(54)【発明の名称】切削油または潤滑油を用いる機械を塗装するために用いられる粉体塗料組成物、当該粉体塗料組成物により形成された塗膜、および、当該塗膜を備えた機械
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
本明細書中、「略」という用語は、特に明示的な説明の無い限りは、製造上の公差や組立て上のばらつき等を考慮した範囲を含むことを表す。
本明細書中、数値範囲の説明における「a〜b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1〜5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」の意である。
【0015】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0016】
<粉体塗料組成物>
本実施形態の粉体塗料組成物は、切削油または潤滑油を用いる機械を塗装するために用いられる。そして、ヒドロキシ基含有ポリエステル樹脂(A)と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)と、エポキシ樹脂(C)とを含む。
【0017】
なお、以下では、ヒドロキシ基含有ポリエステル樹脂(A)を、「ポリエステル樹脂(A)」または「樹脂(A)」とも表記する。
また、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)については、「イソシアネート化合物(B)」または「化合物(B)」とも表記する。
さらに、エポキシ樹脂(C)については、「樹脂(C)」とも表記する。
【0018】
このような粉体塗料組成物により、塗膜としたときに切削油または潤滑油に対する耐性が得られる理由としては、エポキシ樹脂(C)それ自身の働き、および、ポリエステル樹脂(A)とエポキシ樹脂(C)との相互作用が考えられる。
【0019】
具体的には、粉体塗料組成物がエポキシ樹脂(C)を含むことで、切削油または潤滑油を用いる機械の塗装面(典型的には金属基材)に対する高い密着性が得られ、また、これが架橋反応することで切削油または潤滑油に対する高い耐性が得られるものと考えられる。
また、エポキシ樹脂(C)の一部と、ポリエステル樹脂(A)の一部のヒドロキシ基が反応する可能性も考えられる。この反応に加えて、ポリエステル樹脂(A)とイソシアネート化合物(B)との反応なども相まって、切削油または潤滑油に対する耐性が高い架橋構造が得られるものと考えられる。
特に、切削油として、水で希釈して用いられる水溶性切削油が用いられる場合、塗膜は、耐油性と耐水性という一見して相反する性質が求められると考えられるところ、上記架橋構造により耐油性と耐水性が両立されるものと考えられる。
【0020】
なお、上記説明は推定を含む。また、上記説明により本発明が限定されるものでもない。
【0021】
以下、粉体塗料組成物が含有することができる成分や、粉体塗料組成物の性状、物性などについて具体的に説明する。
【0022】
・ポリエステル樹脂(A)
本実施形態の粉体塗料組成物は、ヒドロキシ基含有ポリエステル樹脂(A)を含む。
このポリエステル樹脂(A)は、典型的には、側鎖または末端(好ましくは末端)に、ヒドロキシ基を有する。
【0023】
ポリエステル樹脂(A)は、例えば、多塩基酸(具体的には二塩基酸、より具体的にはジカルボン酸)と多価アルコール(具体的にはジオール)との重縮合により得られる。なお、原料の多塩基酸は、酸無水物やエステルなど、反応系中で多塩基酸と等価なものであってもよい。
別の言い方としては、ポリエステル樹脂(A)は、典型的には、多塩基酸に由来する構造単位と、多価アルコールに由来する構造単位とを含む。
【0024】
ポリエステル樹脂(A)の素となる多塩基酸(具体的にはポリカルボン酸)としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,2−オクタデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などを挙げることができる。
なお、トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメシン酸等のトリ/テトラカルボン酸については、用いる場合には少量(例えば、原料として使用する多塩基酸全体の10モル%以下)とし、ジカルボン酸を主原料として用いることが好ましい。
【0025】
多塩基酸としては、芳香環構造または脂環構造を含む多塩基酸が、その剛直な構造により塗膜の耐久性(機械的な強さ)を高めることができるため、好ましい。特に、テレフタル酸やイソフタル酸などの芳香環構造を含む多塩基酸が、塗膜の耐久性、焼き付け時の流動性、入手容易性などから好ましい。
【0026】
ポリエステル樹脂(A)の元となる多価アルコール(好ましくはジオール)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、スピログリコール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等などを挙げることができる。
なお、多価アルコールとして3価以上のアルコールを使用する場合、その使用量は少量とし、ジオールを主成分として用いることが好ましい。具体的には、3価以上のアルコールの使用量は、原料として使用する多価アルコール全体の10モル%以下であることが好ましい。
【0027】
多価アルコールは、好ましくは分枝または環状の炭化水素構造を含み、より好ましくは分枝の炭化水素構造を含む。これにより、直鎖状の炭化水素構造しか含まない場合よりも、ポリエステル樹脂(A)が適度に剛直になり、塗膜の耐候性、耐久性などが一層高まると考えられる。
また、別観点として、多価アルコールは、その炭素数が炭素数2〜15であることが好ましく、2〜10であることがより好ましく、4〜8であることがさらに好ましい。炭素数がこの数値範囲にあることで、塗料の焼き付けの際のポリエステル樹脂(A)の流動性を最適にできると考えられる。
これらの観点から、多価アルコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール(別名:2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)が好ましい。
【0028】
なお、ポリエステル樹脂(A)を上記多塩基酸および多価アルコールの縮重合により得る場合には、4−ヒドロキシ安息香酸やε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸を少量添加してもよい。これによりポリエステル樹脂(A)の酸価、水酸基価、その他物性などを調整可能な場合がある。
【0029】
前述のように、ポリエステル樹脂(A)は、典型的には側鎖または末端(好ましくは末端)に、ヒドロキシ基を有する。
ポリエステル樹脂(A)の水酸基価は、例えば10〜200mgKOH/g、好ましくは20〜150mgKOH/g、より好ましくは20〜120mgKOH/gである。
なお、水酸基価は、典型的には、JIS K 0070の規定に基づき求めることができる。
【0030】
ポリエステル樹脂(A)が上記の水酸基価に相当する量のヒドロキシ基を有することにより、ポリエステル樹脂(A)がイソシアネート化合物(B)と十分に反応することに加え、ポリエステル樹脂(A)がエポキシ樹脂(C)とも一部反応する可能性も考えられる。そうすると、全体として強固な塗膜が得られると考えられる。このことは、切削油または潤滑油に対する耐性の更なる向上、塗膜の機械的特性の向上等の点で望ましい。
【0031】
ポリエステル樹脂(A)は、ヒドロキシ基に加え、カルボキシ基等の酸基を有してもよい。ただし、一態様として好ましくは、ポリエステル樹脂(A)は、カルボキシ基等の酸基を有しないか、または有するとしても少量であることが好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂(A)の酸価は、例えば0〜10mgKOH/g、好ましくは0〜5mgKOH/gである。なお、酸価についても、水酸基価と同様、典型的にはJIS K 0070の規定に基づき求めることができる。
ポリエステル樹脂(A)が、カルボキシ基等の酸基を有しないか、または有するとしても少量であることにより、水が塗膜中に取り込まれにくくなり、耐切削油性(切削油はしばしば水を含む、かつ/または、水で希釈されて用いられる)や、塩水に対する耐性などが向上すると考えられる。
なお、カルボキシ基とエポキシ基は反応する可能性がある。よって、ポリエステル樹脂(A)が有するカルボキシ基が少量であれば、そのカルボキシ基がエポキシ樹脂(C)のエポキシ基と反応して、フリーのカルボキシ基は減少する方向へ進む可能性がある(つまり、硬化膜中のカルボキシ基の量は十分に少なくなる可能性がある)。
【0032】
ポリエステル樹脂(A)の具体例としては、市販のヒドロキシ基末端ポリエステル樹脂を挙げることができる。例えば、ダイセル・オルネクス株式会社、DIC株式会社、日本ユピカ株式会社などから様々な水酸基価のポリエステル樹脂が市販されているため、市販のポリエステル樹脂から適当なものを選択すればよい。
【0033】
ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は特に限定されないが、例えば3000〜50000、好ましくは5000〜40000である。重量平均分子量が3000以上であることで、塗膜の切削油または潤滑油に対する耐性や塗膜の機械強度などを一層高くできると考えられる。また、重量平均分子量が50000以下であることにより、粉体塗料としての溶融性が良好となり好ましいと考えられる。また、ポリエステル樹脂(A)の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は特に限定されないが、例えば1〜10、好ましくは1.4〜8である。
重量平均分子量や分散度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算の値として測定することができる。
【0034】
ポリエステル樹脂(A)の性状は特に限定されないが、粉体塗料に適用する観点からは、常温(25℃)では固体状であることが好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)の軟化点は、好ましくは80〜150℃であり、より好ましくは100〜130℃である。この範囲に調整することで、得られる塗膜の平滑性を高めることができると考えられる。なお、軟化点は、環球法により測定することができる。
【0035】
ポリエステル樹脂(A)は、例えば、多塩基酸と多価アルコールを原料とし、公知の縮重合の方法によって製造することができる。具体的には、(1)上記で例示された多塩基酸と多価アルコールを適当な組合せ・配合比で用い、公知の方法に従って200〜280℃でエステル化又はエステル交換反応を行い、(2)その後、減圧下で触媒を用いて230〜290℃で重縮合反応を行い、(3)そしてアルコール成分で解重合反応を行って、ポリエステル樹脂(A)を得ることができる。
また、前述のように、市販のポリエステル樹脂の中から適当なものを選択してもよい。
【0036】
本実施形態の粉体塗料組成物は、ポリエステル樹脂(A)を1種のみ含んでもよいし、2種以上のポリエステル樹脂(A)を含んでもよい。なお、組成物が2種以上のポリエステル樹脂(A)を含む場合、水酸基価などについては、ポリエステル樹脂(A)全体としての(平均としての)値が前述の数値範囲にあることが好ましい。
本実施形態の粉体塗料組成物中のポリエステル樹脂(A)の量は、特に限定されないが、ポリエステル樹脂(A)、イソシアネート化合物(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計量を100質量%としたとき、例えば30〜80質量%、好ましくは、40〜70質量%、より好ましくは55〜65質量%である。
【0037】
・イソシアネート化合物(B)
本実施形態の粉体塗料組成物は、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)を含む。
【0038】
使用可能なイソシアネート化合物(B)は特に限定されず、組成物を加熱したときに、少なくともポリエステル樹脂(A)と反応しうるものであれば、特に制限なく用いることができる。なお、粉体塗料としての保存安定性やブロッキング性などの点からは、化合物(B)は、ブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物であることがより好ましい。
イソシアネート化合物(B)は、多官能であること、すなわち、1分子中に2以上のイソシアネート基(ブロックされたイソシアネート基を含む)を有する化合物であることが好ましい。
【0039】
イソシアネート化合物(B)の具体例としては、例えば、以下を挙げることができる。
【0040】
脂肪族系ジイソシアネート化合物:ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネートなど。
【0041】
脂環式系ジイソシアネート化合物:イソホロンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(又は1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネート等。
【0042】
芳香族ジイソシアネート化合物:キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、(m−又はp−)フェニレンジイソシアネートなど。
【0043】
その他のポリイソシアネート類:トリフェニルメタン−4,4',4''−トリイソシアネート等の3個以上のイソシアネ−ト基を有するポリイソシアネート化合物類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ポリアルキレングリコール、トリメチロ−ルプロパン、ヘキサントリオ−ル等のポリオールの水酸基に対してイソシアネート基が過剰量となる量のポリイソシアネート化合物を反応させてなる付加物類、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などのビューレットタイプ付加物、イソシアヌル環タイプ付加物など。
【0044】
また、上記のイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部又は全部を、ブロック剤によりブロックしたブロックイソシアネート化合物も挙げることができる。より具体的には、アルコール、フェノール、ラクタム、オキシムなどのブロック剤によってイソシアネート基がブロックされたブロックイソシアネート化合物も硬化剤として用いることができる。
【0045】
なお、ブロック剤としては、フェノール系ブロック剤またはラクタム系ブロック剤が好ましい。
フェノール系ブロック剤としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、t−ブチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチル等を挙げることができる。
ラクタム系ブロック剤としては、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタム等:オキシム系ブロック剤としては、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム等を挙げることができる。
【0046】
一態様として、イソシアネート化合物(B)は、好ましくは脂環構造を含む。イソシアネート化合物(B)が脂環構造を含むことで、塗膜(硬化膜)をより剛直にすることができ、切削油または潤滑油に対する耐性をより高めることができると考えられる。また、脂環構造は疎水的であるため、切削油に含まれる水をはじき、結果として耐切削油性を一層高められると考えられる。
脂環構造を含むイソシアネート化合物(B)の具体例としては、前述の脂環式系ジイソシアネート化合物として挙げたもの等があるし、以下に説明するものもある。
【0047】
脂環構造を含むイソシアネート化合物(B)として、例えば、入手性などの観点から、イソホロンジイソシアネートの3量体構造を有する化合物を好ましく挙げることができる(この化合物中のイソシアネート基は、ブロックされていてもいなくてもよいが、好ましくはブロックされている)。詳細は不明だが、この化合物は、脂環構造を含むことによる上記効果に加え、イソシアヌル酸骨格の極性により基材(金属等)に接着しやすく、塗膜の密着性向上などを図ることもできると考えられる。
イソホロンジイソシアネートの3量体は、公知情報等によれば、以下一般式(b)で表すことができる。一般式(b)中、3つのRは、それぞれ独立に、イソシアネート基(−NCO)またはブロック剤によりブロックしたイソシアネート基である。
【0049】
イソシアネート化合物(B)としては、市販のイソシアネート系硬化剤を用いてもよい。
例えば、エボニック社のVESTAGON(登録商標)シリーズを挙げることができる。このシリーズの硬化剤は、イソシアネート化合物(ブロックイソシアネート化合物を含む)である。
【0050】
本実施形態の粉体塗料組成物は、イソシアネート化合物(B)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
組成物中のイソシアネート化合物(B)の量は、特に限定されないが、ポリエステル樹脂(A)、イソシアネート化合物(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計量を100質量%としたとき、例えば10〜40質量%、好ましくは15〜35質量%、より好ましくは18〜30質量%である。
【0051】
・エポキシ樹脂(C)
本実施形態の粉体塗料組成物は、エポキシ樹脂(C)を含む。
使用可能なエポキシ樹脂(C)は特に限定されない。エポキシ樹脂(C)として具体的には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールナフトール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ナフタレン骨格型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、芳香族多官能エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂肪族多官能エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、多官能脂環式エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0052】
また、エポキシ樹脂(C)は、3官能以上の多官能エポキシ樹脂を含んでもよい。具体的には、2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−2−[4−[1,1−ビス[4−([2,3−エポキシプロポキシ]フェニル)エチル]フェニル]プロパン、フェノールノボラック型エポキシ、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、α−2,3−エポキシプロポキシフェニル−ω−ヒドロポリ(n=1〜7){2−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンジリデン−2,3−エポキシプロポキシフェニレン}、1−クロロ−2,3エポキシプロパン・ホルムアルデヒド・2,7−ナフタレンジオール重縮合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0053】
エポキシ樹脂(C)は、好ましくはヒドロキシ基を有する。このヒドロキシ基が、前述のイソシアネート化合物(B)と反応して架橋構造を形成することで、塗膜(硬化膜)がより緻密になるなどして、切削油または潤滑油に対する耐性の更なる向上などを図ることができると考えられる。
【0054】
エポキシ樹脂(C)がヒドロキシ基を有する場合、エポキシ樹脂(C)の水酸基価は、好ましくは100〜200mgKOH/g、より好ましくは120〜190mgKOH/g、さらに好ましくは140〜170mgKOH/gである。この水酸基価を適切に調整することで、切削油または潤滑油に対する耐性を一層高めることができると考えられる。
なお、エポキシ樹脂(C)の水酸基価については、ポリエステル樹脂と同様、典型的にはJIS K 0070の規定に基づき測定してもよいが、エポキシ樹脂(C)の構造やエポキシ当量などが既知の場合には、計算により求めてもよい。
【0055】
エポキシ樹脂(C)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂(つまり、ビスフェノールAまたはビスフェノールFと、エピクロルヒドリンとの縮合反応により製造されるエポキシ樹脂)が好ましい。具体的には、以下一般式(EP)で表されるエポキシ樹脂を用いることが好ましい。このエポキシ樹脂は、一般式中に示されるとおり、ヒドロキシ基を有する。
【0057】
一般式(EP)中、複数のRは各々独立に水素原子またはメチル基であり、nは1以上の整数である。
樹脂鎖の剛直性を上げて耐切削油性や機械的特性を一層高める観点からは、Rは好ましくはメチル基である。
nは、典型的には1〜10、好ましくは2〜6である。
【0058】
エポキシ樹脂(C)は、エポキシ基を含むものであれば特に限定されないが、一態様として、切削油または潤滑油に対する耐性の点から、アクリル樹脂構造を含まないことが好ましい。換言すると、エポキシ樹脂(C)は、好ましくは、主鎖がアクリル構造である樹脂の側鎖にエポキシ基含有基(グリシジル基など)を有するものではない。
【0059】
エポキシ樹脂(C)のエポキシ当量(g/eq)は、特に限定されないが、例えば200〜3000、好ましくは500〜2500である。エポキシ当量が3000以下であることで、十二分な数(密度)のエポキシ基が組成物中に存在することとなり、基材との密着性や、切削油または潤滑油に対する耐性などを一層高められると考えられる。また、エポキシ当量が200以上であることで、過度な硬化を抑えやすくなり、塗膜の過度な収縮などを抑えられると考えられる。
【0060】
エポキシ樹脂(C)としては、市販品を用いてもよい。例えば、三菱ケミカル株式会社の「jER」(登録商標)シリーズや、新日鉄住金化学株式会社の「エポトート」シリーズのエポキシ樹脂などを用いてもよい。
【0061】
エポキシ樹脂(C)の数平均分子量は特に限定されないが、好ましくは500〜5000、より好ましくは750〜3000、より好ましくは1000〜2000である。
エポキシ樹脂(C)の数平均分子量を適切に調整することで、組成物の使用時(粉体塗料を溶融して塗膜を形成するとき)に、エポキシ樹脂(C)が適度に膜内で移動し、他の成分と反応しやすくなり、膜中でより均一な反応が達成されると考えられる。これにより、塗膜(硬化膜)の機械的性質の更なる向上、切削油または潤滑油に対する耐性の更なる向上などの効果が得られると考えられる。
なお、数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による、標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0062】
エポキシ樹脂(C)は、「粉体塗料」に適用する観点からは、それ単独で固体状(粉体状)であることが好ましい。
エポキシ樹脂(C)の物性は、特に限定されないが、塗料製造時の混練性、焼き付け時の塗料の溶融性、焼き付け後の塗膜の強靭性などの観点から適宜調整されることが好ましい。例えば、エポキシ樹脂(C)の軟化点は、好ましくは60〜130℃、より好ましくは80〜120℃である。なお、軟化点は、環球法により測定することができる。
【0063】
本実施形態の粉体塗料組成物は、エポキシ樹脂(C)を1種のみ含んでもよいし、2種以上のエポキシ樹脂(C)を含んでもよい。
組成物中のエポキシ樹脂(C)の含有量は、特に限定されず、適宜調整することができる。例えば、組成物中のエポキシ樹脂(C)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)、イソシアネート化合物(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計量に対し、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%、さらに好ましくは13.5〜16.5質量%である。この範囲とすることで、他成分との反応が適切に制御されやすくなり、切削油または潤滑油に対する耐性や、塗膜の機械的特性を一層高められると考えられる。
特に、ポリエステル樹脂(A)、イソシアネート化合物(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計量に対して13.5質量%以上のエポキシ樹脂(C)を用いることで、エポキシ樹脂(C)を用いることでの効果が十分に発現されやすくなり、好ましいと考えられる。つまり、切削油または潤滑油を用いる機械の塗装面との高い密着性を得やすく、また、樹脂(A)および/または化合物(B)との十分な反応により、塗膜(硬化膜)の、切削油または潤滑油に対する耐性がより高められると考えられる。
【0064】
・顔料(D)
本実施形態の粉体塗料組成物は、好ましくは、顔料(D)を含む。これにより、塗膜を所望の色味とし、塗膜の意匠性を高めることなどができる。または、顔料(D)の種類によっては、防錆性の向上などを期待することができる。
【0065】
顔料(D)として使用可能なものは特に限定されない。例えば、公知の無機顔料や有機顔料などの着色顔料を用いることができる。具体的には、二酸化チタン(チタン白)、亜鉛華、鉛白、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白などの白色顔料;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、黒鉛、鉄黒(黒色酸化鉄)、アニリンブラックなどの黒色顔料;ナフトールエローS、ハンザエロー、ピグメントエローL、ベンジジンエロー、パーマネントエロー、黄鉄(黄色酸化鉄)などの黄色顔料;クロムオレンジ、クロムバーミリオン、パーマネントオレンジなどの橙色顔料;酸化鉄、アンバーなどの褐色顔料;ベンガラ(赤色酸化鉄)、鉛丹、パーマネントレッド、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール系赤顔料などの赤色顔料;コバルト紫、ファストバイオレット、メチルバイオレットレーキなどの紫色顔料、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、インジゴなどの青色顔料;クロムグリーン、ピグメントグリーンB、フタロシアニングリーンなどの緑色顔料などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0066】
顔料(D)としては、体質顔料を用いてもよい。
使用可能な体質顔料は特に限定されないが、例えば、バリタ粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシム、石膏、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、含水珪酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、マイカ粉等を挙げることができる。
【0067】
顔料(D)としては、塗料の焼き付けの際の温度に耐えられるもの(焼き付けにより色味などの変化が少ないもの)が好ましい。この点で、無機顔料や体質顔料が好ましく用いられる。もちろん、有機顔料であっても焼き付け時の退色が問題とならなければ好ましく使用可能である。
【0068】
また、顔料(D)としては、粉体塗料の分野で知られている防錆顔料を含んでもよい。防錆顔料の例としては、酸化亜鉛、亜リン酸塩化合物、リン酸塩化合物、モリブテン酸塩系化合物、ビスマス化合物、金属イオン交換シリカなどが挙げられる。
【0069】
亜リン酸塩化合物の市販品としては、東邦顔料工業社製の商品名「EXPERT」シリーズ等を挙げることができる。
リン酸塩化合物およびモリブテン酸塩系化合物の市販品としては、キクチカラー社製の商品名「LFボウセイ」シリーズ等を挙げることができる。
リン酸塩化合物としては、金属化合物(例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウム)で処理されたトリポリリン酸2水素アルミニウムが含まれる。これの市販品としては、テイカ社製の商品名「K−WHITE」シリーズ等を挙げることができる。
ビスマス化合物としては、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマス及び有機酸ビスマス等を挙げることができる。
【0070】
金属イオン交換シリカとしては、例えば、カルシウムイオン交換シリカ、マグネシウムイオン交換シリカ等が挙げられる。これらの金属イオン交換シリカは、リン酸で変性された、リン酸変性金属イオン交換シリカであってもよい。
上記のうち、カルシウムイオン交換シリカの市販品としては、W.R.Grace&Co.社製の商品名「SHIELDEX」(登録商標)シリーズなどを挙げることができる。
上記のうち、マグネシウムイオン交換シリカの市販品としては、富士シリシア社製のサイロマスク52M、フランスSNCZ社製のノビノックスACE−110が挙げられる。
【0071】
顔料(D)については、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
本実施形態の粉体塗料組成物中の顔料(D)の量は特に限定されず、所望する色味や他の性能との兼ね合いにより適宜調整すればよい。一例として、顔料(D)の量は、ポリエステル樹脂(A)、イソシアネート化合物(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計量を100質量部としたとき、典型的には50〜150質量部、好ましくは70〜100質量部である。
【0072】
・硬化触媒(E)
本実施形態の粉体塗料組成物は、硬化触媒(E)を含んでもよい。硬化触媒(E)としては、塗料や硬化性組成物の技術分野(より具体的には、ウレタン系の塗料または硬化性組成物)で公知の硬化触媒を適宜用いることができる。硬化触媒(E)を用いることで、塗装時の硬化性(硬化速度)を早める等の効果を期待することができる。
【0073】
硬化触媒(E)として具体的には、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫脂肪酸塩、2−エチルヘキサン酸鉛、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、脂肪酸亜鉛類、ナフテン酸コバルト、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸銅、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネートなどの有機金属化合物が挙げられる。さらに、第三級アミン、りん酸化合物など公知のウレタン硬化触媒を挙げることもできる。本実施形態においては、有機スズ系の硬化触媒が好ましい。
【0074】
硬化触媒(E)については、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化触媒(E)を使用する場合、その使用量は、ポリエステル樹脂(A)、イソシアネート化合物(B)およびエポキシ樹脂(C)の合計量を100質量部としたとき、例えば0.1〜3.0質量部、好ましくは1.0〜2.0質量部とすることができる。
【0075】
・その他成分
本実施形態の粉体塗料組成物は、必要に応じ上記以外の任意の成分を含んでもよい。
【0076】
例えば、塗料分野で知られている、塗膜表面の平滑性を高める効果がある添加成分(表面調整剤)を含んでもよい。表面調整剤には、塗料分野で公知の可塑剤、シリコーン化合物、ワックス、消泡剤、レベリング剤、ワキ防止剤(塗装時に巻き込んだ空気を破泡する成分)などが含まれる。
【0077】
表面調整剤のうち、レベリング剤の例としては、BASF社の「Acronal」(登録商標)シリーズ(中身は(メタ)アクリル系樹脂)、共栄社化学社製の「ポリフロー」(商品名)シリーズ、ESTRON CHEMICAL社製の「レジフロー」(商品名)シリーズ、モンサント社製の「モダフロー」(商品名)シリーズなどを挙げることができる。また、消泡剤の例としては、ベンゾインなどを挙げることができる。
【0078】
さらに、別の任意の成分として、本実施形態の粉体塗料組成物は、流動性調整剤を含んでもよい。組成物が流動性調整剤を含むことで、例えば、粉体としての流動性を調整することができる。
流動性調整剤として具体的には、疎水性シリカ、親水性シリカや酸化アルミニウム等が適用できる。市販品としては、例えば、AEROSIL 130、AEROSIL200、AEROSIL300、AEROSIL R−972、AEROSILR−812、AEROSILR−812S、AlminiumOxideC(日本アエロジル社製、商品名)、カープレックスFPS−1(DSL社製、商品名)等を挙げることができる。
さらに、別の任意の成分として、本実施形態の粉体塗料組成物は、顔料分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、磁性粉、帯電制御剤などを含んでもよい。
【0079】
・官能基の当量比
本実施形態の粉体塗料組成物においては、組成物中の官能基の量比を適切に調整することで、種々の性能を一層高めることができる。
【0080】
具体的には、組成物中のヒドロキシ基に対する、組成物中のイソシアネート基およびブロックドイソシアネート基の当量比(NCO/OHとも記載する)が、好ましくは0.5〜1.5、より好ましくは0.7〜1.3、特に好ましくは0.9〜1.1である。
つまり、組成物中に存在するヒドロキシ基のモル量に対する、組成物中のイソシアネート基およびブロックドイソシアネート基のモル量が、好ましくは上記の数値範囲となるように、各成分(特に、樹脂(A)、化合物(B)および樹脂(C))の量を調整することが好ましい。
【0081】
この当量比(NCO/OH)を適切に調整することで、切削油または潤滑油に対する耐性を一層高めることができると考えられる。これは、膜形成時(硬化時)に、緻密な架橋構造が形成されやすくなると推定される。
また、当量比(NCO/OH)を適切に調整することで、塩水に対する塗膜の耐性が顕著に向上する傾向にある。詳細な理由は不明であるが、極性官能基が架橋反応により十分消費される結果、塩水が付着ないし浸透することが抑えられるものと推定される。
【0082】
・粒径
本実施形態の粉体塗料組成物の性状は、「粉体」、すなわち微粒子の集合体である。
この微粒子の集合体のメディアン径d
50(体積基準)は、特に限定されないが、典型的には10〜70μm、好ましくは20〜50μmである。なお、d
50は、例えば、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、製品名:マイクロトラックMT3000IIシリーズ)を用いて、粒度分布の測定値から、累積分布によるメディアン径として求めることができる。
メディアン径や粒径分布などの粒径に関するパラメータは、例えば、後述の製造方法において、粉砕の方法や分級の方法を変更することで適宜調整可能である。
【0083】
・粉体としての流動性(安息角)
本実施形態の粉体塗料組成物の安息角は、好ましくは30〜40°である。この範囲の安息角とすることで、粉体としての流動性が良好であり、取扱い性のよい粉体塗料とすることができる。
なお、安息角は、例えば、ホソカワミクロン社製の装置「パウダテスタPT−X」を用いて測定することができる。
【0084】
本実施形態の粉体塗料組成物は、上記の成分を適切に混練するなどして製造することで、安息角を上記の範囲にすることができる(製造方法の詳細については後述する)。なお、安息角の微調整などのため、前述の流動性調整剤を用いるなどしてもよい。
【0085】
・耐ブロッキング性
本実施形態の粉体塗料組成物は、保存中に凝集しづらいことが好ましい。つまり、耐ブロッキング性が良好であることが好ましい。
なお、耐ブロッキング性は、例えば、粉体塗料組成物を容積100mLのガラス容器に入れて、40℃にて7日間容器中に密閉して貯蔵した後の状態を見る方法により評価することができる。
【0086】
・粘弾性挙動(動的粘弾性)
塗膜(硬化膜)としたときの粘弾性挙動が適切となるように本実施形態の粉体塗料組成物を設計ないし調製することで、切削油または潤滑油に対する耐性や、塗膜の機械的特性などを一層高めうる。
【0087】
例えば、本実施形態の粉体塗料組成物を180℃で20分間焼き付けて形成した塗膜を、周波数1.0Hz、温度40〜200℃の範囲で粘弾性測定したときの損失正接の最大値tanδ
maxが0.8〜1.5となるように、粉体塗料組成物は設計されることが好ましい。なお、tanδ
maxは、より好ましくは0.9〜1.4、さらに好ましくは1.0〜1.3である。メカニズム等は不明であるが、tanδ
maxが上記数値範囲内であると、切削油または潤滑油に対する耐性が一層良好である、塗膜の機械的性質が一層良好となる(例えば、塗膜の耐屈曲性が一層良好となる)等の傾向がある。
【0088】
また、上記tanδ
maxを示す温度をT
g℃としたとき、T
g−20℃における損失正接tanδ
Tg−20℃が、0.1tanδ
max以上であることが好ましい。より好ましくは、tanδ
Tg−20℃は、0.1tanδ
max以上、0.3tanδ
max以下である。さらに好ましくは、tanδ
Tg−20℃は、0.1tanδ
max以上、0.2tanδ
max以下である。
【0089】
tanδ
Tg−20℃が0.1tanδ
max以上ということは、T
g前後の広い温度領域において損失正接が比較的大きな値である(つまり、T
g前後の広い温度領域において、複素弾性率における粘性の寄与が比較的大きい)ことを意味する。詳細なメカニズム等は不明であるが、恐らくは、tanδ
Tg−20℃が0.1tanδ
max以上となるように本実施形態の粉体塗料組成物を設計することで、組成物を溶融しその後冷却して塗膜を形成する際の流動性がちょうどよい具合に調整される。その結果、基材表面と塗膜との密着性等の一層の良化、切削油または潤滑油に対する耐性や塩水に対する耐性の一層の良化などにつながると考えられる。
【0090】
別観点として、本実施形態の粉体塗料組成物を180℃で20分間焼き付けて形成した塗膜を、周波数1.0Hz、温度40〜200℃の範囲で粘弾性測定し、損失弾性率の温度依存性をグラフにしたとき、当該グラフの80〜100℃の範囲内に下に凸な部分が存在することが好ましい。つまり、縦軸:損失弾性率、横軸:温度(40〜200℃の)のグラフを描いたときに、80〜100℃において、2次微分が正となる部分が存在することが好ましい。
【0091】
グラフに上記のような部分が存在することは、塗膜が種々の架橋構造を含むことを示唆している。塗膜が種々の架橋構造を含むことで、切削油(水、油など種々の成分を含みうる)に対する耐性が一層向上するものと考えられる。
【0092】
<粉体塗料組成物の製造方法>
本実施形態の金属用粉体塗料組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、以下のような手順で製造される。
【0093】
(1)各成分を必要量準備する。
(2)ヘンシェルミキサーやブレンダー等を用いて、各成分(樹脂(A)、化合物(B)、樹脂(C)、およびその他の任意成分)を均一に混合して、混合物を得る。
(3)上記(2)で得られた混合物をニーダーに投入して溶融混練する。この際の温度は、例えば80〜140℃とする。
(4)上記(3)で得られた混練物を50℃以下に冷却する。冷却の方法は任意の方法を採用できる。例えば、室温放置、冷却ロール、冷却コンベヤー等を挙げることができる。
(5)冷却された混練物を、粉砕機を用いるなどして粉砕する。粉砕機としては、機械式のもの、気流式のものなど特に限定されない。また、粉砕は、例えば粗粉砕及び微粉砕の2工程に分けて行ってもよい。
(6)所望の粒径となるように分級する。分級には、ふるいや気流式分級機を用いることができる。
【0094】
なお、上記では、成分全てを一度に混合して溶融混練する方法を説明したが、必ずしも成分全てを一度に混合する必要はない。
例えば、まず、原材料の一部のみを混合および溶融混練し、その後、ニーダーの中に残りの成分を投入するといった手順としてもよい。また別の例として、原材料の一部のみを用いて(1)〜(6)の工程を行って粒子を得て、その後、その粒子および残りの原料を用いて(1)〜(6)の手順を実施する2段階の手順なども考えられる。
粉体塗料組成物を構成する微粒子内における各成分の分布を敢えて不均一にすることで、特性成分同士を反応させやすくし、塗膜としたときの性能を一層高めることも考えられる。
【0095】
<塗膜およびその形成方法>
本実施形態の粉体塗料組成物を、基材(具体的には、切削油または潤滑油を用いる機械または当該機械の部品)の表面に焼き付けること等により、塗膜を形成することができる。具体的には、本実施形態の粉体塗料組成物を基材の表面に供し、加熱して焼き付けることで塗膜を形成することができる。
【0096】
粉体塗料組成物を基材の表面に供する方法としては、粉体塗料の分野で公知の方法を適宜用いることができる。例えば、静電粉体吹き付け法、流動浸漬法、静電流動浸漬法などを好ましく用いることができる。この時の膜厚は、例えば30〜1000μmの間で適宜調整すればよい。
【0097】
粉体塗料組成物が表面に供された基材は、炉に投入されるなどして、例えば120〜250℃で5〜60分間加熱される。これによって塗料が溶融し、基材の表面に塗膜が形成される。
【0098】
塗膜を形成する基材は、切削油または潤滑油を用いる機械または当該機械の部品であれば、特に限定されない。基材の材質としては、典型的には金属、好ましくは鉄(鉄鋼材)であるが、これに限定されるものではない。また、基材の形状は特に限定されない。
なお、基材の表面には、防錆性や密着性などの観点で、何らかの前処理がされていてもよい。前処理としては、洗浄、脱脂、ブラスト、プライマーコート、前加熱、乾燥、皮膜形成(例えばリン酸亜鉛処理)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
<塗膜を備える機械>
上記の塗膜を備える、切削油または潤滑油を用いる機械としては、その使用時に切削油または潤滑油が必須となるものであれば特に限定されない。機械として典型的には工作機械、すなわち、金属等の材料に、切断、穿孔、研削、研磨、圧延、鍛造、折り曲げ等の加工を施すための機械が挙げられる。工作機械としてより具体的には、旋盤、ボール盤、中ぐり盤、フライス盤、研削盤、歯切り盤、マシニングセンタ、ターニングセンタ等が挙げられる。ただし、機械はこれらに限定されるものではない。
また、潤滑油を用いる機械として、具体的には、内燃機関(エンジン)、変速機、差動装置、ポンプ、ベアリングなどが挙げられる。つまり、本実施形態の粉体塗料組成物により、例えばエンジン表面に塗膜を形成することができる。そして、その塗膜に潤滑油等が触れても塗膜の損傷や剥がれが抑えられる。
【0100】
念のため「切削油」について補足しておく。
切削油には、大きく分けて、主成分が鉱油および/または脂肪油である不水溶性切削油と、水で希釈して用いられる水溶性切削油とがある。水溶性切削油は、さらに、JISによる分類で、A1種:乳白色(エマルション)、A2種:半透明ないし透明(ソリュブル)、または、A3種:透明(ソリューション)に分類される。
また、JISによる分類ではないが、「シンセティック」または「オイルフリー」などと呼ばれる、潤滑成分として合成潤滑剤を使用した切削油も近年用いられている。これは、「天然成分(主に鉱油)を含まず、化学合成された潤滑成分(合成潤滑剤)を適用した切削油」と言い換えることができる。
本実施形態の粉体塗料組成物で形成された塗膜は、基本的なこれらのどの切削油に対しても耐性を示すが、特に水溶性切削油に対する耐性が良好であり、また、潤滑成分として合成潤滑剤を使用した切削油に対する耐性が良好である。
【0101】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
ヒドロキシ基含有ポリエステル樹脂(A)と、
イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)と、
エポキシ樹脂(C)と
を含み、切削油または潤滑油を用いる機械を塗装するために用いられる粉体塗料組成物。
2.
1.に記載の粉体塗料組成物であって、
前記イソシアネート化合物(B)が、脂環構造を含む粉体塗料組成物。
3.
1.または2.に記載の粉体塗料組成物であって、
前記イソシアネート化合物(B)が、イソホロンジイソシアネートの3量体構造を有する化合物を含む粉体塗料組成物。
4.
1.〜3.のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物であって、
前記エポキシ樹脂(C)が、ヒドロキシ基を有する粉体塗料組成物。
5.
1.〜4.のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物であって、
前記エポキシ樹脂(C)が、前掲の一般式(EP)で表されるエポキシ樹脂を含む粉体塗料組成物。
前掲の一般式(EP)において、複数のRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、nは1以上の整数である。
6.
1.〜5.のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物であって、
組成物中のヒドロキシ基に対する、組成物中のイソシアネート基およびブロックドイソシアネート基の当量比が、0.7〜1.3である粉体塗料組成物。
7.
1.〜6.のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物であって、
前記ポリエステル樹脂(A)、前記イソシアネート化合物(B)および前記エポキシ樹脂(C)の合計量に対する前記エポキシ樹脂(C)の量が、13.5質量%以上である粉体塗料組成物。
8.
1.〜7.のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物であって、
さらに顔料(D)を含む粉体塗料組成物。
9.
1.〜8.のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物であって、
当該粉体塗料組成物を180℃で20分間焼き付けて形成した塗膜を、周波数1.0Hz、温度40〜200℃の範囲で粘弾性測定したときの損失正接の最大値tanδmaxが0.8〜1.5である粉体塗料組成物。
10.
9.に記載の粉体塗料組成物であって、
前記tanδmaxを示す温度をTg℃としたとき、Tg−20℃における損失正接tanδTg−20℃が、0.1tanδmax以上である粉体塗料組成物。
11.
1.〜10.のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物であって、
安息角が30〜40°である粉体塗料組成物。
12.
1.〜11.のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物であって、
粉体粒子のメディアン径が10〜70μmである粉体塗料組成物。
13.
1.〜12.のいずれか1つに記載の粉体塗料組成物により形成された塗膜。
14.
13.に記載の塗膜を備える、切削油または潤滑油を用いる機械。
【実施例】
【0102】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0103】
<粉体塗料組成物の調製>
実施例1の粉体塗料組成物を、以下のようにして調製した。
【0104】
まず、以下の素材を準備した。
・ヒドロキシ基含有ポリエステル樹脂(DIC株式会社製、商品名:ファインディック(登録商標)M−8023、水酸基価:35〜45mgKOH/g) 100質量部
・ブロックイソシアネート硬化剤(エボニック株式会社製、ε−カプロラクタムでブロックされたポリイソシアネート、商品名:VESTAGON(登録商標)B−1530)) 23質量部
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名:jER1002、エポキシ当量650g/eq、水酸基価:153mgKOH/g) 25質量部
・顔料(二酸化チタン、石原産業株式会社製、商品名:CR−95) 88質量部
・顔料(炭酸カルシウム) 50質量部
・表面調整剤(BASF社製、商品名:アクロナール4F、アクリル共重合体系の流動性付与剤) 2質量部
・消泡剤(ベンゾイン) 1.5質量部
・硬化触媒(ジブチル錫ジラウレート、堺化学工業社製、商品名:TN−12) 0.5質量部
【0105】
上記素材をヘンシェルミキサーで混合して混合物を作製した。その混合物を、混練機(Buss AG社製、商品名:ブスコニーダーPR46)に投入して、120℃で溶融混練した。
得られた混練物を50℃以下に冷却し、その後、ハンマー式衝撃粉砕機で微粉砕し、150メッシュのふるいで分級した。これにより粉体塗料組成物を調製した。
【0106】
実施例2〜24ならびに比較例1および2の組成物については、原材料として後掲の表1〜表4に記載のものを用いた以外は実施例1と同様にして調製した。
【0107】
<塗膜の形成>
塗膜を形成する基材として、冷延鋼板(規格:SPCC−SD、幅75mm×長さ150mm×厚さ0.8mm)を準備した。これを垂直方向に吊り下げ、コロナ帯電式静電粉体塗装機(旭サナック株式会社製、商品名:PG−1型)を用いて、鋼板上に粉体塗料を静電塗装した(塗装電圧:−60kV)。塗装後、180℃で20分間焼き付け、その後、室温になるまで放冷した、これにより、膜厚60μm前後の塗膜(硬化膜)を備えた鋼板(以下、試験板)を得た。
【0108】
<動的粘弾性の測定>
上記で得られた硬化膜を鋼板から剥離した。その剥離した塗膜を、幅5mm、長さ50mmのサイズにカットして試験片とした。この試験片を用いて、以下の条件で動的粘弾性測定(貯蔵弾性率(E')、損失弾性率(E'')、および損失正接(tanδ)を測定した。
tanδが最大値(tanδ
max)を示すときの温度をガラス転移温度(T
g)とし、(T
g−20)℃における損失正接(tanδ
Tg−20℃)を求めた。
【0109】
(条件)
・装置:動的粘弾性測定装置 RSA3(TA Instruments社製)
・測定モード:非共振強制振動法
・昇温速度:5.0℃/min
・測定間隔:12/min
・周波数:1.0Hz
・温度範囲:40〜200℃
【0110】
参考までに、実施例13の粉体塗料組成物を上記のようにして粘弾性測定したときの、貯蔵弾性率(E')、損失弾性率(E'')、および損失正接(tanδ)の温度依存性をプロットしたグラフを
図1に示す。
図1からわかるように、損失弾性率(E'')の80〜100℃付近に「下に凸」な部分がある。
【0111】
<塗膜に関する性能評価>
(耐切削油性評価)
切削油として、以下の4種を準備した。
・カストロール社 シンタイロ9954
・ユシロ化学工業株式会社 ユシローケン シンセティック#663
・ユシロ化学工業株式会社 ユシローケン EC50T3
・ブラザー・スイスルーブ社 ブラソカット4000ストロング
【0112】
上記の各切削油を用いて、以下のようにして評価を行った。
まず、上記<塗膜の形成>で得られた各試験板の塗膜に、カッターナイフの切り刃を30度に保持して、素地に達するよう2mm間隔の平行線を11本引き、それらの平行線に直交する2mm間隔の平行線を11本引いて、塗膜に100個の碁盤目を形成した。
この碁盤目が形成された試験板を、各切削油の5%水溶液に、60℃、2ヶ月(8週間)浸漬した。
2ヶ月経過後に試験板を各水溶液から取り出し、試験板の外観異常の有無及び塗膜の剥離の有無について、目視で観察した。そして、以下の基準で評価した。
【0113】
5・・・外観異常、塗膜の剥離ともに無し。
4・・・浸漬1ヶ月以上2ヶ月未満の間にブリスター発生等の外観異常または剥離が見られる。
3・・・浸漬2週間以上1ヶ月未満の間にブリスター発生等の外観異常または剥離が見られる。
2・・・浸漬1週間以上2週間未満の間にブリスター発生等の外観異常または剥離が見られる。
1・・・浸漬1週間未満の間にブリスター発生等の外観異常または剥離が見られる。
【0114】
(耐切削油性評価後の光沢保持率)
上記の耐切削油性評価において、シンタイロ9954およびシンセティック#663を使用して評価を行なった場合の、浸漬前後の塗膜の60°鏡面光沢値を、光沢計(micro−TRI−gross BYK社製:入反射角60゜)にてそれぞれ測定し、以下の式に基づいて光沢保持率を算出した。
光沢保持率(%)=(切削油浸漬後の60°光沢値/切削油浸漬前の60°光沢値)×100
【0115】
(耐中性塩水噴霧性)
上記<塗膜の形成>で得られた各試験板の塗膜に、試験板の素地に到達するように、幅1mmのカットを、試験板端部から約10mm内側に対角上に交差するように施した。この試験板を用い、JIS K5600−7−1(1999)「塗膜の長期耐久性−耐中性塩水噴霧性」に準拠した方法で500時間塩水噴霧試験を行った。この塩水噴霧後、3時間常温で放置して試験板を乾燥させた。
【0116】
乾燥後の試験板に、24mm幅の接着テープ(ニチバン社製の工業用セロハンテープ)を気泡が残らないように指先で均一に圧着させた(カットラインに沿いつつ、かつ、カットラインがセンターになるように留意した)。その後、圧着したテープの端を持ち、塗膜面に対して60度の角度で引っ張って、塗膜からテープを剥がした。テープを剥がしたあと、カットラインをセンターにした塗膜の片側最大剥離幅(最大値は12mm)を計測した。この剥離幅が小さいほど、塩水噴霧性に優れていることを示す。
【0117】
(60°鏡面光沢値)
上記<塗膜の形成>で得られた各試験板の塗膜の60°鏡面光沢値を、光沢計(BYK社製、micro−TRI−gross、入反射角60゜)にて測定した。
【0118】
(密着性)
上記<塗膜の形成>で得られた試験板を用い、JIS K5600−5−6(1999)「塗膜の機械的性質−付着性(クロスカット法)」に基づいた試験を行った。そして、基材に対する塗膜の密着性を、以下の評価基準に基づいて評価した。
5・・・カットのふちが完全に滑らかで、どの格子の目にもハガレがない
4・・・カットの交差点における塗膜の小さなハガレがあり、剥離部分の面積が5%未満
3・・・剥離部分の面積が、5%以上15%未満
2・・・剥離部分の面積が15%以上35%未満
1・・・剥離部分の面積が35%以上
【0119】
(鉛筆硬度)
上記<塗膜の形成>で得られた各試験板の塗膜を、鉛筆で引っかくことで鉛筆硬度を測定した。
具体的には、表面性測定器(新東科学株式会社製、トライボギア14FW)および鉛筆硬度測定用鉛筆(三菱鉛筆株式会社製、三菱Uni)を用い、JIS K5600−5−4(1999)「塗膜の機械的性質−引っかき硬度(鉛筆法)」に準拠して試験した。測定荷重は750g、測定の速度は30mm/min、測定距離は5mmとした。
測定は5回行い、合格数が4/5を超えた鉛筆の硬度を評価結果とした。
【0120】
(耐衝撃性)
温度23℃、相対湿度50%の条件下、デュポン式耐衝撃試験機を使用して評価した。
具体的には、上記<塗膜の形成>で得られた各試験板の塗膜面に対し、おもり重量500g、撃ち型の尖端直径1/2インチ、落下高度10〜50cmの条件で衝撃試験を行い、塗膜が割れない最大の高さ(cm)を測定した。
【0121】
(耐屈曲性)
JIS K5600−5−1(1999)「塗膜の機械的性質−耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」に準拠した屈曲試験を行って、上記<塗膜の形成>で得られた各試験板を変形させた。試験後の塗膜状態について目視観察を行い、以下の基準で評価した。
なお、試験はタイプ1の試験装置で、直径3mmの円筒形マンドレルを使用して行った。
◎(とても良い)・・・塗膜に割れが無い
○(良い)・・・塗膜に極僅かな亀裂が入るものの、塗膜剥離はなし
△(やや悪い)・・・塗膜に亀裂が入るものの、塗膜剥離はなし
×(悪い)・・・亀裂が入り、塗膜剥離が起きる
【0122】
(耐カッピング性)
温度23℃、相対湿度50%の条件下で、JIS K5600−5−2(1999)「塗膜の機械的性質−耐カッピング性」に記載のカッピング試験機を用いて試験した。速度0.2mm/sで、上記<塗膜の形成>で得られた各試験板の裏面(塗膜を備えていない面)から6mm押し込みを行い、試験板を変形させた。試験板を変形させた後の塗膜の状態を観察し、以下の基準で評価を行った。
◎(とても良い)・・・塗膜に割れが無い
○(良い)・・・塗膜に極僅かな亀裂が入るものの、塗膜剥離はなし
△(やや悪い)・・・塗膜に亀裂が入るものの、塗膜剥離はなし
×(悪い)・・・亀裂が入り、塗膜剥離が起きる
【0123】
<粉体塗料組成物自体の評価>
(ブロッキング性)
各実施例および各比較例の粉体塗料組成物を、100mLのガラス容器に入れ、16.7g/cm
2の荷重をかけた状態で、40℃で7日間、容器中に密閉して貯蔵した。その後の状態を以下の基準で評価した。
◎(とても良い)・・・貯蔵前と比較して変化がなく、ブロッキング性は良好。
○(良い)・・・極少量の凝集物が認められるが、当該凝集物を容易に粉砕することができる。
△(やや悪い)・・・凝集物が認められるが、当該凝集物を容易に粉砕することができる。
×(悪い)・・・凝集物が認められ、当該凝集物を容易に粉砕することができない。
【0124】
(安息角)
25±2℃の条件下、100gの粉体塗料組成物を用いて、ホソカワミクロン製パウダテスタPT−Xにより、安息角の測定を行なった。測定は3回行い、3回の平均値を安息角とした。
【0125】
(粒子径)
散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、製品名:マイクロトラックMT3000IIシリーズ)を用いて、粒度分布の測定値から、累積分布による体積基準のメディアン径(d
50)を求めた。
【0126】
以下の表1〜表4に、各実施例および各比較例の組成物の調製に使用した成分、各種の量/比率、動的粘弾性の測定結果、塗膜に関する各種性能評価の結果、および、粉体塗料組成物自体の評価の結果をまとめて示す。
表中、ポリエステル樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂、顔料およびその他の成分の欄に記載の数値は、各成分の使用量(質量部)を表す。ただし、その他の成分については、表面調整剤、消泡剤および硬化触媒の合計量を示している。
表中、NCO量(mol)は、組成物中に含まれる全てのイソシアネート基およびブロックドイソシアネート基のモル数のことである。同様に、OH量(mol)は、組成物中に含まれる全てのヒドロキシ基のモル数のことである。そして、当量比 (NCO/OH)は、NCO量(mol)をOH量(mol)で割って求められる値である。
なお、モル量や当量比などの計算に際し、素材の数値に「幅」があるものは、その中心値に基づき計算した。例えば、ポリエステル樹脂M−8023の水酸基価は35〜45mgKOH/gであるところ、水酸基価は「40mgKOH/g」であるとみなした。
【0127】
表中のポリエステル樹脂の詳細は以下である。
・CRYLCOAT2890−0
ダイセル・オルネクス株式会社製の水酸基含有ポリエステル樹脂、商品名CRYLCOAT2890−0、水酸基価30mgKOH/g、酸価10mgKOH/g
・M−8023
DIC株式会社製の水酸基含有ポリエステル樹脂、商品名ファインディックM−8023、重量平均分子量9300、分散度2.7、水酸基価35〜45mgKOH/g、酸価4〜8mgKOH/g、軟化点104〜110℃
・GV−110
日本ユピカ株式会社製の水酸基含有ポリエステル樹脂、商品名ユピカコートGV−110、水酸基価49mgKOH/g、酸価3mgKOH/g、軟化点116℃
・M−8064
DIC株式会社製の水酸基含有ポリエステル樹脂、商品名ファインディックM−8064、水酸基価63〜77mgKOH/g、酸価2〜5mgKOH/g、軟化点103〜109℃
・CRYLCOAT2818−0
ダイセル・オルネクス株式会社製の水酸基含有ポリエステル樹脂、商品名CRYLCOAT2818−0、水酸基価100mgKOH/g、酸価3mgKOH/g
【0128】
表中の硬化剤(イソシアネート化合物)の詳細は以下である。なお、この化合物は、イソホロンジイソシアネートの3量体構造を有し、前述の一般式(b)に該当する化合物である(一般式(b)の3つのRは、ε−カプロラクタムでブロックされたイソシアネート基)。
・VESTAGON B−1530・・・エボニック社製のε−カプロラクタムでブロックされたポリイソシアネート、商品名VESTAGON B−1530、NCO%=14.7〜15.8
【0129】
表中のエポキシ樹脂の詳細は以下である。
・jER1001・・・三菱ケミカル株式会社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名jER1001、エポキシ当量450〜500g/eq、水酸基価128mgKOH/g、分子量900、軟化点64℃
・jER1002・・・三菱ケミカル株式会社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名jER1002、エポキシ当量600〜700g/eq、水酸基価153mgKOH/g、分子量1200、軟化点78℃
・jER1003・・・三菱ケミカル株式会社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名jER1003、エポキシ当量670〜720g/eq、水酸基価158mgKOH/g、分子量1300、軟化点89℃
・jER1007・・・三菱ケミカル株式会社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名jER1007、エポキシ当量1750〜2200g/eq、水酸基価188mgKOH/g、分子量2900、軟化点128℃
【0130】
なお、エポキシ樹脂の水酸基価は、以下のようにして算出した。
上記のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、下記化学式のように表される2つのエポキシ基を有する化合物である。よって、エポキシ当量の定義に基づき、「エポキシ当量×2」が、分子量を表す。また、繰り返し単位数nはヒドロキシ基の数と等しい。
以上を前提に、下記化学式の括弧で囲われた繰り返し単位部分の分子量を274、それ以外の部分の分子量を328、KOHの分子量を56.11として、各樹脂のカタログ値として示されたエポキシ当量の値の中心値(jER1001ならば475)から、以下式に従って繰り返し単位数nを算出し、さらに水酸基価を導き出した。
繰り返し単位数n=(エポキシ当量×2−328)/274
水酸基価={n/(エポキシ当量×2)}×56.11×1000
【0131】
【化3】
【0132】
水酸基価および酸価の単位は「mgKOH/g」、エポキシ当量の単位は「g/eq」である。
【0133】
表中の顔料の詳細は以下である。
・二酸化チタン・・・石原産業株式会社製、型番CR−95
・炭酸カルシウム・・・日東粉化工業株式会社、NS#1000
【0134】
表中の添加剤(表面調整剤、消泡剤および硬化触媒)については、実施例1の粉体塗料組成物で説明したものである。なお、実施例1〜24では、流動性付与剤:2質量部、消泡剤:1.5質量部および硬化触媒:0.5質量部の計4質量部を用いたが、比較例1および2では、これらの各々の量を3/4とし、計3質量部とした。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
【表3】
【0138】
【表4】
【0139】
表1〜表4に示されるとおり、樹脂(A)、化合物(B)および樹脂(C)を含む本実施形態の粉体塗料組成物(実施例1〜24)は、エポキシ樹脂を含まない比較例1および2の粉体塗料組成物に比べ、各種の切削油に対する良好な耐性を示した(塗膜を切削油に浸漬したときに、外観異常や剥離が発生しにくかった)。つまり、本実施形態の粉体塗料組成物の、切削油または潤滑油に対する耐性は良好であることが示された。
また、実施例1〜24の粉体塗料組成物は、耐切削油性評価後の光沢保持率が良好であった(切削油への浸漬による60°鏡面光沢値の変化が小さかった)。つまり、切削油の接触によりブリスター(膨れ)や剥離が発生しにくかっただけでなく、塗膜の意匠性が十分に保持される結果が得られた。このことは、本実施形態の粉体塗料組成物により形成された塗膜の切削油耐性が極めて高いレベルにあることを示す。
【0140】
表1から読み取れる事項をいくつか補足しておく。
・比較例のtanδ
maxは1.5超である一方、実施例のtanδ
maxは0.8〜1.5の範囲内である。
・比較例のtanδ
Tg−20℃はかなり小さい値(tanδ
maxの0.1倍以下)である一方、実施例のtanδ
Tg−20℃は比較的大きな値(tanδ
maxの0.1倍以上)である。
・全ての実施例において、塗膜の機械的特性(密着性、鉛筆硬度、耐衝撃性、耐屈曲性および耐カッピング性)は良好である。
・実施例1、6と実施例2〜5の対比、実施例7、12と実施例8〜11の対比などから、同一素材を用いた組成物であっても、当量比 (NCO/OH)が0.7〜1.3であると、耐中性塩水噴霧性が特に良好となる傾向が見られる。
・実施例13と14の対比、実施例15と16の対比などから、ある程度多量のエポキシ樹脂を用いたほうが、耐切削油性、耐切削油性評価後の光沢保持率、耐中性塩水噴霧性などの評価が良好となる傾向にある。
【解決手段】ヒドロキシ基含有ポリエステル樹脂(A)と、イソシアネート基またはブロックドイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)と、エポキシ樹脂(C)とを含み、切削油または潤滑油を用いる機械を塗装するために用いられる粉体塗料組成物。また、この粉体塗料組成物により形成された塗膜。また、この塗膜を備える、切削油または潤滑油を用いる機械。