特許第6525995号(P6525995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6525995
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】走行シミュレータを修正する方法
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/052 20060101AFI20190527BHJP
   G09B 9/04 20060101ALI20190527BHJP
   G09B 9/058 20060101ALI20190527BHJP
   G09B 9/06 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   G09B9/052
   G09B9/04 A
   G09B9/058 Z
   G09B9/06 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-530225(P2016-530225)
(86)(22)【出願日】2014年10月9日
(65)【公表番号】特表2016-538594(P2016-538594A)
(43)【公表日】2016年12月8日
(86)【国際出願番号】EP2014071633
(87)【国際公開番号】WO2015071033
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2017年7月28日
(31)【優先権主張番号】A50755/2013
(32)【優先日】2013年11月13日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】398055255
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】レスル・ミヒャエル
【審査官】 宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102006016716(DE,A1)
【文献】 特開2011−140262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00−9/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより作られたレーシング・トラック上での訓練単位を修了するために、ドライバが走行シミュレータにおいてトレーニングシミュレーションを実行するための方法において、
実際の走行の少なくとも一期間中にドライバの生体計測学的な状態の時間変化曲線(1)を検出し、
そのときに、前記ドライバが使用する車両のパラメータ(5)の少なくとも一つの時間変化曲線を測定し、
測定ユニット、評価ユニット、制御ユニット及び計算ユニットの少なくともいずれかにより、前記ドライバの前記生体計測学的な状態の時間変化曲線(1)と、前記車両の前記パラメータ(5)の時間変化曲線との関係であって、前記パラメータ(5)の時間的な変化に依存した生体計測学的な状態の時間的な変化を与える関係を求め、ストレスレベルを高める前記パラメータ(5)の変化を特定し、
走行シミュレータでの第一のトレーニング中に生じるドライバの生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線(2)を測定し、
測定ユニット、評価ユニット、制御ユニット及び計算ユニットの少なくともいずれかにより、前記走行シミュレータでの続く第二のトレーニング中に、求められた前記関係に基づいて、前記ストレスレベルを高める前記パラメータ(5)の変化のときに、前記ドライバを精神的に刺激することにより前記ストレスレベルを高めるように修正された、前記ドライバの前記生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線(7)が、前記実際の走行の前記ドライバの前記生体計測学的な状態の時間変化曲線(1)に近付けられることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
測定ユニット、評価ユニット、制御ユニット及び計算ユニットの少なくともいずれかにより、
前記実際の走行の少なくとも一期間中の前記ドライバの前記生体計測学的な状態の時間変化曲線(1)について平均値(3)を求め、
前記走行シミュレータでの前記第一のトレーニング中の前記ドライバの前記生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線(2)について訓練平均値(4)を求め、
前記走行シミュレータでの前記第二のトレーニング中に、前記ドライバを精神的に刺激することにより、前記訓練平均値(4)が前記平均値(3)に近付けられることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記ドライバの精神的な刺激は、聴覚的及び/又は視覚的及び/又は感覚的な刺激作用により行うことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記ドライバの精神的な刺激は、測定ユニット、評価ユニット、制御ユニット及び計算ユニットの少なくともいずれかにより、ドライバの各々に対し、ストレスレベルを高める前記パラメータ(5)の変化を特定し、ドライバの各々に対し、少なくとも一つの個別的な刺激作用の順番を用いて実現されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
測定ユニット、評価ユニット、制御ユニット及び計算ユニットの少なくともいずれかにより、前記ドライバの前記生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線(2)に影響を与える前記少なくとも一つの刺激作用の順番を、ドライバの各々に対し、トレーニング中の試行を通じて求めることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行シミュレータを修正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ことにレーシング競技界では、極端なテスト制限が常態化したせいで、トレーニングの大半が走行シミュレータで行われるようになった。この走行シミュレータというのは、可動プラットフォーム上に固定されているコックピットにスポーツ選手ないしドライバが座って、コンピュータにより作られたレーシング・トラック上でドライバが訓練単位を修了するように行われることが多い。走行シミュレータは、実戦では起こり得るものの訓練するのは不可能か或いはかなり手間をかけないと出来ない事象をシミュレーションするのにはうってつけである。そのため、走行シミュレータは、従来のレーシング・トラック上或いはレーシング・コース上でのトレーニングを補完するものとして重要であり、様々なトレーニング方法を混ぜ合わせることで最大の効率が達成される。
【0003】
走行シミュレータは、特定の状況を繰り返すことでトレーニング効率を高めることができる。走行シミュレータは、例えば、様々な天候、コース状態、車両の仕上がり具合等々といった異なる条件下での訓練を可能にし、その際に、実際の車両に負荷がかかることも、摩耗する部品が多めに入用になることもない。いろいろなシナリオがシミュレート可能で、何度でも繰り返すことができる。訓練単位を記録していけば、普通ならトレーニングを相応に評価できる。
【0004】
広い意味でシミュレータは、何らかの極限領域における行動の習得を可能にするとともに、危険を伴うことなくスポーツ選手の感覚を高めることを可能にする。
【0005】
しかしながら、まさにそこにこそ、通常の走行シミュレータのある種の欠点が存在する。実際の走行時や本物のレースで起きる事態においては、スポーツ選手ないしドライバは、ドライバ自身はもとより使用される車両も危うくするような幾つもの危険にさらされた状態になる。つまり、ドライバにとって重要な因子は、ストレスレベルが高められているということであり、そのストレスレベル下で、ドライバが実際の走行において車両を操縦しなければならないということである。高められたストレスレベルでも、ドライバは、瞬時に重要な判断を下さなければならない。ところが、ドライバの行動と能力に決定的な影響を与えるこの大事な観点は、通常の走行シミュレータにおいては重要視されていない。そのため、本当の現実の走行に比べると、トレーニング効果がかなり落ちる。
【0006】
現実とトレーニングシミュレーションとの差が問題だというのは、もちろんオートモータスポーツに限ったことではない。この問題は、他のスポーツ種目にも当てはまることであり、それ故、ドライバは、以下、一般的にスポーツ選手と言う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、走行シミュレータを改善し、トレーニング効果を適切に高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本発明により、実際(現実)の走行の少なくとも一期間中にスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線(時間的な推移)を検出し、そのときに、スポーツ選手が使用する車両のパラメータの少なくとも一つの時間変化曲線を測定し、スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線と、車両のパラメータの時間変化曲線との関係であって、パラメータの時間的な変化に依存した生体計測学的な状態の時間的な変化を与える関係を求め、走行シミュレータでの第一のトレーニング中に生じるスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線(訓練時の時間的な推移)を測定し、走行シミュレータで次に行われる第二のトレーニング中に、上記求められた関係に基づいてスポーツ選手を精神的に刺激することにより修正された、スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線が、実際の走行のスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線に近付けられることにより解決される。
【0009】
このようにして、トレーニング、つまりトレーニング中のスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線を、実際の走行に対応した生体計測学的な状態の時間変化曲線に近付けることができる。近付ける、というのは、実際の走行中の生体計測学的な状態の時間変化曲線と、生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線との差が縮められるということである。スポーツ選手をパラメータに応じて精神的に刺激することにより、トレーニング中のスポーツ選手の生体計測学的な状態を箇所別に(punktuell)調整することができる。
【0010】
有利な形態は、実際の走行の少なくとも一期間中のスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線について平均値を求め、走行シミュレータでの第一のトレーニング中のスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線について訓練平均値を求め、走行シミュレータでの第二のトレーニング中に、スポーツ選手を精神的に刺激することにより、上記訓練平均値を上記平均値に近付けようというものである。
【0011】
これにより、例えば、少なくとも実際の走行期間中に生じる平均的なストレスレベルを、トレーニング時に現れるものと比べることができる。トレーニング中の平均的なストレスレベルは、次に実際の走行時に現れるものへと然るべく近付けることができる。トレーニング効果はこうしてはるかに高くなる。
【0012】
他の有利な形態は、スポーツ選手の精神的な刺激を、聴覚的及び/又は視覚的及び/又は感覚的な(sensitive)刺激作用により行おうというものである。これにより、技術的な僅かの手間で、スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線に効果的に影響を与えることができる。
【0013】
他の有利な形態は、刺激作用を少なくとも一つの個別的な順番(フロー)(Reizabfolge)にして用いながらスポーツ選手の精神的な刺激を実現しようというものである。これにより、スポーツ選手の潜在意識に狙い通りに作用を及ぼすことができ、このようにして狙い通りに所定のスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線を生じさせることができる。
【0014】
さらに、有利には、スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線に影響を与える少なくとも一つの刺激作用の順番(Reizabfolge)(刺激作用の加え方)を、トレーニング中の試行を通じて求めるようにしている。これにより、様々な刺激作用の順番と、それがスポーツ選手に与える影響と、それによる生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線とを、スポーツ選手に対し危険が及ばないようにして且つ個別に求めることができる。
【0015】
以下に、具体的、概略的に且つ限定なく発明の有利な形態を示す図1乃至5を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】加速度ないし速度に依存した心拍数の時間変化曲線を示す図である。
図2】実際の走行時と走行シミュレータでの走行時の心拍数の時間変化曲線を対比により示す図である。
図3】精神的な刺激とその心拍数への影響とを示す図である。
図4】実際の走行時と走行シミュレータでの走行時の心拍数の平均値の違いを比較して示す図である。
図5】精神的な刺激により平均値を近付ける様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による方法は、例えば、レーシングドライバのトレーニングの最適化に用いられるが、この方法は、既に述べたように、オートモータスポーツに限られることなく、他のスポーツ種目にも適用できることは言うまでもない。この理由から、レーシングドライバないしドライバは、以下において一般にスポーツ選手と言う。
【0018】
以下では、実際の走行について或いはまたトレーニング走行について取り挙げる。留意すべきなのは、それが、全走行、全レース時間、或いは全レーシング・トラック/全コースを走りぬくこと(Abfahren)を必ずしも意味しているわけではないという点である。単なるトラック区間及び/又は期間に過ぎなくても、然るべき比較が可能であればそれも含まれている。
【0019】
車両、走行シミュレータ、スポーツ選手及び/又は当該スポーツ選手の精神的な刺激に関係する、検出され、測定され、或いは使用可能とされたあらゆるデータ及び/又は数値は、測定ユニット及び/又は評価ユニット及び/又は制御ユニット及び/又は計算ユニットにより処理される。このユニットはしかし、場所的には拘束されず、そのため、得られたデータは、車両、走行シミュレータ或いはスポーツ選手の方で処理することができる(とはいえ、必ずそうしなければならないというわけではない。)。
【0020】
通常、実際の走行中は、少なくとも区間的ないし一時的に、走行シミュレータでの走行時よりもかなり高いストレスレベルが生じる。このことは容易に分かることであり、それ以上に驚くべきことでもない。走行シミュレータでは、人と車両にとって危険性がゼロに低下しているからである。しかしながら、その結果として、トレーニング中、スポーツ選手の反応ないしスポーツ選手の反応能力は、実際の走行中のものとは異なってしまう。
【0021】
ストレスレベルは、一連の生体計測学的データを基に特定可能である。例えば、心拍数(Herzfrequenz)、拍動(Puls)、心拍変異度(Herzvariabilitaet)及びガルバニック皮膚反応(elektrodermale Aktivitaet)つまりは皮膚の電気伝導度が、ストレスレベルを計測するために挙げられよう。もちろん、ストレスは、一連の他の生体計測学的データにおいて特定することもできる。
【0022】
図1は、例えば、実際の走行の一期間についての進行方向加速度aないしは速度vの時間変化曲線により引き起こされた、時間に依存した心拍数Hfrの時間変化曲線1を示す。進行方向加速度aは、もちろん進行方向における負の加速度、すなわち進行方向の減速であることも考えられる。例えば、進行方向加速度aの変化が現れる強い加速段階ないし減速段階の際に、或いはその後に、心拍数Hfrが相応に上昇することが看取できる。全く同じような時間変化曲線1は、もちろん横方向加速やドライバに働く他の力の場合にも生じ得る。
【0023】
スポーツ選手の生体計測学的な状態のこのような時間変化曲線1は、第一ステップでは、実際の走行の間ずっと、ないしはその一期間中、例えば実際のトレーニング走行中、ないしはオートレースの間中に検出されるか或いは記録される。この場合、然るべき生体計測学的な状態は、然るべきセンサを使って測定することができる。例えば、生体計測学的な状態として心拍数Hfを選ぶ場合、スポーツや医学の分野でよく使われていることから公知となっているように、胸ベルトを測定ユニットとして用いることが挙げられよう。
【0024】
例に過ぎないものの、スポーツ選手の心拍数Hfが、生体計測学的な状態として測定される。既に述べたように、生体計測学的な状態として適した一連の他の生体計測学的なデータも考慮に入れることができる。然るべきセンサ素子群(Sensorik)或いは複数の測定ユニットを用いる場合、これらのデータを同時に記録することもできる。これにより、複数の生体計測学的なデータも生体計測学的な状態として用いることができる。
【0025】
実際の走行中、スポーツ選手の生体計測学的な状態の他に、スポーツ選手が使用する車両の少なくとも一つのパラメータ5が測定される。この場合、例えば、スポーツ選手の生体計測学的な状態として選択された心拍数Hfrの他に、例えば、パラメータ5として車両の進行方向加速度aが検出される。既に述べたように、パラメータ5として、ドライバに働く他の力を考慮に入れてもよい。
【0026】
見て分かるように、スポーツ選手の生体計測学的な状態としての心拍数Hfrと、例えば走行状態に依存したパラメータ5としての車両の進行方向加速度aとの間には、或る関係が存在する。この関係は、パラメータ5の時間的な変化に依存した、生体計測学的な状態の時間的な変化を記述し、実際の走行の少なくとも一期間中に求められる(検出される)。
【0027】
図2は、既に図1で示された、実際の走行時に生じ得る心拍数Hfrつまりは生体計測学的な状態の時間変化曲線1と、走行シミュレータでの第一のトレーニング中に同じトラックについて生じ得る生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線2との比較を示す。スポーツ選手の生体計測学的な状態の、この出現する時間的な訓練変化曲線2が、走行シミュレータでの第一のトレーニング中に記録され或いは測定(特定)される。このトレーニングは、スポーツ選手が、走行シミュレータにおいて、当初の実際の走行と同じ条件で同じトラックを走るというものである。注意すべきなのは、時間変化曲線1についても、時間的な訓練変化曲線2についても、前もって正確なことは何も言えないということである。というのも、それらは、スポーツ選手の生理学的かつ心理学的な状態に依存しているからである。
【0028】
時間変化曲線1と時間的な訓練変化曲線2とが似通っていることが分かる。とはいえ、走行シミュレータでの走行時に現れる時間的な訓練変化曲線2は、実際の走行時に現れる時間変化曲線1に比べると弱くなっている。心拍数Hftは、トレーニング中には、実際の走行中の数値ほど高くはならない。心拍数(心拍変異度)の昇降も、トレーニング中では、実際の走行のときのものに比べてさほど顕著でもない。この理由は、既に述べた走行シミュレータでの走行中の危険性の少なさと、それに伴うストレスレベルの低さである。
【0029】
続くステップで、スポーツ選手は、走行シミュレータにおいて第二のトレーニングを修了する。このトレーニングでは、当初の実際の走行及び第一のトレーニングと同じ条件でトラックがシミュレートされる。しかしながら、図3に看取できるように、この第二のトレーニング中、スポーツ選手は、聴覚的に、例えばヘッドホンを介して挿入された一連の音(音の順番)(Tonabfolge)(この一連の音が聴覚刺激作用6である。)によって、精神的に刺激される。精神的な刺激は、スポーツ選手の生体計測学的な状態とパラメータ5との間で見出された関係に従って区間的に実施される。それは、生体計測学的な状態の時間変化曲線1とその時間的な訓練変化曲線2との差が特に大きいトラック区間又は局面であることが好ましい。
【0030】
走行シミュレータでの第二のトレーニング中、求められた上記関係に基づいてスポーツ選手を精神的に刺激することにより修正されたスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線7は、実際の走行のスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線1へと近付けられる。
【0031】
近付ける、というのは、実際の走行中の生体計測学的な状態の時間変化曲線1と、生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線2との間の差が縮められることである。
【0032】
聴覚的な刺激作用6の形での精神的な刺激は、単に例として示されているに過ぎない。スポーツ選手の精神的な刺激は、視覚的、感覚的若しくは似たような刺激作用又はこれらの組み合わせによっても十分に可能である。精神的な刺激によって脳に積極的に働きかけることで、ドライバの生体計測学的な状態がストレスレベルを高めるように変化する。
【0033】
この場合、例としての聴覚的な刺激作用6は、シミュレートされた進行方向加速度aと時間的に同調させるように狙いを定めて使用される。これにより、例えば、走行シミュレータでのトレーニング時の心拍数Hftが、進行方向加速度aに応じて、実際の走行時に生じる心拍数Hfrに合わせられる(調整される)。
【0034】
見て分かるように、スポーツ選手の生体計測学的な状態の修正された時間的な訓練変化曲線7は、実際の走行中のスポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線1に少なくとも部分的に近付いたものになっている。留意すべき点は、シミュレーションそのものは変えることなく修正が行われる点である。例えば車線幅や路面状態、天候及びそれに関連した視界条件といったシミュレートされるトラック条件は、変わらないままであり、実際の走行と等価である。もちろん、心拍数Hfに代わる他の生体計測学的な状態及び別の走行状態に依存したパラメータ5及びこれらの組み合わせも可能である。
【0035】
図3にも例として示されているように、聴覚的な刺激作用6は、このとき、上述の走行シミュレータの修正を行うのに、全トラックの道のりにわたって使用しなければならないわけではない。精神的な刺激は、特定のトラック箇所(Streckenpassagen)において、或いは特定の期間中においてのみ使われるというのでもよい。例えば、パラメータ5の極めて特徴的な数値のところでの修正といったことも考えられよう。これについては、スポーツ選手の精神的な刺激が、例えば、極めて大きな進行方向加速度a及び/又は他の力が現れたときにだけ、走行シミュレータでのトレーニング中に用いられることになることも考えられよう。
【0036】
ここで、スポーツ選手の精神的な刺激は、刺激作用を個別的な順番で用いながら実現してもよい。個別的というのは、既に述べたように、時間変化曲線1であれ、時間的な訓練変化曲線2であれ、いずれもスポーツ選手の生理学的かつ精神的な状態に依存しているからである。従って、スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線2に影響を与え且つそれにより修正された時間的な訓練変化曲線7を形成する刺激作用の順番の詳細が如何様であるのかは、有利には、トレーニング中の試行を通じて求められる。スポーツ選手の各々に対し、これらの試行を通して、少なくとも一つの個別的な刺激作用の順番を割り振ることができる。これにより、例えば、特定のトラック箇所に対して、スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線2を修正し、スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線1に近付けることが可能となる。この試行により、上述のように二つの曲線を近付けるのに、例えば、別のトラック箇所については全く別の刺激作用の順番が必要という結果になることもあり得る。
【0037】
スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線1(一期間中或いは実際の走行中の全てにおいて検出ないし記録されるような曲線)は、医学的な目的にも使用することができるという点に留意すべきである。例えば、実際の走行中に、事故或いはそれに似たようなことが起き、そのためにスポーツ選手の健康状態が損なわれているような場合、スポーツ選手の生体計測学的な状態に関わるデータが、例えば救急救命士ないしその他の医療従事者に利用されることができる。これにより、正確な初期診断ないし適切な処置を可能にすることができる。パラメータ5の特定の時間的な変化と組み合わせることも、医学的な診断を下す上での一助となる。これは、その場合には例えば、事故中にスポーツ選手に加わる進行方向加速度aが、考えられる怪我の度合いについての重要な示唆となるからである。
【0038】
既に述べたように、車両及び/又はスポーツ選手及び/又は精神的な刺激に関係した、測定又は利用可能にされたデータ及び/又は数値は、測定ユニット及び/又は評価ユニット及び/又は制御ユニット及び/又は計算ユニットにより処理されるが、これらは場所的には拘束されていない。例えば、評価ユニットが、車両から離れたところに設けられているときには、測定されたデータにより、例えば、尋常でない時間変化曲線1が実際の走行中に早い段階で識別され、例えば、スポーツ選手に実際の走行を終えさせることで、事故を防止することができる。
【0039】
図4に示された他の変形例では、スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間変化曲線1に対して、実際の走行の少なくとも一期間中に、その平均的な値が平均値3の形で求められる。平均値3は、特定のトラック区間について求められてもよいし、全走行について求められてもよい。時間変化曲線1に対してと同様、スポーツ選手の生体計測学的な状態の時間的な訓練変化曲線2に対しても、第一のトレーニング中に、訓練平均値4の形で平均が求められる。
【0040】
見て分かるように、訓練平均値4は、平均値3と差Xだけ異なる。この差Xの分だけ、ドライバは、トレーニングの際に平均して“より少ないストレスを受けている”。既に述べたように、この差Xの故に、トレーニング時のスポーツ選手の行動と能力が、実際の走行時又はレース時若しくは競走時の行動/能力に対して異なっている。
【0041】
既に図3に関して記述したように、スポーツ選手は、走行シミュレータにおいて第二のトレーニングを修了し、そのトレーニングでは、当初の実際の走行及び第一のトレーニングのときと同じ条件でトラックがシミュレートされる。
【0042】
図5に示されているように、第二のトレーニング中、スポーツ選手は、ここでもやはり精神的に刺激される。これにより、走行シミュレータでの第二のトレーニング中に、訓練平均値4がスポーツ選手の精神的な刺激によって平均値3に近付けられる。ただし、この変形実施例では、聴覚的な刺激6は、パラメータ5に依存させて行われるのではなく、例えば、全トレーニング走行に亘って、或いは然るべきトラック区間や期間に亘って絶え間なく行われる。とはいえ、聴覚的な刺激作用6は、必ずしも全トレーニング走行中或いはそれに対応するトラック区間や期間中に行われなければならないものでもない。
【0043】
この精神的な刺激の結果、生体計測学的な状態ないし訓練平均値4が修正され、それに伴って、実際の走行中に生じる生体計測学的な状態の平均値3に近付けられる。このとき、平均値3と訓練平均値4との差Xは縮められる。再び注目すべきは、これが、シミュレーションそのものは変えることなく行われ、シミュレートされたトラック条件が実際の走行に対して変更されず且つ等価なままである点である。
【0044】
訓練平均値4を平均値3に近付けること、つまりは、差Xを縮めることは、複数のトレーニング走行を行ううちに繰り返して行うことができ、その際には、既に上述したように、実際の走行のシミュレーションは変更されない。各トレーニング走行中、生体計測学的な状態としての心拍数Hftの時間的な訓練変化曲線2ないしその訓練平均値4が測定されるが、その値は、精神的な刺激の結果変化したものである。このプロセスは、生体計測学的な状態の訓練平均値4が、スポーツ選手の精神的な刺激によって生体計測学的な状態の平均値3に近付けられた状態になるまで、継続して或いは何度も実施することができる。これにより、生体計測学的な状態の平均値3と訓練平均値4との差X、つまりは、走行シミュレータでのトレーニングと実際の走行との差Xを調整するために、例えば聴覚的な刺激作用6をどういったやり方で行わなければならないかを見出すことができる。例えば、平均値3と訓練平均値4との間の所定の差Xを解消できるようにするには、どの周波数を用いて聴覚的な刺激作用6を行わなければならないか、その適した周波数が求められる。
【0045】
既に触れたように、この第二の実施例では、精神的な刺激は、箇所別に逐一行われるのではない。スポーツ選手は、走行シミュレータでの全走行に亘って然るべく精神的に刺激され、それにより、訓練平均値4つまりは走行シミュレータでの走行中の平均的なストレスレベルが、平均値3つまりは実際の走行中の平均的なストレスレベルに近似的に相当するようになる。
【0046】
走行シミュレータでの将来的なトレーニング走行では、走行シミュレータを適切に修正するために、このようにして見出された例えば聴覚的な刺激作用が使われる。
【0047】
精神的な刺激をどの程度きちんと行わなければならないかは、スポーツ選手自身に依存もするし、また精神的な刺激の種類にも依存する。例として選択された聴覚刺激作用6による精神的な刺激の場合、例えば一連の音(Tonfolge)の周波数が決定的となり得る。周波数次第で、ドライバが如何に、また如何ほど精神的に刺激されるのか、第二の生体計測学的な状態に対する影響がどの程度大きいのかが左右され得る。
【0048】
従って、先ほど触れた反復式の特定は、本方法を異なるドライバに適合させるのに有用である。
図1
図2
図3
図4
図5