【実施例】
【0088】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例になんら制限されるものではない。
【0089】
<リビングラジカル重合開始剤の製造>
(実施例1)2−ヨード−2−(4‘−(2“−ヨードプロピオニルオキシ)フェニル)酢酸メチルの製造
【0090】
【化2】
【0091】
4−ヒドロキシフェニル酢酸メチル25.00g(150.4mmol)、ピリジン47.60g(601.7mmol)、ジエチルエーテル100mLの混合液に、2−ブロモプロピオニルブロミド38.97g(180.5mmol)のジエチルエーテル50mL溶液を0℃で添加した。
【0092】
その後、室温で30分撹拌した後、反応混合物を5%臭化水素酸、飽和炭酸ナトリウム水溶液、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液、水で洗浄し、有機層を抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、2−(4‘−(2“−ブロモプロピオニルオキシ)フェニル)酢酸メチル42.91g(収率95%)を得た。
【0093】
次に、2−(4‘−(2“−ブロモプロピオニルオキシ)フェニル)酢酸メチル9.94g(33.00mmol)のジクロロエタン66mL溶液にN−ブロモスクシンイミド7.05g(39.60mmol)を室温で添加し、LEDライト照射下で5時間還流撹拌した。
【0094】
得られた反応混合物を飽和亜硫酸ナトリウム水溶液、水で洗浄し、有機層を抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、2−ブロモ−2−(4‘−(2“−ブロモプロピオニルオキシ)フェニル)酢酸メチル11.67g(収率93%)を得た。
【0095】
2−ブロモ−2−(4‘−(2“−ブロモプロピオニルオキシ)フェニル)酢酸メチル10.37g(27.23mmol)のアセトニトリル55mL溶液にヨウ化ナトリウム16.35g(109.11mmol)を0℃で添加し、同温で1.5時間撹拌した。
【0096】
得られた反応混合物にジクロロメタンを加え、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液、水で洗浄し、有機層を抽出した。
【0097】
抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して2−ヨード−2−(4‘−(2“−ヨードプロピオニルオキシ)フェニル)酢酸メチル5.80g(収率45%)を得た。
1H NMR (CDCl
3): □ = 2.04 (d, 3H
), 3.76 (s, 3H), 4.68 (q, 1H), 5.52 (s, 1H), 7.07(d, 2H), 7.63(d, 2H).
【0098】
(実施例2)2−ヨードイソ酪酸4−ヨードブチルの製造
【0099】
【化3】
【0100】
2−ブロモイソ酪酸ブロミド4.5g(20mmol)とヨウ化ナトリウム9.0g(60mmol)を遮光下で混合し、テトラヒドロフラン4.8mL(60mmol)を加えて25℃で2時間、次いで50℃で30分撹拌した。
【0101】
次に、得られた反応混合物にジクロロメタンを加え、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、アセトニトリル20mLを加え、ここにヨウ化ナトリウム6.0g(40mmol)を加えて80℃で7時間反応させた後に、ヨウ化ナトリウム9.0g(60mmol)を加えてさらに7時間反応させた。
【0102】
その後、沈殿物を濾別し、減圧濃縮した後、ジクロロメタンを加えて飽和亜硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。
【0103】
そして、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、(4−ヨードブチル)2−ヨードイソ酪酸を4.4g(収率68%)を得た。
1H NMR (CDCl
3): □ = 4.17 (t, 2H), 3.22 (t, 2H), 2.06 (s, 6H), 1.98-1.90 (m, 2H), 1.83-1.7
7 (m, 2H).
【0104】
(実施例3)2−ヨード−2−(4‘−(4“−ヨードブタノイルオキシ)フェニル)酢酸メチルの製造
【0105】
【化4】
【0106】
4−ヒドロキシフェニル酢酸メチル20.00g(120.36mmol)、4−ブロモ酪酸22.11g(132.39mmol)、ベンゼン60mLの混合液に、塩化ホスホリル16.69g(108.32mmol)を室温で添加した。
【0107】
その後、80℃で5.5時間撹拌した後、反応混合物を水100mLに添加し有機層を抽出した。抽出液を飽和亜硫酸ナトリウム水溶液、水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、2−(4‘−(4“−ブロモブタノイルオキシ)フェニル)酢酸メチル34.37g(収率91%)を得た。
【0108】
2−(4‘−(4“−ブロモブタノイルオキシ)フェニル)酢酸メチル26.31g(83.48mmol)のジクロロエタン85mL溶液にN−ブロモスクシンイミド22.29g(125.22mmol)を室温で添加した。
【0109】
次に、LEDライト照射下で6.5時間還流撹拌した。得られた反応混合物を飽和亜硫酸ナトリウム水溶液、水で洗浄し、有機層を抽出した。
【0110】
次に、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、2−ブロモ−2−(4‘−(4“−ブロモブタノイルオキシ)フェニル)酢酸メチル7.29g(収率22%)を得た。
【0111】
次に、2−ブロモ−2−(4‘−(4“−ブロモブタノイルオキシ)フェニル)酢酸メチル6.92g(17.56mmol)のアセトン20mL溶液にヨウ化ナトリウム6.32g(42.14mmol)を室温で添加し、その後40℃で0.5時間撹拌した。
【0112】
次に、得られた反応混合物にジクロロメタンを加え、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液、水で洗浄し、有機層を抽出した。
【0113】
そして、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、2−ヨード−2−(4‘−(4“−ヨードブタノイルオキシ)フェニル)酢酸メチル2.50g(収率30%)を得た。
1H NMR (CDCl
3): □ = 2.17-2.21 (m, 2H), 2.66-2.69 (t, 2H), 3.25-3.28 (t, 2H),
3.73 (s, 3H), 5.53 (s, 1H), 7.02-7.04(m, 2H), 7.59-7.61(m, 2H).
【0114】
(実施例4)2−ヨードフェニル酢酸4−ヨードブチルの製造
【0115】
【化5】
【0116】
2−ブロモフェニル酢酸6.5g(30mmol)に塩化チオニル4.2mL(60mmol)を混合し、遮光下、80℃で50分間撹拌した。
【0117】
続いて減圧下で揮発成分を除去してからTHF8mL(100mmol)を加え、遮光下でヨウ化ナトリウム18.0g(120mmol)を加えて27℃で2時間撹拌後、ヨウ化ナトリウム4.5g(30mmol)を加えて同条件で5時間撹拌した。
【0118】
次に、反応混合物にジクロロメタンを加え、亜硫酸ナトリウム水溶液10mLで洗浄し、さらに水相をジクロロメタン20mLで抽出し、有機層を混合した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。
【0119】
そして、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、2−ヨードフェニル酢酸4−ヨードブチル4.1g(収率31%)を得た。
1H NMR (CDCl
3): □ = 7.59-7.57 (m, 2H), 7.33-7.27 (m, 3H), 5.18 (s, 1H), 4.21-4.14 (m, 2H),
3.18 (t, 3H), 1.92-1.86 (m, 2H), 1.81-1.76 (m, 2H).
【0120】
(実施例5)2−ヨード―2―フェニル酢酸2−(ヨードアセトキシ)エチルの製造
【0121】
【化6】
【0122】
2−ブロモフェニル酢酸25.00g(114.66mmol)に塩化チオニル27.28g(229.32mmol)を加え、1時間還流撹拌した。
【0123】
その後、減圧化で残留塩化チオニルを除去し、エチレングリコール284.67g(4586.32mmol)とピリジン9.52g(120.39mmol)の混合物に室温で添加した。
【0124】
同温で1時間撹拌した後、ジエチルエーテルを加え、1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗浄した。
【0125】
無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、2−ブロモ−2−フェニル酢酸2−ヒドロキシエチル23.61g(収率80%)を得た。
【0126】
2−ブロモ−2−フェニル酢酸2−ヒドロキシエチル5.00g(19.30mmol)、ピリジン1.60g(20.26mmol)、ジエチルエーテル20mLの混合物に、2−ブロモプロピオニルブロミド4.09g(20.26mmol)のジエチルエーテル10mL溶液を室温で添加した。
【0127】
同温で1時間撹拌した後、得られた反応混合物を5%臭化水素酸、飽和炭酸ナトリウム水溶液、水で洗浄し、有機層を抽出した。
【0128】
抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、2−ブロモ−2−フェニル酢酸2−(ブロモアセトキシ)エチル4.41g(収率60%)を得た。
【0129】
2−ブロモ−2−フェニル酢酸2−(ブロモアセトキシ)エチル4.25g(11.18mmol)のアセトン22mL溶液に0℃でヨウ化ナトリウム4.02g(26.83mmol)を添加し、同温で30分撹拌した。
【0130】
その後、沈殿物を濾別し、減圧濃縮してジクロロメタンを加え飽和亜硫酸ナトリウム水溶液、水で洗浄し、有機層を抽出した。
【0131】
そして、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、2−ヨード−2−フェニル酢酸2−(ヨードアセトキシ)エチル2.52g(収率48%)を得た。
1H NMR (CDCl
3): □ = 3.66 (s, 2H), 4.34-4.38 (m, 4H), 5.55 (s, 1H), 7.28-7.33 (m, 3H), 7.58-7.60
(m, 2H).
【0132】
<重合体の製造>
上述した素反応に基づき、以下の具体的な反応条件でリビングラジカル重合体の製造を行った。
図2は、実施例に係る重合体の製造方法における重合体の生成過程を示す模式図である。
図3は、実施例に係る重合体の製造方法により得られるリビングラジカル重合開始剤及び各ポリマーの1H−NMRチャートであり、(a)はリビングラジカル重合開始剤としてのヨウ化アルキル開始剤の構造式、(b)はリビングラジカル重合開始剤の1H−NMRチャート、(c)はポリマーPの1H−NMRチャート、(d)はポリマーQの1H−NMRチャート、(e)はポリマーRの1H−NMRチャートである。
【0133】
本実施例に係る重合体の製造方法では、全ての重合反応はアルゴンガス雰囲気下にて行った。
【0134】
ブチルメタクリレート(BMA)20mL(8M)に、2−ヨード−2−(4’−(2’’−ヨードプロピオニルオキシ)フェニル)酢酸メチル(160mM)及びトリブチルメチルホスホニウムヨージド(80mM)を加え、60℃で8時間加熱撹拌した。重合率(モノマー転化率)は、55%であった。
【0135】
冷却したヘキサンに反応液を加え、ポリマーを再沈殿させて単離した。単離したポリマーPは、Mn=3,900、PDI=1.15であった。NMR測定により、ヨウ化フェニルアセチル部位は、重合がほぼ100%開始してポリマーが成長したのに対し、ヨウ化プロピオニル部位は96%が開始せず、ヨウ化フェニルアセチル部位からほぼ選択的にBMAのポリマーが成長した。
【0136】
このポリマーP(160mM)に、メチルメタクリレート(MMA)20mL(8M)及びトリブチルメチルホスホニウムアイオダイド(80mM)を加え、60℃で8時間加熱撹拌を行った。MMAの重合率(モノマー転化率)は、30%であった。
【0137】
冷却したヘキサンに反応液を加え、ポリマーを再沈殿させて単離した。単離したポリマーQはMn=5,800、PDI=1.24であった。NMR測定により、ヨウ化プロピオニル部位は90%が開始せず、ヨウ化フェニルアセチル部位からほぼ選択的にブロックポリマー(BMAとMMA)が生成した。
【0138】
更に、この2段階の反応で得られたポリマーQ(160mM)に、n−ブチルアクリレート(BA)20mL(8M)及びテトラブチルアンモニウムヨージド(320mM)を加え、110℃で24時間加熱撹拌を行った。BAの重合率(モノマー転化率)は、32%であった。冷却したヘキサンに反応液を加え、ポリマーを再沈殿させて単離した。
【0139】
単離したポリマーRはMn=8,000、PDI=1.33であった。NMR測定により、ヨウ化プロピオニル部位から、重合がほぼ100%開始してBAのホモポリマーが成長するとともに、ヨウ化フェニルアセチル部位からトリブロックポリマー(BMA、MMA、及びBA)が成長した。
【0140】
これにより、A鎖をBMA、B鎖をMMA、C鎖をBAとする、CABC型の非対称マルチブロックポリマーを合成することができた。
【0141】
各段階で得られたポリマーP、Q、Rの1H−NMRチャートはそれぞれ
図3の(c)〜(e)に示すとおりである。
【0142】
なお、濃度の「M」は、モノマー1リットルを基準とするモル数を示す。例えば、8Mは、モノマー1リットルに8モルが含まれていることを意味する。なお、MMAの場合、モノマー1リットルが(バルクが)、室温で8モルである。
【0143】
また、濃度の「mM」は、モノマー1リットルを基準とするミリモル数を示す。例えば、80mMは、モノマー1リットルに80ミリモルが含まれていることを意味する。
【0144】
また、「Mn」は、得られたポリマーの数平均分子量である。
【0145】
また、「PDI」はMw/Mnの比を示している。
【0146】
上述した本発明に係る重合体の製造方法によると、反応性が異なる2つのハロゲン原子を反応の開始基として有するリビングラジカル重合開始剤を用いているため、反応条件を適宜調整することで、それぞれの開始基について異なるリビングラジカル重合反応を進行させることができる。