(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
バインダとなる樹脂と木質材料とから複数のペレットを成形するコンパウンド工程と、前記複数のペレットから所定形状の成形品を成形する成形工程とを備えた成形品の製造方法において、
前記コンパウンド工程と前記成形工程の間に加熱工程が設けられるとともに、前記加熱工程において、前記複数のペレットを、前記木質材料内の焦げ臭の元となる揮発成分が揮発可能な温度で且つ前記樹脂の融点未満の温度で加熱する成形品の製造方法。
前記コンパウンド工程において、米松、米栂、NZ松、桜、ゴム及び樫からなる群のうちの少なくとも一種の樹種から得られる前記木質材料を使用する請求項1又は2に記載の成形品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでこの種の成形品においては、木質材料に由来する匂いが発生することがあり、特に木質材料を加熱することで生じる不快な匂い(焦げ臭)が問題視されていた。すなわち成形時において木質成分が熱分解し、その反応物が、成形品の使用環境温度(常温〜100℃)で揮発し、この揮発成分が焦げ臭として知覚される。この木質材料由来の不快な匂いは、木質材料中の代表成分であるリグニンの熱分解生成物(特に4-ビニル-2-メトキシフェノール)やヘミセルロースの熱分解生成物(特にフルフラール)等の有機物からなる揮発成分(以下、木質熱分解揮発成分とも呼ぶ)が元で生じるものであり、これら匂いの元となる揮発成分は、ペレットを単に乾燥させる(100℃で加熱する)だけでは十分に除去されないものであった。もっとも問題となる揮発成分の少ない樹種から木質材料を得ることもできるが、そうすると樹種選択の自由度が狭まってしまう。また特許文献2のように香付成分を用いたとしても、不快な匂いに邪魔されてその効果が十分に発揮されなかった。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、木質材料として使用できる樹種選択の自由度をより広げつつ、木質材料由来の不快な匂いをより低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の成形品の製造方法は、バインダとなる樹脂と木質材料とから複数のペレットを成形するコンパウンド工程と、複数のペレットから所定形状の成形品を成形する成形工程とを備える。この種の成形品においては、木質材料として使用できる樹種選択の自由度をより広げつつ、木質材料由来の不快な匂いをより低減できることが望ましい。
【0006】
そこで本発明においては、コンパウンド工程と成形工程の間に加熱工程が設けられるとともに、この加熱工程において、複数のペレットを、木質材料内の焦げ臭の元となる揮発成分が揮発可能な温度で且つ樹脂の融点未満の温度で加熱することとした。本発明では、加熱工程において、複数のペレットを、焦げ臭の元となる揮発成分が揮発可能な温度(例えば100℃よりも高温)で加熱することにより、木質材料由来の不快な匂いの原因となる揮発成分を好適に除去することができる。このとき加熱温度の上限を、樹脂の溶融温度未満に設定することで、各ペレットの形状を極力維持しつつ加熱することができる。
【0007】
第2発明の成形品の製造方法は、第1発明の成形品の製造方法において、成形工程において、複数のペレットと香付成分から成形品を成形する。本発明においては、不快な匂いが低減された成形品に対して香付成分によって良い匂いを付加することができる。
【0008】
第3発明の成形品の製造方法は、第1発明又は第2発明の成形品の製造方法において、コンパウンド工程において、米松、米栂、NZ松、桜、ゴム及び樫からなる群のうちの少なくとも一種の樹種から得られる木質材料を使用する。本発明では、特定の樹種から木質材料を得ることにより、成形品に対して木質材料由来の匂い(不快ではない匂い等)が過度に生じることを好適に回避することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る第1発明によれば、木質材料として使用できる樹種選択の自由度をより広げつつ、木質材料由来の不快な匂いをより低減することができる。さらに第1発明によれば、成形品のVOC性能やフォギング性能をも同時に向上させることが期待できる。また第2発明によれば、木質材料由来の不快な匂いの代わりに良い匂いを成形品に好適に付加することができる。そして第3発明によれば、成形品に対して木質材料由来の匂いが過度に生じることを好適に回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1〜
図3を参照して説明する。本実施例の成形品は、環境への配慮からセルロース系の木質材料が含まれており、車両外装品や車両内装品などの各種用途に用いることができる。この種の構成においては、幅広い樹種から得られた木質材料を使用しながらも、木質材料由来の不快な匂い(焦げ臭)を極力低減しつつ成形品を製造できることが望ましい。そこで本実施例においては、
図1を参照して、後述するコンパウンド工程と加熱工程と成形工程をこの順で行うことにより、木質材料として使用できる樹種選択の自由度をより広げつつ、木質材料由来の不快な匂いを低減することとした。以下、各工程について詳述する。
【0012】
[木質材料]
ここで木質材料は、各種の樹種から得られるセルロース系材料であり、粉体や小片の状態で後述のコンパウンド工程に使用することができる。本実施例においては、後述する加熱工程によって不快な匂いを好適に除去できるため、幅広い樹種(匂いの弱い樹種、匂いの強い樹種、香料として使用できる樹種など)から木質材料を得ることができる。例えば匂いの弱い樹種として、米栂(学名Tsuga Heterophylla)などのマツ科ツガ族、米松などのマツ科トガサワラ族、樫などのブナ科コナラ族を例示できる。なおマツ科ツガ族として、ツガ(トガ)やコメツガも例示できる。また匂いの強い樹種として、ニュージーランド松(NZ松:学名Pinus radiatea)などのマツ科マツ族、杉などのスギ科スギ族、ゴム(パラゴムノキ)などのトウダイグサ科パラゴムノキ族、リンゴなどのバラ科リンゴ族を例示できる。また香料として使用できる樹種として、桜やソメイヨシノなどのバラ科サクラ族、檜などのヒノキ科ヒノキ族を例示できる。なかでも米松、米栂、NZ松、桜、ゴム(パラゴムノキ)及び樫からなる群のうちの少なくとも一種の樹種から得られる木質材料を用いることが好ましく、この種の木質材料は、成形品の状態において匂いの強度が比較的低く万人受けしやすい。さらに米栂や米松は、入手しやすく製造コストの低減に資することから木質材料に用いることが特に好ましい。
【0013】
[樹脂]
バインダとなる樹脂は、隣り合う木質材料同士を結着(バインド)する成分であり、各種の熱可塑性樹脂を用いることができる。この種の熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)、ナイロン(ポリアミド)等のポリエステル樹脂、プロピレン−エチレン共重合体、ポリスチレン樹脂、芳香族ビニル系単量体と低級アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体、テレフタル酸−エチレングリコール−シクロヘキサンジメタノール共重合体、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂を例示することができる。なお熱可塑性樹脂は単独で使用することができ、また2種以上を混合して使用することもできる。
【0014】
[コンパウンド工程]
コンパウンド工程では、
図2のペレット成形装置PMMを用いて、バインダとなる樹脂と木質材料から複数のペレットを成形する。ここで各ペレットの形状や寸法は、成形品の成形材料として使用可能である限り特に限定しない。典型的なペレットの形状として、略円筒状や角柱状などの柱状、略球形状等の粒状を例示でき、本実施例においては略円筒状のペレットを用いることができる。またペレット中の木質材料の含量は、バインダとなる樹脂にて結着されてペレット化可能である限り特に限定しない。典型的な木質材料と樹脂の含量比(重量比)は、2:98〜80:20の範囲であり、10:90〜60:40の範囲に設定することが好ましい。ここで木質材料の含量比が2未満であると、成形品に木質材料を用いる意味がほぼなくなる。また木質材料の含量比を98より大きくすると、樹脂の結着力が極端に低下してペレット化が困難となる。なお各ペレットには、樹脂と木質材料のほかに、各種の添加剤(難燃剤、顔料、フィラーなど)を添加することができる。
【0015】
そしてペレット成形装置PMMは、
図2を参照して、バインダとなる樹脂RNと木質材料WDを含むペレットPTを成形する装置である。本実施例のペレット成形装置PMMは、第一投入部2pと第二投入部4pを支持する基台部3pと、混練部6pと、冷却部8pと、裁断部10pと、回収部12pをこの順で備える。そして第一投入部2pから樹脂RNを投入するとともに、第二投入部4pから木質材料WDを投入して、これら樹脂RNと木質材料WDを混練部6p内に送り込む。つぎに混練部6pにおいて、加熱により樹脂RNを溶融させながら木質材料WDと混練してペレット成形材料(符号省略)としたのち、このペレット成形材料を、混練部6pのノズルから冷却部8pに送出す。このペレット成形材料は、混練部6pのノズルから連続的に送出されて冷却部8pにて冷却されることにより、例えばノズル口の形状に倣った細長い円筒形状の基材(符号省略)となって裁断部10pに送出される。そして裁断部10pにて、円筒形状の基材を順次裁断して短筒状のペレットPTとし、これら複数のペレットPTを回収部12pにて回収する。
【0016】
[加熱工程]
加熱工程では、各ペレットを、木質材料内の焦げ臭の元となる揮発成分が揮発可能な温度で且つ樹脂の融点未満の温度で加熱する。この加熱工程を、コンパウンド工程と成形工程の間に設けることで、焦げ臭の元となる揮発成分(木質熱分解揮発成分)を各ペレットから揮発させて十分に除去することができる。すなわち各ペレットは、成形品に比して細分化されて表面積が広くされているため、速やかに加温されて内部の揮発成分を好適に外部に排出できる。ここで加熱工程は、換気機能を備える各種の加熱装置(図示省略)を用いて行うことができる。そして加熱工程においては、加熱装置内に複数のペレットを敷き詰めた状態(静置した状態)で加熱することができ、また攪拌機構にて各ペレットを攪拌しながら加熱することもできる。
【0017】
そして加熱工程における加熱温度は、焦げ臭の元となる揮発成分が揮発可能な温度(典型的には100℃よりも高温)に設定できる。特に焦げ臭の原因となる木質熱分解揮発成分除去の観点から、加熱温度を120℃以上に設定することが好ましく、140℃以上に設定することがさらに好ましい。そして加熱温度の上限を、樹脂の溶融温度未満に設定することで、各ペレットの形状を極力維持しつつ加熱することができる。また加熱工程における加熱時間は、焦げ臭の元となる揮発成分(木質熱分解揮発成分)が好適に除去できる限り特に限定しないが、典型的には30分以上に設定でき、1時間以上に設定することが好ましい。ここで木質材料中の揮発成分が好適に除去された場合とは、後述する「成形品の臭気試験」において総合判定が(○)又は○と判定される場合のことを意味する。
【0018】
[成形工程]
成形工程では、後述する成形装置MMを用いて、複数のペレットから所定形状の成形品を成形する。ここで成形品の形状は、ボード状や棒状や方形状などの各種形状に設定することができ、使用が想定される車両外装品や車両内装品に応じて適宜設定される。例えば本実施例においては、車両内装品としてのドアトリムに用いることを想定して、
図3に示すボード状の成形品MGを成形することができる(なお
図3では、便宜上、成形品MGに斜線を付けて図示する)。
【0019】
そして成形装置MMは、
図3を参照して、複数のペレットPTから所定形状の成形品MGを成形する装置であり、射出部XMと、成形品MGを成形する金型YMと、型締部ZMとをこの順で備える。ここで射出部XMは、ペレットPTを溶融させて成形材料とする部位であり、モータ2xによって軸周りに回転する円筒状のスクリュー4xと、このスクリュー4xが挿設された円筒状のシリンダ6xと、シリンダ6xに連通するホッパ8xとを有する。シリンダ6xの金型側の端部は円錐状に引締められており、その先端に、後述する金型YMに連通する射出口14xが設けられ、さらにシリンダ6xの射出口14x側には逆流防止弁12xが嵌装されている。またシリンダ6xの外周面にはヒーター10xが配設されており、このヒーター10xにて、シリンダ6x内のペレットPTを加熱して溶融させることができる。また金型YMは、固定型2yと、可動型4yと、キャビティ6yと、タイバー8yを有する。キャビティ6yは、成形品MGの外形形状に倣った成形空間であり、型閉め状態の固定型2yと可動型4yの間に形成されている。また固定型2yと可動型4yは、これらの周囲に配置する棒状のタイバー8yに沿って離間方向に相対移動可能に配置されている。そして固定型2yには、射出部XMから送られた成形材料をキャビティ6y内に射出するスプルー3y(通路)が設けられており、可動型4yには、後述する型締部ZMのエジェクタロッド3zが相対移動可能に挿設されている。また型締部ZMは、金型YMを型閉じ状態とする部位であり、形成後の成形品MGを取外すエジェクタ機構2zと、このエジェクタ機構2zに設けられたエジェクタロッド3zと、固定型2yに対して可動型4yを進退させるクロスヘッド4zが設けられている。
【0020】
そして複数のペレットPTを、ホッパ8xからシリンダ6x内に投入する。これら複数のペレットPTは、シリンダ6x内で溶融されながらスクリュー4xで混練されて成形材料(図示省略)となり、この成形材料が、射出口14xから金型YMのキャビティ6y内に射出されて所定形状の成形品MGに成形される。そして金型YMを型開きしたのち、所定形状に成形された成形品MGを、エジェクタロッド3zを介して金型YMから取出すことができる。
【0021】
[香付成分]
本実施例においては、上述のコンパウンド工程と成形工程の少なくとも一つの工程に香付成分を投入することができる。ここで香付成分とは、各種の良い匂いを発する固体状又は液状の成分であり、動物系又は植物系の天然香料や合成香料を用いることができる。なかでも植物系の香料は、木質材料由来の良い匂いとなじみやすいことから香付成分として用いることが望ましい。この種の植物系の天然香料として、香料として使用できる樹種の粉体や小片、ヒノキオイルやローズオイルなどのエッセンシャルオイルを例示できる。また植物系の合成香料として、ベンズアルデヒド(杏の香り)、βフェニルエチルアルコール(ローズの香り)、アニスアルデヒド(甘い香り)、クマリンなどを例示できる。なお香料として使用できる樹種の粉体や小片を木質材料に使用する場合には、この木質材料そのものが香付成分として作用することとなる。
【0022】
例えば本実施例においては、
図3を参照して、成形工程において、香付成分を、各ペレットPTとともにホッパ8xに投入することにより、複数のペレットPTと香付成分から成形品MGを成形する。このように最終工程にて香付成分を投入することで、香付成分中の匂いの元となる揮発成分の無駄な揮発や劣化が好適に抑えられて、同成分由来の良い匂いを成形品に好適に付与することができる。ここで成形品中の香付成分の含量は、香付成分に由来する匂いを成形品に付与できる限り特に限定しない。例えば木質材料及び樹脂を合わせた重量と香付成分の重量の比を90:10〜99:1の範囲に設定することができる。
【0023】
以上説明したとおり本実施例では、加熱工程において、ペレットの形状を極力維持しつつ、木質材料由来の不快な匂いの原因となる揮発成分を好適に除去することができる。このため本実施例の成形品は、上述のように木質材料由来の不快な匂い(焦げ臭)がほとんどしないことから各種の用途(特に車両内装品)に好適に使用できる。また本実施例では、不快な匂いが低減された成形品に対して香付成分によって良い匂いを付加することができる。そして本実施例では、米松、米栂、NZ松、桜、ゴム及び樫からなる群のうちの少なくとも一種の樹種から木質材料を得ることにより、成形品に対して木質材料由来の匂い(不快ではない匂い)が過度に生じることを好適に回避することができる。このため本実施例によれば、木質材料として使用できる樹種選択の自由度をより広げつつ、木質材料由来の不快な匂いをより低減することができる。さらに本実施例によれば、上述の効果に加えて、VOC性能(揮発性有機化合物の低減効果)やフォギング性能(ガラス曇りの抑止効果)をも同時に向上させることが期待できる。
【0024】
[試験例]
以下、本実施形態を試験例に基づいて説明するが、本発明は試験例に限定されない。そして下記の[表1]に、実施例1〜8の成形品に使用した樹脂と木質材料を示す。また下記の[表2]に、実施例9及び参考例1の成形品に使用した樹脂と木質材料を示す。また下記の[表3]に、実施例1〜9及び参考例1の臭気試験の結果を示し、下記の[表4]に、比較例1〜9の臭気試験の結果を示す。
【0025】
[実施例1]
実施例1では、[表1]を参照して、バインダとなる樹脂としてポリプロピレン(融点165℃、住友化学社製、品番:AZ864)を使用した。また木質材料として杉(TABFB‐WD1)の粉末を使用した。そしてコンパウンド工程において、
図2のペレット成形装置を用いて、90重量部の樹脂と11重量部の木質材料から円筒状の複数のペレット(φ3mm、長さ3mm)を成形した。つぎに加熱装置(ADVANTEC社製、型式DRK633DB)を用いて、敷き詰めた状態の複数のペレットを140℃で1時間加熱した。そして成形工程において、
図3の成形装置を用いて、複数のペレットから平板状の成形品(縦40mm、横60mm、厚さ1.5mm、重量3.6g)を成形した。この平板状の成形品は、例えば車両内装品であるドアトリムに用いることができる。
【0026】
[実施例2〜実施例8]
実施例2〜実施例8では、樹種の異なる木質材料を使用した点以外は実施例1と同一の条件及び手順で成形品を製造した。すなわち[表1]を参照して、実施例2では、木質材料として米松の粉末を使用した。実施例3では、木質材料として米栂の粉末を使用した。実施例4では、木質材料としてNZ松の粉末を使用した。実施例5では、木質材料として桜の粉末を使用した。実施例6では、木質材料としてゴムの粉末を使用した。実施例7では、木質材料としてカシ(樫)の粉末を使用した。実施例8では、木質材料としてリンゴの粉末を使用した。
【0027】
[実施例9、参考例1]
実施例9では、木質材料として桜の粉末を使用した点以外は実施例1と同一の条件及び手順で成形品を製造した。また参考例1では、木質材料を成形工程で投入した点以外は実施例9と同一の条件及び手順で成形品を製造した。
【0028】
[比較例1〜比較例9]
比較例1〜比較例8では、加熱工程を省略した点以外は対応する実施例と同一の条件及び手順で成形品を製造した。すなわち各比較例は、その番号が同一の実施例に対応しており、例えば比較例1は実施例1に対応し、比較例8は実施例8に対応する。そして比較例9では、コンパウンド工程後に複数のペレットを100℃(乾燥条件)で1時間加熱した点以外は対応する実施例1と同一の条件及び手順で成形品を製造した。
【0029】
[成形品の臭気試験]
各実施例、各比較例及び参考例の成形品の臭気強度と快・不快度を、日本建築学会基準「AIJES‐A007‐2010 室内の臭気に関する臭気測定法マニュアル,p.16,2010.9」(社団法人日本建築学会)に基づいて測定した。ここで臭気強度は「においの強さ」を数値化したものであり、数値が多くなるほどにおいが強いことを示す。また快・不快度は、「快・不快の程度」を数値化したものであり、数値が多くなるほど
快の程度が強いことを示す。そして臭気強度と快・不快度を総合的に判断して、車両内装品に好適に使用できると判定した場合に「○」、車両内装品に使用できると判定した場合に「(○)」、車両内装品に使用した場合には問題が生ずると判定した場合に「×」、車両内装品に使用できないと判定した場合に「××」とした。
【0034】
[結果及び考察]
[表4]を参照して、各比較例の成形品は、車両内装品に使用できるものとできないものがあることがわかった。このことから本実施例の加熱工程を省略することで、木質材料として使用できる樹種の選択の自由度が狭まってしまうことがわかった。また比較例9の成形品は、焦げ臭が発生しており、車両内装品に使用できないものであった。このことからコンパウンド工程後に複数のペレットを100℃(乾燥条件)で1時間加熱しただけでは不快な匂いを除去できないことがわかった。
【0035】
そして[表3]を参照して、実施例1〜9の成形品は、いずれも焦げ臭の発生が好適に抑えられており、車両内装品に使用できることがわかった。このことは加熱工程を行うことにより、各木質材料中の焦げ臭の元となる揮発成分(木質熱分解揮発成分)を十分に除去できたためと考えられる。特に実施例2〜実施例7の成形品は臭気強度が比較的低い(いずれも臭気強度2以下である)ことが分かった。このことから米松、米栂、NZ松、桜、ゴム(パラゴムノキ)及び樫からなる群のうちの少なくとも一種の樹種から得られる木質材料を用いることで、匂いの強度が比較的低く万人受けしやすい成形品を得られることがわかった。また実施例9と参考例1においては、[表3]を参照して、香付成分としての桜によって、香付成分に由来する匂いを成形品に好適に付与できることがわかった。特に参考例1から、加熱工程後の成形工程において香付成分を投入することにより、香付成分に由来する匂いを成形品に好適に付与できることが容易に推察された。この結果から各実施例において、加熱工程を行うことにより、木質材料として使用できる樹種選択の自由度をより広げつつ、木質材料由来の不快な匂いを低減できることがわかった。さらに本実施例によれば、上述の効果に加えて、VOC性能やフォギング性能をも同時に向上させることができることが容易に推察された。
【0036】
本実施形態は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施形態では、車両内装品としてドアトリムを例示したが、本実施例の成形品は、インストルメントパネル、ピラーガーニッシュ、コンソール等の各種の車両内装品や車両外装品に使用することができる。