特許第6528524号(P6528524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6528524
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】ギヤ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/20 20060101AFI20190531BHJP
   F16H 55/17 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   F16H1/20
   F16H55/17 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-89440(P2015-89440)
(22)【出願日】2015年4月24日
(65)【公開番号】特開2016-205550(P2016-205550A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝弘
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−26001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/20
F16H 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力が入力される第1ギヤと、
前記第1ギヤに噛合する第2ギヤと、
前記第2ギヤと同軸に一体回転する第3ギヤと、
前記第3ギヤに噛合する第4ギヤと、を備え、
前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間における噛み合いの位相と前記第3ギヤと前記第4ギヤとの間における噛み合いの位相とが逆位相となるように構成されたギヤ装置であって、
前記第1ギヤ及び前記第2ギヤが第1減速部を形成し、
前記第3ギヤ及び前記第4ギヤが第2減速部を形成するとともに、
前記第1減速部の噛合率に対して前記第2減速部の噛合率を大とすることにより、前記第1減速部と前記第2減速部との間で一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合を逆転させたギヤ装置。
【請求項2】
請求項に記載のギヤ装置において、
前記一歯噛み合いと前記二歯噛み合いとの割合が1:1となる場合を基準として、
前記第1ギヤ及び前記第2ギヤについては歯丈を低くし、
前記第3ギヤ及び前記第4ギヤについては歯丈を高くしたこと、
を特徴とするギヤ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のギヤが歯合するギヤ列においては、その噛み合い伝達誤差により生ずるノイズの抑制が重要な課題の一つになっている。即ち、互いに歯合するギヤ間の噛み合い剛性は、その噛み合い状態が1歯噛み合いであるか2歯噛み合いであるかにより変化する。そして、その周期的に変動するトルク伝達特性がノイズとして顕在化するという問題がある。
【0003】
この点を踏まえ、例えば、特許文献1に記載のギヤ装置は、一つの中間ギヤに噛合する入力ギヤと出力ギヤとの間で、その中間ギヤに対する噛み合いの位相が逆位相となっている。そして、これにより、入力ギヤ側及び出力ギヤ側の噛み合い伝達誤差に基づくノイズを打ち消すことで、その低振動化及び静音化を図る構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−240065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術は、入力ギヤ及び出力ギヤが中間ギヤを共有する構成であることから、そのギヤ列により得られる変速比や噛み合い位相の調整方法等、ギヤ装置の設計に大きな制約を受けることになる。そして、これが部品点数の増加や装置の複雑化・大型化等を招く一因となる可能性があることから、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、高い設計自由度を確保して、高い変速比と静粛性とを両立させることのできるギヤ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するギヤ装置は、駆動力が入力される第1ギヤと、前記第1ギヤに噛合する第2ギヤと、前記第2ギヤと同軸に一体回転する第3ギヤと、前記第3ギヤに噛合する第4ギヤと、を備え、前記第1ギヤと前記第2ギヤとの間における噛み合いの位相と前記第3ギヤと前記第4ギヤとの間における噛み合いの位相とが逆位相となるように構成されたギヤ装置であって、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤが第1減速部を形成し、前記第3ギヤ及び前記第4ギヤが第2減速部を形成するとともに、前記第1減速部の噛合率に対して前記第2減速部の噛合率を大とすることにより、前記第1減速部と前記第2減速部との間で一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合を逆転させた
【0008】
上記構成によれば、回転軸を共有する第2ギヤ及び第3ギヤが互いに独立した二段の変速部を形成することで、高い設計自由度を確保することができる。そして、これにより、高い変速比を実現しつつ、噛み合い位相の調整によって、その噛み合い伝達誤差により生ずるノイズを打ち消すことができる。その結果、部品点数の増加や装置の複雑化・大型化等を招くことなく、より高い変速比と静粛性とを両立させることができる。
【0010】
即ち、複数段の減速部を有する減速機においては、伝達トルクが大きな後段側の減速部ほど、そのギヤ歯に負荷がかかることになる。しかしながら、上記のように第2減速部における二歯噛み合いの割合を高めることで、その第2減速部を構成する第3ギヤ及び第4ギヤ間の噛み合い剛性が強化される。そして、これによりギヤ歯の変形を抑えることで、その第3ギヤ及び第4ギヤ間における噛み合い伝達誤差を低減することができる。一方、伝達トルクが小さな第1減速部については、当該第1減速部を構成する第1ギヤ及び第2ギヤにおける二歯噛み合いの割合を低くした場合であっても、そのギヤ歯に変形が生じ難い。従って、上記構成によれば、第2減速部における噛み合い伝達誤差の発生を抑えた上で、当該第2減速部と第1減速部との間において、その噛み合い伝達誤差により生ずるノイズを打ち消すことができる。そして、これにより、より高い静粛性を確保することができる。
【0011】
上記課題を解決するギヤ装置は、前記一歯噛み合いと前記二歯噛み合いとの割合が1:1となる場合を基準として、前記第1ギヤ及び前記第2ギヤについては歯丈を低くし、前記第3ギヤ及び前記第4ギヤについては歯丈を高くしたものであることが好ましい。
【0012】
即ち、歯丈を調整することで、一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合を大きく変更することができる。そして、これにより、高い減速比を有する構成においても、効果的に、その第1減速部と第2減速部との間で一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合を最適化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い設計自由度を確保して、高い変速比と静粛性とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アクチュエータ装置の概略構成図(ギヤ装置の平面図)。
図2】ギヤ装置の側面図。
図3】(a)は、第1減速部における噛み合いの進行を示す説明図、(b)は、第2減速部における噛み合いの進行を示す説明図。
図4】歯丈調整による噛み合い長さの変化を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ギヤ装置及びアクチュエータ装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態のアクチュエータ装置1は、駆動源となるモータ5と、このモータ5の回転を減速して出力するギヤ装置10と、を備えている。具体的には、本実施形態のギヤ装置10は、モータ5の駆動力が入力される第1ギヤ11と、この第1ギヤ11に噛合する第2ギヤ12と、この第2ギヤ12と同軸に一体回転する第3ギヤ13と、この第3ギヤ13に噛合する第4ギヤ14と、を備えている。本実施形態では、第1ギヤ11は、第1回転軸21と一体に回転し、第2ギヤ12及び第3ギヤ13は、第2回転軸22と一体に回転する。尚、本実施形態の第2ギヤ12及び第3ギヤ13は、軸方向に離間することなく一体に形成されている。そして、第4ギヤ14は、第3回転軸23と一体に回転する構成になっている。
【0016】
本実施形態のギヤ装置10において、第2ギヤ12は、第1ギヤ11よりも多くの歯数を有して大径に形成されている。また、第4ギヤ14は、第3ギヤ13よりも多くの歯数を有して大径に形成されている。尚、第3ギヤ13は、第2ギヤ12と等しい歯数を有して当該第2ギヤ12よりも小径に形成されている。そして、本実施形態のギヤ装置10は、これにより、その第1ギヤ11及び第2ギヤ12が第1減速部31を形成し、第3ギヤ13及び第4ギヤ14が第2減速部32を形成する構成になっている。
【0017】
また、図3(a)(b)に示すように、本実施形態のギヤ装置10は、その第1減速部31を形成する第1ギヤ11と第2ギヤ12との間における噛み合いの位相と、その第2減速部32を形成する第3ギヤ13と第4ギヤ14との間における噛み合いの位相とが逆位相となるように構成されている。そして、本実施形態では、これにより、第2回転軸22を共有する第2ギヤ12及び第3ギヤ13が、その噛み合い伝達誤差により生ずる互いのノイズを打ち消すように構成されている。
【0018】
詳述すると、本実施形態では、第1ギヤ11及び第2ギヤ12間については、二歯噛み合い状態よりも一歯噛み合い状態の方が長くなるように設定されている。尚、図3中、「T」は位相変化の一周期を示している。また、第3ギヤ13及び第4ギヤ14間については、一歯噛み合い状態よりも二歯噛み合い状態の方が長くなるように設定されている。即ち、本実施形態のギヤ装置10は、第1ギヤ11及び第2ギヤ12間の噛合率に対して第3ギヤ13及び第4ギヤ14の噛合率が大となるように構成されている。そして、本実施形態では、これにより、第1減速部31と第2減速部32との間で一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合を逆転させる構成になっている。
【0019】
さらに詳述すると、本実施形態では、一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合が1:1となる場合を基準として、第1減速部31を構成する第1ギヤ11及び第2ギヤ12については、その歯丈が低く設定されている。そして、第2減速部32を構成する第3ギヤ13及び第4ギヤ14については、その歯丈が高く設定されている。
【0020】
即ち、図4に示すように、例えば、第3ギヤ13及び第4ギヤ14について、その調整前の歯丈h3,h4よりも調整後の歯丈H3,H4の方が高くなるように歯丈調整を行った場合(h3<H3,h4<H4)、作用線N上の噛み合い長さは、その調整前の噛み合い長さLaよりも調整後の噛み合い長さLbの方が長くなる(La<Lb)。尚、同図中、一点鎖線に示す円弧は、それぞれ、第3ギヤ13及び第4ギヤ14の基準円R3,R4を示している。また、作用線Nは、これら両基準円R3,R4の共通接線であり、噛合率(正面噛合率)は、その作用線Nの噛み合い長さを基礎円ピッチで除することにより求められる。そして、本実施形態のギヤ装置10は、これにより、第3ギヤ13及び第4ギヤ14の噛合率を高めることで、その噛み合いの位相を第1ギヤ11及び第2ギヤ12に対して逆位相とする構成になっている。
【0021】
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ギヤ装置10は、モータ5の駆動力が入力される第1ギヤ11と、この第1ギヤ11に噛合する第2ギヤ12と、この第2ギヤ12と同軸に一体回転する第3ギヤ13と、この第3ギヤ13に噛合する第4ギヤ14と、を備える。そして、ギヤ装置10は、第1ギヤ11と第2ギヤ12との間における噛み合いの位相と第3ギヤ13と第4ギヤ14との間における噛み合いの位相とが逆位相となるように構成される。
【0022】
上記構成によれば、回転軸(第2回転軸22)を共有する第2ギヤ12及び第3ギヤ13が互いに独立した二段の変速部(第1減速部31及び第2減速部32)を形成することで、高い設計自由度を確保することができる。そして、これにより、高い変速比(減速比)を実現しつつ、噛み合い位相の調整によって、その噛み合い伝達誤差により生ずるノイズを打ち消すことができる。その結果、部品点数の増加や装置の複雑化・大型化等を招くことなく、より高い変速比と静粛性とを両立させることができる。
【0023】
(2)ギヤ装置10は、第1ギヤ11及び第2ギヤ12が第1減速部31を形成し、第3ギヤ13及び第4ギヤ14が第2減速部32を形成する。そして、ギヤ装置10は、第1減速部31の噛合率に対して第2減速部32の噛合率を大とすることにより、これら第1減速部31と第2減速部32との間で一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合が逆転した構成となっている。
【0024】
即ち、複数段の減速部を有する減速機においては、伝達トルクが大きな後段側の減速部ほど、そのギヤ歯に負荷がかかることになる。しかしながら、上記のように、第2減速部32における二歯噛み合いの割合を高めることで、その第2減速部32を構成する第3ギヤ13及び第4ギヤ14間の噛み合い剛性が強化される。そして、これにより、ギヤ歯の変形を抑えることで、その第3ギヤ13及び第4ギヤ14間における噛み合い伝達誤差を低減することができる。一方、伝達トルクが小さな第1減速部31については、当該第1減速部31を構成する第1ギヤ11及び第2ギヤ12における二歯噛み合いの割合を低くした場合であっても、そのギヤ歯に変形が生じ難い。従って、上記構成によれば、第2減速部32における噛み合い伝達誤差の発生を抑えた上で、当該第2減速部32と第1減速部31との間において、その噛み合い伝達誤差により生ずるノイズを打ち消すことができる。そして、これにより、より高い静粛性を確保することができる。
【0025】
(3)ギヤ装置10は、一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合が1:1となる場合を基準として、第1減速部31を構成する第1ギヤ11及び第2ギヤ12については、その歯丈が低く設定され、第2減速部32を構成する第3ギヤ13及び第4ギヤ14については、その歯丈が高く設定される。
【0026】
即ち、歯丈を調整することで、一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合を大きく変更することができる。そして、これにより、高い減速比を有する構成においても、効果的に、その第1減速部31と第2減速部32との間で一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合を最適化することができる。
【0027】
(4)第2回転軸22を共有する第2ギヤ12及び第3ギヤ13は、軸方向に離間することなく一体に形成される。このような構成を採用することで、第1ギヤ11及び第2ギヤ12が形成する第1減速部31と第3ギヤ13及び第4ギヤ14が形成する第2減速部32との間において、効率よく、その噛み合い伝達誤差により生ずるノイズを互いに打ち消すことができる。
【0028】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、第3ギヤ13及び第4ギヤ14について、その調整前の歯丈h3,h4よりも調整後の歯丈H3,H4の方が高くなるように歯丈調整を行う場合を例示した。この場合において、その一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合が、最終的に第1減速部31と第2減速部32との間で逆転するものであれば、実際に歯丈調整を行うのは、第3ギヤ13及び第4ギヤ14についてのみでもよい。即ち、予め第1ギヤ11及び第2ギヤ12については1:1よりも一歯噛み合いの方が大きくなるような設計を基礎として、その第3ギヤ13及び第4ギヤ14の歯丈調整を行う構成であってもよい。また、予め第3ギヤ13及び第4ギヤ14については1:1よりも二歯噛み合いの方が大きくなるような設計を基礎として、その第1ギヤ11及び第2ギヤ12の歯丈調整を行う構成であってもよい。更に、その一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合が1:1となる設計を基礎として、第1ギヤ11及び第2ギヤ12、並びに第3ギヤ13及び第4ギヤ14の双方について、それぞれ、その歯丈調整を行う構成であってもよい。そして、その調整後の歯丈については、一般的な設計基準とされる「2.25モジュール」から外れてもよい。
【0029】
・上記実施形態では、歯丈調整によって、その一歯噛み合いと二歯噛み合いとの割合及び噛み合いの位相を調整することとした。しかし、これに限らず、その他、ギヤ歯の諸元変更等によって、その噛み合い位相の調整を行う構成であってもよい。
【0030】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)回転軸を共有する第2ギヤ及び第3ギヤが軸方向に離間することなく一体に形成されること、を特徴とするギヤ装置。これにより、第1ギヤ及び第2ギヤと第3ギヤ及び第4ギヤとの間において、効率よく、その噛み合い伝達誤差により生ずるノイズを互いに打ち消すことができる。
【0031】
(ロ)上記ギヤ装置を備えたアクチュエータ装置。
【符号の説明】
【0032】
1…アクチュエータ装置、5…モータ、10…ギヤ装置、11…第1ギヤ、12…第2ギヤ、13…第3ギヤ、14…第4ギヤ、21…第1回転軸、22…第2回転軸、23…第3回転軸、31…第1減速部、32…第2減速部、h3,h4,H3,H4…歯丈、R3,R4…基準円、N…作用線、La,Lb…噛み合い長さ。
図1
図2
図3
図4