【実施例】
【0034】
実施例1
可溶性CD24タンパク質
CD24の細胞外ドメインを、IgG1Fcに融合した。そのCD24融合タンパク質のアミノ酸組成を、
図1で提供する。次いでCD24Ig融合タンパク質の発現を駆動する、複製欠損レトロウイルスベクターを作製した。GPEx
TM(遺伝子産物発現(gene product expression)のアクロニム)システムは、いくつかの重要な利点を提供し、その最も重要なものは、平均で、細胞あたり>1000個の挿入があるが、挿入あたり1コピーのみであることである。さらに、レトロウイルスは転写活性遺伝子座に優先的に挿入するので、GPExTMは、標的タンパク質の高レベルの発現を生じた。高収量のCD24Igを産生する安定な細胞系統を産生した。それに加えて、45グラムのGLPグレード産物および〜100グラムのcGMPグレード産物を産生した。バイオリアクターから回収した培地の下流の処理に使用する方法を、下記のフローチャートにまとめる(
図2)。
【0035】
回収物の清澄化
バイオリアクター培養培地を、Cuno60M02Maximizerデプスフィルター、続いてMillipore Opticap 0.22μmフィルターを用いて、清澄化した。ろ液を、滅菌収集バッグへ集めた。ELISAによるCD24−Fc収量の定量のためにサンプルを得た。
【0036】
プロテインA捕捉
清澄化した培地を、プロテインA樹脂(GE Healthcare MabSelect)のカラムに、16g/Lを超えない樹脂の濃度で(ELISAに基づいて)、および4分の接触時間で通過させた。そのカラムを、平衡化緩衝液(50mMのTris+0.15MのNaCl、pH7.5)、次いで10mMのクエン酸ナトリウム/クエン酸、pH6.0で、5cv洗浄した。結合したCD24Igを、10mMのクエン酸ナトリウム/クエン酸、pH3.5を用いてカラムから溶出した。
【0037】
ウイルス不活性化
プロテインA溶出画分を、すぐに2Mの塩酸を加えることによってpHを3.0にし、そして周囲温度で30分間、このpHに維持した。次いで1MのTris塩基を加えることによってpH5.0にし、そして0.65μmのグラスファイバーフィルター(Sartorius Sartopure GF2)および0.2μm(Sartorius Sartopore2)を用いて滅菌収集バッグへろ過して、清澄化した。
【0038】
SP−セファロースクロマトグラフィー
ウイルス不活性化物質を、SP−セファロース(GE Healthcare)のカラムに、25g/Lを超えない樹脂の濃度で(1.22のA280nm=1mg/mLに基づいて)、そして250cm/hrの線形の流量で添加した。そのカラムを、平衡化緩衝液(10mMのクエン酸ナトリウム/クエン酸、pH5.0)で洗浄し、そして結合したCD24Igを、10mMのクエン酸ナトリウム/クエン酸+0.2MのNaCl、pH5.0を用いてカラムから溶出した。流出液を、滅菌収集バッグに収集した。
【0039】
Mustang Qクロマトグラフィー
SP−セファロース溶出液を、1MのTris塩基を加えることによってpH7.5に調整し、そして伝導率を低減するためにWFIで希釈した。希釈した物質を、Mustang Qフィルター(Pall)に、0.5g/Lを超えない樹脂の濃度で(1.22のA280=1mg/mLに基づく)、そして5カラム容積/分の流量で添加した。そのフィルターを、平衡化緩衝液(10mMのTris、pH7.5)で洗浄し、そしてCD24−Fcは、フロースルーに含まれており、そして滅菌収集バッグに収集した。
【0040】
ウイルスろ過
Mustang Qフロースルーを、次いで0.2mMのフィルターおよびMillipore NFPウイルスフィルター(名目上の孔径20nm)を通して30psiの一定の圧力でろ過し、そして滅菌収集バッグに収集した。
【0041】
濃縮および最終的な処方
その産物を、280nmでの吸光度によって決定した、約10mg/mLの最終濃度で、10mMのリン酸ナトリウム、150mMの塩化ナトリウム、pH7.2に、10kDa限外ろ過膜(Millipore Prep/Scale)を用いて濃縮およびダイアフィルトレーション(diafiltrate)した。バイオセーフティ(biosafety)キャビネットにある間に、バルクから分析サンプルを抜き出した。ラベリングを行い、そしてサンプルを試験のためにQCに送達し、一方バルクアリコートを、放出を継続させる2℃〜8℃で保存した。
【0042】
ウイルスクリアランス試験
ウイルスクリアランスの確認を、CHMで調製されたサンプルに対して、Cardinal Health、NCにおいて行った。Gala Biotechの資格のある科学者が、Cardinal Health Viral Validation施設において、Cardinal Healthの職員の助けをかりて、クロマトグラフィーおよびろ過工程を行った。スケールダウン手順を、200Lのスケールの過程から開発した。2つのウイルスを、この試験において使用するために選択した。最初のものは異種栄養性マウス白血病ウイルス(XMuLv)であり、それはレトロウイルス科の、80nm〜130nmのサイズのエンベロープ型RNAウイルスである。2番目は、ブタパルボウイルス(PPV)であり、それは18nm〜26nmのサイズの無エンベロープ型DNAウイルスである。これは頑強なウイルスであると考えられ、そしてXMuLvよりも、精製プロトコールを通して、はるかにより低いウイルスの低減を示すことが予期された。
【0043】
実施例2
RAの治療のためのCD24Fcの使用
この実施例は、CD24を、RAを処置するために使用し得ることを示す。抗コラーゲン抗体は、疾患が発症する前にRA患者に存在するので、および抗コラーゲン抗体は、マウスにおいてRA様病理を誘発し得るので、確立されたRAの受動伝達モデルを、可溶性CD24の有効性を試験するために使用した。その融合タンパク質を、PBSビヒクルに10mg/mlで溶解した。
図4に示すように、4つの抗コラーゲン抗体の組み合わせは、全ての肢において重篤な臨床症状を引き起こし、ビヒクルおよびCD24Fc処置群の両方において、7日目にピークになった。その疾患は、全ての四肢の肢全体の発赤および腫脹によって特徴づけられた。指および複数の関節を含む、いくつかの四肢は、最大限の炎症を起こした。従って、可溶性タンパク質は、疾患の開始に影響を与えない。驚くべきことに、CD24Fc処置群は、はるかにより迅速な回復を示す。臨床スコアの減少は、9日目から高度に有意であり、かつ24日間の観察期間全体を通して続く。従って、CD24Fcは、RAのための有効な処置を提供する。興味深いことに、その効果は疾患のピークの後に観察されるので、おそらくCD24をブロックすることは、炎症の開始後の、慢性疾患過程に影響を与える。
【0044】
実施例3
CD24薬物動態
1mgのCD24IgG1を、未処置のC57BL/6マウスに注射し、そして異なる時点(5分、1時間、4時間、24時間、48時間、7日、14日、および21日)で、各時点において3匹のマウスから血液サンプルを収集した。その血清を1:100に希釈し、そしてCD24Igのレベルを、捕捉抗体として精製抗ヒトCD24(3.3μg/ml)、および検出抗体としてペルオキシダーゼ結合体化ヤギ抗ヒトIgGFc(5μg/ml)を用いて、サンドイッチELISAを用いて検出した。
図5aに示すように、CD24Igの減衰曲線は、タンパク質の典型的な二相性の減衰を明らかにした。最初の体内分布相は、12.4時間の半減期を有していた。2番目の相は、中心コンパートメントからの1次消失のモデルに従う。2番目の相の半減期は9.54日であり、それはインビボにおける抗体のものと同様である。これらのデータは、融合タンパク質が、血流中で非常に安定であることを示唆する。融合タンパク質を皮下に注射する別の研究において、ほとんど同一の9.52日の半減期が観察された(
図5b)。より重要なことは、CD24Igが血液中でピークレベルに達するまでに約48時間かかるが、AUCによって測定される、血液中の融合タンパク質の総量は、いずれの注射経路によっても実質的に同じであった。従って、治療的観点から、異なる注射経路は、薬物の治療効果に影響を与えないはずである。この観察は、霊長類の毒性および臨床試験の実験デザインを非常に単純化した。
【0045】
実施例4
RAを処置するためのCD24
数十年の間、RAは主にT細胞媒介性自己免疫疾患であると推定されてきた。最近20年の間に、RAの病因における抗体およびBリンパ球の可能性のある役割が再注目されている。従って、リウマチ因子に加えて、自己反応性抗体の宿主がRA患者において見出されたが、それはヒトにおいて決定的に取り組まれてこなかった。しかし、いくつかの系統の証拠が、マウスモデルにおいて、遍在性または組織特異的抗原のいずれかに特異的な抗体が、RA症状を引き起こすのに十分であることを示した。例えば、K/BxN TCRトランスジェニックマウス由来の抗体は、新規宿主においてRA様疾患を完全に伝達し得ることが見出された。同様に、4つの抗コラーゲン抗体のカクテルが、マウスにおいてRAを誘発するために現在広く使用されている。このモデルは現在、CAIA、コラーゲン抗体誘発関節炎と呼ばれる。
【0046】
CAIAモデルの遺伝的分析は、補体の重要な役割を示す。他の可能性が存在するが、これらの要件は、RAの病因における抗体媒介性の組織損傷の潜在的な関与を示唆する。組織損傷および炎症の間の関連は、免疫学における長年の観察である。20年近く前、Matzingerは、一般に危険理論と呼ばれるものを提案した。本質的に、彼女は、免疫系は宿主において危険を感じた場合に活性化されると主張した。危険の性質は当時よく定義されなかったが、ネクローシスは、HMGB1および熱ショックタンパク質のような細胞内成分の放出に関連することが決定され、それらはDAMP、危険関連分子パターンと呼ばれた。DAMPは、炎症性サイトカインの産生および自己免疫疾患を促進することが見出された。動物モデルにおいて、HMGB1およびHSP90の阻害剤は、RAを寛解させることが見出された。DAMPの関与は、DAMPに対する宿主反応の負の調節を、RA治療のために探索し得るという展望を提起した。
【0047】
組織損傷に対する宿主反応におけるCD24−Siglec10の相互作用
アセトアミノフェン誘発肝ネクローシスを使用し、そして炎症を確実にして、本発明者らは、SiglecGの相互作用によって、CD24が、組織損傷に対する宿主反応の強力な負の調節を提供することを観察した。CD24は、造血性細胞および他の組織幹細胞に広く発現する、GPIアンカー分子である。多発性硬化症、全身性エリテマトーデス(erythromatosus)、RA、および巨細胞性動脈炎(arthritis)を含む、ヒトにおける様々な自己免疫疾患の遺伝的分析は、CD24多型および自己免疫疾患のリスクの間に有意な関連を示した。SiglecGは、シアル酸を含む構造を認識する能力によって規定される、I−レクチンファミリーのメンバーである。SiglecGは、CD24のシアル酸を含む構造を認識し、そして樹状細胞による炎症性サイトカインの産生を負に調節する(16)。CD24と相互作用するその能力に関して、ヒトSiglec10およびマウスSiglecGは、機能的に等価である。しかし、マウスホモログおよびヒトホモログの間に、1対1の関連が存在するかどうかは不明である。そのメカニズムはまだ完全に明らかではないが、SiglecG関連SHP1が、その負の調節に関与し得ることがもっともらしい。最近Scienceにおいて報告されたこれらのデータは、CD24−SiglecG/10の相互作用が、DAMPからの病原体関連分子パターン(PAMP)の区別に重要な役割を果たし得る、新しいモデルを導く(
図6)。
【0048】
少なくとも2つの重複するメカニズムが、CD24の機能を説明し得る。まず、様々なDAMPに結合することによって、CD24は炎症性刺激を捕捉して、そのTLRまたはRAGEとの相互作用を阻害し得る。この考えは、CD24が、HSP70、90、HMGB1およびヌクレオリン(nucleolin)を含むいくつかのDAMP分子と関連するという観察によって支持される。2番目に、おそらくDAMPと結合した後、CD24はSiglecGによるシグナル伝達を刺激し得る。いずれかの遺伝子の標的化変異を有するマウスは、はるかにより強力な炎症性反応を起こすので、両方のメカニズムが協同で作用し得る。実際、CD24−/−またはSiglecG−/−マウスいずれか由来の骨髄から培養したDCは、HMGB1、HSP70、またはHSP90のいずれかで刺激した場合、はるかに高い炎症性サイトカインを産生した。対照的に、LPSおよびPolyI:CのようなPAMPに対するその反応においては、影響は見られなかった。これらのデータは、先天免疫系が病原体を組織損傷から区別するメカニズムを提供するだけでなく、CD24およびSiglecGを、組織損傷に関連する疾患の潜在的な治療標的として示唆する。
【0049】
コラーゲン抗体誘発関節炎に対するCD24Fcの治療効果
RAの病因における組織損傷に対する先天免疫の疑われる役割、およびそのような反応を負に調節するCD24−SiglecG/10経路の役割を考慮して、RAを処置するためにこの経路を刺激することの可能性を探索した。本質的に全ての自己免疫疾患の病因は、自己抗原に対する免疫反応および自己免疫性破壊の誘発を含む。CD24−SiglecG相互作用の新規機能に基づいて、その自己免疫性破壊期(autoimmune destructive phase)に焦点を当てた。従って、予備的分析のために、コラーゲン抗体誘発関節炎モデルを採用して潜在的な治療効果を評価した。
【0050】
図7aに示すように、4つの抗コラーゲンmAbのカクテル(MD Biosciences、St.Paul、MN)を、2mg/マウスで1日目にi.v.注射し、そして3日目に100μg/マウスのLPS(MD Bioscience)をi.p.注射することによって、8週齢のBALB/cマウスにCAIAを誘発した。そのマウスを、1日目に1mgのCD24Fcまたはネガティブコントロールとして等しい容積の1×PBSビヒクルのいずれかで処置した。
図7bに示すように、ビヒクルコントロールと比較して、CD24Fcは高度に有意な治療効果を提供した。
【0051】
CD24Fcがこのモデルで関節炎を低減するメカニズムを理解するために、CD24Fc処置マウスまたはPBSコントロール群のホモジナイズした関節からサイトカインを測定し、そしてサイトカインビーズアレイによって200μgの組織ホモジネートの上清を測定した。典型的な例を
図8aに示し、まとめのデータを
図8bに示す。これらのデータは、全身性に投与したCD24が、TNF−α、IL−6、MCP−1(CCL2)、およびIL−1βを含む、複数の炎症性サイトカインのレベルを低減することを示した。
【0052】
CD24Fcの効果を、
図9で示したように、CAIAマウスの滑膜関節(synovial joint)の組織学的分析によって実証する。関節炎の誘発後7日目に、H&E染色は、PBS群の関節滑膜が、好中球、マクロファージ、およびリンパ球を含む炎症性細胞が重度に浸潤していることを示した(
図9a)。これは、CD24Fc処置マウスにおいて大いに低減された(
図9b)。それに加えて、PBS処置(
図9c)マウスにおいて、サフラニンOレッド染色の喪失によって、重症(sever)の軟骨損傷が明らかになったが、CD24Fc処置群(
図9d)ではなかった。
【0053】
マウスにおいてCD24Fcが進行中のRAに対して治療効果を有するかどうかを決定するために、RAの誘発後5または7日目のいずれかに処置を開始した。
図10に示すように、RAスコアの有意な減少が、CD24Fc処置後2日目の早さで観察された。その治療効果は、さらなる処置無しでも、残りの観察期間中続いた。これらのデータはさらに、進行中の疾患に対するCD24Fcの治療可能性を増強する。
【0054】
ヒトにおけるCD24Fcの治療上の用量を推定するために、CD24Fcを、広い範囲の用量で滴定した。
図11に示すように、2μg/マウスと少ない量が、統計学的に有意な治療効果を有するために十分である。
【0055】
CD24FcのSiglecG依存性治療効果
CD24Fcが、SiglecGとの相互作用によってマウスを保護するかどうかを決定するために、本発明者らは、その治療効果がSiglecg遺伝子に依存するかどうかを決定した。Siglecg−欠損マウスは、C57BL/6マウス由来のES細胞で産生されたので、本発明者らは、コントロールとしてWT C57BL/6マウスを使用した。
図12aに示すように、B6マウスはCAIAによりかかりにくいことが公知であるので、全体的な疾患スコアは、BALB/cマウスで観察されたものより低い。それにも関わらず、CD24Fcの単回注射は、実質的にWTマウスにおいて臨床徴候を一掃した。重要なことに、その疾患はSiglecg欠損マウスにおいてより軽症であるが、CD24Fcは、治療効果を有さなかった。従って、CD24Fcの治療効果は、厳密にSiglecg遺伝子に依存する。
【0056】
合わせると、本明細書中で述べたデータは、CAIAに関するCD24Fcの高い治療有効性を示す。安全性、安定性についての本発明者らの広範なデータ、および本発明者らの成功したCD24Fcの製造を考慮して、全てRAの治療薬としての融合タンパク質の高い可能性を示す。
【0057】
実施例5
毒性
げっ歯類および非ヒト霊長類の広範な毒性試験は、マウスおよび非ヒト霊長類における、12.5mg/kg〜125mg/kgの用量における薬物関連毒性を示さなかった。
【0058】
引用された参考文献
【0059】
【化1】
【0060】
【化2】
【0061】
【化3】
【0062】
【化4】