特許第6526717号(P6526717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6526717線維素溶解及び線溶亢進を検出するための方法及び試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6526717
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】線維素溶解及び線溶亢進を検出するための方法及び試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20190527BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20190527BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20190527BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   G01N33/86
   G01N33/483 A
   G01N11/00 C
   A61J1/05 310
【請求項の数】31
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2016-565692(P2016-565692)
(86)(22)【出願日】2014年5月5日
(65)【公表番号】特表2017-520757(P2017-520757A)
(43)【公表日】2017年7月27日
(86)【国際出願番号】US2014036860
(87)【国際公開番号】WO2015171116
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2017年4月26日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594202615
【氏名又は名称】ヘモネティクス・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Haemonetics Corporation
(73)【特許権者】
【識別番号】308032460
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100121061
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 清春
(72)【発明者】
【氏名】チャップマン,マイケル,ピー
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,アーネスト,イー
(72)【発明者】
【氏名】ノーレム,キャセリン,エム
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−518371(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0130645(US,A1)
【文献】 特表2004−503781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進を検出するための方法であって、
a)線維素溶解の抑制因子が存在しない状況において、第1の容器において、低下した血小板機能を有する血液サンプルの第1の部分を対象として粘弾性解析を実施し、ある時点における前記第1の部分の凝固特性を取得し;
b)線維素溶解の抑制因子が存在する状況において、第2の容器において、前記低下した血小板機能を有する血液サンプルの第2の部分を対象として粘弾性解析を実施し、前記時点における前記第2の部分の凝固特性を取得し;
c)前記第1の部分の凝固特性を前記第2の部分の凝固特性と比較し、差を検出すること
を含み、前記第1の部分の凝固特性と前記第2の部分の凝固特性との間の前記差によって、前記血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進が示される方法。
【請求項2】
前記凝固特性は、前記粘弾性解析の出力の振幅である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凝固特性は、前記粘弾性解析の出力の振幅の一次導関数である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記時点は、前記第1の部分の最大血餅強度の時である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記時点は、前記粘弾性解析が開始された後、15分から35分までの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記時点は、前記粘弾性解析が開始された後、20分未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記時点は、前記線維素溶解の抑制因子により処理されていない前記血液サンプルにおいて、血餅硬度が20mmに達した時に得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の部分の凝固特性と前記第2の部分の凝固特性との間の前記差が少なくとも1%であることは、前記血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進を示している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の部分の凝固特性と前記第2の部分の凝固特性との間の前記差が少なくとも2%であることは、前記血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進を示している、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記低下した血小板機能を有する血液サンプルは、血小板機能の抑制因子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記血小板機能の抑制因子は、糖タンパク質IIb/IIIa受容体抑制因子である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記糖タンパク質IIb/IIIa受容体抑制因子は、アブシキシマブ、エプチフィバチド、及びチロフィバンからなる群の中から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記血小板機能の抑制因子は、アデノシン二リン酸(ADP)受容体抑制因子、アデノシン再摂取抑制因子、またはトロンボキサン抑制因子である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記血小板機能の抑制因子は、サイトカラシンDである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記低下した血小板機能を有する血液サンプルは、血小板が減少した血液サンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記血小板が減少した血液サンプルは、血液サンプルから血小板を物理的に除去することによって得られる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記線維素溶解の抑制因子は、トラネキサム酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記線維素溶解の抑制因子は、アミノカプロン酸(ε−アミノカプロン酸)、及びアプロチニンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記粘弾性解析は、止血分析器を使用して実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記粘弾性解析は、前記第1の容器及び前記第2の容器、並びに第1のピン及び第2のピンを使用して実施され、前記第1のピンは前記第1の容器に対して移動し、前記第2のピンは前記第2の容器に対して移動する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記粘弾性解析は、前記第1の容器及び前記第2の容器、並びに第1のピン及び第2のピンを使用して実施され、前記第1の容器は前記第1のピンに対して移動し、前記第2の容器は前記第2のピンに対して移動する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記線維素溶解の抑制因子は、前記第2の容器の内面上のコーティングに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の容器及び前記第2の容器は、単一のカセット上に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
血小板機能の抑制因子は、前記第1の容器及び前記第2の容器の内面上のコーティングに含まれる、請求項10に記載の方法。
【請求項25】
血小板機能の抑制因子は、前記サンプルに加えられる、請求項10に記載の方法。
【請求項26】
前記血液サンプルは、患者から採取される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
線維素溶解または線溶亢進が検出された場合、前記患者は、前記線維素溶解の抑制因子に反応する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
線維素溶解または線溶亢進が起きている、またはそれらが起きる可能性がある患者における有益な反応を実現する線維素溶解の抑制因子を識別する方法であって、
a)線維素溶解の抑制因子が存在しない状況において、前記患者からの低下した血小板機能を有する血液サンプルの第1の部分を対象として粘弾性解析を実施し、ある時点における前記第1の部分の凝固特性を取得し;
b)線維素溶解の第1の抑制因子が存在する状況において、前記患者からの前記低下した血小板機能を有する血液サンプルの第2の部分を対象として粘弾性解析を実施し、前記時点における前記第2の部分の凝固特性を取得し;
c)線維素溶解の第2の抑制因子が存在する状況において、前記患者からの前記低下した血小板機能を有する血液サンプルの第3の部分を対象として粘弾性解析を実施し、前記時点における前記第3の部分の凝固特性を取得し;
d)前記第1の部分の凝固特性と前記第1の抑制因子が存在する状況における前記第2の部分の凝固特性との間の第1の差を、前記第1の部分の凝固特性と前記第2の抑制因子が存在する状況における前記第3の部分の凝固特性との間の第2の差と比較すること
を含み、前記第1の差が前記第2の差よりも大きい場合、前記患者は、前記第1の抑制因子による治療から有益な結果が得られ、前記第2の差が前記第1の差よりも大きい場合、前記患者は、前記第2の抑制因子による治療から有益な結果が得られるであろう方法。
【請求項29】
前記患者は、人である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記線維素溶解の第1の抑制因子は、トラネキサム酸である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記線維素溶解の第1の抑制因子、及び前記線維素溶解の第2の抑制因子はそれぞれ、アミノカプロン酸、トラネキサム酸、及びアプロチニンからなる群の中から選択され、前記第1の抑制因子と前記第2の抑制因子は、同じではない、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
連邦主催の研究開発に関する陳述
本発明は、国立保健研究所から贈与された助成金第NIH−T32−GM008315号を利用して、政府支援の下で行われた。
【0002】
背景技術
本発明は、止血に関する。
【0003】
止血は、出血を止めるための厳しく統制されたプロセスである。人体において、循環している血液は、正常な状態では流体であるが、血管系の健常性が損なわれた場合、局所的な血餅を形成する。外傷、感染症、及び炎症は全て、血液の凝固系を活性化する。凝固系は、2つの独立した系、すなわち、凝血カスケードにおける、酵素タンパク質(例えば、第XII因子または第IX因子のような凝血因子)と、活性化された血小板との間の相互作用に左右される。これら2つの系は、連携して破れた血管の欠陥を塞ぐ働きをする。
【0004】
止血の際に形成される血餅(血栓とも呼ばれる)は、2つの部分、すなわち、血小板血栓と、メッシュ状の架橋線維素タンパク質とから構成される。線維素(フィブリン)は、凝血カスケードの際に活性化されたトロンビンによって、線維素原(フィブリノゲン)が線維素に分解されることにより発生する(図1参照)。血餅は、循環する血液による除去作用や、物理的移動に耐えるだけの十分な強度のものでなければならない。もし仮に、血友病状態のように、ある特定の凝固因子が機能不全であるか、または存在しない場合、不十分な量の線維素しか形成されない。同様に、外傷状況における凝固因子の大量消費は、形成される線維素の量を減少させる。外傷、外科手術、または化学療法によって生じる不十分な数の血小板もまた、遺伝子疾患、尿毒症、またはサリチル酸療法と同様に、血小板凝集を減少させる原因になる。最終的には、線維素形成や血小板凝集が減少する結果として、不十分な引張強度の血餅が発生する。この凝固性低下状態により、患者は、出血しやすくなる。逆に、内皮傷害、鬱血、癌、遺伝病、または他の凝固性低下状態は、深部静脈血栓症、肺動脈塞栓、並びに発作や心筋梗塞のような動脈閉塞に例示される血栓(すなわち、血餅)形成の原因になる。
【0005】
プラスミンの前駆体であるプラスミノーゲンは、血餅中に含まれる不活性タンパク質である。組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)及びウロキナーゼは、プラスミノーゲンをプラスミンに変換することができ、したがって、プラスミンを活性化し、線維素溶解を引き起こすことができる。線維素溶解、すなわち、血餅を問題無い状態に分解するプロセスは、一般的な生物学的プロセスである。通常、t−PAは、血管の傷付いた内皮細胞から、非常にゆっくりと血液中に放出される。その結果、出血が止まった後、血餅中の不活性プラスミノーゲンは活性化されてプラスミンに変わり、プラスミンは、一体化された形で血餅を保持しているメッシュ状の線維素を分解する働きをするため、血餅は分解される。その結果生じる断片であるフィブリン分解産物(FDP)は、その後、他の酵素によって、または、腎臓及び肝臓によって除去される。
【0006】
状況によっては、線溶亢進が発生することもある。この状況、すなわち、線維素溶解作用の著しい増大を伴う凝固障害(出血性疾患)の一形態は、結果として出血を増大をもたらし、場合によっては致命的な出血をもたらすことがある。
【0007】
線溶亢進には、後天的なものと、先天的なものとがある。線溶亢進の先天的原因は、めったになく、例えば、アルファ2抗プラスミン(アルファ2プラスミン抑制因子)の欠乏や、プラスミノーゲン活性化抑制因子タイプ1(PAI−1)の欠乏などが挙げられる。患者には、血友病に似た出血性表現型が現れる。
【0008】
後天的線溶亢進は、肝臓疾患を有する患者、大きな外傷を有する患者、大手術を受けている最中の患者、及び他の状況にある患者に発生することがある。実際のところ、大きな外傷を受けた患者の20%までが、大量出血をしている他の患者と同様に、後天的線溶亢進を発症している。
【0009】
線維素溶解及び線溶亢進を検出するための既知の方法としては、Dダイマー(架橋フィブリン分解産物)、フィブリノゲン分解産物(FSP)、プラスミンとアルファ2抗プラスミンの複合体(PAP)といったバイオマーカーの上昇を検出する間接的免疫化学的測定法がある。しかしながら、これらの方法の感度や特異度は限られている。なぜなら、これらのバイオマーカーの上昇は他の状況においても発生し得るからである。PT(プロトロンビン時間)、aPPT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、またはトロンビン時間のような従来の凝固試験は、線維素溶解や線溶亢進についてはあまり感度が高くない上に、多くの他の変数の影響を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0029030A1号明細書
【特許文献2】米国特許第7,422,905B2号明細書
【特許文献3】米国特許第8,058,023B2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そのため、線維素溶解及び線溶亢進を迅速かつ正確に診断し、及び/又は検出する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態の概要
本発明は、血液サンプルにおける線維素溶解及び線溶亢進を迅速かつ正確に検出する方法及び試薬を提供する。
【0013】
したがって、一態様において、本発明は、血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進を迅速かつ正確に検出する方法を提供する。この方法は、線維素溶解の抑制因子が存在しない状況において、第1の容器において、低下した血小板機能を有する血液サンプルの第1の部分を対象として粘弾性解析を実施し、ある時点における前記第1の部分の凝固特性を取得し;線維素溶解の抑制因子を含んでいる状況にある第2の容器において、前記低下した血小板機能を有する血液サンプルの第2の部分を対象として粘弾性解析を実施し、前記時点における前記第2の部分の凝固特性を取得することを含み、前記第1の部分の凝固特性と前記第2の部分の凝固特性との間の差によって、前記血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進が示される。一部の実施形態において、(例えば、血液サンプルにおける血小板機能を低下させる前の)血液サンプルは、採血源から取得される。一部の実施形態において、採血源は、献血輸送手段(例えば、バッグ、または管)である。一部の実施形態において、採血源は、人である患者である。一部の実施形態において、血液サンプルの採取元の患者は、前記方法において使用される前記線維素溶解の抑制因子に敏感に反応する。
【0014】
一部の実施形態において、前記凝固特性は、前記粘弾性解析の出力の振幅である。一部の実施形態において、前記凝固特性は、前記粘弾性解析の出力の振幅の一次導関数である。一部の実施形態において、前記時点は、前記第1の部分の最大血餅強度の時である。一部の実施形態において、前記時点は、前記粘弾性解析が開始された後、約15分から約35分までの間であるか、または、前記粘弾性解析が開始された後、20分未満である。一部の実施形態において、前記時点は、前記線維素溶解の抑制因子により処理されていない前記血液サンプルにおいて、血餅硬度が20mmに達した時に得られる。
【0015】
種々の実施形態において、前記第1の部分の凝固特性と前記第2の部分の凝固特性との間の前記差が少なくとも1%であることは、前記血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進を示している。別の実施形態において、前記第1の部分の凝固特性と前記第2の部分の凝固特性との間の前記差が少なくとも2%であることは、前記血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進を示している。
【0016】
一部の実施形態において、前記低下した血小板機能を有する血液サンプルは、血小板機能の抑制因子を含む。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、アブシキシマブ、エプチフィバチド、またはチロフィバンのような糖タンパク質IIb/IIIa受容体抑制因子である。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、アデノシン二リン酸(ADP)受容体抑制因子、アデノシン再摂取抑制因子、またはトロンボキサン抑制因子である。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、サイトカラシンDである。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、異なる抑制因子の組み合わせ(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン、アデノシン二リン酸(ADP)受容体抑制因子、アデノシン再摂取抑制因子、トロンボキサン抑制因子、及び/又はサイトカラシンDの組み合わせ)である。
【0017】
一部の実施形態において、前記低下した血小板機能を有する血液サンプルは、血小板が減少した血液サンプルである。例えば、前記血小板が減少した血液サンプルは、血液サンプルから血小板を物理的に除去することによって得ることができる。
【0018】
一部の実施形態において、前記線維素溶解の抑制因子は、トラネキサム酸である。一部の実施形態において、前記線維素溶解の抑制因子は、アミノカプロン酸、ε−アミノカプロン酸、またはアプロチニンである。一部の実施形態において、前記線維素溶解の抑制因子は、アミノカプロン酸、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、及び/又はアプロチニンの組み合わせである。
【0019】
一部の実施形態において、前記サンプルは、ある共振周波数で刺激され、凝固が発生するときに、その挙動が、電磁放射源または光源によって観測される場合がある。他の実施形態では、前記サンプルの特性は、サンプルを刺激することなく光源を用いて、種々の変化の間に観測される場合がある。
【0020】
一部の実施形態において、前記粘弾性解析は、止血分析器を使用して実施される。止血分析器は、TEGトロンボエラストグラフィー分析システム、またはROTEM(登録商標)トロンボエラストメトリー分析システムである場合がある。
【0021】
一部の実施形態において、前記粘弾性解析は、前記第1の容器及び前記第2の容器、並びに第1のピン及び第2のピンを使用して実施され、前記第1のピンは前記第1の容器に対して移動し、前記第2のピンは前記第2の容器に対して移動する。一部の実施形態において、前記粘弾性解析は、前記第1の容器及び前記第2の容器、並びに第1のピン及び第2のピンを使用して実施され、前記第1の容器は前記第1のピンに対して移動し、前記第2の容器は前記第2のピンに対して移動する。
【0022】
一部の実施形態において、前記サンプルは、ある共振周波数で刺激され、凝固が発生するときに、その挙動が、電磁放射源または光源によって観測される場合がある。他の実施形態では、前記サンプルの特性は、サンプルを刺激することなく光源を用いて、種々の変化の間に観測される場合がある。
【0023】
一部の実施形態において、前記線維素溶解の抑制因子は、前記第2の容器の内面上のコーティングに含まれる。一部の実施形態において、前記第1の容器及び前記第2の容器は、単一のカセット上に配置される。
【0024】
一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、前記第1の容器の内面及び前記第2の容器の内面上のコーティングに含まれる。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、前記サンプルに加えられる。
【0025】
他の態様において、本発明は、線維素溶解または線溶亢進が起きている、またはそれらが起きる可能性がある患者における有益な反応を実現する線維素溶解の抑制因子を識別する方法であって、線維素溶解の抑制因子が存在しない状況において、低下した血小板機能を有する血液サンプルの第1の部分を対象として粘弾性解析を実施し、ある時点における前記第1の部分の凝固特性を取得し;線維素溶解の第1の抑制因子が存在する状況において、前記低下した血小板機能を有する血液サンプルの第2の部分を対象として粘弾性解析を実施し、前記時点における前記第2の部分の凝固特性を取得し;線維素溶解の第2の抑制因子が存在する状況において、前記低下した血小板機能を有する血液サンプルの第3の部分を対象として粘弾性解析を実施し、前記時点における前記第3の部分の凝固特性を取得し;前記第1の部分の凝固特性と前記第1の抑制因子が存在する状況における前記第2の部分の凝固特性との間の第1の差を、前記第1の部分の凝固特性と前記第2の抑制因子が存在する状況における前記第3の部分の凝固特性との間の第2の差と比較することを含み、前記第1の差が前記第2の差よりも大きい場合、前記患者は、前記第1の抑制因子による治療から有益な結果が得られ、前記第2の抑制因子が前記第1の抑制因子よりも大きい場合、前記患者は、前記第2の抑制因子による治療から有益な結果が得られるであろう方法、を提供する。
【0026】
一部の実施形態において、前記患者は、人である。
【0027】
一部の実施形態において、前記線維素溶解の第1の抑制因子は、トラネキサム酸である。一部の実施形態において、前記線維素溶解の第1の抑制因子、及び前記線維素溶解の第2の抑制因子はそれぞれ、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、アミノカプロン酸、及びアプロチニンからなる群の中から選択され、前記第1の抑制因子と前記第2の抑制因子は、同じではない。
【0028】
他の態様において、本発明は、粘弾性解析を使用して血液サンプルにおける線溶亢進または線維素溶解を検出するのに適した容器であって、線維素溶解の抑制因子を含むコーティングを有する内面を備えた容器を提供する。一部の実施形態において、前記線維素溶解の抑制因子は、トラネキサム酸である。一部の実施形態において、前記線維素溶解の抑制因子は、アミノカプロン酸、ε−アミノカプロン酸、またはアプロチニンである。一部の実施形態において、前記線維素溶解の抑制因子は、アミノカプロン酸、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、及び/又はアプロチニンの組み合わせである。
【0029】
一部の実施形態において、前記粘弾性分析は、TEG(登録商標)トロンボエラストグラフィー分析システムを使用して、またはROTEMトロンボエラストメトリー分析システムにおいて実施される。一部の実施形態では、前記線維素溶解の抑制因子は、前記コーティングにおいて、糖に配合されている。一部の実施形態では、前記抑制因子は、前記コーティングにおいて、アジドに配合されている。
【0030】
一部の実施形態において、前記コーティングは、血小板機能の抑制因子をさらに含む。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、アブシキシマブ、エプチフィバチド、またはチロフィバンのような糖タンパク質IIb/IIIa受容体抑制因子である。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、アデノシン二リン酸(ADP)受容体抑制因子、アデノシン再摂取抑制因子、またはトロンボキサン抑制因子である。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、サイトカラシンDである。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、異なる抑制因子の組み合わせ(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン、アデノシン二リン酸(ADP)受容体抑制因子、アデノシン再摂取抑制因子、トロンボキサン抑制因子、及び/又はサイトカラシンDの組み合わせ)である。
【0031】
前記容器は、カセットまたはプレート上に配置され、前記カセットまたはプレートは、第2の容器をさらに含む。
【0032】
実施形態に関する上記種々の特徴は、添付の図面とともに下記の詳細な説明を参照することで、より容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】架橋線維素からなるフィブリン血栓の形成を最終的にもたらすことになる凝血カスケードを示す概略図である。t−PAによるプラスミノーゲンの活性化によってプラスミンが生成され、プラスミンが、フィブリン(線維素)をフィブリン分解産物に分解する。
図2】通常の止血時、すなわち、一般的量の線維素溶解はあるが、線溶亢進は無い状態において、サンプルから得られるTEGトレースを示す概略図である。R(反応時間)は、フィブリン・ストランド・ポリマーの形成時間であり、K(血餅運動、分を単位として測定される)は、血餅が形成される速度であり、αは、RからKまで描かれた傾斜であり、MA(最大振幅、mmを単位として測定される)は、血餅の強度である。LY30は、MAから30分後に示される溶解割合である。
図3A】TEMogramトレースを示す概略図である。CTは、凝血時間を示し、CFTは、血餅形成時間を示し、アルファは、アルファ角であり、ラムダ角は、溶解速度であり、MCFは、最大血餅硬度であり、LI130は、CTから30分後における溶解指数であり、MLは最大溶解度である。
図3B】別のTEMogramトレースを示す概略図である。
図4】LY30測定値の計算を示す、TEGトレースを示す概略図である。
図5】トラネキサム酸(非限定的線維素溶解抑制因子、上側の線、青)により処理された血液サンプルと、トラネキサム酸により処理されていない血液サンプル(下側の線、赤)との間のTEGトレースの差を示す概略図である。この図に結果が示されている実験では、両方の血液サンプルが、非限定的血小板機能抑制因子により処理された。
図6】トラネキサム酸(非限定的線維素溶解抑制因子、上側の線、緑)により処理された血液サンプルと、トラネキサム酸により処理されていない血液サンプル(下側の線、青)との間のTEGトレースの差を示す概略図である。この図に結果が示されている実験では、両方の血液サンプルが、非限定的血小板機能抑制因子により処理された。LY30の値は、トラネキサム酸により処理されていない血液サンプルのTEGトレースの上に重ねて示されている。
図7】t−PAの増加する濃度に対してΔV@MAをプロットした線グラフである。
図8】ΔLY30に対してΔV@MAをプロットした線グラフである。
図9】クエン酸塩添加カオリンTEGアッセイを使用して、15人の健康なドナーの血液サンプルから得られた、t−PAの増加する濃度に対してLY30をプロットした線グラフである。
図10】本明細書に記載された非限定的方法の一つを使用して、15人の健康なドナーの血液サンプルから得られた、t−PAの増加する濃度に対してLY30をプロットした線グラフである。ここで、ΔLY30は、フィブリノゲン機能アッセイのLY30と、線維素溶解の抑制因子であるトラネキサム酸が存在する状況におけるフィブリノゲン機能アッセイのLY30との差である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
具体的実施形態の詳細な説明
一部の実施形態において、本発明は、線維素溶解及び線溶亢進を検出するための方法及び試薬(例えば、カップ)を提供する。本発明は、血餅における血小板の関与は、線維素溶解の発症及び範囲を部分的に認識不能にすることがあるという予想外の発見に由来している。したがって、止血状態についての検査の対象である血液サンプルの血小板機能を低下させることによって、血液サンプル(及び、その血液サンプルを採取した元の患者)における線維素溶解及び線溶亢進の検出を高速化することができる。
【0035】
本明細書で参照される刊行物(特許刊行物を含む)、ウェブサイト、会社名、及び特定の文献は、当業者によって利用可能な情報を形成するとともに、恰もそれぞれが個別具体的に本明細書に援用されるべきことが示されたかのように、参照によってその全範囲が本明細書に援用される。本明細書で引用される文献と、本明細書の特定の教示との間にもし何らかの矛盾があった場合、矛盾は、後者を優先して解消されるものとする。
【0036】
本明細書において、「止血」(haemostasis、又はhemostasis)という語は、血液の凝固によって出血を止めるプロセス、及び、さらには、凝固した血液(すなわち、血餅)を溶解させるプロセスを意味している。この語は、線維素を含む血餅の形成による血液の凝固と、プラスミンを活性化させ、一体化された形で血餅を保持しているメッシュ状の線維素を分解することによる血餅の分解とを含む。
【0037】
止血は、相互に関係する多数の要素を含む動的で極めて複雑なプロセスであり、そうした要素としては、凝固タンパク質及び線維素溶解タンパク質、活性化因子、抑制因子、並びに、血小板細胞骨格、血小板細胞質顆粒、及び血小板細胞表面のような種々の細胞要素が挙げられる。そのため、活性化の際に、依然として静的状態にある要素、すなわち独立して機能する要素は無い。したがって、止血を完全にするためには、患者止血の全工程を、非独立状態、すなわち静的状態にある全血成分の純生成量に関して、連続的に測定する必要がある。止血の独立した部分の測定結果の一例を示すために、患者が線維素溶解を発症したものと仮定する。線維素溶解は、プラスミノーゲンが活性化され、血餅を分解する酵素であるプラスミンに変化されることによって引き起こされる。この事例では、このプロセスの副産物であるフィブリノゲン分解産物(FDP)が、抗凝血因子として機能する。もし患者が抗凝血性についてのみ検査を受け、それにしたがって治療を受けた場合、この患者は、抗線維素溶解剤による治療(例えば、トラネキサム酸による治療)を受けていないため、依然として危険な状態にある場合がある。
【0038】
線維素溶解や線溶亢進の検出は難しい。また、(例えば、外科手術や外傷の際に)抗線維素溶解剤による治療が必要なことがある患者にとって有益であるためには、線維素溶解または線溶亢進の検出は、非常に迅速であることが好ましい。一部の実施形態において、本発明は、血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進を迅速に検出するための方法及び試薬を提供する。
【0039】
したがって、第1の態様において、本発明は、血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進を検出する方法であって、低下した血小板機能を有する血液サンプルを取得し;線維素溶解の抑制因子が存在する状況において、前記血液サンプルの第1の部分を対象として粘弾性解析を実施し、ある時点における前記第1の部分の凝固特性を取得し;線維素溶解の抑制因子が存在しない状況において、前記血液サンプルの第2の部分を対象として粘弾性解析を実施し、前記時点における第2の凝固特性を取得することを含み、前記第1の部分の凝固特性と前記第2の部分の凝固特性との間の差によって、前記血液サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進が示される方法を提供する。
【0040】
一部の実施形態において、前記血液サンプル(例えば、血液サンプルにおける血小板機能を低下させる前のもの)は、採血源から採取される。前記採血源は、採血袋、及び患者から直接を含む如何なる採血源であってもよい。一部の実施形態において、前記血液サンプルが採取された元の患者は、前記方法において使用される前記線維素溶解の抑制因子に敏感に反応する。
【0041】
本明細書において、「線維素溶解」という語は、血餅中の不活性プラスミノーゲンを活性プラスミンに変換することによる血餅の分解を意味している。線維素溶解の際、活性プラスミンは、一体化された形で血餅を保持しているメッシュ状の線維素を分解する(図1参照)。
【0042】
「線溶亢進」とは、線維素溶解作用の著しい増大を伴い、結果として出血の増大をもたらし、場合によっては致命的な出血をもたらす、凝固障害(出血性疾患)の一形態を意味している。線溶亢進には、後天的なものもあれば、先天的なものもある。先天的線溶亢進は、アルファ2抗プラスミン(アルファ2プラスミン抑制因子)の欠乏や、プラスミノーゲン活性化抑制因子タイプ1(PAI−1)の欠乏に起因することがある。後天的線溶亢進は、肝臓疾患を有する患者、大きな外傷を有する患者、大手術を受けている最中の患者、及び他の状況にある患者に発生することがある。実際のところ、大きな外傷を受けた患者の20%までが、大量出血をしている他の患者と同様に、後天的線溶亢進の影響を受けている。
【0043】
本明細書において、「血液サンプル」とは、例えば患者から採取された血液のサンプルを意味している。患者は、人であってもよいが、如何なる他の動物(例えば、獣医学上の動物、外来動物)であってもよい。血液は、酸素や栄養物を生体組織まで運ぶとともに、二酸化炭素や種々の代謝産物を除去して排泄する循環生体組織である。血液は、淡黄色または灰黄色の流体である血漿から構成され、その中に、赤血球、白血球、及び血小板が浮遊している。
【0044】
一部の実施形態において、血液サンプルは、全血である。血液は、未加工のものであってもよいし、クエン酸血(例えば、3.2%のクエン酸塩が入っている3.5mL容器の中に収集された全血)であってもよい。
【0045】
「粘弾性解析」とは、弾性固体(例えば、線維素固体)及び流体の特性を測定する任意の分析法を意味している。言い換えれば、粘弾性解析によれば、血液や血液サンプルのような粘性流体の性質の究明が可能となる。一部の実施形態において、粘弾性解析は、止血が生じる生体内の条件を模した条件下で実施される。例えば、この条件としては、体温(例えば、37°Cの温度)を模した温度が挙げられる。さらに、条件には、血管中において見られるものを模した、種々の流速における血餅の形成及び溶解も含まれ得る。
【0046】
一部の実施形態において、血液サンプルの粘弾性解析は、血液サンプルを対象として、止血分析器において分析を実施することを含み得る。一つの非限定的な粘弾性解析法は、トロンボエラストグラフィー(「TEG」)アッセイである。したがって、一部の実施形態において、粘弾性解析は、血液サンプルを対象として、トロンボエラストグラフィー(TEG)を使用して分析を実施することを含む。トロンボエラストグラフィー(TEG)は、1940年にドイツ国でヘルムート・ハルテルトによって最初に論述された。
【0047】
トロンボエラストグラフィーを実施する種々の装置、及び、それを使用した種々の方法が、米国特許公開第5,223,227号;6,225,126号;6,537,819号;7,182,913号;6,613,573号;6,787,363号;7,179,652号;7,732,213号;8,008,086号;7,754,489号;7,939,329号;8,076,144号;6,797,419号;6,890,299号;7,524,670号;7,811,792号;20070092405号;20070059840号;8,421,458号;US20120301967号;及び7,261,861号に記載されており、これらの各々の開示の全体が、参照により明確に本明細書に援用される。
【0048】
トロンボエラストグラフィー(TE)は、静脈内の緩やかな血液の流れに似た低せん断環境下で、血液が血餅に誘導(変化)されるときの血液の弾性特性をモニタリングする。拡大中の血餅のずり弾性の変化のパターンから、血餅形成の運動、並びに形成される血餅の強度及び安定性を、要するに拡大中の血餅の物理的特性を、判定することができる。上記のように、血餅の運動、強度、及び安定性から、「力学的仕事」、すなわち、循環する血液からの変形せん断応力に対する抵抗を実施するための血餅の能力に関する情報が得られる。本質的には、血餅は、止血の初歩的機構である。止血を測定する止血器具は、血餅が構造的に拡大している間ずっと、力学的仕事を実施する血餅の能力を測定する機能を有している。こうした止血分析器は、検査開始の時から血餅形成度の増強を通して最初の線維素形成まで、及び血餅溶解による最終的な血餅強度に至るまで、患者止血の全工程を、非独立状態、すなわち静的状態にある全血成分の純生成量に関して、連続的に測定する。
【0049】
一部の実施形態において、粘弾性解析及び/又は止血分析器は容器を含み、容器は、血液と接触した状態に置かれる。
【0050】
本明細書において、「容器」とは、剛性の表面(立体表面)であって、その一部が、粘弾性解析の際に、当該容器の中に置かれた血液サンプルの一部と任意のポイントにおいて接触する剛性の表面(立体表面)を意味している。血液サンプルの一部と接触する容器の部分は、容器の「内面」と呼ばれることもある。なお、「容器の中に」という語句は、容器の底面が血液サンプルの一部と接触していることを意味するものではない。むしろ、容器は、リング形構造であってもよく、その場合、リングの内側が容器の内面である。すなわち、リングの内側が、血液サンプルの一部と接触するリング形容器の部分であることを意味している。血液サンプルは、容器の中に流れ込むことができ、例えば、真空圧または表面張力によって、そこに保持されることができる。
【0051】
この定義に含まれるさらに別のタイプの容器としては、種々のプレート及びカセット(例えば、マイクロ流体カセット)の上に存在する容器であって、プレートまたはカセットが、その内部に複数の通路、リザーバ、トンネル、及びリングを有しているものが挙げられる。この語が本明細書で使用される場合、それらの連続的通路(例えば、通路、リザーバ、及びリンクを含む)はそれぞれ、容器である。したがって、複数の容器が1つのカセット上に存在していてもよい。米国特許第7,261,861号(参照により本明細書に援用される)は、複数の通路または容器を備えたそのようなカセットを記載している。カセットの通路またはトンネルの表面の何れかにおける表面は何れも、粘弾性解析の際に任意の時点において血液サンプルの何れかの部分と接触することになる場合、容器の内面である。
【0052】
一つの非限定的止血分析器が、米国特許第7,261,861号;米国特許出願公開第US20070092405号;及び米国特許出願公開第US20070059840号に記載されている。
【0053】
トロンボエラストグラフィーを使用して粘弾性解析を実施する別の非限定的止血分析器は、ヘモネティックス・コーポレーション(マサチューセッツ州ブレインツリー)から市販されているTEGトロンボエラストグラフ止血分析システムである。
【0054】
したがって、TEGアッセイは、拡大する血餅の力学的強度を測定するTEGトロンボエラストグラフ止血分析システムを使用して実施される場合がある。アッセイを行うために、血液サンプルを容器(例えば、カップまたはキュベット)の中に入れ、金属ピンを容器の中央に差し込む。血液サンプルが容器の内壁に接触すると(または、血餅活性剤を容器に加えると)、血餅形成が開始される。次に、TEGトロンボエラストグラフ止血分析器は、毎10秒当たり約4.45度から4.75度までの振動を与えながら容器を回転させ、それによって緩やかな静脈流を模倣し、凝固を生じさせる。線維素と血小板の凝集が形成されると、それらは容器の内側を金属ピンに接続し、それによって、容器を動かすために使用されるエネルギーが、ピンに移動される。ピンに接続された捩り針金によって、血餅の強度が経時的に測定され、出力の大きさは、血餅の強度に正比例するものとなる。血餅の強度が経時的に増加すると、典型的なTEGトレース曲線が現れる(図2参照)。
【0055】
ピンの回転運動は、トランスデューサーによって電気信号に変換され、電気信号は、プロセッサ及び制御プログラムを含むコンピュータによってモニタリングされる。コンピュータは、この電気信号に基づいて、測定された凝血プロセスに対応する止血特性を生成するように動作する。また、止血特性の視覚的表現を出力するために、コンピュータは、視覚的表示装置を含む場合があり、または、プリンタに接続される場合がある。そのようなコンピュータの構成は十分に、当業者が有する技能の範囲内である。図2に示されているように、その結果得られる止血特性(すなわち、TEGトレース曲線)は、最初のフィブリン・ストランドの形成に要した時間、血餅形成の運動、血餅の強度(ミリメートル(mm)を単位として測定され、せん断の単位であるダイン/cmに変換される)、及び血餅の溶解度である。ドナヒュー他著、J.Veterinary Emergency and Critical Care:15(1):9−16.(2005年3月)(参照により本明細書に援用される)も参照。
【0056】
それらの測定パラメタのうちの幾つかについての説明は、次のようなものである。
【0057】
Rは、血液がTEG5000分析器に置かれた時から最初の線維素形成までの待ち時間である。これには通常、約30秒から約10分までの時間がかかる。凝固性低下状態(すなわち、血液の凝固性が低下した状態)にある患者の場合、数値Rは大きくなるが、線溶亢進状態(すなわち、血液の凝固性が増加した状態)にある患者の場合、数値Rは小さくなる。
【0058】
K値(分を単位として測定される)は、Rの終了から血餅が20mmに達するまでの時間であり、この値は、血餅形成の速度を表している。このK値は、約0から約4分まで(すなわち、Rの終了後)である。凝固性低下状態にある場合、数値Kは大きくなり、線溶亢進状態にある場合、数値Kは小さくなる。
【0059】
αは、線維素形成及び架橋形成の迅速性(血餅強度)の程度を表している。これは、曲線に接する分割点から形成された線と、横軸との間の角度である。この角度は通常、約47°から74°までである。凝固性低下状態にある場合、αの度数は低くなるが、線溶亢進状態にある場合、αの度数は高くなる。
【0060】
mmで表されたMA(Maximum Amplitude)、すなわち最大振幅は、線維素と血小板の結合の最大動的特性の一次関数であり、フィブリン血栓の最終的強度を表している。この数値は通常、約54mmから約72mmまでであり、MAは通常、粘弾性アッセイの開始後、約15分から約35分までの間に発生する。なお、検査された血液サンプルが、低下した血小板機能を有している場合、このMAは、線維素のみに基づく血餅の強度を表すものになる。MAの減少は、凝固性低下状態(血小板機能障害または血小板減少状態を有する)を反映している場合があり、MAの増加(例えば、Rの減少を伴う)は、線溶亢進状態を示唆している場合がある。
【0061】
LY30は、MAから30分後における振幅減少の速度の程度を表し、血餅の縮小または溶解を表している。したがって、LY30は、MAから30分後における振幅の減少割合である。この数値は通常、0%から約8%までである。一部の実施形態では、LY30が7.5%よりも大きい場合、凝固性低下状態が存在している。ただし、最近分かった結果では、患者の凝固性低下状態を識別するために、この割合は大きすぎる場合があるとされている。したがって、一部の実施形態では、LY30が6%よりも大きいとき、若しくは約5%よりも大きいとき、若しくは約4%よりも大きいとき、若しくは約3.5%よりも大きいとき、若しくは約3%よりも大きいときに、凝固性低下状態の患者が識別される。
【0062】
線維素溶解が発生すると、線維素溶解、すなわち血餅の溶解によって、血餅の強度が低下し、それによって、TEGトレースにおける最大振幅(MA)は減少し、LY30割合は上昇する(図2参照)。
【0063】
使用可能な別の粘弾性止血アッセイは、トロンボエラストメトリー(「TEM」)アッセイである。このTEMアッセイは、ROTEMトロンボエラストメトリー凝固分析器(ドイツ国、ミュンヘン、TEM International有限会社)を使用して実施することができ、この分析器の使用は、よく知られている(ソレンセン・ビー他著、J.Thromb.Haemost.、2003年、1(3):p.551−8;インゲルスレブ,ジェイ.他著、Haemophilia、2003年、9(4):p.348−52;及び フェンガー・エリクセン,シー他著、Br J Anaesth、2005年、94(3):p.324−9を参照)。ROTEM分析器では、血液サンプルが容器(キュベットまたはカップとも呼ばれる)に入れられ、その中に円筒形のピンが浸漬される。ピンと容器の内壁との間には1mmの隙間があり、隙間は、血液で埋められる。ピンは、ばねによって左右に回転される。血液が液体である限り(すなわち、凝固していない限り)、この動きは制限されない。しかしながら、血液が凝固し始めると、血餅の硬度が増加するにしたがって、血餅は徐々に、ピンの回転を制限する。ピンは、光検出器に接続されている。この運動は、統合コンピュータによって物理的に検出され、一般的トレース曲線(TEMogram)及び数値パラメタが計算される(図3A及び図3B参照)。
【0064】
ROTEMトロンボエラストメトリー凝固分析器では、ピンの運動を、プロセッサ及び制御プログラムを含むコンピュータによってモニタリングすることができる。コンピュータは、電気信号に基づいて、測定された凝血プロセスに対応する止血特性を生成するように動作する。また、止血特性の視覚的表現(TEMogramと呼ばれる)を出力するために、コンピュータは、視覚的表示装置を含む場合があり、または、プリンタに接続される場合がある。そのようなコンピュータの構成は十分に、当業者が有する技能の範囲内である。図3A及び図3Bに示されているように、その結果得られる止血特性(すなわち、TEMトレース曲線)は、最初のフィブリン・ストランドの形成に要した時間、血餅形成の運動、血餅の強度(ミリメートル(mm)を単位として測定され、せん断の単位であるダイン/cmに変換される)、及び血餅の溶解度である。それらの測定パラメタのうちの幾つかについての説明は、次のようなものである。
【0065】
CT(Clotting Time、凝血時間)は、血液がROTEM分析器に置かれた時から血餅の形成が始まるまでの待ち時間である。
【0066】
CFT(Clotting Formation Time、血餅形成時間)は、CTの後、血餅硬度が20mmのポイントに到達するまでの時間である。
【0067】
アルファ−角:アルファ角は、2と曲線との間の接線の角度である。
【0068】
mmで表されたMA(Maximum Amplitude)、すなわち最大振幅は、線維素と血小板の結合の最大動的特性の一次関数であり、フィブリン血栓の最終的強度を表している。検査された血液サンプルが、低下した血小板機能を有している場合、このMAは、線維素結合のみの一次関数となる。
【0069】
MCF(Maximum Clot Firmness、最大血餅硬度):MCFは、トレースの最大垂直振幅である。MCFは、線維素と血小板の塊の絶対強度を反映している。
【0070】
A10(または、A5、A15若しくはA20値)。この値は、10(または、5、15若しくは20)分後に得られた血餅硬度(すなわち振幅)を表しており、この値から、早い段階で予測MCF値に基づく予想を得ることができる。
【0071】
LI30(30分後の溶解指数)。LI30値は、CTから30分後における、MCF値に対する残りの血餅安定度の割合である。
【0072】
ML(最大溶解度)。MLパラメタは、任意の選択された時点、又は検査を中止したときに観測される失われた血餅安定度(MCFに対する%で表される)の割合を表している。
【0073】
低いLI30値、または高いML値は、線溶亢進を示している。通常の血液の線維素溶解作用は非常に小さいが、臨床サンプルでは、線溶亢進によるもっと速い血餅安定度の喪失が、出血性合併症を引き起こすことがある。出血性合併症は、抗線維素溶解薬の投与によって治療することができる。
【0074】
したがって、TEGアッセイまたはTEMアッセイにおいて関心のあるパラメタとしては、血餅強度を反映したものである血餅の最大強度が挙げられる。これは、TEGアッセイではMA値であり、TEMアッセイではMCF値である。TEGにおける反応時間(R)(秒を単位として測定される)、及びTEGにおける凝血時間(CT)は、血餅の最初の証拠が現れるまでの時間であり;血餅運動(K、分を単位として測定される)は、TEG試験において血餅硬度の達成度を示すパラメタであり;TEGにおけるα、またはTEMにおけるアルファ角は、凝血反応時点から始まるTEGトレースまたはTEMトレースの曲線に対して描かれた接線から得られる角度測定値であり、血餅拡大の運動を反映している(トラパニ,エル.エム.著、「Thromboelastography: Current Applications,Future Directions」、麻酔学オープンジャーナル、記事ID:27628、5ページ(2013年);クロール,エム.エイチ.著、「Thromboelastography: Theory and Practice in Measuring Hemostasis」、臨床研究所ニュース:Thromboerastography 36(12)、2010年12月;並びにTEG器具の取扱説明書(ヘモネティックス・コーポレーションから入手可能);及びROTEM器具の取扱説明書(TEM International有限会社から入手可能)を参照。これらの文書の全てが、参照により全体的に本明細書に援用される。
【0075】
一部の実施形態において、パラメタ(及び、従って凝固特性)は、凝固が発生するときのサンプルの様々な刺激レベルの観測によって記録される。例えば、容器が、マイクロ流体カセットであるか、または当該カセットにおける特定の通路である場合、血液サンプルを、ある共振周波数で刺激することができ、凝固が発生するときのその挙動を電磁波源または光源によって観測することができる。他の実施形態において、サンプルの凝固特性は、血液サンプルを刺激することなく、光源を用いて種々の変化の間に観測される場合がある。
【0076】
単一のカセットが複数の容器(例えば、カセットにおける種々の通路)を有することがあるため、線維素溶解の抑制因子に接触している容器内のサンプルを、線維素溶解の抑制因子に接触していない容器(例えば、同じマイクロ流体カセットにおける隣りの通路)内のサンプルと容易に、直接比較することが可能である。
【0077】
線維素溶解が発生していない場合、TEGトレース上のMAの位置における振幅値、及び、TEMトレース上のMCFの位置における振幅値は一定のままであるか、または、血餅の縮小により僅かに減少する場合がある。一方、線維素溶解が発生している場合(例えば、凝固性低下状態にある場合)、TEGトレース及びTEMトレースの曲線は、低下し始める。TEGアッセイにおいて、最大振幅の後30分間に曲線下に発生し得る面積で表される最終損失は、LY30と呼ばれる(図4参照)。LY30、すなわち、最大振幅点から30分後の溶解割合(溶解した血餅の割合として表される)、及び血餅硬度(G、ダイン/cmを単位として測定される)は、血餅溶解の速度を示している。TEMアッセイにおける対応する値は、LI30値である(図3A参照)。
【0078】
このLY30は、線維素溶解の普通の測定基準である。ただし、このパラメタには、感度や特異度の不足を含む、幾つかの制限がある。最も重要なことは、LY30パラメタは、取得するまでに少なくとも30分を要することである。通常の患者の場合、少なくとも30分後にLY30を取得すれば、十分である(なぜなら、血餅が最初の場所に形成されるまでにどの程度の時間が必要な場合でも、この30分は加算する必要があるからである)。ただし、状況によっては(例えば、外傷や出血を受けている場合、あるいは外科手術の最中である場合)、患者の血液が正常に凝固しているか否かを判断するためにこの少なくとも30分を待つことは、患者の健康にとって有害な場合がある。凝固性低下状態にある高いLY30値を有するそのような患者の場合、患者は、もっと早く、線維素抑制因子(例えば、トラネキサム酸またはアプロチニン)によって治療されてもよい。
【0079】
本明細書において、「凝固特性」とは、検査を受けている血液サンプルの止血状態を示すパラメタを意味している。例えば、凝固特性は、ある時点に関する粘弾性解析の出力の振幅である場合がある。なお、凝固特性を測定する時点が、線維素溶解の抑制因子によって処理されていないサンプルのMAである必要はない。この時点は、同じでありさえすれば、如何なる時点であってもよい。例えば、この時点は、粘弾性解析アッセイの開始後、約15分から約35分までの間である場合がある。また、この時点は、線維素溶解の抑制因子で処理されたサンプルのTEGトレースが、線維素溶解の抑制因子で処理されていないサンプルのTEGトレースから逸れ始めた瞬間であってもよい。したがって、この時点は、早くとも粘弾性解析が開始されてから約2分または約5分後である場合がある。
【0080】
粘弾性解析アッセイを使用して測定される他の凝固特性もまた、患者に線維素溶解または線溶亢進が起きているか否かを判断するために、同様の形で使用することができる。例えば、TEGアッセイの場合、R(反応時間)、K(血餅硬度が達成される時間)、α(血餅拡大の運動)、MA(最大振幅)、及びLY30のうちの何れを比較してもよい。TEMアッセイの場合、CT(凝血時間)、CFT(血餅形成時間)、アルファ角、MCF(最大血餅硬度)、A10(CTから10分後の振幅)、LI30(CTから30分後の溶解指数)、及びML(最大溶解度)のうちの何れを比較してもよく(図3A図3B)、さらに、それらのパラメタのうちの何れかまたは全ての導関数も同様に、凝固特性として使用することができる。
【0081】
一部の実施形態では、抗線維素溶解剤によって処理されていない血液サンプル(例えば、血小板機能が低下したサンプル)から読み出された粘弾性の導関数を、抗線維素溶解剤によって処理された血液サンプルから読み出された粘弾性の導関数と比較する。歴史的理由から、TEGトレースまたはTEMトレースのパラメタは、y軸上に振幅(mmで表される)が示され、x軸上に時間が示される。そのため、TEGトレースまたはTEMトレースの一次導関数は、速度(すなわち、トレースラインの傾き)である。したがって、抗線維素溶解剤によって処理されていない血液サンプルから得られたトレースの速度を、抗線維素溶解剤によって処理された血液サンプルから得られたトレースの速度と比較することができる。この値は、ΔVAと呼ばれる。ΔVAとして差異が存在する場合、この差異から、サンプルにおける線維素溶解または線溶亢進が識別される。
【0082】
一部の実施形態において、ΔVAは、線維素溶解の抑制因子によって処理されていないサンプルのMAの時点で取得される。便宜上、この凝固特性は、ΔVA@MAと呼ばれる。ΔVA@MAは、図6において、24分の時点で2つのトレースの間に両矢印として示されている。
【0083】
なお、凝固特性として使用されるパラメタ(例えば、ΔVA、ΔLY30)はいずれも、標準的方法によって取得することができる。また、こうしたパラメタは、コンピュータ、計算機、またはコンピュータ・プログラム若しくはソフトウェアを使用して取得されてもよい。
【0084】
当然ながら、速度の二次導関数をさらに取得することもでき、抗線維素溶解剤によって処理されていない血液サンプルと、抗線維素溶解剤によって処理された血液サンプルとの間で、速度の二次導関数を比較してもよい。実際のところ、凝固特性として使用されるパラメタは、本方法の感度に影響を与える。ただし、本方法を、凝固特性のような何れか一つの特定のパラメタに制限すべきではない。実際のところ、外傷状況においては、日常的に熟練した医師が、患者から採取された血液サンプル(例えば、血小板が除去された血液サンプル)(すなわち、一方は抗線維素溶解剤によって処理されていないもの、他方は抗線維素溶解剤によって処理されたもの)に対し、リアルタイムで単純に粘弾性アッセイを実施する場合があり、2つのトレースが逸れ始めた場合(例えば、早くともアッセイの開始から2分後に)、医師は、抗線維素溶解剤によって患者を治療することを即座に選択する場合がある。したがって、特におよそ数分で生死の結果が決定される外傷患者の場合、患者の線維素溶解または線溶亢進を検出する際のこの速度は、臨床的には適切である。
【0085】
したがって、本明細書に記載される方法は、線維素溶解の抑制因子によって処理された血液サンプルの凝固特性と、線維素溶解の抑制因子によって処理されていない血液サンプルの同じ凝固特性とを比較する。正常な血液を有する患者の場合、線維素溶解の抑制因子によって処理された血液サンプルにおける選択された凝固特性は、線維素溶解の抑制因子によって処理されていない血液サンプルにおけるものと同じになるか、または、非常に顕著に類似することになる。一方、線維素溶解または線溶亢進が起きている患者の場合、線維素溶解の抑制因子によって処理された血液サンプルにおける選択された凝固特性が、線維素溶解の抑制因子によって処理されていない血液サンプルに選択された凝固特性とは、相違することになる。一部の実施形態において、患者に線維素溶解または線溶亢進が起きている場合、線維素溶解の抑制因子によって処理された血液サンプルの凝固特性と、線維素溶解の抑制因子によって処理されていない血液サンプルの凝固特性との差は、少なくとも1%差、若しくは少なくとも1.5%差、若しくは少なくとも2%差、若しくは少なくとも2.5%差、若しくは少なくとも3%差、若しくは少なくとも3.5%差、若しくは少なくとも4%差、若しくは少なくとも5%差、若しくは少なくとも10%差になる。当業者には理解されるように、差の大きさは、当然ながら、凝固特性として使用されるパラメタによる。
【0086】
本発明は、部分的には、検査される血液サンプルに添加された抗線維素溶解剤(すなわち、線維素溶解の抑制因子)によって、線維素溶解及び線溶亢進を検出するために必要となる時間の長さを短縮する試みに由来している。本開示に記載された発見の前、最も初期の頃にも、LY30割合を入手できた後は、TEG装置(例えば、ヘモネティックス・コーポレーションから入手できるもの)を使用して、線維素溶解または線溶亢進が起きている患者を識別することができた。最も迅速な環境下であっても、反応時間が4分、K時間が0分、MAの達成が9分の時点、及び、LY30分析に30分を要するものと仮定した場合、粘弾性アッセイの開始から43分よりも前にLY30割合を入手することはできなかった。通常、LY30割合は、粘弾性アッセイの開始から少なくとも50分までは、入手することができない。本明細書に記載される方法によれば、LY30のこの時間的制限を無くすことによって、一部の実施形態では、患者についてLY30割合を取得できるときよりも少なくとも30分早く、同じ患者の止血の状態に関する結果を得ることができ、一部の実施形態では、LY30割合を取得できるときよりも30分早く結果を得るよりもさらに速く、同じ患者の止血の状態に関する結果を得ることができる。
【0087】
なお、「同じ患者」と言った場合、これは、同時点での同じ患者を意味している。したがって、完全に健康な人である患者は、単に酷い傷を負ってしまっただけの同じ健康な人と同じ患者ではない(この定義の目的では)。明らかに、完全に健康な無傷の人は、LY30割合を全く有していないことがある。
【0088】
一部の実施形態において、凝固特性が取得される時点は、粘弾性アッセイの開始後30分未満である。一部の実施形態において、凝固特性が取得される時点は、粘弾性アッセイの開始後20分未満であるか、若しくは粘弾性アッセイの開始後15分未満であるか、若しくは粘弾性アッセイの開始後10分未満であるか、若しくは粘弾性アッセイの開始後5分未満である。一部の実施形態において、凝固特性が取得される時点は、線維素溶解の抑制因子によって処理されていない血液サンプルの最大振幅の時である。一部の実施形態において、凝固特性が取得される時点は、線維素溶解の抑制因子によって処理されていない血液サンプルの最大血餅硬度の時である。一部の実施形態において、凝固特性が取得される時点は、線維素溶解の抑制因子によって処理されていない血液サンプルにおいて血餅硬度が20mmに達した時である。
【0089】
一部の実施形態において、抗線維素溶解剤は、プラスミノーゲン抑制因子である。一部の実施形態において、プラスミノーゲン抑制因子は、トラネキサム酸(TXA)である。
【0090】
一部の実施形態において、抗線維素溶解剤は、アミノカプロン酸(アミカー、ε−アミノカプロン酸、または6−アミノヘキサン酸としても知られる)である。一部の実施形態において、抗線維素溶解剤は、アプロチニンである。
【0091】
線維素溶解の抑制因子(上に列挙したものを含む)は、周知であり、既知の濃度で使用することができる。種々の実施形態において、抗線維素溶解剤は、約2.5μg/mlから約250μg/mlまでの間の濃度で血液サンプル(例えば、低下した血小板機能を有する血液サンプル)に投与される。人の患者の治療に使用される線維素溶解の抑制因子については、一回の投与量が周知であり、一回の投与量は、患者の個人的特性(例えば、全体的健康状態、体重、及び年齢)に基づいて決定することができる。
【0092】
一部の実施形態において、線維素溶解の抑制因子は、血液サンプル(例えば、低下した血小板機能を有しているもの)を容器に入れた後に、その容器に入れられる。
【0093】
一部の実施形態において、検査される血液を容器(例えば、カップやキュベット)に入れる場合、抗線維素溶解剤は、血液サンプルを容器に入れる前に、容器に入れられる。
【0094】
一部の実施形態において、抗線維素溶解剤は、血液サンプルを容器に入れたときに血液サンプルと接触するように、容器の内面にコーティングされる。
【0095】
止血の際には、血小板もまた必要とされる。骨髄中の巨核球によって生成される直径約1μmのこれらの小さな細胞質小胞は、活動的な生物由来物質で満たされている。フィブリン血栓を形成するために凝血カスケードの酵素が活性化される必要があるのと同様に、4つの物質、すなわち、アデノシン二リン酸(ADP)、エピネフリン、トロンビン、及びコラーゲンによって、血小板は活性化される。糖タンパク質IIb-IIIa(Gp IIb-IIIa)と呼ばれる接着性タンパク質は、血小板凝集の仲立ちをする。凝血原要素であるフィブリノゲンが、この受容体に付着し、血小板を互いに結合させる。フィブリノゲンによって結合されるブリッジが、凝集の主な原因に相当する。外科手術または外傷は、凝血原要素を組織因子に暴露して、凝血カスケードを引き起こす原因となる。凝血カスケードは、フィブリノゲンを、血餅の強度を上げるポリマーであるフィブリンに変換する上に、血小板の主たる活性化因子である大量のトロンビンも生成する。
【0096】
一部の実施形態において、患者の血餅の形成及び強度に対する血小板の貢献は除外され、または低減され、それによって、血餅の線維素含有量、及びフィブリノゲンの貢献のみに基づく線溶亢進または線維素溶解の判定が可能になる。
【0097】
したがって、一部の実施形態において、血液サンプルは、低下した血小板機能を有する血液サンプルである。例えば、血液サンプルは、血小板機能抑制因子と接触され、それによって血液サンプル中の血小板の機能が低減される場合がある。また、血液サンプルは、血液サンプルから血小板を物理的に除去することによる物理的処理によって(例えば、遠心分離を受けることによって)、血液サンプル中の血小板の数が低減される場合がある。
【0098】
上で述べたように、フィブリノゲンと血小板はいずれも、血餅完全性に貢献する。本明細書に記載される一部の方法において、線維素溶解は、血小板機能が低下した血液サンプル(例えば、血液サンプルをサイトカラシンDのような血小板抑制因子によって処理することによって得られる)において検出される場合がある。もし抗線維素溶解剤(例えば、トラネキサム酸)の添加によって、血小板機能が低下した血液サンプルにおける線維素溶解が止まれば、その線維素溶解は、血小板機能によるものではなく、むしろ、凝血カスケード中の繊維をその他の原因によるものである可能性がある。したがって、血液サンプルを採取した元の患者(及び、線維素溶解または線溶亢進を発症しがちな者、または現在それらが起きている者)は、抗線維素溶解剤による治療に応じる可能性がある。したがって、一部の実施形態において、検査される血液サンプルは、正常な全血に比べて低下した血小板機能を有している。
【0099】
なお、「低下した血小板機能」は、血液サンプルが血小板機能を全く有していないことを意味するものではない。むしろ、低下した血小板機能を有する血液サンプルは、正常な全血とは対照的に、単に低下した血小板機能を有している。例えば、低下した血小板機能を有する血液サンプルは、全血に比べて少なくとも25%少ない、若しくは少なくとも50%少ない、若しくは少なくとも75%少ない、若しくは少なくとも90%少ない血小板機能を有する血液サンプルを含む。血小板機能としては、限定はしないが、例えば、止血への貢献が挙げられる。したがって、低下した血小板機能は、血液が凝固する際の血小板の相互の凝集を低減することによって評価することができる(例えば、カオリン及びカルシウムが存在する状況において)。
【0100】
一部の実施形態において、血液サンプルは、血液サンプル中の血小板の数を減らすように物理的に処理される。例えば、全血を遠心分離することによって、一部または全部の血小板を取り除くことができる。一つの非常に単純な手順として、1.5μlの血液を、2.0mlの微量遠心分離管の中で1000rpmで10分間にわたって遠心分離することができる。血小板を豊富に含む血漿が、血液の最上部に上澄みとして浮き上がることになる。この上澄みを除去(例えば、吸引により)することで、血小板が減少した全血が管の底に残る。以下で説明する粘弾性解析の実施には、500μl未満の血液しか必要とされないため、これは、血液中の血小板の数を急速に減らすための非常に迅速な方法である。
【0101】
別の方法として、血小板が減少した全血は、全血を、固体表面に付着された血小板固有の抗体に接触させることによって得ることもできる。血小板は、固体表面に選択的に結合され、血小板が減少した全血を得ることができる。例えば、糖タンパク質IIb-IIIa受容体(血小板上には現れるが、赤血球上には現れない)と特に結合する抗体を、磁気ビーズ(アメリカ合衆国カリフォルニア州カールスバドにあるLife Technologies社から市販されているDynabeads)に結合させることができる。全血を、抗体でコーティングされた磁気ビーズに接触させることができ、血小板を抗体に結合させることができた後、磁気を加える。磁石はビーズを引き寄せ(それによって血小板を引き寄せ)、血小板含有量が低下した(したがって、血小板機能が低下した)残りの血液は、磁石に拘束されず、したがって収集されることができる。
【0102】
一部の実施形態において、血小板機能は、血液サンプルを血小板機能抑制因子に接触させることによって低下される。一つの非制限的な血小板機能抑制因子は、アブシキシマブ(c7E3Fab(抗原結合性フラグメント)としても知られている)である。アブシキシマブは、糖タンパク質IIb/IIIa受容体拮抗薬であり、血小板凝集を抑制する。他の非制限的な血小板機能抑制因子としては、アデノシン二リン酸(ADP)受容体抑制因子(例えば、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロール、チクロピジン)、ホスホジエステラーゼ抑制因子(例えば、シロスタゾール)、糖タンパク質IIb/IIIa受容体抑制因子(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、及びチロフィバン)、アデノシン再摂取抑制因子(例えば、ジピリダモール)、並びにトロンボキサン合成酵素抑制因子及びトロンボキサン受容体拮抗剤(例えば、テルトロバン)のようなトロンボキサン抑制因子が挙げられる。これらの血小板機能抑制因子(またはこれらの組み合わせ)はいずれも、本明細書に記載される方法に使用されることができる。
【0103】
血小板機能抑制因子(上で列挙したもの、及びそれらの組み合わせを含む)は、周知であり、全血の血小板機能を低下させるために、既知の濃度で使用されることができる。種々の実施形態において、血小板機能抑制因子は、約2.5μg/mlから約250μg/mlまでの間の濃度で、全血(例えば、全血サンプル)に投与される。
【0104】
本明細書に記載される方法の一部の実施形態では、患者から全血サンプルを収集した後、その血液は、サンプル中の血小板機能を低下させるような形で(例えば、物理的処理によって、または血小板機能抑制因子との接触によって)、処理される場合がある。例えば、全血は、血小板機能の抑制因子が既に入っている単一の容器に投入される場合がある。あるいは、全血が入っている容器に、血小板機能の抑制因子が投入される場合がある。あるいは、全血は、血小板除去される場合がある(例えば、血液から血小板を物理的に除去することによって)。血小板機能が除去された後、次に、血液サンプルは、2つの粘弾性アッセイ試験グループに分離されることができる。第1の試験は、線維素溶解剤が存在しない状況で実施され、第2の試験は、抗線維素溶解剤が存在する状況で実施される。
【0105】
当然ながら一部の実施形態では、抗線維素溶解剤が第2の試験グループに追加されるのと同時に、サンプルの血小板機能は低下される。すなわち、一部の実施形態では、検査される血液サンプルが容器(例えば、カップまたはキュベット)に投入されるとき、その血液サンプルの投入よりも前に、血小板機能抑制因子が容器内にある。一部の実施形態では、血液サンプルが容器に投入された後、血小板機能抑制因子が血液サンプルに接触するように、血小板機能抑制因子は、容器の内面にコーティングされている。
【0106】
トロンボエラストグラフィー(TEG)測定法を使用するフィブリノゲン機能アッセイは、ヘモネティックス・コーポレーション(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ブレインツリー)から市販されている。このアッセイは、血小板抑制因子を含み、したがって、線維素溶解の測定から血小板の貢献を除外する。このフィブリノゲン機能アッセイの使用については、論述されている(Harr他著、Shock39(1):45−49,2013年)。
【0107】
以下に記載されるように、線維素溶解または線溶亢進を非常に早い段階で検出するために、抗線維素溶解剤が存在する状況、または存在しない状況でフィブリノゲン機能(FF)アッセイを実施することによって、フィブリノゲン機能(FF)アッセイ(すなわち、止血プロセスに対する血小板の貢献を除外したTEGアッセイ)に変更を加える。正常な血液は、抗線維素溶解剤が存在する状況でも存在しない状況でも、同じTEGトレース及びTEMトレースを示すが、線維素溶解または線溶亢進を有する患者から採取された血液の場合、抗線維素溶解剤が存在する状況でのトレースと、抗線維素溶解剤が存在しない状況でのトレースとの間に、差が現れる。
【0108】
本発明は、他の態様として、患者がその抑制因子に対して敏感に反応する線維素溶解の抑制因子を識別する方法を提供する。この方法は、線維素溶解の抑制因子が存在しない状況において、低下した血小板機能を有する血液サンプルの第1の部分を対象として粘弾性解析を実施し、ある時点における前記第1の部分の凝固特性を取得し;線維素溶解の第1の抑制因子が存在する状況において、前記低下した血小板機能を有する血液サンプルの第2の部分を対象として粘弾性解析を実施し、前記時点における前記第2の部分の凝固特性を取得し;線維素溶解の第2の抑制因子が存在する状況において、前記低下した血小板機能を有する血液サンプルの第3の部分を対象として粘弾性解析を実施し、前記時点における前記第3の部分の凝固特性を取得し;前記第1の部分の凝固特性と前記第1の抑制因子が存在する状況における前記第2の部分の凝固特性との間の第1の差を、前記第1の部分の凝固特性と前記第2の抑制因子が存在する状況における前記第3の部分の凝固特性との間の第2の差と比較することを含み、前記第1の差が前記第2の差よりも大きい場合、患者は、前記第1の抑制因子による治療から有益な結果が得られ、前記第2の抑制因子が前記第1の抑制因子よりも大きい場合、患者は、前記第2の抑制因子による治療から有益な結果が得られるであろうことになる。
【0109】
当然ながら、この方法は、線維素溶解の第3の抑制因子等を含むことができる。一部の実施形態において、前記線維素溶解の第1の抑制因子、及び前記線維素溶解の第2の抑制因子はそれぞれ、(ε−アミノカプロン酸)、トラネキサム酸、及びアプロチニンからなる群の中から選択され、前記第1の抑制因子と前記第2の抑制因子は、同じではない。線維素溶解の抑制因子は、例えば、約2.5μg/mlから約250μg/mlまでの範囲内で、使用されることができる。
【0110】
他の態様において、本発明は、粘弾性解析を使用して血液の止血状態を検出するのに適した容器であって、線維素溶解の抑制因子を含むコーティングを有する内面を備えた容器を提供する。前記血小板機能の抑制因子は、糖タンパク質IIb/IIIa受容体抑制因子(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、またはチロフィバン)であるか、アデノシン二リン酸(ADP)受容体抑制因子、アデノシン再摂取抑制因子、またはトロンボキサン抑制因子であるか、あるいは、サイトカラシンDである場合がある。一部の実施形態において、前記血小板機能の抑制因子は、異なる抑制因子の組み合わせ(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、チロフィバン、アデノシン二リン酸(ADP)受容体抑制因子、アデノシン再摂取抑制因子、トロンボキサン抑制因子、及び/又はサイトカラシンDの組み合わせ)である。
【0111】
他の態様において、本発明は、粘弾性解析を使用して血液サンプルにおける線溶亢進または線維素溶解を検出するのに適した容器であって、線維素溶解の抑制因子を含むコーティングを有する内面を備えた容器を提供する。一部の実施形態において、前記容器の内面上の前記コーティングは、血小板機能の抑制因子をさらに含む。
【0112】
一部の実施形態において、前記容器の前記コーティングにおける前記線維素溶解の抑制因子は、トラネキサム酸である。一部の実施形態において、前記線維素溶解の抑制因子は、アミノカプロン酸(ε−アミノカプロン酸)、トラネキサム酸、またはアプロチニンである。一部の実施形態では、前記線維素溶解の抑制因子は、前記コーティングにおいて、糖及び/又はアジ化ナトリウムに配合されている。
【0113】
一部の実施形態において、前記容器は、TEGトロンボエラストグラフィー分析システムを使用して、またはROTEMトロンボエラストメトリー分析システムにおいて実施される粘弾性解析において使用される。
【0114】
一部の実施形態において、前記容器の前記コーティングは、血小板機能の抑制因子をさらに含む。前記血小板機能抑制因子は、糖タンパク質IIb/IIIa受容体抑制因子(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド、またはチロフィバン)であるか、アデノシン二リン酸(ADP)受容体抑制因子、アデノシン再摂取抑制因子、またはトロンボキサン抑制因子であるか、あるいは、サイトカラシンDである場合がある。
【0115】
下記の例は、本明細書に記載される発明を制限ではなく、例示する目的で提供される。
【0116】
例1:トラネキサム酸(TXA)を含むフィブリノゲン機能TEGアッセイ
【0117】
上記Harr他による方法は、概して下記のとおりである。
【0118】
簡単に言えば、クエン酸塩が添加された全血サンプルを、外傷患者から取得する。21番径の針を用いて前肘静脈に静脈穿刺を実施し、3.2%クエン酸塩が入った真空容器(例えば、3.2%クエン酸塩が入った3.5mLのプラスチック・バキュテナー(登録商標))の中に、血液を収集する。
【0119】
フィブリノゲン機能アッセイを、ヘモネティックス・コーポレーション(アメリカ合衆国マサチューセッツ州、ブレインツリー、アイエル、ナイルス)から購入し、製造業者の指示にしたがってTEG(登録商標)5000装置において実施した。
【0120】
フィブリノゲン機能(FF)アッセイを実施するために、0.5mLのクエン酸塩添加血液を、組織因子(凝血活性化因子)とアブシキシマブ(モノクローナルGPIIb/IIIa受容体拮抗剤;FF試薬と呼ばれることもある)との混合物が入った指定されたFFバイアルに投入し、血液サンプルをゆっくりと混ぜる。FFバイアルから、340μLの一定分量を、20μLの0.2mol/LのCaCl2(塩化カルシウム)が前もって入れてある37°CのTEGカップに移す。FFアッセイは、血小板を含有しない血餅の凝固パラメタを測定する。FFバイアルから、第2の340μLの一定分量を、20μLの0.2mol/LのCaCl2(塩化カルシウム)が前もって入れてある37°CのTEGカップに移す。例2で説明される方法によれば、第2のTEGカップは、TXA(トラネキサム酸)でコーティングされている。
【0121】
血液サンプルの2つの部分(すなわち、TXAを含まないFFとTXAが添加されたFF)が、TEG5000装置上で同時に分析される。もし血液サンプルが正常であれば、2つのトレースは、ほぼ同一になり、互いに重ね合わせたときに1本のライン(または、非常に近接した2本のライン)を形成することになる。
【0122】
一方、線維素溶解または線溶亢進が起きている患者から血液サンプルを採取した場合、血液サンプルのTXAで処理された部分からは、TXAで処理されていいない血液サンプルの部分のTEGトレースとは顕著に異なるTEGトレースが得られる。図5及び図6は、こうした研究から得られた代表的結果を示している。図示のように、血液サンプルのTXA処理された部分から得られたTEGトレースは、比較的大きな振幅を有し、急速に増大するTEGトレースとなっている。TEGトレースのずれ(発散)は、ほぼ即座に(例えば、アッセイが開始されてから2分の時点で)発生し、アッセイが開始されてから約15分から約35分までの間(ピンがカップに挿入されてから約15分から約35分までの間)の時点で、明らかに相違している。この相違は、FF単体(すなわち、TXAを使用しないFF)で処理された血液サンプルのTEGトレースのMAの時点で、顕著に明らかである。
【0123】
図5及び図6(または、似たような結果)において得られたデータから、新たなパラメタ、すなわち、ΔV@MAが明らかになった。ΔV@MAは、TXAで処理されていない血液サンプルのMA時における2つのチャネル(すなわち、TXAを含まない血液とTXAを有する血液)の速度の差である。したがって、ΔV@MAは、TXAで処理されたサンプルのTEG速度(図6及び図7における上側ライン)から、TXAで処理されていないサンプルのTEG速度(図6及び図7における下側ライン)を単純に差し引くことによって、計算されることができる。
【0124】
この新たなパラメタ、すなわちΔV@MAが、線維素溶解を示すものであるか否かを判断するために、まず、標準的滴定曲線を作成した。上で述べたように、t−PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)は、不活性プラスミノーゲンを活性プラスミンに変換することができ、プラスミンは、線維素を分解することができ、したがって線維素溶解を引き起こすことができる。全血は、t−PAの量が急激に増加している健康な人から採取され、血液サンプルは均等に分割された。その際、TXA(トラネキサム酸)を一方の部分にのみ添加し、他方の部分には添加しなかった。これら2つの部分(すなわち、2つのサンプル)がTEG5000装置において分析され、ΔV@MAが求められた(TXAで処理されていないサンプルのMAの時点において、TXAで処理されたサンプルのTEG速度からTXAで処理されていないサンプルのTEG速度を差し引くことによって)。図7は、標準的滴定曲線を示す、t−PAの濃度(ng/ml)に対してプロットされたΔV@MAを示す線グラフである。
【0125】
次の問題は、LY30との間に相関がある、上記のようなこの新たなパラメタΔV@MAが、線維素溶解を検出するための技術的に公知の手段であるか否かであった。これを行うために、TXA処理されたサンプルのLY30の数値と、TXA処理されていないサンプルのLY30の数値との間の差を再計算し、ΔLY30の計算を実施した。TXAで処理されていないサンプルのLY30は、簡単である。例えば、図6を参照すれば、TXAで処理されていないサンプルのLY30は、約50%である(MAが、アッセイを開始してから約24分後であり、そこから30分後に、LY30は計算される)。TXA処理されたサンプルの場合、LY30は非常に小さく、(74分の時点でのTXA処理されたサンプルの振幅に基づいてLY30を計算して)約0.1%である。上で述べたように、3%程度の低いLY30が、臨床的には適切である場合がある。したがって、3%程度の低いΔLY30が、臨床的には適切である場合がある。このサンプルでは、未処理のサンプルのうちの概ね50%のLY30が、非常に重症の線溶亢進を表している。
【0126】
図8に示されているように、LY30の臨床的に適切な範囲内では、ΔLY30とΔV@MAの比が、直線的である。したがって、この新たなΔV@MAパラメタは、TXAで処理されていないサンプルのMAの時点で計算され、定義によれば、ΔLY30パラメタよりも30分速く得られ、線維素溶解の有効な測定基準であるが、臨床医にとっては、LY30よりも遥かに早く入手することができる。そのような線維素溶解及び線溶亢進を検出するために必要時間の低減は、外傷患者の転帰にとって、臨床的に重要である。
【0127】
なお、上で述べたように、ΔVを、TXAで処理されていないサンプルのMAの時点で取得する必要はない。むしろ、ΔVは、線維素溶解の抑制因子で処理されたサンプルと、線維素溶解の抑制因子で処理されていないサンプルとが、TEGトレース上で分散を示し始める如何なる時点で取得されてもよい。
【0128】
例2:TXA(トラネキサム酸)でコーティングされた容器の製造
【0129】
TXAコーティングされたTEGカップの作成
【0130】
1.282mLの11.7%のトレハロース;0.03mLの10%のNaN3(アジ化ナトリウム);0.9mLのシクロカプロン(トラネキサム酸の市販製剤、HO中に100mg/mLでTXAを含有);及び、12.788mLの脱イオン化されたHOを使用して、15mLのストック溶液を調合する。
【0131】
180μg/カップの最終的TXA濃度を得るために、この溶液を30μLづつ、TEGカップの中に分注する。カップは、一晩かけて風乾(空気乾燥)され、乾燥剤とともに、1箱あたり20カップ(ピン)の形に包装される。各箱は、密閉されたジプロック・バッグの中に包装される。
【0132】
この薬液(乾燥前)の最終基質は、1%のトレハロース、及び0.02%のNaN3(アジ化ナトリウム)である。なお、乾燥処理は、凍結乾燥器で実施される場合があり、その場合、乾燥処理は、凍結乾燥と呼ばれることがある。
【0133】
例2において説明したこの方法を使用すれば、各カップにおけるTXAの量を標準化することができ、TXAコーティングされたカップを、後の使用に備えて容易に保存することができる。
【0134】
例3.抗線維素溶解剤または血小板機能の抑制因子の何れか一方によってコーティングされ、あるいは、血小板機能の抑制因子のみによってコーティングされた容器の製造
【0135】
TXAと血小板抑制因子の両方を備えたカップを製造する場合、アジ化ナトリウム、トレハロース、トラネキサム酸(TXA)、及びサイトカラシンDを含む溶液を調合及び使用して、TEGカップの内面をコーティングする。例2において説明したように、この溶液を付着させた後、カップを乾燥させることができる。各カップにおけるTXAの最終濃度は、180μg/カップである。各カップにおけるサイトカラシンDの最終濃度は、約2.5μg/mlから約250μg/mlまでの間の範囲内である。
【0136】
血小板抑制因子のみを備えたカップの場合、アジ化ナトリウム、トレハロース、及びサイトカラシンDを含む溶液を調合及び使用して、TEGカップの内面をコーティングする。この溶液をカップに付着させた後、カップを乾燥させることができる。各カップにおけるサイトカラシンDの最終濃度は、約2.5μg/mlから約250μg/mlまでの間の範囲である。
【0137】
例4.トラネキサム酸(TXA)によるTEGアッセイ
【0138】
これらの研究は、例1の実施要領に従って行われる。ただし、クエン酸塩は血液に添加されず、活性化因子は血液に添加されない。
【0139】
手短に言えば、外科手術のために運び込まれた患者から、全血が採取される。全血は、それぞれ360μLからなる2つの部分に即座に分割され、各部分が、TEGカップに入れられる。第1の部分は、FF試薬(モノクローナル)GPIIb/IIIa受容体拮抗剤)、及び200μgのトラネキサム酸(TXA)を含むコーティング材でコーティングされたTEGカップに投入される。第2の部分は、200μgのTXAを含むコーティング材でコーティングされたTEGカップに投入される。
【0140】
血液サンプルのこれら2つの部分(すなわち、TXAなしのFF、及びTXAを加えたFF)は、TEG5000装置上で同時に分析される。もし血液サンプルが正常であれば、2つのトレースは一致することになり、互いに重ね合わせたときに一本のラインを形成することになる。
【0141】
一方、2つのトレースが発散し始めたちょうどその時に(例えば、分析の開始後2分のような早い時点で)、TEGアッセイにおいて使用される小さな一回の投与量の抗線維素溶解剤(この場合、トラネキサム酸)を、患者への投与のために調合する。2本のトレースがどのくらい逸れている(乖離している)かに応じて、一回の投与量は、増加される場合もあれば、されない場合もある。例えば分析の開始後20分の時点で、もし2つのトレースが極端に乖離している場合、患者に線溶亢進が起きている可能性がある。外科手術の最中またはその後の患者の好ましい転帰が得られる見込みを向上させるために、この時点で、抗線維素溶解剤(例えば、トラネキサム酸またはアプロチニン)の一回の投与量を増加させてもよい。
【0142】
例5.クエン酸塩添加カオリン(CK)TEG試験と、本明細書に記載される方法との比較
【0143】
本明細書に記載される方法は、抗線維素溶解剤で処理されていない患者の血液サンプルの凝固特性を、抗線維素溶解剤で処理された患者の血液サンプルの凝固特性と比較するものであり、クエン酸塩添加カオリン試験に比べて優れたより感度の高い検査である。
【0144】
この概念を立証するために、15人のドナーから血液を採取し、2つのグループ、すなわち、クエン酸塩添加カオリングループと、FF(フィブリノゲン機能)グループとに分けた。
【0145】
クエン酸塩添加カオリングループに関しては、ドナーの各々から、クエン酸塩添加血液を収集した(例えば、クエン酸ナトリウムが入った管の中に、全血を収集した(それによって、約9:1の血液/クエン酸比が形成される))。8つの異なるt−PA濃度について、0.5mlの血液を、カオリン(凝固活性化因子)とゆっくりと混ぜ、線維素溶解が引き起こされるところまでt−PAの濃度を増加させた。一定分量を37°CのTEGカップに移し、TEG5000装置を使用してサンプルを分析し、それらのt−PA濃度の各々において、15人のドナーの各々についてLY30を計算した。t−PA濃度に対するLY30をプロットした結果が、図9に示されている。図9に垂直ラインで示されているように、t−PA濃度が約75ng/mlから100ng/mlまでの間の濃度に達するまでは、溶解信号がベースラインノイズの上まで上昇することはない。
【0146】
フィブリノゲン機能(FF)グループに関しては、ドナーの各々から、クエン酸塩添加血液を収集した。8つの異なるt−PA濃度について、0.5mlの血液を、増加する濃度のt−PA、及びFF試薬(GPIIb/IIIa受容体拮抗薬)とゆっくりと混ぜ、血液サンプルをゆっくりと混合した。一定分量を、CaCl(塩化カルシウム)が前もって入れてある37°CのTEGカップに移した。第2の一定分量を、CaClが前もって入れてある37°CのTEGカップに移した。ただし、第2のTEGカップは、TXAでコーティングされている。
【0147】
8つの異なるt−PA濃度において、15人のドナーの各々についてこれら2つのTEGカップを、TEG5000装置において分析した。各ドナーについて、これらのトレースに基づくΔLY30の計算を実施した。上で説明したように、ΔLY30は、TXAで処理されていないサンプルのLY30(未処理のサンプルのMAの時点、及び、MAの時点から30分における振幅を使用して計算される)と、TXA処理されたサンプルのLY30(TXA処理されたサンプルのMAの時点、及びMAの時点から30分における振幅を使用して計算される)との間の単純な差である。
【0148】
t−PA濃度に対するΔLY30をプロットした結果が、図10に示されている。図10に垂直ラインで示されているように、溶解信号は、約25ng/mlから50ng/mlまでの間のt−PA濃度において発生する。したがって、本明細書に記載される方法の検出しきい値は、クエン酸塩添加カオリン試験のものに比べて、2倍以上の高い値である(図10図9と比較して)。
【0149】
これらの研究に基づき、次の感度及び特異度パラメタが達成された。
【0150】
感度パラメタ:
− 検出しきい値[tPA]: ΔLY30の場合、25〜50ng/mL;CK−LY30の場合、75〜100ng/mL
− 分析感度(70〜100ng/mLからの傾斜): ΔLY30の場合、19.67;CK−LY30の場合、8.01
− 傾斜のRSD(n=15): ΔLY30の場合、0.57; CK−LY30の場合、0.77
− 直線的相関(0〜200ng/mlからのR): ΔLY30の場合、0.87; CK−LY30の場合、0.72。
【0151】
具体的パラメタ:
− ベースライン信号(検出しきい値より下の平均レベル): ΔLY30の場合、−0.12; CK−LY30の場合、7.38
− ベースラインノイズ(ベースライン信号におけるSD): ΔLY30の場合、0.95; CK−LY30の場合、4.18。
【0152】
上に記載された本発明の種々の実施形態は、単なる例であることを意図したものであり;種々の変形及び修正が、当業者には明らかであろう。そうした変形や修正も全て、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲内であることが、意図されている。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10