(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6528698
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】車椅子
(51)【国際特許分類】
A61G 3/08 20060101AFI20190531BHJP
A61G 5/08 20060101ALI20190531BHJP
B60R 9/042 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
A61G3/08 701
A61G5/08 702
B60R9/042
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-25834(P2016-25834)
(22)【出願日】2016年2月15日
(65)【公開番号】特開2017-143888(P2017-143888A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 光宏
(72)【発明者】
【氏名】日比 和宏
【審査官】
小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−121738(JP,A)
【文献】
特開2010−068902(JP,A)
【文献】
特開2010−131365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 3/06 −3/08
B60P 3/00
B60R 9/042
A61G 5/08 −5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り上げ装置により吊り上げつつ、座面の幅方向に折り畳まれる車椅子であって、
前記座面の上面側において幅方向両側の座面フレーム間に掛け渡された折り畳みベルトを備え、該折り畳みベルトに前記吊り上げ装置の吊り上げベルトを引き掛けて上方へ引き上げることにより前記幅方向両側の座面フレームを相互に接近させて折り畳み可能とされており、
前記折り畳みベルトの左右端部を、それぞれ車輪を支持する車輪フレームに結合するとともに、前記座面の下面側において当該左右端部に座面幅方向の折り返し部を設け、
該左右の折り返し部を相互に一定距離以上に離間しないように連結した車椅子。
【請求項2】
吊り上げ装置により吊り上げつつ、座面の幅方向に折り畳まれる車椅子であって、
前記座面の上面側において幅方向両側の座面フレーム間に掛け渡された折り畳みベルトを備え、該折り畳みベルトに前記吊り上げ装置の吊り上げベルトを引き掛けて上方へ引き上げることにより前記幅方向両側の座面フレームを相互に接近させて折り畳み可能とされており、
前記折り畳みベルトの左右端部を、それぞれ車輪を支持する車輪フレームに結合するとともに、前記座面の下面側において当該左右端部をそれぞれ補助リングに挿通させて座面幅方向の折り返し部を設けた車椅子。
【請求項3】
請求項2記載の車椅子であって、前記補助リングは、前記折り畳みベルトの右側の端部が挿通される右リング部と、左側の端部が挿通される左リング部と、該両リング部を結合するリングベルトを備えた車椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、座面幅方向に折り畳み可能な車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子の着座者が車両に乗降する際の便宜を図るために、車両には空いた車椅子を路面から吊り上げて例えばルーフ上に格納するための吊り上げ装置を装備したものが提供されている。この吊り上げ装置は運転席に着座した着座者自身が操作して車椅子をルーフ上に格納することができることから、他者の援助を受けることなく車両への乗降を楽に行うことができる。
【0003】
この種の吊り上げ装置若しくは車椅子に関する従来の技術が下記の特許文献に開示されている。特許文献1には、車椅子を路面から吊り上げて車両ルーフ上に格納する際に雨に濡れないようにするための技術が記載されている。特許文献2には、車椅子を吊り上げる際に、当該車椅子に対して折り畳み方向の外力(折り畳み力)を作用させるための折り畳みベルトに関する技術が記載されている。特許文献3には、吊り上げ装置のフックを車椅子側の折り畳みベルトに引き掛ける際の便宜を図るための技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−237238号公報
【特許文献2】特開2010−68902号公報
【特許文献3】特開2010−131365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように車椅子の吊り上げ装置については従来より様々な改良が施されているが、次のような問題を解消する必要があった。この種の車椅子は、吊り上げ装置の吊りベルトを車椅子の折り畳みベルトに引き掛けて上昇させると、折り畳みベルトが上方へ引き上げられることにより左右の座面フレームが上昇しつつ相互に接近する方向に変位して座面幅方向に折り畳まれる構成となっている。このため、特に座面幅の大きな車椅子の場合には、吊りベルトの上方への巻上げ量に比して折り畳みベルトの上方への引き上げ量(弛み)が大きいため、吊りベルトが上昇端まで引き上げられた段階で車椅子のリフト量が不十分で一定の高さまでリフトされない問題が発生する場合があった。
【0006】
吊り上げ装置による車椅子のリフト量が不十分である場合には、例えば一定高さに設置された車輪ホルダに車輪が当接しないため当該車椅子が宙吊り状態となって確実に固定されなくなる問題があった。
【0007】
本発明は、座面幅が大きな車椅子であっても吊り上げ装置によって座面幅方向に折り畳みつつ十分な距離だけ確実にリフトされるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は下記の発明により解決される。第1の発明は、吊り上げ装置により吊り上げつつ、座面の幅方向に折り畳まれる車椅子である。第1の発明では、座面の上面側において幅方向両側の座面フレーム間に掛け渡された折り畳みベルトを備え、この折り畳みベルトに吊り上げ装置の吊り上げベルトを引き掛けて上方へ引き上げることにより幅方向両側の座面フレームを相互に接近させて折り畳み可能な車椅子となっている。第1の発明では、折り畳みベルトの左右端部を、それぞれ車輪を支持する車輪フレームに結合するとともに、座面の下面側において当該左右端部に折り返し部を設けた車椅子となっている。
【0009】
第1の発明によれば、吊り上げ時に車輪に対して上方及び座面幅方向に相対変位しない車輪フレームに折り畳みベルトの端部が結合されている。また、座面の下面側において折り畳みベルトには折り返し部が設けられている。このため、第1の発明によれば、折り畳みベルトの端部は、座面フレームに結合した場合のように、吊り上げ時に当該車椅子が座面幅方向に折り畳まれることによっては上方へ変位しない。しかも、座面の下面側において折り畳みベルトには座面幅方向の折り返し部が設けられている。この折り返し部により当該折り畳みベルトが上方へ引き上げられる際、その引き上げ力が左右の座面フレームを接近させる折り畳み力として作用することから当該車椅子は折り畳みベルトの吊り上げによりスムーズに座面幅方向に折り畳まれる。
【0010】
このように、折り畳みベルトの端部が車輪フレームであって座面幅方向に折り畳まれることによっては上方へ変位しない部位に結合されていることから、当該折り畳みベルトの端部を、当該車椅子の折り畳み時に上方へ変位しつつ相互に接近する座面フレームに結合した場合に比して当該車椅子を十分な距離だけ吊り上げることができる。車椅子が座面幅方向に折り畳まれつつ、十分な距離だけ吊り上げられることにより、例えば当該車椅子の車輪を車室内に設けた車輪ホルダに下方から押し付けて確実に固定することができる。
【0011】
しかも、第1の発明によれば、座面の下面側において折り畳みベルトに座面幅方向の折り返し部を設けたことにより、当該折り畳みベルトの端部が座面フレームに結合されていないことによる不具合(折り畳み力が発生しない、若しくは弱くなる問題)は発生せず、十分な折り畳み力を発生させることができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、座面の下面側において折り畳みベルトの左右端部をそれぞれ補助リングに挿通させて折り返し部を設けた車椅子である。
【0013】
第2の発明によれば、車輪フレームと座面フレームとの間において、折り畳みベルトに座面幅方向の折り返し部が形成される。この折り返し部により座面フレームに対して折り畳み力を作用させることができる。補助リングは、左右共通のリングとする他、左右別のリングである場合は少なくとも一定距離以上に離間しないよう結合した2つのリングを用いることができる。
【0014】
第3の発明は、第2の発明において、補助リングは、折り畳みベルトの右側の端部が挿通される右リング部と、左側の端部が挿通される左リング部と、両リング部を結合するリングベルトを備えた車椅子である。
【0015】
第3の発明によれば、リングベルトにより相互に一定以上離間しない右リング部と左リング部により折り畳みベルトの左右端部に座面幅方向に沿った折り返し部が形成される。左右の折り返し部が相互に離間しないことにより、折り畳みベルトが上方に引き上げられる際の引き上げ力が座面フレームに対する折り畳み力として作用する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の吊り上げ装置の概略の構成を前側から見た図である。
【
図3】折り畳みベルトにフックを引き掛けた状態を前側から見た図である。
【
図4】折り畳みベルトの引き上げ途中の状態を前側から見た図である。
【
図5】上昇端まで吊り上げられた車椅子を前側から見た図である。
【
図6】別形態の補助リングを用いて形成した左右の折り返し部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を
図1〜
図6に基づいて説明する。なお、各図において、前後、左右、上下の各方向については着座者を基準にして表示している。以下説明する本実施形態の車椅子20は、車両Mに備え付けられた吊り上げ装置10により吊り上げられる。この吊り上げ装置10は、着座者が離れて空になった車椅子20を車室外の一定高さに吊り上げて車輪21を車輪ホルダHに下方から押し付けて固定する機能を備えている。
図1及び
図2に示すように吊り上げ装置10は、電動モータを駆動源とする機構部11と、機構部11により巻き上げられる吊り上げベルト12を備えている。吊り上げベルト12の先端には吊り上げフック13が取り付けられている。吊り上げフック13の下部には引き掛け用の爪部13aが設けられている。
【0018】
吊り上げ装置10により吊り上げられる車椅子20は、左右の車輪21と、車輪21を支持する左右の車輪フレーム22と、左右の車輪フレーム22を相互に折り畳み可能に結合するX字形のリンク機構23と、リンク機構23の上部間に掛け渡された座面24と背もたれ部25を備えている。この車椅子20は、リンク機構23を介して左右の車輪フレーム22を相互に接近する方向に変位させることにより、座面幅方向に折り畳むことができる。座面24と背もたれ部25は布製で、本実施形態の場合座面フレームに相当するリンク機構23の上部フレーム間に掛け渡されている。以下、座面24が掛け渡されたリンク機構23の上部フレームを座面フレーム26という。
【0019】
左右の座面フレーム26間には、折り畳みベルト30が掛け渡されている。折り畳みベルト30は、座面24の上面側から下面側へ跨って掛け渡されている。折り畳みベルト30の左右端部は、それぞれ左右の車輪フレーム22の上枠部22aに結合されている。このため、折り畳みベルト30は、左右座面フレーム26を経て座面24の上面側から下面側へ折り返されて左右座面フレーム26に摺接可能に接触しており、左右座面フレーム26に対して結合されていない。
【0020】
座面24の下面側において、折り畳みベルト30の左右端部側には、補助リング31により折り返し部30a,30bが形成されている。折り返し部30a,30bの詳細が
図2に示されている。補助リング31は、右側の右リング部31aと左側の左リング部31bを備えている。右リング部31aと左リング部31bはリングベルト31cで結合されて一定距離以上相互に離間しないようになっている。右リング部31aに折り畳みベルト30の右端部側が挿通されて折り返し部30aが形成され、左リング部31bに折り畳みベルト30の左端部側が挿通されて折り返し部30bが形成されている。
【0021】
左右の折り返し部30a,30bは、座面24の下面側において座面幅方向に沿って形成されている。座面24の下面側において、折り畳みベルト30に座面幅方向の折り返し部30a,30bが形成されており、この左右の折り返し部30a,30bは相互に一定距離以上離間しない右リング部31aと左リング部31bにより形成されている。このため、折り畳みベルト30が吊り上げ装置10により引き上げられると、その引き上げ力が左右の座面フレーム26に対して相互に接近させる方向の外力(折り畳み力F)として作用し、これにより当該車椅子20が座面幅方向に折り畳まれる。
【0022】
吊り上げ装置10により車椅子20を吊り上げる際には、
図3に示すように吊り上げベルト12を下方へ引き出して吊り上げフック13の爪部13aを折り畳みベルト30に引き掛ける。吊り上げフック13を折り畳みベルト30に引き掛けた後、吊り上げ装置10の機構部11を作動させて吊り上げベルト12を巻き上げる。
【0023】
図4に示すように吊り上げベルト12が巻き上げられると、吊り上げフック13に引き掛けた折り畳みベルト30が上方へ引き上げられる。折り畳みベルト30が上方へ引き上げられることにより左右の座面フレーム26に折り畳み力Fが作用して、当該左右の座面フレーム26が上方へ変位しつつ相互に接近する方向に変位し、これにより当該車椅子20が座面幅方向に折り畳まれる。折り畳まれると、座面24は図示するように下方に弛む。
【0024】
こうして折り畳みベルト30の引き上げにより座面幅方向に折り畳まれた後、当該車椅子20の全体が吊り上げられる。
図5に示すように吊り上げベルト12が上昇端まで巻き上げられると、車椅子20が一定高さまでリフトされてその車輪21が、車両Mに設けた車輪ホルダHに下側から当接されて当該車椅子20が固定される。
【0025】
以上のように構成した本実施形態の車椅子20によれば、折り畳みベルト30に吊り上げフック13を引き掛けて吊り上げる段階で、折り畳みベルト30の両端部は車輪21に対して相対的に上方へ変位しない。このため、比較的座面幅が大きく折り畳みベルト30が長い場合であっても、吊り上げベルト12を上昇端まで巻き上げた段階で車椅子20を確実に一定高さまでリフトさせることができ、これにより当該車椅子20を車両Mの車輪ホルダHに確実に当接させて固定することができる。
【0026】
このことから、本実施形態の車椅子20によれば、従来座面幅が大きいために十分なリフト量を確保することができず、その結果車両Mへの固定が困難であった場合についても車輪21を車輪ホルダHに当接させて確実に固定することができるようになる。この点で、本実施形態の車椅子20によれば、吊り上げ装置10の適用範囲を拡大することができ、ひいては車椅子利用者の便宜を図ることができる。
【0027】
また、座面24の下面側において、折り畳みベルト30には左右の折り返し部30a,30bが形成されている。左右の折り返し部30a,30bは、相互に一定以上離間しない右リング部31aと左リング部31bにより形成されている。この折り返し部30a,30bにより、折り畳みベルト30が左右の座面フレーム26に対して上面側から下面側へ回り込むように折り返した状態とすることができ、これにより吊り上げベルト12の吊り上げ力を左右の座面フレーム26に対して相互に接近させる方向の折り畳み力Fとして作用させることができる。このことから、折り畳みベルト30の両端部を座面フレーム26ではなく、車輪フレーム22の上枠部22aに結合したことにより、座面フレーム26に作用させる折り畳み力Fが不十分になるといった問題を回避することができ、この点で当該折り畳みベルト30の本来の機能を確実に発揮させることができる。
【0028】
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。たとえば、補助リング31として右リング部31aと左リング部31bをリングベルト31cで結合した構成を例示したが、これに代えて例えば
図6に示すように補助リング32として一つの矩形のリングに折り畳みベルト30の左右両端部側を挿通させて左右の折り返し部30a,30bを形成する構成としてもよい。
【0029】
また、例示した吊り上げ装置10では、車椅子20を路面から一定高さまで吊り上げてその車輪21を車輪ホルダHに当接させて固定する場合を例示したが、車椅子20を単に路面から車両フロアの高さまでリフトさせる場合にも適用可能であり、さらに吊り上げた後、車椅子20を固定する手段については車輪ホルダHとは別の手段を用いる構成とすることができる。
【0030】
逆に、当該吊り上げ装置10を車室内外間で移動可能に設置することにより、路面上の車椅子を車両フロアの高さまで吊り上げ、その後車室内側に水平移動させて搬入し、車室内においてさらに吊り上げることにより車輪21を車輪ホルダHに当接させて固定する構成とすることができる。
【符号の説明】
【0031】
M…車両
H…車輪ホルダ
10…吊り上げ装置
11…機構部
12…吊り上げベルト
13…吊り上げフック、13a…爪部
20…車椅子
21…車輪
22…車輪フレーム、22a…上枠部
23…リンク機構
24…座面
25…背もたれ部
26…座面フレーム
30…折り畳みベルト
30a,30b…折り返し部
31…補助リング
31a…右リング部、31b…左リング部、31c…リングベルト
32…補助リング