【実施例1】
【0051】
本発明の実施例1に係る、射出成形機の射出充填制御方法を説明する前に、
図1を参照しながら、以後の説明の前提となる金型キャビティと、射出装置から射出させた溶融樹脂が、同金型キャビティ内へ充填される際の樹脂流動とを説明する。また、
図1に示す金型キャビティヘ溶融樹脂を射出充填させる、一般的な射出充填制御方法による射出充填工程について、
図2を参照しながら説明する。
【0052】
図1は、射出充填工程において、射出装置から射出させた溶融樹脂が金型キャビティ内へ充填される状態を示す概略断面図である。
図1(a)が側方断面図で、
図1(b)が
図1(a)におけるX−X矢視図である。インラインスクリュ式の射出成形機の射出装置10においては、材料供給部から供給される樹脂ペレット等の樹脂材料を、スクリュ12を回転させて、射出装置10の加熱バレル11の内周面とスクリュ12の外周面との間に形成される樹脂流路において連続的に可塑化(溶融)させ、加熱バレル12の先端内部の貯留部13に、1回の射出充填工程に必要な量の可塑化状態の溶融樹脂を貯留させる計量工程が行われる。この計量工程において、貯留部13に貯留される溶融樹脂量の増加に伴い、スクリュ12に後退抵抗力(背圧)を付与させた状態でスクリュ12の後退が許容される。そして、計量工程の完了後、スクリュ12を前進させて、貯留部13の樹脂を、加熱バレル11先端(射出ノズル)を介して型締め状態の固定金型21及び可動金型22間に形成させた金型キャビティ31内に射出充填させる射出工程が行われる。
【0053】
この時、加熱バレル11内のスクリュ12先端のチェックリング12b(樹脂流路開閉切替弁)は、貯留部13の溶融樹脂から受ける圧力により閉塞状態が維持されるため、この閉塞されたチェックリング12bを端とする、加熱バレル11内の貯留部13から金型キャビティ31を含む連続する空間は溶融樹脂で満たされる閉空間となる。
図1(a)は、射出充填工程においてスクリュ12の前進により、貯留部13の溶融樹脂が、固定金型21内の樹脂流路を通って、ゲート21a(樹脂流路端の金型キャビティ31側の開口部)を介して、金型キャビティ31内に充填され始めている状態を示している。
【0054】
現実的には、製品形状を模した金型キャビティはある程度複雑な3次元形状である。しかしながら、説明を簡単にするため、金型キャビティ31が5つの部分キャビティから構成されているものとする。まず、ゲート21aと同軸上に、図示しない可動盤側(
図1(a)左側)に伸びる中央キャビティ31a(樹脂流動方向と直交する断面積A1/ゲート21a端からの溶融樹脂の流動長さL1:以下同様)と、上方に伸びる上方キャビティ31b(断面積A2/流動長さL1)及び下方に伸びる下方キャビティ31c(断面積A3/流動長さL1)、次に、右側に伸びる右側キャビティ31d(断面積A2/流動長さL2)及び左側に伸びる左側キャビティ31e(断面積A2/流動長さL3)である。
図1に示すとおり、断面積及び流動長さの関係は、断面積がA1>A2>A3で、流動長さがL2>L1>L3である。
【0055】
ここで、各部分キャビティへの溶融樹脂の充填抵抗は、ゲート21aと同軸上に伸び、樹脂流動方向と直交する断面積が一番大きな中央キャビティ31aが最も小さい。これより充填抵抗が大きい部分キャビティが、断面積がA2で、ゲート21aからの樹脂流動が一度直角に方向変更されている、上方キャビティ31b、右側キャビティ31d及び左側キャビティ31eの3つの部分キャビティであり、最も充填抵抗が大きいのは、断面積が最も小さい下方キャビティ31cである。整理すると各部分キャビティへの溶融樹脂の充填抵抗は、下方キャビティ31c>上方キャビティ31b=右側キャビティ31d=左側キャビティ31e>中央キャビティ31aとなる。一方、各部分キャビティの容積は断面積×流動長さであるから、各部分キャビティへ各断面積を満たした理想的な樹脂流動で溶融樹脂が充填されると仮定した場合、各部分キャビティを溶融樹脂で満たすために必要な時間は各部分キャビティの溶融樹脂の流動長さに比例する。従って、各部分キャビティを溶融樹脂で満たすために必要な時間は、時間を要する順に、右側キャビティ31d(L2)>中央キャビティ31a=上方キャビティ31b=下方キャビティ31c(すべてL1)>左側キャビティ31e(L3)となる。
【0056】
このように、ゲート21aを介して金型キャビティ31内に充填された溶融樹脂は、各部分キャビティ内へ流動される際に異なる充填抵抗を受け、各部分キャビティ内が溶融樹脂で満たされるタイミングも異なる。また、充填抵抗が最も低い中央キャビティ31a内が溶融樹脂で満たされるまで、他の部分キャビティへ樹脂が流動されないということはなく、中央キャビティ31a内へ溶融樹脂が流動され始めて、充填抵抗を受け樹脂圧力が少しでも上昇すれば、次に充填抵抗の小さい部分キャビティへの樹脂流動が発生すると共に、樹脂流動の分流により、中央キャビティ31a内へ流動される溶融樹脂量が変化(減少)する。更に、金型の温度調節(金型温調)の差異によって、各部分キャビティ内における溶融樹脂の冷却固化速度分布が不均一であること等を鑑みれば、金型キャビティ31内における溶融樹脂の樹脂流動は非常に複雑であり、先に説明したように、金型キャビティ31内の溶融樹脂の充填率に寄らず、射出充填工程中のあらゆるタイミングで樹脂圧偏差が発生する可能性がある。
【0057】
図2は、一般的な射出充填制御方法による、射出装置10から射出させた溶融樹脂の、
図1に示す金型キャビティ31内への充填を説明するグラフである。原点がスクリュの前進開始で、横軸が経過した時間t、縦軸が射出速度(スクリュの前進速度)及び射出圧力(スクリュの前進力)を示す。尚、先に説明したように、閉塞されたチェックリング12bを端とする、加熱バレル11内の貯留部13から金型キャビティ31を含む連続する閉空間内の溶融樹脂の圧力分布は均一ではないため、同閉空間内の特定部位における溶融樹脂の樹脂圧力と、
図2のグラフに示す実射出圧力は同じではない。そのため、
図2のグラフに示す実射出圧力は、スクリュ12が前進時に受ける抵抗力であると共に、この前進抵抗力と略等しいスクリュ12に付与される前進力であるものとする。
【0058】
理想的なVP切替点(サージ圧力の発生無しで金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた状態)に、スクリュ12が前進を開始してから時間t1後に到達するものとする。時間0(ゼロ)から時間t1の間、スクリュ12の前進速度を設定射出速度V1に維持させる射出速度制御(実線)が行われる。実際のスクリュ12の前進速度(実射出速度)は、射出速度0(ゼロ)から設定射出速度V1に到達するまでの立ち上がり時間が必要であるが、実射出速度の表示は省略している。スクリュ12の前進に伴い、貯留部13の溶融樹脂が金型キャビティ31内に充填され、その充填率の上昇と共に実射出圧力(スクリュ12に付与される実際の前進力=スクリュ12が受ける前進抵抗力)も上昇する。
【0059】
しかしながら、スクリュ12がVP切替点に到達する前であっても金型キャビティ31内に樹脂圧偏差が発生する。例えば、充填抵抗の最も小さい中央キャビティ31aと、次に充填抵抗の小さい上方キャビティ31b、右側キャビティ31d及び左側キャビティ31eへの溶融樹脂の充填が進行する中、充填抵抗の最も小さい中央キャビティ31aもしくは、充填進行中の部分キャビティの中で流動長さの最も小さい左側キャビティ31eの充填が完了した瞬間、溶融樹脂の樹脂流動は充填が完了していない、次に充填抵抗の少ない部分キャビティに集中するため、スクリュ12の受ける前進抵抗力が一時的に急上昇する。そして、その部分キャビティへの樹脂流動が安定すると、スクリュ12の受ける前進抵抗力が低下する。このような充填抵抗の急上昇が点Xのような実射出圧力の部分ピーク値として発生する。
【0060】
また、最も充填抵抗の大きな下方キャビティ31c以外の部分キャビティの充填が完了した瞬間、溶融樹脂の樹脂流動が下方キャビティ31cに集中するため、再び、スクリュ12の受ける前進抵抗力が急上昇し、点Yのような実射出圧力の部分ピーク値として再発生する。点X及び点Yのような実射出圧力の部分ピーク値は、実際に部分ピーク値が発生した部位から閉空間内の溶融樹脂を伝播して、伝播時間分遅れてスクリュ12の前進抵抗力として検出される。そして、この前進抵抗力に抗して設定射出速度(スクリュの前進速度)を維持させるため、少なくともこの前進抵抗力と同じ大きさまでスクリュの前進力が増大される。
【0061】
このような点X及び点Yのような実射出圧力の部分ピーク値が、スクリュの前進抵抗力として検出されたとしても、先に説明した伝播時間(伝播距離)や溶融樹脂の粘弾性のため、実際に発生したピーク値と異なる場合がある。そのような場合で、特に発生したピーク値の方が大きい場合、実際に発生したピーク値が、発生した部位近傍に作用させている型締力を超えるとその部位にバリ吹きが発生してしまう。
【0062】
次に、時間t1においてスクリュ12がVP切替点に到達すると、それまでの射出速度制御が射出圧力制御に切り替えられる。VP切替点においては実射出圧力が最大値P’に到達する。そのため、VP切替点以降の射出圧力制御において、この実射出圧力の最大値P’をこれよりも低い設定射出圧力P1(設定保圧力)まで減圧させなければならない。その結果、スクリュ12の後退動作を許容させたり、積極的に後退させる制御が行われるため、フローマーク等の成形不良を発生させたり、実射出圧力の最大値P’がサージ圧力となり再びバリ吹きが発生したりすることは先に説明したとおりである。尚、説明を容易にするため、VP切替点におけるこのようなスクリュ12の後退動作は
図2のグラフには反映していない。
【0063】
VP切替点以降、実射出圧力P’が設定射出圧力P1(設定保圧力)まで減圧された後、この設定射出圧力P1を維持させる射出圧力制御が行われる。金型キャビティ31を満たした溶融樹脂は冷却固化及びこれに伴う体積収縮が進行するが、加熱バレル11の貯留部13の溶融樹脂に付与される設定保圧力P1と、金型キャビティ31内の樹脂の残存する流動性とで、貯留部13の溶融樹脂を金型キャビティ31内へ補充填させる(保圧工程)。既に、金型キャビティ31内を樹脂が略満たしており、スクリュ12は、溶融樹脂の冷却固化収縮速度に準じた低い速度で、冷却固化収縮分を補充填させる容積分しか前進させることはできない。そのため、VP切替点以降の射出圧力制御下における実射出速度(二点鎖線)は、低い速度から漸次減速され時間t2において略0となる。
【0064】
ここで、VP切替点以降の、少なくとも時間t1から時間t2の間は、設定射出圧力(保圧力)が付与されたスクリュ12の前進が継続されるため、金型キャビティ31内に溶融樹脂が補充填され、補充填された溶融樹脂を介して保圧力が金型キャビティ31内の冷却固化進行中の溶融樹脂全体に伝播される。そのため、
図2中に図示はしていないが、スクリュ12の前進力としての設定射出圧力(設定保圧力)を維持させる過程で実射出圧力が変動し、金型キャビティ31内に樹脂圧偏差や部分的樹脂流動を生じさせて、VP切替点以前の溶融樹脂の流動性が高い状態に対して可能性は低くなるが、保圧工程においてもバリ吹きが発生する場合がある。
【0065】
また、本来であれば、溶融樹脂の冷却固化収縮も加味した金型キャビティ31内への溶融樹脂の充填は時間t2において完了したと見なせるが、一般的な射出充填制御方法においては、時間t2を越えて時間t3までスクリュ12の前進力を維持させる射出圧力制御を継続させて保圧工程を完了させ、冷却工程に移行させることが多い。そのため、時間t2から時間t3の間に継続されるスクリュ12の前進力維持により、金型キャビティ31のゲート部の樹脂や、加熱バレル11の貯留部13の溶融樹脂に不要な圧力が作用する。この不要な圧力が作用している時間及び圧力源が消費するエネルギは良品の成形や射出成形機の運転には全く寄与しないばかりか、成形品の成形サイクルタイムや成形品質、更には金型や装置の維持に悪影響を及ぼす因子となる。
【0066】
説明の前提となる金型キャビティ31(
図1)と、一般的な射出充填制御方法(
図2)による、射出装置から射出させた溶融樹脂の、金型キャビティ31ヘの充填過程とを説明した。引き続き、
図3を参照しながら、本発明の実施例1に係る、射出成形機の射出充填制御方法を説明する。
【0067】
図3は、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法による、射出装置10から射出させた溶融樹脂の、
図1に示す金型キャビティ31内への充填過程を説明するグラフである。
図3のグラフの原点、横軸、縦軸及び圧力の前提については
図2のグラフと同様である。
図3の
図2との差異は、タイバーの伸張量の変化(実践)と、同変化に関連する上限値A及び速度補正限界値B(共に破線)とが記載されている点である。上限値Aは、先に説明したように、正規の型締力が付与された状態の金型が、金型キャビティ31内の樹脂圧力やその樹脂圧偏差により、その金型合わせ面が全体的あるいは局部的に開いてしまってもバリ吹きが発生しない型開き状態のタイバーの伸張量である。
【0068】
一方、速度補正限界値Bは、これ以上のタイバーの伸張がバリ吹きを発生する限界値である。上限値Aと同様に金型(製品)毎に設定されることが好ましく、更には、樹脂圧偏差による局部的なバリ吹きに対応するためにタイバー毎に設定されることが好ましい。また、射出充填工程中に、1つのタイバーでもその伸張量が速度補正限界値Bに達した場合、警報を発するか、射出充填工程を同成形サイクル完了時で停止させ、次のサイクルを開始させない等の制御を行わせることが好ましい。尚、
図3に示すタイバーの伸張量はすべてのタイバーに関する伸張量の変化を代表して記載しており、1本や2本の特定のタイバーの伸張量の変化も反映しているものとする。
【0069】
本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においても、時間0(ゼロ)から、設定射出速度をV1とする射出速度制御(実線)が行われる。ここで、
図2のグラフと同じタイミングで樹脂圧偏差が生じ、あるタイバー近傍の金型キャビティ31の部位で点Xのような実射出圧力の部分ピーク値が発生するものとする。また、その結果、この部分ピーク値の発生した金型キャビティ31の部位に局部的な型開き力が発生し、同タイバーの伸張量が上限値Aを超えたものとする。これにより、射出速度補正点H1が認識され、ただちに設定射出速度V1をV2に減速させる補正制御が行われる。この射出速度の減速制御により、同タイバーの伸張量は速度補正限界値Bに到達する前に減少に転じ、実射出圧力(一点鎖線)も一度減少される。このようにして、点Xにおけるバリ吹きが防止されると共に、元の設定射出速度V1から減速されるものの、設定射出速度V2でのスクリュ12の前進が継続され、金型キャビティ31内への溶融樹脂の充填が継続される。
【0070】
次に、設定射出速度V2で射出速度制御が行なわれている間に、
図2のグラフと同じタイミングで樹脂圧偏差が生じ、別のタイバー近傍の金型キャビティ31の部位で点Yのような実射出圧力の部分ピーク値が発生し、同タイバーの伸張量が上限値Aを超えたものとする。これにより、次の射出速度補正点H2が新たに認識され、ただちに設定射出速度V2をV3に減速させる補正制御が行われ、同タイバー近傍からのバリ吹きが防止されると共に、設定射出速度V3でのスクリュ12の前進が継続される。
【0071】
このように、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においては、射出速度制御下において、射出速度を減速させる補正制御を行わせるため、特許文献1の成形方法や特許文献2の成形機における射出充填制御方法と異なり、金型キャビティ31が溶融樹脂で満たされる前のショートショット状態においても、当初の設定射出速度から減速させた射出速度で金型キャビティ内への溶融樹脂の充填を継続させることができ、バリ吹きを防止しつつショートショットも防止することができる。
【0072】
そして、減速されたものの、設定射出速度V3でのスクリュ12の前進が継続され、金型キャビティ31内への溶融樹脂の充填率が上昇するにつれ実射出圧力(スクリュ12が前進時にうける抵抗力/一点鎖線)も上昇する。そして、スクリュ12の前進位置が射出充填開始後、時間t1後にVP切替点に到達すると、実射出圧力が最大値P”に到達する。尚、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においては、実際には設定射出速度V1がV3まで減速されているので、
図3のグラフにおいて、スクリュ12が理想的なVP切替点に到達するのは、スクリュ12が前進を開始してから時間t1+α後であるが、
図2のグラフとの比較を容易にするため、
図3においても時間t1後に到達するものとする。また、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法において、VP切替点を設定する必要はない。しかしながら、
図2との比較を容易にするため、VP切替点を単に、サージ圧力の発生無しで金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた状態となるスクリュ12の前進位置としてグラフ中に記載しているものとする。
【0073】
当然ながら、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においても、VP切替点において実射出圧力(一点鎖線)が最大値P”(P”<P’)となるため、これ以降、金型キャビティ31内の溶融樹脂にサージ圧力が発生して、局部的あるいは全体的な型開き力が発生し、特定のタイバー、あるいは、複数の場合も含めてすべてのタイバーの伸張量が上限値Aを超える可能性が高い。そのような場合でも、次の射出速度補正点H3が新たに認識され、ただちに設定射出速度V3をV4に減速させる補正制御が行われる。一方、先に説明したように、VP切替点(満杯点)以降は、実射出圧力(実保圧力)が付与されたスクリュ12の前進が継続されるため、金型キャビティ31内に溶融樹脂が補充填され、補充填された溶融樹脂を介して実保圧力が金型キャビティ31内の冷却固化進行中の溶融樹脂全体に伝播される。そのため、金型キャビティ31内に樹脂圧偏差や部分的樹脂流動を生じさせて、局部的な型開き力を発生し易く、その結果、
図3中に示すようにタイバーの伸張量が増大し易い。
【0074】
しかしながら、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においては、VP切替点が設定されず、射出速度制御が継続され、タイバーの伸張量が上限値Aを超える度に、新たな射出速度補正点がH3〜H6まで次々と認識され、同点認識の都度、設定射出速度がV4からV7まで減速される。このような射出速度を減速させる補正制御が繰り返されることにより、徐々に減圧されるものの実射出圧力(一点鎖線)の付与が継続されると共に、VP切替点以降も、スクリュ31の前進が継続され、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた(フルショット)状態で、且つ、適切な保圧力(実射出圧力)が付与された状態での射出充填工程が継続される。尚、射出速度0(ゼロ)から設定射出速度V7に到達するまでの実際のスクリュの前進速度(実射出速度)としては、立ち上がり時間や減速時間が必要であるが、設定射出速度V1からV7の減速制御に対応するこれら実射出速度の表示は省略している。
【0075】
このように、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においては、VP切替点の設定が必須ではなく、射出速度制御から射出圧力制御への切り替えがないため、これら制御切り替えに要する応答時間1が不要である。これにより、一般的な射出充填制御方法や特許文献1の射出成形機の成形方法と異なり、本来、応答時間1の間に増大するはずのサージ圧力を抑制させることができるだけでなく、スクリュの前進が継続されるため、制御切替時のスクリュの後退動作が生じないため、フローマーク等の成形不良を抑制できる。
【0076】
また、VP切替点以降、射出圧力の減圧によりバリ吹きを防止する特許文献1の成形方法や特許文献2の成形機における射出充填制御方法と異なり、射出速度制御が継続されるため、先に説明したような、射出圧力制御に対する射出速度制御の応答性の優位、すなわち、サージ圧力の要因となるスクリュの前進速度や、溶融樹脂の樹脂流動速度による運動エネルギを、射出速度の減速で直接減少させることによる応答時間2の短縮が可能となる。これにより、本来のVP切替点以降の、連続する(射出速度補正点H3からH6)射出速度の減速補正制御において、実射出圧力(実保圧力)の減圧を追従させることが可能となり、本来のVP切替点前後に大きな減圧を必要とせず、スクリュの前進を継続させることができる。このように、VP切替点以降の本来の保圧工程に相当する溶融樹脂の補充填においても、バリ吹きを防止しつつ、適切な実保圧力を付与させた状態で、金型キャビティ内への溶融樹脂の補充填を継続させることができる。
【0077】
更に、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法は、射出装置側の射出充填制御のみで、バリ吹きを防止しつつ、金型キャビティ内への溶融樹脂の補充填を継続させることができるため、型締手段でタイバーを伸張させて、金型に型締力を付与させる形態の型締装置であれば、どのような型締装置を有する射出成形機であっても適用することが可能である。具体的には、トグル式型締装置や直圧式型締装置を有する射出成形機に適用することができる。
【0078】
ここで、射出速度補正点における射出速度の減速は、減速前の速度からの減速量や減速率を固定値で設定させても良い。また、タイバーの伸張量が上限値Aを超えた時点のタイバーの伸張率(単位時間当たりのタイバーの伸張量)等により、これら減速前の速度からの減速量や減速率を変えても良い。例えば、タイバーが急激に伸張される射出速度補正点や、ゆっくりと伸張される射出速度補正点に対して、それぞれの補正点におけるタイバーの伸張率に比例させた減速量や減速率が採用されても良い。このような射出速度補正点における射出速度の減速は、金型や成形条件によって、好適な減速量や減速率が異なるため、試験成形や机上での解析等により、上限値Aの値と合わせて好適な減速量や減速率を予め求めておくことが好ましい。
【0079】
射出速度補正点H6で設定射出速度がV6からV7まで減速された後、実射出圧力(一点鎖線)は一度減少された後、スクリュ12の前進に伴いわずかに上昇する。しかしながら、この時点で、金型キャビティ31内、又は、ゲート21a部の冷却固化が進行して、金型キャビティ31内へ溶融樹脂の補充填ができない状態になっているものとする。金型キャビティ31内やゲート21a部の冷却固化された樹脂の弾性や射出装置10の貯留部13の溶融樹脂の弾粘性により、この状態においてもわずかなスクリュ12の前進を許容するが、設定射出速度V7による射出速度制御下であっても、実際のスクリュ12は物理的に前進が困難となり、スクリュ12の実射出速度(スクリュ12の実前進速度/2点鎖線)は時間t2において略0(ゼロ)となる。尚、最後の射出速度補正点H6以降のスクリュ12の挙動を説明するため、射出速度補正点H6以降のみ、スクリュ12の実射出速度を二点鎖線で表示している。
【0080】
このように、溶融樹脂の冷却固化収縮も加味した金型キャビティ31内への溶融樹脂の充填は時間t2において完了したと見なせる。よって、本発明に係る射出充填制御方法においては、射出速度制御下において、実際の射出速度である実射出速度(スクリュの実前進速度)を監視させ、この実射出速度が予め設定させた冷却工程移行射出速度C、例えばこれを速度0(ゼロ)に到達した時点を射出速度補正終了点としてスクリュ12の前進を停止させても良い。これにより、金型キャビティ31のゲート21a部の樹脂や、射出装置10の貯留部13の溶融樹脂に不要な圧力が作用することを防止することができると共に、冷却工程に移行させて、成形品の成形サイクルタイムを短縮させることができる。
【0081】
また、金型キャビティ31内の溶融樹脂の冷却固化率によらず、金型キャビティ31への溶融樹脂の流入口であるゲート21a部が冷却固化(ゲートシール状態)して、例え、スクリュ12の前進が継続されても、金型キャビティ31内へ溶融樹脂を補充填させることができない状態のスクリュ12の実前進速度、例えば、まだ、スクリュ12の前進が継続中である時間t2’におけるスクリュの実前進速度を冷却工程移行射出速度Cとしても良い。
【0082】
更に、先に説明したように、補正制御下において、新たに設定された射出速度に対して、実射出速度が略同じ値まで減速された後、該実射出速度を該新たな設定射出速度に、予め設定させた所定時間維持できない場合、又は、該実射出速度が該新たな設定射出速度から、予め設定させた所定値以上離間した場合に、前記射出充填工程から冷却工程に移行させても良い。
【0083】
実施例1は、本発明に係る射出充填制御方法をわかりやすく説明するための一例であり、本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できることは言うまでもない。例えば、タイバーの伸張量の上限値Aが金型(製品)毎に設定されることが好ましく、更には、局部的なバリ吹きに対応するためにタイバー毎に設定されることが好ましいとしたが、特定の金型(製品)で樹脂圧偏差によりバリ吹きが発生し易い箇所が予め特定できる場合は、タイバーの伸張量の上限値Aを、対象となるタイバーと合わせて特定して、特殊なバリ吹き状況として設定されても良い。
【0084】
また、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされる前の、樹脂圧偏差による局部的な金型の開きと、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた後の樹脂圧力による投影面積全体に伝播する全体的な金型の開きとでは、タイバーの伸張量及び伸張されるタイバーの分布(本数)が異なる。そのため、後者の全体的な金型の開きを試験成形や机上の解析で予め求めておけば、タイバーの伸張量の監視でVP切替点の到達が確認可能である。本発明に係る射出充填制御方法において、VP切替点の設定は必要ないが、このようにして確認可能なVP切替点の前後において、射出速度補正点における射出速度の減速(減速前の速度からの減速量や減速率)を変えても良い。
【0085】
更に、実施例1では、このタイバーの伸張量の上限値Aを、正規の型締力が付与された状態の金型が、その金型合わせ面が全体的あるいは局部的に開いてしまってもバリ吹きが発生しない型開き量に相当するタイバーの伸張量として、また、この上限値Aを一つの値として、これを超えな
くなるように射出速度を減速させる補正制御を行わせる形態について説明した。しかしながら、この上限値Aを、正規の型締力が付与された状態の金型が、その金型合わせ面が全体的あるいは局部的に開いてしまってもバリ吹きが発生しない型開き量に相当するタイバーの伸張量まで必ずしも追い込んだ値に設定する必要はない。また、この上限値Aを、射出工程及び保圧工程から成る射出充填工程全体に亘って、1つの値にする必要はない。
【0086】
例えば、形状が複雑な成形品の場合、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされる前の、樹脂圧偏差による局部的な金型の開きが発生し易い反面、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた後の樹脂圧力による投影面積全体に伝播する全体的な金型の開きは、凝固収縮が進行しているため発生し難い。このような場合は、前述した方法等で仮に設定したVP切替点以前の上限値Aを以降の上限値Aよりも小さく設定しても良い。逆に、形状が単純な成形品の場合、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされる前の、樹脂圧偏差による局部的な金型の開きは発生し難いが、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた直後は、サージ圧力の発生もあり、全体的あるいは局部的な金型の開きが発生し易い。このような場合は、VP切替点前後近傍の上限値Aを、バリ吹きが発生しない型開き量まで追い込んだ値よりも低く設定して、射出速度補正点の発生頻度を意図的に増加させて、射出速度の減速補正の回数を増加させて、より滑らかに実射出圧力及び実射出速度を低下させても良い。