特許第6528615号(P6528615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6528615
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】微細ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/46 20060101AFI20190531BHJP
【FI】
   C01B39/46
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-174552(P2015-174552)
(22)【出願日】2015年9月4日
(65)【公開番号】特開2017-48096(P2017-48096A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】302018053
【氏名又は名称】株式会社中村超硬
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】脇原 徹
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−240867(JP,A)
【文献】 WAKIHARA Toru, et al.,Fabrication of Fine Zeolite with Improved Catalytic Properties by Bead Milling and Alkali Treatment,ACS Applied Materials & Interfaces,米国,2010年,vol.2, issue.10,p.2715-2718
【文献】 WAKIHARA Toru, et al.,Top-down Tuning of Nanosized Zeolites by Bead-milling and Recrystallization,Journal of the Japan Petroleum Institute,日本,2013年 9月 1日,vol.56, No.4,p.206-213
【文献】 WAKIHARA Toru, et al.,Top-Down Tuning of Nanosized ZSM-5 Zeolite Catalyst by Bead Milling and Recrystallization,Crystal Growth & Design,米国,2011年,vol.11, issue.11,p.5153-5158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20−39/54
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
ACS PUBLICATIONS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:MO・xSiO・Al(式中、Mはアルカリ金属、H又はNHを表し、x=2〜6である。)で表される平均粒径0.5μm以上の原料ゼオライトを粉砕する粉砕処理工程、
粉砕処理されたゼオライトを、15℃以上45℃以下のアルカリ溶液中で再結晶化させ、平均粒径0.3μm以下で、再結晶前の結晶化度(A)に対する再結晶化後の結晶化度(B)の比(B/A)が1.2以上のゼオライトを得る再結晶化工程を含む、微細ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
原料ゼオライトが、一般式:MO・2SiO・Al(式中、Mはアルカリ金属、H又はNHを表す。)で表される請求項1記載の微細ゼオライトの製造方法。
【請求項3】
原料ゼオライトが、国際ゼオライト協会(International Zeolite Association(IZA))で定めるゼオライト構造がLTAである請求項1又は2に記載の微細ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
再結晶化後の結晶化度が前記原料ゼオライトの85%以上である請求項1〜3の何れか1項に記載の微細ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ溶液が、アルカリ金属水酸化物の水溶液である請求項1〜4の何れか1項に記載の微細ゼオライトの製造方法。
【請求項6】
粉砕処理されたゼオライト(Z)とアルカリ溶液(W)との重量比(W/Z)が0.1以上30以下である請求項1〜5の何れか1項に記載の微細ゼオライトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細ゼオライトの製造方法に関し、より詳細には結晶性の良好な微細ゼオライトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは結晶性多孔質アルミノケイ酸塩の総称であり、イオン交換材、吸着材、触媒など工業的に広く用いられている。例えば1980年頃から実用化されたゼオライトのイオン交換材を用いた無リン洗剤は、生活排水による湖沼の水質悪化(富栄養化)を劇的に改善させ、我が国の環境保全に大きく貢献した。現在においても持続可能な社会を実現するためのキーマテリアルとして、多くの分野で構造・物性・機能の精密制御に関する研究がなされている。例えば、イオン交換材や触媒として用いられるゼオライトの粒径は0.5〜数μmであるが、イオン交換の対象となるイオンや触媒反応の反応分子のゼオライト細孔内の拡散が律速となることが知られており、イオン交換や触媒反応速度向上のため、ゼオライトのナノ粒子の合成に関する研究が盛んになされている。
【0003】
このゼオライトのナノ粒子の合成では、ボトムアップ法、すなわち4級アンモニウム塩や特殊な有機物を用い、核発生・結晶成長を制御する方法が採用されている。例えば、典型的なイオン交換材であるLTA型ゼオライトのナノ粒子を合成する際には、有機構造規定剤であるテトラメチルアンモニウム塩が用いられている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、このような有機構造規定剤は現在一般に高額であるうえに、LTA型ゼオライトナノ粒子の合成には得られるゼオライト重量に対し1/4〜1/2のテトラメチルアンモニウム塩を添加する必要がある。また、テトラメチルアンモニウム塩は最終的に焼成して除去する必要があるが、その際の排出ガスには窒素酸化物(NOx)が含まれるため、これを処理する施設を設置しなければならない。このように、ボトムアップ法によりLTA型ゼオライトのナノ粒子を量産するにはコストの面で問題がある。
【0004】
このようなボトムアップ法による問題に対応する方策として、有機構造規定剤を用いることなく安価に製造可能な粒径の大きい所定の一般式で表されるゼオライトを粉砕処理して微細化し、それをアルミノシリケート溶液やシリケート溶液中で再結晶化する方法(特許文献1、2)、特許文献1、2とはゼオライトの骨格構造が異なるゼオライトを微細化したものをソルボサーマル処理する方法(特許文献3)が提案されている。また、ゼオライト合成用のスラリーを水熱処理した後、スラリー中のゼオライト粒子を合成母液から分離し、得られたゼオライト粒子を粉砕処理して微細化した後にその合成母液と混合して水熱処理する方法が提案されている(特許文献4)。特許文献1〜4に記載の方法は、粉砕処理を行って微細化したゼオライトは結晶性が低下するところ、所定条件で再結晶化することで、結晶性が粉砕処理前と同程度に回復することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−246292号公報
【特許文献2】特開2013−49602号公報
【特許文献3】特開2014−189476号公報
【特許文献4】特開2014−139124号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Svetlana Mintova et.al, 'Mechanizm of Zeoiite A Nanocrystal Growth from Colloids at Room Temperature', Science, 1999, Vol. 283 no. 5404 pp. 958-960
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜4に記載の方法によると、粉砕したゼオライトを再結晶化することで、粉砕前と同程度の結晶性を有する微細ゼオライトを製造することができる。しかし、これらの方法では、粉砕したゼオライトを再結晶化する際の温度を50℃以上とするか(特許文献1)、100℃以上とするか(特許文献2)、粉砕したゼオライトを100℃以上の温度でソルボサーマル処理するか(特許文献3)、粉砕したゼオライトを混合母液と混合後50℃以上の温度で水熱処理する方法(特許文献4)が採用されている。また、これらの文献における実施例では、より高温の場合しか記載されていない。例えば、特許文献1の実施例1では80℃で2時間、同実施例3では150〜230℃で10〜24時間再結晶化させており、特許文献2の実施例1では180℃で2〜24時間再結晶化させており、特許文献3の実施例1では190℃で3時間ソルボサーマル処理を行って再結晶化させており、特許文献4の実施例1、4、5では、95℃で15時間、実施例2、3では170℃で15時間、実施例6では120℃で15時間水熱処理を行って再結晶化させている。このように、従来技術では、再結晶化の際には、50℃以上実際には80℃以上の温度で2時間以上加熱することが必須であると考えられていたといえる。また、このように50℃以上で所定時間加熱することから、エネルギーコストが大きいという問題がある。さらに、100℃以上に加熱する場合は、耐圧性のある特殊な再結晶化装置が必要になるという問題もある。
尚、ボトムアップ法ではあるものの、非特許文献1には、ゼオライトの合成を30℃以下の室温で行うことが記載されているが、得られるゼオライト粒子の結晶性が低い、粒径が大きくなるという問題がある。
そこで、本発明の目的とするところは、従来技術よりも再結晶化を行う際の加熱のためのエネルギーコストを低減し、従来と同様の結晶性の良好な微細なゼオライト粒子を従来よりも安価に製造することが可能な微細ゼオライトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題に鑑みて、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、50℃よりも低い温度で再結晶化を行っても、粉砕したゼオライト粒子の結晶化度を従来と同程度に向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
本発明は、一般式:MO・xSiO・Al(式中、Mはアルカリ金属、H又はNHを表し、x=2〜6である。)で表される平均粒径0.5μm以上の原料ゼオライトを粉砕する粉砕処理工程、
粉砕処理されたゼオライトを、15℃以上45℃以下のアルカリ溶液中で再結晶化させ、平均粒径0.3μm以下で、再結晶化前の結晶化度(A)に対する再結晶化後の結晶化度(B)の比(B/A)が1.2以上のゼオライトを得る再結晶化工程を含む、微細ゼオライトの製造方法に関する。
【0010】
本発明では、原料ゼオライトとして、一般式:MO・2SiO・Al(式中、Mはアルカリ金属、H又はNHを表す。)で表されるゼオライトを用いるのが好ましく、国際ゼオライト協会(International Zeolite Association(IZA))で定めるゼオライト構造がLTAであるのがより好ましい。
【0011】
本発明では、再結晶化後の結晶化度が前記原料ゼオライトの85%以上であるのが好ましい。
【0012】
本発明では、前記アルカリ溶液が、アルカリ金属水酸化物の水溶液であってもよい。
【0013】
本発明では、粉砕処理されたゼオライト(Z)とアルカリ溶液(W)との重量比(W/Z)が0.1以上30以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来技術よりも低い温度で再結晶化を行うことが可能になるため、加熱のためのエネルギーコストを低減することが可能になり、結晶性の良好な微細なゼオライト粒子を従来より安価に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1〜3で用いた原料ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
図2】実施例1〜3で用いた粉砕ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
図3】実施例1における再結晶化後(再結晶化時間:22時間)の微細ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
図4】実施例2における再結晶化後(再結晶化時間:26時間)の微細ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
図5】実施例3における再結晶化後(再結晶化時間:243時間)の微細ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の微細ゼオライトの製造方法の実施形態を説明する。
【0017】
本発明の微細ゼオライトの製造方法は、一般式:MO・xSiO・Al(式中、Mはアルカリ金属、H又はNHを表し、x=2〜6である。)で表される平均粒径0.5μm以上の原料ゼオライトを粉砕する粉砕処理工程。
粉砕処理されたゼオライトを、15℃以上45℃以下のアルカリ溶液中で再結晶化させ、平均粒径0.3μm以下で、再結晶化前の結晶化度(A)に対する再結晶化後の結晶化度(B)の比(B/A)が1.2以上のゼオライトを得る再結晶化工程を含む。
このように、本発明では、上記一般式で表される平均粒径0.5μm以上の原料ゼオライトを用いるため、従来のボトムアップ方法と異なり、安価なゼオライトを原料として使用することができる。また、粉砕処理されたゼオライトを、15℃以上45℃以下のアルカリ溶液中で再結晶化させるため、エネルギーコストを従来よりも低減できる。また、本発明により得られるゼオライトは、平均粒径が0.3μm以下と微細であり、結晶化度も従来と遜色ないものである。
【0018】
本発明では、先ず、前述の一般式で表される平均粒径0.5μm以上の原料ゼオライトを粉砕する粉砕処理工程を行う。
【0019】
本発明で用いる原料ゼオライトは、一般式:MO・xSiO・Al(式中、Mはアルカリ金属、H又はNHを表し、x=2〜6である。)で表されるものである。
Mはゼオライト骨格中に存在するカチオンを表し、ゼオライト作製時には、このカチオンはアルカリ金属であることが多いが、用途に応じてこのアルカリ金属をH+やNH4+に置換したものが存在する。本発明では、これらを原料ゼオライトとして好適に用いることができる。アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)が好ましく、Na、Kがより好ましい。
xは2〜6、即ち、Si/Alが1〜3である。容易に入手が可能であり、製造コストを低減する観点からは、xは2〜4が好ましく、xは2がより好ましい。
【0020】
一般式で表される原料ゼオライトの型としては、国際ゼオライト協会(IZA)で定めるゼオライト構造では、例えば、LTA、FAU、ABW、SOD、GIS、OFF、GME、ERI、LTL等が挙げられる。このうち、本発明の温度範囲で再結晶化を効率的に行う観点からは、LTA、FAU、GIS、SODが好ましく、LTAが特に好ましい。原料ゼオライトは、同一の組成式で表されるものでもよいし、異なる組成式で表されるものを組み合わせたものでもよい。
原料ゼオライトは、このような所定の結晶構造を有し、後述する結晶化度の基準となる。
【0021】
原料ゼオライトは、平均粒径が0.5μm以上のものを用いることができる。本発明では、最終的に0.3μm以下の微細ゼオライトを得る観点からは、出発原料においても、平均粒径が0.3μmに近い粒径の原料ゼオライトを用いるのが、粉砕処理を簡便に行う観点、粉砕処理による非晶化を抑制する観点から好ましい。このような観点からは、平均粒径が3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
尚、平均粒径は、例えば、後述する方法で算出可能である。
【0022】
粉砕処理は、再結晶化後の平均粒径が0.3μm以下の微細ゼオライトを得ることができるように原料ゼオライトを粉砕可能であれば、いかなる方法で行ってもよい。このような粉砕処理の方法としては、例えば、ビーズミル、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル等が挙げられる。このうち、粉砕時のゼオライトの非晶質化を最低限に抑える観点からは、ビーズミルが好ましい。ビーズミルは、通常、粒径30〜1000μmのセラミックビーズを粉砕メディアとして用い、粉砕・解砕を行う装置である。このように、微小ビーズを用いるため、ボールミルや遊星ボールミルと異なり、処理する粉末がビーズと衝突する頻度が多く、また一回の衝突の際、粒子に与える力が小さいため、原料ゼオライトの表面の非晶質化を抑制しつつ効率よく粉砕できる。ただし、ビーズミルを用いた場合でも、ゼオライトの非晶質化は避けられず、ある程度の非晶質化が起こる。尚、セラミックビーズの添加量は特に限定はないが、ゼオライトの非晶質化を抑制しつつ効率よく粉砕する観点からは、ビーズミル粉砕室内の体積に対してかさ密度で60〜80%が好ましく、70%がより好ましい。
【0023】
また、粉砕処理は湿式でも乾式でもよいが、粉砕のし易さの観点、ゼオライトの粒径の均一さの観点から、湿式で行うことが好ましい。湿式で粉砕処理を行う場合、原料ゼオライトを分散媒に分散させる。このような分散媒としては、水、エタノール等のアルコール、これらの混合溶媒などが挙げられる。このうち、取り扱い性、コストの観点からは、水を用いることが好ましい。また、粉砕されたゼオライトの再凝集を防止する観点からは、エタノール等のアルコールが好ましい。原料ゼオライトや粉砕されたゼオライトを分散媒中に均一に分散させる観点から、必要に応じて界面活性剤、凝集防止剤等を添加してもよい。
【0024】
粉砕処理の時間は、粉砕処理の方法、所望の粒径、再結晶化処理時間などに応じて適宜決定することができる。尚、粉砕処理時間が長くなるにつれて、非晶質化の程度は大きくなる傾向にある。
【0025】
次に、前述のようにして粉砕処理されたゼオライトを、15℃以上45℃以下のアルカリ溶液中で再結晶化させ、平均粒径0.3μm以下で、再結晶化前の結晶化度(A)に対する再結晶化後の結晶化度(B)の比(B/A)が1.2以上のゼオライトを得る再結晶化工程を行う。
【0026】
本発明で用いるアルカリ溶液としては、pHが13以上で、粉砕処理により非晶質化されたゼオライトの再結晶化を促進可能なものであれば、特に限定はない。このようなアルカリ溶液としては、例えば、特許文献1に記載のようなアルミノシリケート溶液又はこれに準じた溶液、特許文献2に記載のようなシリケート溶液又はこれに準じた溶液、アルカリ金属水酸化物の水溶液などが挙げられる。このうち、コストの観点、結晶成長を抑制する観点からは、アルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、LiOH、NaOH、KOHなどが挙げられるが、NaOH、KOHが好ましく、NaOHがより好ましい。本発明では、従来のアルミノシリケート溶液やシリケート溶液のような特殊な溶液を用いることなく、単にアルカリ金属水酸化物の水溶液であっても、再結晶化を行うことが可能であることを見出している。アルカリ金属水酸化物の水溶液に粉砕処理されたゼオライトの非晶質部分の一部が溶解し、実質的にアルミノシリケート溶液へと変化し、それが再結晶化を促進することでアルミノシリケート溶液を用いた場合と同様に、結晶成長することなく粒径の増大を抑制できると考えられる。
【0027】
アルカリ溶液としてアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いる場合、アルカリ金属水酸化物の濃度は、粉砕処理したゼオライトの含量、ゼオライトの結晶化度、再結晶化後の廃液の処理等を考慮して適宜決定することができるが、濃度が低過ぎると再結晶化が困難になる傾向にあり、高過ぎるとアルカリ溶液の粘度が高くアルカリ金属イオンの拡散が低下し過ぎる傾向にあることから、効率的に結晶化度を向上させる観点からは、0.5〜4Mが好ましく、0.75〜3Mがより好ましく、1〜2.5Mが特に好ましい。
【0028】
アルミノシリケート溶液としては、aMO/bAl/cSiO/dHO(式中、MはK又はNaを表し、a/dが0.001〜0.040、b/dが0.000003〜0.000250、c/dが0.0001〜0.1000である。)の組成を有するのが好ましい。また、ゼオライトのSiとAlの比(Si/Al)が2以下の場合は、a/dが0.0100〜0.0390、b/dが0.0000050〜0.0002400、c/dが0.000330〜0.100000であるのが好ましく、ゼオライトのSiとAlの比(Si/Al)が2より大きく3以下の場合は、a/dが0.00160〜0.00500、b/dが0.0000031〜0.0001000、c/dが0.000500〜0.003000であるのが好ましい。
【0029】
シリケート溶液としては、aMO/bSiO/cHO(式中、Mはアルカリ金属を表し、a/c(モル比)は、0.001〜0.040であり、b/cは、0.0001〜0.1000である。)の組成を有するのが好ましい。
【0030】
本発明では、粉砕処理されたゼオライトをアルカリ溶液中で再結晶化させる際の温度は、15℃以上45℃以下である。好ましくは20℃以上45℃以下、より好ましくは30℃以上45℃以下、特に好ましくは40℃以上45℃以下である。15℃未満では、再結晶化の速度が遅いため生産性が低くなる傾向にあり、45℃を超えると、再結晶化の速度は速くはなるが加熱のためのエネルギーコストに見合う生産性が得られにくい傾向にある。本発明は、従来の方法とは異なり、このような温度範囲であっても粉砕により非晶質化したゼオライトの再結晶化が可能なことを初めて見出したものである。そして、このような温度範囲で再結晶化が可能なため、場合によっては、室温(25℃〜35℃)で加熱をおこなわなくても再結晶化が可能になり、再結晶化処理における加熱を行うためのエネルギーコストを大幅に削減することが可能になる。
【0031】
このような温度範囲に加熱が必要な場合は、従来公知の加熱装置を用いればよい。例えば、アルカリ溶液とゼオライトの混合液中にヒーターを設けたり、その混合液を収容する混合槽の周囲にヒーター等を設けたりする方法が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、アルカリ溶液即ち混合溶液の温度が所定の温度範囲になるように制御しながら加熱するとよい。
【0032】
再結晶化処理を行う際の粉砕処理されたゼオライト(Z)とアルカリ溶液(W)との重量比(W/Z)は、特に限定はないが、生産効率の観点から、W/Zが0.1以上30以下であるのが好ましく、2以上5以下がより好ましい。
【0033】
本発明では、再結晶化処理は、粉砕処理されたゼオライトとアルカリ溶液を混合した後は、静置してもよいし、撹拌してもよい。撹拌することで再結晶化の速度が向上する傾向にある。
再結晶化処理の処理時間は、各種条件に応じて、後述する所望の再結晶化度となるように適宜決定すればよい。
【0034】
本発明では、再結晶化前の結晶化度(A)に対する再結晶化後の結晶化度(B)の比(B/A)が1.2以上となるように再結晶化処理を行う。再結晶化処理直前の結晶化度に応じて、B/Aの比のより好適な範囲は変動し得ることから、Aが低い場合(概ね30%以下)は、好ましくは、B/Aの比は2以上である。
このような結晶化度の比になるように再結晶化処理を行うことで、各種用途に耐え得る結晶性の良好な微細ゼオライトが得られる。
この結晶化度は、再結晶化前又は再結晶化後のゼオライトのX線回折による主要ピークの面積の合計値(H)を、原料ゼオライトの主要ピークの面積の合計値(H)で除してパーセント値として表したものである。この結晶化度は、例えば、後述するように算出される。
【0035】
再結晶化処理後のゼオライトの結晶化度は、各種用途に耐え得る結晶性が確保されていればよいが、各種用途の機能をより向上させるためにより結晶性の良好な微細ゼオライトを得る観点からは、再結晶化後の結晶化度が原料ゼオライトの85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がとくに好ましい。
【0036】
再結晶化処理後のゼオライトの平均粒径は0.3μm以下であるのが好ましい。
本発明では、原料ゼオライトが粉砕処理されることで粒径が小さくされるが、再結晶化処理を行っても、結晶成長が抑制され得る。特に、アルカリ溶液として前述したシリケート溶液やアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いた場合に顕著である。そのため、再結晶化処理時間等の諸条件により粒径は実質的に影響されない。即ち、再結晶化後の平均粒径は粉砕処理により実質的に決定されることになる。
この平均粒径は、用途等に応じて適宜決定すればよいが、粉砕処理後の粒径が概ね再結晶化後のゼオライトの平均粒径になり、再結晶化処理時の条件を考慮する必要がない。したがって、再結晶化処理工程では、所望の結晶化度を得るための条件を整えればよい。
尚、平均粒径は、例えば、後述する方法で算出可能である。
【0037】
再結晶化処理後の収量は、乾燥重量で再結晶化処理前の85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0038】
本発明では、再結晶化工程を終了した後、再結晶化させた微細ゼオライトとアルカリ溶液とを分離する分離工程を行うことができる。本発明では、所定温度範囲で行う再結晶化工程により、所望の結晶化度と粒径の微細ゼオライトが得られるため、特許文献4のように加熱のエネルギーを要する水熱処理を行うことなく、再結晶化工程後にそのまま続けて分離工程を行うことができる。分離方法としては、特に限定はなく、濾過、遠心分離などを用いることができる。また、分離工程において洗浄を行ってもよい。さらに、洗浄した後に乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理の条件は、所望の最終形態などに応じて適宜決定することができる。
尚、再結晶化工程後のこれらの工程は、微細ゼオライトの最終形態に応じて適宜行うとよい。
【0039】
以上のようにして得られる微細ゼオライトは、粒径が0.3μm以下で所望の結晶化度となっているため、触媒、吸着材、イオン交換材などの各種用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施形態をより具体的に説明する。
【0041】
(平均粒径の測定)
走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製、JSM−7000F)により原料ゼオライト及び再結晶化処理したゼオライトを撮影し、SEM写真において、他の粒子に重なっていない粒子を30個以上選択して、各粒子の長軸と短軸の長さを測定して、その相加平均を粒径とする。この粒径の相加平均を平均粒径として算出する。
【0042】
(結晶化度の算出)
(I)各スペクトル面積の計算
a)X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、D2 PHASER)を用いて、原料ゼオライト、粉砕処理後で再結晶化処理前後のゼオライトのXRDスペクトルを2θ=3°〜50°程度で測定する。
b)IZAなどのスペクトルデータを参考にして、2θが19°〜35°の間のピークを選ぶ。
c)フィッティング関数(通常はローレンツ関数、ノイズが多くローレンツ関数ではずれが大きくなる場合はガウス関数)を選び、b)で選んだピークに対してフィッティングする。
d)c)でフィッティングしたピークの面積を足し合わせ、これをそのサンプルのスペクトル面積とする。
(II)結晶化度の算出
a)原料ゼオライトのスペクトル面積(H)を(I)の手順で算出する。
b)再結晶化処理前又は再結晶化処理後のゼオライトのスペクトル面積(H)を(I)の手順で算出する。
c)H及びHから下記式にて結晶化度(%)を算出する。
結晶化度(%)=H/H×100
【0043】
(実施例1):再結晶化温度が45℃の場合
分散媒として水100mlに原料となるLTA型ゼオライト(Si/Al比は1、カチオンはNa、東ソー株式会社製、ゼオラムA−4、100mesh(平均粒径4μm)、100%結晶構造、図1参照。)60gを投入し、スラリーを調整した。一方、φ300μmのZrOビーズを用いたビーズミル(アシザワファインテック株式会社製 LMZ015)を水150mLで満たし、回転数3000rpmで回転軸を回転させ、スラリーを8分かけて投入した。この時のZrOの使用量は、かさ密度が70%となるようにした。投入後2時間粉砕処理したものを粉砕ゼオライトとして回収した(粉砕処理工程)。
回収した粉砕ゼオライトの結晶化度を測定した。
また、粉砕ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)の画像を図2に示す。
【0044】
粉砕ゼオライト1g(固形分換算)をそれぞれ2MNaOH水溶液2gを入れた容器に投入し、45℃に制御した水槽に容器を浸して、所定時間、静置して再結晶化処理を行った(再結晶化処理工程)。
粉砕ゼオライトを含んだ液は、遠心分離器を用いて遠心分離し、沈殿物(ゼオライト)と溶液とを分離した。沈殿物(ゼオライト)を回収し、イオン交換水に分散させ、同様の遠心分離を繰り返すことによって充分にゼオライトを洗浄した(分離工程)。
洗浄されたものを乾燥させ、無水状態にし、微細ゼオライトの粉末を得た(乾燥工程)。
得られた微細ゼオライトの粉末の結晶化度をそれぞれ測定した。再結晶化処理時間と結晶化度の関係を表1に示す。尚、表1〜3中、再結晶化時間が0hの時の結晶化度が再結晶化処理前(粉砕処理後)の結晶化度に相当する。
また、再結晶化時間が22時間の微細ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)の画像を図3に示す。図1、2の対比から、原料ゼオライトは粉砕処理により粒子が小さくなっていることが分かる。また図2、3の対比から、再結晶化処理後の粒子の大きさは、粉砕処理後の粒子の大きさから大きな変動はなく、結晶成長が抑制されていることが分かる。
また、表1中の再結晶化時間が3、4、22時間における収量(固形分基準)は、それぞれ、再結晶化処理において投入した粉砕ゼオライトの量の94、97、100%であった。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例2):再結晶化温度が30℃の場合
再結晶化温度を30℃にした以外は、実施例1と同様にして微細ゼオライトの粉末を得た。再結晶化処理時間と結晶化度の関係を表2に示す。また、再結晶化時間が26時間の微細ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)の画像を図4に示す。図2、4の対比から、再結晶化処理後の粒子の大きさは、粉砕処理後の粒子の大きさから大きな変動はなく、結晶成長が抑制されていることが分かる。
また、表2中の再結晶化時間が22.6、26、43時間における収量(固形分基準)は、それぞれ、再結晶化処理において投入した粉砕ゼオライトの量の100、94、97%であった。
【0047】
【表2】
【0048】
(実施例3):再結晶化温度が15℃の場合
再結晶化温度を15℃にした以外は、実施例1と同様にして微細ゼオライトの粉末を得た。再結晶化処理時間と結晶化度の関係を表3に示す。また、再結晶化時間が243時間の微細ゼオライトの走査型電子顕微鏡(SEM)の画像を図5に示す。図2、5の対比から、再結晶化処理後の粒子の大きさは、粉砕処理後の粒子の大きさから大きな変動はなく、結晶成長が抑制されていることが分かる。
また、表3中の再結晶化時間が243時間における収量(固形分基準)は、再結晶化処理において投入した粉砕ゼオライトの量の95%であった。
【0049】
【表3】
【0050】
以上のように、本発明によれば、15℃以上45℃以下の温度条件で、所望の結晶化度を有し、平均粒径0.3μm以下の微細ゼオライトが得られており、従来のように50℃以上で加熱することなく、エネルギーコストを低減しつつ、良好な結晶性を有する微細ゼオライトを提供することができる。

図1
図2
図3
図4
図5