特許第6528902号(P6528902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン・エィ・ダブリュ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6528902-シャフト 図000002
  • 特許6528902-シャフト 図000003
  • 特許6528902-シャフト 図000004
  • 特許6528902-シャフト 図000005
  • 特許6528902-シャフト 図000006
  • 特許6528902-シャフト 図000007
  • 特許6528902-シャフト 図000008
  • 特許6528902-シャフト 図000009
  • 特許6528902-シャフト 図000010
  • 特許6528902-シャフト 図000011
  • 特許6528902-シャフト 図000012
  • 特許6528902-シャフト 図000013
  • 特許6528902-シャフト 図000014
  • 特許6528902-シャフト 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6528902
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】シャフト
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/00 20060101AFI20190531BHJP
【FI】
   F16C3/00
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-509041(P2018-509041)
(86)(22)【出願日】2017年3月17日
(86)【国際出願番号】JP2017010874
(87)【国際公開番号】WO2017169892
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2018年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-68066(P2016-68066)
(32)【優先日】2016年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 篤
(72)【発明者】
【氏名】前野 克弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼林 直生
(72)【発明者】
【氏名】喜多 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】田島 清志
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 敏也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 匡平
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/018149(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0245008(US,A1)
【文献】 特開2010−203514(JP,A)
【文献】 特開2010−106896(JP,A)
【文献】 特開昭62−142044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00− 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力により回転するシャフトであって、
内部から径方向外側へ延在して外周面で開口する孔を有し、
前記孔の開口は、前記シャフトの径方向から見たときに、第1曲率と、該第1曲率よりも小さい第2曲率とを含む外形形状であり、
前記孔は、前記シャフトの径方向において、開口端から径方向内側に向かって所定長さまで前記外形形状を維持したまま延在している外側孔部と、前記外側孔部よりも孔径が小さい筒状の内側孔部と、前記外側孔部から前記内側孔部に向かって縮径される縮径部とを有し、前記シャフトの径方向外側から該シャフトの内側に向かって前記外側孔部,前記縮径部,前記内側孔部の順に並ぶように形成される、
シャフト。
【請求項2】
請求項1記載のシャフトであって、
前記外側孔部の内周面は、前記シャフトの軸線方向に対して当該シャフトのねじり側に45度傾いた方向に前記第2曲率の面が形成され、前記シャフトの軸線方向に前記第1曲率の面が形成される、
シャフト。
【請求項3】
請求項1記載のシャフトであって、
前記外側孔部の内周面は、前記シャフトの軸線方向に対して+45度傾いた方向と−45度傾いた方向とに前記第2曲率の面が形成される、
シャフト。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載のシャフトであって、
前記外側孔部は、開口端から径方向内側に向かって前記シャフトの軸線に対して垂直に所定長さまで前記外形形状を維持したまま延在している、
シャフト。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載のシャフトであって、
前記縮径部の内周面は、前記孔の延在方向に対して凹状に湾曲した凹曲面により形成される、
シャフト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において開示する本開示の発明は、シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシャフトとしては、自動変速機に使用され、内部から径方向に延びて外周面で開口する潤滑孔を有するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシャフトは、当該シャフトの軸方向に対して45度オフセットした方向に沿った長穴状の潤滑孔を有する。潤滑孔は、シャフトの径方向において、内径側で略円形とされ、内径側から外径側に向かうにつれて穴が長穴状に広がるようにテーパ(面取り形状)によって形成される。これにより、トルクの伝達に伴うシャフトのねじりに対して応力集中を低減させ、耐久性を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8187133号
【発明の概要】
【0004】
従来におけるシャフトは、円形の潤滑孔に比してシャフトのねじりに対して応力集中を低減させる効果が認められるものの、孔の面取り形状によっては、応力集中を十分に低減させることができない可能性があり、なお改善の余地がある。
【0005】
本開示の発明は、内部から径方向外側に延びて外周面で開口する孔を有するシャフトのねじりに対する強度をより高めることを主目的とする。
【0006】
本開示の発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示のシャフトは、外力により回転するシャフトであって、内部から径方向外側へ延在して外周面で開口する孔を有し、前記孔の開口は、前記シャフトの径方向から見たときに、第1曲率と、該第1曲率よりも小さい第2曲率とを含む外形形状であり、前記孔は、前記シャフトの径方向において、開口端から径方向内側に向かって所定長さまで前記外形形状を維持したまま延在している外側孔部と、前記外側孔部よりも孔径が小さい筒状の内側孔部と、前記外側孔部から前記内側孔部に向かって縮径される縮径部とを有し、前記シャフトの径方向外側から該シャフトの内側に向かって前記外側孔部,前記縮径部,前記内側孔部の順に並ぶように形成されることを要旨とするものである。
【0008】
この本開示のシャフトでは、内部から径方向外側に延在して外周面で開口する孔を有するものにおいて、孔の開口は、シャフトの径方向から見たときに、第1曲率と、第1曲率よりも小さい第2曲率とを含む外形形状とされる。そして、孔は、シャフトの径方向において、開口端から径方向内側に向かって所定長さまで外形形状を維持したまま延在している外側孔部と、外側孔部よりも孔径が小さい筒状の内側孔部と、外側孔部から内側孔部に向かって縮径される縮径部とを有し、シャフトの径方向外側からその内側に向かって外側孔部,縮径部,内側孔部の順に並ぶように形成される。これにより、シャフトにねじり方向の力が加わったときに孔の開口部(外側孔部)の内周面のうち引張応力が作用する面を、第1曲率よりも小さい第2曲率の面で形成するものとすれば、当該第2曲率の面によって引張応力を分散させることが可能となり、応力集中を回避することができる。また、開口部(外側孔部)と内側孔部との間を縮径部(曲面)によって滑らかに繋ぐことで、開口部(外側孔部)と内側孔部との間の応力集中も回避することができる。この結果、シャフトのねじりに対する強度をより高めることができる。ここで、第2曲率は、曲面(曲線)の他、曲率ゼロ、即ち平面(直線)も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るシャフト20の外観を示す外観図である。
図2図1のシャフト20のA−A断面を示す断面図である。
図3図1のシャフト20のB領域を拡大して示す部分拡大図である。
図4図1のシャフト20のC−C断面を示す断面図である。
図5】油孔24の開口部241および拡径部243の形状を示す説明図である。
図6A】油孔24の形成工程の一例を示す説明図である。
図6B】油孔24の形成工程の一例を示す説明図である。
図6C】油孔24の形成工程の一例を示す説明図である。
図6D】油孔24の形成工程の一例を示す説明図である。
図7A】シャフト20に回転トルクが入力される様子を示す説明図である。
図7B】シャフト20に回転トルクが入力される様子を示す説明図である。
図8A】本実施形態のシャフトの油孔において軸線に対して45度の傾きをなす面を作用面とするミーゼス応力の分布を示すグラフである。
図8B】比較例のシャフトの油孔において軸線に対して45度の傾きをなす面を作用面とするミーゼス応力の分布を示すグラフである。
図9】他の実施形態に係るシャフト20Bを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。なお、図面や本文中におけるCrやφ等の記載は、記号として用いているものであり、実際の曲率や半径等を示すものではない。
【0011】
図1は本実施形態に係るシャフト20の外観を示す外観図であり、図2図1のシャフト20のA−A断面を示す断面図であり、図3図1のシャフト20のB領域を拡大して示す部分拡大図であり、図4図1のシャフト20のC−C断面を示す断面図であり、図5は油孔24の開口部241および拡径部243の形状を示す説明図である。
【0012】
本実施形態のシャフト20は、例えば、車両に搭載されるエンジンやモータなどの動力源からの動力を変速して駆動輪に連結された車軸に伝達する変速機用のシャフトとして用いられる。変速機用のシャフトとしては、例えば、動力源からの動力が入力されるインプットシャフトや、インプットシャフトからの動力が伝達される各種シャフト(インターミディエイトシャフトなど)、変速機が備える遊星歯車のプラネタリキャリヤに支持されるピニオンシャフトなどを挙げることができる。
【0013】
シャフト20は、鋼製のシャフトであり、その内部に軸方向に延びる油路22と、油路22から径方向外側に延びて外周面で開口する油孔24,26とが形成されている。シャフト20は、例えば、潤滑・冷却用の作動油を油孔26から導入し、油路22を経て油孔24から吐出する。
【0014】
油孔24の開口部(外側孔部)241は、図3に示すように、周方向に大小異なる曲率をもつ非円形の内周面を有する。即ち、開口部241の内周面は、シャフト20の軸線方向および軸線に対して直交方向の4箇所にそれぞれ第1曲率Cr1の第1曲面241aを有すると共に、シャフト20の軸線に対して45度方向の4箇所にそれぞれ第1曲率Cr1よりも小さい第2曲率Cr2の第2曲面241bを有する。周方向に隣接する第1曲面241aと第2曲面241bとは、滑らかに繋がれている。すなわち、第1曲面241aで発生するせん断応力の大きさと、第2曲面241bで発生する圧縮応力ならびに引張応力の大きさが同等の大きさとなる寸法にするため、第2曲面241bの円弧部分の長さを最大限確保しつつ、隣り合う第2曲面241bと第2曲面241bとの間を第1曲面241aで滑らかにつなぐことで、開口部241の内周面が形成される。
【0015】
油孔24の内部(内側孔部)242は、開口部241(外側孔部)の内径(短辺の内径)よりも小さな内径をもつ円形の内周面を有し、開口部241と内部242との間には、図4に示すように、内部242から開口部241に向かって曲率Cr3で円弧状に拡径される拡径部243(開口部241から内部242に向かう方向に対しては円弧状に縮径される縮径部)が形成されている。開口部241と内部242とは、拡径部243によって滑らかに繋がれている。拡径部243は、図4に示すように、内部242の内周面から開口部241の内周面へ向かうにつれて、拡径の変化率が小さくなるように凹状に湾曲する凹曲面により形成されている。これにより、拡径部243に応力が集中しないようにすることができる。また、この場合、拡径部243と内部242との境界部は、形状が不連続となるから、当該部位での応力の集中を回避するために、滑らかに繋がるアール(R)が付与されている。
【0016】
図6A図6B図6C図6Dは、油孔24の形成工程の一例を示す説明図である。油孔24の形成は以下のようにして行なわれる。まず、ドリル等によりシャフト20の軸心を通って径方向に貫通させる孔開け加工を行なう(図6A参照)。次に、孔開け加工により形成された孔の開口面積をプレスや切削等により拡大させて開口部241および拡径部243を形成する座ぐり加工を行なう(図6B参照)。上述したように、拡径部243を凹曲面としたから、プレス等により拡径部243を容易に形成することができる。また、拡径部243において拡径の変化率が最も大きくなる部位は、内部242と拡径部243との境界部となり、拡径部243の内周面から内部242の内周面に向かって山状に変化するため、その後のR付与加工も容易に行なうことができる。そして、形成された拡径部243と内部242との境界に対してプレスや切削などにより滑らかなアール(R)を付与するR付与加工を行ない(図6C参照)、上述の座ぐり加工およびR付与加工を孔の反対側にも施して(図6D参照)、完成する。なお、こうしてシャフト20に油孔24を含む全ての油路22、油孔26が形成されると、シャフト20に熱処理を施し、その後、外周面を研磨する。このように、油孔24の形成は、熱処理の前、即ちシャフト20を硬化させる前に実行される。これにより、上述した座ぐり加工やR付与加工を容易に且つ高い精度で実行することができる。
【0017】
いま、シャフト20に回転トルクが付与された場合を考える。この場合、シャフト20の軸線に対し、油孔24における横断面および縦断面に沿って、せん断応力が作用している。油孔の開口部において、せん断応力が発生する面に対して45度の傾きをなす面では、引張および圧縮の応力を生じ、圧縮・引張応力の値はともにシャフト半径におけるせん断応力の値に等しいものとなる。また、引張応力が最大となる面に対して90度の傾きをなす面には、圧縮応力が作用する。本実施形態のシャフト20では、孔24の内周面として、回転トルクが付与されたときに、せん断応力が作用する面を、比較的大きい第1曲率Cr1の第1曲面241aで形成し、圧縮応力または引張応力が作用する面を、比較的小さい第2曲率Cr2の第2曲面241bにより形成する。これにより、シャフト20のねじりに対して油孔24の内周面に作用する引張応力を第2曲面241bで分散させることができるため、シャフト20のねじりに対する強度を高めることができる。
【0018】
図8に、シャフトの油孔において軸線に対して45度の傾きをなす面を作用面とするミーゼス応力の分布を示すグラフである。図8Aは、本実施形態の油孔24における分布を示し、図8Bは、比較例の油孔における分布を示す。なお、比較例では、油孔の開口部に、面取り角度が45度で且つ周方向に曲率一定(円形)の面取り(テーパ面)を施したものを用いるものとした。なお、図8の例では、油孔の延伸方向に垂直で且つシャフトの軸線を通る面で分割された分割シャフトを用い、当該分割シャフトの一端を固定すると共に他端に500Nmの回転トルクを正逆両方向に付与し、油孔の作用面においてシャフト表面(外周面)から径方向内側へ向かう距離ごとに発生応力を計測することによりシミュレーションを行なった。図示するように、本実施形態における、油孔24の作用面におけるミーゼス応力の最大値をσ1とし、比較例における、油孔の作用面におけるミーゼス応力の最大値をσ2とすると、σ1の値がσ2の値よりも小さくなった。このように、本実施形態の油孔24を有するシャフト20では、比較例の油孔を有するシャフトに比して、ねじりに対する応力が適切に分散され、高い強度が確保されていることが確認された。特に、比較例のシャフトの油孔において、ミーゼス応力が最大値σ2を示すのは、面取りの根元部分であり、面取り(テーパ面)を拡径部243(曲面)に置き換えることで、シャフト20のねじりに対して高い強度を得ることができる。
【0019】
ここで、例えば、自動変速機のインプットシャフトにクラッチを介して接続されたエンジンと、インプットシャフトに接続されたモータとを備え、シャフト20がインプットシャフトやインターミディエイトシャフトとして構成された車両を考える。この車両において、シャフト20のねじりの方向は、車両駆動時(加速時)にエンジンやモータから駆動トルクを出力する場合と車両制動時(減速時)にモータから制動トルク(回生トルク)を出力する場合とで逆向きとなる。本実施形態のシャフト20では、油孔24の開口部241は、図7A図7Bに示すように、シャフト20の軸線方向に対して駆動トルクによるねじり側に45度(図7A中、+45度)傾いた方向と制動トルクによるねじり側に45度(図7B中、−45度)傾いた方向との両側で、上記第1曲率Cr1よりも小さい第2曲率Cr2の第2曲面241bにより形成される。したがって、車両駆動時にエンジンやモータから比較的大きな駆動トルクが出力される場合に、当該駆動トルクによるシャフト20のねじりに対して高い強度(耐久性)を確保することができると共に、車両制動時にモータから比較的大きな制動トルク(回生トルク)が出力される場合にも、当該制動トルクによるシャフト20のねじりに対して高い強度(耐久性)を確保することができる。
【0020】
以上説明した本実施形態のシャフト20によれば、内部から径方向外側に延びる油孔24の開口部241に、周方向で大小異なる曲率に変化する非円形の内周面を形成するものとし、開口部241の内周面として、シャフト20の軸線方向の面およびシャフト20の軸線に対して直交方向の面、即ち回転トルクが付与されたときにせん断応力が作用する面を比較的大きい第1曲率Cr1の第1曲面241aで形成し、シャフト20の軸線に対して45度方向の面、即ち回転トルクが付与されたときに圧縮応力または引張応力が作用する面を第1曲率Cr1よりも小さい第2曲率Cr2の第2曲面241bで形成する。これにより、シャフト20のねじりに伴って、油孔24の開口部241の内周面に作用する引張応力を効果的に分散させることができ、シャフト20の強度を高めることができる。しかも、開口部(外側孔部)241と内部(内側孔部)242との間は、拡径部243(縮径部)によって滑らかに繋がれるから、開口部241と内部242との間の応力集中も回避することができ、シャフト20の強度をより高めることができる。したがって、油孔の開口部に円形の面取りが施された従来のシャフトに比して、より大きな回転トルクの伝達に対応することができ、同じ大きさの回転トルクであれば、従来のシャフトに比して外径をより小さくすることができる。
【0021】
上述した実施形態では、油孔24の開口部241に、大小異なる2つの曲率(第1曲率Cr1,第2曲率Cr2)をもつ内周面(第1曲面241a,第2曲面241b)を形成するものとしたが、3つ以上の曲率をもつ内周面を形成するものとしてもよい。例えば、シャフトを、エンジンやモータからの動力を変速して車軸に伝達する変速機用のシャフトとして用いる場合、曲率が小さい方から順に曲率A、曲率B、曲率Cとすると、油孔の内周面として、シャフトの軸線方向に対して駆動トルク(エンジントルクやモータトルク)によるねじり側に45度(+45度)傾いた方向の面を曲率Aの曲面(又は平面)により形成し、シャフトの軸線方向に対して制動トルク(エンジンブレーキやモータ回生トルク)によるねじり側に45度(−45度)傾いた方向の面を曲率Bの曲面により形成し、曲率Aの曲面と曲率Bの曲面とを曲率Cの曲面によって滑らかに繋ぐものとすることができる。
【0022】
上述した実施形態では、油孔24の開口部241に、シャフト20の軸線に対して45度方向の面を第1曲率Cr1よりも小さい第2曲率Cr2の第2曲面241bによって形成するものとしたが、図9の他の実施形態のシャフト20Bに示すように、第2曲率Cr2として曲率ゼロの面、すなわち平面241cによって形成するものとしてもよい。この場合、第1曲面241aを、平面241cと周方向で滑らかに繋がるように形成するものとすればよい。
【0023】
上述した実施形態では、シャフト20の軸線に対して全ての45度方向を含む範囲(図3における4箇所)が第2曲面241bまたは平面241cにより形成されるものとしたが、シャフト20の軸線に対して45度方向を含む一の範囲と、当該一の範囲に対向する45度方向を含む範囲の2箇所(図7Aにおける範囲と図7Bにおける範囲の一方のみ)が第2曲面241bまたは平面241cにより形成されるものとしてもよい。
【0024】
上述した実施形態では、拡径部243を、内部242の内周面から開口部241の内周面に向かうにつれて、拡径の変化率が小さくなるように凹状に湾曲する凹曲面により形成するものとしたが、これに限定されるものではなく、内部242の内周面から開口部241の内周面に向かうにつれて、拡径の変化率が大きくなるように凸状に湾曲する凸曲面により形成するものとしてもよく、これによっても、当該拡径部での応力集中を回避することができる。この場合、拡径部と開口部241との境界部は、形状が不連続となるから、当該部位での応力の集中を回避するために、滑らかに繋がるアール(R)が付与されてもよい。
【0025】
以上説明したように、本開示のシャフトは、外力により回転するシャフト(20)であって、内部から径方向外側へ延在して外周面で開口する孔(24)を有し、前記孔(24)の開口は、前記シャフトの径方向から見たときに、第1曲率(Cr1)と、該第1曲率(Cr1)よりも小さい第2曲率(Cr2)とを含む外形形状であり、前記孔は、前記シャフトの径方向において、開口端から径方向内側に向かって所定長さまで前記外形形状を維持したまま延在している外側孔部(241)と、前記外側孔部(241)よりも孔径が小さい筒状の内側孔部(242)と、前記外側孔部(241)から前記内側孔部(242)に向かって縮径される縮径部(243)とを有し、前記シャフト(20)の径方向外側から該シャフト(20)の内側に向かって前記外側孔部(241),前記縮径部(243),前記内側孔部(242)の順に並ぶように形成されることを要旨とするものである。
【0026】
この本開示のシャフトでは、内部から径方向外側に延在して外周面で開口する孔を有するものにおいて、孔の開口は、シャフトの径方向から見たときに、第1曲率と、第1曲率よりも小さい第2曲率とを含む外形形状とされる。そして、孔は、シャフトの径方向において、開口端から径方向内側に向かって所定長さまで外形形状を維持したまま延在している外側孔部と、外側孔部よりも孔径が小さい筒状の内側孔部と、外側孔部から内側孔部に向かって縮径される縮径部とを有し、シャフトの径方向外側からその内側に向かって外側孔部,縮径部,内側孔部の順に並ぶように形成される。これにより、シャフトにねじり方向の力が加わったときに孔の開口部(外側孔部)の内周面のうち引張応力が作用する面を、第1曲率よりも小さい第2曲率の面で形成するものとすれば、当該第2曲率の面によって引張応力を分散させることが可能となり、応力集中を回避することができる。また、開口部(外側孔部)と内側孔部との間を縮径部(曲面)によって滑らかに繋ぐことで、開口部(外側孔部)と内側孔部との間の応力集中も回避することができる。この結果、シャフトのねじりに対する強度をより高めることができる。ここで、第2曲率は、曲面(曲線)の他、曲率ゼロ、即ち平面(直線)も含まれる。
【0027】
こうした本開示のシャフトにおいて、前記外側孔部(241)の内周面は、前記シャフト(20)の軸線方向に対して当該シャフト(20)のねじり側に45度傾いた方向に前記第2曲率の面が形成され、前記シャフト(20)の軸線方向に前記第1曲率の面が形成されるものとしてもよい。こうすれば、シャフトのねじりに対して引張応力が最大となる面が第2曲率の面で形成されるため、応力をより確実に分散させることができる。
【0028】
或いは、本開示のシャフトにおいて、前記外側孔部(241)の内周面は、前記シャフトの軸線方向に対して+45度傾いた方向と−45度傾いた方向とに前記第2曲率の面が形成されるものとしてもよい。こうすれば、シャフトのねじりが正逆両方向で発生する場合でも、応力をより確実に分散させることができる。
【0029】
また、本開示のシャフトにおいて、前記外側孔部(241)は、開口端から径方向内側に向かって前記シャフト(20)の軸線に対して垂直に所定長さまで前記外形形状を維持したまま延在しているものとしてもよい。なお、シャフトの軸線に対して垂直とは、厳密な意味での垂直のみならず、孔をプレス抜き加工で形成する場合において発生するダレや必要な抜き勾配程度の傾斜は許容される。
【0030】
さらに、本開示のシャフトにおいて、前記縮径部(243)の内周面は、前記孔の延在方向に対して凹状に湾曲した凹曲面により形成されるものとしてもよい。こうすれば、孔の内部における油の潤滑・供給性能を従来の油孔と同等程度に保持したまま、孔の外側孔部(開口部)と内側孔部(内部)との間の異径部分に、応力が集中するのを抑制することができ、シャフトの強度をさらに高めることができる。また、縮径部の内周面を凹曲面としたから、プレス加工等により縮径部を容易に形成することができる
【0031】
以上、本開示の発明の実施の形態について説明したが、本開示の発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本開示の発明は、シャフトの製造産業に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図8A
図8B
図9