(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電機子たる固定子(2)に囲まれて前記固定子と共に回転電機(3)に備えられ、前記回転電機の回転軸(J)に対する径方向において前記固定子と空隙(d)を介して対向し、前記回転軸に沿って延在するコア(11)及び前記コアに埋め込まれた永久磁石(12)を有する回転子(1)を製造する方法であって、
外周面(10a,10b)を有して中心軸(P)に沿って延在し、前記中心軸に沿って見た一対の端部(13b)が前記外周面に最も近づいて前記中心軸の周りに配列されるスロット(13)の複数が空いた軟磁性体(10)において、前記スロットへ磁石材料(14)を射出して前記軟磁性体を変形させることにより、前記外周面を、隣接する前記スロットの間の前記中心軸に対する周方向の第1の位置(41)よりも前記スロットの前記端部から離れた前記周方向の第2の位置(42)において、前記中心軸から遠ざけて前記コアを得る第1工程と、
前記磁石材料を着磁して前記永久磁石を得る第2工程と
を備え、
前記第1工程により、前記外周面が、中心軸方向の全域にわたり、前記一対の前記端部(13b)同士の間の中央である第3の位置(42c)において、前記中心軸から最も遠ざかる、回転子の製造方法。
電機子たる固定子(2)に囲まれて前記固定子と共に回転電機(3)に備えられ、前記回転電機の回転軸(J)に対する径方向において前記固定子と空隙(d)を介して対向し、前記回転軸に沿って延在するコア(11)及び前記コアに埋め込まれた永久磁石(12)を有する回転子(1)を製造する方法であって、
外周面(10a,10b)を有して中心軸(P)に沿って延在し、前記中心軸に沿って見た一対の端部(13b)が前記外周面に最も近づいて前記中心軸の周りに配列されるスロット(13)の複数が空いた軟磁性体(10)において、前記スロットへ磁石材料(14)を射出して前記軟磁性体を変形させることにより、前記外周面を、隣接する前記スロットの間の前記中心軸に対する周方向の第1の位置(41)よりも前記スロットの前記端部から離れた前記周方向の第2の位置(42)において、前記中心軸から遠ざけて前記コアを得る第1工程と、
前記磁石材料を着磁して前記永久磁石を得る第2工程と
を備え、
前記第1工程により、前記外周面が、中心軸方向の全域にわたり、前記一対の前記端部(13b)同士の間の中央の位置(42c)よりも、前記回転子(1)の回転方向(M)の遅れ側において、前記中心軸から最も遠ざかる、回転子の製造方法。
前記軟磁性体(10)は、前記第1工程によって変形されることにより、その前記端部(13b)から離れて位置する部分の曲率半径が減少する、請求項1または請求項2に記載の回転子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、このようなロータは複数個の珪素鋼板からなることが示されるものの、その具体的な製造方法については黙している。
【0006】
通常、このような珪素鋼板の各々は、長尺状の珪素鋼板から打ち抜きによって得られる。よって通常の手法を用いて特許文献1で開示されたロータを得るためには、花弁型磁極面を有する珪素鋼板を、長尺状の珪素鋼板から打ち抜くことになる。このような打ち抜きは、通常の回転子を作製する場合のように真円の鋼板を打ち抜く場合と比較すると、打ち抜きの対象となる(つまり打ち抜かれる前の長尺状の)珪素鋼板において、回転子の作製に不要な部位が増えることとなる。かかる不要な部位の増加は、回転子を製造するための珪素鋼板にとっては、歩留まりの低さを意味する。
【0007】
よって本願は、空隙における磁束密度を正弦波に近づけてコギングトルクを低減する回転子を得るに際し、そのコアを鋼板の積層として得る場合でも、当該鋼板の打ち抜きにおける歩留まりを高める技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、回転子(1)を製造する方法である。当該方法は、第1工程と第2工程とを備える。
【0009】
前記回転子は、電機子たる固定子(2)に囲まれて前記固定子と共に回転電機(3)に備えられる。前記回転子は前記回転電機の回転軸(J)に対する径方向において前記固定子と空隙(d)を介して対向する。前記回転子は、前記回転軸に沿って延在するコア(11)及び前記コアに埋め込まれた永久磁石(12)を有する。
【0010】
前記第1工程は、軟磁性体(10)を変形させて前記コアを得る。前記軟磁性体は、外周面(10a,10b)を有して中心軸(P)に沿って延在する。前記軟磁性体は、前記中心軸に沿って見た一対の端部(13b)が前記外周面に最も近づいて前記中心軸の周りに配列されるスロット(13)の複数が空く。
【0011】
前記第1工程では、前記スロットへ磁石材料(14)を射出して前記軟磁性体を変形させる。当該変形により、前記外周面を、隣接する前記スロットの間の前記中心軸に対する周方向の第1の位置(41)よりも前記スロットの前記端部から離れた前記周方向の第2の位置(42)において、前記中心軸から遠ざける。
【0012】
前記第2工程は、前記磁石材料を着磁して前記永久磁石を得る。
【0013】
前記第1工程により、前記外周面が、
中心軸方向の全域にわたり、前記一対の前記端部(13b)同士の間の中央である第3の位置(42c)において、前記中心軸から最も遠ざかる。
【0014】
あるいは前記第1工程により、前記外周面が、
中心軸方向の全域にわたり、前記一対の前記端部(13b)同士の間の中央の位置(42c)よりも、前記回転子(1)の回転方向(M)の遅れ側において、前記中心軸から最も遠ざかる。
【0015】
望ましくは、前記軟磁性体(10)は、前記第1工程によって変形されることにより、その前記端部(13b)から離れて位置する部分の曲率半径が減少する。
【0016】
望ましくは、前記第1工程と前記第2工程とは並行して実行される。あるいは望ましくは、前記回転子(1)には、シャフトが填め込まれるシャフト貫通孔(15)が空く。そして前記第1工程では、前記シャフト貫通孔に相当した、前記軟磁性体(10)のシャフト貫通孔(15)において前記軟磁性体が保持される。
【発明の効果】
【0017】
この発明にかかる回転子の製造方法で得られた回転子を、その中心軸を回転電機の回転軸に一致させることにより、回転子と固定子との間の空隙が、磁極において狭く、磁極間において広い回転電機が得られる。当該回転電機では空隙における磁束密度が正弦波に近づくので、コギングトルクを低減することができる。しかも、当該製造方法では、軟磁性体を鋼板の積層として得る場合でも、当該鋼板の打ち抜きにおける歩留まりを高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は回転電機3の構成を示す断面図である。回転電機3は回転子1と固定子2とを備えており、これらは簡略化して示されている。
【0020】
固定子2は電機子であるが、電機子が通常有する電機子巻線、当該電機子巻線が巻回されるティースは省略され、単なる円筒形状として大まかに示されている。
【0021】
回転子1は、回転電機3の回転軸Jに沿って延在するコア11と、永久磁石12とを有する。永久磁石12はコア11に埋め込まれる。コア11の回転軸J近傍には、シャフト(図示省略)が填め込まれるシャフト貫通孔15が空けられる。
【0022】
回転子1は固定子2に囲まれる。より具体的には、回転子1は、回転軸Jに対する径方向において、固定子2と空隙dを介して対向する。
【0023】
後述するように、回転子1の回転軸Jから見た外径は、真円ではない。よって空隙dは回転軸Jに対する周方向において一定ではない。但し
図1では図の繁雑を避けるため、そのような回転子1の外径の変動の詳細は示されていない。よって空隙dの変動の詳細も示されていない。
【0024】
図2は、
図1にかかる回転子1を製造する工程を説明する断面図である。軟磁性体10は、外周面10a(破線で示す)を有して中心軸Pに沿って延在する。例えば外周面10aは中心軸Pに沿って見てほぼ真円を呈する。後に説明する工程により、外周面10aは外周面10bへと変形する。
【0025】
軟磁性体10にはスロット13の複数が空いており、スロット13も中心軸Pに沿って延在する。スロット13は中心軸Pの周りに配列される。中心軸Pから見たスロット13は、その一対の端部13bが外周面10aに最も近づいている。
【0026】
軟磁性体10には中心軸P近傍にシャフト貫通孔15が空いており、これが回転子1のシャフト貫通孔15に相当する。よってこれらのシャフト貫通孔15は同じ符号を用いて示した。
【0027】
磁石材料14がスロット13に射出されることによって、磁石材料14はスロット13の形状に沿って成形される。このような射出成形は特許文献2等で周知であるので、その説明の詳細を省略する。磁石材料14としては例えばボンド磁石の材料を採用することができる。
【0028】
通常、特許文献3,4に示唆されるように、その射出によるロータコアの変形は望ましくないとされてきた。しかし本願では、磁石材料14の射出による軟磁性体10の変形を、肯定的に利用して、回転子1の望ましい形状を得る。
【0029】
具体的には、スロット13に磁石材料14を射出することにより、外周面10aは部分的に径方向外側に突出して外周面10bとなる。
【0030】
より具体的には、位置41,42を導入して以下のように説明される。位置41は、隣接するスロット13の間の、中心軸Pに対する周方向の位置である。位置42は、スロット13の、端部13bから離れた周方向の位置である。スロット13には磁石材料14が射出されるので、後述するように磁石材料14から永久磁石12を得ることにより、位置41は磁極間の位置として、位置42は磁極内の位置として、それぞれ把握することができる。なお、位置42のうち、一対の端部13b同士の間の中央の位置42cも併記した。位置42cは磁極中心として把握できる。
【0031】
外周面10aは、スロット13に磁石材料14を射出することに伴って変形し、外周面10bとなる。外周面10bは、位置41よりも位置42において中心軸Pから遠く離れる。このようにして変形した軟磁性体10はコア11となる。
【0032】
このように部分的に軟磁性体10が変形する理由としては次の二つが考えられる。第1の理由は、位置41においては径方向にスロット13が存在しないことにより、軟磁性体10が変形しにくいことである。第2の理由は、位置42においては径方向にスロット13が存在するので、スロット13の端部13b以外の部分(中央部13a)が磁石材料14の射出によって拡がることである。
【0033】
磁石材料14から永久磁石12を得るためには、周知の着磁技術を採用することができる。例えば磁石材料14をスロット13へ射出する工程と並行して、当該着磁を行う工程を実行してもよい。あるいは射出する工程の後に、着磁を行ってもよい。
【0034】
スロット13への磁石材料14の射出の際、シャフト貫通孔15において軟磁性体10を保持することにより、外周面10aが外周面10bへと変形することは妨げられない。
【0035】
以上の工程を有する製造方法により、軟磁性体10は変形してコア11となり、磁石材料14は永久磁石12となって、回転子1が作製される。
【0036】
図3は回転子1の形状を拡大して示す断面図である。位置41及びその近傍ではコア11は径方向外側へと膨らんではいないのに対して、位置41から離れるに連れて外周面10bが膨らんでいる。よって端部13bから離れて位置する部分では、(変形後の)外周面10bの曲率半径は、(変形前の)外周面10aの曲率半径よりも減少する。
【0037】
このような中央部13aの広がりをもたらすためには、磁石材料14をスロット13へ射出する際に、その射出量を増大させることが望ましい。しかもそのような射出量の増大は、回転子1に設けられる永久磁石12の体積を増大させ、以て回転子1が発生する磁束量を増大させる観点においても、また望ましい。
【0038】
軟磁性体10の変形を防止するという観点であれば、スロット13への磁石材料14の射出量は控えるべきであろう。これに対して、射出量の増大は、磁石材料14とスロット13との接触面積の増大を招来する。これは磁石材料14と軟磁性体10との密着性、引いては永久磁石12とコア11との密着性が向上するという観点でも、また望ましい。
【0039】
以上の製造方法によって作製された回転子1は、その中心軸Pを、回転軸Jと一致させることにより、回転電機3が得られる。そして外周面10bは磁極部分において膨らみ、磁極間において膨らまないので、磁極部分における空隙dよりも磁極間における空隙dを広くできる。これは特許文献1等でも示されるように、空隙での磁束分布を正弦波状にする観点で望ましい。
【0040】
しかも、軟磁性体10の外周面10aをほぼ真円としても、上述のように膨らんだ外周面10bを得ることができる。よって長尺状の鋼板から打ち抜く際に要求される形状はほぼ真円とすることができ、歩留まりが向上する。
【0041】
なお、外周面10aから外周面10bへの変形は弾性変形であるか、塑性変形であるかを問わない。
【0042】
図1乃至
図3ではスロット13が、中心軸Pあるいは回転軸Jに沿って見て、外周面10a,10bに対して凹となる形状である場合が図示された。但しスロット13は、一対の端部13bを有し、これらがスロット13のうち最も外周面10a,10bに近ければ、図示された以外の形状でもよい。例えば中心軸Pあるいは回転軸Jに沿って見て、スロット13が呈する形状は、外周面10a,10bに対して凸となる形状であってもよい。具体的にはスロット13が呈する形状は、円弧、あるいはV字型、U字型の形状を取り得る。
【0043】
図4は回転子1の他の態様を示す断面図である。回転軸J(
図1参照)に沿って見て、スロット13が外周面10bに対して凸となる形状を呈し、よって永久磁石12も同様の形状を呈する。ここではスロット13及び永久磁石12がV字型を呈する場合が例示される。
【0044】
あるいは中心軸Pあるいは回転軸Jに沿って見て、スロット13が呈する形状は直線状であってもよい。
【0045】
中心軸Pあるいは回転軸Jに沿って見て、スロット13が呈する形状が外周面10a,10bに対して凹となる場合よりも、直線状、あるいは凸となる場合の方が、磁石材料14による変形は顕著に発生しやすい観点で望ましい。
【0046】
図2、
図3,
図4では見かけ上、外周面10bは磁極中心である位置42cにおいて、最も中心軸Pから遠い。当該実施の形態ではそのような形状を必ずしも前提はしないが、外周面10bが位置42cにおいて最も中心軸Pから遠ざかることはトルクリプルや磁束波形の高調波を低減する観点で望ましい。
【0047】
そのような形状において、更に好適な条件が存在する。
図5は回転子1のかかる形状を説明する断面図である。但し外周面10bの形状を把握しやすくするため、軟磁性体10及び外周面10aを併記した。
【0048】
外周面10bは位置42cにおいて最も中心軸Pから遠い。位置42cにおける外周面10bと中心軸Pとの距離は、距離R42として図示されている。外周面10bは位置41において最も中心軸Pに最も近い。位置41における外周面10bと中心軸Pとの距離は、距離R41として図示されている。
【0049】
このような形状を有する回転子1が回転電機3に採用された場合、空隙d(
図1参照)の最大値は位置41において得られる。これは通常、固定子2が有するティース(図示省略)は、その回転子1側の面が真円となる設計がなされているからである。
【0050】
位置41における空隙dの値(これは上述の様に空隙dの最大値である)を値d41とする。今、パラメタとして(R42−R41)/d41を採用する。換言すれば当該パラメタは、位置42cにおける外周面10bと中心軸Pとの間の距離R42と、位置41における外周面10bと中心軸Pとの間の距離R41との差を、空隙dの最大値d41で正規化した値であるといえる。
【0051】
図6は、当該パラメタを百分率で表した値と、9次高調波含有率との関係を示すグラフである。この9次高調波含有率は、
図5を用いて説明された外周面10bを呈する回転子1を用いた回転電機3を駆動したときに、当該回転電機3に流れる電流に対する、当該電流の基本周波数の9次となる周波数成分の割合を百分率で示した値である。但し
図6において9次高調波含有率は線形のスケールを採用した。
【0052】
図6から分かるように、当該パラメタが20%を超えると、9次高調波含有率は急激に低下する。当該低下は、回転電機3に流れる電流の高調波成分が低減されることを意味し、望ましい。よって当該パラメタは20%以上であることが望ましい。
【0053】
なお、当該パラメタが20%未満であっても、外周面10bが位置42cにおいて最も中心軸Pから遠ざからなくても、高調波抑制の観点で効果があることは、特許文献1等で公知の知識に鑑みて明白である。
【0054】
図7及び
図8は、外周面10bの、従って回転子1の、他の好適な形状を示す断面図である。
図7及び
図8において示される符号は、
図2や
図5で示される符号と同じ意義を有している。但し、回転子1の回転方向Mが追記されている。
【0055】
図7及び
図8で示される外周面10bは、いずれも、位置42における外周面10bと中心軸Pとの距離が、位置41における外周面10bと中心軸Pとの距離よりも大きい点で共通している。但し、外周面10bが最も中心軸Pから遠い位置は(磁極中心である)位置42cよりも回転方向Mに対して、
図7では遅れ側に、
図8では進み側に、それぞれずれている。
【0056】
図7に示される場合では、回転電機3の鉄損が低減される利点が得られる。これは回転子1の回転方向Mに対して遅れる側で空隙dが小さくなり、以て磁束密度分布の均一化が顕著となるからである。そしてかかる均一化は磁束密度の最大値の影響を受ける鉄損の低下を招来するからである。
【0057】
図8に示される場合では、回転電機3のトルクが向上する利点が得られる。これは、回転電機3のトルクは主として回転方向M側で発生し、トルクは空隙dが小さいほど増大するからである。