【文献】
Gastroenterology,2014年,Vol. 146 No. 1,p. 138-146
【文献】
熊谷 晴光 Harumitsu Kumagai,特発性尿細管間質性腎炎 Idiopathic chronic tubulointerstitial nephritis,日本臨牀 The Japanese Journal of Clinical Medicine,西村 昭緒 株式会社日本臨牀社,1995年,第53巻, 第8号,p. 223-229
【文献】
Fibrocyteに着目した臓器線維化評価 Fibrocyte for the estimatian of fibrosis,医学のあゆみ,2010年,第232巻, 第3号,p. 213-214
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本開示の説明として意図されており、本開示が構築又は利用され得る唯一の形態を表すものではない。
【0015】
本開示の文脈において、いくつかの用語が使用される。
【0016】
本明細書において、用語「テルビブジン」及び「セビボ」は、交換可能に使用され、セビボは、化合物-テルビブジンの商品名であり、両方ともノバルティス(スイス)が所有している。
【0017】
本明細書において、用語「治療」及び「治療」行為は、所望の薬学的及び/又は生理学的効果をもたらす予防的(例えば、予防薬)、治癒的又は緩和的治療を含む。好ましくは、その効果は、腎臓細胞のアポトーシスを部分的または完全に治癒または予防するという観点から治療的である。また、本明細書において、用語「治療」行為は、本開示の化合物又は組成物を、症状、症状の病状、症状に関連した二次的な疾患若しくは障害、又は症状を引き起こす素因を有する被験体に、上記特定の疾患、障害及び/又は症状の1つ以上の病状又は特徴の、部分的若しくは完全な緩和、改善、軽減、発症の遅延、進行の阻害、重症度の軽減、及び/又は、罹患率の低減を達成する目的で、適用又は投与することを指す。治療は、疾患、障害及び/又は症状の徴候を示していない被験体、及び/又は、疾患、障害及び/又は症状の初期徴候のみを示す被験体にも、疾患、障害及び/又は症状に関連した病理学変化の発展リスクを減少させる目的で施すことができる。本明細書において、上記病状、疾患、障害又は症状は、急性腎障害(AKI)、慢性腎疾患(CKD)及び/又はそれに伴う合併症、例えば、 貧血及び血管疾患(例えば、心膜炎又は心不全)であり得る。一般には、1つ以上の症状又は臨床指標が本明細書で定義されるように減少する場合、治療は「有効」である。
【0018】
用語「組成物」、「薬剤」、及び「医薬品」は、本明細書において互換的に使用可能であり、被験体、例えば、ヒト又は動物に投与されると、局所及び/又は全身作用により所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を誘導する化合物又は該化合物の組成物を指す。
【0019】
用語「投与される」、「投与する」又は「投与」は、本願明細書において互換的に使用可能であり、本発明の化合物若しくは組成物を直接投与すること、又は、体内で等量の活性化合物(例えば、テルビブジン)を形成するプロドラッグ、誘導体若しくは類似体を投与することを意味する。
【0020】
用語「被験体」及び「患者」は、本明細書において互換的に使用され、本発明の組成物及び/又は方法によって治療可能な人類を含む動物を意味する。用語「被験体」又は「患者」は、1つの性別が特定されていない限り、オスとメスの両方の性別を指すことが意図される。 従って、用語「被験体」及び「患者」は、本開示の化合物から利益を得ることができるものであり、ヒト、非ヒト霊長類、例えば、任意の哺乳類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウシなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、用語「被験体」及び「患者」は、ヒトである。
【0021】
本明細書において、用語「有効量」は、腎疾患の治療に関する所望の治療的結果を成し遂げるために必要な期間及び投与量での有効量を指す。活性化合物(即ち、テルビブジン)、その塩、エステル又は溶媒和物の有効量は、約0.01mg/Kg/日〜1,000 mg/Kg/日、好ましくは、約0.1 mg/Kg/日〜約500 mg/Kg/日、さらに好ましくは、約1mg/Kg/日〜約100 mg/Kg/日であり得る。有効量は、投与経路、及び/又は他の医薬品との併用によって変化することがある。
【0022】
本明細書において、用語「塩」は、有機又は無機塩基を含む塩基(IA若しくはIIA族の金属、アンモニウム及び/又はN(アルキル)
4+から形成される塩基を含む)と酸(本開示ではテルビブジン)との相互作用によって形成される塩を指す。用語「エステル」は、テルビブジンのエステルを指す。テルビブジンのヒドロキシ基とR-COOH(Rは直鎖または分枝C
1-6アルキルである)のような有機酸の間でエステル結合が形成され得る。用語「溶媒和物」は、化合物(本開示において、例えば、テルビブジン)と、水、エタノールなどの周囲の溶媒分子との相互作用によって形成される複合体を指す。
【0023】
本明細書において、特に断らない限り、腎臓及び/又は心臓機能を改善することは、化合物(即ち、テルビブジン、塩、溶媒和物又はエステル)又は該化合物を含む組成物を投与すること、或いは、ある方法を被験体に一定期間にわたって使用することにより、化合物又は該化合物を含む組成物を投与されていない被験体の腎臓及び/又は心臓機能と比較して、腎臓及び/又は心臓機能を効果的に改善することを指す。従って、腎機能を改善することは、限定されないが、尿産生量、余分な体液の除去、血液から老廃物の除去、正常な血液化学の維持、ホルモン産生、又はそれらの組合せのいずれかを改善することを意味する。心臓機能を改善することは、心臓の収縮機能を改善することを意味する。該心臓の収縮機能は、心筋が収縮する能力であり、心筋の張力を維持できる。
【0024】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメーターが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示された数値は可能な限り正確に報告される。しかし、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含む。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者によって考慮される場合、平均の許容可能な標準誤差内にあることを意味する。操作例/実施例以外で、又は特に明記しない限り、本明細書中に開示される材料の量、時間、温度、操作条件、量の比などについての、数値範囲、量、値及びパーセンテージの全てが、すべての場合において、用語「約」により修飾されているものと理解されるべきである。従って、反対のことが示されない限り、本開示及び添付の請求項に記載される数値パラメーターは、所望に応じて変化することのできる近似値である。少なくとも、各数値パラメーターは、報告された有効数字の数に照らして、及び通常の丸め技法を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。
【0025】
本開示は、B型肝炎感染の治療に適用される既知の抗ウイルス薬であるテルビブジン(商標名:「Sebivo」(ヨーロッパ)、又は「Tyzeka」(アメリカ))が、AKI又はCKDに罹患している被験体の腎臓及び/又は心臓機能を顕著に改善できるという予期せぬ発見に少なくとも部分的に基づいている。この改善は、腎臓及び/又は心臓機能の一連の測定可能なパラメーターの改善によって実証される。上記パラメーターの改善は、血液尿窒素(BUN)、血清クレアチニン(CR)、総尿毒素レベル、遊離尿毒素レベル(即ち、P-クレジルスルフェート及びインドキシル硫酸)、及び腎線維症の程度の低下、並びに、心臓の収縮機能の向上を含む。この結果は、テルビブジン及びそれを含む組成物がCKD等の腎疾患を治療及び/又は予防をするための治療薬として有用であることを示している。
【0026】
従って、本開示の一態様は、AKI又はCKD等の腎疾患に罹患している被験体の腎臓及び/又は心臓機能の改善方法を提供する。上記方法は、被験体、好ましくは、ヒトに、有効量のテルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルを十分な時間投与することを含むことにより、該被験体の腎臓及び/又は心臓機能を改善し、腎疾患に関連する症状を緩和又は減軽する。
【0027】
本開示の実施形態によれば、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、約0.01mg/Kg/日〜約1,000 mg/Kg/日、好ましくは、約0.1mg/Kg/日〜約500mg/Kg/日、さらに好ましくは、約1mg/Kg/日〜約100mg/Kg/日の投与量で被験体に投与される。被験体に望ましい効果(例えば、腎臓及び/又は心臓機能の改善)を達成するのに必要な投与量は、いくつかの要因に依存する。これらの要因は、特定の投与経路、投与方式、治療を必要とする被験体の体重及び状態(例えば、性別、年齢、病状又は緩和される病状の重篤度等)等を含む。有効量は、当該技術分野で周知の様々な技術を使用するルーチン実験、又は主治医の経験によって容易に決定することができる。テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、被験体、好ましくは、ヒトに、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルを適切又は所望の作用部位に効果的に輸送できる任意の経路によって投与される。テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、損傷部位(即ち、腎臓損傷又は心臓損傷)に全身的又は直接的に投与されることができる。全身投与は、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、皮下投与、及び経口投与により行われることができる。
【0028】
従って、本開示のさらなる態様は、AKI及びCKD等の腎疾患を治療するための組成物又は医薬品の製造におけるテルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルの使用に関する。上記組成物は、有効量のテルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステル、並びに、薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0029】
本開示の組成物又は医薬品の製造において、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルを薬学的に許容される賦形剤又は担体と混合し、Remington's Pharmaceutical Sciences(17
th edition, ed. Alfonoso R. Gennaro, Mack Publishing Company, Easton, Pa (1985))に記載されるような許容される製薬手順に従って製造する。賦形剤又は担体が許容可能でなければならないとは、組成物又は医薬品における他の成分と適合性があり、且つ被験体に有害ではないことを意味する。上記賦形剤又は担体は、固体若しくは液体、又はその両方であってもよいが、好ましくは、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルと製剤化されて複数回投与製剤、例えば、錠剤となることが好ましい。
【0030】
一般的に、活性成分、即ち、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、組成物の総重量に対して約0.1%〜99重量%で存在する。いくつかの実施形態において、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、組成物の総重量に対して少なくとも1重量%で存在する。特定の実施形態において、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、組成物の総重量に対して少なくとも5重量%で存在する。さらに他の実施形態において、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、組成物の総重量に対して少なくとも10重量%で存在する。さらに他の実施形態において、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、組成物の総重量に対して少なくとも25重量%で存在する。
【0031】
本開示の組成物は、任意の適切な経路、例えば、カプセル、懸濁液若しくは錠剤で経口投与され、又は非経口投与されることができる。非経口投与は、例えば、筋肉内、静脈内、皮下又は腹腔内注射のような全身投与を含む。組成物は、単独で又は従来の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて、局所的に若しくは吸入(例えば、気管支内、鼻腔内、経口吸入又は鼻腔内滴下)により経皮投与、又は直腸投与されることができる。好ましい実施形態において、本開示の組成物は、被験体に経口投与(例えば、食事療法)される。
【0032】
経口投与の場合、本開示の組成物は、様々な賦形剤(例えば、微結晶性セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム、およびグリシン)、様々な崩壊剤(例えば、デンプン、アルギン酸及び特定のケイ酸塩)、及び顆粒結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン、スクロース、ゼラチンおよびアラビアゴム)を含む錠剤に製剤化することができる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルクのような潤滑剤を添加してもよい。固体組成物は、ゼラチンカプセル中の充填剤として使用することもできる。この充填剤の好ましい材料は、ラクトース又は乳糖、及び高分子量ポリエチレングリコールを含む。経口投与において、水性懸濁液及び/又はエリキシル剤が所望される場合、活性成分は、様々な甘味剤又は香味剤、着色剤若しくは色素と組み合わせられ得る。必要に応じて、乳化剤及び/又は懸濁剤、並びに希釈剤(例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンおよびそれらの組み合わせ)を添加してもよい。
【0033】
非経口投与の場合、テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、液体医薬組成物に製剤化することができる。このような製剤は、例えば、静脈内、筋肉内、皮下又は腹腔内注射により投与できる滅菌溶液又は懸濁液である。滅菌溶液又は懸濁液の調製に適した希釈剤又は溶媒は、1,3-ブタンジオール、マンニトール、水、リンガー溶液および等張性塩化ナトリウム溶液を含むが、これらに限定されない。オレイン酸のような脂肪酸およびそのグリセリド誘導体、並びにオリーブ油またはヒマシ油のような天然の薬学的に許容される油も注射剤の調製に有用である。これらの油溶液又は懸濁液は、アルコール希釈剤、カルボキシメチルセルロースまたは類似の分散剤を含んでもよい。トゥイーン若しくはスパン等の常用の界面活性剤、又は薬学的に許容される剤形の製造に常用される他の類似の乳化剤若しくは生物学的利用能強化薬剤も適用できる。
【0034】
経粘膜投与の場合、本開示の医薬品又は医薬組成物は、経粘膜適用のための様々な剤形に製剤化することができる。例えば、口腔粘膜を介する薬物送達に適した頬側及び/又は舌下の投与剤形がある。薬学的に許容可能な多種多様な生分解性ポリマー賦形剤が使用され得る。このような賦形剤は、適切な程度の接着及び所望の薬物放出プロファイルを提供し、投与される活性剤、並びに頬側及び/又は舌下薬物投与単位中に存在し得る他の成分と適合する。一般に、上記ポリマー賦形剤は、口腔粘膜の湿潤表面に付着する親水性ポリマーを含む。ポリマー賦形剤の例として、アクリル酸ポリマーおよびコポリマー、加水分解ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリレート、ビニルポリマーおよびコポリマー、ポリビニルピロリドン、デキストラン、グアーガム、ペクチン、澱粉、並びにセルロース系ポリマーを含むが、これらに限定されない。
【0035】
本開示の医薬組成物の投与量は、特定の投与経路、及び患者体内で組成物が所望の応答を誘発する能力だけでなく、疾患状態、緩和される病状の重症度、年齢、性別、患者の体重、患者の状態、治療される病的状態の重症度、現在投薬状況、患者の食事状況、及び当業者に知られている他の事情によって患者毎に異なっている。適切な投与量は、最終的に担当医師の裁量によって決められる。投与計画は、改善された治療応答を提供するように調節され得る。治療有効量は、治療上有益な効果が組成物の毒性または有害な効果より大きいものでもある。好ましくは、本開示の組成物は、症状の数及び/又は重症度が低下するような投薬量および時間で投与される。
【0036】
本開示の医薬組成物は、約0.1mg〜約1,000mg/kg(体重)/日、例えば、0.1,0.5,1,2,5,7,9,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,200,210,220,230,240,250,260,270,280,290,300,310,320,330,340,350,360,370,380,390,400,410,420,430,440,450,460,470,480,490,500,510,520,530,540,550,560,570,580,590,600,610,620,630,640,650,660,670,680,690,700,710,720,730,740,750,760,770,780,790,800,810,820,830,840,850,860,870,880,890,900,910,920,930,940,950,960,970,980,990及び1,000mg/Kg/日、好ましくは、約0.5〜500/Kg(体重)/日、例えば、0.5,1,2,5,7,9,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,200,210,220,230,240,250,260,270,280,290,300,310,320,330,340,350,360,370,380,390,400,410,420,430,440,450,460,470,480,490及び500mg/Kg/日、より好ましくは、約1〜100/Kg(体重)/日、例えば、1,2,5,7,9,10,20,30,40,50,60,70,80,90及び100mg/Kg/日の用量で被験体に投与されることができる。この用量は、1日に1回、又は、少なくとも2回、3回、4回若しくは5回投与され得る。
【0037】
また、本開示の範囲内には、AKI又はCKD等の腎疾患に罹患している被験体の腎臓及び/又は心臓機能を改善するためのキットが含まれる。該キットは、その容器に、 (a) 有効量のテルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステル; (b)1つ以上の薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤;及び (c) キットを使用してその使用者の腎臓及び/又は心臓機能を改善するためのキットの使用説明書を含む。 該説明書は、パンフレット、テープ、CD、VCD又はDVDの形態であり得る。 特定の実施形態によれば、上記テルビブジン、その塩、溶媒和物及び/又はエステルは、経口摂取、皮下注入、静脈内投与、又は吸入に適した形態である。
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例
材料及び方法
動物
病原体のない環境下、12/12時間の明暗周期で、食物および水が自由に与えられ、且つ周囲温度を24
+2℃、相対湿度を50
+20%に設定する条件で、Sprague Dawley ラット (7週齢) を飼養した。本開示の動物研究を含む全ての手順は、「実験動物のケアと使用に関するガイドライン」(中国・台北実験動物科学協会)に準拠している。
【0040】
5/6腎切除術
5/6腎切除術又は偽手術を受ける予定のSDラット(約10週齢)をZoletil 50/キシラジン(6mg/1.3mg/Kg, i.p.)で麻酔した。その後、左腎臓を露出させ、腎上極及び腎下極を縫合線で結び、次に右腎切除術を行った。次いで、腹膜および皮膚を縫合し、動物をそれぞれのケージに戻した。偽手術を受ける動物は、同様の方法で左腎を露出させたが、それ以上の処理をせずに腹腔内に戻し、腹膜および皮膚を縫合した。偽手術又は5/6腎切除術の2週間後、動物に対して24時間ごとに尿収集、4週間ごとに非侵襲的な尾血圧測定を行った。手術の4週間後、5/6腎切除術又は偽手術を受けたラットを対照群及びテルビブジン群の2群にランダムに割り当てた。対照群は生理食塩水処理を受けた一方、テルビブジン群のラットは、テルビブジン(10mg/mL/Kg)で8又は12週間処理した。次いで、動物を犠牲にし、腎臓および心臓生検試料を得た。
【0041】
心筋歪み測定
動物を麻酔室内に置き、イソフルランで麻酔した。動物が意識不明になった後、心臓超音波装置(Vivid i, General Electric Company, US)に接続し、拡張期パラメータ(組織速度画像(TVI_V)、E/A比、心筋の歪み(C_歪み)、及び左心室質量(LVMASS))を含む心臓機能パラメータの変化をそれぞれ測定した。
【0042】
ウェスタンブロット解析
タンパク質同定のために、核抽出タンパク質30μgをSDS-PAGEゲル(8%)の各レーンにロードし、電気泳動により分離したタンパク質をポリビニリデンフルオライド(PVDF)膜(GE Healthcare Bio-Sciences, Little Chalfont, UK)に電気転写し、室温で、5%無脂肪スキムミルク(0.01%Tween-20を含有するTRIS緩衝生理食塩水)で60分間ブロックした。その後、該膜をウサギポリクローナル抗IL-6、TGF-β、TIMP-1及びCOL1-1(1:1000でPBS/5%スキムミルクに希釈;Novus. Biologicals)抗体でそれぞれ4℃で一晩インキュベートした。次いで、HRP結合抗ウサギIgG(Promega)を二次抗体として使用した。免疫反応性タンパク質を化学発光プロトコル(ECL、GE HealthcareBio-Sciences)によって視覚化した。抗アクチンウサギポリクローナル抗体(1:1000; Sigma-Aldrich)をキャリブレーションに使用した。
【0043】
定量的RT-PCR
Trizol試薬(Life Technologies)を用いて、製造者のプロトコルに従って、新鮮な凍結腎臓および心臓組織から全RNAを抽出した。簡単に言えば、腎皮質または心臓組織(150mg)を1mlのTrizolでホモジナイズし、遠心分離によってRNA含有水相を得た。0.5体積部のイソプロパノールでの遠心分離によりRNAを沈殿させ、75%エタノールにより精製した後、抽出された全RNAを80μLのnヌクレアーゼを含まない脱イオン蒸留水に溶解し、-20°Cで保存した。RNAの濃度および純度をNanodrop分光光度計(Thermo Scientific)によって測定した。トランスクリプターファーストストランドcDNA合成キット(Roche)を用いて、製造者のプロトコルに従って、テンプレートRNA (1μg)からファーストストランドcDNAを合成した。20μLの反応液(1μMの各プライマー及び10μLのLightCyclerのファストスタートユニバーサル SYBR Green マスター(ROX) (Roche)を含む)において2μLテンプレートでリアルタイムPCRを行われた。
【0044】
使用したLightCycler(登録商標)96の条件は、以下の通りである。95°Cで10分間プレインキュベーションした後、95°C,10秒間及び60°C,30秒間で2段階増幅を40サイクルし、95°C,10秒間、65°C,60秒間、97°C,1秒間で溶解し、その後、37°Cで30秒間冷却した(Roche)。GAPDHをハウスキーピング遺伝子として使用することで発現データを正規化した。
【0045】
実施例1 テルビブジンがCKDラットの腎臓及び/又は心臓機能を改善する。
この実施例において、テルビブジンの治療機能を評価するために、テルビブジンで処理する前に、動物に5/6腎切除術を行うことでインビボ腎不全を誘発した。
【0046】
5/6腎切除術は、試験動物の1つの腎臓を除去し、残りの腎臓の2/3を切除することにより、ヒトにおける腎質量減少後の進行性腎不全を模倣する処置である。簡単に言えば、単腎切除術後の1〜2週間内で、極部分の切除によりラットの残りの腎臓の約50%を除去した。その後、動物をテルビブジン群及び対照群の2群にランダムに割り当てた。テルビブジン群のラットは、テルビブジン(投与量100mg/kg)を4週間、8週間又は12週間経口投与する一方、対照群の動物は、水のみを与えた。血液試料及び尿試料をそれぞれ指定日に採取し、血液尿窒素(BUN)、血清クレアチン(CR)、肝酵素 (即ち、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)、及びアスパラギン酸アミノ基転移酵素 (AST))のレベルについて分析した。心機能については、拡張期パラメータ(組織速度画像(TVI_V)、E/A比、心筋の歪み(C_歪み)、左心室質量(LVMASS))の変化を監視することにより評価した。実験終了後に動物を犠牲にし、腎臓生検試料を得た。
【0047】
1.1 テルビブジンがCKDラットの腎機能を改善する。
図1に示される結果を参照すると、5/6腎切除術を受けた動物のBUN及びCRのレベルは、8週目に対照動物の約4~10倍であり、12週目まで上昇し続けた。その一方で、テルビブジンで8週間処理した動物は、BUN及びCRの両方のレベルが顕著に低下し、テルビブジンで12週間処理したときの効果が最も顕著であった。
【0048】
図2の写真は、それぞれ健康なラット、CKDラット、およびテルビブジン処理CKDラットから採取した腎臓サンプルである。5/6腎切除術は、腎臓組織の線維化をもたらし(
図2、パネルA vs パネルB)、テルビブジン処理は、CKDラットの腎線維症の程度を顕著に減少させた(
図2、パネルB vs パネルC)。テルビブジン処理の定量結果は、8及び12週間のテルビブジン処理を受けたCKD動物の腎線維症の程度がそれぞれ約62.4%および79.2%減少したことを示した(
図2、パネルD)
【0049】
また、本研究のデータは、テルビブジンが炎症性遺伝子及び/又はタンパク質の発現を減少させることにより腎機能を改善することを実証した。ここで、腎臓組織におけるIL-6、TGF-β、TIMP1、COL-1-A1のmRNA及びタンパク質のレベルは、両方とも低下した(
図3、4)。
まとめると、該データは、テルビブジンが炎症性遺伝子(IL-6、TGF-β、TIMP1、及びCOL-1-A1を含むが、これらに限定されない)の発現レベルを抑制することによりCKDラットの腎機能を改善し得ることを確認した。
【0050】
1.2 テルビブジンがCKDラットの心臓機能を改善する。
実施例1.1と同様に、5/6腎切除術は、CKDラットの心臓組織の線維化をもたらし、テルビブジン処理CKDラットでは、線維化組織の程度が著しく減少した(
図5)。
【0051】
図6Aは、5/6腎切除術又は偽手術を受けたラットに対するテルビブジンによる12週間の処理の前後に心臓超音波で測定した拡張期パラメータ(組織速度画像(TVI_V)、心筋の歪み(C_歪み)、左心室質量(LVMASS)、及びE/A比)を含む4つの心臓パラメータの変化を示す。
図6Bは、偽手術又は5/6腎切除術を受けた動物のC-歪み値に対するテルビブジン処理の影響を示す。この実施例の結果、対照動物と比較して、テルビブジンで8又は12週間処理したCKD動物は、C-歪み値において顕著な改善を示した。
【0052】
また、実施例1.1と同様に、テルビブジンが炎症性遺伝子及び/又はタンパク質の発現を減少させることにより心臓機能を改善した。ここで、心臓組織におけるIL-6、COL-1-A1のmRNA及びタンパク質のレベルは、両方ともテルビブジン処置組織において顕著に減少した(
図7および8)。
【0053】
まとめると、この実施例の結果は、テルビブジンがCKD動物の心臓機能を改善し得ることを実証した。
【0054】
実施例2 テルビブジンがCKDラットの尿毒素のレベルを低下させる。
インドキシル硫酸(IS)及びP-クレジルスルフェート(PCS)は、CKD患者の血清中に蓄積する尿毒素であり、CKD被験者において心臓の問題を引き起こす既知の因子である。
図9A、9Cは、CKDラットから採取した血清におけるインドキシル硫酸(IS)及びP-クレジルスルフェート(PCS)の総レベルに対するテルビブジンの影響を示す。IS及びPCSの遊離レベルに対するテルビブジンの影響を
図9B、9Dに示す。
【0055】
データから明らかなように、テルビブジンは、尿毒素(即ち、PCS and IS)の総レベルおよび遊離レベルの両方を効果的に低減した。従って、この実施例に示されるデータは、テルビブジンが患者に蓄積した尿毒素のレベルを低下させることによりCKD被験者の心臓機能を改善し得ることを示す。
【0056】
実施例3 テルビブジンが肝機能に対して毒性作用を有しない。
この実施例において、肝機能に対するテルビブジンの影響を調べた。
【0057】
図10のデータは、テルビブジンが肝臓機能に対する毒性作用を有さず、脂肪族酵素、即ち、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)及びアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)のレベルが対照動物と比較して相対的に同じであることを実証する (
図10、パネルA及びB)。
要約すると、本研究のデータは、テルビブジンがCKD被験体を治療、及び/又は、CKDに関連及び/又は続発する心臓問題の発症を防ぐために使用できることを確認する。
【0058】
実施形態の上記の説明が単なる例として与えられており、当業者によって様々な変更がなされ得ることが理解されるだろう。上記の明細書、実施例及びデータは、本発明の例示的な実施形態の構造及び使用の完全な説明を提供する。本発明の様々な実施形態が、ある程度具体的に、又は1又は複数の個々の実施形態を参照して、上述されているが、当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に多数の変更を行うことができる。