特許第6528616号(P6528616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6528616
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】射出成形機の射出充填制御方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/77 20060101AFI20190531BHJP
   B29C 45/66 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   B29C45/77
   B29C45/66
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-174847(P2015-174847)
(22)【出願日】2015年9月4日
(65)【公開番号】特開2017-47660(P2017-47660A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】宇部興産機械株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(72)【発明者】
【氏名】品田 忠
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−174640(JP,A)
【文献】 特開平08−281752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/66,45/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出装置のスクリュを前進させて、金型キャビティ内に溶融樹脂を充填させた後に、保圧力を付与させた状態で冷却固化収縮分の溶融樹脂を補充填させる射出充填工程において、予め設定させた射出速度に基づく射出速度制御を行わせ、少なくとも1本のタイバーの伸張量が、予め設定させた上限値Aに到達する点を射出速度補正点とし、前記射出速度補正点において、前記タイバーの前記伸張量が前記上限値Aを超えなくなるように射出速度を減速させる補正制御が行われ
前記上限値Aは、正規の型締力が付与された状態の金型の金型合わせ面の少なくとも一部が開いてしまっても、バリ吹きが発生しない型開き量に相当する、タイバー毎に設定されるタイバーの伸張量であって、
前記補正制御下における実射出速度が、予め設定させた冷却工程移行射出速度Cに到達する点を射出速度補正終了点とし、前記射出速度補正終了点において、前記射出充填工程から冷却工程に移行させる、射出成形機の射出充填制御方法。
【請求項2】
前記射出充填工程中、前記射出速度補正点が複数回生じる場合、前記射出速度補正点毎に前記補正制御が行われる、請求項1に記載の射出成形機の射出充填制御方法。
【請求項3】
射出装置のスクリュを前進させて、金型キャビティ内に溶融樹脂を充填させた後に、保圧力を付与させた状態で冷却固化収縮分の溶融樹脂を補充填させる射出充填工程において、予め設定させた射出速度に基づく射出速度制御を行わせ、少なくとも1本のタイバーの伸張量が、予め設定させた上限値Aに到達する点を射出速度補正点とし、前記射出速度補正点において、前記タイバーの前記伸張量が前記上限値Aを超えなくなるように射出速度を減速させる補正制御が行われ、
前記上限値Aは、正規の型締力が付与された状態の金型の金型合わせ面の少なくとも一部が開いてしまっても、バリ吹きが発生しない型開き量に相当する、タイバー毎に設定されるタイバーの伸張量であって、
前記補正制御下において、新たに設定された射出速度に対して、実射出速度が略同じ値まで減速された後、該実射出速度を該新たな設定射出速度に、予め設定させた所定時間維持できない場合、又は、該実射出速度が該新たな設定射出速度から、予め設定させた所定値以上離間した場合に、前記射出充填工程から冷却工程に移行させる、射出成形機の射出充填制御方法。
【請求項4】
前記射出充填工程中、前記射出速度補正点が複数回生じる場合、前記射出速度補正点毎に前記補正制御が行われる、請求項3に記載の射出成形機の射出充填制御方法。
【請求項5】
前記射出成形機の型締手段がトグル式型締機構である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の射出成形機の射出充填制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の射出充填制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の一般的な射出充填工程は射出工程と保圧工程とから成る。射出工程は射出成形機の射出装置内のスクリュを前進させて、射出装置内で計量させた溶融状態の樹脂(溶融樹脂)を金型キャビティ内に充填させる工程である。射出工程においては、充填させる溶融樹脂に付与させる圧力よりも充填させる溶融樹脂の充填速度(時間当たりの充填容積)が重要視され、設定させた射出速度、すなわち、スクリュの前進速度を設定値に維持させる制御(射出速度制御)が行われる。
【0003】
そして、射出工程において、金型キャビティ内が溶融樹脂で略満たされたタイミングで、金型キャビティ内の溶融樹脂の冷却固化による収縮容積を補うための保圧工程に移行させる。保圧工程においては、金型キャビティ内が溶融樹脂で既に略満たされているため、充填速度(射出速度)よりも金型キャビティ内の溶融樹脂に付与させる所定の圧力(保圧力)が重要視され、設定させた射出圧力(保圧力)、すなわち、スクリュの前進力を設定値に維持させる制御(射出圧力制御)が行われる。
【0004】
また、このような射出工程と保圧工程とから成る射出充填工程の制御方法においては、スクリュの制御対象項目が、射出速度から射出圧力(保圧力)へと切り換えられるスクリュの前進位置を、速度/圧力切替点(以後:VP切替点)等と呼称する。
【0005】
尚、本発明は、一般的な射出充填工程との相違点があるため、射出装置のスクリュを前進させて、金型キャビティ内に溶融樹脂を充填(射出工程)させた後に、保圧力を付与させた状態で冷却固化収縮分の溶融樹脂を補充填させる(保圧工程)までの工程を射出充填工程と呼称する。また、その射出充填工程において、スクリュの挙動を含む、射出装置において行われる制御方法を射出充填制御方法と呼称するものとする。
【0006】
このような射出成形機の射出充填制御方法においては、良品を得るために、射出工程における射出速度や、VP切替点や、保圧工程における射出圧力(保圧力)等の設定が重要である。VP切替点の設定が適切であっても、射出速度の設定値が高すぎれば、金型キャビティ内が溶融樹脂で略満たされたタイミングで、後述するようなサージ圧力が発生し、このサージ圧力が設定型締力を上回った場合に局部的な型開き力が発生し、金型合わせ面が開いて溶融樹脂が噴出したり(バリ吹き)、金型から射出装置への溶融樹脂の逆流が生じたりする。そのため、特許文献1の〔従来の技術〕に記載されているように、スクリュがVP切替点に到達する直前で、設定射出速度を予め低い設定値に減速させてサージ圧力の発生を防止する制御が行われる場合もある。
【0007】
一方、射出速度の設定値が適切であっても、VP切替点の設定が適切でなければ問題が生じる。例えば、金型キャビティ内が溶融樹脂で略満たされた後も、所定の射出速度が維持された状態で溶融樹脂の充填が継続されれば、過大な樹脂充填によりサージ圧力が発生し、バリ吹きや溶融樹脂の逆流が生じる。また、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされる前に保圧工程に移行させれば、金型内は樹脂充填不足(ショートショット)状態となり、設定した保圧力が適切でも、金型内の溶融樹脂に適切な型締力、あるいは充填圧力を付与させることができず、形状不良やヒケ等の成形不良が発生する。
【0008】
また、一般的な射出充填制御方法においては、金型キャビティ内が溶融樹脂で略満たされるVP切替点近傍において、前進中のスクリュが溶融樹脂から受ける抵抗力、すなわち、設定射出速度を維持させた状態における射出圧力(実射出圧力)が略最大値に到達する。そして、VP切替点において、それまでの射出速度制御(スクリュの設定前進速度維持)を射出圧力制御(保圧力/スクリュの設定前進力維持)へと移行させる。この射出圧力制御において、溶融樹脂に付与させる保圧力として設定される設定圧力は、VP切替点で略頂点に到達した実射出圧力よりも低い圧力である。
【0009】
この時、射出装置内のスクリュ先端のチェックリング(樹脂流路開閉切替弁)は、同じく射出装置内の貯留部(スクリュ前方)の溶融樹脂から受ける抵抗力(樹脂圧力)により閉塞状態が維持されるため、この閉塞されたチェックリングを端とする、射出装置内の貯留部から金型キャビティを含む連続する空間は溶融樹脂で満たされる閉空間となる。ここで、この閉空間を満たす溶融樹脂の樹脂圧力を、VP切替点において略頂点に達した実射出圧力から、VP切替点以降の射出圧力制御における設定圧力まで減圧させる好適な方法は、この閉空間の容積を拡張することである。そのため、一般的な射出充填制御方法においては、スクリュがVP切替点に到達した時点でスクリュの前進を停止させるだけでなく、スクリュの前進力も解除させた上で、スクリュが溶融樹脂から受ける抵抗力が設定圧力(保圧力)へと減圧するまで、スクリュが受ける抵抗力による後退動作を許容する制御や、スクリュがVP切替点に到達した時点でスクリュの前進を停止させた後、実射出圧力が設定圧力へと減圧されるまで、スクリュを後退させる制御が行われる。
【0010】
そして、このスクリュの後退動作により、実射出圧力を設定圧力(保圧力)まで減圧させた後、この設定圧力が維持される(射出圧力制御)ようにスクリュの前進を再開させ、溶融樹脂に設定圧力(保圧力)を作用させた状態で、金型キャビティ内の溶融樹脂の冷却固化による収縮容積を補うための保圧工程が行われる。
【0011】
射出速度制御下におけるスクリュの前進中は、金型キャビティ内へ溶融樹脂が連続的に充填され、その流動(フロー)に大きな変動はない。しかしながら、上記のようなVP切替点到達後の、スクリュの前進から後退への動作切替えの間、金型キャビティ内への溶融樹脂の樹脂流動は、減速や停滞、あるいは逆流を生じ、大きく変動してしまう。一方、その間も溶融樹脂の冷却が進行するため、溶融樹脂の粘度が低下する、あるいは、金型キャビティとの接触部分からの溶融樹脂の冷却固化が進行し、流動可能な溶融樹脂の流動方向の断面積が減少する等して、溶融樹脂の流動性が大きく変動する。このような金型キャビティ内への溶融樹脂の樹脂流動の変動により、保圧工程に移行させた後、射出圧力制御下において、スクリュの前進を再開させて、金型キャビティ内の溶融樹脂に、設定圧力(保圧力)を付与させようとしても、金型キャビティ内の溶融樹脂の冷却固化による収縮容積に準じた適切な溶融樹脂の補充填が困難になり、フローマークや転写不良等の成形不良の要因となる。
【0012】
そのため、射出充填工程において、VP切替点を正確に検出する方法や、射出速度や射出圧力等を適切に設定・制御して、バリ吹きや樹脂の逆流を防止すると共に、金型キャビティ内が溶融樹脂で略満たされた(フルショット)状態で保圧工程に移行するための、様々な射出充填制御方法が考案されている。
【0013】
特許文献1には、樹脂がキャビティ内に満杯になる(充填完了)直前から射出速度、射出圧力及び型開量の複数因子を樹脂の要求特性に応じ順次上位因子の設定値として制御し、かつ、該射出圧力、型開量に対しては、射出速度、射出圧力をそれぞれ下位因子として対応させ制約条件を付与して制御する射出成形機の成形方法が開示されている。具体的には、充填完了直前で、型開量、スクリュ位置、射出圧力のいずれか1あるいは複数の値により定められた設定値に至った後に制御を開始する成形方法(請求項2)や、上位因子として射出圧力を制御する際、ガスは放出されるがバリは発生しないような型開量を設定しておき、型開量がその設定値となった後型開量を目標値として射出圧力を制御する方法に切替えるが、射出圧力を下位因子として局所ばりが発生しない値内に制限した成形方法(請求項3)、更には、上位因子として射出圧力を制御する前に射出速度制御を行い上記射出圧力設定値に至った後は自動的に射出圧力制御に切替えるが、射出速度を下位因子として、樹脂が逆流しない値もしくは許容逆流速度以下に制限した成形方法(請求項4)が開示されている。
【0014】
特許文献2には、型締手段の型締の状態に関する情報を検出する検出部と、射出工程中に前記検出部からの情報を監視し、前記情報から得られた数値が予め設定された閾値を越えた時に、射出装置の射出圧力を抑制するように制御する制御手段と、を具備し(請求項1)、前記制御手段は、前記数値が前記閾値を越えた時に、前記数値が前記閾値以下に低下するように射出圧力を制御する成形機(請求項2)が開示されている。この型締の状態に関する情報としては、型締力(請求項8)や固定金型と移動金型(可動金型)との金型間距離(請求項9)等が挙げられている。
【0015】
そして、これら特許文献1(段落0017他)及び特許文献2(段落0052及び0053他)には、共に、バリ吹きと、ショートショットに起因する成形不良とを解決することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平05−309713号公報
【特許文献2】特開2012−250360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1の射出成形機の成形方法や、特許文献2の射出制御方法は、共に、金型のパーティング面(金型分割面)の開き(型開量)や、型締力に関する情報(タイバーの伸び量等)に関して設定された閾値への到達を起点にして、射出圧力の制御(減圧)によりバリ吹きを防止するため、以下の問題がある。
【0018】
まず、特許文献1の射出成形機の成形方法においては、VP切替点にスクリュが到達する前、すなわち、射出速度制御下にある射出工程中に、型開量が閾値に到達してしまうと、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされていないショートショットの状態で射出圧力制御に切り替わってしまう。射出圧力制御下においては、スクリュの前進速度は、それまで制御(維持)されてきた設定射出速度から、設定射出圧力を維持させた状態における実射出速度に減速され、あるいは、先に説明したように、スクリュを後退させる場合もあるため、金型キャビティ内への溶融樹脂の充填量が不足し、金型キャビティ内の溶融樹脂の冷却固化がショートショットの状態で進行し、充填不良等の成形不良が発生する。
【0019】
バリ吹きは、スクリュがVP切替点に到達する前の射出工程においても発生する。一般的な射出充填制御方法においては、金型キャビティ内へ充填させた溶融樹脂の冷却固化が進行するため、射出工程において、金型キャビティ内への溶融樹脂の充填を優先させて射出速度制御が行われる。一方、オーバーフロー部を含む金型キャビティや、金型キャビティへの樹脂流路は、溶融樹脂の流動方向に直交する断面積が様々であるため、溶融樹脂の樹脂流動速度や充填抵抗が一定ではない。断面積が小さい部位は大きい部位に対して樹脂流動速度が速く充填抵抗が大きい。また、金型キャビティ面からの抜熱により冷却固化速度も速いため、このような断面積が小さい部位の充填完了は大きい部位よりも早く、樹脂流動力による樹脂圧力も早く上昇する上、その上昇タイミングも金型キャビティ内のそれら各部位においてまちまちである。
【0020】
そのため、射出速度の設定や計量樹脂量が適切であっても、製品形状によっては、金型キャビティ形状の制約から、射出工程中に樹脂圧力が上昇する部位が生じる場合がある(樹脂圧偏差)。同様の樹脂圧偏差は、金型キャビティの、ランナー等の不適切な樹脂流路の設計や、射出成形機のタイバー毎の型締力調整不良(不均一な型締状態)等によっても生じる。このような樹脂圧偏差により生じた局部的な高い樹脂圧力が、その近傍に実質的に付与されている型締力を上回ると、樹脂圧力が上昇する部位の、他の部位に対して大きい樹脂流動速度による運動エネルギとの相乗効果により、射出工程中であっても、金型のその部位近傍に局部的な型開き力が作用して金型が開いてバリ吹きが生じる。このようなバリ吹きは、その部位の成形不良となるだけでなく、バリ吹きにより損失した樹脂量分、金型キャビティ内のショートショット状態を更に促進してしまい、他の部位の形状不良やヒケ等の成形不良の要因となる。すなわち、特許文献1の射出成形機の成形方法においては、バリ吹きの抑制は可能になっても、ショートショットの発生を解決することができないという問題がある。
【0021】
次に、特許文献2の射出制御方法においては、射出充填工程の開始から完了まで射出圧力制御が行われる。射出充填工程の開始からVP切替点にスクリュが到達する間に、先に説明したようなバリ吹きを発生させるような樹脂圧偏差が発生しない場合、この間に型締力に関する情報(タイバーの伸び量等)が閾値に到達することは無い。また、溶融樹脂は金型キャビティ内への溶融樹脂の充填率の上昇に伴い若干変動する充填抵抗を受けながら金型キャビティ内に充填される。しかしながら、この間に行われる射出圧力制御において、溶融樹脂の若干変動する充填抵抗に対抗して射出圧力が設定圧力に維持されるようスクリュの前進力が制御される一方、スクリュの前進速度(実射出速度)は制御されず変動する。一般的な射出充填制御方法の射出工程では、金型キャビティ内への溶融樹脂の充填を優先させて射出速度制御が行われることを鑑みれば、金型キャビティ内をできるだけ早く溶融樹脂で満たすための好適な射出速度(スクリュの前進速度)を設定することができない上、その速度が非制御化で変動するという問題があり、良品を成形させることが困難である。
【0022】
また、型締力に関する情報(タイバーの伸び量等)が閾値に到達してしまうと、バリ吹きを防止するために射出圧力を減圧させる射出圧力制御が行われる。そのため、特許文献1の射出成形機の成形方法と同様に、ショートショットの発生を解決することができないという問題がある。
【0023】
そして、次の問題は、射出速度制御から射出圧力制御へと移行される際の制御切替えの応答性や、射出圧力制御自体の応答性の問題である。前者は、射出速度制御から射出圧力制御への移行がある特許文献1の射出成形機の成形方法の問題であり、後者は、共に、射出圧力を減圧させる射出圧力制御によりバリ吹きを防止させる特許文献1及び特許文献2の問題である。
【0024】
特許文献1の射出成形機の成形方法において、VP切替点におけるスクリュの前進速度(実射出速度)は、同点到達直前の設定射出速度と略同じ速度である。先に説明したように、VP切替点においてスクリュの前進を停止させ、スクリュ後退動作により実射出圧力を設定圧力(保圧力)まで減圧させて射出圧力制御(保圧工程)に移行させる場合、VP切替点においてスクリュの前進を即停止することは困難であり、スクリュの前進が停止されて後退動作が開始されるまで、VP切替点以降もスクリュの前進は継続される。そのため、この間のスクリュの慣性重量及び前進(前進速度)による運動エネルギや、スクリュの前進によって金型キャビティ側へと流動される溶融樹脂の質量及び流動速度による運動エネルギが、スクリュ前方の貯留部に満たされた溶融樹脂の樹脂圧力に変換され、この樹脂圧力が金型キャビティ内の溶融樹脂に伝播して金型キャビティ内の樹脂圧力が急上昇する。これが、前述したサージ圧力である。
【0025】
特許文献1の射出成形機の成形方法において、バリ吹きに関連する因子として型開量に閾値を設け、同因子が同閾値に到達、あるいは、超える場合、金型キャビティ内の溶融樹脂の樹脂圧力を速やかに減圧させることがバリ吹きの防止に有効であると記載されている。しかしながら、同因子が同閾値に到達した時点で、射出速度制御を射出圧力制御に切り替える場合、先に説明したようなスクリュの動作切替えに所定の時間(応答時間1)を要する。この応答時間1の内、少なくともスクリュの前進が停止するまでの間、溶融樹脂の樹脂圧力の増加も継続されるため、サージ圧力を十分に減少させることはできない。
【0026】
また、特許文献1の成形方法や特許文献2の射出制御方法において、射出圧力の直接的な発生源である、スクリュの前進の駆動源(油圧シリンダ、油圧モータ、電動モータ等)の駆動力(作動油油圧や回転トルク等)が制御され、スクリュ前方側の溶融樹脂の樹脂圧力を、上記応答時間1経過後に設定圧力(保圧力)まで減圧させたとする。しかしながら、金型キャビティ内を満たしている溶融樹脂が粘弾性体であるため、このスクリュ前方側の溶融樹脂から受けるスクリュ前進時の抵抗力、すなわち、実射出圧力の減圧分が、金型キャビティ内の樹脂圧力の増加部位に伝播するのに更に時間を要する(応答時間2)。この応答時間2の間も、金型キャビティ内の樹脂圧力の増加部位近傍への、運動エネルギを有する樹脂流動は継続され、同部位の溶融樹脂の樹脂圧力の増加も継続されるため、サージ圧力を十分に減少させることはできない。
【0027】
このように、特許文献1の射出成形機の成形方法や、特許文献2の射出制御方法においては、金型キャビティ内の溶融樹脂の樹脂圧力増加を、それぞれの因子の閾値到達で検知させた後、バリ吹きを防止可能な設定射出圧力(設定保圧力)まで制御・減圧させるために、特許文献1においては応答時間1+2、特許文献2においては応答時間2を要する。これらの応答時間は、不適切に高い設定射出速度や、溶融樹脂の粘弾性体としての粘弾性率が高い場合に、長くなることはあっても短くなることはない。そして、このような応答時間1や応答時間2により、バリ吹きの防止に必要とされる圧力制御(減圧)が行われた後であっても、金型キャビティ内の樹脂圧力の増加部位における樹脂圧力の増大や運動エネルギを有する樹脂流動が継続されてしまう。その結果、この応答時間に増加した樹脂圧力(サージ圧力)が設定型締力を上回る部位が発生し、局部的、あるいは、金型分割面の多くの範囲で生じるバリ吹きを防止できないという問題がある。
【0028】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたもので、具体的には、射出装置のスクリュを前進させて、金型キャビティ内に溶融樹脂を充填させた後に、保圧力を付与させた状態で冷却固化収縮分の溶融樹脂を補充填させる射出充填工程において、ショートショット及びバリ吹きを防止することができる、射出成形機の射出充填制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記の目的は、射出装置のスクリュを前進させて、金型キャビティ内に溶融樹脂を充填させた後に、保圧力を付与させた状態で冷却固化収縮分の溶融樹脂を補充填させる射出充填工程において、予め設定させた射出速度に基づく射出速度制御を行わせ、少なくとも1本のタイバーの伸張量が、予め設定させた上限値Aに到達する点を射出速度補正点とし、前記射出速度補正点において、前記タイバーの前記伸張量が前記上限値Aを超えなくなるように射出速度を減速させる補正制御が行われる、射出成形機の射出充填制御方法によって達成される。
【0030】
すなわち、バリ吹きの直接要因である金型の開きを把握するために、射出充填工程中のタイバーの伸張量を監視項目とし、予め、予成形等でこのタイバーの伸張量の上限値Aを求めておく。このタイバーの伸張量の上限値Aは、正規の型締力が付与された状態の金型が、金型キャビティ内の樹脂圧力やその樹脂圧偏差により、その金型合わせ面が全体的あるいは局部的に開いてしまってもバリ吹きが発生しない型開き量に相当するタイバーの伸張量であって、正規の型締力が金型に付与され、同型締力に相当するだけ伸張された状態のタイバーが更に伸張された量である。そのため、金型(製品)毎に設定されることが好ましく、更には、先に説明したような樹脂圧偏差による局部的なバリ吹きに対応するためにタイバー毎に設定されることが好ましい。
【0031】
そして、予め設定させた射出速度に基づく射出速度制御を行わせ、タイバーの伸張量が上限値Aに到達する点を射出速度補正点として、タイバー伸張量が上限値Aを超えなくなるように、設定射出圧力ではなく設定射出速度を減速させる。このように、射出速度制御中に射出速度を減速させてバリ吹きを防止するので、VP切替点にスクリュが到達する前に、タイバーの伸張量が上限値Aに到達して、射出速度を減速させる補正制御が行われる場合においても、次の「射出速度補正点」が発生するまでは、減速させた射出速度が維持されるように制御されるため、スクリュの前進が継続されて、金型キャビティ内への溶融樹脂の充填を継続させることができる。そのため、射出圧力を減圧させてバリ吹きを防止する特許文献1や特許文献2に対して、ショートショットの発生を防止することができる。
【0032】
また、VP切替点やそれ以降の保圧工程に相当する工程においてもバリ吹きを防止することができる。何故なら、本発明に係る射出充填制御方法においては、予め設定させた射出速度に基づく射出制御が行われると共に、先に説明した射出速度を減速させる補正制御が、射出充填工程の完了(冷却工程の開始)まで継続されるからである。すなわち、VP切替点は必ずしも設定する必要がないか、設定する場合でもその精度がバリ吹きの防止効果に影響を与える虞がない。
【0033】
このように、射出圧力制御から射出速度制御への制御系の切替えがないため、まず、一般的な射出充填制御方法において生じる、VP切替点到達後のスクリュの後退が不要であり、これに起因するフローマークや転写不良等の成形不良を防止できる。次に、特許文献1のような、射出速度制御から射出圧力制御に移行する場合の応答時間1が発生しない。
【0034】
次に、サージ圧力の要因となるスクリュの前進速度による運動エネルギを、射出速度の減速により直接減少させることができるため、より短時間でサージ圧力を低下させることができる。この運動エネルギの減少は、サージ圧力の要因となるスクリュの前進速度による運動エネルギと、サージ圧力と共にバリ吹きの要因となる、樹脂圧力が上昇する部位の、他の部位に対して大きい樹脂流動速度による運動エネルギとの両方を直接減少させることができる。そのため、スクリュの後退やスクリュの前進力の減圧により、間接的にサージ圧力を低下させる射出圧力制御に対して、より短時間でサージ圧力を低下させることができると共に、応答時間2を短縮させることができ、サージ圧力のピーク値の更なる抑制に寄与する。
【0035】
上記のように射出速度を減速させる補正制御により、サージ圧力のピーク値が抑制されると共に、より短時間でサージ圧力を低下させることができる。また、このような射出速度を減速させる補正制御であっても、一般的な射出充填制御方法において、射出圧力(スクリュの前進力/保圧力)が制御される、VP切替点到達後の保圧工程に相当する工程において、バリ吹きを防止しつつ、金型キャビティ内の溶融樹脂に適切な圧力(保圧力)を継続して付与させることができる。
【0036】
すなわち、スクリュがVP切替点に到達すると、スクリュの前進により溶融樹脂に付与される樹脂圧力が金型キャビティの投影面積に比例して金型に型開き力を発生させるため、射出充填前の型締力が付与された状態からタイバーの伸張量が更に増加する。
【0037】
そして、スクリュがVP切替点に到達し、タイバーの伸張量が上限値Aに到達すると、タイバーの伸張量が上限値Aを超えなくなるように設定射出速度(既に射出速度補正点が発生している場合は、その直前の射出速度補正点で減速された射出速度)が減速されるため、金型キャビティ内の溶融樹脂には速度制御下の射出速度(スクリュの前進速度)におけるスクリュの有する運動エネルギに準じた保圧力が付与される。一般的な射出充填制御方法における保圧工程に対して、本発明に係る射出充填制御方法においては、この射出速度制御下で結果として生じ付与される保圧力が、バリ吹きの発生を防止しつつ、金型キャビティ内の溶融樹脂の冷却固化収縮に応じた溶融樹脂の流動を維持させ、ショートショット(充填不足)を防止する共に、金型キャビティ内の溶融樹脂へ付与される好適な保圧力となり、同溶融樹脂の冷却固化収縮に伴う溶融樹脂が金型キャビティ内へ補充填される。
【0038】
また、本発明に係る、射出成形機の射出充填制御方法においては、前記射出充填工程中、前記射出速度補正点が複数回生じる場合、前記射出速度補正点毎に前記補正制御が行われることが好ましい。
【0039】
先に説明したように、金型キャビティ内が溶融樹脂で略満たされる前であっても、金型キャビティ内に樹脂圧偏差が生じ、射出速度補正点が生じる場合がある。また、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた後は、スクリュの前進の運動エネルギにより溶融樹脂に付与される樹脂圧力が上昇し易く、型開き力の増加に伴ってタイバーの伸張量が増加し、射出速度補正点が生じ易い。このように、射出充填工程中に射出速度補正点が複数回生じる場合でも、射出速度補正点が生じる度に、上記のような設定射出速度の減速を繰り返すことにより、これら射出充填工程中のバリ吹きを防止しつつ、スクリュの前進を継続させることができる。そして、その結果として生じる保圧力も継続して付与させた状態で冷却固化収縮分の溶融樹脂の補充填が継続され、ショートショット(充填不足)も防止できるため、よりフルショット状態に近い射出充填工程を行なわせることができる。
【0040】
また、本発明に係る、射出成形機の射出充填制御方法においては、前記補正制御下における実射出速度が、予め設定させた冷却工程移行射出速度Cに到達する点を射出速度補正終了点とし、前記射出速度補正終了点において、前記射出充填工程から冷却工程に移行させることが好ましい。一方、前記補正制御下において、新たに設定された射出速度に対して、実射出速度が略同じ値まで減速された後、該実射出速度を該新たな設定射出速度に、予め設定させた所定時間維持できない場合、又は、該実射出速度が該新たな設定射出速度から、予め設定させた所定値以上離間した場合に、前記射出充填工程から冷却工程に移行させても良い。
【0041】
ここで、金型キャビティ内の溶融樹脂がその冷却固化収縮に準じた好適な溶融樹脂の補充填を受け、理想的な充填状態に到達したとしても、直前の射出速度補正点において行われた補正制御により設定された射出速度(スクリュの前進速度)を維持させる制御が継続されており、スクリュの前進用駆動源が作動している。また、連続して成形するため、射出装置外周に配置された加熱手段により射出装置が加熱され、スクリュ前方の貯留部に残った溶融樹脂はそのまま溶融状態が維持される。そのため、このまま補正制御が継続されると、金型キャビティのゲート部の樹脂や、射出装置の貯留部の溶融樹脂に不要な圧力が作用する。この不要な圧力が作用している時間及び圧力源が消費するエネルギは良品の成形や射出成形機の運転には全く寄与しないばかりか、成形品の成形サイクルタイムや成形品質、更には金型や装置の維持に悪影響を及ぼす因子となる。
【0042】
そこで、射出速度補正点において射出速度を減速させる補正制御下において、減速設定される設定値としての射出速度ではなく、その補正制御の結果としての実射出速度(スクリュの実前進速度)を監視させ、この実射出速度が予め設定させた冷却工程移行射出速度Cに到達した時点を射出速度補正終了点としてスクリュの前進を停止させる。この冷却工程移行射出速度Cは、金型キャビティ内の溶融樹脂の冷却固化率が100%に近づいて、スクリュが物理的に前進しなくなった状態のスクリュの前進速度、すなわち、0(ゼロ)を基準にして、冷却固化率が進行した樹脂の弾性や、冷却固化することがないスクリュ直前の貯留部の溶融樹脂の弾性を鑑み、極低速となったスクリュの前進速度(略0:ゼロ)とすることが、金型キャビティ内の溶融樹脂の冷却固化率の点から好適である。
【0043】
一方、金型キャビティ内の溶融樹脂の冷却固化率によらず、金型キャビティへの溶融樹脂の流入口であるゲート部が冷却固化(ゲートシール状態)して、例え、スクリュの前進が継続されても、金型キャビティ内へ溶融樹脂を補充填させることができない状態のスクリュの実前進速度としても良い。この状態のスクリュの前進速度は、予め、金型キャビティ内の溶融樹脂の凝固解析や予備成形等を行うことにより決定させることができる。このように、樹脂成形品の品質と成形サイクルタイムとを鑑み、好適な実射出速度(スクリュの実前進速度)を冷却工程移行射出速度Cとすれば良い。
【0044】
また、直前の射出速度補正点において行われた補正制御により設定された射出速度(スクリュの前進速度)を維持させる速度制御が継続されているため、上記のようなスクリュの前進抵抗の増大により、スクリュの実射出速度を設定された射出速度に制御できない場合、スクリュの前進用駆動源が、サーボモータ等の電動モータの場合、回転トルクを増大させて射出速度が制御され、油圧シリンダの場合は、スクリュを前進させる側の油圧管路の圧力が上昇する。このような状況が発生すると、電動モータの過負荷状態が発生してトリップしたり、油圧管路の安全弁が作動し成形が強制停止されたりする可能性がある。
【0045】
そのため、補正制御下において、新たに設定された射出速度に対して、実射出速度が略同じ値まで減速された後、該実射出速度を該新たな設定射出速度に、予め設定させた所定時間維持できない場合、又は、該実射出速度が該新たな設定射出速度から、予め設定させた所定値以上離間した場合に、前記射出充填工程から冷却工程に移行させても良い。本制御は、先に説明した、スクリュの実射出速度の冷却工程移行射出速度Cへの到達を持って冷却工程に移行させる制御とは別に、あるいは、同制御をより安全に行うために同制御と併用して行われても良い。
【0046】
本願発明に係る、射出成形機の射出充填制御方法は、射出充填工程において射出圧力制御が行われず、終始、射出速度制御が行われる。そのため、このように、スクリュの前進を停止させて冷却工程に移行させるタイミングをスクリュの実前進速度に関連させて定義することにより、同移行タイミングを他の監視項目から間接的に定義させる場合に対して、移行のタイムラグを最小にすることができる。その結果、金型キャビティのゲート部の樹脂や、射出装置の貯留部の溶融樹脂に不要な圧力が作用している時間及び圧力源が消費するエネルギを減少させることができ、また、そのような不要な圧力が作用することによる成形品の成形サイクルタイムや成形品質、更には金型や装置の維持に悪影響も最小にすることができる。
【0047】
更に、本発明に係る、射出成形機の射出充填制御方法は、射出成形機の型締手段がトグル式型締機構である場合に好適である。
【発明の効果】
【0048】
本発明に係る、射出成形機の射出充填制御方法は、射出速度制御が行われる射出工程と、射出圧力制御が行われる保圧工程とからなる射出充填工程において、少なくとも1本のタイバー伸び量が、予め設定した上限値Aに到達する点を射出速度補正点とし、その射出速度補正点において、タイバー伸び量が上限値Aを超えなくなるように射出速度を減速させる補正制御が行われるため、ショートショット及びバリ吹きを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】射出充填工程において、射出装置から射出させた溶融樹脂が金型キャビティ内へ充填される状態を示す概略断面図である。
図2】一般的な射出充填制御方法による、射出装置から射出させた溶融樹脂の、図1に示す金型キャビティ内への充填過程を説明するグラフである。
図3】本発明の実施例1に係る射出充填制御方法による、射出装置から射出させた溶融樹脂の、図1に示す金型キャビティ内への充填過程を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0051】
本発明の実施例1に係る、射出成形機の射出充填制御方法を説明する前に、図1を参照しながら、以後の説明の前提となる金型キャビティと、射出装置から射出させた溶融樹脂が、同金型キャビティ内へ充填される際の樹脂流動とを説明する。また、図1に示す金型キャビティヘ溶融樹脂を射出充填させる、一般的な射出充填制御方法による射出充填工程について、図2を参照しながら説明する。
【0052】
図1は、射出充填工程において、射出装置から射出させた溶融樹脂が金型キャビティ内へ充填される状態を示す概略断面図である。図1(a)が側方断面図で、図1(b)が図1(a)におけるX−X矢視図である。インラインスクリュ式の射出成形機の射出装置10においては、材料供給部から供給される樹脂ペレット等の樹脂材料を、スクリュ12を回転させて、射出装置10の加熱バレル11の内周面とスクリュ12の外周面との間に形成される樹脂流路において連続的に可塑化(溶融)させ、加熱バレル12の先端内部の貯留部13に、1回の射出充填工程に必要な量の可塑化状態の溶融樹脂を貯留させる計量工程が行われる。この計量工程において、貯留部13に貯留される溶融樹脂量の増加に伴い、スクリュ12に後退抵抗力(背圧)を付与させた状態でスクリュ12の後退が許容される。そして、計量工程の完了後、スクリュ12を前進させて、貯留部13の樹脂を、加熱バレル11先端(射出ノズル)を介して型締め状態の固定金型21及び可動金型22間に形成させた金型キャビティ31内に射出充填させる射出工程が行われる。
【0053】
この時、加熱バレル11内のスクリュ12先端のチェックリング12b(樹脂流路開閉切替弁)は、貯留部13の溶融樹脂から受ける圧力により閉塞状態が維持されるため、この閉塞されたチェックリング12bを端とする、加熱バレル11内の貯留部13から金型キャビティ31を含む連続する空間は溶融樹脂で満たされる閉空間となる。図1(a)は、射出充填工程においてスクリュ12の前進により、貯留部13の溶融樹脂が、固定金型21内の樹脂流路を通って、ゲート21a(樹脂流路端の金型キャビティ31側の開口部)を介して、金型キャビティ31内に充填され始めている状態を示している。
【0054】
現実的には、製品形状を模した金型キャビティはある程度複雑な3次元形状である。しかしながら、説明を簡単にするため、金型キャビティ31が5つの部分キャビティから構成されているものとする。まず、ゲート21aと同軸上に、図示しない可動盤側(図1(a)左側)に伸びる中央キャビティ31a(樹脂流動方向と直交する断面積A1/ゲート21a端からの溶融樹脂の流動長さL1:以下同様)と、上方に伸びる上方キャビティ31b(断面積A2/流動長さL1)及び下方に伸びる下方キャビティ31c(断面積A3/流動長さL1)、次に、右側に伸びる右側キャビティ31d(断面積A2/流動長さL2)及び左側に伸びる左側キャビティ31e(断面積A2/流動長さL3)である。図1に示すとおり、断面積及び流動長さの関係は、断面積がA1>A2>A3で、流動長さがL2>L1>L3である。
【0055】
ここで、各部分キャビティへの溶融樹脂の充填抵抗は、ゲート21aと同軸上に伸び、樹脂流動方向と直交する断面積が一番大きな中央キャビティ31aが最も小さい。これより充填抵抗が大きい部分キャビティが、断面積がA2で、ゲート21aからの樹脂流動が一度直角に方向変更されている、上方キャビティ31b、右側キャビティ31d及び左側キャビティ31eの3つの部分キャビティであり、最も充填抵抗が大きいのは、断面積が最も小さい下方キャビティ31cである。整理すると各部分キャビティへの溶融樹脂の充填抵抗は、下方キャビティ31c>上方キャビティ31b=右側キャビティ31d=左側キャビティ31e>中央キャビティ31aとなる。一方、各部分キャビティの容積は断面積×流動長さであるから、各部分キャビティへ各断面積を満たした理想的な樹脂流動で溶融樹脂が充填されると仮定した場合、各部分キャビティを溶融樹脂で満たすために必要な時間は各部分キャビティの溶融樹脂の流動長さに比例する。従って、各部分キャビティを溶融樹脂で満たすために必要な時間は、時間を要する順に、右側キャビティ31d(L2)>中央キャビティ31a=上方キャビティ31b=下方キャビティ31c(すべてL1)>左側キャビティ31e(L3)となる。
【0056】
このように、ゲート21aを介して金型キャビティ31内に充填された溶融樹脂は、各部分キャビティ内へ流動される際に異なる充填抵抗を受け、各部分キャビティ内が溶融樹脂で満たされるタイミングも異なる。また、充填抵抗が最も低い中央キャビティ31a内が溶融樹脂で満たされるまで、他の部分キャビティへ樹脂が流動されないということはなく、中央キャビティ31a内へ溶融樹脂が流動され始めて、充填抵抗を受け樹脂圧力が少しでも上昇すれば、次に充填抵抗の小さい部分キャビティへの樹脂流動が発生すると共に、樹脂流動の分流により、中央キャビティ31a内へ流動される溶融樹脂量が変化(減少)する。更に、金型の温度調節(金型温調)の差異によって、各部分キャビティ内における溶融樹脂の冷却固化速度分布が不均一であること等を鑑みれば、金型キャビティ31内における溶融樹脂の樹脂流動は非常に複雑であり、先に説明したように、金型キャビティ31内の溶融樹脂の充填率に寄らず、射出充填工程中のあらゆるタイミングで樹脂圧偏差が発生する可能性がある。
【0057】
図2は、一般的な射出充填制御方法による、射出装置10から射出させた溶融樹脂の、図1に示す金型キャビティ31内への充填を説明するグラフである。原点がスクリュの前進開始で、横軸が経過した時間t、縦軸が射出速度(スクリュの前進速度)及び射出圧力(スクリュの前進力)を示す。尚、先に説明したように、閉塞されたチェックリング12bを端とする、加熱バレル11内の貯留部13から金型キャビティ31を含む連続する閉空間内の溶融樹脂の圧力分布は均一ではないため、同閉空間内の特定部位における溶融樹脂の樹脂圧力と、図2のグラフに示す実射出圧力は同じではない。そのため、図2のグラフに示す実射出圧力は、スクリュ12が前進時に受ける抵抗力であると共に、この前進抵抗力と略等しいスクリュ12に付与される前進力であるものとする。
【0058】
理想的なVP切替点(サージ圧力の発生無しで金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた状態)に、スクリュ12が前進を開始してから時間t1後に到達するものとする。時間0(ゼロ)から時間t1の間、スクリュ12の前進速度を設定射出速度V1に維持させる射出速度制御(実線)が行われる。実際のスクリュ12の前進速度(実射出速度)は、射出速度0(ゼロ)から設定射出速度V1に到達するまでの立ち上がり時間が必要であるが、実射出速度の表示は省略している。スクリュ12の前進に伴い、貯留部13の溶融樹脂が金型キャビティ31内に充填され、その充填率の上昇と共に実射出圧力(スクリュ12に付与される実際の前進力=スクリュ12が受ける前進抵抗力)も上昇する。
【0059】
しかしながら、スクリュ12がVP切替点に到達する前であっても金型キャビティ31内に樹脂圧偏差が発生する。例えば、充填抵抗の最も小さい中央キャビティ31aと、次に充填抵抗の小さい上方キャビティ31b、右側キャビティ31d及び左側キャビティ31eへの溶融樹脂の充填が進行する中、充填抵抗の最も小さい中央キャビティ31aもしくは、充填進行中の部分キャビティの中で流動長さの最も小さい左側キャビティ31eの充填が完了した瞬間、溶融樹脂の樹脂流動は充填が完了していない、次に充填抵抗の少ない部分キャビティに集中するため、スクリュ12の受ける前進抵抗力が一時的に急上昇する。そして、その部分キャビティへの樹脂流動が安定すると、スクリュ12の受ける前進抵抗力が低下する。このような充填抵抗の急上昇が点Xのような実射出圧力の部分ピーク値として発生する。
【0060】
また、最も充填抵抗の大きな下方キャビティ31c以外の部分キャビティの充填が完了した瞬間、溶融樹脂の樹脂流動が下方キャビティ31cに集中するため、再び、スクリュ12の受ける前進抵抗力が急上昇し、点Yのような実射出圧力の部分ピーク値として再発生する。点X及び点Yのような実射出圧力の部分ピーク値は、実際に部分ピーク値が発生した部位から閉空間内の溶融樹脂を伝播して、伝播時間分遅れてスクリュ12の前進抵抗力として検出される。そして、この前進抵抗力に抗して設定射出速度(スクリュの前進速度)を維持させるため、少なくともこの前進抵抗力と同じ大きさまでスクリュの前進力が増大される。
【0061】
このような点X及び点Yのような実射出圧力の部分ピーク値が、スクリュの前進抵抗力として検出されたとしても、先に説明した伝播時間(伝播距離)や溶融樹脂の粘弾性のため、実際に発生したピーク値と異なる場合がある。そのような場合で、特に発生したピーク値の方が大きい場合、実際に発生したピーク値が、発生した部位近傍に作用させている型締力を超えるとその部位にバリ吹きが発生してしまう。
【0062】
次に、時間t1においてスクリュ12がVP切替点に到達すると、それまでの射出速度制御が射出圧力制御に切り替えられる。VP切替点においては実射出圧力が最大値P’に到達する。そのため、VP切替点以降の射出圧力制御において、この実射出圧力の最大値P’をこれよりも低い設定射出圧力P1(設定保圧力)まで減圧させなければならない。その結果、スクリュ12の後退動作を許容させたり、積極的に後退させる制御が行われるため、フローマーク等の成形不良を発生させたり、実射出圧力の最大値P’がサージ圧力となり再びバリ吹きが発生したりすることは先に説明したとおりである。尚、説明を容易にするため、VP切替点におけるこのようなスクリュ12の後退動作は図2のグラフには反映していない。
【0063】
VP切替点以降、実射出圧力P’が設定射出圧力P1(設定保圧力)まで減圧された後、この設定射出圧力P1を維持させる射出圧力制御が行われる。金型キャビティ31を満たした溶融樹脂は冷却固化及びこれに伴う体積収縮が進行するが、加熱バレル11の貯留部13の溶融樹脂に付与される設定保圧力P1と、金型キャビティ31内の樹脂の残存する流動性とで、貯留部13の溶融樹脂を金型キャビティ31内へ補充填させる(保圧工程)。既に、金型キャビティ31内を樹脂が略満たしており、スクリュ12は、溶融樹脂の冷却固化収縮速度に準じた低い速度で、冷却固化収縮分を補充填させる容積分しか前進させることはできない。そのため、VP切替点以降の射出圧力制御下における実射出速度(二点鎖線)は、低い速度から漸次減速され時間t2において略0となる。
【0064】
ここで、VP切替点以降の、少なくとも時間t1から時間t2の間は、設定射出圧力(保圧力)が付与されたスクリュ12の前進が継続されるため、金型キャビティ31内に溶融樹脂が補充填され、補充填された溶融樹脂を介して保圧力が金型キャビティ31内の冷却固化進行中の溶融樹脂全体に伝播される。そのため、図2中に図示はしていないが、スクリュ12の前進力としての設定射出圧力(設定保圧力)を維持させる過程で実射出圧力が変動し、金型キャビティ31内に樹脂圧偏差や部分的樹脂流動を生じさせて、VP切替点以前の溶融樹脂の流動性が高い状態に対して可能性は低くなるが、保圧工程においてもバリ吹きが発生する場合がある。
【0065】
また、本来であれば、溶融樹脂の冷却固化収縮も加味した金型キャビティ31内への溶融樹脂の充填は時間t2において完了したと見なせるが、一般的な射出充填制御方法においては、時間t2を越えて時間t3までスクリュ12の前進力を維持させる射出圧力制御を継続させて保圧工程を完了させ、冷却工程に移行させることが多い。そのため、時間t2から時間t3の間に継続されるスクリュ12の前進力維持により、金型キャビティ31のゲート部の樹脂や、加熱バレル11の貯留部13の溶融樹脂に不要な圧力が作用する。この不要な圧力が作用している時間及び圧力源が消費するエネルギは良品の成形や射出成形機の運転には全く寄与しないばかりか、成形品の成形サイクルタイムや成形品質、更には金型や装置の維持に悪影響を及ぼす因子となる。
【0066】
説明の前提となる金型キャビティ31(図1)と、一般的な射出充填制御方法(図2)による、射出装置から射出させた溶融樹脂の、金型キャビティ31ヘの充填過程とを説明した。引き続き、図3を参照しながら、本発明の実施例1に係る、射出成形機の射出充填制御方法を説明する。
【0067】
図3は、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法による、射出装置10から射出させた溶融樹脂の、図1に示す金型キャビティ31内への充填過程を説明するグラフである。図3のグラフの原点、横軸、縦軸及び圧力の前提については図2のグラフと同様である。図3図2との差異は、タイバーの伸張量の変化(実践)と、同変化に関連する上限値A及び速度補正限界値B(共に破線)とが記載されている点である。上限値Aは、先に説明したように、正規の型締力が付与された状態の金型が、金型キャビティ31内の樹脂圧力やその樹脂圧偏差により、その金型合わせ面が全体的あるいは局部的に開いてしまってもバリ吹きが発生しない型開き状態のタイバーの伸張量である。
【0068】
一方、速度補正限界値Bは、これ以上のタイバーの伸張がバリ吹きを発生する限界値である。上限値Aと同様に金型(製品)毎に設定されることが好ましく、更には、樹脂圧偏差による局部的なバリ吹きに対応するためにタイバー毎に設定されることが好ましい。また、射出充填工程中に、1つのタイバーでもその伸張量が速度補正限界値Bに達した場合、警報を発するか、射出充填工程を同成形サイクル完了時で停止させ、次のサイクルを開始させない等の制御を行わせることが好ましい。尚、図3に示すタイバーの伸張量はすべてのタイバーに関する伸張量の変化を代表して記載しており、1本や2本の特定のタイバーの伸張量の変化も反映しているものとする。
【0069】
本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においても、時間0(ゼロ)から、設定射出速度をV1とする射出速度制御(実線)が行われる。ここで、図2のグラフと同じタイミングで樹脂圧偏差が生じ、あるタイバー近傍の金型キャビティ31の部位で点Xのような実射出圧力の部分ピーク値が発生するものとする。また、その結果、この部分ピーク値の発生した金型キャビティ31の部位に局部的な型開き力が発生し、同タイバーの伸張量が上限値Aを超えたものとする。これにより、射出速度補正点H1が認識され、ただちに設定射出速度V1をV2に減速させる補正制御が行われる。この射出速度の減速制御により、同タイバーの伸張量は速度補正限界値Bに到達する前に減少に転じ、実射出圧力(一点鎖線)も一度減少される。このようにして、点Xにおけるバリ吹きが防止されると共に、元の設定射出速度V1から減速されるものの、設定射出速度V2でのスクリュ12の前進が継続され、金型キャビティ31内への溶融樹脂の充填が継続される。
【0070】
次に、設定射出速度V2で射出速度制御が行なわれている間に、図2のグラフと同じタイミングで樹脂圧偏差が生じ、別のタイバー近傍の金型キャビティ31の部位で点Yのような実射出圧力の部分ピーク値が発生し、同タイバーの伸張量が上限値Aを超えたものとする。これにより、次の射出速度補正点H2が新たに認識され、ただちに設定射出速度V2をV3に減速させる補正制御が行われ、同タイバー近傍からのバリ吹きが防止されると共に、設定射出速度V3でのスクリュ12の前進が継続される。
【0071】
このように、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においては、射出速度制御下において、射出速度を減速させる補正制御を行わせるため、特許文献1の成形方法や特許文献2の成形機における射出充填制御方法と異なり、金型キャビティ31が溶融樹脂で満たされる前のショートショット状態においても、当初の設定射出速度から減速させた射出速度で金型キャビティ内への溶融樹脂の充填を継続させることができ、バリ吹きを防止しつつショートショットも防止することができる。
【0072】
そして、減速されたものの、設定射出速度V3でのスクリュ12の前進が継続され、金型キャビティ31内への溶融樹脂の充填率が上昇するにつれ実射出圧力(スクリュ12が前進時にうける抵抗力/一点鎖線)も上昇する。そして、スクリュ12の前進位置が射出充填開始後、時間t1後にVP切替点に到達すると、実射出圧力が最大値P”に到達する。尚、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においては、実際には設定射出速度V1がV3まで減速されているので、図3のグラフにおいて、スクリュ12が理想的なVP切替点に到達するのは、スクリュ12が前進を開始してから時間t1+α後であるが、図2のグラフとの比較を容易にするため、図3においても時間t1後に到達するものとする。また、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法において、VP切替点を設定する必要はない。しかしながら、図2との比較を容易にするため、VP切替点を単に、サージ圧力の発生無しで金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた状態となるスクリュ12の前進位置としてグラフ中に記載しているものとする。
【0073】
当然ながら、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においても、VP切替点において実射出圧力(一点鎖線)が最大値P”(P”<P’)となるため、これ以降、金型キャビティ31内の溶融樹脂にサージ圧力が発生して、局部的あるいは全体的な型開き力が発生し、特定のタイバー、あるいは、複数の場合も含めてすべてのタイバーの伸張量が上限値Aを超える可能性が高い。そのような場合でも、次の射出速度補正点H3が新たに認識され、ただちに設定射出速度V3をV4に減速させる補正制御が行われる。一方、先に説明したように、VP切替点(満杯点)以降は、実射出圧力(実保圧力)が付与されたスクリュ12の前進が継続されるため、金型キャビティ31内に溶融樹脂が補充填され、補充填された溶融樹脂を介して実保圧力が金型キャビティ31内の冷却固化進行中の溶融樹脂全体に伝播される。そのため、金型キャビティ31内に樹脂圧偏差や部分的樹脂流動を生じさせて、局部的な型開き力を発生し易く、その結果、図3中に示すようにタイバーの伸張量が増大し易い。
【0074】
しかしながら、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においては、VP切替点が設定されず、射出速度制御が継続され、タイバーの伸張量が上限値Aを超える度に、新たな射出速度補正点がH3〜H6まで次々と認識され、同点認識の都度、設定射出速度がV4からV7まで減速される。このような射出速度を減速させる補正制御が繰り返されることにより、徐々に減圧されるものの実射出圧力(一点鎖線)の付与が継続されると共に、VP切替点以降も、スクリュ31の前進が継続され、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた(フルショット)状態で、且つ、適切な保圧力(実射出圧力)が付与された状態での射出充填工程が継続される。尚、射出速度0(ゼロ)から設定射出速度V7に到達するまでの実際のスクリュの前進速度(実射出速度)としては、立ち上がり時間や減速時間が必要であるが、設定射出速度V1からV7の減速制御に対応するこれら実射出速度の表示は省略している。
【0075】
このように、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法においては、VP切替点の設定が必須ではなく、射出速度制御から射出圧力制御への切り替えがないため、これら制御切り替えに要する応答時間1が不要である。これにより、一般的な射出充填制御方法や特許文献1の射出成形機の成形方法と異なり、本来、応答時間1の間に増大するはずのサージ圧力を抑制させることができるだけでなく、スクリュの前進が継続されるため、制御切替時のスクリュの後退動作が生じないため、フローマーク等の成形不良を抑制できる。
【0076】
また、VP切替点以降、射出圧力の減圧によりバリ吹きを防止する特許文献1の成形方法や特許文献2の成形機における射出充填制御方法と異なり、射出速度制御が継続されるため、先に説明したような、射出圧力制御に対する射出速度制御の応答性の優位、すなわち、サージ圧力の要因となるスクリュの前進速度や、溶融樹脂の樹脂流動速度による運動エネルギを、射出速度の減速で直接減少させることによる応答時間2の短縮が可能となる。これにより、本来のVP切替点以降の、連続する(射出速度補正点H3からH6)射出速度の減速補正制御において、実射出圧力(実保圧力)の減圧を追従させることが可能となり、本来のVP切替点前後に大きな減圧を必要とせず、スクリュの前進を継続させることができる。このように、VP切替点以降の本来の保圧工程に相当する溶融樹脂の補充填においても、バリ吹きを防止しつつ、適切な実保圧力を付与させた状態で、金型キャビティ内への溶融樹脂の補充填を継続させることができる。
【0077】
更に、本発明の実施例1に係る射出充填制御方法は、射出装置側の射出充填制御のみで、バリ吹きを防止しつつ、金型キャビティ内への溶融樹脂の補充填を継続させることができるため、型締手段でタイバーを伸張させて、金型に型締力を付与させる形態の型締装置であれば、どのような型締装置を有する射出成形機であっても適用することが可能である。具体的には、トグル式型締装置や直圧式型締装置を有する射出成形機に適用することができる。
【0078】
ここで、射出速度補正点における射出速度の減速は、減速前の速度からの減速量や減速率を固定値で設定させても良い。また、タイバーの伸張量が上限値Aを超えた時点のタイバーの伸張率(単位時間当たりのタイバーの伸張量)等により、これら減速前の速度からの減速量や減速率を変えても良い。例えば、タイバーが急激に伸張される射出速度補正点や、ゆっくりと伸張される射出速度補正点に対して、それぞれの補正点におけるタイバーの伸張率に比例させた減速量や減速率が採用されても良い。このような射出速度補正点における射出速度の減速は、金型や成形条件によって、好適な減速量や減速率が異なるため、試験成形や机上での解析等により、上限値Aの値と合わせて好適な減速量や減速率を予め求めておくことが好ましい。
【0079】
射出速度補正点H6で設定射出速度がV6からV7まで減速された後、実射出圧力(一点鎖線)は一度減少された後、スクリュ12の前進に伴いわずかに上昇する。しかしながら、この時点で、金型キャビティ31内、又は、ゲート21a部の冷却固化が進行して、金型キャビティ31内へ溶融樹脂の補充填ができない状態になっているものとする。金型キャビティ31内やゲート21a部の冷却固化された樹脂の弾性や射出装置10の貯留部13の溶融樹脂の弾粘性により、この状態においてもわずかなスクリュ12の前進を許容するが、設定射出速度V7による射出速度制御下であっても、実際のスクリュ12は物理的に前進が困難となり、スクリュ12の実射出速度(スクリュ12の実前進速度/2点鎖線)は時間t2において略0(ゼロ)となる。尚、最後の射出速度補正点H6以降のスクリュ12の挙動を説明するため、射出速度補正点H6以降のみ、スクリュ12の実射出速度を二点鎖線で表示している。
【0080】
このように、溶融樹脂の冷却固化収縮も加味した金型キャビティ31内への溶融樹脂の充填は時間t2において完了したと見なせる。よって、本発明に係る射出充填制御方法においては、射出速度制御下において、実際の射出速度である実射出速度(スクリュの実前進速度)を監視させ、この実射出速度が予め設定させた冷却工程移行射出速度C、例えばこれを速度0(ゼロ)に到達した時点を射出速度補正終了点としてスクリュ12の前進を停止させても良い。これにより、金型キャビティ31のゲート21a部の樹脂や、射出装置10の貯留部13の溶融樹脂に不要な圧力が作用することを防止することができると共に、冷却工程に移行させて、成形品の成形サイクルタイムを短縮させることができる。
【0081】
また、金型キャビティ31内の溶融樹脂の冷却固化率によらず、金型キャビティ31への溶融樹脂の流入口であるゲート21a部が冷却固化(ゲートシール状態)して、例え、スクリュ12の前進が継続されても、金型キャビティ31内へ溶融樹脂を補充填させることができない状態のスクリュ12の実前進速度、例えば、まだ、スクリュ12の前進が継続中である時間t2’におけるスクリュの実前進速度を冷却工程移行射出速度Cとしても良い。
【0082】
更に、先に説明したように、補正制御下において、新たに設定された射出速度に対して、実射出速度が略同じ値まで減速された後、該実射出速度を該新たな設定射出速度に、予め設定させた所定時間維持できない場合、又は、該実射出速度が該新たな設定射出速度から、予め設定させた所定値以上離間した場合に、前記射出充填工程から冷却工程に移行させても良い。
【0083】
実施例1は、本発明に係る射出充填制御方法をわかりやすく説明するための一例であり、本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できることは言うまでもない。例えば、タイバーの伸張量の上限値Aが金型(製品)毎に設定されることが好ましく、更には、局部的なバリ吹きに対応するためにタイバー毎に設定されることが好ましいとしたが、特定の金型(製品)で樹脂圧偏差によりバリ吹きが発生し易い箇所が予め特定できる場合は、タイバーの伸張量の上限値Aを、対象となるタイバーと合わせて特定して、特殊なバリ吹き状況として設定されても良い。
【0084】
また、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされる前の、樹脂圧偏差による局部的な金型の開きと、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた後の樹脂圧力による投影面積全体に伝播する全体的な金型の開きとでは、タイバーの伸張量及び伸張されるタイバーの分布(本数)が異なる。そのため、後者の全体的な金型の開きを試験成形や机上の解析で予め求めておけば、タイバーの伸張量の監視でVP切替点の到達が確認可能である。本発明に係る射出充填制御方法において、VP切替点の設定は必要ないが、このようにして確認可能なVP切替点の前後において、射出速度補正点における射出速度の減速(減速前の速度からの減速量や減速率)を変えても良い。
【0085】
更に、実施例1では、このタイバーの伸張量の上限値Aを、正規の型締力が付与された状態の金型が、その金型合わせ面が全体的あるいは局部的に開いてしまってもバリ吹きが発生しない型開き量に相当するタイバーの伸張量として、また、この上限値Aを一つの値として、これを超えなくなるように射出速度を減速させる補正制御を行わせる形態について説明した。しかしながら、この上限値Aを、正規の型締力が付与された状態の金型が、その金型合わせ面が全体的あるいは局部的に開いてしまってもバリ吹きが発生しない型開き量に相当するタイバーの伸張量まで必ずしも追い込んだ値に設定する必要はない。また、この上限値Aを、射出工程及び保圧工程から成る射出充填工程全体に亘って、1つの値にする必要はない。
【0086】
例えば、形状が複雑な成形品の場合、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされる前の、樹脂圧偏差による局部的な金型の開きが発生し易い反面、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた後の樹脂圧力による投影面積全体に伝播する全体的な金型の開きは、凝固収縮が進行しているため発生し難い。このような場合は、前述した方法等で仮に設定したVP切替点以前の上限値Aを以降の上限値Aよりも小さく設定しても良い。逆に、形状が単純な成形品の場合、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされる前の、樹脂圧偏差による局部的な金型の開きは発生し難いが、金型キャビティ内が溶融樹脂で満たされた直後は、サージ圧力の発生もあり、全体的あるいは局部的な金型の開きが発生し易い。このような場合は、VP切替点前後近傍の上限値Aを、バリ吹きが発生しない型開き量まで追い込んだ値よりも低く設定して、射出速度補正点の発生頻度を意図的に増加させて、射出速度の減速補正の回数を増加させて、より滑らかに実射出圧力及び実射出速度を低下させても良い。
【符号の説明】
【0087】
10 射出装置
12 スクリュ
31 金型キャビティ
図1
図2
図3