(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6529063
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】PONシステム、OLTおよび伝送方法
(51)【国際特許分類】
H04L 7/00 20060101AFI20190531BHJP
H04L 12/44 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
H04L7/00 990
H04L12/44 200
H04L12/44 Z
H04L7/00 830
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-256642(P2014-256642)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-119521(P2016-119521A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】大石 将之
(72)【発明者】
【氏名】猪原 涼
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓仁
【審査官】
谷岡 佳彦
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0286560(US,A1)
【文献】
国際公開第2012/108387(WO,A1)
【文献】
特開2009−055494(JP,A)
【文献】
特開2006−177708(JP,A)
【文献】
特開2009−049591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/00
H04L 12/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
OLTの配下に、光分岐器を介して複数のONUが接続され、光ファイバ伝送を実現するPON(Passive Optical Network)システムであって、
GPS(Global Positioning System)信号を受信するGPS信号受信装置から、少なくとも時刻情報を取得し、取得した時刻情報を前記OLTへそれぞれ出力する第1および第2のマスタONUと、
前記第1のマスタONUから出力され前記OLTで折り返された時刻情報、または第2のマスタONUから出力され前記OLTで補正された時刻情報を取得して、同期を確立させる少なくとも一つのスレイブONUと、
前記光分岐器を介して、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUと接続し、前記第1および第2のマスタONUから出力された時刻情報をそれぞれ取得し、前記第1のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信する一方、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1のマスタONUからの距離と前記第2のマスタONUからの距離との差に起因するRTT差分に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信するOLTと、を備えることを特徴とするPONシステム。
【請求項2】
前記OLTは、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得している状態では、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を破棄することを特徴とする請求項1記載のPONシステム。
【請求項3】
光ファイバ伝送を実現するPON(Passive Optical Network)システムに適用されるOLT(Optical Line Terminal)であって、
光分岐器を介して接続される配下の第1および第2のマスタONUから、GPS(Global Positioning System)信号に基づく時刻情報をそれぞれ受信する受信部と、
前記第1のマスタONUから受信した時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに光分岐器を介して接続される少なくとも一つの配下のスレイブONUにマルチキャスト配信する一方、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1のマスタONUからの距離と前記第2のマスタONUからの距離との差に起因するRTT差分に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信する送信部と、を備えることを特徴とするOLT。
【請求項4】
前記受信部は、前記第1のマスタONUから時刻情報を受信している状態では、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を破棄することを特徴とする請求項3記載のOLT。
【請求項5】
OLTの配下に、光分岐器を介して複数のONUが接続され、光ファイバ伝送を実現するPON(Passive Optical Network)システムの伝送方法であって、
第1のマスタONUおよび第2のマスタONUが、GPS(Global Positioning System)信号を受信するGPS信号受信装置から、少なくとも時刻情報を取得し、取得した時刻情報を前記OLTへそれぞれ出力するステップと、
少なくとも一つのスレイブONUが、前記第1のマスタONUから出力され前記OLTで折り返された時刻情報、または第2のマスタONUから出力され前記OLTで補正された時刻情報を取得して、同期を確立させるステップと、
前記光分岐器を介して、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUと接続するOLTが、前記第1および第2のマスタONUから出力された時刻情報をそれぞれ取得し、前記第1のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信するステップと、
前記OLTが、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1のマスタONUからの距離と前記第2のマスタONUからの距離との差に起因するRTT差分に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする伝送方法。
【請求項6】
前記OLTが、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得している状態では、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を破棄するステップを更に含むことを特徴とする請求項5記載の伝送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ伝送を実現するPON(Passive Optical Network)システム、OLT(Optical Line Terminal)および伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動通信網が提供する無線アクセスネットワークの高速化に伴って、基地局装置がカバーする領域(セル)が狭くなり、その結果、移動通信網を構成するために設置すべき基地局装置数が増大している。このため、複数の基地局装置を収容するためのネットワークとして、1本の光伝送路を複数の加入者で共有する受動光網(PON:Passive Optical Network)システムが検討されている。
【0003】
PONシステムでは、通信事業者の局に設置された1つの光伝送路終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が光分岐器を介して複数の加入者側宅内端末(ONU:Optical Network Unit)と接続されている。OLTは、複数のONU、例えば、64台のONUに対して時分割多重方式により動的に上り帯域を割り当てることで、高い帯域の利用効率を実現している。
【0004】
PONシステムにおいて、複数の基地局装置を収容する場合、基地局装置間の周波数および時刻同期が必須となる。従来は、基準時刻情報を受信するために各基地局装置にGPS(Global Positioning System)アンテナを設置することが一般的であった。しかし、基地局装置における設置環境等の制約により、GPSアンテナが設置できない場合があった。このため、例えば、非特許文献1および2では、上位ネットワーク機器から下位ネットワーク機器へ周波数および時刻情報を配信し、ネットワーク全体の周波数および時刻を同期する技術が開示されている。また、非特許文献3および特許文献1では、
図6に示すように、OLTにGPSアンテナを設置し、当該GPSアンテナで受信した周波数および時刻情報を、光アクセス分配網を介して各ONUに配信する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−040870号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】IEEE Std 1588-2008, “IEEE Standard for a Precision Clock Synchronization Protocol for Network Measurement and Control Systems, ”2008.
【非特許文献2】K. Hann, “Synchronous Ethernet to Transport Frequency and Phase/Time,” IEEE Communication Magazine, vol.50, no.8, pp.152-160, August 2012.
【非特許文献3】田代 隆義ほか,“モバイルバックホール適用に向けた周波数・時刻同期機能対応10G-EPONシステム,”信学論(B), vol.J96-B, no.3, pp.321-329, March 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1および2に記載されている技術では、上位および下位ネットワーク機器を、周波数および時刻同期専用の機器に全て置換しなければならない。例えば、IEEE1588により、時刻情報を、OLTからIPネットワークを経由して各ONUに提供するためには、IPネットワーク側の機器が、すべてIEEE1588に対応していなければならない。このため、IPネットワーク側に1台でもIEEE1588に対応していない機器があった場合、クロック信号を各ONUに提供することができない。
【0008】
また、非特許文献3および特許文献1に記載されている技術では、OLTが設置されている局舎にGPS信号を伝送するための同軸ケーブルや、GPS信号を受信するための受信装置を設置しなければならないが、局舎の機器設置スペースが制約されている場合には適用困難である。
【0009】
さらに、ONU側でGPS信号を取得し、GPS信号に基づく時刻情報をOLTに提供し、OLTから各ONUに時刻情報を配信するループバック方式を採用する際、GPS信号を送信するONUの故障等によって、GPS信号に基づく時刻情報をOLTに送信できなくなった場合、システムの配下の各基地局装置は、相互に時刻同期することができなくなってしまう。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ONU側で取得したGPS信号の時刻情報をOLTに提供し、その時刻情報を、OLTを介して各ONUに配信するというループバック方式を実現すると共に、GPS信号の時刻情報を提供するONUが故障した場合であっても、継続して時刻同期を行なうことが可能であるPONシステム、OLTおよび伝送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明のPONシステムは、光ファイバ伝送を実現するPON(Passive Optical Network)システムであって、GPS(Global Positioning System)信号を受信するGPS信号受信装置から、少なくとも時刻情報を取得し、取得した時刻情報をそれぞれ出力する第1および第2のマスタONUと、前記第1または第2のマスタONUから出力された時刻情報を取得して、同期を確立させる少なくとも一つのスレイブONUと、光分岐器を介して、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUと接続し、前記第1および第2のマスタONUから出力された時刻情報をそれぞれ取得し、前記第1のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信する一方、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1のマスタONUからの距離と前記第2のマスタONUからの距離との差に起因する往復伝搬遅延時間に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信するOLTと、を備えることを特徴とする。
【0012】
このように、第1のマスタONUおよび第2のマスタONUを設けるため、第1のマスタONUが故障等によりGPS信号に基づく時刻情報の提供ができなくなったとしても、第2のマスタONUからGPS信号に基づく時刻情報の提供をすることができる。これにより、配下の基地局装置間の時刻同期を継続させ、システムの信頼性を高めることが可能となる。また、第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合、第2のマスタONUから取得した時刻情報を、第1のマスタONUからの距離と第2のマスタONUからの距離との差に起因する往復伝搬遅延時間に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つのスレイブONUにマルチキャスト配信する。これにより、第1のマスタONUからの時刻情報が受信できなくなったとしても、あたかも第1のマスタONUから継続して時刻情報が提供されているように、配下の基地局装置間の時刻同期を図ることが可能となる。
【0013】
(2)また、本発明のPONシステムにおいて、前記OLTは、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得している状態では、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を破棄することを特徴とする。
【0014】
このように、OLTは、第1のマスタONUから時刻情報を取得している状態では、第2のマスタONUから取得した時刻情報を破棄するので、処理負荷を増やすことが無くなる。一方、第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、瞬間的に、それまで受信していた第2のマスタONUから取得し、補正した時刻情報をマルチキャスト配信するため、継続的に配下の基地局装置間の時刻同期を図ることが可能となる。
【0015】
(3)また、本発明のOLTは、光ファイバ伝送を実現するPON(Passive Optical Network)システムに適用されるOLT(Optical Line Terminal)であって、光分岐器を介して接続される配下の第1および第2のマスタONUから、GPS(Global Positioning System)信号に基づく時刻情報をそれぞれ受信する受信部と、前記第1のマスタONUから受信した時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに光分岐器を介して接続される少なくとも一つの配下のスレイブONUにマルチキャスト配信する一方、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1のマスタONUからの距離と前記第2のマスタONUからの距離との差に起因する往復伝搬遅延時間に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信する送信部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
このように、第1のマスタONUおよび第2のマスタONUを設けるため、第1のマスタONUが故障等によりGPS信号に基づく時刻情報の提供ができなくなったとしても、第2のマスタONUからGPS信号に基づく時刻情報を取得することが可能となる。これにより、配下の基地局装置間の時刻同期を継続させ、システムの信頼性を高めることが可能となる。また、第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合、第2のマスタONUから取得した時刻情報を、第1のマスタONUからの距離と第2のマスタONUからの距離との差に起因する往復伝搬遅延時間に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つのスレイブONUにマルチキャスト配信する。これにより、第1のマスタONUからの時刻情報が受信できなくなったとしても、あたかも第1のマスタONUから継続して時刻情報が提供されているように、配下の基地局装置間の時刻同期を図ることが可能となる。
【0017】
(4)また、本発明のOLTにおいて、前記受信部は、前記第1のマスタONUから時刻情報を受信している状態では、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を破棄することを特徴とする。
【0018】
このように、受信部は、第1のマスタONUから時刻情報を取得している状態では、第2のマスタONUから取得した時刻情報を破棄するので、処理負荷を増やすことが無くなる。一方、第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、瞬間的に、それまで受信していた第2のマスタONUから取得し、補正した時刻情報をマルチキャスト配信するため、継続的に配下の基地局装置間の時刻同期を図ることが可能となる。
【0019】
(5)また、本発明の伝送方法は、光ファイバ伝送を実現するPON(Passive Optical Network)システムの伝送方法であって、第1のマスタONUおよび第2のマスタONUが、GPS(Global Positioning System)信号を受信するGPS信号受信装置から、少なくとも時刻情報を取得し、取得した時刻情報をそれぞれ出力するステップと、少なくとも一つのスレイブONUが、前記第1または第2のマスタONUから出力された時刻情報を取得して、同期を確立させるステップと、光分岐器を介して、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUと接続するOLTが、前記第1および第2のマスタONUから出力された時刻情報をそれぞれ取得し、前記第1のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信するステップと、前記OLTが、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1のマスタONUからの距離と前記第2のマスタONUからの距離との差に起因する往復伝搬遅延時間に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0020】
このように、第1のマスタONUおよび第2のマスタONUを設けるため、第1のマスタONUが故障等によりGPS信号に基づく時刻情報の提供ができなくなったとしても、第2のマスタONUからGPS信号に基づく時刻情報の提供をすることができる。これにより、配下の基地局装置間の時刻同期を継続させ、システムの信頼性を高めることが可能となる。また、第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合、第2のマスタONUから取得した時刻情報を、第1のマスタONUからの距離と第2のマスタONUからの距離との差に起因する往復伝搬遅延時間に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つのスレイブONUにマルチキャスト配信する。これにより、第1のマスタONUからの時刻情報が受信できなくなったとしても、あたかも第1のマスタONUから継続して時刻情報が提供されているように、配下の基地局装置間の時刻同期を図ることが可能となる。
【0021】
(6)また、本発明の伝送方法は、前記OLTが、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得している状態では、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を破棄するステップを更に含むことを特徴とする。
【0022】
このように、OLTは、第1のマスタONUから時刻情報を取得している状態では、第2のマスタONUから取得した時刻情報を破棄するので、処理負荷を増やすことが無くなる。一方、第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、瞬間的に、それまで受信していた第2のマスタONUから取得し、補正した時刻情報をマルチキャスト配信するため、継続的に配下の基地局装置間の時刻同期を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、第1のマスタONUが故障等によりGPS信号に基づく時刻情報の提供ができなくなったとしても、第2のマスタONUからGPS信号に基づく時刻情報の提供をすることができる。これにより、配下の基地局装置間の時刻同期を継続させ、システムの信頼性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係るPONシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】プライマリおよびセカンダリのマスタONUの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】OLT10の概略構成を示すブロック図である。
【
図4】スレイブONU50−3の概略構成ブロック図を示す。
【
図5】本実施形態に係るPONシステムの動作を示すフローチャートである。
【
図6】従来のPONシステムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、ONU側で取得したGPS信号の時刻情報をOLTに提供し、その時刻情報を、OLTを介して各ONUに配信するというループバック方式を実現しようとする場合、GPS信号の時刻情報を提供するマスタONUが故障すると、時刻同期を図ることができなくなり、システムの信頼性を損ねてしまうことに着目し、GPS信号の時刻情報を提供するマスタONUを複数設け、いずれかのマスタONUが故障等により時刻情報の提供ができなくなった場合は、他のマスタONUから提供される時刻情報を用いることで、システムの信頼性を維持できることを見出し、本発明をするに至った。
【0026】
すなわち、本発明のPONシステムは、光ファイバ伝送を実現するPON(Passive Optical Network)システムであって、GPS(Global Positioning System)信号を受信するGPS信号受信装置から、少なくとも時刻情報を取得し、取得した時刻情報をそれぞれ出力する第1および第2のマスタONUと、前記第1または第2のマスタONUから出力された時刻情報を取得して、同期を確立させる少なくとも一つのスレイブONUと、光分岐器を介して、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUと接続し、前記第1および第2のマスタONUから出力された時刻情報をそれぞれ取得し、前記第1のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信する一方、前記第1のマスタONUから時刻情報を取得できなくなった場合は、前記第2のマスタONUから取得した時刻情報を、前記第1のマスタONUからの距離と前記第2のマスタONUからの距離との差に起因する往復伝搬遅延時間に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、前記第1および第2のマスタONU並びに少なくとも一つの前記スレイブONUにマルチキャスト配信するOLTと、を備えることを特徴とする。
【0027】
この構成により、本発明者らは、第1のマスタONUが故障等によりGPS信号に基づく時刻情報の提供ができなくなったとしても、第2のマスタONUからGPS信号に基づく時刻情報の提供をし、配下の基地局装置間の時刻同期を継続させ、システムの信頼性を高めることを可能とした。以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係るPONシステムの概略構成を示す図である。
図1に示すように、OLT10の配下に、光スプリッタ(光分岐器)30を介して合計n台(nは任意の整数)のONU50−1〜nが接続されている。そのうち2台(
図1では、ONU50−1および50−2)にはGPSアンテナ51−1、51−2がそれぞれ接続されており、当該GPSアンテナで受信した時刻情報は、OLT10を介して他のONU50−3〜nに配信される。この時刻情報は、OLTを介して、ONU50−1、50−2に配信されても良い。
【0029】
ONU50−1〜nの配下には基地局100−1〜nが接続されている。なお、本実施形態では、GPSアンテナ51−1、が接続されているONU50−1を“プライマリマスタONU(第1のマスタONU)”と呼称し、また、GPSアンテナ51−2、が接続されているONU50−2を“セカンダリマスタONU(第2のマスタONU)”と呼称する。また、それ以外のONU50−3〜nを“スレイブONU”と呼称することとする。なお、本実施形態では、マスタONUは、プライマリとセカンダリの2台として説明するが、本発明は、マスタONUが2台に限定されるわけではない。
【0030】
図2は、プライマリマスタONU50−1の概略構成を示すブロック図である。なお、セカンダリマスタONU50−2もプライマリマスタONU50−1と同様の構成を採るため、ここでは、プライマリマスタONU50−1を例にとって説明する。プライマリマスタONU50−1は、光送受信を行なうTRX52、CPU54、ユーザ・ネットワーク・インタフェースであるUNI58から構成されている。また、プライマリマスタONU50−1には、マスタのクロック生成部56が設けられている。
【0031】
GPSアンテナ51−1で受信したGPS信号は、マスタのクロック生成部56において、時刻情報(例えば、IEEE1588 PTPパケットなど)に変換される。上りデータ信号は、UNI58を介してCPU54に供給される。CPU54は、OLT10との間で上り信号を送信可能なタイムスロットにスケジューリングし、当該タイムスロットに合わせて時刻情報およびデータ信号を時間軸上で多重する。TRX52は、時刻情報およびデータ信号をOLT10に対して送信する。
【0032】
図3は、OLT10の概略構成を示すブロック図である。OLT10は、m枚(mは任意の整数)のOLTラインカード10−1〜mを備えている。集線部18は、OLTラインカード10−1〜mの上り信号を集約して上位ネットワークへ転送すると共に、上位ネットワークから受信した下り信号を、OLTラインカード10−1〜mに分配する。OLTラインカード10−1〜mは同一の構成であるため、本実施形態では、OLTラインカード10−1を例にとって説明する。OLTラインカード10−1は、p個のTRX12−1〜p、CPU14、およびSW(スイッチ)16から構成されている。
【0033】
上位ネットワークで受信した下り信号は、集線部18においてOLTラインカード10−1〜mに分配され、SW16は、下り信号を、CPU14を介して転送すべきTRX12−1〜p向けに分配する。時刻情報の信号の流れについて、ここではTRX12−1を例にとって説明する。TRX12−1は、プライマリマスタONU50−1およびセカンダリマスタONU50−2から時刻情報を受信する。なお、OLT10は、各マスタONUとの論理リンクを確立する際に、いずれか一方をプライマリのマスタONU、いずれか他方をセカンダリのマスタONUとして認識する。本実施形態では、プライマリをマスタONU50−1およびセカンダリをマスタONU50−2とする。
【0034】
TRX12−1で受信した上り信号は、CPU14を介してSW16に入射する。SW16では、上り信号のうちプライマリマスタONU50−1からの時刻情報のみを、選択的にCPU14側へ折り返す。その後、時刻情報はTRX12−1を介して配下の全ONUへマルチキャスト配信される。
【0035】
ここで、プライマリマスタONU50−1において、何らかの故障が発生した場合、全ONUとの時刻同期手段が失われることとなる。そこで、本実施形態では、OLT10がプライマリマスタONU50−1の故障を検知した場合、SW16で折り返し転送する時刻情報を、セカンダリマスタONU50−2側に切り替える。そして、プライマリマスタONU50−1とOLT10との間の光ファイバ接続距離、および、セカンダリマスタONU50−2とOLT10との間の光ファイバ接続距離の差に起因するRTT(Round Trip Time)差分を、OLT10で補正する。
【0036】
より具体的には、プライマリマスタONU50−1で故障が発生し、OLTラインカード10−1において、プライマリマスタONU50−1からの時刻情報が受信できなくなったと判定すると、SW16で折り返す時刻情報を、プライマリマスタONU50−1からセカンダリマスタONU50−2へ切り替える。さらに、全ONUの論理リンク確立時に取得したRTT情報に基づいて、プライマリマスタONU50−1とセカンダリマスタONU50−2とのRTT差分を算出し、当該RTT差分に相当する時刻差分で、時刻情報のタイムスタンプを補正する。これにより、プライマリマスタONU50−1で故障が発生した場合であっても、セカンダリマスタONU50−2で迅速なバックアップが可能となり、全ONUとの時刻同期を継続することが可能となる。
【0037】
なお、時刻情報の上り伝送によるタイミング揺らぎを抑えるため、ONU50−1、50−2からOLT10への時刻情報は、固定タイムスロットかつ一定周期で伝送するように制御することが好ましい。さらに、OLT10側では、時刻情報を優先的に、一定の処理遅延となるように制御することが好ましい。
【0038】
図4は、スレイブONU50−3の概略構成ブロック図を示す。スレイブONU50−3〜nは同一の構成であるため、本実施形態では、スレイブONU50−3を例にとって説明する。スレイブONU50−3は、TRX52、CPU54、UNI58を備えている。また、スレイブのクロック生成部60を備えている。OLT10に接続するスレイブONU50−3〜nは、それぞれ光ファイバ接続距離が異なるため、CPU54は、OLT10との論理リンク確立時に得たRTTを保持し、当該RTTの半分の値でOLT10から受信した時刻情報のタイムスタンプを補正する。補正した時刻情報は、スレイブのクロック生成部60に供給され、スレイブのクロック生成部60にてGPS信号に変換され、配下の基地局へ供給される。
【0039】
図5は、本実施形態に係るPONシステムの動作を示すフローチャートである。まず、OLT10は、ONU50−1〜nとの論理リンクを確立し(ステップS1)、2台のマスタONUのうち、いずれか1台をプライマリのマスタONUとして登録し、時刻情報を含む上下信号伝送を開始する(ステップS2)。上記の通り、プライマリのマスタONUは、50−1とし、セカンダリのマスタONUを50−2とする。
【0040】
次に、OLT10は、プライマリマスタONU50−1からの時刻情報のみを折り返し転送するように、SW16を設定する(ステップS3)。OLT10は、プライマリマスタONU50−1で故障が発生しているかどうかを判定し(ステップS4)、時刻情報が正常に受信できている場合は、故障はないとして、ステップS3に遷移する。
【0041】
一方、ステップS4において、プライマリマスタONU50−1からの時刻情報が受信不可となり、プライマリマスタONU50−1で故障が発生したと判定した場合は、SW16を、セカンダリマスタONU50−2からの時刻情報のみを折り返し転送するように切り替える(ステップS5)。そして、OLT10において、2台のマスタONUにおけるRTT差分に相当する時刻差分で、セカンダリマスタONU50−2から取得した時刻情報のタイムスタンプを補正し(ステップS6)、補正後の時刻情報を配下の全ONUへマルチキャスト配信し、ステップS3に遷移する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、プライマリマスタONU50−1およびセカンダリマスタONU50−2を設けるため、プライマリマスタONU50−1が故障等によりGPS信号に基づく時刻情報の提供ができなくなったとしても、セカンダリマスタONU50−2からGPS信号に基づく時刻情報の提供をすることができる。これにより、配下の基地局装置間の時刻同期を継続させ、システムの信頼性を高めることが可能となる。また、プライマリマスタONU50−1から時刻情報を取得できなくなった場合、セカンダリマスタONU50−2から取得した時刻情報タイムスタンプを、プライマリマスタONU50−1からの光ファイバ接続距離とセカンダリマスタONU50−2からの光ファイバ接続距離との差に起因するRTT差分に基づいて補正し、補正後の時刻情報を、配下の全ONUにマルチキャスト配信する。これにより、プライマリマスタONU50−1からの時刻情報が受信できなくなったとしても、あたかもプライマリマスタONU50−1から継続して時刻情報が提供されているように、配下の基地局装置間の時刻同期を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
10 OLT
10−1〜10−m OLTラインカード
12−1〜12−p TRX(光送受信機)
14 CPU
16 SW(スイッチ)
18 集線部
30 光スプリッタ(光分岐器)
50−1 プライマリマスタONU
50−2 セカンダリマスタONU
50−3〜50−n スレイブONU
51−1、51−2 GPSアンテナ
52 TRX(光送受信機)
54 CPU
56 クロック生成部(マスタ)
58 UNI(ユーザ・ネットワーク・インタフェース)
60 クロック生成部(スレイブ)
100−1〜100−n 基地局