特許第6527346号(P6527346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6527346
(24)【登録日】2019年5月17日
(45)【発行日】2019年6月5日
(54)【発明の名称】動揺低減装置及びこれを備えた浮体
(51)【国際特許分類】
   B63B 39/06 20060101AFI20190527BHJP
   B63B 35/44 20060101ALI20190527BHJP
【FI】
   B63B39/06 A
   B63B35/44 F
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-26780(P2015-26780)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-147635(P2016-147635A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】池末 俊一
(72)【発明者】
【氏名】太田 真
【審査官】 福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−025293(JP,A)
【文献】 特開平08−011781(JP,A)
【文献】 特開2004−058691(JP,A)
【文献】 特開2004−161051(JP,A)
【文献】 実開平05−064096(JP,U)
【文献】 特開昭60−092185(JP,A)
【文献】 実公昭42−016496(JP,Y1)
【文献】 特開2005−186715(JP,A)
【文献】 特開平05−178282(JP,A)
【文献】 米国特許第03099239(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0147702(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 39/06
B63B 35/44
B63B 3/44
B63B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体の側面と底面との角部に、基端を前記角部から隙間を開けて配置され、先端寄りを前記浮体の側面の外側に向けて突出させた状態で使用される板部と、
前記浮体に結合され前記板部を支持する支持部と、を有し、
前記板部の上向き面は、波浪の押し波によって前記側面の外方から前記側面に進入しようとする水流を集めて前記隙間に向けて案内する案内面として機能し、
前記板部の下向き面は、波浪の引き波によって前記底面から前記外方へ向けて進出しようとする水流を阻止する抵抗面として機能し、
前記支持部は、前記板部を、使用位置と、前記浮体の前記角部の近傍に形成された凹所に格納した格納位置との間で移動させる可動機構を有し、
前記可動機構は、前記板部と前記凹所の壁部との間に揺動自在に介装されたリンク部材と、前記板部と前記凹所の壁部との間に前記リンク部材と並設された伸縮アクチュエータと、を有することを特徴とする、動揺低減装置。
【請求項2】
前記板部は、前記格納位置において、前記凹所の形成されている周囲の格納箇所の前記浮体の外面形状に沿う形状の外面を有していることを特徴とする、請求項1記載の動揺低減装置。
【請求項3】
前記板部は、平板状であって、前記使用位置において、水平に向いた状態で使用され、前記浮体の外面形状が平面状に形成された箇所に前記格納箇所が配置されていることを特徴とする、請求項2記載の動揺低減装置。
【請求項4】
前記板部は、平板状であって、前記使用位置において、先端寄りを前記浮体の側面の外側及び下方に向けて傾斜させた状態で使用され、前記浮体の外面形状が平面状に形成された箇所に前記格納箇所が配置されていることを特徴とする、請求項2記載の動揺低減装置。
【請求項5】
前記板部は、前記使用位置において、前記角部の近傍から前記浮体の側面の外側の斜め下方に延びた傾斜部と、前記傾斜部から屈曲し鉛直下方に延びた鉛直部とを有する屈曲形状に形成され、前記浮体の屈曲形状である前記角部に前記格納箇所が配置されていることを特徴とする、請求項2記載の動揺低減装置。
【請求項6】
前記板部の基部と前記角部との前記隙間の大きさは、前記板部の上向き面により案内され前記隙間から前記底面に進入した水流が、前記底面の前記角部の近傍領域で高速層流を形成するように小さく設定されていることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の動揺低減装置。
【請求項7】
前記板部は、前記浮体の前記側面の全長に亘って設置されていることを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の動揺低減装置。
【請求項8】
側面と底面との角部を有し、
前記角部の近傍に、請求項1〜7の何れか1項に記載の動揺低減装置を装備されていることを特徴とする、浮体。
【請求項9】
前記動揺低減装置が、前記浮体の両側の前記側面にそれぞれ設置されていることを特徴とする、請求項8記載の浮体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体に装備される動揺低減装置及びこれを備えた浮体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋,湖沼,河川等の水上の設備として、浮体構造物(以下、単に浮体とも言う)が広く適用されている。こうした浮体には、例えば、各種作業船,ドリルシップ,石油生産プラットフォーム,浮桟橋,浮倉庫,浮駐車場などがある。浮体は、水底に支柱を設置する必要がないので構造を簡素化できる反面、浮体に対して波浪が入射して動揺してしまうことから、この浮体の動揺を低減する必要がある。
【0003】
浮体の波浪中における横揺れは、波浪によって生じる波強制力モーメントで誘起される。通常の浮体では、横揺れ方向の運動に対して十分な減衰を確保することが難しいため、固有周期近傍の波周期では揺れの振幅が大きくなる。そこで、従来から、浮体の動揺を低減する様々な技術が提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献4)。
【0004】
特許文献1には、板を海底から所定距離以内に吊り下げ、板に作用する流体力によって、付加質量及び粘性減衰力の増大を期待して動揺低減を図ろうとする技術が記載されている。
特許文献2には、浮体の波の入射側側面に、波の進行方向上流側に向け傾斜し浮体の喫水線付近から下面深さ付近まで至らせた傾斜板を付設し、傾斜面による動揺低減を図うとする技術が記載されている。
【0005】
特許文献3には、波の入射側の側部下端に、浮体の底面より下方に延びる鉛直板を、浮体と通水可能な間隔をあけて配置し、鉛直板を傾動可能とし、鉛直板の傾動により動揺低減を図ろうとする技術が記載されている。
特許文献4には、箱形浮体の長さと幅との比に対し、箱形浮体の幅と吃水との比の設定により、波力の影響を小さくして動揺低減を図ろうとする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4798573号
【特許文献2】特許第4022973号
【特許文献3】特許第3697091号
【特許文献4】特許第3198698号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術は、洋上での動揺低減装置の設営作業が容易ではない。特許文献2の技術は、浮体の喫水線の部分よりも側面下部が突出するので、浮体の接岸時に、突出部が浮体の喫水線付近の接岸の妨げになるおそれがある。特許文献3の技術は、鉛直板が浮体を曳航する際に抵抗体として作用するおそれがある。また、特許文献1〜3の技術は、いずれも動揺低減装置が大型になり易い。特許文献4の技術は、浮体の形状自体の設定自由度が低下してしまう。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決しようとするもので、装置の大型化を招くことなく、簡素な構造で確実に浮体の動揺低減効果を得られ、しかも、浮体を曳航する際の抵抗増を抑制し、接岸にも支障のないようにした、動揺低減装置及びこれを備えた浮体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の動揺低減装置は、浮体の側面と底面との角部に、基端を前記角部から隙間を開けて配置され、先端寄りを前記浮体の側面の外側に向けて突出させた状態で使用される板部と、前記浮体に結合され前記板部を支持する支持部と、を有し、前記板部の上向き面は、波浪の押し波によって前記側面の外方から前記側面に進入しようとする水流を集めて前記隙間に向けて案内する案内面として機能し、前記板部の下向き面は、波浪の引き波によって前記底面から前記外方へ向けて進出しようとする水流を阻止する抵抗面として機能し、前記支持部は、前記板部を、使用位置と、前記浮体の前記角部の近傍に形成された凹所に格納した格納位置との間で移動させる可動機構を有することを特徴としている。
【0010】
(2)前記可動機構は、前記板部と前記凹所の壁部との間に揺動自在に介装されたリンク部材と、前記板部と前記凹所の壁部との間に前記リンク部材と並設された伸縮アクチュエータとを有することが好ましい。
【0011】
(3)前記板部は、前記格納位置において、前記凹所の形成されている格納箇所の周囲の前記浮体の外面形状に沿う形状の外面を有していることが好ましい。
【0012】
(4)前記板部は、平板状であって、前記使用位置において、水平に向いた状態で使用され、前記浮体の外面形状が平面状に形成された箇所に前記格納箇所が配置されていることが好ましい。
【0013】
(5)前記板部は、平板状であって、前記使用位置において、先端寄りを前記浮体の側面の外側及び下方に向けて傾斜させた状態で使用され、前記浮体の外面形状が平面状に形成された箇所に前記格納箇所が配置されていることが好ましい。
【0014】
(6)前記板部は、前記使用位置において、前記角部の近傍から前記浮体の側面の外側の斜め下方に延びた傾斜部と、前記傾斜部から屈曲し鉛直下方に延びた鉛直部とを有する屈曲形状に形成され、前記浮体の屈曲形状である前記角部に前記格納箇所が配置されていることが好ましい。
【0015】
(7)前記板部の基部と前記角部との前記隙間の大きさは、前記板部の上向き面により案内され前記隙間から前記底面に進入した水流が、前記底面の前記角部の近傍領域で高速層流を形成するように小さく設定されていることが好ましい。
【0016】
(8)前記板部は、前記浮体の前記側面の全長に亘って設置されていることが好ましい。
【0017】
(9)本発明の浮体は、側面と底面との角部を有し、前記角部に、上記の動揺低減装置を装備されていることを特徴とする。
【0018】
(10)前記動揺低減装置が、前記浮体の両側の前記側面にそれぞれ設置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の動揺低減装置によれば、板部の上向き面が案内面として機能して、波浪の押し波によって側面の外方から側面に進入する水流を集めて、板部の基部と角部との隙間に向けて案内するので、水流が隙間に集合しながら速度を速めて隙間から底面の直下に進入する。水流は高速で底面に沿って流れるので、角部近傍の底面の下部には負圧が作用して、角部近傍の底面を下方に引き下げるように浮体に作用する。浮体には押し波が側面を上昇させるように作用するが、上記負圧がこれを相殺するように浮体に作用するので、押し波による浮体の動揺が抑制される。
【0020】
また、板部の下向き面が抵抗面として機能して、波浪の引き波によって底面から外方へ向けて進出する水流を阻止するので、水流が抵抗面を押圧して、角部近傍の底面を上方に押し上げるように浮体に作用する。浮体には引き波が側面を下降させるように作用するが、上記水流による抵抗面を押圧する力がこれを相殺するように浮体に作用するので、引き波による浮体の動揺が抑制される。
【0021】
また、可動機構によって、板部を使用位置から格納位置へと移動させることができるので、浮体の曳航時には、板部を格納して、板部が抵抗体として作用しないようにすることができ、浮体を円滑に燃費の悪化を招くことなく曳航することができる。また、使用位置の板部は側面の外側に向けて突出させているので接岸の妨げになるが、板部を格納することで支障なく浮体を接岸させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の各実施形態にかかる動揺低減装置とこれを備えた浮体を示す斜視図である。
図2】本発明の各実施形態にかかる動揺低減装置の作動原理を説明する浮体の断面図であり、(a)は本装置を装備しない浮体の動揺を説明する図であり、(b),(c),(d)は本装置の作動原理を説明する図である。
図3】本発明の第1実施形態にかかる動揺低減装置の構成を示す図であり、(a)はフィン(板部)が格納位置にある状態を示す浮体の断面図であり、(b)はフィンが使用位置にある状態を示す浮体の断面図である。
図4】本発明の第2実施形態にかかる動揺低減装置の構成を示す図であり、(a)はフィン(板部)が格納位置にある状態を示す浮体の断面図であり、(b),(c)はフィンが使用位置にある状態を示す浮体の断面図である。
図5】本発明の第3実施形態にかかる動揺低減装置の構成を示す図であり、(a)はフィン(板部)が使用位置にある状態を示す浮体の断面図であり、(b)はフィンが格納位置にある状態を示す浮体の断面図である。
図6】各実施形態にかかるフィン(板部)の形状を説明する断面図である。
図7】第3実施形態にかかるフィン(板部)の形状を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
なお、以下の説明では、鉛直上方を上又は上方とし、鉛直下方を下又は下方とし、浮体の側面において、浮体の幅方向中央の中心線に向く方向を内方又は内側とし、その反対側、中心線から離れる方向を外方又は外側として説明する。
【0024】
以下に示す各実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0025】
〔動揺低減装置の概要〕
まず、図1図2を参照して各実施形態にかかる動揺低減装置の概要を説明する。
図1は、各実施形態にかかる動揺低減装置を装備した浮体(浮体構造物)を示す斜視図である。図1に示すように、浮体1は、上面部(上面)2,下面部(下面)3,両側面部(側面)4,4,及び両端面部(端面)5,5を有する箱型(ほぼ直方体)に形成されている。ここでは、両側面部3,3に動揺低減装置10を装備した例を示している。
【0026】
動揺低減装置10は、フィン(板部)20を備え、このフィン20は図1では省略するが、浮体1に結合された支持部によって支持されている。このフィン20は、浮体1の側面4と底面3との角部6に、基端21を角部6から隙間7を開けて配置され、先端寄りを浮体1の側方外側に向けて突出させた状態で使用される。この例では、フィン20は、平板状に形成され、水平に配置される。
【0027】
フィン20の上向き面20aは、波浪の押し波によって側面4の外方から側面4に向かって進入する水流を集めて隙間7に向けて案内する案内面として機能する。
このため、隙間7の大きさは、フィン20の上向き面20aにより案内され隙間7から底面3の直下に進入した水流が、底面3の角部6の近傍領域で高速層流を形成するように小さく設定されていることが好ましい。
また、フィン20の下向き面20bは、波浪の引き波によって底面3から外方へ向けて進出する水流を阻止する抵抗面として機能する。
【0028】
例えば図2(a)において、側方[図2(a)中、左方]から側面4に押し波が押し寄せると、図2(a)中に示す矢印のように、時計回りの波強制力モーメントM1が浮体1に加えられ、動揺低減装置10を備えなければ浮体1に横揺れが生じる。
【0029】
これに対して、図2(b)に示すように、浮体1に動揺低減装置10を装備すると、フィン20の案内面20aが、波浪の押し波によって側面4の外方から側面4に進入する水流を集めて、フィン20の基部21と角部6との隙間7に向けて案内する。水流は隙間7に集合しながら速度を速めて隙間7から底面3の直下に進入するので、水流は高速の層流を形成しながら底面3に沿って流れる。これにより、角部6近傍の底面3の下部には負圧が作用して、角部6近傍の底面3を下方に引き下げる力F1が浮体1に作用する。この力F1が波強制力モーメントM1を相殺するように作用するので、押し波による浮体1の動揺が抑制される。
【0030】
また、図2(c)に示すように、波浪の引き波によって底面3から外方へ向けて進出する水流に対しては、フィン20の抵抗面20bがこの水流を阻止する抵抗となるので、水流が抵抗面20bを押圧して、角部6近傍の底面3の下方が高圧になり底面3を上方に押し上げる力F2が浮体1に作用する。浮体1には、引き波により反時計回りの波強制力モーメントM2が加えられるが、力F2が波強制力モーメントM2を相殺するように作用するので、引き波による浮体1の動揺が抑制される。
【0031】
すなわち、動揺低減装置10は、図2(d)に示すように、波浪の押し波によって側面4の外方から側面4に向けて進入しようとする水流WF1に対しては、フィン20の案内面20aによってこの水流WF1を集めて隙間7から底面3の直下に向けて案内し、波浪の引き波によって底面3から外方へ向けて進出しようとする水流WF2に対しては、フィン20の抵抗面20bによってこの水流WF2の隙間7からの流出を阻止する。
【0032】
このようにして、押し波に対しても引き波に対しても各波強制力モーメントM1,M2を打ち消すように水流による力F1,F2が作用し、浮体1の動揺が低減される。
以下の各実施形態は、何れも、このように浮体1の動揺を低減するフィン20を有する動揺低減装置であるが、フィン20が、使用位置と浮体1に形成された凹所内に格納される格納位置との間で可動に構成されている点に特徴がある。
【0033】
〔第1実施形態〕
まず、本発明の第1実施形態にかかる動揺低減装置10Aを説明する。この動揺低減装置10Aは、図3(a),(b)に示すように、浮体1の片側の側面4にのみ装備されており、フィン20と、浮体1に結合されてフィン20を支持する支持部30Aとを有している。なお、浮体1は動揺低減装置10Aを装備される片側の側面4を波浪が進入してくる外洋向きに配置して係留されて使用される。
【0034】
フィン20は、上述の説明のように、使用位置において、角部6の近傍から浮体1の側面4の外側に向けて、水平に向けて配置されているが、側面4の外側に向けて斜め下方に向けて傾斜させて配置されもよい。
フィン20の上向き面20aは、波浪の押し波によって側面4の外方から側面4に向かって進入する水流を集めて隙間7に向けて案内する案内面として機能し、フィン20の下向き面20bは、波浪の引き波によって底面3から外方へ向けて進出する水流を阻止する抵抗面として機能する。
【0035】
このフィン20は、浮体1の長手方向(角部6の延びる方向)に延在し、浮体1の長手方向の全長又は略全長にわたるように長さを設定されている。フィン20は、長手方向の複数箇所で、例えば両端部近傍と中間部との3箇所で、或いは、両端部近傍と中間部の複数箇所で、支持部30Aによって支持されている。ここでは、フィン20は、浮体1の全長又は略全長にわたる長さの一本のものとしているが、フィン20を長手方向に複数に分割して構成し、それぞれ、支持部30Aによって上記同様に支持してもよい。
【0036】
支持部30Aは、フィン20を使用位置と浮体1の底面3に形成された凹所3Aに格納した格納位置との間で移動させる可動機構32Aを有している。
可動機構32Aは、フィン20の上面と、浮体1の底面3に形成された凹所3Aの壁部との間に揺動自在に介装されたリンク部材32と、フィン20の上面と凹所3Aの壁部との間にリンク部材32と並設された油圧シリンダ(伸縮アクチュエータ)31Aとを有している。
【0037】
油圧シリンダ31Aを収縮させると、フィン20は凹所3A内に格納され、この格納位置では、フィン20の下面が底面3と同一面上に位置する。すなわち、フィン20は、凹所3Aが形成される格納箇所の周囲の浮体1の外面形状に沿った形状の外面を有している。油圧シリンダ31Aを伸長させると、フィン20は凹所3A内から突出し、底面3よりもやや下方で側面4から外方に突出した使用位置に設定される。油圧シリンダ31Aには伸縮を規制するロック機構が装備され、格納位置及び使用位置では、このロック機構によりフィン20位置が保持される。
【0038】
本発明の第1実施形態にかかる動揺低減装置10Aは、上述のように構成されているので、動揺低減装置10Aの使用時には、図3(b)に示すように、可動機構32Aの油圧シリンダ31Aを伸長させて、フィン20を所定の使用位置に設定し、油圧シリンダ31Aのロック機構で固定する。これにより、上記のように、動揺低減装置10Aによる浮体1の動揺低減作用を得ることができる。
【0039】
一方、浮体1を曳航する際や、接岸させる際には、図3(a)に示すように、可動機構32Aの油圧シリンダ31Aを収縮させて、フィン20を凹所3A内の格納位置に格納する。この状態では、フィン20の下面が底面3と同一面上に位置するため、浮体1の曳航時に、フィン20が抵抗体として作用しなくなり、浮体1を円滑に燃費の悪化を招くことなく曳航することができる。
【0040】
また、使用位置のフィン20は側面4の外側に向けて突出しているので接岸の妨げになるが、接岸時には、フィン20を凹所3A内の格納位置に格納できるので、支障なく浮体1を接岸させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、浮体1の片側の側面4にのみ動揺低減装置10Aを装備しているので、動揺低減装置10Aの設置コストを抑制することができる。もちろん、浮体1の両側の側面4にそれぞれ動揺低減装置10Aを装備して、浮体1の何れの側面4をも側に向けて使用することができるようにしても良い。
【0042】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を説明する。本実施形態では、図4(a)〜(c)に示すように、第1実施形態と同様の動揺低減装置10Aが、浮体1の両側の側面4にそれぞれ装備されている。各側面4の動揺低減装置10Aは対称形状で同一構造なので、説明を省略する。
【0043】
本発明の第2実施形態にかかる動揺低減装置10Bは、上述のように構成されているので、第1実施形態と同様に、図4(b)又は図4(c)に示すように、所要の側面4のフィン20を所定の使用位置にすることにより、浮体1の動揺低減作用を得ることができる。
【0044】
また、浮体1を曳航する際や、接岸させる際には、図4(a)に示すように、可動機構32Aを作動させてフィン20を何れも格納する。これにより、浮体1の曳航時には、浮体1を円滑に燃費の悪化を招くことなく曳航することができ、浮体1の接岸時には、支障なく浮体1を接岸させることができる。
【0045】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態にかかる動揺低減装置10Bを説明する。この動揺低減装置10Bは、第1,2実施形態とフィン20Bの形状が異なり、また、浮体1の格納箇所が異なっている。
【0046】
つまり、本実施形態のフィン20Bは、図5(a)に示すように、その使用位置において、角部6の近傍から浮体1の側面4の外側の斜め下方に延びた傾斜部22と、傾斜部22の先端から屈曲し鉛直下方に延びた鉛直部23とを有している。そして、基端21を角部6から隙間7を開けて配置されている。
【0047】
そして、可動機構32Bは、フィン20と、浮体1の角部6に形成された凹所3Bの壁部との間に揺動自在に介装された屈曲リンク部材33と、フィン20と凹所3bの壁部との間に屈曲リンク部材33と並設された油圧シリンダ(伸縮アクチュエータ)31Bとを有している。
【0048】
油圧シリンダ31Bを収縮させると、フィン20は凹所3B内に格納され、この格納位置では、フィン20の傾斜部22及び鉛直部23の外面が角部6の外面と略同一面上に位置する。油圧シリンダ31Bを伸長させると、フィン20は凹所3B内から突出し、底面3よりもやや下方で側面4から外方に突出した使用位置に設定される。油圧シリンダ31Bにも伸縮を規制するロック機構が装備され、格納位置及び使用位置では、このロック機構によりフィン20位置が保持される。
【0049】
また、使用位置でのフィン20Bの上向き面(即ち、傾斜部22の斜め外側に向いた上向き面)22aは、波浪の押し波によって側面4の外方から側面4に向かって進入する水流を集めて隙間7に向けて案内する案内面として機能する。
【0050】
このため、隙間7の大きさは、フィン20の上向き面22aにより案内され隙間7から底面3の直下に進入した水流が、底面3の角部6の近傍領域で高速層流を形成するように小さく設定されていることが好ましい。
【0051】
また、使用位置でのフィン20Bの下向き面(即ち、傾斜部22の斜め内側に向いた下向き面)22bと鉛直部23の内向き面23bは、波浪の引き波によって底面3から外方へ向けて進出する水流を阻止する抵抗面として機能する。
【0052】
本発明の第3実施形態にかかる動揺低減装置10Bは、上述のように構成されているので、第1実施形態と同様に、図5(a)に示すように、フィン20Bを所定の使用位置に動揺低減装置10Bによる浮体1の動揺低減作用を得ることができる。
【0053】
また、浮体1を曳航する際や、接岸させる際には、図5(b)に示すように、可動機構32Bの油圧シリンダ31Bを作動させてフィン20を凹所3B内の格納位置に格納する。この状態では、フィン20Bの外面が浮体1の角部6の外面と略同一面上に位置する。すなわち、フィン20Bは、凹所3Bが形成される格納箇所の周囲の浮体1の外面形状に沿った形状の外面を有している。このため、浮体1の曳航時に、フィン20Bによる抵抗が軽減され、浮体1を円滑に燃費の悪化を抑えながら曳航することができる。
【0054】
また、使用位置のフィン20Bは側面4の外側に向けて突出しているので接岸の妨げになるが、接岸時には、フィン20Bを凹所3B内の格納位置に格納できるので、支障なく浮体1を接岸させることができる。
【0055】
なお、本実施形態では、第1実施形態と同様に、動揺低減装置10Bを浮体1の片側の側面4のみに設置しているが、第2実施形態と同様に、動揺低減装置10Bを浮体1の両側の側面4,4に設置しても良い。
【0056】
〔フィンの形状及び配置〕
ここで、フィンの形状及び配置について説明する。
図6は第1,2実施形態にかかる平板状のフィン20を、外側がやや下降するように水平よりも傾斜させて使用する状態における横断面図と、第3実施形態にかかるフィン20Bの使用状態における横断面図を比較して示している。
【0057】
フィン20Bの方が動揺低減効果は大きいが、フィン20の場合、フィン20の外方への突出量が少なくなるので、格納のための機構を構成しやすい利点がある。
ここで、フィン20Bの形状及び配置についてさらに説明する。
前述のように、フィン20Bは、その使用位置において、角部6の近傍から浮体1の側面4の外側の斜め下方に延びた傾斜部22と、傾斜部22の先端から屈曲し鉛直下方に延びた鉛直部23とを有している。
【0058】
断面形状的には、このように、傾斜部22と鉛直部23とを有する構造が、最も動揺低減効果が大きいことが試験(シミュレーション)により確認されているが、さらに、各部の寸法等の最適値について試験(シミュレーション)により確認した。
【0059】
ここで、図7に示すように、浮体1の水面深さをd、フィン20の基端21の浮体1に対する鉛直方向位置を浮体1の底面3を基準に下向きを正とした値をs、フィン20の基端21の浮体1に対する水平方向位置を浮体1の側面4を基準に浮体1の中心向きを正とした値をx0、傾斜部22の長さをb、傾斜部22の鉛直に対する傾斜角度をθ、鉛直部23の長さをhとする。
これらのパラメータを種々変更して試験(シミュレーション)をした結果、動揺低減効果に優れたパラメータ値として以下の値が導出された。
【0060】
【表1】
【0061】
したがって、このような形状及び配置が好ましい。
ただし、第1,2実施形態の場合、フィン20を鉛直に昇降させるので、側面4との干渉を避けるため、パラメータx0を0以上の値にすることはできない。そこで、これを考慮すると、第1,2実施形態の場合、フィン20を鉛直に昇降させる機構に加えて、図7に示すように、フィン20を使用位置にする際に、フィン20を、或いは、支持部30を、浮体中央よりにシフトさせる機構を装備すれば、最適状態を達成できる。
【0062】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、かかる実施形態を適宜変更したり、組み合わせたりして実施することができる。
例えば、上記の各実施形態では、フィン20,20Bの断面形状や配置を特定の形状に設定しているが、フィン20,20Bの断面形状や配置はこれに限るものではない。
【0063】
フィンは、少なくとも、基端を浮体の角部から隙間を開けて配置され、先端寄りを浮体の側面の外側に向けて突出させた状態で使用され、フィンの上向き面は、波浪の押し波によって側面の外方から側面に進入しようとする水流を集めて隙間に向けて案内する案内面として機能し、フィンの下向き面は、波浪の引き波によって底面から外方へ向けて進出しようとする水流を阻止する抵抗面として機能するものであればよい。
【符号の説明】
【0064】
1 浮体
2 上面部(上面)
3 下面部(下面)
4 側面部(側面)
5 端面部(端面)
10,10A,10B 動揺低減装置
20,20B フィン(板部)
21 フィン20,20Bの基端
22 傾斜部
22a傾斜部22の上向き面(案内面)
22b 傾斜部22の下向き面(抵抗面)
23 鉛直部
23b 鉛直部23の内向き面(抵抗面)
30A,30B 支持部
31A,31B 油圧シリンダ(伸縮アクチュエータ)
32A,32B 可動機構
31,33 リンク部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7