(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
トンネルを施工する場合には、近接する地下構造物や埋設物への影響や、地表面における地盤沈下を抑制することを目的として、トンネルの施工に伴う地盤の変位に対してきびしい制約が課されているのが一般的である。
そのため、トンネル施工中は、変位計測を実施して、適切な支保構造や補助工法を選定することで周辺地盤の変位を管理する必要がある。
トンネル施工時の変位計測は、トンネル坑内において実施するのが一般的であるが、地山状況に応じた支保構造や補助工法を採用するためには、切羽前方の地山状況を把握する必要がある。
【0003】
特許文献1には、トンネルの計画位置の上方に向けて立坑から打設された水平のガイドパイプ内に変位計を設置し、この変位計により切羽前方の変位計測を行う変位計測方法が開示されている。
また、特許文献2には、切羽から斜め前方に向けてガイド管を打設し、続いて、トンネルの掘削断面内に突出するガイド管の基端部をはつり取りつつトンネルを掘進した後、掘削断面の外側に配管されたガイド管の残部に変位計を挿入し、この変位計により切羽前方の変位を計測する地中変位計測方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の変位計測方法は、立坑を形成する用地を確保することができないトンネルでは採用することができない。また、施工可能なガイドパイプの長さには限界があるため、長距離トンネルには採用することができない。さらに、ガイドパイプは切羽(トンネル断面)から間隔をあけて形成する必要があるため、トンネル周囲の地盤変位を正確に計測することができない。
また、特許文献2に記載の変位計測方法は、ガイド管の基端部の数mを撤去する必要があるため、その分、切羽前方の計測範囲が狭くなってしまう。また、トンネル掘削に伴ってガイド管の基端部をはつるため、変位計挿入時のガイド管の姿出しに手間がかかる。また、ガイド管の基端部には切削し易く強度が比較的弱い材質(例えば、塩化ビニル)を採用するため、ガイド管の打設を慎重に行う必要がある。さらに、基端部の切削に伴う振動によりガイド管に変位が生じるおそれがある。ガイド管に変位が生じると、トンネル施工に伴う変位測定値に影響が及ぶおそれがある。
【0006】
このような観点から、本発明は、簡易に変位計を設置することができ、かつ、トンネル施工に伴う変位を正確に計測することを可能とした変位計測方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の変位計測方法は、切羽から斜め前方に向うガイド管を配置する配管工程と、前記ガイド管内に変位計を挿入する計器設置工程と、前記変位計により切羽前方の変位を測定するとともに、トンネル坑内において変位計測を行う変位計測工程とを備える変位計測方法であって、前記配管工程では、少なくとも頂部が標準断面よりも拡幅された部分から前記標準断面の外側に位置するように前記ガイド管を配置し、前記変位計測工程では、切羽前方の計測結果とトンネル坑内の計測結果とを統合することを特徴としている。
なお、前記ガイド管の基端の変位を測定し、前記ガイド管の先端を基点とした変位量を算出するのが望ましい。また、前記ガイド管の長さ方向に設定された複数の測点において変位を測定するのが望ましい。
【0008】
かかる変位計測方法によれば、ガイド管が標準断面の外側に位置しているため、トンネル掘削時にガイド管を切断する必要がなく、計測範囲が広い。また、ガイド管の姿出しを要することなく、簡易に変位計を設置することができる。さらに、ガイド管として鋼管等の強度の高い管材を全長にわたって使用すれば、ガイド管の打設が容易である。
また、トンネル坑内から切羽前方に向けて変位計を設置することができるため、立坑の有無やトンネルの延長の大小に関わらず、トンネル各所において変位計測を実施することができる。
また、切羽前方の計測結果とトンネル坑内の計測結果とを統合するため、切羽前方を含めた全体的な変位計測を高精度に実施することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の変位計測方法によれば、現地の状況に限定されることなく簡易に変位計を設置することができ、かつ、トンネル施工に伴う変位を正確に計測することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態では、トンネル1の切羽2の前方における変位計測結果と、トンネル1の坑内における変位計測結果とを統合することで、切羽2の前方を含めた地盤Gの全体的な変位を計測・管理するための変位計測方法について説明する(
図1参照)。
本実施形態のトンネル1は、
図1に示すように、掘削により露出した地山を、鋼製支保工12や吹付けコンクリート13等の支保工11により閉塞する、いわゆる山岳トンネル工法により形成する。なお、トンネル1は、支保工11に加えて、補助工法を併用してもよい。
【0012】
本実施形態のトンネル1は、
図2(a)に示すように馬蹄形状を呈しているが、トンネル1の断面形状は限定されるものではなく、例えば円形断面であってもよい。
図1に示すように、トンネル1には、所定の延長(例えば12m)毎に拡幅部14が設けられている。
拡幅部14では、
図2(b)に示すように、トンネル1の上半が標準断面S
0よりも上側に拡幅されている。本実施形態では、トンネル1の上半のみを拡幅する場合について説明するが、拡幅部14の断面形状は、少なくとも上部が拡幅されていれば限定されるものではなく、例えば、上側に加え側方を拡幅してもよい。
拡幅部14では、
図3に示すように、最大拡幅断面S
maxの手前(切羽の反対側)2基目の鋼製支保工12A(12)から徐々にトンネル断面を拡幅し、最大拡幅断面S
maxの次基の鋼製支保工12B(12)において標準断面S
0になるように縮径する。なお、拡幅部14の範囲(延長距離)は限定されるものではない。
【0013】
トンネル1には、最大拡幅断面S
maxの頂部から斜め前方に向けて前方変位計測装置3が設けられている。なお、前方変位計測装置3は、トンネル1の上部(スプリングラインよりも上側部分、より好ましくは肩部よりも上側部分)に設けられていればよく、必ずしも頂部である必要はない。
【0014】
前方変位計測装置3は、地中に配置されたガイド管31と、ガイド管31内に配設された変位計32とを備えている。
本実施形態では、変位計32として、ケーブル状の傾斜計であって、所定の長さ毎の測点において傾斜角度を測定することができる3D地中変位計(SAAセンサー:SK Laboratory社製)を使用する。なお、変位計32は前記のものに限定されるものではなく、例えば、棒状のプローブを備えた傾斜計等であってもよい。
【0015】
次に、本実施形態のトンネル施工方法について説明する。
本実施形態のトンネル施工方法は、トンネル1の掘進とともに地盤の変位計測を行う(変位計測方法を含む)ものであり、拡幅部施工工程、配管工程、掘進工程、計器設置工程および変位計測工程を備えている。
【0016】
拡幅部施工工程は、
図4(a)に示すように、前方変位計測装置3を設置するための拡幅部14を形成しつつトンネル1を掘進する工程である。
拡幅部14は、前方変位計測装置3(ガイド管31)の設置個所(最大拡幅断面S
max)の支保工12の2基手前の支保工12Aから、拡幅掘削を行うことにより形成する。なお、拡幅掘削の開始位置は限定されるものではなく、例えば、最大拡幅断面S
maxの支保工12の3基以上手前の支保工12から開始してもよい。
拡幅部14は、ガイド管31を打設するドリルジャンボのガイドセルが吹き付け面に干渉しない形状に形成する。本実施形態では、最大拡幅断面S
maxの頂部が標準断面S
0よりも200mm大きくなるようし、その手前1mにおける拡幅断面S
1の頂部が標準断面S
0よりも100mm大きくなるように拡幅部14を形成する。
拡幅部14の施工に伴い、切羽2には鏡吹付けを行い、鏡コンクリート15を形成する。
【0017】
配管工程は、
図4(b)に示すように、切羽2から斜め前方に向うガイド管31を配置する工程である。
ガイド管31は、ドリルジャンボを利用して配置する。
具体的には、最大拡幅断面S
maxの拡幅部分(標準断面からはみ出す部分)から標準断面S
0の外側に位置するようにガイド管31を打設する。すなわち、ガイド管31の基端部は、トンネル1の一般部(標準断面S
0)の内面よりも外側(地山側)に位置する。なお、ガイド管31は、吹付けコンクリート13の表面に近接した位置から地盤Gに挿入するように施工するのが望ましい。
ガイド管31の傾斜角φは限定されるものではないが、本実施形態では水平面に対して傾斜角φ=6°となるようにガイド管31を打設する。なお、ガイド管31の傾斜角φは、次基の鋼製支保工12との離隔を確保できるように設定する。傾斜角φは、なるべく小さくすることでトンネル1とガイド管31との離隔を小さくすることが望ましい。
【0018】
掘進工程は、
図5(a)に示すように、トンネル1を掘進する工程である。
掘進工程では、ガイド管31を損傷することがないように、地山の掘削および支保工の設置を行う。
なお、最大拡幅断面の次基の支保工11(鋼製支保工12)の施工が完了したら、掘進工程を中断し、計器設置工程を実施する。
【0019】
計器設置工程は、
図5(b)に示すように、ガイド管31内に変位計32を挿入する工程である。
ガイド管31内に変位計32を挿入したら、ガイド管31の内面と変位計32との隙間に充填材33を充填する。なお、充填材33を構成する材料は限定されるものではなく、例えばセメントミルクやモルタル等のセメント系固化材、シリカレジン等を使用すればよい。
【0020】
変位計測工程は、切羽前方の地盤変位およびトンネル坑内の変位(トンネル壁面の変位量)を測定する工程である。
切羽前方の変位測定は、ガイド管31内に挿入された変位計32により行う。変位計32は、ガイド管31の長さ方向に設定された複数の測点において変位を測定する。
切羽前方の地盤変位を測定する場合には、まず、変位計32を設置した直後に初期値を測定する。初期値を測定した後、トンネルの掘進を再開するとともに自動計測により切羽前方の変位計測を行う。
【0021】
本実施形態では、ガイド管31の基端の変位を測定し、ガイド管31の先端を基点とした変位量を算出する。すなわち、ガイド管31の先端を不動点と仮定し、各測点における傾斜角度を測定し、傾斜角度と計測点間の距離により計測点間の沈下量を算出する。沈下量は、切羽先行沈下として評価する。
なお、ガイド管31の基端の測定方法は限定されるものではないが、本実施形態では、トータルステーションを用いて測定する。
図6(a)に示すように、切羽前方の変位(線形L
1)は、ガイド管31の先端から切羽2に近づくにしたがって変位量が増加する傾向を示す。ここで、
図6(a)〜(c)は、変位量uを最終変位量u
0で除したトンネル内空変位比率と切羽からの距離との関係を示すグラフである。
【0022】
前方変位測定装置3を利用した切羽前方の変位測定を行う一方で、トンネル坑内の変位測定を行う。なお、坑内の変位測定方法は限定されるものではなく、例えば、トンネル壁面に設定された測点をトータルステーションにより測定する方法や、トンネル壁面に設置された変位計を利用して測定する方法を採用すればよい。
図6(b)に示すように、トンネル坑内の変位(線形L
2)は、切羽通過直後に急激に増加し、その後、切羽から離れるに従って徐々に増加した後、一定の変位量(最終変位量)に落ち着く。
トンネル坑内の変位測定結果は、
図6(c)に示すように、切羽前方の計測結果と統合する。変位測定結果の統合は、切羽前方の変位(線形L
1)にトンネル坑内の変位(線形L
2)をつなぎ合わせることにより行う。このとき、線形L
2(トンネル坑内の変位)の基点が、線形L
1の切羽(ガイド管31の基点)における変位量となるように、線形L
2を全体的にスライド(上昇)させる。すなわち、トンネル坑内の変位量(トンネル壁面の変位量)は、ガイド管31の先端を不動点と仮定した場合におけるガイド管31の基端部における沈下量をトンネル坑内の変位の測定値に加えた値とする。
【0023】
本実施形態の変位計測方法(トンネル施工方法)によれば、トンネル掘削に伴う全体変位量の1/3が発生すると言われる切羽到達前の地盤の変位を適切に把握することができる。
ガイド管31を拡幅部14において施工するため、掘削作業の際に、ガイド管31を切断する必要がなく、したがって、計測範囲が広い。また、ガイド管31の基端が露出しているため、ガイド管31の姿出しを要しない。そのため、簡易に変位計を設置することができる。さらに、ガイド管31として鋼管等の強度の高い管材を全長にわたって使用すれば、ガイド管31の打設が容易である。
また、トンネル坑内から切羽前方に向けて変位計32を設置することができるため、立坑の有無やトンネル1の延長の大小に関わらず、トンネル1の全長にわたって変位計測を実施することができる。
【0024】
また、切羽前方の計測結果とトンネル坑内の計測結果とを統合するため、切羽前方を含めた全体的な変位計測を高精度に実施することができる。そのため、地山状況に応じた支保構造を適切に設定することが可能となり、簡易かつ安全にトンネル施工を行うことができる。
また、トンネル坑内から変位計測を行うため、トンネル上方の地上部を占有する必要がなく、都市部等のように地上部から計測が困難な場合であっても、計測管理を行うことができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、ガイド管の先端を基点として変位量を算出するものとしたが、変位量の算出方法は限定されるものではない。
また、前記実施形態では、ガイド管の長さ方向に沿った複数の測点において変位を測定するものとしたが、測点をガイド管の先端のみにする等、ガイド管の長さ方向に対して必ずしも複数の測点を設定する必要はない。
前記実施形態では、トンネル1の支保構造とは別に変位計測装置3を設置する場合について説明したが、例えば、AGF工法や先受けフォアパイリング等の補助工法で使用する鋼管内に変位計32を設置してもよい。