【実施例】
【0089】
(1)プラスミドベクターの構築
イソブタノール生成能付与のための遺伝子、エタノール生成能付与のための遺伝子、及びアラニン生成能付与のための遺伝子の導入に共通して用いたプラスミドベクターの構築方法を、以下に説明する。
先ず、広宿主域ベクターpRK415(GenBank: EF437940.1)〔Gene, 70, 191-197 (1998)〕を鋳型として、PCRを行った。テトラサイクリン遺伝子領域を除く残りのプラスミド領域のDNA断片を増幅すべく、下記の一対のプライマーを合成し、使用した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
pRK415プラスミド配列増幅用プライマー
(a-1) 5’-CGT
GGCCAACTA
GGCCCAGCCAGATACTCCCGATC-3’(配列番号42)
(b-1) 5’-TGA
GGCCTCATT
GGCCGGAGCGCAACCCACTCACT-3’(配列番号43)
なお、プライマー(a-1)及び(b-1)には、SfiI制限酵素部位が付加されている。
【0090】
ネオマイシン/カナマイシン耐性遺伝子(以下、「nptII」と言うことがある)配列を含有するプラスミドpK18mobsacB(GenBank: FJ437239.1)〔Gene, 145, 69-73 (1994)〕を鋳型として、常法によりPCRを行った。PCRに際して、nptII遺伝子配列を含むDNA断片を増幅するべく、下記の一対のプライマーを合成し、使用した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
nptII遺伝子配列増幅用プライマー
(a-2) 5’-ctg
GGCCTAGTT
GGCCacgtagaaagccagtccgc-3’(配列番号44)
(b-2) 5’-tcc
GGCCAATGA
GGCCtcagaagaactcgtcaaga-3’(配列番号45)
なお、プライマー(a-2)及び(b-2)には、SfiI制限酵素部位が付加されている。
【0091】
上記各PCRで生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、pRK415プラスミドを鋳型とした場合は約8.7-kbのDNA断片が検出され、nptII遺伝子を鋳型とした場合は約1.1-kbのDNA断片が検出された。
このようにして調製したDNA断片をそれぞれ制限酵素SfiIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を反応させてライゲーション液を得た。得られたライゲーション液で、塩化カルシウム法〔Journal of Molecular Biology, 53, 159-162 (1970)〕によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシンを含むLB寒天培地に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出した。このプラスミドDNAを制限酵素SfiIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、pRK415プラスミドに由来する約2.0-kb及び3.0-kb及び3.7-kbのDNA断片に加え、nptII遺伝子配列の約1.1-kb DNA断片が認められた。
構築されたプラスミドをpCYK01と命名した。
【0092】
(2)遺伝子発現用クローニングベクターの構築
(2-1)λt0ターミネーター配列のDNA断片の調製
λt0ターミネーター配列のDNAを作成するため、下記の一対のプライマーを合成し、PCRに使用した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて行った。各プライマー同士のエクステンションとするため、鋳型のDNAは含んでいない。
λt0ターミネーター配列調製用プライマー
(a-3) 5’-GC
ATTAATCcttggactcctgttgatagatccagtaatgacctcagaactccatctggatttgttcagaacgctcggttgccg -3’(配列番号46)
(b-3) 5’-caccgtgcagtcgatgGATctggattctcaccaataaaaaacgcccggcggcaaccgagcgttctgaacaaatccagatggag -3’(配列番号47)
プライマー(a-3)及び(b-3)の3’側の塩基配列は互いに相補的になっている。
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、λt0ターミネーター配列に相当する、約0.13-kbのDNA断片が検出された。
【0093】
(2-2)tacプロモーター配列のDNA断片の調製
Tacプロモーターを含有するプラスミドpMAL-c5X(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)を鋳型として、PCRを行った。PCRに際して、tacプロモーター配列を増幅するべく、下記の一対のプライマーを合成し、使用した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法で行った。
tacプロモーター配列増幅用プライマー
(a-4) 5’-TTATTGGTGAGAATCCAGATCCATCGACTGCACGGTGCACCAATGCTTCT-3’(配列番号48)
(b-4) 5’-gc
aagcttggagtgatcatcgtATGCATATGCGTTTCTCCTCCAGATCCctgtttcctgtgtgaaattgt
-3’(配列番号49)
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、tacプロモーターに相当する約0.3-kbのDNA断片が検出された。
【0094】
(2-3)λt0ターミネーター及びtacプロモーター配列の導入
上記(2-1)及び(2-2)で調製したDNA断片をアガロースゲルから切り出し、ゲルを凍結及び融解することで、ゲルからDNAを回収した。回収したλt0ターミネーター配列及びtacプロモーター配列に相当するDNA断片を混合して鋳型とし、オーバーラップエクステンションPCR(overlap extension PCR)を行った。オーバーラップエクステンションPCRに際しては、λt0ターミネーターの下流にtacプロモーターが連結したDNAを作成するべく、上記の(a-3)と(b-4)のプライマーの組み合わせを使用した。なお、鋳型DNA断片を増幅する際に用いたプライマーである(b-3)及び(a-4)の5’側の塩基配列は互いに相補的になっている。また、プライマー(a-3)及び(b-4)には、それぞれPshBI、HindIII制限酵素部位が付加されている。
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、λt0ターミネーターの下流にtacプロモーターが連結したDNAに相当する、約0.4-kbのDNA断片が検出された。
【0095】
PCRにより増幅した、λt0ターミネーターの下流にtacプロモーターが連結した約0.4-kbのDNA断片及び上述のクローニングベクターpCYK01の約9.8-kbのDNA断片を、制限酵素PshBI及びHindIIIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
得られたライゲーション液で、塩化カルシウム法によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシンを含むLB寒天培地に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出した。このプラスミドDNAを制限酵素PshBI及びHindIIIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK01の約9.6-kbのDNA断片に加え、λt0ターミネーターの下流にtacプロモーターが連結した約0.4-kbのDNA断片が認められた。
【0096】
(2-4)rrnB T1T2双方向ターミネーター(以下、「rrnBターミネーター」と言うことがある)の導入
rrnBターミネーター配列を含有するプラスミドpMAL-c5X(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)を鋳型として、PCRを行った。PCRに際して、rrnBターミネーター配列を増幅するべく、下記の一対のプライマーを合成し、使用した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法で行った。
rrnBターミネーター配列増幅用プライマー
(a-5) 5’-ctc
gaattcactggccgtcgttttacaacgtcgtg-3’(配列番号50)
(b-5) 5’-CG
CAATTGAGTTTGTAGAAACGCAAAAAGGCCATC-3’(配列番号51)
なお、プライマー(a-5)及び(b-5)には、それぞれ、EcoRI及びMunI制限酵素部位が付加されている。
生成した反応液を1%アガロースゲルにより電気泳動に供した結果、rrnBターミネーター配列に相当する約0.6-kbのDNA断片が検出された。
【0097】
上記のPCRにより増幅したrrnBターミネーター配列を含む約0.6-kbのDNA断片を制限酵素EcoRI及びMunIで切断し、上記(2-3)で作成した約10.0-kbのプラスミドのDNA断片を制限酵素EcoRIで切断し、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
得られたライゲーション液で、塩化カルシウム法によりエシェリヒア コリJM109を形質転換し、カナマイシンを含むLB寒天培地に塗布した。培地上の生育株を常法により液体培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出し、このプラスミドを制限酵素EcoRI及びMunIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、上記(2-3)のプラスミドの約10.0-kbのDNA断片に加え、rrnBターミネーター配列に相当する約0.6-kbのDNA断片が認められた。
構築された遺伝子発現用クローニングベクターをpCYK21と命名した。
【0098】
(3)イソブタノール生成能を有する形質転換体
(3-1)ラクトコッカス ラクティスの2-ケト酸 デカルボキシラーゼ遺伝子のコドン最適化
ラクトコッカス ラクティスの2-ケト酸 デカルボキシラーゼ(2-keto acid decarboxylase)をコードする遺伝子kivDのコドン使用をヒドロゲノフィラス サーモルテオラスTH-1株(NBRC 14978)のコドン使用頻度に最適化し、その塩基配列のDNA断片(配列番号1)をジェンスクリプトジャパン株式会社にて遺伝子合成した。
合成したコドン最適化遺伝子の約1.7-kbのDNA断片及び上述のクローニングベクターpCYK21の約10.6-kbのDNA断片を各々制限酵素NdeI及びHindIIIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
【0099】
得られたライゲーション液で、電気パルス法(エレクトロポレーション法)により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスTH-1株(NBRC 14978)を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地〔(NH
4)
2SO
4 3.0 g、KH
2PO
4 1.0 g、K
2HPO
4 2.0 g、NaCl 0.25 g、FeSO
4・7H
2O 0.014 g、MgSO
4・7H
2O 0.5 g、CaCl
2 0.03 g、MoO
3 4.0 mg、ZnSO
4・7H
2O 28 mg、CuSO
4・5H
2O 2.0 mg、H
3BO
3 4.0 mg、MnSO
4・5H
2O 4.0 mg、CoCl
2・6H
2O 4.0 mg、寒天 15gを蒸留水1Lに溶解(pH 7.0)〕に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地〔(NH
4)
2SO
4 3.0 g、KH
2PO
4 1.0 g、K
2HPO
4 2.0 g、NaCl 0.25 g、FeSO
4・7H
2O 0.014 g、MgSO
4・7H
2O 0.5 g、CaCl
2 0.03 g、MoO
3 4.0 mg、ZnSO
4・7H
2O 28 mg、CuSO
4・5H
2O 2.0 mg、H
3BO
3 4.0 mg、MnSO
4・5H
2O 4.0 mg、CoCl
2・6H
2O 4.0 mgを蒸留水1Lに溶解(pH 7.0)〕5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、このプラスミドを制限酵素NdeI及びHindIIIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、コドン最適化遺伝子の約1.7-kbのDNA断片が認められた。
コドン最適化ラクトコッカス ラクティスkivD遺伝子を含むプラスミドをpC-opt-kivDと命名した。pC-opt-kivDを有するヒドロゲノフィラス サーモルテオラス組み換え株をKDC01株と命名した。
【0100】
(3-2)比較例の2-ケト酸 デカルボキシラーゼ遺伝子のクローニング
ラクトコッカス ラクティスNBRC 100933、バチルス サブチリスNBRC 13719、ジオバチルス サーモグルコシダシウスNBRC 107763、ジオバチルス サーモデニトリフィカンスATCC 29492、及びクレブシェラ ニューモニエNBRC 14940から、常法に従い、ゲノムDNAを抽出した。
【0101】
上記5種のゲノムDNAのそれぞれを鋳型として用いて、ラクトコッカス ラクティスの2-ケト酸 デカルボキシラーゼ遺伝子kivDを含むDNA断片、バチルス サブチリスの2-ケト酸 デカルボキシラーゼ活性を有するアセト乳酸合成酵素(Acetolactate synthase)遺伝子alsSを含むDNA断片、ジオバチルス サーモグルコシダシウスの2-ケト酸 デカルボキシラーゼ活性を有するアセト乳酸合成酵素遺伝子Geoth_3495を含むDNA断片、ジオバチルス サーモデニトリフィカンスの2-ケト酸 デカルボキシラーゼ活性を有するアセト乳酸合成酵素遺伝子Gtng_0348を含むDNA断片、及びクレブシェラ ニューモニエの2-ケト酸 デカルボキシラーゼ活性を有するインドールピルビン酸デカルボキシラーゼ(Indolepyruvate decarboxylase)遺伝子ipdCを含むDNA断片をPCR法により増幅した。PCRには、以下のプライマーを用いた。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
【0102】
ラクトコッカス ラクティスkivD遺伝子増幅用プライマー
(a-6) 5’-GCA
CATATGTATACAGTAGGAGATTACCTATTAGA-3’(配列番号52)
(b-6) 5’-GCA
GGATCCTTATGATTTATTTTGTTCAGCAAATA-3’(配列番号53)
なお、プライマー(a-6)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-6)には、BamHI制限酵素部位が付加されている。
バチルス サブチリスalsS遺伝子増幅用プライマー
(a-7) 5’-GCA
CATATGACAAAAGCAACAAAAGAACAAAAATC-3’(配列番号54)
(b-7) 5’-GCA
GGATCCTAGAGAGCTTTCGTTTTCATGAGTTC-3’(配列番号55)
なお、プライマー(a-7)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-7)には、BamHI制限酵素部位が付加されている。
ジオバチルス サーモグルコシダシウスGeoth_3495遺伝子増幅用プライマー
(a-8) 5’-CGAGTC
CATATGAAACAGACTATCCGCAATATCAG-3’(配列番号56)
(b-8) 5’-GCA
GGATCCTTACCGAGAATTCGAGCGCTTTCGCA-3’(配列番号57)
なお、プライマー(a-8)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-8)には、BamHI制限酵素部位が付加されている。
ジオバチルス サーモデニトリフィカンスGtng_0348遺伝子増幅用プライマー
(a-9) 5’-CGAGTC
CATATGAAAAAGCGGGTGATGCGTGGCCT-3’(配列番号58)
(b-9) 5’-GCA
GGATCCTCATCTGTCTGACAGTCTCATCGTCA-3’(配列番号59)
なお、プライマー(a-9)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-9)には、BamHI制限酵素部位が付加されている。
クレブシェラ ニューモニエipdC遺伝子増幅用プライマー
(a-10) 5’-CGAGTC
CATATGCAACCGACCTACACTATTGGGGA-3’(配列番号60)
(b-10) 5’-CGC
GGATCCTTAAACGCGGCTGTTTCGCTCCTCAA-3’(配列番号61)
なお、プライマー(a-10)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-10)には、BamHI制限酵素部位が付加されている。
【0103】
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供し、ラクトコッカス ラクティスkivD遺伝子、バチルス サブチリスalsS遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスGeoth_3495遺伝子、ジオバチルス サーモデニトリフィカンスGtng_0348遺伝子、クレブシェラ ニューモニエipdC遺伝子のそれぞれについて、約1.7-kbのDNA断片が検出された。
【0104】
上記PCRにより増幅したラクトコッカス ラクティスkivD遺伝子、バチルス サブチリスalsS遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスGeoth_3495遺伝子、ジオバチルス サーモデニトリフィカンスGtng_0348遺伝子、クレブシェラ ニューモニエipdC遺伝子のそれぞれを含む約1.7-kbのDNA断片及び上述のクローニングベクターpCYK21の約10.6-kbのDNA断片を、各々制限酵素NdeI及びBamHIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
【0105】
得られたライゲーション液で、電気パルス法により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスTH-1株(NBRC 14978)を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、これらのプラスミドを制限酵素NdeI及びBamHI切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、ラクトコッカス ラクティスkivD遺伝子、バチルス サブチリスalsS遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスGeoth_3495遺伝子、ジオバチルス サーモデニトリフィカンスGtng_0348遺伝子、クレブシェラ ニューモニエipdC遺伝子のそれぞれの長さ約1.7-kbの挿入断片が認められた。
【0106】
ラクトコッカス ラクティスkivD遺伝子を含むプラスミドをpC-Lla-kivD、バチルス サブチリスalsS遺伝子を含むプラスミドをpC-Bsu-alsS、ジオバチルス サーモグルコシダシウスGeoth_3495遺伝子を含むプラスミドをpC-Gtg-3495、ジオバチルス サーモデニトリフィカンスGtng_0348遺伝子を含むプラスミドをpC-Gtd-0348、クレブシェラ ニューモニエipdC遺伝子を含むプラスミドをpC-Kpn-ipdCと命名した。
【0107】
(3-3)アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のクローニング
クレブシェラ ニューモニエNBRC 14940、ジオバチルス サーモカテニュラタスNBRC 15316、及びジオバチルス サーモグルコシダシウスNBRC 107763から、常法に従い、ゲノムDNAを抽出した。
【0108】
上記3種のゲノムDNAのそれぞれを鋳型として用いて、クレブシェラ ニューモニエのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子adhPを含むDNA断片、ジオバチルス サーモカテニュラタスのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子adhPを含むDNA断片、ジオバチルス サーモグルコシダシウスのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子adhPを含むDNA断片、及びジオバチルス サーモグルコシダシウスのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子adhAを含むDNA断片をPCR法により増幅した。PCRには、以下のプライマーを用いた。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
【0109】
クレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子増幅用プライマー
(a-11) 5’-CGAGTC
CATATGAAGGCAGCTGTTGTTACCCACGA-3’(配列番号62)
(b-11) 5’-CGC
GAATTCTTAGCTACGCAGATCGATAACCATAC-3’(配列番号63)
なお、プライマー(a-11)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-11)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
ジオバチルス サーモカテニュラタスadhP遺伝子増幅用プライマー
(a-12) 5’-CGAGTC
CATATGAAAGCCGCCGTTGTTCACAAATT-3’(配列番号64)
(b-12) 5’-GCA
GGATCCTTACATTGTTAAAACAATGCGGCCAT-3’(配列番号65)
なお、プライマー(a-12)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-12)には、BamHI制限酵素部位が付加されている。
ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhP遺伝子増幅用プライマー
(a-13) 5’-CGAGTC
CATATGAAAGCGGCAGTTGTCAACGATTT-3’(配列番号66)
(b-13) 5’-CGC
GAATTCTTAACGGTTGACACCGATGGTTAAAA-3’(配列番号67)
なお、プライマー(a-13)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-13)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhA遺伝子増幅用プライマー
(a-14) 5’-CGAGTC
CATATGAAAGCACTTACATACCTAGGGCC-3’(配列番号68)
(b-14) 5’-GCA
GGATCCTTAACTGTTGGAAATAATGACTTTTA-3’(配列番号69)
なお、プライマー(a-14)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-14)には、BamHI制限酵素部位が付加されている。
【0110】
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供し、クレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子、ジオバチルス サーモカテニュラタスadhP遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhP遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhA遺伝子のそれぞれについて、約1.0-kbのDNA断片が検出された。
【0111】
上記PCRにより増幅したジオバチルス サーモカテニュラタスadhP遺伝子、及びジオバチルス サーモグルコシダシウスadhA遺伝子のそれぞれを含む約1.0-kbのDNA断片及び上述のクローニングベクターpCYK21の約10.6-kbのDNA断片を、各々制限酵素NdeI及びBamHIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
また、PCRにより増幅したクレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhP遺伝子のそれぞれを含む約1.0-kbのDNA断片及び上述のクローニングベクターpCYK21の約10.6-kbのDNA断片を、各々制限酵素NdeI及びEcoRIで切断し、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
【0112】
得られたライゲーション液で、電気パルス法により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス TH-1株(NBRC 14978)を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、これらのプラスミドを制限酵素NdeI及びBamHI、又はNdeI及びEcoRIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、クレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子、ジオバチルス サーモカテニュラタスadhP遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhP遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhA遺伝子のそれぞれの長さ約1.0-kbの挿入断片が認められた。
【0113】
クレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子を含むプラスミドをpC-Kpn-adhP、ジオバチルス サーモカテニュラタスadhP遺伝子を含むプラスミドをpC-Gtc-adhP、ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhP遺伝子を含むプラスミドをpC-Gtg-adhP、ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhA遺伝子を含むプラスミドをpC-Gtg-adhAと命名した。
各ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス組み換え株が有するプラスミドを表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
(3-4)ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス イソブタノール生成遺伝子導入株における導入遺伝子発現の確認
2-ケト酸 デカルボキシラーゼの活性測定
上記のようにして得た各2-ケト酸 デカルボキシラーゼ遺伝子導入株をカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入し、50℃にて20時間、振盪培養を行った。
このようにして培養増殖された菌体を、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 1分間) により回収した。超音波処理で菌体細胞を破砕した後、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 5分間)により得た細胞破砕上清を粗酵素液として用い、以下の方法により2-ケト酸 でカルボキシラーゼ活性を測定した。粗酵素液、50 mM Tris-HCl (pH 6.8)、 2.5 mM MgSO
4、0.2 mM thiamine pyrophosphate (TPP)、3.0 mM NADH、30 mM 2-ケトイソ吉草酸(2-ketoisovalerate)、0.5 U/ml ウマ由来アルコール デヒドロゲナーゼ(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社)を混合し、50℃で反応を行い、NADHに由来する340 nmの吸光度減少を追跡し、反応初速度を解析した。反応初速度とタンパク質濃度から比活性を算出した。1分間あたり、1μmolのイソブチルアルデヒドを産生せしめる酵素量を1 U(Unit)と定義した。
【0116】
この結果、ラクトコッカス ラクティスのコドン最適化kivDを導入したKDC01株では、0.65 U/mgの目的とする2-ケト酸 デカルボキシラーゼ活性が検出された。
一方、ラクトコッカス ラクティスの天然型のkivDを導入したKDC02株、バチルス サブチリスのalsSを導入したKDC03株、ジオバチルス サーモグルコシダシウスのGeoth_3495を導入したKDC04株、ジオバチルス サーモデニトリフィカンスのGtng_0348を導入したKDC05株、及びクレブシェラ ニューモニエのipdCを導入したKDC06株では、2-ケト酸 デカルボキシラーゼ活性は認められなかった。
また、同様の実験を空ベクター(pCYK21)を導入したヒドロゲノフィラス サーモルテオラス TH-1株に対して行った結果、2-ケト酸 デカルボキシラーゼ活性は認められなかった。
【0117】
イソブチルアルデヒドを基質とするアルコール デヒドロゲナーゼの活性測定
上記のようにして得た各ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのアルコール デヒドロゲナーゼ遺伝子導入株をカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入し、50℃にて20時間、振とう培養を行った。
このようにして培養増殖された各菌体を、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 1分間) により回収した。超音波処理で菌体細胞を破砕した後、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 5分間)により得た細胞破砕上清を粗酵素液として用い、以下の方法によりアルコール デヒドロゲナーゼ活性を測定した。粗酵素液、50 mM Tris-HCl (pH 8.0)、0.2 mM NADH、100 mM イソブチルアルデヒドを混合し、50℃で反応を行い、NADHに由来する340 nmの吸光度減少を追跡し、反応初速度を解析した。反応初速度とタンパク質濃度から比活性を算出した。1分間あたり、1μmolのイソブタノールを産生せしめる酵素量を1 U(Unit)と定義した。
【0118】
この結果、表2に示すように、クレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子、ジオバチルス サーモカテニュラタスadhP遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhP遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhA遺伝子の何れを導入した形質転換体でも活性が認められた。一方、同様の実験を空ベクター(pCYK21)を導入したヒドロゲノフィラス サーモルテオラス TH-1株に対して行った結果、アルコール デヒドロゲナーゼ活性は認められなかった。
【0119】
【表2】
【0120】
(3-5)イソブタノール生成株の作製
クレブシェラ ニューモニエのアルコール デヒドロゲナーゼをコードするadhP遺伝子を含む DNA断片を、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いたPCRにより、常法により増幅した。鋳型DNAとしてプラスミドpC-Kpn-adhPを用い、下記一対のプライマーを用いた。
クレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子増幅用プライマー
(a-15) 5’-CGC
GGTACCGGATCTGGAGGAGAAACGCATATGAA-3’(配列番号70)
(b-15) 5’-CGC
GGTACCTTAACGGTTGACACCGATGGTTAAAA-3’(配列番号71)
なお、プライマー(a-15)及び(b-15)には、KpnI制限酵素部位が付加されている。
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、クレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子の約1.0-kbのDNA断片が検出された。
【0121】
上記のようにして得たクレブシェラ ニューモニエのアルコール デヒドロゲナーゼをコードするadhP遺伝子を含む DNA断片及び上述のコドン最適化ラクトコッカス ラクティスkivD遺伝子を含むプラスミドpC-opt-kivDの約12.3-kbのDNA断片を各々制限酵素KpnIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
得られたライゲーション液で、電気パルス法により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスTH-1(NBRC 14978)を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、このプラスミドを制限酵素KpnIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpC-opt-kivDの約12.3-kbのDNA断片に加え、クレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子の約1.0-kbの挿入断片が認められた。
コドン最適化ラクトコッカス ラクティスkivD遺伝子の下流にクレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子を含むプラスミドを、pC-opt-kivD&Kpn-adhPと命名した。
また、この株をヒドロゲノフィラス サーモルテオラスIBU-1株と命名した。
【0122】
(3-6)イソブタノール生成
(3-5)の項目で得たヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのイソブタノール生成遺伝子導入株(IBU-1)をカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地に白金耳を用いて植菌し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを培養に伴い供給し、50℃にて30時間、振盪培養した。
培養後、遠心分離(4℃、15,000 rpm、1分間) により得た培養上清のイソブタノールを定量した結果、培地上清中に4mMのイソブタノールの生成が確認された。
【0123】
(4)エタノール生成能を有する形質転換体
(4-1) ピルビン酸 デカルボキシラーゼ遺伝子のクローニング
グルコノバクター オキシダンスNBRC 3292、ザイモモナス モビリスNBRC 13756、ザイモバクター パルマエNBRC 102412、アセトバクター パスツリアヌスNBRC 105184から、常法に従い、ゲノムDNAを抽出した。
【0124】
上記4種のゲノムDNAのそれぞれを鋳型として用いて、グルコノバクター オキシダンス、ザイモモナス モビリス、ザイモバクター パルマエ、及びアセトバクター パスツリアヌスのピルビン酸 デカルボキシラーゼ遺伝子pdcを含むDNA断片をPCR法により増幅した。PCRには、以下のプライマーを用いた。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
【0125】
グルコノバクター オキシダンスpdc遺伝子増幅用プライマー
(a-16) 5’- GCA
CATATGACTTATACTGTCGGACATTATCTTGC -3’(配列番号72)
(b-16) 5’- GCA
GGATCCTTAGACGCTCTGGGGCTTGCGGGAGT -3’(配列番号73)
なお、プライマー(a-16)にはNdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-16)にはBamHI制限酵素部位が付加されている。
ザイモモナス モビリスpdc遺伝子増幅用プライマー
(a-17) 5’-CGAGTC
CATATGAAGGCAGCTGTTGTTACCCACGA-3’(配列番号74)
(b-17) 5’-CGC
GTCGACTTAGCTACGCAGATCGATAACCATAC-3’(配列番号75)
なお、プライマー(a-17)には、NdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-17)には、SalI制限酵素部位が付加されている。
ザイモバクター パルマエpdc遺伝子増幅用プライマー
(a-18) 5’-GCA
CATATGTATACCGTTGGTATGTACTTGGCAGA-3’(配列番号76)
(b-18) 5’-GCA
GTCGACTTACGCTTGTGGTTTGCGAGAGTTGG-3’(配列番号77)
なお、プライマー(a-18)には、NdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-18)には、SalI制限酵素部位が付加されている。
アセトバクター パスツリアヌスpdc遺伝子増幅用プライマー
(a-19) 5’-GCA
CATATGACATATACAGTCGGCATGTATCTTGC-3’(配列番号78)
(b-19) 5’-GCA
GTCGACTCAGGATACCTGCGGTTTTCTGGAAT-3’(配列番号79)
なお、プライマー(a-19)には、NdeI制限酵素部位が付加されており、プライマー(b-19)には、SalI制限酵素部位が付加されている。
【0126】
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供し、グルコノバクター オキシダンス、ザイモモナス モビリス、ザイモバクター パルマエ、及びアセトバクター パスツリアヌスのpdc遺伝子それぞれについて、約1.7-kbのDNA断片が検出された。
【0127】
上記PCRにより増幅したグルコノバクター オキシダンス由来pdc遺伝子の約1.7-kbのDNA断片及び上述のクローニングベクターpCYK21の約10.6-kbのDNA断片を各々制限酵素NdeI及びBamHIで切断し、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
上記PCRにより増幅したザイモモナス モビリス、ザイモバクター パルマエ、及びアセトバクター パスツリアヌスのpdc遺伝子それぞれを含む約1.7-kbのDNA断片及び上述のクローニングベクターpCYK21の約10.6-kbのDNA断片を、各々制限酵素NdeI及びSalIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
【0128】
得られたライゲーション液で、電気パルス法により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス TH-1株(NBRC 14978)を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出した。
グルコノバクター オキシダンス由来pdc遺伝子を含むプラスミドを制限酵素NdeI及びBamHIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、グルコノバクター オキシダンス由来pdc遺伝子の長さ約1.7-kbの挿入断片が認められた。
また、ザイモモナス モビリス、ザイモバクター パルマエ、及びアセトバクター パスツリアヌスの各pdc遺伝子を含むプラスミドを制限酵素NdeI及びSalIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、ザイモモナス モビリス、ザイモバクター パルマエ、及びアセトバクター パスツリアヌスのpdc遺伝子それぞれの長さ約1.7-kbの挿入断片が認められた。
【0129】
グルコノバクター オキシダンス由来pdc遺伝子を含むプラスミドをpC-Gox-pdc、ザイモモナス モビリスpdc遺伝子を含むプラスミドをpC-Zmo-pdc、ザイモバクター パルマエpdc遺伝子を含むプラスミドをpC-Zpa-pdc、アセトバクター パスツリアヌスpdc遺伝子を含むプラスミドをpC-Apa-pdcと命名した。
【0130】
(4-2)アルコール デヒドロゲナーゼ遺伝子のクローニング
「(3)イソブタノール生成能を有する形質転換体」の(3-3)の項目で説明した通りである。
【0131】
(4-3)アルデヒド-アルコール デヒドロゲナーゼ遺伝子のクローニング
エシェリヒア コリK12 MG1655から、常法によりゲノムDNAを抽出した。また、クロストリジウム サーモセラムATCC 27405のゲノムDNAを、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NBRC)より入手した。
これらのゲノムDNAをそれぞれ鋳型として用いて、アルデヒド-アルコール デヒドロゲナーゼ遺伝子adhEを含むDNA断片をPCR法により増幅した。PCRには、以下のプライマーを用いた。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
エシェリヒア コリadhE遺伝子増幅用プライマー
(a-20) 5’-GCA
CATATGGCTGTTACTAATGTCGCTGAACTTAA-3’(配列番号80)
(b-20) 5’-GCA
GGATCCTTAAGCGGATTTTTTCGCTTTTTTCT-3’(配列番号81)
なお、プライマー(a-20)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-20)には、BamHI制限酵素部位が付加されている。
クロストリジウム サーモセラムadhE遺伝子増幅用プライマー
(a-21) 5’-GCA
CATATGACGAAAATAGCGAATAAATACGAAGT-3’(配列番号82)
(b-21) 5’-GCA
CTGCAGTTATTTCTTCGCACCTCCGTAATAAG-3’(配列番号83)
なお、プライマー(a-21)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-21)には、PstI制限酵素部位が付加されている。
【0132】
生成した反応液2μlを1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供し、エシェリヒア コリ由来adhE遺伝子、クロストリジウム サーモセラム由来adhE遺伝子のそれぞれについて、約2.7-kbのDNA断片が検出された。
【0133】
上記PCRにより増幅したエシェリヒア コリ由来adhE遺伝子の約2.7-kbのDNA断片及び上述のクローニングベクターpCYK21の約10.6-kbのDNA断片を各々制限酵素NdeI及びBamHIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
また、上記PCRにより増幅したクロストリジウム サーモセラム由来adhE遺伝子の約2.7-kbのDNA断片及び上述のクローニングベクターpCYK21の約10.6-kbのDNA断片を各々制限酵素NdeI及びPstIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
【0134】
得られたライゲーション液で、電気パルス法により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス TH-1(NBRC 14978)を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、このプラスミドを制限酵素NdeI及びBamHI、又はNdeI及びPstIでそれぞれ切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、エシェリヒア コリ由来adhE遺伝子、又はクロストリジウム サーモセラム由来adhE遺伝子の長さ約2.7-kbの挿入断片が認められた。
エシェリヒア コリ由来adhE遺伝子を含むプラスミドをpC-Eco-adhE、クロストリジウム サーモセラム由来adhE遺伝子を含むプラスミドをpC-Cth-adhEと命名した。
【0135】
各形質転換体に導入されたプラスミドを表3に示す。
【表3】
【0136】
(4-4)ヒドロゲノフィラス サーモルテオラス エタノール生成遺伝子導入株における導入遺伝子発現の確認
ピルビン酸 デカルボキシラーゼの活性測定
ピルビン酸 デカルボキシラーゼ遺伝子(pdc遺伝子)導入PDC01株、PDC02株、PDC03株、及びPDC04株をカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入し、50℃にて20時間、振盪培養した。
培養により増殖した菌体を、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 1分間) により回収した。超音波処理で菌体細胞を破砕した後、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 5分間)により得た細胞破砕上清を粗酵素液として用い、以下の方法によりピルビン酸 デカルボキシラーゼ活性を測定した。粗酵素液、250 mM sodium phosphate (pH 6.2)、 1 mM MgCl
2、1 mM thiamine pyrophosphate (TPP)、0.4 mM NADH、100 mM ピルビン酸、0.02 mg/ml 酵母アルコール デヒドロゲナーゼ(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社)を混合し、50℃で反応を行い、NADHに由来する340 nmの吸光度減少を追跡し、反応初速度を解析した。反応初速度とタンパク質濃度から比活性を算出した。1分間あたり、1μmolのアセトアルデヒドを産生せしめる酵素量を1 U(Unit)と定義した。
【0137】
この結果、グルコノバクター オキシダンスのpdc遺伝子を導入したPDC01株では、3.0 U/mgの目的とするピルビン酸 デカルボキシラーゼ活性が検出された。
一方、ザイモモナス モビリスpdc遺伝子を導入したPDC02株、ザイモバクター パルマエpdc遺伝子を導入したPDC03株、アセトバクター パスツリアヌスpdc遺伝子を導入したPDC04株では、ピルビン酸 デカルボキシラーゼ活性が検出されなかった。
また、同様の実験をヒドロゲノフィラス サーモルテオラス野生株(空ベクター(pCYK21)のみを有するTH-1株)に対して行ったところ、ピルビン酸 デカルボキシラーゼ活性は認められなかった。
【0138】
アセトアルデヒドを基質とするアルコール デヒドロゲナーゼの活性測定
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのアルコール デヒドロゲナーゼ遺伝子導入ADH01株、ADH02株、ADH03株、及びADH04株をそれぞれカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地5mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入し、50℃にて20時間、振盪培養した。
培養により増殖した各菌体を、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 1分間) により回収した。超音波処理で菌体細胞を破砕した後、遠心分離(4℃、15,000 rpm、5分間)により得た細胞破砕上清を粗酵素液として用い、以下の方法によりアセトアルデヒドを基質とするアルコール デヒドロゲナーゼ活性を測定した。粗酵素液、50 mM Tris-HCl (pH 8.0)、0.2 mM NADH、90 mM アセトアルデヒドを混合し、50℃で反応を行い、NADHに由来する340 nmの吸光度減少を追跡し、反応初速度を解析した。反応初速度とタンパク質濃度から比活性を算出した。1分間あたり、1μmolのエタノールを産生せしめる酵素量を1 U(Unit)と定義した。
この結果、表4に示す通り、ADH01〜ADH04株について、目的とするアルコール デヒドロゲナーゼ活性が検出された。特に高い活性を示したのは、クレブシェラ ニューモニエ由来adhP遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウス由来adhP遺伝子であった。また、ジオバチルス サーモカテニュラタス由来adhP遺伝子、ジオバチルス サーモグルコシダシウス由来adhA遺伝子についてもアルコール デヒドロゲナーゼ活性が検出された。ここで、同様の実験を空ベクター(pCYK21)を導入したヒドロゲノフィラス サーモルテオラス TH-1株に対して行ったところ、アルコール デヒドロゲナーゼ活性は認められなかった。
【0139】
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのadhP、又はadhA遺伝子導入株のアセトアルデヒドを基質としたアルコール デヒドロゲナーゼ活性を表4に示す。
【表4】
【0140】
(4-5)adhE遺伝子への部位特異的変異導入
部位特異的変異導入プラスミドの構築
adhEにコードされるアルデヒド-アルコール デヒドロゲナーゼは好気条件下では活性が阻害される。好気条件下でも高い活性を示すよう、上記プラスミドpC-Eco-adhEを用いて、568番目のグルタミン酸(E568)部位をリジン(K)に置換したエシェリヒア コリ由来adhEの変異体(adhE(E568K))を、インバースPCR(inverse PCR)によって作成し、部位特異的変異が導入されたプラスミドを取得し、pC-Eco-E568Kと命名した。
また、クロストリジウム サーモセラム由来adhEについては、上記プラスミドpC-Cth-adhEを用いて、575番目のアスパラギン酸(D575)部位をアスパラギン(N)に置換したクロストリジウム サーモセラム由来adhEの変異体(adhE(D575N))を、インバースPCRによって作成し、部位特異的変異が導入されたプラスミドを取得し、pC-Cth-D575Nと命名した。
【0141】
インバースPCRは、pC-Eco-adhE、及びpC-Cth-adhEをそれぞれ鋳型とし、下記プライマーを用いて、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、常法により行った。
エシェリヒア コリadhE遺伝子E568K変異導入用プライマー
(a-22) 5’-GAAGCTGGCGCTGCGCTTTATGGATATCCGTAAAC-3’(配列番号84)
(b-22) 5’-TCGAAGTGAGTTTCCGGATGTTCGTACATAACCCA-3’(配列番号85)
クロストリジウム サーモセラムadhE遺伝子D575N変異導入用プライマー
(a-23) 5’-ATGGCAATGAGATTTATGGATATAAGAAAGAGAGT-3’(配列番号86)
(b-23) 5’-GTTCATAAAGTCAACTTCCGGATGTTCATACATCA-3’(配列番号87)
生成した反応液を1%アガロースゲルにより電気泳動に供し、エシェリヒア コリ由来adhEのE568K変異体及びクロストリジウム サーモセラム由来adhEのD575N変異体のそれぞれについて、約13-kbのDNA断片が検出された。
【0142】
増幅した各DNA断片をT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ株式会社製)を用いてリン酸化処理し、次いでT4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて結合(セルフライゲーション)させた。
得られたライゲーション液で、電気パルス法により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスNBRC 14978を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出した。このプラスミドを、エシェリヒア コリ由来adhEのE568K変異遺伝子の場合は制限酵素NdeI及びBamHI、クロストリジウム サーモセラム由来adhEのD575N変異遺伝子の場合は制限酵素NdeI及びPstIでそれぞれ切断し、挿入断片を確認した。この結果、それぞれプラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、長さ約2.7-kbの挿入断片が認められた。
【0143】
変異adhE遺伝子が導入されたヒドロゲノフィラス サーモルテオラス組み換え株が有するプラスミドを表5に示す。
【表5】
【0144】
(4-6)アセトアルデヒドを基質としたアルデヒド-アルコール デヒドロゲナーゼの活性測定
(4-3)の項目で作成したヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのアルデヒド−アルコール デヒドロゲナーゼ遺伝子導入株(ADH05、ADH06)、及び(4-5)の項目で作成したヒドロゲノフィラス サーモルテオラスの変異アルデヒド−アルコール デヒドロゲナーゼ遺伝子導入株(ADH07、ADH08)を、カナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地5mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入し、50℃にて20時間、振盪培養した。
培養により増殖した各菌体を、遠心分離(4℃、15,000 rpm、1分間) により回収した。超音波処理で菌体細胞を破砕した後、遠心分離(4℃、15,000 rpm、5分間)により得た細胞破砕上清を粗酵素液として用い、以下の方法によりアセトアルデヒドを基質とするアルコール デヒドロゲナーゼ活性を測定した。粗酵素液、50 mM Tris-HCl (pH 8.0)、0.2 mM NADH、90 mM アセトアルデヒドを混合し、50℃で反応を行い、NADHに由来する340 nmの吸光度減少を追跡し、反応初速度を解析した。反応初速度とタンパク質濃度から比活性を算出した。1分間あたり、1μmolのエタノールを産生せしめる酵素量を1 U(Unit)と定義した。
【0145】
なお、前述した通り、adhE遺伝子がコードするアルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼは、アセチルCoAをアセトアルデヒドに変換する反応を触媒するアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性と、アセトアルデヒドをエタノールに変換する反応を触媒するアルコールデヒドロゲナーゼ活性の双方を有する二機能性の酵素である。ここでは、アセトアルデヒドを基質としてエタノールを生成する反応を指標に、adhE遺伝子の発現を評価したが、上記各菌株は、アセチルCoAをアセトアルデヒドに変換する反応を触媒するアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性も有していた。
【0146】
この結果、表6に示すように、変異遺伝子を導入したADH07及びADH08株は、それぞれ、野生型遺伝子を導入したADH05及びADH06株に比べ1.5倍及び3.4倍に活性が向上した。
【表6】
【0147】
(4-7)エタノール生成株の作製
クレブシェラ ニューモニエのアルコール デヒドロゲナーゼをコードするadhP遺伝子を含む DNA断片を、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いたPCRにより、常法により増幅した。鋳型DNAとしてプラスミドpC-Kpn-adhPを用い、下記一対のプライマーを用いた。
ジオバチルス サーモグルコシダシウスadhP遺伝子増幅用プライマー
(a-24) 5’-CGC
GGTACCGGATCTGGAGGAGAAACGCATATGAA-3’(配列番号88)
(b-24) 5’-CGC
GGTACCTTAACGGTTGACACCGATGGTTAAAA-3’(配列番号89)
なお、プライマー(a-24)及び(b-24)には、KpnI制限酵素部位が付加されている。
生成した反応液を1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した結果、ジオバチルス サーモグルコシダシウス由来adhP遺伝子に相当する、約1.0-kbのDNA断片が検出された。
【0148】
上記PCRにより増幅したクレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子の約1.0-kbのDNA断片及びグルコノバクター オキシダンスpdc遺伝子を含むプラスミドpC-Gox-pdcの約12.3-kbのDNA断片を各々制限酵素KpnIで切断し、T4 DNAリガーゼ (タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
【0149】
得られたライゲーション液で、電気パルス法により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスNBRC 14978を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、このプラスミドを制限酵素KpnIで切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpC-Gox-pdcの約12.3-kbのDNA断片に加え、クレブシェラ ニューモニエadhP遺伝子の約1.0-kbの挿入断片が認められた。
グルコノバクター オキシダンスpdc遺伝子の下流にジオバチルス サーモグルコシダシウスadhP遺伝子を含むプラスミドを、pC-Gox-pdc&Kpn-adhPと命名した。
また、このプラスミドを有する菌株をヒドロゲノフィラス サーモルテオラスETH-1株と命名した。
【0150】
(4-8)エタノール生成
(4-7)の項目で得たヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのエタノール生成遺伝子導入株(ETH-1株)をカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地に白金耳を用いて植菌し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを培養に伴い供給し、50℃にて30時間、振盪培養した。
培養後、遠心分離(4℃、15,000 rpm、1分間) により得た培養上清のエタノールの定量を行ったところ、培地上清中に10mMのエタノールが生成されていた。
【0151】
(5)アラニン生成能を有する形質転換体の作製
(5-1)ゲノムDNAの調製
ジオバチルス ステアロサーモフィラス ATCC 12980から常法によりゲノムDNAを抽出した。また、サーマス サーモフィラス HB8株(ATCC 27634)のゲノムDNAをタカラバイオ株式会社から購入した。
【0152】
(5-2)alaD遺伝子を含むDNA断片のクローン化
アラニン デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むDNA断片を、ジオバチルス ステアロサーモフィラス ATCC 12980のゲノムDNA、及びサーマス サーモフィラス HB8株(ATCC 27634)のゲノムDNAをそれぞれ鋳型として用い、下記一対のプライマーを用いて、PCRにより増幅した。PCRは、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて常法により行った。
ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD1遺伝子増幅用プライマー
(a-25) 5’-TCCGGCGGG
CATATGAAGATCGGCATTCCAAAAGA-3’(配列番号90)
(b-25) 5’-AA
GAATTCCAGCGGCTCATATACGATACCGTTCGG-3’(配列番号91)
なお、プライマー(a-25)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-25)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD2遺伝子増幅用プライマー
(a-26) 5’-TCCGGCGGG
CATATGATTATTGGAGTGCCAAAGGA-3’(配列番号92)
(b-26) 5’-AA
GAATTCTTAGTTGGCAGCCAACGTTTTCCCGAG-3’(配列番号93)
なお、プライマー(a-26)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-26)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
サーマス サーモフィラスalaD1遺伝子増幅用プライマー
(a-27) 5’-CCGGCGGG
CATATGGTGATCGGCGTGCCGAAGGAG-3’(配列番号94)
(b-27) 5’-AA
GAATTCTCACCCCCTCAAGGCCTCCTCGGGAGG-3’(配列番号95)
なお、プライマー(a-27)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-27)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
サーマス サーモフィラスalaD2遺伝子増幅用プライマー
(a-28) 5’-CGGCGGG
CATATGgagttcggcgtgcccagagaac-3’(配列番号96)
(b-28) 5’-AA
GAATTCtcattctaggtggcctcctttctcgcc-3’(配列番号97)
なお、プライマー(a-28)には、NdeI制限酵素部位が、プライマー(b-28)には、EcoRI制限酵素部位が付加されている。
生成した反応液を1%アガロースゲルにより電気泳動に供し、ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD1遺伝子の場合は約1.6kbのDNA断片が、ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD2遺伝子、サーマス サーモフィラスalaD1遺伝子、サーマス サーモフィラスalaD2遺伝子の場合はそれぞれ約1.1kbのDNA断片が検出された。
【0153】
上記PCRにより増幅したジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD1遺伝子の約1.6-kbのDNA断片、ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD2遺伝子の約1.1-kbの各DNA断片、サーマス サーモフィラスalaD1遺伝子の約1.1-kbの各DNA断片、及びサーマス サーモフィラスalaD2遺伝子の約1.1-kbの各DNA断片のそれぞれと、上記クローニングベクターpCYK21の約10.6-kbのDNA断片を各々制限酵素NdeI及びEcoRIで切断し、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
【0154】
得られたライゲーション液で、電気パルス法により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスNBRC 14978を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養し、培養液よりプラスミドDNAを抽出、これらのプラスミドを制限酵素NdeI及びEcoRIでそれぞれ切断し、挿入断片を確認した。この結果、プラスミドpCYK21の約10.6-kbのDNA断片に加え、ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD1遺伝子の場合は長さ約1.6-kbの挿入断片が、ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD2遺伝子、サーマス サーモフィラスalaD1遺伝子、及びサーマス サーモフィラスalaD2遺伝子の場合はそれぞれ約1.1-kbのDNA断片が認められた。
【0155】
ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD1遺伝子を含むプラスミドをpC-Gst-alaD1、ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD2遺伝子を含むプラスミドをpC-Gst-alaD2、サーマス サーモフィラスalaD1遺伝子を含むプラスミドをpC-Tth-alaD1、サーマス サーモフィラスalaD2遺伝子を含むプラスミドをpC-Tth-alaD2と命名した。これらのヒドロゲノフィラス サーモルテオラス組み換え株が有するプラスミドを表7に示す。
【0156】
【表7】
【0157】
(5-3)アラニン デヒドロゲナーゼの活性測定
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのアラニン デヒドロゲナーゼ遺伝子導入ALA01株、ALA02株、ALA03株、及びALA04株を、それぞれカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地5mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入し、50℃にて20時間、振盪培養した。
培養により増殖した各菌体を、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 1分間) により回収した。超音波処理で菌体細胞を破砕した後、遠心分離(4℃、15,000 rpm、5分間)により得た細胞破砕上清を粗酵素液として用い、以下の方法によりアラニン デヒドロゲナーゼ活性を測定した。粗酵素液、100 mM Tris-HCl (pH 8.5)、100 mM NH
4Cl、0.1 mM NADH、60 mM ピルビン酸を混合し、50℃で反応を行い、NADHに由来する340 nmの吸光度減少を追跡し、反応初速度を解析した。反応初速度とタンパク質濃度から比活性を算出した。1分間あたり、1μmolのアラニンを産生せしめる酵素量を1 U(unit)と定義した。
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのalaD遺伝子導入株が産生したアラニン デヒドロゲナーゼの活性を表8に示す。
【0158】
【表8】
表8に示す通り、ALA01株、ALA02株、ALA03株、及びALA04株について目的とするアラニン デヒドロゲナーゼ活性が検出された。特に高い活性を示したのは、ジオバチルス ステアロサーモフィラス由来alaD2遺伝子であった。一方、同様の実験を空ベクター(pCYK21)を導入したヒドロゲノフィラス サーモルテオラス TH-1株に対して行った結果、アラニン デヒドロゲナーゼ活性は認められなかった。
【0159】
(5-4)遺伝子発現量向上のためのN末端へのポリペプチドの付加
付加するポリペプチドをコードするDNA断片の調製
付加するポリペプチドをコードするDNA断片を調製するため、下記の各一対ずつのオリゴヌクレオチドを合成した。各一対のオリゴヌクレオチドは互いに相補的な配列である。
MKIEEGKLVIHの配列(配列番号37)のポリペプチド(マルトース結合タンパク質のN末端配列)
(a-29) 5’-TATGAAAATCGAAGAAGGTAAACTGGTAATCCA-3’(配列番号98)
(b-29) 5’-TATGGATTACCAGTTTACCTTCTTCGATTTTCA-3’(配列番号99)
MSKIKHの配列(配列番号100)のポリペプチド〔Journal of Bioscience and Bioengineering, 123, 540-546 (2017)〕
(a-30) 5’-TATGAGCAAGATCAAACA-3’(配列番号101)
(b-30) 5’-TATGTTTGATCTTGCTCA-3’(配列番号102)
MDFPVAEDRRHの配列(配列番号103)のポリペプチド(グルタチオン S-トランスフェラーゼのN末端配列)
(a-31) 5’-TATGTCGCCGATCCTCGGCTACTGGAAAATCCA-3’(配列番号104)
(b-31) 5’-TATGGATTTTCCAGTAGCCGAGGATCGGCGACA-3’(配列番号105)
MTENAEKFLWHの配列(配列番号106)のポリペプチド(β-グルコシダーゼのN末端配列)
(a-32) 5’-TATGACCGAGAACGCCGAAAAATTCCTTTGGCA-3’(配列番号107)
(b-32) 5’-TATGCCAAAGGAATTTTTCGGCGTTCTCGGTCA-3’(配列番号108)
(a-29)と(b-29)、(a-30)と(b-30)、(a-31)と(b-31)、(a-32)と(b-32)のオリゴヌクレオチドをそれぞれ等モル(mol)ずつ混合し、混合液を98℃から20℃まで緩やかに冷却し、オリゴヌクレオチドがアニーリングすることで、ポリペプチド配列をコードする二本鎖DNA断片を調製した。なお、このDNA断片の両端は制限酵素NdeI切断による突出末端と同等である。
【0160】
また、MGKDHLIHNVHKEEHAHAHNKHの配列(配列番号109)(HAT配列)をコードする塩基配列からなるDNA断片を作成するため、下記の一対のプライマーを用いて、ライフテクノロジーズ社製の「DNAサーマルサイクラー」を用い、反応試薬としてKOD FX Neo(東洋紡株式会社製)を用いて、PCRを行った。各プライマー同士のエクステンションとするため、鋳型のDNAは含んでいない。
HAT配列調製用プライマー
(a-33) 5’-CG
CATATGGGCAAGGATCATCTCATCCACAATGTCCACAAAGAGG-3’(配列番号110)
(b-33) 5’-CG
CATATGCTTGTTGTGGGCATGAGCGTGCTCCTCTTTGTGGACA-3’(配列番号111)
プライマー(a-33)及び(b-33)の3’側の塩基配列は互いに相補的になっている。なお、プライマー(a-33)及び(b-33)には、NdeI制限酵素部位が付加されている。
生成した反応液を1%アガロースゲルにより電気泳動した結果、HAT配列に相当する、約0.1-kbのDNA断片が検出された。増幅したHAT配列の約0.1-kbのDNA断片を制限酵素NdeIで切断した。
【0161】
ポリペプチド融合タンパク質の発現ベクターの構築
ジオバチルス ステアロサーモフィラスalaD2遺伝子を含有するプラスミドpC-Gst-alaD2を制限酵素NdeIで切断した。このプラスミドと、両末端に制限酵素NdeI切断突出を有する上記各DNA断片(「付加するポリペプチドをコードするDNA断片の調製」の項目で調製した5種の二本鎖DNA断片)のそれぞれとを混合し、T4 DNAリガーゼ(タカラバイオ株式会社製)を用いて互いに結合させた。
【0162】
得られたライゲーション液で、電気パルス法により、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスNBRC 14978を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むA固体培地に塗布し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入したチャンバー内で、50℃にて60時間培養した。
A固体培地上の各生育株をカナマイシン50μg/mlを含むA液体培地5 mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、試験管にH
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入して、50℃で震盪培養した。培養液よりプラスミドDNAを抽出、これらのプラスミドを制限酵素NdeIでそれぞれ切断し、挿入断片を確認した。
【0163】
融合ペプチドとして、マルトース結合タンパク質のN末端配列を付加するプラスミドをpMBP-Gst-alaD2、MSKIKHの配列を付加するプラスミドをpSKIK-Gst-alaD2、グルタチオン S-トランスフェラーゼのN末端配列を付加するプラスミドをpGST-Gst-alaD2、β-グルコシダーゼのN末端配列を付加するプラスミドをpGlu-Gst-alaD2、HATタグの配列を付加するプラスミドをpHAT-Gst-alaD2と命名した。
【0164】
各組み換え株が有するプラスミドを表9に示す。
【表9】
【0165】
(5-5)N末端側ポリペプチド融合によるalaD2遺伝子発現の影響
(5-4)の項目で作製した、ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのポリペプチド融合アラニン デヒドロゲナーゼ遺伝子導入株を、カナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地5mlの入った試験管に白金耳を用いて植菌し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを封入し、50℃にて20時間、振盪培養した。
培養により増殖した各菌体を、遠心分離(4℃、15,000 rpm, 1分間) により回収した。超音波処理で菌体細胞を破砕した後、遠心分離(4℃、15,000 rpm、5分間)により得た細胞破砕上清を粗酵素液として用い、以下の方法によりアラニン デヒドロゲナーゼ活性を測定した。粗酵素液、100 mM Tris-HCl (pH 8.5)、100 mM NH
4Cl、0.1 mM NADH、60 mM ピルビン酸を混合し、50℃で反応を行い、NADHに由来する340 nmの吸光度減少を追跡し、反応初速度を解析した。反応初速度とタンパク質濃度から比活性を算出した。1分間あたり、1μmolのアラニンを産生せしめる酵素量を1 U(unit)と定義した。
【0166】
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのalaD遺伝子導入株が産生するアラニン デヒドロゲナーゼの活性を表10に示す。
【表10】
表10に示す通り、ジオバチルス ステアロサーモフィラスのalaD2遺伝子を導入した株(ALA02株)より高いアラニンデヒドロゲナーゼ活性を示したのは、ALA05株だけであった。
【0167】
(5-6)アラニン生成
ヒドロゲノフィラス サーモルテオラスのアラニン デヒドロゲナーゼ遺伝子導入株ALA05をカナマイシン50 μg/mlを含むA液体培地に白金耳を用いて植菌し、H
2:O
2:CO
2=7.5:1:1.5の混合ガスを培養に伴い供給し、50℃にて30時間、振盪培養した。
培養後、遠心分離(4℃、15,000 rpm、1分間) により得た培養上清のアラニンの定量を行ったところ、培地上清中5mMのアラニンが生成していた。
【0168】
(6)寄託菌株
下記表11に示す各菌株を、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)に寄託した。受託日、受託番号を表11に示す。従って、これらの菌株は公に利用可能である。
【表11】
【0169】
また、本明細書に記載した全ての菌株(ATCC株、及びNBRC株を含む)は、ブダペスト条約の下で国際寄託されているか、条件なく誰でも分譲を受けることができる機関が保有しているか、又は市販されており、公に利用可能である。