特許第6528067号(P6528067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6528067膜形成用樹脂組成物、積層フィルムおよび当該積層フィルムが貼り付けられた物品
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  • 特許6528067-膜形成用樹脂組成物、積層フィルムおよび当該積層フィルムが貼り付けられた物品 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6528067
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】膜形成用樹脂組成物、積層フィルムおよび当該積層フィルムが貼り付けられた物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20190531BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20190531BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20190531BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20190531BHJP
   C08G 18/62 20060101ALI20190531BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20190531BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   C09D175/04
   C09D133/14
   C09D183/04
   C08G18/10
   C08G18/62 016
   B32B27/40
   B32B27/30 A
【請求項の数】15
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2018-45055(P2018-45055)
(22)【出願日】2018年3月13日
【審査請求日】2018年5月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小野 晋
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓之
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴文
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−056268(JP,A)
【文献】 特開2017−110126(JP,A)
【文献】 特開平08−120046(JP,A)
【文献】 特開2002−212255(JP,A)
【文献】 特開平02−142867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/10
C08G 18/00− 18/87
C08G 71/00− 71/04
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
B05D 1/00− 7/26
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子が露出した物品を保護するための膜形成用樹脂組成物であって、
ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)と、多官能イソシアネート(C)とを含み、
当該樹脂組成物を80℃で16時間硬化させた硬化膜を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときの貯蔵弾性率の極小値E'min、当該極小値E'minにおける絶対温度T、および気体定数Rから、以下の数式(1)により求められる架橋密度nが、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである、膜形成用樹脂組成物。
数式(1):n=E'min/ (3RT)
【請求項2】
請求項1に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物を80℃で16時間硬化させた硬化膜を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときに求められるガラス転移温度が−20〜60℃であり、かつ、前記ガラス転移温度における前記硬化膜の損失正接(tanδ)が0.5以上である、膜形成用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)の重量平均分子量が1000〜50000である、膜形成用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル系樹脂(B)の水酸基価が10〜200mgKOH/gである、膜形成用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A)が、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリエーテルからなる群より選択される少なくともいずれかの部分構造を有する、膜形成用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル系樹脂(B)が、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリエーテルからなる群より選択される少なくともいずれかの部分構造を有する、膜形成用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A)および/または(メタ)アクリル系樹脂(B)が、ポリシロキサン部分構造を有する、膜形成用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
さらに、ヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物(D)を含む、膜形成用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
さらに、前記ポリウレタン樹脂(A)とは異なる成分としてポリオール(E)を含む、膜形成用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
さらに、溶剤を含む、膜形成用樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物中に含まれる溶剤は有機溶剤のみである、膜形成用樹脂組成物。
【請求項12】
有機高分子が露出した物品の表面を保護するための積層フィルムであって、
基材層と、保護層とを備え、
前記保護層は、ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)と、多官能イソシアネート(C)とを含む膜形成用樹脂組成物を硬化させたものであり、
前記保護層を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときの貯蔵弾性率の極小値E'min、当該極小値E'minにおける絶対温度T、および気体定数Rから、以下の数式(1)により求められる架橋密度nが、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである、積層フィルム。
数式(1):n=E'min/(3RT)
【請求項13】
請求項12に記載の積層フィルムであって、
前記保護層を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときに求められるガラス転移温度が−20〜60℃であり、かつ、前記ガラス転移温度における前記保護層の損失正接(tanδ)が0.5以上である、積層フィルム。
【請求項14】
請求項12または13に記載の積層フィルムであって、
前記基材層の材質が、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロース、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネートおよび熱可塑性ポリイミドからなる群より選ばれる少なくともいずれかである、積層フィルム。
【請求項15】
請求項1214のいずれか1項に記載の積層フィルムが貼り付けられた物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用樹脂組成物、積層フィルムおよび当該積層フィルムが貼り付けられた物品に関する。より具体的には、有機高分子が露出した物品を保護するための膜形成用樹脂組成物、有機高分子が露出した物品を保護するための積層フィルム、および、当該積層フィルムが貼り付けられた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料・コーティングの技術分野において、傷の防止や傷の自己修復を意図した塗料やコーティングに関する研究・開発がこれまで様々になされてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、5000〜30000の重量平均分子量を有するアクリルポリオールと、300〜1500の数平均分子量を有するポリカーボネートジオールと、アクリルポリオールおよびポリカーボネートジオールにおける水酸基の合計に対して、0.6〜1.5モル当量のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとを含有する塗料組成物が記載されている。また、この塗料組成物でプラスチック成形品の表面に塗膜を形成した場合、擦り傷をつけた塗膜が元の状態に戻る復元性を有する旨が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、有機ポリイソシアネートと、アクリルポリオールと、ポリカーボネートポリオールとを反応させて得られる自己修復型塗料組成物が記載されている。ここで、有機ポリイソシアネートは3.0以上の官能基数をもつ変性ポリイソシアネートであり、また、ポリカーボネートポリオールの数平均分子量は250〜750である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−207953号公報
【特許文献2】特開2016−108347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車やバイクの車体の塗装面に貼り付けて、車体の塗装面を飛び石や汚れから保護する「ペイントプロテクションフィルム」(以下、略してPPFとも表記する)が盛んに検討されている。
PPFは、曲面が多い車体に貼り付ける必要がある。よって、通常、PPFは、変形性のある樹脂(代表的には熱可塑性ポリウレタン)で構成される。そして、車体の塗装面への貼り付け時には、PPFを車体表面の曲面に合わせて変形させながら、塗装面とすき間なく貼り付けられる。
【0007】
PPFは、車体の塗装面を外力や汚れから保護するものであるが、車体の塗装面を単に保護するだけでなく、PPFそれ自体の耐傷性を高めるといった、PPFの高機能化が考えられる。具体的には、PPFの、車体の塗装面と接する面の反対側に、耐傷性などの機能を有する機能性樹脂膜を設けることが考えられる。
【0008】
ここで、PPFは、上述のように、車体の塗装面への貼り付け時には、車体の曲面に合わせるように伸ばしながら(変形させながら)貼り付けられる。よって、PPFに機能性樹脂膜を設ける場合、その樹脂膜も伸びやすく、破断などが生じにくいように設計する必要がある。
しかしながら、機能性樹脂膜を伸びやすく設計した場合、機能性樹脂膜による耐傷性が十分得られない懸念がある。具体的には、耐傷性は、機能性樹脂膜がある程度「硬い」こと(変形しにくいこと)により発現する性能であると考えられるところ、機能性樹脂膜を伸びやすく(変形しやすく)設計すると、十分な耐傷性が得られない可能性がある。一方、機能性樹脂膜を硬く(伸びにくく)設計した場合、車体の塗装面への貼り付け時の変形により、樹脂膜が破断してしまうなどの可能性がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。すなわち、膜としたときに、伸びやすく、かつ、耐傷性が良好な、膜形成用樹脂組成物を提供することを本発明の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々の検討を通じ、膜形成用樹脂組成物を構成する成分として、ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)と、多官能イソシアネート(C)とを用いることにより、伸びと耐傷性とを両立させやすい傾向にある旨の知見を得た。
また、別の検討の結果、組成物を熱硬化させた硬化膜の「架橋密度」が、伸びや耐傷性などの性能に関係していることを知見した。
これら知見に基づき、本発明者らは、熱硬化させたときの架橋密度が一定の数値範囲内にある膜形成用樹脂組成物を新たに設計した。
具体的には、本発明者らは、以下の発明を完成させ、上記課題を達成できることを見出した。
【0011】
本発明によれば、以下が提供される。
【0012】
有機高分子が露出した物品を保護するための膜形成用樹脂組成物であって、
ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)と、多官能イソシアネート(C)とを含み、
当該樹脂組成物を80℃で16時間硬化させた硬化膜を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときの貯蔵弾性率の極小値E'min、当該極小値E'minにおける絶対温度T、および気体定数Rから、以下の数式(1)により求められる架橋密度nが、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである、膜形成用樹脂組成物。
数式(1):n=E'min/ (3RT)
【0013】
また、本発明によれば、以下が提供される。
【0014】
有機高分子が露出した物品の表面を保護するための積層フィルムであって、
基材層と、保護層とを備え、
前記保護層は、ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)と、多官能イソシアネート(C)とを含む膜形成用樹脂組成物を硬化させたものであり、
前記保護層を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときの貯蔵弾性率の極小値E'min、当該極小値E'minにおける絶対温度T、および気体定数Rから、以下の数式(1)により求められる架橋密度nが、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである、積層フィルム。
数式(1):n=E'min/(3RT)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、膜としたときに、伸びやすく、かつ、耐傷性が良好な、膜形成用樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例における粘弾性測定の結果をグラフ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「a〜b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1〜5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」の意である。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0018】
本明細書において「水酸基価」とは、JIS K 0070「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」の、「7.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて求められるものである。なお、水酸基価の算出に際しては、酸価の値も必要であるが、酸価の値についても、同JIS規格の「3.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて求められる。
【0019】
<膜形成用樹脂組成物>
本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、有機高分子が露出した物品を保護するために用いられ、ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)と、多官能イソシアネート(C)とを含む(場合により、さらに、後述のヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物(D)やポリオール(E)などを含んでもよい)。そして、この樹脂組成物を80℃で16時間硬化させた硬化膜を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときの貯蔵弾性率の極小値E'min、E'minにおける絶対温度Tおよび気体定数Rから、以下の数式(1)により求められる架橋密度nが、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである。
数式(1):n=E'min/(3RT)
【0020】
なお、以下、ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)を「樹脂(A)」とも表記する。また、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)を「樹脂(B)」とも表記する。
【0021】
このような膜形成用樹脂組成物により、膜としたときに、伸びやすく、かつ、耐傷性が良好とできる理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測することができる。なお、以下の推測は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0022】
本実施形態の膜形成用樹脂組成物中には、多官能イソシアネート(C)と反応(架橋反応)しうる樹脂として、樹脂(A)と樹脂(B)という、異なる樹脂2種が含まれている。
【0023】
この「異なる樹脂2種が含まれる」ということにより、本実施形態の膜形成用樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した場合、当該硬化膜中には、ミクロに見ると、架橋密度が低い部分(架橋点間分子量が大きい部分)と、架橋密度が高い部分(架橋点間分子量が小さい部分)とが存在することになると考えられる。
【0024】
このうち、前者の部分が存在することにより、硬化膜が適度にやわらかくなり、膜の伸びやすさが担保されると考えられる。一方、後者の部分が存在することにより、硬化膜が適度に硬くて緻密になり、耐傷性が担保されると考えられる。
そして、これら、架橋密度が低い部分と、架橋密度が高い部分の両方が、それぞれ適量存在することで、膜としたときに、伸びやすく、かつ、耐傷性を良好にできると考えられる。
この「架橋密度が低い部分と、架橋密度が高い部分の両方が、それぞれ適量存在する」状態を、膜全体の平均として定量的に表現すると、架橋密度nが1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmの範囲となると考えられる。
【0025】
言い方を変えると、硬化膜全体としてのマクロな架橋密度nが1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmの範囲となるように、異なる樹脂2種と多官能イソシアネートとを架橋させて、(ミクロに見ると)架橋密度が低い部分と架橋密度が高い部分とを含む膜を形成することで、膜としたときに、伸びやすく、かつ、耐傷性を良好とできるとも言える。
【0026】
耐傷性について補足すると、本実施形態の膜形成用樹脂組成物を用いて硬化膜を形成した場合、様々なタイプの傷に対する耐傷性が良好である。ここで「様々なタイプの傷」とは、例えば、スチールウールなどの硬い繊維で膜を擦ったときにできるような「浅く細い連続的な傷」や、真鍮ブラシなどの先端が細いものによる「ひっかき傷」などである。
様々なタイプの傷に対する耐傷性の良さの理由は必ずしも明らかではないが、膜中に架橋密度が高い部分と低い部分とが混在しうることが関係していると推測される。
【0027】
架橋密度nを上記範囲とする方法は特に限定されないが、例えば樹脂(A)や樹脂(B)の分子量を調整する、樹脂(A)や樹脂(B)が有するヒドロキシ基の量を調整する(樹脂(A)や樹脂(B)の水酸基価を調整する)、多官能イソシアネート(C)の官能基数(官能基の量)を調整する、組成物中の各成分の含有量を適切に調整する、等の方法を挙げることができる。
【0028】
なお、本実施形態の膜形成用樹脂組成物に、何らかの形でポリシロキサン構造を含ませることで、膜としたときの汚れの付きにくさ(耐汚染性)等を良好とすることができる。
組成物中にポリシロキサン構造を含ませる方法は特に限定されないが、例えば、樹脂(A)および/または樹脂(B)にポリシロキサン部分構造を導入する、ヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物(D)を組成物中に別添する、といった方法を挙げることができる(これらの詳細については後述する)。
【0029】
また、本実施形態の膜形成用樹脂組成物に、何らかの形でポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリエーテルからなる群より選択される少なくともいずれかの柔軟な化学構造を含ませることで、膜(硬化膜)としたときに、単に耐傷性を良好とできるだけでなく、傷の自己修復性(傷がついたとしてもその傷が経時により消えるまたは目立たなくなる性質)も良好とすることができる。
【0030】
組成物中に上記の部分構造のいずれかを含ませる方法としては、例えば、樹脂(A)および/または樹脂(B)としてこれら部分構造が導入されたものを用いる、後述するポリオール(E)としてこれら部分構造を有するものを用いる、等の方法が挙げられる(これらの詳細については後述する)。
【0031】
以下、本実施形態の膜形成用樹脂組成物が含む成分(または含んでもよい成分)や、物性、性状などについて具体的に説明する。
【0032】
[ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)(樹脂(A))]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)(樹脂(A))を含む。
【0033】
樹脂(A)は、ウレタン結合を複数有し、かつ、ヒドロキシ基を有する樹脂であれば、特に限定されない。樹脂(A)は、通常、イソシアネート基を有する化合物と、ポリオールとの重付加反応により得ることができる。樹脂(A)は、ポリオールに由来する末端構造などの形で、ヒドロキシ基を有する。
以下、樹脂(A)の原料である、イソシアネート基を有する化合物(以下、イソシアネート化合物とも表記する)およびポリオールについて説明する。
【0034】
・イソシアネート化合物
イソシアネート化合物は、多官能であること、すなわち、1分子中に2以上のイソシアネート基(脱離性基で保護されたイソシアネート基を含む)を有する化合物であることが好ましい。イソシアネート化合物の官能基数は、より好ましくは1分子あたり2〜6個、更に好ましくは1分子あたり2〜4個、特に好ましくは1分子あたり2個である。
【0035】
イソシアネート化合物の有するイソシアネート基の量は、当該化合物全体に対するイソシアネート基(−NCO)の質量の割合で表現することができる。イソシアネート化合物全体に対するイソシアネート基の質量の割合(これをNCO%とも表記する)は、例えば10〜60%、好ましくは15〜55%である。
【0036】
イソシアネート化合物としては、リジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びトリメチルヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は2,6)−ジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及び1,3−(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族ジイソシアネート、並びに、リジントリイソシアネート等の3官能以上のものが挙げられる。
【0037】
また、イソシアネート化合物としては、いわゆるイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体、アロファネート体などのイソシアネート多量体や、イソシアネート化合物を多価アルコール又は低分子量ポリエステル樹脂に付加したものを挙げることもできる。
【0038】
なお、イソシアネート化合物としては、ジオールと反応する限り、いわゆるブロックイソシアネートの形態であってもよい。
【0039】
イソシアネート化合物としては、特に、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を挙げることができる。また、タケネートD−178NL(三井化学社製)などのアロファネート変性ポリイソシアネートを挙げることもできる。
イソシアネート化合物としては、とりわけ、イソホロンジイソシアネートなど、共役環構造を含まないものが、経時による色相変化が少ない等の観点で好ましい。
【0040】
・ポリオール
ポリオールが1分子中に有するヒドロキシ基の個数は、通常2以上、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4、特に好ましくは2である(つまり、ここでのポリオールは、特に好ましくはジオールである)。
【0041】
ポリオールは、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクタムポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールからなる群より選択される少なくともいずれかであることが好ましい。
これらのいずれかのポリオールを用いて樹脂(A)を合成することで、樹脂(A)中に柔軟な分子骨格を導入することができる。これにより、単なる耐傷性のみならず、傷の自己修復性も高められると考えられる。
【0042】
上記のうちでも、ポリオールとしては、特に、ポリカーボネートポリオールまたはポリエステルポリオールが好ましく、とりわけ、ポリカーボネートジオールまたはポリエステルジオールが好ましい。
【0043】
ポリカーボネートポリオールについては、一分子中に、−O−(C=O)−O−で表されるカーボネート基および2以上のヒドロキシ基を有する化合物であれば、特に制限なく使用可能である。
ポリカーボネートポリオールについてより具体的には、例えば、汎用される1,6−ヘキサンジオールを基本骨格として有するものの他に、既知の方法で製造されるポリカーボネートポリオールを挙げることができる。例えば、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネート、ジアルキルカーボネート等のカーボネート成分あるいはホスゲンと、脂肪族ポリオール成分とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが挙げられる。ここで、脂肪族ポリオール成分としては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールまたは1,6−ヘキサンジオール等の直鎖状グリコール類;1,2−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、エチルブチルプロパンジオール等の分岐グリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエーテル系ジオール類を例示することができる。これらの中でも、直鎖状グリコール類が、樹脂(A)の適度な柔軟性(ひいては傷の修復性)の観点から好ましい。
【0044】
ポリエステルポリオールについては、一分子中に、エステル結合および2以上のヒドロキシ基を有する化合物であれば、特に制限なく使用可能である。
ポリエステルポリオールについてより具体的には、ジカルボン酸の少なくとも1種と、多価アルコール、多価フェノール、またはこれらのアルコキシ変性物等のポリオールの少なくとも1種とを、エステル化して得られる末端水酸基含有エステル化合物を挙げることができる。
【0045】
ジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタル酸、p−オキシ安息香酸、p−(ヒドロキシ)安息香酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライ酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等のジカルボン酸等を挙げることができる。
【0046】
多価アルコールの例としては、1,3−プロパンジオール、2−メチルー1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,2−ジメチル−1,4−ブタンジオール、2−エチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチルー1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−1,7−ヘプタンジオール、3−メチル−1,7−ヘプタンジオール、4−メチル−1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,8−オクタンジオール、3−メチル−1,8−オクタンジオール、4−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールプロパン、1,1,1−トリメチロールプロパンエチレングリコール、グリセリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等を挙げることができる。
多価アルコールとしては、例えば分岐アルカンジオールが、樹脂(A)の適度な柔軟性(ひいては傷の修復性)や、適度な膜強度などの観点から好ましい。
【0047】
多価フェノールの例としては、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ヘキシルレゾルシン、トリヒドロキシベンゼン、ジメチロールフェノール等を挙げることができる。
【0048】
樹脂(A)は、好ましくは、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリエーテルからなる群より選択される少なくともいずれかの部分構造を有する。このような部分構造を有することで、単なる耐傷性(傷の付きにくさ)のみならず、傷の自己修復性を高められると考えられる。
樹脂(A)が上記の部分構造を有するようにするためには、例えば、前述のように、樹脂(A)の原料のポリオールとして、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクタムポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールからなる群より選択される少なくともいずれかのポリオールを用いればよい。
【0049】
樹脂(A)は、一態様として、好ましくはポリシロキサン部分構造を有する。樹脂(A)がこのような部分構造を有することで、汚れの付着の一層の抑制、汚れのしみこみの一層の抑制など、耐汚染性をより高めることができると考えられる。
【0050】
樹脂(A)にポリシロキサン部分構造を導入する方法は特に限定されないが、例えば、樹脂(A)を合成する際に、ポリオールの一部として、ヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物を用いることができる。このようなポリシロキサン化合物は、信越化学工業株式会社や東レ・ダウコーニング社などから「カルビノール変性シリコーンオイル」として販売されているものを用いることができる。
【0051】
樹脂(A)の水酸基価は、好ましくは10〜200mgKOH/gであり、より好ましくは30〜150mgKOH/gであり、さらに好ましくは40〜120mgKOH/gである。この範囲とすることで、前述の「架橋密度が低い部分と架橋密度が高い部分とを含む膜」をより形成しやすくなり、結果、伸びやすさや耐傷性や一層良好にできると考えられる。
なお、樹脂(A)は、主としてその末端にヒドロキシ基を有する。よって、例えば、樹脂(A)の平均分子量を調整することで、樹脂(A)の水酸基価を調整することができる。
【0052】
樹脂(A)の数平均分子量は、好ましくは500〜25000であり、より好ましくは750〜10000であり、さらに好ましくは1000〜5000である。また、樹脂(A)の重量平均分子量は、好ましくは1000〜50000であり、より好ましくは1500〜20000であり、さらに好ましくは2000〜10000である。数平均分子量や重量平均分子量を適切に調整することで、膜としたときの伸びやすさと耐傷性を一層良好とすることができる。
【0053】
樹脂(A)については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
組成物中の樹脂(A)の含有量は、組成物の不揮発成分全体に対して、好ましくは1〜90質量%であり、より好ましくは2〜85質量%であり、さらに好ましくは5〜80質量%である。
【0054】
[ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)(樹脂(B))]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)(樹脂(B))を含む。樹脂(B)がコポリマーである場合、その態様は、ランダム、ブロック、グラフト等のいずれであってもよい。
ヒドロキシ基は、樹脂(B)の側鎖、主鎖、末端など、樹脂(B)のいずれの位置に存在してもよい。合成のやりやすさ、水酸基価の調整のしやすさ、樹脂(B)中に均一にヒドロキシ基を存在させやすいこと等の理由により、ヒドロキシ基は、少なくとも樹脂(B)の側鎖に存在することが好ましい。
【0055】
樹脂(B)は、好ましくは、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリエーテルからなる群より選択される少なくともいずれかの部分構造を有する。樹脂(B)が、これらのような柔軟な部分構造を有することで、傷の自己修復性の効果が得られると考えられる。
樹脂(B)にこのような部分構造を導入するには、例えば、上記の部分構造のいずれかを有するモノマーを重合すればよい(詳細は後述)。また、別の方法として、高分子反応により樹脂(B)に上記の部分構造のいずれかを導入してもよい。
【0056】
樹脂(B)は、一態様として、好ましくはポリシロキサン部分構造を有する。樹脂(B)がこのような部分構造を有することで、汚れの付着の一層の抑制、汚れのしみこみの一層の抑制など、耐汚染性をより高めることができると考えられる。
また、樹脂(B)はヒドロキシ基を有するため、膜中で多官能イソシアネート(C)と反応して架橋構造を形成する。このことにより、樹脂(B)自身や樹脂(B)に含まれるポリシロキサン部分構造のいわゆるブリードアウト(膜表面への析出)の問題を低減することもできると考えられる。
ポリシロキサン部分構造を樹脂(B)に導入する方法等は特に限定されないが、例えば、樹脂(B)に、後述の構造単位(b−1)を導入する方法などを挙げることができる。
【0057】
以下、樹脂(B)が好ましく含む構造単位について、構造単位に対応するモノマー構造を具体的に挙げつつ説明する。
【0058】
・構造単位(b−1)
樹脂(B)は、好ましくは、ポリシロキサン部分構造を側鎖に有する(メタ)アクリレート構造単位(構造単位(b−1)とも表記する)を含む。樹脂(B)は、構造単位(b−1)に該当する構造単位を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
構造単位(b−1)としては、例えば、以下一般式(SX−1)、(SX−2)または(SX−3)で表されるモノマーに由来する構造単位を挙げることができる。
【0059】
【化1】
【0060】
上記一般式(SX−1)、(SX−2)および(SX−3)において、
は、水素原子又はメチル基であり、
Lは、2価の連結基であり、
複数のRは、各々独立に、水素原子または1価の有機基であり、
は、複数存在する場合は各々独立に、水素原子または1価の有機基であり、
は水素原子または1価の有機基であり、
l、m、n、p、qおよびrは、各々独立に、0〜1000の整数である。
【0061】
Lの2価の連結基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、エステル基、エーテル基、およびこれらのうち2つ以上が連結された基などを挙げることができる。Lとして好ましくはアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキレン基である。
なお、アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0062】
は、1価の有機基であることが好ましい。Rの1価の有機基の具体例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基などを挙げることができる。このうち、Rとして好ましくはアルキル基またはアリール基であり、より好ましくはメチル基またはフェニル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0063】
は、1価の有機基であることが好ましい。Rの1価の有機基の具体例およびその好ましいものについては、Rと同様である。
は、1価の有機基であることが好ましい。Rの1価の有機基の具体例およびその好ましいものについては、Rと同様である。
l、m、n、p、qおよびrについては、好ましくは1〜1000、より好ましくは6〜300である。
【0064】
樹脂(B)が、構造単位(b−1)を含む場合、その含有量は、樹脂(B)全体に対して、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜25質量%、さらに好ましくは3〜20質量%である。
【0065】
・構造単位(b−2−1)
樹脂(B)は、好ましくは、側鎖にヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート構造単位(構造単位(b−2−1)とも表記する)を含む。樹脂(B)は、構造単位(b−2−1)に該当する構造単位を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
構造単位(b−2−1)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を挙げることができる。
【0066】
構造単位(b−2−1)の含有量は、樹脂(B)全体に対して、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜30質量%、さらに好ましくは0〜25質量%である。
【0067】
・構造単位(b−2−2)
樹脂(B)は、好ましくは、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリエーテルからなる群より選択される少なくともいずれかの部分構造を側鎖に有する(メタ)アクリレート構造単位(構造単位(b−2−2)とも表記する)を含む。
【0068】
構造単位(b−2−2)としては、一般式CH=CR−COO−R'で表されるモノマー(Rは水素原子またはメチル基、R'はポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリエーテルからなる群より選択される少なくともいずれかの部分構造を含む基)に由来する構造単位を好ましく挙げることができる。
樹脂(B)がこの構造単位を含む場合、1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0069】
構造単位(b−2−2)に対応するモノマーの具体例を列挙すると、株式会社ダイセルの商品名「プラクセルF」シリーズや、エチレンオキシド付加モル数3〜20のメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、等を挙げることができる。
【0070】
なお、構造単位(b−2−2)は、側鎖にヒドロキシ基を含むことが好ましい。例えば、構造単位(b−2−2)は、前述の一般式のR'の末端がヒドロキシ基であるモノマーに由来することが好ましい。
ここで、ある構造単位が、構造単位(b−2−1)と構造単位(b−2−2)の両方に該当する場合には、当該構造単位は構造単位(b−2−2)に該当するものとして扱う。
【0071】
構造単位(b−2−2)の含有量は、樹脂(B)全体に対して、好ましくは0〜70質量%、より好ましくは0〜65質量%、さらに好ましくは0〜60質量%である。
【0072】
なお、水酸基価の調整などの観点から、樹脂(B)は、構造単位(b−2−1)および構造単位(b−2−2)からなる群より選ばれる1種または2種以上の構造単位を含むことが好ましい。
具体的には、構造単位(b−2−1)と構造単位(b−2−2)との合計量は、樹脂(B)全体に対して、好ましくは2〜70質量%、より好ましくは6〜65質量%、さらに好ましくは8〜60質量%である。
【0073】
樹脂(B)は、水酸基価の調整、柔軟性やガラス転移温度の調整などの観点から、上記以外の構造単位を含んでもよい。
【0074】
・構造単位(b−3)
例えば、樹脂(B)は、一般式CH=CR−COO−R''で表されるモノマー(Rは水素原子またはメチル基、R''はアルキル基、単環または多環のシクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基)に由来する構造単位(以下、構造単位(b−3)とも表記する)を含んでもよい。樹脂(B)がこの構造単位を含む場合、1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0075】
上記モノマーの具体例としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、R''が炭素数1〜8のアルキル基であるものが好ましく、R''が1〜6のアルキル基であるものがより好ましく、R''が1〜4のアルキル基であるものがさらに好ましい。
【0076】
構造単位(b−3)の含有量は、樹脂(B)全体に対して、好ましくは0〜90質量%、より好ましくは10〜85質量%、さらに好ましくは20〜80質量%である。
【0077】
樹脂(B)は、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な、(メタ)アクリル系モノマーではないモノマーに由来する構造単位を含んでもよい。例えば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系モノマー、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸モノマーなどに由来する構造単位を含んでもよい。
【0078】
ただし、樹脂(B)の柔軟性、他成分との相溶性、溶剤溶解性などの観点から、樹脂(B)中の(メタ)アクリル系モノマーではないモノマーに由来する構造単位の量は、好ましくは樹脂(B)全体の50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは0である。
【0079】
樹脂(B)の水酸基価は、好ましくは10〜200mgKOH/gであり、より好ましくは30〜150mgKOH/gであり、さらに好ましくは40〜120mgKOH/gである。この数値範囲とすることで、樹脂(B)と多官能イソシアネート(C)とが適度に反応し、前述の「架橋密度が低い部分と架橋密度が高い部分とを含む膜」をより形成しやすくなり、結果、伸びやすさや耐傷性を一層良好にできると考えられる。
【0080】
樹脂(B)の数平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは1000〜50000であり、より好ましくは2000〜30000であり、さらに好ましくは3000〜20000である。また、(メタ)アクリル系樹脂(B)の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは2000〜100000であり、より好ましくは4000〜60000であり、さらに好ましくは6000〜40000である。
なお、数平均分子量および重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算値として測定することができる。
【0081】
樹脂(B)のガラス転移温度は、好ましくは−20〜100℃であり、より好ましくは−5〜80℃である。この範囲とすることで、組成物を硬化させた硬化膜の伸びやすさや耐傷性を一層良好としうる。
なお、樹脂(B)のガラス転移温度は、種々の方法で求めることが可能であるが、例えば以下式(Foxの式として知られている)に基づいて求めることができる。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+(W/Tg)+・・・+(W/Tg
【0082】
式中、Tgは、樹脂のガラス転移温度(K)、W、W、W・・・Wは、それぞれのモノマーの質量分率、Tg、Tg、Tg・・・Tgは、それぞれ各モノマーの質量分率に対応するモノマーからなる単独重合体のガラス転移温度(K)を示す。
なお、特殊モノマー、多官能モノマーなどのようにガラス転移温度が不明のモノマーについては、ガラス転移温度が判明しているモノマーのみを用いてガラス転移温度が求められる。
【0083】
(メタ)アクリル系樹脂(B)については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
組成物中の(メタ)アクリル系樹脂(B)の含有量は、組成物の不揮発成分全体に対して、好ましくは0.5〜50質量%、より好ましくは1〜40質量%、さらに好ましくは2〜35質量%、特に好ましくは3〜30質量%である。
【0084】
[多官能イソシアネート(C)]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、多官能イソシアネート(C)を含む。
多官能イソシアネート(C)は、好ましくは2〜6官能(つまり、1分子あたり2〜6個の反応性イソシアネート基を有する)、より好ましくは2〜4官能である。多官能イソシアネート(C)の官能基数や、多官能イソシアネート(C)の分子量(質量)に対する官能基の割合などを適切に選択することで、前述の「架橋密度が低い部分と架橋密度が高い部分とを含む膜」をより形成しやすくなり、結果、伸びやすさや耐傷性を一層良好にできると考えられる。
【0085】
多官能イソシアネート(C)としては、リジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びトリメチルヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は2,6)−ジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及び1,3−(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族ジイソシアネート、並びに、リジントリイソシアネート等の3官能以上のイソシアネートを挙げることができる。イソシアネート化合物の多量体であるイソシアヌレート及びビウレット型付加物、さらにはイソシアネート化合物を多価アルコール又は低分子量ポリエステル樹脂に付加したものをイソシアネート化合物として用いることもできる。
【0086】
なお、多官能イソシアネート(C)としては、ビウレット型、イソシアヌレート型、アダクト型、アロファネート型などが知られている。本実施形態においては、いずれも用いることができるが、中でも、イソシアヌレート型のイソシアネート化合物、すなわち、イソシアヌル酸の環状骨格を有する多官能イソシアネートを用いることが好ましい。
【0087】
多官能イソシアネート(C)は、いわゆるブロックイソシアネートであってもよい。換言すると、多官能イソシアネート(C)のイソシアネート基の一部又は全部は、保護基によりブロックされた、ブロックイソシアネート基の形態であってもよい。例えば、アルコール系、フェノール系、ラクタム系、オキシム系、及び活性メチレン系などの活性水素化合物によってイソシアネート基がブロックされてブロックイソシアネート基が形成される。
【0088】
多官能イソシアネート(C)の有するイソシアネート基の量は、多官能イソシアネート(C)全体に対するイソシアネート基(−NCO)の質量の割合で表現することができる。多官能イソシアネート(C)全体に対するイソシアネート基の質量の割合(NCO%)は、好ましくは5〜50%、より好ましくは5〜30%、さらに好ましくは10〜25%である。
【0089】
多官能イソシアネート(C)の市販品としては、例えば、旭化成株式会社製のデュラネート(商品名)シリーズ、三井化学株式会社製のタケネート(商品名)シリーズ、住化バイエルウレタン株式会社製のデスモジュール(商品名)シリーズ等を用いることができる。
【0090】
多官能イソシアネート(C)については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
組成物中の多官能イソシアネート(C)の含有量は、組成物の不揮発成分全体に対して、好ましくは5〜55質量%であり、より好ましくは10〜50質量%であり、さらに好ましくは15〜45質量%である。
【0091】
[ヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物(D)(化合物(D))]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、好ましくは、上記の樹脂(A)、樹脂(B)、多官能イソシアネート(C)などとは別の成分として、ヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物(D)(以下、単に「化合物(D)」とも記載する)を含む。化合物(D)を用いることで、耐汚染性の向上などの効果を奏しうる。また、化合物(D)はヒドロキシ基を有するため、多官能イソシアネート(C)と反応可能であり、このことにより、いわゆるブリードアウトを抑制しうる。
【0092】
ここで、化合物(D)が含むポリシロキサン構造としては、ポリジメチルシロキサン構造(−Si(CH−O−)や、ポリジフェニルシロキサン構造(−Si(C−O−)などを好ましく挙げることができる。つまり、化合物(D)は、好ましくは、ポリジメチルシロキサン構造および/またはポリジフェニルシロキサン構造と、ヒドロキシ基とを有する化合物である。
化合物(D)は、好ましくは、ポリジメチルシロキサン構造を含む。
【0093】
化合物(D)としては、分子中に少なくとも1個の末端水酸基を有する、α,ω−ジヒドロキシポリジメチルシロキサン、α,ω−ジヒドロキシポリジフェニルシロキサン等を例示することができる。
また、化合物(D)としては、公知のシリコーン系表面調整剤のうち、ヒドロキシ基を有するものを用いてもよい。そのようなものの例としては、ビックケミー・ジャパン社の「BYK−370」、「BYK−375」などを挙げることができる。
【0094】
化合物(D)を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
組成物が化合物(D)を含む場合、その含有量は、組成物の不揮発成分全体に対して、好ましくは0.1〜10質量%であり、より好ましくは0.25〜5質量%であり、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。
【0095】
[ポリオール(E)]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、ポリオール(E)を含んでもよい(なお、ここでのポリオール(E)は、樹脂(A)にも樹脂(B)にも該当しないポリオールを意味する)。組成物がポリオール(E)を含むことで、多官能イソシアネート(C)との反応によって硬化膜の架橋密度を一層高められると考えられる。これにより、汚れが硬化膜内部に侵入しづらくなり、耐汚染性が向上すると考えられる。つまり、耐汚染性向上の観点ではポリオール(E)を用いることが好ましい。
なお、架橋密度を高める観点では、ポリオール(E)は、トリオールまたはテトラオールであることが好ましく、テトラオールであることがより好ましい。
【0096】
使用可能なポリオール(E)は、特に限定されない。例えば、前述の樹脂(A)の原料(モノマー)として説明されたポリオール、具体的には、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクタムポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等を用いることができる。これらは、柔軟な分子骨格により、架橋密度を高めつつも加工性(膜の伸びやすさ)を維持しやすい、傷修復性のメリットも期待できる、等の点で好ましいと考えられる。
【0097】
特に、ポリオール(E)としては、ポリカプロラクトンポリオールが好ましく、ポリカプロラクトンテトラオールが好ましい。ポリカプロラクトンポリオールとしては、例えば、株式会社ダイセルの、プラクセル200シリーズ、プラクセル300シリーズ、プラクセル400シリーズなどの商品名のものが利用可能である。
【0098】
ポリオール(E)を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
組成物がポリオール(E)を含む場合、その含有量は、組成物の不揮発成分全体に対して、好ましくは1〜80質量%であり、より好ましくは5〜70質量%であり、さらに好ましくは10〜60質量%である。
【0099】
[その他成分]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、上記以外にも種々の任意成分を含んでもよい。例えば、光開始剤、硬化促進剤(硬化触媒等)、界面活性剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、意匠性を高めるための成分(色素や艶消し剤)などを含んでもよい。
【0100】
[溶剤]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、典型的には、上述の成分を、溶剤に溶解または分散させた状態で用いる。
溶剤は、一態様として有機溶剤である。有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール(2−メチル−2−プロパノール)、tert−アミルアルコール、ダイアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤等を挙げることができる。
【0101】
溶剤を用いる場合、その使用量は特に限定されないが、組成物の固形分(不揮発成分)濃度が、例えば5〜99質量%、好ましくは10〜70質量%となるような量で用いることができる。
【0102】
[各成分の量的関係に関して]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物の調製に際しては、組成物中のヒドロキシ基とイソシアネート基の量比(「当量」などとも呼ばれる)を適切な値とすることが好ましい。これにより、所望の架橋密度や硬化物性などを得やすくなる。
【0103】
具体的には、組成物の全固形分(不揮発成分)中において、ヒドロキシ基(具体的には、樹脂(A)、樹脂(B)、ヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物(D)およびポリオール(E)が有するヒドロキシ基)に対する、多官能イソシアネート(C)のイソシアネート基の当量比(NCO/OH)が、0.5〜1.5であることが好ましく、0.8〜1.2であることが好ましい。
念のために補足しておくと、当量比とは、官能基の数の比(官能基のモル数の比)のことである。
当量比(NCO/OH)は、樹脂(A)、樹脂(B)、ヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物(D)、ポリオール(E)などの各成分の水酸基価および使用量、ならびに、多官能イソシアネート(C)のNCO%(定義は前述のとおり)および使用量から、計算することができる。
【0104】
別観点として、組成物中の多官能イソシアネート(C)以外の不揮発成分のヒドロキシ基の量(具体的には水酸基価)を調整することで、架橋構造を制御し、硬化膜としたときにより伸びやすくしたり、または、耐汚染性をより高めたりすることができる。
例えば、伸びやすさの観点では、組成物中の多官能イソシアネート(C)以外の不揮発成分の全体としての水酸基価を、40〜80mgKOH/gとすることが好ましく、50〜80mgKOH/gとすることがより好ましく、50〜70mgKOH/gとすることがさらに好ましい。
また、耐汚染性の観点では、組成物中の多官能イソシアネート(C)以外の不揮発成分の全体としての水酸基価を、80〜300mgKOH/gとすることが好ましく、85〜250mgKOH/gとすることがより好ましい。
【0105】
[物性に関して]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物を80℃で16時間硬化させた硬化膜を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときに求められるガラス転移温度は、好ましくは−20〜60℃であり、より好ましくは−10〜50℃、さらに好ましくは10〜40℃である。
また、このガラス転移温度における硬化膜の損失正接(tanδ)は、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.5〜2.5であり、さらに好ましくは0.5〜2.0である。tanδがある程度大きくなる、すなわち、粘弾性挙動における粘性の寄与がある程度大きくなるように組成物を設計することで、組成物を膜としたときに一層伸びやすくすることができると考えられる。
なお、本実施形態において、数式(1)で求められる架橋密度nは、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmであればよいが、より好ましくは1.0×10−4〜3.0×10−3mol/cm、さらに好ましくは1.0×10−4〜2.0×10−3mol/cmである。架橋密度nを適切に調整することで、伸びやすさと耐傷性をより高めることができる。
【0106】
[用途、使用法など]
本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、例えば、後述する積層フィルムの保護層を形成するための材料として用いることができる。もちろん、本実施形態の膜形成用樹脂組成物は、有機高分子が露出した物品(例えば、有機高分子を含む塗料で塗装された物品など)に直接塗布し乾燥・硬化させるなどして膜形成しても構わない。
【0107】
<積層フィルム>
本実施形態の積層フィルムは、有機高分子が露出した物品の表面を保護するための積層フィルムである。そして、基材層と、保護層とを備えている。また、この保護層を周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときの貯蔵弾性率の極小値E'min、E'minにおける絶対温度Tおよび気体定数Rから、以下の数式(1)により求められる架橋密度nが、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである。
数式(1):n=E'min/(3RT)
【0108】
ここで、「有機高分子が露出した物品の表面」とは、例えば、塗膜表面、プラスチック成型品の表面、無機材料の表面に有機高分子の薄層がコーティングされている表面などのことである。具体的には、自動車のボディの塗装面や、携帯電話・スマートフォンの表面などに、本実施形態の積層フィルムを貼り付けることで、物品の表面を傷や汚れから守ることができる。
【0109】
この積層フィルムの保護層は、典型的には、上記<膜形成用樹脂組成物>を用いて設けることができる。つまり、上述の膜形成用樹脂組成物(溶剤を含むもの)を、適当な基材(フィルム)の表面に塗布し、溶剤を乾燥させ、そして熱硬化させるなどして、基材層と保護層の2層を備える積層フィルムを得ることができる。
塗布の方法は特に限定されない。バーコーター、スプレーコーター、エアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、ディップコーター、ダイコーター等の公知の塗工装置を用いて塗布することができる。
乾燥の方法も特に限定されない。例えば、公知のフィルム塗工の乾燥技術を適宜適用することができる。
熱硬化の温度や時間は、基材層の変形などが無い範囲で適宜設定すればよい。温度は例えば40〜120℃、時間は例えば10分〜24時間である。熱硬化の方法としては、熱風や、公知のコーティングマシンの乾燥炉(ドライヤー)を用いる等の方法を挙げることができる。
【0110】
保護層の厚みは特に限定されないが、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜150μmである。厚みを適切に調整することで、貼り付け時の伸びやすさと耐傷性とを一層高度に両立させることができると考えられる。
【0111】
保護層を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときに求められるガラス転移温度は、好ましくは−20〜60℃であり、より好ましくは−10〜50℃、さらに好ましくは10〜40℃である。また、このガラス転移温度における保護層の損失正接(tanδ)は、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.5〜2.5であり、さらに好ましくは0.5〜2.0である。保護層のtanδがある程度大きくなる、すなわち、粘弾性挙動における粘性の寄与がある程度大きくなるように保護層を設計することで、保護層の伸びやすさを一層高められると考えられる。
なお、本実施形態において、数式(1)で求められる架橋密度nは、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmであればよいが、より好ましくは1.0×10−4〜3.0×10−3mol/cm、さらに好ましくは1.0×10−4〜2.0×10−3mol/cmである。架橋密度nを適切に調整することで、伸びやすさと耐傷性をより高めることができる。
【0112】
基材層の材質は、特に限定されず、加工性(伸びやすさ)や耐久性などの観点から適宜選択することができる。例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロース、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート、熱可塑性ポリイミドどの熱可塑性樹脂を挙げることができる。特に、熱可塑性のポリウレタンが、加工性(伸びやすさ)の観点から好ましい。
基材層は、典型的には実質透明であるが、意匠性などの観点から、着色されていてもよい。
【0113】
基材層の厚みは、好ましくは30〜250μm、より好ましくは50〜200μmである。厚みを適切に調整することで、貼り付け時の伸びやすさとや耐傷性を一層高度に両立させることができると考えられる。
【0114】
積層フィルムは、基材層と保護層との少なくとも2層で構成されるが、これら2層以外の層を備えていてもよい。例えば、積層フィルムの物品への密着性や接着性を高めるための層や、物品に積層フィルムを貼り付ける前に積層フィルム自体を保護するための層などがあってもよい。
【0115】
本明細書の冒頭で述べた事項と関連するが、本実施形態の積層フィルムは、例えば、ペイントプロテクションフィルムとして、車体表面の塗装面に貼り付けることで、傷防止や汚れ防止などの効果を得ることができる。また、携帯電話やスマートフォンの表面に貼り付けても、同様に傷防止や汚れ防止などの効果を得ることができる。
【0116】
車体への貼り付けについてより具体的に述べると、積層フィルムの基材層の側を車体の塗装面の側にして、車体の塗装面の曲面にあわせて変形させながら(伸張させながら)、当該塗装面にすき間なく積層フィルムを貼り付けることで、車体の塗装を外力や汚れなどから保護することができる。この際、本実施形態の積層フィルムは、保護層の「伸び」が良好で、破断しにくいため、車体の曲面にあわせてきれいに貼り付けることができる。
【0117】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
有機高分子が露出した物品を保護するための膜形成用樹脂組成物であって、
ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)と、多官能イソシアネート(C)とを含み、
当該樹脂組成物を80℃で16時間硬化させた硬化膜を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときの貯蔵弾性率の極小値E'min、当該極小値E'minにおける絶対温度T、および気体定数Rから、以下の数式(1)により求められる架橋密度nが、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである、膜形成用樹脂組成物。
数式(1):n=E'min/ (3RT)
2.
1.に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物を80℃で16時間硬化させた硬化膜を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときに求められるガラス転移温度が−20〜60℃であり、かつ、前記ガラス転移温度における前記硬化膜の損失正接(tanδ)が0.5以上である、膜形成用樹脂組成物。
3.
1.または2.に記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)の重量平均分子量が1000〜50000である、膜形成用樹脂組成物。
4.
1.〜3.のいずれか1つに記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル系樹脂(B)の水酸基価が10〜200mgKOH/gである、膜形成用樹脂組成物。
5.
1.〜4.のいずれか1つに記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A)が、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリエーテルからなる群より選択される少なくともいずれかの部分構造を有する、膜形成用樹脂組成物。
6.
1.〜5.のいずれか1つに記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル系樹脂(B)が、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリエーテルからなる群より選択される少なくともいずれかの部分構造を有する、膜形成用樹脂組成物。
7.
1.〜6.のいずれか1つに記載の膜形成用樹脂組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A)および/または(メタ)アクリル系樹脂(B)が、ポリシロキサン部分構造を有する、膜形成用樹脂組成物。
8.
1.〜7.のいずれか1つに記載の膜形成用樹脂組成物であって、
さらに、ヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物(D)を含む、膜形成用樹脂組成物。
9.
1.〜8.のいずれか1つに記載の膜形成用樹脂組成物であって、
さらに、前記ポリウレタン樹脂(A)とは異なる成分としてポリオール(E)を含む、膜形成用樹脂組成物。
10.
有機高分子が露出した物品の表面を保護するための積層フィルムであって、
基材層と、保護層とを備え、
前記保護層を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときの貯蔵弾性率の極小値E'min、当該極小値E'minにおける絶対温度T、および気体定数Rから、以下の数式(1)により求められる架橋密度nが、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである、積層フィルム。
数式(1):n=E'min/(3RT)
11.
10.に記載の積層フィルムであって、
前記保護層を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときに求められるガラス転移温度が−20〜60℃であり、かつ、前記ガラス転移温度における前記保護層の損失正接(tanδ)が0.5以上である、積層フィルム。
12.
10.または11.に記載の積層フィルムであって、
前記基材層の材質が、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロース、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネートおよび熱可塑性ポリイミドからなる群より選ばれる少なくともいずれかである、積層フィルム。
13.
10.〜12.のいずれか1つに記載の積層フィルムが貼り付けられた物品。
【実施例】
【0118】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0119】
<ポリウレタン樹脂の合成>
温度計、サーモスタット、撹拌装置および還流冷却器を備えた4つ口フラスコを準備した。このフラスコに、以下を仕込み、攪拌した。このとき、以下(1)のジオール化合物と以下(2)のジイソシアネート化合物とのモル比(ジオール/ジイソシアネート)は1.6であった。
(1)1,6−ヘキサンジオールを原料として得られるポリカーボネートジオール(宇部興産株式会社、ETERNACOLL(登録商標)UH−50、水酸基価:224mgKOH/g、分子量:500) 78g
(2)イソホロンジイソシアネート(NCO%:38%) 22g
(3)酢酸エチル 10g
(4)ジブチル錫ジラウレート 0.01g
【0120】
撹拌しながら、フラスコの内温を75℃まで昇温し、その後、同温度で撹拌しながら8時間保持した。そして、赤外線吸収スペクトル装置(Perkin Elmer製FT−IR Spectrum100)によりスペクトルを測定し、イソシアネート基が完全に消費されたことを確認した。この確認の後、フラスコを冷却し、反応を終了させた。
【0121】
フラスコ中の反応液を酢酸エチルで希釈し、ポリウレタンポリオール(A−1)(固形分比率80質量%)を含む、ポリウレタン組成物を得た。
得られたポリウレタンポリオール(A−1)の水酸基価は64mgKOH/g、数平均分子量は2,500、重量平均分子量は5,000であった。
【0122】
ポリウレタン樹脂(A−2)〜(A−11)についても、樹脂(A−1)の合成法に準じた方法で合成した。
表1および表2に、(A−1)〜(A−11)の原料および原料の仕込み量、ならびに、得られた水酸基価、数平均分子量および重量平均分子量を示す。
なお、表1および表2の原料の欄における、a−1およびa−2の数値ならびに配合量の数値は、固形分としての量(単位:グラム)である。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
表1および表2に記載の原料の詳細は、以下のとおりである。
・ETERNACOLL(登録商標)UH−50:宇部興産株式会社製、ポリカーボネートジオール(1,6−ヘキサンジオール骨格、分子量500、水酸基価224mgKOH/g)
・クラレポリオールP−510:株式会社クラレ製、ポリエステルジオール(メチルペンタンジオール、アジピン酸骨格、分子量500、水酸基価224mgKOH/g)
・クラレポリオールP−520:株式会社クラレ製、ポリエステルジオール(メチルペンタンジオール、テレフタル酸骨格、分子量500、水酸基価224mgKOH/g)
【0126】
【表3】
【0127】
<ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂の合成>
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器及び滴下装置を備えた4つ口フラスコを準備した。このフラスコに、メチルイソブチルケトン100質量部を仕込み、110℃まで撹拌しながら加温した。
【0128】
ついで、以下を均一に混ぜた混合液を、滴下ロートより2時間かけて上記フラスコに連続滴下した。
(1)サイラプレーンFM−0721(JNC株式会社) 5質量部
(2)メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル 23質量部
(3)メタクリル酸メチル 48質量部
(4)メタクリル酸n−ブチル 23質量部
(5)メタクリル酸 1質量部
(6)1,1−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル(和光純薬工業株式会社製V−40) 2質量部
【0129】
滴下終了後、さらに110℃で4時間撹拌し、残留するモノマーを反応させた。その後、加熱を止めて室温まで冷却し、(メタ)アクリル系樹脂(B−1)を含む樹脂組成物(固形分比率50質量%)を得た。
得られた(メタ)アクリル系樹脂(B−1)の数平均分子量は6,000、重量平均分子量は24,000だった。また、前述のFoxの式に基づき、使用したモノマーの配合比から理論計算した(メタ)アクリル系樹脂(B−1)のガラス転移温度は69℃だった。さらに、水酸基価は99mgKOH/gであった。
【0130】
なお、数平均分子量と重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定、算出した。用いた装置、条件等は以下の通りである。
【0131】
・使用機器:HLC8220GPC(株式会社東ソー製)
・使用カラム:TSKgel SuperHZM−M、TSKgel GMHXL−H、TSKgel G2500HXL、TSKgel G5000HXL(株式会社東ソー製)
・カラム温度:40℃
・標準物質:TSKgel 標準ポリスチレンA1000、A2500、A5000、F1、F2、F4、F10(株式会社東ソー製)
・検出器:RI(示差屈折)検出器
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1ml/min
【0132】
(メタ)アクリル系樹脂(B−2)〜(B−4)についても、樹脂(B−1)の合成法に準じた方法で合成した。
【0133】
表4に、(メタ)アクリル系樹脂(B−1)〜(B−4)の原料および原料の仕込み量、ならびに、水酸基価、数平均分子量および重量平均分子量を示す。
なお、表4の原料の欄における、b−1、b−2およびb−3の数値ならびに配合量の数値は、固形分としての量(単位:グラム)である。
【0134】
【表4】
【0135】
表4中の原料の略称は以下を表す。
・FM−0721:JNC株式会社製、片末端メタクリレート変性ポリジメチルシロキサン、サイラプレーンFM−0721(分子量5000)
・2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
・FA5:株式会社ダイセル製、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート、プラクセルFA5(カプロラクトン5モル付加物、分子量689、水酸基価74〜84mgKOH/g)
・MMA:メタクリル酸メチル
・BMA:メタクリル酸n−ブチル
・MAA:メタクリル酸
【0136】
<膜形成用樹脂組成物の調製>
合成されたポリウレタン樹脂と、合成された(メタ)アクリル系樹脂とを、後掲の表5〜9に記載された種類および配合量(配合量は、固形分としての量である)で混合し、組成物の前駆体を得た。
この前駆体に、表5〜9に記載された多官能イソシアネート(および、一部組成物についてはポリシロキサンやポリオール)を、記載された配合量で配合した。そして、酢酸ブチルで固形分濃度を調整し、固形分濃度が50質量%の膜形成用樹脂組成物を得た。
膜形成用樹脂組成物の各成分の組成やその他の情報(水酸基価など)は、後掲の表5〜9にまとめて示す。
【0137】
<粘弾性測定用の硬化膜の作製>
上記で調製した膜形成用樹脂組成物を、ポリプロピレン板(縦10mm×横10mm×厚み2mm、JIS K 6921に準じて作成されたもの)の表面に10ミル(mil)のアプリケーターにて塗装し、室温で10分間静置した。その後、温風乾燥機で80℃、16時間の条件で硬化させた。さらにその後、室温で1時間放冷した。
以上により、膜厚60μmの、粘弾性測定用の硬化膜を得た。
【0138】
<粘弾性測定および各種物性の算出>
上記で得た膜厚60μmの硬化膜をポリプロピレン板から剥離し、幅5mm、長さ50mmの試験片を得た。この試験片を用いて、以下条件で動的粘弾性測定(貯蔵弾性率(E')、損失弾性率(E'')および損失正接(tanδ)の測定)を行った。
【0139】
・装置:動的粘弾性測定装置 RSA3(TA Instruments社製)
・測定モード:非共振強制振動法
・昇温速度:5.0℃/min
・測定間隔:12/min
・周波数:1.0Hz
・温度範囲:−40〜160℃
【0140】
この測定における損失正接(tanδ)のピークトップの温度を、硬化膜のガラス転移温度とした。また、貯蔵弾性率(E')の極小値E'min、E'minにおける絶対温度Tおよび気体定数Rから、前掲の数式(1)に基づき架橋密度nを算出した。
なお、参考までに、実施例9の組成物で作製された試験片での粘弾性測定データ(グラフ)を、図1に示す(横軸の単位がケルビンではなく摂氏になっている点、縦軸が対数目盛になっている点などに留意されたい)。
【0141】
<性能評価用の積層フィルムの作製>
上記で調製された膜形成用樹脂組成物を、厚さ150μm、辺の長さ100mm×100mmの正方形状の熱可塑性ポリウレタンフィルムに、No.34のバーコーターで塗装した。そして、80℃で16時間硬化させ、その後室温にて1時間静置し、塗膜の厚さが20μmの硬化膜を得た。このようにして得られた積層フィルムを使い、各種の性能評価を行った。
【0142】
<性能評価>
[硬化膜の伸びやすさ、加工性(伸張率の測定)]
引っ張り試験機(島津製作所製、AUTOGRAPH AGS−X)を用いて、以下の評価を行った。
【0143】
積層フィルムを幅5mmの長さ50mmの短冊状に切り取った。切り取った積層フィルムの短辺を試験機の上下のチャックで把持し、チャック間距離が10mmになるようにフィルムを設置した。
上方のチャックを、5mm/minの速さで上方向に移動させ、積層フィルムの硬化膜表面に亀裂が入った時(硬化膜表面の破断時)の変位長xおよび初期のチャック間距離10mmから、以下の式で硬化膜の伸張率(%)を算出した。
伸張率(%)=(x/初期のチャック間距離)×100
【0144】
[傷の自己修復性(25℃、真鍮ブラシ)]
温度25℃、相対湿度60RH%の雰囲気下、真鍮ブラシ(木柄真鍮ブラシ3行)を、積層フィルムの硬化膜表面に当て、500g荷重で10往復させて擦り傷をつけた。
その後、温度25度、相対湿度60RH%の雰囲気を維持し、硬化膜表面に入った傷が復元するか否か、また、傷が復元するまでの時間を測定した。そして、下記の基準により判定した。
【0145】
5:1分未満に傷が修復する。
4:1分以上10分未満に傷が修復する。
3:10分以上1時間未満に傷が修復する。
2:1時間以上24時間以内に傷が修復する。
1:24時間以内に傷が修復しない。
【0146】
[傷の自己修復性(60℃、真鍮ブラシ)]
温度25℃、相対湿度60RH%の雰囲気下、真鍮ブラシ(木柄真鍮ブラシ3行)を、積層フィルムの硬化膜表面に当て、500g荷重で10往復させて擦り傷をつけた。
その後、温度60度、相対湿度60RH%の雰囲気下に積層フィルムを置き、硬化物表面に入った傷が復元するか否か、また、傷が復元するまでの時間を測定した。そして、下記の基準により判定した。
【0147】
5:1分未満で傷が修復する。
4:1分以上10分未満で傷が修復する。
3:10分以上1時間未満で傷が修復する。
2:1時間以上24時間以内に傷が修復する。
1:24時間以内に傷が修復しない。
【0148】
[永久傷]
温度25℃、相対湿度60RH%の雰囲気下、真鍮ブラシ(木柄真鍮ブラシ3行)を、積層フィルムの硬化膜表面に当て、幅5cm、長さ5cmの範囲を、2kg荷重で5往復させて擦り傷をつけた。
その試験板を、温度25度、相対湿度60RH%の雰囲気下で24時間置き、長さ1cm以上の傷の数を目視で確認した。そして、下記の基準により判定した。
【0149】
5:傷が全くない。
4:1cm以上の傷が1本以上10本未満である。
3:1cm以上の傷が10本以上20本未満である。
2:1cm以上の傷が20本以上30本未満である。
1:1cm以上の傷が30本以上ある。
【0150】
[スチールウール耐傷性]
温度25℃、相対湿度60RH%の雰囲気下、スチールウール(No.0000)を、積層フィルムの硬化膜表面に当て、幅5cm、長さ5cmの範囲を、250g/cmの荷重で10往復させた。その後、温度25度、相対湿度60RH%の雰囲気下で24時間静置した。
ヘーズメーター(有限会社東京電色製、オートマチックヘーズメーター TC−HIIIDPK/II)を用い、積層フィルムの試験前のヘーズ値と、積層フィルムの試験後(24時間静置後)のヘーズ値を測定し、下記に示す式にて、ΔHAZEを求めた。ΔHAZEが小さいほど、スチールウールによる浅く細い連続的な傷が修復されやすいことを表す。
ΔHAZE=試験後のフィルムのヘーズ値(%)−試験前のフィルムのヘーズ値(%)
【0151】
[耐汚染性]
マジックインキを用いて耐汚染性を評価した。
温度25度、相対湿度60RH%雰囲気下で、マジックインキ・黒(寺西化学工業株式会社製)にて、積層フィルムの硬化膜表面に長さ5cmの線を描画し、5分間静置した。
その後、描画した線の状態を目視で観察した。さらにその後、ティッシュペーパで描画した線を拭き取り、積層フィルムの硬化膜表面を観察した。そして、下記の基準により判定した。
【0152】
5:インキをはじく。ふき取り後、跡が残らない、もしくは一部のみ跡が残る。
4:インキをはじく。拭き取り後、全体に描画した線の痕跡が薄く残っている。
3:インキをはじく。拭き取り後、全体に描画した線の痕跡が濃く残っている。
2:インキを全くはじかない。拭き取り後、全体に描画した線の痕跡が濃く残っている。
1:インキを全くはじかない。描画した線はまったく拭き取ることはできない。
【0153】
各実施例および比較例の膜形成用樹脂組成物の使用成分および量、ヒドロキシ基(OH基)含有成分の水酸基価、当量比(NCO/OH)、上述の方法による粘弾性測定結果(硬化膜の各種物性など)および上述の性能評価の結果を、まとめて、表5〜9に示す。
参考のため、熱可塑性ポリウレタンフィルムのみによる性能評価を表9に記載した。
【0154】
なお、比較例3については、硬化膜を得ることができなかったため、粘弾性測定および性能評価を行わなかった(比較例3の組成物は多官能イソシアネートを含まない)。
また、比較例4については、得られた硬化膜の表面にブリードアウトが発生して実用に供せる状態になかったことから、粘弾性測定および性能評価を行わなかった(ヒドロキシ基を有しない樹脂B−4が多官能イソシアネートと架橋せず、ブリードアウトしたものと考えられる)。
【0155】
【表5】
【0156】
【表6】
【0157】
【表7】
【0158】
【表8】
【0159】
【表9】
【0160】
表5〜9における「上記4成分全体としての水酸基価」とは、各組成物中における、ポリウレタン樹脂(A)、(メタ)アクリル系樹脂(B)、ポリシロキサン化合物(D)およびポリオール(E)の水酸基価を、各成分の使用量も考慮しつつ平均した水酸基価を表す。(換言すると、各組成物から、多官能イソシアネート(C)および溶剤を除いた組成物(複数成分の混合物)の水酸基価である。)
【0161】
表5〜9におけるイソシアネート化合物の詳細は以下である。
【0162】
【表10】
【0163】
表5〜9におけるポリシロキサン化合物「BYK−370」は、ビックケミー・ジャパン社の、水酸基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン(固形分25質量%、水酸基価8.8mgKOH/g)である。なお、表5〜9に記載の量は、固形分としての量である。
【0164】
表5〜9におけるポリオール化合物「プラクセル410D」は、株式会社ダイセル製のポリカプロラクトンテトラオール(分子量1000、水酸基価216〜232mgKOH/g)である。
【0165】
表5〜9の粘弾性測定結果において、E'min(Pa)および架橋密度の数値は、指数表記である。例えば、「3.9E+06」とは3.9×10の意、「4.53E−04」とは4.53×10−4の意である。
【0166】
<分析>
実施例1〜28より、ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)および多官能イソシアネート(C)を含み、かつ、数式(1)で定義される架橋密度nが1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである膜形成用樹脂組成物により硬化膜を形成することで、伸びやすく、かつ、耐傷性(永久傷の評価)が良好な膜を得ることができた。
一方、(A)〜(C)に該当する成分を全ては含まない、または、(A)〜(C)に該当する成分を全て含むものの架橋密度の値が所定の範囲外である比較例1〜5の膜形成用樹脂組成物を用いた評価結果は、満足のいくものではなかった。
【0167】
実施例1〜28を細かく見ると、以下が読み取れる。
・各実施例において、伸びやすさと耐傷性(永久傷、スチールウール耐傷性)だけでなく、傷修復性も良好である。
・実施例27と実施例28との対比より、ヒドロキシ基を有するポリシロキサン化合物を追加で用いることで、耐汚染性(耐マジック汚染性)の向上が図られる。また、樹脂(B)としてポリシロキサン部分構造を有する樹脂(B−1またはB−2)を用いている実施例1〜26も耐汚染性(耐マジック汚染性)が良好である。
・実施例15および16と他の実施例との対比より、ポリオールを追加で用いることで、耐汚染性(耐マジック汚染性)の一層の向上が図られている。
【要約】
【課題】膜(硬化膜)としたときに、伸びやすく、かつ、耐傷性が良好な、膜形成用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ヒドロキシ基を有するポリウレタン樹脂(A)と、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系樹脂(B)と、多官能イソシアネート(C)とを含み、数式n=E'min/ (3RT)により求められる架橋密度nが、1.0×10−4〜5.0×10−3mol/cmである、有機高分子が露出した物品を保護するための膜形成用樹脂組成物。ここで、E'minは、この樹脂組成物を80℃で16時間硬化させた硬化膜を、周波数1.0Hz、温度−40〜160℃の範囲で粘弾性測定したときの貯蔵弾性率の極小値であり、Tは極小値E'minにおける絶対温度であり、Rは気体定数である。
【選択図】図1
図1