特許第6526857号(P6526857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エボニック オイル アディティヴス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許6526857潤滑剤添加剤として有用な水素化ポリブタジエン
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6526857
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】潤滑剤添加剤として有用な水素化ポリブタジエン
(51)【国際特許分類】
   C10M 143/12 20060101AFI20190527BHJP
   C08F 36/06 20060101ALI20190527BHJP
   C08C 19/02 20060101ALI20190527BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20190527BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20190527BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20190527BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20190527BHJP
【FI】
   C10M143/12
   C08F36/06
   C08C19/02
   C10N20:04
   C10N40:04
   C10N40:08
   C10N40:25
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-33800(P2018-33800)
(22)【出願日】2018年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-141153(P2018-141153A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2018年3月9日
(31)【優先権主張番号】17158306.5
(32)【優先日】2017年2月28日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】312017709
【氏名又は名称】エボニック オイル アディティヴス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Evonik Oil Additives GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ソフィア シラク
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー プレッチュ
(72)【発明者】
【氏名】マリウス ケンパー
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0242797(US,A1)
【文献】 米国特許第04222882(US,A)
【文献】 特開2017−200960(JP,A)
【文献】 特表平06−506242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C08C
C08F
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、少なくとも1つの水素化ポリブタジエンとを含む潤滑油組成物であって、前記水素化ポリブタジエンは、
(i)2,000g/mol〜10,000g/molの範囲に含まれる質量平均分子量を有し、
(ii)前記水素化ポリブタジエンの全質量を基準として、1,4−ブタジエンのモノマー単位25〜45質量%、および1,2−ブタジエンのモノマー単位55〜75質量%からなり、かつ
(iii)99%を超える水素化度を有する、
潤滑油組成物
【請求項2】
前記水素化ポリブタジエンは、前記水素化ポリブタジエンの全質量を基準として、1,4−ブタジエンのモノマー単位30〜45質量%、および1,2−ブタジエンのモノマー単位55〜70質量%からなる、請求項1記載の潤滑油組成物
【請求項3】
前記水素化ポリブタジエンは、前記水素化ポリブタジエンの全質量を基準として、1,4−ブタジエンのモノマー単位30〜40質量%、および1,2−ブタジエンのモノマー単位60〜70質量%からなる、請求項2記載の潤滑油組成物
【請求項4】
前記水素化ポリブタジエンは、1.0〜1.5の範囲に含まれる多分散指数PDIを有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の潤滑油組成物
【請求項5】
前記水素化ポリブタジエンは、1.0〜1.2の範囲に含まれる多分散指数PDIを有する、請求項4記載の潤滑油組成物
【請求項6】
前記水素化ポリブタジエンは、3,000g/mol〜9,000g/molの範囲に含まれる質量平均分子量を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の潤滑油組成物
【請求項7】
前記水素化ポリブタジエンは、4,000g/mol〜8,000g/molの範囲に含まれる質量平均分子量を有する、請求項6記載の潤滑油組成物
【請求項8】
前記潤滑油組成物の全質量を基準として、基油50〜99.9質量%、および前記水素化ポリブタジエン0.01〜50質量%を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
請求項1からまでのいずれか1項記載の水素化ポリブタジエンを含む潤滑油組成物の製造方法において、前記方法は、
(i)第一の工程で、1,3−ブタジエンのアニオン重合によりポリブタジエンを製造すること、および
(ii)第二の工程で、接触水素化により、工程(i)の前記ポリブタジエンを水素化すること
を含む、水素化ポリブタジエンを含む潤滑油組成物の製造方法。
【請求項10】
工程(i)の前記アニオン重合を、開始剤として有機金属試薬を用いて、かつ酸素およびプロトン性試薬の不存在下で、脂肪族、脂環式もしくは芳香族炭化水素溶媒、または極性のヘテロ脂肪族溶媒、またはこれらの混合物から選択される少なくとも1つの溶媒中で行う、請求項記載の方法。
【請求項11】
前記有機金属試薬は、有機ナトリウム、有機リチウム、または有機カリウムから選択される、請求項または10記載の方法。
【請求項12】
粘度指数向上剤としての請求項1からまでのいずれか1項記載の少なくとも1つの潤滑油組成物の使用
【請求項13】
動変速機流体、手動式変速機流体、無段階変速機流体、エンジンオイル、歯車油配合物、工業用歯車油配合物、車軸流体配合物、デュアルクラッチ変速機流体、専用ハイブリッド変速機流体、または作動油中の潤滑油添加剤または合成ベース流体としての請求項1から8までのいずれか1項記載の潤滑油組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、低分子量の水素化ポリブタジエン、およびそのポリマーの製造方法に関する。本発明は、また、このようなポリマーを含む潤滑剤組成物、およびこれらの潤滑剤組成物の、自動変速機流体、手動式変速機流体、無段階変速機流体、エンジンオイル、歯車油配合物、工業用歯車油配合物、車軸流体配合物、デュアルクラッチ変速機流体、専用ハイブリッド変速機流体、または作動油としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本発明は潤滑の分野に関する。潤滑剤は、表面の間の摩擦を低減する組成物である。2つの表面の間の自由な動きを許容し、かつ表面の機械的摩耗を低減することに加えて、潤滑剤は、また、表面の腐食を抑制してよく、かつ/または熱または酸化による表面への損傷を抑制してよい。潤滑剤組成物の例は、エンジンオイル、変速機流体、歯車油、工業用潤滑油、グリースおよび金属加工油を含むが、これらに限定されるものではない。
【0003】
典型的な潤滑剤組成物は、ベース流体、および任意に1つ以上の添加剤を含む。慣用のベース流体は、炭化水素、例えば鉱油である。基油またはベース流体の用語は、一般に、交換可能に使用される。ここでは、ベース流体を、一般的な用語として使用する。
【0004】
潤滑剤の意図された用途に依存して、多様な種類の添加剤をベース流体と組み合わせてよい。潤滑剤添加剤の例は、粘度指数向上剤、増粘剤、酸化防止剤、腐食防止剤、分散剤、高圧添加剤、消泡剤および金属不活性化剤を含むが、これらに限定されるものではない。
【0005】
典型的な、非ポリマーのベース流体は、その低い粘度のため、およびより高い運転温度でさらに粘度が低下するために、潤滑剤としての効果は低い。したがって、ポリマー添加剤が、基油の増粘のため、および温度による粘度の変化を低減するために使用される。粘度指数(VI)の用語は、温度による粘度の変化を説明するために使用される。VIが低ければそれだけ、温度変化による粘度の変化はより大きくなり、また逆も当てはまる。したがって、潤滑剤配合物のためには高いVIが望ましい。VIを改良するために、ポリマー添加剤または粘度指数向上剤(VII)を、潤滑剤配合物に添加してよい。ポリマー添加剤を潤滑剤配合物に添加することの欠点は、これらが剪断応力を受け、時間と共に機械的に分解することにある。比較的高い分子量のポリマーは、比較的良好な増粘剤であるが、剪断応力をより大きく受けやすく、ポリマー分解を引き起こしかねない。ポリマー分解の量を低減するために、ポリマーの分子量を低下させることができ、それにより、より剪断安定性のポリマーが得られる。この剪断安定性の低分子量のポリマーは、もはや極めて有効な増粘剤ではなく、かつ所望の粘度に達するために潤滑剤中に比較的高い濃度で使用しなければならない。この低分子量のポリマーは、典型的に、20,000g/mol未満の分子量を有し、かつ合成高粘度ベース流体ともいわれる。
【0006】
通常の合成ベース流体は、ポリアルファオレフィン、ポリアルキルメタクリレート、およびエチレン−プロピレンコポリマーであり、これらのベース流体は、本来は重合体であり、かつ改善された粘度指数を提供するため、これらのベース流体の主要な特徴は、粘度に関して良好な取り扱い特性である。
【0007】
米国特許第5,945,485号明細書および米国特許第3,312,621号明細書は、1,4−ブタジエンおよび1,2−ブタジエンモノマー単位を含む、水素化されたブロックコポリマーの使用を開示している。このコポリマーは、水素化されていて、かつ少なくとも10質量%の少なくとも1つの結晶化可能なセグメント、および少なくとも1つの低結晶質セグメントを含む。このポリマーは、粘度指数向上剤として有用であるといわれている。
【0008】
欧州特許第0318848号明細書(EP0318848B1)は、30,000g/molを超える数平均分子量を有する、ABブロック構造のブタジエンの水素化されたブロックコポリマーを記載している。これらのポリマーは、合成ベース流体として使用するためには粘性でありすぎる。さらに、この高い分子量は、ベース流体から必要とされる十分な剪断安定性を提供しない。
【0009】
米国特許第3,312,621号明細書は、75,000〜300,000g/mol、好ましくは150,000〜250,000g/molの数平均分子量を有するブタジエンコポリマーを記載している。これらのコポリマーはブロック構造を有し、かつ少なくとも90%が1,4−配置を有し、かつ水素化されていない。
【0010】
米国特許第5,310,814号明細書は、粘度指数向上剤としての1,2−ブタジエンおよび1,4−ブタジエンの、水素化されていないブロックコポリマーを開示している。合成ベース流体としての使用は開示されておらず、かつ油中の推奨質量パーセントは、粘度指数向上剤に典型的な、0.1質量%〜3質量%の範囲にある。
【0011】
米国特許第3,600,311号明細書は、ブタジエンモノマーの45〜95質量%が1,4−配置であり、かつブタジエンの10〜55質量%が1,2−配置である、ブタジエンの水素化されたコポリマーを開示している。これらのポリマーは、ワックスの沈着を制御するために有用な添加剤であることが示されている。
【0012】
米国特許第3,329,613号明細書は、油添加剤として有用な水素化されていないポリブタジエンポリマーの使用に関する。ここに開示されたポリマーは、実質的に1,4−配置であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,945,485号明細書
【特許文献2】米国特許第3,312,621号明細書
【特許文献3】欧州特許第0318848号明細書
【特許文献4】米国特許第5,310,814号明細書
【特許文献5】米国特許第3,600,311号明細書
【特許文献6】米国特許第3,329,613号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ポリアルファオレフィン(PAO)のような現存の生成物は、いくつかの用途のために必要な性能レベルを有していない。工業用潤滑剤用だけでなく工業用歯車油の分野においても代替の解決策を提供する必要がある。特に、これらの生成物は高価であり、所望の粘度に増粘するために大量のポリマーを必要とし、かつ重要な配合物成分に対して十分な溶解度を提供しないため、現存の高粘度ポリアルファオレフィンを置き換えることが望ましいであろう。したがって、本発明の目的は、潤滑油組成物中で、油溶性および成分溶解度、ならびに低温性能に良好な影響を及ぼす、高い剪断安定性の合成ベース流体、または潤滑油添加剤を提供することであった。さらに、これらの新規ポリマーは、典型的に使用されたポリアルファオレフィンと比較して、少量のポリマーを使用して所望の粘度にまで油を増粘させることができるべきである。これらの高い剪断安定性のポリマーは、また、高い粘度指数、高い引火点、および良好な酸化安定性を有するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
周到な研究により、本発明の発明者は、意外にも、請求項1に定義されたように、2,000g/mol〜10,000g/molの範囲に含まれる質量平均分子量を有する水素化ポリブタジエンが、潤滑油組成物中でのその処理率(treat rate)に依存して、高い剪断安定性の潤滑油添加剤または合成ベース流体として有用であることを見出した。これらのポリマーは、請求項1に定義されたように、1,2付加物および1,4付加物から誘導された繰返単位の統計分布からなるブタジエンの水素化ホモポリマーである。1,2付加物から誘導されたポリブタジエン繰返単位は、「1,2−ポリブタジエン」、または「1,2−ブタジエンのモノマー単位のポリブタジエン」ともいわれる。1,2−ポリブタジエンの不飽和二重結合は、末端の、ビニル型の不飽和である。1,4付加物から誘導されたポリブタジエン繰返単位は、「1,4−ポリブタジエン」、または「1,4−ブタジエンのモノマー単位のポリブタジエン」ともいわれる。1,4−ポリブタジエンの不飽和二重結合は、内部型不飽和であり、シス配置であるかまたはトランス配置である。良好な油溶性および良好な低温性能を維持するために、1,2付加物対1,4付加物の特定の質量比が必要である。特に、本発明の水素化ポリブタジエンは、水素化ポリブタジエンの全質量を基準として、1,4−ブタジエンのモノマー単位25〜45質量%、および1,2−ブタジエンのモノマー単位55〜75質量%からなり、かつ99%を超える水素化度も有する。
【0016】
請求された水素化ポリブタジエンの質量平均分子量は、標準としてポリブタジエンおよび溶離剤としてTHFを用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定される。
【0017】
本発明の好ましい実施態様の場合に、水素化ポリブタジエンは、水素化ポリブタジエンの全質量を基準として、1,4−ブタジエンのモノマー単位30〜45質量%、および1,2−ブタジエンのモノマー単位55〜70質量%からなる。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施態様の場合に、水素化ポリブタジエンは、水素化ポリブタジエンの全質量を基準として、1,4−ブタジエンのモノマー単位30〜40質量%、および1,2−ブタジエンのモノマー単位60〜70質量%からなる。
【0019】
本発明の他の好ましい実施態様の場合に、水素化ポリブタジエンは、1.0〜1.5の範囲に含まれる多分散指数(PDI)を有する。本発明の特別な実施態様によると、水素化ポリブタジエンは、1.0〜1.2の範囲に含まれるPDIを有する。
【0020】
本発明の特別な実施態様によると、水素化ポリブタジエンは、3,000g/mol〜9,000g/molの範囲に含まれる、さらに好ましくは4,000g/mol〜8,000g/molの範囲に含まれる質量平均分子量を有する。
【0021】
他の態様によると、本発明は、また、本発明の水素化ポリブタジエンの製造方法に関し、この方法は次の工程を含む:
(i)第一の工程で、1,3−ブタジエンのアニオン重合によりポリブタジエンを製造すること、および
(ii)第二の工程で、接触水素化により、工程(i)のポリブタジエンを水素化すること
この方法の好ましい実施態様によると、工程(i)のアニオン重合は、開始剤として有機金属試薬を用いて、かつ酸素およびプロトン性試薬の不存在下で、脂肪族、脂環式、または芳香族炭化水素溶媒から選択される少なくとも1つの溶媒中で行われる。
【0022】
有機金属試薬の中で、有機ナトリウム、有機リチウム、または有機カリウムが好ましい。
【0023】
本発明は、また、基油および少なくとも1つの本発明の水素化ポリブタジエンを含む潤滑油組成物に関する。
【0024】
本発明の好ましい実施態様の場合に、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の全質量を基準として、少なくとも1つの基油50〜99.9質量%、および本発明による少なくとも1つの水素化ポリブタジエン0.01〜50質量%を有する。潤滑油組成物の用途に依存して、油配合物中での水素化ポリブタジエンの処理率が適合される。本発明によると、水素化ポリブタジエンは、潤滑油組成物中の処理率に依存して、(低処理率について)潤滑油添加剤、または(高処理率について)合成ベース流体と見なしてよい。
【0025】
本発明は、また、本発明による水素化ポリブタジエンの、特に、自動変速機流体、手動式変速機流体、無段階変速機流体、エンジンオイル、歯車油配合物、工業用歯車油配合物、車軸流体配合物、デュアルクラッチ変速機流体、専用ハイブリッド変速機流体、または作動油中の潤滑油添加剤またはベース流体としての使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
本発明による水素化ポリブタジエン
本発明の発明者は、所望の性能を達成するために、本発明の水素化ポリブタジエンポリマーの質量平均分子量が、2,000〜10,000g/molの範囲に含まれなければならないことを見出した。
【0027】
好ましい実施態様の場合に、水素化ポリブタジエンの多分散指数PDIは、1.0〜1.5の範囲に含まれる。本発明の特別な実施態様によると、水素化ポリブタジエンは、1.0〜1.2の範囲に含まれるPDIを有する。
【0028】
本発明によると、請求された水素化ポリブタジエンは、99%を超える水素化度を有する。水素化の程度は、水素化されていないポリマーに対して水素を付加することによる、炭素−炭素結合の飽和のモル度合いとして定義される。通常では、水素化度は、核磁気共鳴(NMR)分光法、またはヨウ素価の決定により調査される。本発明による水素化ポリブタジエンの水素化の度合いは、標準としてジメチルテレフタレートを用いた重水素化クロロホルム溶液中での定量的プロトン核磁気共鳴(プロトン 1H NMR)により測定される。化学シフトは、溶媒シグナルを用いて校正される。水素化度の決定のために、標準のそれぞれのシグナルの積分値を、オレフィン性プロトンのシグナルの積分値と関連させる。0%の水素化の度合いを定義するために、それぞれの試料に対して、水素化されていない基準試料を用いて、前記測定および決定を繰り返すことが必要である。
【0029】
先に説明したように、本発明の水素化ポリブタジエンは、二工程の方法で製造され、第一の工程は、ポリブタジエンポリマーの製造に対応し、かつ第二の工程は、ポリブタジエンポリマーの水素化である。
【0030】
第一の方法工程:ポリブタジエンの製造
この方法の第一の工程によると、本発明のポリブタジエンポリマーは、1,3−ブタジエンモノマーのリビングアニオン重合により製造される。
【0031】
このタイプの反応は、十分に確立されていて、かつH.L. Hsieh, R. P. Quirk. Anionic Polymerization. Principles and Practical Applications, 1996, Marcel Dekker, Inc. New Yorkに詳細に記載されている。
【0032】
本発明によると、バッチ式またはセミバッチ式の方法が、1,3−ブタジエンのリビングアニオン重合のために好ましい。連続法でのリビング重合も考慮することができる。
【0033】
この重合は、通常では、脂肪族、脂環式、または芳香族炭化水素溶媒中で行われる。脂肪族炭化水素溶媒の例は、ヘキサンまたはヘプタンである。脂環式炭化水素溶媒の例は、シクロヘキサンまたはメチルシクロヘキサンである。芳香族炭化水素溶媒の例は、ベンゼンまたはトルエンである。第三級アミンおよび/またはエーテルおよび/または環状エーテルのような極性のヘテロ脂肪族溶媒を、溶媒または助溶媒として使用してもよい。第三級アミンの例は、テトラメチレンジアミンまたはN,N,N′,N″,N″−ペンタメチルジエチレンジアミンである。エーテルまたは環状エーテルの例は、ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランである。脂肪族、脂環式、または芳香族炭化水素溶媒、および極性のヘテロ脂肪族溶媒の溶媒混合物を使用することが一般的である。
【0034】
一般的な開始剤は、金属が、アルカリ金属の群にまたはアルカリ土類金属の群に由来する有機金属試薬である。典型的な例は、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、ジフェニルメチルリチウム、1,1,4,4−テトラフェニル−1,4−ジリチウムブタン、リチウムナフタレンおよびこれらのナトリウムおよびカリウムの同族体のような単官能性または二官能性の有機ナトリウム、有機リチウムまたは有機カリウム開始剤である。本発明によると、有機リチウム開始剤が好ましく、n−ブチルリチウム開始剤が特に好ましい。
【0035】
酸素およびプロトン試薬の排除下で、アニオン重合のリビング特性は、生じる分子量および多分散指数PDIに関して優れた制御を提供する。
【0036】
一般に、重合反応は、マクロアニオンの中和のために、メタノール、エタノール、2−プロパノールまたは水のようなプロトン性試薬を用いて終わらせる。
【0037】
国際公開第2014075901号(WO2014075901)に記載されているように、典型的な反応温度は、10℃〜120℃の範囲であり、典型的な反応圧力は、1〜100barの範囲にある。
【0038】
一般に、1,2−付加物と1,4−付加物との質量比を、反応混合物の極性によっておよび/または反応温度によっておよび/または対イオンのタイプによって調節することは公知である。先に既に指摘したように、本発明によると、水素化ポリブタジエンは、水素化ポリブタジエンの全質量を基準として、1,4−ブタジエンのモノマー単位25〜45質量%、および1,2−ブタジエンのモノマー単位55〜75質量%からなることが必要である。
【0039】
この方法の第二の工程:水素化
ポリブタジエンポリマーの99%を超える高い水素化度は、酸化に対する安定性の改善のために望ましい。
【0040】
ポリブタジエンおよび他の不飽和炭化水素ポリジエンの接触水素化は、十分に確立されている。包括的な外観は、刊行物N. K. Singha, S. Bhattacharjee, S. Sivarim, Hydrogenation of diene elastomers, their properties and applications: A critical review, Rubber Chemistry and Technology, 1996, Vol. 70, p. 309-367に提供されている。一般に、前記反応は、不溶性の担持金属触媒を用いた不均一系の方式で、または可溶性の有機金属触媒を用いた均一系の方式で行われる。均一系接触水素化の詳細な記載は、例えば米国特許第3,541,064号明細書(US 3,541,064)および英国特許第1,030,306号明細書(GB 1,030,306)に見ることができる。これは経済的な利点を提供するため、触媒として不溶性担持金属を用いる不均一系触媒が、工業的水素化において広範囲に使用され、かつ通常では均一系触媒よりも好ましい。
【0041】
一般に、触媒として不溶性の担持金属を用いたポリブタジエンおよび他の不飽和炭化水素ポリジエンの水素化は、できる限り高い水素化度を達成する目的で(つまり、不飽和C−C結合からならない構造を得るために)、炭素−炭素カップリングによる架橋または分解のような副反応の不存在下で、高い反応性および高い選択率を有する方法を用いて行われる。指定された目的はまた、本発明の水素化ポリブタジエンについて保持する。他のパラメータの中で、触媒活性金属の種類、担体の種類、担体の負荷量、その濃度、圧力、温度、および反応時間を調節することによりこれらの要件を満たすことが技術水準である(国際公開第2015/040095号(WO 2015/040095)、米国特許第2,864,809号明細書(US 2,864,809)、独国特許出願公開第2,459,115号明細書(DE 2,459,115)、国際公開第01/42319号(WO 01/42319)を参照)。
【0042】
一般に、ポリブタジエンおよび他の不飽和炭化水素ポリジエンの水素化のための触媒活性金属は、Ru、Rh、Pd、Ir、Pt、Mn、Cr、Fe、Co、Ni、U、Cu、Nd、In、Sn、Zn、Ag、Crおよびこれらの金属の1つ以上の合金を含むが、これらに限定されるものではない。典型的な触媒担体は、酸化物(Al23、TiO2、SiO2その他)、炭素、珪藻土または他の担体を含むが、これらに限定されるものではない。溶液またはバルクの形でのバッチ操作または連続操作での充填層またはスラリー触媒の適用のような一般的な不均一系水素化方法が適用可能である。
【0043】
本発明による水素化は、不均一系Al23担持Ru触媒を用いて行われる。
【0044】
潤滑油組成物−基油
先に指摘したように、本発明はまた、基油および少なくとも1つの本発明の水素化ポリブタジエンを含む潤滑油組成物に関する。
【0045】
基油は、意図された用途に応じて、その用途/選択に適した、潤滑基油、鉱物油、合成油または天然油、動物油または植物油に対応する。
【0046】
本発明による潤滑油組成物の配合で使用される基油は、例えば、グループI、グループII、グループIII、グループIVおよびグループVとして公知のAPI(アメリカ石油協会)ベースストックカテゴリ(base stock categories)から選択された通常のベースストックを含む。グループIおよびIIのベースストックは、120未満の粘度指数(またはVI)を有する鉱油材料(例えばパラフィン系油またはナフテン系油)である。グループIは、さらに、グループIIとは、後者が90%超の飽和材料を含むが、前者は90%未満の飽和材料(つまり10%より多くは不飽和材料である)を含むという点で区別される。グループIIIは、120以上のVIおよび90%以上の飽和レベルを有する最高レベルの鉱物性基油であると考えられる。好ましくは、本発明の潤滑油組成物中に含まれる基油は、APIグループIIおよびIIIの基油からなる群から選択される。最も好ましくは、この潤滑剤組成物は、APIグループIIIの基油を含む。グループIVの基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。グループVの基油は、エステルおよびグループI〜IVの基油に含まれない他の全ての基油である。これらの基油は、個別にまたは混合物として使用することができる。
【0047】
本発明の好ましい実施態様の場合に、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の全質量を基準として、少なくとも1つの基油50〜99.9質量%、および少なくとも1つの本発明による水素化ポリブタジエン0.01〜50質量%を有する。
【0048】
本発明による水素化ポリブタジエン、基油、本発明の方法について先に指摘された全ての特性および性能が、潤滑油組成物に当てはまる。
【0049】
付加的添加剤
本発明による潤滑油組成物は、この配合物中での使用に適した任意の他の付加的添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、粘度指数向上剤、流動点降下剤、分散剤、解乳化剤、消泡剤、潤滑添加剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、洗剤、染料、腐食防止剤および/または着臭剤を含む。
【0050】
水素化ポリブタジエンのための用途
本発明は、潤滑油組成物中の処理率に依存して、本発明による水素化ポリブタジエンの、潤滑油添加剤としての、または合成ベース流体としての使用に関する。
【0051】
本発明の水素化ポリブタジエンおよび本発明による水素化ポリブタジエンを含む潤滑油組成物は、駆動系潤滑油(例えば、手動式変速機流体、差動歯車油、自動変速機流体およびベルト無段階変速機流体、車軸流体配合物、デュアルクラッチ変速機流体、および専用ハイブリッド変速機流体)、作動油(例えば、機械装置用の作動油、パワーステアリング油、緩衝装置油)、エンジンオイル(ガソリンエンジン用およびディーゼルエンジン用)および工業用油配合物(例えば、風力タービン)用に有利に使用される。
【0052】
本発明による水素化ポリブタジエンの動粘度の観点から、潤滑油組成物中の水素化ポリブタジエンの質量含有率は、潤滑油組成物の全質量を基準として、水素化ポリブタジエンの質量に関して、好ましくは1質量%〜50質量%の範囲で含む。
【0053】
本発明による潤滑油組成物をエンジンオイルとして使用する場合、これは、潤滑油組成物の全質量を基準として、好ましくは基油中に本発明の水素化ポリブタジエンを2質量%〜20質量%含み、100℃での動粘度は、4mm2/s〜10mm2/sの範囲にある。
【0054】
本発明の粘度指数向上剤を自動車歯車油として使用する場合、これは、潤滑油組成物の全質量を基準として、好ましくは基油中に水素化ポリブタジエンを3質量%〜30質量%含み、100℃での動粘度は、2mm2/s〜10mm2/sの範囲にある。
【0055】
本発明の粘度指数向上剤を自動変速機油として使用する場合、これは、潤滑油組成物の全質量を基準として、好ましくは基油中に水素化ポリブタジエンを3質量%〜25質量%含み、100℃での動粘度は、2mm2/s〜6mm2/sの範囲にある。
【0056】
本発明の粘度指数向上剤を工業用歯車油として使用する場合、これは、潤滑油組成物の全質量を基準として、好ましくは基油中に水素化ポリブタジエンを15質量%〜50質量%含み、100℃での動粘度は、10mm2/s〜40mm2/sの範囲にある。
【実施例】
【0057】
本発明を、さらに、次の無限定の例により説明する。
【0058】
実験の部
この後、本発明を、実施例および比較例に関して詳細に説明するが、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0059】
試料製造
例1は、第一の工程での1,3−ブタジエンのアニオン重合、および第二の工程での接触水素化を含む二工程の方法で準備した。1,3−ブタジエンのアニオン重合は、シクロヘキサン(モレキュラーシーブで精製)1527g、テトラヒドロフラン(THF)48g、およびn−ブチルリチウム溶液(シクロヘキサン中で2.0M)91gを、水および酸素を含まない5Lのオートクレーブに装填することにより行った。T=40℃およびp=3.7barで激しく攪拌しながら、ブタジエン(モレキュラーシーブで精製)1068gを、800g/hの速度で添加し、6.3barの最終圧力が生じた。即座に、この反応混合物をT=20℃に冷却し、メタノール38gをp=1barで添加した。30min後に、この混合物を濾過し、引き続き揮発性の溶媒を蒸発させた。得られたポリブタジエンについて、次の特性が保持される:Mw=4.8kg/mol;PDI=1.06;1,2−含有率=75質量%;1,4−含有率=25質量%。
【0060】
接触水素化のために、シクロヘキサン中の、得られたポリブタジエンの50質量%溶液1.5Lを、Robinson-Mahoney法による触媒バスケットを備え、かつ3%Ru/Al23シェル触媒8gが導入された2Lのオートクレーブに装填した。水素化を、T=120℃およびp=200barのH2圧力で24時間実施した。搬出物を濾過し、揮発性溶媒を蒸発させた。得られた水素化ポリブタジエンの水素化度は100%である。
【0061】
例2〜13を、表1に記載したように、アニオン重合の間に使用した原材料の量、ならびに水素化の間の固体含有率を除いて、例1のラインに沿って準備した。例11および12は、A/B=50/50(wt/wt)のABブロックコポリマー試料である。
【表1】
【0062】
使用した試験方法
本発明の水素化ポリブタジエンの質量平均分子量Mwおよび多分散指数PDIを、PSS SDV 5μmプレカラムおよび30cm PSS SDV 5μm線状S分離カラムを装備したTosoh EcoSEC GPCシステム「HLC-8320」、ならびにRI検出器を用いて、T=40℃で0.3mL/minの流量で、溶離剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、ポリブタジエン校正標準に対して決定した。
【0063】
比較のポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキルメタクリレート(PAMA)、およびオレフィンコポリマー(OCP)試料の質量平均分子量を、ポリメチルメタクリレート校正標準および溶離剤としてのTHFを用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定した。
【0064】
本発明による水素化ポリブタジエンの1,2−付加物および1,4−付加物の質量含有率、ならびに水素化度を、重水素化クロロホルム中の1H−NMR分光法を用いて決定した。
【0065】
動粘度を、ASTM D 445に従って測定した。
【0066】
自動変速機流体、歯車油、トルクおよびトラクター流体、ならびに工業用および自動車用作動油の低温低剪断速度粘度は、多くの機械装置の適切な作動にとってかなり重要である。流体の低温粘度性能を測定するために、ブルックフィールド粘度計を使用することができる。潤滑剤配合物例において報告されたブルックフィールド粘度を、ASTM D 2983に従って、−30℃の温度で測定した。
【0067】
石油製品の流動点は、特定の用途のためのその実用性の最低温度の指標である。流動点のような流動特性は、潤滑系、燃料系、およびパイプライン操作の正確な操作のために重要であることがある。示された例の流動点(PP)を、ASTM D 97に従って測定した。
【0068】
粘度損失は、DIN 51350 T6による円錐ころ軸受試験で40℃で100時間後に測定した。粘度損失は、1−KV40after/KV40beforeとして計算される。
【0069】
引火点は、ASTM D 92によるクリーブランド開放式試験機を用いて測定した。
【0070】
熱酸化分解を、TA Instruments製のTGA Q5000機器を用いて熱重量分析により測定した。分析は、1分当たり5℃の速度で室温から505℃までの温度範囲を用いて空気下で行った。この機器は、試料の初期質量、ならびに温度に対する質量損失を記録した。試験の完了時に、コンピュータソフトウェアを用いて、微分熱重量(DTG)の結果を得た。各試料について、質量損失の少なくとも98%を示す、主要な狭いピークが観察された。微分ピーク温度またはDTGピーク温度を記録し、多様なポリマーを比較するために使用した。
【0071】
油および比較試料
PAO8は、8cStのKV100を有する異なるアルファオレフィンのコポリマーである。例のために使用される試料は、Chevron Phillips製の市販品のSynfluid(登録商標)PAO8である。
【0072】
Additin(登録商標)RC 9420は、Rhein Chemie Additives製の市販の工業用歯車油添加剤パッケージである。
【0073】
比較例のPAOは、Chevron Phillips製の市場で入手可能な製品である。これは、1−デセンのホモポリマーである高粘度グループIVベース流体(Synfluid(登録商標)PAO100)である。
【0074】
比較例のPAMAは、米国特許出願公開第20130229016号明細書(US20130229016A1)中の例1により合成したC12〜C15−メタクリレートのコポリマーである。
【0075】
比較例のOCPは、三井化学製の市販製品Lucant(登録商標)HC-600であり、かつ極性基を有しないでかつエチレンおよびプロピレンのコポリマー(オレフィンコポリマー(OCP))である炭化水素を基礎とする合成油に相当する。
【0076】
表2および3に示す結果の説明
表2は、バルクポリマーのいくつかの特性を示す。水素化ポリブタジエンのバルク粘度は、ポリアルキルメタクリレート、オレフィンコポリマー、およびポリアルファオレフィンと同じ範囲にある。実際に、本発明の例1〜6は、分子量において僅かな変化を有する広範囲な分子量を示し、本発明のポリマーを広範囲の用途および粘度等級に適したものにする。これらの傑出した粘度特性は、任意のベース流体の取り扱い特性の要件に適合する。さらに、水素化ポリブタジエンの粘度指数および流動点もまた、潤滑剤用途にとって極めて良好である。
【0077】
表3は、多様なポリマーを用いて製造されたいくつかの工業用歯車油潤滑剤配合物を示す。全てのポリマーを、低粘度のベース流体のPAO8中に、40℃で320cStの粘度になるようにブレンドした。Additin(登録商標)RC 9420もまた、1.8質量%で配合混合物中に含まれた。
【0078】
本発明の例1〜6は、ポリアルキルメタクリレート(例PAMA)およびポリアルファオレフィン(例PAO)のような標準基油と比較して、320cStのKV40に達するために、より少量のポリマーが必要であることを示す。
【0079】
このように、全ての実験データは、本発明によるポリマーが、良好な粘度指数、流動点およびブルックフィールド粘度を保持しつつ、優秀な増粘効率を提供することを示す。
【0080】
ポリアルファオレフィン(PAO)および例3のポリブタジエンで製造した配合物を比較した場合、両方の配合物は、同じKV40、粘度指数、流動点、および剪断安定性を提供するが;水素化ポリブタジエン配合物は、49質量%少ないポリマーを使用する。本発明によるポリマーの明らかに低減された量は、経済的利点を提供する。同様の利点は、ポリアルキルメタクリレート(例PAMA)および本発明の例5の水素化ポリブタジエンで製造した配合物を比較した場合にも見ることができる。ここでは、同じKV40を達成するために51.1質量%少ない水素化ポリブタジエンポリマーが必要であり、かつ本発明の例5で製造した配合物は、他の配合物特性において不利な点がなく、−30℃での改善されたブルックフィールド粘度および粘度指数を提供する。OCPポリマーを用いる配合物(例OCP)を、本発明の例5で製造した配合物と比較することもできる。配合物特性は同じであるが、水素化ポリブタジエン配合物は、21.6質量%少ないポリマーを用いてこの特性を提供する。
【0081】
さらに、本発明によるポリマーの低い質量平均分子量および狭いPDIは、このポリマーが優れた剪断安定性を有することを可能にする。100hrの円錐ころ軸受試験後の粘度損失は3%未満であり、これは、このように優秀な増粘効率を提供するポリマーにとって意外にも良好である。
【0082】
本発明の発明者は、1,2付加物対1,4付加物の質量比が、ブルックフィールド−30℃粘度および流動点に影響を及ぼすことを見出した。特に、本発明者は、水素化ポリブタジエンが、水素化ポリブタジエンの全質量を基準として、1,4−ブタジエンのモノマー単位25〜45質量%、および1,2−ブタジエンのモノマー単位55〜75質量%で存在しなければならないことを見出した。実際に、1,2付加物:1,4付加物の質量比が、高すぎるかまたは低すぎる場合、ブルックフィールド−30℃粘度および流動点は増大する。したがって、良好な低温特性を維持するためには、先に述べた質量比内に留まることが重要である。この効果は、本発明の例3のポリブタジエンを、例7と比較する場合に見ることができる。両者は、同様の質量平均分子量を有するが、例7の水素化ポリブタジエンは、増大された量の1,4付加物を有する。例7で製造して得られた配合物は、−30℃でのブルックフィールド粘度において強烈な増加を有する。これは、さらに、極めて高い量の1,4付加物を有する例10により示されている。この水素化ポリブタジエンは、もはや油中に溶解しない。低温特性への悪影響は、極めて高い量の1,2付加物を有する例9においても示されている。このポリマーはまた、−30℃での乏しいブルックフィールド粘度を示す。
【0083】
請求された範囲外の質量平均分子量はまた、この分子量が、請求された範囲より高い場合(例8参照)に、乏しい剪断安定性を示し、かつこの分子量が、請求された範囲よりも低い場合(例13参照)に、乏しい粘度指数および極めて乏しいブルックフィールド粘度を示す。
【0084】
例11は、先行技術において公知のような結晶質セグメントを有するブロック構造を有する水素化ポリブタジエンが、極めて乏しい溶解度(室温で固体)を生じることを示す。
【0085】
例12は、先行技術で開示されているような高い分子量のブロックポリブタジエンである。例12は極端に高い粘度であり、非極性溶媒中で極めて乏しい溶解度を示す。
【0086】
水素化ポリブタジエンを含む表3中の配合物(例5)は、例PAOを含む配合物よりも高い引火点を有する。例PAMAを含む配合物の引火点は、比較可能な引火点を示す。これらの結果は、水素化ポリブタジエンが、最先端科学技術と比較していかなる欠点も有しないことを実証している。
【0087】
例1、例2および例4は、例PAMAまたは例PAOと比べて改善された熱酸化安定性を示す。これらの例は、例PAMAおよび例PAOと比べて高いDTGピーク温度を有する。
【0088】
水素化ポリブタジエンを含む表3中の配合物を、この配合物成分が可溶性でありかつ溶液中で安定であることを保証するために、60日間の貯蔵試験に供した。この時点で分離は観察されなかった。
【表2】
【表3】