラスコについて、50μgのベクタープラスミド、32.5μgのパッケージングプラスミドpCMV−dR8.74、及び17.5μgの水疱性口内
炎ウイルスエンベローブプラスミドpMDG2を5mlのOptimem(ギブコ社)に加え、0.22μmのフィルターで濾過した。1μlの10mM PEI(シグマ アルドリッチ社、40872−7)を5mlのOptimemに加え、0.22μmのフィルターで濾過した。2つの混合物を混ぜ、20分間複合体を形成させた。この複合体を、293T細胞を含むT175フラスコに加え、37℃、5%CO
2で4時間インキュベート
した。複合体を取り、20mlの完全DMEMで置換した。24時間後、培地を交換した。トランスフェクションの48時間後、培地を取り、0.22μmのフィルターで濾過し、50,000gで2時間遠心分離した。ウイルスペレットを150μlのOptimemに再懸濁し、アリコートを−80℃で保存した。
【0074】
1.3.フローサイトメトリーによるレンチウイルスベクターの力価測定
形質導入の前日に、24ウェルプレートの各ウェル中の250μlの完全DMEMに10
5の293T細胞を播種した。形質導入のために、Optimemの50μlのアリコ
ート中にウイルスの5倍希釈系列を作製した。希釈ウイルスの各アリコートを1個のウェル中の培地に加えた。形質導入の14日後にフローサイトメトリーにより導入遺伝子発現を測定した。形質導入細胞の5〜15%が目的の導入遺伝子を発現したウェルを選択し、このウェル中の形質導入された細胞の数を、それらの形質導入に用いたウイルスの体積で割ることにより、発現力価を計算した。
【0075】
1.4.プラスミドレスキュー
簡潔に述べると、アンピシリン耐性遺伝子及び細菌のプラスミド複製起点を含むLTR1.20/AmpR−oriを用いて高いMOIでHEK 293T細胞への形質導入を行い、1週間培養した後、細胞ペレットを回収した。市販のキット(キアゲン社)を用いてゲノムDNAを抽出し、Nanodropで定量化した。プロウイルス内のどの配列も標的としないが、ヒトゲノム内に百万塩基対当たり約279.3部位の頻度で存在するXbaI制限エンドヌクレアーゼで10μgのgDNAを消化した。その後、消化されたgDNAをカラム精製した後、放出されたレンチウイルス骨格断片をライゲーションにより環状化し、その後、エレクトロコンピテントな大腸菌を形質転換した。配列分析のための調製において、個々の細菌コロニーを選択して生育した。これらは、AmpR及びoriを含むベクター骨格の再環状化コピーを受け取った場合にのみ成長する。RRE領域(最終的なプロウイルスから脱落しているべき)、細菌複製起点、及びアンピシリン耐性遺伝子を標的とするプライマーを用いて、回収したDNAをシークエンシングした。
【0076】
2.結果
2.1.ゲノムRNA転写カセットの最適化
感染性レンチウイルスビリオンの産生には、ウイルスゲノムRNAとウイルスGag、Gag−Pol、及びエンベロープタンパク質のコアセンブリ(co-assembly)が必要で
ある。コドン最適化Gag−Pol発現プラスミドの過去の報告では、これらのタンパク質の細胞内発現は向上したが、高い力価は得られなかった(非特許文献21;31)。ウイルスRNAゲノムの発現は一般的に多くのベクター調製プロトコールにおいてウイルス力価の制限因子であると考えられる。したがって、LTR1ベクターで得ることができる力価を最大化するために、ウイルスRNAゲノムの転写を駆動するために用いられるエレメントを最適化するための実験を行った。
【0077】
効率的ポリアデニル化が、RNAポリメラーゼII(Pol II)転写産物のより高い定常レベルと関連付けられており、サルウイルス40(SV40)後期ポリアデニル化(ポリA)シグナルはSV40初期ポリAシグナルより強いポリアデニル化シグナルとして働くことが示されている(非特許文献32)。そこで、本発明者らは2つのLTR1コンフィグレーションを作製した:LTR1.0/PGK−eGFP−WPRE(LTR1.0/PEW)は、親RRL骨格中に存在するSV40初期ポリAシグナルを利用し、一
方、LTR1.5/PEWは、pCIに由来するSV40後期ポリAシグナルを利用する(
図5)。これら2つのコンストラクト及び従来のRRL/PEWコンストラクトを用いて並行してレンチウイルスベクターを作製し、フローサイトメトリーにより293T細胞での力価を測定した。ベクターの力価は、LTR1.0 PEWが2.3×10
4形質転
換単位/ml(TU/ml)、LTR1.5 PEWが4.5×10
4TU/ml、RR
L PEWが6.9×10
7TU/mlと計算された。SV40後期ポリAシグナルの方
が、力価が高かったので、以降の全てのLTR1コンストラクトでこのエレメントを用いた。形質導入の14日後及び分裂細胞の少なくとも4回継代後のeGFP発現の継続は、LTR1ベクターがインテグラーゼ媒介染色体組込みを受ける能力を有することを示唆している。
【0078】
強力なプロモーターを用いることで、高い定常レベルのPol II転写産物も達成できるので、親RRL骨格に由来するラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターをCCLプラスミドに由来するヒトサイトメガロウイルス最初期(CMV)プロモーターで置換したコンストラクトを作製した。CMVプロモーターとLTR1の5’PBSのアラインメントを最適化するために、PBSがCMVプロモーターの報告されている転写開始部位(非特許文献33)に正確に接して配置されているか(LTR1.7.672/PEW)、1bp上流に配置されているか(LTR1.7.671/PEW)、又は1bp下流に配置された(LTR1.7.673/PEW)、3つのコンストラクトを作製した。これらのコンストラクトから並行してレンチウイルスベクターLTR1.5/PEW及びRRL/PEWを作製し、フローサイトメトリーにより293T細胞での測定を決定した。CMVプロモーターによるRSVプロモーターの置換により、LTR1ベクターの力価は25倍上昇した(LTR1.5 PEW、2.3×10
4TU/ml;LTR1.7.671
PEW、5.6×10
5TU/ml;LTR1.7.672 PEW、5.4×10
5TU/ml;LTR1.7.673 PEW、4.7×10
5TU/ml;RRL PEW
、5.8×10
7TU/ml)。LTR1.7.671 CMVのコンフィグレーション
で最も高い力価が得られたので、このプロモーター及びアラインメントをその後のLTR1コンストラクト中で用いた。
【0079】
2.2.LTR1トランスファーベクターRNAの翻訳の影響
レンチウイルスRNAゲノムは、PolIIによる転写中に5’の7−メチルグアニル酸キャップ(m7G)キャップを獲得しているので、プロデューサー細胞リボソームにより翻訳される能力を有している。哺乳動物細胞における翻訳開始のスキャニングモデルにおいて、リボソームは、5’キャップにローティングされ、翻訳を開始できる5’最末端ATGコドンに到達するまで5’から3’方向にスキャンする。RRL及びCCLのRNAゲノム中、5’最末端ATGは切断されたGagエレメントの最初に現れ、それに21コドンのオープンリーディングフレームが続く。LTR1ベクターコンフィグレーションでは、5’最末端ATGは導入遺伝子発現カセット内の、おそらく内部プロモーター内にある、潜在的ATGに見られる。
【0080】
例えば、LTR1.7.671 PEWベクターでは、5’最末端ATGはPGKプロモーターの中央近くにあり、終止コドンが介在せずに下流のeGFPコード配列とインフレ−ムになっている。LTR1.7.671 PEWはベクター力価がRRL PEWベクターの約10
2分の1であったので、この潜在的翻訳産物はプロデューサー細胞中での
ビリオンの産生に干渉する可能性があるという仮説を立てた。
【0081】
この仮説を試験するために、ATGコドン全体を欠いたヒトGAPDHプロモーターでPGKプロモーターを置換した。LTR1.7.671 GAPDH−eGFP−wPRE(LTR1.7.671 GEW)中、5’最末端ATGはeGFPオープンリーディングフレームの開始部にあるので、全長ベクターRNAの翻訳はeGFPのみを産生する
はずである。RRL PEW、RRL GEW、LTR1.7.671 PEW、及びLTR1.7.671 GEWからレンチウイルスベクターを作製し、フローサイトメトリーにより293T細胞での力価を測定した。得られた力価は、RRL PEW、6.4×10
7TU/ml;RRL GEW、1.6×10
8TU/ml;LTR1.7.671 PEW、7.1×10
5TU/ml、及びLTR1.7.671 GEW、7.6×10
5TU/mlであった。潜在的翻訳開始は、このLTR1ベクター調製物における制限因子ではないようであるが、GAPDHプロモーターがPGKプロモーターより強力なプロモーターであるので形質導入成功のより良いレポーターであることを平均蛍光強度は示しているので、これをその後のコンストラクトに用いた。
【0082】
2.3.内部LTR内での切断及びポリアデニル化の防止
LTR1ベクターコンフィグレーションの中間点の近くに位置するSIN LTRはHIV−1ポリアデニル化シグナルを含む。HIV−1 LTRをベクターの中間点に再配置した過去の報告は効率的な全長転写を報告しているが(非特許文献8)、LTR1ベクターのSIN LTR内のポリアデニル化が全長RNAゲノムの産生を妨げている可能性、したがって、観察された第3世代レンチウイルスのコンフィグレーションと比べた力価の低下を引き起こしている可能性を調べることに決定した。
【0083】
LTRポリAシグナルでの切断及びポリアデニル化を防止するために、コンストラクトLTR1.11.0 GEW中で、切断・ポリアデニル化特異的因子(CPSF)に結合するAATAAAモチーフをAACAAAに変異させた。この変異はHIV−1ポリAシグナルでの切断及びポリアデニル化を消失させることが以前に報告されている(非特許文献34)。標的細胞中でのレポーター遺伝子発現には機能的ポリAシグナルが必要なので、5’Rから主要スプライスドナー(MSD)ステムループの領域までをカバーするHIV−1ゲノムの断片をこのコンストラクトの5’末端に導入し、3’PBSを欠失させた。このベクターは、第3世代レンチウイルスベクターと同じように、5’PBSでマイナス鎖合成を開始して、マイナス鎖転移及びその後の逆転写段階を経ると予想され、その結果、3’変異ポリAシグナルが機能的5’ポリAシグナルで置換される。コンストラクトLTR1.11.1 GEWは、機能的AATAAAモチーフを保持していること以外はLTR1.11.0と同じである。
【0084】
LTR1.11.0 GEW及びLTR1.11.1 GEWから作製したレンチウイルスベクターの力価は、CCL GEW並行対照の力価1.3×10
9TU/mlと比べ
て、それぞれ2.5×10
8TU/ml及び1.7×10
8TU/mlであった。これは、中間点ポリAシグナルがLTR1コンフィグレーション中で効率的に使用されないことを示唆している。従来のレンチウイルスベクター中の5’ポリAシグナルでそうであるように(非特許文献35)、LTRの下流に位置するMSDがこの部位でのポリアデニル化をブロックできる可能性がある。
【0085】
2.4.マイナス鎖転移及び5’主要スプライスドナーの影響
LTR1.11コンフィグレーションで観察された力価の大幅な改善は2つの可能性を示唆した。第1に、5’PBSでのマイナス鎖合成の開始及び/又はマイナス鎖転移が逆転写の効率を向上させるのかも知れない。第2に、ベクターの5’末端のMSDの存在がRNAゲノム転写の効率を向上させるのかも知れない。これらの仮説を試験するために、RNAの5’末端が18bpのPBSだけの代わりにPBSとMSDステムループとの間の全HIV−1ゲノムを含むこと以外はLTR1.7.671と同様なコンストラクトLTR1.13.0 GEWを作製した。このコンストラクトでは、マイナス鎖DNA合成の開始がベクターの中間点で起こると予想される。コンストラクトLTR1.13.1 GEWは、5’PBSとMSDステムループとの間の配列が欠失されていること以外はLTR1.13.0 GEWと同じである。
【0086】
LTR1.13.0 GEW、LTR1.13.1 GEW、及びLTR1.7.671 GEWからレンチウイルスベクターを作製し、フローサイトメトリーにより力価を測定した。これらのコンストラクトの力価は、CCL GEW並行対照の力価1.3×10
9TU/mlと比べて、それぞれ2.6×10
8TU/ml、9.2×10
7TU/ml、
及び3.2×10
7TU/mlであった。これらの結果は、逆転写からマイナス鎖転移を
排除してもウイルス力価に悪影響がないこと及びLTR1.11コンフィグレーションで観察された力価の大幅な上昇が5’PBSとMSDステムループとの間の全配列の存在によるものであったことを示唆している。プロモーターに近いスプライス部位が哺乳動物遺伝子の転写を活性化することが以前に報告されており(非特許文献36)、レンチウイルスベクター中の主要スプライスドナーを変異させるという過去の試みはベクターの力価を低下させた(非特許文献20;21)。したがって、ベクターRNAゲノムの5’末端に近いスプライシング因子の存在は、従来の及びLTR1のコンフィグレーションの両方でより高い力価のレンチウイルスベクターの生成に必要なようである。
【0087】
HIV配列を減らしながらLTR−1ベクター中のMSDの転写活性化作用を真似るために、pCI発現プラスミドに由来するキメライントロンをPBSとcPPTとの間に挿入することでMSDを置換して、pLTR1.20/GAPDH−eGFP−WPREを作製した。野生型5’LTRはLTR−1から除去されているので、HIV MSDはもはやこのベクター中でサブゲノムRNAの産生を制御する機能を果たしておらず、交換できる。pCI由来の強力な異種イントロンの利用には、隣接するスプライスエンハンサーが必要でないことを考慮すると、MSDを含めることにはない利点があり、これは更に、プロデューサー細胞中でのウイルスRNAからのその除去を容易化するスプライスアクセプターを含む。
【0088】
pLTR1.20/GAPDH−eGFP−WPREベクター中へのpCIキメライントロンの付加により、FACSによる計算で力価が3倍向上した。
【0089】
2.5 pLTR1.7.671/GAPDH−eGFP−WPREプロウイルスの全長PCR及びシークエンシング
pLTR1.7.671/GAPDH−eGFP−WPREベクターから逆転写されたプロウイルスDNAの構造を示すために、HEK293T細胞を感染多重度10で形質導入した。形質導入の1週間後にゲノムDNAを抽出した。以下に示すオリゴヌクレオチドを用いたPCRにより全長プロウイルスを増幅して2.1kbのアンプリコンを得、これを、1%アガロースゲルを用いて分離した後、抽出し、TAクローニング(ライフテクノロジーズ社)した後、シークエンシングした。
U5フォワード:5’GGTAACTAGAGATCCCTCAGACCC3’(配列番号1)
U3リバース:5’CGTTGGGAGTGAATTAGCCCTTCC3’(配列番号2)
【0090】
プロウイルスを調べた時、配列分析により、プロウイルスが逆転写後に正しい5’及び3’LTRを含んでいることが示され、gag−RRE領域が除去された予想される配列が示された。
【0091】
2.6 「プラスミドレスキュー」による組み込まれたLTR−1プロウイルス配列の検査
LTR−1プロウイルスの配列を厳密に調べるため及び欠失させたHIV−1パッケージング配列が存在しないことを確認するために、アンピシリン耐性マーカー及び細菌複製起点がpLTR1.20プラスミド骨格から除去されてLTR間の遺伝子導入領域内に挿
入された技術を用いた。これにより、pLTR1.20/Amp1R−OriプロウイルスDNAを形質導入HEK293T細胞から切り出し、再環状化し、LTR間のアンピシリン耐性遺伝子(AmpR)及び細菌複製起点(ori)を含むベクターゲノムの取込み後に複製及びコロニー形成する大腸菌細菌に形質転換することが可能になる。細菌中でのプロウイルス配列の増殖は、逆転写された配列の詳細な研究を可能にする。細菌中でレスキューされたプロウイルスDNAのシークエンシングは、LTRを通って、BLASTサーチにより同定された宿主細胞染色体DNA内の領域中へと読まれた。プロウイルスの内部配列により、逆転写のメカニズムは
図4に示されているような予想される構造を確かに生じさせていることが確認された。RREエレメントはシークエンスできなかったことから、予想通り、これは組み込まれたプロウイルスには存在していないことが示唆された。
【0092】
2.7.pLTR1.20/SFFV−eGFP−WPREのインビボ機能
インビボでのLTR−1ベクターの機能を実証するために、1日齢の新生仔CD−1マウスに4.5×10
5ベクター粒子のLTR1.20/SFFV−eGFP−WPREを
静脈内注射した。ベクター投与の1週間後にマウスを屠殺し、肝臓を解剖し、注射された動物の肝臓中、目で見えて明らかになったGFP陽性細胞をイメージングし、LTR−1がインビボで細胞に遺伝子導入できることが示された。
【0093】
3.考察
哺乳動物遺伝子導入用のレトロウイルスベクターとして複数の異なるレトロウイルスが開発されてきた(非特許文献1〜5)。レトロウイルスのベクター化中に起こる最も大きな変化は、標的細胞中に導入される核酸上に存在したままでなくてはならないシスエレメント及び感染性粒子の産生を可能にするためにプロデューサー細胞に与えられるだけでよいトランスエレメントへのウイルス構成要素の分離である。レトロウイルスシスエレメントの例としては、ビリオンへとパッケージングされるために導入遺伝子発現カセットに共有結合したままでなくてはならないHIV−1 RNAパッケージングシグナル(Ψ)及びRev応答配列(RRE)が含まれ、一方、トランスエレメントとしては、Gag及びGag−Polポリタンパク質並びにウイルスエンベロープ糖タンパク質のコード配列が含まれる。
【0094】
他のレトロウイルスベクター同様、HIV−1系レンチウイルスベクター内のシスエレメントはウイルスの長い末端反復配列(LTR)の間に位置し、そのため、逆転写され、標的細胞内で導入遺伝子発現カセットに付随したままである。標的細胞プロウイルス内にこれらのシスエレメントが存在することで、レンチウイルスベクターの実際的応用、特に遺伝子治療にとって、複数の実験的に観察される及び理論的にあり得る問題が生じる。シスエレメントは、細胞増殖の調節に関わる宿主遺伝子とのスプライシング及びその調節解除が可能なスプライス部位(非特許文献14)、DNAメチル化を受けることができるCpG島(非特許文献16)、エピソームDNA分子の転写サイレンシングに関連する巨大非翻訳領域(非特許文献17)、及びベクターの再可動化を媒介できるRNAパッケージングシグナル(非特許文献15)を含む。レンチウイルスシスエレメントは更に、逆転写産物の最大2kbを占めるので、これらのベクターを用いて導入可能な導入遺伝子発現カセットのサイズが小さくなり得る。
【0095】
本明細書では、標的細胞に導入されるDNAからHIV−1由来シスエレメントを除去するアプローチが記載されている。新規なLTR1コンフィグレーションでは、シスエレメントは3’LTRの下流に位置している。したがって、これらのエレメントは、ビリオンへとパッケージングされ得るようにウイルスRNAゲノム中に存在するが、逆転写されるゲノム領域の外側にあるため、標的細胞中のベクターDNA中には存在しない。
【0096】
調べた第1のコンフィグレーションでは、RSVプロモーター及びSV40初期ポリA
シグナルカセットによりLTR1 RNAゲノムの転写が駆動された。このコンフィグレーションでは、機能的ベクターの力価は従来のRRLベクターの3000分の1となった。CMVプロモーター及びSV40後期ポリアデニル化シグナルを用いた改変カセットにより、従来のRRLベクターの約100分の1まで力価が有意に改善された。
【0097】
HIV−1由来5’リーダー配列を再配置することにより、新規なコンフィグレーションでは、導入遺伝子カセット内から始まる異常な翻訳産物の可能性が示唆された。異常な翻訳がこれらのコンストラクトで得られるベクター力価を下げていることが示唆された。本発明者らは、ATGコドンを欠いたGAPDHプロモーターで潜在的開始コドンを含むPGKプロモーターを置換することにより、この可能性に取り組んだ。力価の差は観察されなかった。
【0098】
ベクター力価の別の潜在的問題は、ベクターの中間点近くに位置するLTR内に機能的ポリアデニル化シグナルが存在することである。この部位での転写の終結が、ビリオンへとパッケージング可能な全長トランスファーベクターRNAの産生を妨げ得る。HIV−1ポリAシグナルでの切断及びポリアデニル化を消失させることが以前に示されている点変異をAATAAA六量体に導入したが、力価の上昇は観察されなかった。本発明者らは、LTR1コンフィグレーション中のLTRの下流に位置するHIV−1主要スプライスドナー(MSD)が、野生型HIV−1及び従来のレンチウイルスベクターでそうするように(非特許文献35)、この部位での切断及びポリアデニル化をブロックできるという仮説を立てた。
【0099】
その後、本発明者らは、LTR1ゲノムRNAの5’末端にPBSとMSDステムループとの間の配列を再度導入し、CCL系コンストラクトの5倍以内までの力価の有意な上昇を観察した。ベクターゲノムRNAの5’末端近くのスプライシング因子の存在は、従来の及びLTR1のコンフィグレーションの両方において高い力価のレンチウイルスベクターを作る助けとなるようであるが、必須ではない(非特許文献20;21)。
【0100】
本明細書に記載のLTR1ベクターコンフィグレーションは、第3世代HIV−1系レンチウイルスベクターが現在使用されている応用において、全ての第3世代HIV−1系レンチウイルスベクターに取って変わり得る。更に、逆転写のメカニズムはレトロウイルス間で高度に保存されているので、LTR1コンフィグレーションは、HIV−1以外のレトロウイルスに基づくベクターにも応用可能である。
【0101】
付録
コンストラクト配列
コンストラクトは以下の配列番号に従う配列を有する。各コンストラクトの実際の配列は添付の配列表に記載されている。これらのコンストラクトの構成は
図5にも示されている。
(a)pRRL/PGK−eGFP−WPRE−配列番号3
(b)pRRL/GAPDH−eGFP−WPRE−配列番号4
(c)pCCL/GAPDH−eGFP−WPRE−配列番号5
(d)pLTR1.0/PGK−eGFP−WPRE−配列番号6
(e)pLTR1.5/PGK−eGFP−WPRE−配列番号7
(f)pLTR1.7.671/PGK−eGFP−WPRE−配列番号8
(g)pLTR1.7.672/PGK−eGFP−WPRE−配列番号9
(h)pLTR1.7.673/PGK−eGFP−WPRE−配列番号10
(i)pLTR1.7.671/GAPDH−eGFP−WPRE−配列番号11
(j)pLTR1.11.0/GAPDH−eGFP−wPRE−配列番号12
(k)pLTR1.11.1/GAPDH−eGFP−WPRE−配列番号13
(l)pLTR1.13.0/GAPDH−eGFP−WPRE−配列番号14
(m)pLTR1.13.1/GAPDH−eGFP−WPRE−配列番号15
(n)pLTR1.20/GAPDH−eGFP−WPRE−配列番号16