【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「光電荷分離ゲルによる屋内用有機太陽電池の研究開発」委託研究産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、以下の項目に記載の光電変換素子および光電変換素子の製造方法ならびに多孔質電極形成用分散液を含む。
【0016】
[項目1]
光散乱層を含む多孔質半導体層と、前記多孔質半導体層に吸着した色素分子とを含む、光アノードと、対極と、前記光アノードと前記対極との間に設けられた、酸化還元物質を含む電解質媒体とを有し、前記光散乱層は、孔径が50nm以上である複数のマクロ孔を有し、前記複数のマクロ孔の平均孔径は0.5μm以上10μm以下であり、
前記酸化還元物質の波長380nmから800nmにおけるモル吸光係数εの最大値は、3000Lcm
-1mol
-1以下である、光電変換素子。
[項目2]
前記電解質媒体は、前記複数のマクロ孔に充填されている、項目1に記載の光電変換素子。
[項目3]
前記複数のマクロ孔のうち少なくとも2つのマクロ孔は、互いに連結している、項目1または2に記載の光電変換素子。
[項目4]
前記複数のマクロ孔のうち少なくとも1つのマクロ孔は、前記光散乱層の表面において開口している、項目1から3のいずれか1つに記載の光電変換素子。
[項目5]
前記光散乱層の厚さは、3μm以上15μm以下である、項目1から4のいずれか1つに記載の光電変換素子。
[項目6]
前記多孔質半導体層は、前記光散乱層よりも光入射側に設けられ、前記光散乱層よりも光散乱が少ない、または、光散乱性を有さない、低光散乱層をさらに有し、前記低光散乱層の厚さは1.5μmより小さい、項目1から5のいずれか1つに記載の光電変換素子。
[項目7]
前記酸化還元物質は、ニトロキシルラジカルを有する化合物である、項目1から6のいずれか1つに記載の光電変換素子。
[項目8]
前記ニトロキシルラジカルを有する化合物は、TEMPO(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)である、項目7に記載の光電変換素子。
[項目9]
項目1から8のいずれかに記載の光電変換素子を製造する方法であって、
前記多孔質半導体層を形成する工程は、水と親水性有機媒体との混合溶媒と、平均粒径が0.5μm以上10μm以下で加熱分解性を有し前記混合溶媒に溶解しない高分子粒子と、加熱分解性を有し前記混合溶媒に溶解する高分子と、平均粒径が10nm以上50nm以下の半導体ナノ粒子とを含む分散液であって、前記溶解性高分子は親水性ブロックと疎水性ブロックを有する共重合体である分散液を用いて行われる、光電変換素子の製造方法。
[項目10]
水と親水性有機媒体との混合溶媒と、平均粒径が0.5μm以上10μm以下で加熱分解性を有し前記混合溶媒に溶解しない高分子粒子と、加熱分解性を有し前記混合溶媒に溶解する高分子と、平均粒径が10nm以上50nm以下の半導体ナノ粒子とを含む分散液であって、前記溶解性高分子は親水性ブロックと疎水性ブロックを有する共重合体である、多孔質電極形成用分散液。
【0017】
(実施形態)
以下、図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本開示のある実施形態における光電変換素子100の構造を模式的に示す。光電変換素子100は、光アノード15と、対極35と、光アノード15と対極35との間に配置された電解質媒体22とを有する。電解質媒体22は、典型的には、酸化還元物質を含む電解質溶液であり、以下では、電解質溶液22ということがある。電解質媒体22は、電解質溶液の他、例えば、酸化還元物質を含む電解質ゲル、固体高分子電解質であってもよい。
【0019】
光アノード15は、基板12に支持されている。例えば、光アノード15は、可視光を透過する導電層14と、導電層14上に形成された多孔質半導体層16とを有する。導電層14は、「透明導電層」と呼ぶこともある。多孔質半導体層16は、半導体表面に光増感剤としての色素分子を担持している。多孔質半導体層16を単に半導体層16ということがある。
【0020】
半導体層16は、光散乱層16sを有している。光散乱層16sは、孔径が50nm以上の複数のマクロ孔を有する。マクロ孔の平均孔径は、0.5μm以上10μm以下である。後に実施例を示して説明するように、光散乱層16sの厚さは、3μm以上15μm以下であることが望ましい。
【0021】
半導体層16は、低光散乱層16aをさらに有することが望ましい。低光散乱層16aは、光散乱層16sよりも光入射側に設けられることが望ましい。また、低光散乱層16aは、光散乱層16sよりも光散乱が少ないことが望ましい。低光散乱層16aは、光散乱性を有さなくてもよい。低光散乱層16aの厚さは、1.5μm以下であることが望ましい。低光散乱層16aは、例えば、半導体ナノ粒子で構成される多孔質層である。
【0022】
光散乱層16sも、半導体ナノ粒子で構成される。光散乱層16sは、低光散乱層16aに含まれる空隙よりも大きな空隙を有している。それによって、光散乱層16sは、低光散乱層16aよりも強い光散乱性を有する。そこで、光散乱層16sが有する孔径50nm以上の空隙をマクロ孔と呼ぶことにする。光散乱層16sを構成する半導体ナノ粒子は、低光散乱層16aを構成する半導体ナノ粒子と同じものを用いることができる。光散乱層16sおよび低光散乱層16aは、多孔質であるため、比表面積が大きい。そのため、光散乱層16sおよび低光散乱層16aは、多くの色素分子を担持することができる。なお、半導体の中でも、酸化チタンは、光電変換特性が高く、かつ、電解質溶液中への光溶解が起こり難い。そのため、半導体ナノ粒子として、酸化チタンナノ粒子を好適に用いることができる。
【0023】
また、光散乱層16sは、後述するように、加熱分解性を有し溶媒に不溶な又は難溶な高分子粒子と、加熱分解性を有し溶媒に溶解する高分子と、半導体ナノ粒子とを含む分散液を用いて簡便に形成することができる。高分子粒子の平均粒径は、例えば、0.5μm以上10μm以下である。半導体ナノ粒子の平均粒径は、例えば、10nm以上50nm以下である。本開示の光散乱層は、本実施形態の光散乱層16sによって例示される。本開示の低光散乱層は、本実施形態の低光散乱層16aによって例示される。
【0024】
対極35は、電解質媒体22を間に介して、半導体層16に対向するように配置されている。対極35は、基板32に支持されており、例えば、酸化物導電層34と、酸化物導電層34上に形成された金属層(例えば、白金層)36とを有する。
【0025】
電解質媒体22は、例えば、酸化還元物質を含む電解質溶液であり、不図示のシール部によって、光アノード15と対極35との間に封入されている。
【0026】
上記電解質媒体22は、半導体層16内に存在するマクロ孔内に充填されていることが望ましい。また、マクロ孔内にも色素分子が吸着されていることが望ましい。これにより、マクロ孔内面においても光吸収による電荷を発生することができ、光電変換効率を向上できる。また、マクロ孔を介して酸化還元物質の拡散経路が形成されるため、半導体層16内への酸化還元物質の拡散速度が高まる。
【0027】
本実施の形態の光電変換素子100においては、酸化還元物質は、可視光波長でのモル吸光係数が低い。そのため、半導体層16内に存在するマクロ孔内に電解質媒体22が充填されていても、マクロ孔内の酸化還元物質による光吸収が少なく、色素分子による吸光を阻害しない。
【0028】
電解質媒体22をマクロ孔内へ充填させる具体的な方法としては、例えば、電解質媒体22を充填する時に、半導体層16を減圧したり、電解質媒体22を加圧したりすることが望ましい。より望ましくは、半導体層16を減圧した状態で電解質媒体22に接触させ、減圧状態を徐々に解除してもよい。このような方法は、一般に、真空注入もしくは減圧注入と呼ばれる。
【0029】
なお、特許文献1および2では、光散乱層の製造工程から考えて、中空状粒子内のマクロ孔に電解質媒体は充填されていないと推察される。特許文献1および2では、まず中空状粒子を焼成により作成している。そして、この中空状粒子を膜状に塗布し、さらに焼成して散乱層を形成している。このように中空状粒子の外郭の微粒子には2回の焼成が加えられる。そのため、外郭の微粒子は一体化が促進され、微粒子間の隙間は極めて狭くなっているものと推察されるためである。加えて、特許文献1および2では、上記したような、電解質媒体をマクロ孔内へ侵入させるための方法は、何ら実施されていない。
【0030】
半導体層16は、厚さ方向に均質な単層構造であるよりも、光の入射側は光散乱性が低く光が進むに従い光散乱性が高くなるような構造(例えば、多層構造)の方が望ましい。このような構造にすると、光の吸収効率が高くなり、変換効率が高い光電変換素子を得ることができる(例えば、特開2010−272530号公報、特開2002−289274号公報参照)。本明細書では、光散乱性の高い多孔質半導体層を光散乱層と呼ぶことがある。
【0031】
本実施形態の光電変換素子100の半導体層16は、光散乱層16sを有する。以下、光散乱層16sについて詳細に説明する。尚、本明細書におけるマクロ孔の平均孔径は、水銀圧入法によって得られる細孔分布から求められる。すなわち、本明細書におけるマクロ孔の平均孔径は、体積基準における算術平均孔径である。実際には、平均孔径は細孔分布におけるピーク値と実質的に等しい。多孔質層を窒素吸着法(BJH解析法)、あるいは走査型電子顕微鏡等を用いて求めることもできる。
【0032】
光散乱層16sは、0.5μm以上10μm以下の平均孔径のマクロ孔を有する。より望ましくは、1.5μm以上8μm以下の平均孔径を有することが望ましい。平均孔径が0.5μmよりも小さいと光散乱がおきにくく、10μmよりも大きいと、光散乱層16s内で光散乱を起こすことができる界面が少なくなってしまう恐れがある。
【0033】
また光散乱層16sの膜厚は、3μm以上15μm以下であることが望ましい。4μm以上10μm以下であることがより望ましい。膜厚が3μm未満であると、光散乱と光吸収が共に不十分になる恐れがある。膜厚が15μmより大きいと、半導体層16の電子密度が減少し光電変換素子100の開放電圧Vocの減少が大きくなり、変換効率が高められない恐れがある。
【0034】
光散乱層16sのマクロ孔は球状であることが望ましい。球状は、後述するマクロ孔を形成するための非水溶性高分子粒子の形状として得られやすいからである。
【0035】
また、光散乱層16sのマクロ孔は扁平状の形状であっても良い。扁平状とすることにより、例えば球状とした場合よりも孔の数をよりも多くすることができる。そのため、光散乱の界面を増やすことができる。扁平状の平面部はフラットであっても曲面や凹凸を有するものでもよく、例えば半球状、凸レンズ状であってもよい。
【0036】
また光散乱層16sのマクロ孔のうち少なくとも2つのマクロ孔は、互いに連結していることが望ましい。このような構成とすることにより、マクロ孔内に電解質媒体22を充填させることが容易になる。連結したマクロ孔は、外部に開口していることが望ましい。これにより、マクロ孔内に電解質媒体22を充填させることがより容易になる。マクロ孔は、複数の球状や扁平状の孔が連結した形状であっても良い。
【0037】
また光散乱層16sの表面粗さは大きい方が望ましい。光散乱層16sにおいて、実効面積/投影面積で与えられる表面粗さ係数が10以上であることが望ましく、100以上であることがさらに望ましい。なお、実効面積は、光散乱層16sの投影面積と厚さから求められる体積と、光散乱層16sを構成する材料の比表面積および嵩密度から求められる実効表面積を意味する。
【0038】
また光散乱層16sの最表面は、マクロ孔が閉塞せず、露出したものであってよい。すなわち、複数のマクロ孔のうち少なくとも1つのマクロ孔は、光散乱層16sの表面において開口していてもよい。これにより、マクロ孔内に電解質媒体22を充填させることがより容易になる。また、光散乱層16sの最表面は、マクロ孔で形成される曲面や凹みなどの形状を反映した起伏のある構造を有していてもよい。
【0039】
本実施形態における光散乱層16sは入射した光に対して反射が少なく後方に散乱する光成分が大きくなる。したがって光散乱層16sにも十分な光電変換の場を得られる構造であることが望ましい。
【0040】
光散乱層16sは、半導体ナノ粒子が凝集あるいは接合した際にできる粒子間の細孔を有してよい。このような細孔をナノ細孔と呼ぶ。ナノ細孔の平均孔径は、10nm以上50nm以下であることが望ましい。ナノ細孔の平均孔径が10nm未満であると、酸化還元物質の多孔質電極への拡散が遅くなる。ナノ細孔の平均孔径が50nmを超えると、半導体粒子の接合が弱くなり膜が弱くなる恐れがある。
【0041】
光散乱層16sは、半導体ナノ粒子が連結あるいは凝集した構造によって構成することが望ましい。半導体ナノ粒子の平均粒径は、10nm以上50nm以下が望ましい。半導体ナノ粒子の平均粒径が10nm未満であると、複数の半導体ナノ粒子の接合で生じるナノ細孔の平均孔径が10nmに達することが困難になる。半導体ナノ粒子の平均粒径が50nmを超えると、比表面積が小さくなってしまい、光電変換の効率を十分に向上できない恐れがある。
【0042】
十分な光散乱性と膜強度を両立するためには、光散乱層16sの空隙率(細孔の全体積/細孔と半導体の全体積)は70%以上95%以下が望ましい。
【0043】
本実施形態における多孔質半導体層16は光散乱層16s以外の光散乱性の低い低光散乱層16aを有していることが望ましい。低光散乱層16aは光散乱層16sよりも光入射側に近い位置に設けられる。典型的には、基板12側に設けられる。基板12側から入射した光の一部は低光散乱層16a内の色素分子により光吸収される。低光散乱層16aを透過した光は、光散乱層16s内の色素分子で光吸収されるとともに、光散乱層16sで散乱され、光散乱層16sまたは低光散乱層16a内の色素分子で光吸収される。
【0044】
低光散乱層16aは、平均孔径が10nm以上50nm以下となるナノ細孔を有することが望ましい。ナノ細孔の平均孔径が10nm未満であると、酸化還元物質の多孔質電極への拡散が遅くなる。平均孔径が50nmを超えると、半導体粒子の接合が弱くなり膜が弱くなる恐れがある。
【0045】
低光散乱層16aは、半導体ナノ粒子が連結あるいは凝集した構造によって構成することが望ましい。半導体ナノ粒子の平均粒径は、10nm以上50nm以下が望ましい。半導体ナノ粒子の平均粒径が10nm未満であると、複数の半導体ナノ粒子の接合で生じるナノ細孔の平均孔径が10nmに達することが困難になる。半導体ナノ粒子の平均粒径が50nmを超えると、平均粒径に対して表面積が小さくなり、十分な光電変換の場が得られない恐れがある。
【0046】
低光散乱層16aの空隙率(細孔の全体積/細孔と半導体の全体積)は、電解質溶液の浸透と膜強度を両立するためには50%以上70%以下が望ましい。
【0047】
ここで、よく知られているように、半導体層16中の電子密度は以下の式で求められる。
電子密度(C/cm
3)=(半導体層中の電荷量)/(半導体層の体積)
【0048】
上式から明らかなように、半導体層16の半導体の体積を小さくすると、半導体層16中の電子密度は増加する。また、光電変換素子の開放電圧は半導体層16中の電子密度の増加に伴って増加することが知られている。したがって、半導体層の厚さを小さくすることで高い開放電圧を得ることができる。半導体層16に低光散乱層16aが存在する場合において、光散乱層16sはマクロ孔を有し空隙率が高くなることから、半導体材料が密に存在する低光散乱層16aの方が電子密度の影響を受けやすくなる。低光散乱層16aの厚さは、開放電圧を高くするという観点から1.5μmを超えないことが望ましく、1μm以下がより望ましい。
【0049】
半導体層16は、TiO
2の他に、下記の無機半導体を用いて形成することができる。例えば、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、Crなどの金属元素の酸化物、SrTiO
3、CaTiO
3などのペロブスカイト、CdS、ZnS、In
2S
3、PbS、Mo
2S、WS
2、Sb
2S
3、Bi
2S
3、ZnCdS
2、Cu
2Sなどの硫化物、CdSe、In
2Se
3、WSe
2、HgS、PbSe、CdTeなどの金属カルコゲナイド、その他、GaAs、Si、Se、Cd
2P
3、Zn
2P
3、InP、AgBr、PbI
2、HgI
2、BiI
3などを用いることができる。これらの内、CdS、ZnS、In
2S
3、PbS、Mo
2S、WS
2、Sb
2S
3、Bi
2S
3、ZnCdS
2、Cu
2S、InP、Cu
2O、CuO、CdSeは、波長が350nm〜1300nm程度の光を吸収することができるという利点を有している。さらに、上記の半導体から選ばれる少なくとも1種以上を含む複合体、例えば、CdS/TiO
2、CdS/AgI、Ag
2S/AgI、CdS/ZnO、CdS/HgS、CdS/PbS、ZnO/ZnS、ZnO/ZnSe、CdS/HgS、CdS
x/CdSe
1-x、CdS
x/Te
1-x、CdSe
x/Te
1-x、ZnS/CdSe、ZnSe/CdSe、CdS/ZnS、TiO
2/Cd
3P
2、CdS/CdSeCd
yZn
1-yS、CdS/HgS/CdSなどを用いることができる。
【0050】
半導体層16は、種々の方法で形成され得る。例えば、半導体材料の粉末と有機バインダー(有機溶剤を含む)との混合物を導電層上に付与し、その後、加熱処理を施し有機バインダーを除去することによって、無機半導体からなる半導体層を得ることができる。
【0051】
特に光散乱層は、加熱分解性を有し溶媒に不溶または難溶な高分子粒子(以下、簡単のために、「不溶性高分子粒子」ということがある。)と、加熱分解性を有し溶媒に溶解する高分子(以下、簡単のために、「可溶性高分子」ということがある。)と、半導体ナノ粒子とを含む分散液を用いて簡便に形成することができる。高分子粒子の平均粒径は、0.5μm以上10μm以下であってもよい。半導体ナノ粒子の平均粒径は、10nm以上50nm以下であってもよい。分散液を塗布して膜を形成し、この膜を加熱処理(「焼成」ともいう。)する。これによって、不溶性高分子粒子が分解して消失し、消失した不溶性高分子粒子に対応して、マクロ孔が光散乱層16sに形成される。
【0052】
なお、溶媒としては、水と親水性有機溶媒との混合溶媒が用いられる。そのため、不溶性高分子は非水溶性高分子であり、可溶性高分子は、おおむね水溶性高分子ということになる。以下では、簡単のために、非水溶性高分子および水溶性高分子という用語を用いることがある。
【0053】
光散乱層16sを形成するための分散液は、例えば、加熱分解性を有する非水溶性高分子粒子と、加熱分解性を有する水溶性高分子と、半導体ナノ粒子とを、水と親水性有機溶媒との混合溶媒に混合することによって得られる。ここで、非水溶性高分子粒子の平均粒径は、0.5μmより大きく10μmより小さいことが望ましい。半導体ナノ粒子の平均粒径は、10nm以上50nm以下であることが望ましい。水溶性高分子は、親水ブロックと疎水ブロックを有するブロックコポリマーであることが望ましい。
【0054】
加熱分解性を有する非水溶性高分子粒子としては、限定されないが、例えば、ポリオレフィン、ブチルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタアクリル酸共重合体、ポリエチレン、アクリル系樹脂、イオノマー樹脂のほか、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリジエン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、フッ素樹脂系、ポリアミド系のエラストマー、ポリメタクリル酸系、メタクリル酸−スチレン共重合体、ビニルベンゼン系などから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0055】
非水溶性高分子粒子の形状は、限定されないが、球状、扁平状などが挙げられる。扁平状の平面部はフラットであっても曲面や凹凸を有するものでもよく、例えば半球状、凸レンズ状が挙げられる。
【0056】
非水溶性高分子粒子の消失温度は、半導体ナノ粒子の焼結温度よりも低いことが望ましい。半導体ナノ粒子がTiO
2の場合、450℃以下であることが望ましい。消失温度が450℃を超えると、光散乱層16sを形成時に焼成工程がある場合は、非水溶性高分子粒子の残渣が残りやすくなったり、TiO
2の焼結が進み半導体層16の比表面積が低下したりする恐れがある。消失温度及び非水溶性高分子粒子の残渣は、熱質量分析(TG/DTA)により測定することができる。
【0057】
加熱分解性を有する水溶性高分子は親水ブロックと疎水ブロックを有するブロックコポリマーであることが望ましい。
【0058】
ここで、ブロックコポリマーとは、相異なる性質を持つポリマーを化学結合させた分子である。具体的なブロックコポリマーとしては、R
1O−(R
2O)
s−(R
3O)
t−(R
4O)
u−R
5で表されるトリブロックコポリマーや、R
1O−(R
2O)
s−(R
4O)
u−R
5で表されるジブロックコポリマーなどが例として挙げられる。この場合、R
1及びR
5は、H、又は炭素数1〜6の低級アルキレン基を表し、R
2、R
3及びR
4は、炭素数2〜6の低級アルキレン基を表し、s、t及びuは2〜200の数を表す。また、他のブロックコポリマーとしては、親水ブロックをポリエチレンオキシド(以下、PEOと呼ぶ)とし、疎水ブロックをポリスチレン(以下、PSと呼ぶ)又はポリイソプレン(以下、PIと呼ぶ)としたブロックコポリマーを適用できる。この場合、PEO−PS(又はPI)−PEOからなるトリブロックコポリマーと、PEO−PS(又はPI)からなるジブロックコポリマーとがある。PEOブロックの重合度は2〜200で表され、PS(又はPI)ブロックの重合度は2〜50で表される。これらのブロックコポリマーの中でも、HO−(C
2H
4O)
106−(C
3H
6O)
70−(C
2H
4O)
106−Hが望ましい。
【0059】
水溶性高分子の消失温度も、非水溶性高分子粒子と同様に、半導体ナノ粒子の焼結温度よりも低いことが望ましい。半導体ナノ粒子がTiO
2の場合、450℃以下であることが望ましい。消失温度が450℃を超えると、光散乱層16sを形成時に焼成工程がある場合は水溶性高分子の残渣が残りやすくなったり、TiO
2の焼結が進み半導体層16の比表面積が低下したりする恐れがある。消失温度及び水溶性高分子の残渣は、熱質量分析(TG/DTA)により測定することができる。
【0060】
これらの半導体ナノ粒子と非水溶性高分子粒子の配合量は乾燥時の体積比で1:0.5〜1:20が望ましく、1:1〜1:10であることがより望ましい。
【0061】
また半導体ナノ粒子と水溶性高分子の配合量は乾燥時の体積比で1:0.5〜1:20が望ましく、1:2〜1:10であることがより望ましい。
【0062】
水溶性有機溶媒としては、水溶性のアルコール系、エーテル系、ケトン系、アルデヒド系、ニトリル系、ホルムアミド系、アミン系、ピリジン系、ピロリドン系などが挙げられる。中でも、水溶性アルコールが望ましく、炭素数1〜3個の低級アルコールがより望ましい。
【0063】
水と水溶性有機溶媒の混合比は、相分離しない範囲であれば任意である。半導体ナノ粒子の分散しやすさや水溶性高分子の溶解性を保持する観点からは、水と水溶性有機溶媒との体積比が、1:0.3〜1:100が望ましい。
【0064】
上記混合液を基板上に付与する方法は、公知の種々の塗布法または印刷法を採用することができる。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、スピンコート法が挙げられる。印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法が挙げられる。
【0065】
<対極>
対極35は、光電変換素子100の正極として機能する。対極35を形成する材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属、グラファイト、カーボンナノチューブ、白金を担持したカーボン等の炭素材料、インジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫等の導電性金属酸化物、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などを挙げることができる。これらのうち、白金、グラファイト、ポリエチレンジオキシチオフェンなどが望ましい。
【0066】
なお、
図1に示すように、対極35は、基板32側に透明導電層34を有してもよい。透明導電層34は、光アノード15が有する導電層14と同じ材料から形成することができる。この場合、対極35も透明であることが望ましい。対極35が透明であれば、基板32側または基板12側から受光することができる。これは、反射光等の影響によって光電変換素子100の表裏面両側から光照射が期待される場合に有効である。
【0067】
<電解質媒体>
電解質媒体22としては、酸化還元物質(メディエータ)を溶媒中に溶解させた電解質溶液の他、酸化還元物質を含むゲル電解質または高分子電解質を用いることができる。典型的には、電解質媒体は電解質溶液であり、電解質溶液は、酸化還元物質、溶媒、支持電解質を含むことが望ましい。
【0068】
電解質媒体22に含まれる酸化還元物質は、波長380nmから800nmにおけるモル吸光係数εの最大値が3000Lcm
-1mol
-1以下であることが望ましい。より望ましくは1000Lcm
-1mol
-1以下、更に望ましくは500Lcm
-1mol
-1以下である。モル吸光係数を低くすることにより、光電変換に寄与できない酸化還元物質による光吸収を抑制することができる。
【0069】
波長380nmから800nmにおけるモル吸光係数の最大値が低い酸化還元物質としては、フェロセン、ビフェニル、フェノチアジン、ニトロキシルラジカルを有する化合物が望ましい。特に、ニトロキシルラジカルを有する化合物が望ましい。ニトロキシルラジカルは下記の化学式[I]で示されるものであり、繰り返し安定性の高い酸化還元能を有し、ニトロキシルラジカルと、オキソアンモニウムカチオンの状態を可逆的にとる化合物である。
【化1】
【0070】
ニトロキシルラジカルを有する化合物の分子量は200未満が好ましく、特に140〜160が好ましい。ニトロキシルラジカルを有する化合物の酸化還元電位は、0.65V(vs.Ag/Ag
+)が好ましい。これらの酸化還元物質は、電解質媒体22に存在することによって、酸化還元機能を発現する。モル吸光係数εは、電解質溶液の吸光度から、ランベルト・ベールの法則に従って下記の式(1)から算出することができる。
【数1】
【0071】
酸化還元物質の濃度は、0.005mol/L〜1mol/Lが望ましく、特に0.01mol/L〜0.15mol/Lが更に望ましい。
【0072】
支持電解質としては、例えば過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩やピリジニウム塩などのアンモニウム塩、過塩素酸リチウムや四フッ化ホウ素カリウムなどアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0073】
溶媒は、イオン伝導性に優れるものが望ましい。溶媒は、水系溶媒および有機溶媒のいずれも使用できるが、溶質をより安定化するため、有機溶媒が望ましい。有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソシラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン等のエーテル化合物、3−メチル−2−オキサゾリジノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物、スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性化合物などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いることもでき、また、2種類以上を混合して用いることもできる。中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネ−ト化合物、γ―ブチロラクトン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、吉草酸ニトリル等のニトリル化合物が望ましい。
【0074】
また、溶媒として、イオン液体を用いる、もしくは上記溶媒に混合してもよい。イオン液体は、揮発性が低く、難燃性が高いという特徴を有している。
【0075】
イオン液体としては、公知のイオン液体全般を用いることができるが、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートなどイミダゾリウム系、ピリジン系、脂環式アミン系、脂肪族アミン系、アゾニウムアミン系のイオン液体や、欧州特許第718288号明細書、国際公開第95/18456号、電気化学第65巻11号923頁(1997年)、J. Electrochem. Soc.143巻,10号,3099頁(1996年)、Inorg. Chem. 35巻,1168頁(1996年)に記載されたものを挙げることができる。
【0076】
<色素分子>
色素としては、増感色素として用いられるものを使用することができ、公知の材料を用いることができる。例えば、9−フェニルキサンテン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、テトラフェニルメタン系色素、キノン系色素、アゾ系色素、インジゴ系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素などが挙げられる。または、RuL
2(H
2O)
2タイプのルテニウム−シス−ジアクア−ビピリジル錯体(ここで、Lは、4,4’−ジカルボキシル−2,2’−ビピリジンを示す。)、または、ルテニウム−トリス(RuL
3)、ルテニウム−ビス(RuL
2)、オスニウム−トリス(OsL
3)、オスニウム−ビス(OsL
2)などのタイプの遷移金属錯体、または亜鉛−テトラ(4−カルボキシフェニル)ポルフィリン、鉄−ヘキサシアニド錯体、フタロシアニンなどが挙げられる。例えば、「FPD・DSSC・光メモリーと機能性色素の最新技術と材料開発」(株式会社エヌ・ティー・エス)のDSSCの章にあるような色素を適用することができる。中でも会合性を有する色素は、光電変換時の電荷分離を促進する観点から望ましい。会合体を形成して効果のある色素としては、例えば下記の化学式[II]の構造で示される色素が望ましい。
【化2】
【0077】
色素分子は、公知の種々の方法で半導体に担持させられる。例えば、色素分子を溶解あるいは分散させた溶液に、半導体層(例えば、色素分子を含まない多孔質半導体)を形成した基板を浸漬させる方法が挙げられる。この溶液の溶媒としては、水、アルコール、トルエン、ジメチルホルムアミドなど色素分子を溶解可能なものを適宜選択して用いればよい。また、色素分子の溶液に浸漬させている間に、加熱したり、超音波を印加したりしてもよい。また、浸漬後、溶媒(例えばアルコール)での洗浄、および/または加熱を行うことによって、余剰の色素分子を除去してもよい。
【0078】
半導体層における色素分子の担持量は、例えば、1×10
-10〜1×10
-4mol/cm
2の範囲内であり、光電変換効率およびコストの観点から、例えば、0.1×10
-8〜9.0×10
-6mol/cm
2の範囲が望ましい。
【0079】
<光アノード>
光アノード15は、光電変換素子100の負極として機能する。光アノード15は、上述したように、例えば、可視光を透過する導電層14と、導電層14上に形成された半導体層16を有し、半導体層16は色素分子を含んでいる。色素分子を含む半導体層16は、光吸収層と呼ばれることもある。このとき、基板12は、例えば、可視光を透過するガラス基板またはプラスチック基板(プラスチックフィルムを含む)である。
【0080】
可視光を透過する導電層14は、例えば、可視光を透過する材料(以下、「透明導電材料」という。)で形成され得る。透明導電材料としては、酸化亜鉛、インジウム−スズ複合酸化物、インジウム−スズ複合酸化物層と銀層からなる積層体、アンチモンがドープされた酸化スズ、フッ素がドープされた酸化スズ等を例示することができる。この内、フッ素がドープされた酸化スズは、導電性および透光性が特に高いので望ましい。導電層14の光透過率は高い程よいが、50%以上であることが望ましく、80%以上であることがより望ましい。
【0081】
導電層14の厚さは、例えば、0.1μm〜10μmの範囲内にある。この範囲内であれば、均一な厚さの導電層14を形成することができるとともに、光透過性が低下せず、十分な光を半導体層16に入射させることができる。導電層14の表面抵抗は、低い程よく、望ましくは200Ω/□以下、より望ましくは50Ω/□以下である。下限は特に制限しないが、例えば0.1Ω/□である。太陽光の下で使用される光電変換素子の導電層のシート抵抗が10Ω/□程度であることが多い。しかし、太陽光よりも照度の低い蛍光灯等の下で使用される光電変換素子100では、光電子量(光電流値)が小さいために、導電層14に含まれる抵抗成分による悪影響を受けにくい。従って、低照度環境下で使用される光電変換素子100では、導電層14の表面抵抗は、導電層14に含まれる導電性材料の削減による低コスト化の観点から30〜200Ω/□の範囲内にあることが望ましい。
【0082】
可視光を透過する導電層14はまた、透光性を有しない導電材料を用いて形成することができる。例えば、線状(ストライプ状)、波線状、格子状(メッシュ状)、パンチングメタル状(多数の微細な貫通孔が規則的または不規則に配列された様子をいう。)のパターンを有する金属層または、これらとはネガ・ポジが反転したパターンを有する金属層を用いることができる。これらの金属層では、金属が存在しない部分を光が透過することができる。金属として、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、またはこれらのいずれかを含む合金を挙げることができる。さらに、金属に代えて、導電性を有する炭素材料を用いることもできる。
【0083】
可視光を透過する導電層14の透過率は、例えば50%以上であり、80%以上であることが望ましい。透過すべき光の波長は、色素分子の吸収波長に依存する。
【0084】
基板12とは反対側から半導体層16に光を入射させる場合、基板12および導電層14は、可視光を透過させる必要はない。したがって、上記の金属または炭素を用いて導電層14を形成する場合、金属または炭素が存在しない領域を形成する必要がなく、さらに、これらの材料が十分な強度を有する場合、導電層14が基板12を兼ねるようにしてもよい。
【0085】
なお、導電層14の表面における電子の漏れを防ぐため、すなわち、導電層14と半導体層16との間に整流性を持たせるために、導電層14と半導体層16との間に、酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムなどの酸化物層を形成してもよい。
【0086】
本実施形態による光電変換素子100は、高い開放電圧Vocを得ることができるという利点も有し、高い光電変換効率を得ることができる。
また本実施形態による光電変換素子100は、屋内等の照度の比較的低い環境に適している。蛍光灯やLEDや有機ELといった屋内等の照明から発する光の波長は、太陽光に比べて可視光付近の波長域に限定されている。本実施形態での光電変換素子100の酸化還元物質は、波長380〜800nmにおいて、モル吸光係数が3000Lcm
-1mol
-1以下と小さい。そのため、酸化還元物質による光吸収が小さく、屋内等の照明から発する光からの発電効率が高くなる。
【実施例】
【0087】
以下、本実施形態を実施例によって具体的に説明する。実施例1〜15および比較例1〜3の光電変換素子を作製し、特性を評価した。評価結果は、表1にまとめて示す。
【0088】
[実施例1]
図1に示した光電変換素子100と実質的に同じ構造を有する光電変換素子を作製した。各構成要素は、以下の通りである。
基板12:ガラス基板 厚さ1mm
透明導電層14:フッ素ドープSnO
2層(表面抵抗10Ω/□)
半導体層16:多孔質酸化チタン、色素分子(三菱製紙製D358、化学式[III])
【化3】
電解質媒体22:酸化還元物質として0.03mol/L TEMPO、支持電解質として0.1mol/L LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)をGBL(γ―ブチロラクトン)に溶解した溶液
基板32:ガラス基板 厚さ1mm
酸化物導電層34:フッ素ドープSnO
2層(表面抵抗10Ω/□)
金属層36:白金層
【0089】
実施例1の光電変換素子は、以下のようにして作製した。
【0090】
フッ素ドープSnO
2層を有する厚さ1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製)を2枚用意した。これらを、透明導電層14を有する基板12および酸化物導電層34を有する基板32として用いた。
【0091】
平均1次粒子径が20nmの高純度酸化チタン粉末をエチルセルロース中に分散させ、スクリーン印刷用のペーストを作製した。
【0092】
一方の導電性ガラス基板のフッ素ドープSnO
2層上にスパッタ法により厚さが約10nmの酸化チタン層を形成した後、この上に上記のペーストを塗布して乾燥し、得られた乾燥物を500℃で30分間、空気中で焼成することによって、厚さが1.0μmの多孔質酸化チタン層(チタンコート)を形成し低光散乱層16aを形成した。
【0093】
平均1次粒子径が20nmの高純度酸化チタン粉末1gを、水4gとエタノール8gとブロックコポリマーとしてHO−(C
2H
4O)
106−(C
3H
6O)
70−(C
2H
4O)
106−Hを1g、平均粒径2.5μmの非水溶性高分子粒子(SSX−102、積水化成品工業社製)1gを混合、攪拌、超音波分散処理を行い、均一な分散液を作製し多孔質電極形成用分散液とした。
【0094】
低光散乱層16aを形成した導電性ガラス基板上に、調製した多孔質電極形成用分散液をスピンコート(500rpm、20秒)することによって塗布した。スピンコート後に導電性ガラスを乾燥し、500℃で1時間空気中で焼成を行い、光散乱層16sを形成した。
【0095】
スピンコートを1回実施したときの光散乱層16s形成後の導電性ガラスの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図2に示す。導電ガラス基板上に、低光散乱層16aと、マクロ孔を有する光散乱層16sとが形成されている様子が確認できた。光散乱層16sには、非水溶性の平均粒径が2.5μmの球状高分子粒子が消失することによって、酸化チタンナノ粒子で形成された層の中にマクロ孔が形成されている。このように、マクロ空孔を有する散乱層という狙いの構造が形成できていることが確認された。また、光散乱層16sの表面が、球状高分子粒子の形状に追随した凹凸形状を有していることも確認された。
【0096】
また、光散乱層16sの表面には、マクロ孔の外郭粒子の隙間から、マクロ孔が外部に開口しているのが観察された。また、断面観察により、マクロ孔同士が連結されている様子が観察された。本実施例では、上記した製法により散乱層16sを形成したため、このような構成になったものと推察される。
【0097】
なお、所望の光散乱層16sの厚さを得るため、多孔質電極形成用分散液の塗布と乾燥を複数回実施して光散乱層16sを得た。
【0098】
次に、半導体層(多孔質酸化チタン層)16を形成した基板を、上記色素分子(化学式[III])の濃度が0.3mmol/Lであるアセトニトリル−ブタノール1:1混合溶媒溶液中に浸漬し、室温で16時間暗所下静置し、多孔質酸化チタン層に色素分子を担持させた。このようにして、光アノードを形成した。
【0099】
他方のガラス基板の表面に、スパッタ法によって白金を堆積することにより対極を形成した。
【0100】
次に、2つの基板の周辺部分に、熱溶融性接着剤(三井デュポンポリケミカル社製)の封止材を塗布した。封止材は、多孔質酸化チタン層および対極のそれぞれを取り囲むように配置した。それから、2つの基板を互いに対向して配置し、加熱しながら加圧して貼り合わせた。この対極を形成したガラス基板には、ダイヤモンドドリルで孔をあけておいた。
【0101】
次に、GBL(γ―ブチロラクトン)に0.03 mol/L TEMPOと0.1 mol/L LiTFSIを溶解した電解質溶液を調製し、この電解質溶液を半導体層に十分に充填させるために、減圧した状態で孔から注入し、実施例1の光電変換素子を得た。
【0102】
この光電変換素子を、安定化蛍光灯を用いて200lxの照度の光を照射し、電流−電圧特性を測定して安定化後の変換効率を求めた。尚、本測定環境は太陽光に対しては約500分の1ではあるが、当然、太陽光下でも適用でき、用途を限定するものではない。結果を表1に示す。
【0103】
表1における光散乱層16sのマクロ孔の大きさは、別途用意した光散乱層16sを水銀圧入法で細孔分布を測定した際のピーク値であり、実質的に平均値と等しい。また光散乱層16sの空隙率は、光散乱層16s全体の体積における空孔体積の割合を計算したものであり、ここで空孔体積は水銀圧入法(オートポアIV 9500、株式会社島津製作所製)で計測した10μm以下の全細孔容積を使用している。また、酸化還元物質のモル吸光係数は、電解質溶液の吸光度(紫外可視近赤外分光光度計 UV−3150、株式会社島津製作所製)を測定し式(1)から算出した。
【0104】
[実施例2〜15および比較例1〜3]
実施例1において、低光散乱層16aの厚さ、光散乱層16sのマクロ孔の大きさ、光散乱層16sの空隙率、光散乱層16sの厚さ、酸化還元物質を表1に示すとおりに変更した。
【0105】
実施例7は、多孔質電極形成用分散液を作製する際の非水溶性高分子粒子の配合量を実施例1の半分とした。実施例8は、多孔質電極形成用分散液を作製する際の非水溶性高分子粒子の配合量を実施例1の2倍とした。比較例1は、多孔質電極形成用分散液を作製する際の非水溶性高分子粒子の配合量を実施例1の0.1倍とした。
【0106】
また、実施例2〜15及び比較例1においても、所望の光散乱層16sの厚さを得るため、多孔質電極形成用分散液の塗布および乾燥は必要に応じて複数回実施した。
【0107】
比較例2および3は光散乱層16sとして、平均粒径0.4μmの酸化チタン粒子を使用した。平均粒径0.4μmの高純度酸化チタン粉末をエチルセルロース中に分散させ、スクリーン印刷用のペーストを作製しペーストを塗布して乾燥させた。得られた乾燥物を、500℃で30分間、空気中で焼成することにより光散乱層16sを形成した。
【0108】
酸化還元物質の化学式と、略称を下記に示す。
【化4】
【0109】
そのほかは同じ工程によって、光電変換素子を作製した。評価結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
実施例2、9と比較例1を比較すると、波長380nmから800nmにおけるモル吸光係数の最大値が3000Lcm
-1mol
-1以下となる酸化還元物質であるTEMPO、OH−TEMPOを用いた構成の方が、波長380nmから800nmにおけるモル吸光係数が3000Lcm
-1mol
-1より大きいLiIを用いた構成よりも、変換効率が高いことがわかる。
【0112】
実施例2、10と比較例2、3を比較すると、光散乱層16sとしてマクロ孔を形成したものを用い、更に波長380nmから800nmにおけるモル吸光係数の最大値が3000Lcm
-1mol
-1以下となる酸化還元物質であるTEMPOを用いた構成の方が、光散乱層16sとして平均粒径0.4μmの酸化チタン粒子を用いて形成したものを用い、更に波長380nmから800nmにおけるモル吸光係数の最大値が3000Lcm
-1mol
-1より大きいLiIを用いた構成よりも、変換効率が高いことがわかる。
【0113】
実施例1〜4と実施例11〜12を比較すると、光散乱層16sのマクロ孔の大きさが0.5μm以上10μm以下で変換効率が高くなることが分かる。
【0114】
実施例2、5と実施例13との比較から、光散乱層16sの膜厚が3μm以上、15μm以下で変換効率が高くなる。実施例2、6、10と実施例14との比較から、低光散乱層16aの厚さは2μmよりも小さいことで高い変換効率が得られることがわかる。
【0115】
実施例2、7,8と実施例15を比較すると、光散乱層16sの空隙率は60%より大きいことで高い変換効率を得られることがわかる。
なお、酸化チタン粉末に対する非水溶性高分子粒子の比率が大きくなるほど、実施例1に記載した、光散乱層の表面からのマクロ孔の開口や、マクロ孔の連結が多くなる傾向が見られた。これは、非水溶性高分子粒子の比率が大きくなるほど、焼成前において、非水溶性高分子粒子が塗布層の表面に露出したり、非水溶性高分子粒子同士が直接接触し易くなったりするためと考えられる。