【実施例】
【0028】
<a.(メタ)アクリル樹脂(A−1〜A−19)の合成>
(合成例1)
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器及び滴下装置を備えた4つ口フラスコに酢酸イソブチルを150質量部仕込み、窒素気流中で撹拌しながら90℃温度まで昇温した。
メチルメタクリレート(MMA)47質量部、n−ブチルメタクリレート(BMA)35質量部、ラウリルメタクリレート(LMA)10質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)7質量部、メタクリル酸(MAA)1質量部、及び、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)((株)日本ファインケム製、ABN―E)3質量部からなる混合液を、滴下装置を用いて2時間かけて前記フラスコ中に滴下して重合反応を行った。
混合液を全て滴下したのち、90℃のまま3時間撹拌を続けて重合反応を行い、(メタ)アクリル樹脂(A−1)を合成した。加熱を止めて室温まで冷却し、(A−1)樹脂を含む樹脂組成物(固形分比率40質量%)を得た。
得られた(メタ)アクリル樹脂(A−1)の水酸基価は30mgKOH/g、重量平均分子量は15,000であった。なお、使用したモノマーの配合比から理論計算した(メタ)アクリル樹脂(A−1)のガラス転移温度(Tg)は44℃であった。
【0029】
(合成例2〜19)
下記表1及び2記載の配合比に従い、合成例1と同様の方法で(メタ)アクリル樹脂(A−2)〜(A−19)を合成し、各(メタ)アクリル樹脂を含む樹脂組成物を得た。
なお、得られた各樹脂の水酸基価、重量平均分子量、ガラス転移温度の求め方は以下の通りである。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
(メタ)アクリル樹脂(A−1〜A−19)の合成に際し、上記合成例1に記載した以外は以下に示すものを使用した。
tBMA・・・t−ブチルメタクリレート
ライトエステルL−7・・・炭素数12〜13の長鎖アルキルを有する(メタ)アクリレートの混合物(共栄社化学(株)製)
SA・・・ステアリルアクリレート
HEA・・・ヒドロキシエチルアクリレート
【0033】
表1、2に記載した、「ガラス転移温度」の計算方法について説明する。
<ガラス転移温度の計算>
(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度は、当該樹脂の原料として用いられるモノマー成分に含まれているモノマーからなる単独重合体のガラス転移温度(Tg)(絶対温度:K)とモノマーの質量分率から、式(I):
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・+Wn/Tgn (I)
〔式中、Tgは、求めようとしている(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度(K)、W1、W2、W3・・・・Wnは、それぞれ各モノマーの質量分率、Tg1、Tg2、Tg3・・・・Tgnは、それぞれ各モノマーの質量分率に対応するモノマーからなる単独重合体のガラス転移温度(K)を示す〕で表されるフォックス(Fox)の式に基づいて求めることができる。
本発明においては、(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度は、式(I)に基づいて求められたガラス転移温度を意味する。なお、特殊モノマー、多官能モノマーなどのようにガラス転移温度が不明のモノマーについては、ガラス転移温度が判明しているモノマーのみを用いてガラス転移温度を求めた。
【0034】
表1、2に記載した、「水酸基価」の測定方法や、「数平均分子量」と「重量平均分子量」の測定機器と測定条件について説明する。
(水酸基価の測定)
共栓三角フラスコ中に試料(樹脂の溶液:約50%)約1gを精密に量りとり、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解する。更にアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mlとした溶液)を正確に5ml加え、約1時間撹拌した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間持続した。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定した。
水酸基価は次式により求めた。水酸基価は樹脂の乾燥状態の数値とした(単位:mgKOH/g)。
水酸基価(mgKOH/g)=[{(b−a)×F×28.25}/S]/(不揮発分濃度/100)+D
ただし、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
b:空実験の0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
D:酸価(mgKOH/g)
【0035】
(数平均分子量、重量平均分子量の測定)
以下のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム測定条件で行った。
使用機器:HLC8220GPC(東ソー(株)製)
使用カラム:TSKgel SuperHZM−M、TSKgel GMHXL−H、TSKgel G2500HXL、TSKgel G5000HXL(東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
標準物質:TSKgel 標準ポリスチレンA1000、A2500、A5000、F1、F2、F4、F10(東ソー(株)製)
検出器:RI
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1ml/min
【0036】
塗料組成物の作製
<実施例1>
(メタ)アクリル樹脂(A−1)を含む樹脂組成物を250質量部(固形分としては100質量部)、アクリル変性塩素化ポリオレフィン(日本製紙(株)製スーパークロン223M、固形分35質量%)を40質量部(固形分としては14質量部)、イソシアネート化合物(旭化成(株)製TPA−100:ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレートタイプ、イソシアネート基含有率23質量%、固形分100質量%)10質量部を混合し、さらに酢酸イソブチルで希釈して塗料組成物(固形分比率20質量%)を作製した。
【0037】
<実施例2〜21、及び、比較例1〜21>
表3〜6記載の配合比に従い、実施例1と同様に実施例2〜21、比較例1〜21の各塗料組成物を得た。
実施例及び比較例の各塗料組成物の調製に際し、以下に示すものを使用した。
スーパークロン223M:日本製紙(株)製のアクリル変性塩素化ポリオレフィン、固形分35質量%
スーパークロン224H:日本製紙(株)製のアクリル変性塩素化ポリオレフィン、固形分40質量%
スーパークロン260F:日本製紙(株)製のアクリル変性塩素化ポリオレフィン、固形分35質量%
アクリディックCL−408:DIC(株)製のアクリル変性塩素化ポリオレフィン、固形分60質量%
TPA−100:旭化成(株)製のヘキサメチレンジイソシアネートのヌレートタイプ、イソシアネート基含有率23質量%、固形分100質量%
スーパークロン822:日本製紙(株)製の酸変性塩素化ポリオレフィン、塩素含有率24.5%、固形分20質量%
スーパークロン3221S:日本製紙(株)製の酸変性塩素化ポリオレフィン、塩素含有率21.0%、固形分100質量%
スーパークロン3228S:日本製紙(株)製の酸変性塩素化ポリオレフィン、塩素含有率28.0%、固形分100質量%
なお、表3〜6の配合量は固形分で示す。
【0038】
<試験板の作成>
イソプロパノールにて脱脂したポリプロピレン製の基材(サイズ150mm×100mm×1.5mm)に、各塗料組成物をスプレーで塗装し、10分間室温で静置した後、80℃で40分間加熱硬化させ、厚み20μmの塗膜を有する各試験板を作製した。
なお、後述する光沢性の評価については、前記で使用した塗料組成物とは別に光沢性評価用の塗料組成物(塗料組成物の固形分100質量部に対して、アルミペースト7質量部(固形分比)を添加したもの)を用意し、これを使用して同様にポリプロピレン製の基材にスプレーで塗装し、加熱硬化させて光沢性評価用の試験板を作製した。
なお、アルミペーストは東洋アルミニウム(株)製のアルペースト1109M(アルミニウム顔料、固形分65質量%)を使用した。
【0039】
<評価>
実施例1〜21及び比較例1〜21の塗料組成物の「密着性」「光沢性」「耐温水性」「耐揮発油性」「耐酸性」「耐アルカリ性」「耐ガソリン性」「貯蔵安定性」評価について、その評価方法と評価基準について以下説明し、これら評価結果を表3〜6に示した。
(密着性)
JIS K5600−5−6「塗膜の機械的性質―付着性」に準拠したクロスカット法により付着性試験を行い、ポリプロピレン基材に対する塗膜の密着性を下記評価基準に基づいて評価した。
なお、評価は5が良好で、点数が低くなるにつれて悪い結果を示している。
この評価が4以上のものを、密着性に優れた塗料組成物であると判断した。
5: カットのふちが完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれがない
4: カットの交差点における塗膜の小さな剥がれがあり、剥離部分の面積が5%未満である
3: 剥離部分の面積が、5%以上15%未満である
2: 剥離部分の面積が、15%以上35%未満である
1: 剥離部分の面積が、35%以上である
【0040】
(光沢性)
光沢性評価用の試験板を使用し、光沢計(BYK−Gardner GmbH製)を用いて60°光沢値を測定した。この光沢値が高いほど、塗膜外観が良好であることを示す。
この光沢値が90以上のものを、光沢性に優れた塗料組成物であると判断した。
【0041】
(耐温水性)
JIS K5600−6−2「塗膜の化学的性質―耐液体性(水浸せき法)」に準拠した方法により、試験板を40℃の温水に10日間浸漬させた。10日間経過後、温水から試験板を取り出して室温で24時間乾燥させたのち、塗膜外観を目視で観察した。評価は下記の基準で行った。また、温水浸漬後の試験板について、前述の付着性試験を行い、密着性の評価も行った。
○: ブリスター、白化、膨れ、割れ、剥がれなど外観異常なし
×: ブリスター、白化、膨れ、割れ、剥がれなど外観異常あり
【0042】
(耐揮発油性、耐酸性、耐アルカリ性)
JIS K5600−6−1「塗膜の化学的性質―耐液体性(一般的方法)」に準拠した方法により、試験板を各溶媒中に浸漬させたあとの塗膜の状態を観察することで、耐揮発油性、耐酸性、及び、耐アルカリ性、の各評価を行った。各評価の試験条件は下記の通りとした。
耐揮発油性・・・試験板を浸漬させる溶媒はヘプタンを使用した。浸漬温度は25℃、浸漬時間は3時間とした。
【0043】
耐揮発油性は、試験板の塗膜の状態(フクレ)を下記の基準で目視評価した。
なお、数値が高いほど良好な結果を表す。
この評価が4以上のものを、耐揮発油性に優れた塗料組成物であると判断した。
5: 塗膜フクレが全く生じていない。
4: 試験塗膜に対する塗膜フクレの部分の面積が、1%未満と判断される。
3: 試験塗膜に対する塗膜フクレの部分の面積が、1%以上3%未満と判断される。
2: 試験塗膜に対する塗膜フクレの部分の面積が、3%以上7%未満と判断される。
1: 試験塗膜に対する塗膜フクレの部分の面積が、7%以上と判断される。
【0044】
耐酸性・・・試験板を浸漬させる溶媒は0.1N塩酸を使用した。浸漬温度は25℃、浸漬時間は24時間とした。
耐アルカリ性・・・試験板を浸漬させる溶媒は0.1N水酸化ナトリウム水溶液を使用した。浸漬温度は55℃、浸漬時間は4時間とした。
【0045】
耐酸性、耐アルカリ性は、試験実施前後の色度の変化率を測定した。分光色差計(CM−3700A、コニカミノルタ(株)製)を用いて波長460nmの反射率及び色度(L値、a値、b値)を測定した。
更に得られた色度の測定結果から試験前後の色度の変化率(ΔE*ab)を式1で求めた。
ΔE*ab=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2)1/2・・・(式1)
求めたΔE*abを下記の基準で評価した。
なお、数値が高いほど良好な結果を表す。
この評価が4以上のものを、耐酸性又は耐アルカリ性に優れた塗料組成物であると判断した。
5: ΔEが1未満である。
4: ΔEが1以上2未満である。
3: ΔEが2以上3未満である。
2: ΔEが3以上5未満である。
1: ΔEが5以上である。
【0046】
(耐ガソリン性)
ガソリンを十分に浸み込ませた脱脂綿を、各試験板の塗膜の上にのせ、500gの荷重をかけた状態で20往復ラビングさせた後の塗膜の状態を目視観察した。
塗膜の剥がれの評価を下記の基準に基づいて評価した。
なお、数値が高いほど良好な結果を表す。
この評価が4以上のものを、耐ガソリン性に優れた塗料組成物であると判断した。
5: 剥がれの大きさが10倍に拡大しても視認できない
4: 剥がれの大きさが1mm未満
3: 剥がれの大きさが1mm以上3mm未満
2: 剥がれの大きさが3mm以上10mm未満
1: 剥がれの大きさが10mm以上
【0047】
(貯蔵安定性(−20℃))
JIS K5600−2−7の「4.低温安定性」に記載されている方法に準じ、本発明のc.ポリイソシアネート化合物を添加する前の各塗料組成物、すなわち、本発明のa.成分とb.成分及び必要に応じd.成分を混合した組成物を、−20℃で7日間保存し、7日間経過後の状態を観察して下記の基準に基づいて評価を行った。
○: 流動性良好
×: 結晶物生成、増粘が見られる
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
本発明に沿った具体例である実施例1〜21によれば、密着性、耐温水性、耐揮発油性、耐酸性、耐アルカリ性、耐ガソリン性、貯蔵安定性に優れ、かつ光沢が高いという効果を奏した。
これに対して、b.(メタ)アクリル変性塩素化ポリオレフィンの含有量が少ない比較例1や、b.(メタ)アクリル変性塩素化ポリオレフィンを含有しない比較例11によれば、密着性に劣り、逆にアクリル変性塩素化ポリオレフィンの含有量が多い比較例2及び3によれば、光沢性が低く、耐揮発油性、耐ガソリン性、貯蔵安定性に劣る結果となった。
(メタ)アクリル樹脂が長鎖アルキル基を含有しない比較例4によれば、密着性に劣っていた。さらに(メタ)アクリル樹脂の水酸基価が低い比較例5〜7、15〜17によれば、少なくとも耐揮発油性及び耐ガソリン性に劣り、場合により耐温水性、耐酸性、耐アルカリ性にも劣る結果となった。逆に(メタ)アクリル樹脂の水酸基価が高過ぎる比較例8〜10、12〜14によれば、少なくとも耐温水性としての密着性に劣る結果となった。同じく(メタ)アクリル樹脂の水酸基価が高い比較例20及び21によれば、耐揮発油性、耐ガソリン性及び貯蔵安定性に劣る結果となった。
また(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度が低い比較例18によれば、耐揮発油性及び耐ガソリン性に劣る結果となった。(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度が高すぎる比較例19によれば、密着性に劣る結果となった。
c.ポリイソシアネート化合物を使用しない比較例5によれば、耐揮発油性、耐酸性、耐アルカリ性及び耐ガソリン性に劣る結果となった。