(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
化合物の少なくとも一部分が、約8.8、12.9、13.4、14.2、および17.4°に2θの有意な回折ピークを含むX線回折パターン(CuKα)を有する結晶形として存在する、請求項1〜18のいずれか一項記載の医薬。
【発明を実施するための形態】
【0029】
例示的態様の説明
一局面では、本発明は、バルドキソロンメチルおよびその類似体を使用して、心血管疾患と診断されたかまたはその危険性がある患者(肺動脈性肺高血圧症、他の形態の肺高血圧症、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、高脂血症、高コレステロール血症、メタボリックシンドローム、または肥満と診断されたかまたはその危険性がある患者を含む)、および他の疾患または状態と診断されたかまたはその危険性がある患者において内皮機能障害および/または肺動脈性肺高血圧症を処置および/または予防するための新規方法を提供する。本発明のこれらのおよび他の局面を以下でさらに詳細に説明する。
【0030】
I. バルドキソロンメチルでの処置から除外すべき患者の特徴
いくつかの臨床試験は、バルドキソロンメチルでの処置によって腎機能(推定糸球体濾過量、つまりeGFRを含む)、インスリン抵抗性、および内皮機能障害のマーカーが改善されることを示した(Pergola et al., 2011)。これらの観察に基づいて、ステージ4のCKDおよび2型糖尿病の患者におけるバルドキソロンメチルの大規模第3相試験(BEACON)が開始された。BEACON試験における主要エンドポイントは末期腎疾患(ESRD)への進行と総死亡との複合とした。この試験は、バルドキソロンメチルで処置された患者の群における過剰の重度有害事象および死亡が理由で終了した。
【0031】
以下で説明するように、BEACON試験からのデータに関するその後の分析は、大部分の重度有害事象および死亡が心不全を包含しており、(a) B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の高いベースラインレベル(例えば>200pg/mL); (b) ベースラインeGFR<20; (c) 左心疾患の病歴; (d) 高いベースラインアルブミン対クレアチニン比(ACR; 例えばディップスティック蛋白尿3+により規定される>300mg/g); および(e) 高齢(例えば>75歳)を含む1つまたは複数の危険因子の存在と非常に相関していることを示した。分析は、BARD処置の最初の3〜4週間における急性体液過負荷の発生に心不全イベントがおそらく関連していること、およびこれが潜在的には腎臓中のエンドセリン1シグナル伝達の阻害が理由であることを示した。ステージ4のCKD患者におけるエンドセリン受容体アンタゴニストに関する以前の試験は、BEACON試験において見られたパターンと非常に類似した有害事象および死亡のパターンが理由で終了した。その後の非臨床試験では、BARDが生理学的に関連性のある濃度で、腎近位尿細管上皮細胞中でエンドセリン1発現を阻害し、ヒトメサンギウム細胞および内皮細胞中でエンドセリン受容体発現を阻害することが確認された。したがって、エンドセリンシグナル伝達の阻害による有害事象の危険性がある患者は、BARDの今後の臨床的使用から除外すべきである。
【0032】
本発明は、重要な寄与因子としての内皮機能障害を含む障害を処置する新規方法に関する。本発明はまた、そのような障害の処置用の薬学的組成物の調製に関する。本発明では、処置対象の患者はいくつかの基準に基づいて選択される: (1) 重要な寄与因子としての内皮機能障害を包含する障害があると診断されること; (2) 高レベルのB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の欠如(例えばBNP価は<200pg/mLでなければならない); (3) 慢性腎疾患の欠如(例えばeGFR>60)または進行慢性腎疾患の欠如(例えばeGFR>45); (4) 左側心筋症の病歴の欠如; および(5) 高ACRの欠如(例えばACRは<300mg/gでなければならない)。本発明のいくつかの態様では、2型糖尿病と診断された患者が除外される。本発明のいくつかの態様では、がんと診断された患者が除外される。いくつかの態様では、高齢(例えば>75歳)の患者が除外される。いくつかの態様では、患者は、体液過負荷を示唆する急速な体重増加について綿密にモニタリングされる。例えば、患者は、処置の最初の4週間毎日体重測定し、5ポンドを超える増加が観察される場合は処方医に連絡を取るように指示されることがある。
【0033】
非透析依存性CKD関連肺高血圧症はWHOクラスIIの範囲内にあり、透析依存性CKD関連肺高血圧症はWHOクラスVの範囲内にある(Bolignano et al., 2013)。ごく小さい割合のステージ4〜5のCKD患者がWHOクラスI肺高血圧症(すなわち肺動脈性肺高血圧症)を呈し、注目すべきことに、これらの患者は上記基準に従って除外される。
【0034】
A. BEACON試験
1. 試験の設計
「慢性腎疾患および2型糖尿病の患者におけるバルドキソロンメチル評価: 腎イベントの発生」(BEACON)と題する試験402-C-0903は、ステージ4の慢性腎疾患および2型糖尿病の患者においてバルドキソロンメチル(BARD)の有効性および安全性をプラセボ(PBO)と比較するように設計された、第3相ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群多国籍多施設試験であった。合計2,185名の患者をバルドキソロンメチル(20mg)またはプラセボの1日1回の投与に対して1:1でランダム化した。試験の主要有効性エンドポイントは、末期腎疾患(ESRD; 慢性透析の必要性、腎移植、もしくは腎臓死)または心血管(CV)死として規定される複合エンドポイントにおける、最初のイベントまでの時間とした。試験は3つの副次有効性エンドポイントを有した: (1) 推定糸球体濾過量(eGFR)の変化; (2) 心不全による最初の入院または心不全による死亡までの時間; および(3) 非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全による入院、または心血管死からなる複合エンドポイントの最初のイベントまでの時間。
【0035】
BEACON患者のサブセットは、自由行動下血圧測定(ABPM)および24時間採尿を含む、さらなる24時間評価に同意した。独立機関のEvents Adjudication Committee(EAC)は、試験処置割当に対して盲検化されており、腎イベント、心血管イベント、および神経イベントが主要エンドポイントおよび副次エンドポイントの所定の規定に適合しているか否かを評価した。IDMCは、独立系の統計グループに支援された外部の臨床専門家からなり、非盲検の安全性データを試験全体を通じてレビューし、適宜勧告を行った。
【0036】
2. 集団の人口統計およびベースライン特性
表1は、BEACONに登録された患者の選択された人口統計的特性およびベースライン特性に関する統計の概要を提示する。人口統計的特性は2つの処置群を通じて同等であった。すべての処置群の合計で、平均年齢は68.5歳であり、患者の57%は男性であった。バルドキソロンメチル群はプラセボ群に比べて75歳以上の年齢サブグループの患者がわずかに多かった(バルドキソロンメチル群中27%に対してプラセボ群中24%)。両処置群を通じた平均体重およびBMIはそれぞれ95.2kgおよび33.8kg/m
2であった。ベースライン腎機能は2つの処置群において概して同様であった。平均ベースラインeGFRは4変数Modified Diet in Renal Disease(MDRD)式によって測定され、22.5mL/分/1.73m
2であり、幾何平均アルブミン/クレアチニン比(ACR)は処置群の合計で215.5mg/gであった。
【0037】
(表1)BEACON(ITT集団)におけるバルドキソロンメチル(BARD)患者対プラセボ(PBO)患者の選択された人口統計およびベースライン特性
患者にプラセボまたは20mgのバルドキソロンメチルを1日1回投与した。
【0038】
B. BEACONの結果
1. eGFRに対するバルドキソロンメチルの効果
バルドキソロンメチル処置患者およびプラセボ処置患者の平均eGFR値を
図6に示す。概して、バルドキソロンメチル患者ではeGFRの増加が予測され、この増加は処置4週目までに生じ、48週目までベースラインを超えたままであった。対照的に、概してプラセボ処置患者ではベースラインから変化しなかったかまたはベースラインからわずかに減少した。バルドキソロンメチル処置患者中のeGFR低下を示す患者の比率はプラセボ処置患者に比べて有意に減少した(
図7)。1年間の処置後にBEACONにおいて観察されたeGFR軌道および低下者の比率は、BEAM試験(RTA402-C-0804)からのモデル予測および結果と一致していた。表2に示すように、腎障害および尿路障害の重篤有害事象(SAE)を経験した患者の数は、バルドキソロンメチル群の方がプラセボ群よりも少なかった(それぞれ52名対71名)。さらに、以下のセクションで説明するように、バルドキソロンメチル群において観察されたESRD事象はプラセボ群におけるよりもわずかに少なかった。まとめると、これらのデータは、バルドキソロンメチル処置が腎臓の状態を急性的または経時的に悪化させることはなかったことを示唆している。
【0039】
(表2)BEACONにおける各プライマリー器官別大分類(安全性解析対象集団)内の試験治療下で発現した重篤有害事象の発生率
表は、試験薬の患者への最終投与後30日を過ぎて発症した重篤有害事象のみを含む。列ヘッダの数値および共通因子は安全性解析対象集団内の患者の数である。各患者は各器官別大分類および基本語において多くとも1回計数される。
【0040】
2. BEACONにおける主要複合転帰
表3は、試験終了日(2012年10月18日)またはその前に生じた、判定済み主要エンドポイントの概要を示す。最初の複合主要イベントまでの時間の分析のプロット(
図8)に示されるように、バルドキソロンメチル処置群におけるESRDイベントの数がプラセボ処置群に比べてわずかに減少したにもかかわらず、心血管死イベントのわずかな増加が理由で、複合主要エンドポイントの数は2つの処置群において同等であった(HR=0.98)。
【0041】
(表3)BEACON(ITT集団)におけるバルドキソロンメチル(BARD)患者対プラセボ(PBO)患者における判定済み主要エンドポイント
a ハザード比(バルドキソロンメチル/プラセボ)および95%信頼区間(CI)を、処置群、連続ベースラインeGFR、および連続ベースライン対数ACRを共変数とするCox比例ハザードモデルを使用して評価した。イベント時間のタイを処理するBreslowの方法を使用した。
b 処置群の比較ではSASのタイプ3カイ二乗検定、およびCox比例ハザードモデルにおける処置群変数に関連する両側p値を使用した。
【0042】
C. 心不全および血圧に対するバルドキソロンメチルの効果
1. BEACONにおける判定済み心不全
表4におけるデータは、処置群および判定済み心不全イベントの発生によって層別化されたBEACON患者の人口統計パラメータおよび選択された臨床検査パラメータの事後分析を提示する。心不全の患者の数は最終連絡日までのすべてのイベントを含む(ITT集団)。
【0043】
判定済み心不全イベントを有する患者のベースライン特性の比較は、バルドキソロンメチル処置心不全患者およびプラセボ処置心不全患者がいずれも、心血管疾患および心不全の前病歴を有していた傾向が比較的高く、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびFredericia補正法によるQTc間隔(QTcF)の比較的高いベースライン値を示すことを明らかにした。心不全の危険性はバルドキソロンメチル処置患者においてより高かったが、これらのデータは、両群における心不全の発生が心不全の伝統的な危険因子に関連しているようであったことを示唆している。心不全イベントを有するバルドキソロンメチル処置患者におけるベースラインACRは、心不全イベントを有さない同患者よりも有意に高かった。また注目すべきことに、両処置群における心不全を経験した患者におけるBNPの平均ベースラインレベルは、有意に上昇しており、これらの患者がランダム化前におそらく体液を貯留していて無症候性心不全であったことを示唆した。
【0044】
(表4)心不全状態によって層別化されたバルドキソロンメチル患者対プラセボ患者の選択された人口統計的特性およびベースライン特性
a HFを有するBARD患者対HFを有さないBARD患者についてp<0.05
b HFを有するPBO患者対HFを有さないPBO患者についてp<0.05
c HFを有するBARD患者対PBO患者についてp<0.05
【0045】
2. BNP増加に関連する臨床パラメータの評価
体液貯留のサロゲートとして、事後分析を、BNPデータがベースラインおよび24週目において入手可能な患者のサブセットに対して行った。バルドキソロンメチル群の患者は、プラセボ群の患者よりも有意に大きなBNPの増加を経験した(平均±標準偏差: 225±598対34±209pg/mL、p<0.01)。また、24週目において、BNPの増加を示すバルドキソロンメチル処置患者の比率がプラセボ処置患者に比べて高いことが認められた(表5)。
【0046】
24週目のBNP増加はベースラインBNP、ベースラインeGFR、eGFRの変化、またはACRの変化に関連していないようであった。しかし、バルドキソロンメチル処置患者に限れば、ベースラインACRはBNPのベースラインからの24週目の変化と有意に相関していた。このことは、体液貯留の傾向が、eGFRによって評価される腎機能の一般的変化にではなく、アルブミン尿状態によって規定される腎機能障害のベースライン重症度に関連しうることを示唆している(表6)。
【0047】
さらに、これらのデータは、ナトリウムおよび水分の制御が尿細管中で生じることから、本来的に糸球体性であるeGFRの増加が解剖学的に別個のものであることを示唆している。
【0048】
(表5)24週目のBNPのベースラインからの変化によって層別化されるバルドキソロンメチル患者対プラセボ患者のBNP値およびeGFR値の分析
BEACONにおける24週目のBNPの変化の事後分析。
【0049】
(表6)BEACONにおけるバルドキソロンメチル患者対プラセボ患者における24週目のBNPのベースラインからの変化とACRとの間の相関
BEACONにおける24週目のBNPの変化の事後分析。ベースラインおよび24週目のBNP値を伴う患者のみが分析に含まれた。
【0050】
3. 血清電解質
24時間採尿を行う患者のサブセットについて、血清カリウムまたは血清ナトリウム中で臨床的に有意な変化は認められなかった(表7)。バルドキソロンメチル処置患者中の血清マグネシウムレベルの変化は、以前の試験において観察された変化と一致していた(
図11)。
【0051】
(表7)24時間ABPMサブ試験バルドキソロンメチル患者対プラセボ患者における血清電解質のベースラインからの4週目の変化
データは、24時間ABPMサブ試験に登録されたBEACON患者のみを含んだ。血清電解質値の変化は、ベースラインおよび4週目のデータを示す患者についてのみ計算した。* 各処置群内の4週目の値対ベースライン値についてp<0.05; † BARD患者対PBO患者における4週目の変化についてp<0.05。
【0052】
4. 24時間採尿
患者のサブセットは、選択された来診日での自由行動下血圧測定(ABPM)および24時間採尿に関するさらなる24時間評価(サブ試験)に同意した。BEACONサブ試験患者からの尿ナトリウム排泄データは、バルドキソロンメチル処置患者において尿量およびナトリウム排泄が4週目にベースラインに比べて臨床的に有意に減少したことを明らかにした(表8)。これらの減少は、プラセボ処置患者において観察された尿量および尿ナトリウムの4週間目の変化とは有意に異なっていた。また注目すべきことに、血清マグネシウムの減少は腎臓中のマグネシウムの損失に関連しなかった。
【0053】
さらに、バルドキソロンメチルを8週間投与した2型糖尿病およびステージ3b/4のCKDの患者における薬物動態試験(402-C-1102)では、ステージ4のCKDの患者はステージ3bのCKD患者よりも有意に大きな尿ナトリウムおよび水分の排泄の減少を示した(表9)。
【0054】
(表8)24時間ABPMサブ試験バルドキソロンメチル患者対プラセボ患者における24時間尿量、尿ナトリウム、および尿カリウムのベースラインからの4週目の変化
データは、24時間ABPMサブ試験に登録されたBEACON患者のみを含んだ。4週目の変化は、ベースラインおよび4週目のデータを示す患者についてのみ計算した。* 各処置群内の4週目の値対ベースライン値についてp<0.05; † BARD患者対PBO患者における4週目の変化についてp<0.05。
【0055】
(表9)CKD重症度によって群分けしたバルドキソロンメチル処置患者における24時間尿量および24時間尿ナトリウムのベースラインからの8週目の変化(患者薬物動態試験による)
患者を1日1回のバルドキソロンメチル20mgで連続56日間処置し、処置後追跡来診を試験84日目に行った。データは平均とする。データはベースラインおよび8週目のデータを示す患者を含む。
【0056】
5. EAC判定パケットからの病院記録
BEACONにおけるベースライン後評価は4週目に最初にスケジュールされた。多くの心不全イベントが4週目以前に生じたことから、これらの患者を特徴づけるために臨床データベースが提供する情報には限りがある。4週目以前に生じた心不全症例に関するEAC症例パケットの事後レビューを行うことで、最初の心不全イベントの時点で収集された臨床データ、バイタルデータ、臨床検査データ、および画像診断データを評価した(表10および表11)。
【0057】
これらの記録の検討によって、ランダム化直後の急速な体重増加、呼吸困難および起座呼吸、末梢性浮腫、画像診断時の中枢性肺水腫、高血圧および高心拍数、ならびに駆出率の保存に関する一般的な報告が明らかになった。データは、心不全が、駆出率の保存および高血圧と同時に発生する急速な体液貯留によって引き起こされたことを示唆している。駆出率の保存は、心室硬化および拡張期弛緩障害に由来する拡張機能障害によって引き起こされる心不全の臨床的特性と一致している。この一連の徴候および症状は、心臓ポンプ機能の衰弱または収縮障害が理由で生じる、駆出率の減少を伴う心不全の臨床的特性とは異なる(Vasan et al., 1999)。したがって、おそらくは、心室が硬化しかつ腎予備能が最小になった患者における急速な体液蓄積によって、肺内への体液逆流の増加および上記の臨床症状が生じた。
【0058】
臨床データベースからのベースライン中央臨床検査値を、心不全での入院時に得られ、EACパケットに含まれた現地臨床検査値と比較した。ランダム化後最初の4週間以内に心不全イベントが生じたバルドキソロンメチル処置患者において血清クレアチニン濃度、ナトリウム濃度、およびカリウム濃度が変化しなかったことは(表11)、心不全が急性腎機能低下または急性腎傷害に関連しなかったことを示唆している。全体として、臨床データは、心不全の病因が、直接的な腎毒性効果または心毒性効果により引き起こされるものではなく、ナトリウムおよび体液貯留が理由である可能性がより高いことを示唆している。
【0059】
(表10)処置の最初の4週間以内に心不全イベントが生じたバルドキソロンメチル患者対プラセボ患者の心血管パラメータの事後分析
BEACONにおける心不全症例の事後分析。ベースラインでのバイタルサインは3つの標準カフ測定値の平均から計算する。HF入院からのバイタルサインは、EAC判定パケットに含まれた入院時診療記録から収集されたものであり、異なるBPモニタリング機器を使用した特異的評価を表す。LVEFはHF入院中にのみ評価する。HF入院のタイミングはイベント開始日および処置開始日から計算され、各患者毎に0週目〜4週目と変動する。
【0060】
(表11)処置の最初の4週間以内に心不全イベントが生じたバルドキソロンメチル患者対プラセボ患者の血清電解質の事後分析
BEACONにおける心不全症例の事後分析。ベースライン臨床化学検査値を中央臨床検査室において評価する。HF入院からの臨床化学検査値は、EAC判定パケットに含まれた入院時診療記録から収集されたものであり、異なる現地臨床検査室において行われた評価を表す。
【0061】
6. BEACONにおける血圧
各来診日に収集された三つ組の標準化血圧カフ測定値の平均に基づく、バルドキソロンメチル処置患者およびプラセボ処置患者の収縮期血圧および拡張期血圧のベースラインからの平均変化を
図12に示す。バルドキソロンメチル群における血圧はプラセボ群に比べて上昇し、4週目(最初のランダム化後評価)までにバルドキソロンメチル群において収縮期血圧の平均上昇1.9mmHgおよび拡張期血圧の平均上昇1.4mmHgが認められた。収縮期血圧(SBP)の上昇が32週目までに減衰するようであった一方、拡張期血圧(DBP)の上昇は持続した。
【0062】
バルドキソロンメチル処置患者における4週目のSBPおよびDBPがプラセボ処置患者に比べて上昇していたことは、ABPM測定においていっそう明らかであった(
図13)。この規模の差は、使用した異なる技術、またはABPMサブ試験患者におけるベースライン特性の差が理由である可能性がある。ABPMサブ試験における患者は集団全体よりも高いベースラインACRを示した。にもかかわらず、データは、バルドキソロンメチルがBEACON患者集団において血圧を上昇させたことを示している。
【0063】
7. 以前のCKD試験における血圧変化
ステージ3b〜4のCKDを有する2型糖尿病患者におけるオープンラベル用量範囲試験(402-C-0902)において、2.5〜30mgの範囲の用量のバルドキソロンメチル(BEACONにおいて使用される非晶質分散製剤)での連続85日間の処置の後に、任意の個々の用量レベルでの用量に関連する血圧変化の傾向は認められなかった。CKDステージによって層別化された血圧データの事後分析は、ステージ4のCKDを有するバルドキソロンメチル処置患者がベースラインレベルに対する血圧の上昇を示す傾向があり、効果が3つの最高用量群において最も顕著であり、一方、ステージ3bのCKDを有するバルドキソロンメチル処置患者が明白な変化を示さなかったことを示唆している(表12)。CKDステージによって層別化された用量群の標本サイズは小さいが、これらのデータは、血圧に対するバルドキソロンメチル処置の効果がCKDステージに関連しうることを示唆している。
【0064】
薬物の初期結晶製剤を使用しかつ滴定デザイン法を使用したバルドキソロンメチルを用いる第2b相試験(BEAM、402-C-0804)からの血圧値は非常に有益であり、いくつかのバルドキソロンメチル処置群において上昇が認められたにもかかわらず、用量に関連する血圧の明らかな傾向は観察されなかった。
【0065】
(表12)ベースラインCKDステージによって層別化された、バルドキソロンメチルを投与された2型糖尿病およびステージ3b〜4のCKDを有する患者の収縮期血圧および拡張期血圧のベースラインからの変化
患者に2.5、5、10、15、または30mg量のバルドキソロンメチルを1日1回85日間投与した。
【0066】
8. 健康なボランティアにおける血圧およびQTcF
健康なボランティアにおいて行った別のThorough QT試験において、集中血圧モニタリングを使用した。1日1回6日間の投与後、両バルドキソロンメチル処置群、すなわちBEACONにおいても試験された治療量20mgが投与された群、および超治療量80mgが投与された群において、血圧の変化はプラセボ処置患者において観察された変化と異なっていなかった(
図14)。20または80mgで6日間の処置後、プラセボ補正QTcF変化(ΔΔQTcF)によって評価されたように、バルドキソロンメチルはQTcFを増加させなかった(
図15)。
【0067】
また、バルドキソロンメチルを非CKD疾患設定で試験した。腫瘍患者におけるバルドキソロンメチルの初期臨床試験(RTA 402-C-0501、RTA 402-C-0702)において、5〜1300mg/日(結晶製剤)の範囲の用量での連続21日間の処置後、すべての処置群にわたって血圧の平均変化は観察されなかった。同様に、肝機能障害の患者におけるランダム化プラセボ対照試験(RTA 402-C-0701)において、5および25mg/日(結晶製剤)の用量での連続14日間のバルドキソロンメチル処置によって、収縮期血圧および拡張期血圧の平均減少が生じた(表13)。
【0068】
まとめると、これらのデータは、ベースライン心血管罹患率またはステージ4のCKDを有さない患者において、バルドキソロンメチルがQT間隔を延長せず、血圧上昇を引き起こさないことを示唆している。
【0069】
(表13)バルドキソロンメチルで処置された肝機能障害の患者における血圧のベースラインからの変化
【0070】
9. 心不全の概要および分析
心不全イベントを有する患者のベースライン特性の比較は、心不全の危険性がバルドキソロンメチル処置患者においてより高いが、心不全を有するバルドキソロンメチル処置患者およびプラセボ処置患者がいずれも、心血管疾患および心不全の前病歴を有していた傾向が比較的高く、概して比較的高いベースラインACR、BNP、およびQTcFを示すことを明らかにした。したがって、おそらく、これらの患者における心不全の発生は、心不全の伝統的な危険因子に関連していた。さらに、心不全の患者の多くは、その高いベースラインBNPレベルが示すように、ランダム化前に無症候性心不全であった。
【0071】
ランダム化後の体液貯留のサロゲートとして、BNPデータが入手可能な患者のサブセットについて事後分析を行ったところ、バルドキソロンメチル処置群における24週目の増加はプラセボ処置群に比べて有意に大きく、バルドキソロンメチル処置群におけるBNP増加はベースラインACRと直接相関していた。BEACON ABPMサブ試験患者からの尿ナトリウム排泄データは、バルドキソロンメチル処置患者のみにおいて尿量およびナトリウム排泄が4週目にベースラインに比べて臨床的に有意に減少したことを明らかにした。別の試験では、尿ナトリウムレベルおよび水分排泄は、ステージ4のCKD患者において減少したが、ステージ3bのCKD患者においては減少しなかった。まとめると、これらのデータは、バルドキソロンメチルがナトリウムおよび水分の取扱いに差次的に影響し、これらの貯留がステージ4のCKDの患者においてより顕著であることを示唆している。
【0072】
体液貯留のこの表現型と一致して、入院時診療記録に示された心不全イベントに関する叙述的記載の事後レビューは、研究者からの事例報告と共に、バルドキソロンメチル処置患者における心不全イベントが、急速な体液重量の増加の後にしばしば生じており、急性腎代償不全または心代償不全に関連しなかったことを示している。
【0073】
BEACONにおいて標準化血圧カフモニタリングによって測定されたように、全体的体液量状態を示すものである血圧変化も、バルドキソロンメチル群において、プラセボ群に比べて増加した。健康なボランティアの試験における予め規定された血圧分析は収縮期血圧または拡張期血圧の変化を示さなかった。バルドキソロンメチルを用いて行った第2相CKD試験の治療企図(ITT)分析は血圧の明らかな変化を示さなかったが、これらの試験の事後分析は、収縮期血圧および拡張期血圧の増加がいずれもCKDステージに依存することを示唆している。まとめると、これらのデータは、血圧に対するバルドキソロンメチル処置の効果がCKDの疾患重症度に関連しうることを示唆している。
【0074】
したがって、尿電解質、BNP、および血圧のデータは集合的に、バルドキソロンメチル処置が、体液量状態に差次的に影響しうるものであり、健康なボランティアまたは初期ステージのCKD患者においては臨床的に検出可能な効果を示さない一方で、より進行した腎機能障害を有する患者およびベースラインで心不全に関連する伝統的な危険因子を有する患者においては体液貯留をおそらく促進するということを裏づけている。eGFRの増加はおそらく糸球体性の効果が理由であり、一方、ナトリウムおよび水分の制御に対する効果は本来的に尿細管性である。eGFRの変化が心不全と相関していなかったことから、データは、eGFRに対する効果ならびにナトリウムおよび水分の制御に対する効果が解剖学的および薬理学的に別個のものであることを示唆している。
【0075】
バルドキソロンメチル処置による心不全および関連有害事象の危険性の増加は、以前の試験においては観察されなかった(表14)。しかし、バルドキソロンメチルに関する研究において登録された患者が10倍少なかったことから、危険性の増加は、存在したとしても検出不能であった可能性がある。さらには、BEACONへの登録は、ステージ3bのCKDの患者に比べて心血管イベントの危険性が高いことで知られる集団であるステージ4のCKDの患者に限定された。したがって、BEACON集団の腎疾患の進行した性質および心血管の著しい危険負荷(低いベースラインeGFRレベル、高いベースラインACRレベル、および高いベースラインBNPレベルなどのマーカーによって明らかになる)は、心血管イベントの観察されたパターンにおけるおそらく重要な因子であった。
【0076】
BEACONにおける主要エンドポイントと体液過負荷の伝統的な危険因子の臨床的に有意な閾値との間の関係をさらに検討するために、さらなる事後分析を行った。最も危険性が高い患者を除外しかつBEACONから得られる転帰を調査するために、これらの危険因子に関連する様々な適格基準を適用した。20mL/分/1.73m
2以下のeGFRを有する患者、有意に高い蛋白尿レベルを有する患者、および75歳を超える患者または200pg/mLを超えるBNPを有する患者の排除を含む、選択された基準の組み合わせによって、観察された不均衡が抑制される(表15)。また、これらの同じ基準をSAEに適用することで、認められた不均衡が有意に改善されるかまたは抑制される(表16)。まとめると、これらの発見は、バルドキソロンメチルを用いる臨床試験用の将来の選択基準におけるこれらのおよび他の腎および心血管危険性マーカーの有用性を示唆している。
【0077】
(表14)バルドキソロンメチルを用いる慢性腎疾患の先行試験において観察されたプライマリー器官別大分類(SOC)毎の心不全に関連する試験治療下で発現した有害事象
1の頻度
402-C-0804では、患者にバルドキソロンメチル(結晶製剤)25、75、150mgまたはプラセボを1日1回52週間投与した。RTA402-C-0903では、患者に2.5、5、10、15、または30mg量のバルドキソロンメチル(SDD製剤)を1日1回85日間投与した。
1 BEACON EAC Charter(提出番号133、2012年2月2日付)に概要が示された心不全に関する標準化MedDRAクエリーに一致する基本語を伴う有害事象
【0078】
(表15)BEACONにおける主要エンドポイント、心不全、および総死亡に対する選択されたベースライン特性を有する患者を除外することの効果
BEACONにおける転帰の事後分析。心不全、総死亡および心血管死、ならびにESRDの患者の観察総数は最終連絡日までのすべてのイベントを含む(ITT集団)。
【0079】
(表16)BEACON(ITT集団)におけるプライマリーSOC毎の試験治療下で発現した重篤有害事象に対する選択されたベースライン特性を有する患者を除外することの効果
BEACONにおける試験治療下で発現した重篤有害事象の事後分析。イベント総数は、試験薬の患者への最終投与後30日以内に発症したSAEのみを含む。
【0080】
D. BEACONにおける体液過負荷の潜在的機構
これまでのセクションにおいて提示されたデータは、薬物投与とは無関係に心不全を発生させる危険性が最も高い患者のサブセットにおいて、バルドキソロンメチルが体液貯留を促進することを示唆している。データは、効果が急性または慢性の腎毒性または心毒性に関連していないことを示唆している。したがって、体液量状態に影響する既定の腎機構の包括的リスト(表17)を調査することで、バルドキソロンメチルについて観察された臨床表現型にいずれかの病因が一致したか否かを決定した。
【0081】
初期研究は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系のおこりうる活性化に重点を置いた。この経路の活性化は血清カリウムを腎排泄の増加により減少させる。しかし、バルドキソロンメチルはBEACONサブ試験において血清カリウムに影響せず、尿カリウムをわずかに減少させた(表7)。
【0082】
バルドキソロンメチルが血清マグネシウムおよび他の電解質に影響することから、研究された別の潜在的な機構は、経尿細管イオン勾配の変化がナトリウム再吸収および結果的な水分再吸収を生じさせた可能性があるか否かであった。しかし、この機構はカリウム制御も包含しており、ベースライン血清マグネシウムは体液貯留または心不全での入院に関連しているようではなかった。
【0083】
BEACONにおいては、表16に列挙された理由で他の病因が除外された後、エンドセリンシグナル伝達の抑制が、バルドキソロンメチル処置の効果と一致した体液量制御の主要な残存する潜在的機構となった。したがって、BEACON試験において観察された体液貯留の潜在的な理由としてのエンドセリン経路の調節についての広範な研究を行った。
【0084】
(表17)体液量状態に影響する既定の腎機構
体液貯留の機構および特性。
【0085】
1. エンドセリン系の調節
公知のエンドセリン経路モジュレーターの効果をBEACONと比較するための最も直接的に類似した臨床データは、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)であるアボセンタン(avosentan)を用いるデータである。血清中クレアチニンの最初の倍加、ESRD、または死亡までの時間を評価するための大規模アウトカム試験であるASCEND試験において、糖尿病性腎症を有するステージ3〜4のCKD患者においてアボセンタンを試験した(Mann et al., 2010)。この試験におけるベースラインeGFRはBEACONにおける平均ベースラインeGFRをわずかに超えたが、ASCEND試験における患者はBEACONの約7倍高い平均ACRを有していた(表18)。したがって、全体的心血管危険性プロファイルは2つの試験の間でおそらく同様であった。
【0086】
BEACONと同様に、ASCEND試験は、心不全入院および体液過負荷イベントの初期不均衡が理由で早期に終了した。重要なことに、アボセンタン誘導性体液過負荷に関連する、重篤および非重篤有害事象を含む有害事象は、処置の最初の1ヶ月以内に増加した(
図16)。
【0087】
ASCEND試験における主要エンドポイントの検討によって、うっ血性心不全(CHF)の危険性の約3倍の増加、および死亡の中程度な有意ではない増加が明らかになる。さらに、ESRDイベントの数の小さな減少も観察された。BEACON試験は同様の知見を示したが、心不全イベントの発生率がより低かった。にもかかわらず、これら2つの試験は臨床症状、および心不全のタイミング、ならびに他の主要エンドポイントに対する影響に関する、顕著な類似性を示した(表19)。
【0088】
(表18)ASCEND*およびBEACON(ITT集団)における患者の選択された人口統計特性およびベースライン特性
*アンジオテンシン変換酵素阻害および/またはアンジオテンシン受容体遮断の継続に加えてアボセンタン(25もしくは50mg)またはプラセボを受けた2型糖尿病および顕性腎症を有する1392名の患者のランダム化二重盲検プラセボ対照試験からの結果(ASCEND)。
【0089】
(表19)ASCENDおよびBEACON(ITT集団)における死亡、末期腎疾患、または心不全の発生率
ASCENDおよびBEACONにおける判定されたCHF、死亡、およびESRDイベントの発生率。ASCENDにおいて、イベントがCHFとして認定されるには、患者は心不全の典型的な徴候および/または症状を有し、かつCHFの新規治療を受け、かつ病院に少なくとも24時間入院しなければならなかった。ESRDは透析もしくは腎移植の必要性、またはeGFR<15mL/分/1.73m
2として規定された。BEACONにおける割合は、最終連絡日までのすべてのCHFおよびESRDイベント、ならびにデータベースロック時点(2013年3月21日)での総死亡数を含む。BEACONにおけるESRDは慢性透析、腎移植の必要性、または腎臓死として規定された。心不全のさらなる詳細および定義はBEACON EAC Charterに概要が示される。* p<0.05対プラセボ。
【0090】
2. エンドセリン受容体アンタゴニスト誘導性体液過負荷の機構
体液過負荷におけるエンドセリンを広範に研究した。マウスにおけるノックアウトモデルの使用を通じて、研究者は、エンドセリン経路の急性破損と、それに続く食塩負荷とが体液過負荷を促進することを示した。エンドセリン1(ET-1)、エンドセリン受容体A型(ETA)、エンドセリン受容体B型(ETB)、またはETAとETBとの組み合わせの特異的ノックアウトはいずれも、患者におけるERA媒介性体液過負荷と一致した臨床表現型を有する動物における体液過負荷を促進することが示された。これらの効果は上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)の急性活性化によって引き起こされ、ENaCは腎臓の集合管中で発現され、そこでENaCはナトリウムを再吸収し、体液貯留を促進する(Vachiery and Davenport, 2009)。
【0091】
3. ヒトにおける血漿エンドセリン1と尿エンドセリン1との間の関係
ステージ5のCKD〜超正常(8〜131mL/分/1.73m
2)の範囲のeGFR値を有するヒトにおけるエンドセリン1(ET-1)の血漿レベルおよび尿レベルの評価が既に報告されている(Dhaun et al., 2009)。血漿レベルは有意にeGFRと逆相関したが、曲線の中程度の勾配が理由で、評価した大きなeGFR範囲にわたるET-1の有意差は容易には明らかにならなかった。ET-1が最も多く産生される臓器である腎臓中でのET-1の産生のサロゲートとして、ET-1の分画排泄率を、ET-1の血漿レベルおよび尿レベルを評価することで計算した。>100から約30mL/分/1.73m
2までのeGFRで、尿レベルは相対的には変化しなかった(
図17)。しかし、ステージ4および5のCKDの患者において、ET-1レベルは、eGFRの減少に伴って指数関数的に増加するようである。これらのデータは、主に進行性の(ステージ4および5の)CKDの患者において腎ET-1が調節不全になっていることを示唆している。これらの刊行データに基づいて、本発明者らは、バルドキソロンメチルによる体液取扱いに対する差次的効果が、もしエンドセリン調節によるものであれば、ステージ4および5のCKD患者において有意に増加する腎臓中のET-1のまったく異なった内因性産生が理由である可能性があるという仮説を立てた。
【0092】
4. バルドキソロンメチルはエンドセリンシグナル伝達を調節する
上記のように、腎臓に見られるメサンギウム細胞、および内皮細胞を含む、ヒト細胞系中で、バルドキソロンメチルはET-1発現を減少させる。さらに、インビトロおよびインビボデータは、バルドキソロンメチルおよび類似体が、血管収縮性ET
A受容体を抑制しかつ血管拡張性ET
B受容体の正常レベルを回復することでエンドセリン経路を調節して血管拡張性表現型を促進することを示唆している。したがって、バルドキソロンメチルによるNrf2関連遺伝子の強力な活性化は、病理学的エンドセリンシグナル伝達の抑制に関連するものであり、ET受容体の発現の調節によって血管拡張を促進する。
【0093】
E. BEACON終了の理論的根拠
1. 判定済み心不全
心不全による入院、または心不全による死亡が、EACによって判定される心血管イベントに含まれた。判定済み心不全および関連イベントの不均衡が、BEACONの早期終了に貢献した主要な知見であった。さらに、浮腫などの心不全関連AEが、予想よりも高い中断率に寄与した。最初の判定済み心不全までの時間の全体的不均衡は、処置開始後最初の3〜4週間以内に生じるイベントが大きく寄与することにより生じるようであった。Kaplan-Meyer分析は、この初期期間の後に処置群間のイベント率が平行軌道を維持するようであることを示す。
図9において反映されたパターンは、心不全による入院を誘発した急性生理効果を累積毒性効果との対比で示唆している。
【0094】
2. 死亡
試験の終了時点で、バルドキソロンメチル群において生じた死亡数がプラセボ群よりも多く、死亡と心不全との間の関係は不明であった。臨床データベースロック(2013年3月4日)前に生じた致死的転帰の大多数(死亡75件のうち49件)は本質的に心血管死であると確認された(バルドキソロンメチル患者29名対プラセボ患者20名)。心血管の死の大部分は、BEACON EAC charterに概要が示された所定の規定に基づいて「心臓死、特記なし」と分類された。最終分析で、全生存に関するKaplan-Meier分析は約24週まで明らかな乖離を示さなかった(
図10)。3件の致死性心不全イベントがあり、いずれもバルドキソロンメチル処置患者においてであった。さらに、表16に反映されるように、75歳を超える患者において生じた死亡の割合は、バルドキソロンメチル処置患者の方がプラセボ処置患者に比べて高かった。注目すべきことに、75歳を超える患者を除外する場合、バルドキソロンメチル群対プラセボ群における致死性イベントの数はそれぞれ20および23である。
【0095】
3. BEACONからの他の安全性データの概要
eGFRおよび腎SAEに対するバルドキソロンメチル処置の効果以外に、バルドキソロンメチル群における肝胆道SAEの数もプラセボ群に比べて減少し(それぞれ4対8; 表2)、Hyの法則の症例は観察されなかった。また、新生物関連SAEの数は両群にわたって均衡していた。最後に、24週目のECG評価によって評価されたように、バルドキソロンメチル処置はQTc延長を伴わなかった(表20)。
【0096】
(表20)BEACON(安全性解析対象集団)におけるバルドキソロンメチル患者対プラセボ患者における24週目のQTcFのベースラインからの変化
データは、試験薬の患者への最終投与の時点でまたはその前に収集されたECG評価のみを含む。来診日は試験薬の患者への初投与に相対して導き出される。
【0097】
F. BEACONの結論
要約すると、バルドキソロンメチルを用いて行われた試験からのデータの照合は、該薬物が体液貯留を差次的に制御しうるものであり、健康なボランティアまたは初期ステージのCKD患者においては臨床的に検出可能な効果がない一方で、進行腎機能障害を有する患者においては体液貯留をおそらく薬理学的に促進するということを明らかにした。バルドキソロンメチル処置患者およびプラセボ処置患者の両方における心不全の発生が心不全の伝統的な危険因子に関連していたことから、ベースライン心機能障害を有する患者におけるこの薬理効果はBEACONにおけるバルドキソロンメチル処置による心不全の危険性の増加を説明しうる。これらのデータは、心不全のベースライン危険性がより低い患者集団を選択することで将来の臨床試験における心不全の全体的危険性を減少させることによって、バルドキソロンメチル処置に関連する心不全の増加が回避されるはずであることを示唆している。重要なことに、入手可能なデータは、BEACONにおける体液過負荷が直接的な腎毒性または心毒性によって引き起こされなかったことを示している。体液過負荷の臨床表現型は、進行CKD患者においてERAを用いて観察された臨床表現型と同様であり、前臨床データは、バルドキソロンメチルがエンドセリン経路を調節することを示している。進行CKD患者におけるエンドセリン経路の急性破損が、急性ナトリウム貯留および体液量貯留を促進しうる特異的ナトリウムチャネル(ENaC)を活性化することが知られていることから(Schneider, 2007)、これらの機構的データは、心不全を有するバルドキソロンメチル患者の臨床プロファイルと共に、BEACONにおける体液貯留機構に関する合理的な仮説を提供する。腎機能不全が、短期体液過負荷を患者が補正できないことの原因である重要な因子でありうることから、また、これまで処置されたCKDの初期ステージの患者の数が相対的に限られていることから、BARDおよび他のAIMでの処置からCKDの患者(例えばeGFR<60を有する患者)を除外することは、賢明でありうるし、本発明の一要素である。
【0098】
II.内皮機能障害、肺動脈性肺高血圧症、心血管疾患、および関連障害の処置または予防用の化合物
本開示の一局面では、肺動脈圧を減少させることを必要とする患者においてそれを行う方法であって、該患者にバルドキソロンメチルまたはその類似体を該患者の肺動脈圧を減少させるために十分な量で投与する段階を含む方法が提供される。バルドキソロンメチルの類似体は下記式の化合物、または薬学的に許容されるその塩もしくは互変異性体を含む:
式中、
R
1は-CN、ハロ、-CF
3、または-C(O)R
aであり、ここでR
aは-OH、アルコキシ
(C1〜4)、-NH
2、アルキルアミノ
(C1〜4)、または-NH-S(O)
2-アルキル
(C1〜4)であり;
R
2は水素またはメチルであり;
R
3およびR
4はそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、メチルであるか、あるいは、これらの基のいずれかがR
c基と一緒になる場合は以下に定義の通りであり;
Yは以下である:
-H、-OH、-SH、-CN、-F、-CF
3、-NH
2、もしくは-NCO;
アルキル
(C≦8)、アルケニル
(C≦8)、アルキニル
(C≦8)、アリール
(C≦12)、アラルキル
(C≦12)、ヘテロアリール
(C≦8)、ヘテロシクロアルキル
(C≦12)、アルコキシ
(C≦8)、アリールオキシ
(C≦12)、アシルオキシ
(C≦8)、アルキルアミノ
(C≦8)、ジアルキルアミノ
(C≦8)、アルケニルアミノ
(C≦8)、アリールアミノ
(C≦8)、アラルキルアミノ
(C≦8)、アルキルチオ
(C≦8)、アシルチオ
(C≦8)、アルキルスルホニルアミノ
(C≦8)、もしくはこれらの基のいずれかの置換バージョン;
-アルカンジイル
(C≦8)-R
b、-アルケンジイル
(C≦8)-R
b、もしくはこれらの基のいずれかの置換バージョン、ここでR
bは:
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、もしくはチオ; または
ヘテロアリール
(C≦8)、アルコキシ
(C≦8)、アルケニルオキシ
(C≦8)、アリールオキシ
(C≦8)、アラルコキシ
(C≦8)、ヘテロアリールオキシ
(C≦8)、アシルオキシ
(C≦8)、アルキルアミノ
(C≦8)、ジアルキルアミノ
(C≦8)、アルケニルアミノ
(C≦8)、アリールアミノ
(C≦8)、アラルキルアミノ
(C≦8)、ヘテロアリールアミノ
(C≦8)、アルキルスルホニルアミノ
(C≦8)、アミド
(C≦8)、-OC(O)NH-アルキル
(C≦8)、-OC(O)CH
2NHC(O)O-t-ブチル、-OCH
2-アルキルチオ
(C≦8)、もしくはこれらの基のいずれかの置換バージョンである;
-(CH
2)
mC(O)R
c、ここでmは0〜6であり、R
cは
水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、-NHOH、
もしくはチオ; または
アルキル
(C≦8)、アルケニル
(C≦8)、アルキニル
(C≦8)、アリール
(C≦8)、アラルキル
(C≦8)、ヘテロアリール
(C≦8)、ヘテロシクロアルキル
(C≦8)、アルコキシ
(C≦8)、アルケニルオキシ
(C≦8)、アリールオキシ
(C≦8)、アラルコキシ
(C≦8)、ヘテロアリールオキシ
(C≦8)、アシルオキシ
(C≦8)、アルキルアミノ
(C≦8)、ジアルキルアミノ
(C≦8)、アリールアミノ
(C≦8)、アルキルスルホニルアミノ
(C≦8)、アミド
(C≦8)、-NH-アルコキシ
(C≦8)、-NH-ヘテロシクロアルキル
(C≦8)、-NHC(NOH)-アルキル
(C≦8)、-NH-アミド
(C≦8)、もしくはこれらの基のいずれかの置換バージョンであり;
R
cおよびR
3は一緒になって-O-もしくは-NR
d-となり、ここでR
dは水素もしくはアルキル
(C≦4)であり; または
R
cおよびR
4は一緒になって-O-もしくは-NR
d-となり、ここでR
dは水素もしくはアルキル
(C≦4)である; あるいは
-NHC(O)R
e、ここでR
eは
水素、ヒドロキシ、アミノ; または
アルキル
(C≦8)、アルケニル
(C≦8)、アルキニル
(C≦8)、アリール
(C≦8)、アラルキル
(C≦8)、ヘテロアリール
(C≦8)、ヘテロシクロアルキル
(C≦8)、アルコキシ
(C≦8)、アリールオキシ
(C≦8)、アラルコキシ
(C≦8)、ヘテロアリールオキシ
(C≦8)、アシルオキシ
(C≦8)、アルキルアミノ
(C≦8)、ジアルキルアミノ
(C≦8)、アリールアミノ
(C≦8)、もしくはこれらの基のいずれかの置換バージョンである。
【0099】
これらの化合物は抗酸化炎症モジュレーターとして知られている。これらの化合物は、1つまたは複数のNrf2標的遺伝子(例えばNQO1またはHO-1; Dinkova-Kostova et al., 2005)の発現上昇により測定される、Nrf2を活性化させる能力を示した。さらに、これらの化合物は、NF-κBおよびSTAT3を含む炎症促進性転写因子の間接的および直接的阻害が可能である(Ahmad et al., 2006; Ahmad et al., 2008)。いくつかの局面では、肺動脈性肺高血圧症を予防することを必要とする対象においてそれを行う方法であって、該対象にバルドキソロンメチルまたはその類似体を該対象において肺動脈性肺高血圧症を予防するために十分な量で投与する段階を含む方法が提供される。いくつかの局面では、肺動脈性肺高血圧症の進行を予防することを必要とする対象においてそれを行う方法であって、該対象にバルドキソロンメチルまたはその類似体を該対象において肺動脈性肺高血圧症の進行を予防するために十分な量で投与する段階を含む方法が提供される。
【0100】
トリテルペノイドは、スクアレンの環化によって植物中で生合成され、多くのアジア諸国において薬用目的で使用されており、ウルソール酸およびオレアノール酸などのいくつかのトリテルペノイドは抗炎症薬および抗がん薬であることが知られている(Huang et al., 1994; Nishino et al., 1988)。しかし、これらの天然分子の生物活性は相対的に弱く、したがって、それらの効力を向上させるための新規類似体の合成が行われた(Honda et al., 1997; Honda et al., 1998)。オレアノール酸およびウルソール酸類似体の抗炎症活性および抗増殖活性の改善のための進行中の努力によって、2-シアノ-3,12-ジオキソオレアン-1,9(11)-ジエン-28-酸(CDDO)および関連化合物が発見された(Honda et al., 1997, 1998, 1999, 2000a, 2000b, 2002; Suh et al., 1998; 1999; 2003; Place et al., 2003; Liby et al., 2005)。メチル-2-シアノ-3,12-ジオキソオレアナ-1,9-ジエン-28-酸(CDDO-Me; RTA 402; バルドキソロンメチル)を含むオレアノール酸のいくつかの強力な誘導体が同定された。抗酸化炎症モジュレーター(AIM)であるRTA 402は、活性化マクロファージ中でiNOS、COX-2、TNFα、およびIFNγなどのいくつかの重要な炎症性メディエーターの誘導を抑制し、それにより炎症組織中のレドックス恒常性を回復する。また、RTA 402が、Keap1/Nrf2/AREシグナル伝達経路を活性化することで、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)などのいくつかの抗炎症タンパク質および抗酸化タンパク質の産生を生じさせることが報告された。RTA 402は細胞保護転写因子Nrf2を誘導し、酸化促進性転写因子および炎症促進性転写因子NF-κBおよびSTAT3の活性を抑制する。RTA 402はインビボで、シスプラチンモデルにおける腎損傷および虚血再灌流モデルにおける急性腎傷害などの炎症のいくつかの動物モデルにおいて有意な単剤抗炎症活性を示した。さらに、RTA 402で処置された患者において血清中クレアチニンの有意な減少が観察された。
【0101】
したがって、単独の酸化ストレスまたは炎症により増悪する酸化ストレスを包含する病態では、処置は、治療有効量の本発明の化合物、例えば上記の化合物または本明細書全体を通じて記載の化合物を対象に投与する段階を含みうる。処置は、予測可能な酸化ストレス状態(例えば臓器移植、もしくはがん患者に対する治療の施行)の前に予防的に施行してもよく、既定の酸化ストレスおよび炎症を包含する設定において治療的に施行してもよい。
【0102】
本発明の方法に従って使用可能なトリテルペノイドの非限定的な例をここに示す。
【0103】
表21は、これらの化合物のうちいくつかに関するインビトロ結果を要約して示す。ここでは、RAW264.7マクロファージをDMSOまたは様々な濃度(nM)の薬物で2時間前処理した後、20ng/mLのIFNγで24時間処理した。培地中のNO濃度はGriess試薬系を使用して定量し、細胞生存率はWST-1試薬を使用して定量した。NQO1 CDは、Hepa1c1c7マウス肝がん細胞中でNrf2制御抗酸化酵素であるNQO1の発現の2倍増を誘導するために必要な濃度を表す(Dinkova-Kostova et al., 2005)。すべてのこれらの結果は、例えば親オレアノール酸分子よりも桁違いに活性が高い。したがって、Nrf2活性化により生じる抗酸化経路の活性化によって酸化ストレスおよび炎症に対する重要な保護効果が得られることを部分的に理由として、RTA 402類似体を肺動脈性肺高血圧症などの疾患の処置および/または予防に使用することもできる。
【0104】
(表21)IFNγ誘導NO産生の抑制
【0105】
理論に拘束されるものではないが、本発明の化合物、例えばRTA 402の効力は大部分がα,β-不飽和カルボニル基の付加に由来する。インビトロアッセイでは、α,β-不飽和カルボニル基と相互作用するチオール含有部分であるジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン(NAC)、またはグルタチオン(GSH)の導入によって本化合物の大部分の活性が抑制されうる(Wang et al., 2000; Ikeda et al., 2003; 2004; Shishodia et al., 2006)。生化学アッセイは、RTA 402がIKKβ(下記参照)上の重要なシステイン残基(C179)と直接相互作用し、その活性を阻害することを証明した(Shishodia et al., 2006; Ahmad et al., 2006)。IKKβは、NF-κB二量体の核への放出を生じさせるIκBのリン酸化誘導性分解を包含する「古典的」経路を通じてNF-κBの活性化を制御する。マクロファージにおいては、この経路は、TNFαおよび他の炎症促進性刺激に応答する多くの炎症促進性分子の産生の原因となる。
【0106】
また、RTA 402はJAK/STATシグナル伝達経路を複数のレベルで阻害する。JAKタンパク質は、インターフェロンおよびインターロイキンなどのリガンドの活性化の時点で膜貫通型受容体(例えばIL-6R)に補充される。次にJAKは受容体の細胞内部分をリン酸化することでSTAT転写因子の補充を引き起こす。次にSTATはJAKによってリン酸化され、二量体を形成し、核に移動し、そこでSTATは、炎症に関与するいくつかの遺伝子の転写を活性化する。RTA 402は恒常的でかつIL-6誘導性のSTAT3リン酸化および二量体形成を阻害し、STAT3中のシステイン残基(C259)およびJAK1のキナーゼドメイン中のシステイン残基(C1077)に直接結合する。また、生化学アッセイは、トリテルペノイドがKeap1上の重要システイン残基と直接相互作用することを証明した(Dinkova-Kostova et al., 2005)。Keap1は、正常条件下で転写因子Nrf2を細胞質中に隔絶したまま保持するアクチン係留タンパク質である(Kobayashi and Yamamoto, 2005)。酸化ストレスによってKeap1上の制御性システイン残基の酸化が生じ、Nrf2の放出が引き起こされる。次にNrf2は核に移動し、抗酸化剤応答配列(ARE)に結合し、これにより多くの抗酸化遺伝子および抗炎症遺伝子の転写活性化が生じる。Keap1/Nrf2/ARE経路の別の標的はヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)である。HO-1はヘムをビリルビンおよび一酸化炭素に分解し、多くの抗酸化的および抗炎症的役割を果たす(Maines and Gibbs, 2005)。最近、HO-1が、RTA 402を含むトリテルペノイドによって強力に誘導されることが示された(Liby et al., 2005)。また、RTA 402および多くの構造類似体が他の第2相タンパク質の発現の強力な誘導物質であることが示された(Yates et al., 2007)。RTA 402はNF-κB活性化の強力な阻害剤である。さらに、RTA 402はKeap1/Nrf2/ARE経路を活性化し、HO-1の発現を誘導する。
【0107】
使用される化合物はHonda et al. (2000a); Honda et al. (2000b); Honda et al. (2002); ならびに米国特許出願公開第2009/0326063号、第2010/0056777号、第2010/0048892号、第2010/0048911号、第2010/0041904号、第2003/0232786号、第2008/0261985号、および第2010/0048887号に記載の方法を使用して作製することができ、これらはいずれも参照により本明細書に組み入れられる。これらの方法は、当業者が適用する有機化学の原理および技術を使用してさらに修正および最適化することができる。そのような原理および技術は例えば、やはり参照により本明細書に組み入れられるMarch's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure (2007)において教示されている。
【0108】
本発明の方法において使用される化合物は、1個または複数の不斉置換炭素または窒素原子を含みうるものであり、光学活性体またはラセミ体として単離されうる。したがって、特定の立体化学配置または異性体が特に示されない限り、ある構造のすべてのキラル体、ジアステレオ異性体、ラセミ体、エピマー体、および幾何異性体が意図される。化合物はラセミ体およびラセミ混合物、単一の鏡像異性体、ジアステレオマー混合物および個々のジアステレオマーとして生じうる。いくつかの態様では、単一のジアステレオマーが得られる。本発明の化合物のキラル中心はS配置またはR配置を有しうる。
【0109】
本発明の化合物の多形、例えばCDDO-Meの形態AおよびBを、本発明の方法に従って使用することができる。形態Bは、形態Aのそれよりも驚くほど良好なバイオアベイラビリティを示す。具体的には、等しい投与量のこの2つの形態をサルがゼラチンカプセル剤で経口的に受けた際に、サルにおいて形態BのバイオアベイラビリティはCDDO-Meの形態Aのそれよりも高かった。参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2009/0048204号を参照。
【0110】
CDDO-Me(RTA 402)の「形態A」は非溶媒和(非含水)であり、空間群P4
3 2
12(no. 96)、単位格子寸法a=14.2Å、b=14.2Å、およびc=81.6Åを伴う特有の結晶構造と、3つの分子が結晶b軸に沿って螺旋状に充填される充填構造とを特徴としうる。いくつかの態様では、形態Aはまた、約8.8、12.9、13.4、14.2、および17.4°にθの有意な回折ピークを含むX線粉末回折(XRPD)パターン(CuKα)を特徴としうる。いくつかの変形では、形態AのX線粉末回折は実質的に
図1Aまたは
図1Bに示す通りである。
【0111】
形態Aとは異なり、CDDO-Meの「形態B」は単一相であるが、そのような確定した結晶構造を欠く。形態Bの試料は長距離の、すなわち約20Åを超える分子相関を示さない。さらに、形態B試料の熱分析によって、約120℃〜約130℃の範囲のガラス転移温度(T
g)が明らかになる。対照的に、無秩序ナノ結晶材料はT
gを示さないが、代わりに、それを超えると結晶構造が液体になる融解温度(T
m)のみを示す。形態Bは、形態Aのそれ(
図1Aまたは
図1B)とは異なるXRPDスペクトル(
図1C)で典型的に表される。形態Bは、確定した結晶構造を有さないことから、形態Aを典型的に表すXRPDピークなどの特有のXRPDピークを同様に欠き、代わりに一般的な「ハロー」XRPDパターンを特徴とする。特に、非晶質の形態Bは、そのXRPDパターンが3つ以下の一次回折ハローを示すことから、「X線非晶質」固体の分類に属する。この分類内で、形態Bは「ガラス状」材料である。
【0112】
CDDO-Meの形態Aおよび形態Bは、該化合物の種々の溶液から容易に調製される。例えば、形態BはMTBE、THF、トルエン、または酢酸エチル中での速い蒸発または遅い蒸発により調製することができる。形態Aは、CDDO-Meのエタノールまたはメタノール溶液の速い蒸発、遅い蒸発、または遅い冷却を含むいくつかのやり方で調製することができる。アセトン中CDDO-Me製剤は、速い蒸発を使用して形態Aを生成するか、または遅い蒸発を使用して形態Bを生成することができる。
【0113】
様々な特性決定手段を一緒に使用することで、CDDO-Meの形態Aおよび形態Bを互いにかつCDDO-Meの他の形態と区別することができる。この目的に好適な技術の例としては、固体核磁気共鳴(NMR)、X線粉末回折(
図1AおよびBと
図1Cとを比較されたい)、X線結晶解析、示差走査熱量測定(DSC)、動的蒸気収着/脱着(DVS)、カールフィッシャー分析(KF)、ホットステージ顕微鏡観察、変調示差走査熱量測定、FT-IR、およびラマン分光法がある。特に、XRPDおよびDSCデータの分析によってCDDO-Meの形態A、形態B、およびヘミベンゼネート形態を区別することができる。参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2009/0048204号を参照。
【0114】
CDDO-Meの多形に関するさらなる詳細は米国特許出願公開第2009/0048204号、PCT公開WO 2009/023232号、およびPCT公開WO 2010/093944号に記載されており、これらはいずれも参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0115】
本明細書に開示される化合物の非限定的な特定の製剤としてはCDDO-Meポリマー分散液剤が挙げられる。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるPCT公開WO 2010/093944号を参照。そのPCT明細書に報告されているいくつかの製剤は、微粉化形態Aまたはナノ結晶形態Aのいずれかの製剤よりも高いバイオアベイラビリティを示す。さらに、ポリマー分散液に基づく製剤は、微粉化形態B製剤に比べてのさらなる驚くべき経口バイオアベイラビリティの改善を示す。例えば、メタクリル酸共重合体C型およびHPMC-P製剤は、対象サルにおける最大のバイオアベイラビリティを示した。
【0116】
本発明の方法において使用される化合物はプロドラッグ形態でも存在しうる。プロドラッグが医薬品の数多くの望ましい性質、例えば溶解度、バイオアベイラビリティ、製造性などを向上させることから、所望であれば、本発明のいくつかの方法において使用される化合物をプロドラッグ形態で実現してもよい。したがって、本発明は、本発明の化合物のプロドラッグ、およびプロドラッグを送達する方法を想定する。本発明において使用される化合物のプロドラッグは、修飾が日常的操作でまたはインビボで開裂されて親化合物になるように、化合物に存在する官能基を修飾することで調製することができる。したがって、プロドラッグとしては例えば、プロドラッグが対象に投与される際に開裂してヒドロキシ、アミノ、またはカルボン酸をそれぞれ形成する任意の基にヒドロキシ基、アミノ基、またはカルボキシ基が結合した本明細書に記載の化合物が挙げられる。
【0117】
本発明の任意の塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、その塩が全体として薬理学的に許容される限り重要ではないと認識すべきである。薬学的に許容される塩ならびにその調製方法および使用方法の例は、参照により本明細書に組み入れられるHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, and Use (2002)に提示されている。
【0118】
また、本発明の方法において使用される化合物は、本明細書に記述される適応症に使用される先行技術において公知の化合物に比べて有効であり、毒性が低く、長時間作用し、強力であり、生じる副作用が少なく、容易に吸収され、良好な薬物動態プロファイル(例えば高い経口バイオアベイラビリティおよび/もしくは低いクリアランス)を示し、かつ/または他の有用な薬理学的、物理的、もしくは化学的性質を示すことができるという利点を有しうる。
【0119】
PAHは全身性高血圧症とは実質的に異なる疾患である。PAHは肺血管抵抗の増加による高い肺動脈圧および右室圧を特徴とし、全身性高血圧症は体循環における高血圧を特徴とする。通常、PAHの患者は全身性高血圧症を有さない。
【0120】
PAHの症状は周知である。さらに、これらの状態の動物モデルを使用することで投与量を最適化することができる(参照によりその全体が本明細書に組み入れられるBauer et al., 2007を参照)。熟練した開業医であれば、過度の実験なしに最適投与量を決定することができるであろう。
【0121】
ある薬物が全身性高血圧症の処置薬として有効でありうることは、それがPAHを処置するためにも有効であることを意味しない。例えば、全身性高血圧症を処置するために有効な血管拡張薬、例えばACE阻害剤カプトプリルは、PAHの患者における肺動脈性肺高血圧症およびRV不全を悪化させることがある。全身性高血圧症を処置するために使用される薬物のPAHに対する潜在的な有害効果のエビデンスは、参照により本明細書に組み入れられるPacker (1985)により示されている。この限界に関する1つの公知の例外として、特発性PAHの患者の約15%〜20%が、やはり全身性高血圧症を処置するために使用可能な剤であるカルシウムチャネル遮断薬に応答する。患者がいわゆる「反応性」PAHを有していて、かつカルシウムチャネル遮断薬による治療に応答しうるのか否かを決定するために、PAHの診断評価は肺動脈カテーテル留置、およびアデノシン、プロスタサイクリン、または吸入一酸化窒素による急性負荷を含む。これらの剤のうち1つによって、患者が10mmHgを超える平均肺動脈圧の減少を示し、かつ平均肺動脈圧が40mmHg以下に減少する場合、患者がカルシウムチャネル遮断薬に応答するのか否かを決定するための試験を行うことができる(Rich et al., 1992; Badesch et al., 2004)。一部の臨床医は、平均肺動脈圧がアデノシン、プロスタサイクリン、または吸入一酸化窒素に応答して20%以上減少する場合にPAHを反応性であると見なす。カルシウムチャネル遮断薬による試験の前にプロスタサイクリン、アデノシン、または吸入一酸化窒素による急性血管反応性の試験を行うのは、急性血管反応性を有することが以前に示されなかった、カルシウムチャネル遮断薬が与えられた一部の患者が死亡したことが理由である(Badesch et al., 2004)。この複合的な評価および処置アルゴリズムは、全身性高血圧症を処置するために使用される薬物がPAHの患者に対して必ずしも適切ではないことを強調する。
【0122】
III.肺動脈性肺高血圧症
肺動脈性肺高血圧症は、肺動脈圧の有意で持続的な上昇、および肺血管抵抗の増加を特徴とする、生命を脅かす疾患であり、右室(RV)不全および死亡を生じさせる。慢性肺動脈性肺高血圧症の処置のための現行の治療アプローチは症状緩和、および予後の何らかの改善を主に与える。すべての処置について直接的な抗増殖効果が仮定されたが、大部分のアプローチの直接的な抗増殖効果のエビデンスは見当たらない。さらに、大部分の現在適用されている剤の使用は、望ましくない副作用または不都合な薬物投与経路によって妨げられる。高血圧性肺動脈の病理学的変化としては内皮傷害、血管平滑筋細胞(SMC)の増殖および過剰収縮が挙げられる。
【0123】
明らかな原因がないPAHは原発性肺高血圧症(「PPH」)と呼ばれる。最近、血管収縮、血管リモデリング(すなわち肺抵抗血管の中膜および内膜の両方の増殖)、ならびにインサイチュー血栓症を含む、この障害に関連する様々な病態生理学的変化が特徴づけられている(例えばD'Alonzo et al., 1991; Palevsky et al., 1989; Rubin, 1997; Wagenvoort and Wagenvoort, 1970; Wood, 1958)。血管および内皮恒常性障害はプロスタサイクリン(PGI
2)合成の減少、トロンボキサン産生の増加、一酸化窒素形成の減少、およびエンドセリン1合成の増加をエビデンスとする(Giaid and Saleh, 1995; Xue and Johns, 1995)。PPHにおける肺動脈の血管平滑筋細胞の細胞内遊離カルシウム濃度が高いことが報告されている。
【0124】
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺動脈圧および肺血管抵抗の上昇を生じさせるが、左室充満圧が正常であるかまたはごく軽度に上昇する、肺細動脈を冒す肺血管疾患として定義される(McLaughlin and Rich, 2004)。PAHは、肺脈管構造を冒す一群の疾患によって引き起こされる。PAHは全身性硬化症(強皮症)などのコラーゲン血管障害、未修正先天性心疾患、肝疾患、門脈圧亢進症、HIV感染症、C型肝炎、特定の毒素、脾摘出術、遺伝性出血性末梢血管拡張症、および原発性遺伝子異常によって引き起こされうるかまたはそれに関連しうる。特に、骨形成タンパク質2型受容体(TGF-b受容体)の変異が家族性原発性肺高血圧症(PPH)の原因として同定された(Lane et al., 2000; Deng et al., 2000)。PPHの症例の6%が家族性であって、残りが「孤発性」であると推定される。PPHの発生率は100万人の集団当たり約1件であると推定される。PAHの副因ははるかに高い発生率を示す。PAHの病理学的徴候は肺の網状病変であり、この病変は小前毛細血管肺細動脈における閉塞性内皮細胞増殖および血管平滑筋細胞肥大からなる。PAHは、高死亡率を伴う進行性疾患である。PAHの患者は右室(RV)不全を発生させることがあり、右室不全の程度によって転帰が予測される(McLaughlin et al., 2002)。
【0125】
PAHの評価および診断はMcLaughlin and Rich (2004)およびMcGoon et al. (2004)が概説している。息切れの症状、PAHの家族歴、危険因子の存在、ならびに理学的検査、胸部X線検査、および心電図に基づく所見などの臨床歴によってPAHの疑いが生じうる。通常、評価における次の段階は心エコー図を含む。心エコー図を使用することで、三尖弁逆流ジェットのドプラ解析から肺動脈圧を推定することができる。また、心エコー図を使用することで、右室および左室の機能、ならびに僧帽弁狭窄症および大動脈弁狭窄症などの心臓弁膜症の存在を評価することができる。また、心エコー図は未修正心房中隔欠損症または動脈管開存症などの先天性心疾患を診断する上で有用でありうる。PAHの診断と一致する心エコー図に基づく所見としては以下が挙げられよう: 1) 高肺動脈圧のドプラエビデンス; 2) 右房拡大; 3) 右室拡大および/または右室肥大; 4) 僧帽弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、および大動脈弁狭窄症の非存在; 5) 正常サイズのまたは小さな左室; 6) 左室機能の相対的保全または正常な左室機能。PAHの診断を確認するためには、心臓の左側および肺脈管構造の血圧を直接測定するための心臓カテーテル留置が必須である。左房および左室拡張末期圧の正確な推定値を与える、肺動脈楔入圧(PCWP)の正確な測定も必要である。正確なPCWPを得ることができない場合、左心カテーテル留置によるLV拡張末期圧の直接測定が勧められる。定義上、PAHの患者は低いまたは正常なPCWPを有するはずである。しかし、PAHの後期では、PCWPは多少高くなりうるが通常は16mmHg以下である(McLaughlin and Rich, 2004; McGoon et al., 2004)。ヒト成人における平均肺動脈圧の正常上限は19mmHgである。平均肺動脈圧の一般的に使用される定義は、収縮期肺動脈圧の値の3分の1+拡張期肺動脈圧の3分の2である。重度PAHは、平均肺動脈圧25mmHg以上およびPCWP 15〜16mmHg以下、ならびに肺血管抵抗(PVR)240ダイン秒/cm
5以上として定義することができる。肺血管抵抗は平均肺動脈圧−PCWP÷心拍出量として定義される。この比を80倍することで結果をダイン秒/cm
5で表す。PVRはミリメートルHg/リットル/分で表してもよく、この単位をウッド単位と呼ぶ。正常な成人におけるPVRは67±23ダイン秒/cm
5または1ウッド単位である(McLaughlin and Rich, 2004; McGoon et al., 2004; Galie et al., 2005)。PAH用薬の有効性を試験するための臨床試験において、左側心筋症または左心弁膜症の患者を通常は除外する(Galie et al., 2005)。
【0126】
患者における肺動脈性肺高血圧症の状態は、以下に詳述する世界保健機関(WHO)分類(New York Association Functional Classificationにならって修正)に従って評価することができる。
クラスI−肺高血圧症を有するが、身体活動の制限が生じない患者。普通の身体活動は、過度の呼吸困難もしくは疲労、胸痛、または失神寸前を引き起こさない。
クラスII−肺高血圧症を有し、わずかな身体活動の制限が生じる患者。患者は安静時にはくつろいでいる。普通の身体活動が、過度の呼吸困難(dispend)もしくは疲労、胸痛、または失神寸前を引き起こす。
クラスIII−肺高血圧症を有し、著しい身体活動の制限が生じる患者。患者は安静時にはくつろいでいる。普通未満の身体活動が、過度の呼吸困難もしくは疲労、胸痛、または失神寸前を引き起こす。
クラスIV−肺高血圧症を有し、症状なしで任意の身体活動を行えない患者。これらの患者は右心不全の徴候を現す。呼吸困難および/または疲労は安静状態であっても存在しうる。不快感が任意の身体活動によって増加する。
【0127】
かつて、抗凝固療法との組み合わせで唯一有効なPAHの長期治療法は、エポプロステノール(PGI
2)としても知られるプロスタサイクリンの連続静脈内投与であった(Barst et al., 1996; McLaughlin et al., 1998)。後に、非選択的エンドセリン受容体アンタゴニストであるボセンタンがPAHの処置に有効性を示した(Rubin et al., 2002)。PAHの処置において有効性を示す最初の経口バイオアベイラビリティを有する剤として、ボセンタンは著しい進歩を示した。しかし、PAHに関する現行の主要な治療分類は、選択的エンドセリンA型受容体アンタゴニストでの処置である(Galie et al., 2005; Langleben et al., 2004)。シルデナフィルおよびタダラフィルを含むホスホジエステラーゼV型(PDE-V)阻害剤がPAHの処置に関して承認された(Lee et al., 2005; Kataoka et al., 2005)。PDE-V阻害によってサイクリックGMPの増加が生じ、これにより肺脈管構造の血管拡張が生じる。PGI
2類似体であるトレプロスチニルをPAHの適切に選択された患者に皮下投与することができる(Oudiz et al., 2004; Vachiery and Naeije, 2004)。さらに、別のプロスタサイクリン類似体であるイロプロストを直接吸入によって噴霧形態で投与することができる(Galie et al., 2002)。可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬であるリオシグアトもPAHの処置に関して承認されている。これらの剤は、家族性PAH(原発性肺高血圧症またはPPH)、特発性PAH、強皮症、混合性結合組織病、全身性エリテマトーデス、HIV感染症、フェンテルミン/フェンフルラミンなどの毒素、先天性心疾患、C型肝炎、肝硬変、慢性血栓塞栓性肺動脈性肺高血圧症(遠位性のまたは手術不能な)、遺伝性出血性末梢血管拡張症、および脾摘出術に関連するかまたはそれによって引き起こされるPAHを含む、複数の病因のPAHを処置するために使用される。PAHに関して承認されたすべての剤は現実には実質的に血管拡張的である。したがって、それらはPAHの全病態の一部分にしか対処しない。理論によって拘束されるものではないが、本発明の化合物は対照的に、血管緊張に対する効果に加えて抗炎症効果および抗増殖効果を実証し、潜在的により包括的にPAHの病態に対処した。さらに、本明細書において提供される方法を使用することで、ミトコンドリア機能に対する陽性の効果によってNrf2を活性化し、それによりPAHの代謝的およびエネルギー的側面に対処することができる(Sutendra, 2014; Hayes and Dinkova-Kostova, 2014)。
【0128】
IV. 心血管疾患
心血管疾患の患者を処置するために、本発明の化合物および方法を使用することができる。参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願第12/352,473号を参照。心血管(CV)疾患は、世界中で最も重要な死亡原因の1つであり、多くの先進国では最大の死因である。CV疾患の病因は複雑であるが、原因の大部分は、決定臓器または決定組織に対する不十分なまたは完全に中断した血液供給に関連している。多くの場合、そのような状態は1つまたは複数の動脈硬化巣の破裂により生じ、これは重症血管において血流を遮断する血栓の形成につながる。そのような血栓症は心発作の主な原因であり、心発作では1つまたは複数の冠動脈が遮断され、心臓それ自体に対する血流が中断される。生じる虚血は、虚血事象中の酸素の欠乏と、血流が回復された後のフリーラジカルの過度の形成(虚血再灌流障害として知られる現象)との両方により、心組織に大きな損傷を与える。脳血栓のあいだ、大脳動脈または他の主な血管が血栓症により遮断される際に、同様の損傷が脳内で生じる。対照的に、出血性脳卒中は、血管の破裂および周囲脳組織中への出血を包含する。これは、大量の遊離ヘムおよび他の活性種の存在による出血の隣接区域における酸化ストレス、ならびに損なわれた血流による脳の他の部分における虚血を作り出す。脳血管攣縮を多くの場合伴う、くも膜下出血も、脳内で虚血再灌流障害を引き起こす。
【0129】
あるいは、アテローム性動脈硬化症が重要な血管において非常に広範であることから、狭窄(動脈の狭小化)が発生し、重要な臓器(心臓を含む)への血流が慢性的に不十分になるということがある。そのような慢性虚血は、うっ血性心不全に関連する心肥大を含む多くの種類の終末器官損傷を生じさせることがある。
【0130】
心血管疾患の多くの形態を生じさせる根本的な欠陥であるアテローム性動脈硬化症は、血管平滑筋細胞の増殖および患部への白血球の浸潤を包含する炎症反応を動脈の裏層(内皮)の物理的欠陥または傷害が誘発する場合に生じる。最終的に、上記細胞とコレステロール保持リポタンパク質および他の材料の沈着物との組み合わせで構成される、動脈硬化巣として知られる合併病変が形成されることがある(例えばHansson et al., 2006)。
【0131】
1つの試験は、RTA dh404が糖尿病関連アテローム性動脈硬化症を和らげたことを発見した。この試験では、RTA 402のサロゲートとして動物モデルをRTA dh404との組み合わせで使用した。具体的には、RTA dh404での処置が逆用量依存的に大動脈の弓領域、胸部領域、および腹部領域中のプラークを減少させ、かつ大動脈洞内の病変沈着を減弱させることがわかった(Tam et al., 2014。参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
【0132】
心血管疾患の薬学的処置としては、血圧、またはコレステロールおよびリポタンパク質の循環レベルを低下させるように意図される薬物の使用などの予防的処置、ならびに血小板および他の血液細胞の付着傾向を減少させる(それによりプラーク進行の速度および血栓形成の危険性を減少させる)ように設計される処置が挙げられる。最近になって、ストレプトキナーゼおよび組織プラスミノーゲンアクチベーターなどの薬物が、血栓を溶解させかつ血流を修復するために導入され、使用されている。外科的処置としては、代替的血液供給を作り出す冠動脈バイパス術、プラーク組織を圧縮しかつ動脈内腔の直径を増加させるバルーン血管形成術、および頸動脈中のプラーク組織を除去する頸動脈内膜剥離術が挙げられる。そのような処置、特にバルーン血管形成術はステント、すなわち、患部において動脈壁を支持しかつ血管を開放状に維持するように設計された拡張可能なメッシュ管の使用を伴うことがある。最近、患部において術後再狭窄(動脈の再狭小化)を予防するために、薬物溶出性ステントの使用が一般的になってきている。これらの装置は、細胞増殖を阻害する薬物(例えばパクリタキセルまたはラパマイシン)を含有する生体適合性ポリマーマトリックスでコーティングされたワイヤステントである。このポリマーは、患部における薬物の緩徐な限局性の放出と、非標的組織への最小限の曝露とを可能にする。そのような処置が与える著しい利点にもかかわらず、心血管疾患による死亡率は依然として高く、心血管疾患の処置における重要な要求は満たされていないままである。
【0133】
先に記したように、HO-1の誘導は心血管疾患の種々のモデルにおいて有益であることがわかっており、低レベルのHO-1発現はCV疾患の高い危険性と臨床的に相関している。したがって、アテローム性動脈硬化症、高血圧、心筋梗塞、慢性心不全、脳卒中、くも膜下出血、および再狭窄を含むがそれに限定されない種々の心血管障害を処置または予防するために、本発明の方法を使用することができる。
【0134】
V.薬学的製剤および投与経路
患者に対する本発明の化合物の投与は、医薬品の投与用の一般的プロトコールに従い、もしあれば薬物の毒性を考慮する。処置サイクルは必要に応じて繰り返されると予想される。
【0135】
本発明の化合物を種々の方法で、例えば経口的にまたは注射(例えば皮下、静脈内、腹腔内など)によって投与することができる。投与経路に応じて、有効化合物を、該化合物を不活性化しうる酸および他の自然条件の作用から該化合物を保護する材料でコーティングすることができる。疾患または創傷部位に対する持続灌流/点滴によりそれらを投与することもできる。改善された経口バイオアベイラビリティを示したCDDO-Meのポリマー系分散液剤を含む、製剤の具体例は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願第12/191,176号に示されている。当業者は、他の製造方法を使用することで、同等の性質および有用性を有する本発明の分散液剤を生成することができることを認識するであろう(Repka et al., 2002および当該文献に引用される参考文献を参照)。そのような代替的方法としては溶媒蒸発、ホットメルト押出成形などの押出成形、および他の技術が挙げられるがそれに限定されない。
【0136】
非経口投与以外で治療用化合物を投与するには、該化合物をその不活性化を防ぐ材料でコーティングするかまたは該化合物をそれと同時投与することが必要なことがある。例えば、治療用化合物を適切な担体、例えばリポソーム、または希釈剤中で患者に投与することがある。薬学的に許容される希釈剤としては食塩水および緩衝水溶液が挙げられる。リポソームとしては水中油中水型CGF乳濁液および従来のリポソームが挙げられる(Strejan et al., 1984)。
【0137】
治療用化合物を非経口投与、腹腔内投与、脊髄内投与、または脳内投与してもよい。分散液を例えばグリセリン、液体ポリエチレングリコール、その混合物中、および油中で調製することができる。普通の貯蔵および使用条件下で、これらの製剤は、微生物の成長を防ぐための保存料を含有しうる。
【0138】
注射用に好適な薬学的組成物としては、滅菌水溶液剤(水溶性の場合)または水性分散液剤、および滅菌注射用溶液剤または分散液剤の即時調製用の滅菌散剤が挙げられる。いずれの場合でも、組成物は滅菌されていなければならず、容易なシリンジ注入の可能性が存在する程度に流動的でなければならない。組成物は製造条件および貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、水、エタノール、ポリオール(グリセリン、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなどの)、その好適な混合物、ならびに植物油を例えば含有する、溶媒または分散媒でありうる。適当な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用、分散液剤の場合における必要な粒径の維持、および界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の阻止を様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどで実現することができる。多くの場合、等張化剤、例えば糖、塩化ナトリウム、またはマンニトールおよびソルビトールなどの多価アルコールを組成物中に含むことが好ましい。注射用組成物の長期吸収を、組成物中に吸収を遅延させる剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを含むことでもたらすことができる。
【0139】
滅菌注射用溶液剤は、所要量の治療用化合物を適切な溶媒中に先に列挙した成分の1つまたは組み合わせを必要に応じて組み入れた後、濾過滅菌を行うことで調製することができる。一般に、分散液剤は、塩基性分散媒および先に列挙した必要な他の成分を含有する滅菌担体に治療用化合物を組み入れることで調製される。滅菌注射用溶液剤の調製用の滅菌散剤の場合、好ましい調製方法は、有効成分(すなわち治療用化合物)と任意のさらなる所望の成分との粉末を、既に滅菌濾過したその溶液から得る、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0140】
治療用化合物を、例えば不活性希釈剤または同化可能な食用担体と共に経口投与することができる。治療用化合物および他の成分を硬もしくは軟シェルゼラチンカプセルに封入するか、錠剤に圧縮するか、または対象の食事に直接組み入れることもできる。治療用経口投与では、治療用化合物を賦形剤と共に組み入れて、経口摂取用錠剤、バッカル錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液剤、シロップ剤、オブラート剤などの形態で使用することができる。組成物および製剤中の治療用化合物の割合は当然変動しうる。そのような治療上有用な組成物中の治療用化合物の量は、好適な投与量が得られる量である。
【0141】
投与を容易にしかつ投与量を均一にするために、単位剤形で非経口組成物を製剤化することが特に有利である。本明細書において使用される単位剤形とは、処置される対象用の単位投与量として適した物理的に別々の単位を意味し、各単位は、所要の薬学担体と共同して所望の治療効果を生成するように計算される所定量の治療用化合物を含む。本発明の単位剤形の規格は(a) 治療用化合物の独自の特性、および実現すべき特定の治療効果、ならびに(b) 患者における選択される状態の処置用にそのような治療用化合物を調合する分野に内在的な限界により決定づけられかつそれに直接依存する。
【0142】
治療用化合物を皮膚、眼、または粘膜に局所投与することもできる。あるいは、肺に対する局部送達が望ましい場合、乾燥散剤またはエアロゾル製剤での吸入により治療用化合物を投与することもできる。
【0143】
治療用化合物を、薬物溶出性ステントにおいて使用される生体適合性マトリックス中で製剤化することができる。
【0144】
対象に投与される本発明の化合物または本発明の化合物を含む組成物の実際の投与量は、年齢、性別、体重、状態の重症度、処置される疾患の種類、以前のまたは同時の治療介入、対象の特発性、および投与経路などの身体的および生理的要因により決定することができる。これらの要因は当業者が決定可能である。通常、投与を担う開業医は、組成物中の有効成分の濃度、および個々の対象に適切な用量を決定する。任意の合併症に際しては、個々の医師が投与量を調整することができる。
【0145】
いくつかの態様では、薬学的有効量は化合物の一日量約0.1mg〜約500mgである。いくつかの変形では、一日量は化合物約1mg〜約300mgである。いくつかの変形では、一日量は化合物約10mg〜約200mgである。いくつかの変形では、一日量は化合物約25mgである。他の変形では、一日量は化合物約75mgである。さらに他の変形では、一日量は化合物約150mgである。さらなる変形では、一日量は化合物約0.1mg〜約30mgである。いくつかの変形では、一日量は化合物約0.5mg〜約20mgである。いくつかの変形では、一日量は化合物約1mg〜約15mgである。いくつかの変形では、一日量は化合物約1mg〜約10mgである。いくつかの変形では、一日量は化合物約1mg〜約5mgである。
【0146】
いくつかの態様では、薬学的有効量は一日量で体重1kg当たり化合物0.01〜25mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.05〜20mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.1〜10mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.1〜5mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.1〜2.5mgである。
【0147】
いくつかの態様では、薬学的有効量は一日量で体重1kg当たり化合物0.1〜1000mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.15〜20mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.20〜10mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.40〜3mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.50〜9mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.60〜8mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.70〜7mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.80〜6mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物0.90〜5mgである。いくつかの変形では、一日量は体重1kg当たり化合物約1mg〜約5mgである。
【0148】
通常、有効量は、1日または数日間の毎日1用量または複数用量の投与において、約0.001mg/kg〜約1,000mg/kg、約0.01mg/kg〜約750mg/kg、約0.1mg/kg〜約500mg/kg、約0.2mg/kg〜約250mg/kg、約0.3mg/kg〜約150mg/kg、約0.3mg/kg〜約100mg/kg、約0.4mg/kg〜約75mg/kg、約0.5mg/kg〜約50mg/kg、約0.6mg/kg〜約30mg/kg、約0.7mg/kg〜約25mg/kg、約0.8mg/kg〜約15mg/kg、約0.9mg/kg〜約10mg/kg、約1mg/kg〜約5mg/kg、約100mg/kg〜約500mg/kg、約1.0mg/kg〜約250mg/kg、または約10.0mg/kg〜約150mg/kgで変動する(当然、投与様式および上記で説明した要因に依存する)。他の好適な用量範囲としては1日当たり1mg〜10,000mg、1日当たり100mg〜10,000mg、1日当たり500mg〜10,000mg、および1日当たり500mg〜1,000mgが挙げられる。いくつかの特定の態様では、量は1日当たり10,000mg未満、例えば1日当たり750mg〜9,000mgの範囲である。
【0149】
有効量は1mg/kg/日未満、500mg/kg/日未満、250mg/kg/日未満、100mg/kg/日未満、50mg/kg/日未満、25mg/kg/日未満、10mg/kg/日未満、または5mg/kg/日未満でありうる。あるいは、1mg/kg/日〜200mg/kg/日の範囲でありうる。例えば、糖尿病患者の処置に関して、単位投与量は、未処置対象に比べて血糖を少なくとも40%減少させる量でありうる。別の態様では、単位投与量は、非糖尿病対象の血糖値の±10%以内であるレベルまで血糖を減少させる量である。
【0150】
他の非限定的な例では、用量は、投与1回当たり約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重〜約1000mg/kg/体重以上、およびその中の導出可能な任意の範囲も含みうる。ここで列挙した数字から導出可能な範囲の非限定的な例では、約1mg/kg/体重〜約5mg/kg/体重の範囲、約5mg/kg/体重〜約100mg/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重〜約500ミリグラム/kg/体重などの範囲を、先に記載の数字に基づいて投与することができる。
【0151】
特定の態様では、本発明の薬学的組成物は、例えば少なくとも約0.1%の本発明の化合物を含みうる。他の態様では、本発明の化合物は、例えば単位の重量の約2%〜約75%、または約25%〜約60%、およびその中の導出可能な任意の範囲を占めることができる。
【0152】
単一用量または複数用量の剤が想定される。複数用量の送達用の所望の時間間隔は、日常的な実験法を使用する当業者が決定することができる。一例として、約12時間の間隔で2用量を毎日対象に投与することができる。いくつかの態様では、剤を1日1回投与する。
【0153】
剤を日常的スケジュールで投与することができる。本明細書において使用される日常的スケジュールとは、所定の指定された期間を意味する。日常的スケジュールは、そのスケジュールが所定のものである限り、長さが同一である期間または異なる期間を包含しうる。例えば、日常的スケジュールは、1日2回、毎日、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、毎週、毎月、またはその中で設定される任意の数の日もしくは週毎の投与を包含しうる。あるいは、所定の日常的スケジュールは、最初の1週間で毎日2回、次の数ヶ月で毎日1回の投与などを包含しうる。他の態様では、本発明は、剤を経口摂取可能な日常的スケジュール、およびタイミングが食物摂取に依存するまたは依存しない日常的スケジュールを提供する。したがって、例えば、対象が摂食したかまたはこれから摂食するかにかかわらず、剤を毎朝および/または毎晩摂取することができる。
【0154】
非限定的な特定の製剤としてはCDDO-Meポリマー分散液剤が挙げられる(参照により本明細書に組み入れられる2008年8月13日出願の米国特許出願第12/191,176号を参照)。当該特許出願に報告されているいくつかの製剤は、微粉化形態Aまたはナノ結晶形態Aの製剤よりも高いバイオアベイラビリティを示した。さらに、ポリマー分散液に基づく製剤は、微粉化形態B製剤に比べてのさらなる驚くべき経口バイオアベイラビリティの改善を示した。例えば、メタクリル酸共重合体C型およびHPMC-P製剤は、対象サルにおける最大のバイオアベイラビリティを示した。
【0155】
VI.併用療法
本発明の化合物は、単剤療法としての使用以外に、併用療法においても用途を見出しうる。有効な併用療法は、両剤を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤により、または一方の組成物が本発明の化合物を含み、他方が第2の剤を含む、同時投与される2つの別個の組成物もしくは製剤により、実現することができる。あるいは、この療法は、数分〜数ヶ月の範囲の間隔で他の薬剤処置に先行または後続する。
【0156】
例えば本発明の化合物を「A」とし、「B」が第2の剤を表すとすると、様々な組み合わせを使用することができ、その非限定的な例は以下に記載される。
【0157】
他の抗炎症薬が本発明の処置薬との組み合わせで使用可能であることが想定される。例えば、アリールカルボン酸(サリチル酸、アセチルサリチル酸、ジフルニサル、コリンマグネシウムトリサリチレート、サリチレート、ベノリレート、フルフェナム酸、メフェナム酸、メクロフェナム酸、およびトリフルミック酸(triflumic acid))、アリールアルカン酸(ジクロフェナク、フェンクロフェナク、アルクロフェナク、フェンチアザク、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、フェンブフェン、スプロフェン、インドプロフェン、チアプロフェン酸、ベノキサプロフェン、ピルプロフェン、トルメチン、ゾメピラック、クロピナク(clopinac)、インドメタシン、およびスリンダク)、ならびにエノール酸(フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、アザプロパゾン、フェプラゾン、ピロキシカム、およびイソキシカム)を含む他のCOX阻害剤が使用可能である。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,025,395号も参照。
【0158】
FDAが承認した肺高血圧症用処置薬としてはプロスタノイド(エポプロステノール、イロプロスト、およびトレプロスチニル)、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ボセンタン、アンブリセンタン、およびマシテンタン)、ホスホジエステラーゼ5阻害剤(シルデナフィルおよびタダラフィル)、ならびにsGC刺激薬(リオシグアト)が挙げられる。これらの剤のいずれかと本発明の処置薬との組み合わせの使用が想定される。そのような剤を本発明の化合物と組み合わせる場合、承認された標準用量または承認された標準用量範囲で投与してもよく、標準用量未満で投与してもよい。さらに、以下の併用剤の使用が想定される: Y-27632、ファスジル、およびH-1152Pなどのrhoキナーゼ阻害剤; プロスタサイクリン、トレプロスチニル、ベラプロスト、およびイロプロストなどのエポプロステノール誘導体; サルポグレラートなどのセロトニン遮断薬; ボセンタン、シタクスセンタン、アンブリセンタン、およびTBC3711などのエンドセリン受容体アンタゴニスト; シルデナフィル、タダラフィル、ウデナフィル、およびバルデナフィルなどのPDE阻害剤; アムロジピン、ベプリジル、クレンチアゼム、ジルチアゼム、フェンジリン、ガロパミル、ミベフラジル、プレニラミン、セモチアジル、テロジリン、ベラパミル、アラニジピン、バルニジピン、ベニジピン、シルニジピン、エホニジピン、エルゴジピン、フェロジピン、イスラジピン、ラシジピン、レルカニジピン、マニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、シンナリジン、フルナリジン、リドフラジン、ロメリジン、ベンシクラン、エタフェノン、およびペルヘキシリンなどのカルシウムチャネル遮断薬; イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤; 吸入一酸化窒素、および吸入亜硝酸塩などの一酸化窒素供与剤; IMD 1041などのIκB阻害剤; セレキシパグなどのプロスタサイクリン受容体アゴニスト; TXA 127(アンジオテンシン(1-7))、ダルベポエチンアルファ、エリスロポエチン、およびエポエチンアルファなどの造血刺激薬; 抗凝固薬および血小板凝集抑制薬; ならびに利尿薬。
【0159】
アセチル-L-カルニチン、オクタコサノール、月見草油、ビタミンB6、チロシン、フェニルアラニン、ビタミンC、L-ドーパ、またはいくつかの抗酸化剤の組み合わせなどの、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、関節リウマチ、炎症性腸疾患、およびその発症が一酸化窒素(NO)またはプロスタグランジンの過剰産生を包含すると考えられるすべての他の疾患の処置または予防における利点が報告された食事および栄養サプリメントを、本発明の化合物との組み合わせで使用することができる。
【0160】
他の特定の二次治療としては、免疫抑制薬(移植片および自己免疫関連RKD向け)、降圧薬(高血圧関連RKD向け、例えばアンジオテンシン変換酵素阻害剤およびアンジオテンシン受容体遮断薬)、インスリン(糖尿病RKD向け)、脂質/コレステロール低下薬(例えばアトルバスタチンまたはシンバスタチンなどのHMG-CoA還元酵素阻害剤)、CKDに関連する高リン血症または副甲状腺機能亢進症の処置薬(例えばセベラマー酢酸塩、シナカルセト)、透析、ならびに食事制限(例えばタンパク質、塩、液体、カリウム、リン)が挙げられる。
【0161】
VII.診断試験
A.B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)レベルの測定
B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)とは、心室筋中で合成され、かつ心室拡張および圧負荷に応答して循環中に放出される、32アミノ酸の神経ホルモンのことである。BNPの機能としてはナトリウム利尿、血管拡張、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の阻害、および交感神経活性の阻害が挙げられる。血漿BNP濃度はうっ血性心不全(CHF)の患者の間で高く、左室機能障害の程度およびCHF症状の重症度に比例して増加する。
【0162】
血清および血漿を含む患者試料中のBNPレベルを測定するための数多くの方法および装置が当業者に周知である。BNPなどのポリペプチドに関しては、イムノアッセイの装置および方法がしばしば使用される。例えば米国特許第6,143,576号; 第6,113,855号; 第6,019,944号; 第5,985,579号; 第5,947,124号; 第5,939,272号; 第5,922,615号; 第5,885,527号; 第5,851,776号; 第5,824,799号; 第5,679,526号; 第5,525,524号; および第5,480,792号を参照。これらの装置および方法では、標識分子を様々なサンドイッチ、競合、または非競合アッセイフォーマットで利用することで、関心対象の分析物の存在または量に関連するシグナルを発生させることができる。さらに、バイオセンサーおよび光学イムノアッセイなどの特定の方法および装置を使用することで、標識分子を必要とせずに分析物の存在または量を決定することができる。例えば米国特許第5,631,170号および第5,955,377号を参照。具体例では、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)レベルを以下の方法によって定量することができる: 参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2011/0201130号に記載のタンパク質イムノアッセイ。さらに、いくつかの市販の方法が存在する(例えばRawlins et al., 2005。参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
【0163】
B. アルブミン/クレアチニン比(ACR)の測定
慣習的には、蛋白尿は簡単なディップスティック試験によって診断される。伝統的には、ディップスティックタンパク質試験は、24時間採尿試験において総タンパク質量を測定することで定量化される。
【0164】
あるいは、尿中のタンパク質濃度をスポット尿試料中のクレアチニンレベルと比較することもできる。これをタンパク質/クレアチニン比(PCR)と呼ぶ。UK Chronic Kidney Disease Guidelines(2005; 参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)では、PCRが24時間尿タンパク質測定よりも優れた試験であると述べられている。蛋白尿は、タンパク質/クレアチニン比45mg/mmol超(アルブミン/クレアチニン比30mg/mmol、またはディップスティック蛋白尿3+によって規定される約300mg/gに等しい)として定義され、PCRでの非常に高レベルの蛋白尿は100mg/mmol超である。
【0165】
タンパク質ディップスティック測定値を、微量アルブミン尿の試験で検出されたタンパク質の量と混同すべきではない。後者の値は尿のタンパク質の値をmg/日で示すのに対し、尿タンパク質ディップスティック値はタンパク質の値をmg/dLで示す。すなわち、30mg/日未満で生じうる基礎レベルの蛋白尿を非病理的とみなす。30〜300mg/日の値を微量アルブミン尿と呼び、微量アルブミン尿を病理的とみなす。微量アルブミンの尿タンパク質臨床検査値>30mg/日は、尿ディップスティックタンパク質アッセイの「微量」〜「1+」の範囲内の検出レベルに対応する。したがって、微量アルブミン尿の上限を既に超過したことから、尿ディップスティックアッセイで検出された任意のタンパク質の陽性指標によって、尿微量アルブミン試験を行う必要性がなくなる。
【0166】
C. 推定糸球体濾過量(eGFR)の測定
血清クレアチニンレベルに基づいてGFR値を推定するために、いくつかの式が考案された。クレアチニンクリアランス(eC
Cr)の推定値の一般的に使用されるサロゲートマーカーはCockcroft-Gault(CG)式であり、この式によってGFRがmL/分で推定される。この式では、クレアチニンクリアランスを予測するために血清クレアチニン測定値および患者の体重を使用する。当初公開された式は以下の通りである。
この式では、米国における標準と同様に、体重をキログラムで測定し、クレアチニンをmg/dLで測定することを想定している。患者が女性である場合、得られた値に定数0.85を掛ける。計算が単純であり、多くの場合、計算機の助けなしに行うことができることから、この式は有用である。
【0167】
血清クレアチニンがμmol/Lで測定される場合は以下の通りとなる:
式中、定数は男性で1.23、女性で1.04である。
【0168】
CockcroftおよびGault式の1つの興味深い特徴は、C
Crの推定がいかに年齢に依存しているかをその式が示しているということである。年齢項は(140−年齢)である。このことは、同じ血清クレアチニンレベルで20歳の人(140−20=120)が80歳の人(140−80=60)の2倍のクレアチニンクリアランスを示すことを意味している。CG式では、同じ血清クレアチニンレベルで女性が男性よりも15%低いクレアチニンクリアランスを示すことが想定される。
【0169】
あるいは、Modification of Diet in Renal Disease(MDRD)式を使用してeGFR値を計算することもできる。この4変数法は以下の通りである:
eGFR=175×標準化血清中クレアチニン
-1.154×年齢
-0.203×C
式中、Cは患者が黒人男性である場合1.212、患者が黒人女性である場合0.899、患者が非黒人女性である場合0.742である。血清クレアチニン値は、IDMSで追跡可能なクレアチニン定量に基づく(下記参照)。
【0170】
慢性腎疾患は、GFR 60mL/分/1.73m
2未満が3ヶ月以上存在することとして定義される。
【0171】
D. 肺動脈圧の測定
肺動脈(PA)圧を測定するための2つの主要な方法が存在する: 経胸壁心エコー図(TTE)および右心カテーテル留置。
【0172】
心エコー図は心臓の超音波であり、経胸壁とは、超音波プローブが胸部の外側(または「胸郭」)にあることを意味する。身体には何も挿入されず、したがってこの試験は「非侵襲的」と呼ばれており、外来で行うことができる。右室と肺動脈の発端部との両方をTTE上で見ることができる。TTEでは、右室が肺動脈に血液を注入する際に右室が観察される。右室からの血液の一部は、肺動脈中へと前方に進む代わりに、自然と三尖弁を通じて右房中へと後方に漏出する。PA圧があるべき血圧よりも高い場合、右室が血液を前方に注入することはより困難であり、したがってより多くの血液が三尖弁を通じて後方に漏出する。TTEでは、漏出(または逆流)の量を測定し、それをPA圧の推定に使用することができる。一部の患者では、PAHは運動によってのみ確認される。これらの場合では、運動試験(トレッドミル上歩行などの)の後にPA圧を測定するためにTTEを行うことができる。
【0173】
右心カテーテル留置は、肺動脈中に血圧モニタを直接配置することを必要とする、より侵襲的な試験である。この技術によって収縮期および拡張期PA圧の直接測定が可能になり、したがって多くの場合、より正確な測定が生じる。
【0174】
E. 血清クレアチニンレベルの測定
血清クレアチニン試験によって、血中のクレアチニンレベルが測定され、推定糸球体濾過量が得られる。BEACONおよびBEAMにおける血清クレアチニン値は、同位体希釈質量分析(IDMS)で追跡可能なクレアチニン定量に基づいていた。他の一般的に使用されるクレアチニンアッセイ方法論としては(1) アルカリ性ピクリン酸法(例えばJaffe法[古典的]および補正[修正]Jaffe法)、(2) 酵素法、(3) 高速液体クロマトグラフィー、(4) ガスクロマトグラフィー、および(5) 液体クロマトグラフィーが挙げられる。IDMS法が最も正確なアッセイであると広く見なされている(Peake and Whiting, 2006。参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
【0175】
F. シスタチンCレベルの測定
シスタチンCは、ネフェロメトリーまたは粒子増強比濁法などのイムノアッセイを使用して血清のランダム試料中で測定することができる。基準値は多くの集団においてかつ性別および年齢によって異なる。異なる試験にわたって、平均基準範囲(第5パーセンタイルおよび第95パーセンタイルによって規定)は0.52〜0.98mg/Lであった。女性では、平均基準範囲は0.52〜0.90mg/Lであり、平均は0.71mg/Lである。男性では、平均基準範囲は0.56〜0.98mg/Lであり、平均は0.77mg/Lである。正常値は誕生して1年になるまで減少し、相対的に安定し続けた後、特に50歳を超えてから再度上昇する。クレアチニンレベルは思春期まで増加し、その後は性別によって異なることから、小児科患者に関してクレアチニンレベルの解釈が問題となる。
【0176】
United States National Health and Nutrition Examination Surveyによる大規模試験においては(Kottgen et al., 2008)、基準範囲(第1パーセンタイルおよび第99パーセンタイルによって規定)は0.57〜1.12mg/Lであった。範囲は女性で0.55〜1.18、男性で0.60〜1.11であった。非ヒスパニック系黒人およびメキシコ系米国人は、より低い正常シスタチンCレベルを示した。他の試験では、腎機能障害の患者において、同じGFRで女性がより低いシスタチンCレベルを、黒人がより高いシスタチンCレベルを示すことが発見された。例えば、60歳白人女性での慢性腎疾患に関するシスタチンCのカットオフ値は1.12mg/Lであり、黒人男性では1.27mg/L(13%増)である。MDRD式によって調整された血清クレアチニン値では、これらの値は0.95mg/dL〜1.46mg/dL(54%増)である。
【0177】
G. 尿酸レベルの測定
通常、血清尿酸レベルは臨床化学検査法、例えば、着色反応生成物を形成するための尿酸と特定の試薬との反応に基づく分光光度測定によって定量される。尿酸定量が標準的な臨床化学試験であることから、この目的でいくつかの製品が市販されている。
【0178】
通常、ヒト血漿では、尿酸の基準範囲は男性で3.4〜7.2mg/dL(200〜430μmol/L)(1mg/dL=59.48μmol/L)、女性で2.4〜6.1mg/dL(140〜360μmol/L)である。しかし、血液試験の結果は、試験を行った臨床検査室が示す範囲を使用して常に解釈されるべきである。正常範囲を超えるまたは正常範囲未満の血漿中尿酸濃度はそれぞれ高尿酸血症および低尿酸血症として知られている。同様に、正常を超えるまたは正常未満の尿中尿酸濃度は高尿酸尿症および低尿酸尿症として知られている。
【0179】
H. 循環内皮細胞(CEC)の測定
CECを全血からCD 146 Ab(内皮細胞および白血球上で発現されるCD 146抗原に対する抗体)を使用して単離した。CEC単離後、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)結合CD105 Ab(内皮細胞に特異的な抗体)を使用することで、CellSearch(商標)システムを使用してCECを同定した。CD45 Abの蛍光結合体を加えて白血球を染色した後、これらをゲートアウトした。この方法の概観については、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるBlann et al. (2005)を参照。また、CEC試料をiNOSの存在について免疫染色によって評価した。
【0180】
VIII. 定義
化学基の文脈で使用する場合、「水素」は-Hを意味し、「ヒドロキシ」は-OHを意味し、「オキソ」は=Oを意味し、「カルボニル」は-C(=O)-を意味し、「カルボキシ」は-C(=O)OHを意味し(-COOHまたは-CO
2Hとも記載され)、「ハロ」は独立して-F、-Cl、-Brまたは-Iを意味し、「アミノ」は-NH
2を意味し、「ヒドロキシアミノ」は-NHOHを意味し、「ニトロ」は-NO
2を意味し、イミノは=NHを意味し、「シアノ」は-CNを意味し、「イソシアネート」は-N=C=Oを意味し、「アジド」は-N
3を意味し、一価の文脈で「ホスフェート」は-OP(O)(OH)
2またはその脱プロトン化体を意味し、二価の文脈で「ホスフェート」は-OP(O)(OH)O-またはその脱プロトン化体を意味し、「メルカプト」は-SHを意味し、「チオ」は=Sを意味し、「スルホニル」は-S(O)
2-を意味し、「スルフィニル」は-S(O)-を意味する。
【0181】
化学式の文脈で、
という記号は単結合を意味し、
は二重結合を意味し、
は三重結合を意味する。
という記号は、存在する場合は単結合または二重結合のいずれかである任意の結合を表す。
という記号は単結合または二重結合を意味する。したがって例えば、式
は
を含む。また、1個のそのような環原子が2個以上の二重結合の一部を形成することがないことを理解されたい。さらに、1個または2個の不斉原子を接続する際の共有結合の記号
が、任意の好ましい立体化学配置を示すものではないことに留意されたい。代わりにすべての立体異性体およびその混合物を網羅する。結合:
を垂直に横切って描かれる際の
という記号は、基の結合点を示す。読者が結合点を明確に同定することに役立つように、通常は比較的大きな基についてのみ結合点がこのように同定されることに留意されたい。
という記号は、楔形の太い端部に結合した基が「頁の外側に向かう」単結合を意味する。
という記号は、楔形の太い端部に結合した基が「頁の内側に向かう」単結合を意味する。
という記号は、二重結合の周りの幾何学的配置(例えばEまたはZ)が未確定である単結合を意味する。したがって、両方のオプションおよびその組み合わせが意図される。上記の結合次数は、結合によって接続される1個の原子が金属原子(M)である場合、限定的ではない。そのような場合、実際の結合が、著しい多重結合性および/またはイオン性を含みうると理解されたい。したがって、別途指示がない限り、式:
はそれぞれ、金属原子と炭素原子との間の任意の種類および次数の結合を指す。本出願において示される構造の原子上の任意の未定義の原子価は、その原子に結合している水素原子を暗に表す。炭素原子上の太字の点は、その炭素に結合した水素が紙面の外に向くことを示す。
【0182】
本出願において示す構造の原子上の任意の未定義の原子価は、その原子に結合している水素原子を暗に表す。「R」基が例えば下記式中の環系上の「浮遊している基」として図示される場合:
Rは、安定な構造が形成される限り、図示され、暗示され、または明示的に規定される水素を含む、任意の環原子に結合した任意の水素原子を置き換えることができる。「R」基が例えば下記式中の縮合環系上の「浮遊している基」として図示される場合:
Rは、別途指定されない限り、いずれかの縮合環の任意の環原子に結合した任意の水素を置き換えることができる。安定な構造が形成される限り置き換え可能な水素としては、図示される水素(例えば、上記式中の窒素に結合した水素)、暗示される水素(例えば、図示されていないが存在していると理解される上記式の水素)、明示的に規定される水素、および、その存在が環原子の独自性に依存する任意的な水素(例えば、Xが-CH-と等しい場合の、X基に結合した水素)が挙げられる。図示される例では、Rは、縮合環系の5員環または6員環のいずれかに存在し得る。上記式中の括弧に囲まれる「R」基に直ちに続く「y」という添字は変数を表す。別途指定されない限り、この変数は0、1、2、または2を超える任意の整数であり得るものであり、環または環系の置き換え可能な水素原子の最大数によってのみ限定される。
【0183】
以下の基およびクラスについて、以下の括孤付きの添字は以下のように基/クラスをさらに定義する。「(Cn)」は基/クラスの炭素原子の正確な数(n)を定義する。「(C≦n)」は基/クラスに存在し得る炭素原子の最大数(n)を定義し、最小数は対象となる基について可能な限り小さい数である。例えば、「アルケニル
(C≦8)」基または「アルケン
(C≦8)」クラスの炭素原子の最小数は2であると理解される。例えば、「アルコキシ
(C≦10)」は、1〜10個の炭素原子を有するアルコキシ基を意味する。(Cn〜n')は、基の炭素原子の最小数(n)と最大数(n')との両方を定義する。同様に、「アルキル
(C2〜10)」は、2〜10個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。
【0184】
本明細書において使用される「飽和」という用語は、そのように修飾された化合物または基が、以下に記す場合を除いて炭素-炭素二重結合および炭素-炭素三重結合を有さないことを意味する。飽和した基の置換型の場合、一つまたは複数の炭素酸素二重結合または炭素窒素二重結合が存在し得る。そのような結合が存在する場合、ケト-エノール互変異性またはイミン/エナミン互変異性の一部として生じ得る炭素-炭素二重結合は排除されない。
【0185】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「脂肪族」という用語は、そのように修飾された化合物/基が非環式または環式であるが非芳香族である炭化水素化合物または基であることを意味する。脂肪族化合物/基においては、炭素原子は直鎖、分岐鎖または非芳香族環(脂環式)中で一緒に接合され得る。脂肪族化合物/基は飽和でもよく、すなわち単結合で接合されていてもよく(アルカン/アルキル)、不飽和で1個または複数の二重結合を有していてもよく(アルケン/アルケニル)、1個または複数の三重結合を有していてもよい(アルキン/アルキニル)。
【0186】
「置換」という修飾語なしで使用される場合の「アルキル」という用語は、結合点としての炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素および水素以外の原子を有さない、一価の飽和脂肪族基を意味する。したがって、本明細書において使用されるシクロアルキルとは、結合点を形成する炭素原子が1個または複数の非芳香環構造の一員でもあり、シクロアルキル基が炭素および水素以外の原子からなるわけではない、アルキルのサブセットのことである。本明細書において使用されるこの用語は、環または環系に結合した1個または複数のアルキル基(炭素数の限定が可能である)の存在を排除しない。-CH
3(Me)、-CH
2CH
3(Et)、-CH
2CH
2CH
3(n-Prまたはプロピル)、-CH(CH
3)
2(i-Pr、
iPrまたはイソプロピル)、-CH(CH
2)
2(シクロプロピル)、-CH
2CH
2CH
2CH
3(n-Bu)、-CH(CH
3)CH
2CH
3(sec-ブチル)、-CH
2CH(CH
3)
2(イソブチル)、-C(CH
3)
3(tert-ブチル、t-ブチル、t-Buまたは
tBu)、-CH
2C(CH
3)
3(ネオペンチル)、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘキシルメチルといった基がアルキル基の非限定的な例である。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルカンジイル」という用語は、結合点としての1個または2個の飽和炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、炭素-炭素二重結合または三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、二価の飽和脂肪族基を意味する。-CH
2-(メチレン)、-CH
2CH
2-、-CH
2C(CH
3)
2CH
2-、-CH
2CH
2CH
2-および
といった基がアルカンジイル基の非限定的な例である。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキリデン」という用語は、二価の基=CRR'を意味し、ここでRおよびR'は独立して水素、アルキルであるか、またはRおよびR'は一緒になって、少なくとも2個の炭素原子を有するアルカンジイルを表す。アルキリデン基の非限定的な例としては=CH
2、=CH(CH
2CH
3)および=C(CH
3)
2が挙げられる。上で定義したように、「アルカン」とは化合物H-Rを意味し、ここでRはアルキルである。これらの用語のいずれかを「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。以下の基が置換アルキル基の非限定的な例である: -CH
2OH、-CH
2Cl、-CF
3、-CH
2CN、-CH
2C(O)OH、-CH
2C(O)OCH
3、-CH
2C(O)NH
2、-CH
2C(O)CH
3、-CH
2OCH
3、-CH
2OC(O)CH
3、-CH
2NH
2、-CH
2N(CH
3)
2および-CH
2CH
2Cl。「ハロアルキル」という用語は置換アルキルのサブセットであり、ここで1個または複数の水素はハロ基で置換されており、炭素、水素およびハロゲン以外の原子は存在しない。-CH
2Clといった基がハロアルキルの非限定的な例である。「フルオロアルキル」という用語は置換アルキルのサブセットであり、ここで1個または複数の水素はフルオロ基で置換されており、炭素、水素およびフッ素以外の原子は存在しない。-CH
2F、-CF
3および-CH
2CF
3といった基がフルオロアルキル基の非限定的な例である。
【0187】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニル」という用語は、結合点としての炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、一価の不飽和脂肪族基を意味する。アルケニル基の非限定的な例としては-CH=CH
2(ビニル)、-CH=CHCH
3、-CH=CHCH
2CH
3、-CH
2CH=CH
2(アリル)、-CH
2CH=CHCH
3、-CH=CHCH=CH
2、および-CH=CH-C
6H
5が挙げられる。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケンジイル」という用語は、結合点としての2個の炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の非芳香族炭素-炭素二重結合を有し、炭素-炭素三重結合を有さず、炭素および水素以外の原子を有さない、二価の不飽和脂肪族基を意味する。-CH=CH-、-CH=C(CH
3)CH
2-、-CH=CHCH
2-および
といった基がアルケンジイル基の非限定的な例である。アルケンジイル基は脂肪族であるが、両端において接続された時点で、この基が芳香族構造の一部を形成することを妨げられないことに留意されたい。「アルケン」または「オレフィン」という用語は同義であり、式H-Rを有する化合物を意味し、ここでRはアルケニルであり、この用語は上記定義の通りである。「末端アルケン」とは、1個のみの炭素-炭素二重結合を有し、その結合が分子の一端においてビニル基を形成する、アルケンを意味する。これらの用語のいずれかを「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。-CH=CHF、-CH=CHClおよび-CH=CHBrといった基が置換アルケニル基の非限定的な例である。
【0188】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキニル」という用語は、結合点としての炭素原子を有し、直鎖もしくは分岐、シクロ、環式または非環式構造を有し、少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、炭素および水素以外の原子を有さない、一価の不飽和脂肪族基を意味する。本明細書において使用されるアルキニルという用語は、1個または複数の非芳香族炭素-炭素二重結合の存在を排除しない。-C≡CH、-C≡CCH
3および-CH
2C≡CCH
3といった基がアルキニル基の非限定的な例である。「アルキン」とは化合物H-Rを意味し、ここでRはアルキニルである。これらの用語のいずれかを「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。
【0189】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アリール」という用語は、環原子がすべて炭素である1個または複数の6員芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子を有し、かつ炭素および水素以外の原子からなるわけではない、一価の不飽和芳香族基を意味する。2個以上の環が存在する場合、環は縮合していても縮合していなくてもよい。本明細書において使用されるこの用語は、第1の芳香環または存在する任意のさらなる芳香環に結合した1個または複数のアルキル基またはアラルキル基(炭素数の限定が可能である)の存在を排除しない。アリール基の非限定的な例としてはフェニル(Ph)、メチルフェニル、(ジメチル)フェニル、-C
6H
4CH
2CH
3(エチルフェニル)、ナフチル、およびビフェニルに由来する一価の基が挙げられる。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アレーンジイル」という用語は、環原子がすべて炭素である1個または複数の6員芳香環構造の一部を形成する結合点としての2個の芳香族炭素原子を有し、かつ炭素および水素以外の原子からなるわけではない、二価の芳香族基を意味する。本明細書において使用されるこの用語は、第1の芳香環または存在する任意のさらなる芳香環に結合した1個または複数のアルキル基、アリール基、またはアラルキル基(炭素数の限定が可能である)の存在を排除しない。2個以上の環が存在する場合、環は縮合していても縮合していなくてもよい。縮合していない環は以下のうちの一つまたは複数のものを介して結合していてもよい:共有結合、アルカンジイル、またはアルケンジイル基(炭素数の限定が可能である)。アレーンジイル基の非限定的な例としては以下が挙げられる:
。
上で定義したように、「アレーン」とは化合物H-Rを意味し、ここでRはアリールである。これらの用語のいずれかを「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。
【0190】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アラルキル」という用語は一価の基-アルカンジイル-アリールを意味し、ここでアルカンジイルおよびアリールという用語は、上記で示した定義と一致した様式でそれぞれ使用される。アラルキルの非限定的な例としてはフェニルメチル(ベンジル、Bn)および2-フェニル-エチルがある。この用語アラルキルを「置換」という修飾語付きで使用する場合、アルカンジイルおよび/またはアリール基からの1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。置換アラルキルの非限定的な例としては(3-クロロフェニル)-メチルおよび2-クロロ-2-フェニル-エタ-1-イルがある。
【0191】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロアリール」という用語は、環原子のうち少なくとも1個が窒素、酸素または硫黄である1つまたは複数の芳香環構造の一部を形成する結合点としての芳香族炭素原子または窒素原子を有し、ヘテロアリール基が炭素、水素、芳香族窒素、芳香族酸素および芳香族硫黄以外の原子からなるわけではない、一価の芳香族基を意味する。2個以上の環が存在する場合、環は縮合していても縮合していなくてもよい。本明細書において使用される場合、この用語は、芳香環または芳香環系に結合した1個または複数のアルキル基、アリール基および/またはアラルキル基(炭素数の限定が可能である)の存在を排除しない。ヘテロアリール基の非限定的な例としてはフラニル、イミダゾリル、インドリル、インダゾリル(Im)、イソオキサゾリル、メチルピリジニル、オキサゾリル、フェニルピリジニル、ピリジニル、ピロリル、ピリミジニル、ピラジニル、キノリル、キナゾリル、キノキサリニル、トリアジニル、テトラゾリル、チアゾリル、チエニルおよびトリアゾリルが挙げられる。「N-ヘテロアリール」という用語は、結合点に窒素原子を有するヘテロアリール基を意味する。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロアレーンジイル」という用語は、環原子のうち少なくとも1個が窒素、酸素または硫黄である1つまたは複数の芳香環構造の一部を形成する2個の結合点としての2個の芳香族炭素原子、2個の芳香族窒素原子、または1個の芳香族炭素原子および1個の芳香族窒素原子を有し、二価の基が炭素、水素、芳香族窒素、芳香族酸素および芳香族硫黄以外の原子からなるわけではない、二価の芳香族基を意味する。2個以上の環が存在する場合、環は縮合していても縮合していなくてもよい。縮合していない環は以下のうちの一つまたは複数のものを介して結合していてもよい:共有結合、アルカンジイル、またはアルケンジイル基(炭素数の限定が可能である)。本明細書において使用されるこの用語は、芳香環または芳香環系に結合した1個または複数のアルキル基、アリール基および/またはアラルキル基(炭素数の限定が可能である)の存在を排除しない。ヘテロアレーンジイル基の非限定的な例としては以下が挙げられる:
。
【0192】
「ヘテロアレーン」とは化合物H-Rを意味し、ここでRはヘテロアリールである。ピリジンおよびキノリンがヘテロアレーンの非限定的な例である。これらの用語を「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。
【0193】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロシクロアルキル」という用語は、環原子のうち少なくとも1個が窒素、酸素または硫黄である1つまたは複数の非芳香環構造の一部を形成する結合点としての炭素原子または窒素原子を有し、ヘテロシクロアルキル基が炭素、水素、窒素、酸素および硫黄以外の原子からなるわけではない、一価の非芳香族基を意味する。2個以上の環が存在する場合、環は縮合していても縮合していなくてもよい。本明細書において使用されるこの用語は、環または環系に結合した1個または複数のアルキル基(炭素数の限定が可能である)の存在を排除しない。また、この用語は、得られる基が非芳香族にとどまるという条件で、環または環系中の1個または複数の二重結合の存在を排除しない。ヘテロシクロアルキル基の非限定的な例としてはアジリジニル、アゼチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフラニル、テトラヒドロピラニル、ピラニル、オキシラニルおよびオキセタニルが挙げられる。「N-ヘテロシクロアルキル」という用語は、結合点としての窒素原子を有するヘテロシクロアルキル基を意味する。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ヘテロシクロアルカンジイル」という用語は、環原子のうち少なくとも1個が窒素、酸素または硫黄である1つまたは複数の環構造の一部を形成する2個の結合点としての2個の炭素原子、2個の窒素原子、または1個の炭素原子および1個の窒素原子を有し、二価の基が炭素、水素、窒素、酸素および硫黄以外の原子からなるわけではない、二価の環状基を意味する。2個以上の環が存在する場合、環は縮合していても縮合していなくてもよい。非縮合環は以下のうち1つまたは複数を介して接続しうる: 共有結合、アルカンジイル基またはアルケンジイル基(炭素数の限定が可能である)。本明細書において使用されるこの用語は、環または環系に結合した1個または複数のアルキル基(炭素数の限定が可能である)の存在を排除しない。また、この用語は、得られる基が非芳香族にとどまるという条件で、環または環系中の1個または複数の二重結合の存在を排除しない。ヘテロシクロアルカンジイル基の非限定的な例としては以下が挙げられる:
。
これらの用語を「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、-S(O)
2NH
2または-C(O)OC(CH
3)
3(tert-ブチルオキシカルボニル、BOC)で置き換えられている。
【0194】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アシル」という用語は-C(O)R基を意味し、ここでRは水素、アルキル、アリール、アラルキルまたはヘテロアリールであり、それらの用語は上記定義の通りである。-CHO、-C(O)CH
3(アセチル、Ac)、-C(O)CH
2CH
3、-C(O)CH
2CH
2CH
3、-C(O)CH(CH
3)
2、-C(O)CH(CH
2)
2、-C(O)C
6H
5、-C(O)C
6H
4CH
3、-C(O)CH
2C
6H
5、-C(O)(イミダゾリル)といった基がアシル基の非限定的な例である。「チオアシル」は、-C(O)R基の酸素原子が硫黄原子で置き換えられて-C(S)Rとなる以外は類似して定義される。「アルデヒド」という用語は上記定義のアルカンに対応し、ここで少なくとも1個の水素原子が-CHO基で置き換えられている。これらの用語のいずれかを「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子(もしあればカルボニル基またはチオカルボニル基に直接結合した水素原子を含む)が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。-C(O)CH
2CF
3、-CO
2H(カルボキシル)、-CO
2CH
3(メチルカルボキシル)、-CO
2CH
2CH
3、-C(O)NH
2(カルバモイル)および-CON(CH
3)
2といった基が置換アシル基の非限定的な例である。
【0195】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルコキシ」という用語は-OR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルコキシ基の非限定的な例としては-OCH
3(メトキシ)、-OCH
2CH
3(エトキシ)、-OCH
2CH
2CH
3、-OCH(CH
3)
2(イソプロポキシ)、-O(CH
3)
3(tert-ブトキシ)、-OCH(CH
2)
2、-O-シクロペンチルおよび-O-シクロヘキシルが挙げられる。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルケニルオキシ」、「アルキニルオキシ」、「アリールオキシ」、「アラルコキシ」、「ヘテロアリールオキシ」、「ヘテロシクロアルコキシ」および「アシルオキシ」という用語は、-ORとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキルおよびアシルである。「アルコキシジイル」という用語は-O-アルカンジイル-、-O-アルカンジイル-O-または-アルカンジイル-O-アルカンジイル-という二価の基を意味する。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルチオ」および「アシルチオ」という用語は-SR基を意味し、ここでRはそれぞれアルキルおよびアシルである。「アルコール」という用語は上記定義のアルカンに対応し、ここで少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ基で置き換えられている。「エーテル」という用語は上記定義のアルカンに対応し、ここで少なくとも1個の水素原子がアルコキシ基で置き換えられている。これらの用語のいずれかを「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。
【0196】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルアミノ」という用語は-NHR基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルアミノ基の非限定的な例としては-NHCH
3および-NHCH
2CH
3が挙げられる。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ジアルキルアミノ」という用語は-NRR'基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なるアルキル基であり得るか、あるいはRおよびR'は一緒になってアルカンジイルを表すことができる。ジアルキルアミノ基の非限定的な例としては-N(CH
3)
2、-N(CH
3)(CH
2CH
3)およびN-ピロリジニルが挙げられる。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルコキシアミノ」、「アルケニルアミノ」、「アルキニルアミノ」、「アリールアミノ」、「アラルキルアミノ」、「ヘテロアリールアミノ」「ヘテロシクロアルキル」および「アルキルスルホニルアミノ」という用語は、-NHRとして定義される基を意味し、ここでRはそれぞれアルコキシ、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキルおよびアルキルスルホニルである。アリールアミノ基の非限定的な例は-NHC
6H
5である。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アミド」(アシルアミノ)という用語は-NHR基を意味し、ここでRはアシルであり、その用語は上記定義の通りである。アミド基の非限定的な例は-NHC(O)CH
3である。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルイミノ」という用語は=NRという二価の基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。「アルキルアミノジイル」という用語は-NH-アルカンジイル-、-NH-アルカンジイル-NH-または-アルカンジイル-NH-アルカンジイル-という二価の基を意味する。これらの用語のいずれかを「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3、または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。-NHC(O)OCH
3および-NHC(O)NHCH
3という基が置換アミド基の非限定的な例である。
【0197】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルスルホニル」および「アルキルスルフィニル」という用語は-S(O)
2R基および-S(O)R基をそれぞれ意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。「アルケニルスルホニル」、「アルキニルスルホニル」、「アリールスルホニル」、「アラルキルスルホニル」、「ヘテロアリールスルホニル」、および「ヘテロシクロアルキルスルホニル」という用語は類似して定義される。これらの用語のいずれかを「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。
【0198】
「置換」という修飾語なしで使用する場合の「アルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OH)(OR)基を意味し、ここでRはアルキルであり、その用語は上記定義の通りである。アルキルホスフェート基の非限定的な例としては-OP(O)(OH)(OMe)および-OP(O)(OH)(OEt)が挙げられる。「置換」という修飾語なしで使用する場合の「ジアルキルホスフェート」という用語は-OP(O)(OR)(OR')基を意味し、ここでRおよびR'は同一のまたは異なるアルキル基でありうるか、あるいはRおよびR'は一緒になってアルカンジイルを表すことができる。ジアルキルホスフェート基の非限定的な例としては-OP(O)(OMe)
2、-OP(O)(OEt)(OMe)および-OP(O)(OEt)
2が挙げられる。これらの用語のいずれかを「置換」という修飾語付きで使用する場合、1個または複数の水素原子が独立して-OH、-F、-Cl、-Br、-I、-NH
2、-NO
2、-CO
2H、-CO
2CH
3、-CN、-SH、-OCH
3、-OCH
2CH
3、-C(O)CH
3、-NHCH
3、-NHCH
2CH
3、-N(CH
3)
2、-C(O)NH
2、-OC(O)CH
3または-S(O)
2NH
2で置き換えられている。
【0199】
特許請求の範囲および/または明細書において「含む(comprising)」という用語との組み合わせで使用する場合の「ある(a)」または「ある(an)」という単語の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」および「1つまたは2つ以上」の意味とも一致している。
【0200】
本明細書を通じて、「約」という用語は、ある値が、その値を決定するために使用される装置や方法に固有の誤差の変動、または試験対象の間で存在する変動を含むことを示すために使用される。
【0201】
本明細書において使用される平均分子量とは、静的光散乱法によって決定される重量平均分子量(Mw)を意味する。
【0202】
本明細書において使用される「キラル補助基」とは、反応の立体選択性に影響することが可能である除去可能なキラル基を意味する。当業者はそのような化合物に精通しており、多くは市販されている。
【0203】
「含む(comprise)」、「有する(have)」および「含む(include)」という用語は非限定的な連結動詞である。「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(includes)」および「含む(including)」などの1つまたは複数のこれらの動詞の任意の形態または時制も非限定的である。例えば、1つまたは複数の段階を「含む(comprises)」か、「有する(has)」かまたは「含む(includes)」任意の方法は、それらの1つまたは複数の段階のみを有することに限定されず、他の列挙されていない段階も網羅する。
【0204】
明細書および/または特許請求の範囲において使用される「有効な」という用語は、所望の、予期される、または意図される結果を実現するために十分であることを意味する。患者または対象を化合物で処置することにおいて使用される場合の「有効量」、「治療有効量」、または「薬学的有効量」とは、疾患を処置するために対象または患者に投与される際に疾患のそのような処置を実行するために十分な該化合物の量を意味する。ヒトにおけるPAHの場合、治療有効量への医療応答としては以下のうち任意の1つまたは複数を挙げることができる: 1) 治療開始前のベースライン試験に比べての6分歩行試験における5〜10メートル、10〜20メートル、20〜30メートル、またはそれ以上の改善; 2) クラスIVからクラスIIIへの、クラスIVからクラスIIへの、クラスIVからクラスIへの、クラスIIIからクラスIIへの、クラスIIIからクラスIへの、またはクラスIIからクラスIへの世界保健機関機能クラスの改善。前者のクラスは治療開始前のWHOクラスである; 3) 治療開始前に行われたベースラインに試験に比べての平均肺動脈圧の2〜4mmHg、4〜6mmHg、6〜10mmHg、またはそれ以上の減少; 4) 治療開始前に行われたベースライン試験に比べての心係数の0.05〜0.1、0.1〜0.2、0.2〜0.4リットル/分/m
2、またはそれ以上の改善; 5) 治療開始前に得られたベースライン値からのPVRの25〜100、100〜200、200〜300ダイン秒/cm
5、またはそれ以上の改善(すなわち減少); 6) 治療開始前に行われたベースラインに試験に比べての右房圧の0.1〜0.2、0.2〜0.4、0.4〜1、1〜5mmHg、またはそれ以上の減少; 7) 治療を与えられなかった患者群に比べての生存率の改善。治療開始前のベースライン試験と有効性評価との間の時間は変動しうるが、通常は4〜12週間、12〜24週間、または24〜52週間の範囲内である。治療有効性エンドポイントの例は参考文献McLaughlin et al. (2002)、Galie et al. (2005)、Barst et al. (1996)、McLaughlin et al. (1998)、Rubin et al. (2002)、Langleben et al. (2004)、およびBadesch et al. (2000)に示されている。
【0205】
化合物に対する修飾語として使用する場合の「水和物」という用語は、該化合物が、例えば該化合物の固体形態において、各化合物分子に結合する1個未満(例えば半水和物)、1個(例えば一水和物)、または2個以上(例えば二水和物)の水分子を有することを意味する。
【0206】
本明細書において使用される「IC
50」という用語は、得られる最大応答の50%となる阻害用量を意味する。この定量的尺度は、所与の生物学的、生化学的もしくは化学的プロセス(またはプロセスの構成要素、すなわち酵素、細胞、細胞受容体もしくは微生物)を半分阻害するために特定の薬物または他の物質(阻害剤)がどの程度必要であるかを示す。
【0207】
第1の化合物の「異性体」は、各分子が第1の化合物と同一の構成分子を含有しているが三次元でのそれらの原子の配置が異なる、別個の化合物である。
【0208】
本明細書において使用される「患者」または「対象」という用語は、ヒト、サル、雌ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、またはそのトランスジェニック種などの生きている哺乳類生物を意味する。特定の態様では、患者または対象は霊長類である。ヒト対象の非限定的な例としては成人、若年、乳幼児および胎児がある。
【0209】
本明細書において一般的に使用される「薬学的に許容される」とは、正しい医学的判断の範囲内で、ヒトおよび動物の組織、臓器および/または体液と接触させて使用するために好適であり、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症を伴わず、妥当な損益比に相応している、化合物、原料、組成物および/または剤形を意味する。
【0210】
「薬学的に許容される塩」とは、先に定義の通り薬学的に許容されかつ所望の薬理活性を有する、本発明の化合物の塩を意味する。そのような塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸; または1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、3-フェニルプロピオン酸、4,4'-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、酢酸、脂肪族モノカルボン酸およびジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、炭酸、桂皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、フェニル置換アルカン酸、プロピオン酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、tert-ブチル酢酸、トリメチル酢酸などの有機酸と共に形成される酸付加塩が挙げられる。薬学的に許容される塩は、存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応可能な場合に形成可能な塩基付加塩も含む。許容される無機塩基としては水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウムおよび水酸化カルシウムが挙げられる。許容される有機塩基としてはエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンなどが挙げられる。本発明の任意の塩の一部を形成する特定のアニオンまたはカチオンは、その塩が全体として薬理学的に許容される限り重要ではないということを認識すべきである。薬学的に許容される塩ならびにその調製方法および使用方法のさらなる例はHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, and Use (P. H. Stahl & C. G. Wermuth eds., Verlag Helvetica Chimica Acta, 2002)に提示されている。
【0211】
本明細書において使用される「薬学的に許容可能な担体」という用語は、薬学的に許容可能な材料、組成物、または媒体、例えば、液体または固体の増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、または化学的剤を収容もしくは移動するのに関与するカプセル化用の材料を意味する。
【0212】
「予防」または「予防する」は、(1) 疾患の危険性がありかつ/または疾患に罹患しやすいことがあるが、疾患の病理または総体症状のいずれかまたは全部を未だ経験していないかまたは示していない対象または患者において、疾患の発症を阻害すること、および/あるいは(2) 疾患の危険性がありかつ/または疾患に罹患しやすいことがあるが、疾患の病理または総体症状のいずれかまたは全部を未だ経験していないかまたは示していない対象または患者において、疾患の病理または総体症状の発症を遅くすることを含む。
【0213】
「プロドラッグ」とは、本発明の阻害剤にインビボで代謝的に変換可能な化合物を意味する。プロドラッグそれ自体は、所与の標的タンパク質に対する活性を有することも有さないこともある。例えば、ヒドロキシ基を含む化合物は、インビボでの加水分解によりヒドロキシ化合物に変換されるエステルとして投与することができる。インビボでヒドロキシ化合物に変換可能である好適なエステルとしては酢酸エステル、クエン酸エステル、乳酸エステル、リン酸エステル、酒石酸エステル、マロン酸エステル、シュウ酸エステル、サリチル酸エステル、プロピオン酸エステル、コハク酸エステル、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、メチレン-ビス-β-ヒドロキシナフトエ酸エステル、ゲンチジン酸エステル、イセチオン酸エステル、ジ-p-トルオイル酒石酸エステル、メタンスルホン酸エステル、エタンスルホン酸エステル、ベンゼンスルホン酸エステル、p-トルエンスルホン酸エステル、シクロヘキシルスルファミン酸エステル、キナ酸エステル、アミノ酸エステルなどが挙げられる。同様に、アミン基を含む化合物は、インビボでの加水分解によりアミン化合物に変換されるアミドとして投与することができる。
【0214】
「立体異性体」または「光学異性体」は、同一の原子が同一の他の原子に結合しているが三次元でのそれらの原子の配置が異なる、所与の化合物の異性体である。「鏡像異性体」は、左手および右手のように互いの鏡像である所与の化合物の立体異性体である。「ジアステレオマー」は、鏡像異性体ではない所与の化合物の立体異性体である。キラル分子は、立体中心または不斉中心とも呼ばれるキラル中心を含有し、キラル中心は、任意の2個の基の交換が立体異性体を生じさせる基を有する分子中の任意の地点であるが原子であるとは限らない。有機化合物中では、キラル中心は通常炭素原子、リン原子または硫黄原子であるが、他の原子が有機化合物および無機化合物中の立体中心であることも可能である。分子は、複数の立体中心を有することで、多くの立体異性体をそれに与えることができる。その立体異性が四面体不斉中心(例えば四面体炭素)による化合物では、仮説上可能な立体異性体の総数は2nを超えず、ここでnは四面体立体中心の数である。多くの場合、対称性を有する分子は最大可能数よりも少ない数の立体異性体を有する。鏡像異性体の50:50混合物をラセミ混合物と呼ぶ。あるいは、一方の鏡像異性体が50%を超える量で存在するように鏡像異性体の混合物を鏡像異性的に濃縮してもよい。通常、鏡像異性体および/またはジアステレオマーは当技術分野において公知の技術を使用して分割または分離することができる。立体化学配置が規定されていない任意の立体中心またはキラリティー軸について、その立体中心またはキラリティー軸がそのR型、S型、または、ラセミ混合物および非ラセミ混合物を含むR型とS型との混合物として存在し得ると想定される。本明細書において使用される「他の立体異性体を実質的に含まない」という語句は、組成物が15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは1%以下の別の立体異性体を含有することを意味する。
【0215】
「処置」または「処置する」は、(1) 疾患の病理または総体症状を経験するかまたは示す対象または患者において疾患を阻害すること(例えば、病理および/または総体症状のさらなる発生を停止させること)、(2) 疾患の病理または総体症状を経験するかまたは示す対象または患者において疾患を寛解させること(例えば、病理および/または総体症状を逆転させること)、ならびに/あるいは(3) 疾患の病理または総体症状を経験するかまたは示す対象または患者において疾患の任意の測定可能な低下を実行することを含む。
【0216】
上記定義は、参照により本明細書に組み入れられる参考文献のいずれかにおける任意の矛盾する定義に取って代わる。しかし、特定の用語が定義されているという事実を、未定義の任意の用語が不確定であることを示すものと考えるべきではない。むしろ、すべての使用される用語は、当業者が本発明の範囲を認識しかつ本発明を実践することができる用語で本発明を説明するものと考えられる。
【実施例】
【0217】
IX.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。当業者は、以下の実施例において開示される技術が、本発明の実行において十分に機能することを本発明者が発見した技術を代表するものであり、したがってその実行の好ましい様式を構成すると考えられうることを認識すべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、本発明の真意および範囲を逸脱することなく、開示されている具体的な態様に多くの変更を行って、なお類似または同様の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0218】
実施例1
バルドキソロンメチルは内皮機能障害を軽減する
ステージ3bまたは4の慢性腎疾患および2型糖尿病の患者におけるバルドキソロンメチル(BARD)の臨床試験において、循環内皮細胞のレベルの有意な改善が認められた(
図2)。炎症促進酵素である誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の試験で陽性のCECの数の改善も認められた。非臨床試験は、BARDおよび他のAIMが内皮細胞中でROSレベルを減少させかつNOバイオアベイラビリティを増加させることができることを示した(
図3)。
【0219】
また、非臨床試験は、BARDがメサンギウム細胞(腎臓に見られる)および内皮細胞中でエンドセリン1(ET-1)の発現を減少させることができることを示した(表22)。この試験において、BARDはまた、血管拡張性ET
B受容体の発現を増加させながら血管収縮性ET
A受容体の発現を減少させた(表22)。天然ペプチドであるET-1は、最も強力な内因性血管収縮剤であり、いくつかの心血管疾患の発病に関与している。また、ET-1はマイトジェンおよび炎症促進性シグナル伝達分子として作用しうる。部分的にはNOシグナル伝達の阻害が理由で(Sud and Black, 2009)、部分的には炎症促進性効果が理由で(Pernow, 2012)、ET-1の過剰活性が内皮機能障害の原因となる。したがって、過剰なET-1シグナル伝達の阻害が、特定の心血管疾患に対する潜在的に魅力的な治療戦略と認識されている。エンドセリン受容体アンタゴニストがこれらの疾患のうちいくつかで試験され、2つが肺動脈性肺高血圧症の処置向けに承認されている。しかし、上記で説明したように、ET-1シグナル伝達の抑制は特定の患者集団において有害な結果を示すことがあり、これらの群の患者はET-1シグナル伝達に対抗する剤での処置から除外されるべきである。
【0220】
(表22)ヒトメサンギウム細胞および内皮細胞中のNrf2標的およびエンドセリン遺伝子発現に対するバルドキソロンメチルの効果
ヒトメサンギウム細胞および内皮細胞をバルドキソロンメチル(50もしくは250nM)または媒体で処理した。Nrf2標的遺伝子(NQO1、SRXN1、GCLC、およびGCLM)、ならびにエンドセリン1ならびにエンドセリン受容体AおよびBのmRNAレベルを定量化した。値は媒体対照に対する変化倍率を示す。NC=変化なし。
【0221】
また、インビボでのAIMによる処置によって、エンドセリン受容体の発現レベルが改変される。過剰濾過ならびに圧負荷誘導性腎損傷および腎不全の広く受け入れられたモデルである、ラットにおける慢性腎不全の5/6腎摘除モデルにおいて、バルドキソロンメチル類似体RTA dh404を試験した。5/6腎摘除モデルにおいてNF-κB活性化の増加およびNrf2活性化の減少によって引き起こされる酸化ストレスおよび炎症の増加によって、収縮期血圧および拡張期血圧の約30%の増加が生じる(Kim, 2010)。さらに、5/6腎摘除モデルは腎内および腎外の高血圧症および内皮機能障害を伴う。
【0222】
5/6腎摘除モデルにおいて、バルドキソロンメチル類似体RTA dh404は、組織保護を実現しかつ炎症促進性メディエーターおよび線維症促進性メディエーターの発現を抑制したことに加えて、血管拡張性エンドセリン受容体表現型を促進し、それにより、ET
A受容体の誘導が完全に抑制され、ET
B受容体の発現減少が部分的に逆転された(
図4)。これらのデータは、バルドキソロンメチルおよび類似体が、内皮機能障害を逆転させかつ血管拡張を促進するようにエンドセリン経路を調節することのさらなる証拠を示す。
【0223】
実施例2
モノクロタリン誘導性肺動脈性肺高血圧症のラットモデルにおける肺組織検査に対するRTA dh404の効果
バルドキソロンメチル類似体RTA dh404の経口投与の効果を、モノクロタリン(MCT)誘導性肺動脈性肺高血圧症(PAH)のラットモデルにおいて評価した。MCTは大環ピロリジンアルカロイドであり、肝臓中でチトクロムP450酵素によって毒性代謝物(すなわちデヒドロモノクロタリン)に活性化された後、PAH、単核肺血管炎、および右室肥大を特徴とする症候群を誘導する(Gomez-Arroyo et al., 2012)。
【0224】
RTA dh404を評価するために、雄Sprague-Dawleyラットは1日目にMCTの単回注射を受けた後、媒体(ゴマ油)、RTA dh404(2、10、もしくは30mg/kg/日)、または陽性対照シルデナフィル(60mg/kg/日)を21日間受けた。次に肺組織を、動脈壁肥厚、細胞浸潤、および肺水腫での組織病態によって分析した。媒体処置肺は、傷害および浮腫によって弾力性が失われたことを部分的に理由とする処理中の不十分な膨張のために、人為現象的に重症度がより高いようであった。RTA dh404は、肺内のMCTから誘導される顕微鏡的変化(すなわち細動脈肥厚、肺水腫、ならびに細胞およびフィブリン浸出)をすべての用量レベルで阻害し、RTA dh404用量10mg/kgが陽性対照シルデナフィルと同程度に有効である。肺水腫はRTA dh404 10mg/kg/日での処置およびシルデナフィル60mg/kg/日によって完全に抑制された(
図18)。
【0225】
また、RTA dh404の注射によるMCT誘導性PAHの抑制は、抗酸化Nrf2標的遺伝子のmRNA発現の用量依存的かつ有意な誘導および炎症促進性NF-κB標的遺伝子の発現の減少に関連していた(
図19および
図20)。
【0226】
全体として、これらのデータは、RTA dh404投与がMCT誘導性PAHのラットモデルにおける肺組織病態の改善に関連し、この改善が抗酸化Nrf2標的遺伝子の誘導および炎症促進性NF-κB標的遺伝子の抑制に関連していることを示唆している。
【0227】
実施例3
肺動脈性肺高血圧症の患者におけるバルドキソロンメチルの有効性および安全性の用量範囲試験
この2パートの第2相試験では、WHOグループ1 PAHの患者におけるバルドキソロンメチルの安全性、耐容性、および有効性を試験する。パート1は二重盲検ランダム化用量範囲プラセボ対照処置期間であり、パート2は延長期間である。適格患者は、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)および/またはホスホジエステラーゼ5型阻害剤(PDE5i)からなる疾患特異的経口PAH治療を必ず受けていた。先行治療の用量は必ず、1日目以前に少なくとも90日間安定していた。
【0228】
パート1
試験のパート1は用量漸増コホートおよび拡大コホートの両方を含む。用量漸増コホートは一度に1つずつ登録される。各コホートは次の8名の適格患者を含み、適格患者は、1日1回16週間投与されるバルドキソロンメチルまたは対応するプラセボを割当比3:1で受けるようにランダム化される。バルドキソロンメチルの出発用量を2.5mgとし、その後の用量を5、10、20、および30mgとする。
【0229】
各用量漸増コホートでは、8名の患者全員が4週目の来診を完了した後、Protocol Safety Review Committee(PSRC)が、次の用量漸増コホートに適した用量を決定するために、この試験から入手可能なすべてのデータを使用してバルドキソロンメチルの安全性および耐容性を評価する。PSRCは、次のより高い用量、より低い用量、または現在用量での別の用量漸増コホートをランダム化することを選択する。バルドキソロンメチルの安全性および耐容性を評価するために最大8つの用量漸増コホートが登録される。
【0230】
各用量漸増評価において、PSRCは、薬力学活性および有効性の兆候に関するデータも評価すると考えられ、バルドキソロンメチルの最大2用量での安全性および有効性をさらに特徴づける拡大コホートを追加することを推奨することがある。拡大コホートは一度に1つずつ登録され、各コホートは、バルドキソロンメチルおよび対応するプラセボを割当比3:1で受けるようにランダム化された最大24名の患者を含む。2つの拡大コホートは、PSRCが選択した用量でランダム化される。拡大コホートは、心肺運動負荷試験(CPET)評価の治験依頼者によって選択される部位のサブセットにおいてのみ登録されるものであり、CPET評価は、拡大コホートに登録されるすべての患者に必要である。認定された部位における用量拡大コホートでは、さらなる近赤外線分光法(NIRS)筋肉試験および筋生検が任意で行われる。拡大コホートが用量漸増コホートに並行して登録されることがあるが、これらのコホートのランダム化は独立して行われる。各コホートにおける少なくとも24名の患者が16週目の評価との比較用のベースラインにおける完全に評価可能なCPET評価を有することを確実にするために、両コホートを通じて拡大コホートのサイズを最大で患者合計10名分増加させることができる。したがって、2つの拡大コホートを合わせても患者合計58名を超えない。
【0231】
試験のパート1のすべての患者(すなわち用量漸増コホートおよび拡大コホートの両方)は同じ来診スケジュールに従う。ランダム化後、患者を1、2、4、8、12、および16週目の処置の間に、3、10、および21日目の電話連絡によって個人的に評価する。パート1の間に試験薬の摂取を中断したことが理由で、または計画通りに16週の処置期間を完了したが続いて試験のパート2に進まないことを選択したことが理由で、試験のパート2(すなわち延長期間)に入らない患者は、処置終了来診、および試験薬の最終用量の投与日の4週間後の追跡来診を完了する。
【0232】
パート2(延長期間)
試験のパート1において早期に処置を中断する患者は、引き続き試験のパート2に進む資格を有さない。計画通り16週間の処置期間を完了するパート1のすべての患者は、バルドキソロンメチルの中期および長期の安定性および有効性を評価するための延長期間に引き続き直接進む資格を有する。延長期間の1日目は処置期間の16週目の来診と同じであり、したがって、延長期間に引き続き進む患者は同じ用量で試験薬を摂取し続ける。試験のパート1においてプラセボにランダム化された患者は、延長期間においてコホート特異的用量でバルドキソロンメチルを受けるように割り当てられる。延長期間の最初の4週間、すべての患者は、パート1と同じ最初の4週間の来診スケジュールを使用して評価された後、患者が試験薬を服用し続ける限り、延長期間中の12週間毎に確認される。試験のパート2中に試験薬投与を中断した場合、試験薬の最終用量の投与日の4週間後に行われる最終追跡来診において、患者を個人的に評価する。延長期間は、最後の患者が試験の延長部分に入った後、少なくとも12週間続くように計画される。
【0233】
A. 患者集団
最大122名の患者(用量漸増コホート64名および拡大コホート58名)が試験のパート1に登録される。パート1からのすべての適格患者がパート2に含まれ、新規患者は試験のパート2に対してランダム化されない。
【0234】
主な包含基準は以下の通りである:
1. 試験同意時点で18歳以上75歳以下の成人男性および女性患者;
2. BMI>18.5kg/m
2;
3. 症候性肺動脈性肺高血圧症WHO/NYHA FCクラスIIおよびIII;
4. WHOグループ1 PAHの以下のサブタイプのうちの1つ:
a. 特発性または遺伝性PAH;
b. 結合組織病に関連するPAH;
c. シャント修復術の少なくとも1年後の単純先天性左右シャントに関連するPAH;
d. 食欲抑制因子に関連するPAH;
e. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に関連するPAH;
5. スクリーニング前の36ヶ月以内に診断用の右心カテーテル留置が実行および記述され、スクリーニングによって以下のすべての基準によるPAHの診断が確認された:
a. 平均肺動脈圧≧25mmHg(安静時);
b. 肺動脈楔入圧(PCWP)≦15mmHg;
c. 肺血管抵抗>240ダイン秒/cm
5または>3mmHg/リットル(L)/分;
6. BNPレベル≦200pg/mLを示す;
7. スクリーニング中の異なる日に行われ、両試験が互いにスクリーニングの15%の範囲内で測定を行う、2つの連続した試験において、平均6分歩行距離(6MWD)150メートル以上450メートル以下を示す。
8. エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)および/またはホスホジエステラーゼ5型阻害剤(PDE5i)からなる疾患特異的経口PAH治療を受けていた。PAH治療は、1日目以前の少なくとも90日間の安定した用量での治療でなければならない(「エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、リオシグアト、ホスホジエステラーゼ5型阻害剤(PDE5i)、またはプロスタサイクリン(皮下、経口、または吸入)を含む少なくとも1つの、但し2つを超えない疾患特異的PAH治療」を含むように修正)。
9. PAHに影響しうる以下の治療のいずれかを受ける場合、1日目以前の30日間、安定した用量を維持した: 血管拡張薬(カルシウムチャネル遮断薬を含む)、ジゴキシン、L-アルギニン補充、または酸素補充;
10. プレドニゾンを受ける場合、1日目以前の少なくとも30日間、20mg/日(または他の副腎皮質ステロイドの場合は同等の用量)という安定した用量を維持した。任意の他の薬物による結合組織病(CTD)の処置を受ける場合、用量は試験中安定したままでなければならない;
11. 1日目以前の90日以内に肺機能試験(PFT)を行ったところ、以下の基準による重大な実質性肺疾患のエビデンスはなかった:
a. 1秒強制呼気量(FEV1)≧65%(予測値);
b. FEV1/努力肺活量比(FEV1/FVC)≧65%; または
c. 全肺気量≧65%(予測値)、結合組織疾患の患者において必ず測定される;
12. スクリーニングの前に換気血流(V/Q)肺スキャン、スパイラル/ヘリカル/電子線コンピュータ断層撮影(CT)、または肺血管造影を受けたところ、血栓塞栓性疾患のエビデンスは示されない(すなわち、肺塞栓症の通常のまたは低い可能性が認められるはずである)。V/Qスキャンが異常であった場合(すなわち通常のまたは低い可能性以外の結果)、確認CTまたは選択的肺血管造影によって慢性血栓塞栓性疾患を除外しなければならない;
13. Modification of Diet in Renal Disease(MDRD)4変数式を使用して推定糸球体濾過量(eGFR)≧60mL/分/1.73m
2として規定される十分な腎機能を有する(注: これは後に≧45mL/分/1.73m
2に引き下げられた);
14. スケジュールされた来診、処置計画、臨床検査、および他の試験手順に応じる意思および能力がある;
15. 患者が委任した任意の手順の開始前に試験に関連するすべての局面を患者(または法的に許容される代表者)が知らされたことを示す、個人署名および日付が付されたインフォームドコンセント文書の証拠。
【0235】
主な除外基準は以下の通りである:
1. 承認された形態とは異なるやり方で試験もしくは使用中の医薬品、または1日目以前の30日以内に非承認の適応症について使用される場合の医薬品を包含する、他の研究臨床試験に参加したこと;
2. スクリーニング以前の90日以内に肺のリハビリテーションのための集中的運動トレーニングプログラムに参加したこと;
3. 1日目以前の60日以内にプロスタサイクリン/プロスタサイクリン類似体での慢性処置を受けたこと。右心カテーテル留置中に急性血管拡張薬試験のためにプロスタサイクリンを使用することは許容される;
4. 1日目以前の30日以内に静脈内循環作動薬を受けることを必要とすること;
5. 静止期間後のスクリーニング中に着席時収縮期血圧(BP)>160mmHgまたは着席時拡張期血圧>100mmHgをエビデンスとする制御不能の全身性高血圧症を示すこと;
6. 静止期間後のスクリーニング中に収縮期BP<90mmHgを示すこと;
7. 臨床的に有意な左心疾患、および/または以下のいずれかを含むがそれに限定されない臨床的に有意な心疾患の病歴を有すること:
a. 臨床的に有意な場合、肺高血圧症による三尖弁閉鎖不全症を除く先天性または後天性弁膜症;
b. 心膜狭窄;
c. 拘束性またはうっ血性心筋症;
d. スクリーンA心エコー図(ECHO)における左室駆出率<40%;
e. 症候性冠疾患(以前の心筋梗塞、経皮的冠動脈形成、冠動脈バイパス術、または狭心症胸痛)の任意の現病歴または前病歴;
8. 研究者の評価による、1日目以前の30日以内の急性非代償性心不全;
9. 左室拡張障害の以下の臨床的危険因子のうち3つ以上を有すること:
a. 年齢>65歳;
b. BMI≧30kg/m
2;
c. 全身性高血圧症の病歴;
d. 2型糖尿病の病歴;
e. 心房細動の病歴;
10. 1日目以前の180日以内の心房中隔裂開術の病歴;
11. 未処置の閉塞性睡眠時無呼吸の病歴;
12. HIV関連PAHの患者の場合、以下のうちいずれか:
a. スクリーニング前の180日以内の同時に生じた日和見感染;
b. スクリーニング前の90日以内の検出可能なウイルス負荷;
c. スクリーニング前の90日以内のクラスター分類(CD+)T細胞数<200mm
3;
d. スクリーニング前の90日以内の抗レトロウイルスレジメンの変化;
e. 吸入ペンタミジンの使用;
13. 軽度〜重度の肝障害(Child-PughクラスA〜C)として定義されるB型肝炎および/またはC型肝炎(最近の感染症および/または活動性ウイルス複製のエビデンスあり)を含む、門脈圧亢進症または慢性肝疾患の病歴を有する;
14. スクリーニング時の血清アミノトランスフェラーゼ(ALTまたはAST)レベル>正常上限(ULN);
15. スクリーニング時のヘモグロビン(Hgb)濃度<8.5g/dL;
16. ダウン症候群の診断;
17. スクリーニング前の5年以内の悪性腫瘍の病歴、但し限局性皮膚がんまたは子宮頸がんを例外とする;
18. 試験に適合性のない細菌感染症、真菌感染症、またはウイルス感染症が起こっていること;
19. 有効薬物またはアルコールの濫用がわかっているまたは疑われていること;
20. 大手術がスクリーニング以前の30日以内に行われたかまたは試験の途中に行われるように計画されていること;
21. スクリーニング中、試験薬を摂取している間、および試験薬の最終用量を経口摂取した後の少なくとも30日間に、避妊法を実施する意思がないこと(出産能力があるパートナーを有する男性、および出産能力がある女性の両方);
22. 妊娠中または授乳中の女性;
23. 6MWTの実行を妨げるであろう任意の能力障害または機能障害;
24. 試験登録によって患者が危険にさらされるであろうと研究者が判断する、任意の異常な臨床検査レベル;
25. 患者が試験プロトコールの要件に従うことができないか、または任意の理由によって試験に適さないという研究者の判断;
26. 試験薬の任意の成分に過敏であることがわかっていること;
27. 言語上の問題、精神発達不良、または脳機能障害が理由で研究者とコミュニケーションまたは協力できないこと。
【0236】
B. 手順
試験のパート1の間、バルドキソロンメチル(2.5、5、10、20、もしくは30mg)またはプラセボを16週間、朝1日1回経口投与する。試験のパート2の間、バルドキソロンメチル(2.5、5、10、20、または30mg)またはプラセボを延長期間中、朝1日1回経口投与する。
【0237】
各用量漸増コホートにおける割当比3:1(バルドキソロンメチル:プラセボ)でランダム化された8名の患者のサンプルサイズは、総安全性シグナルの同定のためにバルドキソロンメチルで処置された6名の患者を含む。各用量での患者の数が少ないために、安全性を完全に特徴づけることが見込まれないことから、バルドキソロンメチルで処置された患者6名のうち懸案となる問題が同定されたのがわずか1名(16%)であることは、用量を漸増させる前に、現在の用量レベルでの別のコホートまたはPSRCが決定するより低い用量での別のコホートを追加することで追加の情報を集めることが必要であることを示唆しうる。拡大用に選択される2つの各用量において、割当比3:1の32名の患者(用量漸増コホートN=8; 拡大コホートN=24)の組み合わせコホートサイズによって、安全性、耐容性、および有効性を特徴づけるための最低24名のバルドキソロンメチルで処置される患者が与えられる。
【0238】
C.転帰
本試験の目的は、バルドキソロンメチルのさらなる試験のための推奨用量範囲を決定すること、バルドキソロンメチルで16週間処置した患者対プラセボが16週間与えられた患者における6分歩行距離(6MWD)のベースラインからの変化を評価すること、および16週間のバルドキソロンメチルでの処置対16週間のプラセボの投与の安全性および耐容性を評価することにある。
【0239】
以下の基準を評価する:
有効性: 16週目の6分歩行距離(6MWD)のベースラインからの変化; N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-Pro BNP); Borg呼吸困難指数; WHO/NYHA肺動脈性肺高血圧症(PAH)機能クラス(FC); ドプラ心エコー法(ECHO)、心肺運動試験(CPET)、任意での心臓磁気共鳴画像法(MRI)、任意での近赤外線分光法(NIRS)筋肉試験、および任意での筋生検中に収集されるパラメータ; ならびに臨床悪化。
安全性: 有害事象および重篤有害事象の頻度、強度、および試験薬との関連、併用医薬、ならびに以下の評価のベースラインからの変化: 理学的検査、バイタルサイン測定、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)、12誘導心電図(ECG)、臨床検査測定、および体重。
薬物動態: 各分析物のバルドキソロンメチル血漿中濃度-時間データ、代謝物濃度-時間データ、および推定薬物動態パラメータ。
【0240】
本明細書において開示および特許請求したすべての方法を、本開示に照らして、過度の実験なしに実施および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して説明してきたが、当業者には、本発明の概念、真意、および範囲を逸脱することなく変形を該方法におよび本明細書に記載の方法の段階または段階の順序に適用することができることは明らかであろう。より具体的には、化学的にかつ生理学的に関連する特定の剤で、同一のまたは同様の結果を実現しながら、本明細書に記載の剤を代用することができることは明らかであろう。当業者に明らかなすべてのそのような同様の代用物および修正は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の真意、範囲、および概念内にあると見なされる。
【0241】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に開示される詳細を補足する例示的な手順上の詳細または他の詳細を示す限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。