特許第6528028号(P6528028)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6528028
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】車両ドアハンドルの安全装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 77/06 20140101AFI20190531BHJP
   E05B 79/06 20140101ALI20190531BHJP
【FI】
   E05B77/06 A
   E05B79/06 C
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-522108(P2015-522108)
(86)(22)【出願日】2013年7月18日
(65)【公表番号】特表2015-526615(P2015-526615A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(86)【国際出願番号】EP2013065251
(87)【国際公開番号】WO2014013040
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年4月15日
(31)【優先権主張番号】12425126.5
(32)【優先日】2012年7月18日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516180070
【氏名又は名称】ユーシン イタリア ソチエタ ペル アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】シモーヌ イラルド
(72)【発明者】
【氏名】ヴィットリオ ジャッコーネ
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−013630(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0194791(US,A1)
【文献】 米国特許第06422616(US,B1)
【文献】 特開2005−002670(JP,A)
【文献】 特開2005−003614(JP,A)
【文献】 特開2001−317256(JP,A)
【文献】 特開2004−300802(JP,A)
【文献】 特開2005−076376(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/068262(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 77/04−77/06,77/12
E05B 79/06
E05B 85/14−85/18
B60J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
− ドアの開放が許可されている基準位置から、ドアの開放が阻止されているブロッキング位置まで、慣性によって移動する慣性質量体(21)と、
− 前記慣性質量体(21)がブロッキング位置にあるときに、ドアの開放を阻止するように構成されているブロッキング手段(25)と、
− 前記慣性質量体(21)が基準位置にあるときに、最小引張応力状態である弾性手段(17)であって、前記慣性質量体(21)に、力またはトルクを印加して、前記慣性質量体を、ブロッキング位置から基準位置に戻しておくように構成されている弾性手段(17)とを備えている、車両ドアハンドル(1)の慣性システムであって
前記慣性システムは、さらに、前記弾性手段(17)と協働するための予備負荷機関(29)を備えており、この予備負荷機関(29)は、少なくとも2通りの予備負荷状態を有しているように構成されており、この予備負荷状態によって、前記弾性手段(17)が、異なる最小引張応力状態を有することができるようになっており、
前記弾性手段(17)は、コイルばねを備えており、このコイルばねの一自由端は、前記ブロッキング手段(25)を支持している円筒体(19)に取り付けられており、第2の自由端は、前記予備負荷機関(29)に取り付けられており、コイルばね(17)の引張応力状態は、前記コイルばね(17)の2つの自由端の相対位置によって、定められていることを特徴とする慣性システム。
【請求項2】
前記予備負荷機関(29)は、前記弾性手段(17)の一部を受けるための、少なくとも1つの突起(37)、および/または凹部を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の慣性システム。
【請求項3】
前記予備負荷機関(29)は、前記ブロッキング手段(25)を担持している円筒体(19)に対して回動可能なフリーホイールキャップ(35)と連結していることを特徴とする、請求項1または2に記載の慣性システム。
【請求項4】
前記慣性質量体(21)は、第2の嵌め込み部分(39)を備えており、前記ブロッキング手段(25)を支持している円筒体(19)および前記慣性質量体(21)は、ブロッキング位置の方向に回転可能な状態で結合し、前記予備負荷機関(29)の一部である半径方向突起(37)および第2の嵌め込み部分(39)は、互いに寄り掛かっているときに、基準位置を定めるように構成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の慣性システム。
【請求項5】
前記慣性システムは、さらに、回転ダンパー(27)を備えており、この回転ダンパー(27)は、前記慣性質量体(21)が基準位置に戻るときに、前記弾性手段(17)の力またはトルクに抗する力、またはトルクを印加するように構成されており、前記回転ダンパー(27)は、一方で、円筒体(19)に接続されており、他方で、フリーホイールキャップ(35)に接続されていることを特徴とする、請求項4に記載の慣性システム。
【請求項6】
前記慣性質量体(21)は、付加重量を挿入することができる受け口(40)を備えていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の慣性システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の慣性システム(3)を備えていることを特徴とする車両ドアハンドル。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の慣性システムを備えている車両ドアハンドルの組立方法であって、
− 選択した予備負荷状態に応じて、前記予備負荷機関(29)を配置し、
− 定められた予備負荷状態に応じて、前記弾性手段(17)を予備負荷するように、ドアハンドル(1)に、前記予備負荷機関(29)を設置する、ことを特徴とする、車両ドアハンドルの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドアハンドルの安全装置に関し、特に、側突時に、車両のドアが偶発的に開くことを防止するための安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が側方衝突すると、ドアハンドル部材の慣性によって、ドアラッチが作動することがある。この場合の重大な危険性は、ドアが開放されることである。これは、乗員が直接外部にさらされ、また、車両に拘束されていない物体が、車外に投げ出されるおそれがあるということを意味する。
【0003】
変位防止装置を用いることは公知である。この装置の大部分は、重力加速度gの数十倍という極めて大きな加速度によって作動し、車両のドアが開放されないように、ドアハンドルをロックする。このような変位防止装置では、慣性によってブロッキング位置に移行する慣性質量体を用いるのが、最も一般的である。このブロッキング位置においては、ブロッキング手段が、ドアの開放を阻止するように、ドアラッチ機構またはドアハンドル機構と係合する。
【0004】
公知の変位防止装置は、可逆的ブロッキング装置と、不可逆的ブロッキング装置の2つに、大別することができる。可逆的ブロッキング装置には、加速度が所定値より低下すると直ちに、慣性質量体を非ブロッキング位置に戻す、ばねなどの復帰手段が用いられている。不可逆的ブロッキング装置には、慣性質量体を非ブロッキング位置に戻す手段は無く、多くの場合、衝突の後に加速度が消滅しても、ブロッキング手段を、ドアラッチ機構またはドアハンドル機構に係合させ続ける手段が、さらに設けられている。
【0005】
可逆的ブロッキング装置においては、車両が安定すると、ドアハンドルを作動させようとしている救助者等が、外部からドアを開けて、その車両の乗員を確実に引っ張り出すことができる。可逆的ブロッキング装置に伴う問題は、車両の跳ね返り、または派生的な衝撃による振動および慣性振動によって、そのブロッキング装置のブロッキング手段が、ドアハンドル機構から外れやすいということである。
【0006】
不可逆的ブロッキング装置は、衝突による衝撃を受けている間、ずっと、ドアを閉じ続けるという点では、より効果的であるが、ドアを安全に開けることができる状態に戻っても、ドアラッチやドアハンドルは、ロックされた状態にブロックされたままとなる。
【0007】
回転ダンパーによって、変位防止装置の、非ブロッキング位置への復帰だけを選択的に遅らせる減衰慣性システムでは、可逆的ブロッキングアーキテクチャーを用いている。減衰慣性システムを用いている変位防止装置においては、不可逆的ブロッキング装置と、可逆的ブロッキング装置との両方の利点が組み合わされている。衝突の際、変位防止装置は、危険を伴う期間中、ブロッキング位置にとどまり、その後に非ブロッキング位置に戻って、車両からの乗員の脱出を容易にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
慣性システムは、特定の要件や目的・趣旨規定に合致していなければならないが、これらの要件や規定は、国によって異なる場合がある。また、関連するドアハンドル部材、特に、ドアハンドルの可動部およびその重量は、車両の型によって異なる場合がある。したがって、種々の型の慣性システムを開発し、かつ流通させ、特定のドアハンドルの型専用に調整しなければならない。
【0009】
このように統一性が欠けているため、個々の慣性システムそれぞれの低価格化を実現しうるほど、大量に慣性システムを生産することはできず、さらに経費がかかってしまう。また、このため、それぞれ異なる慣性システムを、各対応車種ごとに異なる生産操業地に供給しなければならず、物流管理がますます複雑になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の欠点を少なくとも部分的に克服するために、次の要素を備えている、車両ドアハンドルの慣性システムを提供するものである。
− ドアの開放が許可されている基準位置から、ドアの開放が阻止されているブロッキング位置まで、慣性によって移動する慣性質量体と、
− 前記慣性質量体がブロッキング位置にあるときに、ドアの開放を阻止するように構成されているブロッキング手段と、
− 前記慣性質量体が基準位置にあるときに、最小引張応力状態である弾性手段であって、前記慣性質量体に、力またはトルクを印加して、前記慣性質量体を、ブロッキング位置から基準位置に戻しておくように構成されている弾性手段とを備えている、車両ドアハンドルの慣性システムであって、
前記慣性システムは、さらに、前記弾性手段と協働するための予備負荷機関を備えており、この予備負荷機関は、少なくとも2通りの予備負荷状態を有しているように構成されており、この予備負荷状態によって、前記弾性手段が、異なる最小引張応力状態を有することができるようになっていることを特徴とする慣性システム。
【0011】
予備負荷機関を用いて、弾性手段の引張応力状態を変更することによって、この慣性システムは、実装されているときに、多種多様な構造のドアハンドル、特に多種多様な構造の慣性質量体に対応可能である。
【0012】
この慣性システムは、さらに、次の特徴の1つ以上を、個別に、または組み合わせて備えている場合がある。
【0013】
前記予備負荷機関は、前記弾性手段の一部を受けるための、少なくとも1つの突起、および/または凹部を備えている。
【0014】
前記予備負荷機関は、前記ブロッキング手段を支持している円筒体に対して回動可能なフリーホイールキャップと連結している。
【0015】
前記弾性手段は、コイルばねを備えており、このコイルばねの第1の自由端は、前記ブロッキング手段を担持している円筒体に取り付けられており、第2の自由端は、前記予備負荷機関に取り付けられており、コイルばねの引張応力状態は、前記コイルばねの2つの自由端の相対位置によって、定められている。
【0016】
前記慣性質量体は、第2の嵌め込み部分を備えており、前記ブロッキング手段を支持している円筒体および前記慣性質量体は、ブロッキング位置の方向に回転結合し、前記予備負荷機関の一部、特に半径方向突起および第2の嵌め込み部分は、互いに寄り掛かっているときに、基準位置を定めるように構成されている。
【0017】
前記慣性システムは、さらに、回転ダンパーを備えており、この回転ダンパーは、前記慣性質量体が基準位置に戻るときに、前記弾性手段の力、またはトルクに抗する力またはトルクを印加するように構成されており、前記回転ダンパーは、一方で、円筒体に接続されており、他方で、フリーホイールキャップに接続されている。
【0018】
前記慣性質量体は、付加重量を挿入することができる受け口を備えている。
【0019】
本発明は、また、上記の慣性システムを備えているドアハンドルに関する。
【0020】
本発明は、さらに、上記の慣性システムを備えているドアハンドルの組立方法にも関する。この方法は、次のステップを有している。
− 選択した予備負荷状態に応じて、前記予備負荷機関を配置し、
− 定められた予備負荷状態に応じて、前記弾性手段を予備負荷するように、ドアハンドルに、前記予備負荷機関を設置する。
【0021】
特に、選択した予備負荷状態への切り替え、および予備負荷機関の設置を行う作業場所とは異なる作業場所で、慣性システムを予め組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による慣性システムを備えているドアハンドルの組立分解図である。
図2a図1の慣性システムの一実施形態の平面図である。
図2b図1の慣性システムの一実施形態の底面図である。
図3図2a、図2bの慣性システムの組立分解図である。
図4】本発明による慣性システムをより簡略化した第2の実施形態の概略図である。
図5】本発明による慣性システムの一実施形態におけるフリーホイールキャップの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付図面を参照して、以下の説明を読むことによって、本発明の他の特徴および利点が明らかになると思う。
【0024】
全ての図面において、同一の要素には、同一の符号を付してある。
【0025】
図1は、本発明による慣性システム3を備えている車両ドアハンドル1の各構成要素を示している。
【0026】
ドアハンドル1は、ブラケット7内に変位可能に取り付けられているドアレバー5を備えている。ドアレバー5は、車両のドアの外側に配置されている。ユーザは、例えばドアレバーの雁首状部分51の関節部のまわりに、ドアレバー5を回転させて操作することによって、ドアハンドル1の開操作を行う。ドアレバー5の両端には、それぞれ、雁首状部分51およびレバーコラム53が設けられている。
【0027】
ドアハンドル1は、ドアハンドル機構9を備えており、ドアハンドル機構9は、この図示の実施形態においては、主レバー11、レバーばね13(この例においては、コイルばね)、および慣性システム3を有している。
【0028】
ドアハンドル機構9は、ブラケット7の内部に組み込まれている。ユーザがドアレバー5を操作すると、レバーコラム53が、主レバー11を作動させる。それにより、主レバー11は、車両のドア側のドアラッチ機構を作動させる。
【0029】
慣性システム3の特定の一実施形態は、図2a、図2b、および図3に、より詳細に示されている。図2aは、組み立てた状態の慣性システム3の平面図であり、図2bは、この組み立てた状態の慣性システム3の底面図である。図3は、慣性システムの組立分解図である。
【0030】
慣性システム3は、回動軸としての慣性システムシャフト15、および弾性手段17(この例においては、コイルばね状のもの)を備えている。
【0031】
慣性システム3は、回転軸Rを中心として慣性システムシャフト15に枢着されている円筒体19と、2つのアーム23の遠端に設けられており、かつ回転軸Rのまわりに回動可能に、円筒体19に枢着されている、枢動可能な慣性質量体21とを有している。ドアハンドル1がブロッキング位置にあるときに、その作動を阻止するために、慣性システム3は、主レバー11および対応するドアラッチ機構の構成要素と相互に作用するブロッキング手段25を備えている。ブロッキング手段25は、この例においては、円筒体19から半径方向に突出しているピンとして示されている。
【0032】
ピン25は、例えば、円筒体19の変位の際に、ドアラッチ機構の構成要素、例えばドアラッチ機構のロッドの並進運動を阻止するスリットなどに挿入することによって、作用させることができる。代替例として、ピン25は、歯車の回転を阻止することによって、その歯車の動作を妨げてもよい。上述の実施形態においては、ピン25は、慣性質量体21がブロッキング位置にあるときに、主レバー11の回転を阻止することによって、主レバー11の変位を阻止する。
【0033】
これによって、慣性質量体21の2つの位置、すなわち、基準位置とブロッキング位置とを区別することができる。基準位置においては、ドアの開放が許可されており、非作動時に、慣性質量体21が基準位置に戻る。ブロッキング位置においては、ドアの開放が阻止されており、衝突発生時に、慣性力によって、慣性質量体21がブロッキング位置に移動する。
【0034】
慣性システムは、また、弾性手段17の力やトルクに抗する力やトルクを加えることによって、枢動慣性質量体21の基準位置への復帰を緩慢にするように構成されているダンパー27(円筒体19内に組み込まれているので、図2a、図2bでは見えないが、図3では見える)と、枢動慣性質量体21の位置とは無関係に、弾性手段17の負荷を調整することによって、弾性手段17と協働するための予備負荷機関29とを備えている。
【0035】
ダンパー27は、例えば、トルクや力を生じる2つの部分の摩擦に基づく摩擦ダンパーでもよいし、あるいは、トルクや力を生じる流体の流動学的循環に基づく流体循環ダンパーでもよい。
【0036】
図3に示すように、ダンパー27は、摩擦管41を備えており、この摩擦管41は、円筒体19に挿入されているときには、円筒体19の内壁に摩擦接触して、ダンパーの固定部を形成しており、円筒体19は、可動部を形成している。接触面の材料は、所望の摩擦係数および挙動に応じて、選択することができる。
【0037】
予備負荷機関29(図3においても、よく見える)は、上述のフリーホイールキャップ35、フリーホイールローター43、およびフリーホイールシリンダー45を備えている。フリーホイールローター43は、特に、最小の摩擦力で、フリーホイールシリンダー45を、許容回転方向(ブロッキング位置の方向)に転動させて、フリーホイールキャップ35の内壁に当接させるとともに、フリーホイールシリンダー45を、半径方向外方に押圧して、該内壁に押し付けることによって、摩擦接触させて他方向に回転させないような形状である(フリーホイールブロッキング機構として知られている)。
【0038】
フリーホイールローター43は、この例においては、フリーホイールローター43の、合致する形状の孔に挿入されている、摩擦管41の一端の軸方向ロッドによって、摩擦管41に固定されている。
【0039】
他の一方向ブロッキング機構、例えばラチェット機構ブロッカーなどを用いてもよい。
【0040】
弾性手段17は、例えば、車両が、側面衝撃による側方加速度を受けているときに、慣性力によって、慣性質量体21がブロッキング位置に移動したときに、引張応力を受けることによって、弾性位置エネルギーを蓄積する。コイルばねの場合、引張応力状態は、コイルばね17の2つの自由端の相対位置、すなわち、回転状態であるか(ねじりコイルばねの場合)、または圧縮/伸長状態であるか(直線状コイルばねの場合)ということ、と結びついている。
【0041】
前述したように、回転慣性システム3の円筒体19を囲んでいるコイルばね17の場合、弾性位置エネルギーは、慣性システム3が基準位置にあるときの最小引張応力状態から始まるコイルばね17のねじれによって、蓄積されている。特に、コイルばね17は、慣性質量体21を基準位置に戻す力やトルクを生じることによって、蓄積された弾性位置エネルギーを消散させる。
【0042】
枢動慣性質量体21および円筒体19は、2つの嵌め込み部分31、33を備えており、それぞれ、慣性質量体21および円筒体19に設けられている。枢動慣性質量体21の基準位置においては、2つの嵌め込み部分31、33は、互いに寄り掛かっている。この基準位置から、枢動慣性質量体21が、ブロッキング位置の方向に変位すると、慣性質量体21の嵌め込み部分31が、円筒体19の嵌め込み部分33を押すので、円筒体19がブロッキング位置に移動し、その結果、ブロッキング手段25がブロッキング位置に移動する。他方向においては、嵌め込み部分31、33は分離しており、枢動慣性質量体21の変位は、円筒体19の変位から独立している。
【0043】
2つの嵌め込み部分31、33によって、円筒体19および枢動慣性質量体21の回動のブロッキング位置の方向の選択的な結合が可能になる。
【0044】
これは、特に、慣性質量体21を基準位置に戻す慣性力やトルクが、間接的に、円筒体19を基準位置に戻さないようにするためのものである。円筒体19は、弾性手段17およびダンパー27の力やトルクを受けるだけなので、基準位置に緩慢に戻る。
【0045】
したがって、衝突の衝撃がまだ発生している間に、減衰慣性システム3を、上記とは違ったふうに、基準位置に戻すおそれがある派生的な跳ね返り(樹木や板張り道に当たった跳ね返り、または車両の転倒による跳ね返り)によって生じる力やトルクは、慣性質量体21にのみ作用し、ブロッキング手段25を支持している円筒体19には作用しない。
【0046】
予備負荷機関29のフリーホイールキャップ35は、半径方向突起37を備えている。
【0047】
半径方向突起37は、これに対応する、枢動慣性質量体21の第2の嵌め込み部分39と組み合っている。半径方向突起37および第2の嵌め込み部分39は、互いに寄り掛かっているときに、フリーホイールキャップ35に対する枢動慣性質量体21の基準位置を定めているので、フリーホイールキャップが、取り付けられた状態で、固着されているブラケット7に対する慣性質量体21の基準位置を定めている。
【0048】
コイルばね17の第1の自由端171は、嵌め込み部分33に係着することによって、円筒体19に取り付けられており、同じく第2の自由端173は、半径方向突起37に係着することによって、フリーホイールキャップ35に取り付けられている。代替例として、予備負荷機関29、特にそのフリーホイールキャップ35は、切込みを有していてもよく、より一般的には、突起37の代わりに、または突起37に加えて、弾性手段の一部、例えば自由端173を受けるための凹部を備えていてもよい。
【0049】
このため、円筒体19に対するフリーホイールキャップ35の回転位置によって、コイルばね17の引張応力状態が定められている。したがって、特に、コイルばね17は、円筒体19を相対ゼロ位置に移動させやすい力やトルクを生じる。この相対ゼロ位置において、コイルばね17の引張応力は、設計上、予備負荷状態である。
【0050】
しかしながら、枢動慣性質量体21の2つの嵌め込み部分31および39の存在によって、基準位置のときの一方向の回転とともに、約360度(完全回転)より大きい角度の回転が許可されないので、枢動慣性質量体21の嵌め込み部分31、39が、円筒体19の嵌め込み部分33および半径方向突起37にぶつかるまで、基準位置からブロッキング位置の方向に延在している最大使用角度領域が定められている。
【0051】
枢動慣性質量体21がないときに、円筒体19は、特に整数の完全回転数だけ、自由に回転することができる。したがって、枢動慣性質量体21を実装しているときの、嵌め込み部分31、33、39および半径方向突起37の存在による基準位置は、整数の回転数を法として、定義される。
【0052】
このような回転数は、慣性質量体21、円筒体19、および予備負荷機関29が相対基準位置にあるときの、弾性手段17の最小引張応力に相当する。回転数を増やすことによって、最小引張応力状態は高くなり、一方、回転数を減らすことによって、最小引張応力状態は低くなる。
【0053】
上記で説明したように、慣性質量体21がブロッキング位置の方向に変位することによって、弾性手段17は、弾性位置エネルギーを、引張応力として蓄積し、弾性手段17は、慣性質量体21が基準位置にあるときに、最小引張応力状態である。弾性手段17は、最小引張応力状態に戻ることによって、慣性質量体21を基準位置に戻す。
【0054】
基準位置の引張応力が高くなるほど、変位時に、弾性手段17が円筒体19に印加するトルクや力が高くなる。このようにトルクや力が高くなるにつれて、慣性質量体21が基準位置に速く戻る。
【0055】
予備負荷機関29は、この例においては、最小引張応力状態の整数の回転数に対応する種々の予備負荷状態間で切り替え可能である。異なる予備負荷状態において、弾性手段17の負荷は、慣性質量体21の同じ位置で、異なる。特に、基準位置のときの最小引張応力状態は、変更される。
【0056】
このように、慣性質量体21が、基準位置に戻ることにより、ドアラッチ機構とともに、ブラケットの運動を自由にするのにかかる時間を調整することによって、衝突発生時に、慣性システム3が置かれるロック状態の持続時間を調整することができる。
【0057】
さらに、慣性質量体21にドリルやミルで開口されている受け口40の存在によって、慣性システムの特性を調整することができる。特に、特定の重量のピン(図示せず)を受け口40に挿入して、慣性質量体21の重量を調整することができる。代替例として、凝固物質、最初は液状の物質、または軟物質を、受け口40に注入した後、その内部を硬化させることができる。
【0058】
図4は、本発明による予備負荷機関29を備えている非減衰可逆的慣性システムの実施形態を示している。この実施形態においては、慣性システム3は、ブロッキング手段25を担持している円筒体19、慣性質量体21、およびアーム23を備えており、これらは、互いに固定されており、一体に形成されている場合もある。
【0059】
予備負荷機関29は、円筒体19に対して回動可能なフリーホイールキャップ35を備えており、フリーホイールキャップ35は、取り付けられた状態で、ブラケットに固定されている。フリーホイールキャップ35は、半径方向突起37を備えており、慣性質量体21は、第2の嵌め込み部分39を備えている。基準位置においては、半径方向突起37および第2の嵌め込み部分39は、互いに寄り掛かっており、到達可能領域を、完全回転(360度)より小さい開き角に制限している。
【0060】
弾性手段は、この例においては、円筒体19を囲んでいるねじりコイルばね17を備えており、コイルばね17の一自由端171は、アーム23に係着されていることによって、円筒体19に取り付けられており、第2の自由端173は、半径方向突起37に係着されていることによって、フリーホイールキャップ35に取り付けられている。
【0061】
この実施形態においては、フリーホイールキャップ35を挿入するときに、弾性手段17の予備負荷を行う。半径方向突起37および第2の嵌め込み部分39が組み合わずに、基準位置に達する回転を停止させる相対位置に、慣性質量体21およびフリーホイールキャップ35をとどまらせながら、フリーホイールキャップ35は、円筒体19に対して、整数の回転数だけ回転する。実装時には、フリーホイールキャップ35は、ブラケット7に固定されており、半径方向突起37および第2の嵌め込み部分39が組み合って、基準位置に達する回動を停止させる相対位置に置かれている。
【0062】
回転数によって、弾性手段17の最小引張応力状態が定められている。なぜならば、半径方向突起37および第2の嵌め込み部分39は、円筒体19が、360度より小さい所定の角度を超えて回転するのを阻止することにより、すべての引張応力の解除を防ぐからである。
【0063】
この実施形態は、特に、図2a、図2b、および図3の実施形態より、簡略化され、安価であると考えられるが、減衰されず、また、慣性質量体21と円筒体19との結合を選択的に解除することもできない。
【0064】
図5は、図1図2a、図2b、および図3のフリーホイールキャップ35の代替例の設計を示しており、このフリーホイールキャップ35は、いくつかの半径方向突起37を備えている。これらの半径方向突起は、慣性質量体21の回転軸Rを中心とした円弧に沿って、等間隔に配置されている。弾性手段17の自由端は、特に、突起37の1つに、選択的に取り付けられており、慣性質量体21の同じ位置で、弾性手段17の所定の引張応力状態を得る。
【0065】
図示の実施形態においては、3つの突起37が、約60度の円弧上に、等間隔に配置されている。コイルばね17の巻かれている方向に従って、3つの突起は、それぞれ、低引張応力状態、中引張応力状態、および高引張応力状態に対応する。
【0066】
予備負荷機関29の存在によって、慣性システム3を製造して、少なくとも部分的に組み立てた後に、慣性質量体21が基準位置に戻るタイミングを、より正確に調整することができる。
【0067】
したがって、1つの型の慣性システム3を調整することによって、それぞれ異なる型のドアハンドル1を、ドアレバー5のワイドパネルの重量および形状に合わせることができる。
【0068】
さらに、図1図2a、図2b、および図3の実施形態において、慣性システム3は、コンパクトな装置である。特に、ブラケット7への慣性システム3の最終的な実装を行う作業場所とは異なる作業場所で、慣性システム3の組立および調整を行うことができる。特に、組み立てられ、調整された状態の慣性システム3は、例えば予備負荷を行うために、容易に取り扱うことができるコンパクトな装置であるので、ある作業場所から他の作業場所へ搬送することができる。
【0069】
したがって、前述のように、慣性システム3を備えている車両ドアハンドル1の組立は、さらに、ブロッキング手段25の基準位置復帰時間および係合時間を許容する、弾性手段17の必要な引張応力状態になるように、予備負荷機関の突起37を設定する工程を含んでいる。
【0070】
このような予備負荷機関の突起37を設定する工程は、図2a、図2b、および図3の実施形態の場合、慣性質量体21の枢着の直前に、より一般的には、慣性システム3をドアのブラケット7に取り付ける直前に、優先的に行われる。特に、同じ型の慣性システム3を予め組み立てた後、それぞれ異なるブラケット7の製造者に出荷することができ、製造者は、それぞれ、慣性システム3の設定を行って、慣性システム3の必要な挙動、および最終組立に合わせることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ドアハンドル
3 慣性システム
5 ドアレバー
7 ブラケット
9 ドアハンドル機構
11 主レバー
13 レバーばね
15 慣性システムシャフト
17 コイルばね(弾性手段)
19 円筒体
21 慣性質量体
23 アーム
25 ピン(ブロッキング手段)
27 ダンパー
29 予備負荷機関
31、33 嵌め込み部分
35 フリーホイールキャップ
37 突起
39 第2の嵌め込み部分
40 受け口
41 摩擦管
43 フリーホイールローター
45 フリーホイールシリンダー
51 雁首状部分
53 レバーコラム
171 自由端
173 第2の自由端
R 回転軸
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5