(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コイル導体が平面に巻き形成されたフィードバックコイルと、前記コイル導体に沿って長尺形状に形成された複数の磁気抵抗効果素子を有する磁気検知部と、前記磁気検知部が被測定磁界を検知したときの検知出力に応じて前記コイル導体に前記被測定磁界を打ち消す向きの磁界を誘導する電流を与えるコイル通電部と、前記コイル導体に流れる電流量を検知する電流検知部、とが設けられた平衡式磁界検知装置において、
1つの前記磁気検知部では、複数本の前記磁気抵抗効果素子が平行に配置され且つ直列に接続され、それぞれの前記磁気抵抗効果素子の検知軸が同じ向きに設定されており、
1本の前記コイル導体に対して、同じ前記磁気検知部を構成する前記磁気抵抗効果素子が複数本対向していることを特徴する平衡式磁界検知装置。
前記コイル導体の断面形状は、幅方向の寸法よりも高さ方向の寸法が短い長方形状であり、前記断面の前記幅方向に延びる長辺に、前記磁気抵抗効果素子が対向している請求項1または2記載の平衡式磁界検知装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている磁界検知装置では、フィードバックコイルの配線パターンと、磁気抵抗効果素子の長尺パターンとが1本対1本の関係で対向する構造であるため、以下の課題がある。
【0007】
(1)フィードバックコイルの配線パターンと磁気抵抗効果素子の長尺パターンとが1本対1本で対向する構造であると、配線パターンの配列ピッチを長尺パターンの配列ピッチに合わせなくてはならないため、配線パターンの幅寸法は当然に小さくなる。幅寸法の小さい配線パターンを周回するキャンセル磁場が誘導されると、キャンセル磁界は、長尺パターンの幅方向の中央部において感度軸方向である水平方向に比較的強く作用するのに対し、長尺パターンの幅方向の両側部では、感度軸と交差する向きに作用しやすくなる。その結果、磁気抵抗効果素子の検知出力の線形性が低下し、また交番磁界に対して前記検知出力のヒステリシスも大きくなる。
【0008】
(2)フィードバックコイルの配線パターンと磁気抵抗効果素子の長尺パターンとが1本対1本で対向する構造であると、1本の配線パターンに流れる電流によって、1本の長尺パターンに対して比較的大きなキャンセル磁界が与えられる。そのため、電流磁界の増減に対して、これをキャンセルするのに必要なコイル電流の増減幅を大きくできず、電流磁界に対する感度を高くするのに限界がある。
【0009】
(3)また、フィードバックコイルは、幅寸法の小さい配線パターンを多数巻きで形成しなくてはならないため、インピーダンスが上昇し、消費電力が大きくなる。
【0010】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、フィードバックコイルの1本のコイル導体に対して、磁気抵抗効果素子を複数本対向させることで、前記各課題を解決できるようにした平衡式磁界検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、コイル導体が平面に巻き形成されたフィードバックコイルと、前記コイル導体に沿って長尺形状に形成された複数の磁気抵抗効果素子を有する磁気検知部と、前記磁気検知部が被測定磁界を検知したときの検知出力に応じて前記コイル導体に前記被測定磁界を打ち消す向きの磁界を誘導する電流を与えるコイル通電部と、前記コイル導体に流れる電流量を検知する電流検知部、とが設けられた平衡式磁界検知装置において、
1つの前記磁気検知部では、複数本の前記磁気抵抗効果素子が平行に配置され且つ直列に接続され、それぞれの前記磁気抵抗効果素子の検知軸が同じ向きに設定されており、
1本の前記コイル導体に対して、同じ前記磁気検知部を構成する前記磁気抵抗効果素子が複数本対向していることを特徴するものである。
【0012】
本発明の平衡式磁界検知装置は、前記磁気抵抗効果素子が、前記コイル導体の直線状に延びる部分に対向しているものである。
【0013】
本発明の平衡式磁界検知装置では、前記コイル導体の断面形状は、幅方向の寸法よりも高さ方向の寸法が短い長方形状であり、前記断面の前記幅方向に延びる長辺に、前記磁気抵抗効果素子が対向している。
【0014】
本発明の平衡式磁界検知装置は、前記磁気抵抗効果素子が、前記コイル導体から前記幅方向へ突出していないことが好ましい。
【0015】
本発明の平衡式磁界検知装置は、前記磁気抵抗効果素子へ至る被測定磁界を減衰させる磁気シールド層が設けられているものとして構成できる。
【0016】
本発明の平衡式磁界検知装置は、電流路が設けられ、前記電流路で誘導された前記被測定磁界が、前記磁気抵抗効果素子に与えられるいわゆる電流検知装置に使用することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の平衡式磁界検知装置は、フィードバックコイルの1本のコイル導体に、磁気検知部を構成する磁気抵抗効果素子が複数本対向している。そのため、個々のコイル導体の幅寸法を広くすることができ、その結果、各磁気抵抗効果素子に対して感度軸に沿う方向にフィードバック磁性を与えやすくなり、磁気検知部の検知出力の線形性を高め、交番電流を与えたときのヒステリシスも低下することができる。
【0018】
また、磁気抵抗効果素子に対して被測定磁界を相殺するために必要なフィードバック磁界を生成するために、フィードバックコイルに流れる電流量が多くなる。その結果、被測定磁界を検知するときのコイル電流を多くでき、感度を向上させることが可能になる。
【0019】
コイル導体は幅寸法を大きくでき、またフィードバックコイルの巻き数も少なくできるので、インピーダンスを低下させることができ、消費電力も低減させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態の平衡式磁界検知装置1は、
図1と
図2および
図4に示す電流路40を流れる被測定電流I0の電流量を検知する電流検知装置の一部として使用されている。平衡式磁界検知装置1は、磁気検知部11,12,13,14と、フィードバックコイル30、およびシールド層3を有している。
【0022】
図1と
図2および
図4に示す本発明の実施の形態では、電流路40が、フィードバックコイル30および磁気検知部11,12,13,14のZ方向の真上に配置されている。電流路40の位置は、その電流路40に流れる被測定電流I0によって発生する磁界が、磁気検知部11,12,13,14に対して感度軸方向(Y方向)の成分を与えることができれば、前記実施の形態以外の場所であってもよい。
【0023】
図4(A)の断面図に示すように、平衡式磁界検知装置1は、基板2を有している。基板2はシリコン(Si)基板である。基板2の表面2aは平坦面であり、この表面2aに、磁気検知部11,12,13,14が形成されている。
図11と
図2には、磁気検知部11,12,13,14が平面図で示され、
図4(A)には1個の磁気検知部11が断面図で示されている。
【0024】
図1と
図2に示すように、磁気検知部11,12,13,14はX方向へ等間隔で配置されている。前記電流路40はX方向に延びている。被測定電流I0は交流電流(または直流電流)であり、X方向に流れる。
【0025】
図1と
図2に、磁気検知部11,12,13,14の配置構造と配線構造が示され、
図7に、その回路図が示されている。
図7では、説明の都合上、電流路40が磁気検知部11,12,13,14のY方向の左側に並べて記載されている。ただし、実際の平衡式磁界検知装置1では、
図1や
図4などに示すように、電流路40は、磁気検知部11,12,13,14のZ方向の真上に配置されている。
【0026】
図1と
図3の図示左側の端部に位置する磁気検知部11と図示右側の端部に位置する磁気検知部13に配線路5が接続されており、配線路5の端末部に接続ランド部5aが形成されている。磁気検知部11と磁気検知部12は直列に接続され、磁気検知部13と磁気検知部14は直列に接続されている。中央に位置する磁気検知部12と磁気検知部14にはそれぞれ配線路6が接続されており、それぞれの配線路6の端末部に接続ランド部6aが形成されている。
【0027】
直列に接続されている磁気検知部11と磁気検知部12の中間に配線路7が接続され、直列に接続されている磁気検知部13と磁気検知部14の中間に配線路8が接続されている。配線路7の端末部に接続ランド部7aが形成され、配線路8の端末に接続ランド部8aが形成されている。
【0028】
前記配線路5,6,7,8は基板2の表面2aに形成された金や銅などの導電層で形成されている。前記接続ランド部5a,6a,7a,8aも金などの導電層で形成されている。
【0029】
図3に磁気検知部11の平面形状が拡大して示されている。磁気検知部11は、Y方向の幅寸法よりもX方向の長手寸法が大きいストライプ形状(長尺形状)の複数本の磁気抵抗効果素子11aにより構成されている。複数本のストライプ形状の磁気抵抗効果素子11aは互いに平行に配置されている。隣り合う磁気抵抗効果素子11aの図示左側の端部が接続電極12aで接続され、図示右側の端部が接続電極12bで接続されて、磁気抵抗効果素子11aがいわゆるミアンダパターンに接続されている。1つの磁気検知部11内では全ての磁気抵抗効果素子11aが直列に接続されている。磁気検知部11では、
図3の図示上方に位置する磁気抵抗効果素子11aが、配線路7に接続され、図示下方に位置する磁気抵抗効果素子11aが配線路5に接続されている。
【0030】
他の磁気検知部12,13,14も平面形状は磁気検知部11と同じであり、それぞれ、ストライプ形状の磁気抵抗効果素子11aが、接続電極12a,12bによっていわゆるミアンダパターンに接続されている。
【0031】
磁気検知部11,12,13,14のそれぞれに設けられた磁気抵抗効果素子11aは、巨大磁気抵抗効果を発揮する巨大磁気抵抗効果素子層(GMR層)であり、基板2の表面に形成された絶縁下地層の上に、固定磁性層と非磁性層とフリー磁性層が順に積層され、フリー磁性層の表面が保護層で覆われている。これらの層はCVDやスパッタ工程で形成され、その後にエッチングでストライプ形状に形成される。さらにストライプ形状の磁気抵抗効果素子をミアンダパターンに接続する接続電極12a,12bおよび配線路5,6,7,8が形成される。
【0032】
固定磁性層とフリー磁性層は長手方向がX方向に向けられたストライプ形状であり、固定磁性層の磁化がY方向に向けて固定されている。固定磁性層は、第1磁性層と非磁性中間層と第2の磁性層とが積層されたセルフピン止め構造である。あるいは、反強磁性層の上に固定磁性層が積層され、反強磁性層との間の反強磁性結合により、固定磁性層の磁化が固定されている構造であってもよい。
【0033】
図2と
図3に、固定磁性層の磁化の固定方向Pが矢印で示されている。磁化の固定方向Pがそれぞれの磁気抵抗効果素子11aの感度軸方向であり、磁気検知部11,12,13,14の感度軸方向である。磁気検知部11と14に設けられた磁気抵抗効果素子11aは磁化の固定方向Pが同じであり、共に磁化の固定方向Pが図示下向きである。磁気検知部12と13に設けられた磁気抵抗効果素子11aは磁化の固定方向Pが同じであり、共に磁化の固定方向Pが図示上向きである。
【0034】
前記磁気抵抗効果素子11aでは、フリー層の磁化Fが形状異方性や反強磁性層を用いたバイアス磁界などによってX方向に単磁区化されて揃えられている。それぞれの磁気検知部11,12,13,14において、感度軸(P方向)方向に沿う向きの外部磁界が与えられると、フリー磁性層においてX方向に揃えられていた磁化Fの向きがY方向へ向けて傾けられる。フリー磁性層の磁化のベクトルと磁化の固定方向Pとの角度が小さくなると、磁気抵抗効果素子11aの電気抵抗が低下し、フリー磁性層の磁化のベクトルと磁化の固定方向Pとの角度が大きくなると、磁気抵抗効果素子11bの抵抗値が大きくなる。
【0035】
図7の回路図に示すように、配線路5に電源Vddが接続され、配線路6,6が接地電位に設定されて、磁気検知部11,12,13,14で構成されているフルブリッジ回路に定電圧が印加されている。配線路8からは中点電圧V1が得られ、配線路7からは中点電位V2が得られる。
【0036】
磁気検知部11(12,13,14)の表面に下部絶縁層が形成されており、
図4(A)に示すように、下部絶縁層の表面にフィードバックコイル30が形成されている。
図1にフィードバックコイル30の平面パターンが示されている。フィードバックコイル30は、一方のランド部31から他方のランド部32に向けて時計回りの螺旋状に巻かれて形成されている。磁気検知部11,12,13,14の上には、フィードバックコイル30の対向検知部30aが重ねられている。
【0037】
対向検知部30aでは、フィードバックコイル30において螺旋状に巻かれているコイル導体35が、互いに平行で、X方向へ直線状に延びている。
図4には、対向検知部30aにおけるフィードバックコイル30の断面形状が示されている。対向検知部30aではコイル導体35がY方向へ一定の間隔を空けて複数条が配列している。
【0038】
コイル導体35はメッキ層であり、低抵抗の非磁性金属層である金で形成されている。ただし、コイル導体35は銅など他の金属で形成してもよい。
図4(B)に示すように、コイル導体35の断面形状は、Y方向の幅寸法W1が、Z方向の高さ寸法H1よりも長い長方形状である。幅寸法W1は20~60μm程度であり、高さ寸法H1は幅寸法W1の1/3以下である。
【0039】
図4(A)(B)に示すように、磁気検知部11を構成する磁気抵抗効果素子11aは、Y方向に一定のピッチで配列している。コイル導体35の下面である対向面35aは断面形状で長辺として現れる部分である。1条(1本)のコイル導体の対向面35aに対し、Z方向において、複数条(複数本)の磁気抵抗効果素子11aが対向している。図の実施の形態では、対向面35aに3条(3本)の磁気抵抗効果素子11aが対向している。
【0040】
他の磁気検知部12,13,14においても同様に、1条のコイル導体35の対向面35aに3条の磁気抵抗効果素子11aが対向している。
【0041】
フィードバックコイル30の対向検知部30aの上は上部絶縁層で覆われており、上部絶縁層の上にシールド層3が形成されている。シールド層3はNi−Fe合金(ニッケルー鉄合金)などの磁性金属材料で形成されたメッキ層である。
【0042】
図7の回路部に示すように、磁気検知部11,12,13,14でブリッジ回路が構成されており、配線路8で得られる中点電圧V1と配線路7で得られる中点電位V2が、コイル通電部15に与えられる。コイル通電部15は、差動増幅部15aと補償回路15bとを有している。差動増幅部15aはオペアンプを主体として構成されており、入力された中点電圧V1とV2との差(V1−V2)が検出電圧Vdとして求められる。この検出電圧Vdが補償回路15bに与えられ補償電流であるコイル電流Idが生成され、コイル電流Idは、フィードバックコイル30に与えられる。
【0043】
なお、差動増幅部15aと補償回路15bとが一体となったものが、補償型の差動増幅部と呼ばれることがある。
【0044】
図7に示すように、フィードバックコイル30のランド部31が補償回路15bに接続され、ランド部32が電流検知部17に接続されている。電流検知部17は、フィードバックコイル30に接続された抵抗17aと、抵抗17aに作用する電圧を検知する電圧検知部17bとを有している。
【0045】
次に、平衡式磁界検知装置1の動作を説明する。
図7に示すように、電流路40においてX方向へ流れる被測定電流I0によって被測定磁界H0が誘導される。被測定電流I0は交流電流または直流電流であるが、ここでは、被測定電流I0が、
図7において図示上向きに流れ、
図4(A)において紙面奥方向へ流れている瞬間を想定する。このときの被測定磁界H0の向きは
図4(A)と
図7において矢印で示され、磁気検知部11,12,13,14に、磁界のY方向の成分が印加される。
【0046】
図2と
図7に示すように、磁気検知部11,14と磁気検知部12,13とで、感度軸である固定磁性層の磁化の固定方向Pが互いに逆向きである。
図4(A)と
図7において矢印で示す向きの被測定磁界H0が磁気検知部11,12,13,14に与えられると、磁気検知部11と磁気検知部14では、磁気抵抗効果素子11aの抵抗値が増加し、磁気検知部12と磁気検知部13では、磁気抵抗効果素子11aの抵抗値が低下する。このとき、差動増幅部15aの出力値である検出電圧Vdは被測定電流I0が大きくなるにしたがって増大していく。
【0047】
補償回路15bからは、フィードバックコイル30にコイル電流Idが与えられ、フィードバックコイル30にキャンセル電流Id1が流れる。対向検知部30aでは、被測定電流I0とキャンセル電流Id1の流れる方向が逆向きとなり、キャンセル電流Id1によって、磁気検知部11,12,13,14に、被測定磁界H0を相殺する向きのキャンセル磁界Hdが与えられる。
【0048】
被測定電流I0で誘導される被測定磁界H0が、キャンセル磁界Hdよりも大きいときは、配線路8で得られる中点電圧V1が高くなり、配線路7で得られる中点電位V2が低くなって、差動増幅部15aの出力である検出電圧Vdが高くなる。このとき、補償回路15bでは、キャンセル磁界Hdを増加させて前記検出電圧Vdをゼロに近づけるためのコイル電流Idが生成され、このコイル電流Idがフィードバックコイル30に与えられる。磁気検知部11,12,13,14に作用するキャンセル磁界Hdと被測定磁界H0とが平衡状態となって、前記検出電圧Vdが所定値以下となったときに、フィードバックコイル30に流れているコイル電流Id(キャンセル電流Id1)が
図7に示す電流検知部17で検知され、これが被測定電流I0の電流測定値となる。
【0049】
前記平衡式磁界検知装置1では、磁気検知部11,12,13,14とフィードバックコイル30の上にシールド層3が形成されており、被測定電流I0で誘導される被測定磁界H0の一部がシールド層3に吸収されるため、磁気検知部11,12,13,14に与えられる被測定磁界H0が減衰させられる。その結果、磁気検知部11,12,13,14の磁気抵抗効果素子11aが磁気飽和するまでの被測定電流I0の変化の範囲を広げることができ、ダイナミックレンジを広げることが可能になる。
【0050】
次に、
図4に示すように、フィードバックコイル30の対向検知部30aにおいて、1条のコイル導体35の対向面35aに3条の磁気抵抗効果素子11aが対向している。
【0051】
そのため、個々の磁気抵抗効果素子11aに対して感度軸(固定磁化の方向P)と平行に作用する磁場成分を大きくでき、磁気検知部11,12,13,14での検知出力の線形性とリニアリティを高く維持することができる。また、磁気検知部11,12,13,14の抵抗値を変化させるのに必要となるコイル電流Idすなわちキャンセル電流Id1が大きくなるので、磁気検知部での検知感度を高めることが可能になる。
【0052】
図5(A)には、比較例の平衡式磁界検知装置101の断面図が記載されている。
図5(A)は
図4(A)と同じ個所の断面を示している。
【0053】
図4(A)に示す実施の形態の磁気検知装置1と、
図5(A)に示す比較例の平衡式磁界検知装置101とで、磁気検知部11,12,13,14における磁気抵抗効果素子11aのY方向の幅寸法SWとY方向の配列ピッチが同じである。
【0054】
ただし、
図5(A)に示す比較例では、フィードバックコイル130の対向検知部130aにおける個々のコイル導体135のY方向の幅寸法が小さく、コイル導体135と磁気抵抗効果素子11aとが1本対1本で上下に対向している。
図4(A)と
図5(A)とでは、フィードバックコイル30,130の対向検知部30a,130aのY方向の幅寸法はほぼ同じである。したがって、
図5(A)に示す比較例でのフィードバックコイル130のコイル導体135の巻き数は、
図4(A)に示す実施の形態のフィードバックコイル30の巻き数よりも多くなっている。
【0055】
図6(A)は、
図4(A)に示す実施の形態において、フィードバックコイル30を構成するコイル導体35の下面である対向面35aから図示下側に0.5μm離れた位置において、個々のコイル導体35から誘導されるキャンセル磁界HdのうちのY方向の成分を測定した結果を示している。
図6(B)は、
図5(A)に示す比較例において、フィードバックコイル30の下面から図示下側に0.5μm離れた位置で、個々のコイル導体135から誘導されるキャンセル磁界HdのうちのY方向の成分を測定した結果を示している。
【0056】
図6(A)(B)において、横軸は、
図4(A)と
図5(A)に示す0点を起点とする右方向(+)と左方向(−)のY座標位置を示している。縦軸は、キャンセル磁界HdのY方向成分の強度(mT)を示している。
【0057】
図4に示す実施の形態でのコイル導体35の断面形状は、Y方向の幅寸法W1が22μmであり、Z方向の高さ寸法H1が5μmである。
図5に示す比較例でのコイル導体135の断面形状は、Y方向の幅寸法が2μmであり、Z方向の高さ寸法が5μmである。
図4と
図5において、個々の磁気抵抗効果素子11aのY方向の幅寸法SWを4μmとした。
【0058】
図6に示すキャンセル磁界Hdを誘導するために、実施の形態のフィードバックコイル30と比較例のフィードバックコイル130のそれぞれにコイル電流Idとして10mAの直流電流を与えた。
【0059】
図5(A)に示す比較例では、Y方向の幅寸法が小さいコイル導体135が短いピッチで並んでいる。そのため、
図6(B)に示すように、磁気抵抗効果素子11aが配列している高さ位置でのキャンセル磁界HdのY方向成分が、コイル導体135の配列ピッチに合わせて細かく変動している。これに対し、
図4(A)に示す実施の形態では、個々のコイル導体35のY方向の幅寸法が大きいため、
図6(A)に示すように、磁気抵抗効果素子11aが配列している高さ位置に、キャンセル磁界HdのY方向成分が作用しやすくなる。
【0060】
さらに、Y方向での単位幅当たりのキャンセル電流Id1の電流量、すなわちY方向での電流密度は、
図5(A)の比較例に比べて、
図4(A)の実施の形態の方が低くなっている。
【0061】
以上から、本発明の実施の形態の平衡式磁界検知装置1は、比較例の平衡式磁界検知装置101に比較して以下の効果を奏することができる。
【0062】
(1)
図5(B)に示すように、比較例では、個々のコイル導体135で誘導されたキャンセル磁界Hdの周回成分が磁気抵抗効果素子11aに作用する。そのため、幅寸法SWの磁気抵抗効果素子11aの幅方向の中心部ではキャンセル磁界HdのうちのY方向成分が強くなるが、幅寸法SWの両側部では、キャンセル磁界HdのうちのY方向成分が弱くなる。したがって、キャンセル電流Id1が変化したときの磁気抵抗効果素子11aの抵抗値の変化の線形性が低下することになる。また、コイル電流Idが交流電流で、キャンセル磁界Hdが交番磁界となったときの、磁気抵抗効果素子11aの抵抗値の変化のヒステリシスも大きくなる。
【0063】
これに対し、
図4(B)に示すように、実施の形態では、Y方向の幅寸法の大きい1条のコイル導体35で誘導されるキャンセル磁界HdのY方向の成分が、個々の磁気抵抗効果素子11aに作用しやすくなり、特に、コイル導体35に対向する3条の磁気抵抗効果素子11aのうちの中央部に位置するものに対しては、キャンセル磁界HdのY方向成分が支配的に作用するようになる。したがって、実施の形態の平衡式磁界検知装置1では、磁気検知部11,12,13,14の検知出力の線形性を維持しやすくなり、キャンセル磁界Hdが交番電流のときのヒステリシスも低減できるようになる。
【0064】
(2)
図4の実施の形態におけるコイル電流Idと
図5の比較例におけるコイル電流Idを同じ値としたときに、
図6(A)に示すように、実施の形態において、個々の磁気抵抗効果素子11aに作用するキャンセル磁界Hdは、
図6(B)に示すように、比較例において個々の磁気抵抗効果素子11aに作用するキャンセル磁界Hdよりも弱くなる。
【0065】
そのため、磁気検知部11,12,13,14で検知する被測定磁界H0をキャンセルする大きさのキャンセル磁界Hdを磁気抵抗効果素子11aに与えるときに、そのために必要となるコイル電流Idは、
図4に示す実施の形態の方が、
図5に示す比較例よりも大きくなる。
【0066】
図11には、横軸に被測定磁界H0の大きさが示され、縦軸に被測定磁界H0をキャンセルするのに必要なコイル電流Idが示されている。
図5に示す比較例では、
図11において直線(ii)で示すように、所定幅で変化する被測定磁界H0をキャンセルするのに必要なコイル電流Idの増減幅が狭いのに対し、
図4に示す実施の形態では、直線(i)で示すように、所定幅で変化する被測定磁界H0をキャンセルするのに必要なコイル電流Idの増減幅が広くなっている。これは実施の形態の平衡式磁界検知装置1が、比較例の平衡式磁界検知装置101に比べて検知感度が高くなることを意味している。
【0067】
したがって、比較的弱い被測定磁界H0であっても、高いS/N比で検知出力を得ることができる。
【0068】
(3)
図4に示す実施の形態では、個々のコイル導体35の断面積を大きくできるため、フィードバックコイル30の抵抗値を下げることができる。またフィードバックコイル30の巻き数を少なくできるため、インダクタンスを低下させてインピーダンスを低下させることができる。よって、高周波の非検知電流I0の検知にも優れたものとなり、消費電力も低減できる。
【0069】
次に、
図8ないし
図10を参照して、コイル導体35の幅寸法W1と、磁気抵抗効果素子11aに作用するキャンセル磁界HdのY方向成分の変化について説明する。
【0070】
図8(A)(B)(C)と
図9(A)(B)(C)では、横軸に、
図4(A)に示したY方向の座標位置を示しており、縦軸に、コイル導体35の対向面35aよりもZ方向の下側に0.5μm離れた位置での、キャンセル磁界HdのY方向成分の大きさを示している。なお、キャンセル磁界Hdの向きは
図6(A)の測定時と逆向きであり、キャンセル磁界HdのY方向成分の大きさは、
図8および
図9と、
図4とで符号が逆になっている。
【0071】
磁気抵抗効果素子11aの幅寸法SWは4μmである。コイル導体35の高さ寸法H1は、2μmである。
【0072】
図8と
図9では、Y方向の各位置でのキャンセル磁界HdのY方向成分の大きさの変化曲線を破線で示している。またこの破線で示す変化曲線のうち、個々の磁気抵抗効果素子11aと対向する範囲(幅寸法SWの範囲)を3重線で示している。
【0073】
図8(A)の測定結果となる条件は、
図10(A)に示すコイル導体35の幅寸法W1が16μmであり、Y方向の両側に位置する磁気抵抗効果素子11aがコイル導体35から突出する寸法−δが−2.0μmである。
【0074】
図8(B)の測定結果となる条件は、コイル導体35の幅寸法W1が19μmであり、Y方向の両側に位置する磁気抵抗効果素子11aがコイル導体35から突出する寸法−δが−0.5μmである。
【0075】
図8(C)の測定結果となる条件は、コイル導体35の幅寸法W1が20μmであり、
図10(B)に示すように、Y方向の両側に位置する磁気抵抗効果素子11aのY方向の端部が、コイル導体35のY方向の端部に一致している。
【0076】
図9(A)の測定結果となる条件は、
図10(C)に示すコイル導体35の幅寸法W1が21μmであり、Y方向の両側に位置する磁気抵抗効果素子11aよりもコイル導体35が+δ=0.5μmだけ突出している。
【0077】
図9(B)の測定結果となる条件は、コイル導体35の幅寸法W1が22μmであり、Y方向の両側に位置する磁気抵抗効果素子11aよりもコイル導体35が+δ=1.0μmだけ突出している。
【0078】
図9(C)の測定結果となる条件は、コイル導体35の幅寸法W1が23μmであり、Y方向の両側に位置する磁気抵抗効果素子11aよりもコイル導体35が+δ=1.5μm突出している。
【0079】
図8と
図9の結果によると、いずれの場合も、コイル導体35に対向する3条の磁気抵抗効果素子11aのうちの中央に位置するものに作用するキャンセル磁界Hdは、Y方向成分が強くなる。また、Y方向の両側に位置する磁気抵抗効果素子11aに対してキャンセル磁界HdのY方向成分を強く作用させるためには、
図8(C)および
図10(B)に示すように、磁気抵抗効果素子11aが、コイル導体35から感度軸方向へ出ていないことが好ましい。また、
図8(B)(C)および
図10(C)に示すように、コイル導体35のY方向の両端部が、磁気抵抗効果素子11aよりも突出していることがさらに好ましい。
【0080】
なお、1条のコイル導体35に対向する磁気抵抗効果素子11aの数は2個以上であれば、いずれの数であってもよいが、その数が3本などのような奇数であることが好ましい。奇数の数の磁気抵抗効果素子11aをコイル導体35に対向させると、中央の1本の磁気抵抗効果素子11aが、コイル導体35の中央部に対向するようになり、中央の磁気抵抗効果素子11aにY方向の磁界成分が支配的に作用するようになり、検知出力の線形性を確保しやすく、ヒステリシスも抑制できるようになる。