特許第6528041号(P6528041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6528041
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】NMRプローブ
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20190531BHJP
【FI】
   G01N24/00 570H
   G01N24/00 560F
   G01N24/00 560G
   G01N24/00 580F
【請求項の数】9
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2015-22651(P2015-22651)
(22)【出願日】2015年2月6日
(65)【公開番号】特開2016-145747(P2016-145747A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2017年11月17日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人科学技術振興機構「検出系冷却型−固体高分解能NMRプローブの実用化開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬
(72)【発明者】
【氏名】竹腰 清乃理
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 耕治
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−501222(JP,A)
【文献】 特開2006−337107(JP,A)
【文献】 特開2000−028696(JP,A)
【文献】 特開2004−286695(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0171426(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00−24/14
G01R 33/20−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外容器と、
前記外容器内に設けられ、前記外容器の内部を主空間と通路としての副空間とに仕切る内容器と、
前記主空間内に配置され、NMR検出素子を含む基本電子回路と、
前記基本電子回路の特性を変更する特性変更時に、前記副空間内に挿抜可能に配置される部材であって、前記副空間内に配置された状態で前記基本電子回路に電気的に接続される少なくとも1つの追加素子を有する追加部材と、
前記副空間の出入口に設けられ、前記出入口を開閉するための栓と、
前記副空間内における前記追加部材の保持位置と前記出入口との間に設けられ、前記副空間の途中を開閉するゲートと、
を含み、
前記ゲートは、その閉状態において、前記副空間を、前記保持位置を有する第1空間と前記出入口側の第2空間と、に区分けする、
ことを特徴とするNMRプローブ。
【請求項2】
請求項1に記載のNMRプローブにおいて、
前記主空間は気密空間として構成され、
前記基本電子回路と前記追加部材とを冷却する冷却機構を更に含む、
ことを特徴とするNMRプローブ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のNMRプローブにおいて、
前記第1空間内を吸引する第1吸引手段と、
前記第2空間内を吸引する第2吸引手段と、を更に含む、
ことを特徴とするNMRプローブ。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のNMRプローブにおいて、
前記追加部材は、本体部、一方側電極及び他方側電極を含み、
当該NMRプローブは、
前記追加部材が前記副空間内の保持位置に設置された状態で、前記一方側電極を前記基本電子回路の第1接続点に接続する一方側接続部材と、
前記追加部材が前記保持位置に設置された状態で、前記他方側電極を前記基本電子回路の第2接続点に接続する他方側接続部材と、を更に含む、
ことを特徴とするNMRプローブ。
【請求項5】
NMRプローブにおいて、
外容器と、
前記外容器内に設けられ、前記外容器の内部を主空間と通路としての副空間とに仕切る内容器と、
前記主空間内に配置され、NMR検出素子を含む基本電子回路と、
前記基本電子回路の特性を変更する特性変更時に、前記副空間内に挿抜可能に配置される部材であって、前記副空間内に配置された状態で前記基本電子回路に電気的に接続される少なくとも1つの追加素子を有する追加部材と、
を含み、
前記追加部材は、本体部、一方側電極及び他方側電極を含み、
当該NMRプローブは、
前記追加部材が前記副空間内の保持位置に設置された状態で、前記一方側電極を前記基本電子回路の第1接続点に接続する一方側接続部材と、
前記追加部材が前記保持位置に設置された状態で、前記他方側電極を前記基本電子回路の第2接続点に接続する他方側接続部材と、を更に含む、
ことを特徴とするNMRプローブ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のNMRプローブにおいて、
前記追加部材が前記副空間内に挿入された状態で、前記副空間内での前記追加部材の移動を許容しつつ、前記副空間の出入口を塞ぐ栓を更に含む、
ことを特徴とするNMRプローブ。
【請求項7】
外容器と、
前記外容器内に設けられ、前記外容器の内部を主空間と通路としての副空間とに仕切る内容器と、
前記主空間内に配置され、NMR検出素子を含む基本電子回路と、
前記基本電子回路の特性を変更する特性変更時に、前記副空間内に挿抜可能に配置される部材であって、前記副空間内に配置された状態で前記基本電子回路に電気的に接続される少なくとも1つの追加素子を有する追加部材と、
前記追加部材が前記副空間内に挿入された状態で、前記副空間内での前記追加部材の移動を許容しつつ、前記副空間の出入口を塞ぐ栓と、
を含むことを特徴とするNMRプローブ。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のNMRプローブにおいて、
当該NMRプローブは、複数の前記内容器を含み、
複数の前記内容器によって複数の前記副空間が形成され、
複数の前記副空間内のそれぞれに、前記追加部材が挿抜可能に配置される、
ことを特徴とするNMRプローブ。
【請求項9】
NMRプローブにおいて、
外容器と、
前記外容器内に設けられ、前記外容器の内部を主空間と通路としての副空間とに仕切る内容器と、
前記主空間内に配置され、NMR検出素子を含む基本電子回路と、
前記基本電子回路の特性を変更する特性変更時に、前記副空間内に挿抜可能に配置される部材であって、前記副空間内に配置された状態で前記基本電子回路に電気的に接続される少なくとも1つの追加素子を有する追加部材と、
を含み、
当該NMRプローブは、複数の前記内容器を含み、
複数の前記内容器によって複数の前記副空間が形成され、
複数の前記副空間内のそれぞれに、前記追加部材が挿抜可能に配置される、
ことを特徴とするNMRプローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMRプローブに関し、特に、NMRプローブ内における電子回路の特性を変更する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴装置(NMR装置)においては、静磁場を生じさせる超伝導磁石内に試料とともにNMRプローブ(NMR信号検出用プローブ)が配置される。NMRプローブは、送受信コイルを備えている。送受信コイルは、送信時には試料に対して変動磁場を与え、受信時には試料のNMR信号を検出する機能を有する。観測対象となる核種によって共鳴周波数が異なるので、試料測定の際には、観測対象となった核種に適合する周波数をもった高周波信号が送受信コイルに与えられる。一般に、NMRプローブ内の検出回路は、送受信コイルの他に、同調用の可変コンデンサ及び整合用の可変コンデンサ等を含む。つまり、検出回路は、同調回路及び整合回路を備えている。
【0003】
試料測定に先立って、検出回路に対するチューニング(動作条件の調整)が実施される。すなわち、同調と整合とが実施される。同調及び整合を行うために、送信側から検出回路までの信号経路上に方向性結合器が設けられ、検出回路から送信側へ戻る反射波が観測される。同調の崩れ度合い及び不整合の度合いに応じて、反射波のレベルが変化する。従って、反射波のレベルを参照しながら、同調用可変コンデンサ及び整合用可変コンデンサの各設定値(容量)を変化させることにより、検出回路の共振周波数が観測対象の核種に対応する共鳴周波数に適合され、検出回路のインピーダンスが送信側におけるインピーダンスに整合される。
【0004】
検出回路の同調及び整合を最適化できる周波数範囲(チューニングレンジ)は、可変コンデンサの容量の範囲によって制限され、測定可能な核種も、そのチューニングレンジに含まれる共振周波数をもつ核種に制限される。例えば、100MHz〜120MHzのチューニングレンジをもつ検出回路においては、その周波数範囲に含まれる共振周波数をもつ核種のみが測定可能ということになる。
【0005】
検出回路のチューニングレンジを変更するための技術として、特許文献1には、容量の異なる複数のコンデンサが固定されたコンデンサスイッチが開示されている(FIG.3A〜3C,4A〜4H及びTABLE1参照)。このコンデンサスイッチはNMRプローブ内に設置されており、コンデンサスイッチをスライドさせることにより、検出回路に接続されるコンデンサを切り替えることができるようになっている。これにより、検出回路に含まれるコンデンサの容量が変更され、その結果、チューニングレンジが変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,701,219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された手法では、限られた個数のコンデンサを用いてチューニングレンジを変更しているため、対応可能なチューニングレンジに限界がある。例えば、チューニングレンジを連続的に変更することができず、チューニングレンジが離散的に設定されてしまうという問題が生じ得る。観測対象が有機物であれば、観測対象の核種の種類は多くない。従って、その核種の数に応じた個数のコンデンサを予め用意しておくことで、観測対象の核種に応じたチューニングレンジを設定することができる。しかし、観測対象の核種の種類が増大すると、特許文献1に記載された手法では、その種類の多さに対応しきれない。例えば、無機物では核種の種類が多いため、限られた個数のコンデンサを切り替える手法では、観測対象の核種に応じたチューニングレンジを設定することができない場合が生じる。また、試料の誘電率によっては、同じ核種であってもチューニングレンジが異なる場合がある。これに対処するために、特許文献1に記載されたコンデンサスイッチにおいて、切り替え可能なコンデンサの個数を増やすことが考えられる。しかし、コンデンサの個数を増やすほど、コンデンサを収容するNMRプローブのサイズが増大する問題が生じる。また、より多くの核種に対応しようとすると、設置すべきコンデンサの個数が膨大となり、現実的ではない。このように、限られた個数のコンデンサを用いる手法では、任意の核種に応じたチューニングレンジを設定することは困難である。
【0008】
上記のように、観測対象の核種に応じて、より柔軟にチューニングレンジを変更できることが望ましい。また、チューニングレンジに限らず、NMRプローブ内に設置されている電子回路の特性を柔軟に変更できることが望ましい。その際、NMRプローブ内に設置されている電子回路の周辺環境が維持された状態で、チューニングレンジ等の電子回路特性の変更がなされることが望ましい。例えば、冷却型NMRプローブであれば、電子回路の周辺環境の冷却状態が維持された状態で、電子回路特性が変更されることが望ましい。また、NMRプローブ内が真空に維持されているのであれば、電子回路の周辺環境の真空が維持された状態で、電子回路特性が変更されることが望ましい。
【0009】
本発明の目的は、NMRプローブ内に設置された電子回路の周辺環境ができるだけ維持された状態で、その電子回路の特性を事後的に自在に変更できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るNMRプローブは、外容器と、前記外容器内に設けられ、前記外容器の内部を主空間と通路としての副空間とに仕切る内容器と、前記主空間内に配置され、NMR検出素子を含む基本電子回路と、前記基本電子回路の特性を変更する特性変更時に、前記副空間内に挿抜可能に配置される部材であって、前記副空間内に配置された状態で前記基本電子回路に電気的に接続される少なくとも1つの追加素子を有する追加部材と、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成においては、内容器によって外容器内に主空間と副空間とが形成され、これにより、NMRプローブ内に二重構造が形成される。基本電子回路は主空間に配置され、追加部材は副空間内に配置される。二重構造によって、主空間が副空間から空間的に隔離されるので、副空間内に追加部材が差し込まれ、又は、副空間内から追加部材が取り出されても、主空間の環境、つまり、基本電子回路の周辺環境は、基本的に影響を受けずに済む。このように、上記構成によると、基本電子回路の周辺環境を維持した状態で、追加部材を追加又は取り出してNMR検出用の電子回路の特性を変更することが可能となる。追加部材の挿抜の影響を受けて電子回路の特性が不用意に大きく変動してしまい、元に戻るまでに長時間を要する、という問題を回避又は軽減できる。
【0012】
NMR検出素子は例えば送受信コイルであり、基本電子回路は、例えば同調回路と整合回路とを備えた検出回路である。この場合において、追加部材に含まれる追加素子として、例えばコンデンサが用いられる。これにより、検出回路が有する容量(キャパシタ)の大きさを変更することが可能となる。例えば、検出回路のチューニングレンジを変更することができる。もちろん、追加部材に含まれる追加素子はコンデンサに限られるものではない。追加部材に含まれる追加素子として、コンデンサ等の受動素子に限らず、能動素子が用いられてもよい。
【0013】
望ましくは、前記主空間は気密空間として構成され、前記基本電子回路と前記追加部材とを冷却する冷却機構が更に含まれる。この構成では、基本電子回路が冷却される。主空間は副空間から隔離されているため、追加部材が差し込まれ又は取り出されても、基本電子回路の冷却状態は基本的に維持される。また、基本電子回路の周辺環境の気密性も維持される。
【0014】
望ましくは、前記副空間の出入口に設けられ、前記出入口を開閉するための栓と、前記副空間内における前記追加部材の保持位置と前記出入口との間に設けられ、前記副空間の途中を開閉するゲートと、が更に含まれ、前記ゲートは、その閉状態において、前記副空間を、前記保持位置を有する第1空間と前記出入口側の第2空間と、に区分けする。この構成では、副空間はゲートによって第1空間と第2空間とに分離される。それ故、ゲートが閉じられた状態で栓が外されると、第2空間は大気に開放される。このとき、ゲートが閉じられているため、第1空間は大気に開放されない。このように、副空間が部分的に大気に開放されることになる。これにより、追加部材が配置される第1空間に、大気が直接流入するのを回避することができる。例えば、第1空間が真空に維持されている場合、その真空状態を維持することが可能となる。
【0015】
望ましくは、前記第1空間内を吸引する第1吸引手段と、前記第2空間内を吸引する第2吸引手段と、が更に含まれる。この構成によると、第1空間の真空を維持した状態で、基本電子回路の特性を変更することが可能となる。
【0016】
望ましくは、前記追加部材は、本体部、一方側電極及び他方側電極を含み、当該NMRプローブは、前記追加部材が前記副空間内の保持位置に設置された状態で、前記一方側電極を前記基本電子回路の第1接続点に接続する一方側接続部材と、前記追加部材が前記保持位置に設置された状態で、前記他方側電極を前記基本電子回路の第2接続点に接続する他方側接続部材と、を更に含む。この構成によると、追加部材が保持位置にセットされると、それと同時に、追加部材と基本電子回路とが結線される。また、追加部材が抜き取られると、それと同時に、追加部材が基本電子回路から切り離され、非接続状態が実現される。
【0017】
望ましくは、前記追加部材が前記副空間内に挿入された状態で、前記副空間内での前記追加部材の移動を許容しつつ、前記副空間の出入口を塞ぐ栓が更に含まれる。この構成によると、追加部材を副空間内に挿入する際に、副空間が大気から遮断される。これにより、追加部材の挿入時においても、例えば、副空間を減圧して真空状態を実現することが可能となる。
【0018】
望ましくは、当該NMRプローブは、複数の前記内容器を含み、複数の前記内容器によって複数の前記副空間が形成され、複数の前記副空間内のそれぞれに、前記追加部材が挿抜可能に配置される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、NMRプローブ内に設置された電子回路の周辺環境ができるだけ維持された状態で、その電子回路の特性を事後的に自在に変更することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係るNMRプローブを示す断面図である。
図2】追加部材を含む追加部材輸送ユニットの一例を示す断面図である。
図3】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図4】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図5】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図6】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図7】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図8】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図9】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図10】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図11】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図12】第1実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図13】第1実施形態に係るタンク回路の電気回路図である。
図14】第2実施形態に係るNMRプローブの断面図である。
図15】第2実施形態に係るタンク回路の電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
図1には、第1実施形態に係るNMRプローブ(検出系冷却型NMRプローブ)が示されている。このNMRプローブは、例えば試料について分子構造を解析する際に用いられる。本実施形態では、試料は、固体、気体及び液体のいずれであってもよい。
【0022】
第1実施形態に係るNMRプローブは、挿入部10と下部ユニット11とによって構成される。挿入部10は、それ全体として垂直方向に伸長した円筒形状を有し、静磁場発生装置150のボア152内に挿入される。NMRプローブは、外容器12と、外容器12内に設けられた内容器(筒身50を含む容器)と、送受信コイル32を備えたタンク回路(検出回路)とを含む。外容器12内の空間は、内容器によって主気密室100と副気密室(上気密室102及び下気密室104)とに仕切られる。これにより、外容器12内に二重構造が形成される。主気密室100にはタンク回路が設置され、上気密室102には、タンク回路の特性を変更するための追加部材が設置される。以下、NMRプローブの各部について説明する。
【0023】
外容器12は、プローブヘッド隔壁14と、プローブ円筒部隔壁16と、プローブ下部隔壁18と、を含む容器である。主気密室100は、外容器12と主バルブ24とによって囲まれた空間である。主気密室100内は真空状態であり、その外部は大気圧状態にある。主気密室100内は、例えば10−3Pa以下に減圧される。
【0024】
プローブヘッド隔壁14の上部には、プローブキャップ20が設けられている。プローブキャップ20は、挿入部10の最上部に設けられた円筒状の部材である。プローブキャップ20は、一例として金属導体(例えばアルミニウム)によって構成されている。プローブキャップ20は、その下部において、プローブ円筒部隔壁16と電気的及び機械的に接続されている。これにより、送受信コイル32に対する外来雑音等の電磁波の影響が防止又は低減される。一例として、プローブキャップ20とプローブ円筒部隔壁16との接続は気密性を有していない。よって、プローブキャップ20とプローブヘッド隔壁14とによって囲まれた空間106は、大気空間となる。
【0025】
プローブヘッド隔壁14は、送受信コイル32を大気空間から隔離し、挿入部10の上部の気密性を確保する部材である。プローブヘッド隔壁14は、例えば複合部材によって構成されている。プローブヘッド隔壁14は、一例として、絶縁物であるGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)又はセラミックによって構成されている。プローブヘッド隔壁14は、その下端面で、プローブ円筒部隔壁16と気密的に接続されている。
【0026】
プローブ円筒部隔壁16は、例えば円筒形状の隔壁である。挿入部10が静磁場発生装置150のボア152内に装着されたときに、プローブ円筒部隔壁16は、外部からアクセス可能な位置には設置されない。プローブ円筒部隔壁16は、その上端面でプローブヘッド隔壁14と気密的に接続されており、その下端面でプローブ下部隔壁18と気密的に接続されている。
【0027】
プローブ下部隔壁18は、例えば箱状の隔壁である。挿入部10が静磁場発生装置150のボア152内に装着されたときに、プローブ下部隔壁18は、外部からアクセス可能な位置に設置される。プローブ下部隔壁18は、その上端面でプローブ円筒部隔壁16と気密的に接続されている。
【0028】
主真空ポート22は、プローブ下部隔壁18に設けられている。主真空ポート22には、真空ポンプ等の減圧ラインが取り付けられる。
【0029】
主バルブ24は、主真空ポート22に接続された真空ポンプ等の減圧ラインと、主気密室100と、の間に設置されたバルブである。主バルブ24は、一例として2ポート式の手動バルブである。もちろん、主バルブ24は、それ以外のバルブであってもよい。主バルブ24を操作することによって、主気密室100と減圧ラインとを通気的に結合又は遮断することができる。なお、真空ポンプには、例えばターボ分子ポンプが用いられる。
【0030】
主気密室100の上部にはタンク回路が設けられている。このタンク回路は検出回路であり、送受信コイル32の他、同調用の可変コンデンサ及び整合用の可変コンデンサ等を含む。つまり、タンク回路は同調回路及び整合回路を備えている。第1実施形態では、タンク回路は、送受信コイル32、チューニング用可変コンデンサ34、バランス用可変コンデンサ36、及び、マッチング用可変コンデンサ38を含む。例えば、同調回路及び整合回路は独立しておらず、一方の動作条件を変化させると他方の動作条件が変化する関係にある。以下、タンク回路の構成について説明する。
【0031】
送受信コイル32は、送信時において変動磁場を発生させ、受信時において試料のNMR信号を検出する。送受信コイル32に代えて、別体化された送信用コイル及び受信用コイルが設けられてもよい。後述するように、タンク回路は、同調用可変コンデンサ及び整合用可変コンデンサを有しており、それらの容量を変化させることにより、検出回路の動作特定が最適化される。つまり、周波数同調及びインピーダンス整合が図られる。
【0032】
試料及び試料管30の中心が磁場中心に一致するように、挿入部10が静磁場発生装置150のボア152内に設置される。試料及び試料管30は、プローブキャップ20とプローブヘッド隔壁14とによって囲まれた空間106内(大気空間内)に設置される。測定対象となる試料が固体の場合、試料管30は、所定の傾斜角度(いわゆるマジック角、すなわち約54.7°)をもった傾斜姿勢で回転可能に配置される。NMRプローブ内には、図示しない空気軸受式回転機構が設けられる。この空気軸受式回転機構に圧縮空気(例えば圧力が0.2〜0.4MPa)を供給することにより、試料管30が回転させられる。一例として、数〜数十kHzの回転数で回転させられる。もちろん、気体又は液体が試料であってもよい。
【0033】
送受信コイル32は、試料及び試料管30を取り囲むように、減圧真空下の主気密室100内に配置されている。送受信コイル32は、例えばソレノイド状の形状を有する。送受信コイル32の一方端は、チューニング用可変コンデンサ34の上端子に電気的に接続されている。送受信コイル32の他方端は、バランス用可変コンデンサ36の上端子に電気的に接続されている。
【0034】
チューニング用可変コンデンサ34の上端子は、マッチング用可変コンデンサ38の上端子に電気的に接続されている。マッチング用可変コンデンサ38の下端子は、伝送線路40の上端に電気的に接続されている。伝送線路40は、例えば同軸ケーブルによって構成されている。
【0035】
チューニング用可変コンデンサ34、バランス用可変コンデンサ36、及び、マッチング用可変コンデンサ38は、例えば、円筒形状の誘電体によって構成されており、上端及び下端に電極を有する。その円筒の内側空間には、部材温度が室温から極低温まで変化しても、回転により上下摺動する金属円筒が設けられている。この金属円筒は、電気的に下端の電極と繋がっている。可変コンデンサとして、例えば、Voltronics社のコンデンサ「NMCB10-5CKE」を使用することができる。もちろん、これら3つの可変コンデンサは、上記以外の構成を備えていてもよい。
【0036】
チューニング用可変コンデンサ34、及び、バランス用可変コンデンサ36は、ともに下端子において、ステージ42に対して電気的に接続されながら機械的に支持されて固定されている。マッチング用可変コンデンサ38は、絶縁台44を挟んでステージ42に対して電気的に絶縁されながら機械的に支持されて固定されている。図示しない調整棒を用いることによって、NMRプローブの外部から、3つの可変コンデンサの設定値(容量)を連続的に変更することができる。これにより、周波数同調及びインピーダンス整合が図られる。
【0037】
次に、内容器の構成について説明する。第1実施形態では、内容器は単筒身系の構成を有する。内容器は外容器12内に設けられ、主気密室100の底部から、主気密室100の上部に位置するタンク回路の付近にまで及ぶ。
【0038】
内容器の内部には、主気密室100から独立に存在する副気密室が形成されている。このように、内容器は、外容器12の内部を主気密室100と副気密室とに仕切る容器である。
【0039】
副気密室は、後述する追加部材(被交換要素)を、NMRプローブの外部(大気空間)からNMRプローブ内に移送して設置するための空間(通路)である。副気密室は、バルブ等によって、上気密室102と下気密室104とに分離される。
【0040】
内容器は、3つの部材グループ(上部隔壁、中部隔壁及び下部隔壁)を含む。下部隔壁は、プローブ下部隔壁18の内側の上方に設置されて固定されている。中部隔壁は、下部隔壁の上方に設置されて固定されている。上部隔壁は、中部隔壁の上方に設置されて固定されている。各部材グループは、相互にOリングシール(図1中、黒色で塗り潰された部分)を介して接続又は固定されている。中部隔壁及び下部隔壁は、下気密室104の隔壁を構成している。上部隔壁及び中部隔壁は、上気密室102の隔壁を構成している。以下、上部隔壁、中部隔壁及び下部隔壁の各構成について説明する。
【0041】
まず、上部隔壁について説明する。上部隔壁は、筒身50、上リンク62、 下リンク64、上通気管66及び上バルブ68を含む。上部隔壁は、上気密室102を主気密室100から通気的に遮断する。
【0042】
筒身50は、ほぼ同一の内径を有する円筒形状の複数の部材(上から下に順に、トップ端子受具52、上絶縁管54、ボトム端子受具56、下絶縁管58、上シリンダ60)が重ねられて一体化された複合部材である。筒身50は、その内側に、上端が閉じられ下端が開放された円柱状の空間を有する。この空間が上気密室102に対応する。この円柱状の空間(上気密室102)は、ほぼ一定の直径を有する。この空間の直径は、後述する追加部材の外径よりもわずかに大きい。これにより、追加部材が上気密室102内を移動することが可能となる。筒身50は、NMRプローブの外部から挿入された追加部材を機械的に保持し、追加部材をタンク回路に対して電気的に接続する機能を備えている。
【0043】
トップ端子受具52は円柱形状の部材である。トップ端子受具52の下端面の内側には、板バネ構造の凹部52aが形成されている。この凹部52aには、後述する追加部材に含まれる端子が嵌合される。トップ端子受具52の下端面は、上絶縁管54の上端面に接着によって気密的に固定されている。表面抵抗及び接点抵抗を低く保つために、トップ端子受具52は、例えば無酸素銅の金メッキ処理が施されてもよい。
【0044】
上絶縁管54は、比較的短尺の円筒形状の部材である。上絶縁管54の上端面は、トップ端子受具52の下端面に接着によって気密的に固定される。上絶縁管54の下端面は、ボトム端子受具56の上端面に接着によって気密的に固定されている。トップ端子受具52とボトム端子受具56との間を電気的及び熱的に絶縁するために、上絶縁管54は、例えばGFRP又はセラミックによって構成されている。
【0045】
ボトム端子受具56は円筒形状の部材である。その円筒の内周面には、板バネ56aが設けられている。後述する追加部材が、板バネ56aによって挟まれて保持される。ボトム端子受具56の上端面は、上絶縁管54の下端面に接着によって気密的に固定されている。ボトム端子受具56の下端面は、下絶縁管58の上端に接着されている。表面抵抗及び接点抵抗を低く保つために、ボトム端子受具56は、例えば無酸素銅の金メッキ処理が施されてもよい。
【0046】
下絶縁管58は、比較的長尺の円筒形状の部材である。下絶縁管58は、NMRプローブの中間の円筒部に相当する。下絶縁管58の上端面は、ボトム端子受具56の下端面に接着によって気密的に固定されている。下絶縁管58の下端面は、上シリンダ60の上面に接着によって気密的に固定されている。ボトム端子受具56と上シリンダ60との間を電気的及び熱的に絶縁するために、下絶縁管58は、例えばGFRP又はセラミックによって構成されている。
【0047】
なお、下絶縁管58は強磁場(例えば10〜20Tesla以上)内に挿入される。磁場に起因する応力負荷が下絶縁管58にかかることを避け、磁場中心の磁場均一性を歪めないために、下絶縁管58は非磁性の材料によって構成されることが好ましい。また、下絶縁管58の下端は室温下にあり、上端は極低温下にある。従って、その温度差を維持するために、下絶縁管58は熱絶縁性の材料によって構成されることが好ましい。また、下絶縁管58は、真空気密性を有することが好ましい。また、下絶縁管58は、例えば、金メッキ銅製の内部構造体(熱交換器及びヘリウム配管)に隣接しており、かつ、その周囲に輻射シールドが配置されている。下絶縁管58に電気導電性があると、不要な高周波結合が生じる。これを防止するために、下絶縁管58は、電気絶縁性の材料によって構成されることが好ましい。また、下絶縁管58には、追加部材の着脱時等において負荷がかかる可能性があるので、下絶縁管58は、可撓性よりも堅牢性を有することが好ましい。また、下絶縁管58は、高真空度の空間内に配置されるので、下絶縁管58は、低ガス放出性の材料によって構成されることが望ましい。このような条件を満たす材料としては、樹脂、セラミック又は複合材料等が挙げられる。例えば、上記のように、GFRPを用いることが好ましい。
【0048】
上シリンダ60は凸状の部材であり、凸部が上を向くように配置されている。また、上シリンダ60は、円筒形状の上下貫通穴を有する。磁場の均一性に影響を与えないように、上シリンダ60は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。上シリンダ60の上端面は、下絶縁管58の下端面に接着によって気密的に固定されている。上シリンダ60の下端フランジ面は、ゲートバルブ筐体76の上部外面に対してOリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。
【0049】
トップ端子受具52の上端面には、上リンク62が設けられている。上リンク62は板状の部材であり、トップ端子受具52の上端面とチューニング用可変コンデンサ34の端子との間を電気的に接続する。タンク回路冷却時において、筒身50に働く収縮応力によってステージ42を下向きに引っ張る力が加わるのを緩和するために、上リンク62は、例えば、可塑性を有する金メッキ銅箔(例えば厚みが0.05mm〜0.1mm)によって構成されていることが好ましい。
【0050】
ボトム端子受具56の外周面には、下リンク64が設けられている。下リンク64は板状の部材であり、ボトム端子受具56の外周面とステージ42との間を電気的に接続する。これにより、ボトム端子受具56とチューニング用可変コンデンサ34とが電気的に接続される。タンク回路冷却時において、筒身50に働く収縮応力によってステージ42を下向きに引っ張る力が加わるのを緩和するために、下リンク64は、例えば、可塑性を有する金メッキ銅箔(例えば厚みが0.05mm〜0.1mm)によって構成されていることが好ましい。
【0051】
上通気管66は、例えばフレキシブルな管(例えばベローズ管)である。上通気管66の一方端は、上シリンダ60の内側空間、すなわち上気密室102に対して気密的に接合されている。上通気管66の他方端は、主気密室100に対して開放されている。
【0052】
上バルブ68は、上通気管66に気密的に設置されたバルブである。上バルブ68は、一例として2ポート式の手動バルブである。もちろん、上バルブ68は、それ以外のバルブであってもよい。上バルブ68を操作することによって、上通気管66の通気ラインを結合又は遮断することができる。
【0053】
次に、中部隔壁について説明する。中部隔壁は、ゲートバルブ70、下通気管78及び下バルブ82を含む。中部隔壁は、機械的操作によって上気密室102と下気密室104とを通気的に遮断又は結合する。
【0054】
ゲートバルブ70は、ゲート72、レバー74及びゲートバルブ筐体76からなる複合部材である。
【0055】
ゲートバルブ筐体76は、上部において、上部隔壁に含まれる上シリンダ60にOリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。ゲートバルブ筐体76は、下部において、下部隔壁に含まれる中シリンダ90にOリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。利用者は、レバー74を介してゲート72をスライドさせることにより、上気密室102と下気密室104との間を通気的に結合又は遮断することができる。
【0056】
ゲート72は、ゲートバルブ筐体76の内側に設置された板状の部材である。ゲート72は、例えば長方形の形状を有する。ゲート72は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。ゲート72の上面はフランジ面ある。最奥部までゲート72がスライドされると、ゲート72は、ゲートバルブ筐体76の上面の内側に設置されたOリングシールに対して押し付けられる。これにより、上気密室102と下気密室104とが通気的に遮断される。
【0057】
レバー74は例えば丸棒であり、ゲートバルブ筐体76の大気側に設置された二重Oリングシールの貫通孔を貫通して設けられている。レバー74の一方端は、大気側に突き出している。レバー74の他方端は、ゲートバルブ筐体76の内側において、ゲート72の側面と機械的に接続されている。レバー74は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。
【0058】
ゲートバルブ筐体76は、フランジ面を有する直方体形状の箱である。ゲートバルブ筐体76の内側の空間に、ゲート72と、それに機械的に接続されたレバー74の一部と、が収納されている。ゲートバルブ筐体76は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。ゲートバルブ筐体76は、NMRプローブの側面から横方向に差し込まれ、フランジ面において、その側面に対してOリングシールを介して固定されている。ゲートバルブ筐体76は、その奥に円筒形状の上下貫通孔を有している。この貫通孔は、上シリンダ60の貫通孔および中シリンダ90の貫通孔と同軸に配置されている。ゲートバルブ筐体76の貫通孔の径のサイズは、後述する追加部材(被交換要素)の外径のサイズよりも大きく、追加部材を支障なく通すことができるサイズである。また、ゲートバルブ筐体76の貫通孔の径のサイズは、後述する輸送用容器の外径のサイズよりも小さい。これにより、輸送用容器は、ゲートバルブ筐体76を通過することができない。
【0059】
下通気管78は、例えばフレキシブルな管(例えばベローズ管)である。下通気管78の一方端は、ゲートバルブ筐体76の内部に対して気密的に接合されている。下通気管78の他方端は、NMRプローブの外側に設置された副真空ポート80に繋がっている。下通気管78は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。
【0060】
副真空ポート80は、NMRプローブの外側に設置され、真空ポンプ等の減圧ラインが取り付けられる。真空ポンプには、例えばターボ分子ポンプが用いられる。
【0061】
下バルブ82は、下通気管78に気密的に設置されたバルブである。下バルブ82は、一例として2ポート式の手動バルブである。もちろん、下バルブ82は、それ以外のバルブであってもよい。下バルブ82を操作することによって、下通気管78の通気ラインを結合又は遮断することができる。
【0062】
次に、下部隔壁について説明する。下部隔壁は、中シリンダ90、下シリンダ92及び挿入口栓94を含む。下部隔壁は、下気密室104を大気から通気的に遮断する。
【0063】
中シリンダ90は凸状の部材であり、凸部が下を向くように配置されている。また、中シリンダ90は、円筒形状の上下貫通孔を有する。中シリンダ90は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。中シリンダ90は、上部において、中部隔壁に含まれるゲートバルブ筐体76に、Oリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。中シリンダ90の下部の内周面に、Oリング用の溝が形成されており、その溝にOリングシールが設けられている。中シリンダ90の貫通孔に下シリンダ92が挿入されると、中シリンダ90の内周面は、Oリングシールを介して、下シリンダ92の外周面に対して気密的に接続される。これにより、気密性が確保される。
【0064】
下シリンダ92は凸状の部材であり、凸部が上を向くように配置されている。下シリンダ92は、円筒形状の上下貫通孔を有する。下シリンダ92は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。下シリンダ92は、下部において、プローブ下部隔壁18の底面内側にOリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。下シリンダ92の内周面の上部に、Oリング用の溝が形成されており、その溝にOリングシールが設けられている。下シリンダ92の貫通孔に挿入口栓94が挿入されると、下シリンダ92の内周面は、Oリングシールを介して挿入口栓94の外周面に対して気密的に接続される。下シリンダ92の内周面の下部には、挿入口栓94を固定するためのネジ溝が形成されている。挿入口栓94の外周面の下部には、下シリンダ92のネジ溝に対応するネジ溝が形成されている。また、下シリンダ92の貫通孔の径のサイズは、後述する輸送用容器の外径のサイズよりもわずかに大きい。これにより、下シリンダ92の貫通孔内に輸送用容器が挿入される。このとき、下シリンダ92の内周面は、輸送用容器の外周面に対してOリングシールを介して気密的に接続される。
【0065】
挿入口栓94は、例えば円柱状の部材である。挿入口栓94の外周面の上部は平滑に形成されている。外周面の下部には、ネジ溝が形成されている。このネジ溝は、上述したように、下シリンダ92に形成されているネジ溝に対応する。挿入口栓94は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。挿入口栓94の底面には、例えばツマミ部が設けられている。挿入口栓94をNMRプローブの外部から回転操作することにより、大気と下気密室104との間を通気的に結合又は遮断することができる。
【0066】
上記構成において、タンク回路(送受信コイル32及び可変コンデンサ)、トップ端子受具52、上絶縁管54、ボトム端子受具56、及び、下絶縁管58のボトム端子受具56との接合部近辺は、極低温に冷却される。これらは被冷却部材に相当し、図示しない冷却機構によって冷却される。信号のS/Nを向上させるために、可変コンデンサも送受信コイル32とともに低温に冷却される必要があり、可変コンデンサは送受信コイル32の近傍に配置される。本実施形態では、送受信コイル32が挿入部10の上部に設置されているため、可変コンデンサも、挿入部10の上部に設置されている。冷却機構として、例えば、特開2014−41103に記載されている冷却システム(クライオスタット冷却システム)を利用することができる。具体的には、図示しない熱交換器に例えば液体ヘリウムが導入され、熱交換器は極低温(例えば20K以下)に冷却される。熱交換器は図示しない熱リンクを経由して被冷却部材に接続され、これにより、被冷却部材が冷却される。なお、NMRプローブには、図示しない温度センサが取り付けられており、その温度センサによって被冷却部材等の温度が検知される。
【0067】
低温運転時においては、被冷却部材の寸法は、材料の線膨張率に応じて、室温下よりも収縮する。本実施形態では、被冷却部材のうちステージ42上に固定されている部材群(可変コンデンサ、送受信コイル32)の収縮基準点は挿入部10の上部にあり、低温運転時にはステージ42が上方向に変位する。その変位量は、例えば、0.5mm〜1mm程度である。
【0068】
筒身50に含まれるボトム端子受具56がステージ42に対して固定された場合、以下に説明する不具合が発生し得る。筒身50の下絶縁管58の収縮基準点は、室温下にある上シリンダ60との接合部である。下絶縁管58に温度勾配が生じ、これにより、下絶縁管58は収縮し、ステージ42を下向きに引っ張る応力が発生する。従って、ステージ42や送受信コイル32の高さ方向の位置は、全体が室温に置かれた初期状態よりも下の位置に移動しようとする。例えば、挿入部10には、低温運転時において、送受信コイル32の位置を一定に保つような機械的技術が採用される。この場合、下絶縁管58に働く収縮応力は、結果としてステージ42とその周辺の機構部材とに対して機械的な歪みを与える。これを避けるために、筒身50は、中部隔壁及び下部隔壁に対する機械的な固定を通じて、プローブ下部隔壁18に対してのみ機械的に固定され、ステージ42に対しては機械的に固定されていない。また、トップ端子受具52とタンク回路とは、上リンク62によって電気的に接続されている。ボトム端子受具56とタンク回路とは、下リンク64によって電気的に接続されている。これにより、上記の機械的な不具合を回避することができる。
【0069】
次に、図2を参照して、NMRプローブに挿入される追加部材について説明する。図2(a)には、被交換要素である追加部材110、輸送用容器120、及び、スティック130の一例が示されている。図2(a)及び図2(b)は、追加部材110、輸送用容器120、及び、スティック130の断面図である。
【0070】
追加部材110は、追加素子112、保持体114、トップ端子116及びボトム端子118を含む複合部材である。保持体114内には追加素子112が設けられている。保持体114は、トップ端子116及びボトム端子118によって上下から挟まれている。トップ端子116及びボトム端子118は、電極として機能する。追加部材110の各部材は、例えば円柱状の形状を有し、各部材の外径は同じサイズである。外径のサイズは、一例として7mm〜10mmである。追加部材110の外径のサイズは、上気密室102の径のサイズ、及び、ゲートバルブ筐体76の貫通孔の径のサイズよりもわずかに小さい。これにより、ゲートバルブ筐体76を介して上気密室102内に追加部材110を挿入し、上気密室102内で追加部材110を移動させることができる。
【0071】
トップ端子116は円柱状の形状を有する。その円柱の上部には凸部1161が設けられている。凸部1161は、上述したトップ端子受具52の内側に形成された凹部52aに嵌合する部材である。トップ端子116は、例えば金メッキ処理が施された無酸素銅によって構成されていてもよい。
【0072】
追加素子112は、受動素子であってもよいし、能動素子であってもよい。複数の素子によって追加素子112が構成されていてもよい。一例として、追加素子112は、キャパシタ(例えば、高耐圧セラミックコンデンサ)単体、コイル等のインダクタ単体、又は、それらが並列又は直列に接続された回路である。別の例として、追加素子112は、バラクタダイオード(可変容量ダイオード)等の能動素子であってもよい。図2(a)に示す例では、追加素子112はコンデンサであり、二端子回路である。一例として、そのコンデンサの容量は固定値である。もちろん、コンデンサとして可変コンデンサが用いられてもよい。追加素子112の上部端子は、トップ端子116に電気的に接続されており、追加素子112の下部端子は、ボトム端子118に電気的に接続されている。
【0073】
保持体114は、トップ端子116及びボトム端子118を固定して機械的に接続する部材である。保持体114は、絶縁体によって構成されている。保持体114には、例えば、誘電率及び誘電損失が比較的小さく、真空放出ガス速度の小さい材料が用いられることが好ましい。保持体114には、一例として、テフロン(登録商標)が用いられる。
【0074】
ボトム端子118は円柱状の形状を有し、上述したボトム端子受具56の板バネ56aに嵌合する部材である。ボトム端子118の下部には凹部1181が形成されている。凹部1181の内面にはネジ溝が形成されている。凹部1181には、後述するフック132の凸部1321が着脱される。ボトム端子118は、例えば金メッキ処理が施された無酸素銅によって構成されていてもよい。
【0075】
輸送用容器120は円筒状の形状を有する。輸送用容器120の上側筒部122には、追加部材110が収容される。上側筒部122の内径のサイズは、追加部材110の外径のサイズに対応する。輸送用容器120の下側筒部124の内面には、Oリングシール126が設けられている。下側筒部124内にはスティック130が挿入され、Oリングシール126によって気密性が確保される。スティック130は下側筒部124を貫通して設けられる。輸送用容器120の外径のサイズは、下シリンダ92の貫通孔の径のサイズよりもわずかに小さい。これにより、輸送用容器120を、下シリンダ92の貫通孔に挿入することができる。また、輸送用容器120の外径のサイズは、ゲートバルブ筐体76の貫通孔のサイズよりも大きい。これにより、輸送用容器120は、ゲートバルブ筐体76を通過することができない。
【0076】
スティック130は、フック132とロッド134からなる複合部材である。スティック130は、ボトム端子118の凹部1181に対してネジ式により着脱可能な部材である。スティック130が下側筒部124内に挿入されることにより、気密的に追加部材110を移動することができる。
【0077】
フック132は、上端に凸部1321を有し、中間位置に円盤部1322を有し、下端に円柱部材1323を有する。凸部1321の側面には、ネジ溝が形成されている。フック132は、その下端においてロッド134に接着によって固定されている。凸部1321のネジ溝の寸法は、ボトム端子118の凹部1181のネジ溝の寸法に適合する。中間の円盤部1322の外径のサイズは、輸送用容器120の上側筒部122の内径のサイズに対応する。フック132は、例えば真鍮によって構成されている。
【0078】
ロッド134は、比較的に長尺の丸棒である。ロッド134は、その上端においてフック132の下端と接着によって固定されている。ロッド134は、流入熱を抑制するために、例えば熱伝導率が低い材料であるFRPによって構成されていることが好ましい。
【0079】
図2(b)には、追加部材110、輸送用容器120及びスティック130が組み立てられた状態が示されている。以下、追加部材110、輸送用容器120及びスティック130が一体化された部材を、「追加部材輸送ユニット140」と称することとする。スティック130のロッド134が、輸送用容器120の上側筒部122内に挿入され、更に、下側筒部124を貫通して、輸送用容器120に取り付けられる。そして、輸送用容器120の上側筒部122内に追加部材110が収容され、フック132の凸部1321が、ボトム端子118の凹部1181にネジ式によって嵌め込まれる。これにより、スティック130が、追加部材110に取り付けられる。
【0080】
次に、図1及び図3図12を参照して、NMRプローブに追加部材110を装着するための手順について説明する。なお、図3図12には、静磁場発生装置150及びボア152が図示されていないが、作業中、挿入部10はボア152内に挿入されている。
【0081】
図1には、初期段階の状態が示されている。この初期段階の状態は、追加部材110がNMRプローブ内に挿入される前の状態である。この状態では、ゲート72が最奥部まで挿入される。つまり、ゲート72が閉じられる。これにより、副気密室は、上気密室102と下気密室104とに分離される。また、挿入口栓94が、下シリンダ92の貫通孔に挿入される。これにより、その部分の気密性が確保され、下気密室104が大気空間から分離される。また、主バルブ24が開放される。これにより、主気密室100が真空ポンプに対して開放され、主気密室100が真空ポンプによって減圧される。また、上バルブ68が開放される。これにより、上気密室102が真空ポンプに対して開放され、上気密室102が真空ポンプによって減圧される。また、下バルブ82が開放される。これにより、下気密室104が真空ポンプに対して開放され、下気密室104が真空ポンプによって減圧される。例えば、主バルブ24、上バルブ68及び下バルブ82の順番で、各バルブが開放される。各気密室は、大気に対してOリングシールによって密閉され、真空ポンプによって連続的に減圧される。例えば、各気密室内の真空度は、1×10−3Pa以下に維持される。この真空度は、例えば、室温で放電が生じない真空度に相当する。この状態で、挿入部10は静磁場発生装置150のボア152内に装着される。また、低温運転下においては、被冷却部材が例えば20K以下に冷却される。
【0082】
図3には、第2段階の状態が示されている。この段階では、主バルブ24が開放されており、これにより、主気密室100は真空ポンプによって減圧される。また、ゲート72が閉じられており、その状態が維持される。これにより、上気密室102が下気密室104から遮断される。そして、上バルブ68及び下バルブ82が閉じられる。これにより、主気密室100と上気密室102とが遮断される。後述するように、上気密室102内に追加部材110が挿入される。この挿入によって、仮に上気密室102の真空度が低下した場合であっても、主気密室100と上気密室102とが遮断されていることにより、主気密室100の真空度(タンク回路が設置されている空間の真空度)が維持される。また、下気密室104が真空ポンプから遮断される。この状態で、作業者によって、挿入口栓94が下シリンダ92の貫通孔から引き抜かれる。これにより、下気密室104が大気空間に開放され、下気密室104内の圧力は大気圧と等しくなる。
【0083】
図4には、第3段階の状態が示されている。この段階では、主バルブ24が開放されており、これにより、主気密室100は真空ポンプによって減圧される。また、ゲート72が閉じられており、その状態が維持される。これにより、上気密室102が大気空間から遮断される。また、上バルブ68及び下バルブ82が閉じられており、その状態が維持される。この状態で、作業者によって、追加部材輸送ユニット140が下シリンダ92の貫通孔に挿入される。その貫通孔の径のサイズは、輸送用容器120の外径のサイズよりもわずかに大きい。下シリンダ92の貫通孔に輸送用容器120が挿入されると、下シリンダ92の内周面は、Oリングシールを介して輸送用容器120の外周面に対して気密的に接続される。これにより、その部分の気密性が確保される。
【0084】
次に、図5に示すように、輸送用容器120の先端がゲートバルブ筐体76に接触するまで、作業者によって、追加部材輸送ユニット140が押し込まれる。本実施形態では、ゲートバルブ筐体76の下面に形成された貫通孔の径のサイズは、輸送用容器120の外径よりも小さく、追加部材110の外径よりも大きい。これにより、追加部材輸送ユニット140を押し込むと、輸送用容器120の先端がゲートバルブ筐体76に突き当たり、輸送用容器120がゲートバルブ筐体76を通過せずに、その位置に留まる。このとき、輸送用容器120の外周面と下シリンダ92の内周面とがOリングシールを介して気密的に接続され、これにより、その部分の気密性が維持される。また、輸送用容器120の先端がゲートバルブ筐体76に接触しており、これにより、その部分の気密性が維持される。このように、輸送用容器120が真空維持用の栓として機能する。よって、下気密室104が大気空間から分離される。この段階では、主バルブ24が開放されており、上バルブ68及び下バルブ82が閉じられており、ゲート72が閉じられている。そして、輸送用容器120の先端がゲートバルブ筐体76に接触するまで、追加部材輸送ユニット140が押し込まれた後、下バルブ82が開放される。これにより、下気密室104が真空ポンプに開放される。輸送用容器120が真空維持用の栓として機能するため、下気密室104は大気空間から遮断される。そして、下気密室104は、真空ポンプによって減圧される。例えば、下気密室104の真空度が1×10−3Pa以下まで減圧されるまで、待機する。下気密室104は真空ポンプによって減圧されるため、輸送用容器120が上方向に吸い上げられ、その位置が維持される。これにより、追加部材輸送ユニット140の脱落が防止される。もちろん、作業者がロッド134を上方向に押し上げてもよい。なお、上バルブ68を開放することにより、上気密室102を真空ポンプによって減圧してもよい。図5に示されている状態を、第4段階の状態とする。
【0085】
図6には、第5段階の状態が示されている。この段階では、主バルブ24が開放されており、これにより、主気密室100が真空ポンプによって減圧される。また、上バルブ68が閉じられており、その状態が維持される。また、輸送用容器120の位置が維持されており、輸送用容器120が真空維持用の栓として機能している。また、下バルブ82が開放されており、下気密室104が真空ポンプによって減圧される。この状態で、作業者によってゲート72が開放される。これにより、上気密室102と下気密室104とが繋がり、上気密室102及び下気密室104が、下通気管78を介して真空ポンプによって減圧される。輸送用容器120が真空維持用の栓として機能しているため、ゲート72が開放されても、副気密室(上気密室102及び下気密室104)は大気から遮断される。
【0086】
図7には、第6段階の状態が示されている。この段階では、作業者によって、スティック130が上方向に押し上げられる。ゲートバルブ筐体76の下面及び上面に形成された貫通孔の径のサイズは、追加部材110の外径よりも大きい。従って、スティック130を押し上げることにより、追加部材110はゲートバルブ筐体76を通過して上気密室102内に挿入される。輸送用容器120の外径のサイズは、ゲートバルブ筐体76の下面に形成された貫通孔の径のサイズよりも大きいため、輸送用容器120は、下シリンダ92の貫通孔内に留められる。
【0087】
そして、図8に示すように、追加部材110のトップ端子116の凸部1161が、トップ端子受具52の凹部52aに嵌合され、ボトム端子118が、ボトム端子受具56の板バネ56aに嵌合されるまで、作業者によってスティック130が押し込まれる。これにより、追加部材110がNMRプローブ内に装着され、タンク回路に追加素子112が追加される。追加部材110が、トップ端子受具52及びボトム端子受具56にセットされると、それと同時に、トップ端子116とトップ端子受具52とが電気的に接続され、ボトム端子118とボトム端子受具56とが電気的に接続される。これにより、追加部材110に含まれる追加素子112が、タンク回路に電気的に接続される。この追加により、タンク回路のチューニングレンジが変わる。この段階では、主バルブ24が開放されており、これにより、主気密室100が真空ポンプによって減圧される。また、上バルブ68が閉じられており、その状態が維持される。また、輸送用容器120の位置が維持されており、輸送用容器120が真空維持用の栓として機能している。また、下バルブ82が開放されており、上気密室102及び下気密室104が、下通気管78を介して真空ポンプによって減圧される。この状態を、第7段階の状態とする。なお、追加素子112がタンク回路に追加されると、タンク回路のインピーダンスが変化する。従って、タンク回路のインピーダンスを計測し、その計測結果に基づいて、追加部材110の装着を検知してもよい。
【0088】
図9には、第8段階の状態が示されている。上記のように、フック132は、ネジ式によって追加部材110のボトム端子118に嵌め込まれている。従って、作業者がスティック130を回転することにより、スティック130が追加部材110から取り外される。追加部材110は、トップ端子受具52及びボトム端子受具56によって嵌合されており、その嵌合が、追加部材110の回転止めとして機能する。そして、フック132が下気密室104内に位置するまで、スティック130を下方向に引く。この段階では、主バルブ24及び下バルブ82が開放されている。また、上バルブ68が閉じられている。
【0089】
図10には、第9段階の状態が示されている。この段階では、フック132が輸送用容器120の上側筒部122に収容されるまで、作業者によって、スティック130が下方向に引かれている。次に、ゲート72が閉じられる。これにより、上気密室102と下気密室104とが分離される。この段階では、主バルブ24及び下バルブ82が開放されている。また、上バルブ68が閉じられている。
【0090】
図11には、第10段階の状態が示されている。この段階では、まず、下バルブ82が閉じられる。これにより、下気密室104は真空ポンプから遮断される。そして、スティック130ごと輸送用容器120を、下シリンダ92の貫通孔から引き抜く。これにより、下気密室104は大気空間に開放され、下気密室104内の圧力は大気圧と等しくなる。ゲート72は閉じられているため、上気密室102は大気空間から遮断されている。
【0091】
図12には、第11段階の状態が示されている。この段階では、作業者によって、挿入口栓94が下シリンダ92の貫通孔に挿入される。これにより、下気密室104が大気空間から遮断される。次に、下バルブ82が開放される。これにより、下気密室104が真空ポンプに開放され、下気密室104が減圧される。また、上バルブ68が開放され、これにより、上気密室102が真空ポンプに開放される。
【0092】
また、追加部材110を交換する場合には、上記の手順に従って、追加部材110が収容されていない輸送用容器120を下シリンダ92の貫通孔内に配置し、その状態で、スティック130を上気密室102内に挿入する。そして、スティック130のフック132に追加部材110を取り付け、その状態を維持したまま、スティック130を下方向に引く。これにより、追加部材110が、トップ端子受具52及びボトム端子受具56から取り外される。それと同時に、追加素子112とタンク回路とが電気的に遮断される。そして、追加部材110を輸送用容器120内に収容し、追加部材110、輸送用容器120及びスティック130を引き抜く。これにより、NMRプローブから追加部材110が取り外される。そして、別の追加部材110が、上記の手順に従って、NMRプローブ内に装着される。この作業の間、主気密室100及び上気密室102の真空度は維持される。
【0093】
以上のように、低温運転時において、挿入部10が静磁場発生装置150のボア152内に挿入された状態で、かつ、主気密室100及び上気密室102の真空度が維持された状態で、追加素子112をタンク回路に追加し、又は、追加素子112をタンク回路から取り外すことが可能となる。これにより、上記の環境を維持しつつ、タンク回路のチューニングレンジを変更することが可能となる。
【0094】
測定対象の核種に応じてチューニングレンジを変えるために、NMRプローブを静磁場発生装置150から取り外し、チューニングレンジを変えた後に、NMRプローブを静磁場発生装置150に再度取り付けるとすると、以下に説明する不具合が発生し得る。つまり、取り外し及び再取り付けの際に機械的誤差(NMRプローブの位置や傾き等の誤差)が発生し、その機械的誤差によって、精密に設定した測定条件(マジック角や静磁場の均一性)が損なわれてしまう。これは、利便性の観点からではなく、NMR測定の再現性の観点からも望ましいものではない。
【0095】
これに対して、本実施形態では、挿入部10が静磁場発生装置150のボア152内に装着されたときに作業者が外部からアクセスできるよう、バルブやレバー等がNMRプローブの下部筐体に設置されている。これにより、挿入部10を静磁場発生装置150のボア152内に装着したままの状態で、バルブやレバー等を操作して、追加部材110の追加や交換等を行うことが可能となる。
【0096】
また、低温運転状態において追加部材110の追加等を行うときに、大気が主気密室100及び上気密室102に流入して真空度が悪化すると、大気の窒素、酸素及び水分等が、被冷却部材の表面に凝結する。例えば、真空度が10−3Paよりも悪化すると、その現象が発生し得る。気体の熱伝導によって室温下の部材から熱流入が増加するため、被冷却部材に含まれる金属導体の温度が上昇する。また、電極表面における放電開始電圧が低下する。また、酸素分子は常磁性物質であるため、静磁場の均一性が低下し、これにより、NMR信号の分解能が低下する。このように、様々な不具合が発生し、タンク回路において、固体NMR測定に必要な回路性能を維持することができなくなる。これらの不具合について、以下において、更に詳細に説明する。
【0097】
まず、低温運転状態において主気密室100に大気が流入すると、真空断熱性が失われる。そして、気体の熱伝導により、室温下の部材からタンク回路の被冷却部材に対して熱が流入し、被冷却部材の温度が上昇する。これにより、検出回路の高感度信号検出特性が劣化する。この不具合に対処するために、追加部材110の追加作業を短時間で終了させて、主気密室100の真空度を元に戻せばよいとも考えられる。
【0098】
しかし、冷却動作中にタンク回路に大気が流入することにより、以下に説明する不具合が発生し得る。つまり、酸素分子の流入及び凝固によって、NMRスペクトル分解能が低下するという問題が生じる。検出系冷却型NMRプローブの送受信コイルの温度は、例えばクライオスタット冷却システムを用いることにより20K以下に設定される。一方、酸素分子の融点は約55Kである。従って、主気密室100に流入した酸素分子は、送受信コイル32を含む被冷却部材の表面に吸着して凝固する。酸素分子は常磁性の性質を有する。そのため、被冷却部材に付着した酸素分子は、送受信コイル32の中心に配置された試料空間の磁場均一性を乱し、観測されるNMRスペクトルの分解能を著しく低下させる。
【0099】
また、別の不具合として、放電開始電圧が低下し得る。NMRプローブでは、数十〜数百Wの電力の高周波パルスを照射する際に放電が生じないように、真空ポンプ(例えばターボ分子ポンプ)による減圧処理によって十分な真空度(例えば室温下で10−4Pa台前半)を得て、回路素子の周辺に吸着された気体分子を取り除く必要がある。仮に、低温下で大気が流入した場合、高周波回路の部品群の表面に気体分子が吸着して凝固し、特に電極と誘電体との接点における電荷放出によって、吸着した気体分子のプラズマ化が容易に引き起こされる。これにより、放電開始電圧が低下し、所望の強度の高周波磁場を試料に照射することができないという不具合が生じ、スペクトルの定量性及び再現性が得られなくなる。
【0100】
本実施形態では、低温運転中において、主気密室100及び上気密室102の真空度に影響を与えずに、追加部材110の追加等を行うことができる。これにより、上記の不具合を発生させることなく、タンク回路のチューニングレンジを変化させることが可能となる。
【0101】
ここで、図13を参照して、第1実施形態に係るタンク回路(検出回路)について説明する。図13は、電気回路図である。
【0102】
図13(a)には、追加部材110が追加されていない状態のタンク回路が示されている。伝送線路40は、回路要素(デュプレクサ47a及びプリアンプ47b)を介して、送信ポート46又は受信ポート48に電気的に接続されている。これにより、NMRプローブの外部に設置されたNMR分光計との間で、ラジオ波の送信及びNMR信号の受信が行われる。デュプレクサ47aは、送信ポート46、タンク回路及びプリアンプ47bに接続された送受信切替回路である。デュプレクサ47aは、送信時において送信ポート46から入力されるラジオ波パルスをタンク回路に効率良く伝送する機能を備えている。また、デュプレクサ47aは、NMR信号の受信時において、送受信コイル32で検出されたNMR信号をタンク回路からプリアンプ47bに効率良く伝送する機能を備えている。NMR信号はプリアンプ47bで増幅され、受信ポート48から分光計の受信器に伝送され、A/Dコンバートにより数値データとして取り込まれる。
【0103】
なお、同調及び整合を行うために、図示しない方向性結合器が設けられている。方向性結合器によって、タンク回路から送信側へ戻る反射波が観測される。反射波のレベルは、タンク回路の同調状態及び整合状態を指標する値である。従って、反射波のレベルを参照しながら、タンク回路に含まれる可変コンデンサの各設定値(容量)を変化させることにより、同調及び整合がなされる。
【0104】
図13(a)に示されているタンク回路において、送受信コイル32のインダクタンスをLとし、チューニング用可変コンデンサ34、バランス用可変コンデンサ36、及び、マッチング用可変コンデンサ38のキャパシタンスをそれぞれ、C,C,Cとしたとき、インピーダンスを最小にする共振周波数fは、以下の式(1)で表される。
【数1】
【0105】
インダクタンスLは固定値であるため、同調可能な周波数のレンジは、可変値であるC及びCによって制限されることになる。
【0106】
図13(b)には、追加部材110の回路構成が示されている。
【0107】
図13(c)には、その追加部材110が追加された状態のタンク回路が示されている。追加部材110がタンク回路に追加されると、追加部材110のトップ端子116がトップ端子受具52に電気的に接続され、ボトム端子118がボトム端子受具56に電気的に接続される。これにより、チューニング用可変コンデンサ34に対して、追加素子112(コンデンサ)が並列に接続される。追加素子112のキャパシタンスをCとすると、このタンク回路において、インピーダンスを最小にする共振周波数fは、以下の式(2)で表される。
【数2】
【0108】
インダクタンスLは固定値であるため、同調可能な周波数のレンジは、可変値である(C+C)及びCによって制限されることになる。追加素子112を交換することにより、Cは任意の固定値を取り得るため、多様な周波数レンジに対して同調を取ることが可能となる。
【0109】
一方、タンク回路のインピーダンスの特性インピーダンスZに対する整合は、マッチング用可変コンデンサ38によって調整される。
【0110】
本実施形態によると、測定対象核種に合わせて追加部材110を交換することにより、柔軟にチューニングレンジを変更することが可能となる。例えば、複数のコンデンサをNMRプローブ内に予め設置しておき、それらを用途に合わせて交換することが想定される。しかし、これでは、予め設置されているコンデンサの個数に応じた用途にしか対応することができない。本実施形態では、用途に合わせて追加部材110を交換することができるため、そのような制限を受けることなく、チューニングレンジを変更することが可能となる。
【0111】
なお、追加部材110をNMRプローブ内に挿入することにより、NMRプローブ内の真空度が悪化する可能性がある。これに対処するために、以下の手法が採用されてもよい。大気中では、追加部材110の表面に水分が付着している。これを取り除くために、挿入直前に、ドライヤー等によって追加部材110を熱してもよい。また、追加部材110及び輸送用容器120を下気密室104に挿入し、高真空(例えば10−4Pa以下)になるまで減圧してもよい。その減圧後、追加部材110に付着している水分を取り除くために、ある程度の時間、追加部材110及び輸送用容器120を下気密室104内に設置しておいてもよい。ある程度の時間が経過した後、ゲート72を開ける。また、追加部材110の挿入時に、ロッド134の中心軸がずれて、大気が上気密室102に流入する可能性がある。これを防止するために、NMRプローブの底部に、ロッド134をガイドする部材を設置してもよい。また、追加部材110をNMRプローブ内に挿入した場合、トップ端子受具52やボトム端子受具56の温度が上昇する可能性がある。これに対処するために、追加部材110の上端がボトム端子受具56に到達した時点で、ある程度の時間、追加部材110をその場所に留め、熱交換させてもよい。例えば、NMRプローブに取り付けられた温度センサによって温度を検知しながら、この作業を行えばよい。
【0112】
[第2実施形態]
次に、図14を参照して、第2実施形態に係るNMRプローブについて説明する。図14には、第2実施形態に係るNMRプローブの一例が示されている。第2実施形態に係るNMRプローブでは、2つの筒身が空間的に並列して配置されている。これにより、NMRプローブの外部から2つの追加部材をタンク回路中の2箇所に対して追加することが可能となる。
【0113】
第2実施形態に係るNMRプローブは、挿入部200と下部ユニット202とによって構成される。挿入部200は、それ全体として垂直方向に伸長した円筒形状を有し、静磁場発生装置150のボア152内に挿入される。NMRプローブは、外容器212と、外容器212内に設けられた内容器(筒身250を含む容器)と、送受信コイル232を備えたタンク回路(検出回路)とを含む。以下、NMRプローブの各部について説明する。
【0114】
なお、第2実施形態において用いられる追加部材110、輸送用容器120及びスティック130は、第1実施形態に係る追加部材110、輸送用容器120及びスティック130と同じ構成を有する。
【0115】
外容器212は、プローブヘッド隔壁214と、プローブ円筒部隔壁216と、プローブ下部隔壁218と、を含む容器である。主気密室300は、外容器212と主バルブ224とによって囲まれた空間である。図示しない真空ポンプ等の減圧ラインがNMRプローブに取り付けられることにより、主気密室300は、例えば、室温下において10−3Pa以下に減圧される。
【0116】
プローブヘッド隔壁214の上部には、プローブキャップ220が設けられている。プローブキャップ220は、挿入部200の最上部に設けられた円筒状の部材である。プローブキャップ220は、一例として金属導体(例えばアルミニウム)によって構成されている。プローブキャップ220は、その下部において、プローブ円筒部隔壁216と電気的及び機械的に接続されている。これにより、送受信コイル232に対する外来雑音等の電磁波の影響が防止又は低減される。一例として、プローブキャップ220とプローブ円筒部隔壁216との接続は気密性を有していない。よって、プローブキャップ220とプローブヘッド隔壁214とによって囲まれた空間306は、大気空間となる。
【0117】
プローブヘッド隔壁214は、送受信コイル232を大気空間から隔離し、挿入部200の上部の気密性を確保する部材である。プローブヘッド隔壁214は、例えば復号部材によって構成されている。プローブヘッド隔壁214は、一例として、絶縁物であるGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)又はセラミックスによって構成されている。プローブヘッド隔壁214は、その下端面で、プローブ円筒部隔壁216と気密的に接続されている。
【0118】
プローブ円筒部隔壁216は、例えば円筒形状の隔壁である。挿入部200が静磁場発生装置のボア内に装着されたときに、プローブ円筒部隔壁216は、外部からアクセス可能な位置には設置されない。プローブ円筒部隔壁216は、その上端面でプローブヘッド隔壁214と気密的に接続されており、その下端面でプローブ下部隔壁218と気密的に接続されている。
【0119】
プローブ下部隔壁218は、例えば箱状の隔壁である。挿入部200が静磁場発生装置のボア内に装着されたときに、プローブ下部隔壁218は、外部からアクセス可能な位置に設置される。プローブ下部隔壁218は、その上端面でプローブ円筒部隔壁216と気密的に接続されている。
【0120】
主真空ポート222は、プローブ下部隔壁218に設けられている。主真空ポート222には、真空ポンプ等の減圧ラインが取り付けられる。
【0121】
主バルブ224は、主真空ポート222に接続された真空ポンプ等の減圧ラインと、主気密室300と、の間に設置されたバルブである。主バルブ224は、一例として2ポート式の手動バルブである。もちろん、主バルブ224は、それ以外のバルブであってもよい。主バルブ224を操作することによって、主気密室300と減圧ラインとを通気的に結合又は遮断することができる。なお、真空ポンプには、例えばターボ分子ポンプが用いられる。
【0122】
主気密室300の上部にはタンク回路が設けられている。このタンク回路は検出回路であり、送受信コイル232の他、同調用の可変コンデンサ及び整合用の可変コンデンサ等を含む。つまり、タンク回路は同調回路及び整合回路を備えている。第2実施形態では、タンク回路は、送受信コイル232、チューニング用可変コンデンサ234、バランス用可変コンデンサ236、及び、マッチング用可変コンデンサ238を含む。例えば、同調回路及び整合回路は独立しておらず、一方の動作条件を変化させると他方の動作条件が変化する関係にある。以下、タンク回路の構成について説明する。
【0123】
送受信コイル232は、送信時において変動磁場を発生させ、受信時において試料のNMR信号を検出する。送受信コイル232に代えて、別体化された送信用コイル及び受信用コイルが設けられてもよい。タンク回路は、同調用可変コンデンサ及び整合用可変コンデンサを有しており、それらの容量を変化させることにより、検出回路の動作特定が最適化される。つまり、周波数同調及びインピーダンス整合が図られる。
【0124】
試料及び試料管230の中心が磁場中心に一致するように、挿入部200が静磁場発生装置のボア内に設置される。試料及び試料管230は、プローブキャップ220とプローブヘッド隔壁214とによって囲まれた空間306内(大気空間内)に設置される。測定対象となる試料が固体の場合、試料管230が、所定の傾斜角度(いわゆるマジック角、すなわち約54.7°)をもった傾斜姿勢で回転可能に設置される。NMRプローブ内には、図示しない空気軸受式回転機構が設けられる。この空気軸受式回転機構に圧縮空気(例えば圧力が0.2〜0.4MPa)を供給することにより、試料管230が回転させられる。一例として、数〜数十kHzの回転数で回転させられる。
【0125】
送受信コイル232は、試料及び試料管230を取り囲むように、減圧真空下の主気密室300内に配置されている。送受信コイル232は、例えばソレノイド状の形状を有する。送受信コイル232の一方端は、チューニング用可変コンデンサ234の上端子に電気的に接続されている。送受信コイル232の他方端は、バランス用可変コンデンサ236の上端子に電気的に接続されている。
【0126】
チューニング用可変コンデンサ234の上端子は、マッチング用可変コンデンサ238の上端子に電気的に接続されている。マッチング用可変コンデンサ238の下端子は、伝送線路240の上端に電気的に接続されている。
【0127】
チューニング用可変コンデンサ234、バランス用可変コンデンサ236、及び、マッチング用可変コンデンサ238は、例えば、円筒形状の誘電体によって構成されており、上端及び下端に電極を有する。その円筒の内側空間には、部材温度が室温から極低温まで変化しても、回転により上下摺動する金属円筒が設けられている。この金属円筒は、電気的に下端の電極と繋がっている。可変コンデンサとして、例えば、Voltronics社のコンデンサ「NMCB10-5CKE」を使用することができる。もちろん、これら3つの可変コンデンサは、上記以外の構成を備えていてもよい。
【0128】
チューニング用可変コンデンサ234、及び、バランス用可変コンデンサ236は、ともに下端子において、ステージ242に対して電気的に接続されながら機械的に支持されて固定されている。マッチング用可変コンデンサ238は、絶縁台244を挟んでステージ242に対して電気的に絶縁されながら機械的に支持されて固定されている。図示しない調整棒を用いることによって、NMRプローブの外部から、3つの可変コンデンサのキャパシタンス値を連続的に変更することができる。これにより、周波数同調及びインピーダンス整合が図られる。
【0129】
次に、内容器の構成について説明する。第2実施形態では、内容器は二連筒身系の構成を有する。内容器は外容器212内に設けられ、主気密室300の底部から、主気密室300の上部に位置するタンク回路の付近にまで及ぶ。
【0130】
内容器の内部には、主気密室300から独立に存在する副気密室が形成されている。このように、内容器は、外容器212の内部を主気密室300と副気密室とに仕切る容器である。
【0131】
副気密室は、追加部材110を、NMRプローブの外部(大気空間)からNMRプローブ内に移送して設置するための空間である。副気密室は、バルブ等によって、2つの上気密室(上気密室302a,302b)と下気密室304とに分離される。上気密室302aと上気密室302bは、通気的に接続されており、通気動作上、これらは1つの気密室として扱うことができる。
【0132】
内容器は、3つの部材グループ(上部隔壁、中部隔壁及び下部隔壁)を含む。下部隔壁は、プローブ下部隔壁218の内側の上方に設置されて固定されている。中部隔壁は、下部隔壁の上方に設置されて固定されている。上部隔壁は、中部隔壁の上方に設置されて固定されている。各部材グループは、相互にOリングシール(図14中、黒色で塗り潰された部分)を介して接続又は固定されている。中部隔壁及び下部隔壁は、下気密室304の隔壁を構成している。上部隔壁及び中部隔壁は、上気密室302a,302bの隔壁を構成している。以下、上部隔壁、中部隔壁及び下部隔壁の各構成について説明する。
【0133】
まず、上部隔壁について説明する。上部隔壁は、二連筒身250、上リンク262a,262b、下リンク264a,264b、上通気管266及び上バルブ268を含む。上部隔壁は、上気密室302a,302bを主気密室300から通気的に遮断する。
【0134】
二連筒身250は、2つの筒身によって構成されている。具体的には、二連筒身250は、第1筒身250aと第2筒身250bとを含む。第1筒身250aは、チューニング用可変コンデンサ234に対して電気的に接続されている。第2筒身250bは、バランス用可変コンデンサ236に対して電気的に接続されている。それら2つの筒身が、並列に配置されている。
【0135】
第1筒身250aは、ほぼ同一の内径を有する円筒形状の複数の部材(上から下に順に、トップ端子受具252a、上絶縁管254a、ボトム端子受具256a、下絶縁管258a、上二連シリンダ260)が重ねられて一体化された複合部材である。第1筒身250aは、その内側に上端が閉じられ下端が開放された円柱状の空間を有する。この空間が上気密室302aに対応する。この円柱状の空間(上気密室302a)は、ほぼ一定の直径を有する。この空間の直径は、追加部材110の外径よりもわずかに大きい。これにより、追加部材110が上気密室302a内を移動することが可能となる。第1筒身250aは、NMRプローブの外部から挿入された追加部材110を機械的に保持し、追加部材110をタンク回路に対して電気的に接続する機能を備えている。
【0136】
第2筒身250bは、ほぼ同一の内径を有する円筒形状の複数の部材(上から下に順に、トップ端子受具252b、上絶縁管254b、ボトム端子受具256b、下絶縁管258b、上二連シリンダ260)が重ねられて一体化された複合部材である。第2筒身250bは、その内側に上端が閉じられ下端が開放された円柱状の空間を有する。この空間が上気密室302bに対応する。この円柱状の空間(上気密室302b)は、ほぼ一定の直径を有する。この空間の直径は、追加部材110の外径よりもわずかに大きい。これにより、追加部材110が上気密室302b内を移動することが可能となる。第2筒身250bは、NMRプローブの外部から挿入された追加部材110を機械的に保持し、追加部材110をタンク回路に対して電気的に接続する機能を備えている。
【0137】
トップ端子受具252a,252bは、円柱形状の部材である。トップ端子受具252a,252bの下端面の内側には、板バネ構造の凹部が形成されている。この凹部には、追加部材110のトップ端子116の凸部1161が嵌合される。トップ端子受具252a,252bの下端面は、それぞれ上絶縁管254a,254bの上端面に接着によって気密的に固定されている。表面抵抗及び接点抵抗を低く保つために、トップ端子受具252a,252bは、例えば金メッキ処理が施された無酸素銅によって構成されていてもよい。
【0138】
上絶縁管254a,254bは、比較的短尺の円筒形状の部材である。上絶縁管254a,254bの上端面は、それぞれトップ端子受具252a,252bの下端面に接着によって気密的に固定されている。上絶縁管254a,254bの下端面は、それぞれボトム端子受具256a,256bの上端面に接着によって気密的に固定されている。トップ端子受具252a,252bとボトム端子受具256a,256bとの間を電気的及び熱的に絶縁するために、上絶縁管254a,254bは、例えばGFRP及びセラミックによって構成されている。
【0139】
ボトム端子受具256a,256bは、円筒形状の部材である。その円筒の内周面には、板バネが設けられている。追加部材110が、その板バネによって挟まれて保持される。ボトム端子受具256a,256bの下端面は、下絶縁管258a,258bの上端に接着されている。表面抵抗及び接点抵抗を低く保つために、ボトム端子受具256a,256bは、例えば金メッキ処理が施された無酸素銅によって構成されていてもよい。
【0140】
下絶縁管258a,258bは、比較的長尺の円筒形状の部材である。下絶縁管258a,258bは、NMRプローブの中間の円筒部に相当する。下絶縁管258a,258bの下端面は、上二連シリンダ260の上面に接着によって気密的に固定されている。ボトム端子受具256a,256bと上二連シリンダ260との間を電気的及び熱的に絶縁するために、下絶縁管258a,258bは、例えばGFRP又はセラミックによって構成されている。
【0141】
上二連シリンダ260は凸状の部材であり、凸部が上を向くように配置されている。また、上二連シリンダ260は、並列された2つの上下貫通孔を有する。各貫通孔は円筒形状を有する。磁場の均一性に影響を与えないように、上二連シリンダ260は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。上二連シリンダ260の上端面は、下絶縁管258a,258bの下端面に接着によって気密的に固定されている。上二連シリンダ260の下端フランジ面は、二連ゲートバルブ筐体276の上部外面に対してOリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。
【0142】
トップ端子受具252aの上端面には、上リンク262aが設けられている。上リンク262aは板状の部材であり、トップ端子受具252aの上端面とチューニング用可変コンデンサ234の端子との間を電気的に接続する。タンク回路冷却時において、第1筒身250aに働く収集応力によってステージ242を下向きに引っ張る力が加わるのを緩和するために、上リンク262aは、例えば、可塑性を有する金メッキ銅箔(例えば厚みが0.05mm〜0.1mm)によって構成されていることが好ましい。
【0143】
ボトム端子受具256aの外周面には、下リンク264aが設けられている。下リンク264aは板状の部材であり、ボトム端子受具256aの外周面とステージ242との間を電気的に接続する。これにより、ボトム端子受具256aとチューニング用可変コンデンサ234とが電気的に接続される。タンク回路冷却時において、第1筒身250aに働く収縮応力によってステージ242を下向きに引っ張る力が加わるのを緩和するために、下リンク264aは、例えば、可塑性を有する金メッキ銅箔(例えば厚みが0.05mm〜0.1mm)によって構成されていることが好ましい。
【0144】
トップ端子受具252bの上端面には、上リンク262bが設けられている。上リンク262bは板状の部材であり、トップ端子受具252bの上端面とバランス用可変コンデンサ236の端子との間を電気的に接続する。タンク回路冷却時において、第2筒身250bに働く収縮応力によってステージ242を下向きに引っ張る力が加わるのを緩和するために、上リンク262bは、例えば、可塑性を有する金メッキ銅箔(例えば厚みが0.05mm〜0.1mm)によって構成されていることが好ましい。
【0145】
ボトム端子受具256bの外周面には、下リンク264bが設けられている。下リンク264bは板状の部材であり、ボトム端子受具256bの外周面とステージ242との間を電気的に接続する。これにより、ボトム端子受具256bとバランス用可変コンデンサ236とが電気的に接続される。タンク回路冷却時において、第2筒身250bに働く収縮応力によってステージ242を下向きに引っ張る力が加わるのを緩和するために、下リンク264bは、例えば、可塑性を有する金メッキ銅箔(例えば厚みが0.05mm〜0.1mm)によって構成されていることが好ましい。
【0146】
上通気管266は、例えばフレキシブルな管(例えばベローズ管)である。上通気管266の一方端は、上二連シリンダ260の内側空間、すなわち上気密室302a,302bに対して気密的に接合されている。上通気管266の他方端は、主気密室300に対して開放されている。
【0147】
上バルブ268は、上通気管266に気密的に設置されたバルブである。上バルブ268は、一例として2ポート式の手動バルブである。もちろん、上バルブ268は、それ以外のバルブであってもよい。上バルブ268を操作することによって、上通気管266の通気ラインを結合又は遮断することができる。
【0148】
次に、中部隔壁について説明する。中部隔壁は、二連ゲートバルブ270、下通気管278及び下バルブ282を含む。中部隔壁は、機械的操作によって上気密室302a,302bと下気密室304とを通気的に遮断又は結合する。
【0149】
二連ゲートバルブ270は、ゲート272、レバー274及び二連ゲートバルブ筐体276からなる複合部材である。
【0150】
二連ゲートバルブ筐体276は、上部において、上部隔壁に含まれる上二連シリンダ260にOリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。二連ゲートバルブ筐体276は、下部において、下部隔壁に含まれる中二連シリンダ290にOリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。利用者は、レバー274を介してゲート272をスライドさせることにより、上気密室302a,302bと下気密室304との間を通気的に結合又は遮断することができる。
【0151】
ゲート272は、二連ゲートバルブ筐体276の内側に設置された板状の部材である。ゲート272は、例えば長方形の形状を有する。ゲート272は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。ゲート272の上面はフランジ面である。最奥部までゲート272がスライドされると、ゲート272は、二連ゲートバルブ筐体276の上面の内側に設置されたOリングシールに対して押し付けられる。これにより、上気密室302a,302bと下気密室304とが通気的に遮断される。
【0152】
レバー274は例えば丸棒であり、二連ゲートバルブ筐体276の大気側に設置された二重Oリングシールの貫通孔を貫通して設けられている。レバー274の一方端は、大気側に突き出している。レバー274の他方端は、二連ゲートバルブ筐体276の内側において、ゲート272の側面と機械的に接続されている。レバー274は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。
【0153】
二連ゲートバルブ筐体276は、フランジ面を有する直方体形状の箱である。二連ゲートバルブ筐体276の内側の空間に、ゲート272と、それに機械的に接続されたレバー274の一部と、が収容されている。二連ゲートバルブ筐体276は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。二連ゲートバルブ筐体276は、NMRプローブの側面から横方向に差し込まれ、フランジ面において、その側面に対してOリングシールを介して固定されている。二連ゲートバルブ筐体276は、その奥に並列された円筒形状の2つの上下貫通孔を有している。各貫通孔は、上二連シリンダ260の各貫通孔および中二連シリンダ290の各貫通孔に対して同軸に配置されている。二連ゲートバルブ筐体276の各貫通孔の径のサイズは、追加部材110の外径のサイズよりも大きく、追加部材110を支障なく通すことができるサイズである。また、二連ゲートバルブ筐体276の各貫通孔の径のサイズは、輸送用容器120の外径のサイズよりも小さい。これにより、輸送用容器120は、二連ゲートバルブ筐体276を通過することができない。
【0154】
下通気管278は、例えばフレキシブルな管(例えばベローズ管)である。下通気管278の一方端は、二連ゲートバルブ筐体276の内部に対して気密的に接続されている。下通気管278の他方端は、NMRプローブの外部に設置された副真空ポート280に繋がっている。下通気管278は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。
【0155】
副真空ポート280は、NMRプローブの外側に設置され、真空ポンプ等の減圧ラインが取り付けられる。
【0156】
下バルブ282は、下通気管278に通気的に設置されたバルブである。下バルブ282は、一例として2ポート式の手動バルブである。もちろん、下バルブ282は、それ以外のバルブであってもよい。下バルブ282を操作することによって、下通気管278の通気ラインを結合又は遮断することができる。
【0157】
次に、下部隔壁について説明する。下部隔壁は、中二連シリンダ290、下二連シリンダ292及び挿入口栓294a,294bを含む。下部隔壁は、下気密室304を大気から通気的に遮断する。
【0158】
中二連シリンダ290は凸状の部材であり、凸部が下を向くように配置されている。また、中二連シリンダ290は、並列された2つの上下貫通孔を有する。各貫通孔は円筒形状を有する。中二連シリンダ290は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。中二連シリンダ290は、上部において、中部隔壁に含まれる二連ゲートバルブ筐体276に、Oリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。中二連シリンダ290の下部の内周面に、Oリング用の溝が形成されており、その溝にOリングシールが設けられている。中二連シリンダ290の貫通孔に下二連シリンダ292が挿入されると、中二連シリンダ290の内周面は、Oリングシールを介して、下二連シリンダ292の外周面に対して気密的に接続される。これにより、気密性が確保される。
【0159】
下二連シリンダ292は凸状の部材であり、凸部が上を向くように配置されている。下二連シリンダ292は、並列された2つの上下貫通孔を有する。各貫通孔は円筒形状を有する。下二連シリンダ292は、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。下二連シリンダ292は、下部において、プローブ下部隔壁218の底面の内側にOリングシールを介して機械的に固定されている。これにより、気密性が確保される。下二連シリンダ292の内周面の上部に、Oリング用の溝が形成されており、その溝にOリングシールが設けられている。下二連シリンダ292の各貫通孔に挿入口栓294a,294bが挿入されると、下二連シリンダ292の内周面は、Oリングシールを介して挿入口栓294a,294bの外周面に対して気密的に接続される。下二連シリンダ292の内周面の下部には、挿入口栓294a,294bを固定するためのネジ溝が形成されている。挿入口栓294a,294bの外周面の下部には、下二連シリンダ292のネジ溝に対応するネジ溝が形成されている。また、下二連シリンダ292の各貫通孔の径のサイズは、輸送用容器120の外径のサイズよりもわずかに大きい。これにより、下二連シリンダ292の各貫通孔内に輸送用容器120が挿入される。このとき、下二連シリンダ292の内周面は、輸送用容器120の外周面に対してOリングシールを介して気密的に接続される。
【0160】
挿入口栓294a,294bは、例えば円柱状の部材である。挿入口栓294a,294bの外周面の上部は平滑に形成されている。外周面の下部には、ネジ溝が形成されている。このネジ溝は、上述したように、下二連シリンダ292に形成されているネジ溝に対応する。挿入口栓294a,294bは、例えば非磁性ステンレス鋼材によって構成されている。挿入口栓294a,294bの底面には、例えばツマミ部が設けられている。挿入口栓294a,294bをNMRプローブの外部から回転操作することにより、大気と下気密室304との間を通気的に結合又は遮断することができる。
【0161】
上記構成において、タンク回路(送受信コイル232及び可変コンデンサ)、トップ端子受具252a,252b、上絶縁管254a,254b、ボトム端子受具256a,256b、及び、下絶縁管258a,258bのボトム端子受具256a,256bとの接合部付近は、極低温に冷却される。これらは被冷却部材に相当し、図示しない冷却機構によって冷却される。この冷却機構は第1実施形態と同じ機構が採用される。また、第1実施形態と同様に、低温運転時の不具合を避ける機構が採用されている。すなわち、第1筒身250a,250bは、中部隔壁及び下部隔壁に対する機械的な固定を通じて、プローブ下部隔壁218に対してのみ機械的に固定され、ステージ242に対しては機械的に固定されていない。また、トップ端子受具252a,252bとタンク回路とは、上リンク262a,262bによって電気的に接続されている。ボトム端子受具256a,256bとタンク回路とは、下リンク264a,264bによって電気的に接続されている。これにより、低温運転時における機械的な不具合を回避することができる。
【0162】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の手順に従って、追加部材110をタンク回路に追加し、又は、タンク回路から追加部材110を取り外すことができる。
【0163】
仮に、単筒身式のNMRプローブ(例えば第1実施形態に係るNMRプローブ)を2台設置した場合には、バルブの数が増大し、追加部材の追加及び取り外しに要する操作が煩雑となる。また、部品点数が増大し、NMRプローブが占めるスペースが増大する。第2実施形態によると、単筒身式のNMRプローブと同じバルブ数で、一度の操作によって2個の追加部材をタンク回路に追加することが可能となる。また、一体化可能な部材を一体化することにより、NMRプローブ内の省スペース化を図ることが可能となる。
【0164】
なお、第2実施形態では、2つの追加部材110が同時にタンク回路に追加されてもよいし、1つの追加部材110がタンク回路に追加されてもよい。例えば、測定の用途に応じて追加部材110の数を変えればよい。また、2つの追加部材110は一体化されていてもよいし、それぞれ別体化されていてもよい。
【0165】
なお、3つ以上の筒身をNMRプローブに設けることにより、3個以上の追加部材110がタンク回路に追加されるようにしてもよい。
【0166】
ここで、図15を参照して、第2実施形態に係るタンク回路について説明する。図15は、電気回路図である。
【0167】
図15(a)には、追加部材110が追加されていない状態のタンク回路が示されている。伝送線路240は、回路要素(デュプレクサ247a及びプリアンプ247b)を介して、送信ポート246又は受信ポート248に電気的に接続されている。これにより、NMRプローブの外部に設置されたNMR分光計との間でラジオ波の送信及びNMR信号の受信が行われる。デュプレクサ247a及びプリアンプ247bの機能は、第1実施形態に係るデュプレクサ47a及びプリアンプ47bの機能と同じである。
【0168】
図15(a)に示されているタンク回路において、送受信コイル232のインダクタンスをLとし、チューニング用可変コンデンサ234、バランス用可変コンデンサ236、及び、マッチング用可変コンデンサ238のキャパシタンスをそれぞれ、C,C,Cとしたとき、インピーダンスを最小にする共振周波数fは、上記の式(1)で表される。インダクタンスLは固定値であるため、同調可能な周波数のレンジは、可変値であるC及びCによって制限されることになる。
【0169】
図15(b)には、追加部材110a,110bの回路構成が示されている。符号112a,112bは追加素子(コンデンサ)を表している。符号116a,116bはトップ端子を表している。符号118a,118bはボトム端子を表している。
【0170】
図15(c)には、追加部材110a,110bが追加された状態のタンク回路が示されている。例えば、追加部材110aのトップ端子116aがトップ端子受具252aに電気的に接続され、ボトム端子118aがボトム端子受具256aに電気的に接続されている。これにより、チューニング用可変コンデンサ234に対して、追加素子112a(コンデンサ)が並列に接続される。また、追加部材110bのトップ端子116bがトップ端子受具252bに電気的に接続され、ボトム端子118bがボトム端子受具256bに電気的に接続されている。これにより、バランス用可変コンデンサ236に対して、追加素子112b(コンデンサ)が並列に接続される。追加素子112aのキャパシタンスをCとし、追加素子112bのキャパシタンスをCとすると、このタンク回路において、インピーダンスを最小にする共振周波数fは、以下の式(3)で表される。
【数3】
【0171】
インダクタンスLは固定値であるため、同調可能な周波数のレンジは、可変値である(C+C)及び(C+C)によって制限されることになる。追加素子112a,112bを交換することにより、C及びCは任意の固定値を取り得るため、多様な周波数レンジに対して同調を取ることが可能となる。
【0172】
一方、タンク回路のインピーダンスの特性インピーダンスZに対する整合は、マッチング用可変コンデンサ238によって調整される。
【0173】
タンク回路においては、送受信コイルの両端子がグランドに対してコンデンサを介して接続される。ここで、一方端子に接続されているコンデンサの容量と、他方端子に接続されているコンデンサの容量と、が一致した条件で共振すると、送受信コイルの両端における高周波電圧の振幅の強度差が最大化する。これにより、送受信コイルに流れる電流が最大化し、結果として、送受信コイルの中心に誘起される磁場が最大化し、試料のNMR信号の送受信効率が最大化する。
【0174】
第2実施形態では、送受信コイル232の両端のそれぞれに接続された追加素子(2つの追加素子)を交換して同調及び整合を図ることができる。これにより、単にチューニングレンジを広域帯に拡大できるだけではなく、NMR信号の送受信効率を最適化することも可能となる。
【0175】
次に、タンク回路のチューニングレンジを拡大させることで得られる効果について説明する。第1及び第2実施形態に係るNMRプローブの測定対象として期待される試料として、非常に低い周波数帯域に属する核種が挙げられる。無機物核種の多くは低磁気回転比をもっており、そのラーモア周波数は、特許文献1に記載の技術が設定できる最低周波数(30MHz)よりも低い周波数帯域に属することが多い。こうした核種はNMR感度が非常に悪い。第1及び第2実施形態に係るNMRプローブを活用することにより、その感度の向上が期待される。
【0176】
可変コンデンサで可変可能な容量範囲が一定であるため、タンク回路の共振周波数が低くなるほど、チューニングレンジは狭くならざるを得ない。そうした帯域は、例えば、1MHzや2MHzおきにチューニングレンジを設定するようなこともあり得る。第1及び第2実施形態では、追加素子112を任意に変えられるため、個別の核種に対して最適なチューニングレンジを設定することが可能となり、低周波数帯域に属する核種に対する適用が期待できる。
【0177】
第1及び第2実施形態によると、NMR信号の検出感度(S/N)を従来技術よりも3〜4倍に向上させることができる。検出感度が3〜4倍になるということは、同じ感度のNMR測定を行った場合に、測定時間を1/9〜1/16倍に短縮できるということになる。従来であれば1カ月かかった測定を、2日以内に終了することも可能である。
【0178】
例えば、第1及び第2実施形態に係る検出系冷却型NMRプローブを使用してLiを測定した場合、従来技術に係るNMRプローブの測定感度に対して4倍以上の感度が得られた。また、本実施形態係るNMRプローブを用いて、極めて短期間のうちに複数の測定条件に従ってLi−Li2次元距離相関NMR測定を行い、代表的なリチウム電池材料であるLiCoOの電子構造情報に関して、実用的な測定時間で新たな知見が得られた。
【0179】
Liに限らず、多くの核種、例えば、47Ti(触媒等に含まれる核種)、33S(機能性材料やゴム等に含まれる核種)、14N(有機分子に多く含まれる核種)等は、低感度で膨大な測定時間を要する核種である。そのため、これらの核種は、これまで実用的見地から測定されることが困難であった。本実施形態に係るNMRプローブを用いることにより、これらの核種についても、実用的な測定時間で測定することが期待される。このように、本実施形態に係るNMRプローブは、有機物だけでなく、無機物や複合材料への適用が期待される。
【0180】
なお、第1及び第2実施形態の変形例として、非冷却型のNMRプローブが用いられてもよい。また、主気密室及び副気密室が大気に開放されたNMRプローブ、つまり、真空状態ではないNMRプローブが用いられてもよい。これらのNMRプローブにおいても、挿入部を静磁場発生装置150のボア152内に挿入した状態で、追加部材をNMRプローブに追加することが可能となる。
【0181】
また、追加部材を輸送する手段として、スティック130の代わりに、ワイヤー、車輪又はベルト等の部材が用いられてもよい。
【0182】
なお、第1及び第2実施形態に係るNMRプローブに、特許文献1に記載されたコンデンサスイッチを適用してもよい。つまり、NMRプローブ内に、容量の異なる複数のコンデンサを備えたコンデンサスイッチが設けられていてもよい。例えば、当該コンデンサスイッチを利用することによりタンク回路のチューニングレンジを変更し、それでは対応できない場合に、NMRプローブの外部から追加部材110を追加することにより、タンク回路のチューニングレンジを更に拡張することが可能となる。
【符号の説明】
【0183】
10 挿入部、12 外容器、32 送受信コイル、34 チューニング用可変コンデンサ、36 バランス用可変コンデンサ、38 マッチング用可変コンデンサ、50 筒身、52 トップ端子受具、56 ボトム端子受具、62 上リンク、64 下リンク、72 ゲート、94 挿入口栓、100 主気密室、102 上気密室、104 下気密室、110 追加部材、120 輸送用容器、130 スティック。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15