【実施例1】
【0021】
以下、本発明の一実施例について説明する。
図1(a)は吸引導子1を利用者に取り付ける側から見たときの様子を示した吸引導子の外観の斜視図、
図1(b)はその正面図、
図1(c)は
図1(b)におけるA−A断面を示した断面図である。
また、
図2(a)は吸引導子1の導電部2に取り付ける部品である吸水体13の外観の斜視図、
図2(b)は吸引導子1の導電部2に取り付ける部品である電極板12の外観の斜視図、
図2(c)は外郭部5と内郭部6を設けた部品であるカップ11の外観の斜視図である。また、
図3は、吸引導子1が動作した際の様子を、
図1(c)の断面図を基に図示した説明図である。
図10は、電気治療器の外観図とブロック図である。本体部31は、吸引導子1の吸着力の発生元である吸引ポンプ38と吸引導子1を事前に温めておくための加熱・保温手段32(ホットプレートなど)を備える。
【0022】
本実施例の吸引導子1は、
図1(a)に示すように、導電部2、吸引部3、外郭部5、内郭部6と、カップ11と吸水体13と電極板12を有する電導部2で構成される。
各々材質は、その用途目的で異なるが、吸引導子1は、複数回の使用を前提に、洗浄メンテナンスしながら使用するものであることから、原則、耐久性や特性寿命が長期に保てる材質を選択する。
【0023】
カップ11は、吸引導子1の体表面への吸着力を直接的に左右する。体表面への吸着時に、吸引ポンプ38による吸引力によって変形するが、この変形からの復元力をもって体表面への吸着力を発揮する。このため、カップ11の材料は、可撓性を有し、その特性が長期に保たれ塑性変形し難い高分子材料、特にシリコーン材やこれに相当する特性を有する高分子材料が好ましい。また、カップ11の硬度も体表面への貼り付き性能(吸着力および体表面への沿いやすさなど)に影響するため、本実施例では、貼り付き性能や汎用性を考慮して、硬度HS(ショアA)30°〜60°で設計した。一方、カップ硬さは、治療後に利用者に生じる瘢痕の強さにも影響するため注意が必要である。本実施例では吸着部に緩衝構造を採用するが、瘢痕の影響を抑えるために、カップの全部、もしくは一部を硬度HS(ショアA)30°以下で設計することも有り得る。
また、治療用途、治療部位によっては、最適な形状やサイズがあり、吸引力とバランスの取れた数種類のカップ11を事前に設計し用意しておいてもよい。
【0024】
吸引部3は、外郭部5の内壁と内郭部6の外壁とで構成される。ここで、吸引部3は、吸引の大きさや取り付け方によって部分的に閉塞しないように、円錐台状に形成させている。
具体的には、
図1(c)に示すように、内郭部6をなす壁はほぼ鉛直に設け、外郭部5の内壁に角度θを設けている。ここで、角度θを大きくし過ぎると、電気治療に必要な導電部2に係るB面の面積に比べて実際の体表面に貼り付けるA面の面積が大きくなり過ぎ、特に多数個の吸引導子1を使用する治療の際、相互に吸引導子1が邪魔をして所望する治療ポイントに貼り付ける事が困難となる場合がある。また、大きな面積の吸引導子を貼り付けるほど、体表面の曲面に吸引導子1の全体が追随し難くなり、吸引力の大きさによっては、吸引導子1の脱落につながる可能性がある。
【0025】
一方、A面のφoutから生じる面積をそのままにして、B面のφinから生じる導電部2の面積を小さくすることも考えられるが、B面の面積を小さくすれば、治療電流に対して電流密度が上昇するため、電流を付与する部位に皮膚損傷や熱傷を生じさせる可能性が生じる。当該皮膚損傷が酷い場合は、皮膚下の深部組織まで及ぶ場合があり、回復するまでに長時間を要するため注意が必要である。
【0026】
図9は、横軸を治療電流、縦軸を電流密度とし、B面の直径φinから生じる面積毎に治療電流に対する電流密度をプロットしたものである。電流密度は、治療電流の値を導電部2の面積(B面の面積)で割った値であり、B面の面積と反比例の関係にある。ここで、前述した皮膚損傷、熱傷を生じさせないためには、電流密度は2.0mA/cm2程度に抑えるのが好ましい。
【0027】
電気刺激療法では、その治療効果として、血行促進、血流増加などにより体温が上昇し発汗することもあり、発汗が促進されることで、導電部2と体表面の電気的接触状態が局所的に予想外に良好となり、治療電流が予想外に増加することもある。このため、発汗が促進されたとしても、導電部2と体表面の電気的接触状態を支障のない範囲で安定に保つためには、体表面の皮膚を十分に湿らせると共に、導電部2に設けた吸水体13も十分に水分を含ませておき、発汗が生じても体表面の電気接触状態が支障ない程度に安定させる必要がある。
【0028】
また、電流密度は、体表面に貼り付く性能にも影響を受け、貼り付きが弱い結果、導電部2の一部しか体表面に貼り付いていなければ、B面の面積は減り電流密度が上昇することとなる。そのため、体表面に貼り付く性能に影響を受ける吸引力は重要な要素である。
また、吸引導子1を体表面に貼り付ける際の初動の吸い付きの良さや、利用者の体動などにより瞬間的なリークが発生した際に吸引導子1が即座に体表面の動きに応答する追随性能は、吸引ポンプ38の排気流量による。本実施例では、5L/minとした。
また、吸引ポンプ38は、吸引圧によって排気流量が変化し、この特性値はポンプ固有の特性グラフで示される。この特性をVA値=(吸引圧〔kPa〕×排気流量〔L/min〕)を用いて検討すると、吸引部3を用いて吸引する際に使用する可能性のある全範囲を考慮すると、VA値が最低でも100以上であることが支障のなく吸引するためには必要である。一方、吸引圧が高すぎると、体表面に瘢痕が残るなど支障が生じ、且つ、吸引導子1の脱着などの取扱いが困難になる。これらバランスを考慮すると、VA値=1000が上限と考えられる。
【0029】
このような吸引力を有するポンプ38を使用した場合、本実施例では、角度θは45°以下が適当であり、
図1(c)の実施例では、角度θは10°とした。
電極板12は、本体31に接続された吸引導子コードと吸引導子1を電気的に接続させるものである。また、本実施例では、パイプ穴22を使って空気回路的に接続するための導出パイプ22を一部に有する。また、電極板12は水分を含んだ吸水体13と長時間接触するため、水と接触しても物性が変化し難い材料、例えばSUS材等を用いている。また、接続部に設ける導出パイプは電気接点となることから、燐青銅や黄銅等を用い、さらにメッキしたものを利用するのも良い。ここで、導出パイプ22は、カップ11を貫通させるように設けている。また、溶接又はカシメ等で、電極板12と電気的に接合させている。φdは電極板12を円形に設けた際の直径を指す。φdは
図1(b)で示すφinよりも小さい値に設け、
図2(c)に示すカップ11内で極力動かないように内郭部5の内壁等で一定程度支えられるように寸法調整している。
また、電極板12の肉厚は可撓性を持たせるためt1以下の薄板を用いるのが好ましい。
図2(b)に示す実施例では、電極板12の肉厚はt0.1としている。薄板を用いているため、そのエッジ部がシリコーン材等で作成されたカップ11に触れるとカップ11を傷つける可能性がある。そのため、カップの材料次第では、電極板12が触れる部分の肉厚を、多少、部分的に厚くする必要も生じ得る。
【0030】
なお、導出パイプ22を用いず、吸引導子コード33に内包された導通線を、直接、吸引導子1に半田等で直付けする事も可能である。但し、その場合には、吸引導子1と吸引導子コード33は一体となるため、吸引導子1をメンテナンス交換や治療目的により変更する際は、吸引導子コード33も含めて交換しなければならず、多少の経済的な負担を強いる場合がある。
【0031】
カップ11は、
図2に示すように、電極板12の導出パイプ22を挿通できるように、貫通穴を設けている。貫通穴は、カップ11の吸引部3を跨いだ状態で導出パイプ22を挿通できるようになっている。吸引部3とパイプ横穴21が重なるように構成する。当該構成により、導電部2では空気の流路はなく、吸引部3にのみに空気流路を形成する。また、導出パイプ22のパイプ先端は、溶接やロウ付け、栓などで封止している。
当該構成により、ポンプ38の吸引圧がカップ11の吸引部3に伝達され、吸引導子1に吸着力を発生させることができる。また、導電部2の内部は、吸引部3に影響されることなく、その空気を滞留したままに保つことができる。
【0032】
また、吸水体13は、導電性の液体(水分等)を多く含むよう吸水・保水性の高い材質で構成する。また、直接、利用者の体表面に触れるため、生体適合性を適えた材質を選択するのが良い。本実施例では、パルプを使用したセルロース素材、ビスコース素材、または、コットンなど安価な素材を使用した不繊布等、これらに相当する材料を使用している。
【0033】
また、吸引導子1を動作させるために、電気治療器に接続する必要がある。吸引導子1は、吸引導子コード33によって電気治療器31に電気回路的および空気回路的に接続される。また、
図10(b)のブロック図に示すとおり、少なくとも低周波出力制御部36、制御部37、吸引ポンプ38、加熱・保温手段32であるホットプレートを有している。加熱・保温手段32は、本体の上部に設ける必要はなく、本体の中腹や専用台に設けても良い。
ここで、吸引導子1は、吸引接続部34、導電接続部35を通じて本体31に接続される。
【0034】
本体31に接続された吸引導子1は、吸引ポンプ38によって吸引接続部34に接続された吸引導子コード33を通じて、吸引部3が利用者の体表面を陰圧となり、吸着され、利用者の体表面Mに取り付けられる。
また、低周波出力制御部36によって発生させられた信号は、導電接続部35に接続された吸引導子コード33を通じて吸引導子1の導電部2に送られ、導電部2では電極板12を通じて水分Wを含んだ吸水体13に送られ、最終的に、利用者の体表面Mに導通が確保される。
【0035】
また、
図3は、利用者の体表面Mに吸引導子1を取り付けた際の様子を記したものである。吸引導子1の外郭部5を利用者の体表面Mに沿うように軽く押し付けると、カップ11内側に設けた複数のスリットを基点として変形しながら利用者の体表面Mに吸着する。
図1(c)に示すように、外郭部5のA面が体表面に沿うように接触した直後に、吸着によるカップ11の変形がはじまる。カップ11は先述のとおりスリットを基点にして、先ずは外郭部5から、おおよそ垂直方向に圧縮されるような形で変形する。内郭部6内には吸引力は発生しないが、この変形により、吸引部3の体積が減少していくと、内郭部6の下面が体表面に接触する。さらに変形が進むと、内郭部6の下面もさらに体表面に押し付けられるため、導電部2に内包する電極板12が吸水体13と密着するため、体表面Mと電気治療器の治療出力制御部36との電気的導通が確保される。
【0036】
吸引導子1が吸着する際、先述の吸着メカニズムから、外郭部5の下面のA面と内郭部6の下面のB面の位置をおよそ同じ位置に設けてしまうと、加工上のバラツキによって、また体表面の部位によっては、B面が体表面に先に触れてしまい、上手く吸引されない場合が生じる。このため、A面よりB面を寸法taだけ内側に設ける必要がある。また、B面がA面より下側に出ないように、内郭の内部に設けられる吸水体の厚みを考慮する必要がある。本実施例ではtoutを16mm、tinを12mm、よってtaを4mmに設定し、吸水体の厚みを6mmで設計した。
【0037】
これに反し、導電部2が先に体表面に当たってしまうと、導電部2内にある吸水体13、電極板12、カップ11の反力により外郭部5が浮き上がる可能性がある。この場合、吸引回路にリークが生じ、吸引導子1は体表面より脱落もしくは半着する。完全に脱落する場合は治療電流の導通がなくなるが、半着の場合は局部的に電流密度が高くなることもあり危険である。
本実施例のように、toutをtinより大きくすることで、吸引導子1の脱落の可能性を減らすことができる。
【0038】
肩口など球面を有する部位や、手首などの小さい曲率を有する部分、顔面など凹凸に富んだ部分などを、全て包含して吸着対応するのは困難であるため、これら複雑な部位は吸引導子1のサイズを小さくしたものや例えば体表面に沿った特別な形状の吸引導子1で個別的に対応することも可能である。一般的に電気治療において使用される治療ポイントは、臀部、腰部、肩甲骨、背部(肩甲骨周り)が多く、略平面と考えられるような箇所であれば、加工精度も勘案して、寸法taをおよそ1mm以上に設けておけばよい。
【0039】
その他、一般的に使用される治療ポイントとして、脹脛、大腿部等も挙げられるが、模式的に表現すると、当該部位は筒状を形成し一方向が略直線状でこれに直交する面が曲面を有する形状となる。
本実施例の吸引導子1を前記のような筒状部位の体表面に貼り付けるにあたり、
図1(b)の左右から指で掴むように吸引導子1を楕円状に変形させながら体表面に貼り付けると効果的である。このとき、A面、B面は、
図1(b)では、楕円形に見えるが、導出パイプ22側から見ると湾曲したカーブを描くため、体表面に貼り付ける際に筒状の部位に沿う形状になる。従って、特別な形状を設けなくても、筒状部位、つまり、脹脛、大腿部等の曲面を有する体表面に貼り付けることが可能となる。また、電極板12の形状を、円形にせず両サイドをカットすることで、
図1(b)の左右から掴む際に、より変形が容易になる。
【0040】
また、外郭部5と内郭部6の内側にスリットa7、スリットb8を設けたことにより、吸着時の変形をより可能としているが、スリットの深さは、外郭部5、内郭部6の肉厚に対しおよそ半分程度の肉厚になるように設ければ良い。
また、蛇腹状に潰れるようにするには、材料の硬度も影響するが、外郭部5、内郭部6の肉厚によってもその動作具合が異なるが、その肉厚はt=1.0〜2.0mmにすると、その動作が円滑となる。また、内郭部6については、吸引部3による吸引時に、吸水体13が吸引空気の影響を受けないようにカバーされる長さや厚みとする。また、外郭部5と比べて強度はさほど必要としていないため、内郭部6の肉厚はt=0.5〜1.5mmで収めておき、外郭部5の肉厚よりも薄くしておく。当該構成により、外郭部5は、内郭部6に邪魔されず、吸引動作により、体表面に貼り付くことができる。
また、従来の蛇腹構造のもの(
図13参照)では、外形は大きくなり、カップの重量も不要に増し、吸引導子の吸着力がカップの重量に負けてしまい、導子が脱落するなど諸問題が発生し易くなる。本実施例では、外郭部や内郭部に、スリットを設けることによって、吸着時の変形を容易としつつ、外形を小さく、且つ、重量を減らすことを可能としている。
【0041】
本実施例では、外郭部5と内郭部6を設け、吸引部3と導電部2を分離し、内郭部6の内側に滞留する空気は、ポンプ38が稼動し吸引動作が開始しても積極的に吸引されることはなく、滞留したままに保たれ、吸引導子1が急速に空冷されることはなくなる。したがって、加熱・保温手段32に置くことにより温められた吸引導子1を加熱・保温手段32から取り出し利用者の体表面に貼り付けるまでの間に急速に冷めてしまうことはなく、冷感を緩和した吸引導子1を用いて電気治療を行うことができる。
一般的に、電気治療に使用される吸引導子1は、水を含んだ吸水体13を使用していることが多く、冬場などはその水が冷えてしまうと吸引導子自体が非常に冷たくなることから、その冷感緩和機能としての効果は大きい。
【0042】
図8(b1)〜(b5)はその様子をサーモメータで温度別の画像として測定し、その経過時間毎に画像を、(b1)〜(b5)の順で並べたものである。また、
図8(a)は一定の測定ポイント(ここでは導子の中心)を決めてその部分の温度を、従来の吸引導子(B:従来吸引導子)と本実施例の吸引導子1(A:本願吸引導子)の双方でプロットしたものである。
測定方法は、当該A、B両方の吸引導子を加熱・保温手段32上に置き、十分温まるまで長時間置いた後、加熱・保温手段32から取り出し、常温の卓上に置き、ポンプ38を稼動させた直後からその温度変化を捉えたものである。当該データを見ると、ポンプ38を稼動させて、吸引導子に吸引力が発生した直後からBの従来吸引導子は秒を追うごとに急速に冷めていくことが判る。
図8(b1)〜(b5)の図中で白の四角がサーモメータの表示画面である。この白の四角の内側では温度が試験環境温度の23℃のときが表示面と同じ白で表示され、環境温度23℃からの温度差が大きくなるにつれて、グレーが濃くなる。図中でもっとも濃い色は温度差が±7℃、つまり高温で30℃、低温は17℃を表す。
図8(b1)は加熱・保温手段32より常温の卓上に移動させ、吸引ポンプを動作させて、吸引を開始した直後のサーモメータの表示である。ここから2秒、4秒、8秒、17秒経過した同様の表示が
図8(b2)、(b3)、(b4)、(b5)となる。本願実施例の吸引導子であるAは殆ど冷めることはなく初期の濃いグレー、つまり約30℃を保っている。
一方、従来の吸引導子Bでは(b3)の時点でほぼ環境温度まで冷却が進み、(b5)の時点では約17℃まで冷めている。また、外周から内側に向けて急速に冷めていく様子が確認できる。本結果から判るように、従来の吸引導子では、吸水体13とカップ11の間に生じた空間を吸引する空気によって当該吸水体13が空冷され、吸引導子の全体が急冷されている。この結果から、本実施例の吸引導子と、従来の吸引導子の保温効果の差は歴然である。
また、吸引導子を体表面に取り付けると、うっ血による瘢痕等が生じ、治療後もその瘢痕が長時間肌に残ってしまうことがあるが、本実施例の吸引導子1を用いれば、保温効果が高いため、うっ血による瘢痕を減少させる効果も期待できる。